(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080247
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】周波数制御装置、系統周波数安定化システム、周波数制御方法、および周波数制御プログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20240606BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J13/00 301A
H02J13/00 301J
H02J13/00 311R
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193281
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】川本 直輝
(72)【発明者】
【氏名】中山 靖章
(72)【発明者】
【氏名】吉原 徹
(72)【発明者】
【氏名】桐原 健太
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
【Fターム(参考)】
5G064AC09
5G064BA02
5G064DA02
5G066AA01
5G066AA03
5G066AA06
5G066AE09
5G066HB02
5G066HB04
5G066HB09
(57)【要約】
【課題】
過負荷を防ぎつつ計算規模を抑えることで発電機の運用コストを低減可能な系統周波数安定化システムを提供する。
【解決手段】
電力系統の周波数を管理する周波数制御装置であって、プロセッサを有し、プロセッサがコンピュータプログラムを実行して処理する機能として、系統情報を入力として各母線間の電気的距離を計算する電気的距離計算部と、系統情報を入力として潮流量を計算する潮流状況計算部と、系統情報と潮流状況計算部の結果を入力として過負荷余裕度を計算する過負荷余裕度判定部と、電気的距離計算部の結果と過負荷余裕度判定部の結果を入力として電力系統の縮約を判定および実行する縮約実行部と、縮約実行部により判定および実行された縮約結果を入力として感度行列を作成する縮約後感度行列作成部と、縮約後感度行列作成部の出力結果を入力として広域LFC計算を実行する広域LFC計算部を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統の周波数を管理する周波数制御装置であって、
プロセッサを有し、該プロセッサがコンピュータプログラムを実行して処理する機能として、
系統情報を入力として各母線間の電気的距離を計算する電気的距離計算部と、
前記系統情報を入力として潮流量を計算する潮流状況計算部と、
前記系統情報と前記潮流状況計算部の結果を入力として過負荷余裕度を計算する過負荷余裕度判定部と、
前記電気的距離計算部の結果と前記過負荷余裕度判定部の結果を入力として前記電力系統の縮約を判定および実行する縮約実行部と、
前記縮約実行部により判定および実行された縮約結果を入力として感度行列を作成する縮約後感度行列作成部と、
前記縮約後感度行列作成部の出力結果を入力として広域LFC計算を実行する広域LFC計算部を備えることを特徴とする周波数制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の周波数制御装置であって、
前記電気的距離計算部は、前記系統情報に基づくインピーダンス、前記系統情報に基づく電圧勾配のいずれか一つ以上を入力として、各母線における流入電力の変化が他母線の電圧と位相角に与える影響の大きさである電気的距離を計算することを特徴とする周波数制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の周波数制御装置であって、
前記潮流状況計算部は、潮流量計算において、潮流方程式を用いたAC潮流計算またはDC潮流計算、前記AC潮流計算または前記DC潮流計算に用いるヤコビアン行列を用いた感度計算のいずれか一つ以上の計算方式を基に各線路に流れる潮流量を計算することを特徴とする周波数制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の周波数制御装置であって、
前記過負荷余裕度判定部は、各線路において、入力された前記系統情報の線路容量で前記潮流状況計算部から出力された潮流量を除算した値が閾値以上の値となる線路を監視対象となる線路として特定することを特徴とする周波数制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の周波数制御装置であって、
