(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080188
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】塗装鋼板
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20240606BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20240606BHJP
C23C 2/12 20060101ALI20240606BHJP
B32B 27/38 20060101ALI20240606BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20240606BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20240606BHJP
C09D 161/28 20060101ALI20240606BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240606BHJP
【FI】
B32B15/08 G
C23C28/00 C
C23C2/12
B32B27/38
C09D5/00 D
C09D163/00
C09D161/28
C09D7/61
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193163
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000200323
【氏名又は名称】JFE鋼板株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】大島 安秀
(72)【発明者】
【氏名】藤沢 英嗣
(72)【発明者】
【氏名】大澤 佑介
(72)【発明者】
【氏名】進 修
【テーマコード(参考)】
4F100
4J038
4K027
4K044
【Fターム(参考)】
4F100AA01C
4F100AA01D
4F100AA17C
4F100AA18D
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4F100AK01C
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4J038DA161
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4K044BA10
4K044BA12
4K044BA21
4K044BB03
4K044BB04
4K044BC02
4K044BC04
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】化成処理皮膜とプライマー塗膜との密着性が良好であり、加工部及び切断端部の耐食性に優れた塗装鋼板を提供する。
【解決手段】上記目的を達成するべく、本発明は、化成処理皮膜は、樹脂成分及び無機化合物を含み、前記樹脂成分として、ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂を30~54質量%含有し、前記無機化合物として、バナジウム酸化物、ジルコニウム酸化物及びフッ素化合物を合計で46~70質量%含有し、プライマー塗膜は、樹脂成分及び無機化合物を含み、前記樹脂成分としてウレタン結合を有するエポキシ樹脂(e)及びメラミン樹脂(m)を、合計で40~88質量%含有し、前記エポキシ樹脂(e)と前記メラミン樹脂(m)の含有量が質量比で(e):(m)=97:3~60:40であり、前記無機化合物として、バナジウム化合物を4~20質量%、リン酸化合物を4~20質量%及び酸化マグネシウムを4~20質量%含有することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al:50~60質量%、Si:1~3質量%及び任意添加成分:0~6質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成のめっき層を有する、溶融Al-Zn系めっき鋼板と、
前記溶融Al-Zn系めっき鋼板の少なくとも片面上に形成された、クロメート系化合物を含有しない化成処理皮膜と、
前記化成処理皮膜上に形成された、クロメート系化合物を含有しないプライマー塗膜と、
前記プライマー塗膜上に形成された上塗り塗膜と、
を備えた塗装鋼板であって、
前記化成処理皮膜は、樹脂成分及び無機化合物を含み、前記樹脂成分として、ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂を30~54質量%含有し、前記無機化合物として、バナジウム酸化物、ジルコニウム酸化物及びフッ素化合物を、合計で46~70質量%含有し、
前記プライマー塗膜は、樹脂成分及び無機化合物を含み、前記樹脂成分として、ウレタン結合を有するエポキシ樹脂(e)及びメラミン樹脂(m)を、合計で40~88質量%含有し、前記エポキシ樹脂(e)と前記メラミン樹脂(m)の含有量が、質量比で(e):(m)=97:3~60:40であり、前記無機化合物として、バナジウム化合物を4~20質量%、リン酸化合物を4~20質量%及び酸化マグネシウムを4~20質量%含有する
ことを特徴とする、塗装鋼板。
【請求項2】
前記化成処理皮膜の付着量が、0.025~0.5g/m2であり、前記プライマー塗膜の厚さが、3~10μmであることを特徴とする、請求項1に記載の塗装鋼板。
【請求項3】
前記プライマー塗膜中の前記ウレタン結合を有するエポキシ樹脂(e)の含有量(e1質量%)と、前記化成処理皮膜中のビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂の含有量(e2質量%)が、e1/e2=0.8~1.9の関係を満たすことを特徴とする、請求項1又は2に記載の塗装鋼板。
【請求項4】
前記化成処理皮膜は、前記無機化合物として、前記バナジウム酸化物を2~10質量%、前記ジルコニウム酸化物を36~60質量%、前記フッ素化合物をフッ素原子換算で0.5~5質量%含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の塗装鋼板。
【請求項5】
前記めっき皮膜のマイクロビッカース硬さ(JIS Z2244:2009)が、60~100HV0.01であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の塗装鋼板。
【請求項6】
前記めっき層が、前記任意添加成分としてMg:1~5質量%を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の塗装鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化成処理皮膜とプライマー塗膜との密着性が良好であり、加工部及び切断端部の耐食性に優れた塗装鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛又は亜鉛を含む合金をめっきした鋼板(以下「亜鉛系めっき鋼板」という。)の表面に、化成処理皮膜及びプライマー塗膜を形成し、その上に様々な塗膜を形成した塗装鋼板は、品質の安定性や需要家での塗装工程省略による合理化等多くのメリットがあることから、建築物の屋根・壁等の外装材やパーティション等の内装材、電機機器製品の各部材等として、広く使用されている。
