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特開2024-80238情報処理装置、情報処理システムおよび情報処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080238
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理システムおよび情報処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/06 20060101AFI20240606BHJP
   A61B 5/026 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
A61B8/06
A61B5/026 140
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193264
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田畑 拓
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】大浦 光宏
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 壮祐
【テーマコード(参考)】
4C017
4C601
【Fターム(参考)】
4C017AA11
4C017AB10
4C017AC23
4C017BC11
4C601DD04
4C601DD14
4C601DE03
4C601DE04
4C601EE09
4C601GA07
4C601GB09
4C601JB36
4C601JB48
4C601JB50
4C601KK07
4C601KK31
4C601KK45
(57)【要約】
【課題】複数の血管の状態を比較することが可能な情報処理装置、情報処理システムおよび情報処理プログラムを提供する。
【解決手段】情報処理装置は、複数の超音波素子を有する超音波センサから取得した超音波情報を処理する。この情報処理装置は、被検者の体表面に設けられた前記超音波センサから前記超音波情報を取得する取得部212と、前記超音波情報に基づいて、前記被検者の第1血管および前記第1血管とは異なる第2血管を認識する認識部214と、前記第1血管に関する第1血管情報と、前記第2血管に関する第2血管情報とを比較できる比較情報を表示部に表示させる制御部218とを含む。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の超音波素子を有する超音波センサから取得した超音波情報を処理する情報処理装置であって、
被検者の体表面に設けられた前記超音波センサから前記超音波情報を取得する取得部と、
前記超音波情報に基づいて、前記被検者の第1血管および前記第1血管とは異なる第2血管を認識する認識部と、
前記第1血管に関する第1血管情報と、前記第2血管に関する第2血管情報とを比較できる比較情報を表示部に表示させる制御部と
を備える情報処理装置。
【請求項2】
前記認識部は、前記第1血管および前記第2血管各々の位置を認識する請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記比較情報は、同一時間帯の前記第1血管情報および前記第2血管情報を比較できる情報を含む請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記比較情報は、第1時間帯の前記第1血管情報および前記第2血管情報と、前記第1時間帯と異なる第2時間帯の前記第1血管情報および前記第2血管情報とを比較できる情報を含む請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記比較情報は、経時的に前記第1血管情報と前記第2血管情報とを比較できる情報を含む請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記比較情報は、前記第1血管情報および前記第2血管情報各々の経時変化を表す情報を含む請求項5に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記比較情報は、同一時間帯の前記第1血管情報および前記第2血管情報を統合した統合情報の経時変化を表す情報を含む請求項5に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記比較情報は、前記第1血管情報と前記第2血管情報とを比較できるグラフおよび数値の少なくとも一方を含む請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記超音波情報に基づいて、前記第1血管情報および前記第2血管情報を算出する算出部をさらに有し、
前記制御部は、算出された前記第1血管情報および前記第2血管情報を比較できる前記比較情報を前記表示部に表示させる請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記被検者に生じたイベントに関するイベント情報を取得するイベント取得部をさらに有し、
前記制御部は、前記比較情報とともに、前記イベント情報を前記表示部に表示させる請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項11】
前記イベント情報は、前記被検者への投薬に関する投薬イベント情報を含む請求項10に記載の情報処理装置。
【請求項12】
前記投薬イベント情報は、前記被検者に投与された薬剤の種類、投与量および投与時刻の少なくともいずれかに関する情報を含む請求項11に記載の情報処理装置。
【請求項13】
前記第1血管情報は、前記第1血管の流速および流量の少なくとも一方に関する情報を含み、
前記第2血管情報は、前記第2血管の流速および流量の少なくとも一方に関する情報を含む請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項14】
前記第1血管および前記第2血管は、直近の位置で第3血管から分岐されている請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項15】
