(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080162
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】不純物導入方法及び不純物導入装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/22 20060101AFI20240606BHJP
H01L 21/225 20060101ALI20240606BHJP
H01L 29/861 20060101ALI20240606BHJP
H01L 21/329 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
H01L21/22 E
H01L21/225 Q
H01L21/225 R
H01L29/91 F
H01L29/91 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193107
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】594158150
【氏名又は名称】学校法人君が淵学園
(74)【代理人】
【識別番号】100187322
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 直輝
(72)【発明者】
【氏名】池田 晃裕
(57)【要約】
【課題】SiCのように不純物元素の熱拡散係数の非常に小さい半導体素材において、不純物元素を深い位置に導入可能な不純物導入方法及び導入装置を提供することを目的とする。
【解決手段】n型半導体素材である被導入層の表面に、酸化されたアルミニウムを含む不純物源膜を形成する第1の工程と、第1のパルスレーザ光を前記不純物源膜に向けて照射することにより、前記被導入層の内部に前記アルミニウムを導入してp型の不純物導入層を形成する第2の工程と、を含む不純物導入方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型半導体素材である被導入層の表面に、酸化されたアルミニウムを含む不純物源膜を形成する第1の工程と、
第1のパルスレーザ光を前記不純物源膜に向けて照射することにより、前記被導入層の内部に前記アルミニウムを導入してp型の不純物導入層を形成する第2の工程と、
を含む不純物導入方法。
【請求項2】
前記第1のパルスレーザ光の波長は、9.2μm~10.8μmであることを特徴とする請求項1に記載の不純物導入方法。
【請求項3】
前記第1のパルスレーザ光のエネルギー密度は、50J/cm2以上124J/cm2以下であることを特徴とする請求項1に記載の不純物導入方法。
【請求項4】
前記不純物源膜の厚さは、1.2μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の不純物導入方法。
【請求項5】
前記第1のパルスレーザ光のパルス幅は、励起媒質ガスに含まれる炭酸ガス、窒素、ヘリウムの比率に応じて決定される請求項1に記載の不純物導入方法。
【請求項6】
前記第1のパルスレーザ光のパルス幅は、100ns以上50μs以下であることを特徴とする請求項1に記載の不純物導入方法。
【請求項7】
前記被導入層は、炭化ケイ素半導体であることを特徴とする請求項1に記載の不純物導入方法。
【請求項8】
パルスレーザ光を出力する光源を有し、前記パルスレーザ光をn型半導体素材である被導入層に照射する制御部を備える不純物導入装置において、
前記n型半導体素材の表面に、酸化されたアルミニウムを含む不純物源膜を形成し、前記パルスレーザ光を前記不純物源膜に対して照射することで、前記被導入層の内部に前記アルミニウムを導入してp型の不純物導入層を形成することを特徴とする不純物導入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、不純物元素の拡散係数が小さい半導体素材に対して、不純物を導入する方法及び不純物導入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
SiC(炭化ケイ素)は、Si(ケイ素)よりも約10倍の絶縁破壊電界強度を有するため、ドリフト層の厚さを薄くすることができ、かつドリフト層の不純物濃度を高く設計することができる。このためSiCは、シリコンパワーデバイスに比べて小型化、低消費電力化を実現することが可能となるため、次世代のパワーデバイスとして期待されている。
一方でSiC中においては、不純物元素の熱拡散係数がSiに比べて非常に小さいため、デバイス製造の高コスト化が課題となっている。
【0003】
パワーデバイスにおいては、局所的に不純物を導入してpn接合を形成する必要がある。SiCパワーデバイスの不純物導入方法の1つであるイオン注入は、1回の導入では所望の不純物導入プロファイルを得ることはできず、導入の加速度やドーズ量を変えて4、5回の導入と、イオン注入後には1700度程度での導入不純物の活性化熱処理が必要となる。このためSiCパワーデバイスは、不純物導入プロセスが非常に長く不純物導入に要する時間も複数日必要となり、製造にかかるコストの増加を引き起こしている。
【0004】
