(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080281
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】水性被覆材
(51)【国際特許分類】
C09D 5/02 20060101AFI20240606BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240606BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240606BHJP
C09D 7/42 20180101ALI20240606BHJP
【FI】
C09D5/02
C09D7/61
C09D201/00
C09D7/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193340
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】599071496
【氏名又は名称】ベック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡本 啓吾
(72)【発明者】
【氏名】田中 千賀
(72)【発明者】
【氏名】村辻 朋幸
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CD021
4J038CD091
4J038CF021
4J038CF041
4J038CG031
4J038CG141
4J038DB001
4J038DG001
4J038DL031
4J038HA206
4J038HA266
4J038HA376
4J038HA446
4J038HA526
4J038HA536
4J038HA546
4J038HA556
4J038KA03
4J038KA08
4J038MA10
4J038MA13
4J038MA14
4J038NA01
4J038NA04
4J038PB05
4J038PC02
4J038PC03
4J038PC04
4J038PC05
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】本発明は、艶が低減された被膜を形成しつつ、消毒液等による被膜の変色、艶変化等の外観変化を抑制することができる水性被覆材を提供する。
【解決手段】本発明の水性被覆材は、樹脂エマルション、着色顔料、及び体質顔料を含み、顔料体積濃度は15~60%であり、上記体質顔料の平均粒子径は80μm以下であり、上記体質顔料の含有量は、上記樹脂エマルションの固形分100重量部に対し20~400重量部であり、上記体質顔料として、吸油量100ml/100g未満の低吸油量体質顔料を含み、上記体質顔料の総量中、上記低吸油量体質顔料の比率は50重量%以上であり、上記体質顔料の総量中、炭酸カルシウムの比率は20重量%以下であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂エマルション、着色顔料、及び体質顔料を含む水性被覆材であって、
顔料体積濃度は15~60%であり、
上記体質顔料の平均粒子径は80μm以下であり、
上記体質顔料の含有量は、上記樹脂エマルションの固形分100重量部に対し20~400重量部であり、
上記体質顔料として、吸油量100ml/100g未満の低吸油量体質顔料を含み、
上記体質顔料の総量中、上記低吸油量体質顔料の比率は50重量%以上であり、
上記体質顔料の総量中、炭酸カルシウムの比率は20重量%以下である
ことを特徴とする水性被覆材。
【請求項2】
上記体質顔料として、吸油量100ml/100g以上の高吸油量体質顔料を含み、
上記体質顔料の総量中、上記高吸油量体質顔料の比率は50重量%以下である
ことを特徴とする請求項1記載の水性被覆材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な水性被覆材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物や土木構造物等においては、その表面保護、美観性向上等の目的で種々の被覆材によってコーティングが行われている。この中でも、艶消しタイプの被覆材は、表面の艶が低減された被膜を形成することができ、落ち着きのある仕上り感が得られることから、汎用的に用いられている。また、近年、コーティング分野では、環境に対する負荷低減の動き等を背景に水性化が進んでおり、艶消しタイプの被覆材も例外ではない。
