IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社リプロの特許一覧

<>
  • 特開-標示杭、及び、標示杭の施工方法 図1
  • 特開-標示杭、及び、標示杭の施工方法 図2
  • 特開-標示杭、及び、標示杭の施工方法 図3
  • 特開-標示杭、及び、標示杭の施工方法 図4
  • 特開-標示杭、及び、標示杭の施工方法 図5
  • 特開-標示杭、及び、標示杭の施工方法 図6
  • 特開-標示杭、及び、標示杭の施工方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080156
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】標示杭、及び、標示杭の施工方法
(51)【国際特許分類】
   G01C 15/04 20060101AFI20240606BHJP
【FI】
G01C15/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193094
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】591034017
【氏名又は名称】株式会社リプロ
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【弁理士】
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100220892
【弁理士】
【氏名又は名称】舘 佳耶
(74)【代理人】
【識別番号】100205589
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 和将
(72)【発明者】
【氏名】岡田 謙吾
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 佳佑
(72)【発明者】
【氏名】山本 啓太
(57)【要約】
【課題】
施工が容易なプラスチック製でありながら、火事等で焼失しにくい標示杭を提供する。
【解決手段】
地面に打ち込んで使用するプラスチック製の標示杭1において、少なくとも地面から露出する部分の外側表面部を、難燃性プラスチックで形成する。標示杭1は、地中に埋め込まれる埋込部、及び、埋込部の上面から上向きに突出する突出部を有する杭本体10と、杭本体10の突出部に外嵌されるキャップ20とを備えたものとし、キャップ20を難燃性プラスチックで形成することが好ましい。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地面に打ち込んで使用するプラスチック製の標示杭であって、
少なくとも地面から露出する部分の外側表面部が、難燃性プラスチックで形成されたことを特徴とする標示杭。
【請求項2】
地中に埋め込まれる埋込部、及び、埋込部の上面から上向きに突出する突出部を有する杭本体と、
杭本体の突出部に外嵌されるキャップと、
を備え、
キャップが、難燃性プラスチックで形成された
請求項1記載の標示杭。
【請求項3】
キャップが、杭本体の突出部の全体を覆うものとされた請求項2記載の標示杭。
【請求項4】
杭本体の突出部にキャップを嵌め込む際に、当該突出部とキャップとに囲まれた空間内の空気をキャップの下方に導いて排出するための空気流路が、キャップの内周面、又は、該突出部の外周面に設けられた請求項3記載の標示杭。
【請求項5】
キャップの側部に、キャップを杭本体の突出部にネジ固定するためのネジ挿通孔が設けられ、
ネジ固定の際にキャップが破損しないようにキャップを補強するための補強部材が、前記ネジ挿通孔の周辺に設けられた
請求項4記載の標示杭。
【請求項6】
請求項1~5いずれか記載の標示杭の施工方法。
【請求項7】
突出部を叩いて、杭本体の埋込部を地中に埋め込む際に、突出部に突出部保護部材を被せて突出部を保護し、
キャップを叩いて、杭本体の突出部に圧入する際に、キャップにキャップ保護部材を被せてキャップを保護する
請求項6記載の標示杭の施工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地面に打ち込んで使用するプラスチック製の標示杭と、その施工方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