これに対し、特許文献1、特許文献2に示すようにn型のSiC基板の表面に不純物としてアルミニウムを成膜して、このアルミニウム膜にエキシマレーザを照射することでSiC内部にp型の不純物導入層を形成する方法が提案されている。特許文献2では、KrFエキシマレーザを用いて短時間でSiC基板表面から100nm程度の深さにアルミニウムを導入できることが記載されている。しかしSiCを用いてパワーデバイスを構成する場合、不純物をより深く導入することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-264468号公報
【特許文献2】特開2016-157911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、SiCのように不純物元素の熱拡散係数の非常に小さい半導体素材において、不純物元素を深い位置に導入可能な不純物導入方法及び導入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の実施形態に係る不純物導入方法は、n型半導体素材である被導入層の表面に、酸化されたアルミニウムを含む不純物源膜を形成する第1の工程と、
第1のパルスレーザ光を前記不純物源膜に向けて照射することにより、前記被導入層の内部に前記アルミニウムを導入してp型の不純物導入層を形成する第2の工程と、
を含む不純物導入方法である。
【発明の効果】
【0008】
SiCのように不純物元素の熱拡散係数の非常に小さい半導体素材において、不純物元素を深い位置に導入可能な不純物導入方法及び導入装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法を用いた不純物導入装置の全体構成の一例を示す図である。
【
図2】本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法のステップ1における工程断面図の一例を示す図である。
【
図3】本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法のステップ2における工程断面図の一例を示す図である。
【
図4】本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法のステップ3における工程断面図の一例を示す図である。
【
図5】本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法のステップ4における工程断面図の一例を示す図である。
【
図6】本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法のステップ5における工程断面図の一例を示す図である。
【
図7】本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法を用いて不純物を導入した時の導入された不純物濃度の濃度分布と深さの関係を示す概略図である。
【
図8】本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法を用いて不純物の導入試験を行った結果を示す概略図である。
【
図9】本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法を用いて生成した不純物導入層のコンタクト特性を測定した測定系の概略図である。
【
図10】本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法を用いて生成した不純物導入層のコンタクト特性を測定した結果を示す概略図である。
【
図11】本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法を用いて生成した支持層の下面上の生成したオーミックコンタクト電極のコンタクト特性を測定した測定系の概略図である。
【
図12】本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法を用いて生成したオーミックコンタクト電極のコンタクト特性を測定した結果を示す概略図である。
【
図13】本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法を用いて生成したSiC半導体装置のダイオード特性を測定した測定系の概略図である。
【
図14】本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法を用いて生成したSiC半導体装置のダイオード特性を測定した結果を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に係る不純物導入方法及び不純物導入装置の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0011】
(本発明の第1の実施形態)
図1は、本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法を用いた不純物導入装置21の全体構成の一例を示す図である。
【0012】
不純物導入装置21は、導入する不純物元素を含む不純物を上面に堆積した状態の半導体素材を被照射物とし、被照射物の上方向からパルスレーザ光6を照射して不純物元素を半導体素材内に導入する装置である。被照射物の半導体素材は、一例としてSiC半導体素材20とする。
【0013】