前記縮約実行部は、前記過負荷余裕度判定部により特定された線路両端の母線に対する各母線の電気的距離を前記電気的距離計算部の計算した電気的距離から抽出し、前記電気的距離が閾値以上の場合に縮約対象として縮約を適用し、縮約後の電力系統にて計算された線路の潮流量と、前記潮流状況計算部の出力結果である縮約前の潮流量との比較に基づき、縮約対象となる母線を判定し、縮約後の電力系統を作成することを特徴とする周波数制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の周波数制御装置であって、
前記縮約後感度行列作成部は、前記縮約実行部により作成された縮約後の電力系統において発電機出力が変化した際の線路潮流量の変化を示す潮流感度行列を作成することを特徴とする周波数制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載の周波数制御装置であって、
前記広域LFC計算部は、前記縮約後感度行列作成部にて出力される潮流感度行列を用いて、発電機運用コスト最小化を目的関数として過負荷を制約条件に含むOPFによりLFC動作量に応じた線路の潮流量変化を計算し、線路の過負荷を防止可能なLFC動作量を広域的に計算することを特徴とする周波数制御装置。
【請求項8】
請求項5に記載の周波数制御装置であって、
LFC電源の出力を推定し、LFC動作により出力変化の生じたLFC電源をLFC動作電源として特定し前記縮約実行部に入力するLFC推定部を有し、
前記縮約実行部は、前記LFC推定部の特定した前記LFC動作電源に対する各母線の電気的距離を前記電気的距離計算部の計算した電気的距離から抽出し、前記過負荷余裕度判定部により特定された線路両端の母線において縮約対象とされた母線から、前記LFC動作電源に対する各母線の電気的距離が閾値以下となる母線を除外して、新たな縮約対象とすることを特徴とする周波数制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載の周波数制御装置であって、
前記LFC推定部は、調整力単価と出力指令値と出力特性と地域要求量を入力として、最適化計算無しに、各エリアの地域要求量を満たすようにLFC電源の単価順にLFC電源の動作量を決定することで前記LFC動作電源を特定することを特徴とする周波数制御装置。
【請求項10】
請求項1から9の何れか1項に記載の周波数制御装置であって、
前記縮約実行部における縮約判定結果、前記電気的距離計算部における電気的距離の一つ以上に係る情報を画面表示する表示部を具備することを特徴とする周波数制御装置。
【請求項11】
電力系統の周波数を管理する周波数制御装置と記憶装置で構成される系統周波数安定化システムであって、
前記記憶装置は、系統情報データベース、縮約結果データベース、縮約後感度行列データベース、LFC計算結果データベースを有し、
前記周波数制御装置は、プロセッサを有し、該プロセッサがコンピュータプログラムを実行して処理する機能として、
前記系統情報データベースに格納されている系統情報を入力として各母線間の電気的距離を計算する電気的距離計算部と、
前記系統情報を入力として潮流量を計算する潮流状況計算部と、
前記系統情報と前記潮流状況計算部の結果を入力として過負荷余裕度を計算する過負荷余裕度判定部と、
前記電気的距離計算部の結果と前記過負荷余裕度判定部の結果を入力として前記電力系統の縮約を判定および実行し、縮約判定結果を前記縮約結果データベースに出力する縮約実行部と、
前記縮約実行部により判定および実行された縮約結果を入力として感度行列を作成し、感度行列を前記縮約後感度行列データベースに出力する縮約後感度行列作成部と、
前記縮約後感度行列作成部の出力結果を入力として広域LFC計算を実行し、その結果を前記LFC計算結果データベースに出力する広域LFC計算部を備えることを特徴とする系統周波数安定化システム。
【請求項12】
電力系統の周波数を制御する周波数制御方法であって、
系統情報を入力として各母線間の電気的距離を計算し、
前記系統情報を入力として潮流量を計算し、
前記系統情報と前記潮流量を入力として過負荷余裕度を計算し、
前記電気的距離と前記過負荷余裕度を入力として前記電力系統の縮約を判定および実行し、
前記判定および実行された縮約結果を入力として感度行列を作成し、
前記感度行列を入力として広域LFC計算を実行することを特徴とする周波数制御方法。
【請求項13】
請求項12に記載の周波数制御方法であって、
前記過負荷余裕度を計算し、各線路において、入力された前記系統情報の線路容量で前記潮流量を除算した値が閾値以上の値となる線路を監視対象となる線路として特定し、