標示杭は、地面に打ち込まれ、土地の境界や測量時の基準点等を示す目印として利用される。標示杭に用いられる素材には、様々なものがある。例えば、特許文献1には、コンクリートで形成した標示杭が記載されている。また、特許文献2には、プラスチックで形成した標示杭が記載されている。さらに、特許文献3には、複数の素材からなるハイブリッドな標示杭が記載されている。同文献の段落0021,0025等には、標示杭を、杭本体と、その杭本体に被せるキャップとで構成し、杭本体をプラスチック製とし、キャップを金属製とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-103958号公報
【特許文献2】実開平02-118831号公報
【特許文献3】特開2006-342613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、標示杭を山林等に施工する場合には、耐久性や耐候性等を考慮して、特許文献1に記載されているようなコンクリート杭を用いることが多い。しかし、コンクリート杭は、非常に重く、施工や運搬に多大な労力を要する。
【0005】
この点、特許文献2に記載されているようなプラスチック杭を用いると、標示杭を軽量にすることができ、その施工や運搬にかかる労力を軽減することができる。しかし、プラスチック杭は、山火事等で焼失してしまうおそれがあるため、山林等では使用しにくい。同様に、特許文献3のような、金属製のキャップを備えた標示杭でも、山火事等が発生した際には、キャップから露出した部分が焼失するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、施工が容易なプラスチック製でありながら、火事等で焼失しにくい標示杭を提供するものである。また、この標示杭の施工方法を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、
地面に打ち込んで使用するプラスチック製の標示杭であって、
少なくとも地面から露出する部分の外側表面部が、難燃性プラスチックで形成されたことを特徴とする標示杭
を提供することによって解決される。
【0008】
ここで、「難燃性プラスチック」とは、UL94規格(米国の製品安全認証機関によって定められた、プラスチック材料の燃えにくさの度合いを表す規格)に基づく難燃グレードがV-0以上であるプラスチック材料を言う。このようなプラスチック材料としては、例えば、PC(ポリカーボネート)やPP(ポリプロピレン)やABS樹脂等のプラスチック材料に、難燃剤を添加したものが挙げられる。難燃剤としては、ハロゲン化合物や、リン化合物や、アンチモン化合物等を主成分にしたものが例示される。
【0009】
本発明の標示杭では、地面から露出する部分の外側表面部を、難燃性プラスチックで形成している。これにより、設置場所近くで火事が発生しても、標示杭を焼失しにくくすることができる。
【0010】
標示杭は、上記外側表面部のみならず、その全体を難燃性プラスチックで形成することも可能である。しかし、難燃性プラスチックの原価は、通常、一般的なプラスチック(非難燃性プラスチック)よりも高価である。このため、標示杭の全体を難燃性プラスチックで形成すると、標示杭の製造コストが高くなる。したがって、火事の際に炎に接触する可能性がある上記外側表面部のみを難燃性プラスチックで形成し、その他の部分を一般的なプラスチックで形成することが好ましい。このような標示杭は、地中に埋め込まれる埋込部、及び、埋込部の上面から上向きに突出する突出部を有する杭本体と、杭本体の突出部に外嵌されるキャップとを備えたものとし、そのキャップを難燃性プラスチックで形成することで実現することができる。
【0011】
この場合には、キャップを、杭本体の突出部の全体を覆うものとすることが好ましい。これにより、杭本体における地面から露出する部分の全体を、難燃性プラスチックからなるキャップで覆うことができる。
【0012】
ところで、キャップの内寸(キャップにおける、杭本体の突出部が挿入される凹部の寸法)は、突出部の寸法よりも若干大きくすることが好ましい。というのも、キャップの内寸を、突出部の寸法に完全に一致させると、キャップが突出部に嵌りにくくなる一方、キャップの内寸を突出部の寸法よりも極端に大きくすると、突出部に対してキャップを位置決めしにくくなるからである。突出部に対してキャップの位置が決まらないと、突出部に対してキャップが位置ズレして、標示杭の見た目が不格好となる。また、後述するように、キャップを突出部にネジ固定する場合には、キャップ側のネジ挿通孔と杭本体側のネジ螺合孔の位置合わせに手間がかかるおそれがある。
