(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080240
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】スプール弁
(51)【国際特許分類】
F16K 11/07 20060101AFI20240606BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
F16K11/07 D
F16K11/07 C
H01L21/302 101G
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193269
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000106760
【氏名又は名称】CKD株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 泰久
(72)【発明者】
【氏名】南谷 隆弘
【テーマコード(参考)】
3H067
5F004
【Fターム(参考)】
3H067AA17
3H067CC23
3H067DD05
3H067DD12
3H067DD32
3H067EA02
3H067EA14
3H067EA26
3H067EA29
3H067EB07
3H067EB12
3H067EB26
3H067EB29
3H067FF11
3H067GG02
3H067GG21
5F004BB25
5F004BB26
5F004BC03
5F004CA04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】スプール弁体の外周面とスリーブの内周面との干渉箇所を制御し、スプール弁体の摺動性が低下すること、スリーブまたはスプール弁体に摩耗が発生すること、を防止すること。
【解決手段】スリーブ222は、その内周面のうち、少なくとも軸方向の両端部に、無電解ニッケルめっきによる第1表面処理部29を備えること、第1表面処理部29は、第1のめっきの膜厚t11の分だけ、前記内周面のその他の部分よりも内径が小さく、スプール弁体221を摺動可能に支持することを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のスリーブを備え、
前記スリーブは、前記スリーブの内部に連通する2以上の入力ポートおよび2以上の出力ポートを備え、
前記スリーブ内を前記スリーブの軸方向に沿って摺動するスプール弁体を備え、
前記スプール弁体が摺動することで、前記入力ポートおよび前記出力ポートの開放面積が調整されるスプール弁において、
前記スリーブと前記スプール弁体との少なくとも一方が、前記スリーブの軸方向の両端部において、前記スリーブの内周面と前記スプール弁体の外周面との間の間隙をその他の部分よりも小さくし、前記スプール弁体の摺動を支持する支持部を備えること、 を特徴とするスプール弁。
【請求項2】
請求項1に記載のスプール弁において、
前記スリーブは、その内周面のうち、前記軸方向の両端部に、第1のめっきによる第1表面処理部を備えること、
前記第1表面処理部が、前記支持部であること、
を特徴とするスプール弁。
【請求項3】
請求項1に記載のスプール弁において、
前記スプール弁体は、外周面のうち、前記スリーブの内周面の前記軸方向の両端部に対向する部分に、電解めっきによる表面処理部を備えること、
前記表面処理部が、前記支持部であること、
を特徴とするスプール弁。
【請求項4】
請求項2に記載のスプール弁において、
前記支持部の軸方向の幅は、1mm以上、前記スリーブの軸方向の全長の15%以下であること、
を特徴とするスプール弁。
【請求項5】
請求項2に記載のスプール弁において、
前記スプール弁体は、外周面のうち、少なくとも前記第1表面処理部に対向する部分に、第2のめっきによる第2表面処理部を備えること、
前記第2のめっきの硬度は、前記第1のめっきの硬度よりも高いこと、
を特徴とするスプール弁。
【請求項6】
請求項5に記載のスプール弁において、
前記第1のめっきは、無電解めっきであること、
前記第2のめっきは、電解めっきであること、
を特徴とするスプール弁。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1つに記載のスプール弁において、
前記スプール弁は、
半導体製造装置の備えるサセプタに温調用流体を循環させることで前記サセプタの温度を調整する温度調整用流量制御ユニットにおいて、
前記2以上の入力ポートのうちの第1の入力ポートに入力される、前記温調用流体の温度を低下させるための低温流体の、前記2以上の出力ポートのうちの第1の出力ポートから出力する流量と、
前記2以上の入力ポートのうちの第2の入力ポートに入力される、前記温調用流体の温度を上昇させるための高温流体の、前記2以上の出力ポートのうちの第2の出力ポートから出力する流量と、
を調整することで、前記温調用流体の温度を調整すること、
前記間隙は、前記支持部により小さくされている部分を除いた部分が、7μm以上55μm以下であること、
を特徴とするスプール弁。
【請求項8】
請求項1に記載のスプール弁において、
前記スリーブは、内周面のうちの軸方向の両端部に、内径が縮径されて形成される前記支持部を備えること、
前記支持部の縮径量は、4μm以上、60μm以下であること、
を特徴とするスプール弁。
【請求項9】
請求項8に記載のスプール弁において、
前記支持部の軸方向の幅は、前記スリーブの軸方向の全長の2%以上、15%以下であること、
を特徴とするスプール弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプール弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造に用いられるRIE(Reactive Ion Etching)型のプラズマ処理装置は、処理容器内のサセプタによりウエハを保持した状態で、処理容器内にプロセスガスを導入し、ウエハのエッチング処理を行う。エッチング処理には、複数種のプロセスガスが用いられるところ、プロセスガス毎に異なる処理条件が設定されている。この処理条件には処理対象となるウエハの温度も含まれており、ウエハの温度を処理条件に合致したものとするために、ウエハを保持するサセプタの温度を制御することが行われている。
【0003】
ここで、サセプタの温度を制御する技術としては、特許文献1に開示されるような、温調用流体をサセプタに循環させることでサセプタの温度を調整する温度調整用流量制御ユニットが知られている。当該温度調整用流量制御ユニットにおいては、温調用流体の温度の調整は、スプール弁が、温調用流体の温度を上昇させるための高温流体および温調用流体の温度を低下させるための低温流体の流量を調整することで行われる。
【0004】