前記特定された線路両端の母線に対する各母線の電気的距離を前記計算した電気的距離から抽出し、前記電気的距離が閾値以上の場合に縮約対象として縮約を適用し、縮約後の電力系統にて計算された線路の潮流量と、縮約前の潮流量との比較に基づき、縮約対象となる母線を判定し、縮約後の電力系統を作成することを特徴とする周波数制御方法。
【請求項14】
請求項13に記載の周波数制御方法であって、
LFC電源の出力を推定し、LFC動作により出力変化の生じたLFC電源をLFC動作電源として特定し、
特定した前記LFC動作電源に対する各母線の電気的距離を前記計算した電気的距離から抽出し、前記特定された線路両端の母線において縮約対象とされた母線から、前記LFC動作電源に対する各母線の電気的距離が閾値以下となる母線を除外して、新たな縮約対象とすることを特徴とする周波数制御方法。
【請求項15】
電力系統の周波数を制御する周波数制御をコンピュータに実行させる周波数制御プログラムであって、
系統情報を入力として各母線間の電気的距離を計算するステップと、
前記系統情報を入力として潮流量を計算するステップと、
前記系統情報と前記潮流量を入力として過負荷余裕度を計算するステップと、
前記電気的距離と前記過負荷余裕度を入力として前記電力系統の縮約を判定および実行するステップと、
前記判定および実行された縮約結果を入力として感度行列を作成するステップと、
前記感度行列を入力として広域LFC計算を実行するステップと、を前記コンピュータに実行させることを特徴とする周波数制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統における系統周波数安定化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力分野において、電源の脱炭素化が進むにつれ、電力系統を構成する火力発電機の台数が減少する傾向がある。さらには再生可能エネルギーが新設され電源分布の変化が生じるため、将来的な電力系統における電力の潮流状況は、従来の潮流状況とは大きく異なる。このような変化により従来発生しなかった送電線における過負荷の発生が懸念されている。
【0003】
このような電力系統構成の変化に伴い、電力系統の需要と供給(需給)のバランスが反映される電力系統周波数の変動が問題となりつつある。電力系統の周波数を基準値に保つためには、各地域での地域要求量(AR:Area Requirement)に応じた電力量が必要となる。周波数を規程の値以内に維持するには、ARに応じて電力系統内の発電機出力を上下させる必要があるため、出力変化による運用費が安価な発電機を制御することが望ましい。ここで、発電機そのものの減少に伴い、安価な電源が自エリア内に存在しない場合に備え、複数のエリアに存在する発電機を広域に渡って制御する広域周波数制御(広域LFC(Load Frequency Control))が期待されている。
【0004】
現在の電力運用では、広域周波数制御により過負荷防止しつつ複数エリア間の電力授受を行うために、各一般送配電事業者の管内を繋ぐ連系線において、この電力授受に必要な容量分だけ送電容量のマージンを確保することが検討されている。しかしながら、このような送電容量のマージンは、連系線のみに対して確保され、各一般送配電事業者の管内の送電線である地内送電線では確保されない。広域LFCによる発電機の運用は、地内送電線に対しても影響を与えるため、地内送電線への過負荷の発生を防ぎつつ、最小コストで発電機を運用することが求められる。
【0005】
このような目的と制約を有した上での電力系統の解析手法は、最適潮流計算(OPF:Optimal Power Flow)が知られている。OPFは従来LFCで用いられている手法であるが、広域LFCに適用する場合には、より大規模な電力系統を対象とし、かつ過負荷防止を新たに制約として組み込む必要があることから計算規模が大きくなる。計算規模が大きくなると広域LFCが対象とする制御周期内に計算が完了しない恐れがあるため、計算規模の縮小が必要である。
【0006】
本技術分野における先行技術として特許文献1が知られている。特許文献1では、逐次、系統情報を基に縮約し、複数の不安定事故ケースに対して、縮約前後の系統モデルにおける動揺波形の差分の合計が最小化されるように縮約している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、主に電力系統の動的計算の縮約を対象としており、広域周波数制御のように電力の静的計算に関する縮約について考慮されていない。このため、広域周波数制御に適用される過負荷を制約とするOPFに対して特許文献1における縮約を適用しても、過負荷制約を必ず反映できるとは限らず、過負荷制約を有する広域周波数制御に特化した計算時間の短縮効果は得られない。
