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特開2024-8024加速度センサの誤差補正装置および誤差補正方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008024
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】加速度センサの誤差補正装置および誤差補正方法
(51)【国際特許分類】
   G01P 21/00 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
G01P21/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109514
(22)【出願日】2022-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】辻 結仁
(57)【要約】
【課題】より簡易な手法で加速度センサの取付誤差の影響を抑制できる誤差補正装置を提供すること。
【解決手段】 加速度センサの誤差補正装置であって、測定対象物に取り付けられた加速度センサと、所定の軸に対して前記測定対象物に作用する重力加速度を、所定のタイミングで取得する取得部と、前記所定のタイミング以外のタイミングで、前記加速度センサにより検出される加速度から前記重力加速度を減算する減算部と、を備える。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速度センサの出力値の誤差を補正する誤差補正装置であって、
測定対象物に取り付けられた前記加速度センサと、
所定の軸に対して前記測定対象物に作用する重力加速度を、所定のタイミングで取得する取得部と、
前記所定のタイミング以外のタイミングで、前記加速度センサにより検出される加速度から前記重力加速度を減算する減算部と、
を備える誤差補正装置。
【請求項2】
前記所定のタイミングを設定する設定部をさらに備える請求項1に記載の誤差補正装置。
【請求項3】
前記減算部は、前記減算を、所定の期間、継続して実行する請求項1に記載の誤差補正装置。
【請求項4】
前記取得部は、前記重力加速度を複数取得する請求項1に記載の誤差補正装置。
【請求項5】
前記減算部は、外部からの指示に基づいて、前記複数の重力加速度から選択された1つの重力加速度を用いて前記減算を行う請求項4に記載の誤差補正装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の誤差補正装置と、
前記誤差補正装置の出力データに基づいて、制振対象の振動を制御する制振部と、
を備える制振装置。
【請求項7】
前記制振部は、アクティブ動作できるアクチュエータを有する請求項6に記載の制振装置。
【請求項8】
前記制振部は、ジンバル機構を有する請求項6に記載の制振装置。
【請求項9】
運搬対象を運搬する走行装置であって、
地図情報に基づいて走行経路を決定する経路決定部と、
前記走行経路を走行する走行部と、
請求項6に記載の制振装置と、を備え、
前記制振装置は前記走行部に搭載されて前記運搬対象の振動を抑制する走行装置。
【請求項10】
測定対象物に取り付けられた加速度センサの出力値の誤差を補正する誤差補正方法であって、
所定の軸に対して前記測定対象物に作用する重力加速度を、所定のタイミングで取得する取得ステップと、
前記所定のタイミング以外のタイミングで、前記加速度センサにより検出される加速度から前記重力加速度を減算する減算ステップと、
を有する誤差補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速度センサの誤差補正装置および誤差補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加速度センサを固定部材により加速度測定対象物(例えば、車両)に取り付ける際、取り付ける場所の傾きや固定部材の固定の仕方(例えば、ネジの締め方)等によっては、加速度センサが重力加速度に対して傾きを持つ場合がある。つまり、加速度センサが本来の取付角度からずれた角度で取り付けられることがある。このような取付角度誤差が発生した場合、加速度センサの検出値が不正確になる可能性がある。
