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  • 特開-具材入りケーキ類の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080213
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】具材入りケーキ類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 10/00 20060101AFI20240606BHJP
   A21D 2/18 20060101ALI20240606BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20240606BHJP
   A21D 13/31 20170101ALI20240606BHJP
【FI】
A21D10/00
A21D2/18
A21D13/80
A21D13/31
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193216
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西山 沙紀
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB05
4B032DB21
4B032DB40
4B032DE10
4B032DG02
4B032DK02
4B032DK12
4B032DK32
4B032DK45
4B032DK48
4B032DK49
4B032DP12
4B032DP40
4B032DP48
4B032DP55
(57)【要約】
【課題】 フルーツや豆などの具材入りケーキ類の製造において、生地上部に散らしたり、生地に混ぜ込んだりした具材が焼成・蒸し工程で型底に沈むことにより、見た目が悪くなり、商品価値の低下を招くことが問題となっている。本発明の目的は食感や作業性を損なうことなく、具材入りケーキ類の具材の沈降を防止する方法及び具材の沈降が防止された具材入りケーキ類の製造方法を提供することにある。
【解決手段】 生地原料の糖類をD-アルロースに置き換えることにより、食感や作業性を損なうことなく、具材入りケーキ類の具材の沈降を防止することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
D-アルロースを含むバッター生地を調製し、加熱工程前に、そのバッター生地100質量部に対して、かさ比重0.2~2.5g/cm3である具材1~50質量部を混ぜ込む又はトッピングする工程を含む、具材入りケーキ類の製造方法。
【請求項2】
D-アルロースを1.25~27.0%で含む、請求項1記載の具材入りケーキ類の製造方法。
【請求項3】
D-アルロースを含むバッター生地を調製し、加熱工程前に、そのバッター生地100質量部に対して、かさ比重0.2~2.5g/cm3である具材1~50質量部を混ぜ込む又はトッピングする、具材入りケーキ類の具材の沈降防止方法。
【請求項4】
D-アルロースを1.25~27.0%で添加する、請求項3記載の具材入りケーキ類の具材の沈降防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルーツや豆などの具材の沈降が防止された具材入りケーキ類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルーツや豆などの具材入りケーキ類の製造において、生地上部に散らしたり、生地に混ぜ込んだりした具材が焼成・蒸し工程で型底に沈むことにより、見た目が悪くなり、商品価値の低下を招くことが問題となっている。
【0003】
これまでに、具材の沈降を防止することを目的として、焼菓子の生地中にα化穀粉を2~30質量%含む穀粉を配合する、具材入り焼菓子の製造方法(特許文献1)が開示されている。また、具材が均一に分散し見栄えに優れたケーキ類を提供するために、特定量の粉末油脂とキサンタンガムやタマリンドガムなどの天然糊料とを配合することを特徴とする、具材混入用プレミックス粉(特許文献2)が提案されている。さらに、特定の長径/短径比及び比重を有する具材とセルロースとを含有させることにより、具材が均一に分散したベーカリー製品(特許文献3)も知られている。
【0004】
しかし、α化穀粉やキサンタンガムなどの天然糊料を配合すると生地粘度が上昇して生地比重が大きくなるため、具材の沈降を防ぐことは可能となるが、一方で粘度上昇により生地がベタつくため、作業性が低下し、食感が重くなるといった問題が生じる。また、セルロースの添加もケーキ類がボソボソとした食感となり、必ずしも好ましいものとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-168391号公報
【特許文献2】特開平1-312958号公報
