IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社エル・カレアの特許一覧 ▶ 藍開発合同会社の特許一覧

<>
  • 特開-超臨界によるトリプタンスリン抽出法 図1
  • 特開-超臨界によるトリプタンスリン抽出法 図2
  • 特開-超臨界によるトリプタンスリン抽出法 図3
  • 特開-超臨界によるトリプタンスリン抽出法 図4
  • 特開-超臨界によるトリプタンスリン抽出法 図5
  • 特開-超臨界によるトリプタンスリン抽出法 図6
  • 特開-超臨界によるトリプタンスリン抽出法 図7
  • 特開-超臨界によるトリプタンスリン抽出法 図8
  • 特開-超臨界によるトリプタンスリン抽出法 図9
  • 特開-超臨界によるトリプタンスリン抽出法 図10
  • 特開-超臨界によるトリプタンスリン抽出法 図11
  • 特開-超臨界によるトリプタンスリン抽出法 図12
  • 特開-超臨界によるトリプタンスリン抽出法 図13
  • 特開-超臨界によるトリプタンスリン抽出法 図14
  • 特開-超臨界によるトリプタンスリン抽出法 図15
  • 特開-超臨界によるトリプタンスリン抽出法 図16
  • 特開-超臨界によるトリプタンスリン抽出法 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080307
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】超臨界によるトリプタンスリン抽出法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/519 20060101AFI20240606BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240606BHJP
   A61K 36/70 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
A61K31/519
A61P31/04
A61K36/70
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193389
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】522381177
【氏名又は名称】株式会社エル・カレア
(74)【代理人】
【識別番号】100110560
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 恵三
(74)【代理人】
【識別番号】100109553
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 一郎
(71)【出願人】
【識別番号】523379926
【氏名又は名称】藍開発合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110560
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 恵三
(72)【発明者】
【氏名】岩村 公史
(72)【発明者】
【氏名】吉田 久幸
【テーマコード(参考)】
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4C086AA04
4C086CB05
4C086NA20
4C086ZB35
4C088AB43
4C088AC05
4C088BA08
4C088BA11
4C088CA10
4C088NA20
4C088ZB35
(57)【要約】
【課題】超臨界状態により短時間で効率的にトリプタンスリンの抽出するための方法を提案する。
【解決手段】超臨界状態の不活性ガス中で藍の葉のトリプタンスリンを抽出するトリプタンスリンの抽出方法である。具体的には、超臨界状態の不活性ガス中で藍の葉のトリプタンスリンを抽出するトリプタンスリンの抽出方法や、さらにこれに加えて、超臨界状態中でのトリプタンスリンの抽出は、エントレーナーを用いて行ったりする。また、
前記不活性ガスは、二酸化炭素であり、トリプタンスリンの単離は、沸点が相対的に低いエントレーナーを蒸発させることで行われる抽出方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界状態の不活性ガス中で藍の葉のトリプタンスリンを抽出するトリプタンスリンの抽出方法。