特許文献1には、加速度センサの取付角度誤差がセンサの感度に影響を与えないようにする技術が開示されている。特許文献1では、加速度センサの取付角度が基準取付角度からのどれくらいずれているかを検出する傾斜センサを使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際特開第2021/220574号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の技術では、加速度センサの取付角度誤差を検出する傾斜センサが必要である。よって、傾斜センサを設置するための設置スペースおよび費用が必要となる。また、傾斜センサからの出力に基づいて、センサの検出値の補正処理を行う必要がある。
そこで、本発明は、より簡易な手法で加速度センサの取付誤差の影響を抑制できる誤差補正装置及び誤差補正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の一つの態様によれば、加速度センサの出力値の誤差を補正する誤差補正装置であって、測定対象物に取り付けられた前記加速度センサと、所定の軸に対して前記測定対象物に作用する重力加速度を、所定のタイミングで取得する取得部と、前記所定のタイミング以外のタイミングで、前記加速度センサにより検出される加速度から前記重力加速度を減算する減算部と、を備える誤差補正装置が提供される。例えば、前記取得部は、加速度センサが測定対象物に取り付けられた際に、測定対象物に作用する重力加速度を取得する。その後、加速度センサが測定対象物の加速度を検出する際に、加速度センサの出力値から重力加速度を減算する。よって、重力加速度の影響を除去した値が、加速度センサの補正後出力値となる。
【0006】
前記誤差補正装置は、前記所定のタイミングを設定する設定部をさらに備えてもよい。
前記減算部は、前記減算を、所定の期間、継続して実行してもよい。
前記取得部は、前記重力加速度を複数取得してもよい。また、前記減算部は、外部からの指示に基づいて、前記複数の重力加速度から選択された1つの重力加速度を用いて前記減算を行ってもよい。
【0007】
本発明の他の態様によれば、前記誤差補正装置と、前記誤差補正装置の出力値に基づいて、制振対象の振動を制御する振動制御部と、を備える制振装置が提供される。
前記制振部は、アクティブ動作できるアクチュエータを有してよい。前記制振部は、ジンバル機構を有してよい。
【0008】
本発明の他の態様によれば、運搬対象を運搬する走行装置であって、地図情報に基づいて走行経路を決定する経路決定部と、前記走行経路を走行する走行部と、前記走行部に搭載されて前記運搬対象の振動を抑制する制振装置と、を備える走行装置が提供される。
本発明の他の態様によれば、測定対象物に取り付けられた加速度センサの出力値の誤差を補正する誤差補正方法であって、所定の軸に対して前記測定対象物に作用する重力加速度を、所定のタイミングで取得する取得ステップと、前記所定のタイミング以外のタイミングで、前記加速度センサにより検出される加速度から前記重力加速度を減算する減算ステップと、を有する誤差補正方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡易な手法で加速度センサの取付誤差の影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態にかかる誤差補正装置を備えた自律走行装置の概略図である。
図2図1の自律走行装置に設けられた制振部のジンバル機構を示す図である。
図3図1の自律走行装置の機能ブロック図である。
図4】重力加速度の影響を説明する図である。
図5】オフセット処理による加速度データ補正を説明する図である。
図6】誤差を補正する前後の加速度データを説明する図である。
図7】誤差補正処理のフローチャートである。
図8】Z軸方向にもアクティブ制振可能な制振部を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、本発明の範囲は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で変更及び修正等をすることが可能である。また、説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするため、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
【0012】
本実施形態では加速度センサの誤差補正装置を備えた制振装置を説明する。制振装置は自律走行装置に搭載されているとする。
<自律走行装置の概略構成>
