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特開2024-80283電極形成用の長尺シートの厚み計測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080283
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】電極形成用の長尺シートの厚み計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 21/08 20060101AFI20240606BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20240606BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240606BHJP
【FI】
G01B21/08 101
H01M4/04 A
H01M4/04 Z
H01M4/139
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193343
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蛭川 智史
(72)【発明者】
【氏名】石塚 正浩
(72)【発明者】
【氏名】増田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛司
(72)【発明者】
【氏名】阿部 友邦
【テーマコード(参考)】
2F069
5H050
【Fターム(参考)】
2F069AA46
2F069BB40
2F069CC06
2F069DD19
2F069GG04
2F069HH09
2F069JJ11
2F069MM02
5H050AA19
5H050GA03
5H050GA22
5H050GA28
5H050HA04
(57)【要約】
【課題】長尺導電箔の表面に表面側電極層が形成されているとともに裏面に裏面側電極層が形成されている長尺シートをフリーローラの外周面に沿わせた状態で、長尺シートの厚みを計測すると、フリーローラの外周面と長尺シートの内周面の間にすき間が生じてしまい、厚みの計測結果に誤差が生じることがある。
【解決手段】電極層形成時の伸び率が大きい方の電極層がフリーローラの外周面に接する向きに向け、その電極層がフリーローラの外周面に密着する関係を作り出して厚みを計測する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺導電箔の片面に電極層が形成されている長尺シートの厚み計測方法であり、
前記片面に活物質を塗工してからロールプレスする電極層形成工程と、
前記電極層形成工程実施後の前記長尺シートをフリーローラの外周面に沿わせた状態で、前記フリーローラの前記外周面と前記長尺シートの外周面の間の距離を計測する計測工程を備えており、
前記電極層形成時の前記電極層の伸び率が前記導電箔の伸び率より大きく、
前記電極層が前記フリーローラの前記外周面に接する向きに向けられており、
前記電極層が前記フリーローラの前記外周面に密着している領域内で前記距離を計測することを特徴とする計測方法。
【請求項2】
長尺導電箔の表面に表面側電極層が形成されているとともに裏面に裏面側電極層が形成されている長尺シートの厚み計測方法であり、
前記表面に表面側活物質を塗工してからロールプレスする表面側電極層形成工程と、
前記裏面に裏面側活物質を塗工してからロールプレスする裏面側電極層形成工程と、
前記両工程実施後の前記長尺シートをフリーローラの外周面に沿わせた状態で、前記フリーローラの前記外周面と前記長尺シートの外周面の間の距離を計測する計測工程を備えており、
前記電極層形成時の伸び率が大きい方の電極層が前記フリーローラの前記外周面に接する向きに向けられており、
前記伸び率が大きい方の前記電極層が前記フリーローラの前記外周面に密着している領域内で前記距離を計測することを特徴とする計測方法。
【請求項3】
前記長尺シートの厚みが300μm以上であり、
前記計測工程では、前記長尺シートの前記外周面までの距離を非接触で計測することを特徴とする請求項1または2に記載の計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、電極を形成するための長尺シートの厚みを計測する方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、電池用電極を形成するための長尺シートの製造方法が開示されている。この製造方法は、金属箔の裏面に裏面側活物質を塗工してロールプレスする工程と、金属箔の表面に表面側活物質を塗工してロールプレスする工程を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021―82504号公報
【0004】
電池性能を向上させるためには、活物質を厚く塗工して厚い電極層を形成する必要があり、長尺シートの厚みを管理する必要がある。長尺シートの厚みを管理するためには、長尺シートの厚みを計測する必要がある。金属箔の表面に表面側電極層が形成されているとともに裏面に裏面側電極層が形成されている長尺シートの裏面をフリーローラによって支え、長尺シートの表面側電極層の表面とフリーローラの外周面との間の距離を計測することによって長尺シートの厚みを計測することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記方法で長尺シートの厚みを計測したところ、実際には厚みが一様に管理されているにもかかわらず、厚みの計測値がばらつくことが判明した。その理由が判然としなかったところ、以下の事象が関係していることが判明した。