【0003】
このような艶消しタイプの被覆材の一例として、例えば特許文献1(特開2002-201419号公報)には、塗膜形成樹脂と、着色顔料と、重質炭酸カルシウム等の体質顔料を含み、顔料体積濃度が20~60%である水性被覆材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、建築物内装面等においては、消毒・除菌等の目的で、アルコール系、酸性系等の消毒液や除菌液(以下「消毒液等」という)を用いて被膜表面を清浄化する機会が増加している。しかしながら、上述のような水性被覆材の被膜に消毒液等を用いると、被膜が変色したり、艶が変化したりする場合がある。また、消毒液等が被膜上に残存した場合は、その跡がしみ等となって被膜外観が損われるおそれもある。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みなされたものであり、艶が低減された被膜を形成しつつ、消毒液等による被膜の変色、艶変化等の外観変化を抑制することができる水性被覆材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するために本発明者は、鋭意検討の結果、特定の体質顔料構成等を有する水性被覆材に想到し、本発明を完成するに到った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
1.樹脂エマルション、着色顔料、及び体質顔料を含む水性被覆材であって、
顔料体積濃度は15~60%であり、
上記体質顔料の平均粒子径は80μm以下であり、
上記体質顔料の含有量は、上記樹脂エマルションの固形分100重量部に対し20~400重量部であり、
上記体質顔料として、吸油量100ml/100g未満の低吸油量体質顔料を含み、
上記体質顔料の総量中、上記低吸油量体質顔料の比率は50重量%以上であり、
上記体質顔料の総量中、炭酸カルシウムの比率は20重量%以下である
ことを特徴とする水性被覆材。
2.上記体質顔料として、吸油量100ml/100g以上の高吸油量体質顔料を含み、
上記体質顔料の総量中、上記高吸油量体質顔料の比率は50重量%以下である
ことを特徴とする1.記載の水性被覆材。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、艶が低減された被膜を形成しつつ、消毒液等による被膜の変色、艶変化等の外観変化を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0011】
本発明の水性被覆材(以下単に「被覆材」ともいう)は、樹脂エマルション、着色顔料、及び体質顔料を含むものである。
【0012】
このうち、樹脂エマルションは、結合材として作用する成分である。樹脂エマルションは、水性媒体(水を含む媒体)に樹脂が乳化・分散してなるものである。
【0013】
樹脂エマルションにおける樹脂としては、例えば、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂等、あるいはこれらの複合系等が挙げられる。これらは、1種または2種以上で使用できる。
【0014】
本発明では、樹脂エマルションとして、アクリル樹脂エマルションを含む態様が好適である。アクリル樹脂エマルションは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とする重合体粒子の水分散体である。このようなアクリル樹脂エマルションは、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び必要に応じその他のモノマーを含むモノマー群を、公知の方法で乳化重合することによって得ることができる。
【0015】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、1種または2種以上で使用できる。このような(メタ)アクリル酸アルキルエステルの構成比率は、樹脂を構成する全モノマーに対し、好ましくは30重量%以上、より好ましくは40~99.9重量%、さらに好ましくは50~99.5重量%である。なお、本発明では、アクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルを合わせて、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと表記している。また、本発明において「a~b」は「a以上b以下」と同義である。
