(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080306
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】円形アレーアンテナ装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 3/26 20060101AFI20240606BHJP
H01Q 21/20 20060101ALI20240606BHJP
H01Q 13/08 20060101ALI20240606BHJP
H01Q 21/24 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
H01Q3/26 Z
H01Q21/20
H01Q13/08
H01Q21/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193388
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 仁
(72)【発明者】
【氏名】平林 和雄
(72)【発明者】
【氏名】野呂 崇徳
【テーマコード(参考)】
5J021
5J045
【Fターム(参考)】
5J021AA08
5J021AB06
5J021DB01
5J021GA06
5J021JA07
5J045AA12
5J045AA13
5J045AA21
5J045AB05
5J045DA10
5J045NA03
(57)【要約】
【課題】本開示は、アンテナの指向性のうちの干渉除去方向にヌルを形成するにあたり、省スペース化及び低コスト化を図るとともに、干渉除去方向を変化させるときに、干渉除去方向にヌルを高速に形成することを目的とする。
【解決手段】本開示は、m個のアンテナ素子を円形状に配列する円形アレーアンテナ6と、m個のアンテナ素子の円形状の配列面内において、円形アレーアンテナ6の指向性のうちの一のアンテナ素子の正面方向にヌルを形成するように、他の(m-1)個のアンテナ素子の励振振幅及び励振位相に対して、当該一のアンテナ素子の励振振幅差及び励振位相差を制御する励振振幅位相制御部8と、を備える円形アレーアンテナ装置N2である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
m個のアンテナ素子を円形状に配列する円形アレーアンテナと、
前記m個のアンテナ素子の円形状の配列面内において、前記円形アレーアンテナの指向性を無指向性とするように、前記m個のアンテナ素子の励振振幅及び励振位相について、同一励振振幅及び同一励振位相に制御し、前記m個のアンテナ素子の円形状の配列面内において、前記円形アレーアンテナの指向性のうちの一のアンテナ素子の正面方向にヌルを形成するように、他の(m-1)個のアンテナ素子の励振振幅及び励振位相に対して、前記一のアンテナ素子の励振振幅差及び励振位相差を制御する励振振幅位相制御部と、
を備えることを特徴とする円形アレーアンテナ装置。
【請求項2】
前記励振振幅位相制御部は、前記一のアンテナ素子の励振状態における、前記一のアンテナ素子の正面方向の放射振幅を、前記他の(m-1)個のアンテナ素子の励振状態における、前記一のアンテナ素子の正面方向の放射振幅と等しくするように、かつ、前記一のアンテナ素子の励振状態における、前記一のアンテナ素子の正面方向の放射位相を、前記他の(m-1)個のアンテナ素子の励振状態における、前記一のアンテナ素子の正面方向の放射位相と逆位相になるように、前記他の(m-1)個のアンテナ素子の励振振幅及び励振位相に対して、前記一のアンテナ素子の励振振幅差及び励振位相差を制御する
ことを特徴とする、請求項1に記載の円形アレーアンテナ装置。
【請求項3】
前記励振振幅位相制御部は、前記m個のアンテナ素子の円形状の配列面内において、前記円形アレーアンテナの指向性のうちの隣接するアンテナ素子の各正面方向の中間方向にヌルを形成するように、他の(m-2)個のアンテナ素子の励振振幅及び励振位相に対して、前記隣接するアンテナ素子の励振振幅差及び励振位相差を制御する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の円形アレーアンテナ装置。
【請求項4】
