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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080184
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/46 20060101AFI20240606BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20240606BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20240606BHJP
   C23C 16/509 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
H05H1/46 L
H01L21/205
H01L21/31 C
C23C16/509
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193151
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】大丸 智弘
【テーマコード(参考)】
2G084
4K030
5F045
【Fターム(参考)】
2G084AA01
2G084AA03
2G084AA04
2G084AA05
2G084BB05
2G084BB23
2G084CC13
2G084CC33
2G084DD04
2G084DD12
2G084DD22
2G084DD38
2G084DD40
2G084DD55
2G084FF32
4K030AA04
4K030AA06
4K030AA13
4K030AA14
4K030AA17
4K030AA18
4K030BA29
4K030BA40
4K030BA44
4K030CA12
4K030FA03
4K030KA30
5F045AA08
5F045AB02
5F045AB32
5F045AB33
5F045AC01
5F045AC02
5F045AC11
5F045AC12
5F045BB02
5F045DP04
5F045EB03
5F045EB10
5F045EE04
5F045EH02
5F045EH03
5F045EH11
5F045EJ04
5F045EK07
(57)【要約】
【課題】真空容器の内部に発生するプラズマを均一にする。
【解決手段】プラズマ処理装置(100)は、真空容器(1)の外部に設けられ、高周波電流が導入されて磁界を発生させる通電アンテナ(2)と、真空容器(1)の内部の気密を保持する誘電体板(7)と、真空容器(1)の内部に、通電アンテナ(2)が延伸する方向と同じ方向に延伸するように設けられ、両端部が接地される誘導アンテナ(8)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器と、
前記真空容器の外部に設けられ、高周波電流が導入されて磁界を発生させることにより、前記真空容器の内部にプラズマを発生させるための通電アンテナと、
前記真空容器における前記通電アンテナに臨む位置に形成される開口部での気体の移動を遮断することにより、前記真空容器の内部の気密を保持する誘電体板と、
前記真空容器の内部に、前記通電アンテナが延伸する方向と同じ方向に延伸するように設けられ、両端部が接地される誘導アンテナと、を備えることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記誘導アンテナの両端部は、接地される前記真空容器に接続されることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記誘導アンテナの内部に設けられる冷却機構をさらに備え、
前記冷却機構は、前記誘導アンテナに発生するジュール熱を前記誘導アンテナの外部に導くことを特徴とする請求項1または2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記誘導アンテナの周囲を覆うように設けられ、前記真空容器の内部に発生するプラズマから前記誘導アンテナを保護する保護筒をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記開口部を塞ぐように前記真空容器に設けられ、厚さ方向に貫通するスリットが形成される導体板をさらに備え、