図1は、本実施形態の自律走行装置100を示す概略構成図である。自律走行装置100は、例えば、液体物を運搬する場合の様に、積載する運搬対象(搬送物)200の振動を抑制しながら運搬対象200を運搬(搬送)する装置である。自律走行装置100は、自律走行ロボットと称してもよい。自律走行装置100は、屋内または屋外の路面またや床面を走行する。液体物は、例えば、液体入りシャーレである。
【0013】
自律走行装置100は、走行部110と、走行部110に搭載された制振部120とを備えている。走行部110と制振部120は、有線または無線で接続されており、相互にデータ等を送信及び受信することができる。搬送対象200は、制振部120の上に載置される。
【0014】
自律走行装置100は、運搬対象200を運搬する装置であり、運搬対象200は自律走行装置100の使用目的や設計に応じた物(例えば、液体物)である。なお、図1の紙面に垂直な方向をX方向と称し、図1の左右方向をY方向と称し、図1の上下方向をZ方向と称する。図1のX方向は自律走行装置100の幅方向であり、Y方向は自律走行装置100の長手方向であり、Z方向は自律走行装置100の高さ方向である。Z方向は、本実施形態では鉛直方向である。走行部110は、X方向に所定間隔をおいて設けられた2つの駆動輪110aを有する(図1には、そのうちの1つが示されている)。2つの駆動輪110aは独立に駆動することができる。つまり、自律走行装置100は左右独立駆動形式の走行装置である。また、走行部110は、X方向に所定間隔をおいて設けられた2つの従動輪110bを有する(図1には、そのうちの1つが示されている)。なお、X方向はX軸方向と称する場合がある。同様に、Y方向はY軸方向と称する場合があり、Z方向はZ軸方向と称する場合がある。また、Z方向で見た場合を平面視と称する場合がある。
【0015】
自律走行装置100は、いわゆるAGV(Automatic Guided Vehicle)やAMR(Autonomous Mobile Robot)であってもよいし、医療用ロボットであってもよいし、自動運転車であってもよい。
走行部110は、地図情報に基づいて自律的に走行する機能を担う。走行部110は、制振部120と通信するための通信機能を有する。
制振部120は、走行部110の走行に伴う運搬対象200の振動を抑制する。制振部120は、走行部110と通信するための通信機能を有する。
【0016】
<制振部の概略構成>
図2は、制振部120の構成を示す図である。
図2において、制振部120は、X方向、Y方向およびZ方向に対して制振動作を行うことができる。以下の説明において、X方向およびY方向の揺れを横揺れと称し、Z方向の揺れを縦揺れと称することがある。
制振部120は、第1基台141、第2基台142、枠143、プレート144および傾斜用アクチュエータ151~154を備える。第1基台141は、平面視で、4つの略直線状の部材(辺)141a、141b、141c、141dを有する正方形の要素である。第2基台142は、平面視で、第1基台141とほぼ同じ形状の要素である。枠143は、平面視で、第2基台142の内側に位置する正方形の要素である。プレート144は、枠143の内側に位置する板状部材である。第2基台142は、辺142a及び142bの中央からZ方向に隆起する支持部161、162を有する。傾斜用アクチュエータ151~154は、アクティブ制御可能なアクチュエータである。
【0017】
第1基台141は、図1の走行部110上に設置される。第1基台141上には、ばね146、147、148,149を介して第2基台142が設置される。ばね146~149は、第1基台141の4隅に配置され、第2基台142の4隅を下から支持している。ばね146~149は縦揺れを吸収する。
【0018】
第2基台142上には、傾斜用アクチュエータ151、152を介して枠143が設置される。傾斜用アクチュエータ151、152は、X軸の周りに枠143を傾けることができる。傾斜用アクチュエータ151、152は、枠143のX軸方向に対向する2辺143a、143bの外側の中央に配置されている。傾斜用アクチュエータ151は、ジンバル機構J1およびモータM1を備える。ジンバル機構J1は回転軸R1を有する。回転軸R1には、モータM1が搭載(接続)される。傾斜用アクチュエータ152は、ジンバル機構J2およびモータM2を備える。ジンバル機構J2は回転軸R2を有する。回転軸R2には、モータM2が搭載(接続)される。