不純物導入装置21は、パルスレーザ発振器1、ミラー2、集光手段3、SiC半導体素材20を載置するサンプルステージ4、パルスレーザ発振器1及びサンプルステージ4を制御する制御手段5を含む。
【0014】
パルスレーザ発振器1は、炭酸ガス、窒素、ヘリウムを主成分とする励起媒質ガスを励起してパルスレーザ光6を出力する炭酸ガスレーザ(波長=9.2μm~10.8μm)であり、励起媒質ガスの炭酸ガス、窒素、ヘリウムの混合比を変えて使用することが可能である。励起媒質ガスは、ガスボンベ40から供給される。
【0015】
パルスレーザ発振器1は、混合比を変えることで、出力するパルスレーザ光6のパルス幅を変えることができる。これにより不純物導入装置21は、被照射物であるSiC半導体素材20にパルスレーザ光6を照射する照射時間を変えることができる。
【0016】
パルスレーザ発振器1の動作は、制御手段5からの制御信号により制御される。不純物導入装置21は、パルスレーザ発振器1を備えているが、パルスレーザ発振器1の代わりに連続波発振が可能で照射時間を調整可能な炭酸ガスレーザの連続波発振器を備え、パルスレーザ光6のパルス幅を変えることに対応して、連続波の照射時間を変えるようにしてもよい。
【0017】
ミラー2は、パルスレーザ発振器1から出力されるパルスレーザ光6の光路に配置され、パルスレーザ光6を高い反射率で反射する。
【0018】
集光手段3は、ミラー2とサンプルステージ4との間に配置され、パルスレーザ発振器1から出力されるパルスレーザ光6を、サンプルステージ4に載置されたSiC半導体素材20の上に堆積する不純物源膜9に集光させる集光レンズである。
【0019】
サンプルステージ4は、パルスレーザ光6の被照射物であるSiC半導体素材20を支持する。サンプルステージ4は、X方向、Y方向、Z方向に駆動可能であり、SiC半導体素材20に導入する不純物を堆積した位置に集光手段3の光軸を合致させるように、制御手段5からの制御信号により位置合わせを行う。
【0020】
なおミラー2、集光手段3は、制御手段5からの制御信号によりSiC半導体素材20に導入する不純物を堆積した位置に集光手段3の光軸を合致させるように駆動可能であってもよい。
【0021】
制御手段5は、パルスレーザ発振器1の動作を制御するとともに、パルスレーザ発振器1から出力されるパルスレーザ光6が、サンプルステージ4に載置された被照射物であるSiC半導体素材20を適切に照射するようにサンプルステージ4の位置を制御する。
【0022】
次に本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法を用いて、SiC半導体装置22を製造する製造工程について説明する。
【0023】
本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法は、
図6に示すようなpnダイオードのSiC半導体装置22を製造するために用いることができる。
図6に示すSiC半導体装置22は、高濃度のSiC基板であるn型(n+型)の支持層7、支持層7の上面上に位置する低濃度のn型(n‐型)の被導入層8及び被導入層8の上面から一定の深さまで高濃度のp型(p+型)の不純物導入層11が設けられている。
本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法を用いて、
図6に示すSiC半導体装置22を製造する工程を以下に説明する。
【0024】
(ステップ1)
ステップ1は、n+型の支持層7とn-型の被導入層8とを備えるSiC半導体素材20を用意するステップである。
図2は、本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法のステップ1における工程断面図の一例を示す図である。
図6に示すSiC半導体装置22を製造するために、
図2に示すようにn+型の支持層7と、例えばエピキャピタル成長等により支持層7の上面に積層されている被導入層8とから構成されるSiC半導体素材20を用意する。
【0025】
(ステップ2)
ステップ2は、支持層7の下面に導電膜(金属膜)を成膜し、オーミックコンタクト電極12を生成する工程である。
図3は、本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法のステップ2における工程断面図の一例を示す図である。
【0026】
支持層7の下面上に、スパッタリング法によりニッケルからなる導電膜を成膜する。成膜後、支持層7との間でシリサイド化を促進するためにSiC半導体素材20に約900度の真空アニールを6分程度実施することで、支持層7との間でオーミックコンタクトを有するオーミックコンタクト電極12を形成する。
【0027】
(ステップ3)
ステップ3は、被導入層8の表面上に不純物源膜9を堆積するステップである。
図4は、本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法のステップ3における工程断面図の一例を示す図である。
【0028】
不純物源膜9は、被導入層8に導入する不純物元素を不純物として含む膜であり、本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法における不純物元素はアルミニウム(Al)とする。さらに不純物源膜9は、パルスレーザ光6が照射される面を持つ層が酸化アルミニウムで構成されていることが望ましい。アルミニウムは、炭酸ガスレーザのパルスレーザ光をほぼ反射するのに対して、酸化アルミニウムは炭酸ガスレーザのパルスレーザ光を吸収する。このため不純物源膜9は、パルスレーザ光6のエネルギーを吸収しアブレーションを起こす層として酸化アルミニウムの層を持つ。
