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特開2024-80169タイヤ状態推定装置及びタイヤ状態推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080169
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】タイヤ状態推定装置及びタイヤ状態推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/02 20060101AFI20240606BHJP
   B60C 7/00 20060101ALI20240606BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C7/00 H
B60C19/00 Z
B60C19/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193124
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西田 成志
(72)【発明者】
【氏名】若尾 泰通
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BB19
3D131CC03
3D131LA05
3D131LA06
3D131LA34
(57)【要約】
【課題】非空気入りタイヤの交換時期の予測に寄与することができるタイヤ状態推定装置及びタイヤ状態推定プログラムを得る。
【解決手段】タイヤ状態推定装置10は、スポーク部に磁性体が設けられた非空気入りタイヤの転動時において、上記磁性体による磁界の変化を示す時系列信号を取得する取得部11Aと、上記時系列信号を入力情報とし、非空気入りタイヤの劣化状態、非空気入りタイヤに対する荷重、及び非空気入りタイヤの転動速度の少なくとも1つを出力情報として機械学習されたタイヤ状態推定モデルに対して、取得部11Aによって取得された時系列信号を入力することで、上記少なくとも1つのタイヤ状態情報を推定する推定部11Bと、を備える。
【選択図】図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スポーク部に磁性体が設けられた非空気入りタイヤの転動時において、前記磁性体による磁界の変化を示す時系列信号を取得する取得部と、
前記時系列信号を入力情報とし、前記非空気入りタイヤの劣化状態、前記非空気入りタイヤに対する荷重、及び前記非空気入りタイヤの転動速度の少なくとも1つを出力情報として機械学習されたタイヤ状態推定モデルに対して、前記取得部によって取得された時系列信号を入力することで、前記少なくとも1つのタイヤ状態情報を推定する推定部と、
を備えたタイヤ状態推定装置。
【請求項2】
前記タイヤ状態推定モデルは、回帰型ニューラルネットワークによるモデルである、
請求項1に記載のタイヤ状態推定装置。
【請求項3】
前記回帰型ニューラルネットワークによるモデルは、リザバーコンピューティングによるモデルである、
請求項2に記載のタイヤ状態推定装置。
【請求項4】
前記非空気入りタイヤは車両に設けられ、
前記取得部は、前記車両における、前記磁性体による磁界の変化を検出可能な位置に設けられた磁気センサから前記時系列信号を取得する、
請求項1に記載のタイヤ状態推定装置。
【請求項5】
前記磁性体は、前記非空気入りタイヤの反セリアル側に設けられている、
請求項4に記載のタイヤ状態推定装置。
【請求項6】
前記磁気センサは、前記非空気入りタイヤの接地位置から、前記磁界の変化を検出可能な距離として予め定められた距離以内に設けられている、
請求項4又は請求項5に記載のタイヤ状態推定装置。
【請求項7】
前記磁性体は、ネオジム磁石である、
請求項1に記載のタイヤ状態推定装置。
【請求項8】
スポーク部に磁性体が設けられた非空気入りタイヤの転動時において、前記磁性体による磁界の変化を示す時系列信号を取得し、
前記時系列信号を入力情報とし、前記非空気入りタイヤの劣化状態、前記非空気入りタイヤに対する荷重、及び前記非空気入りタイヤの転動速度の少なくとも1つを出力情報として機械学習されたタイヤ状態推定モデルに対して、取得した時系列信号を入力することで、前記少なくとも1つのタイヤ状態情報を推定する、
処理をコンピュータに実行させるためのタイヤ状態推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タイヤ状態推定装置及びタイヤ状態推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
非空気入りタイヤにおいては、劣化や荷重等といったタイヤの状態を検知することは難しく、当該状態に応じたタイヤの交換時期を予測することは容易ではない。なお、非空気入りタイヤは、ノーパンクタイヤ等と呼ばれることもある。
【0003】
従来、傷、破損、若しくは劣化などのトラブルを、使用者などが気付きやすくするための非空気入りタイヤとして、特許文献1に開示されている非空気入りタイヤがあった。
【0004】
この非空気入りタイヤは、車軸に取り付けられる内筒、前記内筒をタイヤ径方向の外側から囲う外筒、および前記内筒と前記外筒とを互いに連結する弾性変形可能な連結部材を備えた非空気入りタイヤにおいて、この非空気入りタイヤに傷、破損、若しくは劣化が発生したことを検知する検知手段、並びに、この非空気入りタイヤに傷、破損、若しくは劣化が発生したことを報知する報知手段、の少なくとも一方を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-83458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されている技術では、非空気入りタイヤの不具合を、タイヤの外筒に埋設された金属線に流れる微弱な電流の電流値の変化を用いて検知している。このため、金属線が設けられていない部分に関する不具合については検知することができないため、必ずしも非空気入りタイヤの交換時期の予測に寄与することができるとは限らない、という問題点があった。
