(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080190
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】燃料供給システム
(51)【国際特許分類】
F02D 19/08 20060101AFI20240606BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20240606BHJP
F02D 41/04 20060101ALI20240606BHJP
F02D 41/34 20060101ALI20240606BHJP
F02P 5/15 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
F02D19/08 B
F02D43/00 301B
F02D43/00 301H
F02D41/04
F02D41/34
F02P5/15 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193170
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(72)【発明者】
【氏名】山下 翔平
(72)【発明者】
【氏名】伊澤 希
【テーマコード(参考)】
3G022
3G092
3G301
3G384
【Fターム(参考)】
3G022EA01
3G092AA06
3G092AB09
3G092AB15
3G092AB19
3G092BA04
3G092BB01
3G092BB20
3G092EA01
3G092EA02
3G092EA03
3G092EA04
3G092EA08
3G092FA15
3G092HB01Z
3G092HC01Z
3G092HC09Z
3G092HE03Z
3G301HA04
3G301HA24
3G301JA21
3G301LB01
3G301LB04
3G301MA01
3G301MA11
3G301NE01
3G301NE06
3G301NE11
3G301NE12
3G301PB03Z
3G301PC01Z
3G301PE03Z
3G301PE09Z
3G384AA06
3G384AA14
3G384AA16
3G384BA13
3G384BA24
3G384DA44
3G384EB01
3G384EB02
3G384EB03
3G384EB04
3G384ED07
3G384FA29Z
3G384FA37Z
3G384FA58Z
(57)【要約】
【課題】エンジンの燃焼室内における実際の燃焼状態に基づいて、第1燃料が不完全燃焼することを抑制できる燃料供給システムを提供する。
【解決手段】
燃料供給システム1は、引火点がガソリンよりも高い第1燃料を噴射する第1インジェクタ14と、引火点が第1燃料よりも低い第2燃料を噴射する第2インジェクタ15と、制御装置18とを備える。制御装置18は、パラメータ計算処理(S2)と、噴射量変更処理(S3)とを実行する。パラメータ計算処理(S2)では、筒内圧センサ16からの出力値とクランク角センサ17からの出力値とに基づいて、MBF50%クランク角度θを計算する。噴射量変更処理(S3)では、第1閾値T1とMBF50%クランク角度θとの関係が、燃焼速度が遅いことを示す場合、第1インジェクタ14からの第1燃料の噴射量に対する第2インジェクタ15からの第2燃料の噴射量の割合を増加させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
引火点がガソリンよりも高い第1燃料と、引火点が前記第1燃料よりも低い第2燃料とをエンジンに供給可能な燃料供給システムであって、
前記第1燃料を噴射する第1インジェクタと、
前記第2燃料を噴射する第2インジェクタと、
筒内圧センサと、
クランク角センサと、
制御装置と
を備え、
前記制御装置は、
前記筒内圧センサからの出力値と前記クランク角センサからの出力値とに基づいて、前記エンジンの燃焼室内における前記第1燃料、前記第2燃料および空気の混合気体の燃焼速度に応じて変化するパラメータを計算するパラメータ計算処理と、
前記パラメータについての第1閾値と前記パラメータとの関係が、前記燃焼速度が遅いことを示す場合、前記第1インジェクタからの前記第1燃料の噴射量である第1噴射量に対する前記第2インジェクタからの前記第2燃料の噴射量である第2噴射量の割合を増加させる噴射量変更処理と