温度調整用流量制御ユニットに用いられるスプール弁としては、特許文献1に開示されるようなスプール弁が知られている。このスプール弁は、円筒状のスリーブを備え、スリーブは、スリーブの内部に連通する2以上の入力ポートおよび2以上の出力ポートを備え、スリーブ内を軸方向に沿って摺動するスプール弁体を備え、スプールが摺動することで、入力ポートおよび出力ポートの開放面積が調整されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-160731号公報
【特許文献2】特開2020-106123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術に係るスプール弁には以下のような問題があった。
【0007】
スプール弁体の外周面とスリーブの内周面との間隙(以下、単にクリアランスという)は、スリーブの軸方向において均一に設計されている。しかし、スリーブ、スプール弁体ともに、切削加工によってその形状を得ることが一般的であるところ、加工によって形状に歪が発生するおそれがある。そうすると、クリアランスが、スリーブの軸方向において均一にならず、スプール弁体の外周面とスリーブの内周面との干渉が発生するおそれがある。しかも、その干渉が発生する箇所は制御できるものでなく、複数個所で干渉してしまうと、スプール弁体のスリーブ内での摺動性が低下する。また、このような干渉は、スリーブまたはスプール弁体の摩耗の発生につながるため、スプール弁の短寿命化につながる。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、スプール弁体の外周面とスリーブの内周面との干渉箇所を制御し、スプール弁体の摺動性が低下すること、スリーブまたはスプール弁体に摩耗が発生すること、を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一態様におけるスプール弁は、次のような構成を有している。
【0010】
(1)円筒状のスリーブを備え、前記スリーブは、前記スリーブの内部に連通する2以上の入力ポートおよび2以上の出力ポートを備え、前記スリーブ内を前記スリーブの軸方向に沿って摺動するスプール弁体を備え、前記スプール弁体が摺動することで、前記入力ポートおよび前記出力ポートの開放面積が調整されるスプール弁において、前記スリーブと前記スプール弁体との少なくとも一方が、前記スリーブの軸方向の両端部において、前記スリーブの内周面と前記スプール弁体の外周面との間の間隙をその他の部分よりも小さくし、前記スプール弁体の摺動を支持する支持部を備えること、を特徴とする。なお、ここでいう間隙とは、スプール弁体がスリーブと同軸上に位置したと仮定し、スリーブの内周面の直径とスプール弁体の外周面の直径との差を2で割ったものである。
【0011】
(2)(1)に記載のスプール弁において、前記スリーブは、その内周面のうち、前記軸方向の両端部に、第1のめっきによる第1表面処理部を備えること、前記第1表面処理部が、前記支持部であること、を特徴とする。
【0012】
(3)(1)に記載のスプール弁において、前記スプール弁体は、外周面のうち、前記スリーブの内周面の前記軸方向の両端部に対向する部分に、電解めっきによる表面処理部を備えること、前記表面処理部が、前記支持部であること、を特徴とする。
【0013】
(4)(2)に記載のスプール弁において、前記支持部の軸方向の幅は、1mm以上、前記スリーブの軸方向の全長の15%以下であること、が望ましい。
【0014】
(1)に記載のスプール弁によれば、スリーブとスプール弁体との少なくとも一方が、スリーブの軸方向の両端部において、スリーブの内周面とスプール弁体の外周面との間の間隙をその他の部分よりも小さくし、スプール弁体の摺動を支持する支持部を備えるため、支持部により、積極的にスプール弁体を支持することが可能となっている。ここでいう「支持」とは、スプール弁体を固定する意味ではなく、スプール弁体が、スリーブの内周面のうち、支持部以外の箇所で干渉しないよう、スプール弁体の摺動をガイドする程度の意味である。つまり、スプール弁体の外周面とスリーブの内周面とが干渉する箇所は、支持部に限定され、複数個所で干渉してしまうことを防止することができる。これにより、スプール弁体の摺動性が低下すること、スリーブまたはスプール弁体に摩耗が発生すること、を防止することが可能である。
【0015】
支持部としては、(2)に記載のスプール弁のように、スリーブの内周面のうち、軸方向の両端部に設けられる、第1のめっきによる第1表面処理部により形成されること、または(3)に記載のスプール弁のように、スプール弁体の外周面のうち、スリーブの内周面の軸方向の両端部に対向する部分に設けられる、電解めっきによる表面処理部により形成されること、が望ましい。
【0016】
また、(2)に記載のスプール弁のように、支持部を第1のめっきによる第1表面処理部により形成するものとした場合、(4)に記載のスプール弁のように、支持部の軸方向の幅は、1mm以上、スリーブの軸方向の全長の15%以下であること、が望ましい。これは、支持部の軸方向の幅が1mmよりも小さいと、すなわち、支持部のスプール弁体を支持する表面積が小さいと、単位面積あたりの応力が大きくなり、スプール弁体の摺動により、支持部の摩耗が発生するおそれがあるからである。摩耗が発生すると、スプール弁体の摺動を阻害するおそれがあり、好ましくない。さらに、支持部の軸方向の幅が1mmよりも小さいと、めっき等の表面処理の安定した品質が得られなくなり、好ましくない。また、支持部の軸方向の幅がスリーブの全長の15%よりも大きいと、すなわち、支持部のスプール弁体を支持する表面積が大きいと、スプール弁体と支持部との間で接触点が多数生じるおそれがある。これは、スプール弁体やスリーブには加工ひずみが生じるためである。スプール弁体と支持部との間で接触点が多数生じると、スプール弁体の摺動性が低下すること、スリーブまたはスプール弁体に摩耗が発生すること、を防止する効果が十分に得られなくなるおそれがある。
【0017】
(5)(2)に記載のスプール弁において、前記スプール弁体は、外周面のうち、少なくとも前記第1表面処理部に対向する部分に、第2のめっきによる第2表面処理部を備えること、前記第2のめっきの硬度は、前記第1のめっきの硬度よりも高いこと、が望ましい。
【0018】
スプール弁体の外周面およびスリーブの内周面には、耐摩耗性向上、耐食性向上を目的として、めっきを施す場合がある。このとき、スプール弁体の外周面のめっきの硬度とスリーブの内周面のめっきの硬度とを同程度にすると、スプール弁体が摺動する際に、めっきのかじり現象が発生するおそれがある。このかじり現象は、スプール弁体の摺動性の低下や、最悪時には摺動不能の原因になり得る。そのような中、(4)に記載のスプール弁のように、スプール弁体の外周面の第2のめっきの硬度を、スリーブの内周面の第1のめっきの硬度よりも高くすることで、かじり現象の発生の防止、ひいてはスプール弁体の摺動性の低下の防止が可能であることを、発明者は実験により確認した。