【0007】
本開示は、以上の事情に鑑みて成されたものであり、非空気入りタイヤの交換時期の予測に寄与することができるタイヤ状態推定装置及びタイヤ状態推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1態様に係るタイヤ状態推定装置は、スポーク部に磁性体が設けられた非空気入りタイヤの転動時において、前記磁性体による磁界の変化を示す時系列信号を取得する取得部と、前記時系列信号を入力情報とし、前記非空気入りタイヤの劣化状態、前記非空気入りタイヤに対する荷重、及び前記非空気入りタイヤの転動速度の少なくとも1つを出力情報として機械学習されたタイヤ状態推定モデルに対して、前記取得部によって取得された時系列信号を入力することで、前記少なくとも1つのタイヤ状態情報を推定する推定部と、を備えている。
【0009】
第1態様に係るタイヤ状態推定装置によれば、スポーク部に磁性体が設けられた非空気入りタイヤの転動時において、当該磁性体による磁界の変化を示す時系列信号を取得し、当該時系列信号を入力情報とし、非空気入りタイヤの劣化状態、非空気入りタイヤに対する荷重、及び非空気入りタイヤの転動速度の少なくとも1つを出力情報として機械学習されたタイヤ状態推定モデルに対して、取得した時系列信号を入力することで、上記少なくとも1つのタイヤ状態情報を推定することで、非空気入りタイヤにおける不具合の推定ができない部分をなくすることができる結果、非空気入りタイヤの交換時期の予測に寄与することができる。
【0010】
第2態様に係るタイヤ状態推定装置は、第1態様に係るタイヤ状態推定装置であって、前記タイヤ状態推定モデルが、回帰型ニューラルネットワークによるモデルであるものである。
【0011】
第2態様に係るタイヤ状態推定装置によれば、タイヤ状態推定モデルを回帰型ニューラルネットワークによるモデルとすることで、時系列信号を、より効果的に利用して、タイヤ状態情報を推定することができる。
【0012】
第3態様に係るタイヤ状態推定装置は、第2態様に係るタイヤ状態推定装置であって、前記回帰型ニューラルネットワークによるモデルが、リザバーコンピューティングによるモデルであるものである。
【0013】
第3態様に係るタイヤ状態推定装置によれば、回帰型ニューラルネットワークによるモデルを、時系列の情報が溜め池に蓄積されて反響するようなネットワークであるリザバーコンピューティングによるモデルとすることで、時系列で変化する転動時のタイヤの内部状態を高い精度で再現することができる結果、時系列信号を、より効果的に利用して、タイヤ状態情報を推定することができる。
【0014】
第4態様に係るタイヤ状態推定装置は、第1態様から第3態様の何れか1態様に係るタイヤ状態推定装置であって、前記非空気入りタイヤが車両に設けられ、前記取得部が、前記車両における、前記磁性体による磁界の変化を検出可能な位置に設けられた磁気センサから前記時系列信号を取得するものである。
【0015】
第4態様に係るタイヤ状態推定装置によれば、非空気入りタイヤが車両に設けられ、当該車両における、磁性体による磁界の変化を検出可能な位置に設けられた磁気センサから時系列信号を取得することで、車両に搭載された非空気入りタイヤについて、当該タイヤの交換時期の予測に寄与することができる。
【0016】
第5態様に係るタイヤ状態推定装置は、第4態様に係るタイヤ状態推定装置であって、前記磁性体が、前記非空気入りタイヤの反セリアル側に設けられているものである。
【0017】
第5態様に係るタイヤ状態推定装置によれば、磁性体を非空気入りタイヤの反セリアル側に設けることで、磁性体の損傷を抑制することができる結果、より長期間、タイヤ状態情報を推定することができる。
【0018】
第6態様に係るタイヤ状態推定装置は、第4態様又は第5態様に係るタイヤ状態推定装置であって、前記磁気センサが、前記非空気入りタイヤの接地位置から、前記磁界の変化を検出可能な距離として予め定められた距離以内に設けられているものである。
【0019】
第6態様に係るタイヤ状態推定装置によれば、磁気センサを非空気入りタイヤの接地位置から、上記磁界の変化を検出可能な距離として予め定められた距離以内に設けることで、非空気入りタイヤの変形を捉えやすくすることができる結果、より高精度に、タイヤ状態情報を推定することができる。
【0020】
第7態様に係るタイヤ状態推定装置は、第1態様から第6態様の何れか1態様に係るタイヤ状態推定装置であって、前記磁性体が、ネオジム磁石であるものである。
【0021】
第7態様に係るタイヤ状態推定装置によれば、磁性体をネオジム磁石とすることで、磁性体をネオジム磁石以外の磁石とする場合に比較して、より高精度に、タイヤ状態情報を推定することができる。
【0022】
上記目的を達成するために、第8態様に係るタイヤ状態推定プログラムは、スポーク部に磁性体が設けられた非空気入りタイヤの転動時において、前記磁性体による磁界の変化を示す時系列信号を取得し、前記時系列信号を入力情報とし、前記非空気入りタイヤの劣化状態、前記非空気入りタイヤに対する荷重、及び前記非空気入りタイヤの転動速度の少なくとも1つを出力情報として機械学習されたタイヤ状態推定モデルに対して、取得した時系列信号を入力することで、前記少なくとも1つのタイヤ状態情報を推定する、処理をコンピュータに実行させる。
【0023】
第8態様に係るタイヤ状態推定プログラムによれば、スポーク部に磁性体が設けられた非空気入りタイヤの転動時において、当該磁性体による磁界の変化を示す時系列信号を取得し、当該時系列信号を入力情報とし、非空気入りタイヤの劣化状態、非空気入りタイヤに対する荷重、及び非空気入りタイヤの転動速度の少なくとも1つを出力情報として機械学習されたタイヤ状態推定モデルに対して、取得した時系列信号を入力することで、上記少なくとも1つのタイヤ状態情報を推定することで、非空気入りタイヤにおける不具合の推定ができない部分をなくすることができる結果、非空気入りタイヤの交換時期の予測に寄与することができる。
