(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080122
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】接着剤組成物及び接着剤層
(51)【国際特許分類】
C09J 163/00 20060101AFI20240606BHJP
C09J 9/02 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
C09J163/00
C09J9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193038
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 京平
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040EC001
4J040GA11
4J040GA14
4J040HA026
4J040HA066
4J040HA076
4J040HA096
4J040HA136
4J040HA156
4J040HA176
4J040HA206
4J040HA256
4J040HA306
4J040HA356
4J040HC01
4J040HC21
4J040HC23
4J040JB02
4J040JB10
4J040KA16
4J040KA21
4J040KA26
4J040KA28
4J040KA29
4J040KA31
4J040KA32
4J040KA42
4J040LA08
4J040LA09
4J040MA02
4J040MA03
4J040MB09
4J040MB10
4J040NA16
4J040NA19
4J040NA20
4J040PA12
4J040PA30
4J040PA34
4J040PA42
(57)【要約】
【課題】短時間の電圧印加により効率よく接着力が低下し、放熱特性に優れた接着剤層を形成し得る接着剤組成物を提供すること。
【解決手段】熱硬化性樹脂前駆体化合物と、硬化剤と、電解質と、フィラーとを含み、硬化後の熱伝導率が1.0W/m・K以上である、接着剤組成物、及び、熱硬化性樹脂と、電解質と、フィラーとを含み、熱伝導率が1.0W/m・K以上である、接着剤層。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂前駆体化合物と、硬化剤と、電解質と、フィラーとを含み、
硬化後の熱伝導率が1.0W/m・K以上である、接着剤組成物。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂前駆体化合物が2個以上のエポキシ基を含む、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記電解質がイオン液体である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記フィラーの含有量が前記熱硬化性樹脂前駆体化合物100質量部に対して50質量部以上である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
電気剥離用である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の接着剤組成物により形成された、接着剤層。
【請求項7】
熱硬化性樹脂と、電解質と、フィラーとを含み、
熱伝導率が1.0W/m・K以上である、接着剤層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物及び接着剤層に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や電子部品等の製造の分野において、使用後に部品を分解して回収するリサイクルへの要望が増している。このような要望に応えるべく、自動車や電子部品等の製造過程における部材間を接合するうえで、一定の接着力とともに一定の剥離性をも伴った接着剤が利用される場合がある。
【0003】
上記の接着力と剥離性を実現する接着剤として、接着剤層に電圧を印加することにより剥離することができる接着剤(電気剥離型接着剤)が知られている(特許文献1、2)。
特許文献1及び2の電気剥離型接着剤では、電圧の印加により、接着界面の接着力が弱くなり、剥離しやすくなるものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7465492号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第3835383号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気剥離型接着剤は、電圧非印加時には部材を強固に接合し、電圧印加時には少ない力で剥離できることが好ましい。したがって、電気剥離型接着剤において、電圧印加による接着力の低下率は大きいことが好ましい。
また、自動車や電子部品等には熱を発生する部材が用いられることが多く、当該部材を含む機器の過熱による暴走や寿命低下を防ぐために、電気剥離型接着剤は放熱特性を有することが好ましい。
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の電気剥離型接着剤は、短時間の電圧印加では接着力を低下させることができず、また、放熱特性についても検討がされていない。
【0007】
本発明は上記に鑑みて完成されたものであり、短時間の電圧印加により効率よく接着力が低下し、放熱特性に優れた接着剤層を形成し得る接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、熱硬化性樹脂前駆体化合物と、硬化剤と、電解質と、フィラーとを含み、硬化後の熱伝導率が所定の範囲である接着剤組成物とすることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は下記に関するものである。
[1]
熱硬化性樹脂前駆体化合物と、硬化剤と、電解質と、フィラーとを含み、
硬化後の熱伝導率が1.0W/m・K以上である、接着剤組成物。
[2]
前記熱硬化性樹脂前駆体化合物が2個以上のエポキシ基を含む、[1]に記載の接着剤組成物。
[3]
前記電解質がイオン液体である、[1]に記載の接着剤組成物。
[4]
前記フィラーの含有量が前記熱硬化性樹脂前駆体化合物100質量部に対して50質量部以上である、[1]に記載の接着剤組成物。
[5]
電気剥離用である、[1]に記載の接着剤組成物。
【0010】
[6]
[1]~[5]のいずれか1つに記載の接着剤組成物により形成された、接着剤層。
[7]
熱硬化性樹脂と、電解質と、フィラーとを含み、