【0016】
その他のモノマーとしては、例えばカルボキシル基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、ピリジン系モノマー、水酸基含有モノマー、ニトリル基含有モノマー、アミド基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、カルボニル基含有モノマー、アルコキシシリル基含有モノマー、芳香族モノマー等が挙げられる。これらは、1種または2種以上で使用できる。これらその他のモノマーの構成比率は、樹脂を構成する全モノマーに対し、好ましくは0.1~60重量%、より好ましくは0.5~50重量%である。
【0017】
アクリル樹脂エマルションは、上記条件を満たすものであればよい。アクリル樹脂エマルションとしては、例えば、アクリルスチレン樹脂エマルション、エポキシ変性アクリル樹脂エマルション、ウレタン変性アクリル樹脂エマルション、シリコン変性アクリル樹脂エマルション、フッ素変性アクリル樹脂エマルション等を使用することもできる。
【0018】
本発明における樹脂エマルションの平均粒子径は、好ましくは50~500nm、より好ましくは70~300nm、さらに好ましくは80~250nmである。なお、樹脂エマルションの平均粒子径は、動的光散乱法により測定される値である。具体的には、動的光散乱測定装置を用いて測定することができる(測定温度は25℃)。
【0019】
樹脂エマルションを構成する樹脂のガラス転移温度は、好ましくは-30~60℃、より好ましくは-20~40℃である。このガラス転移温度は、Foxの計算式により求めることができる。
【0020】
本発明における樹脂エマルションは、例えば、1段ないし多段(2段、または3段以上)の乳化重合法等によって製造することができる。このうち多段乳化重合を採用した場合は、例えば、多層構造型エマルション(コアシェル型エマルション等)を得ることができる。
【0021】
本発明では、樹脂エマルションとして架橋反応型樹脂エマルションを使用することもできる。架橋反応型樹脂エマルションにおける架橋反応としては、例えば、カルボキシル基と金属イオン、カルボキシル基とエポキシ基、カルボキシル基とカルボジイミド基、カルボキシル基とアジリジン基、カルボキシル基とオキサゾリン基、水酸基とイソシアネート基、カルボニル基とヒドラジド基、エポキシ基とヒドラジド基、エポキシ基とアミノ基、加水分解性シリル基どうし等の組み合わせが挙げられる。このうち好適な架橋反応としては、カルボキシル基とエポキシ基、カルボキシル基とカルボジイミド基、カルボキシル基とオキサゾリン基、カルボニル基とヒドラジド基、加水分解性シリル基どうし等が挙げられる。このような架橋反応型樹脂エマルションとしては、例えば、エマルション粒子内の官能基同士で架橋反応を生じるもの、あるいは、別途混合する架橋剤とエマルション粒子内の官能基が架橋反応を生じるもの等が使用できる。これらは、1液型、2液型等のいずれであってもよい。
【0022】
上記架橋剤としては、例えば、エポキシ基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、ヒドラジド基等から選ばれる1種以上の反応性官能基を有する化合物を含むものが使用できる。架橋剤が、エポキシ基、カルボジイミド基、オキサゾリン基から選ばれる1種以上の反応性官能基を有する場合は、樹脂エマルションとして、例えばカルボキシル基を有するもの等が使用できる。架橋剤が、ヒドラジド基を有する場合は、樹脂エマルションとして、例えばカルボニル基を有するもの等が使用できる。
【0023】
エポキシ基を含む架橋剤としては、例えば、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリヒドロキシアルカンポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0024】
カルボジイミド基を含む架橋剤としては、例えば、特開平10-60272号公報、特開平10-316930号公報、特開平11-60667号公報、特開2016-196612号公報、特開2016-196613号公報、特開2018-104605公報、特開2019-038960号公報等に記載のもの等が挙げられる。
【0025】