前記第1血管および前記第2血管は、内頸動脈および外頸動脈である請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項16】
複数の超音波素子を有する超音波センサと、
請求項1~15のいずれかに記載の情報処理装置と
を備える、
情報処理システム。
【請求項17】
前記超音波センサは、被検者の体表面に貼付されるシート状部材をさらに有する請求項16に記載の情報処理システム。
【請求項18】
複数の超音波素子を有する超音波センサから取得した超音波情報を処理する情報処理プログラムであって、
被検者の体表面に設けられた前記超音波センサから前記超音波情報を取得することと、
前記超音波情報に基づいて、前記被検者の第1血管および前記第1血管とは異なる第2血管を認識することと、
前記第1血管に関する第1血管情報と、前記第2血管に関する第2血管情報とを比較できる比較情報を表示部に表示させることと
を含む処理をコンピューターに実行させる情報処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の超音波素子を有する超音波センサから取得した情報を処理する情報処理装置、この情報処理装置を含む情報処理システムおよび情報処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数の超音波素子を有する超音波センサを用いた診断の重要性が高まっている(たとえば、特許文献1参照)。超音波センサから取得した情報を用いて、たとえば、被検者の血管を流れる血液の速度(流速)および血液の量(流量)等を算出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2020/0337680号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような超音波センサから取得される情報を用いて、複数の血管の状態を比較できることが望ましい。たとえば、1の血管から分岐する2つの血管の状態を比較することにより、医師等は、これらの血管につながる臓器および組織の態様に関してより正確に推測することが可能となる。
【0005】
そこで本発明では、複数の血管の状態を比較することが可能な情報処理装置、情報処理システムおよび情報処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記課題は、以下の手段によって解決される。
【0007】
本発明に係る情報処理装置は、複数の超音波素子を有する超音波センサから取得した超音波情報を処理する。この情報処理装置は、被検者の体表面に設けられた前記超音波センサから前記超音波情報を取得する取得部と、前記超音波情報に基づいて、前記被検者の第1血管および前記第1血管とは異なる第2血管を認識する認識部と、前記第1血管に関する第1血管情報と、前記第2血管に関する第2血管情報とを比較できる比較情報を表示部に表示させる制御部とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る情報処理装置では、第1血管および第2血管各々に関する第1血管情報および第2血管情報を比較できる比較情報が表示部に表示される。よって、複数の血管の状態を比較することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る情報処理システムの構成の一例を表す図である。
図2図1に示した超音波センサの装着状態の一例を表す図である。
図3】(A)は図1に示した超音波センサの上面図、(B)は側面図、(C)は斜視図である。
図4図1に示した情報処理装置の構成の一例を表すブロック図である。
図5図4に示したCPUの機能の一例を表すブロック図である。
図6図4に示した操作表示部に表示される比較情報の一例を表す図である。
図7図6に示した時刻t2の波形と、時刻t3の波形とを重ねて表す図である。
図8図4に示した操作表示部に表示される比較情報の他の例を表す図である。
図9図4に示した操作表示部に表示される比較情報のその他の例を表す図である。
図10図9に示した比較情報とともに操作表示部に表示される他の生体情報の例を表す図である。
図11図1に示した情報処理装置の処理の一例を表すフローチャートである。
図12図11に示したステップS105のサブルーチンフローチャートである。
図13図1に示した超音波センサと第1血管との関係の一例を表す図である。
図14図13に示したXZ平面図を拡大して表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る超音波診断システム(超音波処理システム)について詳細に説明する。なお、図中、同一の部材には同一の符号を用いた。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0011】
<実施形態>
(情報処理システムの構成)
図1は本実施形態に係る情報処理システム1の構成の一例を示す概略図である。この情報処理システム1は、超音波センサ(後述の超音波センサ3)を用い、複数の血管(後述の第1血管401および第2血管402)の状態をユーザーが比較できるように表示する。ユーザーは、たとえば、医師および看護師等の医療従事者である。
【0012】
情報処理システム1は、たとえば、情報処理装置2、超音波センサ3およびケーブル34を含んでいる。ケーブル34は、超音波センサ3と情報処理装置2との間の電気信号を伝達する。ケーブル34は超音波センサ3と一体となって構成されても良く、着脱可能な構成であっても良い。ケーブル34はたとえば図示しないコネクタを有し、当該コネクタを情報処理装置2に挿入することにより情報処理装置2に接続される。超音波センサ3は、被検者4の体表面に装着される。超音波センサ3が被検者4から取得した情報(後述の超音波情報)は、ケーブル34を介して情報処理装置2に送信される。情報処理装置2は、たとえば他のバイタルサインデータ(血圧、酸素飽和度、呼吸、等)をさらに取得する生体情報モニタや除細動器であっても良く、サーバーまたはPC等のコンピューターであってもよい。