【特許文献3】特開2013-226103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、食感や作業性を損なうことなく具材の沈降が防止された具材入りケーキ類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく種々検討したところ、生地原料の糖類をD-アルロースに置き換えることにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、以下の[1]~[4]から構成される。
[1]D-アルロースを含むバッター生地を調製し、加熱工程前に、そのバッター生地100質量部に対して、かさ比重0.2~2.5g/cm3である具材1~50質量部を混ぜ込む又はトッピングする工程を含む、具材入りケーキ類の製造方法。
[2]D-アルロースを1.25~27.0%で含む、前記[1]に記載の具材入りケーキ類の製造方法。
[3]D-アルロースを含むバッター生地を調製し、加熱工程前に、そのバッター生地100質量部に対して、かさ比重0.2~2.5g/cm3である具材1~50質量部を混ぜ込む又はトッピングする、具材入りケーキ類の具材の沈降防止方法。
[4]D-アルロースを1.25~27.0%で添加する、前記[3]に記載の具材入りケーキ類の具材の沈降防止方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、その食感や作業性を損なうことなく、具材の沈降が防止又は抑制された具材入りケーキ類を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】具材の沈降防止効果の評価方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明にいう「ケーキ類」とは、主成分である穀粉及び糖類のほか、必要に応じて卵、油脂、水などの副原料を混合したバッター生地を焼成、蒸し、油調などの方法により加熱してなるものをいい、イースト発酵を伴うパン類とは区別される。ケーキ類の具体例は、スポンジケーキ、シフォンケーキ、パウンドケーキ、バターケーキ、カップケーキ、チーズケーキ、マフィン、マドレーヌ、フィナンシェ、ホットケーキ、パンケーキ、蒸しケーキ、どら焼き、蒸しどら、たい焼き、人形焼、カステラ、ワッフル、ドーナツなどである。
【0012】
本発明にいう「具材」は、固形状の小片物であってケーキ生地に分散できうるものであれば特に限定されないが、例えば、果実、野菜、木の実、種子、穀物、豆類、肉類、魚介類、チーズなどの乳製品、茶葉、チョコレート、キャラメル、マシュマロなどが挙げられる。これらは素材そのままを使用してもよいし、あらかじめ乾燥、シロップ浸漬等の加工を施したものを使用してもよい。上記「具材」は、ケーキ類中に少なくとも1種以上含まれていればよく、その大きさは特に限定されないが、好ましくは目開き45mm篩パス4.0mm篩オンの大きさであればよく、より好ましくは目開き37.5mm篩パス4.75mm篩オンの大きさであればよい。また、具材のかさ比重は特に限定されないが、0.20~2.5g/cm3であればよく、好ましくは0.25~2.0g/cm3、より好ましくは0.25~1.5g/cm3である。なお、ここでいう「かさ比重」とは、既知の容積を有する容器内に具材を充填したときの重さである。
【0013】
本発明における「生地原料」とは、穀粉及び糖類を主体とし、その他副原料を含むものである。副原料は特に限定されないが、例えば、卵、重曹、ベーキングパウダー、牛乳、乳製品、バター、マーガリンなどの油脂、乳化剤、塩などの調味料、水などが挙げられる。
【0014】
上記の「穀粉」は、小麦粉に限定されず、米粉、コーンフラワー、大豆粉、ライ麦粉、大麦粉、あわ粉、ひえ粉、澱粉などを併用してもよく、澱粉には加工澱粉が含まれる。加工澱粉の具体例は、架橋澱粉(例えば、リン酸架橋澱粉)、エーテル化澱粉(例えば、ヒドロキシプロピル澱粉)、エステル化澱粉(例えば、酢酸澱粉)、これら加工を組合せた加工澱粉(例えば、アセチル化アジピン酸架橋澱粉やヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉)、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酸化澱粉、酸処理澱粉などが挙げられる。
【0015】
また、上記の「糖類」は、特に限定されないが、好ましくは砂糖である。砂糖は、ショ糖、スクロースともいい、その粒の大きさや精製度により、グラニュー糖、粉糖、上白糖、三温糖などと名称が異なることがあるが、いずれであっても用いることができる。
【0016】
本発明におけるケーキ類の生地原料は、上記の糖類に代替する方法で、D-アルロースを必須成分として含む。D-アルロースは、例えば、「Astraea」(松谷化学工業株式会社製のD-アルロース95%以上の結晶品)を使用することができる。
【0017】
本発明の具材入りケーキ類の製造方法は、ケーキ類の生地原料中にD-アルロースを配合することを必須とし、ミックス粉の調製時、又はバッター生地の調製時に配合することで足りる。D-アルロースの配合量は、生地原料中に1.25~27.0%配合すればよく、好ましくは1.48~25.3%、より好ましくは2.46~24.6%である。
【0018】