【発明の効果】
【0024】
本開示によれば、非空気入りタイヤの交換時期の予測に寄与することができる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施形態に係るタイヤ状態推定システムのハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図2】実施形態に係るタイヤ状態推定処理の原理の説明に供する図であり、実施形態に係るフラットベルト試験機の一例を示す斜視図である。
図3】実施形態に係るフラットベルト試験機に対する磁気センサの設置位置の一例を示す斜視図である。
図4】実施形態に係るフラットベルト試験機に対する磁性体(ネオジム磁石)の設置位置の一例を示す斜視図である。
図5】実施形態に係るフラットベルト試験機に対する磁性体(ゴム磁石)の設置位置の一例を示す斜視図である。
図6】実施形態に係るフラットベルト試験機によって得られた、ネオジム磁石を用いた場合及びネオジム磁石を用いない場合における磁気センサにより得られた磁界の変化を示す時系列信号の一例を示すグラフである。
図7】実施形態に係るフラットベルト試験機によって得られた、ゴム磁石を用いた場合及びゴム磁石を用いない場合における磁気センサにより得られた磁界の変化を示す時系列信号の一例を示すグラフである。
図8】実施形態に係るフラットベルト試験機によって得られた、ネオジム磁石を用いた場合で、かつ、非空気入りタイヤに対する荷重を変化させた場合における磁気センサによって得られた磁界の変化を示す時系列信号の一例を示すグラフである。
図9】実施形態に係るリザバーコンピューティングによるモデルの一例を示す模式図である。
図10】実施形態に係る第1タイヤ状態推定モデルによって得られた、非空気入りタイヤの転動速度の推定結果の時系列データの一例を示すグラフである。
図11】実施形態に係る第2タイヤ状態推定モデルによって得られた、非空気入りタイヤに対する荷重の推定結果の時系列データの一例を示すグラフである。
図12】実施形態に係る第3タイヤ状態推定モデルによって得られた、非空気入りタイヤの劣化状態の推定結果の時系列データの一例を示すグラフである。
図13】実施形態に係るタイヤ状態推定装置の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
図14】実施形態に係るタイヤ状態推定モデルデータベースの構成の一例を示す模式図である。
図15】実施形態に係るタイヤ状態推定処理の一例を示すフローチャートである。
図16】実施形態に係るタイヤ状態提示画面の構成の一例を示す正面図である。
図17】実施形態に係るタイヤ状態警告画面の構成の一例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本開示の技術を実施するための形態例を詳細に説明する。なお、本実施形態では、本開示の技術を、タイヤ状態推定装置と、対象とする非空気入りタイヤが装着された複数の車両の各々に搭載された車両端末と、を含むタイヤ状態推定システムに適用した場合について説明する。
【0027】
まず、図1を参照して、本実施形態に係るタイヤ状態推定システム90の構成を説明する。図1は、本実施形態に係るタイヤ状態推定システム90のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0028】
図1に示すように、本実施形態に係るタイヤ状態推定システム90は、ネットワーク80に各々アクセス可能とされた、タイヤ状態推定装置10と、複数の車両端末50と、を含む。なお、タイヤ状態推定装置10の例としては、パーソナルコンピュータ及びサーバコンピュータ等の情報処理装置が挙げられる。また、車両端末50の例としては、スマートフォン、タブレット端末、PDA(Personal Digital Assistant、携帯情報端末)等の携帯型の端末が挙げられる。
【0029】
本実施形態に係るタイヤ状態推定装置10は、タイヤ状態推定システム90において中心的な役割を有する装置である。図1に示すように、タイヤ状態推定装置10は、CPU(Central Processing Unit)11、一時記憶領域としてのメモリ12、不揮発性の記憶部13、キーボードとマウス等の入力部14、液晶ディスプレイ等の表示部15、媒体読み書き装置(R/W)16、及び通信インタフェース(I/F)部18を備えている。CPU11、メモリ12、記憶部13、入力部14、表示部15、媒体読み書き装置16、及び通信I/F部18はバスBを介して互いに接続されている。媒体読み書き装置16は、記録媒体17に書き込まれている情報の読み出し及び記録媒体17への情報の書き込みを行う。
【0030】
記憶部13は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等によって実現される。記憶媒体としての記憶部13には、タイヤ状態推定プログラム13Aが記憶されている。タイヤ状態推定プログラム13Aは、当該プログラム13Aが書き込まれた記録媒体17が媒体読み書き装置16にセットされ、媒体読み書き装置16が記録媒体17からの上記プログラム13Aの読み出しを行うことで、記憶部13へ記憶(インストール)される。CPU11は、タイヤ状態推定プログラム13Aを記憶部13から読み出してメモリ12に展開し、タイヤ状態推定プログラム13Aが有するプロセスを順次実行する。これにより、詳細を後述するタイヤ状態推定処理を実行する。
【0031】
また、記憶部13には、タイヤ状態推定モデルデータベース13Bが記憶されている。タイヤ状態推定モデルデータベース13Bについては、詳細を後述する。