前記励振振幅位相制御部は、前記隣接するアンテナ素子の励振状態における、前記隣接するアンテナ素子の各正面方向の中間方向の放射振幅を、前記他の(m-2)個のアンテナ素子の励振状態における、前記隣接するアンテナ素子の各正面方向の中間方向の放射振幅と等しくするように、かつ、前記隣接するアンテナ素子の励振状態における、前記隣接するアンテナ素子の各正面方向の中間方向の放射位相を、前記他の(m-2)個のアンテナ素子の励振状態における、前記隣接するアンテナ素子の各正面方向の中間方向の放射位相と逆位相になるように、前記他の(m-2)個のアンテナ素子の励振振幅及び励振位相に対して、前記隣接するアンテナ素子の励振振幅差及び励振位相差を制御する
ことを特徴とする、請求項3に記載の円形アレーアンテナ装置。
【請求項5】
各アンテナ素子は、互いに直交する偏波に共用される偏波共用パッチアンテナであり、
放射パッチと、グランド板と、前記放射パッチと前記グランド板との間の誘電体層と、
前記放射パッチに配置され、前記互いに直交する偏波のうちの第1偏波を励振し、前記放射パッチの高次モードの電流分布を回避する位置に配置される第1偏波ポートと、
前記放射パッチに配置され、前記互いに直交する偏波のうちの第2偏波を励振し、前記放射パッチの高次モードの電流分布を回避する位置に配置される第2偏波ポートと、
を備えることを特徴とする、請求項1に記載の円形アレーアンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数のアンテナ素子を円形状に配列する円形アレーアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
LTE(Long Term Evolution)等の基地局等は、通常時ではアンテナの指向性を無指向性とすることが要求されており、干渉除去時ではアンテナの指向性のうちの干渉除去方向にヌルを形成することが要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Warren L. Stutzman、Gary A. Thiele著 「Antenna Theory and Design」、Wiley、2012年5月22日、p.94
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術の無指向性/ヌルアンテナ装置の構成を
図1に示す。無指向性/ヌルアンテナ装置N1は、無指向性アンテナ1、ヌルアンテナ2(特許文献1及び非特許文献1に開示)、アンテナ送受信部3、アンテナ切替部4及びアンテナ回転部5を備える。
【0006】
無指向性アンテナ1は、無指向性/ヌルアンテナ装置N1の指向性を無指向性とする。ヌルアンテナ2は、無指向性/ヌルアンテナ装置N1の指向性のうちの干渉除去方向にヌルを形成する。アンテナ送受信部3は、無指向性/ヌルアンテナ装置N1の送受信部である。アンテナ切替部4は、通常時では無指向性アンテナ1に切り替え、干渉除去時ではヌルアンテナ2に切り替える。アンテナ回転部5は、ヌルアンテナ2を物理的に回転する。
【0007】
しかし、無指向性/ヌルアンテナ装置N1は、無指向性アンテナ1及びヌルアンテナ2をともに備えるため、省スペース化及び低コスト化を図ることができない。そして、無指向性/ヌルアンテナ装置N1は、ヌルアンテナ2を物理的に回転するため、干渉除去方向を変化させるときに、干渉除去方向にヌルを高速に形成することができない。
【0008】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、アンテナの指向性のうちの干渉除去方向にヌルを形成するにあたり、省スペース化及び低コスト化を図るとともに、干渉除去方向を変化させるときに、干渉除去方向にヌルを高速に形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、円形アレーアンテナの指向性のうちの一のアンテナ素子の正面方向にヌルを形成するように、他のアンテナ素子の励振振幅及び励振位相に対して、一のアンテナ素子の励振振幅差及び励振位相差を制御することとした。
【0010】
具体的には、本開示は、m個のアンテナ素子を円形状に配列する円形アレーアンテナと、前記m個のアンテナ素子の円形状の配列面内において、前記円形アレーアンテナの指向性を無指向性とするように、前記m個のアンテナ素子の励振振幅及び励振位相について、同一励振振幅及び同一励振位相に制御し、前記m個のアンテナ素子の円形状の配列面内において、前記円形アレーアンテナの指向性のうちの一のアンテナ素子の正面方向にヌルを形成するように、他の(m-1)個のアンテナ素子の励振振幅及び励振位相に対して、前記一のアンテナ素子の励振振幅差及び励振位相差を制御する励振振幅位相制御部と、を備えることを特徴とする円形アレーアンテナ装置である。