【0013】
図2は、被検者4に装着された超音波センサ3近傍の構成の一例を表している。超音波センサ3は、たとえば、被検者4の体表面に貼付されて使用される。被検者4の頸部40に貼付された超音波センサ3によって、たとえば、第1血管401および第2血管402に関する情報が取得される。たとえば、第1血管401は内頸動脈であり、第2血管402は外頸動脈である。超音波センサ3は、直近の位置で総頚動脈から分岐された第1血管401および第2血管402を測定する。
【0014】
図3は、超音波センサ3の構成の一例を表している。図3(A)は、超音波センサ3の上面図、図3(B)は側面図、図3(C)は斜視図である。超音波センサ3は、たとえば、複数の超音波素子30、可撓性を有するシート状部材32および接続部材35を含んでいる。
【0015】
シート状部材32は可撓性を有しており、被検者4の体表面に貼付されたとき、この貼付された部分の形状に沿って変形する。シート状部材32は、たとえば、四角形の平面形状を有している(図3(A))。シート状部材32は、たとえば、ポリイミドまたはシリコン等の樹脂材料により構成されている。
【0016】
複数の超音波素子30は、たとえば、シート状部材32にマトリクス(行列)状に埋設されている。超音波素子30は、シート状部材32上に配置されていてもよい。図3(A)~図3(C)には、行方向に8個、列方向に8個で配置された64個の超音波素子30を図示したが、超音波素子30の数および配置はこれに限定されない。たとえば、96個の超音波素子を行方向に3個、列方向に32個で配置するようにしてもよい。
【0017】
複数の超音波素子30は、たとえば、シート状部材32に等間隔で配置されており、たとえば行方向および列方向に間隔aで配置されている。隣り合う超音波素子30の間隔は、既知であればよく、行方向の間隔と列方向の間隔とが異なるように配置されていてもよく、あるいは、シート状部材32の位置によって、間隔が異なっていてもよい。
【0018】
複数の超音波素子30各々は、たとえば、圧電体および電極を含んでいる。この超音波素子30は、情報処理装置2からケーブル34を介して送られる発信指示に応じて超音波を発信する。超音波素子30が、被検者4の体内の血管、骨および臓器等で反射された超音波(以下、反射波という)を受信すると、各超音波素子30からケーブル34を介して情報処理装置2に信号が送られる。
【0019】
接続部材35は、ケーブル34と、複数の超音波素子30各々とを電気的に接続するものであり、たとえば、配線基板等により構成されている。
【0020】
図4は、情報処理装置2の概略構成を示すブロック図である。情報処理装置2は、CPU(Central Processing Unit)21、ROM(Read Only Memory)22、RAM(Random Access Memory)23、ストレージ24、通信インターフェース25および操作表示部26を有する。各構成は、バス27を介して相互に通信可能に接続されている。
【0021】
CPU21は、ROM22またはストレージ24に記録されているプログラムにしたがって、上記各構成の制御や各種の演算処理を行う。CPU21の具体的な機能については後述する。ROM22は、各種プログラムおよび各種データを格納する。RAM23は、作業領域として一時的にプログラムおよびデータを記憶する。
【0022】
ストレージ24は、オペレーティングシステムを含む各種プログラムおよび各種データを格納する。たとえば、ストレージ24には、超音波センサ3との間で各種情報を送受信したり、超音波センサ3から取得する各種情報に基づいて出力する結果(後述の比較情報)を決定したりするためのアプリケーションがインストールされている。また、ストレージ24には、出力する情報の候補および、各種情報に基づいて出力する結果を決定するために必要となる情報が記憶されている。なお、出力する結果を決定するために機械学習モデルを使用する場合は、機械学習に必要となる教師データや学習済みモデルが記憶されてもよい。
【0023】
通信インターフェース25は、他の装置と通信するためのインターフェースである。通信インターフェース25としては、有線または無線の各種規格による通信インターフェースが用いられる。たとえば、この通信インターフェース25がケーブル34に接続されている。
【0024】
操作表示部26は、たとえば、タッチパネル式のディスプレイであり、各種情報を表示すると共に、ユーザーからの各種入力を受け付ける。ここでは、操作表示部26が、本発明の表示部の一具体例に対応する。ユーザーは、たとえば、複数の超音波素子30から1または複数の超音波素子30を選択し、選択した超音波素子30に超音波を発信させることができる。操作表示部26は、この超音波素子30の選択を受け付ける。ユーザーから入力された情報は、CPU21に送られる。操作表示部26は、操作部および表示部に分離して設けられていてもよい。このとき、操作部は、たとえば、操作ボタン、マウス、またはキーボード等により構成され、表示部はディスプレイ等により構成される。
【0025】
図5は、CPU21の機能構成の一例を示すブロック図である。情報処理装置2では、たとえば、CPU21がストレージ24に記憶されたプログラムを読み込んで処理を実行することによって、発信指示部211、取得部212、画像生成部213、認識部214、算出部215、生成部216、イベント取得部217および制御部218として機能する。
【0026】
発信指示部211は、たとえば、操作表示部26でユーザーによって選択された1または複数の超音波素子30に超音波を発信させる。発信指示部211は、たとえば、選択された超音波素子30に、ケーブル34を介して発信指示を送ることにより、超音波素子30を駆動させ、超音波を発信させる。
【0027】
取得部212は、超音波センサ3から超音波情報を取得する。この超音波情報は、たとえば、発信情報および受信情報を含んでいる。発信情報は、超音波素子30から発信された超音波に関する情報であり、たとえば、駆動させた超音波素子30の位置、超音波素子30の駆動電圧、駆動周波数、波形、ゲイン、駆動開始時間および駆動時間等に関する情報を含んでいる。受信情報は、被検者4の複数の血管(たとえば第1血管401および第2血管402)各々で反射されて複数の超音波素子30に受信された反射波に関する情報であり、たとえば、反射波の周波数、波形、強度および受信時間等に関する情報を含んでいる。1つの超音波素子30から超音波が発信されたとき、たとえば、複数の超音波素子30が反射波を受信する。
