(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080232
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】シートベルトリトラクタ及びシートベルト装置
(51)【国際特許分類】
B60R 22/28 20060101AFI20240606BHJP
B60R 22/36 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
B60R22/28 107
B60R22/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193256
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】318002149
【氏名又は名称】Joyson Safety Systems Japan合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】陳 磊
(72)【発明者】
【氏名】大塚 晋作
(72)【発明者】
【氏名】三原 篤
(72)【発明者】
【氏名】木村 隆章
【テーマコード(参考)】
3D018
【Fターム(参考)】
3D018DA07
3D018HB05
3D018HB07
3D018HD02
3D018HE01
(57)【要約】
【課題】より幅広いフレキシブルなEA荷重を発生することを可能とする。
【解決手段】シートベルトリトラクタ1は、スプール2内にスプール2と同軸上に設けられ、ロック機構4の作動時にウェビング104からスプール2に伝達される引張荷重に応じて捻れることによって乗員109の運動エネルギを吸収する第一トーションバー51と、スプール2内において第一トーションバー51の外周側に設けられ、相対的に低い引張荷重に応じて捻れることによって運動エネルギを吸収する第二トーションバー52と、第一トーションバー51と第二トーションバー52の一方に引張荷重が付加されるように切り替える切替機構53と、モータ61から出力される駆動力による駆動荷重をスプール2に付加して、第一トーションバー51または第二トーションバー52に付加される引張荷重を調整する荷重調整機構6と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェビングが巻回されるスプールと、
緊急時に前記スプールのウェビング引き出し方向の回転を規制するロック機構と、
前記スプール内に前記スプールと同軸上に設けられ、前記ロック機構の作動時に前記ウェビングから前記スプールに伝達される引張荷重に応じて捻れることによって乗員の運動エネルギを吸収する第一トーションバーと、
前記スプール内において前記第一トーションバーの外周側に設けられ、前記第一トーションバーに対して相対的に低い前記引張荷重に応じて捻れることによって前記運動エネルギを吸収する第二トーションバーと、
前記第一トーションバーと前記第二トーションバーの一方に前記引張荷重が付加されるように切り替える切替機構と、
駆動源から出力される駆動力による駆動荷重を前記スプールに付加して、前記第一トーションバーまたは前記第二トーションバーに付加される前記引張荷重を調整する荷重調整機構と、
を備えるシートベルトリトラクタ。
【請求項2】
前記スプールの軸方向に沿って前記スプール、前記切替機構、前記荷重調整機構の順で配置され、
前記荷重調整機構は、前記切替機構の動作によらず前記スプールと常時連結され、前記切替機構によって前記引張荷重が付加されるよう切り替えられる前記第一トーションバーまたは前記第二トーションバーに付加される前記引張荷重を調整する、
請求項1に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項3】
前記切替機構は、前記スプールの軸方向に沿って摺動することにより前記第一トーションバーと前記スプールとの連結と解除とを行うリリースリングを有し、
前記リリースリングは前記スプールと常時連結されており、
前記荷重調整機構は、前記駆動源から出力される前記駆動力を前記スプールに伝達するシャフトギアを有し、
前記切替機構は、前記リリースリングから前記軸方向に沿って前記荷重調整機構側へ延在する連結部を有し、
前記荷重調整機構は、前記シャフトギアに前記軸方向に沿って貫通して設けられ、前記連結部を摺動可能に挿通するよう形成される貫通孔を有し、
前記連結部は、前記リリースリングによる前記第一トーションバーと前記スプールとの前記連結及び前記解除の状態の両方において前記貫通孔への挿通状態を維持できるよう前記軸方向の長さが形成され、これにより前記シャフトギアから前記駆動力が前記スプールに伝達される、
請求項2に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項4】
前記第一トーションバーが吸収可能な前記引張荷重に対する前記荷重調整機構による荷重調整範囲の下限と、前記第二トーションバーが吸収可能な前記引張荷重に対する前記荷重調整範囲の上限とが同一である、
請求項1に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項5】
前記第一トーションバーが吸収可能な前記引張荷重に対する前記荷重調整機構による荷重調整範囲の下限は、前記第二トーションバーが吸収可能な前記引張荷重に対する前記荷重調整範囲の上限より小さい、請求項1に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項6】
前記引張荷重が所定の閾値以下のとき、前記第一トーションバー及び前記第二トーションバーを用いずに前記荷重調整機構の前記駆動荷重の調整のみで前記運動エネルギの吸収を行う、
請求項1に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項7】
乗員を拘束するウェビングと、
前記ウェビングを引き出し可能に巻き取るとともに、緊急時に作動して前記ウェビングの引き出しを阻止する、請求項1~6のいずれか一項に記載のシートベルトリトラクタと、
前記シートベルトリトラクタから引き出された前記ウェビングに摺動可能に支持されるタングと、
車体またはシートに設けられ、前記タングが離脱可能に係止されるバックルと、
を備えるシートベルト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シートベルトリトラクタ及びシートベルト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シートベルトリトラクタのエネルギ吸収機構において、例えば特許文献1には、2種類のエネルギ吸収(EA)機構を設け、第1のエネルギ吸収機構と第2のエネルギ吸収機構のEA荷重間をモータで制御することにより、フレキシブルなEA荷重を発生する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の手法では、一方のエネルギ吸収機構がスプールの外部に配置され、さらにこのスプール外部に配置されるエネルギ吸収機構にモータが連結される構造のため、シートベルトリトラクタの体格大型化について改善の余地がある。また、モータは一方のエネルギ吸収機構を介して連結されるため、フレキシブルなEA荷重を発生させる点でも改善の余地がある。