【0011】
この構成によれば、円形アレーアンテナのみを備えるため、省スペース化及び低コスト化を図ることができ、円形アレーアンテナを電子的に制御するため、干渉除去方向を変化させるときに、干渉除去方向にヌルを高速に形成することができる。
【0012】
また、本開示は、前記励振振幅位相制御部は、前記一のアンテナ素子の励振状態における、前記一のアンテナ素子の正面方向の放射振幅を、前記他の(m-1)個のアンテナ素子の励振状態における、前記一のアンテナ素子の正面方向の放射振幅と等しくするように、かつ、前記一のアンテナ素子の励振状態における、前記一のアンテナ素子の正面方向の放射位相を、前記他の(m-1)個のアンテナ素子の励振状態における、前記一のアンテナ素子の正面方向の放射位相と逆位相になるように、前記他の(m-1)個のアンテナ素子の励振振幅及び励振位相に対して、前記一のアンテナ素子の励振振幅差及び励振位相差を制御することを特徴とする円形アレーアンテナ装置である。
【0013】
この構成によれば、一のアンテナ素子の励振状態及び他のアンテナ素子の励振状態における、一のアンテナ素子の正面方向のそれぞれの放射を弱め合うように合成するため、一のアンテナ素子の正面方向にヌルを形成することができる。
【0014】
また、本開示は、前記励振振幅位相制御部は、前記m個のアンテナ素子の円形状の配列面内において、前記円形アレーアンテナの指向性のうちの隣接するアンテナ素子の各正面方向の中間方向にヌルを形成するように、他の(m-2)個のアンテナ素子の励振振幅及び励振位相に対して、前記隣接するアンテナ素子の励振振幅差及び励振位相差を制御することを特徴とする円形アレーアンテナ装置である。
【0015】
この構成によれば、一のアンテナ素子の正面方向にヌルを形成するとともに、隣接アンテナ素子の各正面方向の中間方向にヌルを形成するため、円形アレーアンテナの全放射方向(上記の正面方向及び中間方向を含む)に所望のヌルを形成することができる。
【0016】
また、本開示は、前記励振振幅位相制御部は、前記隣接するアンテナ素子の励振状態における、前記隣接するアンテナ素子の各正面方向の中間方向の放射振幅を、前記他の(m-2)個のアンテナ素子の励振状態における、前記隣接するアンテナ素子の各正面方向の中間方向の放射振幅と等しくするように、かつ、前記隣接するアンテナ素子の励振状態における、前記隣接するアンテナ素子の各正面方向の中間方向の放射位相を、前記他の(m-2)個のアンテナ素子の励振状態における、前記隣接するアンテナ素子の各正面方向の中間方向の放射位相と逆位相になるように、前記他の(m-2)個のアンテナ素子の励振振幅及び励振位相に対して、前記隣接するアンテナ素子の励振振幅差及び励振位相差を制御することを特徴とする円形アレーアンテナ装置である。
【0017】
この構成によれば、隣接アンテナ素子の励振状態及び他のアンテナ素子の励振状態における、隣接アンテナ素子の各正面方向の中間方向のそれぞれの放射を弱め合うように合成するため、隣接アンテナ素子の各正面方向の中間方向にヌルを形成することができる。
【0018】
また、本開示は、各アンテナ素子は、互いに直交する偏波に共用される偏波共用パッチアンテナであり、放射パッチと、グランド板と、前記放射パッチと前記グランド板との間の誘電体層と、前記放射パッチに配置され、前記互いに直交する偏波のうちの第1偏波を励振し、前記放射パッチの高次モードの電流分布を回避する位置に配置される第1偏波ポートと、前記放射パッチに配置され、前記互いに直交する偏波のうちの第2偏波を励振し、前記放射パッチの高次モードの電流分布を回避する位置に配置される第2偏波ポートと、を備えることを特徴とする円形アレーアンテナ装置である。
【0019】
この構成によれば、アンテナ構造を複雑しないで、両偏波ポートの間のアイソレーションを向上させるとともに、主偏波に対する交差偏波を発生させないことができる。
【0020】
なお、上記各開示の発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0021】
このように、本開示は、アンテナの指向性のうちの干渉除去方向にヌルを形成するにあたり、省スペース化及び低コスト化を図るとともに、干渉除去方向を変化させるときに、干渉除去方向にヌルを高速に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】従来技術の無指向性/ヌルアンテナ装置の構成を示す図である。
【
図2】本開示の円形アレーアンテナ装置の構成を示す図である。
【