回転軸R1は、支持部161を通ってX軸方向に延び、枠143の辺143aに固定される。回転軸R2は、支持部162を通ってX軸方向に延び、枠143の辺143bに固定される。各傾斜用アクチュエータ151、152は、支持部161、162を介して枠143上に固定される。モータM1~M4は、例えば、サーボモータである。
【0019】
枠143の内側には、傾斜用アクチュエータ153、154を介してプレート144が設置される。プレート144の鉛直方向はZ軸方向である。傾斜用アクチュエータ153、154は、Y軸の周りに枠143を傾けることができる。傾斜用アクチュエータ153、154は、枠143のY軸方向に対向する2辺143c、143dの外側の中央に配置されている。傾斜用アクチュエータ153は、ジンバル機構J3およびモータM3を備える。傾斜用アクチュエータ154は、ジンバル機構J4およびモータM4を備える。ジンバル機構J3の回転軸R3には、モータM3が搭載(接続)される。ジンバル機構J4の回転軸R4には、モータM4が搭載(接続)される。回転軸R3は、Y軸方向に枠143を貫通してプレート144の側面144cに固定される。回転軸R4は、Y軸方向に枠143を貫通してプレート144の側面144dに固定される。
【0020】
図1の自律走行装置100で搬送対象200を搬送する場合、搬送対象200はプレート144の上面144uに載置される。振動センサ126(図3参照)は、プレート144または搬送対象200に取り付けられ、プレート144または搬送対象の振動(加速度)を検出する。本実施形態では、振動センサ126が取り付けられる物体を、測定対象物と称する。振動センサ126は重力加速度gの影響を受ける加速度センサであればよく、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)であってもよいし、静電容量型の加速度センサであってもよい。
【0021】
本実施形態では、振動センサ126の検出値は、重力加速度の影響を排除するために、補正処理される。搬送対象200の搬送時において、制振部120は、振動センサ126の補正後出力値に基づいてモータM1~M4を制御し、プレート144に加わる回転力および遠心力が打ち消される方向にトルクを印加するとともに、走行部110の傾斜に対してプレート144が水平に保たれるようにジンバル機構J1~J4の回転軸R1~R4を回転させる。制振部120は、傾斜用アクチュエータ151~154をフルアクティブ制御することにより、制振対象に加わる回転力だけではなく、走行部110の傾斜およびカーブ等の曲線走行時の遠心力についても制振制御可能である。振動センサ126の補正後出力値が所定の閾値以上になると、制振部120が制振動作を開始する(モータM1~M4が駆動制御される)。振動センサ126の取付姿勢に誤差があると、振動センサ126の検出値は、取付誤差が無い場合に比べて、大きな値になってしまう場合がある。この場合、制振の必要がないのに制振部120が制振動作を実行する可能性がある。また、振動センサ126の取付姿勢に誤差があると、振動センサ126の検出値は、取付誤差が無い場合に比べて、小さな値になってしまう場合もある。この場合、制振の必要があるのに制振部120が制振動作を実行しない可能性がある。本実施形態では、振動センサ126の検出値を補正し、補正後の値に基づいて制振部120が制振動作を実行するので、このような不具合は発生しない。
【0022】
このように、プレート144の周囲に傾斜用アクチュエータ151~154を配置し、プレート144の下にばね146~149を配置したので、搬送対象200の縦揺れおよび横揺れとともに、傾きも低減(または除去)することができる。
【0023】
例えば、制振部120は、X軸方向の横揺れを制振する場合、X軸方向の横揺れが吸収されるようにモータM3、M4を協調制御する。モータM3、M4の協調制御では、X軸方向の横揺れが吸収されるように、同一の回転数(角速度)で同一の角度だけモータM3、M4を同時に回転させる。例えば、プラスX軸方向に横揺れが発生した場合、プレート144の上面144uに置かれた運搬対象200はプラスX軸方向に移動しようとする。この際、モータM3を時計回りに回転させモータM4を反時計回りに回転させることにより(モータM3とM4の回転角度量は同じ)、運搬対象200がプラスX軸方向に移動しないようにする。
また、制振部120は、Y軸方向の横揺れを制振する場合、Y軸方向の横揺れが吸収されるようにモータM1、M2を協調制御する。モータM1、M2の協調制御では、Y軸方向の横揺れが吸収されるように、同一の回転数で同一の角度だけモータM1、M2を同時に回転させる。