【0019】
(6)(5)に記載のスプール弁において、前記第1のめっきは、無電解めっきであること、前記第2のめっきは、電解めっきであること、が望ましい。
【0020】
スプールの外周面(外径)とスリーブの内周面(内径)との間の間隙の寸法管理をするためには、第1表面処理部および第2表面処理部を均一な膜厚寸法にすることが重要である。めっき後に指定した内外径寸法に仕上げするためには、めっき面を研磨するなど、後加工による寸法調整をする手段がある。この時、スプールの外径は外径研磨などの加工による寸法調整し易いが、スリーブの内径は加工が困難である。そこで、(5)に記載のスプール弁のように、膜厚が不均一になりやすい電解めっき(第2のめっき)をスプールの外周面に処理し、均膜で処理しやすい無電解めっき(第1のめっき)をスリーブの内周面に処理することで適正な間隙の寸法管理を図ることが可能になる。また、このように第1のめっきと、第2のめっきとを異種処理とすることで、スプール弁体が摺動する際のかじり現象の発生を防止することが可能であることを、発明者は実験により確認した。
【0021】
(7)(1)乃至(6)のいずれか1つに記載のスプール弁において、前記スプール弁は、半導体製造装置の備えるサセプタに温調用流体を循環させることで前記サセプタの温度を調整する温度調整用流量制御ユニットにおいて、前記2以上の入力ポートのうちの第1の入力ポートに入力される、前記温調用流体の温度を上昇させるための高温流体の、前記2以上の出力ポートのうちの第1の出力ポートから出力する流量と、前記2以上の入力ポートのうちの第2の入力ポートに入力される、前記温調用流体の温度を低下させるための低温流体の、前記2以上の出力ポートのうちの第2の出力ポートから出力する流量と、を調整することで、前記温調用流体の温度を調整すること、前記間隙は、前記支持部により小さくされている部分を除いた部分が7μm以上55μm以下であること、が望ましい。
【0022】
スリーブの内周面とスプール弁体の外周面との間隙により流体が漏れること(いわゆる内部漏れ)を防ぐためには、スリーブの内周面とスプール弁体の外周面との間においてシールを行う必要があるが、シールを行うと、スプール弁体の摺動性が低下する。温度調整用流量制御ユニットに用いられるスプール弁は、応答性重視のため、シールによりスプール弁体の摺動性が低下することは好ましくない。シールを行わずに、内部漏れを可能な限り抑えるためには、スリーブの内周面とスプール弁体の外周面との間隙を可能な限り小さくすることが考えられるが、小さくし過ぎると、スリーブとスプール弁体の干渉が発生し、却ってスプール弁体の摺動性が低下する。そこで、(4)に記載のスプール弁のように、支持部によりスプール弁体を支持することに加え、スプール弁体の外周面と、第1表面処理部を除く内周面との間隙が7μm以上55μm以下とすれば、スプール弁体の摺動性を確保しつつ、高温流体と低温流体の内部漏れを抑えることが可能となる。
【0023】
(8)(1)に記載のスプール弁において、前記スリーブは、内周面のうちの軸方向の両端部に、内径が縮径されて形成される前記支持部を備えること、 前記支持部の縮径量は、4μm以上、60μm以下であること、が望ましい。
【0024】
(9)(8)に記載のスプール弁において、前記支持部の軸方向の幅は、前記スリーブの軸方向の全長の2%以上、15%以下であること、が望ましい。
【0025】
(8)または(9)に記載のスプール弁によれば、スリーブが、内周面のうちの軸方向の両端部に、内径が縮径されて形成される支持部を備えるため、支持部により、積極的にスプール弁体を支持することが可能となっている。これにより、スプール弁体とスリーブとが干渉する箇所は、支持部に限定され、複数個所で干渉してしまうことを防止することができる。このとき、支持部の縮径量は、4μm以上、60μm以下であること、が望ましい。縮径量が4μmよりも小さいと、スプール弁体の支持が十分に行われず、支持部以外の箇所で干渉が発生するおそれがあるからであり、また、縮径量が60μmよりも大きいと、スリーブの内周面とスプール弁体との間で流体の内部漏れが発生するおそれがあるからである。
【0026】
また、支持部の軸方向の幅は、スリーブの軸方向の全長の2%以上、15%以下であること、が望ましい。これは、支持部の軸方向の幅がスリーブの軸方向の全長の2%よりも小さいと、すなわち、支持部のスプール弁体を支持する表面積が小さいと、単位面積あたりの応力が大きくなり、スプール弁体の摺動により、支持部の摩耗が発生するおそれがあるからである。摩耗が発生すると、スプール弁体の摺動を阻害するおそれがあり、好ましくない。さらに、支持部の軸方向の幅がスリーブの軸方向の全長の2%よりも小さいと、めっき等の表面処理の安定した品質が得られなくなり、好ましくない。また、支持部の軸方向の幅がスリーブの軸方向の全長の15%よりも大きいと、すなわち、支持部のスプール弁体を支持する表面積が大きいと、スプール弁体と支持部との間で接触点が多数生じるおそれがある。これは、スプール弁体やスリーブには加工ひずみが生じるためである。スプール弁体と支持部との間で接触点が多数生じると、スプール弁体の摺動性が低下すること、スリーブまたはスプール弁体に摩耗が発生すること、を防止する効果が十分に得られなくなるおそれがある。
【発明の効果】
【0027】
本発明のスプール弁によれば、スプール弁体の外周面とスリーブの内周面との干渉箇所を制御し、スプール弁体の摺動性が低下すること、スリーブまたはスプール弁体に摩耗が発生すること、を防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】第1の実施形態に係るスプール弁を用いた温度調整用流量制御ユニットの回路図である。
【
図5】第2の実施形態に係るスプール弁の、
図3に対応する部分拡大図である。
【
図6】第3の実施形態に係るスプール弁の、スリーブの形状を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(第1の実施形態)
本発明に係るスプール弁21の第1の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する
【0030】
(温度調整用流量制御ユニットの概略構成について)
まず、本実施形態に係るスプール弁21を用いた温度調整用流量制御ユニット1(以下「ユニット1」ともいう)の概略構成について説明する。
図1は、本実施形態に係るスプール弁21を用いた温度調整用流量制御ユニット1の回路図である。このユニット1は、例えば、半導体製造装置1000の温度を制御する温度制御システム1001に用いられる。
【0031】