を実行可能である、燃料供給システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記噴射量変更処理において、
前記第1噴射量と前記第2噴射量との総量に対する前記第2噴射量の質量割合である第2燃料率を計算する第2燃料率計算処理を実行し、
前記第1閾値と前記パラメータとの関係が、前記燃焼速度が速いことを示し、かつ、前記第2燃料率計算処理で計算された前記第2燃料率が、第2閾値以下である場合、前記第1噴射量に対する前記第2噴射量の割合を増加させ、
前記第1閾値と前記パラメータとの関係が、前記燃焼速度が速いことを示し、かつ、前記第2燃料率計算処理で計算された前記第2燃料率が前記第2閾値を超えている場合、前記第2噴射量に対する前記第1噴射量の割合を増加させる、請求項1に記載の燃料供給システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記噴射量変更処理において、
空気過剰率を計算する空気過剰率計算処理を実行し、
前記第1閾値と前記パラメータとの関係が、前記燃焼速度が遅いことを示し、前記第2燃料率計算処理で計算された前記第2燃料率が前記第2閾値を超えており、かつ、空気過剰率が1未満である場合、前記第1噴射量および前記第2噴射量の両方を減少させつつ、前記第1噴射量に対する前記第2噴射量の割合を増加させ、かつ、点火タイミングを進角させ、
前記第1閾値と前記パラメータとの関係が、前記燃焼速度が速いことを示し、前記第2燃料率計算処理で計算された前記第2燃料率が前記第2閾値以下であり、かつ、空気過剰率が1を超えている場合、前記第1噴射量および前記第2噴射量の両方を増加させつつ、前記第1噴射量に対する前記第2噴射量を増加させ、かつ、点火タイミングを遅角させる、請求項2に記載の燃料供給システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アンモニアと、アンモニアの燃焼を促進させるためのガソリン(助燃燃料)とを燃料として使用する内燃機関において、内燃機関の回転数および負荷のいずれか1つ以上の変化に応じて、アンモニアと助燃燃料との噴射配分を変化させる内燃機関の制御装置が知られている(例えば、下記特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した特許文献1に記載の制御装置では、回転数および負荷のいずれか1つ以上の変化に応じて、アンモニアと助燃燃料との噴射配分を変化させており、燃焼室内における燃料の燃焼状態をモニターしていない。
【0005】
そのため、例えば、アンモニアインジェクタおよびガソリンインジェクタの少なくとも一方の不具合などによって、アンモニアの噴射量に対して助燃燃料の噴射量が少なくなってしまっていた場合、アンモニアが不完全燃焼してしまう可能性がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、エンジンの燃焼室内における実際の燃焼状態に基づいて、第1燃料が不完全燃焼することを抑制できる燃料供給システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明[1]は、引火点がガソリンよりも高い第1燃料と、引火点が前記第1燃料よりも低い第2燃料とをエンジンに供給可能な燃料供給システムであって、前記第1燃料を噴射する第1インジェクタと、前記第2燃料を噴射する第2インジェクタと、筒内圧センサと、クランク角センサと、制御装置とを備え、前記制御装置が、前記筒内圧センサからの出力値と前記クランク角センサからの出力値とに基づいて、前記エンジンの燃焼室内における前記第1燃料、前記第2燃料および空気の混合気体の燃焼速度に応じて変化するパラメータを計算するパラメータ計算処理と、前記パラメータについての第1閾値と前記パラメータとの関係が、前記燃焼速度が遅いことを示す場合、前記第1インジェクタからの前記第1燃料の噴射量である第1噴射量に対する前記第2インジェクタからの前記第2燃料の噴射量である第2噴射量を増加させる噴射量変更処理とを実行可能である、燃料供給システムを含む。
【0008】
このような構成によれば、筒内圧センサからの出力値とクランク角センサからの出力値とに基づいて、混合気体の燃焼速度に応じて変化するパラメータを計算することにより、エンジンの燃焼室内における実際の燃焼状態をモニターできる。
【0009】