前記誘電体板は、前記導体板に形成される前記スリットを前記真空容器の外側から塞ぐように設けられることにより、前記真空容器の内部の気密を保持することを特徴とする請求項1または2に記載のプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基板を収容する真空容器と、真空容器の内部にプラズマを発生させるための長尺状のアンテナと、アンテナに高周波電流を供給する高周波電源と、を備えるプラズマ処理装置が開示されている。特許文献1に開示のプラズマ処理装置では、真空容器の内部における基板の上方にアンテナが配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-153560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示のプラズマ処理装置では、高周波電源がアンテナに高周波電流を供給する場合、アンテナのインピーダンスに応じて電位差が発生することにより、真空容器の内部に発生するプラズマが均一にならないという問題がある。本発明の一態様は、真空容器の内部に発生するプラズマを均一にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るプラズマ処理装置は、真空容器と、前記真空容器の外部に設けられ、高周波電流が導入されて磁界を発生させることにより、前記真空容器の内部にプラズマを発生させるための通電アンテナと、前記真空容器における前記通電アンテナに臨む位置に形成される開口部での気体の移動を遮断することにより、前記真空容器の内部の気密を保持する誘電体板と、前記真空容器の内部に、前記通電アンテナが延伸する方向と同じ方向に延伸するように設けられ、両端部が接地される誘導アンテナと、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一態様によれば、真空容器の内部に発生するプラズマを均一にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態1に係るプラズマ処理装置の構成の一例を示す断面図である。
図2図1に示すプラズマ処理装置が備える通電アンテナ及び誘導アンテナの等価回路の一例と、誘導アンテナの電位分布と、を示す図である。
図3】本発明の実施形態2に係るプラズマ処理装置の構成の一例を示す断面図である。
図4図3に示すA1-A1線矢視断面図であり、プラズマ処理装置が備える通電アンテナに通電した際の磁界分布を示す図である。
図5図4に示す磁界分布を示す図において、通電アンテナに通電した際の磁力線を示す図である。
図6図3に示すプラズマ処理装置の変形例1において、通電アンテナ及び誘導アンテナ付近を示す断面図である。
図7図3に示すプラズマ処理装置の変形例2において、通電アンテナ及び誘導アンテナ付近を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔実施形態1〕
<プラズマ処理装置100の構成>
図1は、本発明の実施形態1に係るプラズマ処理装置100の構成の一例を示す断面図である。プラズマ処理装置100は、誘導結合型のプラズマP1を用いて基板W1の表面に処理を施すものである。基板W1は、例えば、液晶ディスプレイもしくは有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)用の基板、または、フレキシブルディスプレイ用のフレキシブル基板等である。また、基板W1に施す処理は、例えば、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法もしくはスパッタ法による膜形成、プラズマによるエッチング、アッシングまたは被覆膜除去等である。
【0009】
図1に示すように、プラズマ処理装置100は、真空容器1と、通電アンテナ2と、高周波電源3と、整合回路31と、真空排気装置4と、基板ホルダ5と、ヒータ51と、を備える。また、プラズマ処理装置100は、バイアス電源6と、誘電体板7と、誘導アンテナ8と、保護筒9と、冷却機構10と、を備える。
【0010】
<真空容器1の構成>