熱伝導率が1.0W/m・K以上である、接着剤層。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施態様による接着剤組成物は、短時間の電圧印加により効率よく接着力が低下し、放熱特性に優れた接着剤層を形成し得る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明による包装物品の実施形態について、詳細に説明する。
なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また、本明細書において「~」という表現を用いる場合は、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いる。
【0013】
<接着剤組成物>
本発明の実施形態に係る接着剤組成物は、熱硬化性樹脂前駆体化合物と、硬化剤と、電解質と、フィラーとを含み、硬化後の熱伝導率が1.0W/m・K以上である。
本発明の実施形態に係る接着剤組成物は、好ましくは電気剥離用である。
【0014】
[熱硬化性樹脂前駆体化合物]
本発明の実施形態に係る接着剤組成物に用いる熱硬化性樹脂前駆体化合物としては、後述する硬化剤と反応して熱硬化性樹脂を形成することにより接着性を示すものであれば特に制限がなく、例えば、2液型接着剤の主剤を熱硬化性樹脂前駆体化合物として用いることができる。
熱硬化性樹脂前駆体化合物の例としては、後述する硬化剤と反応することにより熱硬化性樹脂となり得るモノマー、オリゴマー、プレポリマー等を挙げることができる。
【0015】
熱硬化性樹脂前駆体化合物がエポキシ化合物である場合、熱硬化性樹脂前駆体化合物が含むエポキシ基の数には特に制限がなく、例えば2個以上であってもよく、具体的には、2個、3個、4個或いは5個、又は6個以上であってもよい。短時間の電圧の印加により効率よく接着力を低下させる観点から、エポキシ化合物に含まれるエポキシ基の数は2~5個が好ましく、2~4個がより好ましく、2~3個がさらに好ましく、2個が特に好ましい。
【0016】
(モノマー)
モノマーとしては、例えば、エポキシ化合物、ポリオール化合物などが挙げられる。接着力及び室温硬化性の観点から、これらのうち、エポキシ化合物が好ましい。
モノマーは、一種を単独で、又は、二種以上を組み合わせて用いることができ、また、後述するオリゴマー及び/又はプレポリマーと組み合わせて用いてもよい。
【0017】
エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ化合物、水素添加ビスフェノールA型エポキシ化合物などのビスフェノール系エポキシ化合物;ナフタレン型エポキシ化合物;ビフェニル型エポキシ化合物;ジシクロ型エポキシ化合物;脂環族系エポキシ化合物;トリグリシジルイソシアヌレートエポキシ化合物;ヒダントインエポキシ化合物;1,2-エタンジオールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル系エポキシ化合物;グリシジルアミノ系エポキシ化合物などが挙げられる。これらのうち、グリシジルエーテル系エポキシ化合物が好ましい。
【0018】
エポキシ基を2個含むエポキシ化合物の例としては、1,2-エタンジオールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,8-オクタンジオールジグリシジルエーテル、1,12-ドデカンジオールジグリシジルエーテル、シクロペンタンジオールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、o-フタル酸ジグリシジル、イソフタル酸ジグリシジル、テレフタル酸ジグリシジルが挙げられる。
エポキシ基を3個以上含むエポキシ化合物の例としては、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテルが挙げられる。
【0019】
(オリゴマー)
オリゴマーとしては、例えば、エポキシ基を含むオリゴマー、ポリオール基を含むオリゴマーなどが挙げられる。接着力及び室温硬化性の観点から、これらのうち、エポキシ基を含むオリゴマーが好ましい。
オリゴマーは、一種を単独で、又は、二種以上を組み合わせて用いることができ、また、前述のモノマー及び/又は後述するプレポリマーと組み合わせて用いてもよい。
【0020】
エポキシ基を含むオリゴマーの例としては、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルが挙げられる。
【0021】
(プレポリマー)
プレポリマーとしては、例えば、エポキシ基を含むプレポリマー、ポリオール基を含むプレポリマーなどが挙げられる。接着力及び室温硬化性の観点から、これらのうち、エポキシ基を含むプレポリマーが好ましい。
プレポリマーは、一種を単独で、又は、二種以上を組み合わせて用いることができ、また、前述のモノマー及び/又はオリゴマーと組み合わせて用いてもよい。
【0022】
エポキシ基を含むプレポリマーの例としては、ポリ(プロピレングリコール)ジグリシジルエーテル、ポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテル、ポリカーボネートジオールグリシジルエーテルが挙げられる。
【0023】
(具体的態様)
熱硬化性樹脂前駆体化合物の市販品としては、例えば、ナガセケムテックス株式会社製の「EX-841」及び「EX-614B」等が挙げられる。
【0024】
[硬化剤]
本発明の実施形態に係る接着剤組成物に用いる硬化剤としては、熱硬化性樹脂前駆体化合物に対応して適宜選択される。硬化剤は、熱硬化性樹脂前駆体化合物と反応して熱硬化性樹脂を与えることができる。
例えば、熱硬化性樹脂前駆体化合物がエポキシ化合物である場合には、硬化剤として、ジアミン化合物、トリアミン化合物などのポリアミン化合物;イミダゾール化合物などが挙げられる。
例えば、熱硬化性樹脂前駆体化合物がポリオール化合物である場合には、硬化剤として、イソシアネートなどが挙げられる。
硬化剤は、一種を単独で、又は、二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
熱硬化性樹脂前駆体化合物がエポキシ化合物である場合、硬化剤として常温で液体のポリアミン化合物が好ましく、トリアミン、ジアミン及びポリアミドアミンがより好ましく、ジアミン及びポリアミドアミンがさらに好ましく、ジアミンが特に好ましい。ジアミン化合物としては、ヘキサメチレンジアミン、カダベリン(ペンタメチレンジアミン)などが挙げられ、これらのうち、ヘキサメチレンジアミンがさらに好ましい。
【0026】
本発明の実施形態に係る接着剤組成物における硬化剤の含有量(配合量)には特に制限がない。接着力を維持する観点から、熱硬化性樹脂前駆体化合物100質量部に対して1~50質量部であることが好ましく、5~40質量部であることがより好ましく、10~35質量部であることがさらに好ましく、15~33質量部であることが特に好ましく、20~30質量部であることが最も好ましい。