【0028】
取得部212は、超音波情報のうち、少なくとも受信情報を超音波センサ3から取得する。取得部212は、たとえば、複数の超音波素子30各々から通信インターフェース125を介して受信情報を取得する。取得部212は、さらに、骨または臓器で反射されて超音波素子30に受信された反射波に関する受信情報を取得してもよい。取得部212は、超音波情報のうち、発信情報を発信指示部211から発信情報を取得してもよい。
【0029】
画像生成部213は、取得部212により取得された超音波情報に基づいて被検者4の複数の血管の画像データを生成する。画像生成部213は、超音波センサ3から直接取得された情報を用いて画像データを生成してもよい。画像生成部213は、たとえば、超音波情報または超音波センサ3から取得された情報に各処理を行うことにより、Mモードの画像、Bモードの画像、カラードップラーモードの画像、またはパルスドップラーモードの画像等の画像データを生成する。
【0030】
認識部214は、取得部212により取得された超音波情報に基づいて、被検者4の複数の血管を認識する。ここでは、認識部214が、第1血管401および第2血管402を、その位置とともに認識する。認識部214は、位置センサまたはストレージ24等に記憶された各血管の反射波のパターン等を用いて、第1血管401および第2血管402のラベリングを行ってもよい。認識部214は、たとえば、第1血管401が内頸動脈、第2血管402が外頸動脈とラベリングする。認識部214は、画像生成部213により生成された画像データから、第1血管401および第2血管402を認識してもよく、ユーザーからの指示に応じて、第1血管401および第2血管402を認識してもよい。認識部214は、3つ以上の血管の位置を認識してもよい。
【0031】
算出部215は、認識部214により認識された第1血管401および第2血管402各々に関する第1血管情報および第2血管情報を算出する。算出部215は、取得部212により取得された超音波情報に基づいて、第1血管情報および第2血管情報を算出する。第1血管情報は、第1血管401の状態に関する情報であり、たとえば、第1血管401を流れる血液の速度(流速)および量(流量)の少なくとも一方に関する情報を含んでいる。第2血管情報は、第2血管402の状態に関する情報であり、たとえば、第2血管402の流速および流量の少なくとも一方に関する情報を含んでいる。第1血管情報および第2血管情報は、第1血管401および第2血管402各々の流速または流量そのものであってもよく、第1血管401および第2血管402各々の流速または流量に統計処理等の所定の処理を施した処理結果であってもよい。第1血管情報および第2血管情報は、第1血管401および第2血管402各々の状態の経時変化に関する情報を含んでいてもよい。認識部214によって3つ以上の血管の位置が認識されたとき、算出部215は、ユーザーにより選択された一部の血管に関する血管情報を算出してもよく、全ての血管に関する血管情報を算出してもよい。
【0032】
生成部216は、算出部215で算出された第1血管情報および第2血管情報を比較できる比較情報を生成する。比較情報は、たとえば、同一時間帯の第1血管情報および第2血管情報を、視覚により、比較できる情報である。比較情報の詳細は後述する。
【0033】
イベント取得部217は、被検者4に生じたイベントに関するイベント情報を取得する。イベント情報は、被検者4の第1血管401および第2血管402に影響をおよぼす可能性のあるイベントに関する情報であり、たとえば、イベントの内容およびイベントの時刻等に関する情報を含んでいる。イベント情報は、たとえば、被検者4への投薬イベントに関する情報を含んでいる。この投薬イベントに関する情報は、たとえば、被検者4に投与された薬剤の種類、投与量および投与時刻の少なくともいずれかに関する情報を含んでいる。イベント取得部217は、たとえば、操作表示部26を介したユーザーからの入力によって、イベント情報を取得する。イベント取得部217は、電子カルテ等の他の装置からイベント情報を取得してもよい。
【0034】
制御部218は、生成部216によって生成された比較情報を、操作表示部26等に表示させる。詳細は後述するが、これにより、ユーザーは、視覚を通じて第1血管401および第2血管402の状態を容易に比較でき、第1血管401および第2血管402につながる臓器および組織の態様を、より正確に推測することが可能となる。
【0035】
比較情報は、たとえば、同一時間帯の第1血管情報および第2血管情報を比較できるグラフおよび数値の少なくとも一方を含んでいる。比較情報は、たとえば、同一時間帯の第1血管情報および第2血管情報を比較できる図を含んでいてもよい。比較情報は、第1時間帯の第1血管情報および第2血管情報と、第1時間帯とは異なる第2時間帯の第1血管情報および第2血管情報とを比較できる情報を含んでいることが好ましく、経時的に第1血管情報および第2血管情報を比較できる情報を含んでいることがより好ましい。これにより、ユーザーは、経時的に第1血管401および第2血管402の状態を比較できるので、第1血管401および第2血管402の状態の変化をより把握しやすくなる。
【0036】
図6は、操作表示部26に表示される比較情報の一例を表している。比較情報は、たとえば、第1血管情報および第2血管情報各々の経時変化を並べて表すグラフを含んでいる。図6は、第1血管401および第2血管402各々の流量の経時変化を表す波形を並べて表している。図6の縦軸は、第1血管401および第2血管402の流量を表し、横軸は時間を表す。図6の実線が第1血管401の流量を表し、破線が第2血管402の流量を表す。
【0037】
比較情報は、第1血管情報および第2血管情報各々の経時変化を比較できる数値を含んでいてもよい。図6には、第1血管401および第2血管402各々の波形の振幅比を表す数値(たとえば、時刻t1の5:3)が所定の時間間隔で表されている。
【0038】