【0009】
本発明は上記課題に鑑み、広域周波数制御において、広域化に伴う電力系統の過負荷を回避するOPFを実行しつつ、計算規模を抑えることで発電機の運用コストを低減可能な周波数制御装置、系統周波数安定化システム、周波数制御方法、および周波数制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、その一例を挙げるならば、電力系統の周波数を管理する周波数制御装置であって、プロセッサを有し、プロセッサがコンピュータプログラムを実行して処理する機能として、系統情報を入力として各母線間の電気的距離を計算する電気的距離計算部と、系統情報を入力として潮流量を計算する潮流状況計算部と、系統情報と潮流状況計算部の結果を入力として過負荷余裕度を計算する過負荷余裕度判定部と、電気的距離計算部の結果と過負荷余裕度判定部の結果を入力として電力系統の縮約を判定および実行する縮約実行部と、縮約実行部により判定および実行された縮約結果を入力として感度行列を作成する縮約後感度行列作成部と、縮約後感度行列作成部の出力結果を入力として広域LFC計算を実行する広域LFC計算部を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、計算規模を縮小した広域周波数制御を実行することにより、過負荷を防ぎつつ、発電機の運用コストを低減できる周波数制御装置、系統周波数安定化システム、周波数制御方法、および周波数制御プログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1における電力系統に接続された系統周波数安定化システムのハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図2】実施例1における系統周波数安定化システムの機能的な構成を示すブロック図である。
【
図3】実施例1における周波数制御装置の過負荷余裕度判定部の処理フローチャートである。
【
図4】実施例1における周波数制御装置の縮約実行部の処理フローチャートである。
【
図5】実施例2における系統周波数安定化システムの機能的な構成を示すブロック図である。
【
図6】実施例2における周波数制御装置のLFC推定部の処理フローチャートである。
【
図7】実施例2における周波数制御装置の縮約実行部の処理フローチャートである。
【
図8】実施例2における縮約結果DBに格納されるデータの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。
【実施例0014】
図1は、本実施例における電力系統に接続された系統周波数安定化システムのハードウェア構成を示すブロック図である。
【0015】
図1において、系統周波数安定化システム10は、通信ネットワーク30を介して、電力系統20の計測情報などにアクセスし電力系統の周波数を管理することができる。系統周波数安定化システム10は、例えば、計算機システムで構成され、周波数制御装置100と記憶装置200で構成される。
【0016】
周波数制御装置100は、プロセッサがコンピュータプログラムを実行して処理を行う情報処理装置であって、表示部121、入力部122、通信部123、プロセッサ124、メモリ125を備え、それらは、バス126を介して接続されている。
【0017】
表示部121は、周波数制御装置100内で扱われるパラメータや処理結果などを表示する。表示部121は、ディスプレイ装置であってもよいし、ディスプレイ装置とともにプリンタ装置または音声出力装置などを用いてもよい。
【0018】
入力部122は、周波数制御装置100を動作させるための各種条件などを入力する。入力部122は、キーボードおよびマウスなどを使用できる他、タッチパネルまたは音声指示装置などの少なくともいずれか一つを備えるようにしてもよい。
【0019】
通信部123は、通信ネットワーク30に接続するための回路および通信プロトコルを備える。通信ネットワーク30は、インターネットなどのWAN(Wide Area Network)であってもよいし、WiFiなどのLAN(Local Area Network)であってもよいし、WANとLANが混在していてもよい。
【0020】