【0027】
[電解質]
本発明の実施形態に係る接着剤組成物に用いる電解質としては、接着剤組成物が硬化して形成された接着剤層に対して電圧印加した際に、接着剤層と被着体の界面付近に偏る性質を有するものであれば特に制限がない。このような電解質としては、例えば、塩及びイオン液体などが挙げられる。これらのうち、イオン液体が好ましい。
【0028】
(塩)
本発明の実施形態に係る接着剤組成物に用いることができる塩としては、例えば、ヘキサフルオロリン酸アンモニウム、ヘキサフルオロリン酸リチウム、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム、ヘキサフルオロリン酸カリウム、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、テトラフルオロホウ酸カリウムなどが挙げられる。これらのうち、ヘキサフルオロリン酸アンモニウムが好ましい。
塩は、一種を単独で、又は、二種以上を組み合わせて用いることができる。また、塩は、イオン液体等の他の態様の電解質と組み合わせて用いてもよい。
【0029】
(イオン液体)
本発明の実施形態に係る接着剤組成物に用いることができるイオン液体は、一対のアニオンとカチオンから構成され、25℃で液体である溶融塩(常温溶融塩)であれば特に限定されない。以下にアニオン及びカチオンの例を挙げるが、これらを組み合わせて得られるイオン性物質のうち、25℃で液体であるものがイオン液体であり、25℃で固体であるものはイオン液体ではなく、イオン性固体である。
イオン液体は、一種を単独で、又は、二種以上を組み合わせて用いることができる。また、イオン液体は、塩等の他の態様の電解質と組み合わせて用いてもよい。
【0030】
イオン液体のアニオンは、例えば、(FSO2)2N-、(CF3SO2)2N-、(CF3CF2SO2)2N-、(CF3SO2)3C-、Br-、AlCl4
-、Al2Cl7
-、NO3
-、BF4
-、PF6
-、CH3COO-、CF3COO-、CF3CF2CF2COO-、CF3SO3
-、CF3(CF2)3SO3
-、AsF6
-、SbF6
-、およびF(HF)n
-等が挙げられる。なかでもアニオンとしては、(FSO2)2N-[ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン]、および(CF3SO2)2N-[ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン]などのスルホニルイミド系化合物のアニオンが、化学的に安定であり、電圧印加により効率よく接着力を低下させるために好適であることから好ましい。すなわち、イオン液体のアニオンは、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、及びビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0031】
イオン液体におけるカチオンは、窒素含有オニウム、硫黄含有オニウム、およびリン含有オニウムカチオンが、化学的に安定であり、電圧印加により効率よく接着力を低下させるために好適であることから好ましく、イミダゾリウム系、アンモニウム系、ピロリジニウム系、およびピリジニウム系カチオンがより好ましい。
【0032】
イミダゾリウム系カチオンとしては、例えば、1-メチルイミダゾリウムカチオン、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-プロピル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ペンチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-へプチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ノニル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ウンデシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ドデシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-トリデシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-テトラデシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ペンタデシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ヘキサデシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ヘプタデシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-オクタデシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ウンデシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ベンジル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン、および1,3-ビス(ドデシル)イミダゾリウムカチオン等が挙げられる。
【0033】
ピリジニウム系カチオンとしては、例えば、1-ブチルピリジニウムカチオン、1-ヘキシルピリジニウムカチオン、1-ブチル-3-メチルピリジニウムカチオン、1-ブチル-4-メチルピリジニウムカチオン、および1-オクチル-4-メチルピリジニウムカチオン等が挙げられる。
【0034】
ピロリジニウム系カチオンとしては、例えば、1-エチル-1-メチルピロリジニウムカチオンおよび1-ブチル-1-メチルピロリジニウムカチオン等が挙げられる。
【0035】
アンモニウム系カチオンとしては、例えば、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラブチルアンモニウムカチオン、メチルトリオクチルアンモニウムカチオン、テトラデシトリヘキシルアンモニウムカチオン、グリシジルトリメチルアンモニウムカチオンおよびトリメチルアミノエチルアクリレートカチオン等が挙げられる。
【0036】
