(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080135
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】レーザ加工装置、レーザ加工方法、及び制御装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/00 20140101AFI20240606BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20240606BHJP
【FI】
B23K26/00 M
B23K26/082
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193060
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】山口 友之
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD11
4E168CA02
4E168CB04
4E168DA23
4E168DA43
4E168EA15
4E168JB01
(57)【要約】
【課題】サイクルごとにパルスエネルギを異ならせ、かつ加工品質の低下を抑制することが可能なレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】電源からレーザ発振器にレーザ発振用の電力が供給される。レーザ発振器から出力されたパルスレーザビームのパワーがセンサで計測される。ビーム走査器が、レーザ発振器から出力されたパルスレーザビームを走査して、加工対象物への入射位置を移動させる。加工対象物の表面上の複数の被加工点に順番にパルスレーザビームを入射させる処理を1サイクルとして、複数のサイクルを繰り返すようにビーム走査器を制御装置が制御する。制御装置は、センサからの出力に基づいて、レーザ発振器から出力されるパルスレーザビームのパルスエネルギが一定になるように電源を制御する。複数のサイクルを繰り返す際に、サイクルごとに制御を実行するか実行しないかを切り替える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスレーザビームを出力するレーザ発振器と、
前記レーザ発振器にレーザ発振用の電力を供給する電源と、
前記レーザ発振器から出力されたパルスレーザビームのパワーを計測するセンサと、
前記レーザ発振器から出力されたパルスレーザビームを走査して、加工対象物への入射位置を移動させるビーム走査器と、
前記加工対象物の表面上の複数の被加工点に順番にパルスレーザビームを入射させる処理を1サイクルとして、複数のサイクルを繰り返すように前記ビーム走査器を制御する制御装置と
を備え、
前記制御装置は、
前記センサからの出力に基づいて、前記レーザ発振器から出力されるパルスレーザビームのパルスエネルギが一定になるように前記電源を制御する機能と、
前記複数のサイクルを繰り返す際に、サイクルごとに前記制御を実行するか実行しないかを切り替える機能と
を有するレーザ加工装置。
【請求項2】
前記電源は、
直流電圧を発生する充電電源と、
前記充電電源からの直流電力を高周波電力に変換し、レーザ発振用の電力として前記レーザ発振器に供給する高周波電源と
を含み、
前記制御装置は、フィードバック制御によって、前記充電電源が前記高周波電源に印加する充電電圧を制御する請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
レーザ発振器から出力されたパルスレーザビームをビーム走査器で走査して、加工対象物の表面の複数の被加工点にパルスレーザビームを入射させる処理を1サイクルとして、複数のサイクルを繰り返してレーザ加工するレーザ加工方法であって、
複数のサイクルのうち一部のサイクルにおいては、前記レーザ発振器から出力されたパルスレーザビームのパワーを計測し、パルスエネルギを設定値に一致させる制御を行い、他のサイクルにおいては、前記制御を行わないレーザ加工方法。
【請求項4】
前記加工対象物は、樹脂層、及び前記樹脂層の上に配置された金属箔を含み、
前記複数のサイクルのうち1サイクル目に、前記制御を行いながら、前記金属箔を貫通して前記樹脂層まで達する複数の穴を形成し、
2サイクル目に、前記制御を行わず、前記金属箔に形成された複数の穴のそれぞれの位置の前記樹脂層を加工する請求項3に記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