真空容器1は、例えば金属製の容器であり、真空容器1の上壁1Aには、開口部OPが形成されている。開口部OPは、上壁1Aにおける通電アンテナ2に臨む位置に形成される。真空容器1は、グランドG1と接続されることにより電気的に接地されている。真空容器1の内部は真空排気装置4によって真空排気される。真空容器1の内部には、例えば図示しない流量調整器、または、真空容器1に形成される少なくとも1つのガス導入口1Bを経由して、ガスGSが導入される。
【0011】
ガスGSは、基板W1に施す処理内容に応じたものにすればよい。例えば、プラズマCVD法によって基板W1に膜形成を行う場合には、ガスGSは、原料ガスまたはそれを希釈ガス(例えばH)で希釈したガスである。原料ガスがSiHの場合はSi膜を、SiH+NHの場合はSiN膜を、SiH+Oの場合はSiO膜を、SiF+Nの場合はSiN:F膜(フッ素化シリコン窒化膜)を、それぞれ基板W1上に形成することができる。
【0012】
<基板ホルダ5の構成>
真空容器1の内部には、基板W1を保持する基板ホルダ5が設けられている。基板ホルダ5にはバイアス電源6からバイアス電圧が印加されてもよい。バイアス電圧は、例えば負の直流電圧または負のバイアス電圧等であるが、これに限られるものではない。このようなバイアス電圧によって、例えば、プラズマP1中の正イオンが基板W1に入射する時のエネルギーを制御して、基板W1の表面に形成される膜の結晶化度の制御等を行うことができる。基板ホルダ5内には、基板W1を加熱するヒータ51が設けられていてもよい。バイアス電源6はグランドG4に接続されている。
【0013】
<通電アンテナ2の構成>
通電アンテナ2は、真空容器1の外部に設けられており、開口部OPに臨む位置に配置されている。通電アンテナ2は、高周波電流I1が導入されて磁界を発生させることにより、真空容器1の内部にプラズマP1を発生させるためのものである。通電アンテナ2の形状は、棒状または円筒状である。通電アンテナ2の本数は1本に限らず、複数本であってもよい。
【0014】
通電アンテナ2の一端部である給電端部2Aは、整合回路31を介して、高周波電源3に接続されている。通電アンテナ2の他端部である終端部2Bは、グランドG3と接続されることにより電気的に接地されている。なお、終端部2Bは、コンデンサまたはコイル等を介してグランドG3と接続されてもよい。
【0015】
<高周波電源3の構成>
高周波電源3は、整合回路31を介して、通電アンテナ2に高周波電流I1を通電させることができる。高周波の周波数は例えば一般的な13.56MHzであるが、これに限られるものではなく適宜変更されてもよい。高周波電源3はグランドG2と接続されている。高周波電源3によって通電アンテナ2に高周波電流I1が導入されることにより、通電アンテナ2の周囲に磁界が発生する。
【0016】
<誘電体板7の構成>
誘電体板7は、開口部OPを真空容器1の外側から塞ぐように、上壁1Aに設けられている。誘電体板7は、全体が誘電体物質で構成された平板状をなすものであり、例えばアルミナ、炭化ケイ素もしくは窒化ケイ素等のセラミックス、石英ガラス、無アルカリガラス等の無機材料、または、フッ素樹脂等の樹脂材料等からなる。
【0017】
誘電体板7は、開口部OPでの気体の移動を遮断することにより、真空容器1の内部の気密を保持する。誘電体板7は、通電アンテナ2の周囲に発生する磁界を真空容器1の内部に透過させる。これにより、真空容器1の内部において、磁界が形成されて誘導電界が発生し、誘導電界によってガスGSが電離されることによりプラズマP1が発生する。なお、誘電体板7は、開口部OPを真空容器1の内側から塞ぐように、真空容器1の内壁に設けられていてもよい。
【0018】
<誘導アンテナ8の構成>
誘導アンテナ8は、真空容器1の内部に、通電アンテナ2が延伸する方向と同じ方向に延伸するように設けられている。また、誘導アンテナ8は、誘電体板7に臨む位置に配置されている。誘導アンテナ8の形状は、棒状または円筒状である。誘導アンテナ8の本数は1本に限らず、複数本であってもよい。誘導アンテナ8と通電アンテナ2との間の距離は、例えば約5cmである。誘導アンテナ8は通電されていない。
【0019】