【0032】
ここで、図2図12を参照して、本実施形態に係るタイヤ状態推定装置10により実行されるタイヤ状態推定処理の原理について説明する。
【0033】
本開示の技術の開発者らは、図2に示すフラットベルト式タイヤ試験機(以下、「フラットベルト試験機」という。)70を用いて、磁性体がスポーク部に設けられた非空気入りタイヤ60に対する、当該非空気入りタイヤ60の転動時における当該磁性体による磁界の変化を示す時系列信号を計測する実験(以下、「時系列信号計測実験」という。)を行った。
【0034】
図3に示すように、この時系列信号計測実験において時系列信号を検出する磁気センサ72は、フラットベルト試験機70における回転軸70Aが突出された筐体部70Bの下端部近傍に設けている。これは、非空気入りタイヤ60の接地位置のできるだけ近くに磁気センサを設けることで、劣化や荷重の付加による非空気入りタイヤ60の変形(撓み)を、より多く反映した時系列信号を取得することを意図している。なお、ここで適用可能な磁気センサ72としては、一例として愛知製鋼株式会社製の磁気インピーダンス効果を利用した磁気センサであるType DH等、各種磁気センサを用いることができる。
【0035】
また、この時系列信号計測実験では、上記磁性体としてネオジム磁石を適用した場合と、一般的なゴム磁石を適用した場合の2種類の場合で実験を行った。
【0036】
ネオジム磁石が適用された磁性体62Aは、図4に示すように、非空気入りタイヤ60の回転軸と外周面との間のスポーク部60Aにおける、やや外周面寄りで、かつ、反セリアル側に設けている。また、ゴム磁石が適用された磁性体62Bも、図5に示すように、非空気入りタイヤ60の回転軸と外周面との間のスポーク部60Aにおける、やや外周面寄りで、かつ、反セリアル側に設けている。これらの磁性体を、非空気入りタイヤ60の回転軸と外周面との間のやや外周面寄りで、かつ、反セリアル側に設けているのは、以下の理由による。
【0037】
より詳細な信号を得るべく、時系列信号の振幅を大きくするためには、磁性体を非空気入りタイヤ60の外周面のできるだけ近傍に設けたい。しかしながら、非空気入りタイヤ60を実際に車両に装着して用いる場合を想定すると、磁性体を非空気入りタイヤ60の外周面との距離が近い位置に設けた場合、当該距離が短いほど磁性体が損傷する可能性が高くなる。また、磁性体を非空気入りタイヤ60のセリアル側ではなく、反セリアル側に設けている理由も同様の理由である。なお、以下では、磁性体62A及び磁性体62Bを特に区別なく説明する場合は、磁性体62と総称する。
【0038】
図6には、本実施形態に係るフラットベルト試験機70によって得られた、ネオジム磁石を用いた場合及びネオジム磁石を用いない場合における磁気センサ72により得られた磁界の変化を示す時系列信号の一例を示すグラフが示されている。なお、図6における実線は、非空気入りタイヤ60にネオジム磁石による磁性体62Aを設けた場合に得られた時系列信号を表し、破線は、非空気入りタイヤ60に当該磁性体62Aを設けない場合に得られた時系列信号を表す。
【0039】
図6に示すように、非空気入りタイヤ60に磁性体62Aを設けない場合は、主としてフラットベルト試験機70に設けられたスピンドルモータによる磁界の変化等の周囲の環境の変化による波形の変化が見られる。これに対し、非空気入りタイヤ60にネオジム磁石による磁性体62Aを設けた場合、磁性体62Aを設けない場合に比較して、特に波形の下端部付近に大きな違いが見られるため、時系列信号により、ネオジム磁石による影響を検知することが可能であることがわかる。
【0040】
これに対し、図7には、本実施形態に係るフラットベルト試験機70によって得られた、ゴム磁石を用いた場合及びゴム磁石を用いない場合における磁気センサ72により得られた磁界の変化を示す時系列信号の一例を示すグラフが示されている。なお、図7における実線は、非空気入りタイヤ60にゴム磁石による磁性体62Bを設けた場合に得られた時系列信号を表し、破線は、非空気入りタイヤ60に当該磁性体62Bを設けない場合に得られた時系列信号を表す。
【0041】
図7に示すように、非空気入りタイヤ60にゴム磁石による磁性体62Bを設けた場合、磁性体62Bを設けない場合に比較して、波形に変化は見られるものの、その変化量はネオジム磁石に比較して少ないものとなっている。
【0042】
以上のことから、磁性体62としてゴム磁石を用いる場合でも当該磁性体62による影響は検知することができるものの、磁性体62としてネオジム磁石を用いた方が、当該磁性体62による影響を、より高精度で検知することができることが判明した。
【0043】
一方、図8には、本実施形態に係るフラットベルト試験機70によって得られた、ネオジム磁石を用いた場合で、かつ、非空気入りタイヤに対する荷重を変化させた場合における磁気センサ72によって得られた磁界の変化を示す時系列信号の一例を示すグラフが示されている。なお、図8に示すものでは、高荷重(「High」)、中荷重(「Middle」)、及び低荷重(「Low」)の3段階で荷重を変化させた場合が示されている。
【0044】
図8に示すように、上記3段階の荷重について、全体的に相互にずれが見られ、時系列信号によって荷重の違いについても検知することが可能であることが判明した。
【0045】
即ち、非空気入りタイヤ60における各部が疲労してくると、物性値や形状が変化し、同じ荷重をかけてもスポーク部等の撓み量が変わってくる、より具体的には、疲労が進むにつれて撓み量が多くなることが判明している。そこで、本実施形態に係るタイヤ状態推定装置10では、この撓み量の変化から非空気入りタイヤ60の状態を推定する。
【0046】
本開示の技術の開発者らは、以上の実験結果のもとに、実際に非空気入りタイヤ60における転動速度、荷重、及び劣化の3種類の状態を推定するAI(Artificial Intelligence)によるモデル(以下、「タイヤ状態推定モデル」という。)を作成した。以下、本実施形態に係るタイヤ状態推定モデルについて説明する。
