(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080214
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】目標距離模擬装置及び目標距離模擬プログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 7/40 20060101AFI20240606BHJP
G01S 13/34 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
G01S7/40 156
G01S13/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193217
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】島本 拓也
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB17
5J070AC02
5J070AH04
5J070AH25
5J070AK07
(57)【要約】
【課題】本開示は、目標物と周波数変調レーダ装置との間のダイレクトパスに対する「マルチパス」を模擬することを目的とする。
【解決手段】本開示は、周波数変調レーダ装置1における送信波に対して、複数の種類の遅延のうち一つの種類の遅延を施し、目標距離の概略を模擬する遅延処理部23と、周波数変調レーダ装置1における送信波に対して、周波数シフトを施し、目標距離の概略を補完するように、目標距離の詳細を模擬する周波数シフト部22と、 周波数変調レーダ装置1における送信波に対して、スペクトラム拡散を施し、マルチパスを模擬するスペクトラム拡散部24と、を備えることを特徴とする目標距離模擬装置2である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数変調方式を用いて目標物と自装置との間の目標距離を測定する周波数変調レーダ装置に対して、前記目標距離を模擬する目標距離模擬装置であって、
前記周波数変調レーダ装置における送信波を入力される送信波入力部と、
前記周波数変調レーダ装置における送信波に対して、複数の種類の遅延のうち一つの種類の遅延を施し、前記目標距離の概略を模擬する遅延処理部と、
前記周波数変調レーダ装置における送信波に対して、周波数シフトを施し、前記目標距離の概略を補完するように、前記目標距離の詳細を模擬する周波数シフト部と、
前記周波数変調レーダ装置における送信波に対して、スペクトラム拡散を施し、前記目標物と前記周波数変調レーダ装置との間のマルチパスを模擬するスペクトラム拡散部と、
前記目標距離の概略と、前記目標距離の詳細と、前記目標物と前記周波数変調レーダ装置との間のマルチパスと、が模擬された前記周波数変調レーダ装置における送信波を、前記周波数変調レーダ装置における受信波として出力する受信波出力部と、
を備えることを特徴とする目標距離模擬装置。
【請求項2】
前記スペクトラム拡散部は、前記周波数変調レーダ装置における送信波に対して、スペクトラム拡散を施し、前記周波数変調レーダ装置に対する前記目標物の相対速度のうち、前記周波数変調レーダ装置のビーム方向と垂直な速度成分を模擬し、
前記受信波出力部は、前記周波数変調レーダ装置に対する前記目標物の相対速度のうち、前記周波数変調レーダ装置のビーム方向と垂直な速度成分が模擬された前記周波数変調レーダ装置における送信波を、前記周波数変調レーダ装置における受信波として出力する
ことを特徴とする、請求項1に記載の目標距離模擬装置。
【請求項3】
前記周波数シフト部は、前記周波数変調レーダ装置における送信波に対して、周波数シフトを施し、前記周波数変調レーダ装置に対する前記目標物の相対速度のうち、前記周波数変調レーダ装置のビーム方向と平行な速度成分を模擬し、
前記受信波出力部は、前記周波数変調レーダ装置に対する前記目標物の相対速度のうち、前記周波数変調レーダ装置のビーム方向と平行な速度成分が模擬された前記周波数変調レーダ装置における送信波を、前記周波数変調レーダ装置における受信波として出力する
ことを特徴とする、請求項1に記載の目標距離模擬装置。
【請求項4】