【0005】
本開示は、より幅広いフレキシブルなEA荷重を発生することが可能なシートベルトリトラクタ及びシートベルト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態の一観点に係るシートベルトリトラクタは、ウェビングが巻回されるスプールと、緊急時に前記スプールのウェビング引き出し方向の回転を規制するロック機構と、前記スプール内に前記スプールと同軸上に設けられ、前記ロック機構の作動時に前記ウェビングから前記スプールに伝達される引張荷重に応じて捻れることによって乗員の運動エネルギを吸収する第一トーションバーと、前記スプール内において前記第一トーションバーの外周側に設けられ、前記第一トーションバーに対して相対的に低い前記引張荷重に応じて捻れることによって前記運動エネルギを吸収する第二トーションバーと、前記第一トーションバーと前記第二トーションバーの一方に前記引張荷重が付加されるように切り替える切替機構と、駆動源から出力される駆動力による駆動荷重を前記スプールに付加して、前記第一トーションバーまたは前記第二トーションバーに付加される前記引張荷重を調整する荷重調整機構と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、より幅広いフレキシブルなEA荷重を発生することが可能なシートベルトリトラクタ及びシートベルト装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係るシートベルトリトラクタが適用されるシートベルト装置の概略構成図
【
図2】実施形態に係るシートベルトリトラクタの分解斜視図
【
図3】
図2に示すシートベルトリトラクタの組立斜視図
【
図4】
図3に示すシートベルトリトラクタの縦断面図
【
図5】エネルギ吸収機構が第一トーションバーによりエネルギ吸収を実施する構成を示す断面図
【
図6】エネルギ吸収機構が第二トーションバーによりエネルギ吸収を実施する構成を示す断面図
【
図7】シャフトギアとリリースリングとの連結構造を示す図
【
図8】本実施形態におけるエネルギ吸収機能の伝達経路を示すブロック図
【
図9】本実施形態におけるエネルギ吸収機能を説明する図
【
図10】シートベルトリトラクタの制御に関する機能ブロック図
【
図11】本実施形態のエネルギ吸収制御の一例を示すフローチャート
【
図12】本実施形態におけるエネルギ吸収制御の制御パターンの第1例を示す図
【
図13】本実施形態におけるエネルギ吸収制御の制御パターンの第2例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0010】
なお、以下の説明において、
図2以降のシートベルトリトラクタ1に関する各図面で示すX方向、Y方向、Z方向は互いに垂直な方向である。X方向はスプール2の回転軸の軸心CAの延在方向である。Y方向、Z方向は、それぞれスプール2の回転軸からの遠心方向であり、典型的にはZ方向は上下方向である。また、シートベルトリトラクタ1の回転軸方向のうち、リテーナ43側をX正方向側とし、荷重調整機構6側をX負方向側とする。
【0011】
[シートベルト装置の構成]
まず
図1を参照して、実施形態に係るシートベルトリトラクタ1が適用されるシートベルト装置101の構成の一例を説明する。
【0012】
シートベルト装置101は、車両に搭載された車載システムの一例である。シートベルト装置101は、例えば、シートベルト104と、シートベルトリトラクタ1と、ショルダーアンカー106と、タング107と、バックル108とを備える。
【0013】
シートベルト104は、車両のシート102に座る乗員109を拘束するウェビングの一例であり、シートベルトリトラクタ1に引き出し可能に巻き取られる帯状部材である。シートベルト104の先端のベルトアンカー105は、シート102又はシート102の近傍の車体に固定される。
【0014】
シートベルトリトラクタ1は、シートベルト104の巻き取り又は引き出しを可能にする巻き取り装置の一例であり、車両衝突時等の所定値以上の減速度が車両に加わると、シートベルト104がシートベルトリトラクタ1から引き出されることを制限する。シートベルトリトラクタ1は、シート102又はシート102の近傍の車体に固定される。
【0015】
ショルダーアンカー106は、シートベルト104が挿通するベルト挿通具の一例であり、シートベルトリトラクタ1から引き出されたシートベルト104を乗員109の肩部の方へガイドする部材である。
【0016】
タング107は、シートベルト104が挿通するベルト挿通具の一例であり、ショルダーアンカー106によりガイドされたシートベルト104に摺動可能に取り付けられた部品である。
【0017】
バックル108は、タング107が離脱可能に係止される部品であり、例えば、シート102又はシート102の近傍の車体に固定される。
【0018】
[シートベルトリトラクタの構成]
次に
図2~
図9を参照して、実施形態に係るシートベルトリトラクタ1の構成について説明する。
図2は、実施形態に係るシートベルトリトラクタ1の分解斜視図である。
図3は、
図2に示すシートベルトリトラクタ1の組立斜視図である。
図4は、
図3に示すシートベルトリトラクタ1の縦断面図である。
図4は、スプール2の回転軸の軸心CAを通り、XZ平面に沿った断面図である。
【0019】
図2に示すように、本実施形態に係るシートベルトリトラクタ1は、乗員109(
図1参照)を拘束するウェビング(
図1のシートベルト104)の巻き取りを行うスプール2と、緊急時にウェビング104を巻き取って弛みを除去するプリテンショナ3と、緊急時にスプール2のウェビング引き出し方向の回転を規制するロック機構4と、ロック機構4の作動時にウェビング104に付加される荷重を制限することによって乗員109の運動エネルギを吸収するエネルギ吸収(EA)機構5と、ウェビング104からスプール2を介してEA機構に伝達される引張荷重を調整する荷重調整機構6と、を備えている。なお、
図2では、ウェビング104の図示は省略されている。
【0020】
スプール2は、ウェビング104を巻き取る巻胴であり、シートベルトリトラクタ1の骨格を形成するベースフレーム11内に回転可能に収容されている。また、例えば、スプール2の第一端部21側(X正方向側)にプリテンショナ3及びロック機構4が配置され、第二端部22側(X負方向側)にエネルギ吸収機構5が配置される。
【0021】