制御部218は、さらに、第1時間帯の第1血管情報および第2血管情報と、第2時間帯の第1血管情報および第2血管情報とを重ねて操作表示部26に表示してもよい。
【0039】
図7は、図6の時刻t2付近の第1血管401および第2血管402の波形と、時刻t3付近の第1血管401および第2血管402の波形とを重ねて表している。制御部218は、たとえば、ユーザーに選択された複数の時間帯の第1血管情報および第2血管情報を重ねて操作表示部26に表示させる。
【0040】
制御部218は、たとえば、比較情報とともに、イベント情報を操作表示部26に表示させてもよい。図6には、時刻t1の投薬イベントが表示されている。制御部218は、イベントの関連時刻(たとえば、時刻t1)と、第1血管情報および第2血管情報の測定時刻とを関連付けて操作表示部26に表示させることが好ましい。これにより、ユーザーは、イベントによる第1血管情報および第2血管情報への影響をより把握しやすくなる。制御部218は、被検者4に投与された薬剤の種類および投与量等を含むイベント情報を操作表示部26に表示させてもよい。
【0041】
制御部218は、イベントの関連情報を操作表示部26に表示させてもよい。たとえば、制御部218は、イベントに起因して変化した第1血管401および第2血管402の状態が、イベントの前の状態に戻るまでの時間を操作表示部26に表示させてもよい。図6では、時刻t1の投薬イベントに起因して、第1血管401の流量が増加し始め、第2血管402の流量が減少し始める。その後、時刻t2付近で第1血管401の流量の増加および第2血管402の流量の減少が止まり、第1血管401の流量の減少および第2血管402の流量の増加が始まる。時刻t3では、第1血管401および第2血管402の流量は、ほぼ時刻t1の状態に戻る。このとき、制御部218は、たとえば、時刻t1から時刻t3までの時間(2時間)を操作表示部26に表示させてもよい。
【0042】
図8は、操作表示部26に表示される比較情報の他の例を表している。比較情報は、第1血管401および第2血管402各々の流量に所定の処理を施した処理結果の経時変化を並べて表すグラフを含んでいてもよい。図8は、所定の時間間隔毎に算出した第1血管401および第2血管402各々の流量の平均値の経時変化を表す曲線を並べて表している。図8の縦軸は、第1血管401および第2血管402各々の流量の平均値を表し、横軸は時間を表す。図8の実線が第1血管401の流量の平均値を表し、破線が第2血管402の流量の平均値を表す。制御部218は、第1血管401および第2血管402各々の流量の一回拍中の最大値の経時変化を並べて表示してもよい。制御部218は、第1血管401および第2血管402各々の流量の時間変化を表す波形(図6参照)の包絡線を並べて表示してもよい。操作表示部26には、時間毎の第1血管401および第2血管402各々の流量の平均値等を示す数値が表示されてもよい。
【0043】
制御部218は、さらに、第1血管401および第2血管402各々の流量の経時変化を表す曲線(図8参照)にフィッティング処理を施すことにより導出された情報を操作表示部26に表示してもよい。フィッティング処理は、たとえば、極値分布、正規分布または二次関数等である。制御部218は、たとえば、第1血管401および第2血管402各々の流量の経時変化を表す曲線のQ値、半値幅または曲線の鋭さを表す値等を操作表示部26に表示する。換言すれば、第1血管情報および第2血管情報は、流速または流量の経時変化を表す曲線に関する情報を含んでいてもよい。
【0044】
図9は、操作表示部26に表示される比較情報のその他の例を表している。比較情報は、同一時間帯の第1血管情報および第2血管情報を統合した統合情報を表すグラフおよび数値の少なくとも一方を含んでいてもよい。図9は、同一時間帯の第1血管401および第2血管402の流量の比(第1血管401の流量/第2血管402の流量)の経時変化を表すグラフである。図9の縦軸は、第1血管401および第2血管402の流量の比を表し、横軸は時間を表す。
【0045】
制御部218は、さらに、この統合情報の経時変化を表す曲線(図9参照)にフィッティング処理を施すことにより導出された情報を操作表示部26に表示してもよい。フィッティング処理は、たとえば、極値分布、正規分布または二次関数等である。制御部218は、たとえば、統合情報の経時変化を表す曲線のQ値、半値幅または曲線の鋭さを表す値等を操作表示部26に表示する。換言すれば、比較情報は、統合情報の経時変化を表す曲線に関する情報を含んでいてもよい。
【0046】
図10は、他の生体情報とともに操作表示部26に表示された比較情報を表している。制御部218は、被検者4について測定された心拍数、動脈血圧およびSpO等の他の生体情報とともに、比較情報を操作表示部26に表示させてもよい。これにより、ユーザーは、第1血管401および第2血管402の状態を、さらに、他の生体情報と容易に比較することができる。制御部218は、操作表示部26以外の表示部に比較情報を表示させてもよく、たとえば、ベッドサイドモニタまたはセントラルモニタ等の表示部に比較情報を表示させてもよい。
【0047】
(情報処理装置の処理方法)
図11は、情報処理装置2による処理の一例を表すフローチャートである。本フローチャートは、情報処理装置2に記憶されたプログラムに従い実行され得る。情報処理装置2は、たとえば、被検者4の頸部40に貼付された超音波センサ3から情報を取得する。
【0048】
まず、情報処理装置2は、超音波を発信させる超音波素子30の選択を受け付ける(ステップS101)。たとえば、ユーザーが操作表示部26に超音波素子30の選択を入力することによって、情報処理装置2は超音波素子30の選択を受け付ける。ユーザーは、たとえば、操作表示部126に表示された第1血管401および第2血管402の画像を確認しながら、第1血管401および第2血管402近傍に配置された超音波素子30を選択することができる。
【0049】
次に、情報処理装置2は、選択された超音波素子30に、超音波の発信を指示する(ステップS102)。たとえば、情報処理装置2は、通信インターフェース25を介して選択された超音波素子30に発信指示を送ることにより、超音波素子30に超音波を発信させる。