前記スペクトラム拡散部は、前記目標距離の模擬に先立ち、前記目標物と前記周波数変調レーダ装置との間の複数の種類のマルチパスに応じて、複数の種類のスペクトラム拡散信号を記憶し、前記目標距離の模擬にあたり、前記目標物と前記周波数変調レーダ装置との間の所望の種類のマルチパスに応じて、所望の種類のスペクトラム拡散信号を選択する
ことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の目標距離模擬装置。
【請求項5】
請求項1に記載の目標距離模擬装置が備える、前記遅延処理部、前記周波数シフト部及び前記スペクトラム拡散部に対して、前記目標距離の概略と、前記目標距離の詳細と、前記目標物と前記周波数変調レーダ装置との間のマルチパスと、を模擬するように制御するために、コンピュータにインストールされる目標距離模擬プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、周波数変調方式を用いて目標物と自装置との間の目標距離を測定する周波数変調レーダ装置に対して、目標距離を模擬する目標距離模擬装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周波数変調レーダ装置は、周波数変調された送信波と、目標物から反射された受信波と、の間のビート周波数に基づいて、目標物と自装置との間の目標距離を測定するものであり、パルスレーダ装置と比較して、連続波を使用することから低電力消費を実現することができ、ナノ秒パルスを増幅するような高周波部品を省略することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、周波数変調レーダ装置を実地使用しないときに機能試験にかけるために、目標距離模擬装置を用いて、周波数変調レーダ装置に対して、目標物と周波数変調レーダ装置との間の目標距離を模擬しているものの、目標物と周波数変調レーダ装置との間のダイレクトパスに対する「マルチパス」を模擬していなかった。
【0005】
従来技術のマルチパスの発生による解決課題を
図1に示す。
図1における解決課題として、周波数変調レーダ装置を搭載する飛翔体Fが、ホバリングで停止する。そして、周波数変調レーダ装置は、ビームBを地表面Gに照射し、ダイレクトパスDPの距離(=対地高度の2倍)を測定する。しかし、周波数変調レーダ装置は、ビームBの指向性幅に起因して、ダイレクトパスDPに対するマルチパスMPを排除できない。
【0006】
ここで、マルチパスMPの距離は、ダイレクトパスDPの距離と比べて長く、様々な値をとり得る。よって、周波数変調レーダ装置における送信周波数が、低周波数側から高周波数側へとアップチャープされるときには、周波数変調レーダ装置における受信周波数は、ダイレクトパスDPの距離の半分(=対地高度)に対応する受信周波数と比べて、低周波数側にのみスペクトラム拡散され得る。そして、受信周波数が、低周波数側にのみスペクトラム拡散されるため、ビート周波数は、高周波数側にのみスペクトラム拡散される(送信周波数は、マルチパスMPの発生と無関係である。)。しかし、特許文献1では、受信周波数が低周波数側にのみスペクトラム拡散されるとともに、ビート周波数が高周波数側にのみスペクトラム拡散されるように、目標物と周波数変調レーダ装置との間のダイレクトパスDPに対する「マルチパスMP」を模擬していなかった。
【0007】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、目標物と周波数変調レーダ装置との間のダイレクトパスに対する「マルチパス」を模擬することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、周波数変調レーダ装置における送信波に対して、スペクトラム拡散を施し、目標物と周波数変調レーダ装置との間のマルチパスを模擬する。
【0009】
具体的には、本開示は、周波数変調方式を用いて目標物と自装置との間の目標距離を測定する周波数変調レーダ装置に対して、前記目標距離を模擬する目標距離模擬装置であって、前記周波数変調レーダ装置における送信波を入力される送信波入力部と、 前記周波数変調レーダ装置における送信波に対して、複数の種類の遅延のうち一つの種類の遅延を施し、前記目標距離の概略を模擬する遅延処理部と、前記周波数変調レーダ装置における送信波に対して、周波数シフトを施し、前記目標距離の概略を補完するように、前記目標距離の詳細を模擬する周波数シフト部と、 前記周波数変調レーダ装置における送信波に対して、スペクトラム拡散を施し、前記目標物と前記周波数変調レーダ装置との間のマルチパスを模擬するスペクトラム拡散部と、前記目標距離の概略と、前記目標距離の詳細と、前記目標物と前記周波数変調レーダ装置との間のマルチパスと、が模擬された前記周波数変調レーダ装置における送信波を、前記周波数変調レーダ装置における受信波として出力する受信波出力部と、を備えることを特徴とする目標距離模擬装置である。