プリテンショナ3は、スプール2に接続されたパドルギア31と、緊急時にパドルギア31に動力を伝達する動力伝達装置32と、を備えている。なお、プリテンショナ3の構成は、図示した構成に限定されるものではない。パドルギア31は、ロッキングベース41の軸部41aの中間部に固定され、ロッキングベース41の軸部41aがスプール2に固定される。また、パドルギア31とスプール2との間にベアリングプレート23が配置されていてもよい。
【0022】
動力伝達装置32は、例えば、パドルギア31に動力を伝達する動力伝達部材(図示せず)と、動力伝達部材をパドルギア31に案内する筒形状の案内部材33と、案内部材33の内部に作動ガスを供給するガス発生器34と、パドルギア31の外周に動力伝達部材の通路を形成するカバー部材35と、を備えている。
【0023】
本実施形態では、パドルギア31がベースフレーム11の内側に配置される構成を有していることから、ベースフレーム11の内面にカバー部材35が配置され、ベースフレーム11の外面にロック機構4の一部を収容するリテーナカバー43が配置されている。
【0024】
なお、パドルギア31がベースフレーム11の外側に配置される構成を有している場合には、ベースフレーム11の外面にカバー部材35が配置され、カバー部材35の外側にロック機構4の一部を収容するリテーナカバー43が配置される。
【0025】
車両衝突時等の緊急時には、ガス発生器34から案内部材33内に作動ガスが供給され、動力伝達部材が案内部材33に沿って移動する。案内部材33から放出された動力伝達部材は、パドルギア31の係合歯に衝突し、パドルギア31を回転させる。このパドルギア31の回転によりスプール2を回転させてウェビングを巻き取り、ウェビングの弛みを除去して乗員をシートに拘束する。
【0026】
ロック機構4は、例えば、スプール2に固定されるロッキングベース41と、ロッキングベース41に隣接する位置に配置されたロックギア42と、ロックギア42を収容するリテーナカバー43と、を備えている。リテーナカバー43には、車体の急減速や傾きを検出するビークルセンサ44が配置されていてもよい。なお、ロック機構4の構成は、図示した構成に限定されるものではない。
【0027】
ロッキングベース41は、スプール2に固定される軸部41aと、ベースフレーム11の開口部に形成された内歯に係合可能なパウル(図示せず)を有するフランジ部41bと、を備えている。軸部41aの中心部には、第一トーションバー51を固定する挿入穴41cが形成されている。また、軸部41aの外周は多角形状に形成されており、この部分にパドルギア31、ベアリングプレート23及びスプール2の第一端部21が挿通されて固定される。
【0028】
フランジ部41bには、径方向外方に出没可能にパウルが配置されている。パウルは、ロック機構4の非作動時には、フランジ部41bの外径内に収まるように収容されている。また、パウルは、ロック機構4の作動時には、フランジ部41bの外径よりも径方向外方に突出され、ベースフレーム11の開口部に形成された内歯に係合する。このように、パウルをベースフレーム11に係合させることにより、ロッキングベース41のウェビング引き出し方向の回転を規制することができる。
【0029】
ロックギア42は、揺動可能に配置されたフライホイール(図示せず)を備えており、ウェビング104が通常の引き出し速度よりも早い場合には、フライホイールが揺動してリテーナカバー43に形成された内歯43aに係合する。また、ビークルセンサ44が作動した場合には、ビークルセンサ44のレバー44aがロックギア42の側面に形成された外歯42aに係合する。
【0030】
このように、ロックギア42は、フライホイール又はビークルセンサ44の作動により回転が規制される。そして、ロックギア42の回転が規制されると、ロッキングベース41とロックギア42との間に相対回転が生じ、この相対回転に伴ってパウルがロッキングベース41のフランジ部41bから径方向外方に突出される。
【0031】
エネルギ吸収機構5は、例えば、スプール2の中心軸CA上に配置され、第一端部51aがロック機構4に固定され、第二端部51bがスプール2に係合又は離脱可能に構成された第一トーションバー51と、第一トーションバー51と平行に配置され、第一端部52aがスプール2に固定され、第二端部52bが第一トーションバー51の軸回りに回転可能に構成された複数の第二トーションバー52と、スプール2からエネルギ吸収機構5への動力伝達経路を切り替える切替機構53と、を備えている。
【0032】
第一トーションバー51は、例えば、棒状の金属部材であり、第一端部51aと第二端部51bとの回転差により捻られることによって塑性変形し、運動エネルギを吸収するエネルギ吸収部材である。スプール2の中心部には、第一トーションバー51を挿入するための空洞が形成されている。第一トーションバー51は、エネルギ吸収機構5の設定荷重が高荷重の場合に作用する。
【0033】
第一トーションバー51の第一端部51aは、ロッキングベース41の挿入穴41cに挿入され、ロッキングベース41と同期回転可能に固定される。また、第一トーションバー51の第二端部51bは、スプリングユニット(図示せず)のスプリングコア(図示せず)に軸支されており、スプリングユニットに内蔵されたゼンマイばね(図示せず)によりウェビング巻き取り方向に付勢されている。
【0034】
また、第一トーションバー51の第二端部51b側には、センターギア51cが固定されており、センターギア51cとスプリングコアとの間には、ブッシュ51d、ベアリング51e及びプッシュナット51fが挿通されていてもよい。センターギア51cは、第一トーションバー51と第二トーションバー52との間で動力を伝達する部品である。
【0035】
第二トーションバー52は、例えば、棒状の金属部材であり、第一端部52aと第二端部52bとの回転差により捻られることによって塑性変形し、運動エネルギを吸収するエネルギ吸収部材である。スプール2の外周部には、第二トーションバー52を挿入するための空洞と、第二トーションバー52を固定する固定穴24が形成されている。第二トーションバー52は、エネルギ吸収機構5の設定荷重が中荷重又は低荷重の場合に作用する。したがって、通常、第二トーションバー52は、第一トーションバー51よりも細くて短い形状を有している。
【0036】
また、第二トーションバー52は、第一トーションバー51の外周に沿って均等な間隔で複数本配置されている。本実施形態では2本の第二トーションバー52が配置されていることから、2本の第二トーションバー52は、第一トーションバー51を挟んで両側の位置(位相180°の位置)に配置される。なお、第二トーションバー52の本数は任意であり、3本以上であってもよい。
【0037】