オキサゾリン基を含む架橋剤としては、例えば、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン等の重合性オキサゾリン化合物を該化合物と共重合可能な単量体と共重合した樹脂等が挙げられる。
【0026】
ヒドラジド基を含む架橋剤としては、例えば、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド等が挙げられる。
【0027】
架橋剤の含有量は、樹脂エマルションの固形分100重量部に対して、固形分換算で好ましくは0.01~20重量部、より好ましくは0.05~10重量部である。
【0028】
着色顔料は、被覆材に所望の色彩を付与する成分である。着色顔料としては、例えば、酸化第二鉄(弁柄)、黄色酸化鉄、群青、コバルトグリーン等の無機有彩色顔料;アゾ系、ナフトール系、ピラゾロン系、アントラキノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジスアゾ系、イソインドリノン系、ベンゾイミダゾール系、フタロシアニン系、キノフタロン系等の有機有彩色顔料;カーボンブラック、鉄‐マンガン複合酸化物、鉄‐銅‐マンガン複合酸化物、鉄‐クロム‐コバルト複合酸化物、銅‐クロム複合酸化物、銅‐マンガン‐クロム複合酸化物、黒色酸化鉄等の黒色顔料;酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ等の白色顔料;その他パール顔料、アルミニウム顔料、光輝性顔料、蓄光顔料、蛍光顔料等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用できる。着色顔料の平均粒子径は、好ましくは1μm未満、より好ましくは0.01~0.9μmである。なお、本発明において、顔料(着色顔料、体質顔料等)の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定される平均値である(測定温度は25℃)。
【0029】
着色顔料の含有量は、樹脂エマルションの固形分100重量部に対し、好ましくは1~500重量部、より好ましくは5~300重量部、さらに好ましくは10~200重量部である。着色顔料の含有量がこのような範囲内であれば、被膜の発色性、隠ぺい性等の点で好適であり、本発明の効果発現の点でも有利である。
【0030】
本発明では、顔料として、上記着色顔料に加え、体質顔料を含む。これにより、被膜表面の艶を低減させ、落ち着きのある仕上り感を付与することが可能となる。体質顔料としては、例えば、カオリン、クレー、珪酸アルミニウム、焼成クレー、焼成カオリン、陶土、チャイナクレー、珪藻土、含水二酸化珪素、シリカゲル、ゼオライト、硫酸ナトリウム、アロフェン、タルク、マイカ、バライト粉、硫酸バリウム、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、シリカ粉、水酸化アルミニウム、重質炭酸カルシウム、軽微性炭酸カルシウム、多孔質炭酸カルシウム、珪質頁岩、バーミキュライト、パーライト、大谷石粉、活性白土、活性炭、シラスバルーン等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用できる。体質顔料の平均粒子径は80μm以下であり、好ましくは1~50μm、より好ましくは1.5~40μm、さらに好ましくは2~30μmである。本発明では、体質願顔料の平均粒子径がこのような範囲内であることにより、形成被膜における艶の低減化や仕上り性、消毒液等による清浄化時の作業性(拭き取り作業性等)等の点で有利となる。
【0031】
本発明被覆材では、顔料体積濃度が15~60%となる範囲内で、これら顔料(着色顔料及び体質顔料)を混合する。顔料体積濃度をこのような範囲内に設定することにより、本発明の効果を得ることが可能となる。顔料体積濃度が上記下限に満たない場合は、艶低減効果等が得られ難くなり、上記上限を超える場合は、消毒液等による被膜の変色、艶変化等の外観変化を抑制することが困難となる。なお、顔料体積濃度は、乾燥被膜中に含まれる顔料の容積百分率であり、被覆材を構成する樹脂及び顔料の混合量から計算により求められる値である。なお、樹脂の比重は1とする。
具体的に、完全艶消しの被膜においては、顔料体積濃度を好ましくは35~55%(より好ましくは36~50%)に設定することができる。3分艶の被膜においては、顔料体積濃度を好ましくは15%以上35%未満(より好ましくは18~34%)に設定することができる。