【0024】
<自律走行装置の機能構成>
図3は、自律走行装置100の機能ブロック図である。
自律走行装置100は、上述したように走行部110と制振部120を備えている。走行部110は、コントローラ111と、記憶部112と、駆動部113と、位置センサ114とを備えている。走行部110のコントローラ111は、自己位置演算部117と、走行指令演算部118と、駆動制御部119とを有する。
制振部120は、コントローラ124と、駆動部125と、振動センサ126と、通信部127と、を備えている。制振部120のコントローラ124は、誤差補正部131と、制振制御部132とを有する。振動センサ126は加速度センサであり、誤差補正部131は、振動センサ126の出力値(検出値)の誤差を補正する誤差補正装置と称してもよい。振動センサ126の検出値の誤差は、振動センサ126の取付角度に起因する誤差である。誤差補正部131は記憶部133を有する。誤差補正部131は、誤差を取り除くためのオフセット処理(後述)を行うので、オフセット処理部と称してもよい。制振制御部132は制御指令生成部と称してもよい。
【0025】
<走行部の機能構成>
走行部110の駆動部113は、モータ、車輪及び電源などを含んだ走行用の機能部分である。走行部110のコントローラ111は、位置センサ114から供給される位置情報と地図情報112aとに基づいて駆動部113の制御を行う。つまり、コントローラ111は、自律走行装置100の走行経路を選択(決定)する演算を行い、走行部110による自律走行を制御する。
【0026】
走行部110の記憶部112は、地図情報112aを記憶している。
走行部110の位置センサ114は、レーザスキャナを有し、自律走行装置100の位置や向きを検出する。自律走行装置100の向きは、例えば、駆動輪110aの向き(車輪角度)である。また、本実施形態の位置センサ114は、非接触で物体との距離を測定することもできる。例えば、自律走行装置100の前方に障害物がある場合、位置センサ114は当該障害物の存在を検知することができる。
【0027】
次に、走行部110のコントローラ111の機能について説明する。
自己位置演算部117は、位置センサ114によって検出された自律走行装置100の位置や向きと記憶部112の地図情報112aとに基づいて、地図上での自律走行装置100の位置や向きを演算する。演算手法は公知の手法を利用してよい。
【0028】
走行指令演算部118は、自己位置演算部117で演算された自律走行装置100の位置や向きと地図情報112aとに基づいて、目標地点(目的地点)へと向かうための走行指令を演算する。つまり、走行指令演算部118は、地図情報112a等に基づいて、走行経路を決定する経路決定部である。
駆動制御部119は、走行指令演算部118で演算された走行指令に従って駆動部113を制御し、自律走行装置100を目標地点へと向かわせる。
【0029】
尚、自律走行装置100は、入力部(図示せず)を備えていてもよい。自律走行装置100が入力部を備えている場合、自律走行装置100のユーザは、振動センサ126の補正処理(オフセット処理)を開始するための開始指令を、入力部を介して入力することができる。
【0030】
<制振部の機能構成>
次に、制振部120について説明する。
制振部120の駆動部125は、図2に示す傾斜用アクチュエータ151~154、ジンバル機構J1~J4、モータM1~M4および回転軸R1~R4を意味する。
制振部120の振動センサ126は、制振に必要な情報(例えば、自律走行装置100のXYZ方向の加速度、旋回方向の加速度)を測定する。より具体的には、振動センサ126は、例えば、図2に示したプレート(積載台)144に取り付けられ、プレート144の振動や加速度などを検出する。なお、振動センサ126は、図1に示した運搬対象200に取り付けられてもよい。振動センサ126は検出値を誤差補正部131に送信する。
通信部127は、外部からの指示(例えば、オフセット処理の開始を指示する信号)を受信し、誤差補正部131に当該指示を送る。
【0031】