【0047】
本開示の技術の開発者らは、上記時系列信号を入力情報とし、非空気入りタイヤ60の転動速度を出力情報としたタイヤ状態推定モデル(以下、「第1タイヤ状態推定モデル」という。)と、上記時系列信号を入力情報とし、非空気入りタイヤ60に対する荷重を出力情報としたタイヤ状態推定モデル(以下、「第2タイヤ状態推定モデル」という。)と、上記時系列信号を入力情報とし、非空気入りタイヤ60の劣化状態を出力情報としたタイヤ状態推定モデル(以下、「第3タイヤ状態推定モデル」という。)と、の3種類のタイヤ状態推定モデルの機械学習を行った。
【0048】
なお、ここでは、タイヤ状態推定モデルとして、回帰型ニューラルネットワーク(RNN(Recurrent Neural Network))によるモデルに類するモデルである、一例として図9に模式的に示すリザバーコンピューティング(Reservoir Computing)によるモデル(本実施形態では、ESN(Echo State Network))を適用した。これは、リザバーコンピューティングによるモデルが、時系列の情報が溜め池に蓄積されて反響するようなネットワークであり、走行中の非空気入りタイヤの内部状態を再現するのに適しているためである。また、本実施形態では、活性化関数として非線形の関数であるtanh(ハイパボリックタンジェント)関数を適用し、ハイパーパラメータはグリッドサーチで決定した。ここで、活性化関数として非線形の関数であるtanh関数を適用したのは、非空気入りタイヤの内部状態を再現するのに適しているためである。但し、この形態に限るものではなく、例えば、活性化関数としてシグモイド関数を適用する形態としてもよいし、ハイパーパラメータをランダムサーチで決定する形態としてもよい。
【0049】
また、これらの3種類のタイヤ状態推定モデルの学習に用いた教師データは、フラットベルト試験機70によって得られたデータを適用した。この際、第3タイヤ状態推定モデルの出力情報である劣化状態の正解データとしては、新品の非空気入りタイヤ60については「-1」を適用し、劣化した非空気入りタイヤ60については「+1」を適用した。
【0050】
この結果、第1タイヤ状態推定モデルによる転動速度については良好な推定結果が得られたが、第2タイヤ状態推定モデルによる荷重の推定結果、及び第3タイヤ状態推定モデルによる劣化状態の推定結果は、やや不十分な結果となった。
【0051】
そこで、本開示の技術の開発者らは、第2タイヤ状態推定モデル及び第3タイヤ状態推定モデルについては、入力情報として、時系列信号に加えて、第1タイヤ状態推定モデルによって推定された転動速度も適用することとした。以下、本実施形態に係る第1タイヤ状態推定モデル、第2タイヤ状態推定モデル、及び第3タイヤ状態推定モデルを用いた各状態の推定結果の具体例について説明する。
【0052】
図10には、本実施形態に係る第1タイヤ状態推定モデルによって得られた、非空気入りタイヤの転動速度の推定結果の時系列データの一例を示すグラフが示されている。また、図11には、本実施形態に係る第2タイヤ状態推定モデルによって得られた、非空気入りタイヤに対する荷重の推定結果の時系列データの一例を示すグラフが示されている。更に、図12には、本実施形態に係る第3タイヤ状態推定モデルによって得られた、非空気入りタイヤの劣化状態の推定結果の時系列データの一例を示すグラフが示されている。
【0053】
なお、図10における実線は、第1タイヤ状態推定モデルによる推定結果を表し、破線は、フラットベルト試験機70による測定によって得られた転動速度を表す。また、図11における実線は、第2タイヤ状態推定モデルによる推定結果を表し、破線は、フラットベルト試験機70による測定によって得られた荷重を表す。また、図12における実線は、第3タイヤ状態推定モデルによる推定結果を表し、破線は、教師データにおける正解データを表し、太実線は劣化と非劣化との閾値を表す。更に、ここでは、時系列信号として、予め定められた時間毎に転動速度、荷重、及び劣化状態を大きく変化させたものを各々擬似的に作成(ここでは、異なるタイミングで得られた、対応する時系列信号を繋ぎ合わせることで作成)して適用した。本実施形態では、転動速度として、10kphから60kphまでの10kph刻みの6段階の速度を適用し、荷重として、上述した高荷重、中荷重、及び低荷重の3段階を適用し、劣化状態として、新品の状態(「-1」で表す。)及び劣化している状態(「+1」で表す。)の2段階の状態を適用している。
【0054】
図10に示すように、第1タイヤ状態推定モデルによる転動速度の推定結果は、実際に測定された転動速度に略一致した推移を示しており、極めて高い推定精度となっていることがわかる。
【0055】
一方、図11に示すように、第2タイヤ状態推定モデルによる荷重の推定結果は、実際に測定された荷重とは異なる推移を示しているものの、高荷重、中荷重、及び低荷重の3段階の何れであるかは判別可能となっていることがわかる。この場合の判別方法としては、例えば、第2タイヤ状態推定モデルからの出力情報を上記3種類の荷重に区分することができる閾値を予め導出し、第2タイヤ状態推定モデルの出力情報を当該閾値によって区分することで荷重を判別する方法を例示することができる。図11に示す例では、第2タイヤ状態推定モデルによる出力情報が想定外に大きな値や小さな値となる場合があるが、この場合は、このような出力情報は推定結果から除外するようにしてもよい。
【0056】
更に、図12に示すように、第3タイヤ状態推定モデルによる劣化状態の推定結果は、実際の劣化状態に極めてよく対応しており、閾値によって劣化の有無を高精度に判別することができることがわかる。
【0057】
