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特開2024-80298トーションビーム用鋼管およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080298
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】トーションビーム用鋼管およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240606BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240606BHJP
   C21D 9/08 20060101ALI20240606BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20240606BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240606BHJP
   C21D 9/50 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C21D9/46 T
C21D9/08 F
C22C38/00 301W
C22C38/06
C22C38/58
C21D9/50 101A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193374
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福士 孝聡
(72)【発明者】
【氏名】和田 学
(72)【発明者】
【氏名】小川 敬久
【テーマコード(参考)】
4K037
4K042
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA05
4K037EA06
4K037EA09
4K037EA11
4K037EA13
4K037EA14
4K037EA15
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA28
4K037EA31
4K037EA32
4K037EA33
4K037EA35
4K037EA36
4K037EB05
4K037EB07
4K037EB08
4K037EB09
4K037FB00
4K037FD06
4K037FE01
4K037FF01
4K042AA06
4K042AA24
4K042BA01
4K042BA04
4K042BA05
4K042CA02
4K042CA03
4K042CA05
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA09
4K042CA10
4K042CA12
4K042CA13
4K042CA14
4K042DA03
4K042DC02
4K042DC03
(57)【要約】
【課題】トーションビームのユーザーでの焼鈍工程を省略しても、成形性および疲労特性共に優れたトーションビーム用鋼管およびその製造方法を提供する。
【解決手段】所定の成分を含有し、残Feおよび不可避的不純物であり、鋼管の肉厚中心位置における焼き戻しベイナイト面積分率が60%以上、転位密度が1×1014~1×1016、繰り返し降伏応力と0.3%ひずみ時の繰り返し応力-ひずみ曲線の応力値との比が0.9以上であることを特徴とする、引張強度が780~1200MPaである成形性と疲労特性に優れたトーションビーム用鋼管及びその製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管の成分が質量%で、
C:0.05~0.20%、
Si:0.03~1.40%、
Mn:1.00~3.00%、
P:0.000~0.030%、
S:0.000~0.010%、
Al:0.005~0.500%、
N:0.0005~0.0060%、
を含有し、残Feおよび不可避的不純物であり、鋼管の肉厚中心位置における焼き戻しベイナイト面積分率が60%以上、転位密度が1×1014~1×1016、繰り返し降伏応力と0.3%ひずみ時の繰り返し応力-ひずみ曲線の応力値との比が0.90以上であることを特徴とする、引張強度が780~1200MPaである成形性と疲労特性に優れたトーションビーム用鋼管。
【請求項2】
さらに質量%で、
Nb:0.000~1.000%、
Ti:0.000~1.000%、
Cu:0.00~1.00%、
Ni:0.00~1.00%、
Cr:0.00~1.00%、
Mo:0.00~0.50%、
V:0.00~0.20%、
B:0.0000~0.0100%、
W:0.00~0.10%、
Ca:0.0000~0.0200%、
Mg:0.0000~0.0200%、
Zr:0.0000~0.0200%、
REM:0.0000~0.0200%、