ここで、図4を参照して、振動センサ126の取付誤差について説明する。振動センサ126がプレート144または運搬対象200に取り付けられる際、プレート144や運搬対象200の凹凸や形状により、地面に対して水平に設置できず、検出値に重力加速度が印加される可能性がある。つまり、図4(a)に示すように、振動センサ126の取付角度が重力加速度gに対して傾き(角度)θを持つ場合がある。このように、振動センサ(加速度センサ)126が本来の取付角度から角度θだけずれて取り付けられた場合(つまり、取付角度誤差が発生した場合)、図4(b)に示すような座標変換をすると分かるように、Y軸の振動センサ126の出力値は重力加速度gの影響(g・sinθ)を受け、Z軸のセンサ126の出力値も重力加速度の影響(g・cosθ)を受ける。もし制御部120が振動センサ126の出力値を補正せずに使用して駆動信号(駆動指令)を生成して駆動部125を駆動すると、振動センサ126の検出する加速度が重力加速度の影響を受けているために、所望の制振性能を達成できない可能性がある。尚、図4では説明を簡単にするためにX軸方向の取付角度誤差は省略した。
【0032】
本実施形態では、振動センサ126の出力値に対してオフセット処理(誤差補正処理)を行うことで、水平からの取付誤差(傾きθに起因する誤差)を補正する。具体的には、誤差補正処理は以下のように行う。
まず、誤差補正部131は、振動センサ126の取付位置で検出している振動センサ126の出力値(検出値)を初期値として取得する。具体的には、振動センサ126の取付位置でプラスマイナスX軸方向、プラスマイナスY軸方向およびプラスマイナスZ軸方向にそれぞれ、例えば、1Gの重力加速度を作用させ、その時の振動センサ126の出力値(検出値)を初期値として取得する。取得した初期値は、記憶部133に保存する。当該初期値は、所定の軸(X軸、Y軸、Z軸)に対して振動センサ126に作用する重力加速度である。そして、誤差補正部131は、次の振動センサ検出値の受信時から、受信した振動センサ検出値に対して初期値(記憶部133で保存した値)を継続的に減算する。この減算(オフセット)により、振動センサ検出値を任意の座標系の原点が始点となるように表示できる(補正できる)。よって、取付誤差によりセンサ軸が水平に対し角度θを持った場合であっても、上記した誤差補正処理により、重力加速度gの影響を打ち消し、制振部120に印加される加速度のみを制振制御に使用することが可能となる。記憶部133は、振動センサ126の出力値(重力加速度を含む)を記憶することにより取得する。記憶部133は取得部と称してもよい。尚、本明細書で減算(オフセット)という表現は、振動センサ126の取付誤差に起因した不必要な初期値を除去(オフセット)するという意味で使用している。従って、加速度を減算すると記載してある場合には、単純に-演算(引き算)をするというだけでなく、+演算(足し算)をする場合も含む。例えば、自律走行装置100が進行方向に対して上り傾斜面を走行する場合と、下り傾斜面を走行する場合では、初期値を足し算する場合もあるし、引き算する場合もある。いずれの場合も、本明細書では「減算」という表現を使用する。
【0033】
図5は誤差補正部131がオフセット処理の際に使用する計算式である。axnはX軸方向の現在の加速度データであり、axoffsetはX軸方向のオフセット用データである。aはオフセット処理後(補正後)のX軸方向の加速度データである。aynはY軸方向の現在の加速度データであり、ayoffsetはY軸方向のオフセット用データである。aはオフセット処理後のY軸方向の加速度データである。aznはZ軸方向の現在の加速度データであり、azoffsetはZ軸方向のオフセット用データである。aはオフセット処理後のZ軸方向の加速度データである。
【0034】
図6はオフセット処理前後の加速度(振動センサ126の検出値)を比較した図である。図6(a)は、重力加速度gの影響を受けている振動センサ126の検出値A1を示し、図6(b)はオフセット処理後の値(誤差補正処理された振動センサ検出値)A2を示している。図6(a)の縦軸は加速度を示し、横軸は時間を示している。図6(b)も同様に、縦軸は加速度を示し、横軸は時間を示している。図6(b)の加速度値A2は、図6(a)に示した重力加速度による誤差を除去しているので、時間軸に重なっている。
【0035】
図7は誤差補正部131のオフセット処理を示すフローチャートである。
図7のフローチャートは、例えば、自律走行装置100が起動されるとスタートする。自律走行装置100が起動されると、振動センサ126は所定のサンプリング周期で加速度を検出する。
S10において、誤差補正部131は振動センサ126から加速度データを取得する。