通常、このような塗装鋼板はコイルで製造されるが、所定サイズに切断された後に、プレス成形やロール成形、あるいはエンボス成形によって90度曲げあるいは180度曲げ等を含む様々な加工を施されて使用されるため、塗装鋼板には切断・加工部においても長期の耐久性能が要求される。
【0003】
これらの要求に応えるため、亜鉛系めっき鋼板に、クロメートを含有する化成処理を施し、クロメート系防錆顔料を含有させたプライマー塗膜を形成した上に、上塗り塗膜として、熱硬化型のポリエステル系樹脂塗膜やより耐候性の高い要求に対してはフッ素系樹脂塗膜を形成した塗装鋼板とするのが一般的であった。
しかし昨今、環境負荷物質であるクロメートを使用することが問題視されており、クロメートを含まない塗装鋼板が強く望まれることから、クロメートフリーの塗装鋼板が多く開発されている。
【0004】
一方で、55%Al-Zn系めっき鋼板のような溶融Al-Zn系めっき鋼板は、良好な耐食性を有する反面、機械的特性、特に、伸び特性に劣る傾向があった。そのため、折り曲げ等の加工を行うと、加工の程度によっては加工部のめっき層に亀裂が生じ、該亀裂部分に起因した耐食性悪化等を引き起こすおそれがあり、使用上問題となる場合がある。
また、55%Al-Zn系めっき鋼板のようなAl比率の高い溶融Al-Zn系めっき鋼板では、切断端部において、犠牲防食のためにめっき層中のZnが優先的に溶解するが、めっき層中のZnの比率が少ないため、腐食初期の切断端部からの腐食幅が大きくなる傾向にあった。
【0005】
このような問題に対して、例えば、特許文献1には、プライマー塗膜にモリブデン化合物等の非クロメート系防錆顔料を配合した塗料組成物を、亜鉛めっき鋼板に化成処理皮膜を介して塗装した塗装亜鉛めっき鋼板が開示されている。
しかしながら、適用される亜鉛めっき鋼板が亜鉛を94%以上含むものに限定されており、また化成処理皮膜としてクロメートを適用することから、クロメートフリーの塗装鋼板とはいえないものであった。
【0006】
また、特許文献2は、樹脂とクロメートフリー系防錆顔料からなる下地処理剤(化成処理皮膜)が開示されている。
さらに、特許文献3には、樹脂とクロメートフリー系防錆顔料からなる下地処理剤(化成処理皮膜)を用いた塗装亜鉛系めっき鋼板が開示されている。
さらにまた、特許文献4には、特定のいずれも非クロメート系の防錆顔料を含んだ化成処理皮膜とプライマー塗膜を形成した塗装亜鉛系めっき鋼板で、トータルでの防錆性向上を狙った技術が開示されている。
しかしながら、特許文献2~4のいずれの技術についても、耐食性、特に曲げ加工部や切断端部の耐食性が十分に得られないという問題があった。
【0007】
そのため、特に曲げ加工部や切断端部の耐食性の改善を目的としたクロメートフリーの塗装鋼板に関する技術が望まれている。
例えば特許文献5には、亜鉛系めっき鋼板と、化成処理皮膜と、プライマー塗膜と、上塗り塗膜と、を備えた塗装鋼板について、化成処理皮膜及びプライマー塗膜を構成する樹脂成分及び無機化合物の種類及び含有等を調整することで、加工部や切断端部における耐食性の改善を図る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-291162号公報
【特許文献2】特開2009-127057号公報
【特許文献3】特開2014-214315号公報
【特許文献4】特開2005-169765号公報
【特許文献5】特開2016-176118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献5の技術では、化成処理皮膜とプライマー塗膜が共通のウレタン結合を有することで密着性が向上し、ある程度の加工部の耐食性が得られるものの、厳しい曲げ加工部や切断端部の耐食性は十分とはいえず、さらなる改善が望まれていた。
また、従来の塗装鋼板では、化成処理皮膜とプライマー塗膜との間で塗膜の剥がれが生じるおそれがあり、化成処理皮膜とプライマー塗膜との密着性についても、さらなる改善が望まれていた。
【0010】
かかる事情を鑑み、本発明は、特に、優れた耐食性が期待できる50質量%以上のAlを含有する溶融Al-Zn系めっき鋼板を下地として、化成処理皮膜とプライマー塗膜との密着性が良好であり、加工部及び切断端部の耐食性に優れた塗装鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、Al:50~60質量%、Si:1~3質量%及び任意添加成分:0~6質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有する、溶融Al-Zn系めっき鋼板と、前記溶融Al-Zn系めっき鋼板の少なくとも片面上に形成された、クロメート系化合物を含有しない化成処理皮膜と、前記化成処理皮膜上に形成された、クロメート系化合物を含有しないプライマー塗膜と、前記プライマー塗膜上に形成された上塗り塗膜と、を備えた塗装鋼板について、上記の課題を解決すべく検討を行った。
その結果、化成処理皮膜について、エポキシ樹脂成分及びバナジウム酸化物等の無機化合物を一定の割合で含有させ、さらに、プライマー塗膜について、ウレタン結合を有するエポキシ樹脂を一定の割合で含有させるとともに、バナジウム化合物等の無機化合物を含有させることによって、耐食性を最大限に発揮する特定の共通要素であるエポキシ樹脂を一定の割合で含んだ状態で化成処理皮膜とプライマー塗膜が形成されるため、化成処理皮膜とプライマー塗膜との密着性を高め、加工部及び切断端部の耐食性を向上できることを見出した。
【0012】
本発明は、以上の知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
1.Al:50~60質量%、Si:1~3質量%及び任意添加成分:0~6質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成のめっき層を有する、溶融Al-Zn系めっき鋼板と、
前記溶融Al-Zn系めっき鋼板の少なくとも片面上に形成された、クロメート系化合物を含有しない化成処理皮膜と、
前記化成処理皮膜上に形成された、クロメート系化合物を含有しないプライマー塗膜と、
前記プライマー塗膜上に形成された上塗り塗膜と、
を備えた塗装鋼板であって、
前記化成処理皮膜は、樹脂成分及び無機化合物を含み、前記樹脂成分として、ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂を30~54質量%含有し、前記無機化合物として、バナジウム酸化物、ジルコニウム酸化物及びフッ素化合物を、合計で46~70質量%含有し、