図3】本開示の一のアンテナ素子の正面方向のヌル形成を示す図である。
【
図4】本開示のヌル形成の分解能向上の解決課題を示す図である。
【
図5】本開示の隣接するアンテナ素子の中間方向のヌル形成を示す図である。
【
図6】本開示のヌル形成の分解能向上の解決結果を示す図である。
【
図7】本開示の励振振幅位相制御部の構成を示す図である。
【
図8】本開示の励振振幅位相誤差によるヌル形成への影響を示す図である。
【
図9】本開示の動作周波数変動によるヌル形成への影響を示す図である。
【
図10】本開示の偏波共用パッチアンテナの構成を示す図である。
【
図11】本開示の偏波共用パッチアンテナの解決手段を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0024】
(本開示の円形アレーアンテナ装置の構成)
本開示の円形アレーアンテナ装置の構成を
図2に示す。円形アレーアンテナ装置N2は、円形アレーアンテナ6、アンテナ送受信部7及び励振振幅位相制御部8を備える。
【0025】
円形アレーアンテナ6は、8個のアンテナ素子A1~A8を円形状に配列する。
図2では、8個のアンテナ素子A1~A8が、円形状に配列されているが、変形例として、m個(mは3以上の整数)のアンテナ素子が、円形状に配列されてもよい。
図2では、パッチアンテナ素子が、円形状に配列されているが、変形例として、線状アンテナ素子等が円形状に配列されてもよい。
図4を考慮して、円形アレーアンテナ6の指向性が、リップルを増大させないためには、m個(mは3以上の整数)のアンテナ素子の素子間隔は、円形アレーアンテナ6の中心波長λの0.5倍以下であることが望ましい。
【0026】
アンテナ送受信部7は、円形アレーアンテナ装置N2の送受信部である。励振振幅位相制御部8は、8個のアンテナ素子A1~A8の円形状の配列面内において、円形アレーアンテナ6の指向性を無指向性とするように、8個のアンテナ素子A1~A8の励振振幅及び励振位相について、同一励振振幅及び同一励振位相に制御する。そして、励振振幅位相制御部8は、8個のアンテナ素子A1~A8の円形状の配列面内において、円形アレーアンテナ6の指向性のうちの干渉除去方向にヌルを形成するように、8個のアンテナ素子A1~A8の励振振幅及び励振位相について、異なる励振振幅及び異なる励振位相に制御する。以下に、励振振幅位相制御部8が、干渉除去方向にヌルを形成する方法を説明する。
【0027】
(本開示の一のアンテナ素子の正面方向のヌル形成)
本開示の一のアンテナ素子の正面方向のヌル形成を
図3に示す。励振振幅位相制御部8は、8個のアンテナ素子A1~A8の円形状の配列面内において、円形アレーアンテナ6の指向性のうちの一のアンテナ素子(例えば、A1)の正面方向にヌルを形成するように、他の7個のアンテナ素子(例えば、A2~A8)の励振振幅及び励振位相に対して、当該一のアンテナ素子の励振振幅差及び励振位相差を制御する。
【0028】
具体的には、励振振幅位相制御部8は、当該一のアンテナ素子のみの励振状態における、当該一のアンテナ素子の正面方向の放射振幅を、当該他の7個のアンテナ素子のみの励振状態における、当該一のアンテナ素子の正面方向の放射振幅と等しくすればよい。そして、励振振幅位相制御部8は、当該一のアンテナ素子のみの励振状態における、当該一のアンテナ素子の正面方向の放射位相を、当該他の7個のアンテナ素子のみの励振状態における、当該一のアンテナ素子の正面方向の放射位相と逆位相にすればよい。
【0029】
図3の左欄では、アンテナ素子A1のみの励振状態において、励振振幅は0dBに制御され、励振位相は0°に制御され、放射パターンは電磁界計算又はアレー計算等により計算される。そして、アンテナ素子A2~A8のみの励振状態において、各励振振幅は0dBに制御され、各励振位相は0°に制御され、放射パターンは電磁界計算又はアレー計算等により計算される。なお、円形アレーアンテナ6の指向性が無指向性であるときには、全ての励振振幅は0dBに制御され、全ての励振位相は0°に制御される。
【0030】
すると、アンテナ素子A1のみの励振状態において、アンテナ素子A2~A8のみの励振状態と比べて、アンテナ素子A1の正面方向の放射振幅は10dBだけ大きく、アンテナ素子A1の正面方向の放射位相は65°だけ遅れる。なお、
図7を考慮して、アンテナ素子A1への分配電力は、全電力の1/8倍=-9dBであり、アンテナ素子A2~A8への分配電力は、全電力の7/8倍=-0.6dBであり、アンテナ素子A2~A8に対するアンテナ素子A1における分配損失差は、8.4dBである。