第二トーションバー52の第一端部52aは、スプール2の固定穴24に挿入され、スプール2と同期回転可能に固定される。また、第二トーションバー52の第二端部52bは、リンクプレート54に回転可能に支持されている。リンクプレート54は、スプール2に固定され、第一トーションバー51の第二端部51b側の軸部を挿通可能かつ第二トーションバー52の第二端部52bを回転可能に支持する部品である。
【0038】
具体的には、リンクプレート54は、例えば、略十字形状の外形を有する板部材であり、中心部に第一トーションバー51の第二端部51b側の軸部を挿通する第一開口部54aが形成され、第一開口部54aを挟んで両側に第二トーションバー52の第二端部52bを挿通する第二開口部54bが形成されている。
【0039】
また、スプール2の第二端部22には、リンクプレート54の外形に適合した凹部が形成されている。この凹部にリンクプレート54を挿入することによって、リンクプレート54はスプール2に固定される。このとき、第一開口部54aに第一トーションバー51の第二端部51b側の軸部が挿通され、第二開口部54bに第二トーションバー52の第二端部52bが挿通される。
【0040】
また、第二トーションバー52の第二端部52b側には、センターギア51cと噛み合って回転するラウンドギア52cが固定されている。センターギア51cとラウンドギア52cとにより、いわゆる遊星歯車機構が構成されている。
【0041】
切替機構53は、例えば、第一トーションバー51に接続されるエンゲージプレート53aと、エンゲージプレート53aに係止可能に構成されたリリースリング53bと、リリースリング53bをスライド可能に保持するリングホルダー53cと、リリースリング53bをスプール2の軸方向にスライドさせる動力発生装置53dと、を備えている。
【0042】
エンゲージプレート53aは、ベアリング51eの多角部に固定されており、ベアリング51eを介してセンターギア51cと固定され、センターギア51cを介して第一トーションバー51に固定される。また、エンゲージプレート53aの外縁部には、外方に向かって開放された凹部53eが周方向に均等な間隔で四か所に形成されている。
【0043】
リリースリング53bは、中心部に大きな開口を有する環状部53fと、環状部53fの内縁部からスプール2から遠ざかる方向に延設された複数の爪53gと、を備えている。環状部53fの内側には、スプール2の第二端部22に配置された遊星歯車機構及びリンクプレート54が配置される。爪53gは、例えば、環状部53fの周方向に均等な間隔で四か所に配置されており、エンゲージプレート53aに形成された凹部53eに挿通可能に構成されている。
【0044】
リングホルダー53cは、リリースリング53bと遊星歯車機構等との干渉を抑制しつつスプール2の軸方向への移動を案内する部品である。リングホルダー53cは、略キャップ形状を有しており、例えば、遊星歯車機構の外周を囲う筒部53hと、リンクプレート54の表面外周部を覆う環状の円板部53iと、備えている。
【0045】
筒部53hの円板部53iと反対側(X正方向側)の端部はスプール2の第二端部22に固定される。筒部53hの外周面には、リリースリング53bがスライド可能に挿通される。また、筒部53hの外周面には、爪53gを案内する溝が形成されていてもよい。また、円板部53iの表面には、エンゲージプレート53aを位置決めする複数の突起が形成されていてもよい。
【0046】
動力発生装置53dは、例えば、瞬時に作動ガスを発生させるガス発生器53jと、作動ガスによって駆動されるピストン53kと、ピストン53kによって駆動されるレバー53mと、ピストン53k及びレバー53mの移動を案内可能に保持するハウジング53nと、レバー53mの初期位置を保持するためのレバーストッパ53pと、を備えている。ハウジング53nは、略円筒形状のシリンダ部53qと、レバー53mの外周を囲うように形成された胴部53rと、を備えている。
【0047】
シリンダ部53qの内部にはピストン53kが挿入され、シリンダ部53qの後端部にはガス発生器53jが配置される。胴部53rの内周面には、レバー53mを回転させながらスプール2に近付く方向に移動させる案内溝53sが形成されている。
【0048】
レバー53mは、リリースリング53bの環状部53fに当接可能なリング部53tと、ピストン53kに当接可能な突起部53uと、を備えている。リング部53tの外周面には、案内溝53sに挿入される凸部が形成されている。
【0049】
ハウジング53nの胴部53rにレバー53mが収容された状態で、ハウジング53nのX負方向側の端面のうち胴部53rを含む部分には、ベースプレート53vが設置される。ベースプレート53vは、ハウジング53nの端面と面接触可能な平板状の部材であり、例えばボルト53wによってハウジング53nの端面にネジ締結される。ベースプレート53vは、レバー53mがハウジング53nからX負方向側に抜け出すのを防止すると共に、後述する荷重調整機構6との干渉を防止する。
【0050】
ここで、
図5、
図6を参照して、切替機構53の動作について説明する。
図5は、エネルギ吸収機構5が第一トーションバー51によりエネルギ吸収を実施する構成を示す断面図である。
図6は、エネルギ吸収機構5が第二トーションバー52によりエネルギ吸収を実施する構成を示す断面図である。
図5、
図6は、共に
図4と同様の断面図であり、シートベルトリトラクタ1のうちエネルギ吸収機能に係る部分に限定して拡大視されている。また、
図5、
図6では、第一トーションバー51及び第二トーションバー52は断面ではなく側面図で図示されている。
【0051】
切替機構53の初期状態では、レバー53mはレバーストッパ53pによりスプール2から離れた位置に保持されている。このとき、
図5に示すように、リリースリング53bもスプール2から離れた位置に保持されており、爪53gがエンゲージプレート53aの凹部53eに係止されている。
【0052】
この初期状態では、スプール2と第一トーションバー51とが連結された状態であることから、動力伝達経路は、
図5に太い実線で示すように、スプール2→リリースリング53b→エンゲージプレート53a→ベアリング51e→センターギア51c→第一トーションバー51→ロッキングベース41(固定)→ベースフレーム11(固定)により構成されている。したがって、切替機構53の初期状態では、ロック機構4が作動してスプール2の回転が規制された状態で、ウェビング104が引き出される方向(
図5中の太い矢印の方向)の荷重(引張荷重)が付加された場合には、ウェビング104の制限荷重は第一トーションバー51により規制される。これにより、エネルギ吸収機構5の設定荷重は高荷重に設定される。
【0053】
そして、ガス発生器53jが作動するとピストン53kはシリンダ部53qに沿って移動し、ピストン53kの先端がシリンダ部53qの先端部から突出する。ピストン53kはレバー53mの突起部53uを押し退け、レバー53mは案内溝53sに沿って回転しながらスプール2に近付く方向に移動する。
【0054】