【請求項2】
超臨界状態中でのトリプタンスリンの抽出は、エントレーナーを用いて行う請求項1に記載のトリプタンスリンの抽出方法。
【請求項3】
前記不活性ガスは、二酸化炭素である請求項1又は請求項2に記載のトリプタンスリンの抽出方法。
【請求項4】
トリプタンスリンの単離は、沸点が相対的に低いエントレーナーを蒸発させることで行われる請求項2に記載のトリプタンスリンの抽出方法。
【請求項5】
超臨界時の雰囲気圧力は、10MP以上、30MP以下である請求項1又は請求項2に記載のトリプタンスリンの抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(本件出願は優先権の基礎出願とすることを考慮にいれた出願です。)
本発明は、藍の葉に含まれるトリプタンスリンを抽出するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から特許文献1に開示されたトリプタンスリン含有藍葉エキス製造方法が知られている。特許文献1に開示されたトリプタンスリン含有藍葉溶液製造方法によれば、藍葉に対して、液体状のリモネンを一定時間接触させ、トリプタンスリンを含む溶液を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-052877
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のトリプタンスリン含有藍葉エキス製造方法では、一定量のトリプタンスリンを抽出するためには、長時間の抽出工程を要した。そこで、本発明においては、より短時間で効率的にトリプタンスリンを抽出するための方法を提案する。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、短時間で効率的にトリプタンスリンを抽出することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一の発明として、超臨界状態の不活性ガス中で藍の葉のトリプタンスリンを抽出するトリプタンスリンの抽出方法を提案する。
【0007】
第二の発明として、超臨界状態中でのトリプタンスリンの抽出は、エントレーナーを用いて行う第一の発明に記載のトリプタンスリンの抽出方法を提案する。
【0008】
第三の発明として、前記不活性ガスは、二酸化炭素である第一の発明又は第二の発
明に記載のトリプタンスリンの抽出方法を提案する。
【0009】
第四の発明として、トリプタンスリンの単離は、沸点が相対的に低いエントレーナーを蒸発させることで行われる第二の発明に記載のトリプタンスリンの抽出方法を提供する。
【0010】
第五の発明として、超臨界時の雰囲気圧力は、10MP以上、30MP以下である第一の発明または第二の発明に記載のトリプタンスリンの抽出方法を提案する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の抽出処理で行われる処理の流れの一例を示した図である。
図2】実施形態1の抽出処理で用いられる各装置の全体構成を表した図である。
図3】実施例3~5の抽出量と出口圧の関係を表にまとめたものである。
図4】実施形態2、3の抽出処理で用いられる各装置の全体構成を表した図である。
図5】実施例6のトリプタンスリンの時間別抽出量を示した図である。
図6】実施例6における、0-1時間目の計測にて得られた抽出物を示した図である。
図7】実施例6における1時間ごとの抽出物の写真である。
図8】実施例7のトリプタンスリンの抽出量を時間別に表したものである。
図9】実施例7における、1時間ごとの抽出物の写真である。
図10】実施例9における、1時間ごとの抽出物の液量、トリプタンスリンの濃度およびトリプタンスリンの抽出量を表にまとめたものである。
図11】実施例10における、1時間ごとの抽出物の液量、トリプタンスリンの濃度およびトリプタンスリンの抽出量を表にまとめたものである。
図12】実施例11における、1時間ごとの抽出物の液量、トリプタンスリンの濃度およびトリプタンスリンの抽出量を表にまとめたものである。
図11】比較例3-1実施例9~11の各出口圧と抽出量の関係を表にまとめたものである。
図12】実施例9~11の各出口圧とトリプタンスリンの濃度の関係を表にまとめたものである。
図13】実施例13における抽出量の比較表である。
図13】実施形態2、3の抽出処理で行われる処理の流れの例を示した図である。