1)電極層の形成時には、導電箔(典型的には金属箔)に活物質を塗工し、塗工した活物質を圧縮する。
2)前記1)の工程を実施する結果、電極層は伸びる(負極層は収縮することがあるが、少なくとも正極層は伸びる)。
3)表面側電極層の伸び率と裏面側電極層の伸び率は一致しない。
4)伸び率が相違する結果、長尺シートは、伸び率が小さい電極層(もしくは収縮する電極層)が内側となる向きに湾曲する。
5)通常は、湾曲形状の内側の面をフリーローラで支えた状態で厚みを計測する。
6)この場合、湾曲する長尺シートは、図2を参照して後記するように、フリーローラと接触し始める位置Aと、フリーローラから離間する位置Bではフリーローラに隙間なく密着するものの、接触開始位置Aと接触終了位置Bの中間の領域Cではフリーローラの外周面と長尺シートの内周面との間に隙間Gが生じてしまう。
7)フリーローラを利用する厚み計測方法では、フリーローラの外周面と長尺シートの外周面との間の距離を計測するところ、フリーローラの外周面と長尺シートの内周面の間に隙間Gが生じると、厚みの計測値に隙間Gの寸法が含まれてしまい、計測値に誤差が入りこんでしまう。
【0006】
以上では、表面側電極層の伸び率と裏面側電極層の伸び率が一致しない場合を説明したが、長尺シートの中には導電箔の片面にのみ電極層が形成され、導電箔の反対側の面には電極層が形成されないものが存在する。この場合は、電極層の伸び率が導電箔の伸び率よりも大きく、長尺シートは導電箔が内側となる向きに湾曲する。この場合も、湾曲形状の内側の面をフリーローラで支えるとフリーローラの外周面と長尺シートの内周面の間に隙間Gが発生し、厚みの計測値に誤差が入りこんでしまう。
【0007】
本明細書では、前記した隙間の発生を防止する技術を開示し、長尺シートの厚みの計測精度を向上させる技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書で開示する技術は、導電箔(典型的には金属箔)の片面のみに電極層が形成された長尺シートにも、導電箔の表裏両面に電極層が形成された長尺シートにも適用可能あるが、前者の場合には下記の方法を採用する。すなわち、長尺の導電箔の片面に電極層が形成されている長尺シートの厚み計測方法であり、導電箔の片面に活物質を塗工してからロールプレスする電極層形成工程と、電極層形成工程後の長尺シートをフリーローラの外周面に沿わせた状態でフリーローラの外周面と長尺シートの外周面の間の距離を計測する計測工程を備えている。電極層形成時の電極層の伸び率は導電箔の伸び率より大きい関係にあるところ、本明細書で開示する方法では、その電極層がフリーローラの外周面に接する向きに向ける。するとその電極層がフリーローラの外周面に隙間なく密着している領域が得られ、その領域内で前記距離(フリーローラの外周面と長尺シートの外周面の間の距離)を計測する。
【0009】
電極層形成時の伸び率が大きい電極層と伸び率が小さい導電箔が積層されていると、電極層が外側を向いて導電箔が内側となる向きに湾曲する。湾曲している長尺シートをフリーローラで支える場合、通常は湾曲形状の内側に存在している導電箔をフリーローラで支える。ところが、この場合は、図2に示すように、フリーローラの外周面と長尺シートの内周面の間に隙間Gが生じてしまい、長尺シートの厚みの計測値に誤差が入りこんでしまう。長尺シートにテンションを加えることによって、隙間Gを縮小することは可能であるが、適用可能なテンションには限界があり、テンションをかけることによって隙間Gを無くすことは難しい。
【0010】
ところが長尺シートにテンションかけることによってフリーローラに押し付けた際に、外側を向いていた電極層が内側に向けて反転するようにしてフリーローラに接する関係を採用すると、フリーローラに電極層が密着してフリーローラの外周面と長尺シートの内周面の間に隙間が生じない領域が得られることが判明した。フリーローラにかける長尺シートの向きを反転させることによって、隙間の発生を防止しながら厚みを計測することが可能となる。
【0011】
導電箔の表裏両面に電極層が形成された長尺シートに対しては、下記の計測方法を適用する。この計測方法は、導電箔の表面に表面側活物質を塗工してからロールプレスする表面側電極層形成工程と、導電箔の裏面に裏面側活物質を塗工してからロールプレスする裏面側電極層形成工程と、両工程実施後の長尺シートをフリーローラの外周面に沿わせた状態でフリーローラの外周面と長尺シートの外周面の間の距離を計測する計測工程を備えている。本明細書で開示する計測方法では、電極層形成時の伸び率が大きい方の電極層をフリーローラの外周面に接する向きに向け、それによって伸び率が大きい方の電極層がフリーローラの外周面に密着する領域を得、その領域内で前記距離を計測する。
【0012】
電極層形成時の伸び率が大きい電極層と伸び率が小さい電極層が積層されていると、伸び率が大きい電極層が外側となって伸び率が小さい電極層が内側となる向きに湾曲する。内側に位置する伸び率が小さい電極層をフリーローラで支えると、フリーローラの外周面と長尺シートの内周面の間に隙間が生じてしまい、長尺シートの厚みの計測値に誤差が入りこんでしまう。長尺シートにテンションを加えることによって、隙間を縮小することは可能であるが、適用可能なテンションには限界があり、テンションをかけることによって隙間を無くすことは難しい。
【0013】
ところが長尺シートにテンションかけてフリーローラに押し付ける際に、外側を向いていた電極層(伸び率が大きい電極層)が内側に向けて反転するようにしてフリーローラに接する関係を採用すると、伸び率が大きい電極層がフリーローラに密着してフリーローラの外周面と長尺シートの内周面との間に隙間が生じない領域が得られることが判明した。フリーローラにかける長尺シートの向きを反転させることによって、隙間の発生を防止しながら厚みを計測することが可能となる。