このレバー53mの軸方向の移動により、リング部53tがリリースリング53bの環状部53fに当接し、リリースリング53bがスプール2に近付く方向に移動する。このリリースリング53bの移動により、
図6に示すように、リリースリング53bの爪53gがエンゲージプレート53aの凹部53eから離脱し、リリースリング53bの係止状態が解除される。
【0055】
この最終状態では、スプール2と第一トーションバー51との連結が解除された状態であることから、動力伝達経路は、
図6に太い実線で示すように、スプール2→第二トーションバー52→ラウンドギア52c→センターギア51c(固定)→第一トーションバー51(固定)→ロッキングベース41(固定)→ベースフレーム11(固定)により構成されている。したがって、切替機構53の最終状態では、ロック機構4が作動してスプール2の回転が規制された状態で、ウェビング104が引き出される方向(
図6中の太い矢印の方向)の荷重(引張荷重)が付加された場合には、ウェビング104の制限荷重は第二トーションバー52により規制される。これにより、エネルギ吸収機構5の設定荷重は中荷重又は低荷重、つまり第一トーションバー51に対して相対的に低い荷重、に設定される。
【0056】
図2に戻り、荷重調整機構6は、モータ61(駆動源)と、アイドルギア62と、コネクタギア63と、シャフトギア64とを備える。
【0057】
モータ61は、荷重調整機構6がスプールに荷重(駆動荷重)を付加するための駆動力を出力する。モータ61の駆動軸61aにはモータギア61bが固設されている。アイドルギア62はモータギア61bと噛み合い、モータギア61bを介してモータ61の駆動力が伝達される。
【0058】
コネクタギア63はアイドルギア62と噛み合い、アイドルギア62からモータ61の駆動力が伝達される。
図4に示すように、コネクタギア63は、X負方向側に大径ギア63aを有し、X正方向側に小径ギア63bを有する。大径ギア63aと小径ギア63bは同軸上に配置される。大径ギア63aがアイドルギア62と噛み合う。
【0059】
モータ61は、ハウジング53nの胴部53rよりZ負方向側の部分において、駆動軸61aの軸方向がスプール2の回転軸と同方向(X方向)となるように、ハウジング53nにX正方向側から取り付けられる。また、モータギア61bはハウジング53nを貫通してモータ61と反対側(X負方向側)に露出するように設置される。アイドルギア62とコネクタギア63は、ハウジング53nのX負方向側の端面に、回転軸の軸方向がスプール2の回転軸と同方向(X方向)となるように軸支される。
【0060】
シャフトギア64は、コネクタギア63の小径ギア63bと噛み合い、コネクタギア63からモータ61の駆動力が伝達される。シャフトギア64は、中央部に第一トーションバー51の第二端部52bが貫通されて、これにより回転軸がスプール2の回転軸と同一となるように設置される。
【0061】
図3、
図4などに示すように、荷重調整機構6のシャフトギア64を含む各ギアは、切替機構53のベースプレート53vよりX負方向側に配置されている。つまり、
図4に示すように、スプール2の軸方向CAに沿って、X正方向側からスプール2、切替機構53、荷重調整機構6の順で配置されている。また、
図4に示すように、スプール2のさらにX正方向側にはロック機構4が配置されている。
【0062】
荷重調整機構6は、駆動源であるモータ61から出力される駆動力による駆動荷重をスプール2に付加して、エネルギ吸収機構5の第一トーションバー51または第二トーションバー52に付加される引張荷重を調整する機能を有する。
【0063】
ここで、シャフトギア64は、荷重調整機構6の最も下流側に配置されるギアであり、モータ61の駆動力をスプール2に伝達する必要がある。本実施形態では、シャフトギア64は、上述のように第一トーションバー51の第二端部52bにより軸支されている。ただし、第一トーションバー51には連結されていない。また、上述のように荷重調整機構6とスプール2との間にはエネルギ吸収機構5の切替機構53が配置されるため、シャフトギア64からスプール2への直接の動力伝達を阻害する構造となっている。
【0064】
本実施形態では、荷重調整機構6は、切替機構53の動作によらずスプール2と常時連結され、切替機構53によって引張荷重が付加されるよう切り替えられる第一トーションバー51または第二トーションバー52に付加される引張荷重を調整可能に構成される。具体的には、
図4~
図6などに示すように、荷重調整機構6のシャフトギア64が切替機構53のリリースリング53bと常時連結されている。リリースリング53bは、スプール2と連結されているので、シャフトギア64からリリースリング53bを介してスプール2へモータ61の駆動力を常時伝達することができる。
【0065】
図7は、シャフトギア64とリリースリング53bとの連結構造を示す図である。
図7(A)は、
図2中のシャフトギア64及びリリースリング53bを拡大視した斜視図であり、
図7(B)は、シャフトギア64とリリースリング53bとの連結状態を示す斜視図である。
【0066】
図7(A)に示すように、切替機構53のリリースリング53bは、軸方向CAに沿って荷重調整機構6側(X負方向側)へ延在する連結部65を有する。連結部65は、爪53gと同様に、リリースリング53bの環状部53fの内縁部からスプール2から遠ざかる方向に延設されている。連結部65は、爪53gとは重ならない位置に設けられ、本実施形態では、4つの爪53gに対してZ正方向側とZ負方向側に一対の連結部65が設けられている。連結部65は、環状部53fの周方向に沿って弧状に延在し、かつ、軸方向CAに沿ってX負方向側に突出して形成される。連結部65は、爪53gより相対的に周方向及び径方向に長く形成される。
【0067】
一方、シャフトギア64には、連結部65と対向する位置に、軸方向CAに沿って貫通して設けられ、連結部65を摺動可能に挿通するよう形成される貫通孔66を有する。本実施形態では、連結部65の配置に合わせて、シャフトギア64の回転軸と歯部との間、好ましく歯元から中心側への直下の位置において、Z正方向側とZ負方向側に一対の貫通孔66が設けられている。
【0068】
図7(B)に示すように、連結部65が貫通孔66に挿通されることによって、シャフトギア64がリリースリング53bと連結される。ここで、連結部65は、リリースリング53bによる第一トーションバー51とスプール2との連結及び解除の状態の両方において貫通孔66への挿通状態を維持できるよう軸方向の長さが形成され、これによりシャフトギア64から駆動力がスプールに常時伝達されるよう構成される。
【0069】
図5に示すように、切替機構53の初期状態においては、リリースリング53bは最もX負方向側、すなわち荷重調整機構6に近い側に配置されているため、リリースリング53bの連結部65は、シャフトギア64の貫通孔66を貫通してX負方向側に突出している。すなわちシャフトギア64とリリースリング53bとが連結されている。