誘導アンテナ8の両端部、つまり、一端部8A及び他端部8Bは、電気的に接地される真空容器1の内壁に接続されている。一端部8A及び他端部8Bが、接地される真空容器1に接続されることにより、一端部8A及び他端部8Bは電気的に接地される。誘導アンテナ8の各部には、真空容器1の内部に形成される磁界により誘導電流が流れる。これにより、通電アンテナ2と誘導アンテナ8との間の磁界強度及び誘導電界強度が大きくなる。
【0020】
<保護筒9の構成>
保護筒9は、誘導アンテナ8の周囲を覆うように設けられ、真空容器1の内部に発生するプラズマP1から誘導アンテナ8を保護する。保護筒9は絶縁性材料から構成される。保護筒9が真空容器1の内部に発生するプラズマP1から誘導アンテナ8を保護することにより、プラズマP1によって誘導アンテナ8が摩耗することを低減できる。保護筒9の両端部は、真空容器1の内壁に接続されている。
【0021】
<冷却機構10の構成>
冷却機構10は、温調機構11と、循環機構12と、循環流路13と、を備える。温調機構11は、循環流路13を循環して流通する冷却液を一定温度に調整するための熱交換器等である。循環機構12は、循環流路13に冷却液を循環させるためのポンプ等である。循環流路13は、通電アンテナ2の内部に設けられており、真空容器1を貫通して誘導アンテナ8の内部に設けられている。
【0022】
循環流路13は、通電アンテナ2に発生するジュール熱を通電アンテナ2の外部に導くものであり、誘導アンテナ8に発生するジュール熱を誘導アンテナ8の外部に導くものである。よって、ジュール熱が発生することによって温度が上昇した通電アンテナ2及び誘導アンテナ8を冷却機構10によって冷却することができる。したがって、通電アンテナ2及び誘導アンテナ8の温度が過度に上昇することを防ぐことができる。
【0023】
通電アンテナ2には、通電アンテナ2に高周波電流I1が通電される場合にジュール熱が発生する。また、誘導アンテナ8には、誘導アンテナ8に誘導電流が流れる場合にジュール熱が発生する。循環流路13を流通する冷却液としては、電気絶縁の観点から、高抵抗の水が好ましく、例えば純水またはそれに近い水が好ましい。また、当該冷却液としては、例えばフッ素系不活性液体等の水以外の液冷媒を用いてもよい。
【0024】
<誘導アンテナ8に発生する起電力及び電圧降下>
図2は、図1に示すプラズマ処理装置100が備える通電アンテナ2及び誘導アンテナ8の等価回路の一例と、誘導アンテナ8の電位分布と、を示す図である。図2に示すように、通電アンテナ2は、通電アンテナ2が延伸する方向における各微小領域において、インダクタンス成分L2及びインピーダンス成分R2を有する。インダクタンス成分L2は、通電アンテナ2の微小長さあたりのインダクタンスである。インピーダンス成分R2は、通電アンテナ2の微小長さあたりのインピーダンスである。
【0025】
また、誘導アンテナ8は、誘導アンテナ8が延伸する方向における各微小領域において、インダクタンス成分L8及びインピーダンス成分R8を有する。インダクタンス成分L8は、誘導アンテナ8の微小長さあたりのインダクタンスである。インピーダンス成分R8は、誘導アンテナ8の微小長さあたりのインピーダンスである。
【0026】
通電アンテナ2及び誘導アンテナ8の等価回路の下側に示す誘導アンテナ8の電位分布について、横軸の位置X1は、誘導アンテナ8の延伸方向における位置を示し、縦軸の電位V1は、誘導アンテナ8の位置X1に対する電位を示す。
【0027】
インダクタンス成分L8により、誘導アンテナ8において位置SP1と位置SP2との間に起電力が発生し、誘導アンテナ8において位置SP4と位置SP5との間に起電力が発生する。インピーダンス成分R8により、誘導アンテナ8において位置SP2と位置SP3との間に電圧降下が発生し、誘導アンテナ8において位置SP5と位置SP6との間に電圧降下が発生する。
【0028】
誘導アンテナ8の両端部が接地されているため、誘導アンテナ8が延伸する方向における各微小領域において、誘導アンテナ8に発生する起電力及び電圧降下の大きさは、いずれもV2となる。よって、誘導アンテナ8が延伸する方向における各微小領域において、誘導アンテナ8のインダクタンスによる起電力と、誘導アンテナ8のインピーダンスによる電圧降下と、が一致する。これにより、誘導アンテナ8の全体の電位差をほとんどゼロにすることができる。
【0029】