【0050】
続いて、情報処理装置2は、発信情報および受信情報を取得する(ステップS103)。次に、情報処理装置2は、超音波センサ3から取得された情報に基づいて、第1血管401および第2血管402の画像データを生成する(ステップS104)。
【0051】
この後、情報処理装置2は、第1血管401および第2血管402の位置を認識し、第1血管401に関する第1血管情報および第2血管402に関する第2血管情報を算出する(ステップS105)。このステップの詳細については後述する。情報処理装置2は、ステップS104の処理と同時にステップS105の処理を行ってもよく、ステップS104の処理の前にステップS105の処理を行ってもよい。
【0052】
この後、情報処理装置2は、ステップS105で算出した第1血管情報および第2血管情報に基づいて比較情報を生成し、比較情報を操作表示部26等に表示させて(ステップS106)、処理を終了する。
【0053】
ここで、図12および図13を用いて、ステップS105の処理を説明する。図12は、ステップS105のサブルーチンフローチャートであり、図13は、第1血管401と超音波センサ3(超音波素子30)との関係の一例を表している。以下では、超音波素子30の配列方向をX方向およびY方向、X方向およびY方向に直交する方向をZ方向と言う場合もある。超音波素子30は、X方向およびY方向に交差する方向に超音波uを照射する。
【0054】
情報処理装置2は、まず、ステップS103(図11)の処理で取得した超音波情報に基づいて、Z方向において第1血管401および第2血管402各々に対向する超音波素子30を特定する(ステップS1051)。第1血管401には、たとえば、複数の超音波素子30のうち超音波素子30a~30hが対向している(図13)。情報処理装置2は、たとえば、以下のようにして、第1血管401に対向する超音波素子30a~30hを特定する。
【0055】
超音波(超音波u)は、音響インピーダンスが異なる媒質間の境界で反射するため、第1血管401と第1血管401に隣接する生体組織との間の境界において反射する。特に、第1血管401と第1血管401に隣接する生体組織との間の音響インピーダンスの差が大きいため、超音波uは、第1血管401の前側壁401Fおよび後側壁401Bにおいてそれぞれ強く反射する。この超音波uの強い反射により、情報処理装置2は超音波素子30a~30hを特定することができる。
【0056】
あるいは、第1血管401の前側壁401Fおよび後側壁401Bによって反射された超音波uの反射波のパターンが既知であってもよい。情報処理装置2は、所定の受信情報(たとえば、後述の図14に示す反射波C1、C2等)を取得した超音波素子30(超音波素子30a~30h)を特定してもよい。
【0057】
情報処理装置2は、同様にして、第2血管402に対向する超音波素子30を特定する。次に、情報処理装置2は、第1血管401および第2血管402各々の位置を認識する(ステップS1052)。
【0058】
図14は、X方向およびZ方向における超音波素子30a~30hと第1血管401との関係の一例を表している。情報処理装置2は、たとえば、超音波素子30a~30hのうちの2つの超音波素子30(たとえば、超音波素子30b,30d)に対向する第1血管401の位置Z1~Z6を決定することにより、第1血管401の位置を認識する。
【0059】
位置Z1,Z2は各々、超音波素子30bに対向する第1血管401の前側壁401Fおよび後側壁401BのZ方向の位置であり、位置Z3は、位置Z1と位置Z2との中間位置である。位置Z4,Z5は各々、超音波素子30dに対向する第1血管401の前側壁401Fおよび後側壁401BのZ方向の位置であり、位置Z6は、位置Z4と位置Z5との中間位置である。
【0060】
情報処理装置2は、たとえば以下のようにして位置Z1を決定することができる。情報処理装置2は、まず、取得した超音波情報に基づいて、超音波素子30bから第1血管401に超音波uが発信された時刻(時刻t0)と、この超音波uが前側壁401Fで反射されて超音波素子30bに受信された時刻(時刻t4)とを特定する。次に、情報処理装置2は、この時刻t0,t4に基づいて、Z方向における超音波素子30bと前側壁401Fとの間の距離L1を決定する。距離L1は、以下の式(1)を用いて決定することができる。情報処理装置2は、この超音波素子30bと前側壁401Fとの距離L1により、位置Z1を決定する。
【0061】
【数1】
【0062】
cは生体組織内を進む超音波uの音速である。
【0063】
情報処理装置2は、上記位置Z1と同様にして位置Z2を決定する。具体的には、まず、取得した超音波情報に基づいて、超音波素子30bから第1血管401に超音波uが発信された時刻(時刻t0)と、この超音波uが後側壁401Bで反射されて超音波素子30bに受信された時刻(時刻t5)とを特定する。次に、情報処理装置2は、この時刻t0,t5に基づいて、Z方向における超音波素子30bと後側壁401Bとの間の距離L2を決定する。距離L2は、以下の式(2)を用いて決定することができる。情報処理装置2は、この超音波素子30bと後側壁401Bとの距離L2により、位置Z2を決定する。
【0064】
【数2】
【0065】
cは生体組織内を進む超音波uの音速である。
【0066】
位置Z1,Z2を決定した後、情報処理装置2は、位置Z1と位置Z2との中間位置である位置Z3を以下の式(3)を用いて決定する。
【0067】
【数3】
【0068】
情報処理装置2は、上記位置Z1~Z3と同様にして、超音波素子30dに対向するZ方向の位置Z4~Z6を決定し、第1血管401の位置を認識する。情報処理装置2は、第1血管401と同様にして、第2血管402の位置を認識する。
【0069】
情報処理装置2は、第1血管401および第2血管402各々の位置を認識した後、第1血管401および第2血管402各々の流速を算出する(ステップS1053)。情報処理装置2は、たとえば、Z方向に対して第1血管401,第2血管402各々がなす角度およびドップラ偏移周波数を用いて、第1血管401,第2血管402各々の流速を算出する。
【0070】