【0013】
ただし、キャップの内寸を、突出部の寸法よりも若干大きくして、クリアランスを確保しても、キャップが突出部に嵌め込みにくくなることがありうる。というのも、キャップを難燃性プラスチックで形成し、杭本体を一般的なプラスチックで形成した場合、通常、杭本体のほうがキャップよりも熱膨張率が大きくなる。このため、夏期など気温が高いときには、突出部の方がキャップよりも熱膨張して、それらのクリアランスが小さくなる。したがって、キャップを突出部に嵌め込む際に、キャップ内の空気が外部に排出されにくくなり、キャップを突出部に押し込むにつれて、キャップ内の圧力が高まりやすくなる。その結果、キャップを押し込む際の抵抗が大きくなるからである。特に、キャップの背丈を高くした場合に、そのような不具合が生じやすい。
【0014】
この点、杭本体の突出部にキャップを嵌め込む際に、キャップ内の空気(突出部とキャップとに囲まれた空間内の空気)を外部に排出するための空気流路を、キャップに設けることによって、キャップ内の圧力が高まらないようにすることができる。しかし、空気流路を、キャップの上部又は側部に貫通して設けると、火事等の際に、熱が空気流路を通じて、突出部に伝わりやすくなるおそれがある。また、キャップの内側の空間内には、ICタグ等の電子部品を収容することもあるところ、空気流路から雨水や砂埃等が侵入して、電子部品が故障するおそれもある。
【0015】
このため、本発明の標示杭においては、キャップ内の空気をキャップの下方に導いて排出するための空気流路を、キャップの内周面、又は、突出部の外周面に設けることが好ましい。これにより、熱の伝わりにくさを確保し、雨水等の侵入を防ぎながらも、キャップ内の空気を外部に排出することが可能となる。
【0016】
ところで、キャップは、杭本体から脱落しないように、杭本体にしっかりと固定することが好ましい。杭本体へのキャップの固定方法は、特に限定されない。例えば、キャップと杭本体とを接着剤で接着することも可能である。ただし、接着剤は、時間の経過等によって粘着力が低下するおそれがある。また、火事の際には、接着剤が、熱によって溶けてしまうおそれもある。このため、キャップと杭本体は、ネジを介して固定されることが好ましい。これにより、施工後、長い時間が経過した場合や、火事が発生した場合等でも、キャップと杭本体をしっかりと固定することができる。この場合には、ネジを挿通するためのネジ挿通孔を、キャップの側部に設けることが好ましい。
【0017】
しかし、本発明の標示杭では、キャップがプラスチック製となっているため、上記のネジ固定をする際に、キャップに割れや欠けが生じるおそれがある。このため、本発明の標示杭においては、ネジ固定の際にキャップが破損しないようにキャップを補強するための補強部材を、そのネジ孔の周辺に設けることが好ましい。これにより、ネジ固定の際にキャップを破損しにくくすることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によって、施工が容易なプラスチック製でありながら、火事等で焼失しにくい標示杭を提供することが可能となる。また、この標示杭の施工方法を提供することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の標示杭を施工した状態を示した斜視図である。
図2】本発明の標示杭の分解斜視図である。
図3】本発明の標示杭を水平面で切断した状態を示した断面図である。
図4】本発明の標示杭の他の実施形態を示した水平断面図である。
図5】本発明の標示杭のさらに別の実施形態を示した水平断面図である。
図6】本発明の標示杭のネジ孔周辺を鉛直面で切断した状態を示した断面図である。
図7】本発明の標示杭を施工している様子を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の標示杭について、図面を用いてより具体的に説明する。しかし、以下で述べる構成は、飽くまで好適な実施形態であり、本発明の標示杭の技術的範囲は、以下で述べる構成に限定されない。本発明の標示杭には、発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更を施すことができる。