図14】比較例1におけるリモネン抽出の抽出液と実施例8の抽出液の写真である。
図15】実施形態1の実施例1~5の実験結果をまとめた表である。
図16】実施形態2の実施例6~8の実験結果をまとめた表である。
図17】実施形態3の実施例9~12の実験結果をまとめた表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の各実施形態について図面と共に説明する。実施形態と請求項の相互の関係は以下のとおりである。実施形態1は主に請求項1、3及び5に対応する。また、実施形態2は主に請求項2乃至5に対応する。なお、本発明は本明細書の記載に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において、様々な態様で実施しうる。
また、図面についても同様に、図面の記載により本願発明を何ら限定するものではない。
【0013】
<目次>
1.実施形態1について
実施形態1はエントレーナーを用いない場合の超臨界状態でのトリプタンスリンの抽出方法に関する。実施例1、2、3、4、5は実施形態1に関する。
2.実施形態2について
実施形態2はエントレーナーとしてエタノール水溶液又はエタノールを用いた場合の超臨界状態でのトリプタンスリンの抽出方法に関する。実施例6、7、8は実施形態2に関する。
3.実施形態3について
実施形態3はエントレーナーとしてリモネンを用いた場合の超臨界状態によるトリプタンスリンの抽出方法に関する。実施例9、10、11、12は実施形態3に関する。
【0014】
<全実施形態:概要>
本発明の抽出方法は、藍の葉を密閉した容器に入れ、その容器を所定の条件で超臨界状態とすることにより、藍の葉からトリプタンスリンを抽出する方法である。本発明の抽出方法は、主に超臨界状態を作りだす際にエントレーナーを用いる方法とエントレーナーを用いない方法に分類される。なお、本明細書の実施形態においては、エントレーナーが、エタノール、エタノール水溶液またはリモネンである場合の実施例を挙げているが、本発明に用いることができるエントレーナーは、これらのものに限定されない。例えば、これら以外に、エントレーナーとしてジメチルスルホキシド等を用いてもよい。
本件出願書類においては「不活性ガス」とは、化学反応を起こしにくい気体の意味で用いる単語である。ヘリウム・ネオン・アルゴンなど希ガス類元素や、窒素、二酸化炭素などが含まれる。
【0015】
<実施形態1>
<実施形態1:概要>
実施形態1は、全実施形態の基本となる発明である。本実施形態1は、超臨界状態の
不活性ガス中で藍の葉のトリプタンスリンを抽出するための方法に関する。
図1は、トリプタンスリンの抽出方法の処理の流れの一例を示す図である。実施形態1におけるトリプタンスリンの抽出方法は、下記に示すステップS101~ステップS0105を含む。ステップS101は主に、所定量の藍の葉を乾燥及び粉末化するための工程である。ステップS102~ステップS105は主に、試料を抽出装置にセットし、超臨界状態により上記の藍の葉の粉末からトリプタンスリンを抽出するための工程である。
以上の処理を経ることによって、トリプタンスリンの抽出を効率的に行うことができる。以下各ステップについて詳述する。
【0016】
<試料(藍の葉の粉末)の準備>
まず、ステップS101によって、試料(藍の葉の粉末)を準備する。
ステップS101は、藍の葉を乾燥及び粉砕することで、トリプタンスリンを抽出するための試料を準備する工程である。以下、具体的に説明する。
まず、例えば藍の葉の部分を茎から切り取り、切り取った藍の葉を乳鉢等に液体窒素等とともに入れ、藍の葉をすり潰し、粉砕してそれらを粉末状にする。このように粉末化することでトリプタンスリンの抽出効率を向上させることができる。
次に低温冷凍機等を用いてすり潰した葉を、例えば-70℃の温度下で一晩凍らせる。そして上記の凍らせた藍の葉を、凍結乾燥機等を用いて所定日数の間、乾燥させる。
次に強力小型粉砕機等を用いて上記の乾燥させた藍の葉を粉末化し、所定のふるいを通過した画分のものを抽出試料とする。
【0017】
<試料のセッティング、超臨界状態でのトリプタンスリンの抽出>
次に、ステップS102~ステップS105の工程によって、試料の圧力装置へのセッティングおよび超臨界状態でのトリプタンスリンの抽出を行う。
図2は、ステップS102~ステップS105で用いられる装置等の仕組みを説明するための概略図である。