パルスレーザビームを出力するレーザ発振器と、
前記レーザ発振器にレーザ発振用の電力を供給する電源と、
前記レーザ発振器から出力されたパルスレーザビームのパワーを計測するセンサと、
前記レーザ発振器から出力されたパルスレーザビームを走査して、加工対象物への入射位置を移動させるビーム走査器と
を含むレーザ加工装置の制御装置であって、
前記加工対象物の表面上の複数の被加工点に順番にパルスレーザビームを入射させる処理を1サイクルとして、複数のサイクルを繰り返すように前記ビーム走査器を制御する機能と、
前記センサからの出力に基づいて、前記レーザ発振器から出力されるパルスレーザビームのパルスエネルギが一定になるように前記電源を制御する機能と、
前記複数のサイクルを繰り返す際に、サイクルごとに前記制御を実行するか実行しないかを切り替える機能と
を有する制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置、レーザ加工方法、及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸ガスレーザ発振器を用いて穴あけ加工を行うレーザ加工装置が公知である。レーザ発振器の出力は、レーザ媒質ガスの劣化状態や、装置の状態の変化によって変動する。高い加工品質を維持するために、レーザ発振器から出力されるパルスレーザビームのパルスエネルギ(1パルス当たりのエネルギ)を調整することが好ましい。レーザ発振器からの出力を計測し、出力が一定になるようにレーザ発振器の電源を制御する技術が下記の特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
1枚の加工対象物の複数の被加工点に穴あけ加工を行う際に、複数の被加工点にパルスレーザビームを1ショットずつ順番に入射させる処理を1サイクルとして、複数のサイクルを繰り返して加工する場合がある。このような加工方法を「サイクル加工」という。サイクル加工を行う場合に、サイクルごとにパルスエネルギを異ならせる場合がある。パルスエネルギが一定になるような制御を行う条件下では、サイクルごとにパルスエネルギを異ならせることが困難である。
【0005】
パルスエネルギを一定にする制御を行わないようにすれば、サイクルごとにパルスエネルギを異ならせることが可能である。ところが、パルスエネルギを一定にする制御を行わないようにすると、パルスエネルギのばらつきが大きくなり、加工品質が低下してしまう。
【0006】
本発明の目的は、サイクルごとにパルスエネルギを異ならせ、かつ加工品質の低下を抑制することが可能なレーザ加工装置、レーザ加工方法、及び制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によると、
パルスレーザビームを出力するレーザ発振器と、
前記レーザ発振器にレーザ発振用の電力を供給する電源と、
前記レーザ発振器から出力されたパルスレーザビームのパワーを計測するセンサと、
前記レーザ発振器から出力されたパルスレーザビームを走査して、加工対象物への入射位置を移動させるビーム走査器と、
前記加工対象物の表面上の複数の被加工点に順番にパルスレーザビームを入射させる処理を1サイクルとして、複数のサイクルを繰り返すように前記ビーム走査器を制御する制御装置と
を備え、
前記制御装置は、
前記センサからの出力に基づいて、前記レーザ発振器から出力されるパルスレーザビームのパルスエネルギが一定になるように前記電源を制御する機能と、
前記複数のサイクルを繰り返す際に、サイクルごとに前記制御を実行するか実行しないかを切り替える機能と
を有するレーザ加工装置が提供される。
【0008】
本発明の他の観点によると、
レーザ発振器から出力されたパルスレーザビームをビーム走査器で走査して、加工対象物の表面の複数の被加工点にパルスレーザビームを入射させる処理を1サイクルとして、複数のサイクルを繰り返してレーザ加工するレーザ加工方法であって、
複数のサイクルのうち一部のサイクルにおいては、前記レーザ発振器から出力されたパルスレーザビームのパワーを計測し、パルスエネルギを設定値に一致させる制御を行い、他のサイクルにおいては、前記制御を行わないレーザ加工方法が提供される。
【0009】
本発明のさらに他の観点によると、
パルスレーザビームを出力するレーザ発振器と、
前記レーザ発振器にレーザ発振用の電力を供給する電源と、