本形態の半導体製造装置1000は、RIE(Reactive Ion Etching)型のプラズマ処理装置として構成される。半導体製造装置1000は、図示しない処理容器の中に配設されたサセプタ1002にウエハWが載置され、所定の温度に制御されたウエハWにエッチング処理を施す。
【0032】
エッチング処理には、複数種のプロセスガスが用いられるところ、プロセスガス毎に異なる処理条件が設定されている。この処理条件には処理対象となるウエハWの温度も含まれており、ウエハWの温度を処理条件に合致したものとするために、ウエハWを保持するサセプタ1002の温度を、温度制御システム1001により制御する。
【0033】
温度制御システム1001は、温度調整部1003(以下「調温部1003」と略記する)と、ユニット1と、チラーユニット1004とを備える。
【0034】
調温部1003は、サセプタ1002の内部に設けられ、温度調整用流量制御ユニット1から出力される温調用流体をサセプタ1002に循環させる。温調用流体は、広い温度帯で物性変化が少ないフッ素系不活性流体である。フッ素系不活性流体とは、例えば、3M社製のフロリナートである。
【0035】
チラーユニット1004は、コールドチラー1020とホットチラー1010を備える。コールドチラー1020は、温調用流体の温度を低下させるために、バルブ混合液温(温調制御温度)よりも低い温度に制御されたフッ素系不活性液体(以下、低温流体)を循環させるものである。低温流体の循環圧力は、低温側制御弁1023により制御される。また、ホットチラー1010は、温調用流体の温度を上昇させるために、バルブ混合液温(温調制御温度)よりも高い温度に制御されたフッ素系不活性液体(以下、高温流体)を循環させるものである。高温流体の循環圧力は、高温側制御弁1013により制御される。なお、上記した低温流体および高温流体の温度は、あくまで一例であり、必要な温調用流体の温度に合わせて適宜設定される。
【0036】
ユニット1は、サセプタ1002に温調用流体を入力するための第1結合配管1005と、サセプタ1002を循環した後の温調用流体(以下、循環後温調用流体と言う)が出力される第2結合配管1006とを備えうる。ユニット1は、第1結合配管1005と第2結合配管1006により、サセプタ1002に接続されている。
【0037】
ユニット1は、第1結合配管1005と接続する入力配管3と、第2結合配管1006と接続する出力配管4と、低温流体が流れる低温流体用入力配管5および低温流体用出力配管6と、高温流体が流れる高温流体用入力配管7および高温流体用出力配管8と、温調用流体を循環させるポンプ14と、流体制御部9と、制御装置1030とを備える。
【0038】
入力配管3には、上流側から順に、第3フィルタブロック43と、バッファタンク12と、ポンプ14と、が配設されている。
【0039】
入力配管3には、第1結合配管1005から循環後温調用流体が入力される。ここで、第1結合配管1005には、第2温度センサ61(第2温度測定部の一例)が配設されており、循環後温調用流体の現在温度を測定することが可能となっている。温度制御システム1001は、循環後温調用流体の現在温度を測定することでサセプタ1002の現在温度を得ている。循環後温調用流体は、サセプタ1002を循環した後の温調用流体であるため、その温度は、サセプタ1002の温度と同視することができる。また、第2温度センサ61は第1結合配管1005に配設されているため、ポンプ14の上流側に配設されることになる。このため、ポンプ14による発熱の影響を受けることなく、循環後温調用流体の温度を測定できる。RIE型のプラズマ処理装置におけるサセプタは、プラズマ化したプロセスガスの影響等により、温度を直接測定することが困難であるが、サセプタ1002を循環した後の循環後温調用流体の現在温度を測定することで、安定してサセプタ1002の温度を監視することが可能になる。
【0040】
出力配管4は、温調用流体を第2結合配管1006に出力する。出力配管4には、上流側から順に、流量センサ53と、第1温度センサ64(第1温度測定部の一例)が配設されている。第1温度センサ64は、出力配管4から出力する温調用流体の温度を測定する。流体制御部9は、入力配管3と出力配管4を介して調温部1003に接続し、
図1中の破線矢印D1に示すように、温調用流体が調温部1003と流体制御部9との間を循環する。
【0041】
低温流体用入力配管5と低温流体用出力配管6は、流体制御部9をコールドチラー1020に接続しており、
図1中の破線矢印D2に示すように、低温流体が流体制御部9に入出力される。流体制御部9に入力される低温流体の温度と圧力は、低温流体用入力配管5上に配設された第3温度センサ62と第1圧力センサ51により測定される。また、低温流体用入力配管5には、第1フィルタブロック41が配設されており、第1フィルタブロック41は、低温流体用入力配管5から流体制御部9に入力される低温流体の異物を除去する。
【0042】
高温流体用入力配管7と高温流体用出力配管8は、流体制御部9をホットチラー1010に接続しており、
図1中の破線矢印D3に示すように、高温流体が流体制御部9に入出力される。流体制御部9に流入する高温流体の温度と圧力は、高温流体用入力配管7上に配設された第4温度センサ63と第2圧力センサ52により測定される。また、高温流体用入力配管7には、第2フィルタブロック42が配設されており、第2フィルタブロック42は、高温流体用入力配管7から流体制御部9に入力される高温流体の異物を除去する。
【0043】
流体制御部9は、入力配管3を第1分岐ラインL11と第2分岐ラインL12と第3分岐ラインL13に分岐させている分岐部Xを有する。第1分岐ラインL11は、スプール弁21に接続され、第1逆止弁54が配設されている。また、第1分岐ラインL11には、パージ開閉弁101を備えるパージ機構10が接続されており、例えば半導体製造装置1000のメンテナンス時等に、パージ開閉弁101を開くことで、ユニット1にパージエアを供給することが可能となっている。第2分岐ラインL12は、低温流体用出力配管6に接続され、第2逆止弁55が配設されている。さらに、第3分岐ラインL13は、高温流体用出力配管8に接続され、第3逆止弁56が配設されている。
【0044】
低温流体用入力配管5、高温流体用入力配管7、第1分岐ラインL11のそれぞれは、スプール弁21に接続されている。スプール弁21は、低温流体用入力配管5、高温流体用入力配管7、第1分岐ラインL11のそれぞれから供給される流体の流量(流量分配比率)を制御し、排出する。そして、スプール弁21から排出される流体は、合流部Yで混合され、合流部Yに接続されている出力配管4に出力される。なお、スプール弁21の構成の詳細については、後述する。
【0045】
