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  • 特開-ポリイミドフィルムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080183
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】ポリイミドフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 41/36 20060101AFI20240606BHJP
【FI】
B29C41/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193150
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】増田 和己
(72)【発明者】
【氏名】岡部 共晃
【テーマコード(参考)】
4F205
【Fターム(参考)】
4F205AA40
4F205AC05
4F205AG01
4F205AJ08
4F205GA07
4F205GC06
4F205GF24
4F205GN29
4F205GW05
(57)【要約】
【課題】インナーディッケルの近傍からの樹脂漏れの発生を抑制し得る、ポリイミドフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】ポリイミドフィルムの製造方法にて、芯材を含むインナーディッケルが設置されたTダイを用い、前記芯材は、線膨張係数が1.0×10-5/K~7.0×10-5/Kであり、および、溶剤に対して耐性を有するものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドおよび/またはポリイミド前駆体と溶剤とを含む溶液からなる液膜を、Tダイより支持体上に塗布し、前記液膜を加熱乾燥後、得られたゲルフィルムを支持体より剥離し、さらに加熱乾燥して、ポリイミドフィルムとする、ポリイミドフィルムの製造方法であって、
前記Tダイは、芯材を含むインナーディッケルが設置されたものであり、
前記芯材は、線膨張係数が1.0×10-5/K~7.0×10-5/Kであり、および、前記溶剤に対して耐性を有するものである、ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記芯材の引張弾性率は、2.0GPa~6.0GPaである、請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記Tダイは、単層用または多層用のものである、請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記インナーディッケルは、前記Tダイの出口を起点に、1mm~20mm突出しているものである、請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記芯材は、PPS(ポリフェニレンサルファイド)および/またはPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)である、請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記インナーディッケルは、前記芯材に、シーラントが塗布されたものである、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フィルムを製造する際の製膜工程において、ダイに対してインナーディッケルを挿入することにより、製膜フィルムの幅を制御する方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリイミドを含有する樹脂層を複数、直接積層した構造を有しているポリイミド系多層フィルムの製造方法であって、ポリイミドまたはその前駆体を含有する樹脂溶液を複数種類用いて、支持体上に、各樹脂溶液からなる液膜が積層されてなる多層液膜を形成する多層液膜形成工程と、得られた多層液膜を、自己支持性を有する多層ゲルフィルムとするゲルフィルム形成工程とを含んでいる、ポリイミド系多層フィルムの製造方法が開示されている。上記多層液膜形成工程では、相対的に他の液膜よりも幅の広い幅広液膜を1層含んでおり、かつ、両端部が上記幅広液膜のみからなる単層構造となるように、多層液膜を形成する。また、当該文献には、ポリイミド系多層フィルムを製造する際に、液膜を形成するための流路に、インナーディッケルを挿入する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-239965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来技術では、成膜時にインナーディッケルが収縮したり、および/または、溶液のキャストの際に使用する溶媒によってインナーディッケルが腐食したりすることによって、インナーディッケルの近傍から樹脂漏れが生じることがあり、当該樹脂漏れを抑制する観点から改善の余地があった。
【0006】
本発明の一実施形態は、前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、インナーディッケルの近傍からの樹脂漏れの発生を抑制し得る、ポリイミドフィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態は、以下の構成を含むものである:
〔1〕ポリイミドおよび/またはポリイミド前駆体と溶剤とを含む溶液からなる液膜を、Tダイより支持体上に塗布し、前記液膜を加熱乾燥後、得られたゲルフィルムを支持体より剥離し、さらに加熱乾燥して、ポリイミドフィルムとする、ポリイミドフィルムの製造方法であって、前記Tダイは、芯材を含むインナーディッケルが設置されたものであり、前記芯材は、線膨張係数が1.0×10-5/K~7.0×10-5/Kであり、および、前記溶剤に対して耐性を有するものである、ポリイミドフィルムの製造方法。
【0008】
〔2〕前記芯材の引張弾性率は、2.0GPa~6.0GPaである、〔1〕に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【0009】
〔3〕前記Tダイは、単層用または多層用のものである、〔1〕または〔2〕に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【0010】