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の引張強度が780~1200MPaである成形性と疲労特性に優れたトーションビーム用鋼管。
【請求項3】
鋼管の成分が質量%で、
C:0.05~0.20%、
Si:0.03~1.40%、
Mn:1.00~3.00%、
P:0.000~0.030%、
S:0.000~0.010%、
Al:0.005~0.500%、
N:0.0005~0.0060%、
を含有し、残Feおよび不可避的不純物であり、鋼管の肉厚中心位置における焼き戻しベイナイト面積分率が60%以上、転位密度が1×1014~1×1016、繰り返し降伏応力と0.3%ひずみ時の繰り返し応力-ひずみ曲線の応力値との比が0.90以上であるトーションビーム用鋼管の製造方法であって、
熱間圧延工程にて所定の厚さの熱間圧延する際の巻取り温度が200℃以下であり、その後150~350℃で1~60分の熱処理を施し、その後造管を行うことを特徴とする、引張強度が780~1200MPaである成形性と疲労特性に優れたトーションビーム用鋼管の製造方法。
【請求項4】
さらに質量%で、
Nb:0.000~1.000%、
Ti:0.000~1.000%、
Cu:0.00~1.00%、
Ni:0.00~1.00%、
Cr:0.00~1.00%、
Mo:0.00~0.50%、
V:0.00~0.20%、
B:0.0000~0.0100%、
W:0.00~0.10%、
Ca:0.0000~0.0200%、
Mg:0.0000~0.0200%、
Zr:0.0000~0.0200%、
REM:0.0000~0.0200%、
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項3に記載の引張強度が780~1200MPaである成形性と疲労特性に優れたトーションビーム用鋼管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部品であるトーションビームに用いる鋼管およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車部品であるトーションビームには、部品成形時に大変形に耐えうる成形性と、部品としての高い疲労特性が求められる。疲労特性を向上させるには高強度化するのが一般的であるが、単に強度を上げると成形性が劣化し、部品への成形時に割れが発生してしまう。
【0003】
そのため、特許文献1に示すように部品成形後に焼鈍を行い、残留応力を除去することで疲労特性を確保する技術が広く使われている。しかしながらこの方法では、ユーザーの工程で成形後に600℃程度の高温で焼鈍を行う必要があり、コストがかかる上に、焼鈍後にはショットブラスト等のスケール除去も必要となり工程増となる課題があった。
【0004】
また、ユーザーでの焼鈍工程を省略するために、成形性の優れた高強度鋼管といった観点で、特許文献2では、500~700℃の高温で焼き戻したマルテンサイト鋼を使用する発明がある。しかしながら、焼き戻し温度が高温であるため、強度の低下、スケール発生等が原因で、疲労特性向上効果が限定的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4282731号公報
【特許文献2】特許第6879148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、トーションビームのユーザーでの焼鈍工程を省略しても、成形性および疲労特性共に優れたトーションビーム用鋼管およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、以下の手段を用いる。
(1)鋼管の成分が質量%で、C:0.05~0.20%、Si:0.03~1.40%、Mn:1.00~3.00%、P:0.000~0.030%、S:0.000~0.010%、Al:0.005~0.500%、N:0.0005~0.0060%、を含有し、残Feおよび不可避的不純物であり、鋼管の肉厚中心位置における焼き戻しベイナイト面積分率が60%以上、転位密度が1×1014~1×1016、繰り返し降伏応力と0.3%ひずみ時の繰り返し応力-ひずみ曲線の応力値との比が0.9以上であることを特徴とする、引張強度が780~1200MPaである成形性と疲労特性に優れたトーションビーム用鋼管。
(2)さらに質量%で、Nb:0.000~1.000%、Ti:0.000~1.000%、Cu:0.00~1.00%、Ni:0.00~1.00%、Cr:0.00~1.00%、Mo:0.00~0.50%、V:0.00~0.20%、B:0.0000~0.0100%、W:0.00~0.10%、Ca:0.0000~0.0200%、Mg:0.0000~0.0200%、Zr:0.0000~0.0200%、REM:0.0000~0.0200%、の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の引張強度が780~1200MPaである成形性と疲労特性に優れたトーションビーム用鋼管。