以上により、プラズマ処理装置100では、真空容器1の外部に通電アンテナ2が設けられ、真空容器1の内部に誘導アンテナ8が設けられる。これにより、通電アンテナ2に高周波電流I1が導入されることにより真空容器1の内部に誘導電界が発生し、真空容器1の内部に発生した誘導電界によって誘導アンテナ8に誘導電流が流れる。
【0030】
また、誘導アンテナ8の両端部が接地されているため、誘導アンテナ8が延伸する方向における微小領域において、誘導電界によって誘導アンテナ8に発生する起電力と、誘導アンテナ8のインピーダンスによる電圧降下と、が一致する。これにより、誘導アンテナ8の全体を接地させることができる。
【0031】
磁界により発生する誘導電界によって誘導アンテナ8に誘導電流を流し、誘導アンテナ8の全体を接地させることにより、真空容器1の内部に発生するプラズマP1を均一にすることができる。さらに、誘導アンテナ8の電位は、通電アンテナ2のインピーダンスとは無関係である。このため、通電アンテナ2のインピーダンスを低減するために、通電アンテナ2に容量性リアクタンス等を組み込む必要がなく、通電アンテナ2の構造を単純化することができる。
【0032】
〔実施形態2〕
本発明の実施形態2について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、実施形態1にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。図3は、本発明の実施形態2に係るプラズマ処理装置101の構成の一例を示す断面図である。
【0033】
<プラズマ処理装置101の構成>
プラズマ処理装置101は、プラズマ処理装置100に比べて、導体板14を備える点と、誘電体板7の位置と、が異なる。導体板14は、開口部OPを真空容器1の外側から塞ぐように真空容器1の上壁1Aに設けられている。導体板14は、通電アンテナ2から真空容器1に向かう方向から視認した場合において開口部OPよりも大きいものである。
【0034】
導体板14には、導体板14の厚さ方向に貫通する複数のスリット141が形成されている。導体板14の厚さ方向は、通電アンテナ2から誘導アンテナ8に向かう方向である。複数のスリット141は互いに平行になるように形成されている。通電アンテナ2から発生する磁界は、誘電体板7を介して複数のスリット141から真空容器1の内部に導入される。導体板14は、接地される真空容器1に設けられることにより、電気的に接地される。
【0035】
導体板14は、電気的に接地されることにより、通電アンテナ2から発生する磁界を真空容器1の内部に透過させるとともに、通電アンテナ2に高周波電流I1が導入される場合に通電アンテナ2の電位に由来して発生する電界を遮断するものとなる。導体板14の形状は平板状である。導体板14の機械強度は誘電体板7の機械強度よりも高いことが好ましく、導体板14の厚さは誘電体板7の厚さよりも大きいことが好ましい。
【0036】
導体板14は、例えばCu、Al、Zn、Ni、Sn、Si、Ti、Fe、Cr、Nb、C、Mo、WもしくはCoを含む群から選択される1種の金属またはそれらの合金(例えばステンレス合金またはアルミニウム合金等)等の金属材料から構成される。導体板14と上壁1Aとの間には、Oリングまたはガスケット等のシール部材が介在しており、これらの間は真空シールされている。
【0037】
誘電体板7は、導体板14に形成される複数のスリット141を真空容器1の外側から塞ぐように設けられることにより、複数のスリット141での気体の移動を遮断する、つまり、開口部OPでの気体の移動を遮断する。これにより、誘電体板7は、真空容器1の内部の気密を保持する。
【0038】
導体板14が開口部OPを塞ぐように真空容器1に設けられるため、通電アンテナ2に高周波電流I1が導入される場合に、通電アンテナ2の電位に由来して発生する電界を導体板14によって遮断することができる。よって、通電アンテナ2の電位差によるプラズマP1への影響を抑制でき、真空容器1の内部に発生するプラズマP1をより均一にすることができる。
【0039】
また、誘電体板7が導体板14に形成されるスリット141を塞ぐ構造により、通電アンテナ2から発生する磁界を真空容器1の内部に導入させつつ、真空容器1の内部の気密を保持することができる。
【0040】