情報処理装置2は、たとえば、以下のようにしてZ方向に対して第1血管401がなす角度θを決定する。情報処理装置2は、まず、位置Z6と位置Z3とのZ方向の距離△Zと、X方向における超音波素子30bと超音波素子30dとの間の距離△Xとに基づいて、X方向に対して第1血管401がなす角度(角度θ1)を決定する。角度θ1は、たとえば、以下の式(4)を用いて決定する。
【0071】
【数4】
【0072】
ここで、角度θと角度θ1とは、以下の式(5)の関係を有する。これにより、情報処理装置2は、角度θを決定することができる。
【0073】
【数5】
【0074】
情報処理装置2は、これと同様にして、Z方向に対して第2血管402がなす角度を決定することができる。
【0075】
情報処理装置2は、Z方向に対して第1血管401,第2血管402各々がなす角度を決定した後、第1血管401,第2血管402各々でのドップラ偏移周波数を算出する。
【0076】
第1血管401を流れる血液の速度(流速)がvであるとき、血液中に含まれる赤血球は速度vで第1血管401を移動する。この赤血球は、Z方向にvcosθの速度で移動しているように観測され、この赤血球により反射された超音波uには、ドップラ効果による周波数変化が生じる。
【0077】
超音波素子30から送信される超音波uの周波数をf、ドップラ偏移周波数をf、第1血管401中を流れる血液の速度をv、生体組織内を進む超音波uの音速をcとすると、ドップラ偏移周波数fは以下式(6)により導出される。
【0078】
【数6】
【0079】
上記の式(6)より、ドップラ偏移周波数fは、第1血管401を流れる血液の速度vに比例して変化することが理解される。換言すれば、ドップラ偏移周波数fを測定することで速度v(流速)を測定することが可能となる。
【0080】
情報処理装置2は、たとえば、パルスドップラ法またはカラードップラ法を用いて、ドップラ偏移周波数fを算出することができる。パルスドップラ法を用いたドップラ偏移周波数fの算出は、たとえば、以下のように行う。情報処理装置2は、まず、第1血管401中の赤血球により反射された超音波uの反射波C3(図14参照)の輝度値の総和の変化を示すデータを取得する。この後、情報処理装置2は、当該取得されたデータに対して高速フーリエ変換(FFT)処理を実行することで、ドップラ偏移周波数fを算出する。
【0081】
カラードップラ法を用いるとき、情報処理装置2は、たとえば、自己相関法によってドップラ偏移周波数fを算出する。超音波の周波数が8kHzであるとき(換言すれば、1秒間に8000個の超音波パルスが出力されるとき)、情報処理装置2は、140個の超音波パルス毎にドップラ偏移周波数fを演算してもよい。このとき、ドップラ偏移周波数fの更新レートは57Hzとなる。
【0082】
パルスドップラ法ではFFTによる演算負荷が比較的大きい。このため、ドップラ偏移周波数fの算出には、演算負荷の比較的小さいカラードップラ法を用いることが好ましい。
【0083】
情報処理装置2は、上記のようにして求めた角度θおよびドップラ偏移周波数fを用いて、式(6)から第1血管401を流れる血液の速度v(流速)を算出する。情報処理装置2は、同様にして、第2血管402の流速を算出する。
【0084】
情報処理装置2は、第1血管401および第2血管402各々の流速を算出した後、第1血管401および第2血管各々の断面積を算出する(ステップS1054)。この断面積は、第1血管401および第2血管402各々の軸方向に垂直な断面積であって、血液が流れる第1血管401および第2血管402各々の中空部分の断面積を指すものである。
【0085】
たとえば、第1血管401の断面積Sは、第1血管401の内径Rを用いて以下の式(7)により求められる。
【0086】
【数7】
【0087】
また、位置Z1と位置Z2との間の距離は|Z1-Z2|であるから、内径Rは以下の式(8)で表される。位置Z3と位置Z4との間の距離|Z3-Z4|を用いて、内径Rを算出してもよい。
【0088】
【数8】
【0089】
情報処理装置2は、たとえば、式(7)および式(8)を用いて、第1血管401の断面積Sを算出する。情報処理装置2は、同様にして、第2血管402の断面積を算出する。
【0090】
情報処理装置2は、第1血管401および第2血管402各々の断面積を算出した後、第1血管401および第2血管402各々の流量を算出する。第1血管401の流量Qは、たとえば、第1血管401を流れる血液の速度vおよび断面積Sを用いて、以下の式(9)により算出することができる。情報処理装置2は、同様にして、第2血管402の流量を算出する。
【0091】
【数9】
【0092】
情報処理装置2は、このようにして、第1血管401および第2血管402各々の位置を認識した後、第1血管401および第2血管402各々の流速および流量を含む第1血管情報および第2血管情報を算出する。
【0093】
(情報処理装置および情報処理システムの作用効果)
本実施形態の情報処理装置2および情報処理システム1では、第1血管401および第2血管402各々に関する第1血管情報および第2血管情報を比較できる比較情報が操作表示部26に表示される。よって、ユーザーは、第1血管401および第2血管402の状態を比較し、これらの血管につながる臓器および組織の態様をより正確に推測することが可能となる。以下、この作用効果について説明する。
【0094】
総頚動脈は内頸動脈および外頸動脈に分岐しており、内頸動脈は脳循環、外頸動脈は顔面および頭皮の血流を各々担っている。頭部損傷および心停止後症候群(PCAS: Post-Cardiac Arrest Syndrome)等の脳の循環障害を伴う患者には、脳への循環血液量を担保するために、しばしば、血管作動薬が投与される。末梢血管収縮薬を患者に投与すると、血管抵抗の上昇に伴って血圧が上昇するので、内頸動脈の血流の上昇が期待できる。しかし、内頸動脈の血流は、内頸動脈および外頸動脈の血管抵抗の比に依存するため、これらの一方のみの血流を確認しても、適切な処置が実施できているかの判断が困難となる場合がある。
【0095】