(3)鋼管の成分が質量%で、C:0.05~0.20%、Si:0.03~1.40%、Mn:1.00~3.00%、P:0.000~0.030%、S:0.000~0.010%、Al:0.005~0.500%、N:0.0005~0.0060%、を含有し、残Feおよび不可避的不純物であり、鋼管の肉厚中心位置における焼き戻しベイナイト面積分率が60%以上、転位密度が1×1014~1×1016、繰り返し降伏応力と0.3%ひずみ時の繰り返し応力-ひずみ曲線の応力値との比が0.90以上であるトーションビーム用鋼管の製造方法であって、熱間圧延工程にて所定の厚さの熱間圧延する際の巻取り温度が200℃以下であり、その後150~350℃で1~60分の熱処理を施し、その後造管を行うことを特徴とする、引張強度が780~1200MPaである成形性と疲労特性に優れたトーションビーム用鋼管の製造方法。
(4)さらに質量%で、Nb:0.00~1.00%、Ti:0.00~1.00%、Cu:0.00~1.00%、Ni:0.00~1.00%、Cr:0.00~1.00%、Mo:0.00~0.50%、V:0.00~0.20%、B:0.00~0.01%、W:0.00~0.10%、Ca:0.0000~0.0200%、Mg:0.0000~0.0200%、Zr:0.0000~0.0200%、REM:0.0000~0.0200%、の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項3に記載の引張強度が780~1200MPaである成形性と疲労特性に優れたトーションビーム用鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によりトーションビーム用鋼管として、高強度であるにも関わらず成形性に優れ、ユーザーで成形した後に高温の焼鈍を行わなくても疲労特性に優れたトーションビームを製造でき、コストの低減及びCO排出量の低減など環境面への貢献も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、転位密度と成形可能変位の関係を示すグラフである。
図2図2は、応力比と疲労特性との関係を示すグラフである。
図3図3は、繰り返し応力-ひずみ曲線を説明する図である。
図4図4は、熱延巻取り温度と転位密度との関係を示すグラフである。
図5図5は、焼き戻し温度と応力比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係るトーションビーム用鋼管は、引張強度を780~1200MPaとする。引張強度が780MPa未満では、トーションビームとして必要な強度を満たしておらず、十分な疲労特性も得られない。一方で1200MPa超では強度が高すぎるために、成形性が劣化し成形時に割れが発生してしまう。尚、引張強度の測定方法は、本発明のDIB用電縫鋼管における母材180°位置から、JIS 12号引張試験片を採取、採取したJIS 12号引張試験片について、JIS Z 2241に準拠して管軸方向の引張試験を行い、管軸方向の引張強さを測定する。得られた結果を、本開示の電縫鋼管の管軸方向の引張強さとする。
【0011】
次に成形性を確保するために、焼き戻しベイナイトの面積率を60%以上とする。60%未満であると、DP鋼といった認識となるため、成形の際に軟質な相と硬質な相の境界にひずみ差が生じ、割れが発生してしまう。上限は100%でも良く、100%の場合が最も望ましい。
【0012】
また焼き戻しベイナイトの面積分率測定方法は、母材部のL断面における板厚中心位置の組織を観察する。即ち、本発明の電縫鋼管における母材180°位置(即ち、電縫溶接部から鋼管周方向に180°ずれた位置。以下同じ。)のL断面(観察面)を研磨し、次いでナイタール腐食液によってエッチングする。エッチングされたL断面における表層位置および板厚中心位置の金属組織の写真(以下、「金属組織写真」ともいう)を撮影する。ここで、金属組織写真は、光学電子顕微鏡を用い、倍率1000倍にて10視野かつ10視野の合計面積で0.12mm分、撮影する。撮影した金属組織写真を画像処理(例えば(株)ニレコ製の小型汎用画像解析装置LUZEX AP)し、画像処理した結果に基づき、焼き戻しベイナイトの面積率の測定及び残部の特定を行う。面積率の測定及び残部の特定は、JIS G 0551に準拠する。
【0013】
また発明者らはトーションビームのプレス成形性を詳細に調査し、転位密度の値と相関があることを突き止めた。転位密度と成形性との関係を図1に示す。図1はトーションビームへのプレス成形を行った際の成形可能変位を示しているが、転位密度が1×1014以上では下死点である70mm変位まで割れ発生無く成形できているが、1×1014未満では成形性が低下し下死点に至る前に割れが発生してしまう。1×1016を超えても成形性は問題ないが、効果は飽和しており工業的にこのような高転位密度の鋼管を製造するのは困難なため、上限は1×1016とする。