【0021】
1. 標示杭の概要
図1は、本発明の標示杭1を施工した状態を示した斜視図である。図2は、標示杭1の分解斜視図である。
【0022】
標示杭1は、図1に示すように、下端側が地中に埋め込まれ、上端側が地面から露出した状態で使用される。この標示杭1は、土地の境界等を示す目印として利用される。このため、標示杭1の上面や側面(地面から露出する部分の側面)には、各種の標示(十字記号や矢印等、土地の境界点を示す図形や、「国土調査」等、標示杭1の設置目的を示す文字列等)が付されている。
【0023】
ところで、標示杭を山林等に施工する場合には、耐久性や耐候性等を考慮して、コンクリート杭を用いることが多かった。しかし、コンクリート杭は、非常に重く、施工の際に多大な労力を要する。この点、本発明の標示杭1は、その全体を軽量なプラスチックで形成することによって、施工の際に取り扱いやすくしている。ただし、標示杭1をプラスチック製にすると、火事が発生した際に、標示杭1における地面から露出した部分が熱によるダメージを受けやすい。最悪の場合には、標示杭1が焼失するおそれもある。
【0024】
このため、本発明の標示杭1では、少なくとも地面から露出する部分の外側表面部を、難燃性プラスチックで形成している。これにより、標示杭1を焼失しにくくすることができる。
【0025】
標示杭1は、その外側表面部のみならず、その全体を難燃性プラスチックで形成することも可能である。しかし、難燃性プラスチックは、通常、PP(ポリプロピレン)やPE(ポリエチレン)等の一般的なプラスチック(非難燃性プラスチック)よりも高価である。このため、標示杭1の全体を難燃性プラスチックで形成すると、標示杭1の製造コストが高くなる。したがって、本実施形態においては、標示杭1における、地面から露出する部分の外側表面部のみを難燃性プラスチックで形成し、それ以外の部分を非難燃性プラスチックで形成している。具体的には、図2に示すように、標示杭1を、杭本体10とキャップ20とで構成し、キャップ20のみを難燃性プラスチックで形成する一方、杭本体10を非難燃性プラスチックで形成している。この標示杭1は、杭本体10の突出部12にキャップ20を嵌め込む構造となっている。突出部12に嵌め込まれたキャップ20は、標示杭1における地面から露出する部分の外側表面部を構成する。これにより、ハイブリッドな素材からなる(難燃性プラスチックで形成された部分と、非難燃性プラスチックで形成された部分とを有する)標示杭1を、シンプルな構造で実現することができる。
【0026】
2. 標示杭の構造
以下、標示杭1(杭本体10及びキャップ20)の構造について、より詳しく説明する。
【0027】
杭本体10は、図2に示すように、埋込部11及び突出部12を有している。埋込部11は、地中に埋め込まれる部分となっており、突出部12は、埋込部11の上面から上向きに突出した部分となっている。埋込部11を地中に埋め込むと、突出部12が地面から突出した状態となる(後掲の図7(b)参照)。埋込部11及び突出部12は、個別に形成して事後的に組み合わせてもよいが、本実施形態では、一体的に形成している。このような杭本体10は、射出成形や切削加工等により形成することができる。杭本体10は、既に述べたように、非難燃性プラスチックで形成しているところ、本実施形態では、環境負荷低減の観点から、PPやPE等を含む再生プラスチックで形成している。
【0028】
埋込部11は、地中に埋め込みやすい形態とすることが好ましい。本実施形態では、埋込部11の上端側を四角柱状とする一方、その下端側を徐々に先細った形状とすることで、標示杭1を地面に打ち込みやすくしている。
【0029】
突出部12は、キャップ20を嵌め込むことができる形態とされる。突出部12は、円柱状としてもよいが、この場合には、突出部12に嵌め込まれたキャップ20が回転できる状態となり、キャップ20の位置決めがしにくくなる。このため、突出部12は、多角柱状や楕円柱状等、キャップ20を回転しない状態で嵌め込むことができる形態(非円柱状)とすることが好ましい。本実施形態では、突出部12を、四角柱状としている。
【0030】