【0010】
この構成によれば、周波数変調レーダ装置における送信波に対して、スペクトラム拡散を施し、目標物と周波数変調レーダ装置との間のマルチパスを模擬することができる。
【0011】
また、本開示は、前記スペクトラム拡散部は、前記周波数変調レーダ装置における送信波に対して、スペクトラム拡散を施し、前記周波数変調レーダ装置に対する前記目標物の相対速度のうち、前記周波数変調レーダ装置のビーム方向と垂直な速度成分を模擬し、前記受信波出力部は、前記周波数変調レーダ装置に対する前記目標物の相対速度のうち、前記周波数変調レーダ装置のビーム方向と垂直な速度成分が模擬された前記周波数変調レーダ装置における送信波を、前記周波数変調レーダ装置における受信波として出力することを特徴とする目標距離模擬装置である。
【0012】
この構成によれば、周波数変調レーダ装置における送信波に対して、スペクトラム拡散を施し、周波数変調レーダ装置に対する目標物の相対速度のうち、周波数変調レーダ装置のビーム方向と垂直な速度成分(マルチパスに起因)を模擬することができる。
【0013】
また、本開示は、前記周波数シフト部は、前記周波数変調レーダ装置における送信波に対して、周波数シフトを施し、前記周波数変調レーダ装置に対する前記目標物の相対速度のうち、前記周波数変調レーダ装置のビーム方向と平行な速度成分を模擬し、前記受信波出力部は、前記周波数変調レーダ装置に対する前記目標物の相対速度のうち、前記周波数変調レーダ装置のビーム方向と平行な速度成分が模擬された前記周波数変調レーダ装置における送信波を、前記周波数変調レーダ装置における受信波として出力することを特徴とする目標距離模擬装置である。
【0014】
この構成によれば、周波数変調レーダ装置における送信波に対して、周波数シフトを施し、周波数変調レーダ装置に対する目標物の相対速度のうち、周波数変調レーダ装置のビーム方向と平行な速度成分(マルチパスと独立)を模擬することができる。
【0015】
また、本開示は、前記スペクトラム拡散部は、前記目標距離の模擬に先立ち、前記目標物と前記周波数変調レーダ装置との間の複数の種類のマルチパスに応じて、複数の種類のスペクトラム拡散信号を記憶し、前記目標距離の模擬にあたり、前記目標物と前記周波数変調レーダ装置との間の所望の種類のマルチパスに応じて、所望の種類のスペクトラム拡散信号を選択することを特徴とする目標距離模擬装置である。
【0016】
この構成によれば、目標距離模擬装置は、複数の種類のスペクトラム拡散信号を、自ら生成することなく記憶・選択するのみであり、装置規模を小さくすることができる。
【0017】
また、本開示は、以上の目標距離模擬装置が備える、前記遅延処理部、前記周波数シフト部及び前記スペクトラム拡散部に対して、前記目標距離の概略と、前記目標距離の詳細と、前記目標物と前記周波数変調レーダ装置との間のマルチパスと、を模擬するように制御するために、コンピュータにインストールされる目標距離模擬プログラムである。
【0018】
この構成によれば、以上の効果を有するプログラムを提供することができる。
【0019】
なお、上記各開示の発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0020】
このように、本開示は、目標物と周波数変調レーダ装置との間のダイレクトパスに対する「マルチパス」を模擬することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】従来技術のマルチパスの発生による解決課題を示す図である。
【
図2】本開示の目標距離模擬装置の構成を示す図である。
【
図3】本開示の目標距離模擬処理の手順を示す図である。
【
図4】本開示のマルチパスの模擬処理の内容を示す図である。
【
図5】本開示のビーム垂直速度の模擬処理の内容を示す図である。
【
図6】本開示のビーム平行速度の模擬処理の内容を示す図である。
【
図7】本開示のスペクトラム拡散信号の記憶・選択処理の内容を示す図である。