そして、第1閾値とパラメータとの関係から、燃焼速度が遅い場合に、第1噴射量に対する第2噴射量を増加させる。
【0010】
これにより、エンジンの燃焼室内における実際の燃焼状態に基づいて、第1燃料が不完全燃焼することを抑制できる。
【0011】
本発明[2]は、前記制御装置が、前記噴射量変更処理において、前記第1噴射量と前記第2噴射量との総量に対する前記第2噴射量の質量割合である第2燃料率を計算する第2燃料率計算処理を実行し、前記第1閾値と前記パラメータとの関係が、前記燃焼速度が遅いことを示し、かつ、前記第2燃料率計算処理で計算された前記第2燃料率が第2閾値以下である場合、前記第1噴射量に対する前記第2噴射量の割合を増加させ、前記第1閾値と前記パラメータとの関係が、前記燃焼速度が遅いことを示し、かつ、前記第2燃料率計算処理で計算された前記第2燃料率が前記第2閾値を超えている場合、前記第2噴射量に対する前記第1噴射量の割合を増加させる、上記[1]の燃料供給システムを含む。
【0012】
このような構成によれば、第2燃料率が第2閾値以下である場合に、第1噴射量に対する第2噴射量の割合を増加させて、失火を抑制することができる。
【0013】
一方、燃焼速度が速く、かつ、第2燃料率が第2閾値を超えている場合、第2噴射量に対する第1噴射量の割合を増加させて、プレイグニッションの発生を抑制できる。
【0014】
本発明[3]は、前記制御装置が、前記噴射量変更処理において、空気過剰率を計算する空気過剰率計算処理を実行し、前記第1閾値と前記パラメータとの関係が、前記燃焼速度が遅いことを示し、前記第2燃料率計算処理で計算された前記第2燃料率が前記第2閾値を超えており、かつ、空気過剰率が1未満である場合、前記第1噴射量および前記第2噴射量の両方を減少させつつ、前記第1噴射量に対する前記第2噴射量の割合を増加させ、かつ、点火タイミングを進角させ、前記第1閾値と前記パラメータとの関係が、前記燃焼速度が速いことを示し、前記第2燃料率計算処理で計算された前記第2燃料率が前記第2閾値以下であり、かつ、空気過剰率が1を超えている場合、前記第1噴射量および前記第2噴射量の両方を増加させつつ、前記第1噴射量に対する前記第2噴射量の割合を増加させ、かつ、点火タイミングを遅角させる、上記[2]の燃料供給システムを含む。
【0015】
このような構成によれば、燃焼速度が遅く、第2燃料率が第2閾値を超えており、かつ、空気過剰率が1未満である場合、第1噴射量および第2噴射量の両方の設定値を減少させつつ、燃焼速度を速くしようとしても、空気過剰率が1を超えてしまわない範囲での第1噴射量および第2噴射量の調節では、燃焼速度を十分に速くできない可能性がある。
【0016】
この点、第1噴射量および第2噴射量の両方の設定値を減少させるとともに、燃焼速度に合わせて点火タイミングを進角させて、第1燃料の不完全燃焼を抑制できる。
【0017】
また、燃焼速度が速く、第2燃料率が第2閾値以下であり、かつ、空気過剰率が1を超えている場合、第2燃料率が第2閾値を超えるように、第2噴射量を第1噴射量よりも大きく増加させつつ、第1噴射量および第2噴射量の両方の設定値を増加させると、プレイグニッションが発生する可能性がある。
【0018】
この点、第1噴射量および第2噴射量の両方の設定値を増加させるとともに、点火タイミングを遅角させて、失火を抑制しつつ、プレイグニッションの発生も抑制できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の燃料供給システムによれば、エンジンの燃焼室内における実際の燃焼状態に基づいて、第1燃料が不完全燃焼することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の燃料供給システムの一実施形態を備える車両の概略構成図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す燃料供給システムの制御についてのフローチャートである。
【
図3】
図3は、
図2に示す噴射量変更処理のフローチャートであって、燃焼速度が第1閾値よりも遅く、第2燃料率が第2閾値以下である場合のフローチャートである。
【
図4】
図4は、
図3に示すフローチャートから分岐して、燃焼速度が第1閾値よりも遅く、第2燃料率が第2閾値を超えている場合のフローチャートである。
【
図5】
図5は、
図3に示すフローチャートから分岐して、燃焼速度が第1閾値よりも速く、第2燃料率が第2閾値以下である場合のフローチャートである。
【