【0032】
本発明では、体質顔料が下記条件(1)、(2)、及び(3)を満たすことを特徴とする。これにより、艶が低減された被膜を形成しつつ、消毒液等による被膜の変色、艶変化等の外観変化を抑制することができる。
(1)体質顔料の含有量は、樹脂エマルションの固形分100重量部に対し20~400重量部である。
(2)体質顔料として、吸油量100ml/100g未満の低吸油量体質顔料を含み、体質顔料の総量中、当該低吸油量体質顔料の比率は50重量%以上(好ましくは55重量%以上、より好ましくは60~99重量%、さらに好ましくは65~98重量%)である。
(3)体質顔料の総量中、炭酸カルシウムの比率は20重量%以下(好ましくは10重量%以下、より好ましくは3重量%以下)である。
【0033】
上記(1)~(3)の条件等を備えることによって本発明の効果が奏される理由は、以下に限定されるものではないが、体質顔料によって被膜表面に微細な凹凸が生じること、被膜内部への消毒液等のしみ込みが抑制されること、消毒液等に対する被膜の耐性が十分に確保されること、等が寄与しているものと考えられる。
【0034】
上記(1)に関し、体質顔料の含有量が上記下限値に満たない場合は、艶の低減化が不十分となり、上記上限値を超える場合は、消毒液等によって被膜の外観変化が生じるおそれがある。
【0035】
上記(2)に関し、吸油量100ml/100g未満(好ましくは10ml/100g以上100ml/100g未満、より好ましくは20~90ml/100g、さらに好ましくは25~85ml/100g、特に好ましくは30~80ml/100g)の低吸油量体質顔料としては、上記物性を満たす限り、各種体質顔料を使用することができる。低吸油量体質顔料としては、例えば、カオリン、クレー、珪酸アルミニウム、焼成クレー、焼成カオリン、陶土、チャイナクレー、タルク、バライト粉、硫酸バリウム、シリカ粉、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用できる。
【0036】
なお、吸油量(ml/100g)とは、JIS K5101-13-2:2004に規定されている方法によって求められる値であり、顔料100gに対する煮アマニ油のmlで表されるものである。
【0037】
上記(2)に関し、体質顔料の総量中、低吸油量体質顔料の比率が上記下限値に満たない場合は、消毒液等によって被膜の外観変化が生じるおそれがある。
【0038】
上記(3)に関し、体質顔料の総量中、炭酸カルシウムの比率が上記上限値を超える場合は、消毒液等によって被膜の外観変化が生じるおそれがある。上記(3)に関し、本発明では、体質顔料として炭酸カルシウムを含まない態様も好適である。なお、このような炭酸カルシウムとしては、例えば、重質炭酸カルシウム、軽微性炭酸カルシウム、多孔質炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0039】
本発明では、体質顔料がさらに下記条件(4)を満たすことが望ましい。これにより、艶の低減化、艶むらの抑制、消毒液等による被膜の外観変化抑制等において、全体的にいっそう好ましい効果を発揮することができる。
(4)体質顔料として、吸油量100ml/100g以上の高吸油量体質顔料を含み、体質顔料の総量中、当該高吸油量体質顔料の比率は50重量%以下(好ましくは45重量%以下、より好ましくは1~40重量%、さらに好ましくは2~35重量%)である。
【0040】
上記(4)に関し、吸油量100ml/100g以上(好ましくは100~400ml/100g、より好ましくは105~350ml/100g、さらに好ましくは110~300ml/100g)の高吸油量体質顔料としては、上記物性を満たす限り、各種体質顔料を使用することができる。高吸油量体質顔料としては、例えば、ゼオライト、硫酸ナトリウム、含水二酸化珪素、アロフェン、珪藻土、珪質頁岩、バーミキュライト、パーライト、大谷石粉、活性白土、活性炭、シラスバルーン等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用できる。
【0041】