前記プライマー塗膜は、樹脂成分及び無機化合物を含み、前記樹脂成分として、ウレタン結合を有するエポキシ樹脂(e)及びメラミン樹脂(m)を合計で40~88質量%含有し、前記エポキシ樹脂(e)と前記メラミン樹脂(m)の含有量が、質量比で(e):(m)=97:3~60:40であり、前記無機化合物として、バナジウム化合物を4~20質量%、リン酸化合物を4~20質量%及び酸化マグネシウムを4~20質量%含有する
ことを特徴とする、塗装鋼板。
【0013】
2.前記化成処理皮膜の付着量が、0.025~0.5g/m2であり、前記プライマー塗膜の厚さが、3~10μmであることを特徴とする、前記1に記載の塗装鋼板。
【0014】
3.前記プライマー塗膜中の前記ウレタン結合を有するエポキシ樹脂(e)の含有量(e1質量%)と、前記化成処理皮膜中のビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂の含有量(e2質量%)が、e1/e2=0.8~1.9の関係を満たすことを特徴とする、前記1又は2に記載の塗装鋼板。
【0015】
4.前記化成処理皮膜は、前記無機化合物として、前記バナジウム酸化物を2~10質量%、前記ジルコニウム酸化物を36~60質量%、前記フッ素化合物をフッ素原子換算で0.5~5質量%含有することを特徴とする、前記1~3のいずれかに記載の塗装鋼板。
【0016】
5.前記めっき皮膜のマイクロビッカース硬さ(JIS Z2244:2009)が、60~100HV0.01であることを特徴とする、前記1~4のいずれかに記載の塗装鋼板。
【0017】
6.前記めっき層が、前記任意添加成分としてMg:1~5質量%を含有することを特徴とする、前記1~4のいずれかに記載の塗装鋼板。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、化成処理皮膜とプライマー塗膜との密着性が良好であり、加工部及び切断端部の耐食性に優れた塗装鋼板を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の塗装鋼板は、Al:50~60質量%、Si:1~3質量%及び任意添加成分:0~6質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有する、溶融Al-Zn系めっき鋼板と、
前記溶融Al-Zn系めっき鋼板の少なくとも片面上に形成された、クロメート系化合物を含有しない化成処理皮膜と、
前記化成処理皮膜上に形成された、クロメート系化合物を含有しないプライマー塗膜と、
前記プライマー塗膜上に形成された上塗り塗膜と、
を備えた塗装鋼板である。
【0020】
(溶融Al-Zn系めっき鋼板)
前記溶融Al-Zn系めっき鋼板は、Al:50~60質量%、Si:1~3質量%及び任意添加成分:0~6質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成のめっき層を有する。前記溶融Al-Zn系めっき鋼板のめっき層が、上述した組成を有することによって、めっき層中にデンドライト相及び該デンドライト相を網目状に取り囲んだインターデンドライト相を形成でき、耐食性の向上を図ることができる。
【0021】
ここで、前記めっき層中のAl含有量は、耐食性と操業面のバランスから50~60質量%である。前記めっき層のAl含有量が少なくとも50質量%あれば、Alのデンドライト凝固が十分に起こる。これにより、前記めっき層は主としてZnを過飽和に含有し、Alがデンドライト凝固した部分(α-Alのデンドライト相)と残りのデンドライト間隙の部分(インターデンドライト相)からなり且つ該デンドライト相がめっき層の膜厚方向に積層した耐食性に優れる構造を実現できる。また、前記めっき層の表面にAlの表面酸化膜が安定に存在することで耐食性を高めることができる。一方、前記めっき層中のAl含有量が60質量%を超えると、Feに対して犠牲防食作用をもつZnの含有量が少なくなり、耐食性が劣化する。このため、前記めっき層中のAl含有量は60質量%以下とする。また、上述した観点から、前記めっき層中のAl含有量は、55質量%程度であることが好ましい。
【0022】
また、前記めっき層中のSiは、下地鋼板との界面に生成する界面合金層の成長を抑制することにより、加工性および耐食性を向上させることを目的にめっき浴中に添加される。前記界面合金層は、硬くて脆いため、厚く成長すると加工時のクラック発生の起点となることから、できるだけ薄くすることが好ましいためである。溶融Al-Zn系めっき鋼板の場合、めっき浴中にSiを含有させて溶融めっき処理を行うと、下地鋼板がめっき浴中に浸漬されると同時に、鋼板表面のFeと浴中のAlやSiが合金化反応し、Fe-Al系及び/又はFe-Al-Si系の化合物からなる合金を生成する。このFe-Al-Si系界面合金層の生成によって、界面合金層の成長を抑制することができる。そして、前記めっき層中のSi含有量が1質量%以上の場合には、前記界面合金層の成長を十分に抑制できる。一方、めっき層のSi含有量が、3質量%を超えた場合、めっき層において、加工性を低下させ、カソードサイトとなるSi相が析出し易くなる。このSi相の析出は、Mg含有量を増やすことで抑制できるが、その場合、製造コストの上昇や、Mg2Siの量が多くなることに起因した加工性の低下を招き、まためっき浴の組成管理をより困難にしてしまう。このため、めっき層中のSi含有量は3質量%以下とする。同様の観点から、前記めっき層中のSiの含有量は、1~2質量%であることが好ましい。
【0023】
前記めっき層は、Al、Si以外の成分としてZnを含有する。前記めっき層にZnを含有することで、犠牲防食作用を得ることができ、耐食性の向上を図ることが可能となる。
【0024】
さらに、前記めっき層は、上述したAl、Si及びZnに加えて、任意添加成分を0~6質量%含有することができる。
ここで、前記任意添加成分としては、めっき層に要求される性能に応じて適宜選択することが可能である。例えば、CaやMg等のアルカリ土類金属や、Mn、V、Cr、Mo、Ti、Sr、Ni、Co、Sb、W、Sn及びB等の添加成分が挙げられる。
これらの任意添加成分については、めっき外観を向上したり、耐食性をより向上できる等の効果が得られるものの、めっき層の加工性が低下するおそれもあるため、任意添加の含有量は、6質量%以下であることを要し、5質量%以下であることが好ましい。
【0025】
また、特に切断端部の耐食性をより高めるためには、前記めっき層において、前記任意添加成分の中でも、Mgを1~5質量%含有することが好ましい。前記めっき層が腐食した際、腐食生成物中にMgが含まれることとなり、切断端面の鋼露出面に析出する腐食生成物の安定性が向上し、腐食の進行が遅延する結果、切断面の耐食性がより向上するという効果が得られる。本発明では、プライマー塗膜中にもMgを含むため、このような効果がさらに顕著になる。プライマーからもMgが持続的に供給されることで腐食生成物の安定性が向上しめっきの腐食も抑制されるからである。前記Mgの含有量を1質量%以上とすることで、十分な腐食遅延効果が得られ、一方、前記Mgの含有量を5質量%以下とすることで、加工性が大きく低下することがないため、加工部耐食性についても高いレベルで維持できる。同様の観点から、前記めっき層中のMg含有量は、2~5質量%であることがより好ましく、3~5質量%であることがさらに好ましい。