図6】
図6は、
図5に示すフローチャートから分岐して、燃焼速度が第1閾値よりも速く、第2燃料率が第2閾値を超えている場合のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
1.燃料供給システムの構成
図1に示すように、燃料供給システム1は、例えば、車両100に搭載される。
【0022】
車両100は、エンジン101と、バッテリー(図示せず)を含む電気システムと、エンジン101に吸気するための吸気システム102と、エンジン101に燃料を供給するための燃料供給システム1と、エンジン101から排気するための排気システム103とを備える。エンジン101は、例えば、直列4気筒の4ストロークエンジンである。
【0023】
燃料供給システム1は、第1燃料と、第2燃料とをエンジン101に供給可能である。第1燃料の引火点は、ガソリンよりも高い。本実施形態では、第1燃料は、アンモニアである。第2燃料は、第1燃料の燃焼を促進させる。第2燃料の引火点は、第1燃料よりも低い。本実施形態では、第2燃料は、水素である。第1燃料が、アンモニアであり、第2燃料が、水素であると、二酸化炭素の排出を抑制できる。
【0024】
燃料供給システム1は、燃料タンク11と、気化器12と、改質器13と、第1インジェクタ14と、第2インジェクタ15と、筒内圧センサ16と、クランク角センサ17と、制御装置18とを備える。
【0025】
(1)燃料タンク
燃料タンク11は、第1燃料としてのアンモニアを貯蔵する。本実施形態では、燃料タンク11は、液体アンモニアを貯蔵する。
【0026】
(2)気化器
気化器12は、燃料タンク11と接続される。気化器12は、燃料タンク11からの液体アンモニアを気化させる。
【0027】
(3)改質器
改質器13は、気化器12と接続される。改質器13は、気化器12を介して、燃料タンク11と接続される。改質器13は、気化器12によって気化されたアンモニアを改質して、第2燃料としての水素を生成する。「改質」とは、アンモニアを水素と窒素とに分解することをいう。詳しくは、改質器13は、プラズマによって、アンモニアを水素と窒素とに分解する。なお、改質器13は、アンモニアを分解可能な触媒により、アンモニアを水素と窒素とに分解してもよい。
【0028】
(4)第1インジェクタ
第1インジェクタ14は、気化器12と接続される。第1インジェクタ14は、気化器12によって気化されたアンモニアを、エンジン101の吸気ポート内に噴射する。つまり、第1インジェクタ14は、第1燃料を噴射する。なお、第1インジェクタ14は、気化器12によって気化されたアンモニアを、エンジン101の燃焼室内に噴射してもよい。
【0029】
(5)第2インジェクタ
第2インジェクタ15は、改質器13と接続される。第2インジェクタ15は、改質器13によって生成された水素を、エンジン101の燃焼室内に噴射する。つまり、第2インジェクタ15は、第2燃料を噴射する。
【0030】
(6)センサ
筒内圧センサ16は、エンジン101の燃焼室内の圧力を計測するためのセンサである。筒内圧センサ16は、制御装置18と電気的に接続される。
【0031】
クランク角センサ17は、クランク角度を計測するためのセンサである。クランク角センサ17は、制御装置18と電気的に接続される。
【0032】
(7)制御装置
制御装置18は、車両100における電気的な制御を実行するECU(Electronic Control Unit)であり、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などを備える。制御装置18は、バッテリーと電気的に接続される。制御装置18は、車両100のイグニッションスイッチがオンされたときに、バッテリーから電力が供給されることにより、起動する。
【0033】
制御装置18は、第1インジェクタ14および第2インジェクタ15と電気的に接続される。制御装置18は、第1インジェクタ14によるアンモニアの噴射のタイミング、第2インジェクタ15による水素の噴射のタイミング、および、点火タイミングを制御する。
【0034】
2.燃料供給システムの制御
次に、燃料供給システム1の制御について説明する。
【0035】
燃料供給システム1において、燃焼室内における燃料(アンモニアおよび水素)の燃焼状態を適正に保つために、第1インジェクタ14からのアンモニアの噴射量(第1噴射量)と第2インジェクタ15からの水素の噴射量(第2噴射量)とを制御する必要がある。