〔4〕前記インナーディッケルは、前記Tダイの出口を起点に、1mm~20mm突出しているものである、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【0011】
〔5〕前記芯材は、PPS(ポリフェニレンサルファイド)および/またはPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)である、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【0012】
〔6〕前記インナーディッケルは、前記芯材に、シーラントが塗布されたものである、〔1〕~〔5〕のいずれか1つに記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施形態によれば、インナーディッケルの近傍からの樹脂漏れの発生を抑制し得る、ポリイミドフィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るポリイミドフィルムの製造方法における、インナーディッケルを備えたTダイを模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態または実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0016】
〔1.ポリイミドフィルムの製造方法〕
本発明の一実施形態に係るポリイミドフィルムの製造方法は、ポリイミドおよび/またはポリイミド前駆体と溶剤とを含む溶液からなる液膜を、Tダイより支持体上に塗布し、前記液膜を加熱乾燥後、得られたゲルフィルムを支持体より剥離し、さらに加熱乾燥して、ポリイミドフィルムとする、ポリイミドフィルムの製造方法であって、前記Tダイは、芯材を含むインナーディッケルが設置されたものであり、前記芯材は、線膨張係数が1.0×10-5/K~7.0×10-5/Kであり、および、前記溶剤に対して耐性を有する。
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係るポリイミドフィルムの製造方法を「本製造方法」と称する場合があり、本製造方法により得られるポリイミドフィルムを「本ポリイミドフィルム」と称する場合がある。
【0018】
本製造方法は、上述した構成を有することにより、ダイに対してインナーディッケルを挿入することにより生じる、インナーディッケルの近傍からの樹脂漏れの発生を抑制することができるとの利点を有する。
【0019】
本製造方法は、流延製膜法によるポリイミドフィルムの製造方法であるといえる。流延製膜法では、まず、金属ベルトや金属ロール等の支持体上に、ポリイミドおよび/またはポリイミド前駆体と溶剤とを含む溶液からなる液膜を形成させる。そして、当該液膜を加熱乾燥させることにより、当該液膜を、自己支持性を有するゲルフィルムとする(すなわち、ゲルフィルムとは、ポリイミドおよび/またはポリイミド前駆体と溶剤を含む溶液からなる液膜を、加熱乾燥や一部イミド化等の処理により自己支持性を有する程度のゲル状態にしたものである)。その後、ゲルフィルムを支持体上から引き剥がし、さらにこれを高温で加熱処理することによりイミド化する。これにより、ポリイミドフィルムを得ることができる。
【0020】
本製造方法は、(i)ポリイミドおよび/またはポリイミド前駆体と溶剤とを含む溶液(以下、「ポリイミド前駆体溶液」と称する場合がある)を調製する工程(ポリイミド前駆体溶液調製工程)、(ii)当該ポリイミドおよび/またはポリイミド前駆体と溶剤とを含む溶液からなる液膜をTダイより支持体上に塗布することにより、支持体上に液膜を形成する工程(液膜形成工程)、(iii)得られた液膜を加熱乾燥して、ゲルフィルムを得る工程(ゲルフィルム形成工程)、および(iv)得られたゲルフィルムを加熱乾燥して、ポリイミドフィルムとする工程(焼成工程)を有し得る。以下、前記各工程について具体的に説明する。
【0021】
<ポリイミド前駆体溶液調製工程>
本製造方法におけるポリイミド前駆体溶液調製工程では、ポリイミドおよび/またはポリイミド前駆体と溶剤とを含むポリイミド前駆体溶液を調製する。
【0022】
本明細書において、ポリイミド前駆体とは、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸(ポリアミック酸)を意図する。
【0023】
本発明において用いられるポリイミド前駆体は、ポリアミド酸骨格を有する化合物であれば、特に限定されるものではなく、従来公知のものを用いることができる。具体的には、例えば、酸二無水物成分およびジアミン成分を重合用溶媒に溶解して重合することにより得られる前駆体(ポリアミド酸)を挙げることができる。
【0024】
本発明の一実施形態に係るポリイミドフィルムが単層フィルムである場合、ポリイミドフィルムは、特に限定されないが、耐熱性ポリイミド層であることが好ましい。これにより、本発明の一実施形態に係るポリイミドフィルムは、耐熱性を有するとの利点を有する。
【0025】
本発明の一実施形態に係るポリイミドフィルムが多層フィルムである場合、少なくとも2種以上のポリイミドフィルムを積層して構成される。一方のフィルムは、耐熱性ポリイミド層であることが好ましい。これにより、本発明の一実施形態に係るポリイミドフィルムは少なくとも耐熱性を有することとなる。また、他方のフィルムは、熱可塑性ポリイミド層であることが好ましい。これにより、本発明にかかるポリイミドフィルムでは、熱可塑性ポリイミドが高温下において接着剤の役割を担うこととなる。
【0026】
(耐熱性ポリイミド層)
耐熱性ポリイミド層とは、非熱可塑性ポリイミドを90重量%以上含有する樹脂組成物からなっていれば、その具体的な組成や用いられるポリイミドの分子構造、層の厚み等は特に限定されるものではない。耐熱性ポリイミド層に用いられる非熱可塑性ポリイミドは、前述したように、ポリアミド酸を前駆体として用いて製造される。
【0027】
このポリアミド酸の製造方法(合成方法、重合方法)としては公知のあらゆる方法を用いることができ、特に限定されるものではない。通常、1種以上の酸二無水物からなる酸二無水物成分と1種以上のジアミンからなるジアミン成分とを、実質的に等モル量となるように合成用溶媒中に分散または溶解させて、制御された温度条件下で上記各モノマー成分の重合が完了するまで攪拌する方法を好適に用いることができる。なお、酸二無水物成分としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物等が好適に用いられ、ジアミン成分としては、芳香族ジアミン等が好適に用いられる。