【0014】
転位密度の測定方法としては、転位密度の測定方法は、鋼管180°位置のL方向断面(圧延方向および厚さ方向に平行な断面)の板厚中心位置をX線にて(110)(211)(220)の半価幅を測定し、Williamson-Hall法(CAMP-ISIJ VOL.17(2004)-398)にて転位密度を算出する。実際にはバラツキが生じるので、3箇所測定した平均値をここでの転位密度とする。
【0015】
また、疲労特性に関しては、転位密度が高い状況を有効に利用すべく鋭意検討した結果、本願発明のベイナイト組織に低温での焼き戻しを行うことで、転位が固溶元素と固着して移動抵抗が上がり、特に低ひずみ域の繰り返し応力-ひずみ関係を上昇させることが出来、疲労特性が改善することを見出した。具体的には図2に示すように、応力比(繰り返し降伏応力と0.3%ひずみ時の繰り返し応力-ひずみ曲線の応力値との比)と疲労特性に相関があり、応力比が0.9以上ではトーションビーム部品で疲労試験を行った際10万回以上の優れた疲労特性を示すが、0.9未満では部品での疲労寿命の規格となる10万回に満たなかった。繰り返し応力-ひずみ関係は、繰り返し負荷を加えた上での鋼材の変形抵抗を示しており、疲労特性に直結する値と考えられる。この値として繰り返し降伏応力(0.2%耐力)が一般的に知られているが、疲労特性と最も相関が強いのはより低ひずみ域である0.3%ひずみ時の値であり、本願発明に至った。
【0016】
繰り返し応力-ひずみ関係の測定方法は、引張-圧縮疲労試験片を使用し、多段振幅漸増法にて求めた。具体的には、Δε(ひずみ振幅)=±0.1%の繰り返し負荷をヒステリシスループが安定するまで20サイクル行い、その後Δε=0.2%で20サイクル負荷し、同様に0.1%ずつひずみ振幅を増やしていき、Δε=0.6%まで行った。測定の一例を図3に示す。各振幅での20サイクル目の飽和ヒステリシスループを抽出したものが、図3内の青線である。この各ひずみ振幅でのヒステリシスループの頂点を結んだものが繰り返し応力-ひずみ曲線であり、図3内に赤線で示す。この曲線は繰り返し負荷を加えた後の変形抵抗を示しており、疲労特性と特に相関が強い。この指標の一つとして、0.2%ひずみからヤング率の傾きをもって繰り返し応力ひずみ曲線と交差する点である「繰り返し降伏応力」はしばしば用いられるが、トーションビームでの疲労はより低ひずみ域での現象であるため、「応力比」(繰り返し降伏応力と0.3%ひずみ時の繰り返し応力-ひずみ曲線の応力値との比)との相関が特に強いことを見出した。本願発明の鋼では、低温での熱処理を行っている効果で、この応力比が非常に高いのが特徴であり、このためトーションビーム部品での疲労特性に優れる。
【0017】
(母材部の化学組成)
本発明では、以下の質量%の成分範囲が好ましい。
・C:0.05~0.20%、
トーションビームとして必要な強度を持たせるために、C量は0.05%以上が望ましい。一方で0.20%超となると強度が高くなり過ぎて、成形性が劣化する。
【0018】
・Si:0.03~1.40%、
Siは、脱酸のために用いられる元素である。Si含有量が0.03%未満では、脱酸が不十分となり粗大な酸化物が生成する場合がある。従って、Si含有量は0.03%以上が好ましい。一方、Si含有量が1.40%を超えるとSiOなどの介在物の生成を招き、成形時に微小ボイドが発生し成形性が劣化する場合がある。従って、Si含有量は1.40%以下が好ましい。
【0019】
・Mn:1.00~3.00%、
Mnは焼き入れ性を向上させる元素であり、本発明の高強度鋼を造り込むには、Mn量が1.00%以上が好ましい。一方で、3.00%を超えると粗大なMnSが生成し成形性が劣化する懸念があるため、3.00%以下が好ましい。
【0020】
・P:0.000~0.030%、
Pは、鋼中に不純物として含まれ得る元素である。P含有量が0.030%を超えると、結晶粒界に濃化しやすくなり、成形性が劣化する場合がある。従って、P含有量は0.030%以下が好ましい。一方、P含有量は、本発明の場合、実質的に不純物であるので0.000%であってもよい。
【0021】
・S:0.000~0.010%、
Sは、鋼中に不純物として含まれ得る元素である。S含有量が0.010%を超えると、粗大なMnSが生成し、成形性が劣化する場合がある。従って、S含有量は0.010%以下が好ましい。一方、S含有量は、本発明の場合、実質的に不純物であるので0.000%であってもよい。
【0022】
・Al:0.005~0.500%、
Alは、AlNを生成し、ピンニング効果によりオーステナイト粒の微細化に寄与し、その結果として、強度寄与する元素である。Al含有量が0.005%未満では、強度への寄与は期待できない。従って、Al含有量は0.005%以上が好ましい。一方、Al含有量が0.500%を超えると粗大なAlNが析出し、成形性が劣化する場合がある。従って、Al含有量は0.500%以下が好ましい。