【0031】
図3の右欄では、アンテナ素子A1のみの励振状態において、励振振幅は-1.6dB(=-(10-8.4)dB)に制御され、励振位相は115°(=(180-65)°)に制御される。そして、アンテナ素子A2~A8のみの励振状態において、各励振振幅は0dBのままに維持され、各励振位相は0°のままに維持される。
【0032】
すると、アンテナ素子A1のみの励振状態において、アンテナ素子A2~A8のみの励振状態と比べて、アンテナ素子A1の正面方向の放射振幅は等しくなり、アンテナ素子A1の正面方向の放射位相は逆位相となる。よって、アンテナ素子A1のみの励振状態と、アンテナ素子A2~A8のみの励振状態と、の同振幅・逆位相の放射合成結果として、アンテナ素子A1の正面方向に-61dBのヌルが形成される。
【0033】
このように、円形アレーアンテナ6のみを備えるため、省スペース化及び低コスト化を図ることができ、円形アレーアンテナ6を電子的に制御するため、干渉除去方向を変化させるときに、干渉除去方向にヌルを高速に形成することができる。そして、一のアンテナ素子(例えば、A1)の励振状態及び他のアンテナ素子(例えば、A2~A8)の励振状態における、当該一のアンテナ素子の正面方向のそれぞれの放射を弱め合うように合成するため、当該一のアンテナ素子の正面方向にヌルを形成することができる。
【0034】
本開示のヌル形成の分解能向上の解決課題を
図4に示す。
図4の左欄では、円形アレーアンテナ6は、8個のアンテナ素子を円形状に配列する。
図4の右欄では、円形アレーアンテナ6’は、16個のアンテナ素子を円形状に配列する。
図4の左欄及び右欄では、各アンテナ素子の大きさ(パッチ素子のグランド板の大きさ等)は、同一である。
【0035】
図4の左欄では、8個のアンテナ素子の素子間隔dは、円形アレーアンテナ6の中心波長λの0.5倍以下となり、円形アレーアンテナ6の指向性は、リップルを増大させない。そして、円形アレーアンテナ6の直径は、より小型化される。しかし、円形アレーアンテナ6のヌル分解能は、8個のアンテナ素子の各正面方向に限定される。
【0036】
図4の右欄では、円形アレーアンテナ6’のヌル分解能は、16個のアンテナ素子の各正面方向に拡張される。しかし、16個のアンテナ素子の素子間隔dは、円形アレーアンテナ6’の中心波長λの0.5倍より大きく、円形アレーアンテナ6’の指向性は、リップルを増大させる。そして、円形アレーアンテナ6’の直径は、より大型化される。
【0037】
(本開示の隣接するアンテナ素子の中間方向のヌル形成)
本開示の隣接するアンテナ素子の中間方向のヌル形成を
図5に示す。円形アレーアンテナ6は、8個のアンテナ素子A1~A8を円形状に維持する。励振振幅位相制御部8は、8個のアンテナ素子A1~A8の円形状の配列面内において、円形アレーアンテナ6の指向性のうちの隣接するアンテナ素子(例えば、A1、A2)の各正面方向の中間方向にヌルを形成するように、他の6個のアンテナ素子(例えば、A3~A8)の励振振幅及び励振位相に対して、当該隣接するアンテナ素子の励振振幅差及び励振位相差を制御する。
【0038】
具体的には、励振振幅位相制御部8は、当該隣接するアンテナ素子のみの励振状態における、当該隣接するアンテナ素子の各正面方向の中間方向の放射振幅を、当該他の6個のアンテナ素子のみの励振状態における、当該隣接するアンテナ素子の各正面方向の中間方向の放射振幅と等しくすればよい。そして、励振振幅位相制御部8は、当該隣接するアンテナ素子のみの励振状態における、当該隣接するアンテナ素子の各正面方向の中間方向の放射位相を、当該他の6個のアンテナ素子のみの励振状態における、当該隣接するアンテナ素子の各正面方向の中間方向の放射位相と逆位相にすればよい。
【0039】
図5の左欄では、アンテナ素子A1、A2のみの励振状態において、各励振振幅は0dBに制御され、各励振位相は0°に制御され、放射パターンは電磁界計算又はアレー計算等により計算される。そして、アンテナ素子A3~A8のみの励振状態において、各励振振幅は0dBに制御され、各励振位相は0°に制御され、放射パターンは電磁界計算又はアレー計算等により計算される。なお、円形アレーアンテナ6の指向性が無指向性であるときには、全ての励振振幅は0dBに制御され、全ての励振位相は0°に制御される。
【0040】
すると、アンテナ素子A1、A2のみの励振状態において、アンテナ素子A3~A8のみの励振状態と比べて、アンテナ素子A1、A2の各正面方向の中間方向の放射振幅はadB(具体的な数値は不図示)だけ大きく、アンテナ素子A1、A2の各正面方向の中間方向の放射位相はθ°(具体的な数値は不図示)だけ遅れる。なお、