【0028】
得られるポリアミド酸は合成用溶媒に分散または溶解した状態、すなわち有機溶媒溶液(ポリアミド酸溶液)の状態であり、有機溶媒溶液の固形分濃度は通常5~35重量%の範囲内、好ましくは10~30重量%の範囲内となる。固形分濃度がこの範囲内であれば、適切な分子量のポリアミド酸が合成されているとともに、ポリアミド酸溶液としても作業上好ましい溶液粘度となっている。
【0029】
ポリアミド酸の重合方法としては、従来公知のあらゆる方法およびそれらを組み合わせた方法を用いることができる。ポリアミド酸の合成方法については、特開2006-239965号公報の記載が援用される。
【0030】
(非熱可塑性ポリイミドの製造に用いられる酸二無水物成分)
本発明において、上記耐熱性ポリイミド層に含有される非熱可塑性ポリイミドを製造するにあたり、前駆体であるポリアミド酸の合成に用いる酸二無水物成分としては特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシフタル酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)あるいはこれらの類似物等を挙げることができる。これら化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0031】
上記酸二無水物の中でも、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の群から選択される少なくとも一種の化合物を特に好ましく用いることができる。
【0032】
(非熱可塑性ポリイミドの製造に用いられるジアミン成分)
本発明において、上記耐熱性ポリイミド層に含有される非熱可塑性ポリイミドを製造するにあたり、前駆体であるポリアミド酸の合成に用いるジアミン成分としては特に限定されるものではないが、例えば、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’-ジクロロベンジジン、3,3’-ジメチルベンジジン、2,2’-ジメチルベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、2,2’-ジメトキシベンジジン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-オキシジアニリン、3,3’-オキシジアニリン、3,4’-オキシジアニリン、1,5-ジアミノナフタレン、4,4’-ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’-ジアミノジフェニルN-メチルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルN-フェニルアミン、1,4-ジアミノベンゼン(p-フェニレンジアミン)、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン、ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、ビス{4-(3-アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、あるいはこれらの類似物等を挙げることができる。これら化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0033】
(熱可塑性ポリイミド層)
熱可塑性ポリイミド層に含有される熱可塑性ポリイミドの含有量、分子構造、並びに、熱可塑性ポリイミド層の厚み等の条件は特に限定されるものではない。
【0034】
熱可塑性ポリイミドの好ましい具体例としては、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物類を含有する酸二無水物成分とアミノフェノキシ基を有するジアミン成分とを重合して得られるポリアミド酸をイミド化したものを挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0035】
上記熱可塑性ポリイミド層においては、上述した熱可塑性ポリイミドを含んでいればよく、他の成分を含んでいてもよい。ここで、上記熱可塑性ポリイミド層は、当該層に用いられる各成分の組成や、熱可塑性ポリイミドの分子構造、厚み等の諸条件は特に限定されるものではない。ただし、当該熱可塑性ポリイミド層が有為な接着力を発揮するためには、実質的には熱可塑性ポリイミドを50重量%以上含有することが好ましい。
【0036】
(溶剤)
溶剤としては、有機溶剤を用いることができる。当該有機溶剤としては、ポリイミドおよび/またはポリイミド前駆体を溶解可能な有機溶剤であれば特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド等のホルムアミド系溶媒;N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド等のアセトアミド系溶媒;N-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン等のピロリドン系溶媒;フェノール、o-、m-、またはp-クレゾール、o-、m-、またはp-キシレノール、o-、m-、またはp-ハロゲン化フェノール、o-、m-、またはp-カテコール等のフェノール系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン等のエーテル系溶媒;メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;ブチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒;ヘキサメチルホスホルアミド、γ-ブチロラクトン等の溶媒;等の有機極性溶媒を挙げることができる。これら有機溶媒は単独で用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。さらに、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素も使用可能である。
【0037】