【0036】
そこで、
図2に示すように、制御装置18は、1回の燃焼サイクル毎に、燃料噴射処理(S1)と、パラメータ計算処理(S2)と、噴射量変更処理(S3)とを実行する。
【0037】
(1)燃料噴射処理
燃料噴射処理(S1)では、制御装置18は、第1インジェクタ14を作動させてエンジン101の吸気ポート内にアンモニアを噴射するとともに、第2インジェクタ15を作動させてエンジン101の燃焼室内に水素を噴射する。
【0038】
詳しくは、制御装置18は、第1インジェクタ14および第2インジェクタ15のそれぞれの噴射時間が記憶している。
【0039】
制御装置18は、エンジン101の燃焼室内に吸気されるタイミングで、第1インジェクタ14に、所定の噴射時間、アンモニアを噴射させる。第1噴射量は、第1インジェクタ14の噴射時間により制御される。吸気ポート内に噴射されたアンモニアは、空気と混合されつつ、エンジン101の燃焼室内に入る。
【0040】
また、制御装置18は、第2インジェクタ15に、所定の噴射時間、アンモニアを噴射させる。第2噴射量は、第2インジェクタ15の噴射時間により制御される。エンジン101の燃焼室内に噴射された水素は、エンジン101の燃焼室内において、アンモニア、および、空気と混合される。
【0041】
アンモニア、水素および空気の混合気体は、エンジン101のピストンが下死点から上死点に向かうときに、エンジン101の燃焼室内で圧縮される。制御装置18は、図示しない点火プラグにより、所定の点火タイミングで、圧縮された混合気体に点火する。
【0042】
(2)パラメータ計算処理
次に、パラメータ計算処理(S2)では、筒内圧センサ16からの出力値とクランク角センサ17からの出力値とに基づいて、MBF(質量燃焼割合)50%クランク角度θを計算する。
【0043】
エンジン101のピストンが上死点に位置したときのクランク角度を0°とした場合、エンジン101の燃焼室内における混合気体の燃焼速度が遅くなると、MBF50%クランク角度θは、遅角する(MBF50%クランク角度θの数値が大きくなる)。一方、エンジン101の燃焼室内における混合気体の燃焼速度が速くなると、MBF50%クランク角度θは、進角する(MBF50%クランク角度θの数値が小さくなる)。すなわち、MBF50%クランク角度θは、エンジン101の燃焼室内における混合気体の燃焼速度に応じて変化するパラメータの一例である。なお、エンジン101の燃焼室内における混合気体の燃焼速度に応じて変化するパラメータは、MBF50%クランク角度θに限定されない。
【0044】
MBF50%クランク角度θは、例えば、1回の燃焼サイクルにおける「単位クランク角度あたりの熱発生率」の積算値が50%になるクランク角度として求めることができる。「単位クランク角度あたりの熱発生率」は、例えば、下記計算式により計算できる。
【0045】
【0046】
式中、dQは、熱発生率を示し、pは、筒内圧を示し、Vは、筒内体積を示し、κは、比熱比を示す。
【0047】
筒内体積は、エンジン101の燃焼室の容積である。筒内体積は、シリンダの容積と、クランク角度から計算できる。
【0048】
比熱比は、第1噴射量の設定値、および、第2噴射量の設定値から計算できる。
【0049】
(3)噴射量変更処理
次に、噴射量変更処理(S3)では、制御装置18は、パラメータ計算処理(S2)で計算されたMBF50%クランク角度θ、第1噴射量と第2噴射量との総量に対する第2噴射量の質量割合(第2燃料率R)、および、空気過剰率λに基づいて、第1噴射量および第2噴射量の少なくとも一方を、変更する。
【0050】
詳しくは、
図3に示すように、制御装置18は、噴射量変更処理(S3)において、第2燃料率計算処理(S11)と、空気過剰率計算処理(S12)とを実行する。
【0051】
第2燃料率計算処理(S11)では、制御装置18は、第2燃料率Rを計算する。第2燃料率Rは、燃料噴射処理(S1)で第1インジェクタ14から噴射されたアンモニアの噴射量(第1噴射量)、および、燃料噴射処理(S1)で第2インジェクタ15から噴射された水素の噴射量(第2噴射量)から計算される。具体的には、第2燃料率Rは、下記式(1)により計算される。
【0052】
式(1):第2噴射量/(第1噴射量+第2噴射量)
空気過剰率計算処理(S12)では、空気過剰率λを計算する。空気過剰率λは、吸入空気量、第1噴射量、および、第2噴射量に基づいて計算される。具体的には、空気過剰率λは、下記式(2)により計算される。