合流部Yで混合され、出力配管4に出力される流体が、サセプタ1002の温度調整を行うための温調用流体である。つまり、スプール弁21は、入力配管3からスプール弁21に入力される循環後温調用流体と、低温流体用入力配管5からスプール弁21に入力される低温流体と、高温流体用入力配管7からスプール弁21に入力される高温流体との流量分配比率を調整することで、温調用流体の温度を調整し、出力配管4に出力するのである。
【0046】
スプール弁21が行う流量分配比率の調整(すなわち、出力配管4に出力される温調用流体の温度の調整)は、後述する制御装置1030において生成される温度制御値に基づいて制御される。
【0047】
第1~第3逆止弁54,55,56は、スプール弁21が制御する流量分配比率に応じて、弁開度が自動調整される。そのため、コールドチラー1020とホットチラー1010には、スプール弁21に供給した低温流体と高温流体とおおよそ同じ量の循環後温調用流体が戻される。
【0048】
ユニット1は、温度制御システム1001の動作を制御する制御装置1030を備え、制御装置1030は、ユニット1の各種センサおよびバルブ等と通信可能に接続されている。制御装置1030は、制御基板1031と、ポンプドライバ1033と、バルブコントローラ1032とを備える。
【0049】
制御基板1031は、温調用流体の温度の調整を行うための温度制御値を生成する。そして、温度センサ61,62,63,64が測定した温度測定値と第1及び第2圧力センサ51,52が測定した圧力測定値をユニット1から取得して、温調用流体の温度が温度制御値に沿うようにバルブ操作信号を生成し、バルブコントローラ1032を介してユニット1に送信する。ユニット1は、スプール弁21がバルブ操作信号に従って動作することにより、温調用流体と低温流体と高温流体の流量分配比率が調整され、温調用流体の温度を設定温度に調整する。よって、温調用流体の温度は、フィードバック制御され、均一にされる。
【0050】
また、制御基板1031は、流量センサ53が測定した流量測定値をユニット1から取得して、温調用流体の流量を所望の設定流量に制御するようにポンプ操作信号を生成し、ポンプドライバ1033を介してユニット1に送信する。ユニット1は、ポンプ14がポンプ操作信号に従って動作することにより、温調用流体の流量を設定流量に調整する。よって、温調用流体の循環流量は、フィードバック制御され、均一にされる。
【0051】
(スプール弁の構成について)
次に、本実施形態に係るスプール弁21の構成について、図面を用いて詳しく説明する。
図2は、スプール弁21の断面図である。
図3は、
図2の部分Aの部分拡大図である。
図4は、スリーブ222の形状を示す断面図である。
【0052】
本実施形態に係るスプール弁21は、
図2に示すように、弁部22と、弁部の軸方向の両端の内の一端に接続された駆動部23と、弁部22の他端に接続された位置センサ25を備えている。
【0053】
駆動部23はリニアアクチュエータとされている。駆動部23は、鋼材等の強磁性体により形成された可動子65と、可動子65を挟んで配置された一対の永久磁石66,66と、一対の永久磁石66,66と同一方向に磁界を発生させるコイル67とを有している。可動子65は、永久磁石66,66の磁界方向と直交する方向に移動可能となっており、その移動方向がスプール弁体221の摺動方向と同一にされた状態でスプール弁体221(後述)の一端に固定されている。可動子65の位置(すなわちスプール弁体221の軸方向の位置(ストローク位置))は、制御基板1031が生成するバルブ操作信号に基づいたコイル67への通電方向および通電する電圧、電流の大きさに応じて定まる。なお、可動子65は、軸方向の両側からスプリング68に挟まれており、コイル67に通電されておらず、制御流体がスプール弁21に流入されていない場合には、スプリング68の付勢力により、中立位置近傍に保持される(すなわちストローク位置が中立位置近傍に保持される)ようになっている。
【0054】
弁部22は、スプール弁体221と、スプール弁体221を摺動可能に保持しているスリーブ222と、スプール弁体221及びスリーブ222を収納しているボディ223とを備える。
【0055】
ボディ223は、略直方体状のケース体とされており、その内部と外部を連通する第1ボディ貫通孔224A,224B,224Cおよび第2ボディ貫通孔225A,225B,225Cを備えている。第1ボディ貫通孔224Aには、低温流体用入力配管5が接続されている。これにより、低温流体がスプール弁21に供給されるようになっている。第1ボディ貫通孔224Bには、第1分岐ラインL11が接続されている。これにより、循環後温調用流体がスプール弁21に供給されるようになっている。第1ボディ貫通孔224Cには、高温流体用入力配管7が接続されている。これにより、高温流体がスプール弁21に供給されるようになっている。また、第2ボディ貫通孔225Aは、スプール弁21に供給され、流量調整された低温流体をスプール弁21から排出する。第2ボディ貫通孔225Bは、スプール弁21に供給され、流量調整された循環後温調用流体をスプール弁21から排出する。第2ボディ貫通孔225Cは、スプール弁21に供給され、流量調整された高温流体をスプール弁21から排出する。第2ボディ貫通孔225A,225B,225Cは共に、スプール弁21から排出される流体を混合するための合流部Yに接続されている。
【0056】
ボディ223に収納されているスリーブ222は、ステンレス鋼により円筒状に形成されている。スリーブ222は、内部にスプール弁体221が挿通される弁室24を備えている。
【0057】
さらに、スリーブ222は、弁室24に通じる入力ポート26A,26B,26Cを備えている。入力ポート26Aは、第1ボディ貫通孔224Aに対応する位置に、入力ポート26Bは、第1ボディ貫通孔224Bに対応する位置に、入力ポート26Cは、第1ボディ貫通孔224Cに対応する位置に、それぞれ設けられている。これにより、第1ボディ貫通孔224A,224B,224Cから供給される流体を弁室24に流入させることが可能になっている。
【0058】
さらに、スリーブ222は、弁室24に通じる出力ポート27A,27B,27Cを備えている。出力ポート27Aは、第2ボディ貫通孔225Aに対応する位置に、出力ポート27Bは、第2ボディ貫通孔225Bに対応する位置に、出力ポート27Cは、第2ボディ貫通孔225Cに対応する位置に、それぞれ設けられている。これにより、弁室24に流入された流体を、出力ポート27A,27B,27Cを通じて、第2ボディ貫通孔225A,225B,225Cから排出することが可能になっている。
【0059】
さらに、スリーブ222は、
図4に示すように、スリーブ222(弁室24)の内周面に、軸方向の両端部に、無電解ニッケルめっき(第1のめっきの一例)による第1表面処理部29,29を備えている。これにより、