上記有機溶剤の中でも、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジエチルホルムアミド(DMAc)等のホルムアミド系溶媒を特に好ましく用いることができる。なお、有機溶剤中の水の含有はポリアミド酸の分解を促進するため、当該有機溶剤からは可能な限り水分を除去しておくことが好ましい。
【0038】
また、溶剤は、化学脱水剤(脱水剤)および/または触媒を含んでいてもよく、化学脱水剤(脱水剤)および触媒を含んでいることが好ましい。本ポリイミドフィルムが多層フィルムである場合、複数種類のポリイミド前駆体溶液の少なくとも1種には、予め脱水剤および触媒(硬化剤)が添加(含有)されていることが好ましい。当該構成によれば、ゲルフィルムへの転化時間を短縮化できるとともに、支持体からのフィルムの剥離性も向上することができるとの利点を有する。
【0039】
具体的には、溶剤が化学脱水剤(脱水剤)および触媒を含むことにより、ゲル化やイミド化が促進されるだけでなく、支持体と多層ゲルフィルムとの隙間に残存成分を蓄積させるため、多層ゲルフィルムの引き剥がし性が向上する。
【0040】
脱水剤とは、ポリアミド酸に対する脱水閉環剤であれば得に限定されるものではないが、具体的には、例えば、主成分として、脂肪族酸無水物(例えば、無水酢酸)、芳香族酸無水物、N,N’-ジアルキルカルボジイミド、低級脂肪族ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪族酸無水物、アリールスルホン酸ジハロゲン化物、チオニルハロゲン化物等の化合物を挙げることができる。これら化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、脂肪族酸無水物および/または芳香族酸無水物を特に好適に用いることができる。
【0041】
上記脱水剤の使用量は特に限定されるものではないが、ポリイミド前駆体溶液において、含有されるポリアミド酸100重量部当り、3重量部~30重量部の範囲内が好ましく、6重量部~25重量部の範囲内がより好ましく、10重量部~20重量部の範囲内が特に好ましい。
【0042】
本発明で用いられる触媒は、ポリアミド酸に対する脱水剤の脱水閉環作用を促進する効果を有する成分であれば特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、脂肪族3級アミン、芳香族3級アミン、複素環式3級アミン等を挙げることができる。これらの中でも、例えば、イミダゾール、ベンズイミダゾール、イソキノリン、キノリン、ジエチルピリジンまたはβ-ピコリン等の含窒素複素環化合物が好ましく用いられ、イソキノリン、ピリジン、β位および/またはγ位にアルキル基を有するピリジン類が特に好ましい。
【0043】
上記触媒の使用量は、ポリイミド前駆体溶液において含有されるポリアミド酸100重量部当り、1重量部~15重量部の範囲内が好ましく、3重量部~10重量部の範囲内がより好ましく、5重量部~8重量部の範囲内が特に好ましい。
【0044】
上記脱水剤および触媒の使用量が上記範囲を下回ると、支持体からの引き剥がし性の改善効果が不十分となったり、イミド化が不十分となり焼成途中で破断したり、機械的強度が低下したりすることがある。また、これらの量が上記範囲を上回ると、イミド化の進行が早くなりすぎ、ポリイミド前駆体溶液をフィルム状にキャストすることが困難となることがあったり、多層構造において層間の剥離防止が困難となったりする場合がある。
【0045】
溶剤が、有機溶剤、化学脱水剤(脱水剤)および触媒を含む場合、溶剤としては、ジメチルホルムアミド、無水酢酸、イソキノリン、N,N-ジメチルアセトアミドおよびN-メチル-2-ピロリドンからなる群より選択される1種以上からなるものであることが好ましく、ジメチルホルムアミド、無水酢酸およびイソキノリンからなるものであることがさらに好ましい。
【0046】
また、溶剤の使用量は、特に限定されないが、ポリイミド前駆体溶液において含有されるポリアミド酸100重量部当り、500重量部~1500重量部の範囲内が好ましく、700重量部~1300重量部の範囲内がより好ましく、900重量部~1200重量部の範囲内が特に好ましい。
【0047】
<液膜形成工程>
本製造方法における液膜形成工程では、ポリイミドおよび/またはポリイミド前駆体と溶剤とを含む溶液からなる液膜をTダイより支持体上に塗布することにより、支持体上に液膜を形成させる。
【0048】
ここで、溶剤が化学脱水剤(脱水剤)および/または触媒を含む場合においては、流路に接続した、ポリイミド前駆体からなる溶液の少なくとも一部が、イミド化されポリイミドとなる。それ故、液膜形成工程において支持体上に塗布される液膜には、ポリイミドおよびポリイミド前駆体が含まれる。すなわち、液膜は、ポリイミド、ポリイミド前駆体、および溶剤を含む溶液からなる(形成される)。
【0049】
また、溶剤中に、化学脱水剤(脱水剤)および触媒のいずれもが含まれない場合においては、支持体上に塗布される液膜は、当然ポリイミド前駆体を含む。
【0050】
また、既にイミド化された溶剤可溶性ポリイミドと溶剤とを含む溶液を流路に接続する場合においては、支持体上に塗布される液膜は、(ポリイミド前駆体を含まず)ポリイミド溶液からなる液膜となる。
【0051】
本発明の一実施形態において、支持体としては、液膜を形成させる平滑性があり、ポリイミド前駆体溶液により溶解することが無いものであり、好ましくはゲルフィルムの引き剥がし性にも優れたものであれば特に限定されるものではない。具体的には、例えば、金属製のベルト、金属製のローラー、樹脂ベルト、樹脂フィルム、樹脂ローラー等を使用することができる。
【0052】
これらの中でも、製造効率の点から、上記支持体は回転体であることが好ましい。回転体であれば、同一の支持体を回転させることで、液膜を連続して形成し、次のゲルフィルム形成工程(液膜の乾燥およびゲル化)に進めることができる。回転体としての支持体の具体例としては、複数の回転軸により回転可能に張り渡されたベルト状支持体、単一の回転軸により回転可能となっているドラム(ローラー)状支持体を挙げることができる。例えば、支持体として、2つの軸ローラーにより張り渡されたエンドレスベルトが用いられる。
【0053】
本発明の一実施形態において、Tダイの材質としては、ステンレス鋼であれば特に限定されないが、SUS(Stainless Used Steel、ステンレス鋼の一種)であることが好ましい。当該構成によれば、Tダイの線膨張係数が、インナーディッケルの線膨張係数に近くなり、その結果、インナーディッケルの近傍からの樹脂漏れの発生をより良く抑制することができる。例えば、Tダイの熱膨張係数とインナーディッケルの線膨張係数との差は、10.0×10-5/K以内であることが好ましく、5.0×10-5/K以内であることがより好ましい。