【
図8】本開示のスペクトラム拡散信号の記憶・選択処理の内容を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0023】
(本開示の目標距離模擬装置の概要)
本開示の目標距離模擬装置の構成を
図2に示す。本開示の目標距離模擬処理の手順を
図3に示す。周波数変調レーダ装置の機能試験システムは、周波数変調レーダ装置1及び目標距離模擬装置2から構成される。周波数変調レーダ装置1は、通常のFMCW方式又はFMCWサーボスロープ方式を用いて、目標物と自装置1との間の目標距離を測定する。目標距離模擬装置2は、周波数変調レーダ装置1に対して、目標距離を模擬する。
【0024】
周波数変調レーダ装置1は、送信波生成部11、送信波出力部12、受信波入力部13及び送受信相関部14から構成される。送信波生成部11は、自装置1における送信波を生成する。送信波出力部12は、自装置1における送信波を出力する。受信波入力部13は、自装置1における受信波を入力される。送受信相関部14は、自装置1における送信波と受信波との間の相関を計算し、つまり、自装置1における送信波と受信波との間のビート周波数を計算し、そして、目標物と自装置1との間の目標距離を測定する。
【0025】
目標距離模擬装置2は、送信波入力部21、周波数シフト部22、遅延処理部23、スペクトラム拡散部24、受信波出力部25、目標距離記憶部26及び目標距離制御部27から構成される。目標距離制御部27は、
図3に示した目標距離模擬プログラム(
図3の右欄の処理を参照)を、コンピュータにインストールし実現されてもよく、FPGA(Field Programmable Gate Array)を、目標距離模擬装置2に搭載し実現されてもよい。
【0026】
送信波入力部21は、周波数変調レーダ装置1における送信波を入力される。遅延処理部23は、周波数変調レーダ装置1における送信波に対して、複数の種類の遅延のうち一つの種類の遅延を施し、目標距離の概略を模擬する。周波数シフト部22は、周波数変調レーダ装置1における送信波に対して、周波数シフトを施し、目標距離の概略を補完するように、目標距離の詳細を模擬する。スペクトラム拡散部24は、周波数変調レーダ装置1における送信波に対して、スペクトラム拡散を施し、目標物と周波数変調レーダ装置1との間のマルチパスを模擬する。受信波出力部25は、目標距離の概略と、目標距離の詳細と、目標物と周波数変調レーダ装置1との間のマルチパスと、が模擬された周波数変調レーダ装置1における送信波を、周波数変調レーダ装置1における受信波として出力する。特に、スペクトラム拡散部24について、
図4~8を用いて詳述する。
【0027】
目標距離記憶部26は、目標距離、マルチパス及び相対速度の時間変化のシナリオを記憶している。目標距離制御部27は、目標距離、マルチパス及び相対速度の時間変化のシナリオに基づいて、遅延処理部23における遅延量と、周波数シフト部22における周波数シフト量と、スペクトラム拡散部24におけるスペクトラム拡散幅と、を制御する。
【0028】
本開示では、周波数シフト部22、遅延処理部23の順序で、目標距離の模擬処理を実行している。変形例として、遅延処理部23、周波数シフト部22の順序で、目標距離の模擬処理を実行してもよい。つまり、遅延処理部23が、先に目標距離の「概略」を模擬したうえで、周波数シフト部22は、後に目標距離の「詳細」を模擬できるのである。
【0029】
(本開示のマルチパス及び相対速度の模擬処理)
本開示のマルチパスの模擬処理の内容を
図4に示す。
図4における模擬対象として、周波数変調レーダ装置1を搭載する飛翔体Fが、ホバリングで停止する。そして、周波数変調レーダ装置1は、ビームBを地表面Gに照射し、ダイレクトパスDPの距離(=対地高度の2倍)を測定する。しかし、周波数変調レーダ装置1は、ビームBの指向性幅に起因して、ダイレクトパスDPに対するマルチパスMPを排除できない。
【0030】
まず、周波数変調レーダ装置1において、送信波出力部12は、自装置1における送信波を出力する(ステップS1)。次に、目標距離模擬装置2において、送信波入力部21は、周波数変調レーダ装置1における送信波を入力される(ステップS2)。
【0031】