【0026】
なお、前記めっき層は、めっき処理中にめっき浴と下地鋼板の反応でめっき層中に取り込まれる下地鋼板成分や、めっき浴中の不可避的不純物が含まれる。
前記めっき層中に取り込まれる下地鋼板成分としては、Feが最大で2質量%程度含まれることがある。めっき浴中の不可避的不純物の種類としては、例えば、Fe、Cu等が挙げられる。
前記めっき層中のFeについては下地鋼板から取り込まれるものと、めっき浴中にあるものとを区別して定量することはできない。不可避的不純物の総含有量は特に限定はしないが、めっきの耐食性と均一な溶解性を維持するという観点から、Feを除いた不可避的不純物量は、合計で1質量%以下であることが好ましい。
【0027】
なお、前記下地鋼板上に前記めっき層を形成する手段としては、特に限定はされず、通常の連続式溶融めっき設備を用いることができる。例えば、下地鋼板は、還元性雰囲気に保持された焼鈍炉内で所定温度に加熱され、焼鈍と同時に鋼板表面に付着する圧延油等の除去、酸化膜の還元除去が行われた後、下端がめっき浴に浸漬されたスナウト内を通って所定濃度のAl、Zn、Si、及び、Mg等の任意添加成分を含有した溶融亜鉛めっき浴中に浸漬される。その後、めっき浴に浸漬された鋼板は、シンクロールを経由してめっき浴の上方に引き上げられた後、めっき浴上に配置されたガスワイピングノズルから鋼板の表面に向けて加圧した気体を噴射することによりめっき付着量が調整され、次いで冷却装置により冷却されることで、めっき層が形成される。
【0028】
また、加工部の耐食性をより高める観点から、前記溶融Al-Zn系めっき鋼板は、めっき層が柔軟であることが好ましく、具体的には、前記めっき層のマイクロビッカース硬さ(JISZ2244:2009)が、60~100HV0.01であることが好ましい。前記めっき層のマイクロビッカース硬さを60~100Hv0.01と小さくすることで、塗装鋼板の加工性を高め、加工部においてめっき層にクラックが生成することが抑えられ、加工後耐食性をより高めることができる。本発明では、プライマー塗膜の樹脂成分として、ウレタン結合を有するエポキシ樹脂とメラミン樹脂を所定の比率で含むため、このような効果がさらに顕著になる。プライマー塗膜の加工性に優れるため、加工部においてめっき層のクラックが縮小することによりプライマー塗膜にクラックが生成しなくなるからである。前記めっき層のマイクロビッカース硬さが100Hv0.01を超えると、加工性を十分に得られないおそれがあり、一方、前記めっき層のビッカース硬さが60Hv0.01未満の場合には、めっき層表面の耐傷つき性等が低下するおそれがあるためである。同様の観点から、前記めっき層のマイクロビッカース硬さは、60~90Hv0.01であることがより好ましい。
なお、前記マイクロビッカース硬さについては、10gの試験力(Hv0.01)で試験を実施している。
【0029】
このような加工性の高いめっき層は、例えば200℃×24時間程度の熱処理を施すことによって製造することができ、熱処理前の溶融Al-Zn系めっき鋼板の限界伸び率を最大25%まで向上させることができる。これは、アルミリッチなデンドライト相中に過飽和固溶したZnが上記の熱処理によって排出されることでめっき層が軟質化するためと考えられる。
【0030】
(化成処理膜)
本発明の塗装鋼板は、前記溶融Al-Zn系めっき鋼板の少なくとも片面上に、クロメート系化合物を含有しない化成処理皮膜が形成される。前記溶融Al-Zn系めっき鋼板と前記プライマー塗膜との間に化成処理膜を形成することで、前記プライマー塗膜との密着性を高めることができるとともに、塗装鋼板の耐食性をより高めることができる。
【0031】
そして、前記化成処理皮膜は、樹脂成分及び無機化合物を含み、前記樹脂成分として、ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂を30~54質量%含有し、前記無機化合物として、バナジウム酸化物、ジルコニウム酸化物及びフッ素化合物を、合計で46~70質量%含有する。
前記化成皮膜を、樹脂成分及び無機化合物から構成し、樹脂成分の含有量を調整しつつ、無機化合物の種類及び含有量について適正化を図ることで、高い耐食性を実現できる。また、後述するプライマー塗膜との密着性を高め、加工部の耐食性を向上させることもできる。
【0032】
前記樹脂成分としては、ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂を水分散させた樹脂を用いる。後述するプライマー塗膜中のエポキシ樹脂と水素結合等で緩い結合を持つことで、プライマーと化成処理皮膜の密着性が非常に優れたものとなる。アクリル系樹脂やポリエステル系樹脂等ではそのような効果を得ることができない。
【0033】
前記樹脂成分は、前記化成処理皮膜中に30~54質量%含むものとする。前記化成処理皮膜中の前記樹脂成分の含有量が30質量%未満では、化成処理皮膜のバインダー効果が不十分であり、前記化成処理皮膜中の前記樹脂成分の含有量が54質量%を超えると、下記に示す無機成分による機能、例えばインヒビター作用が不十分となるためである。
【0034】
前記化成処理皮膜中の樹脂成分としては、ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂を用いる。ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂を用いることで、非常に優れた耐食性と密着性が得られる。前記樹脂成分は、化成処理皮膜のバインダーとして作用し、前記エポキシ樹脂は、下地のアルミニウム-亜鉛系合金めっき鋼板及び上層のプライマー塗膜との密着性を向上する効果がある。
なお、前記ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂は、公知の樹脂を用いることができ、公知の方法で水等の液に分散することにより化成処理液を得ることができる。
【0035】
前記化成処理皮膜中の無機化合物については、少なくとも、バナジウム酸化物、ジルコニウム酸化物及びフッ素化合物を含有する。これらの無機化合物を含有することで、化成処理皮膜の耐食性や、強度、加工性等を高めることができる。
【0036】
ここで、前記化成処理皮膜中の、前記バナジウム酸化物、前記ジルコニウム酸化物及び前記フッ素化合物の合計含有量は、46~70質量%である。このような範囲で前記無機化合物を含有することで、加工性等の他の物性を低下させることなく、化成処理皮膜の耐食性や、強度等を高めることができる。同様の観点から、前記化成処理皮膜中の、前記バナジウム酸化物、前記ジルコニウム酸化物及び前記フッ素化合物の合計含有量は、46~65質量%であることが好ましく、46~57質量%であることがより好ましい。
【0037】