ステップS102では、圧力装置のオーブンの温度が所定温度に達するまで圧力装置のオーブンを加熱する。
ステップS103では、所定量の上記抽出試料を円筒濾紙等に入れ、圧力装置の抽出部に投入する。
ステップS104では、圧力の装置の出口圧が所定値になるように、その出口圧を調整し、その出口に抽出用の容器をセットする。
ステップS105では、所定の流速で二酸化炭素を圧力装置の抽出部に投入し、所定時間、超臨界状態でのトリプタンスリンの抽出処理を行う。ステップS105を経ると、超臨界状態により藍の葉の粉末から所定量のトリプタンスリンが抽出される。
次に実施例1~5に関して説明する。図15は、実施例1~5の実験結果をまとめた表である。
【0018】
<<実施例1>>
実施例1においては、上記試料のセッティング、超臨界状態でのトリプタンスリンの抽出の条件を以下のように設定し、実施形態1のトリプタンスリンの抽出を行った。
(1)抽出条件
実施例1においては、実施形態1におけるステップ102~ステップ105の抽出を以下の条件で行った。
・抽出試料:1.00g
・オーブン温度:40℃
・二酸化炭素の流速:2.000ml/min
・出口圧:10MPa
・抽出時間:3時間17分
(2)HPLC測定条件
また、実施例1では、上記の超臨界状態によるトリプタンスリンの抽出量を、以下の条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定した。
・カラム:大阪ソーダ製 CAPCELLPAK C18 MG 4.6×250mm
・溶離液:70%エタノール水溶液 500μl/min
・検出波長:250nm
・カラム温度:40℃
・サンプル注入量:5μl
・標準物質:和光純薬工業製トリプタンスリン
(3)結果
上記条件の下で、圧力装置のHPLC測定をした結果、トリプタンスリンが2.28μg存在することが確認された。
【0019】
<<実施例2>>
実施例2では、実施例1の抽出条件のうち、二酸化炭素の流速を4.000ml/minに変更して抽出処理を行った。各設定条件は以下の通りである。
(1)抽出条件
・抽出試料:1.00g
・オーブン温度:40℃
・二酸化炭素の流速:4.000ml/min
・出口圧:10MPa
・抽出時間:3時間38分
(2)HPLC測定条件
実施例2では、上記の超臨界状態によるトリプタンスリンの抽出量を、実施例1と同じ条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定した。
(3)結果
上記条件の下で、HPLC測定した結果、トリプタンスリンが4.42μg存在することが確認された。
【0020】
<<実施例3>>
実施例3では、オーブン温度が70℃、出口圧が10MPaであって、他の抽出条件は、実施例1の抽出条件と同じ設定で、トリプタンスリンの抽出を行った。
【0021】
(1)抽出条件
・抽出試料(藍の葉):1.00g
・オーブン温度:70℃
・二酸化炭素の流速:2.000ml/min
・出口圧:10MPa
・抽出時間:2時間
【0022】
(2)HPLC測定条件
実施例3では、上記の超臨界状態によるトリプタンスリンの抽出量を、実施例1と同じ条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定した。
【0023】
(3)結果
出口圧10MPaの場合のトリプタンスリン総抽出量は、4.56μgであった。
【0024】
<<実施例4>>
実施例4では、オーブン温度が70℃、出口圧が20MPaであって、他の抽出条件は、実施例1の抽出条件と同じ設定で、トリプタンスリンの抽出を行った。
【0025】
(1)抽出条件
・抽出試料(藍の葉):1.00g
・オーブン温度:70℃
・二酸化炭素の流速:2.000ml/min
・出口圧:20MPa
・抽出時間:2時間
【0026】
(2)HPLC測定条件
実施例4では、上記の超臨界状態によるトリプタンスリンの抽出量を、実施例1と同じ条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定した。
【0027】
(3)結果
出口圧20MPaの場合のトリプタンスリン総抽出量は、61.255μgであった。
【0028】
<<実施例5>>
実施例5では、オーブン温度が70℃、出口圧が30MPaであって、他の抽出条件は、実施例1の抽出条件と同じ設定で、トリプタンスリンの抽出を行った。
【0029】
(1)抽出条件
・抽出試料(藍の葉):1.00g