S11において、誤差補正部131は外部からオフセット処理開始指令を受けたかを判定する。外部とは、例えば、自律走行装置100のユーザである。オフセット処理開始指令(信号)は、制振部120の通信部127で受信され、通信部127から誤差補正部131に送られる。S11の判定結果がNoの場合、S11の処理を繰り返す。外部からオフセット処理開始指令を送信するタイミングは任意でよい。通信部127は、測定対象物に作用する重力加速度を取得するタイミングを設定する設定部と称してもよい。
【0036】
S11の判定結果がYesの場合、S12に進む。S12において、誤差補正部131はオフセット処理に使用する加速度データを記憶部133に記憶する。オフセット処理に使用する加速度データは、例えば、自律走行装置100が停止状態にある時に振動センサ126が出力した加速度(重力加速度)である。つまり、記憶部133は、オフセット処理に使用する重力加速度を記憶することにより、取得する。なお、オフセット処理に使用する加速度データは初期値と称する場合がある。
S13において、誤差補正部131は、現在の加速度データからオフセット用データを減算する。減算で使用する式は図5に示した式である。S13の処理の結果、図5のように、重力加速度による誤差が除去された「補正後の加速度データa、a、a」を得ることができる。S13では、所定のタイミングで取得した初期値と、現在(つまり、上記した所定のタイミング以外のタイミング)の振動センサ126により検出される加速度とにより、減算を行っている。
S14において、誤差補正部131は、補正後の加速度データを制振制御部132へ送信する。よって、制振制御部132は、補正後の加速度データを用いて、駆動部125を駆動することができる。
【0037】
このように、制振制御部132は、誤差補正部131の出力値(振動センサ126の検出値から誤差を除去した値)に基づいて、制振制御演算を行い、演算結果に応じた指示(制御信号)を駆動部125に送信する。つまり、制振制御部132は、誤差補正部131の出力値に基づいて、駆動部125の動作を制御する(ジンバル機構J1~J4の動作を制御する)。駆動部125は、制振制御部132により生成された情報(制御信号)に基づいて制振動作を行う制振駆動部であると言える。
【0038】
<効果>
以上、説明したように、本実施形態の振動センサ126の誤差補正部(補正装置)131は、振動センサ126に加わる重力加速度gの影響を除去して、搬送対象200の振動を抑制することができる。
本実施形態の自律走行装置100によれば、加速度センサに印加される重力加速度(オフセット用データ)を現在の加速度センサ値からオフセット処理(減算)している。つまり、加速度センサから得られる値のみで、加速度センサの取付誤差を補正している。この構成では、引用文献1の傾斜センサのような、基準軸からの傾きを検出するセンサを設ける必要がない。よって、制振部120を設置するためのスペースおよびコストを小さくすることができる。
【0039】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されない。
例えば、振動センサ126の代わりIMU(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)を採用してもよい。IMUは、XYZ方向の加速度および回転方向の加速度を計測することができる。
【0040】
運搬対象200は人物、動物、食品、ガラス製品、粉体、積み重ねた書類等でもよい。あるいは、搬送対象200は、移植用臓器または細胞などの生体由来物や、メッセンジャーRNAワクチンであってもよい。
上記した実施形態では、自律走行装置100に制振部120を設けた例を説明したが、制振部120は、トラック、バイク、自転車、鉄道、船舶、台車またはドローンに設けてもよい。
【0041】
上記した実施形態の制振部120では、走行中の振動を抑制する場合を説明したが、停止時のプレート144の傾きを直す(水平にする)際に、振動センサ126の出力値を補正する必要があれば、誤差補正部131と制振制御部132を使用してもよい。停止時のプレート144の傾きを修正する場合、制振部120は姿勢制御部として機能する。
上記した実施形態では、第1基台141の上にばね146~149を設け、ばね146~149の上に第2基台142を設けたが、第1基台141およびばね146~149は省略してもよい。この場合、第2基台142が走行部110上に載置される。
上記した実施形態では、4つの傾斜用アクチュエータ151~154(ジンバル機構J1~J4)を設けたが、傾斜用アクチュエータ(ジンバル機構)は2つだけにしてもよい。例えば、Y軸回りの傾斜が発生しない場合あるいは無視できる場合、傾斜用アクチュエータ153及び154を省略してもよい。つまり、ジンバル機構は単軸でもよいし、多軸でもよい。