これに対し、情報処理システム1および情報処理装置2では、第1血管401および第2血管402各々に関する第1血管情報および第2血管情報を比較できる比較情報が操作表示部26に表示される。たとえば、第1血管401および第2血管402各々の流速または流量の経時変化が表示される(たとえば、図6)。このため、ユーザーは、第1血管401および第2血管402の状態を相対的に比較し、第1血管401および第2血管402各々につながる臓器および組織の態様をより正確に推測することが可能となる。したがって、ユーザーは、第1血管401および第2血管402、ひいては、これらにつながる臓器および組織の態様に基づいて、被検者4に投与する薬剤の選定および投薬計画等をより的確に行うことが可能となる。
【0096】
特に、総頚動脈から分岐する内頸動脈および外頸動脈など、直近の位置で第3血管から分岐されている第1血管401および第2血管402に関する情報は、投薬などの効果を測るうえで、重要な情報を含むことが多い。したがって、比較される第1血管401および第2血管402は、直近の位置で第3血管から分岐されていることが好ましい。たとえば、第1血管401および第2血管402は、腹部大動脈から分岐されている左腎動脈および右腎動脈であってもよい。この第1血管401および第2血管402各々の状態を比較することにより、たとえば、一方の腎臓の不全状態等を推測することが可能となる。あるいは、第1血管401および第2血管402は、腹部大動脈から分岐している右側総腸骨動脈および左側総腸骨動脈であってもよい。この第1血管401および第2血管402各々の状態を比較することにより、たとえば、一方の血管の血栓等を推測することが可能となる。
【0097】
また、操作表示部26に表示される比較情報は、経時的に第1血管情報と前記第2血管情報とを比較できる情報を含むことが好ましく、被検者4への投薬イベントの前後の第1血管情報および第2血管情報を含むことがより好ましい。これにより、ユーザーは、被検者4への投薬に起因する第1血管401および第2血管402への影響を容易に確認することができる。
【0098】
また、制御部218は、比較情報とともに、投薬イベント等に関するイベント情報を操作表示部26に表示させることが好ましい。これにより、ユーザーはイベントと比較情報との関係を容易に確認することができる。
【0099】
以上のとおり、実施形態において、本発明の情報処理装置および情報処理システムを説明した。しかしながら、本発明は、その技術思想の範囲内において当業者が適宜に追加、変形、および省略できることはいうまでもない。
【0100】
たとえば、図6図9では、操作表示部26に第1血管401および第2血管402各々の流量を比較できる比較情報が表示される例を示したが、操作表示部26には、第1血管401および第2血管402各々の流速を比較できる比較情報が表示されてもよく、流量および流速の両方を比較できる比較情報が表示されてもよい。
【0101】
また、第1血管情報および第2血管情報は、第1血管401および第2血管402各々の状態を表す情報であればよく、流速または流量に関する情報以外のものであってもよい。
【0102】
また、上記実施形態では、2つの血管(第1血管401および第2血管402)各々の第1血管情報および第2血管情報を比較できる比較情報が、操作表示部26に表示される例について説明したが、操作表示部26には、3つ以上の血管各々の血管情報を比較できる比較情報が表示されてもよい。
【0103】
また、上記実施形態では、角度θおよびドップラ偏移周波数fを用いて第1血管401の流速および流量を算出する例を説明したが、第1血管401および第2血管402の流速および流量は、他の方法により算出してもよい。
【0104】
また、上記実施形態では、主に被検者4に生じたイベントが投薬イベントである例について主に説明したが、被検者4に生じたイベントは、手術等の他の治療イベントであってもよく、飲食および入浴等の日常生活のイベントであってもよい。
【0105】
また、上記実施形態では、超音波センサ3を被検者4の頸部40に貼付して用いる例を説明したが、超音波センサ3は、被検者4の他の部分に貼付して用いてもよい。また、超音波センサ3は、貼付せずに使用してもよい。
【0106】
また、上記実施形態では、超音波センサ3に一定の間隔(間隔a)で超音波素子30が設けられている例について説明したが、隣り合う超音波素子30の間隔は、超音波センサ3の位置により異なっていてもよい。
【0107】
また、上記実施形態では、情報処理装置2が被検者4の血管等の画像データを出力する例について説明したが、情報処理装置2は、画像データを出力しなくてもよい。
【0108】
また、上述した実施形態に係る情報処理装置2における各種処理を行う手段および方法は、専用のハードウェア回路、またはプログラムされたコンピューターのいずれによっても実現することが可能である。上記プログラムは、たとえば、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)等のコンピューター読み取り可能な記録媒体によって提供されてもよいし、インターネット等のネットワークを介してオンラインで提供されてもよい。この場合、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録されたプログラムは、通常、ハードディスク等の記憶部に転送され記憶される。また、上記プログラムは、単独のアプリケーションソフトとして提供されてもよいし、情報処理装置2の一機能としてその装置のソフトウェアに組み込まれてもよい。
【0109】
また、上記実施形態におけるフローチャートの処理単位は、各処理の理解を容易にするために、主な処理内容に応じて分割したものである。処理ステップの分類の仕方によって、本願発明が制限されることはない。各処理は、さらに多くの処理ステップに分割することもできる。また、1つの処理ステップが、さらに多くの処理を実行してもよい。
【符号の説明】
【0110】
1 情報処理システム、
2 情報処理装置、
21 CPU、
22 ROM、
23 RAM、
24 ストレージ、
25 通信インターフェース、
26 操作表示部、
3 超音波センサ、
30 超音波素子、
32 シート状部材、
34 ケーブル、
35 接続部材、
4 被検者、
401 第1血管、
402 第2血管。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14