【0070】
一方、
図6に示すように、切替機構53の作動後の最終状態においては、リリースリング53bは最もX正方向側、すなわち荷重調整機構6から離れる側に移動するが、連結部65の軸方向の寸法を充分に長くとっているので、この状態でもリリースリング53bの連結部65は、シャフトギア64の貫通孔66に対してX正方向側に相対的に移動するが、その先端部は依然として貫通孔66に挿通されている。すなわちシャフトギア64とリリースリング53bとが連結されている。
【0071】
本実施形態では、このように荷重調整機構6が第一トーションバー51を介さずに、スプール2と連結される構成をとる。これにより、荷重調整機構6はエネルギ吸収機構5の動作状態によらずにスプール2に駆動力を伝達することができるので、エネルギ吸収機構5と並列にエネルギ吸収機能を実施することができる。
【0072】
図8は、本実施形態におけるエネルギ吸収機能の伝達経路を示すブロック図である。
図8中の細い点線は、エネルギ吸収機構5が第一トーションバー51を用いる場合の伝達経路を示す。
図8中の太い点線は、エネルギ吸収機構5が第二トーションバー52を用いる場合の伝達経路を示す。
図8中の実線は、エネルギ吸収機構5の動作状態によらず共通の伝達経路を示す。
【0073】
エネルギ吸収機構5が第一トーションバー51を用いる場合、すなわち切替機構53が非動作の状態では、シートベルト104からの荷重の伝達経路は、スプール2及びリリースリング53b→エンゲージプレート53a→ベアリング51e→センターギア51c→第一トーションバー51→ロッキングベース41→ロック機構4(ベースフレーム11)となる。
【0074】
一方、エネルギ吸収機構5が第二トーションバー52を用いる場合、すなわち切替機構53が動作後の状態では、
図8に太い点線の×印で示すように、切替機構53によってリリースリング53bとエンゲージプレート53aとの連結が解除される。これにより、上述のエネルギ吸収機構5が第一トーションバー51を用いる場合の伝達経路では荷重が伝達されなくなるので、第一トーションバー51には荷重がかからなくなり、第一端部51aと第二端部51bとの間で捻れが生じることなく、第一トーションバー51はロック機構4と一体的に固定された状態となる。この状態におけるシートベルト104からの荷重の伝達経路は、スプール2及びリリースリング53b→リンクプレート54→第二トーションバー52→ラウンドギア52c→センターギア51c(固定)→第一トーションバー51(固定)→ロッキングベース41→ロック機構4(ベースフレーム11)となる。
【0075】
また、本実施形態では、エネルギ吸収機構5と独立して荷重調整機構6が設けられるので、エネルギ吸収機構5の上述の二種類の伝達経路の両方において、荷重調整機構6のモータ61から出力される駆動力は減速機構(モータギア61b、アイドルギア62、コネクタギア63の大径ギア63a、小径ギア63b)及びシャフトギア64を介してリリースリング53bに駆動荷重として伝達される。この駆動荷重は、モータ61の回転方向に応じて引張荷重に対して正方向でも負方向にもなり得る。そして、この駆動荷重と引張荷重の総和の荷重が、上記の二種類の伝達経路のいずれかを介して、エネルギ吸収機構5の第一トーションバー51または第二トーションバー52に伝達されて吸収される。
【0076】
図9は、本実施形態におけるエネルギ吸収機能を説明する図である。
図9の横軸はウェビング104のベルト伸び出し量Sを示し、縦軸はウェビング104にかかる荷重Fを示す。F1は、第一トーションバー51によりエネルギ吸収がされたときのウェビング荷重である。F2は、第二トーションバー52によりエネルギ吸収がされたときのウェビング荷重である。
図9中では、F1の場合のベルト伸び出し量に応じたウェビング荷重の推移を実線で示し、F2の場合の推移を点線で示す。
【0077】
まずエネルギ吸収機構5のみを用いる場合を考えると、ベルト伸び出し量が増加するに伴ってウェビング荷重も連続的に増加する。そして、エネルギ吸収機構5の第一トーションバー51または第二トーションバー52に対応する荷重に到達すると、第一トーションバー51または第二トーションバー52によってエネルギ吸収が行われて、以降ではベルト伸び出し量によらずウェビング荷重は一定となる。また、第一トーションバー51は、第二トーションバー52に対して相対的に大きい荷重に対応するよう構成されるので、第一トーションバー51によりエネルギ吸収がされたときのウェビング荷重F1は、第二トーションバー52によりエネルギ吸収がされたときのウェビング荷重F2より相対的に大きい。
【0078】
さらに本実施形態では、
図8を参照して説明したように、エネルギ吸収機構5とは独立して荷重調整機構6が機能する。荷重調整機構6は、モータ61の出力に応じて、エネルギ吸収機構5に付加される荷重を増減するよう調整できる。これにより、ウェビング荷重の大きさをF1、F2を基準として増減させることができる。モータ61の駆動力の最大値をFmとすると、駆動力Fmに基づく駆動荷重の範囲は-Fmから+Fmとなる。したがって、エネルギ吸収機構5が第一トーションバー51を用いてエネルギ吸収を行う場合には、ウェビング荷重の範囲をF1―FmからF1+Fmの範囲に拡張できる。同様に、エネルギ吸収機構5が第二トーションバー52を用いてエネルギ吸収を行う場合には、ウェビング荷重の範囲をF2―FmからF2+Fmの範囲に拡張できる。そして、モータ61の駆動力の調整によって、これらの範囲内でウェビング荷重を任意に調整できる。
【0079】
[エネルギ吸収制御]
図10~
図13を参照して、本実施形態に係るシートベルトリトラクタ1によるエネルギ吸収制御について説明する。
図10は、シートベルトリトラクタ1の制御に関する機能ブロック図である。
【0080】
図10に示すように、シートベルトリトラクタ1が搭載される車両は、シートベルトリトラクタ1の動作を制御するための制御部20を備える。制御部20は、車両に搭載されるECUの一部として実装されてもよいし、シートベルトリトラクタ1の動作専用の装置として設けられる構成でもよい。
【0081】
また、車両は加速度センサ30などの車両が受ける衝撃を検出するためのセンサを備える。制御部20は、例えば加速度センサ30により検出される車両の加速度情報が入力され、車両の衝突などによる衝撃を検出することができる。なお、制御部20に入力される情報は、少なくとも乗員109がダメージを受ける程度の衝撃を検知できる情報であればよく、加速度以外の情報でもよい。
【0082】
制御部20は、プリテンショナ制御部201と、ウェビング荷重推定部202と、エネルギ吸収制御部203とを有する。
【0083】
プリテンショナ制御部201は、加速度センサ30などから入力されるセンサ情報に基づき、車両の衝撃を検出したときにプリテンショナ3を作動させる。プリテンショナ制御部201は、プリテンショナ3のガス発生器34に制御指令を出力して、ガス発生器34を作動させることによってプリテンショナ3を作動させる。