前記レーザ発振器から出力されたパルスレーザビームのパワーを計測するセンサと、
前記レーザ発振器から出力されたパルスレーザビームを走査して、加工対象物への入射位置を移動させるビーム走査器と
を含むレーザ加工装置の制御装置であって、
前記加工対象物の表面上の複数の被加工点に順番にパルスレーザビームを入射させる処理を1サイクルとして、複数のサイクルを繰り返すように前記ビーム走査器を制御する機能と、
前記センサからの出力に基づいて、前記レーザ発振器から出力されるパルスレーザビームのパルスエネルギが一定になるように前記電源を制御する機能と、
前記複数のサイクルを繰り返す際に、サイクルごとに前記制御を実行するか実行しないかを切り替える機能と
を有する制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
パルスレーザビームのパルスエネルギがサイクルごとに異なる場合であっても、同一のパルスエネルギで加工を行うサイクルにおいて、パルスエネルギが一定になる制御を行い、他のサイクルではこの制御を行わないようにすることで、加工品質の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、一実施例によるレーザ加工装置のブロック図である。
【
図2】
図2は、本実施例によるレーザ加工装置の電源の等価回路図及びブロック図である。
【
図3】
図3は、充電電圧と、センサの出力基準値と、パルスエネルギとの対応関係を示す図表である。
【
図4】
図4は、制御装置及び充電電源がパルスエネルギを制御する手順を示すフローチャートである。
【
図5】
図5Aは、加工対象物の被加工面に定義された複数の被加工点の分布の一例を示す図であり、
図5Bは、複数の被加工点の加工順の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、穴あけ加工の手順を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、加工対象物を加工するときのフィードバック制御条件の有無を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1~
図8を参照して、一実施例によるレーザ加工装置及びレーザ加工方法について説明する。
【0013】
図1は、本実施例によるレーザ加工装置のブロック図である。電源20がレーザ発振器10にレーザ発振用の電力を供給する。電源20は、充電電源21及び高周波電源22を含む。充電電源21は、直流電圧を発生する。直流電圧の目標値が、制御装置50からの制御信号Sig1により指令される。充電電源21で発生した直流電圧が高周波電源22に印加される。高周波電源22は、直流電力を高周波電力に変換し、レーザ発振器10に供給する。レーザ発振器10に高周波電力を供給するタイミングは、制御装置50からの発振指令信号Sig2によって指令される。
【0014】
レーザ発振器10は、高周波電源22から高周波電力が供給されることにより、パルスレーザビームを出力する。レーザ発振器10として、例えば炭酸ガスレーザ発振器が用いられる。
【0015】
レーザ発振器10から出力されたパルスレーザビームは、ビームスプリッタ11によって2分岐される。パルスレーザビームのパワーの一部分、例えば2~3%がビームスプリッタ11を透過し、パワーメータ31に入射する。パワーメータ31は、パルスレーザビームの平均パワーを計測する。パワーメータ31で散乱された光の一部分がセンサ30に入射する。センサ30は、入射する光のパワーを電気信号に変換する。センサ30は、パルスレーザビームのパルス波形に追従できる程度の十分速い応答特性を有している。センサ30として、例えば、MCTセンサ(HgCdTeセンサ)を用いることができる。センサ30による測定結果が制御装置50に取り込まれる。
【0016】
ビームスプリッタ11で反射されたパルスレーザビームは、折り返しミラー12、整形光学系13、ビーム走査器14、レンズ15を経由して加工対象物40に入射する。整形光学系13が、ビーム断面形状及びビームプロファイルを整形する。レンズ15は、パルスレーザビームを加工対象物40の表面に集光する。レンズ15として、例えばfθレンズが用いられる。
【0017】
ビーム走査器14は、制御装置50からの制御を受けてパルスレーザビームを走査することにより、パルスレーザビームの入射位置を、加工対象物40の表面の所定の被加工点に移動させる。ビーム走査器14として、例えばガルバノスキャナが用いられる。