なお、図10図12に示した例では、上述したように、時系列信号として、予め定められた時間毎に転動速度、荷重、及び劣化状態を大きく変化させたものを擬似的に作成して適用しているが、当該大きく変化したタイミングにおいても十分に正解データに追従している。このため、本実施形態に係るタイヤ状態推定モデルによれば、例えば、劣化状態が急に変化した場合や、非空気入りタイヤに対する荷重が一瞬で変化した場合等においても、これらの状態の変化をリアルタイムで推定することができる。
【0058】
以上の結果を踏まえて、本実施形態に係るタイヤ状態推定システム90では、ネオジム磁石によって構成された磁性体62Aが、一例として図4に示すように設けられた非空気入りタイヤ60を対象としている。また、本実施形態に係るタイヤ状態推定システム90では、磁気センサ72が非空気入りタイヤ60の接地位置から、当該非空気入りタイヤ60に設けられた磁性体62Aによる磁界の変化を検出可能な距離以内に設けられた車両を対象としている。
【0059】
次に、図13を参照して、本実施形態に係るタイヤ状態推定装置10の機能的な構成について説明する。図13は、本実施形態に係るタイヤ状態推定装置10の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【0060】
図13に示すように、本実施形態に係るタイヤ状態推定装置10は、取得部11A及び推定部11Bを含む。タイヤ状態推定装置10のCPU11がタイヤ状態推定プログラム13Aを実行することで、取得部11A及び推定部11Bとして機能する。
【0061】
本実施形態に係る取得部11Aは、スポーク部に磁性体62Aが設けられた非空気入りタイヤ60の転動時において、磁性体62Aによる磁界の変化を示す時系列信号を取得する。なお、本実施形態では、タイヤ状態推定システム90が対象としている車両に設けられた車両端末50が、当該車両に設けられている磁気センサ72により検出された時系列信号が受信可能に構成されており、取得部11Aは、当該車両端末50を経由して時系列信号を取得しているが、これに限るものではない。例えば、取得部11Aにより、各車両に設けられている磁気センサ72から車両端末50を経由することなく時系列信号を直接受信することで、当該時系列信号を取得する形態としてもよい。また、本実施形態では、車両端末50と磁気センサ72との間の通信方式として無線通信を適用しているが、これに限るものではない。例えば、車両端末50と磁気センサ72との間の通信方式として有線通信を適用する形態としてもよい。
【0062】
一方、本実施形態に係る推定部11Bは、上記時系列信号を入力情報とし、非空気入りタイヤ60の劣化状態、非空気入りタイヤ60に対する荷重、及び非空気入りタイヤ60の転動速度の少なくとも1つ(本実施形態では、全て)を出力情報として機械学習されたタイヤ状態推定モデルに対して、取得部11Aによって取得された時系列信号を入力することで、当該少なくとも1つのタイヤ状態情報を推定する。
【0063】
なお、本実施形態では、タイヤ状態推定モデルとして、上述した第1タイヤ状態推定モデル、第2タイヤ状態推定モデル、及び第3タイヤ状態推定モデルの3種類のタイヤ状態推定モデルを適用している。但し、ここで適用するタイヤ状態推定モデルは、実際の車両から得られた時系列信号と、対応する非空気入りタイヤ60の転動速度、当該非空気入りタイヤ60に対する荷重、及び当該非空気入りタイヤ60の劣化状態と、を用いて予め機械学習されたものである。但し、この形態に限るものではなく、例えば、フラットベルト試験機70を用いて得られた第1タイヤ状態推定モデル、第2タイヤ状態推定モデル、及び第3タイヤ状態推定モデルを、車両に搭載された非空気入りタイヤ60の推定に用いる形態としてもよい。
【0064】
また、本実施形態では、上記3種類のタイヤ状態推定モデルとして、非空気入りタイヤ60の種別毎に機械学習されたものを適用している。但し、この形態に限るものではなく、対象とする非空気入りタイヤ60の種別が同一系統のものである場合等には、代表的な非空気入りタイヤ60や、時間経過に伴う劣化の度合いが平均的な非空気入りタイヤ60等について上記3種類のタイヤ状態推定モデルを機械学習し、対象とする他の非空気入りタイヤ60にも適用する形態としてもよい。
【0065】
次に、図14を参照して、本実施形態に係るタイヤ状態推定モデルデータベース13Bについて説明する。図14は、本実施形態に係るタイヤ状態推定モデルデータベース13Bの構成の一例を示す模式図である。
【0066】
本実施形態に係るタイヤ状態推定モデルデータベース13Bは、上述した3種類のタイヤ状態推定モデルが登録されたデータベースである。図14に示すように、本実施形態に係るタイヤ状態推定モデルデータベース13Bは、タイヤ種別及びタイヤ状態推定モデルの各情報が記憶される。
【0067】
上記タイヤ種別は、非空気入りタイヤの種類を示す情報であり、上記タイヤ状態推定モデルは、上述した3種類のタイヤ状態推定モデルそのものを示す情報である。即ち、本実施形態に係るタイヤ状態推定モデルデータベース13Bでは、上述したように、上記3種類のタイヤ状態推定モデルが非空気入りタイヤの種別毎に登録されている。
【0068】
次に、図15図17を参照して、本実施形態に係るタイヤ状態推定システム90の作用として、タイヤ状態推定処理を実行する場合のタイヤ状態推定装置10の作用を説明する。図15は、本実施形態に係るタイヤ状態推定処理の一例を示すフローチャートである。また、図16は、本実施形態に係るタイヤ状態提示画面の構成の一例を示す正面図である。更に、図17は、本実施形態に係るタイヤ状態警告画面の構成の一例を示す正面図である。
【0069】
タイヤ状態推定装置10のユーザ(本実施形態では、タイヤ状態推定システム90の管理者)により、入力部14を介してタイヤ状態推定処理の実行を開始する指示入力が行われた場合に、タイヤ状態推定装置10のCPU11がタイヤ状態推定プログラム13Aを実行することで、図15に示すタイヤ状態推定処理が実行される。なお、ここでは、錯綜を回避するために、タイヤ状態推定モデルデータベース13Bが既に構築されている場合について説明する。また、ここでは、錯綜を回避するために、1台の車両につき、1つの非空気入りタイヤ60のみに関して推定を行う場合について説明する。