上記した実施形態では、図7のフローチャート(オフセット処理)は自律走行装置100の起動と同時にスタートするとしたが、オフセット処理の開始は、自律走行装置100のユーザが指定できる構成にしてもよい。
【0042】
上記した実施形態では、図7のフローチャートにおいて、オフセット処理に使用する加速度データ(初期値)は、自律走行装置100が停止状態にある時に振動センサ126が出力した加速度(重力加速度)であるとしたが、初期値はこれに限定されない。例えば、自律走行装置100が水平面を走行した後に傾斜面を走行する場合、傾斜面走行に入ってから、初期値(オフセット処理に使用する加速度データ)を変更することが想定される。自律走行装置100が水平面を走行する際の重力加速度gの影響と、傾斜面を走行する際の重力加速度gの影響は異なるからである。例えば、自律走行装置100のユーザは、自律走行装置100が傾斜面走行に入ると、オフセット処理開始指令を自律走行装置100(制振部120)に送信する。すると、制振部120の通信部127が当該指令を受信し(S11)、誤差補正部131は第2のオフセット用データ(振動センサ126の出力値)を保存する(S12)。その後、誤差補正部131は、第2のオフセット用データを使用して、オフセット処理を行う(S13)。
自律走行装置100が傾斜面走行から水平面走行に戻ると、自律走行装置100のユーザは、再び、オフセット処理開始指令を制振部120に送信する。
【0043】
このように、自律走行装置100が走行する走行路の傾斜等によっては、オフセット処理に使用する加速度データ(初期値)が複数必要になる。記憶部133には過去に使用した複数の初期値を保存していてよい。そして、例えば、自律走行装置100のユーザは、複数の初期値から1つの初期値を選択して、誤差補正部131に使用させてもよい。つまり、複数のオフセット用データを記憶部131に記憶して、いずれかのオフセット用データ(初期値)を図7のフローチャートで使用してよい。
図5に示したオフセット用データ(axoffset、ayoffset、azoffset)の値は、自律走行装置100のユーザが設定してもよい。
【0044】
制振部120はXYZ方向の全部についてアクティブ制御可能であってもよい。図8に示した制振部120は、XYZ方向の全部についてアクティブ制御可能であり、複数の縦駆動部121と、複数の横駆動部122と、コントローラ124とを備えている。符号123は積載台であり、図1に示した運搬対象200が積載台123の上に載置される。
【0045】
縦駆動部121はコントローラ124の制御に従って駆動するアクチュエータであり、複数の縦駆動部121により、積載台123上の運搬対象200について鉛直方向(Z方向)の振動抑制や傾き調整などが行われる。縦駆動部121がアクティブ質量を有している場合、コントローラ124からの制御信号に基づいてアクティブ質量の動作が制御されることにより、積載台123のZ方向の振動等が吸収・低減される。横駆動部122もコントローラ124の制御に従って駆動するアクチュエータであり、横駆動部122により、積載台123上の運搬対象200について水平方向の振動抑制や衝撃抑制などが行われる。横駆動部122がアクティブ質量を有している場合、コントローラ124からの制御信号に基づいてアクティブ質量の動作が制御されることにより、積載台123の水平方向の振動等が吸収・低減される。制振部120は、アクチュエータ(121、122)による制振を行うので、アクティブ制振を行う制振部である。
【0046】
制振部120のコントローラ124は、予め定められた制御形態(例えば、制振の強度が高い制振形態または制振の強度が低い制振形態)で縦駆動部121および横駆動部122を制御する。なお、コントローラ124は、複数の制振モードから選択された制振モードに応じた制御形態で縦駆動部121および横駆動部122を制御してもよい。制振モードとは、例えば、アクチュエータ(121、122)の制御形態である。
【符号の説明】
【0047】
100…自律走行装置、110…走行部、120…制振部、124…コントローラ、125…駆動部、126…振動センサ、131…誤差補正部、132…制振制御部、133…記憶部、151~154…傾斜用アクチュエータ、200…運搬対象、J1~J4…ジンバル機構、M1~M4…モータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8