【0029】
図4(a)は、酸化アルミニウムを含むコロイド水溶液をスピンコート法により被導入層8の表面に成膜し、成膜後に焼結して1.2μmほどの酸化アルミニウムの厚さに堆積して不純物源膜9を生成した様子の一例を示している。
なお、不純物源膜9は、アルミニウムを被導入層8の表面に堆積したあとに熱酸化処理でその一部あるいは全部を酸化アルミニウムに変化させて生成してもよい。
【0030】
図4(b)は、不純物源膜9が、熱酸化処理によりアルミニウムの不純物源膜9の上面から一定の深さまでが酸化被膜(酸化アルミニウム)9-1に変化し、その下の層が酸化していないアルミニウムの不純物源9-2である例を示す図である。
【0031】
以上のように不純物源膜9は、
図4(a)の例に示すように酸化アルミニウムだけから構成されていてもよい、あるいは
図4(b)の例に示すように2層で構成され、パルスレーザ光6が照射される面を持つ上層が酸化アルミニウムで構成され、被導入層8と接する面を持つ下層がアルミニウムで構成されていてもよい。
【0032】
(ステップ4)
ステップ4は、不純物にパルスレーザ光6を照射して、被導入層8に不純物を導入するステップである。
図5は、本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法のステップ4における工程断面図の一例を示す図である。室温の大気雰囲気中に設置した不純物導入装置21のサンプルステージ4に不純物源膜9を堆積したSiC半導体素材20を載置し、不純物元素であるアルミニウムを導入させる所定領域10にパルスレーザ光6の光軸が一致するようにサンプルステージ4を所定量移動させ、パルスレーザ光6を所定領域10の上方向から照射する。
【0033】
図5(a)は、パルスレーザ発振器1から出力されたパルスレーザ光6が、不純物源膜9の所定領域10に対して上方向から照射されている状態を示す図である。
【0034】
パルスレーザ発振器1から出力されたパルスレーザ光6は、不純物源膜9を介して被導入層8の格子振動に十分なエネルギーを与える大きなエネルギー密度であることが望ましい。パルスレーザ発振器1から出力されたパルスレーザ光6のエネルギー密度Fは、50J/cm2以上124J/cm2以下で照射されることが望ましい。
【0035】
またパルスレーザ発振器1から出力されたパルスレーザ光6のパルス幅は、100ns以上50μs以下の範囲で設定されることが望ましい。パルス幅が100ns未満の場合は、導入に必要な十分なエネルギーが供給されない。またパルス幅が50μsを超える場合は、被導入層8の破損の度合いが大きくなる。またパルスレーザ光6の照射回数は、不純物源膜9の厚さdを考慮して1から数ショットが望ましい。
【0036】
図5(b)は、パルスレーザ光6を所定領域10に照射した結果、不純物源膜9の所定領域10にアブレーションによるプルーム9-3が生じている状態を示す図である。不純物源膜9は、パルスレーザ光6が照射された所定領域10の周辺に酸化アルミニウムが飛散するとともに、照射領域及びその周辺はパルスレーザ光6の高エネルギーにより溶融流動した領域となる。これにより不純物源膜9の不純物元素であるアルミニウム(Al)は被導入層8に注入されかつ拡散するとともに活性化される。
【0037】
図5(c)は、パルスレーザ光6を所定領域10に照射した結果、被導入層8に不純物導入層11が形成された状態を示す図である。被導入層8の不純物源膜9と接する面側にアルミニウム(Al)が導入されたp+型の不純物導入層11が形成される。すなわち本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法により、アルミニウム(Al)を不純物源としてSiC半導体装置22への導入が行われた。
【0038】
図5(c)に示すように、パルスレーザ光6が照射された所定領域10は、不純物源膜9の膜厚が減じられることで、照射領域である所定領域10と非照射領域との境の近傍領域9-4-1は傾斜を成している。パルスレーザ光6が照射されている領域は局所的なため、パルスレーザ光6の照射による加熱も局所的であり、被導入層8のSiC半導体素材20に対して熱によるダメージを少なくすることができる。
(ステップ5)
ステップ5は、不純物源膜9の残渣9-4を被導入層8の表面から除去するステップである。
図6は、本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法のステップ5における工程断面図の一例を示す図である。
【0039】
被導入層8の表面からの残渣9-4の除去は、例えばアセトンで残渣9-4の表面の有機物を除去し、次にフッ化水素水溶液に接触させて残留している酸化アルミニウムを除去してもよい。被導入層8の表面からの残渣9-4を除去することで、pnダイオードのSiC半導体装置22が製造される。
【0040】
以上本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法を用いたステップ1からステップ5の工程により、SiC半導体素材20の被導入層8の上面から深い位置までp型不純物を高濃度に導入することが可能となり、p型不純物が高濃度に導入された不純物導入層11を備えたpnダイオードを効率よく製造することができる。