プロセッサ124は、コンピュータプログラムを実行し、記憶装置200に記憶されている各種入力データベース(以降、データベースをDBと略記する)210内のデータの検索、処理結果の表示指示、電力系統20の負荷周波数制御に関する処理などを行う。プロセッサ124は、CPU(Central Processing Unit)であってもよいし、GPU(Graphics Processing Unit)であってもよい。また、プロセッサ124は、シングルコアロセッサであってもよいし、マルチコアロセッサであってもよい。さらに、プロセッサ124は、処理の一部または全部を行うハードウェア回路(例えばFPGA(Field-Programmable Gate Array)またはASIC(Application Specific Integrated Circuit))を備えていてもよい。また、プロセッサ124は、ニューラルネットワークを備えていてもよい。さらに、プロセッサ124は、1つまたは複数の半導体チップとして構成してもよいし、計算サーバのようなコンピュータ装置として構成してもよい。
【0021】
メモリ125は、例えば、RAM(Random Access Memory)として構成され、コンピュータプログラムおよび計算結果データを記憶したり、各処理に必要なワークエリアをプロセッサ124に提供する。
【0022】
記憶装置200は、大容量の記憶容量を有する記憶デバイスであり、例えば、ハードディスク装置やSSD(Solid State Drive)である。記憶装置200は、各種プログラムの実行ファイルやプログラムの実行に用いられるデータを保持することができる。また、記憶装置200は、各種入力DB210と各種出力DB220を保持することができる。さらに、記憶装置200は、周波数制御プログラムを保持することができる。周波数制御プログラムは、周波数制御装置100にインストール可能なソフトウェアであってもよいし、周波数制御装置100にファームウェアとして組み込まれていてもよい。
【0023】
電力系統20は、複数の発電機23A~23Dおよび負荷25A、25B、25D~25Fが、母線(ノード)21A~21F、変圧器22A~22Dおよび送電線路(ブランチ)24A~24Eなどを介して相互に連系されたシステムである。電力系統20は、送電線路24B、24C、24Eにより分割された4つのエリアが存在する。この分割されたエリア内では、代表的な母線や発電機や負荷や変圧器が示されている。ここで言う発電機23A~23Dは、例えば、火力発電機、水力発電機または原子力発電機である。ノード21A~21Fには、電力系統20の保護、制御および監視のための各種の計測器が設置されている。また、各ノード21A~21Dには、蓄電池26A~26Dおよび再エネ発電機27A~27Dが接続されている。再エネ発電機27A~27Dは、例えば、太陽光発電機、太陽熱発電機または風力発電機である。なお、電力系統20に存在する発電機、負荷、母線、変圧器、送電線路、分割されたエリアの数はさらに多数であってもよい。また、LFCに用いられる電源は、発電機、蓄電池およびデマンドレスポンスの少なくともいずれか1つから選択することができる。
【0024】
系統周波数安定化システム10における周波数制御装置100のプロセッサ124が周波数制御プログラムを記憶装置200からメモリ125に読み出し、周波数制御プログラムを実行することにより、感度行列を基にしたOPFによりLFCのシミュレーションを実施し、各LFC電源の出力変化量を決定できる。決定された出力変化量は発電機23A~23D、蓄電池26A~26Dおよびデマンドレスポンスに割り当てることができる。
【0025】
なお、周波数制御プログラムの実行は、複数のプロセッサやコンピュータに分担させてもよい。あるいは、プロセッサ124は、通信ネットワーク30を介してクラウドコンピュータなどに周波数制御プログラムの全部または一部の実行を指示し、その実行結果を受け取るようにしてもよい。
【0026】
また、
図1では、記憶装置200が、各種入力DB210、各種出力DB220を保持する例を示したが、各種入力DB210、各種出力DB220の少なくともいずれか1つをクラウドサーバに保持させるようにしてもよい。
【0027】
図2は、本実施例における系統周波数安定化システムの機能的な構成を示すブロック図である。
図2において、周波数制御装置100は、プロセッサがコンピュータプログラムを実行して処理する機能として、潮流状況計算部111、電気的距離計算部112、過負荷余裕度判定部113、縮約実行部114、縮約後感度行列作成部115、広域LFC計算部116、表示処理部117を備える。また、記憶装置200は、各種入力DB210として系統情報DB211を備え、各種出力DB220として、縮約結果DB221、縮約後感度行列DB222、LFC計算結果DB223を備える。
【0028】
系統情報DB211は、各母線間の線路インピーダンスや各発電機の発電量や各需要の電力消費量や各母線の電圧を格納する。
【0029】