突出部12の高さは、標示杭1の設置場所等に応じて適宜決定される。ただし、突出部12が低すぎると、キャップ20が外れやすくなるおそれがある。このため、突出部12の高さは、5cm以上にすること好ましく、10cm以上とすることがより好ましく、15cm以上とすることがさらに好ましい。逆に、突出部12が高すぎると、キャップ20を突出部12に嵌め込みにくくなる。このため、突出部12の高さは、100cm以下にすることが好ましく、50cm以下にすることがより好ましい。本実施形態では、突出部12の長さを、約17cmにしている。
【0031】
突出部12の外幅(太さ)W図3参照)は、標示杭1の設置場所等に応じて適宜決定される。ただし、突出部12の外幅Wが狭すぎると、標示杭1を地面に打ち込む際やキャップ20を突出部12に嵌め込む際等に、突出部12が曲がるおそれや、折れるおそれがある。このため、突出部12の外幅Wは、3cm以上にすること好ましく、5cm以上にすることがより好ましい。突出部12の外幅Wに特に上限はないが、一般的な杭の全幅は、通常、20cm以下とされる。このため、突出部12の外幅Wも20cm以下とされ、好ましくは10cm以下とされる。本実施形態では、突出部12の外幅Wを、約6cmとしている。
【0032】
キャップ20は、杭本体10の突出部12に外嵌可能な形態とされる。本実施形態においては、キャップ20を四角柱状とし、突出部12に外嵌させたときに、キャップ20と埋込部11との側面が略面一になるようにしている(図1参照)。これにより、標示杭1の見た目をよくすることができる。キャップ20の下面側には、凹部(空洞)21が設けられている。この凹部21は、突出部12を嵌め込む箇所となっている。凹部21の内周形状は、通常、突出部12の外周形状に倣った形状とされる。本実施形態においては、上述したように、突出部12を四角柱状(突出部12の外周形状を四角形状)としたところ、凹部21の内周形状も四角形状としている。これにより、突出部12に対して回転しない状態でキャップ20を嵌め込むことができる。
【0033】
図3は、標示杭1を水平面で切断した状態を示した断面図である。キャップ20における凹部21の内幅Wは、突出部12の外幅Wよりも大きく設定される。ただし、突出部12の外幅Wに対する凹部21の内幅Wの比W/Wを大きくしすぎると、突出部12に対するキャップ20の位置決めがしにくくなる。このため、比W/Wは、1.17以下にすることが好ましく、1.12以下にすることがより好ましく、1.08以下にすることがさらに好ましい。同様の理由により、突出部12の外幅Wと凹部21の内幅Wとの差W-Wは、10mm以下にすることが好ましく、7mm以下にすることがより好ましく、5mm以下にすることがさらに好ましい。逆に、比W/Wを小さくしすぎると、キャップ20と突出部12とのクリアランスが小さくなって、キャップ20が突出部12に嵌め込みにくくなるおそれがある。このため、比W/Wは、1.01以上にすることが好ましく、1.02以上にすることがより好ましく、1.03以上にすることがさらに好ましい。同様の理由により、差W-Wは、0.5mm以上にすることが好ましく、1mm以上にすることがより好ましく、2mm以上にすることがさらに好ましい。本実施形態では、突出部12の外幅Wを約6cmとし、凹部21の内幅Wを約6.3cmとしており、比W/Wが1.05であり、差W-Wが約3mmとなっている。
【0034】
キャップ20の壁部(側壁部及び天壁部)は、火事の際に突出部12を熱的に保護できるように厚めに設定される。具体的には、キャップ20の壁厚を、1mm以上にすることが好ましく、2mm以上にすることがより好ましく、3mm以上にすることがさらに好ましい。キャップ20の壁厚に特に上限はないが、通常、50mm以下とされる。本実施形態では、キャップ20の壁厚を、約4mmとしている。
【0035】
既に述べたように、キャップ20は、難燃性プラスチックで形成される。本実施形態では、PC(ポリカーボネート)に、難燃剤として有機リン化合物を添加したものを、キャップ20の素材に採用している。PCは、機械的強度に優るといった利点を有し、有機リン化合物は、人体に対する安全性が高いといった利点を有している。
【0036】