・オーブン温度:70℃
・二酸化炭素の流速:2.000ml/min
・出口圧:30MPa
・抽出時間:2時間
【0030】
(2)HPLC測定条件
実施例5では、上記の超臨界状態によるトリプタンスリンの抽出量を、実施例1と同じ条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定した。
【0031】
(3)結果
出口圧30MPaの場合のトリプタンスリン総抽出量は、90.9μgであった。
<<実施例3~5の考察>>
図3は実施例3~5の抽出量と出口圧の関係を表にまとめたものである。
30MPaの場合の抽出量は、10MPaの場合の約20倍であった。また、図3の表より10MPa以下では、抽出量が低いことが推察される。
【0032】
<実施形態2>
<実施形態2:概要>
実施形態2は、実施形態を1基礎をとして超臨界状態での抽出を実現する際にエントレーナーとしてエタノール又はエタノール水溶液を用いることを特徴とする。
図13は、実施形態2のトリプタンスリンの抽出方法の処理の流れの一例を示す図であ
る。実施形態2におけるトリプタンスリンの抽出方法は、下記に示すステップS101
~ステップS105を含む。さらに、ステップS106が含まれることが好ましい。
ステップS101は主に、所定量の藍の葉を乾燥及び粉末化するための工程である。ス
テップS102~ステップS105は主に、エントレーナー用いた超臨界状態によって
上記の藍の葉の粉末からトリプタンスリンを抽出するための工程である。ステップ1
06は主に、トリプタンスリンを上記の抽出物から単離するための工程である。以上の処
理を経ることによって、トリプタンスリンの抽出及び分離を効率的に行うことができる。
実施形態2では、ステップS102~S105の抽出において、エントレーナーとして
エタノール水溶液またはエタノールを使うことを特徴としている。以下各ステップについて詳述する。
【0033】
<試料(藍の葉の粉末)の準備>
ステップS101は、藍の葉を乾燥及び粉砕することでトリプタンスリンを抽出するための試料を準備する工程である。内容は、実施形態1のもの同様であるため、説明は省略する。
【0034】
<試料のセッティング、超臨界状態でのトリプタンスリンの抽出>
次に、ステップS102~ステップS106の工程によって、試料の圧力装置へのセッティングおよび超臨界状態でのトリプタンスリンの抽出を行う。
図2は、ステップS102~ステップS105で用いられる装置等の仕組みを説明するための概略図である。
ステップS102~ステップS104の処理内容は、実施形態1のものと同様であるため、説明は省略する。
ステップS105では、所定の流速で二酸化炭素を圧力装置の抽出部に投入するとともにエントレーナーとしてエタノール又はエタノール水溶液を抽出部に投入して所定時間、超臨界状態での抽出処理を行う。ステップS105を経ると、超臨界状態により藍の葉の粉末から所定量のトリプタンスリンが抽出される。
【0035】
<トリプタンスリンの単離>
ステップS105に続いてステップS106が行われることが好ましい。
ステップS106は、沸点が相対的に低いエントレーナーを蒸発させることでトリプタンスリンの単離を行うためのステップである。
具体的に説明すると、トリプタンスリンよりも沸点が低いエントレーナーとトリプタンスリンを含む溶液の温度が、エントレーナーが蒸気となりトリプンタスリンが蒸気でない温度になるまで、その溶液を加熱し、それによりトリプタンスリンを単離する。ステップS106は、例えば、上記ステップS105で得られた抽出物が入ったガラス容器に対して公知のローターリーエバポレータ(不図示)を用いて抽出する処理であってよい。ローターリーエバポレータを用いてトリプタンスリンの単離を行う場合、例えば以下の手順で行うことが考えられる。
まず、ステップS105で得られた抽出液が入ったフラスコ内を減圧し、溶媒の沸点を下げる。すると、回転する上記フラスコ内で所定温度まで加熱された液体(エントレーナー等)は、蒸気として凝縮器へ流れる。冷却器内のパイプには冷却水が流れているため、蒸気が冷やされ液化して回収フラスコに流れる。これにより、フラスコからエントレーナーが除去され、トリプタンスリンの単離が可能となる。次に実施例6~8について説明する。図16は、実施例6~8の実験結果をまとめた表である。
【0036】
<<実施例6>>
実施例6においては、実施形態2のトリプタンスリンの抽出を以下の条件で行った。
(1)抽出条件
・抽出試料(藍の葉):5.00g