【0018】
加工対象物40は、移動ステージ45に保持されている。移動ステージ45は、制御装置50からの制御を受けて、加工対象物40を、被加工面に平行な二方向に移動させることができる。移動ステージ45として、例えばXYステージが用いられる。
【0019】
入出力装置51から制御装置50に、種々のコマンド(指令)、レーザ加工に必要な情報等が入力される。また、制御装置50から、加工結果等の情報が入出力装置51に出力される。入出力装置51として、タッチパネル、画像表示装置、ポインティングデバイス、キーボード、リムーバブルメディアのリーダラータ、通信装置等が用いられる。
【0020】
図2は、電源20の等価回路図及びブロック図である。
電源20の充電電源21は、昇降圧コンバータ、バンクコンデンサ21BC、及びコンバータコントローラ21CCを含む。昇降圧コンバータは、リアクトルL、昇圧用トランジスタQ1、降圧用トランジスタQ2、及び還流ダイオードD1、D2を含む。コンバータコントローラ21CCが、昇圧用トランジスタQ1をオンオフすると、直流電源70の電圧が昇圧されて、バンクコンデンサ21BCに充電電流が流れる。
【0021】
バンクコンデンサ21BCの電極間の電圧が、高周波電源22に印加される。コンバータコントローラ21CCは、昇圧用トランジスタQ1のオンオフのデューティ比を変化させることにより、バンクコンデンサ21BCの電極間の電圧(以下、充電電圧VCという。)を調整する。充電電圧VCの目標値が、制御装置50からの制御信号Sig1により指令される。
【0022】
高周波電源22は、充電電源21から供給される直流電力を高周波電力に変換し、レーザ発振器10の放電電極10Aに供給する。レーザ発振器10から出力されるパルスレーザビームのパワーは、充電電圧VCの大きさに依存して変動する。パルスレーザビームのパルス幅が一定の条件下では、充電電圧VCの大きさに依存して、1パルス当たりのエネルギ(パルスエネルギ)が変化する。
【0023】
レーザ発振器10から出力されたパルスレーザビームのパワーの一部がセンサ30で検出され、検出値が制御装置50に取り込まれる。センサ30の検出値は、パルスレーザビームのパワーの時間変化に応じて、時間とともに変化する。ここで、パワーとは、パルスレーザビームの平均パワーではなく、センサ30の応答周波数に応じたパワーの瞬時値を意味する。制御装置50は、センサ30の検出値を積分することによって、パルスレーザビームのパルスエネルギに関する情報を取得する。
【0024】
センサ30から取得したパワーの時系列データである電圧波形を1パルスの期間に亘って積分した値は、パルスエネルギにほぼ比例する。電圧波形の積分値とパルスエネルギの実測値とから、両者の間の換算係数を求めておけば、電圧波形の積分値からパルスエネルギを求めることができる。
【0025】
制御装置50は、レーザ発振器10から出力されたパルスレーザビームのパルスエネルギが目標値に維持されるように、充電電圧VCを制御する。例えば、制御装置50は、充電電圧VCの目標値を修正する指令を、コンバータコントローラ21CCに与える。なお、パルスレーザビームのパルスエネルギを目標値に維持するために、センサ30の出力電圧の時間波形の積分値をパルスエネルギに換算する必要はなく、パルスエネルギの目標値に対応する積分値を。目標値として設定しておけばよい。
【0026】
例えば、コンバータコントローラ21CCに積分値の目標値を設定しておき、制御装置50が、実測された電圧波形の積分値を計算し、計算結果をコンバータコントローラ21CCに与える。コンバータコントローラ21CCは、制御装置50から与えられた実測値による積分値と、目標値との偏差が小さくなるように、充電電圧VCを制御する。充電電圧VCの制御は、昇圧用トランジスタQ1のオンオフのデューティ比を調整することにより行う。
【0027】
次に、
図3を参照して、充電電圧VCの初期値と、センサ30の出力基準値と、パルスエネルギとの関係について説明する。
図3は、充電電圧VCの初期値と、センサ30の出力基準値と、パルスエネルギとの対応関係を示す図表である。制御IDごとに、これらの対応関係が決められている。
【0028】
センサ30の出力基準値とは、所定のパルス幅及び所定のパルスエネルギのパルスレーザビームを1ショット出力したときに、センサ30から出力される電圧波形の積分値を意味する。
図3に示した制御IDがゼロのときの対応関係は、パルス幅一定の条件下で、充電電圧VCを初期値V