ここでは誘電体板7の厚さを導体板14の厚さよりも小さくしているが、これに限られない。例えば真空容器1を真空排気した状態において、誘電体板7はスリット141から受ける真空容器1の内外の差圧に耐え得る強度を備えればよく、スリット141の数または長さ等の仕様に応じて誘電体板7の厚さが適宜設定されてもよい。ただし、通電アンテナ2と真空容器1との間の距離を短くする観点から、誘電体板7の厚さは薄いことが好ましい。
【0041】
誘電体板7及び導体板14は、磁界を透過させる磁界透過窓として機能する。つまり、通電アンテナ2から発生した磁界が、誘電体板7及び導体板14からなる磁界透過窓を透過して真空容器1の内部に形成される。これにより、真空容器1の内部の空間に誘導電界が発生し、誘導結合型のプラズマP1が生成される。
【0042】
なお、導体板14は、開口部OPを真空容器1の内側から塞ぐように、真空容器1の内壁に設けられていてもよい。この場合、誘電体板7は、複数のスリット141を真空容器1の内側から塞ぐように設けられる。
【0043】
<通電アンテナ2及び誘導アンテナ8付近の磁界分布>
図4は、図3に示すA1-A1線矢視断面図であり、プラズマ処理装置101が備える通電アンテナ2に通電した際の磁界分布を示す図である。図4において、誘電体板7よりも上側は真空容器1の外部であり、誘電体板7よりも下側は真空容器1の内部である。図4に示すように、通電アンテナ2に高周波電流I1が流れると、誘導アンテナ8には、高周波電流I1が流れる方向とは逆方向に誘導電流I2が流れる。
【0044】
通電アンテナ2と誘導アンテナ8との間の空間での磁界強度は、当該空間の外側での磁界強度よりも強くなる。通電アンテナ2と誘導アンテナ8との間の空間のうち、通電アンテナ2の近傍及び誘導アンテナ8の近傍で磁界強度は特に強くなる。
【0045】
図4に示すように、通電アンテナ2に高周波電流I1が流れる場合、真空容器1の内部には、プラズマP1を発生させるために十分な磁界強度を有する磁界が発生する。なお、通電アンテナ2の直径は、誘導アンテナ8の直径よりも大きくてもよい。これにより、通電アンテナ2のインピーダンスがより小さくなるため、通電アンテナ2に高周波電流I1が流れやすくなる。
【0046】
図5は、図4に示す磁界分布を示す図において、通電アンテナ2に通電した際の磁力線M1を示す図である。通電アンテナ2に高周波電流I1が流れ、誘導アンテナ8に誘導電流I2が流れることにより、通電アンテナ2及び誘導アンテナ8の磁力線M1の方向は図4に示す方向となる。具体的には、通電アンテナ2の周囲において磁力線M1の方向は、通電アンテナ2に対して右回りの方向であり、誘導アンテナ8の周囲において磁力線M1の方向は、誘導アンテナ8に対して左回りの方向である。
【0047】
〔変形例1〕
図6は、図3に示すプラズマ処理装置101の変形例1において、通電アンテナ2及び誘導アンテナ8付近を示す断面図である。図6に示すように、変形例1に係るプラズマ処理装置は、プラズマ処理装置101に比べて、複数の通電アンテナ2と複数の誘導アンテナ8とが1対1に対応して配置されている点が異なる。
【0048】
複数の通電アンテナ2のそれぞれは、誘電体板7及びスリット141を介して、対応する誘導アンテナ8に対向するように配置されている。なお、複数のスリット141は、複数の通電アンテナ2と1対1に対応して導体板14に形成されていてもよく、複数の誘導アンテナ8と1対1に対応して導体板14に形成されていてもよい。
【0049】
〔変形例2〕
図7は、図3に示すプラズマ処理装置101の変形例2において、通電アンテナ2及び誘導アンテナ8付近を示す断面図である。図7に示すように、変形例2に係るプラズマ処理装置は、プラズマ処理装置101に比べて、1本の通電アンテナ2に対して複数の誘導アンテナ8が対応して配置されている点と、導体板14が導体板14Aに変更されている点と、が異なる。このように、複数の通電アンテナ2と複数の誘導アンテナ8とは1対1に対応して配置されていなくてもよい。
【0050】
導体板14Aは、水平部142及び突出部143を有する。水平部142は、水平方向に延伸しており、真空容器1の上壁1Aに設けられている。突出部143は、水平部142から下方に突出するように形成されており、突出部143における真空容器1の外側には凹部144が形成されている。
【0051】