イオン液体としては、電圧印加時の接着力の低下率を大きくするという観点から、構成するカチオンとしては分子量160以下のカチオンを選択することが好ましく、上記の(FSO2)2N-[ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン]又は(CF3SO2)2N-[ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン]と分子量160以下のカチオンとを含むイオン液体が特に好ましい。分子量160以下のカチオンとしては、例えば、1-メチルイミダゾリウムカチオン、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-プロピル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ペンチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ブチルピリジニウムカチオン、1-ヘキシルピリジニウムカチオン、1-ブチル-3-メチルピリジニウムカチオン、1-ブチル-4-メチルピリジニウムカチオン、1-エチル-1-メチルピロリジニウムカチオン、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、グリシジルトリメチルアンモニウムカチオン、およびトリメチルアミノエチルアクリレートカチオン等が挙げられる。
【0037】
また、イオン液体のカチオンとしては、下記式(2-A)~(2-D)で表されるカチオンも好ましい。
【0038】
【0039】
式(2-A)中のR1は、炭素数4~10の炭化水素基(好ましくは炭素数4~8の炭化水素基、より好ましくは炭素数4~6の炭化水素基)を表し、ヘテロ原子を含んでも良く、R2及びR3は、同一又は異なって、水素原子若しくは炭素数1~12の炭化水素基(好ましくは炭素数1~8の炭化水素基、より好ましくは炭素数2~6の炭化水素基、さらに好ましくは炭素数2~4の炭化水素基)を表し、ヘテロ原子を含んでも良い。但し、窒素原子が隣接する炭素原子と2重結合を形成する場合、R3は存在しない。
【0040】
式(2-B)中のR4は、炭素数2~10の炭化水素基(好ましくは炭素数2~8の炭化水素基、より好ましくは炭素数2~6の炭化水素基)を表し、ヘテロ原子を含んでも良く、R5、R6、及びR7は、同一又は異なって、水素原子若しくは炭素数1~12の炭化水素基(好ましくは炭素数1~8の炭化水素基、より好ましくは炭素数2~6の炭化水素基、さらに好ましくは炭素数2~4の炭化水素基)を表し、ヘテロ原子を含んでも良い。
【0041】
式(2-C)中のR8は、炭素数2~10の炭化水素基(好ましくは炭素数2~8の炭化水素基、より好ましくは炭素数2~6の炭化水素基)を表し、ヘテロ原子を含んでも良く、R9、R10、及びR11は、同一又は異なって、水素原子若しくは炭素数1~16の炭化水素基(好ましくは炭素数1~10の炭化水素基、より好ましくは炭素数1~8の炭化水素基)を表し、ヘテロ原子を含んでも良い。
【0042】
式(2-D)中のXは、窒素、硫黄、又はリン原子を表し、R12、R13、R14、及びR15は、同一又は異なって、炭素数1~16の炭化水素基(好ましくは炭素数1~14の炭化水素基、より好ましくは炭素数1~10の炭化水素基、さらに好ましくは炭素数1~8の炭化水素基、特に好ましくは炭素数1~6の炭化水素基)を表し、ヘテロ原子を含んでも良い。但し、Xが硫黄原子の場合、R12は存在しない。
【0043】
本発明の実施形態において、イオン液体のカチオンは、窒素含有オニウムカチオン、硫黄含有オニウムカチオン、及びリン含有オニウムカチオンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0044】
イオン液体におけるカチオンの分子量は、例えば500以下、好ましくは400以下、より好ましくは300以下、さらに好ましくは250以下、特に好ましくは200以下、最も好ましくは160以下である。また、通常は50以上である。イオン液体におけるカチオンは、接着剤層中で電圧印加時に陰極側に移動して、接着剤層と被着体の界面付近に偏る性質を有すると考えられる。本発明では、このため初期接着力に対して電圧印加中の接着力が低下する。分子量が500以下といった分子量が小さいカチオンは、接着剤層中の陰極側へのカチオンの移動がより容易になり、短時間の電圧印加により効率よく接着力を低下させるうえで好適である。
【0045】
イオン液体の市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製の「エレクセルAS-110」、「エレクセルMP-442」、「エレクセルIL-210」、「エレクセルMP-471」、「エレクセルMP-456」、「エレクセルAS-804」、三菱マテリアル株式会社製の「HMI-FSI」、日本カーリット株式会社製の「CIL-312」、および「CIL-313」等が挙げられる。
【0046】
イオン液体のイオン伝導率は、0.1mS/cm以上10mS/cm以下が好ましい。イオン伝導率の上限は、より好ましくは5mS/cmであり、さらに好ましくは3mS/cmであり、下限は、より好ましくは0.3mS/cmであり、さらに好ましくは0.5mS/cmである。この範囲のイオン伝導率を有することで、短時間の電圧印加により効率よく接着力が低下する。なお、イオン伝導率は、例えば、Solartron社製1260周波数応答アナライザを用い、ACインピーダンス法により測定することができる。
【0047】
本発明の実施形態に係る接着剤組成物におけるイオン液体の含有量(配合量)は、熱硬化性樹脂前駆体化合物100質量部に対して、電圧印加中の接着力を低下させる観点から、1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることがさらに好ましく、10質量部以上であることが特に好ましい。また、高い初期接着力を維持する観点から、40質量部以下であることが好ましく、35質量部以下であることがより好ましく、30質量部以下であることがさらに好ましく、25質量部以下であることが特に好ましい。
【0048】
[フィラー]
本発明の実施形態に係る接着剤組成物に用いるフィラーとしては、接着剤組成物が硬化して形成された接着剤層の熱伝導率を調節し得るものであれば特に制限がない。例えば、粒子状や繊維状のフィラーを用いることができる。
フィラーは、一種を単独で、又は、二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