【0054】
以下、本発明の一実施形態に係るポリイミドフィルムの製造方法の液膜形成工程を、図1に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るポリイミドフィルムの製造方法における、Tダイを模式的に示した図である。
【0055】
図1に示されるように、本製造方法において、Tダイ10は、流路1と、インナーディッケル2と、を備えている。
【0056】
図1に示す矢印の向きに沿って、Tダイ10に備えられた流路1にポリイミド前駆体溶液を流入させ、その後、当該ポリイミド前駆体溶液を流路1からTダイ出口20側へ吐出させることにより、ポリイミド前駆体溶液を支持体(図示せず)上に塗布することができる。
【0057】
本発明の一実施形態において、Tダイ10における流路1の幅方向の両端部に、インナーディッケル2が挿入される。これにより、流路1中を流れるポリイミド前駆体溶液の流量を調節することが可能となり、インナーディッケル2を挿入した流路1から吐出される液膜の幅が狭くなる。それ故、製膜フィルム幅を所望の幅に調節することができる。幅の異なる流路を有するダイを複数製造して用いることに比べて、本発明の一実施形態であれば、1つのダイの流路の幅を着脱可能な簡単な構成であるインナーディッケルによって調節できるため、ダイの汎用性の観点から好ましい。
【0058】
インナーディッケル2は、芯材3を含み、当該芯材3は、線膨張係数が1.0×10-5/K~7.0×10-5/Kであり、および、溶剤に対して耐性を有する。当該構成によれば、インナーディッケルを挿入した場合においても、インナーディッケルの近傍から樹脂漏れの発生を抑制することができる。
【0059】
芯材3の線膨張係数は、1.0×10-5/K~7.0×10-5/Kであり、1.5×10-5/K~6.5×10-5/Kであることが好ましく、1.8×10-5/K~6.3×10-5/Kであることがより好ましく、2.0×10-5/K~6.0×10-5/Kであることがさらに好ましい。当該構成によれば、インナーディッケルの近傍から樹脂漏れの発生をより良く抑制することができる。なお、芯材3の線膨張係数は、Tダイの線膨張係数に合わせて設定してもよい。
【0060】
芯材3は、溶剤に対して耐性を有する。ここで言う溶剤とは、〔1.ポリイミドフィルムの製造方法〕の(溶剤)の項に記載の、ポリイミド前駆体溶液を構成する溶剤を意図する。
【0061】
芯材3の引張弾性率は、2.0GPa~6.0GPaであることが好ましく、2.5GPa~5.5GPaであることがより好ましく、3.0GPa~5.5GPaであることがさらに好ましく、3.0GPa~5.0GPaであることが特に好ましい。当該構成によれば、Tダイ流路表面に密着することによりインナーディッケルの近傍からの樹脂漏れを抑制することが可能であり、且つ流路表面への密着による傷の発生も抑制できるとの利点を有する。
【0062】
芯材3は、PPSおよび/またはPEEKであることがより好ましく、PPSであることがさらに好ましい。当該構成によれば、インナーディッケルの近傍から樹脂漏れの発生をより良く抑制することができる。
【0063】
インナーディッケル2は、芯材3に、シーラント4が塗布されたものであることが好ましい。当該構成によれば、芯材3にシーラント4が塗布されていないものをインナーディッケル2として使用している場合に比べて、インナーディッケルの近傍から樹脂漏れの発生をより良く抑制することができる。
【0064】
インナーディッケル2が、芯材3にシーラント4が塗布されたものである場合、シーラント4は、芯材3の表面および外側に塗布することが好ましい。換言すれば、シーラント4は、芯材3のうち、流路に接している面以外の全ての面に塗布することが好ましい。当該構成によれば、シーラントが機能し得る箇所の全てをシーラントによって覆うことにより、インナーディッケルの近傍から樹脂漏れの発生をより良く抑制することができる。
【0065】
シーラント4の材質としては、シリコーンであることが好ましい。当該構成によれば、インナーディッケルの近傍から樹脂漏れの発生をより良く抑制することができる。
【0066】
図1に示すように、インナーディッケル2は、Tダイ出口20を起点に、1mm~20mm突出していることが好ましく、3mm~20mm突出していることがより好ましく、5mm~18mm突出していることがさらに好ましく、8mm~15mm突出していることが特に好ましい。換言すれば、インナーディッケル2は、Tダイ出口20からインナーディッケル先端21までの距離22が、1mm~20mm突出していることが好ましく、3mm~20mm突出していることがより好ましく、5mm~18mm突出していることがさらに好ましく、8mm~15mmであることが特に好ましい。当該構成によれば、ポリイミド前駆体溶液が流路1に沿って流れ、Tダイ出口にて、ポリイミド前駆体溶液が流路の外側へ漏れることを抑制することができる。換言すれば、ポリイミド前駆体溶液を、流路1から直線的に吐出(図1の紙面真下側へ吐出)させることができる。
【0067】
Tダイは、単層用または多層用(例えば、2層以上の層用、3層以上の層用)であってもよい。当該構成によれば、所望の層数を有するポリイミドフィルムを製造することができる。
【0068】
本ポリイミドフィルムが単層フィルムである場合、単層用のTダイ、すなわち、単層ダイ(単層押出ダイ)を使用することができる。
【0069】
本ポリイミドフィルムが多層フィルムである場合、複数の単層用のTダイ、または、多層用のTダイを使用することができる。
【0070】
単層ダイを用いて多層フィルムを製造する場合、各層に対応する単層ダイを並列配置することにより、多層フィルムの製造が可能である。例えば、三層フィルムを製造する場合、具体的には、エンドレスベルト(支持体)の進行方向の下流側から順に、上層用単層ダイ、中央層用単層ダイ、および下層用単層ダイを配置する。各単層ダイの構成は何れも同じで、本体の内部にはポリイミド前駆体溶液の流路が形成されており、Tダイの先端には、吐出口が形成されている。進行方向から見て最も上流側には、下層用単層ダイが設けられているので、このダイから吐出される下層ポリイミド前駆体溶液は、支持体上に流延して液膜(下方液膜)を形成する。このすぐ下流側には、中央層用単層ダイが設けられているので、このTダイから吐出される中央層ポリイミド前駆体溶液は、下方液膜の上に流延し、中央液膜を形成する。この状態では、中央液膜および下方液膜の二層構造の液膜が支持体上に形成されていることになる。