前記バナジウム酸化物は、化成処理皮膜中で防錆剤(インヒビター)として作用する。前記化成処理皮膜中でバナジウム酸化物を生成させるために化成処理液中に添加するバナジウム化合物としては、五酸化バナジウム、メタバナジン酸、メタバナジン酸アンモニウム、オキシ三塩化バナジウム、三酸化バナジウム、二酸化バナジウム、バナジン酸マグネシウム、バナジルアセチルアセトネート、バナジウムアセチルアセトネート等が挙げられる。特に5価のバナジウム化合物、又は5価のバナジウム化合物を還元することによって得られる3又は4価のバナジウム化合物であることが望ましい。
【0038】
前記化成処理皮膜中のバナジウム酸化物の含有量は、特に限定はされないが、2~10質量%であることが好ましい。前記バナジウム酸化物の含有量が2質量%未満では、インヒビター効果が低下して耐食性の低下を招き、前記バナジウム酸化物の含有量が10質量%を超えると、化成処理皮膜の耐湿性の低下を招くおそれがあるからである。同様の観点から、前記化成処理皮膜中のバナジウム酸化物の含有量は、4~10質量%であることがより好ましく、6~10質量%であることがさらに好ましい。
【0039】
前記ジルコニウム酸化物は、緻密な皮膜を形成することから、前記化成処理皮膜の強度及び耐食性を高めるとともに、前記めっき層との密着性を高め、被覆性やバリア効果の向上に寄与する。前記化成処理皮膜中でジルコニウム酸化物を生成させるために化成処理液中に添加するジルコニウム化合物としては、硫酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、乳酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム等の中和塩、等が挙げられる。
【0040】
前記化成処理皮膜中のジルコニウム酸化物の含有量は、特に限定はされないが、36~60質量%であることが好ましい。前記ジルコニウム酸化物の含有量が36質量%未満では、前記化成処理皮膜としての強度や耐食性の低下を招き、前記ジルコニウム酸化物の含有量が60質量%を超えると、化成処理皮膜が脆化して、厳しい加工を受けた場合に化成処理皮膜の破壊や剥離が生じるおそれがある。同様の観点から、前記化成処理皮膜中のジルコニウム酸化物の含有量は、38~54質量%であることよりが好ましく、38~50質量%であることがさらに好ましい。
【0041】
前記フッ素化合物は、化成処理液中に添加され、前記溶融Al-Zn系めっき鋼板との密着性付与剤として作用する。前記フッ素化合物としては、例えば、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のフッ化物塩、あるいは、フッ化第一鉄、フッ化第二鉄等のフッ素化合物を用いることができる。特に、フッ化アンモニウムや、フッ化ナトリウム及びフッ化カリウム等のフッ化物塩を用いることが好ましい。なお、前記化成処理液中に添加されたフッ素化合物は、乾燥又は経時によって分解又は他の化合物と反応することで、前記化成処理皮膜中ではフッ素イオンや化成処理液中に添加されたフッ素化合物とは異なるフッ素化合物として存在することもある。
前記化成処理皮膜中のフッ素化合物の含有量は、特に限定はされないが、フッ素原子として0.5~5質量%が好ましい。0.5質量%未満では加工部での密着性が充分に得られず、前記フッ素化合物の含有量が5質量%を超えると化成処理皮膜の耐湿性が低下するおそれがあるからである。同様の観点から、前記化成処理皮膜中のフッ素化合物の含有量は、0.7~3質量%であることがより好ましい。
【0042】
また、前記化成処理皮膜の好ましい付着量は、0.025~0.5g/m2である。前記化成処理皮膜の付着量が0.025g/m2未満では、下地の溶融Al-Zn系めっき鋼板及び上層のプライマー塗膜との密着性の低下や、耐食性の低下が生じるおそれがある。また、前記化成処理皮膜の付着量が0.5g/m2を超えると、厳しい曲げ加工を受けた場合に化成処理皮膜が破壊(剥離)しやすくなり、加工部の耐食性が低下するおそれがある。同様の観点から、前記化成処理皮膜の付着量は、0.05~0.2g/m2であることがより好ましい。
【0043】
なお、前記化成処理皮膜は、前記溶融Al-Zn系めっき鋼板に、化成処理液をロールコーター等で連続的に塗装し、その後、熱風や誘導加熱等を用いて、60~200℃程度の到達板温(Peak Metal Temperature:PMT)で乾燥させることにより得られる。これら化成処理皮膜は、単層でも複層でもよく、複層の場合には複数の化成処理を順次行えばよい。
【0044】
(プライマー塗膜)
本発明の塗装鋼板は、前記化成処理皮膜上に形成された、クロメート系化合物を含有しないプライマー塗膜をさらに備える。
前記化成処理皮膜上にプライマー塗膜を形成することで、化成処理皮膜、及び、後述する上塗り塗膜との密着性をより高めることができ、耐食性や防錆性についてさらに向上させることができる。
【0045】
そして、前記プライマー塗膜は、樹脂成分及び無機化合物を含み、前記樹脂成分として、ウレタン結合を有するエポキシ樹脂(e)及びメラミン樹脂(m)を合計で40~88質量%含有し、前記エポキシ樹脂(e)と前記メラミン樹脂(m)の含有量が質量比で(e):(m)=97:3~60:40であり、前記無機化合物として、バナジウム化合物を4~20質量%、リン酸化合物を4~20質量%及び酸化マグネシウムを4~20質量%含有する。
前記プライマー塗膜を、樹脂成分及び無機化合物から構成し、樹脂成分にウレタン結合を有するエポキシ樹脂及びメラミン樹脂を特定の範囲で含有させるとともに、無機化合物の種類及び含有量について適正化を図ることで、優れた耐食性及び端部耐食性を実現できる。また、前記化成処理皮膜との密着性を高め、加工部の耐食性を向上させることもできる。
【0046】
前記ウレタン結合を有するエポキシ樹脂(e)は、可撓性と強度を兼ね備えていることから、前記プライマー塗膜の加工性を高め、加工を受けた際の、プライマー塗膜のクラックを抑制できる。また、前記エポキシ樹脂を含有した前記化成処理皮膜との親和性が非常に高くなるため、前記化成処理皮膜との密着性が向上し、優れた端部耐食性及び加工部耐食性を実現できる。
【0047】
さらに、本発明では、前記化成処理皮膜中のエポキシ樹脂比率と前記プライマー樹脂中のエポキシ樹脂比率の関係を調査したところ、その比率が一定の範囲になる時により優れた性能を発現できることを見出した。
具体的には、前記プライマー塗膜中のウレタン結合を有するエポキシ樹脂の含有量(e1質量%)、前記化成処理皮膜中のビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂の含有量(e2質量%)とすると、e1/e2=0.8~1.9の範囲内とすることが、より優れた層間密着性及び耐食性が実現できる点で好ましい。
【0048】
前記プライマー塗膜では、このウレタン結合を有するエポキシ樹脂(e)に、さらにメラミン樹脂(m)を含有させることにより、前記プライマー塗膜の緻密性が高まり、耐食性を高めることができる。このような効果は、ポリエステル樹脂等他の樹脂をベースポリマーとして用いたプライマー皮膜では実現できない。例えば、ポリエステル樹脂やウレタン樹脂は加工性には優れるが、水との親和性が高く、腐食物質の透過を十分に抑制できなないからである。
【0049】