【0084】
ウェビング荷重推定部202は、加速度センサ30などから入力されるセンサ情報に基づき、車両に付加される衝撃によって乗員109が受けるウェビング荷重を推定する。ウェビング荷重推定部202は、例えば車両のECUなどが乗員109の個人情報を記憶している場合には、例えば乗員109の体格など、ウェビング荷重に影響を与えうる乗員109の個人情報も参照して、ウェビング荷重を推定してもよい。ウェビング荷重推定部202は、推定したウェビング荷重の情報をエネルギ吸収制御部203に出力する。
【0085】
エネルギ吸収制御部203は、推定されたウェビング荷重に基づき、乗員109にとって適切なウェビング荷重にすべくエネルギ吸収を行う要素を選択して、選択した要素を用いてエネルギ吸収制御を行う。エネルギ吸収制御部203は、例えば第二トーションバー52を用いてエネルギ吸収制御を行うことを選択した場合には、切替機構53のガス発生器53jに制御指令を出力する。これにより、ガス発生器53jが作動して切替機構53が作動して、スプール2からの荷重が伝達される要素が第一トーションバー51から第二トーションバー52に切り替えられる。また、エネルギ吸収制御部203は、荷重調整機構6による引張荷重の調整が必要と判断した場合には、荷重調整機構6のモータ61に制御指令を出力する。モータ61は制御指令に応じて駆動力を出力して、荷重調整機構6は駆動力に応じた駆動荷重をスプール2に付加する。
【0086】
なお、制御部20は、ウェビング荷重推定部202及びエネルギ吸収制御部203の両方の機能を備えず、加速度センサ30などのセンサ情報や乗員109の情報などに基づき、切替機構53及びモータ61への制御信号を直接導出する構成でもよい。つまり、センサ情報などの入力情報に基づき一旦乗員にとって適切なウェビング荷重を推定する処理を省略する構成でもよい。
【0087】
図11は、本実施形態のエネルギ吸収制御の一例を示すフローチャートである。
【0088】
ステップS1では、ウェビング荷重推定部202により、ウェビング荷重が推定される。ウェビング荷重推定部202は、加速度センサ30などから入力されるセンサ情報に基づき、車両に付加される衝撃によって乗員109が受けるウェビング荷重を推定する。また、ウェビング荷重推定部202は、例えば乗員109の体格など、ウェビング荷重に影響を与えうる乗員109の個人情報も参照して、乗員109が受けるウェビング荷重を推定することもできる。
【0089】
ステップS2では、エネルギ吸収制御部203により、エネルギ吸収制御に用いる要素(EA機構)が選択される。エネルギ吸収制御部203は、ステップS1にて推定されたウェビング荷重に基づき適切な要素を選択する。
【0090】
ステップS2にてEA機構として第二トーションバー52が選択された場合(ステップS3のYes)には、ステップS4にてエネルギ吸収制御部203によりガス発生器53jに制御指令が出力されて切替機構53が作動する。これにより切替機構53によってスプール2からの荷重が伝達される要素が第一トーションバー51から第二トーションバー52に切り替えられる。
【0091】
一方、ステップS2にて第二トーションバー52が選択されなかった場合(ステップS3のNo)には、ステップS4の処理を実行せず、切替機構53は非作動の状態を維持する。この場合、スプール2からの荷重が伝達される要素は第一トーションバー51となる。
【0092】
ステップS5では、エネルギ吸収制御部203により、荷重調整機構6による荷重調整が必要か否かが判定される。エネルギ吸収制御部203は、例えばステップS2にてEA機構と荷重調整機構6が選択されている場合に、荷重調整が必要と判定することができる。ステップS5にて荷重調整機構6による荷重調整が必要と判定された場合(ステップS5のYes)には、ステップS6にてエネルギ吸収制御部203によりモータ61に制御指令が出力されて荷重調整機構6が作動する。
【0093】
一方、ステップS5にて荷重調整機構6による荷重調整が必要と判定されなかった場合(ステップS5のNo)には、ステップS6の処理を実行せず、荷重調整機構6は非作動の状態を維持する。
【0094】
ステップS3~S6の処理の結果、エネルギ吸収制御部203は、乗員109にとって適切なウェビング荷重に応じて、(1)第一トーションバー51のみ、(2)第一トーションバー51と荷重調整機構6の組み合わせ、(3)第二トーションバー52のみ、(4)第二トーションバー52と荷重調整機構6の組み合わせ、(5)荷重調整機構6のみ、の5種類のパターンから1つを選択してエネルギ吸収制御を行うことができる。
【0095】
上記(5)のパターンは、例えばステップS1において推定されたウェビング荷重(EA機構に付加される引張荷重)が所定の閾値以下のとき、ステップS2においてEA機構として荷重調整機構6のみが選択された場合に実施される。この場合、第一トーションバー51及び第二トーションバー52を用いずに荷重調整機構6の駆動荷重の調整のみで運動エネルギの吸収を行う。
【0096】
図12は、本実施形態におけるエネルギ吸収制御の制御パターンの第1例を示す図である。
図12の縦軸及び横軸は、
図9と同様にそれぞれウェビング荷重Fとベルト伸び出し量Sである。
図12の縦軸に示すように、乗員109にとって適切なウェビング荷重は、衝突速度や乗員の体格などによって異なる。例えば衝突速度が速いほど、または、乗員の体格が大きいほど、適切なウェビング荷重Fは大きくする必要がある。一方、衝突速度が遅いほど、または、乗員の体格が小さいほど、適切なウェビング荷重Fは小さくする必要がある。
【0097】
図12の例では、第一トーションバー51と荷重調整機構6を組み合わせて用いる場合のウェビング荷重の下限値F1-Fmと、第二トーションバー52と荷重調整機構6を組み合わせて用いる場合のウェビング荷重の上限値F2+Fmとが同一となるように設定されている。また、第二トーションバー52と荷重調整機構6を組み合わせて用いる場合のウェビング荷重の下限値F2-Fmより小さい範囲では、荷重調整機構6のみによる制御が行われる。すなわち、第一トーションバー51と荷重調整機構6を組み合わせて用いる場合のウェビング荷重の調整範囲Aと、第二トーションバー52と荷重調整機構6を組み合わせて用いる場合のウェビング荷重の調整範囲Bと、荷重調整機構6のみを用いる場合のウェビング荷重の調整範囲Cとが、それぞれ重ならず、かつ連続的に配置されるように設定される。
【0098】
図12に示す制御パターンとすることにより、第一トーションバー51を用いる場合の荷重調整範囲Aと、第二トーションバー52を用いる場合の荷重調整範囲Bとが重ならず、かつ連続するので、第一トーションバー51及び第二トーションバー52を用いる場合の荷重調整範囲を最大にできる。また、第一トーションバー51及び第二トーションバー52が対応可能なEA荷重より相対的に低いウェビング荷重の場合には、第一トーションバー51及び第二トーションバー52を用いずに荷重調整機構6のみを用いる荷重調整範囲Cを設定できる。これにより、装置全体の荷重調整範囲を荷重調整範囲A、B、Cの合計範囲とできるので、より広い範囲の荷重を調整することが可能となる。