潮流状況計算部111は、系統情報DB211に格納されている各母線間の線路インピーダンスと各発電機の発電量と各需要の電力消費量と各母線の電圧などを入力として、各線路における潮流状況である潮流量を計算し、過負荷余裕度判定部113に出力する。この潮流量の計算には、潮流方程式を用いたAC潮流計算またはDC潮流計算、AC潮流計算またはDC潮流計算に用いるヤコビアン行列を用いた感度計算のいずれか一つ以上の計算方式を用いることができる。
【0030】
電気的距離計算部112は、系統情報DB211に格納されている系統情報を入力として、系統情報に基づく各母線間の線路インピーダンス、系統情報に基づく電圧勾配のいずれか一つ以上を用いて、各母線における流入電力の変化が他母線の電圧と位相角に与える影響の大きさである電気的距離を計算する。そして、電気的距離計算部112は、計算した電気的距離を縮約実行部114に対して出力する。
【0031】
過負荷余裕度判定部113は、系統情報DB211に格納されている線路容量と潮流状況計算部111の計算した各線路における潮流量を入力として、線路容量で潮流量を除算した値が閾値以上の値となる、過負荷発生の可能性が高い線路を監視対象となる線路として縮約実行部114に出力する。この線路容量には、熱容量、電圧安定性、周波数安定性、同期安定性のいずれか一つ以上を用いることができる。また、線路容量には、定数または時間変化するダイナミックレーティングによる値のいずれか一つを用いることができる。
【0032】
縮約実行部114は、電気的距離計算部112の計算した電気的距離と過負荷余裕度判定部113の特定した監視対象となる線路と系統情報DB211に格納されている系統情報を入力として、入力となる電気的距離から監視対象となる線路の両端に存在する母線と各母線の間の電気的距離を抽出する。この抽出された電気的距離が閾値を超えている母線を縮約対象として、系統情報DB211の系統情報を基に系統縮約後の系統において線路潮流量を計算する。縮約前後における監視対象となる線路潮流量の誤差が閾値以下に収まっている場合に、系統サイズを小さくする縮約を実施する。縮約判定結果は縮約後感度行列作成部115に出力される。また、縮約実行部114に入力された値および縮約判定結果は、縮約結果DB221に出力される。
【0033】
縮約後感度行列作成部115は、縮約実行部114の縮約判定結果を入力として、縮約後の電力系統において発電機出力が変化した際の線路潮流量の変化を示す潮流感度行列を作成する。潮流感度行列は、縮約後感度行列DB222に出力される。この潮流感度行列はAC潮流計算またはDC潮流計算のいずれか一つの計算方式に基づき作成することができる。
【0034】
広域LFC計算部116は、縮約後感度行列作成部115の潮流感度行列を入力として、運用コスト最小化を目的関数として過負荷を制約条件に含むOPFを潮流感度行列を用いて計算する。このOPFによりLFC動作量に応じた線路の潮流量変化を計算し、線路の過負荷を防止可能なLFC動作量を広域的に計算する。LFC動作量はLFC計算結果DB223に出力される。
【0035】
縮約結果DB221は、各母線の縮約判定の有無、各母線の縮約後の母線、他母線との電気的距離を格納する。縮約後感度行列DB222は、縮約後の電力系統において各母線に対する流入電力の変化が各送電線の潮流量に対して与える影響を示した感度行列を格納する。LFC計算結果DB223は、コスト最小化を目的関数として、過負荷を制約条件としたOPFに基づくLFC電源の動作量を格納する。これらのDBを備えることで、系統の潮流量を計算できるとともに、広域LFC計算結果を通信部123を通して各発電機に送信できる。また、表示処理部117により縮約判定結果や各母線間の電気的距離を表示部121に表示することで、それらを系統運用者が把握することが出来る。
【0036】
図3は、
図2の周波数制御装置における過負荷余裕度判定部113の処理フローチャートである。
図3において、まず、ステップS11で、各線路に対して潮流状況計算部111の計算した潮流量を系統情報DB211に格納された各線路の線路容量を用いて除算する。そして、ステップS12で、ステップS11において除算された値が閾値以上か判定する。閾値以上の場合にはステップS13に進む。閾値を下回る場合は、ステップS14に進む。ステップS13では、ステップS12にて閾値以上の線路を監視対象として縮約実行部114に出力する。ステップS14では、ステップS12にて閾値を下回る線路を監視対象としないことを縮約実行部114に出力する。
【0037】
図3の処理フローチャートにより、過負荷の可能性が高い線路を把握することが出来る。この線路情報を基に縮約実行部14が縮約した系統情報を基に、広域LFC計算部16がOPFを実行することで、縮約前と近しい水準にて過負荷制約を判定できる。
【0038】