フィラーの構成材料は、例えば、銅、銀、金、白金、ニッケル、アルミニウム、クロム、鉄、ステンレス等の金属;酸化アルミニウム、酸化ケイ素(典型的には二酸化ケイ素)、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、アンチモン酸ドープ酸化スズ、酸化銅、酸化ニッケル等の金属酸化物;水酸化アルミニウム[Al2O3・3H2O;またはAl(OH)3]、ベーマイト[Al2O3・H2O;又はAlOOH]、水酸化マグネシウム[MgO・H2O;又はMg(OH)2]、水酸化カルシウム[CaO・H2O;又はCa(OH)2]、水酸化亜鉛[Zn(OH)2]、珪酸[H4SiO4;又はH2SiO3;又はH2Si2O5]、水酸化鉄[Fe2O3・H2O又は2FeO(OH)]、水酸化銅[Cu(OH)2]、水酸化バリウム[BaO・H2O;又はBaO・9H2O]、酸化ジルコニウム水和物[ZrO・nH2O]、酸化スズ水和物[SnO・H2O]、塩基性炭酸マグネシウム[3MgCO3・Mg(OH)2・3H2O]、ハイドロタルサイト[6MgO・Al2O3・H2O]、ドウソナイト[Na2CO3・Al2O3・nH2O]、硼砂[Na2O・B2O5・5H2O]、ホウ酸亜鉛[2ZnO・3B2O5・3.5H2O]等の、水和金属化合物;炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化窒素、炭化カルシウム等の炭化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化ガリウム等の窒化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;チタン酸バリウム、チタン酸カリウム等のチタン酸塩;カーボンブラック、カーボンチューブ(典型的にはカーボンナノチューブ)、カーボンファイバー、ダイヤモンド等の炭素系物質;ガラス;等の無機材料;等であり得る。あるいは、火山シラス、クレイ、砂等の天然原料粒子を用いてもよい。繊維状フィラーとしては、各種合成繊維材料や天然繊維材料を使用することができる。通常は、接着剤層への含有量を比較的多くしても接着面の平滑性を損ないにくいことから、粒子状フィラーを好ましく採用し得る。粒子の形状は特に限定されず、バルク形状、針形状、板形状、層状であってもよい。バルク形状には、例えば、球形状、直方体形状、破砕状又はそれらの異形形状が含まれる。
【0050】
いくつかの態様において、上述のような水和金属化合物から構成されたフィラーを好ましく使用し得る。上記水和金属化合物は、一般に、分解開始温度が概ね150~500℃の範囲であり、一般式MxOy・nH2O(Mは金属原子、x,yは金属の原子価によって定まる1以上の整数、nは含有結晶水の数)で表される化合物または上記化合物を含む複塩である。水和金属化合物の一好適例として、水酸化アルミニウムが挙げられる。
【0051】
水和金属化合物は、市販されている。水酸化アルミニウムの市販品としては、例えば、商品名「ハイジライトH-100-ME」(一次平均粒径75μm)(昭和電工株式会社製)、商品名「ハイジライトH-10」(一次平均粒径55μm)(昭和電工株式会社製)、商品名「ハイジライトH-32」(一次平均粒径8μm)(昭和電工株式会社製)、商品名「ハイジライトH-31」(一次平均粒径20μm)(昭和電工株式会社製)、商品名「ハイジライトH-42」(一次平均粒径1μm)(昭和電工株式会社製)、商品名「B103ST」(一次平均粒径8μm)(日本軽金属株式会社製)等が挙げられる。また、水酸化マグネシウムの市販品としては、例えば、商品名「KISUMA 5A」(一次平均粒径1μm)(協和化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0052】
水和金属化合物以外のフィラーの市販品としては、例えば、窒化ホウ素として、商品名「HP-40」(水島合金鉄株式会社製)、商品名「PT620」(モメンティブ社製)など、例えば、窒化アルミニウムとして、商品名「HF-10c」(株式会社トクヤマ製)など、例えば、酸化アルミニウムとして、商品名「AS-50」(昭和電工株式会社製)、商品名「AS-10」(昭和電工株式会社製)、商品名「AC-9150」(株式会社アドマテックス製)等;例えば、アンチモン酸ドープスズとして、商品名「SN-100S」(石原産業株式会社製)、商品名「SN-100P」(石原産業株式会社製)、商品名「SN-100D(水分散品)」(石原産業株式会社製)等;例えば、酸化チタンとして、商品名「TTOシリーズ」(石原産業株式会社製)等;例えば、酸化亜鉛として、商品名「SnO-310」(住友大阪セメント株式会社製)、商品名「SnO-350」(住友大阪セメント株式会社製)、商品名「SnO-410」(住友大阪セメント株式会社製)等;が挙げられる。
【0053】
接着剤組成物におけるフィラーの含有量(配合量)は特に限定されず、所望する熱伝導率等に応じて決定し得る。本発明の実施形態に係る接着剤組成物におけるフィラーの含有量(配合量)は、接着剤組成物に含まれる熱硬化性樹脂前駆体化合物100質量部に対して、50質量部以上であることが好ましく、200質量部以上であることがより好ましく、400質量部以上であることがさらに好ましく、550質量部以上であることがさらにいっそう好ましく、600質量部以上であることが特に好ましく、650質量部以上であることが最も好ましい。また、2000質量部以下であることが好ましく、1000質量部以下であることがより好ましく、900質量部以下であることがさらに好ましく、800質量部以下であることがさらにいっそう好ましく、750質量部以下であることが特に好ましく、700質量部以下であることが最も好ましい。
【0054】
本発明の実施形態に係る接着剤組成物におけるフィラーの含有量(配合量)は、接着剤組成物全体の体積に対して、1体積%以上であることが好ましく、5体積%以上であることがより好ましく、20体積%以上であることがさらに好ましく、40体積%以上であることが特に好ましく、50体積%以上であることが最も好ましい。また、85体積%以下であることが好ましく、80体積%以下であることがより好ましく、75体積%以下であることがさらに好ましく、70体積%以下であることが特に好ましく、65体積%以下であることが最も好ましい。
本明細書において、体積%をvol%と表すことがある。
【0055】
本発明の実施形態に係る接着剤組成物におけるフィラーの含有量(配合量)は、接着剤組成物全体の質量に対して、15質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、55質量%以上であることがさらに好ましく、70質量%以上であることが特に好ましく、75質量%以上であることが最も好ましい。また、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、87質量%以下であることがさらに好ましく、85質量%以下であることが特に好ましく、83質量%以下であることが最も好ましい。
本明細書において、質量%をmass%と表すことがある。
【0056】
フィラーの粒径は100μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましく、60μm以下であることがさらに好ましく、50μm以下であることが特に好ましい。また、0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、0.1μm以上であることがさらに好ましく、0.5μm以上であることが特に好ましい。
【0057】
[その他の添加剤]