また、前記ウレタン結合を有するエポキシ樹脂(e)としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂や変性エポキシ樹脂と、イソシアネート基を2個以上もつジイソシアネート又はポリイソシアネートとの反応によって得られる樹脂等公知の樹脂を使用できる。
前記ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから合成されるビスフェノールA型エポキシ樹脂や、ビスフェノールFとエピクロルヒドリンから合成されるビスフェノールF型エポキシ樹脂があるが、耐食性の点からは、前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
前記変性エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂のエポキシ基又は水酸基の全部又は一部が、変性剤との反応により変性されたものである。前記エポキシ樹脂の変性に用いられる変性剤としては、例えば、ポリエステル、アルカノールアミン、カプロラクトン、イソシアネート化合物、リン酸化合物、酸無水物等が挙げられる。これらの変性剤は、単独で使用することもできるし、2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0050】
なお、前記ウレタン結合を有するエポキシ樹脂(e)の数平均分子量は、加工性、耐食性、塗装作業性等の点から、好ましくは400~10,000であり、より好ましくは400~9,000であり、さらに好ましくは400~8,000である。なお、本発明における数平均分子量の値は、ポリスチレンを標準物質としたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により得ることができる。また、前記ウレタン結合を有するエポキシ樹脂(e)のエポキシ当量は、特に限定されないが、例えば180~5,000とすることができる。
【0051】
前記イソシアネート基を2個以上もつジイソシアネート又はポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、そして、キシリレンジイソシアネート(XDI)、メタキシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等の芳香族ジイソシアネート、さらに、イソホロンジイソシアネート、水素化XDI、水素化TDI、水素化MDI等の環状脂肪族ジイソシアネート、及びこれらのアダクト体、ビウレット体、イソシアヌレート体等が挙げられる。これらのポリイソシアネート化合物は、単独で使用することもでき、2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0052】
また、前記メラミン樹脂(m)としては、例えば、メラミンとホルムアルデヒドとを反応させて得られる、部分若しくは完全メチロール化メラミン樹脂、メチロール化メラミン樹脂のメチロール基をアルコール成分で部分的に若しくは完全にエーテル化して得られる、部分若しくは完全アルキルエーテル型メラミン樹脂、イミノ基含有型メラミン樹脂、及びこれらの混合型メラミン樹脂、等が挙げられる。前記アルキルエーテル型メラミン樹脂としては、例えば、メチル化メラミン樹脂、ブチル化メラミン樹脂、メチル/ブチル混合アルキル型メラミン樹脂等が挙げられる。
【0053】
前記プライマー塗膜は、前記樹脂成分として、ウレタン結合を有するエポキシ樹脂(e)及びメラミン樹脂(m)を合計で40~88質量%含有する。前記プライマー塗膜中の前記ウレタン結合を有するエポキシ樹脂(e)及び前記メラミン樹脂(m)の合計含有量が、40質量%未満では、前記プライマー塗膜としてのバインダー機能が低下して加工性が劣化し、88質量%を超えると、下記に示す無機物によるインヒビター作用が不十分となるためである。
【0054】
そして、前記プライマー塗膜では、前記エポキシ樹脂(e)と前記メラミン樹脂(m)の含有量が、質量比で、(e):(m)=97:3~60:40である。前記ウレタン結合を有するエポキシ樹脂(e)の比率が60:40よりも小さくなると可撓性が不十分となり、加工部の耐食性が低下するおそれがあり、前記メラミン樹脂(m)の比率が97:3よりも小さくなると、耐食性が低下する。同様の観点から、前記エポキシ樹脂(e)と前記メラミン樹脂(m)の含有量が、質量比で、(e):(m)=95:5~80:20であることが好ましい。
【0055】
前記無機化合物として含有されるバナジウム化合物は、インヒビターとして作用する。前記バナジウム化合物としては、例えば、五酸化バナジウム、メタバナジン酸、メタバナジン酸アンモニウム、オキシ三塩化バナジウム、三酸化バナジウム、二酸化バナジウム、バナジン酸マグネシウム、バナジルアセチルアセトネート、バナジウムアセチルアセトネート等が挙げられる。これらの中でも、特に5価のバナジウム化合物、又は、5価のバナジウム化合物を還元することによって得られる3若しくは4価のバナジウム化合物を含有することが好ましい。
【0056】
前記プライマー塗膜中に含まれるバナジウム化合物は、前記化成処理皮膜に含まれるバナジウム化合物とは、同種であっても異種であってもよい。前記バナジン酸化合物は、外部から侵入してくる水分に徐々に溶出するバナジン酸イオンとアルミニウム-亜鉛系合金めっき鋼板表面のイオンが反応し、密着性の良い不働態皮膜を形成し、金属露出部を保護し防錆作用が現れると考えられている。特にこの効果は、前記めっき層中のアルミニウム含有量が多いほど顕著であることから、高アルミニウム含有量のAl-Zn系めっき鋼板を下地として用いることにより、非常に優れた効果を発揮できる。
【0057】
なお、前記プライマー塗膜中のバナジウム化合物の含有量は、4~20質量%である。前記プライマー塗膜中のバナジウム化合物の含有量が、4質量%未満ではインヒビター効果が低下して耐食性の低下を招き、20質量%を超えると前記プライマー塗膜の耐湿性の低下を招くからである。同様の観点から、前記プライマー塗膜中のバナジウム化合物の含有量は、6~16質量%であることが好ましい。
【0058】
前記無機化合物として含有されるリン酸化合物も、インヒビターとして作用する。前記リン酸化合物としては、リン酸のアンモニウム塩、リン酸のアルカリ金属塩、リン酸のアルカリ土類金属塩等が使用できる。これらの中でも、特に、リン酸カルシウム等のリン酸のアルカリ金属塩が好適に用いられる。前記リン酸化合物は、腐食によってアルミニウム-亜鉛系合金めっき鋼板から溶出する亜鉛イオン及びアルミニウムイオンと安定な腐食生成物を形成し、金属露出部を保護し腐食を抑制すると考えられている。
【0059】
なお、前記プライマー塗膜中のリン酸化合物の含有量は、4~20質量%である。前記プライマー塗膜中のリン酸化合物の含有量が、4質量%未満ではインヒビター効果が低下して耐食性の低下を招き、20質量%を超えるとプライマー塗膜の耐湿性の低下を招くからである。同様の観点から、前記プライマー塗膜中のリン酸化合物の含有量は、6~16質量%であることが好ましい。
【0060】
前記無機化合物として含有される酸化マグネシウムは、初期の腐食によって生じた腐食生成物を難溶性のマグネシウム塩として、安定化する効果がある。