ところで、本実施形態では、上述したように、突出部12の外幅と凹部21の内幅との差W-Wを約3mmとしており、突出部12とキャップ20の凹部21との間にクリアランスを設けている。しかし、この程度のクリアランスを設けたとしても、キャップ20と突出部12との熱膨張率の違いに起因して、気温が高くなったとき等に、クリアランスが殆どなくなることがある。この場合には、キャップ20を突出部12に嵌め込む際に、キャップ20内の空気が外部に排出されにくくなる。その結果、キャップ20が突出部12に押し込みにくくなる。
【0037】
この点、キャップ20に空気流路を設けることで、キャップ20内の空気を排出しやすくすることができる。しかし、空気流路をキャップ20の側部又は上部に貫通して設けると、火事の際に熱が空気流路を通じてキャップ20の内側に伝わりやすくなるおそれがある。また、雨水等が空気流路を通じてキャップ20の内側に侵入するおそれもある。
【0038】
このため、本実施形態では、図3に示すように、四角柱状の突出部12の角部を三角形状に切り欠くことによって、空気流路αを設けている。空気流路αは、突出部12の上端部から下端部にわたって連続的に形成される。これにより、キャップ20と突出部12との間のクリアランスが小さくなっても、キャップ20を突出部12に嵌め込む際に、図2における矢印Aに示すように、キャップ20内の空気を、空気流路αを通じて、キャップ20の下方に排出することができる。しかも、キャップ20の内側への熱の伝わりにくさを維持することや、キャップ20の内側への雨水等の侵入を防ぐこともできる。
【0039】
ただし、空気流路αを設けても、空気流路αの水平断面積が小さすぎると、キャップ20を突出部12に押し込んだ際に、キャップ20内の空気がスムーズに排出されないおそれがある。このため、キャップ20の凹部21における水平断面積(Sとする。)に対する、空気流路αの水平断面積(Sとする。空気流路αが複数本ある場合には、その合計とする。)の比S/Sは、0.001以上にすること好ましく、0.005以上にすることがより好ましく、0.01以上とすることがさらに好ましい。一方、空気流路αの水平断面積が大きすぎると、キャップ20の壁厚を薄くしたり、突出部12を細くしたりする必要があるため、それらの強度が不足するおそれがある。このため、比S/Sは、0.3以下にすることが好ましく、0.2以下にすることがより好ましく、0.1以下にすることがさらに好ましい。本実施形態では、比S/Sを、約0.02にしている。
【0040】
本実施形態では、図3に示すように、突出部12の角部に対応する箇所のそれぞれに、断面三角形状の空気流路αを設けたが、空気流路の設け方は、これに限定されず、例えば、図4(a)、(b)又は図5(a)、(b)に示すような態様にすることも可能である。図4(a)及び(b)は、杭本体10の突出部12における他の形状例を示した水平断面図である。図5(a)及び(b)は、キャップ20における他の形状例を示した水平断面図である。
【0041】
すなわち、空気流路αの断面形状は、図3に示した以外の形状を採用してもよい。例えば、図4(a)に示すように、三角形の斜面を湾曲させた形状や、図4(b)に示すように、四角形状にすることもできる。これらの他にも、多角形状や、円形状や、それらを組み合わせた形状等、所望の形状を、空気流路αの断面形状に採用することができる。
【0042】
また、空気流路αの位置も、突出部12の角部に限定されない。例えば、図4(b)に示すように、突出部12の側面部の中途部分(角部でない箇所)に、空気流路αを設けることも可能である。ただし、空気流路αを偏って配置すると、キャップ20を突出部12に嵌め込む際に、キャップ20内の空気がバランスよく排出されないおそれがある。このため、空気流路αは、突出部12の外周部に回転対称に配置することが好ましい。
【0043】
そもそも、空気流路αは、突出部12側でなく、キャップ20側に設けてもよい。例えば、図5(a)に示すように、キャップ20の内側の隅部を切り欠くことで、空気流路αを設けることも可能である。また、図5(b)に示すように、キャップ20の内側の側面部を切り欠くことで、空気流路αを設けることも可能である。ただし、キャップ20の内側の隅部又は側面部(内周面)に切欠きを設けると、その箇所の壁厚が薄くなって、キャップ20の強度が不足するおそれがある。このため、空気流路α(切り欠き)は、キャップ20側に設けるよりも、突出部12側に設けることが好ましい。
【0044】