本発明の実施形態に係る接着剤組成物は、電圧印加時のイオン液体の移動を助ける目的で必要に応じて、ポリエチレングリコールやテトラエチレングリコールジメチルエーテルを含有してもよい。ポリエチレングリコールやテトラエチレングリコールジメチルエーテルとしては、100~6000の数平均分子量を有するものを使用できる。これらの成分を含有する場合の含有量は、熱硬化性樹脂前駆体化合物100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上がさらに好ましく、また、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましい。
【0058】
本発明の実施形態に係る接着剤組成物は、金属被着体の腐食を抑制する目的で必要に応じて、腐食防止剤を含有してもよい。腐食防止剤としては、特に限定されず、一般的な公知乃至慣用の腐食防止剤を用いることができ、例えば、カルボジイミド化合物、吸着型インヒビター、キレート形成型金属不活性剤等を用いることができる。
【0059】
カルボジイミド化合物としては、例えば、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド、1-エチル-3-tert-ブチルカルボジイミド、N-シクロヘキシル-N’-(2-モルホリノエチル)カルボジイミド、N,N’-ジ-tert-ブチルカルボジイミド、1,3-ビス(p-トリル)カルボジイミド、およびこれらをモノマーとするポリカルボジイミド樹脂等が挙げられる。これらのカルボジイミド化合物は、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。本発明の実施形態に係る接着剤組成物にカルボジイミド化合物を含有させる場合の含有量は、熱硬化性樹脂前駆体化合物100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下が好ましい。
【0060】
吸着型インヒビターとしては、例えばアルキルアミン、カルボン酸塩、カルボン酸誘導体、アルキルリン酸塩などが挙げられる。吸着型インヒビターは、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。本発明の実施形態に係る接着剤組成物に吸着型インヒビターとしてアルキルアミンを含有させる場合の含有量は、熱硬化性樹脂前駆体化合物100質量部に対して、0.01質量部以上20質量部以下が好ましい。本発明の実施形態に係る接着剤組成物に吸着型インヒビターとしてカルボン酸塩を含有させる場合の含有量は、熱硬化性樹脂前駆体化合物100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下が好ましい。本発明の実施形態に係る接着剤組成物に吸着型インヒビターとしてカルボン酸誘導体を含有させる場合の含有量は、熱硬化性樹脂前駆体化合物100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下が好ましい。本発明の実施形態に係る接着剤組成物に吸着型インヒビターとしてアルキルリン酸塩を含有させる場合の含有量は、熱硬化性樹脂前駆体化合物100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下が好ましい。
【0061】
キレート形成型金属不活性剤としては、例えば、トリアゾール基含有化合物またはベンゾトリアゾール基含有化合物を用いることができる。これらは、ステンレスやアルミニウムなどの金属の表面を不活性化する作用が高く、また接着成分中に含有させても接着性に影響を及ぼしにくいことから好ましい。キレート形成型金属不活性剤は、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。本発明の実施形態に係る接着剤組成物にキレート形成型金属不活性剤を含有させる場合の含有量は、熱硬化性樹脂前駆体化合物100質量部に対して、0.01質量部以上20質量部以下が好ましい。
腐食防止剤の総含有量(配合量)は、熱硬化性樹脂前駆体化合物100質量部に対して、0.01質量部以上30質量部以下が好ましい。
【0062】
本発明の実施形態に係る接着剤組成物は、他にも充填剤、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、難燃剤、溶剤、界面活性剤(レベリング剤)、防錆剤、接着付与樹脂、および帯電防止剤等の各種添加剤を含有してもよい。これらの成分の総含有量は、本発明の効果を奏する限りにおいて特に制限されないが、熱硬化性樹脂前駆体化合物100質量部に対して、0.01質量部以上20質量部以下が好ましく、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下である。
【0063】
充填剤としては、例えば、シリカ、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、ろう石クレー、カオリンクレー、および焼成クレー等が挙げられる。
【0064】
可塑剤は、一般的な樹脂組成物等に用いられる公知慣用の可塑剤を用いることができ、例えば、パラフィンオイル、プロセスオイル等のオイル、液状ポリイソプレン、液状ポリブタジエン、液状エチレン-プロピレンゴム等の液状ゴム、テトラヒドロフタル酸、アゼライン酸、安息香酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、クエン酸、およびこれらの誘導体、ジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、およびコハク酸イソデシル等を用いることができる。
【0065】
老化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、脂肪族および芳香族のヒンダードアミン系等の化合物が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、およびブチルヒドロキシアニソール(BHA)等が挙げられる。
顔料としては、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、群青、ベンガラ、リトポン、鉛、カドミウム、鉄、コバルト、アルミニウム、塩酸塩、硫酸塩等の無機顔料、アゾ顔料、および銅フタロシアニン顔料等の有機顔料等が挙げられる。
【0066】
防錆剤としては、例えば、ジンクホスフェート、タンニン酸誘導体、リン酸エステル、塩基性スルホン酸塩、および各種防錆顔料等が挙げられる。
接着付与剤としては、例えば、チタンカップリング剤、およびジルコニウムカップリング剤等が挙げられる。
帯電防止剤としては、一般的に、第4級アンモニウム塩、あるいはポリグリコール酸やエチレンオキサイド誘導体等の親水性化合物等が挙げられる。
【0067】
<接着剤組成物の特性>