図7を考慮して、アンテナ素子A1、A2への分配電力は、全電力の2/8倍=-6dBであり、アンテナ素子A3~A8への分配電力は、全電力の6/8倍=-1.2dBであり、アンテナ素子A3~A8に対するアンテナ素子A1、A2における分配損失差は、4.8dBである。
【0041】
図5の右欄では、アンテナ素子A1、A2のみの励振状態において、各励振振幅は(4.8-a)dB(=-(a-4.8)dB)に制御され、各励振位相は(180-θ)°に制御される。そして、アンテナ素子A3~A8のみの励振状態において、各励振振幅は0dBのままに維持され、各励振位相は0°のままに維持される。
【0042】
すると、アンテナ素子A1、A2のみの励振状態において、アンテナ素子A3~A8のみの励振状態と比べて、アンテナ素子A1、A2の各正面方向の中間方向の放射振幅は等しくなり、アンテナ素子A1、A2の各正面方向の中間方向の放射位相は逆位相となる。よって、アンテナ素子A1、A2のみの励振状態と、アンテナ素子A3~A8のみの励振状態と、の同振幅・逆位相の放射合成結果として、アンテナ素子A1、A2の各正面方向の中間方向に-60dB(
図3の-61dBと同等)のヌルが形成される。
【0043】
本開示のヌル形成の分解能向上の解決結果を
図6に示す。
図6の左欄では、励振振幅位相制御部8は、一のアンテナ素子(例えば、A1又はA2)の正面方向にヌルを形成するのみである。
図6の右欄では、励振振幅位相制御部8は、当該一のアンテナ素子(例えば、A1又はA2)の正面方向にヌルを形成するとともに、隣接するアンテナ素子(例えば、A1及びA2)の各正面方向の中間方向にヌルを形成する。
【0044】
図6の左欄では、アンテナ素子A1の正面方向(0°)に、深さが-61dBであり-20dB幅が29°であるヌルが形成される。そして、アンテナ素子A2の正面方向(45°)に、深さが-61dBであり-20dB幅が29°であるヌルが形成される。すると、アンテナ素子A1、A2の各正面方向の中間方向(22.5°)に、上記の放射パターンの交点(-14dB)が出現する。よって、円形アレーアンテナ6の全放射方向に、所望の-20dBのヌルが形成されない。これは、実際の-20dB幅(=29°)が、所望の-20dB幅(=360°/8=45°)より狭いことと合致する。
【0045】
図6の右欄では、アンテナ素子A1の正面方向(0°)に、深さが-61dBであり-20dB幅が29°であるヌルが形成される。そして、アンテナ素子A1、A2の各正面方向の中間方向(22.5°)に、深さが-60dBであり-20dB幅が23°であるヌルが形成される。すると、0°と22.5°の中間方向11.3°に、上記の放射パターンの交点(-24dB)が出現する。よって、円形アレーアンテナ6の全放射方向に、所望の-20dBのヌルが形成される。これは、実際の-20dB幅(=29°、23°)が、所望の-20dB幅(=360°/16=22.5°)より広いことと合致する。
【0046】
このように、一のアンテナ素子(例えば、A1)の正面方向にヌルを形成するとともに、隣接アンテナ素子(例えば、A1、A2)の各正面方向の中間方向にヌルを形成するため、円形アレーアンテナ6の全放射方向(上記の正面方向及び中間方向を含む)に所望のヌルを形成することができる。そして、隣接アンテナ素子(例えば、A1、A2)の励振状態及び他のアンテナ素子(例えば、A3~A8)の励振状態における、当該隣接アンテナ素子の各正面方向の中間方向のそれぞれの放射を弱め合うように合成するため、当該隣接アンテナ素子の各正面方向の中間方向にヌルを形成することができる。
【0047】
(本開示の励振振幅位相制御部の構成)
本開示の励振振幅位相制御部の構成を
図7に示す。励振振幅位相制御部8は、8分配部81及び励振振幅位相切替部82-1~82-8を備える。
【0048】
8分配部81は、アンテナ素子A1~A8へ電力を等分配する。これは、励振振幅位相制御部8が、円形アレーアンテナ6の指向性を無指向性とするためである。
【0049】
励振振幅位相切替部82-1~82-8は、アンテナ素子A1~A8の各励振振幅及び各励振位相を切り替える。これは、励振振幅位相制御部8が、円形アレーアンテナ6の指向性を無指向性とするか、円形アレーアンテナ6の指向性にヌルを形成するか、を切り替えるためである。励振振幅位相切替部82-1~82-8を代表して、励振振幅位相切替部82は、固定減衰器83、遅延線路84(固定長さ)、固定減衰器85、遅延線路86(固定長さ)、スルー線路87(固定長さ)、スイッチ88及びスイッチ89を備える。