図3に示すように、スリーブ222(弁室24)の内周面のうち第1表面処理部29は、無電解ニッケルめっきの膜厚t11の分だけ、スリーブ222(弁室24)の内周面のその他の部分よりも内径が小さくなっている。これにより、第1表面処理部29,29により、スリーブ222(弁室24)内を摺動するスプール弁体221を積極的に支持することが可能となっている。つまり、スリーブ222の軸方向両端部でスプール弁体221を支持した状態となる。このように、スプール弁体221が摺動する際の、スプール弁体221の外周面221aとスリーブ222(弁室24)の内周面とが干渉する箇所を、第1表面処理部29,29に限定することで、複数個所で干渉してしまうことを防止することができる。これにより、スプール弁体221の摺動性が低下すること、スリーブ222またはスプール弁体221に摩耗が発生すること、を防止することが可能である。なお、
図2中の膜厚t11は、理解の簡単のため、実際の厚み、大きさ等を表していない。よって、必ずしも図面に表された大きさ等に限定されるものではない。
【0060】
無電解ニッケルめっきの膜厚t11は、特に限定されないが、本実施形態においては約3~25μmである。また、第1表面処理部29の無電解ニッケルめっきは、200℃でベーキング処理がなされており、その硬度は、ビッカース硬さで400-500Hv程度である。なお、めっきの密着性を向上させ、はく離しにくくすることを目的として、ベーキング処理の温度を200℃としているが、これはあくまで一例である。無電解ニッケルめっきはベーキング処理の温度を上げると、硬度が高くなることが知られているため、必要な硬度に応じて、ベーキング処理の温度は調整可能である。
【0061】
また、第1表面処理部29の、軸方向のめっき範囲PA12は、1mm以上、スリーブ222の軸方向の全長L51(
図4参照)に対して15%以下の範囲で、スプール弁体221の摺動量に応じて、適宜設定される。
【0062】
スプール弁体221は、ステンレス鋼により円柱状に形成されている。スプール弁体221の外周面には、スプール周溝28A,28B,28Cが軸方向に並んで形成されている。スプール周溝28Aはスプール弁体221の周方向の全周に渡って形成されており、軸方向の幅寸法は、入力ポート26Aと出力ポート27Aとの軸方向の離間距離より大きくされている。
【0063】
スプール周溝28Aが、入力ポート26A及び出力ポート27Aに重なった状態にある場合、入力ポート26A及び出力ポート27Aの両方がスプール周溝28Aに通じており、スプール周溝28Aを介して入力ポート26Aと出力ポート27Aとが連通された状態となる。これにより、第1ボディ貫通孔224Aから第2ボディ貫通孔225Aまで、入力ポート26Aとスプール周溝28Aと出力ポート27Aとを介して一連の流路が形成される。スプール周溝28Aと入力ポート26A及び出力ポート27Aとの重なり幅は、スプール弁体221のストローク位置に応じて増減する。つまり、スプール弁体221のストローク位置に応じて、入力ポート26A及び出力ポート27Aの開放面積が調整され、上記した一連の流路を流れる流体の流量が制御される。そして、入力ポート26A及び出力ポート27Aの少なくとも一方がスプール周溝28Aに重なっていない場合には、上記した一連の流路が遮断された状態になる。つまり、流体が上記した一連の流路を流れることができない状態となる。なお、入力ポート26 B,26 C と、出力ポート27B,27Cと 、スプール周溝28B,28Cとの関係も上記と同様である。
【0064】
スプール弁体221の外周面221aは、スプール周溝28A,28B,28Cが設けられている部分を除いては、軸方向に渡って、全て同一径とされている。そして、このスプール弁体221の外径は、スプール弁体221の外周面221aとスリーブ222(弁室24)の内周面との間隙g11が7μm以上55μm以下となるように設定されている。これは、スプール弁体221の摺動性を確保しつつ、間隙g11により流体が漏れること(いわゆる内部漏れ)を抑えるためである。なお、ここでいう間隙g11とは、スプール弁体221がスリーブ222と同軸上に位置したと仮定し、スリーブ222の内周面の直径とスプール弁体221の外周面の直径との差を2で割ったものである。
【0065】
間隙g11が55μmよりも大きくなると、第1ボディ貫通孔224Aから第2ボディ貫通孔225Aまでの一連の流路と、第1ボディ貫通孔224Bから第2ボディ貫通孔225Bまでの一連の流路と、第1ボディ貫通孔224Cから第2ボディ貫通孔225Cまでの一連の流路との間で、内部漏れが大きくなるおそれがある。内部漏れを抑えるためには、間隙g11を可能な限り小さくすることが考えられるが、間隙g11の大きさが7μmよりも小さくなると、スリーブ222とスプール弁体221の干渉が発生し、却ってスプール弁体221の摺動性が低下するおそれがある。よって、上記の通り、間隙g11が7μm以上55μm以下とされている。
【0066】
さらに、スプール弁体221の外周面221aは、スプール周溝28A,28B,28Cも含めて、全て電解めっき(具体的には硬質クロムめっき(第2のめっきの一例))による表面処理がなされた第2表面処理部30である。この硬質クロムめっきの硬度は、ビッカース硬さで約800Hvである。
【0067】
スプール弁体221が弁室24内を摺動する際には、第1表面処理部29がスプール弁体221を積極的に支持するため、第1表面処理部29と第2表面処理部30(スプール弁体221の外周面221a)とが擦れ合うような状態となる。そのような中、スリーブ222の第1表面処理部29が無電解ニッケルめっきであるのに対し、第2表面処理部30は硬質クロムめっきであり、また、硬度は、第1表面処理部29の硬度がビッカース硬さで400-500Hvであるのに対し、第2表面処理部30はビッカース硬さで約800Hvと第1表面処理部29の硬度よりも高くされているため、異種めっき同士、かつ 硬度の異なるめっき同士で擦れ合うようにされている。これにより、めっきのかじり現象の発生を防止し、ひいてはスプール弁体の摺動性の低下の防止が図られている。
【0068】
また、スリーブ222の内周面へのめっき処理は容易ではない一方で、スプール弁体221の外周面へのめっき処理は比較的容易である。このため、上記のように、第1表面処理部29を、コストは高い一方で膜厚の管理が容易な無電解ニッケルめっきとし、第2表面処理部30を、無電解めっきよりもコストの低い硬質クロムめっきとすることで製造コストの適正化を図っている。
【0069】
位置センサ25は、スプール弁体221のストローク位置を検出するためのセンサであり、この位置センサ25の検出結果に基づいて、ストローク位置のフィードバック制御が行うことが可能である。なお、位置センサ25としては、例えば磁歪センサを用いる。
【0070】
以上説明したように、本実施形態に係るスプール弁21は、