[初期接着力、印加後接着力]
本発明の実施形態に係る接着剤組成物の接着力は種々の方法で評価することができるが、例えば、JIS K6850:1999に準じたせん断接着力測定により評価できる。
【0068】
本発明の実施形態に係る接着剤組成物は、JIS K6850:1999に準じて測定された電圧印加前のせん断接着力(以下、「初期接着力」ともいう。)が、0.5MPa以上であることが好ましく、1.0MPa以上であることがより好ましく、1.3MPa以上であることがさらに好ましい。また、初期接着力が5MPa以下であることが好ましく、4.5MPa以下であることがより好ましく、4MPa以下であることがさらに好ましい。
初期接着力が0.5MPa以上であると、被着体との接着が十分であり、被着体が剥がれたり、ずれたりしにくい。また、初期接着力が5MPa以下であると、電気剥離により接着力を十分に低下させることができる。
【0069】
また、本発明の実施形態に係る接着剤組成物は、初期接着力を測定したサンプルと同様に作成されたサンプルのそれぞれの板に対して電極を取り付け、直流安定化電源によって50Vの電圧を45分間又は30秒間印加した後のサンプルを用いることにより、電圧印加後の接着力を評価することができる。すなわち、電圧印加後のサンプルに対して、JIS K6850:1999に準じた測定を行うことにより、電圧印加後のせん断接着力(以下、「印加後接着力」ともいう。)を測定することができる。印加後接着力は1.5MPa以下であることが好ましく、0.5MPa以下であることがより好ましく、0.2MPa以下であることがさらに好ましく、0.05MPa以下であることが特に好ましい。
【0070】
なお、電気剥離の際の印加電圧及び電圧印加時間は上記のものに限定されず、硬化後の接着剤組成物の剥離ができる限り特に限定されない。これらの好適な範囲について以下に示す。
印加電圧は、5V以上であることが好ましく、10V以上であることがより好ましく、20V以上であることがさらに好ましく、40V以上であることが特に好ましい。また、200V以下であることが好ましく、150V以下であることがより好ましく、100V以下であることがさらに好ましく、80V以下であることが特に好ましい。
電圧印加時間は、100分以下であることが好ましく、50分以下であることがより好ましく、10分以下であることがさらに好ましく、1分以下であることが特に好ましい。このような場合、作業性に優れる。また、印加時間は短いほどよいが、通常10秒以上である。
【0071】
[熱伝導率]
本発明の実施形態に係る接着剤組成物の熱伝導率は、JIS H7903に準じて測定することができる。詳細には、熱伝導率測定治具の間で接着剤組成物を硬化させ、上下の治具を所定の温度とし、両治具に熱電対を挿入することにより測定することができる。
【0072】
本発明の実施形態に係る接着剤組成物の硬化後の熱伝導率、すなわち、後述する本発明の実施形態に係る接着剤層の熱伝導率、は1W/m・K以上であり、1.1W/m・K以上であることが好ましく、1.3W/m・K以上であることがより好ましく、1.5W/m・K以上であることがさらに好ましい。接着剤組成物の硬化後の熱伝導率が1W/m・K未満である場合には放熱特性が十分とはいえず、熱を発生する部材への接着に用いた場合に、当該部材を含む機器の過熱による暴走や寿命低下が生じる恐れがある。
また、本発明の実施形態に係る接着剤組成物の硬化後の熱伝導率は4W/m・K以下であることが好ましく、3.5W/m・K以下であることがより好ましく、3W/m・K以下であることがさらに好ましい。
【0073】
<接着剤組成物の製造方法>
本発明の接着剤組成物の製造方法は特に制限されないが、熱硬化性樹脂前駆体化合物と、硬化剤と、電解質と、フィラーと、必要に応じてその他の添加剤と、を適宜撹拌して混合することにより製造することができる。
【0074】
<接着剤層、接着剤層の電気剥離方法>
本発明は、本発明の実施形態に係る接着剤組成物により形成された接着剤層にも関する。
また、本発明の実施態様に係る接着剤層は、熱硬化性樹脂と、電解質と、フィラーとを含み、熱伝導率が1.0W/m・K以上であることができる。ここで、熱硬化性樹脂は、上述の熱硬化性樹脂前駆体化合物と上述の硬化剤との反応により得られた樹脂を用いることができる。
【0075】
本発明の実施形態に係る接着剤層の被着体からの剥離は、接着剤層への電圧の印加により、接着剤層の厚み方向に電位差を生じさせることにより行うことができる。
例えば、導電性の被着体を本発明の実施形態に係る接着剤組成物により貼り合わせた接合体は、導電性の被着体に通電し、接着剤層に電圧を印加することにより剥離することができる。
また、被着体に導電性がない場合は、アルミ箔テープなどの電気伝導性を有する追加層を、左記被着体に追加することで剥離に必要な電圧印加を担保してもよい。
【0076】
<接着剤組成物の用途>
本発明の実施形態に係る接着剤組成物は、短時間の電圧印加により効率よく接着力が低下し、放熱特性に優れた接着剤層を形成することができるため、特に、熱を発生する部材どうしの接合、又は、熱を発生する部材とその他の部材との接合に好適に使用することができる。
したがって、本発明の実施形態に係る接着剤組成物は、スマートフォン、携帯電話、ノートパソコン、ビデオカメラ、デジタルカメラ等のモバイル端末に使用される二次電池(例えば、リチウムイオン電池パック)の筐体への固定用途に好適である。また、本発明の実施形態に係る接着剤組成物は、車載用部材(例えば、電池、モーター等)の固定用途に好適である。そして、本発明の実施形態に係る接着剤組成物は、半導体製造プロセス及び検査における固定用途(例えば、セラミックコンデンサやリチウムイオンバッテリー等)に好適である。さらに、本発明の実施形態に係る接着剤組成物は、金属加工プロセスにおける保護用途(例えば、鉄道向けステンレス板等)に好適である。
【0077】
以上説明したように、本明細書には次の事項が開示されている。
<1>
熱硬化性樹脂前駆体化合物と、硬化剤と、電解質と、フィラーとを含み、
硬化後の熱伝導率が1.0W/m・K以上である、接着剤組成物。
<2>
前記熱硬化性樹脂前駆体化合物が2個以上のエポキシ基を含む、<1>に記載の接着剤組成物。
<3>
前記電解質がイオン液体である、<1>又は<2>に記載の接着剤組成物。
<4>
前記フィラーの含有量が前記熱硬化性樹脂前駆体化合物100質量部に対して50質量部以上である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の接着剤組成物。
<5>
電気剥離用である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の接着剤組成物。
【0078】
<6>
<1>~<5>のいずれか1つに記載の接着剤組成物により形成された、接着剤層。
<7>
熱硬化性樹脂と、電解質と、フィラーとを含み、