【0023】
・N:0.0005~0.0060%、
Nは、AlNを生成し、ピンニング効果によりオーステナイト粒の微細化に寄与し、その結果として、強度に寄与する元素である。N含有量が0.0005%未満では、強度への寄与は期待できない。従って、N含有量は0.0005%以上が好ましい。一方、N含有量が0.0060%を超えると粗大なAlNが析出し、成形性が劣化する場合がある。従って、N含有量は0.0060%以下が好ましい。
【0024】
また選択元素として、強度等に影響を及ぼす以下の元素を1種または2種以上含有してもよい。
・Nb:0.000~1.000%、
Nbは任意の元素であり、含有されなくてもよい。即ち、Nb含有量は0.000%であってもよい。含有する場合は0.000%超である。Nbは、NbCを生成し、ピンニング効果によりオーステナイト粒の微細化に寄与し、その結果として強度に寄与する元素である。一方、Nb含有量が1.000%を超えると粗大なNbCが析出し、成形性が劣化する場合がある。従って、Nb含有量は1.000%以下が好ましい。
【0025】
・Ti:0.000~1.000%、
Tiは任意の元素であり、含有されなくてもよい。即ち、Ti含有量は0.000%であってもよい。含有する場合は0.000%超である。Tiは析出することで強度に寄与する元素である。一方で、過剰に添加すると、粗大なTiNが生成し、成形性を劣化させる懸念があるため、1.000%以下が好ましい。
【0026】
・Cu:0.00~1.00%、
Cuは、任意の元素であり、含有されなくてもよい。即ち、Cu含有量は0.00%であってもよい。含有する場合は0.00%超である。Cuは、鋼の高強度化に寄与する元素である。一方、Cuを過剰に含有させると、効果が飽和してコストの上昇を招く場合がある。従って、1.00%以下が好ましい。
【0027】
・Ni:0.00~1.00%、
Niは、任意の元素であり、含有されなくてもよい。即ち、Ni含有量は0.00%であってもよい。含有する場合は0.00%超である。Niは、鋼の高強度化に寄与する元素である。一方、Niを過剰に含有させると、効果が飽和してコストの上昇を招く場合がある。従って、1.00%以下が好ましい。
【0028】
・Cr:0.00~1.00%、
Crは、任意の元素であり、含有されなくてもよい。即ち、Cr含有量は0.00%であってもよい。含有する場合は0.00%超である。Crは、鋼の高強度化に寄与する元素である。一方、Crを過剰に含有させると、効果が飽和してコストの上昇を招く場合がある。従って、1.00%以下が好ましい。
【0029】
・Mo:0.00~0.50%、
Moは、任意の元素であり、含有されなくてもよい。即ち、Mo含有量は0.00%であってもよい。含有する場合は0.00%超である。Moは、鋼の高強度化に寄与する元素である。一方、Moを過剰に含有させると、効果が飽和してコストの上昇を招く場合がある。従って、0.50%以下が好ましい。
【0030】
・V:0.00~0.20%、
Vは、任意の元素であり、含有されなくてもよい。即ち、V含有量は0.00%であってもよい。含有する場合は0.00%超である。Vは、鋼の高強度化に寄与する元素である。一方、Vを過剰に含有させると、効果が飽和してコストの上昇を招く場合がある。従って、0.20%以下が好ましい。
【0031】
・B:0.0000~0.0100%、
Bは、任意の元素であり、含有されなくてもよい。即ち、B含有量は0.0000%であってもよい。含有する場合は0.0000%超である。Bは焼き入れ性を大きく向上させ、鋼の高強度化に寄与する元素である。一方で、0.0100%を超過するとBの粗大な析出物が生じ成形性が劣化する懸念があるため、0.0100%以下が好ましい。
【0032】
・W:0.00~0.10%、
Wは、任意の元素であり、含有されなくてもよい。即ち、W含有量は0.00%であってもよい。含有する場合は0.00%超である。Wは、鋼の高強度化に寄与する元素である。一方、Wを過剰に含有させると、効果が飽和してコストの上昇を招く場合がある。従って、0.10%以下が好ましい。
【0033】
・Ca:0.0000~0.0200%、
Caは、任意の元素であり、含有されなくてもよい。即ち、Ca含有量は0.0000%であってもよい。含有する場合は0.0000%超である。Caは、介在物を制御し、成形性をさらに向上させたり強度に影響を及ぼす効果を有する。一方、Caを過剰に含有させると、粗大な介在物が生じ、逆に成形性が劣化する場合がある。従って0.0200%以下が好ましい。
【0034】
・Mg:0.0000~0.0200%、
Mgは、任意の元素であり、含有されなくてもよい。即ち、Mg含有量は0.0000%であってもよい。含有する場合は0.0000%超である。Mgは、介在物を制御し、成形性をさらに向上させたり強度に影響を及ぼす効果を有する。一方、Mgを過剰に含有させると、粗大な介在物が生じ、成形性が劣化する場合がある。従って0.02%以下が好ましい。