目標距離制御部27は、遅延処理部23における遅延量と、周波数シフト部22における周波数シフト量と、スペクトラム拡散部24におけるスペクトラム拡散幅と、を制御する(ステップS3~S5)。ここで、目標距離制御部27は、目標距離、マルチパス及び相対速度の時間変化のシナリオを、目標距離記憶部26から逐次取得する。
【0032】
遅延処理部23は、周波数変調レーダ装置1における送信波に対して、複数の種類の遅延のうち一つの種類の遅延を施し、目標距離の概略を模擬する(ステップS4)。ここで、目標距離制御部27は、いずれの遅延回路部233に対して遅延切替部231が導通経路を設定するかと、いずれの遅延回路部233に対して遅延切替部232が導通経路を設定するかと、を制御することにより、遅延処理部23における遅延量を制御する。
【0033】
周波数シフト部22は、周波数変調レーダ装置1における送信波に対して、周波数シフトを施し、目標距離の概略を補完するように、目標距離の詳細を模擬する(ステップS3)。ここで、目標距離制御部27は、ダウンコンバート部221に対して局部発振部223が出力する局部発振信号の発振周波数と、アップコンバート部222に対して局部発振部223が出力する局部発振信号の発振周波数と、の間の差分の大きさ及び符号を制御することにより、周波数シフト部22における周波数シフト量を制御する。
【0034】
スペクトラム拡散部24は、周波数変調レーダ装置1における送信波に対して、スペクトラム拡散を施し、目標物と周波数変調レーダ装置1との間のマルチパスMPを模擬する(ステップS5)。ここで、マルチパスMPの距離は、ダイレクトパスDPの距離と比べて長く、様々な値をとり得る。よって、周波数変調レーダ装置1における送信周波数が、低周波数側から高周波数側へとアップチャープされるときには、周波数変調レーダ装置1における受信周波数は、ダイレクトパスDPの距離の半分(=対地高度)に対応する受信周波数と比べて、低周波数側にのみスペクトラム拡散され得る。
【0035】
そこで、目標距離制御部27は、ダウンコンバート部241に対して局部発振部243が出力する局部発振信号の発振周波数を、所定周波数に制御する。そして、目標距離制御部27は、アップコンバート部242に対して拡散信号発振部244が出力する拡散信号の発振周波数を、上記の所定周波数と比べて低周波数側にのみスペクトラム拡散させる。
【0036】
次に、目標距離模擬装置2において、受信波出力部25は、周波数変調レーダ装置1における受信波を出力する(ステップS6)。次に、周波数変調レーダ装置1において、受信波入力部13は、自装置1における受信波を入力される(ステップS7)。
【0037】
送受信相関部14は、自装置1における送信波と受信波との間の相関を計算し、つまり、自装置1における送信波と受信波との間のビート周波数を計算し、そして、目標距離を測定する(ステップS8)。ここで、送受信相関部14は、ビート周波数のスペクトラムにおいて、ピーク周波数に基づいて目標距離を測定する。そして、受信周波数が、低周波数側にのみスペクトラム拡散されるため、ビート周波数は、高周波数側にのみスペクトラム拡散される(送信周波数は、マルチパスMPの模擬と無関係である。)。
【0038】
このように、周波数変調レーダ装置1における送信波に対して、スペクトラム拡散を施し、目標物と周波数変調レーダ装置1との間のマルチパスを模擬することができる。
【0039】
本開示のビーム垂直速度の模擬処理の内容を
図5に示す。
図5における模擬対象として、周波数変調レーダ装置1を搭載する飛翔体Fが、水平方向に飛翔する。そして、周波数変調レーダ装置1は、ビームBを地表面Gに照射し、ダイレクトパスDPの距離(=対地高度の2倍)を測定する。しかし、周波数変調レーダ装置1は、ビームBの指向性幅に起因して、ダイレクトパスDPに対するマルチパスMPを排除できない。
【0040】
図5における模擬処理において、
図4における模擬処理と比べて、ステップS1~S4、S6~S8はほぼ同様であるが、ステップS5は追加の処理を実行する。
【0041】
スペクトラム拡散部24は、周波数変調レーダ装置1における送信波に対して、スペクトラム拡散を施し、周波数変調レーダ装置1に対する目標物の相対速度のうち、周波数変調レーダ装置1のビームBの方向と垂直な速度成分を模擬する(ステップS5)。
【0042】