(1)円筒状のスリーブ222を備え、スリーブ222は、スリーブ222の内部に連通する2以上の入力ポート26A,26B,26Cおよび2以上の出力ポート27A,27B,27Cを備え、スリーブ222内をスリーブ222の軸方向に沿って摺動するスプール弁体221を備え、スプール弁体221が摺動することで、入力ポート26A,26B,26Cおよび出力ポート27A,27B,27Cの開放面積が調整されるスプール弁21において、スリーブ222とスプール弁体221との少なくとも一方が、スリーブ222の軸方向の両端部において、スリーブ222の内周面とスプール弁体221の外周面との間の間隙g11をその他の部分よりも小さくし、スプール弁体221の摺動を支持する支持部を備えること、を特徴とする。
【0071】
(2)(1)に記載のスプール弁21において、スリーブ222は、その内周面のうち、軸方向の両端部に、第1のめっき(例えば、無電解ニッケルめっき)による第1表面処理部29を備えること、第1表面処理部29が、前記支持部であること、を特徴とする。
【0072】
(1),(2)に記載のスプール弁21によれば、スリーブ222が、スリーブ222の軸方向の両端部において、スリーブ222の内周面とスプール弁体221の外周面との間の間隙をその他の部分よりも小さくし、スプール弁体の摺動を支持する支持部(第1表面処理部29)を備えるため、支持部(第1表面処理部29)により、積極的にスプール弁体221を支持することが可能となっている。ここでいう「支持」とは、スプール弁体221を固定する意味ではなく、スプール弁体221が、スリーブ222の内周面のうち、支持部(第1表面処理部29)以外の箇所で干渉しないよう、スプール弁体221の摺動をガイドする程度の意味である。つまり、スプール弁体221の外周面とスリーブ222の内周面とが干渉する箇所は、支持部(第1表面処理部29)に限定され、複数個所で干渉してしまうことを防止することができる。これにより、スプール弁体221の摺動性が低下すること、スリーブ222またはスプール弁体221に摩耗が発生すること、を防止することが可能である。
【0073】
また、(4)(2)に記載のスプール弁において、支持部(第1表面処理部29)の軸方向の幅PA12は、1mm以上、スリーブ222の軸方向の全長L51の15%以下であること、が望ましい。これは、支持部(第1表面処理部29)の幅が1mmよりも小さいと、すなわち、支持部(第1表面処理部29)のスプール弁体221を支持する表面積が小さいと、単位面積あたりの応力が大きくなり、スプール弁体221の摺動により、支持部(第1表面処理部29)の摩耗が発生するおそれがあるからである。摩耗が発生すると、スプール弁体221の摺動を阻害するおそれがあり、好ましくない。さらに、支持部(第1表面処理部29)の軸方向の幅が1mmよりも小さいと、めっき等(例えば、無電解ニッケルめっき)の表面処理の安定した品質が得られなくなり、好ましくない。また、支持部(第1表面処理部29)の幅PA12がスリーブの全長L51の15%よりも大きいと、すなわち、支持部(第1表面処理部29)のスプール弁体221を支持する表面積が大きいと、スプール弁体221と支持部(第1表面処理部29)との間で接触点が多数生じるおそれがある。これは、スプール弁体221やスリーブ222には加工ひずみが生じるためである。スプール弁体221と支持部(第1表面処理部29)との間で接触点が多数生じると、スプール弁体221の摺動性が低下すること、スリーブ222またはスプール弁体221に摩耗が発生すること、を防止する効果が十分に得られなくなるおそれがある。
【0074】
(5)(2)に記載のスプール弁21において、スプール弁体221は、外周面のうち、少なくとも第1表面処理部29に対向する部分に、第2のめっき(例えば、硬質クロムめっき)による第2表面処理部30を備えること、第2のめっき(硬質クロムめっき)の硬度(例えば、ビッカース硬さで約800Hv)は、第1のめっき(無電解ニッケルめっき)の硬度(例えば、ビッカース硬さで400-500Hv)よりも高いこと、が望ましい。
【0075】
第1のめっきと第2のめっきの硬度が同程度であると、スプール弁体221が摺動する際に、めっきのかじり現象が発生するおそれがあることを、本願発明者は実験により確認した。このかじり現象は、スプール弁体221の摺動性の低下の原因になり得る。そのような中、(2)に記載のスプール弁21のように、スプール弁体221の外周面の第2のめっき(硬質クロムめっき)の硬度を、スリーブ222の内周面の第1のめっき(無電解ニッケルめっき)の硬度よりも高くすることで、かじり現象の発生の防止、ひいてはスプール弁体221の摺動性の低下の防止が可能であることを、発明者は実験により確認した。
【0076】
(6)(5)に記載のスプール弁21において、第1のめっきは、無電解めっき(無電解ニッケルめっき)であること、第2のめっきは、電解めっき(硬質クロムめっき)であること、が望ましい。
【0077】
スプール弁体221の外周面(外径)とスリーブ222の内周面(内径)との間の間隙g11の寸法管理をするためには、第1表面処理部29および第2表面処理部30を均一な膜厚寸法にすることが重要である。めっき後に指定した内外径寸法に仕上げするためには、めっき面を研磨など、後加工による寸法調整をする手段がある。この時、スプール弁体221の外径は外径研磨などの加工による寸法調整し易いが、スリーブ222の内径は加工が困難である。そこで、(5)に記載のスプール弁21のように、膜厚が不均一になりやすい電解めっき(第2のめっき)をスプール弁体221の外周面に処理し、均膜で処理しやすい無電解めっき(第1のめっき)をスリーブ222の内周面に処理することで適正な間隙g11の寸法管理を図ることが可能になる。また、このように第1のめっきと、第2のめっきとを異種処理とすることで、スプール弁体221が摺動する際のかじり現象の発生を防止することが可能であることを、発明者は実験により確認した。
【0078】
(7)(1)乃至(6)に記載のスプール弁21において、スプール弁21は、半導体製造装置1000の備えるサセプタ1002に温調用流体を循環させることでサセプタ1002の温度を調整する温度調整用流量制御ユニット1において、2以上の入力ポートのうちの第1の入力ポート26Aに入力される、温調用流体の温度を低下させるための低温流体の、2以上の出力ポートのうちの第1の出力ポート27Aから出力する流量と、2以上の入力ポートのうちの第2の入力ポート26Cに入力される、温調用流体の温度を上昇させるための高温流体の、2以上の出力ポートのうちの第2の出力ポート27Cから出力する流量と、を調整することで、温調用流体の温度を調整すること、スプール弁体221の外周面と、第1表面処理部29を除く前記内周面との間隙g11が7μm以上55μm以下であること、が望ましい。
【0079】