本発明の具材入りケーキ類の製造方法は、上述したD-アルロースを最終的に含むバッター生地を調製する工程を必須とする以外は、定法の製造手順に従えばよく、特に限定されるものではない。また、具材の添加方法も特に制限されず、例えば、生地調製時に混合する方法によることもできるし、生地を型などに充填後、生地にトッピングする方法によることもできる。具材の添加量は、その具材の種類や嗜好に応じて適宜調整すればく、例えば、具材を含まない生地100質量部に対して、1~50質量部であり、好ましくは5~50質量部である。
【0019】
本発明にいう「具材の沈降を防止する」とは、具材入りケーキ類の生地の加熱工程において、具材が型底部に沈むことを防止又は抑制することをいう。その効果の確認方法は種々あるが、例えば、バッター生地表面に具材を散らす方法を選択した場合、加熱後のケーキ類の中心を加熱底面と垂直な方向にカットした際に、その切断面に認められる全具材数に占める、中央より上部に位置する具材数が50%以上であればよく、より好ましくは80%以上であればよい。また、バッター生地に具材を混合する方法を選択した場合、前述の切断面に認められる全具材数に占める、中央より上部に位置する具材数が25%以上であればよく、より好ましくは40%以上であればよい。なお、これらは目視により確認することができる。
【0020】
以下、実施例を提示して本発明を詳細かつ具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特に断りのない限り、「部」は質量部を、「%」は質量%を示す。
【実施例0021】
<試験1:具材の沈降防止効果の確認>
表1の手順及び表2の生地を用いて、黒豆入りマフィンを作製した。なお、使用した黒豆は目開き37.5mm篩パス4.75mm篩オンの大きさであり、そのかさ比重は0.85g/cm3であった。生地粘度は、BL型粘度計(東機産業製、ASB100)を用い、22℃、ローターNo.4、12rpm、30秒間の条件で測定しておき、生地の加熱工程における具材の沈降防止効果は、図1に示す方法により評価した;すなわち、(1)得られたマフィンの中心を加熱底面と垂直な方向にカットし、その断面に認められる全具材数(a)と中央より上部に位置する具材数(b)を目視で確認し、具材の沈降防止率A(%)を算出し、(2)算出した具材の沈降防止率から具材の沈降防止効果を評価した。なお、ある具材の過半が断面中央上部に位置するときは、(b)の数に含めた。具材の沈降防止効果の結果及び生地粘度の測定結果は、表2の下方に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
表2より、ケーキ類の製造に一般的に用いられるグラニュー糖を使用した場合、具材の沈降が認められた(対照例1)。一方、D-アルロースを使用すると、具材の沈降が防止された(実施例1)。また、D-アルロースと同じく単糖であるグルコース又はフラクトースを使用したマフィンでは、具材の沈降防止効果は認められなかった(比較例1、2)。得られたマフィンの食感は、D-アルロースを配合した実施例1では対照例1よりもしっとり感が向上し、良好であった。なお、D-アルロースを配合した生地の粘度が、グラニュー糖を配合した生地の粘度よりも低値を示したことから、D-アルロースによる具材の沈降防止効果が生地粘度の上昇に起因するものでないと推察される。
【0025】
<試験2:D-アルロース配合量の検討>
D-アルロースの配合量の影響を検討するため、表3の配合により試験1と同様の手順で黒豆入りマフィンを作製し、具材の沈降防止効果を評価した。評価結果は、表3の下方に示す。
【0026】
【表3】
【0027】
表3より、生地原料中のD-アルロースの配合量が25.35%以下であれば具材の沈降が防止されるが(実施例1、2)、D-アルロースの配合量が27.03%以上になると、具材の沈降を防止できないことがわかった(比較例3、4)。
【0028】
<試験3:グラニュー糖と併用した場合のD-アルロース配合量の検討>
試験2より具材の沈降防止効果を奏するD-アルロースの配合量の上限が明らかとなったため、次に下限について検討した。下限の検討においては、D-アルロースの配合量が極端に少なくなると甘味バランスが著しく損なわれるため、グラニュー糖を併用した。以下に示す表4の手順及び表5の配合により黒豆入り蒸しケーキを作製し、試験1と同様の方法で具材の沈降防止効果を評価した。また、加熱前の生地粘度は試験1と同様の方法により、生地比重は、調製した生地を100cm3の容器にすりきり一杯となるように充填し、重量を測定することにより算出した。
【0029】
【表4】
【0030】
【表5】
【0031】
表5より、生地原料中のD-アルロースの配合量が1.23%以下では、具材の沈降防止効果は認められないが(比較例5)、D-アルロースの配合量が1.48%以上になると具材の沈降が防止されることがわかった(実施例3~8)。また、得られた蒸しケーキの食感については、D-アルロースを配合したいずれのサンプルにおいても、対照例2と比較してしっとり感が向上し、良好であった。なお、生地粘度及び生地比重のいずれについても、D-アルロース配合量との相関はみられなかった。
【0032】
また、具材である黒豆煮を生地の調製工程の最後に混ぜ込む以外は、表1及び表4に示す手順に従いマフィン及び蒸しケーキを作製したところ、どちらにおいてもD-アルロースを配合することにより、具材の沈降防止効果が認められた。
図1