また、前記プライマー塗膜中の酸化マグネシウムの添加量は、4~20質量%である。前記プライマー塗膜中の酸化マグネシウムの添加量が、4質量%未満では上記効果が低下して耐食性の低下を招き、20質量%を超えるとプライマー塗膜の可撓性が低下することにより特に加工部の耐食性が低下するからである。同様の観点から、前記プライマー塗膜中の酸化マグネシウムの含有量は、4~10質量%であることが好ましい。
【0061】
なお、前記プライマー塗膜を形成する際に用いられる架橋剤は、ウレタン結合を有するエポキシ樹脂と反応して架橋塗膜を形成するものであり、ブロック化ポリイソシアネート化合物を用いることが好ましい。前記ブロック化ポリイソシアネートとしては、例えば、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基を、例えば、ブタノール等のアルコール類、メチルエチルケトオキシム等のオキシム類、ε-カプロラクタム類等のラクタム類、アセト酢酸ジエステル等のジケトン類、イミダゾール、2-エチルイミダゾール等のイミダゾール類、又はm-クレゾール等のフェノール類等によりブロックしたものが挙げられる。
【0062】
また、前記プライマー塗膜の好ましい厚さは、3~10μmである。これより薄いと、耐食性の低下や、化成処理皮膜及び上塗り塗膜との密着性の低下を招くからである。同様の観点から、前記プライマー塗膜の厚さは、5μm以上であることがより好ましい。なお、前記プライマー塗膜の厚さは、厚すぎると製造コストの点や、加工性の点で低下を招くおそれがあるため、10μm以下とすることが好ましい。
【0063】
前記プライマー塗膜用樹脂組成物には、必要に応じて、塗料分野で通常使用されている公知の各種成分を含有させることができる。公知の各種成分としては、例えば、レベリング剤、消泡剤等の各種表面調整剤、分散剤、沈降防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等の各種添加剤、着色顔料、体質顔料、遮熱顔料等の各種顔料、光輝材、硬化触媒、有機溶剤等が挙げられる。
【0064】
なお、前記プライマー塗膜を形成するための塗料組成物の塗装方法に特に制約はないが、好ましくは塗料組成物をロールコーター塗装、カーテンフロー塗装等の方法で塗布するのがよい。塗料組成物を塗装後、熱風加熱、赤外線加熱、誘導加熱等の加熱手段により焼き付け、プライマー塗膜を得る。焼付処理は、通常、最高到達板温を180~270℃程度とし、この温度範囲で約30秒~3分行う。
【0065】
(上塗り塗膜)
本発明の塗装鋼板は、上述したプライマー塗膜上に形成された上塗り塗膜をさらに備える。
前記上塗り塗膜を形成することで、美観を付与することができ、また、加工性、耐候性、耐薬品性、耐汚染性、耐水性、耐食性等の各種性能を高めることができる。
【0066】
前記上塗り塗膜を構成する樹脂成分としては、例えば、ポリエステル系樹脂、シリコンポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられるが、特に加工性、耐食性、耐候性の点からはフッ素系樹脂を含むことが好ましい。
【0067】
前記上塗り塗膜には、目的、用途に応じて、酸化チタン、複合酸化物、弁柄、カーボンブラック、その他の各種着色顔料;アルミニウム粉やコーティングされたマイカ等のメタリック顔料;遮熱顔料;マイカや炭酸塩、硫酸塩等の体質顔料;シリカ微粒子、ナイロン樹脂ビーズ、アクリル樹脂ビーズ等の各種微粒子;p-トルエンスルホン酸、ジブチル錫ジラウレート等の硬化触媒;ワックス;レベリング剤;消泡剤;分散剤;沈降防止剤;紫外線吸収剤;光安定化剤;汚染性防止剤;その他の添加剤を適量配合することができる。
【0068】
なお、前記上塗り塗膜の膜厚については、特に限定はされず、要求される性能に応じて適宜調整することが可能である。
例えば、生産性を悪化させることなく、より優れた端部及び加工部の耐食性を得る観点から、前記上塗り塗膜の膜厚は、5~30μmとすることが好ましく、10~20μmとすることがより好ましく、14~18μmとすることがさらに好ましい。前記上塗り塗膜の膜厚が5μm以上の場合には、より優れた端部及び加工部の耐食性を実現でき、一方、30μm以下の場合には製造の煩雑さや製造コストの上昇を招くこともない。
【0069】
前記上塗り塗膜を形成するための塗料組成物の塗装方法は、特に限定されない。例えば、上塗り塗膜の材料となる塗料組成物を、ロールコーター塗装、カーテンフロー塗装等の方法で塗布することができる。前記塗料組成物を塗装後、熱風加熱、赤外線加熱、誘導加熱等の加熱手段により焼き付け、上塗り塗膜を形成することができる。焼付処理の温度は、通常、最高到達板温を180~270℃程度とし、この温度範囲で約30秒~3分行う。
【実施例0070】
<塗装鋼板のサンプル1~51>
以下に示す、(1)溶融めっき鋼板、(2)化成処理皮膜、(3)プライマー塗膜、(4)上塗り塗膜の条件に従って、塗装鋼板の各サンプルを製造した。
【0071】
(1)溶融めっき鋼板
以下の溶融めっき鋼板を用いた。各サンプルが用いためっき種については、表1に示す。
めっき種1:板厚0.35mm、めっき付着量が片面あたり80g/m2、Zn-55%Alの組成を有するめっき層を備えた溶融Al-Zn系めっき鋼板(JIS G3321、AZ150)
めっき種2:板厚0.35mm、めっき付着量が片面あたり80g/ m2、Zn-55%Alの組成を有するめっき層を備えた溶融Al-Zn系めっき鋼板(JIS G3321、AZ150)を、めっき層形成後に200℃雰囲気下で、4時間熱処理をした溶融Al-Zn系めっき鋼板
めっき種3:板厚0.35mm、めっき付着量が片面あたり80g/ m2、Zn-55%Al-4%Mg-2%Siの組成を有するめっき層を備えた溶融Al-Zn系めっき鋼板
めっき種4:板厚0.35mm、めっき付着量が片面あたり130g/ m2、Zn-5%Alの組成を有するめっき層を備えた溶融Zn-Al系めっき鋼板(JISG3317、Y25)
めっき種5:板厚0.35mm、めっき付着量が片面あたり130g/ m2の溶融Zn系めっき鋼板(JIS G3312、Z25)
また、各めっき鋼板のマイクロビッカース硬さ(JISZ2244:2009)を測定した結果を、表1に示す。
【0072】
(2)化成処理皮膜
化成処理皮膜における樹脂成分(A)として、ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂である吉村油化学(株)製「ユカレジンRE-1050」を用いた。その他の樹脂成分として、アクリル系樹脂(B)、及び、ポリエステル系樹脂(C)を用いた。
バナジウム化合物としては、アセチルアセトンでキレート化した有機バナジウム化合物を用い、ジルコニウム化合物としては、炭酸ジルコニウムアンモニウムを用い、フッ素化合物としては、フッ化アンモニウムを用いた。
これらの原料を混合して化成処理液を得た。化成処理液のpHは8~10とした。化成処理皮膜中の各成分の含有量は表1に示す通りとした。なお、比較のために、サンプル50、51では、クロメート系化成処理(シリカ含有塗布型クロメート)を施した。