本発明被覆材では、上述の成分の他に、各種添加剤等を混合することもできる。このような添加剤としては、例えば、顔料分散剤、乳化剤、粘性調整剤、造膜助剤、レベリング剤、カップリング剤、湿潤剤、可塑剤、凍結防止剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、消泡剤、吸着剤、脱臭剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、触媒、架橋剤、溶剤、水等が挙げられる。粒径の大きな粉粒体(例えば、平均粒子径80μm超の充填材、骨材等)は、被膜の平坦化に不利となり、清浄化時の作業性(拭き取り作業性等)の点でも不利となるため混合しないことが望ましい。
【0042】
本発明被覆材は、上述の樹脂エマルション、着色顔料、体質顔料、及び必要に応じ各種添加剤を常法により均一に混合することによって製造することができる。
【0043】
本発明被覆材は、媒体として水を含む(すなわち水性媒体を含む)水性の材料である。水性媒体は、水の他に、必要に応じ水溶性溶剤を含むものであってもよい。水溶性溶剤としては、例えば、アルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類等が挙げられる。
【0044】
本発明の水性被覆材は、例えば、建築物や土木構築物等の被塗面に対する表面仕上げ等に適用できる。被塗面を構成する基材としては、例えば、コンクリート、モルタル、磁器タイル、繊維混入セメント板、セメント珪酸カルシウム板、スラグセメントパーライト板、セメント板、ALC板、サイディング板、石膏ボード、合板、押出成形板、鋼板、プラスチック板等が挙げられる。これら基材の表面は、何らかの表面処理(例えば、パテ、シーラー、サーフェーサー、フィラー等による処理)が施されたものでもよく、既に塗膜が形成されたものや、壁紙等が貼着されたもの等であってもよい。
【0045】
本発明被覆材を塗装する際には、例えば、スプレー、ローラー、刷毛等の各種塗装器具を使用することができる。このうち、ローラーとしては、例えば、短毛、中毛、または長毛の繊維質ローラー(ウールローラー等)が使用できる。
【0046】
塗装の際には、水を用いて希釈することも可能である。水の混合量は、塗装器具の種類、被塗面の状態、塗装時の温度等を勘案して適宜設定すればよいが、水性被覆材全体に対し、好ましくは0~20重量%程度である。
【0047】
本発明被覆材の塗付け量は、好ましくは0.1~0.8kg/m2、より好ましくは0.12~0.6kg/m2、さらに好ましくは0.15~0.4kg/m2である。このような塗付け量で水性被覆材の塗装を行うことにより、発色性、隠蔽性等に優れた艶消しで平坦な薄い被膜を形成することができる。
【0048】
本発明被覆材は、常温乾燥形水性被覆材として使用できる。そのため、本発明被覆材の塗装ないし塗装後の乾燥は、常温(好ましくは5~40℃)の環境下にて行うことができる。但し、必要に応じ加熱することも可能である。乾燥時間は、好ましくは常温で0.5~4時間程度である。塗り回数は、1回または2回以上(好ましくは1~2回)とすることができる。塗り回数が2回以上の場合は、合計の塗付け量が上記範囲内とすることが望ましい。
【0049】
本発明では、艶が低減された被膜、すなわち艶消し被膜を形成することができる。なお、ここで言う「艶消し」とは、一般に艶消しと呼ばれるものの他に、3分艶、5分艶等と呼ばれるものも包含する。具体的に、艶消しの程度は、鏡面光沢度によって規定することができる。本発明被覆材の60度鏡面光沢度は、好ましくは50以下、より好ましくは0.1~30である。具体的に、本発明被覆材によって完全艶消しの被膜を形成する場合、その60度鏡面光沢度は、5以下(好ましくは0.1~4)とすることができる。本発明被覆材によって3分艶の被膜を形成する場合、その60度鏡面光沢度は5超30以下(好ましくは6~20)とすることができる。
【0050】
なお、鏡面光沢度は、ガラス板の片面に、すきま150μmのフィルムアプリケータを用いて被覆材を塗り、塗面を水平に置いて標準状態(気温23℃、相対湿度50%)で48時間乾燥したときの鏡面光沢度(測定角度60度)を測定することによって得られる値である。
【0051】
本発明では、消毒液等による被膜の変色、艶変化等の外観変化を抑制することができる。そのため、本発明被覆材の被膜に対しては、消毒液等による清浄化を繰り返し行うことができる。消毒液等による清浄化としては、例えば、消毒液等を含む布等で被膜表面を拭く方法、消毒液等を被膜表面に散布後、布等で拭き取る方法、等を採用することができる。消毒液等としては、例えば、アルコール溶液、次亜塩素酸水、次亜塩素酸ナトリウム水溶液、界面活性剤水溶液、亜塩素酸水等が挙げられる。これらは、消毒性、除菌性、安全性等を考慮の上、1種または2種以上で使用できる。消毒液等による清浄化を行った後には、必要に応じ、水による拭き取り等を行うこともできる。