【0070】
本実施形態に係るタイヤ状態推定システム90では、対象とする車両において、車両端末50に対して、当該車両端末50のユーザにより非空気入りタイヤ60の状態の推定を指示する指示入力が行われた場合に、磁気センサ72によって得られた時系列信号のタイヤ状態推定装置10への送信が開始される。この際、本実施形態に係る車両端末50は、対応する非空気入りタイヤ60の種別を示す種別情報と、自身が設けられている車両を特定するための特定情報もタイヤ状態推定装置10に送信する。
【0071】
そこで、図15のステップ100で、CPU11は、何れかの車両からの時系列信号の受信が開始されるまで待機する。ステップ102で、CPU11は、受信した種別情報が示す種別に対応する上記3種類のタイヤ状態推定モデルをタイヤ状態推定モデルデータベース13Bから読み出す。
【0072】
ステップ104で、CPU11は、受信している時系列信号の上記3種類のタイヤ状態推定モデルへの入力を開始する。ステップ106で、CPU11は、上記3種類のタイヤ状態推定モデルから出力情報(タイヤ状態情報)を取得する。
【0073】
ステップ108で、CPU11は、取得した出力情報、即ち、非空気入りタイヤ60(以下、「処理対象タイヤ」という。)の転動速度、非空気入りタイヤ60への荷重、及び非空気入りタイヤ60の劣化状態の各情報を用いて、予め定められた構成とされたタイヤ状態提示画面を表示するように表示部15を制御する。
【0074】
一例として図16に示すように、本実施形態に係るタイヤ状態提示画面では、処理対象タイヤが装着された車両を示す情報と共に、処理対象タイヤの劣化状態、処理対象タイヤへの荷重、及び処理対象タイヤの転動速度の各々の推定結果が表示される。従って、タイヤ状態推定装置10のユーザは、これらの情報を把握することができる。
【0075】
ステップ110で、CPU11は、各タイヤ状態推定モデルによる推定結果に問題があるか否かを判定し、否定判定となった場合はステップ114に移行する一方、肯定判定となった場合はステップ112に移行する。
【0076】
ステップ112で、CPU11は、時系列信号の送信元の車両端末50に、処理対象タイヤに生じたと推定される問題を示すものとして予め定められた通知情報を送信する。この通知情報の送信により、当該通知情報を受信した車両端末50では、一例として図17に示すタイヤ状態警告画面が表示される。従って、当該車両端末50が搭載された車両の運転手等の乗車者は、このタイヤ状態警告画面を参照することにより、乗車している車両に装着された非空気入りタイヤ60に問題があることを把握することができる。なお、図17に示す例では、非空気入りタイヤ60に劣化が進んでいる旨を示す情報が表示されている場合が例示されている。
【0077】
一方、本実施形態に係るタイヤ状態推定システム90では、対象とする車両において、車両端末50に対して、当該車両端末50のユーザにより非空気入りタイヤ60の状態の推定の停止を指示する指示入力が行われた場合に、時系列信号のタイヤ状態推定装置10への送信が停止される。
【0078】
そこで、ステップ114で、CPU11は、時系列信号の受信が停止されたか否かを判定し、否定判定となった場合はステップ106に戻る一方、肯定判定となった場合はステップ116に移行する。
【0079】
ステップ116で、CPU11は、タイヤ状態推定処理を終了するタイミングとして、予め定められたタイミングが到来したか否かを判定し、否定判定となった場合はステップ100に戻る一方、肯定判定となった場合は本タイヤ状態推定処理を終了する。なお、本実施形態では、上記タイミングとして、タイヤ状態推定装置10のユーザによってタイヤ状態推定処理の終了を指示する指示入力が入力部14を介して行われたタイミングを適用しているが、これに限るものではないことは言うまでもない。
【0080】
以上説明したように、本実施形態によれば、スポーク部に磁性体が設けられた非空気入りタイヤの転動時において、当該磁性体による磁界の変化を示す時系列信号を取得し、当該時系列信号を入力情報とし、非空気入りタイヤの劣化状態、非空気入りタイヤに対する荷重、及び非空気入りタイヤの転動速度の少なくとも1つを出力情報として機械学習されたタイヤ状態推定モデルに対して、取得した時系列信号を入力することで、上記少なくとも1つのタイヤ状態情報を推定している。従って、非空気入りタイヤにおける不具合の推定ができない部分をなくすることができる結果、非空気入りタイヤの交換時期の予測に寄与することができる。
【0081】
また、本実施形態によれば、タイヤ状態推定モデルを回帰型ニューラルネットワークによるモデルとしている。従って、時系列信号を、より効果的に利用して、タイヤ状態情報を推定することができる。
【0082】
また、本実施形態によれば、回帰型ニューラルネットワークによるモデルを、時系列の情報が溜め池に蓄積されて反響するようなネットワークであるリザバーコンピューティングによるモデルとしている。従って、時系列で変化する転動時の非空気入りタイヤの内部状態を高い精度で再現することができる結果、時系列信号を、より効果的に利用して、タイヤ状態情報を推定することができる。
【0083】
また、本実施形態によれば、非空気入りタイヤが車両に設けられ、当該車両における、磁性体による磁界の変化を検出可能な位置に設けられた磁気センサから時系列信号を取得している。従って、車両に搭載されたタイヤについて、当該タイヤの交換時期の予測に寄与することができる。
【0084】
また、本実施形態によれば、磁性体を非空気入りタイヤの反セリアル側に設けている。従って、磁性体の損傷の発生を抑制することができる結果、より長期間、タイヤ状態情報を推定することができる。
【0085】