0に設定してパルスレーザビームを出力させると、パルスエネルギがE
0になり、そのときのセンサ30の出力値が出力基準値I
0になることを意味する。なお、実際には、レーザ媒質ガスの劣化等の種々の状況の変化に起因して、パルスエネルギがE
0からずれる。その結果、センサ30の出力値も、出力基準値I
0からずれる。
【0029】
次に、
図4を参照して、制御装置50及び充電電源21がパルスエネルギを制御する手順について説明する。
図4は、制御装置50及び充電電源21がパルスエネルギを制御する手順を示すフローチャートである。
【0030】
制御装置50(
図2)は、まず制御ID、及びフィードバック制御の有無を選択する(ステップS1)。制御ID及びフィードバック制御の有無は、例えば加工レシピによって予め決められている。制御装置50が制御IDを充電電源21に通知すると、充電電源21は、
図3に示した対応関係を参照し、充電電圧VCの目標値として初期値を設定する(ステップS2)。制御装置50は、ビーム走査器14を制御して、パルスレーザビームの入射位置の位置合わせを行う(ステップS3)。位置合わせが完了すると、制御装置50は高周波電源22に発振指令信号Sig2を送出することにより、レーザ発振器10から1ショットのパルスレーザビームを出力させる(ステップS4)。
【0031】
フィードバック制御条件が「フィードバック制御無し」の場合は、制御装置50は、ステップS3とステップS4とを、加工終了まで繰り返す(ステップS5、S10)。フィードバック制御条件が「フィードバック制御有り」の場合は、制御装置50は、センサ30からの出力信号を取得し、電圧波形の積分値(出力値)を計算する(ステップS6)。制御装置50は、センサ30の出力値を充電電源21のコンバータコントローラ21CCに通知する。コンバータコントローラ21CCは、センサ30の出力値と、
図3に示した対応関係で設定されているセンサ30の出力基準値とを比較する(ステップS7)。
【0032】
センサ30の出力値が出力基準値より小さい場合、充電電圧VCの目標値を、現在の目標値より上昇させる(ステップS8)。センサ30の出力値が出力基準値より大きい場合、充電電圧VCの目標値を、現在の目標値より低下させる(ステップS9)。センサ30の出力値が出力基準値と等しい場合、充電電圧VCの目標値は修正しない。加工が終了するまで、ステップS3からS9までの手順を繰り返す。
【0033】
なお、ステップS7の、センサ30の出力値と出力基準値とを比較する処理を、制御装置50が行うようにしてもよい。この場合、ステップS8及びステップS9(
図4)において、制御装置50が充電電源21のコンバータコントローラ21CCに、充電電圧VCの修正後の目標値を指令する構成にするとよい。
【0034】
図5Aは、加工対象物40の被加工面に定義された複数の被加工点の分布の一例を示す図である。
図5Aでは、複数の被加工点42のうち一部のみを示している。加工対象物40はプリント基板であり、被加工点42は、穴明けすべき位置を示している。加工対象物40の形状は、例えば長方形である。
【0035】
加工対象物40の四隅に、それぞれアライメントマーク43が設けられている。加工対象物40の表面に、複数の被加工点42が定義されている。
図5Aでは、被加工点42を円形の記号で示しているが、実際には、加工対象物40の表面に何らかのマークが付されているわけではなく、複数の被加工点42の位置を定義する位置データが制御装置50に格納されている。
【0036】
加工対象物40の表面に複数のブロック41が定義されている。ブロック41の各々の形状は、例えば正方形であり、ブロック41のそれぞれの大きさは、ビーム走査器14(
図1)を動作させてパルスレーザビームの入射位置を移動させることができる範囲の大きさとほぼ等しい。複数のブロック41は、加工対象物40上のすべての被加工点42をいずれかのブロック41内に包含するように配置される。複数のブロック41は部分的に重なる場合があり、被加工点42が分布していない領域にはブロック41が配置されない場合もある。複数のブロック41が重複している領域に位置する被加工点42は、いずれか1つのブロック41に属し、その被加工点42は、被加工点42が属するブロック41の加工時に加工される。
【0037】
加工対象物40の加工時には、加工対象物40の1つのブロック41をレンズ15(