ここで、マルチパスMPの距離は、ダイレクトパスDPの距離と比べて長く、様々な値をとり得る。そして、ビームBの方向と垂直な速度成分は、飛翔体Fの水平方向の飛翔に起因するとともに、マルチパスMPの水平方向の成分に起因する。よって、周波数変調レーダ装置1における送信周波数が、低周波数側から高周波数側へとアップチャープされるときには、周波数変調レーダ装置1における受信周波数は、ダイレクトパスDPの距離の半分(=対地高度)に対応する受信周波数と比べて、低周波数側に広帯域でスペクトラム拡散され得るとともに、高周波数側に狭帯域でスペクトラム拡散され得る。
【0043】
そこで、目標距離制御部27は、ダウンコンバート部241に対して局部発振部243が出力する局部発振信号の発振周波数を、所定周波数に制御する。そして、目標距離制御部27は、アップコンバート部242に対して拡散信号発振部244が出力する拡散信号の発振周波数を、上記の所定周波数と比べて、低周波数側に広帯域でスペクトラム拡散させるとともに、高周波数側に狭帯域でスペクトラム拡散させる。
【0044】
送受信相関部14は、自装置1における送信波と受信波との間の相関を計算し、つまり、自装置1における送信波と受信波との間のビート周波数を計算し、そして、目標距離を測定する(ステップS8)。ここで、送受信相関部14は、ビート周波数のスペクトラムにおいて、ピーク周波数に基づいて目標距離を測定する。そして、受信周波数が、低周波数側に広帯域でスペクトラム拡散され、高周波数側に狭帯域でスペクトラム拡散されるため、ビート周波数は、高周波数側に広帯域でスペクトラム拡散され、低周波数側に狭帯域でスペクトラム拡散される(送信周波数は、マルチパスMPの模擬と無関係である。)。
【0045】
このように、周波数変調レーダ装置1における送信波に対して、スペクトラム拡散を施し、周波数変調レーダ装置1に対する目標物の相対速度のうち、周波数変調レーダ装置1のビームBの方向と垂直な速度成分(マルチパスMPに起因)を模擬することができる。
【0046】
本開示のビーム平行速度の模擬処理の内容を
図6に示す。
図6における模擬対象として、周波数変調レーダ装置1を搭載する飛翔体Fが、鉛直方向に上昇する。そして、周波数変調レーダ装置1は、ビームBを地表面Gに照射し、ダイレクトパスDPの距離(=対地高度の2倍)を測定する。しかし、周波数変調レーダ装置1は、ビームBの指向性幅に起因して、ダイレクトパスDPに対するマルチパスMPを排除できない。
【0047】
図6における模擬処理において、
図4における模擬処理と比べて、ステップS1、S2、S4~S8はほぼ同様であるが、ステップS3は追加の処理を実行する。
【0048】
周波数シフト部22は、周波数変調レーダ装置1における送信波に対して、周波数シフトを施し、周波数変調レーダ装置1に対する目標物の相対速度のうち、周波数変調レーダ装置1のビームBの方向と平行な速度成分を模擬する(ステップS3)。
【0049】
ここで、マルチパスMPの距離は、ダイレクトパスDPの距離と比べて長く、様々な値をとり得る。そして、ビームBの方向と平行な速度成分は、飛翔体Fの鉛直方向の上昇に起因するものの、マルチパスMPの水平方向の成分と独立である。よって、周波数変調レーダ装置1における送信周波数が、低周波数側から高周波数側へとアップチャープされるときには、周波数変調レーダ装置1における受信周波数は、ダイレクトパスDPの距離の半分(=対地高度)に対応する受信周波数と比べて、低周波数側にシフトし得る(
図6における模擬処理を、
図4における模擬処理と比較。)。
【0050】
そこで、目標距離制御部27は、ダウンコンバート部221に対して局部発振部223が出力する局部発振信号の発振周波数を、所定周波数に制御する。そして、目標距離制御部27は、アップコンバート部222に対して局部発振部223が出力する局部発振信号の発振周波数を、上記の所定周波数と比べて、低周波数側にシフトさせる。なお、
図6の右欄において、周波数シフト部22における低周波数側へのシフトと、スペクトラム拡散部24における低周波数側のみへのスペクトラム拡散と、を一括して記載している。また、
図6の右欄において、周波数シフト部22におけるビーム水平速度の模擬のみを考慮しており、周波数シフト部22における目標距離の詳細の模擬を考慮していない。
【0051】
送受信相関部14は、自装置1における送信波と受信波との間の相関を計算し、つまり、自装置1における送信波と受信波との間のビート周波数を計算し、そして、目標距離を測定する(ステップS8)。ここで、送受信相関部14は、ビート周波数のスペクトラムにおいて、ピーク周波数に基づいて目標距離を測定する。そして、受信周波数が、低周波数側にシフトするため、ビート周波数は、高周波数側にシフトする(