【0099】
図13は、本実施形態におけるエネルギ吸収制御の制御パターンの第2例を示す図である。
図13の概略は
図12と同様である。
【0100】
図13の例では、第一トーションバー51と荷重調整機構6を組み合わせて用いる場合のウェビング荷重の下限値F1-Fmが、第二トーションバー52と荷重調整機構6を組み合わせて用いる場合のウェビング荷重の上限値F2+Fmより小さくなるように設定されている。すなわち、第一トーションバー51と荷重調整機構6を組み合わせて用いる場合のウェビング荷重の調整範囲Aの下部と、第二トーションバー52と荷重調整機構6を組み合わせて用いる場合のウェビング荷重の調整範囲Bの上部とが重なるように設定される。
【0101】
図13に示す制御パターンにすることにより、例えば調整範囲A、Bの重なる範囲(
図13に斜線で示す部分)では、第一トーションバー51を優先的に使用するようにすれば、切替機構53を作動させずに、すなわちガス発生器53jを使わずに温存することができる。切替機構53を一度作動させると、切替機構53の駆動源がガス発生器53jの場合には再度の切り替えが不可能なためである。これにより、引き続き第二トーションバー52への切り替えが可能となるので、例えば多重衝突が生じた場合にも、ガス発生器53jを交換することなく即座に切替機構53を作動させることができる。
【0102】
また、
図12の場合と同様に、第一トーションバー51及び第二トーションバー52が対応可能なEA荷重より相対的に低いウェビング荷重の場合には、第一トーションバー51及び第二トーションバー52を用いずに荷重調整機構6のみを用いる荷重調整範囲Cを設定できる。これにより、荷重調整範囲を拡張することが可能となり、特に低荷重方向に広げることが可能となる。
【0103】
次に本実施形態に係るシートベルトリトラクタ1の効果を説明する。シートベルトリトラクタ1は、ウェビング104が巻回されるスプール2と、緊急時にスプール2のウェビング引き出し方向の回転を規制するロック機構4と、スプール2内にスプール2と同軸上に設けられ、ロック機構4の作動時にウェビング104からスプール2に伝達される引張荷重に応じて捻れることによって乗員109の運動エネルギを吸収する第一トーションバー51と、スプール2内において第一トーションバー51の外周側に設けられ、第一トーションバー51に対して相対的に低い引張荷重に応じて捻れることによって運動エネルギを吸収する第二トーションバー52と、第一トーションバー51と第二トーションバー52の一方に引張荷重が付加されるように切り替える切替機構53と、モータ61から出力される駆動力による駆動荷重をスプール2に付加して、第一トーションバー51または第二トーションバー52に付加される引張荷重を調整する荷重調整機構6と、を備える。
【0104】
この構成により、切替機構53の動作に応じて、ロック機構4の作動時にウェビング104からスプール2に伝達される引張荷重(ウェビング荷重)が付加されるEA要素を第一トーションバー51及び第二トーションバー52のいずれか一方に切り替えることができる。さらに、荷重調整機構6は切替機構53の動作によらず、引張荷重が付加される方の第一トーションバー51または第二トーションバー52のみの引張荷重を独立して調整することができる。これにより、切替機構53により引張荷重を受けるEA要素として選択される第一トーションバー51及び第二トーションバー52のそれぞれにおいて、荷重調整機構6による荷重調整が可能となるので、第一トーションバー51または第二トーションバー52に付加される引張荷重を任意に調整可能となる。この結果、本実施形態のシートベルトリトラクタ1は、より幅広いフレキシブルなEA荷重を発生することが可能となる。
【0105】
また、本実施形態のシートベルトリトラクタ1では、スプール2の軸方向に沿ってスプール2、切替機構53、荷重調整機構6の順で配置される。荷重調整機構6は、切替機構53の動作によらずスプール2と常時連結され、切替機構53によって引張荷重が付加されるよう切り替えられる第一トーションバー51または第二トーションバー52に付加される引張荷重を調整する。
【0106】
この構成により、荷重調整機構6は、切替機構53の動作によらずスプール2と常時連結されるので、切替機構53によって引張荷重が付加されるよう切り替えられる第一トーションバー51または第二トーションバー52に付加される引張荷重を独立して調整可能となる。
【0107】
また、本実施形態のシートベルトリトラクタ1では、切替機構53は、スプール2の軸方向に沿って摺動することにより第一トーションバー51とスプール2との連結と解除とを行うリリースリング53bを有する。リリースリング53bはスプール2と常時連結されている。荷重調整機構6は、モータ61から出力される駆動力をスプール2に伝達するシャフトギア64を有する。切替機構53は、リリースリング53bから軸方向に沿って荷重調整機構6側へ延在する連結部65を有する。荷重調整機構6は、シャフトギア64に軸方向に沿って貫通して設けられ、連結部65を摺動可能に挿通するよう形成される貫通孔66を有する。連結部65は、リリースリング53bによる第一トーションバー51とスプール2との連結及び解除の状態の両方において貫通孔66への挿通状態を維持できるよう軸方向の長さが形成され、これによりシャフトギア64から駆動力がスプール2に伝達される。
【0108】
この構成により、荷重調整機構6のシャフトギア64は、切替機構53の動作状態によらずに切替機構53のリリースリング53bと常時連結することができる。リリースリング53bは、スプール2と連結されているので、シャフトギア64からリリースリング53bを介してスプール2へモータ61の駆動力を常時伝達することができる。これにより、荷重調整機構6が第一トーションバー51を介さずに、スプール2と連結されるので、荷重調整機構6はエネルギ吸収機構5の動作状態によらずにスプール2に駆動力を伝達することができ、エネルギ吸収機構5と並列にエネルギ吸収機能を実施することができる。
【0109】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0110】
1 シートベルトリトラクタ
2 スプール
3 プリテンショナ
4 ロック機構
5 エネルギ吸収機構
51 第一トーションバー
52 第二トーションバー
53 切替機構
53b リリースリング
65 連結部
6 荷重調整機構
61 モータ(駆動源)
64 シャフトギア
66 貫通孔
101 シートベルト装置
104 シートベルト(ウェビング)
107 タング
108 バックル
109 乗員