キャップ20は、突出部12に外嵌させるだけでもよいが、突出部12にしっかりと固定することが好ましい。これにより、キャップ20が、突出部12から外れないようにすることができる。本実施形態では、図6に示すように、キャップ20の側部にネジ挿通孔24を設け、そこでキャップ20をネジ固定するようにしている。図6は、標示杭1のネジ挿通孔24周辺を鉛直面で切断した状態を示した断面図である。
【0045】
ところで、本実施形態では、キャップ20を、コンクリートや金属等よりも剛性に劣るプラスチックで形成しているところ、キャップ20を突出部12にネジ固定する際に、キャップ20に割れや欠けが生じるおそれがある。このため、キャップ20におけるネジ挿通孔24の周辺に、キャップ20を補強するための補強部材23を設けることが好ましい。本実施形態では、キャップ20のネジ挿通孔24内に、筒状の補強部材23を配設している。
【0046】
補強部材23は、剛性に優れたものとすることが好ましく、例えば、金属製とすることができる。補強部材23に用いることができる金属としては、鉄や、ステンレスや、アルミニウムや、チタン等が例示される。本実施形態では、耐食性に優れるステンレスを、補強部材23の素材に採用している。
【0047】
補強部材23の取付方法は、特に限定されず、例えば、インサート成形(キャップ20と補強部材23とを一体成形する手法)を採用することができる。ただし、キャップ20を個別に作製した後に、接着や圧設等によって、補強部材23をキャップ20に取り付けることも可能である。
【0048】
3. 標示杭の施工方法
図7は、標示杭1を施工する様子を示した図である。図7(a)は、標示杭1(埋込部11)の下端側を地中に埋め込んだ状態を示し、図7(b)は、埋込部11を完全に地中に埋め込んだ状態を示し、図7(c)は、突出部12にキャップ20を嵌め込んだ状態を示している。
【0049】
標示杭1を施工する際には、キャップ20を突出部12に嵌め込んで、標示杭1を完成させた後に、その標示杭1を地面に打ち込んでもよい。しかし、この場合には、ハンマー等で標示杭1の上端面を打ち付けた際に、キャップ20が破損するおそれがある。このため、杭本体20を地面に打ち込んだ後に、キャップ20を杭本体10に装着することが好ましい。
【0050】
ただし、この場合でも、ハンマー等で杭本体10の上端面を打ち付けた際に、杭本体10の突出部12が変形するおそれがある。突出部12が変形すると、キャップ20が突出部12に嵌らなくなるおそれがある。このため、本実施形態では、図7(a)に示すように、突出部12に突出部保護部材30を被せた状態で、杭本体10を打ち込むようにしている。突出部保護部材30は、ゴム等の緩衝性を有する素材や、金属等の耐衝撃性を有する素材で形成することができる。
【0051】
本実施形態では、既に述べたように、杭本体10を非難燃性プラスチックで形成しているところ、杭本体10の埋込部11が、地面から露出していると、火事の際に、その部分が燃えてしまうおそれがある。このため、図7(b)に示すように、埋込部11が完全に地中に埋まるまで、杭本体10の打ち込みを行うことが好ましい。埋込部11が完全に地中に埋まると、突出部保護部材30を取り外す。続いて、図7(c)に示すように、突出部12にキャップ20を装着する。
【0052】
ただし、杭本体10及びキャップ20の熱膨張率の違いから、時期によっては、キャップ20が突出部12に嵌め込みにくくなることがある。キャップ20を手で嵌め込むことが難しい場合、ハンマー等でキャップ20を叩いて嵌め込むことになるところ、この際には、キャップ20が破損するおそれがある。このため、ハンマーを使用してキャップ20を嵌め込む場合には、キャップ20にキャップ保護部材を被せることもできる。キャップ保護部材は、突出部保護部材30と同様の素材で形成することができる。
【0053】
4. 標示杭の用途
本実施形態の標示杭1は、様々な用途で利用可能である。例えば、土地の境界や基準点を示す杭として利用することができる。特に、山林等に施工する杭として好適に利用することができる。その他、観光地等に設置される案内用の杭等としても利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 標示杭
10 杭本体
11 埋込部
12 突出部
20 キャップ
21 凹部
23 補強部材
24 ネジ挿通孔
30 保護部材
突出部の幅
凹部の幅
α 空気流路

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7