図6における模擬処理を、
図4における模擬処理と比較。送信周波数は、マルチパスMPの模擬と無関係である。)。
【0052】
このように、周波数変調レーダ装置1における送信波に対して、周波数シフトを施し、周波数変調レーダ装置1に対する目標物の相対速度のうち、周波数変調レーダ装置1のビームBの方向と平行な速度成分(マルチパスMPと独立)を模擬することができる。
【0053】
(本開示のスペクトラム拡散信号の記憶・選択処理)
本開示のスペクトラム拡散信号の記憶・選択処理の内容を
図7、8に示す。スペクトラム拡散部24は、目標距離の模擬に先立ち、目標物と周波数変調レーダ装置1との間の複数の種類のマルチパスMPに応じて、複数の種類のスペクトラム拡散信号を記憶する。
【0054】
図7において、ベクトル信号発生器3は、複数の種類のスペクトラム拡散モードを用いて、複数の種類のスペクトラム拡散信号を生成する。デジタルオシロスコープ4は、複数の種類のスペクトラム拡散信号を測定する。拡散信号記憶装置5は、複数の種類のスペクトラム拡散信号を記憶する。拡散信号発振部244は、複数の種類のスペクトラム拡散信号を、拡散信号記憶装置5から取得し、拡散信号記憶部245に記憶する。
【0055】
図8において、ホワイトノイズ発生器6は、ホワイトノイズ(全周波数に信号強度が分布)を生成する。バンドパスフィルタ7は、複数の種類の通過帯域特性モードを用いて、複数の種類のスペクトラム拡散信号を生成する。拡散信号記憶装置5は、複数の種類のスペクトラム拡散信号を記憶する。拡散信号発振部244は、複数の種類のスペクトラム拡散信号を、拡散信号記憶装置5から取得し、拡散信号記憶部245に記憶する。
【0056】
No.1及びNo.2のスペクトラム拡散信号は、
図4、6に示したスペクトラム拡散特性を有する。ここで、No.1のスペクトラム拡散信号は、No.2のスペクトラム拡散信号と比べて、スペクトラム拡散幅が狭い。No.3及びNo.4のスペクトラム拡散信号は、
図5に示したスペクトラム拡散特性を有する。ここで、No.3のスペクトラム拡散信号は、No.4のスペクトラム拡散信号と比べて、スペクトラム拡散幅が狭い。
【0057】
スペクトラム拡散部24は、目標距離の模擬にあたり、目標物と周波数変調レーダ装置1との間の所望の種類のマルチパスMPに応じて、所望の種類のスペクトラム拡散信号を選択する(ステップS5)。目標距離制御部27は、拡散特性選択信号(No.1、No.2、No.3又はNo.4)を拡散信号発振部244に出力する。拡散信号発振部244は、拡散特性選択信号(No.1、No.2、No.3又はNo.4)に対応するスペクトラム拡散信号を、拡散信号記憶部245から読み出し、アップコンバート部242に出力する。
【0058】
このように、目標距離模擬装置2は、複数の種類のスペクトラム拡散信号を、自ら生成することなく記憶・選択するのみであり、装置規模を小さくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本開示の目標距離模擬装置及び目標距離模擬プログラムは、(1)地表面と自装置との間の対地高度を測定する電波高度計(飛翔体に搭載)に対して、対地高度を地上試験において模擬する目的と、(2)目標物と自装置との間の目標距離を測定するレーダ装置(飛翔体に非限定)に対して、目標距離を機能試験において模擬する目的と、に適用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1:周波数変調レーダ装置
2:目標距離模擬装置
3:ベクトル信号発生器
4:デジタルオシロスコープ
5:拡散信号記憶装置
6:ホワイトノイズ発生器
7:バンドパスフィルタ
11:送信波生成部
12:送信波出力部
13:受信波入力部
14:送受信相関部
21:送信波入力部
22:周波数シフト部
23:遅延処理部
24:スペクトラム拡散部
25:受信波出力部
26:目標距離記憶部
27:目標距離制御部
221:ダウンコンバート部
222:アップコンバート部
223:局部発振部
231:遅延切替部
232:遅延切替部
233:遅延回路部
241:ダウンコンバート部
242:アップコンバート部
243:局部発振部
244:拡散信号発振部
245:拡散信号記憶部
F:飛翔体
G:地表面
B:ビーム
DP:ダイレクトパス
MP:マルチパス