・オーブン温度:40℃
・エントレーナー:50%濃度エタノール水溶液
・エントレーナーの添加速度:0.200ml/min
・二酸化炭素の流速:2.000ml/min
・出口圧:10MPa
・抽出時間:5時間
(2)HPLC測定条件
実施例6では、上記の超臨界状態によるトリプタンスリンの抽出量を、実施例1と同じ条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定した。
【0037】
(3)結果および考察
図5は、50%濃度のエタノール水溶液をエントレーナーとして用いた場合のトリプタンスリンの抽出量を時間別に表したものである。
上記の抽出条件で実験を行った結果、抽出物はすべて固体として得られた。0-1時間目の計測に用いられた上記500ml三角フラスコの底には、わずかに付着物がみられた(図6の左側の容器)。一方1-2時間目以降の場合では、肉眼で抽出物は確認できなかった(図6の右側の容器)。上記の抽出時間中、1時間ごとに得られた各抽出物が時間別に別々に入れられた各フラスコに、50%濃度エタノール水溶液10mlを加えて攪拌して付着物を溶解させた。図7は1時間ごとの抽出物の写真である(図7では、向かって左から2番目の容器から右に向かって時間順に容器が並んでいる)。0-1時間目のものにのみ着色が確認された。
【0038】
トリプタンスリンを上記の方法で抽出する際に、エントレーナーとして50%濃度のエタノール水溶液を用いると、5時間の抽出で110.5μgのトリプタンスリンが回収された。抽出物を50%エタノール水溶液に溶解させると、最初の1時間の抽出物にのみ着色が認められた。エントレーナーが100%濃度エタノールの場合(後述の実施例7の場合)と50%濃度エタノール水溶液の場合とを比較すると抽出物の着色の程度から、前者の場合の方がトリプタンスリンの抽出量は多いと考えられる。一方後者は透明度が高く、トリプタンスリン以外の夾雑物が少ないと考えられる。
【0039】
<<実施例7>>
実施例7では、エントレーナーとして100%濃度のエタノールを用いて、実施形態2の超臨界状態によるトリプタンスリン抽出を行った。
抽出条件をまとめると以下の通りである。
(1)抽出条件
・抽出試料(藍の葉):5.00g
・オーブン温度:40℃
・エントレーナーの種類:エタノール
・エントレーナーの添加速度:0.200ml/min
・二酸化炭素の流速:2.000ml/min
・出口圧:10MPa
・抽出時間:5時間
(2)HPLC測定条件
実施例7では、上記の超臨界状態によるトリプタンスリンの抽出量を、実施例1と同じ条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定した。
【0040】
(3)結果及び考察
図8は、100%濃度エタノールをエントレーナーとして用いた場合のトリプタンスリンの抽出量を時間別に表したものである。上記の抽出による抽出液量は7.88ml、トリプタンスリン抽出量は206.9μgとなった。
上記の1時間ごとに得られた各抽出物がそれぞれ入れられた各々のフラスコに、50%エタノール水溶液10mlを加えて攪拌して付着物を溶解させた。すべての時間別の抽出物に赤褐色の着色が見られた。図9は1時間ごとの抽出物の写真である(図9では、向かって左から右に時間順に容器が並んでいる)。
【0041】
抽出液は赤褐色に呈色しており、トリプタンスリン以外の物質も含まれると推察される。さらに、抽出物中のトリプタンスリンの濃度は、最初の1時間のものがもっとも高く、その後、徐々に減少した。抽出液中のトリプタンスリン濃度は最初の1時間が56.5μg/mlと最も高く、その後徐々に低下し、5時間目には12.5μg/mlとなった。
【0042】
一般に超臨界流体は、高圧・高密度であるため、抽出溶媒とその中に溶けた溶質との分子間引力の効果が大きくなる、そのため、より多くの溶質分子が抽出されて流体中に安定して存在することができる。このような作用により、本実施例の超臨界での抽出法により効率的にトリプタンスリンを抽出できると考えられる。
【0043】
<<実施例8>>
実施例8では、エントレーナーとしてエタノールを用いて、実施形態2の超臨界状態でのトリプタンスリン抽出を行った。
抽出条件をまとめると以下の通りである。
【0044】
(1)抽出条件
・抽出試料(藍の葉):5.00g
・オーブン温度:80℃
・エントレーナー:50%濃度エタノール水溶液
・エントレーナーの添加速度:0.200ml/min