また、本実施形態によれば、磁気センサを非空気入りタイヤの接地位置から、上記磁界の変化を検出可能な距離として予め定められた距離以内に設けている。従って、非空気入りタイヤの変形を捉えやすくすることができる結果、より高精度に、タイヤ状態情報を推定することができる。
【0086】
更に、本実施形態によれば、磁性体をネオジム磁石としている。従って、磁性体をネオジム磁石以外の磁石とする場合に比較して、より高精度に、タイヤ状態情報を推定することができる。
【0087】
なお、上記実施形態では、タイヤ状態推定処理において、1車両につき1つの非空気入りタイヤのみを状態の推定対象とした場合について説明したが、これに限定されない。例えば、各車両に設けられた全ての非空気入りタイヤを状態の推定対象とする形態としてもよい。
【0088】
また、上記実施形態では、タイヤ状態推定モデルとして、リザバーコンピューティングによるモデルを適用した場合について説明したが、これに限定されない。例えば、LSTM(Long Short Term Memory)等のRNNに属するモデルや、畳み込みニューラルネットワーク(CNN(Convolutional Neural Network))によるモデルをタイヤ状態推定モデルとして適用する形態としてもよい。なお、CNNによるモデルをタイヤ状態推定モデルとして適用する場合、時系列信号を連続的、かつ、面的な画像としてタイヤ状態推定モデルに入力する形態を例示することができる。
【0089】
また、上記実施形態では、タイヤ状態推定装置10においてタイヤ状態推定処理を実行する場合について説明したが、これに限定されない。例えば、各車両端末50によってタイヤ状態推定処理を実行する形態としてもよい。この形態の場合、本開示の技術のタイヤ状態推定装置が車両端末50に含まれることになる。
【0090】
また、上記実施形態では、各非空気入りタイヤに磁性体を1つのみに設けた場合について説明したが、これに限定されない。例えば、複数の磁性体を各非空気入りタイヤに設ける形態としてもよい。
【0091】
また、上記実施形態では、タイヤ状態推定モデルにより車両に設けられた非空気入りタイヤの状態を推定する場合について説明したが、これに限定されない。例えば、フラットベルト試験機70により非空気入りタイヤの試験を行う場合に、当該非空気入りタイヤの状態を、タイヤ状態推定モデルを用いて推定する形態としてもよい。
【0092】
また、上記実施形態では、非空気入りタイヤの劣化状態の推定結果を示す情報として、劣化の有無を示す情報を適用した場合について説明したが、これに限定されない。例えば、劣化の程度を示す情報を、非空気入りタイヤの劣化状態の推定結果を示す情報として適用する形態としてもよい。
【0093】
また、上記実施形態では、第2タイヤ状態推定モデル及び第3タイヤ状態推定モデルの入力情報として、時系列信号に加えて、第1タイヤ状態推定モデルによって得られた転動速度を適用した場合について説明したが、これに限定されない。例えば、時系列信号のみを、第2タイヤ状態推定モデル及び第3タイヤ状態推定モデルの入力情報として適用する形態としてもよい。
【0094】
また、上記実施形態において、例えば、取得部11A及び推定部11Bの各処理を実行する処理部(processing unit)のハードウェア的な構造としては、次に示す各種のプロセッサ(processor)を用いることができる。上記各種のプロセッサには、前述したように、ソフトウェア(プログラム)を実行して処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPUに加えて、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が含まれる。
【0095】
処理部は、これらの各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGAの組み合わせや、CPUとFPGAとの組み合わせ)で構成されてもよい。また、処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。
【0096】
処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアント及びサーバ等のコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)等に代表されるように、処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサの1つ以上を用いて構成される。
【0097】
更に、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造としては、より具体的には、半導体素子などの回路素子を組み合わせた電気回路(circuitry)を用いることができる。
【0098】
[国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)への貢献]
持続可能な社会の実現に向けて、SDGsが提唱されている。本発明の一実施形態は「No.12_つくる責任、つかう責任」および「No.13_気候変動に具体的な対策を」などに貢献する技術となり得ると考えられる。
【符号の説明】
【0099】
10 タイヤ状態推定装置
11 CPU
11A 取得部
11B 推定部
12 メモリ
13 記憶部
13A タイヤ状態推定プログラム
13B タイヤ状態推定モデルデータベース
14 入力部
15 表示部
16 媒体読み書き装置
17 記録媒体
18 通信I/F部
50 車両端末
60 非空気入りタイヤ
60A スポーク部
62A 磁性体(ネオジム磁石)
62B 磁性体(ゴム磁石)
70 フラットベルト試験機
70A 回転軸
70B 筐体部
72 磁気センサ
80 ネットワーク
90 タイヤ状態推定システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17