図1)の直下に移動させる。レンズ15の直下に配置されたブロック41内の複数の被加工点42にパルスレーザビームの入射位置を順番に位置決めしてパルスレーザビームを入射させることにより、そのブロック41の加工が行われる。1つのブロック41の加工が終了すると、移動ステージ45(
図1)を動作させて、次に加工すべきブロック41をレンズ15の直下に移動させる。1つのブロック41の加工中には、移動ステージ45は静止している。
図5Aにおいて、ブロック41の加工順を矢印で示している。
【0038】
図5Bは、複数の被加工点42の加工順の一例を示す図である。複数の被加工点42に通し番号が付されている。ビーム走査器14(
図1)を動作させて、通し番号の順に、複数の被加工点42にパルスレーザビームを入射させることにより、1つのブロック41の加工を行う。
図5Bにおいて、複数の被加工点42の加工順を矢印で示している。被加工点42の加工順は、例えば、パルスレーザビームの入射位置の移動経路が最短になるように決められる。
【0039】
1つのブロック41に属する複数の被加工点42に1ショットずつ順番にパルスレーザビームを入射させる処理を1サイクルと定義する。1つのブロック41に対して複数サイクル、例えば2サイクルを実行することにより、当該ブロック41に対する加工が完了する。
【0040】
図6A~
図6Cは、加工対象物40の、加工途中段階における断面図である。
図6Aに示すように、加工対象物40は、樹脂層40B、その表面に配置された表面金属箔40C、及び樹脂層40Bの裏面に配置された裏面金属箔40Aを含む。樹脂層40Bは、例えばガラス繊維含有エポキシ樹脂で形成され、表面金属箔40C及び裏面金属箔40Aは、銅箔である。なお、加工対象物40は、樹脂層と金属箔とを多層に積層した構造を有していてもよい。表面金属箔40Cは、樹脂層40Bの一方の面の全域を覆っている。本実施例では、表面金属箔40Cから、樹脂層40Bを貫通して裏面金属箔40Aまで達する穴を形成する。このような加工方法は、ダイレクト加工と言われる。
【0041】
図6Bに示すように、複数の被加工点42に順番にパルスレーザビームLB1を入射させ、1サイクル目の加工を行う。1サイクル目のパルスレーザビームLB1のパルスエネルギは、表面金属箔40Cを貫通する穴44が形成される大きさに設定されている。これにより、表面金属箔40Cを貫通し、少なくとも樹脂層40Bまで達する穴44が形成される。なお、
図6Bに示したように、穴44が裏面金属箔40Aまで達する場合もある。
【0042】
図6Cに示すように、複数の被加工点42に順番に2ショット目のパルスレーザビームLB2を入射させ、2サイクル目の加工を行う。2サイクル目のパルスレーザビームLB2のパルスエネルギは、穴44が形成された位置の樹脂層40Bが加工される大きさに設定されている。樹脂層40Bは表面金属箔40Cよりも加工されやすいため、2サイクル目のパルス幅は、1サイクル目のパルス幅より短い。すなわち、2サイクル目のパルスエネルギは、1サイクル目のパルスエネルギより小さい。これにより、樹脂層40Bの部分の穴44の径が太くなり、所望の形状の穴44が形成される。
【0043】
図7は、穴明け加工の手順を示すフローチャートである。制御装置50は、加工レシピに指定された制御ID(
図3)から充電電圧の初期値を取得し、充電電源21のコンバータコントローラ21CCに通知する。コンバータコントローラ21CCは、充電電圧VCの目標値に、通知された制御IDで指定された初期値(
図3)を設定する(ステップSA1)。
【0044】
センサ30の出力電圧が、充電圧目標値に相当する電圧になるまで暖機運転を行う(ステップSA2)。暖機運転では、加工対象物40の被加工点42(
図5A)の分布に基づいてビーム走査器14を動作させながら、レーザ発振器10からパルスレーザビームを出力させる。ただし、暖機運転時には、レーザ発振器10からビーム走査器14までのビーム経路のいずれかの箇所に配置されたビーム偏向器により、パルスレーザビームをビームダンパに入射させておく。
【0045】
制御装置50は、移動ステージ45(
図1)を動作させて、加工すべきブロック41(
図5A)を、ビーム走査器14で操作可能な走査範囲内に移動させる(ステップSA3)。制御装置50は、加工レシピに基づいてパルス幅を設定する(ステップSA4)。さらに、コンバータコントローラ21CCに、フィードバック制御条件として、「フィードバック制御有り」を通知する。これにより、コンバータコントローラ21CCは、フィードバック制御条件を「フィードバック制御有り」に設定する(ステップSA5)。この条件で、1サイクル目の加工を行う(ステップSA6)。この加工手順は、