【0053】
式(2):空気過剰率=吸入空気量/必要空気量
必要空気量は、1回の燃焼サイクルにおいて燃焼室内に供給されたアンモニアの全部を燃焼させるために必要な空気の質量である。必要空気量は、第1噴射量および第2噴射量によって定まる。
【0054】
そして、制御装置18は、MBF50%クランク角度θが第1閾値T1よりも遅角しており(S13:NO)、第2燃料率Rが第2閾値T2以下であり(S14:YES)、空気過剰率λが1未満である場合(S15:YES)、第1噴射量の設定値を減少させるとともに、第2噴射量の設定値を増加させる(S16)。
【0055】
第1閾値T1は、第1噴射量、第2噴射量および点火タイミングのそれぞれが初期設定値(噴射量変更処理で変更されていない設定値)であり、かつ、空気過剰率λが1である場合のMBF50%クランク角度であり、例えば、燃焼実験または燃焼シミュレーションの結果に基づいて設定される。つまり、第1閾値T1は、MBF50%クランク角度θについての閾値である。
【0056】
パラメータ計算処理(S2)で計算されたMBF50%クランク角度θが第1閾値T1よりも遅角している場合、エンジン101の燃焼室内における混合気体の燃焼速度が遅くなっていると推定できる。つまり、第1閾値T1とMBF50%クランク角度θとの関係は、エンジン101の燃焼室内における混合気体の燃焼速度が遅いことを示す。燃焼速度が遅いと、未燃焼のアンモニアが排気ガスとして排出されてしまう可能性がある。また、第2燃料率Rが第2閾値T2以下であると、失火する可能性がある。
【0057】
この点、第1噴射量を減少させるとともに第2噴射量を増加させることにより、第1噴射量に対する第2噴射量の割合が増加する。つまり、第1閾値T1とMBF50%クランク角度θとの関係が、燃焼速度が遅いことを示す場合、制御装置18は、第1噴射量に対する第2噴射量の割合を増加させる。第1噴射量に対する第2噴射量の割合が増加することにより、燃焼速度を速くすることができ、アンモニアの不完全燃焼を抑制できる。これにより、未燃焼のアンモニアが排気ガスとして排出されてしまうことを抑制できる。
【0058】
また、第1噴射量に対する第2噴射量の割合が増加することにより、第2燃料率Rが高くなる。これにより、失火を抑制できる。
【0059】
また、第1噴射量が減少することにより、アンモニアの不完全燃焼をより抑制できる。
【0060】
一方、制御装置18は、MBF50%クランク角度θが第1閾値T1よりも遅角しており(S13:NO)、第2燃料率Rが第2閾値T2以下であり(S14:YES)、空気過剰率λが1以上である場合(S15:NO)、第1噴射量の設定値を変更せずに、第2噴射量の設定値を増加させる(S17)。
【0061】
第2噴射量を増加させることにより、第1噴射量に対する第2噴射量の割合が増加し、第2燃料率Rが高くなる。これにより、未燃焼のアンモニアが排気ガスとして排出されてしまうことを抑制でき、かつ、失火を抑制できる。
【0062】
また、第2噴射量が増加することにより、増加した水素によって混合気体中の酸素を消費できるため、余剰の酸素と窒素とから窒素酸化物(NOx)が発生することを抑制できる。
【0063】
また、
図3および
図4に示すように、制御装置18は、MBF50%クランク角度θが第1閾値T1よりも遅角しており(S13:NO)、第2燃料率Rが第2閾値T2を超えており(S14:NO)、空気過剰率λが1未満である場合(S21:YES)、第1噴射量および第2噴射量の両方の設定値を減少させる(S22)。
【0064】
この場合、制御装置18は、第1噴射量に対する第2噴射量の割合が増加するように、第1噴射量の設定値を、第2噴射量の設定値よりも大きく減少させる。これにより、燃焼速度を速くして、アンモニアの不完全燃焼を抑制できる。
【0065】
ここで、制御装置18は、空気過剰率λが1を超えてしまわないように、第1噴射量および第2噴射量の両方の設定値を減少させる。
【0066】
そのため、第1噴射量および第2噴射量の両方の設定値を減少させても、燃焼速度を十分に速くできない可能性がある。
【0067】
そこで、制御装置18は、第1噴射量および第2噴射量の両方の設定値を減少させるとともに、点火タイミングの進角させる(S22)。
【0068】