得られた化成処理液を、溶融めっき鋼板上にロールコーターで塗布し、鋼板の到達温度90℃、焼き付け時間10秒で乾燥させ、表1の付着量になるように、化成処理皮膜を形成した。
【0073】
(3)プライマー塗膜
プライマー塗膜の樹脂成分としては、ウレタン結合を有するエポキシ樹脂である、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名「jER 1009」、三菱化学(株)製)をブロック化ポリイソシアネート化合物(商品名「デスモジュール BL-3175」、住化バイエルウレタン(株)製)と質量比で85:15の比率で反応させたもの(e)と、メラミン樹脂である、n-ブチル化メラミン樹脂(商品名「ユーバン122」、三井化学(株)製)(m)と、を表1の比率で配合したもの(D);又は;ウレタン結合を有するエポキシ樹脂である、変性エポキシ樹脂(商品名「エピクロン H-304-40」、DIC(株)製)をブロック化ポリイソシアネート化合物(商品名「デスモジュール BL-3175」、住化バイエルウレタン(株)製)と質量比で85:15の比率で反応させたもの(e)と、メラミン樹脂である、n-ブチル化メラミン樹脂(商品名「ユーバン122」、三井化学(株)製)(m)と、を表1の比率で配合したもの(E);を用いた。
一方、別のサンプルでは、本発明外の樹脂であるウレタン硬化ポリエステル樹脂(F)、メラミン硬化ポリエステル樹脂(G)及びウレタン硬化エポキシ樹脂(H)を用いた。
また、防錆顔料のバナジウム化合物としてはバナジン酸マグネシウムを用い、リン酸化合物としてはリン酸カルシウムを用いた。
上記成分に、溶剤と防錆顔料を添加した後、反応触媒としてジブチルスズジラウリレート(DBTDL)0.3部を加えて均一に混合し、クロムフリーのプライマー塗膜用塗料を作製した。各サンプルの塗料組成を、表1に示す。ただし、サンプル50、51では、クロム酸ストロンチウム25質量%を含有するプライマー塗膜を用いた。
得られたプライマー塗膜用塗料は、化成処理皮膜上にロールコーターで塗布し、鋼板到達温度220℃、焼き付け時間35秒で焼き付け、焼き付け後の膜厚が表1に示す膜厚になるように塗膜を形成した。
【0074】
(4)上塗り塗膜
上塗り塗膜としては、以下の上塗り塗膜用塗料を用いた。
I:ポリフッ化ビニリデンとアクリル樹脂が、質量比で80:20であるオルガノゾル系焼付け型フッ素樹脂系塗料「プレカラーNo.8800HR」(青色)(BASFジャパン(株)製)
II:メラミン硬化ポリエステル塗料(白色)「プレカラーHD0030HR」(BASFジャパン(株)製)
上記上塗り塗膜用塗料は、下塗り塗膜上にロールコーターで塗布し、Iは鋼板到達温度260℃、焼き付け時間40秒で、IIは鋼板到達温度230℃、焼き付け時間30秒で焼き付け、焼き付け後の膜厚が表1に示す膜厚となるように塗膜を形成した。
【0075】
<評価>
上記のように得られた塗装鋼板の各サンプルについて、以下の評価を行った。評価結果は、表1に示す。
【0076】
(1)曲げ加工部の耐食性
各サンプルについて、6T曲げを実施(試験片と同一の板を内側に6枚挟み込み180度密着曲げを実施)した後、複合サイクル腐食試験(JIS H8502 8.1)に準じて、300サイクル(合計2400時間)の試験を行い、曲げ加工部の表面観察を行った。
評価は、以下の基準に従い、上塗り塗膜の膨れあるいは白錆の発生面積率(%)で評価した。◎◎~○の結果を合格とする。
◎◎:膨れ及び錆の発生、が認められない
◎:膨れ及び/又は錆の発生が、合計で10%以下認められる
○:膨れ及び/又は錆の発生が、合計で10%超20%以下認められる
△:膨れ及び/又は錆の発生が、合計で20%超50%以下認められる
×:膨れ及び/又は錆の発生が、合計で50%超認められる
【0077】
(2)切断端部の耐食性
各サンプルについて、切断面のバリが上になっている端部(いわゆる上バリ)に対し、複合サイクル腐食試験(JIS H8502 8.1)に準じて、300サイクル(合計2400時間)の試験を行った後、端部における膨れ又は白錆の最大発生幅(mm)を測定した。
評価は、以下の基準に従って評価した。◎◎~○の結果を合格とする。
◎◎:最大発生幅が、3mm未満
◎:最大発生幅が、3mm以上、5mm未満
○:最大発生幅が、5mm以上、8mm未満
△:最大発生幅が、8mm以上、15mm未満
×:最大発生幅が、15mm以上
【0078】
(3)曲げ加工部における密着性
各サンプルについて、2T曲げを実施(試験片と同一の板を内側に2枚挟み込み180度密着曲げを実施)し、沸騰した水に2時間浸漬した後、1時間室内に放置してから、曲げ加工部分にセロハンテープ(ニチバン製)を貼り付けてすぐにはがすことにより、強制的に塗膜剥離する試験を行った。
評価は、塗膜剥離試験後の塗膜における剥離面積の割合(%)により評価した。◎、○を合格とする。
◎:剥離無し
○:剥離面積が、3%未満
△:剥離面積が、3%以上、10%未満
×:剥離面積が、10%以上
【0079】
(4)耐スクラッチ密着性
各サンプルを沸騰した水に2時間浸漬し、その後、1時間室内に放置した後、45度傾けた10円硬貨の外周部で塗膜を一定の方向に引っ掻き、塗膜の剥離状態を観察した。
評価は、界面で発生した剥離の長さを測定し、引っ掻き長さに対する割合(発生した剥離の長さ/引っ掻き長さ×100%)を算出し、下記基準に従って評価した。◎、○の結果を合格とする。
◎:上塗り塗膜とプライマー塗膜の界面、プライマー塗膜と化成処理皮膜の界面、又は、化成処理皮膜とめっき界面で、剥離なし
○:上塗り塗膜とプライマー塗膜の界面、プライマー塗膜と化成処理皮膜の界面、又は、化成処理皮膜とめっきの界面のいずれかで、10%未満の剥離あり
×:上塗り塗膜とプライマー塗膜の界面、プライマー塗膜と化成処理皮膜の界面、又は、化成処理皮膜とめっきの界面のいずれかで、10%以上の剥離あり
【0080】
【0081】
表1の結果から、本発明例の各サンプルは、曲げ加工部の耐食性、切断端部の耐食性、曲げ加工部における密着性及びスクラッチ密着性のいずれについても、◎◎~○の評価が得られ、全てにバランスよく優れることがわかる。さらに、下地のめっき鋼板を、熱処理して加工性を向上したZn-55%Alめっき鋼板とした場合(サンプル24、25)は、曲げ加工部の耐食性に特に優れ、めっき中にMgを添加して耐食性を向上したZn‐55%Al‐4%Mg‐2%Siの組成を有する溶融Al-Zn系合金めっき鋼板とした場合(サンプル26、27)は、切断端部の耐食性に特に優れることがわかる。
一方、比較例の各サンプルは、めっき種、化成処理皮膜、プライマー塗膜、のうちのいずれかが本発明外であるが、曲げ加工部の耐食性、切断端部の耐食性、曲げ加工部における密着性、耐スクラッチ密着性のいずれかに、△又は×があり、性能に問題があることがわかる。また、サンプル50及び51は、化成処理、プライマーにクロメート化合物を用いたものであり、環境負荷物質を用いた皮膜のため、環境性、安全性に問題がある。
本発明によれば、優れた耐食性が期待できる50質量%以上のAlを含有する溶融Al-Zn系めっき鋼板を下地として、化成処理皮膜とプライマー塗膜との密着性が良好であり、加工部及び切断端部の耐食性に優れた塗装鋼板を提供できる。