【0071】
さらに、最も下流側には、上層用単層ダイが設けられているので、このTダイから吐出される上層ポリイミド前駆体溶液は、中央液膜の上に流延し、上方液膜を形成する。その結果、三層構造の多層液膜が形成されることになる。
【0072】
また、当該単層ダイを用いて多層フィルムを製造する場合、インナーディッケルは、全ての単層ダイ(流路)に挿入してもよく、一部の単層ダイ(流路)に挿入してもよい。当該構成によれば、形成される多層フィルムにおいて、各層の厚みの各々を所望の層の幅に調節することが可能となる。このとき、各層の厚みは、異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0073】
多層用のTダイを用いて多層フィルムを製造する場合、例えば多層共押出ダイを用いることにより、多層フィルムの製造が可能である。多層共押出ダイを用いる多層共押出法とは、支持体上に、耐熱性(非熱可塑性)ポリイミド前駆体溶液および熱可塑性ポリイミド前駆体溶液の双方を同時に共押出ダイを用いて押し出し製膜する方法である。
【0074】
多層共押出法は、一度に多層構造の液膜(多層液膜)を形成できる等、必要となる工程数が少なくて済むことから、他の方法と比較して生産性および製品歩留まりが高いという利点がある。さらに、多層共押出法を用いた場合、各液膜相互の密着性が高く、各液膜相互の密着性をより一層優れたものとすることができるため好ましい。それゆえ、多層フィルムを製造する場合には、流延製膜法の中でも多層共押出法(共押出流延製膜法)を採用することが好ましい。上記多層共押出ダイには、マルチマニホールド型およびフィードブロック型の2種類があるが、マルチマニホールド型の共押出ダイを用いることがより好ましい。これにより、形成される各層の厚みの均一性をより一層高くすることができる。
【0075】
多層共押出ダイの例として三層共押出ダイを使用して多層フィルムを製造する場合について説明する。三層共押出ダイでは、ダイ内部に、1つの中心層用流路および2つの外層用流路が形成される。中心層用流路には、中心層用のポリイミド前駆体溶液を供給する手段が接続されており、中心層用のポリイミド前駆体溶液(例えば、耐熱性ポリイミド前駆体溶液)が流通する。また、外層用流路において、片方には、上層用のポリイミド前駆体溶液(例えば、熱可塑性ポリイミド前駆体溶液)を供給する手段が接続されており、もう一方には、下層用のポリイミド前駆体溶液(例えば、熱可塑性ポリイミド前駆体溶液)が流通する。
【0076】
上記三層共押出ダイでは、ダイ中で、上記3つの流路が合流し、一つの吐出口に接続される構成となっている。したがって、供給された3種のポリイミド前駆体溶液は、ダイ内で合流して三層構造の液膜として吐出口から吐出される。その結果、中央液膜の両面に外層(上方液膜および下方液膜)が積層された三層構造の多層液膜を支持体(エンドレスベルト)上に直接形成することができる。
【0077】
多層共押出法により多層フィルムを製造する場合、インナーディッケルは、全ての流路に挿入してもよく、一部の流路に挿入してもよい。当該構成によれば、形成される多層フィルムにおいて、各層の厚みの各々を所望の層の幅に調節することが可能となる。このとき、各層の厚みは、異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0078】
<ゲルフィルム形成工程>
本製造方法におけるゲルフィルム形成工程では、液膜形成工程で得られた液膜を加熱乾燥して、ゲルフィルムを得る。
【0079】
本工程におけるゲル化の方法や条件は特に限定されるものではなく、多層液膜から有機溶媒を一部蒸発させたり、ポリアミド酸の一部をイミド化したりしてゲルフィルムへ転化できるような条件であればよい。通常は、加熱等による乾燥方法を採用することができる。この場合の乾燥方法は特に限定されるものではなく、ゲル化を進行できる方法であればよいが、初期段階で残存成分を有効に蒸発できる方法であることがより好ましい。具体的には、加熱よる乾燥方法を好適に用いることができる。具体的な加熱方法についても特に限定されるものではなく、従来公知の加熱方法を好適に用いることができるが、加熱温度は60℃以上200℃以下であることが好ましく、80℃以上150℃以下であることがより好ましい。
【0080】
上記ゲル化する際の加熱温度(液膜の乾燥温度)を60~200℃の範囲内とすることにより、液膜のゲル化を効率的に進行できるだけでなく、乾燥の初期段階で残存成分を有効に蒸発させることができる。その結果、層間の剥離をより一層有効に抑制することができる。一方、上記温度範囲を下回ると、残存成分を有効に蒸発させることができない場合がある。また、上記温度範囲を上回ると、ゲルフィルムが支持体上に固着しやすくなり、多層ゲルフィルムの引き剥がし性が低下する傾向にある。
【0081】
また、乾燥時間についても特に限定されるものではないが、加熱方法によらず1~600秒の範囲内であることが好ましい。加熱時間が上記範囲内であれば、多層ゲルフィルムを効率良くかつ確実に作製することができる。一方、乾燥時間が上記範囲を外れると、ほとんど乾燥できなかったり過剰に乾燥されたりすることがある。
【0082】
ゲルフィルム形成工程の詳細については、特開2006-239965号公報の記載が援用される。
【0083】
<焼成工程>
本製造方法における焼成工程では、得られたゲルフィルムを加熱乾燥して、ポリイミドフィルムとする。これにより、ゲルフィルム内の残存成分を完全に蒸発させるとともに、ポリアミド酸のイミド化反応を完了させる。その結果、ポリイミドフィルムを得ることができる。
【0084】
上記焼成工程で用いる加熱方法は特に限定されるものではなく、支持体から引き剥がしたゲルフィルムを有効に加熱してフィルムに焼成できる方法であればよいが、具体的には、例えば、フィルムの上方の面または下方の面、あるいは、両面から100℃以上の熱風をフィルム全体に噴射して加熱する方式、または遠赤外線をフィルムに照射する方式等を好適に用いることができる。
【0085】
上記焼成工程における焼成温度は、イミド化を完了できるとともに、残存成分を十分に蒸発できる温度範囲であれば特に限定されるものではないが、200℃以上600℃以下であることが好ましく、また、徐々に温度を上昇させることが好ましい。焼成温度が高すぎると、多層フィルムの焼成に温度ムラができやすく平坦性が失われやすい傾向にあり、低すぎると、十分な焼成処理が行われない場合がある。焼成時間も特に限定されるものではなく、イミド化が完了できる時間であれば、従来公知の範囲内の時間で焼成することができる。