つまり、第1閾値T1とMBF50%クランク角度θとの関係が、燃焼速度が遅いことを示し(S13:NO)、第2燃料率計算処理(S11)で計算された第2燃料率Rが第2閾値T2を超えており(S14:NO)、かつ、空気過剰率λが1未満である場合(S21:YES)、制御装置18は、第1噴射量および第2噴射量の両方を減少させつつ、第1噴射量に対する第2噴射量の割合を増加させ、かつ、点火タイミングを進角させる(S22)。これにより、燃焼速度に合わせて点火タイミングを進角させることにより、アンモニアの不完全燃焼を抑制できる。
【0069】
一方、制御装置18は、MBF50%クランク角度θが第1閾値T1よりも遅角しており(S13:NO)、第2燃料率Rが第2閾値T2を超えており(S14:NO)、空気過剰率λが1以上である場合(S21:NO)、第2噴射量の設定値を増加させる(S23)。
【0070】
第2噴射量を増加させることにより、第1噴射量に対する第2噴射量の割合が増加する。これにより、アンモニアの不完全燃焼をより抑制できる。
【0071】
また、第2噴射量が増加することにより、増加した水素によって混合気体中の酸素を消費できるため、余剰の酸素と窒素とから窒素酸化物(NOx)が発生することを抑制できる。
【0072】
また、
図3および
図5に示すように、制御装置18は、MBF50%クランク角度θが第1閾値T1よりも進角しており(S13:YES)、第2燃料率Rが第2閾値T2以下であり(S31:YES)、空気過剰率λが1未満である場合(S32:YES)、第1噴射量および第2噴射量の両方の設定値を減少させる(S33)。
【0073】
なお、制御装置18は、第2燃料率Rが第2閾値T2を超えるように、第1噴射量の設定値を、第2噴射量の設定値よりも大きく減少させる。これにより、第1噴射量に対する第2噴射量の割合は、増加する。
【0074】
MBF50%クランク角度θが第1閾値T1よりも進角している場合、エンジン101の燃焼室内における混合気体の燃焼速度が速くなっていると推定できる。つまり、第1閾値T1とMBF50%クランク角度θとの関係は、エンジン101の燃焼室内における混合気体の燃焼速度が速いことを示す。つまり、第1閾値T1とMBF50%クランク角度θとの関係が、燃焼速度が速いことを示し(S13:YES)、第2燃料率Rが第2閾値T2以下である場合(S31:YES)、制御装置18は、第1噴射量に対する第2噴射量の割合を増加させる。
【0075】
第1噴射量に対する第2噴射量の割合が増加することにより、アンモニアの不完全燃焼を抑制できる。
【0076】
また、第1噴射量が減少することにより、アンモニアの不完全燃焼をより抑制できる。
【0077】
一方、制御装置18は、MBF50%クランク角度θが第1閾値T1よりも進角しており(S13:YES)、第2燃料率Rが第2閾値T2以下であり(S31:YES)、空気過剰率λが1以上である場合(S32:NO)、第1噴射量および第2噴射量の両方の設定値を増加させる(S34)。
【0078】
なお、制御装置18は、第2燃料率Rが第2閾値T2を超えるように、第2噴射量の設定値を、第1噴射量の設定値よりも大きく増加させる。第2燃料率Rが第2閾値T2を超えることにより、失火を抑制できる。
【0079】
また、第2噴射量が増加することにより、増加した水素によって混合気体中の酸素を消費できるため、余剰の酸素と窒素とから窒素酸化物(NOx)が発生することを抑制できる。
【0080】
ここで、第2噴射量を第1噴射量よりも大きく増加させつつ、第1噴射量および第2噴射量の両方の設定値を増加させると、プレイグニッションが発生する可能性がある。
【0081】
そこで、制御装置18は、第1噴射量および第2噴射量の両方の設定値を増加させるとともに、点火タイミングを遅角させる(S34)。
【0082】
つまり、第1閾値T1とMBF50%クランク角度θとの関係が、燃焼速度が速いことを示し(S13:YES)、第2燃料率計算処理(S11)で計算された第2燃料率Rが第2閾値T2以下であり(S31:YES)、かつ、空気過剰率λが1を超えている場合(S32:NO)、第1噴射量および第2噴射量の両方を増加させつつ、第1噴射量に対する第2噴射量の割合を増加させ、かつ、点火タイミングを遅角させる(S34)。これにより、失火を抑制しつつ、プレイグニッションの発生も抑制できる。
【0083】
また、
図5および
図6に示すように、制御装置18は、MBF50%クランク角度θが第1閾値T1よりも進角しており(S13:YES、
図3参照)、第2燃料率Rが第2閾値T2を超えており(S31:NO)、空気過剰率λが1未満である場合(S41:YES)、第2噴射量の設定値を減少させる(S42)。