通電アンテナ2は、凹部144に囲まれる位置に配置されている。凹部144には、複数のスリット141が形成されている。誘電体板7は、複数のスリット141を真空容器1の外側から塞ぐように凹部144に設けられる。複数の誘導アンテナ8はそれぞれ、誘電体板7及びスリット141を介して、1本の通電アンテナ2に対向するように配置されている。なお、複数のスリット141と複数の誘導アンテナ8とが1対1に対応して配置されていてもよい。
【0052】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係るプラズマ処理装置は、真空容器と、前記真空容器の外部に設けられ、高周波電流が導入されて磁界を発生させることにより、前記真空容器の内部にプラズマを発生させるための通電アンテナと、前記真空容器における前記通電アンテナに臨む位置に形成される開口部での気体の移動を遮断することにより、前記真空容器の内部の気密を保持する誘電体板と、前記真空容器の内部に、前記通電アンテナが延伸する方向と同じ方向に延伸するように設けられ、両端部が接地される誘導アンテナと、を備える。
【0053】
真空容器の外部に通電アンテナが設けられ、真空容器の内部に誘導アンテナが設けられる。これにより、通電アンテナに高周波電流が導入されることにより真空容器の内部に誘導電界が発生し、真空容器の内部に発生した誘導電界によって誘導アンテナに誘導電流が流れる。
【0054】
また、誘導アンテナの両端部が接地されているため、誘導アンテナが延伸する方向における微小領域において、誘導電界によって誘導アンテナに発生する起電力と、誘導アンテナのインピーダンスによる電圧降下と、が一致する。これにより、誘導アンテナの全体を接地させることができる。
【0055】
磁界により発生する誘導電界によって誘導アンテナに誘導電流を流し、誘導アンテナの全体を接地させることにより、真空容器の内部に発生するプラズマを均一にすることができる。
【0056】
本発明の態様2に係るプラズマ処理装置は、上記態様1において、前記誘導アンテナの両端部は、接地される前記真空容器に接続されてもよい。誘導アンテナの両端部が、接地される真空容器に接続されることにより、誘導アンテナの両端部は接地される。
【0057】
本発明の態様3に係るプラズマ処理装置は、上記態様1または2において、前記誘導アンテナの内部に設けられる冷却機構をさらに備え、前記冷却機構は、前記誘導アンテナに発生するジュール熱を前記誘導アンテナの外部に導いてもよい。ジュール熱が発生することによって温度が上昇した誘導アンテナを冷却機構によって冷却することができる。
【0058】
本発明の態様4に係るプラズマ処理装置は、上記態様1から3のいずれかにおいて、前記誘導アンテナの周囲を覆うように設けられ、前記真空容器の内部に発生するプラズマから前記誘導アンテナを保護する保護筒をさらに備えてもよい。保護筒が真空容器の内部に発生するプラズマから誘導アンテナを保護することにより、プラズマによって誘導アンテナが摩耗することを低減できる。
【0059】
本発明の態様5に係るプラズマ処理装置は、上記態様1から4のいずれかにおいて、前記開口部を塞ぐように前記真空容器に設けられ、厚さ方向に貫通するスリットが形成される導体板をさらに備え、前記誘電体板は、前記導体板に形成される前記スリットを前記真空容器の外側から塞ぐように設けられることにより、前記真空容器の内部の気密を保持してもよい。
【0060】
導体板が開口部を塞ぐように真空容器に設けられるため、通電アンテナに高周波電流が導入される場合に、通電アンテナの電位に由来して発生する電界を導体板によって遮断することができる。よって、通電アンテナの電位差によるプラズマへの影響を抑制でき、真空容器の内部に発生するプラズマをより均一にすることができる。また、誘電体板が導体板に形成されるスリットを塞ぐ構造により、通電アンテナから発生する磁界を真空容器の内部に導入させつつ、真空容器の内部の気密を保持することができる。
【0061】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
1 真空容器
2 通電アンテナ
7 誘電体板
8 誘導アンテナ
9 保護筒
10 冷却機構
14 導体板
100、101 プラズマ処理装置
141 スリット
I1 高周波電流
OP 開口部
P1 プラズマ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7