【0050】
励振振幅位相制御部8が、一のアンテナ素子(例えば、A1)の正面方向にヌルを形成するときには、(1)当該一のアンテナ素子に対応する励振振幅位相切替部82は、固定減衰器83(
図3の-1.6dBに対応)及び遅延線路84(
図3の115°に対応)を有する経路に、スイッチ88、89で切り替え、(2)他の7個のアンテナ素子(例えば、A2~A8)に対応する励振振幅位相切替部82は、スルー線路87を有する経路(
図3の0dB及び0°に対応)に、スイッチ88、89で切り替える。
【0051】
励振振幅位相制御部8が、隣接するアンテナ素子(例えば、A1、A2)の各正面方向の中間方向にヌルを形成するときには、(1)当該隣接するアンテナ素子に対応する励振振幅位相切替部82は、固定減衰器85(
図5の(4.8-a)dBに対応)及び遅延線路86(
図5の(180-θ)°に対応)を有する経路に、スイッチ88、89で切り替え、(2)他の6個のアンテナ素子(例えば、A3~A8)に対応する励振振幅位相切替部82は、スルー線路87を有する経路(
図5の0dB及び0°に対応)に、スイッチ88、89で切り替える。
【0052】
励振振幅位相制御部8が、円形アレーアンテナ6の指向性を無指向性とするときには、全てのアンテナ素子A1~A8に対応する励振振幅位相切替部82は、スルー線路87を有する経路(
図3、5の0dB及び0°に対応)に、スイッチ88、89で切り替える。
【0053】
このように、励振振幅位相切替部82は、可変減衰器及び移相器に代えて、固定減衰器83、85及び遅延線路84、86を備える。よって、円形アレーアンテナ装置N2は、低コスト化を図ることができ、各励振振幅及び各励振位相を無調整とすることができる。
【0054】
本開示の励振振幅位相誤差によるヌル形成への影響を
図8に示す。
図8の左欄では、アンテナ素子A1~A8の各励振振幅誤差が、許容の約2dB以下であるときには、アンテナ素子A1~A8の各正面方向に、所望の-20dBのヌルが形成される。
図8の右欄では、アンテナ素子A1~A8の各励振位相誤差が、許容の約12°以下であるときには、アンテナ素子A1~A8の各正面方向に、所望の-20dBのヌルが形成される。
【0055】
本開示の動作周波数変動によるヌル形成への影響を
図9に示す。
図9の中欄では、円形アレーアンテナ6の中心周波数f
cにおいて、アンテナ素子A1の正面方向(0°)に、-61dBのヌルが形成される(
図3を参照)。
図9の左欄では、円形アレーアンテナ6の下限周波数0.93f
cにおいて、アンテナ素子A1の正面方向(0°)に、-30dBのヌルが形成される。
図9の右欄では、円形アレーアンテナ6の上限周波数1.07f
cにおいて、アンテナ素子A1の正面方向(0°)に、-26dBのヌルが形成される。
【0056】
図9の左欄では、円形アレーアンテナ6の下限周波数0.93f
cにおいて、円形アレーアンテナ6の中心周波数f
cと比べて、アンテナ素子A1の励振振幅誤差が0.1dBであり、アンテナ素子A1の励振位相誤差が4°である。
図8の左欄によれば、アンテナ素子A1の励振振幅誤差0.1dBは、アンテナ素子A1の正面方向(0°)のヌル-45dBに対応する。
図8の右欄によれば、アンテナ素子A1の励振位相誤差4°は、アンテナ素子A1の正面方向(0°)のヌル-30dBに対応する。
【0057】
図9の右欄では、円形アレーアンテナ6の上限周波数1.07f
cにおいて、円形アレーアンテナ6の中心周波数f
cと比べて、アンテナ素子A1の励振振幅誤差が0.2dBであり、アンテナ素子A1の励振位相誤差が6°である。
図8の左欄によれば、アンテナ素子A1の励振振幅誤差0.2dBは、アンテナ素子A1の正面方向(0°)のヌル-40dBに対応する。
図8の右欄によれば、アンテナ素子A1の励振位相誤差6°は、アンテナ素子A1の正面方向(0°)のヌル-27dBに対応する。
【0058】
このように、アンテナ素子A1の励振振幅誤差と比べて、アンテナ素子A1の励振位相誤差の方が、アンテナ素子A1の正面方向(0°)のヌル劣化に大きく影響する。
【0059】
(本開示の偏波共用パッチアンテナの構成)
本開示の偏波共用パッチアンテナの構成を
図10に示す。アンテナ素子A1~A8を代表してアンテナ素子Aは、偏波共用パッチアンテナであり、矩形パッチ11、グランド板、矩形パッチ11とグランド板との間の誘電体層、水平偏波電源12H、垂直偏波電源12V、外部インピーダンス整合回路13H及び外部インピーダンス整合回路13Vを備える。矩形パッチ11は、水平偏波ポート111H及び垂直偏波ポート111Vを備える。