【0084】
第2噴射量を減少させることにより、第2噴射量に対する第1噴射量の割合が増加する。つまり、第1閾値T1とMBF50%クランク角度θとの関係が、燃焼速度が速いことを示し(S13:YES)、第2燃料率Rが第2閾値T2を超えている場合(S31:NO)、制御装置18は、第2噴射量に対する第1噴射量の割合を増加させる。これにより、プレイグニッションの発生を抑制できる。
【0085】
また、制御装置18は、MBF50%クランク角度θが第1閾値T1よりも進角しており(S13:YES、
図3参照)、第2燃料率Rが第2閾値T2を超えており(S31:NO)、空気過剰率λが1以上である場合(S41:NO)、第1噴射量の設定値を増加させる(S43)。
【0086】
第1噴射量を増加させることにより、第2噴射量に対する第1噴射量の割合が増加する。これにより、プレイグニッションの発生を抑制できる。
【0087】
また、第1噴射量が増加することによって、増加した水素によって混合気体中の酸素を消費できるため、余剰の酸素と窒素とから窒素酸化物(NOx)が発生することを抑制できる。
【0088】
3.作用効果
(1)燃料供給システム1によれば、
図2に示すように、筒内圧センサ16からの出力値とクランク角センサ17からの出力値とに基づいて、MBF50%クランク角度θを計算する(S2)ことにより、エンジン101の燃焼室内における実際の燃焼状態をモニターできる。
【0089】
そして、
図3および
図4に示すように、MBF50%クランク角度θが第1閾値T1よりも遅角している場合(S13:NO)に、第1噴射量に対する第2噴射量を増加させる。
【0090】
これにより、エンジン101の燃焼室内における実際の燃焼状態に基づいて、第1燃料が不完全燃焼することを抑制できる。
【0091】
(2)燃料供給システム1によれば、
図5に示すように、MBF50%クランク角度θが第1閾値T1よりも進角している場合(S13:YES、
図3参照)であっても、第2燃料率Rが第2閾値T2以下である場合(S31:YES)に、第1噴射量に対する第2噴射量の割合を増加させて、失火を抑制することができる。
【0092】
一方、
図6に示すように、燃焼速度が第1閾値よりも進角しており(S13:YES、
図3参照)、かつ、第2燃料率Rが第2閾値T2を超えている場合(S31:NO)、第2噴射量に対する第1噴射量の割合を増加させて、プレイグニッションの発生を抑制できる。
【0093】
(3)燃料供給システム1によれば、
図4に示すように、MBF50%クランク角度θが第1閾値T1よりも遅角しており(S13:NO、
図3参照)、第2燃料率Rが第2閾値T2を超えており(S14:NO、
図3参照)、かつ、空気過剰率λが1未満である場合(S21:YES)、第1噴射量および第2噴射量の両方の設定値を減少させつつ、燃焼速度を速くしようとしても、空気過剰率λが1を超えてしまわない範囲での第1噴射量および第2噴射量の調節では、燃焼速度を十分に速くできない可能性がある。
【0094】
この点、第1噴射量および第2噴射量の両方の設定値を減少させるとともに、燃焼速度に合わせて点火タイミングを進角させて(S22)、アンモニアの不完全燃焼を抑制できる。
【0095】
また、
図5に示すように、MBF50%クランク角度θが第1閾値T1よりも進角しており(S13:YES、
図3参照)、第2燃料率Rが第2閾値T2以下であり(S31:YES)、かつ、空気過剰率λが1を超えている場合(S32:NO)、第2燃料率Rが第2閾値T2を超えるように、第2噴射量を第1噴射量よりも大きく増加させつつ、第1噴射量および第2噴射量の両方の設定値を増加させると、プレイグニッションが発生する可能性がある。
【0096】
この点、第1噴射量および第2噴射量の両方の設定値を増加させるとともに、点火タイミングを遅角させて(S34)、失火を抑制しつつ、プレイグニッションの発生も抑制できる。
【0097】
4.変形例
燃料供給システム1は、燃料タンク11、気化器12および改質器13に代えて、第1燃料を貯蔵する第1燃料タンクと、第2燃料を貯蔵する第2燃料タンクとを備えてもよい。この場合、第1インジェクタ14は、第1燃料タンクと接続され、第2インジェクタ15は、第2燃料タンクと接続される。
【符号の説明】
【0098】
1 燃料供給システム
14 第1インジェクタ
15 第2インジェクタ
16 筒内圧センサ
17 クランク角センサ
18 制御装置
101 エンジン