・二酸化炭素の流速:2.000ml/min
・出口圧:10MPa
・抽出時間:12時間
(2)HPLC測定条件
実施例8では、上記の超臨界状態によるトリプタンスリンの抽出量を、実施例1と同じ条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定した。
【0045】
(3)結果
抽出されたトリプタンスリン含量は、565μgであった。
【0046】
<<比較例1>>
次に、特許文献1に開示されたトリプタンスリンの抽出方法を参考にして、以下に示す方法でトリプタンスリンの抽出を行った。
藍の葉粉末0.50gを、ねじ口バイアル瓶にとり、リモネン5.00mlを加えて20℃の恒温槽内でマグネチックスターラーにより12時間攪拌した。
その後、懸濁試料を遠心分離(8000×g、4℃、10分間)により固液分離した。これにより得られる抽出物のトリプタンスリンの量を、以下の条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって定量した。
(1)HPLC測定条件
・カラム:大阪ソーダ製 CAPCELLPAK C18 MG 4.6×250mm
・溶離液:70%エタノール水溶液 500μl/min
・検出波長:250nm
・カラム温度:40℃
・サンプル注入量:5μl
・標準物質:和光純薬工業製トリプタンスリン
【0047】
(2)結果
比較例1のリモネン抽出のトリプタンスリン含量は43μg/gであった。
比較例1の抽出物には暗褐色の着色が見られた。実施例8の抽出物は、透明に近く着色がほとんど見られなかった。藍の葉1g当たりの溶媒は、リモネン抽出で10ml、超臨界二酸化炭素抽出で16mlとなった。図14は、上記の抽出物の写真である。
図14は、比較例1の抽出液(図14左側)と実施例8の抽出液(図14右側)の写真である。
【0048】
<実施形態3>
<実施形態3:概要>
実施形態3は、実施形態1を基礎として超臨界状態での抽出を実現する際、エントレーナーとしてリモネンを用いることを特徴とする。
図13は、トリプタンスリンの抽出方法の処理の流れの一例を示す図である。
実施形態1におけるトリプタンスリンの抽出方法は、下記に示すステップS101~
ステップS105を含む。さらに、ステップS106が含まれることが好ましい。
ステップS101は主に、所定量の藍の葉を乾燥及び粉末化するための工程である。
ステップS102~S105は主に、超臨界状態によって、上記の藍の葉の粉末からトリプタンスリンを抽出するための工程である。ステップS106は主に、トリプタンスリンを上記の抽出物から単離するための工程である。以上の処理を経ることによって、トリプタンスリンの抽出を効率的に行うことができる。実施形態3では、ステップS102~S105の抽出において、エントレーナーとしてリモネンを所定の手順で用いることを特徴としている。以下各ステップについて詳述する。
【0049】
<試料(藍の葉の粉末)の準備>
ステップS101は、藍の葉を乾燥及び粉砕することでトリプタンスリンを抽出するための試料を準備する工程である。内容は、実施形態1のものと同様であるため説明は省略する。
【0050】
<試料のセッティング、超臨界状態でのトリプタンスリンの抽出>
ステップS102~ステップS104の処理内容は、実施形態1のものと同様であるため、説明は省略する。
ステップS105では、所定の流速で二酸化炭素を圧力装置の抽出部に投入するとともにエントレーナーとしてリモネンを抽出部に投入して所定時間、超臨界状態での抽出処理を行う。ステップS105を経ると、超臨界状態により藍の葉の粉末から所定量のトリプタンスリンが抽出される。
【0051】
<トリプタンスリンの単離>
ステップS105に続いてステップS106が行われることが好ましい。
ステップS106は、沸点が相対的に低いエントレーナーを蒸発させることでトリプタンスリンの単離を行うためのステップである。
具体的に説明すると、トリプタンスリンよりも沸点が低いエントレーナーとトリプタンスリンを含む溶液の温度が、エントレーナー(リモネン)が蒸気となりトリプタンスリンが蒸気でない温度になるまで、その溶液を加熱し、それによりトリプタンスリンを単離する。ステップS106は、例えば、上記ステップS105で得られた抽出物が入ったガラス容器に対して公知のローターリーエバポレータ(不図示)を用いて抽出する処理であってよい。ローターリーエバポレータを用いてトリプタンスリンの単離を行う場合、例えば以下の手順で行うことが考えられる。