【0014】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】通常の厚み計測方法の向きを示す。
図2】通常の厚み計測方法の問題点を示す。
図3】本明細書で開示する厚み計測方法の向きを示す。
図4】本明細書で開示する厚み計測方法で問題が解消する様を示す。
図5】電極層に加える圧縮応力と伸び率の関係を示す。
図6】通常の厚み計測方法によるときの計測結果を示す。
図7】本明細書で開示する厚み計測方法によるときの計測結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1図3は、長尺シート2をフリーローラ14で支えた状態で長尺シート2の厚みを計測する方法を示しており、非接触型の距離計測装置16が、長尺シート2の外周面までの距離を計測する。
図1図3では、フリーローラ14に対する長尺シート2の向きが反転しており、図1では負極層8がフリーローラ14に接するのに対し、図3では正極層4a,4b,4c・・がフリーローラ14に接する。
距離計測装置16とフリーローラ14の相対的位置関係は固定されており、距離計測装置16からフリーローラ14の外周までの距離は既知であることから、距離計測装置16は、フリーローラ14の外周面から長尺シート2の外周面までの距離を計測するといってもよい。本明細書では、フリーローラ14の外周面から長尺シート2の外周面までの距離を直接に計測する場合だけでなく、距離計測装置から長尺シートの外周面までの距離を計測してフリーローラの外周面から長尺シートの外周面までの距離を求めるものも、フリーローラの外周面から長尺シートの外周面までの距離を計測するという。
【0017】
(参考例)
図1では、導電箔6の上面に正極層4a,4b,4c・・が形成されており、導電箔6の下面に負極層8が形成されている。正極層4a,4b,4c・・は、長尺の導電箔6の長さ方向において断続的に形成されている。図1は、一対のローラ10,12によって正極層4aを圧縮する(ロールプレスする)工程を図示している。負極層8はそれに先だってロールプレスされている(負極層8のロールプレス工程は図示されていない)。
【0018】
図5は、横軸にロールプレス工程で加えられる圧縮応力を取り、縦軸に電極層の伸び率を示している。本明細書では、正極層4a,4b,4c・・に共通する事象を説明する場合は、正極層4と表記する。丸印は、正極層4の伸び率を示し、三角印は、負極層8の伸び率を示している。負極層8はほとんど伸びない。正確には小さな負値をとり、わずかに収縮する。これに対して、正極層4はロールプレスされることによって伸びる。正極層4は負極層8より大きく伸びる。正極層4が負極層8より大きく伸びることによって、長尺シート2は、外力をかけなければ、正極層4が外側を向き、負極層8が内側を向くように湾曲する。
【0019】
図1の場合、内側を向く負極層8をフリーローラ14によって支える。この場合、図2に示すように、フリーローラ14の外周面と負極層8の内周面の間に、隙間Gが形成されてしまう。
図2の場合、「長尺シート2の厚み=距離計測装置16からフリーローラ14の外周面までの距離-距離計測装置16の計測値-隙間Gの寸法」の関係となる。隙間Gの未知の寸法が影響するために長尺シート2の厚みの計測精度が低下する。
【0020】
(実施例)
図3では、図1に対して長尺シート2の上下が反転している。すなわち、正極層4がフリーローラ14に接する関係となっている。正極層4は負極層8より伸び率が大きく、外力が作用しなければ、正極層4が外側を向きように湾曲する。図3では、長尺シート2をフリーローラ14に架けて長尺シート2にテンションを加えることによって、長尺シート2が自然な湾曲形状から反転し、正極層4が内側を向いた状態でフリーローラ14の外周に沿って伸びるようにしている。この場合、図4に示すように、長尺シート2は接触開始位置Aから接触終了位置Bまでの間の領域Cで、隙間なくフリーローラ14の外周面に密着する。図4の場合、「長尺シート2の厚み=距離計測装置16からフリーローラ14の外周面までの距離-距離計測装置16の計測値」の関係となる。図4の関係で計測すると、図2では存在する隙間Gが発生しないことから、長尺シート2の厚みを正確に計測することができる。
【0021】
図6図2の関係で得た計測値を示し、図7図4の関係で得た計測値を示している。横軸は長尺シートの長手方向の位置を示し、縦軸は計測値を示す。矢印Dで示す区間は計測値の平均区間を示し、区間D内で複数回計測した値を平均化して区間Dの平均シート厚を計測した。
図6図7を対比すると明らかに、図6よりも図7の方が、区間D内における複数個の計測値のばらつきが小さくなっている。 また、図6よりも図7の方が、区間毎の平均値におけるばらつきも小さくなっている。ここで、計測した長尺シートは、長手方向における厚みの変化が小さくなるように特別に製造されたものであり、前記したばらつきの大きさは計測値に含まれる誤差に相当する。図6よりも図7の方が、ばらつきが小さいことを示している。すなわち、図2の関係でなく図4の関係で計測した方が正確に計測できることがわかる。特に、長尺シートの厚みが300μm以上の場合には、図2の関係でなく図4の関係で計測することによって、厚みの計測精度が大きく改善する。
本明細書で開示した技術は、負極層8が形成されていない場合にも有用である。
【0022】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0023】
2:長尺シート 4(4a,4b,4c・・):正極層 6:導電箔 8:負極層
10,12:プレスローラ 14:フリーローラ 16:非接触型距離計測装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7