スリーブ222の内周面とスプール弁体221の外周面との間隙g11により流体が漏れること(いわゆる内部漏れ)を防ぐためには、スリーブ222の内周面とスプール弁体221の外周面との間においてシールを行う必要があるが、シールを行うと、スプール弁体221の摺動性が低下する。温度調整用流量制御ユニット1に用いられるスプール弁21は、応答性重視のため、シールによりスプール弁体221の摺動性が低下することは好ましくない。シールを行わずに、内部漏れを可能な限り抑えるためには、スリーブ222の内周面とスプール弁体221の外周面との間隙g11を可能な限り小さくすることが考えられるが、小さくし過ぎると、スリーブ222とスプール弁体221の干渉が発生し、却ってスプール弁体221の摺動性が低下する。そこで、(4)に記載のスプール弁のように、第1表面処理部29によりスプール弁体221を支持することに加え、スプール弁体221の外周面と、第1表面処理部29を除く内周面との間隙g11が7μm以上55μm以下とすれば、スプール弁体221の摺動性を確保しつつ、高温流体と低温流体の内部漏れを抑えることが可能となる。
【0080】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係るスプール弁について、第1の実施形態と異なる点のみ説明する。
図5は、第2の実施形態に係るスプール弁の、
図3に対応する部分拡大図である。
【0081】
第2の実施形態に係るスプール弁は、スプール弁体221が、スリーブ222の軸方向の両端部において、スリーブ222の内周面とスプール弁体221の外周面との間の間隙g11をその他の部分よりも小さくし、スプール弁体221の摺動を支持する支持部を備えている。この支持部は、スプール弁体221の外周面のうち、スリーブ222の内周面の軸方向の両端部に対向する部分に形成された、電解めっきによる表面処理部31によりなる。
【0082】
電解めっきの膜厚t12は、特に限定されないが、本実施形態においては約3~25μmである。また、第1表面処理部29の、軸方向のめっき範囲PA22は、スプール弁体221の軸方向の摺動距離の2倍を最低限として、公差等を考慮して適宜設定される。
【0083】
スリーブ222の内周面は、全体が無電解ニッケルめっきによる表面処理部32となっている。この無電解ニッケルめっきは、200℃でベーキング処理がなされており、その硬度は、ビッカース硬さで400-500Hv程度である。なお、めっきの密着性を向上させ、はく離しにくくすることを目的として、ベーキング処理の温度を200℃としているが、これはあくまで一例である。無電解ニッケルめっきはベーキング処理の温度を上げると、硬度が高くなることが知られているため、必要な硬度に応じて、ベーキング処理の温度は調整可能である。
【0084】
このように、スプール弁体221が、スプール弁体の摺動を支持する支持部(表面処理部31)を備えることによっても、スプール弁体221の外周面とスリーブ222の内周面とが干渉する箇所が、支持部(表面処理部31)に限定されるため、複数個所で干渉してしまうことを防止することができる。これにより、スプール弁体221の摺動性が低下すること、スリーブ222またはスプール弁体221に摩耗が発生すること、を防止することが可能である。
【0085】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態に係るスプール弁について、第1の実施形態と異なる点のみ説明する。
図6は、第3の実施形態に係るスプール弁の、スリーブ226の形状を示す断面図である。なお、参照する図面は、説明を分かりやすくするためにデフォルメしており、形状や寸法を正確に表すものではない。
【0086】
スリーブ226は、軸方向の両端部において、内周面228が、傾斜部229によって軸方向の外方に向かって緩やかに縮径されている。これにより、スリーブ226の軸方向の両端部に支持部227が形成されている。このように支持部227が形成されることで、スリーブ226に挿通されるスプール弁体221は、支持部227によって積極的に支持される。これにより、スプール弁体221とスリーブ226とが干渉する箇所は、支持部227に限定され、複数個所で干渉してしまうことを防止することができる。なお、ここでいうスプール弁体221は、第1の実施形態におけるスプール弁体221と同一のものである。
【0087】
このとき、縮径量、すなわち、スリーブ226の内径D12の値から支持部227の内径D11を引いた値は、4μm以上、60μm以下であることが望ましい。これは、縮径量が4μmよりも小さいと、スプール弁体221の支持が十分に行われず、支持部227以外の箇所で干渉が発生するおそれがあるからであり、また、縮径量が60μmよりも大きいと、スリーブ226の内周面228とスプール弁体221との間で流体の内部漏れが発生するおそれがあるからである。
【0088】
さらに、支持部227の軸方向の幅A11は、スリーブ226の軸方向の全長L52の2%以上、15%以下であること、が望ましい。これは、支持部227の幅A11がスリーブ226の全長L52の2%よりも小さいと、すなわち、支持部227のスプール弁体221を支持する表面積が小さいと、単位面積あたりの応力が大きくなり、スプール弁体221の摺動により、支持部227の摩耗が発生するおそれがあるからである。摩耗が発生すると、スプール弁体221の摺動を阻害するおそれがあり、好ましくない。さらに、支持部227の軸方向の幅A11がスリーブの軸方向の全長L52の2%よりも小さいと、めっき等(例えば、無電解ニッケルめっき)の表面処理の安定した品質が得られなくなり、好ましくない。また、支持部227の幅A11がスリーブ226の全長L52の15%よりも大きいと、すなわち、支持部227のスプール弁体221を支持する表面積が大きいと、スプール弁体221と支持部227との間で接触点が多数生じるおそれがある。これは、スプール弁体221やスリーブ226には加工ひずみが生じるためである。スプール弁体221と支持部227との間で接触点が多数生じると、スプール弁体221の摺動性が低下すること、スリーブ226またはスプール弁体221に摩耗が発生すること、を防止する効果が十分に得られなくなるおそれがある。
【0089】
なお、本実施形態において、スリーブ226の内周面は、支持部227および傾斜部229を含め、全体的に無電解ニッケルめっきによる表面処理がなされている。これに対し、スリーブ226に挿通されるスプール弁体221は、外周面が全て電解めっき(硬質クロムめっき)による表面処理がなされる。
【0090】
なお、上記の実施形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で様々な改良、変形が可能である。例えば、上記実施形態では、スプール弁21を半導体製造装置1000に用いた例を説明しているが、半導体製造装置1000以外に用いることとしても良い。
【符号の説明】
【0091】
21 スプール弁
26A 入力ポート
26B 入力ポート
26C 入力ポート
27A 出力ポート
27B 出力ポート
27C 出力ポート
29 第1表面処理部
221 スプール弁体
222 スリーブ