図4に示したステップS3からステップS10までの手順と同一である。
【0046】
1サイクル目の加工が終了すると、制御装置50は、加工レシピから2サイクル目のパルス幅を読み出し、パルス幅を設定する(ステップSA7)。さらに、コンバータコントローラ21CCに、フィードバック制御条件として、「フィードバック制御無し」を通知する。これにより、コンバータコントローラ21CCは、フィードバック制御条件を「フィードバック制御無し」に設定する(ステップSA8)。この条件で、2サイクル目の加工を行う(ステップSA9)。この加工手順は、
図4に示したステップS3からステップS10までの手順と同一である。2サイクル目の加工では、フィードバック制御条件が「フィードバック制御無し」に設定されているため、
図4のステップS6~ステップS9は実行されない。
【0047】
ステップSA3からステップSA9までの手順を、すべてのブロック41の加工が終了するまで繰り返す(ステップSA10)。
【0048】
図8は、加工対象物40を加工するときのフィードバック制御条件の有無を示すタイミングチャートである。加工対象物40の被加工面に画定された複数のブロックのそれぞれに対して、2サイクルの加工を行う。一例として、1サイクル目では、パルス幅を10μsに設定し、2サイクル目では、パルス幅を5μsに設定する。
【0049】
1サイクル目では、フィードバック制御条件を「フィードバック制御有り」に設定し、2サイクル目では、フィードバック制御条件を「フィードバック制御無し」に設定する。
【0050】
次に、本実施例の優れた効果について説明する。
本実施例では、サイクルごとに、フィードバック制御条件を、「フィードバック制御有り」及び「フィードバック制御無し」の一方に設定することができる。サイクルごとにパルスエネルギの設定値が異なる場合に、同一のパルスエネルギで加工を行うサイクルについて、パルスエネルギを一定にするためのフィードバック制御を行い、それとは異なるパルスエネルギで加工を行うサイクルについては、フィードバック制御を行わないようにすることができる。
【0051】
フィードバック制御を行うサイクルにおいては、パルスエネルギのばらつきを抑制して高品質な加工を行うことができる。例えば、
図6Bに示した表面金属箔40Cの加工品質の向上を図ることができる。このため、すべてのサイクルにおいて、フィードバック制御を行わない場合と比べて、全体として加工品質を高めることができる。
【0052】
また、
図6Cに示した樹脂層40Bを加工する工程においては、表面金属箔40Cが加工されず、樹脂層40Bのみが加工される程度のパルスエネルギが用いられる。また、このパルスエネルギでは、穴44の底面に露出した裏面金属箔40Aは加工されない。このため、パルスエネルギにある程度のばらつきが生じても、加工品質はほとんど低下しない。
【0053】
このように、加工品質に大きな影響を与えるサイクルにおいて、フィードバック制御を行うことにより、加工品質の低下を抑制する効果を高めることができる。
【0054】
次に、上記実施例の変形例について説明する。
上記実施例では、
図6~
図8を参照して説明したように、加工対象物40の1つのブロック41(
図5A)を2サイクルで加工するが、3サイクル以上で加工してもよい。例えば、1サイクル目で表面金属箔40C(
図6B)を貫通する穴44を形成し、2サイクル目以降の複数サイクルで、樹脂層40Bを貫通するまで穴44を深くする加工を行うようにしてもよい。この場合は、1サイクル目を「フィードバック制御有り」で実行し、2サイクル目以降のサイクルを、「フィードバック制御無し」で実行するとよい。
【0055】
上述の実施例は例示であり、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0056】
10 レーザ発振器
10A 放電電極
11 ビームスプリッタ
12 折り返しミラー
13 整形光学系
14 ビーム走査器
15 レンズ
20 電源
21 充電電源
21BC バンクコンデンサ
21CC コンバータコントローラ
22 高周波電電
30 センサ
31 パワーメータ
40 加工対象物
40A 裏面金属箔
40B 樹脂層
40C 表面金属箔
41 ブロック
42 被加工点
43 アライメントマーク
44 穴
45 移動ステージ
50 制御装置
51 入出力装置
70 直流電源