【0086】
焼成工程の詳細については、特開2006-239965号公報の記載が援用される。
【0087】
なお、本製造方法は、上記ポリイミド前駆体溶液調製工程、液膜形成工程、ゲルフィルム形成工程、焼成工程の全てを含んでいる必要はない。適宜、各工程を省略したり、他の工程を追加したりすることができる。
【0088】
上記は主に、ポリイミド前駆体と化学脱水剤(脱水剤)および/または触媒との混合物の液膜を形成させる場合(いわゆるケミカルキュア)について記載した。一方で、溶剤が化学脱水剤(脱水剤)および触媒の両方を含まない場合、例えばポリイミド前駆体を熱によりイミド化させる場合(熱キュア)、および、既にイミド化した可溶性ポリイミド溶液を流路に接続する場合においても、本発明のインナーディッケルは、インナーディッケルの近傍からの樹脂漏れの発生を抑制し得、ポリイミドフィルムを安定的に生産することができる。
【実施例0089】
以下、実施例および比較例によって本発明の一実施形態をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の一実施形態は、前記または後記の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更して実施することが可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお下記実施例および比較例において「部」および「%」とあるのは、重量部または重量%を意味する。
【0090】
(インナーディッケルを構成する材料の耐溶剤性評価)
表1に示す各材料の短冊状の試験片(幅20mm、長さ20mm、厚み2mm)を、無水酢酸/イソキノリン/DMF(重量比11.48/3.40/18.18)からなる混合溶剤に浸漬させ、浸漬させた状態で2週間放置した。その後、試験片の重量減少率および目視による試験片表面の外観変化を評価した。各材料の重量減少率、外観変化、および耐溶剤性評価結果を表1に示した。材料の耐溶剤性は、以下の基準に基づいて評価した。
〇(可):重量変化および外観変化に関して、変化無し
×(不可):重量変化および/または外観変化に関して、変化あり。
【0091】
【表1】
【0092】
(インナーディッケルを構成する材料の寸法安定性評価)
日立ハイテク社製のTMA装置(TMA/SS6100)を用いて、表2に示す材料の短冊状の試験片のTMA測定(Thermomechanical Analysis、熱機械分析)を実施し、-10℃~50℃における線膨張係数を測定した。得られた各材料の線膨張係数および寸法安定性評価結果を表2に示した。材料の寸法安定性は、以下の基準に基づいて評価した。表2に記載した、各材料の線膨張係数は、入手可能な材料(グレード)によって幅があるため、その幅を記載した。
〇(可):-10℃~50℃における材料の線膨張係数が1.0×10-5/K以上7.0×10-5/K以下
×(不可):-10℃~50℃における材料の線膨張係数が1.0×10-5/K未満または7.0×10-5/K超。
【0093】
【表2】
【0094】
(インナーディッケルを構成する材料の引張弾性率)
表3に示す各材料からなる短冊状の試験片を用いて、引張弾性率を測定した。測定により得られた各材質の引張弾性率ならびにインナーディッケルの適性を表3に示す。インナーディッケルの適性評価結果は、インナーディッケルとして利用されることの多い真鍮の結果を目安に、100GPa以下を〇とした。表3に記載の各材料の引張弾性率は、入手可能な材料(グレード)によって幅があるためその幅を記載している。
【0095】
【表3】
【0096】
(非熱可塑性ポリイミド前駆体溶液の合成)
(合成例1)
容量2000kgの耐圧反応機に対して、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFともいう)を657.8kg、ジアミノジフェニルエーテル(以下、ODAともいう)を10.5kg、および2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(以下、BAPPともいう)を32.4kg添加した。そして、窒素雰囲気下で攪拌しながら、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(以下、BTDAともいう)17.0kgとピロメリット酸二無水物(以下、PMDAともいう)14.3kgと、を耐圧反応機に、徐々に添加した。BTDAとPMDAとが溶解したことを目視で確認後、p-フェニレンジアミン(以下、PDAともいう)を14.22kg加えて5分間攪拌を行った。続いて、PMDAを28.69kg添加した後、30分攪拌した。最後に、1.7kgのPMDAを固形分濃度7.2%となるようにDMFに溶解した溶液を調製し、この溶液を粘度上昇に気を付けながら上記反応溶液に徐々に添加した。23℃での粘度が2000ポイズに達した時点で添加および撹拌をやめ、非熱可塑性ポリイミド前駆体溶液を得た。得られた非熱可塑性ポリイミド前駆体溶液の固形分濃度は15重量%であった。
【0097】
(熱可塑性ポリイミド前駆体溶液の合成)
(合成例2)
容量2000kgの耐圧反応機を20℃に保った状態で、DMF323.0kgに対して、BAPP43.6kgを添加した。そして、窒素雰囲気下で攪拌しながら、BPDA43.6kgを徐々に添加した。BPDAが溶解したことを目視で確認後、PMDA19.0kgを添加し、30分間攪拌を行った。0.7kgのPMDAを固形分濃度7.2%となるようにDMFに溶解した溶液を調製し、この溶液を粘度上昇に気を付けながら上記反応溶液に徐々に添加した。23℃での粘度が200ポイズに達した時点で添加および撹拌をやめ、熱可塑性ポリイミド前駆体溶液を得た。得られた熱可塑性ポリイミド前駆体溶液の固形分濃度は15重量%であった。
【0098】
(実施例1)
実施例1では三層共押出ダイを用いた。当該三層共押出ダイの流路幅は、1000mmであり、中心層用流路および外層用流路の両端には、それぞれ幅が10mmのPPS製芯材(引張弾性率3.3GPa、線膨張係数5.3×10-5/K)からなるインナーディッケルを挿入した。したがって、流路幅は980mmとなる。インナーディッケルは、30℃に管理された環境下で組み付けた。このとき、インナーディッケルの先端が、Tダイ出口から5mm突出するように、流路に対してインナーディッケルを挿入した。また、組付けた後の三層共押出ダイ本体は、-10℃の飽和塩化ナトリウム水溶液(以下、ブラインともいう)を内部に通水し、6時間以上冷却した。