図4は、
図2の周波数制御装置における縮約実行部114の処理フローチャートである。
図4において、まず、ステップS1で、過負荷余裕度判定部113の特定した監視対象となる線路における両端の母線に対する各母線の電気的距離を、電気的距離計算部112の計算した電気的距離から抽出する。次に、ステップS2で、ステップS1にて抽出した電気的距離が閾値α以上となる母線を縮約対象とする。
【0039】
ステップS3では、系統情報DB211に格納されている系統情報を入力としてステップS2で縮約対象とした母線に対して系統縮約を適用する。そして、潮流状況計算部111の出力結果である縮約前の系統の潮流量と縮約後の系統の潮流量を計算し、過負荷余裕度判定部113の特定した監視対象となる線路において縮約前後における潮流量の差分を計算する。この潮流量の計算には、上述した計算方式を用いることができる。
【0040】
ステップS4では、この差分が規定値に収まっているか判定し、収まっている場合には処理を終了し、縮約する母線情報と縮約後の系統情報を縮約後感度行列作成部115に出力する。収まっていない場合は、ステップS5に進む。ステップS5では、ステップS2にて用いた閾値αを一定量増加させステップS2に戻る。
【0041】
図4の処理フローチャートにより、縮約後の潮流量に関する計算において、過負荷余裕度判定部113により監視対象とされた過負荷発生の可能性が高い線路の潮流量を精度よく計算できる。このため、広域LFC計算部116におけるOPFにおいて計算コストを低減した上で、縮約前と近しい水準にて過負荷制約を判定できる。
【0042】
以上のよう、本実施例によれば、計算規模を縮小した広域周波数制御を実行することにより、過負荷を防ぎつつ、発電機の運用コストを低減できる周波数制御装置、系統周波数安定化システム、周波数制御方法、および周波数制御プログラムを提供できる。
LFC推定部118は、調整力単価DB212、出力指令値DB213、出力特性DB214、ARDB215の値を入力として、各エリアのARを満たすようにLFC電源の出力を推定する。そして、出力変化の生じたLFC電源をLFC動作電源として縮約実行部114に対して入力する。
ステップS33は、ARが0以上となるエリアにおいて、各電源において出力特性DB214の出力上限値から出力指令値DB213の値を減算する。この値を各電源における出力変化可能量とし、ステップS35に進む。ステップS34は、ARが0より小さくなるエリアにおいて、出力指令値DB213から出力特性DB214の出力下限値の値を減算する。この値を各電源における出力変化可能量とし、ステップS35に進む。
ステップS35は、各エリアにおいてステップS31にて並べた順に、ステップS33とステップS34にて計算した各電源の出力変化可能量を加算し、LFC動作電源となる。この加算は、加算した値が、1を超える定数を乗算したARを超えるまで続ける。そして算出したLFC動作電源を縮約実行部114に出力する。
ステップS25では、系統情報DB211に格納されている系統情報を入力としてステップS23とステップS24に基づき縮約対象とした母線に対して系統縮約を適用する。そして、縮約前の系統の潮流量と縮約後の系統の潮流量を計算し、過負荷余裕度判定部113の特定した監視対象となる線路において縮約前後における潮流量の差分を計算する。この潮流量の計算には、上述した計算方式を用いることができる。
ステップS26では、この差分が規定値に収まっているか判定し、収まっている場合には処理を終了し、縮約する母線情報と縮約後の系統情報を縮約後感度行列作成部115に出力する。さらに、縮約する母線情報と縮約後の系統情報と縮約実行部114に入力された値を縮約結果DB221に出力する。収まっていない場合は、ステップS27に進む。ステップS27では、ステップS23にて用いた閾値βを一定量増加させ、S24にて用いた閾値γを一定量減少させステップS23に戻る。
以上のように、本実施例によれば、実施例1に比べて、より計算規模を縮小した広域周波数制御を実行することができ、過負荷を防ぎつつ、発電機の運用コストを低減できる周波数制御装置、系統周波数安定化システム、周波数制御方法、および周波数制御プログラムを提供できる。
以上、本発明による実施例を示したが、本発明は、発電機の運用コストを低減できる系統周波数安定化システムを提供できるため、炭素排出量を減らし、地球温暖化を防止することができ、SDGs(Sustainable Development Goals)を実現するための特に項目7のエネルギーに貢献する。
また、本発明は、上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換 をすることが可能である。