【実施例0052】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明の特徴をより明確にする。なお、本発明は、ここでの実施例に制限されるものではない。
【0053】
(水性被覆材の製造)
表1に示す重量部にて、各原料を常法により混合・攪拌することによって、各水性被覆材を製造した。原料としては下記のものを使用した。
【0054】
・樹脂1:アクリル樹脂エマルション(メチルメタクリレート・スチレン・n-ブチルアクリレート・2-エチルヘキシルアクリレート・アクリル酸の乳化重合体、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの構成比率70重量%、平均粒子径:130nm、固形分:50重量%、ガラス転移温度:5℃、樹脂比重:1.0、媒体:水)
・樹脂2:架橋反応型アクリル樹脂エマルション(メチルメタクリレート・スチレン・n-ブチルアクリレート・2-エチルヘキシルアクリレート・ダイアセトンアクリルアミド・アクリル酸の乳化重合体、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの構成比率75重量%、平均粒子径:140nm、固形分:50重量%、ガラス転移温度:4℃、樹脂比重:1.0、媒体:水)
・架橋剤:アジピン酸ジヒドラジド
・着色顔料1:有彩色顔料(弁柄、平均粒子径0.2μm、比重5.0)
・着色顔料2:有彩色顔料(黄色酸化鉄、平均粒子径0.5μm、比重4.0)
・着色顔料3:黒色顔料(カーボンブラック、平均粒子径0.1μm、比重1.8)
・着色顔料4:白色顔料(酸化チタン、平均粒子径0.2μm、比重4.2)
・体質顔料1:タルク(平均粒子径12μm、比重2.7、吸油量35ml/100g)
・体質顔料2:珪酸アルミニウム(平均粒子径4μm、比重2.6、吸油量50ml/100g)
・体質顔料3:シリカ粉(平均粒子径4μm、比重2.6、吸油量10ml/100g)
・体質顔料4:重質炭酸カルシウム(平均粒子径4μm、比重2.7、吸油量22ml/100g)
・体質顔料5:珪藻土(平均粒子径10μm、比重2.3、吸油量180ml/100g)
・体質顔料6:含水二酸化珪素(平均粒子径4μm、比重2.0、吸油量240ml/100g)
・分散剤:アニオン系分散剤
・造膜助剤:エステル系造膜助剤
・増粘剤:セルロース系増粘剤、ウレタン系増粘剤
・消泡剤:シリコーン系消泡剤
【0055】
(試験方法)
○試験1
ガラス板の片面に、すきま150μmのフィルムアプリケータを用いて各水性被覆材を塗り、塗面を水平に置いて標準状態(気温23℃、相対湿度50%)で48時間乾燥して試験板を作製した。この試験板の60度鏡面光沢度を測定し、鏡面光沢度5以下のものを「I」(このうち鏡面光沢度0.1~4のものは「Ia」)、鏡面光沢度5超30以下のものを「II」(このうち鏡面光沢度6~20のものは「IIa」)とした。
【0056】
○試験2
石膏ボードの片面に、ウールローラーを用いて各水性被覆材(5重量%希釈品)を塗付け量0.2kg/m2で塗装し、48時間乾燥して試験板を作製した。塗装ないし乾燥は、標準状態で行った。得られた試験板について、その仕上り性(艶むらの程度)を目視にて確認し、艶むらが認められなかったものを「AA」、著しい艶むらが認められたものを「D」とする5段階(優:AA>A>B>C>D:劣)で行った。
【0057】
○試験3
上記試験1と同様の方法で試験板を作製した。この試験板の被膜表面にエタノール水溶液をスポットし、その後拭き取りを行い、外観(色、艶)の変化の程度を評価した。評価は、外観変化が認められなかったものを「AA」、著しい外観変化が認められたものを「D」とする5段階(優:AA>A>B>C>D:劣)で行った。
【0058】
○試験4
上記試験1と同様の方法で試験板を作製した。この試験板の被膜表面に次亜塩素酸水をスポットし、その後拭き取りを行い、外観(色、艶)の変化の程度を評価した。評価は、外観変化が認められなかったものを「AA」、著しい外観変化が認められたものを「D」とする5段階(優:AA>A>B>C>D:劣)で行った。
【0059】
(試験結果)
試験結果を表1に示す。実施例1~18では、各試験において良好な結果が得られた。
【0060】