【0060】
水平偏波ポート111Hは、矩形パッチ11に配置され、互いに直交する偏波のうちの水平偏波を励振し、矩形パッチ11の高次モードの電流分布を回避する位置(矩形パッチ11の中央近傍)に配置される。具体的には、水平偏波ポート111Hの配置位置と矩形パッチ11の中心位置112との間の、水平偏波と平行方向における距離δは、矩形パッチ11の中心波長λの1/8倍以下であるが、0ではない(ショートを回避するため)。
【0061】
垂直偏波ポート111Vは、矩形パッチ11に配置され、互いに直交する偏波のうちの垂直偏波を励振し、矩形パッチ11の高次モードの電流分布を回避する位置(矩形パッチ11の中央近傍)に配置される。具体的には、垂直偏波ポート111Vの配置位置と矩形パッチ11の中心位置112との間の、垂直偏波と平行方向における距離δは、矩形パッチ11の中心波長λの1/8倍以下であるが、0ではない(ショートを回避するため)。
【0062】
本開示の偏波共用パッチアンテナの解決手段を
図11に示す。アンテナ素子Aのリターンロスの広帯域特性を重視して、矩形パッチ11とグランド板との間の誘電体層厚さを増加すると、矩形パッチ11の高次モードが意図せず励振される。
【0063】
図11の上段では、水平偏波ポート111Hが、水平偏波を励振すると、矩形パッチ11の水平偏波の基本モードが、所望通り励振されるとともに、矩形パッチ11の水平偏波の高次モードが、意図せず励振される。
図11の中段では、垂直偏波ポート111Vが、垂直偏波を励振すると、矩形パッチ11の垂直偏波の基本モードが、所望通り励振されるとともに、矩形パッチ11の垂直偏波の高次モードが、意図せず励振される。
【0064】
ここで、水平偏波ポート111H及び垂直偏波ポート111Vは、矩形パッチ11の高次モードの電流分布を回避する位置(矩形パッチ11の中央近傍)に配置される。よって、水平偏波ポート111H及び垂直偏波ポート111Vの配置位置は、矩形パッチ11の高次モードの電流分布と重複しない。そして、水平偏波ポート111Hと垂直偏波ポート111Vとの間で結合が低減されるためアイソレーションが向上するとともに、主偏波(水平/垂直偏波)に対する交差偏波(垂直/水平偏波)が発生しない。
【0065】
よって、アンテナ素子Aの構造を複雑しないで、水平偏波ポート111Hと垂直偏波ポート111Vとの間のアイソレーションを向上させるとともに、主偏波(水平/垂直偏波)に対する交差偏波(垂直/水平偏波)を発生させないことができる。そして、互いに直交する偏波を励振する水平偏波ポート111Hと垂直偏波ポート111Vを、矩形パッチ11の高次モードの電流分布を回避する位置に配置することができる。
【0066】
外部インピーダンス整合回路13Hは、水平偏波ポート111Hと水平偏波電源12Hとの間に接続され、矩形パッチ11の入力インピーダンスと水平偏波電源12Hの出力インピーダンスとの間の整合を図る。外部インピーダンス整合回路13Vは、垂直偏波ポート111Vと垂直偏波電源12Vとの間に接続され、矩形パッチ11の入力インピーダンスと垂直偏波電源12Vの出力インピーダンスとの間の整合を図る。
【0067】
よって、互いに直交する偏波を励振する水平偏波ポート111Hと垂直偏波ポート111Vを、矩形パッチ11の端部近傍に配置するのではなく、矩形パッチ11の中央近傍に配置したとしても、インピーダンス整合を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本開示の円形アレーアンテナ装置は、LTE等の基地局等に適用されることができ、通常時ではアンテナの指向性を無指向性とすることができ、干渉除去時ではアンテナの指向性のうちの干渉除去方向にヌルを形成することができる。
【符号の説明】
【0069】
N1:無指向性/ヌルアンテナ装置
1:無指向性アンテナ
2:ヌルアンテナ
3:アンテナ送受信部
4:アンテナ切替部
5:アンテナ回転部
N2:円形アレーアンテナ装置
6、6’:円形アレーアンテナ
7:アンテナ送受信部
8:励振振幅位相制御部
A、A1~A8:アンテナ素子
81:8分配部
82、82-1~82-8:励振振幅位相切替部
83、85:固定減衰器
84、86:遅延線路
87:スルー線路
88、89:スイッチ
11:放射パッチ
12H:水平偏波電源
12V:垂直偏波電源
13H:外部インピーダンス整合回路
13V:外部インピーダンス整合回路
111H:水平偏波ポート
111V:垂直偏波ポート
112:中央位置