【0035】
・Zr:0.0000~0.0200%、
Zrは、任意の元素であり、含有されなくてもよい。即ち、Zr含有量は0.0000%であってもよい。含有する場合は0.0000%超である。Zrは、介在物を制御し、成形性をさらに向上させたり強度に影響を及ぼす効果を有する。一方、Zrを過剰に含有させると、粗大な介在物が生じ、成形性が劣化する場合がある。従って0.0200%以下が好ましい。
【0036】
・REM:0.0000~0.0200%、
REMは、任意の元素であり、含有されなくてもよい。即ち、REM含有量は0.0000%であってもよい。含有する場合は0.0000%超である。ここで、「REM」は希土類元素、即ち、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群から選択される少なくとも1種の元素を指す。REMは、介在物を制御し、成形性をさらに向上させたり強度に影響を及ぼす効果を有する。一方、REMを過剰に含有させると、粗大な介在物が生じ、成形性が劣化する場合がある。従って0.0200%以下が好ましい。
【0037】
(製法)
製法は、製鋼⇒熱延⇒熱処理⇒造管である。この工程の中で熱処理を行う順番は、造管の後でも良い。本発明に関しては、熱延工程および熱処理工程に特徴があり、製鋼工程と造管工程は一般的な製法で良い。
【0038】
熱延では、目標の板厚まで仕上げ圧延を行った後に、温度が200℃以下となるまで水冷して巻取りを行う。これが200℃超となると、オートテンパー効果により転位が回復して転位密度が減少し1×1014以上を確保できず、成形性が劣化する。図4に巻取り温度と転位密度の関係を示す。
【0039】
また熱処理工程では、150~350℃の温度で1~60分の熱処理を行う。熱処理温度が150℃未満であると、転位を固着する効果が不十分であり、応力比が低くなってしまい、疲労特性が優れない。一方で350℃超であると、焼き戻し効果により強度が低下してしまい、部材として必要な強度が満たせなくなる。また、転位も回復して転位密度が減少し、成形性が劣化する。図5に応力比、強度と熱処理時間の関係を示す。尚、時間が1分未満であると、転位を固着する効果が不十分であり、応力比が低くなってしまい、疲労特性が優れない。一方で60分超であると、効果が飽和しているためにコストの上昇を招く上に、スケールも発生し成形性および疲労特性が低下する懸念がある。
【0040】
また、製法は製鋼⇒熱延⇒造管⇒プレス成形⇒熱処理の順で行った際も前記した内容と同様の特性を得ることが出来る。但しその際も優れた成形性を得るために熱延条件は前記した条件で無ければならず、優れた疲労特性を得るために熱処理条件は前記した条件でなければならない。しかしながらこの工程では、強度、成形性および疲労特性共には同様に優れるものの、ユーザーでプレス成形を行った後に熱処理を実施せねばならず、熱処理工程の省略にはならないためコストの低減には繋がらない。
【実施例0041】
表1の成分の鋼を用い、表2の製法で試験を行った。尚、製法では、製鋼⇒熱延⇒熱処理⇒造管の順で、φ100×t3.0mmサイズの鋼管を製造し、前記した測定方法にて、焼き戻しベイナイト面積率、引張強度、転位密度、応力比を求めた。その後トーションビーム部品形状へのプレス成形を行った。下死点である70mm変位まで割れなく成形できたものは成形可能、途中で割れが発生したものはその変位を成形可能変位とした。その後成形したトーションビーム部品の疲労試験(き裂発生点に相当する位置の応力振幅が500MPa)を実施し、疲労き裂が発生するまでの疲労寿命を求めた。但し実施例9および10では、製鋼⇒熱延⇒造管⇒プレス成形⇒熱処理の順で行った。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
本願発明の実施例1~10では、全て下死点である70mm変位まで割れ発生無くプレス成形が可能であった。また、部品としての要求特性である10万回の疲労寿命を全て満足した。一方で比較例1では、巻取り温度が高いために転位密度が低下してしまい、プレス成形の途中で割れが発生した。比較例2では、熱処理温度が低いために応力比が低く、疲労寿命が目標値を満足しなかった。比較例3では、熱処理温度が高いために焼き戻しの効果により引張強度が低下し、疲労寿命の目標値を満足しなかった。また、転位が回復して転位密度が低下し、成形途中で割れが発生した。比較例4では、熱処理時間が短いために応力比が低く、疲労寿命が目標値を満足しなかった。比較例5では、熱処理時間が長いためにスケールが発生し、スケールが起点となって成形中に割れが発生、および疲労寿命が低下した。比較例6では、巻取り温度が高温でありフェライトが多く発生して、フェライトと焼き戻しベイナイトのDP組織となり、焼き戻しベイナイト面積率が低かった。また、転位密度も低いためにプレス成形性が優れず、早期に割れが発生した。
図1
図2
図3
図4
図5