【0099】
合成例1で得られた非熱可塑性ポリイミド前駆体溶液100kgに対して、無水酢酸/イソキノリン/DMF(重量比11.48/3.40/18.18)からなる硬化剤40kgを溶剤としてさらに添加して混合した。そして、得られた溶液のみを充填したシリンジを、三層共押出ダイの中心層用流路に接続した。同時に、三層共押出ダイの外層となる流路には、合成例2で得られた熱可塑性ポリイミド前駆体溶液のみを充填したシリンジを0℃に冷やした状態で接続した。各流路の押出機構を動作させ、中心層用流路を流れる非熱可塑性ポリイミド前駆体溶液と外層となる流路を流れる熱可塑性ポリイミド前駆体溶液とをそれぞれ70kg/Hr、50kg/Hrの速度で三層共押出ダイより吐出した。そして、100℃に制御されたステンレス製の支持体(エンドレスベルト)に流延塗布した。この時のダイ内圧は0.5MPaだった。また、インナーディッケルを挿入したことによる液漏れや流路異常が生じていないかを目視にて確認した結果、流路とインナーディッケル隙間に僅かな滲み漏れが確認された。しかし、滲み程度であれば塗膜生成および工程への影響はないことを確認した。
【0100】
(実施例2)
幅が100mmのPPS製芯材からなるインナーディッケルを使用した以外は、実施例1と同じ方法により、三層共押出ダイを用いて流延塗布を行った。また、インナーディッケルを挿入したことによる液漏れや流路異常が生じていないかを目視にて確認した結果、流路とインナーディッケル隙間からに僅かな滲み漏れが確認された。しかし、滲み程度であれば塗膜生成および工程への影響はないことを確認した。
【0101】
(実施例3)
薄膜のシリコーンシーラントを塗布した幅10mmのPPS製芯材をインナーディッケルとして使用した以外は、実施例1と同じ方法により、三層共押出ダイを用いて流延塗布を行った。シリコーンシーラントは、100μm以下の厚みにてPPS製インナーディッケルの表面へ塗布し、三層共押出ダイに組み付けた。加えて、三層共押出ダイの組立後の端面にもシーラントを塗布した。また、インナーディッケルを挿入したことによる液漏れや流路異常が生じていないかを目視にて確認した結果、流路とインナーディッケル隙間から漏れはなかった。
【0102】
(実施例4)
薄膜のシリコーンシーラントを塗布した幅100mmのPPS製芯材をインナーディッケルとして使用した以外は、実施例3と同じ方法により、三層共押出ダイを用いて流延塗布を行った。また、インナーディッケルを挿入したことによる液漏れや流路異常が生じていないかを目視にて確認した結果、流路とインナーディッケル隙間から漏れはなかった。
【0103】
(実施例5)
幅が10mmのPEEK製芯材からなるインナーディッケルを使用した以外は、実施例1と同じ方法により、三層共押出ダイを用いて流延塗布を行った。また、インナーディッケルを挿入したことによる液漏れや流路異常が生じていないかを目視にて確認した結果、流路とインナーディッケル隙間から僅かな滲み漏れが確認された。しかし、滲み程度であれば塗膜生成および工程への影響はないことを確認した。
【0104】
(実施例6)
幅が100mmのPEEK製芯材からなるインナーディッケルを使用した以外は、実施例1と同じ方法により、三層共押出ダイを用いて流延塗布を行った。また、インナーディッケルを挿入したことによる液漏れや流路異常が生じていないかを目視にて確認した結果、流路とインナーディッケル隙間からに僅かな滲み漏れが確認された。しかし、滲み程度であれば塗膜生成および工程への影響はないことを確認した。
【0105】
(実施例7)
薄膜のシリコーンシーラントを塗布した幅10mmのPEEK製芯材をインナーディッケルとして使用した以外は、実施例3と同じ方法により、三層共押出ダイを用いて流延塗布を行った。また、インナーディッケルを挿入したことによる液漏れや流路異常が生じていないかを目視にて確認した結果、流路とインナーディッケル隙間から漏れはなかった。
【0106】
(実施例8)
薄膜のシリコーンシーラントを塗布した幅100mmのPEEK製芯材をインナーディッケルとして使用した以外は、実施例3と同じ方法により、三層共押出ダイを用いて流延塗布を行った。また、インナーディッケルを挿入したことによる液漏れや流路異常が生じていないかを目視にて確認した結果、流路とインナーディッケル隙間から漏れはなかった。
【0107】
(比較例1)
幅が10mmのPTFE製芯材からなるインナーディッケルを使用した以外は、実施例1と同じ方法により、三層共押出ダイを用いて流延塗布を行った。ただし、インナーディッケルを挿入したことによる液漏れや流路異常が生じていないかを目視にて確認した結果、流路とインナーディッケル界面から連続的な液漏れを確認した。ダイス冷却時の温度変化により、PTFE製のインナーディッケルが熱収縮したため、微小な隙間が生じたことが原因と推定している。
【0108】
(比較例2)
薄膜のシリコーンシーラントを塗布した幅10mmのPTFE製芯材をインナーディッケルとして使用した以外は、実施例1と同じ方法により、三層共押出ダイを用いて流延塗布を行った。また、シリコーンシーラントは、100μm以下の厚みにてPTFE製インナーディッケルの表面へ塗布し、三層共押出ダイに組み付けた。加えて、三層共押出ダイの組立後の端面にもシーラントを塗布した。ただし、インナーディッケルを挿入したことによる液漏れや流路異常が生じていないかを目視にて確認した結果、流路とインナーディッケル界面から連続的な液漏れを確認した。ダイス冷却時の温度変化により、PTFE製のインナーディッケルが熱収縮したため、微小な隙間が生じたことが原因と推定している。
【産業上の利用可能性】
【0109】
以上のように、本製造方法では、Tダイに対してインナーディッケルを挿入した場合においても、インナーディッケルの近傍からの樹脂漏れの発生を抑制しつつ、製膜フィルム幅を可変とすることができる。そのため、本発明は、ポリイミドフィルムを製造する分野に利用することができるだけでなく、さらには、これを用いたフレキシブルプリント配線板(FPC)、あるいは高密度記録媒体やその利用分野等、各種電子部品の製造に関わる分野に広く応用することが可能である。
【符号の説明】
【0110】
1 流路
2 インナーディッケル
3 芯材
4 シーラント
10 Tダイ
20 Tダイ出口
21 インナーディッケル先端
22 距離
図1