熱伝導率が1.0W/m・K以上である、接着剤層。
【実施例0079】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0080】
[実施例1]
(接着剤組成物1の調製)
熱硬化性樹脂前駆体化合物成分としてポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名「EX-841」、ナガセケムテックス株式会社製):100質量部、硬化剤成分としてヘキサメチレンジアミン(キシダ化学株式会社製):7.8質量部、電解質成分として1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(商品名「エレクセルAS-110」、第一工業製薬株式会社製):20質量部、フィラー成分として酸化アルミニウム(商品名「AS-50」、昭和電工株式会社製):656質量部(接着剤組成物に対して、60体積%、84質量%)を容器に入れ、公転ミキサーにより回転数1000rpmで5分間撹拌することにより混錬した。得られた混錬物を、前記公転ミキサーにより回転数2000rpmでさらに3分間撹拌することにより脱泡し、実施例1の接着剤組成物(接着剤組成物1)を得た。
【0081】
(初期接着力の評価)
第1の被着体及び第2の被着体として、アルミニウム板(長さ100mm×幅25mm×厚さ1mm;商品名「A6061P」、日本テストパネル株式会社製)を用意した。第1の被着体の長さ方向端部に2つのスペーサーを配置することで接着剤組成物を塗布するための区画を設け、区画内に接着剤組成物1を塗布した。接着剤組成物1が硬化する前に、接着剤層が第2の被着体の長さ方向端部に形成されるように、第1の被着体と第2の被着体とを重ね合わせた。重ね合わせは、第1の被着体における接着剤組成物1が塗布されていない部分と、第2の被着体における接着剤組成物1が塗布されていない部分とが、互いに対向することなく長さ方向に対して反対の方向を向くように行った。重ね合わせた被着体を室温下(23℃)で24時間静置し、接着剤組成物1を硬化させることにより、初期接着力を評価するための試験片を得た。
スペーサーを配置したことにより、試験片に形成された接着剤層の寸法は、長さ12.5mm×幅25mm×厚さ2mmに調節された。
【0082】
接着剤組成物1の初期接着力を、JIS K6850:1999「接着剤-剛性被着材の引張せん断接着強さ試験方法」に準じた測定による引張せん断接着強度として評価した。具体的には、得られた試験片を引張試験機の治具に取り付け、引張速度50mm/minにより室温下(23℃)で引張せん断接着強度を測定した。結果を表1に示す。
【0083】
(印加後接着力の評価)
初期接着力を評価するための試験片と同様の方法により、電圧印加用試験片を2つ作成した。
電圧印加用試験片のうちの1つについて、第1の被着体と第2の被着体のそれぞれに電極を取り付け、直流安定化電源によって50V、45分間の条件で電圧を印加することにより、印加後接着力(45min、50V)を評価するための試験片を得た。もう1つの電圧印加用試験片について、第1の被着体と第2の被着体のそれぞれに電極を取り付け、直流安定化電源によって50V、30秒間の条件で電圧を印加することにより、印加後接着力(30s、50V)を評価するための試験片を得た。
初期接着力の評価において行ったことと同様の測定方法により、印加後接着力を評価するための試験片の引張せん断接着強度を測定した。結果を表1に示す。
【0084】
(熱伝導率の評価)
離型フィルムを介してアルミニウム板に接着剤組成物1を塗布し、厚み2mmのポリプロピレン製スペーサーを介して、もう一枚のアルミニウム板で離型フィルム越しに接着剤組成物1を挟んだ。接着剤組成物1を室温(23℃)下で24時間静置して接着剤組成物1を硬化させた後、形成された硬化物のみを取り出し、カッターで切削して20mm×20mm×2.0mmの硬化物を得た。
【0085】
得られた硬化物を熱伝導率測定治具の間に挟み、上側の治具の温度を80℃、下側の治具の温度を30℃に固定し、250kPaの圧力が掛かるように治具で硬化物を押圧した。両治具に熱電対を挿入し、JIS H7903に準じた方法により硬化物の熱伝導率を測定した。熱伝導率の測定において5秒間隔で硬化物の温度をプロットし、ひとつ前の測定値と±0.3K以内のデータが5回続いたところを測定値とした。結果を表1に示す。
【0086】
[実施例2~10]
(接着剤組成物2~10の調製)
熱硬化性樹脂前駆体化合物成分、硬化剤成分、電解質成分及びフィラー成分を表1に記載の配合とした以外は接着剤組成物1と同様の方法により、接着剤組成物2~9を調製した。以下、接着剤組成物2~10を、それぞれ、実施例2~10の接着剤組成物として評価した。
【0087】
表1における各成分の詳細は下記のとおりである。
・モノマーA:ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名「EX-841」、ナガセケムテックス株式会社製)
・モノマーB:ソルビトールポリグリシジルエーテル(商品名:「EX-614B」、ナガセケムテックス株式会社製)
・硬化剤A:ヘキサメチレンジアミン(キシダ化学株式会社製)
・硬化剤B:ポリアミドアミン(商品名:「EA-330」、DIC株式会社製)
・電解質A:1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(商品名「エレクセルAS-110」、第一工業製薬株式会社製)
・電解質B:ヘキサフルオロリン酸アンモニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)
・フィラーA:酸化アルミニウム(商品名「AS-50」、粒径9.0μm、昭和電工株式会社製)
・フィラーB:酸化アルミニウム(商品名「AS-10」、粒径39μm、昭和電工株式会社製)
・フィラーC:酸化アルミニウム(商品名「AC9150」、粒径3.7μm、株式会社アドマテックス製)
・フィラーD:窒化アルミニウム(商品名「HF-10c」、粒径10μm、株式会社トクヤマ製)
【0088】
(接着剤組成物の評価)
接着剤組成物1に対して行った方法と同様の方法により、接着剤組成物2~10の初期接着力、印加後接着力及び熱伝導率の評価を行った。結果を表1に示す。
【0089】
【0090】
表1に示されるとおり、本発明の実施形態に係る接着剤組成物により、短時間の電圧印加により効率よく接着力が低下し、放熱特性に優れた接着剤層を形成することができた。
【0091】
本発明は前述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
本発明の実施形態に係る接着剤組成物は、短時間の電圧印加により効率よく接着力が低下し、放熱特性に優れた接着剤層を形成することができるため、特に、熱を発生する部材どうしの接合、又は、熱を発生する部材とその他の部材との接合に利用することができる。