【0041】
ここで本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法によるp型不純物の導入状態を検証するため、パルスレーザ光の光源としてKrFエキシマレーザ(波長=248nm)を用いて不純物としてアルミニウム(Al)を導入した場合との比較を行う。
【0042】
図7は、本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法による、SiC半導体素材20の厚み方向における不純物濃度の濃度分布を示す概略図である。一方の縦軸(左側)は、導入されたアルミニウムの濃度(/cm3)を示し、他方の縦軸(右側)は、Si及びCのイオン強度(intensity)を示している。また横軸は、被導入層8の上面からの深さ(μm)を示している。
検証に用いた本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法は、不純物源膜9の酸化アルミニウムの層の厚さdは、導入効率を考慮して経験則的に最大1.2μm、パルス幅は30μs、エネルギー密度Fは82J/cm2とした。
【0043】
図中の実線で示されるAl-(1)のグラフは、不純物元素であるアルミニウムを被導入層8に導入する方法として本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法を用いた場合、図中の点線で示されるAl-(2)のグラフは、比較対象としてパルスレーザ光としてKrFエキシマレーザを用い、支持層7、被導入層8、所定領域10は、本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法と同一にし、酸化アルミニウムを含まずアルミニウム(Al)のみから構成されている不純物源膜9にKrFエキシマレーザのパルスレーザ光を照射して不純物導入を行った場合、の各々における被導入層8に導入された不純物元素であるアルミニウムの濃度分布を示している。
【0044】
図7に示すように、本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法を用いると、被導入層8の上面から深さ1.8μm近傍まで、不純物元素であるアルミニウムを導入することができる。一方パルスレーザ光としてKrFエキシマレーザを用いた場合の不純物導入方法を用いると、被導入層8の上面から深さ200nm程度までしか不純物元素であるアルミニウムを導入することができない。
【0045】
以上のように本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法を用いた場合は、パルスレーザ光としてKrFエキシマレーザを用いた場合に比べ、不純物元素であるアルミニウム(Al)の導入の深さは、格段に深くなっていることが分かる。
【0046】
また
図7に示すように、Si、Cの組成比が、不純物元素であるアルミニウムが導入された深さ1.8μm近傍までの領域とそれより深い領域とで変化がない。これは、アルミニウムが高濃度に導入された被導入層8のSiCの結晶に、顕著なダメージがないことを示唆している。このように本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法を用いた場合、パルスレーザ光6を照射による加熱があっても、被導入層8のSiC半導体素材20に対するダメージを少なくすることができる。
【0047】
図8は、本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法を用いて不純物の導入試験を行った結果を示す概略図と表である。
【0048】
図8(a)は、本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法を用いて不純物元素であるアルミニウム(Al)の導入試験を行った結果の、残留する不純物源膜9を除去する前の状態を示す画像である。
【0049】
図8(a)に示す円形部分が境の近傍領域9-4-1であり、
図5(c)に示すように、パルスレーザ光6が照射される照射領域と照射されない非照射領域との境の近傍領域となり、不純物導入層11の外縁となる。
【0050】
図8(b)は、本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法を用いて不純物元素であるアルミニウム(Al)の導入試験を行った結果の、エネルギー密度Fと不純物の導入結果の関係を示している。
【0051】
所定のエネルギー密度のパルスレーザ光6を照射した結果の各サンプルの画像を確認し、不純物が適切に導入されたエネルギー密度Fの範囲を特定した。実験の結果、パルスレーザ発振器1が出力するパルスレーザ光6のエネルギー密度Fは、F=50J/cm2以上124J/cm2以下であることが望ましい。
【0052】
以上のように、本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法を、パルスレーザ光6が照射するエネルギー密度F=50J/cm2以上124J/cm2以下で照射することで、被導入層8の上面から深さ1.8μm近傍まで不純物元素であるアルミニウムを導入することができ、また被導入層8に対して顕著なダメージを与えることなく不純物元素であるアルミニウムを導入することができる。
【0053】
不純物導入層11のコンタクト特性を確認するために、オーミックコンタクト性を持つタングステンプローブ30を用いて、タングステンプローブ30のI-V特性を測定した。
【0054】
図9は、本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法により生成した不純物導入層11のコンタクト特性を測定した測定系の概略図である。
図9に示すように、一対のタングステンプローブ30を不純物導入層11に接触させて測定した。
【0055】
図10は、本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法により生成した不純物導入層11のコンタクト特性を測定した結果を示す概略図である。縦軸は、プローブを流れる電流を示し、横軸は電圧を示している。
図10に示すように、I-V特性は直線になっており、不純物導入層11はオーミックコンタクトを構成していることがわかる。
【0056】
またオーミックコンタクト電極12のコンタクト特性を確認するために、オーミックコンタクト電極12に電圧を印加した際の流れる電流を測定することで、支持層7とオーミックコンタクト電極12との間のI-V特性を測定した。
【0057】
図11は、本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法により生成した支持層7の下面上に生成した一対のオーミックコンタクト電極12のコンタクト特性を測定した測定系の概略図である。
図11に示すように、オーミックコンタクト電極12に電圧を印加して測定した。
【0058】
図12は、本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法により生成したオーミックコンタクト電極12のコンタクト特性を測定した結果を示す概略図である。縦軸は印加回路を流れる電流を示し、横軸は電圧を示している。
図12に示すように、I-V特性は直線になっており、オーミックコンタクト電極12と支持層7とはオーミックコンタクトを構成していることがわかる。
【0059】
またSiC半導体装置22のダイオード特性を確認するために、オーミックコンタクト性を持つタングステンプローブ30を用いてタングステンプローブ30のI-V特性を測定した。
【0060】
図13は、本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法を用いて生成したSiC半導体装置22のダイオード特性を測定した測定系の概略図である。
図13に示すように、タングステンプローブ30を不純物導入層11に接触させて測定した。
【0061】
図14は、本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法を用いて生成したSiC半導体装置22のダイオード特性を測定した結果を示す概略図である。縦軸はプローブを流れる電流を示し、横軸は電圧を示している。図中の1shots、3shotsは、ステップ4においてパルスレーザ光6を所定領域10に照射した回数を示している。
【0062】
図10に示したように不純物導入層11はオーミックコンタクト特性になっており、また
図12に示したように支持層7とオーミックコンタクト電極12とはオーミックコンタクトになっている。したがって、
図14に示す整流特性は、本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法により導入したアルミニウムによるpn接合によるものと思われ、pn接合ダイオードのオンオフ比は、9桁程度の整流特性であり1から数ショットのパルスレーザ光6の照射で十分なpn接合が形成されていることが確認できた。
以上のように本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法によれば、被導入層8の表面から1.8μm程度の深さまでアルミニウム(Al)を1×10^15/cm3程度以上導入することができ、従来のKrFエキシマレーザを用いた不純物導入方法に比べて不純物を導入できる深さが大幅に上回り、またパルスレーザ光6の照射による被導入層へのダメージを少なくすることができる。
また本開示の第1の実施形態に係る不純物導入方法は、室温の大気雰囲気中で、パルスレーザ光6のエネルギー密度Fを高エネルギー状態で照射することにより、パルスレーザ光6が照射される不純物源膜9の領域を一気に活性化させることができるため不純物導入に要する時間が削減でき、従来のイオン注入方法のように高温加熱装置を使用する必要もなく、また注入プロセス長くなく、不純物導入にかかるコストを大幅に低減することができる。
【0063】
本開示のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0064】
1:パルスレーザ発振器
2:ミラー
3:集光手段
4:サンプルステージ
5:制御手段
6:パルスレーザ光
7:支持層
8:被導入層
9:不純物源膜
9-1:酸化被膜
9-2:酸化してない不純物源
9-3:プルーム
9-4:残渣
9-4-1:境の近傍領域
10:所定領域
11:不純物導入層
12:オーミックコンタクト電極
20:SiC半導体素材
21:不純物導入装置
22:SiC半導体装置
30:タングステンプローブ
40:ガスボンベ