まず、ステップS105で得られた抽出液が入ったフラスコ内を減圧し、溶媒の沸点を下げる。すると、回転する上記フラスコ内で所定温度まで加熱された液体(エントレーナー等)は、蒸気として凝縮器へ流れる。冷却器内のパイプには冷却水が流れているため、蒸気が冷やされ液化して回収フラスコに流れる。これにより、フラスコからエントレーナーが除去され、トリプタンスリンの単離が可能となる。次に実施例9~13について説明する。図17は、実施例9~12の実験結果をまとめた表である。
【0052】
<<実施例9>>
実施例9では、以下の条件でトリプタンスリンの抽出を行った。
抽出条件をまとめると以下の通りである。
【0053】
(1)抽出条件
・抽出試料(藍の葉):1.00g
・オーブン温度:40℃
・エントレーナー:リモネン
・エントレーナーの添加速度:0.200ml/min
・二酸化炭素の流速:2.000ml/min
・出口圧:10MPa
・抽出時間:2時間
(2)HPLC測定条件
実施例9では、上記の超臨界状態によるトリプタンスリンの抽出量を、実施例1と同じ条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定した。
【0054】
(3)結果
出口圧10MPaの場合の総抽出量は56.24μgであり、トリプタンスリンの濃度は3.36μg/mlであった。
【0055】
<<実施例10>>
実施例10では、実施例9の抽出条件のうち、出口圧の圧力のみを変化させて、トリプタンスリンの抽出を行った。
【0056】
(1)抽出条件
・抽出試料(藍の葉):1.00g
・オーブン温度:40℃
・エントレーナー:リモネン
・エントレーナーの添加速度:0.200ml/min
・二酸化炭素の流速:2.000ml/min
・出口圧:20MPa
・抽出時間:2時間
(2)HPLC測定条件
実施例10では、上記の超臨界状態によるトリプタンスリンの抽出量を、実施例1と同じ条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定した。
【0057】
(3)結果
出口圧20MPaの場合の総抽出量は54.11μgであり、トリプタンスリンの濃度は、4.41μg/mlであった。
【0058】
<<実施例11>>
実施例11では、実施例9の抽出条件のうち、出口圧の圧力のみを変化させて、トリプタンスリンの抽出を行った。
【0059】
(1)抽出条件
・抽出試料(藍の葉):1.00g
・オーブン温度:40℃
・エントレーナー:リモネン
・エントレーナーの添加速度:0.200 ml/min
・二酸化炭素の流速:2.000ml/min
・出口圧:30MPa
・抽出時間:2時間
(2)HPLC測定条件
実施例11では、上記の超臨界状態によるトリプタンスリンの抽出量を、実施例1と同じ条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定した。
【0060】
(3)結果
出口圧30MPaの場合の総抽出量は43.11μgであり、トリプタンスリンの濃度は、5.09μg/mlであった。
<<実施例9~11の考察>>
図11は各出口圧における抽出量を表にまとめたものである。図12は各出口圧におけるトリプタンスリンの濃度を表にまとめたものである。上記圧力範囲では、圧力が高くなるとトリプタンスリンの濃度が上昇することがわかる。
【0061】
<<実施例12>>
実施例12では、実施例9の抽出条件のうち、出口圧の圧力を30MPaに変更し、オーブン温度を80℃に変更させた条件で、トリプタンスリンの抽出を行った。
【0062】
(1)抽出条件
・抽出試料(藍の葉):1.00g
・オーブン温度:80℃
・エントレーナー:リモネン
・エントレーナーの添加速度:0.200ml/min
・二酸化炭素の流速:2.000ml/min
・出口圧:30MPa
・抽出時間:2時間
【0063】
(2)HPLC測定条件
実施例12では、上記の超臨界状態によるトリプタンスリンの抽出量を、実施例1と同じ条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定した。
(3)結果
上記の抽出条件で実験を行った結果について説明する。オーブン温度80℃の場合のトリプタンスリン総抽出量は、128.44μgであった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【手続補正書】
【提出日】2023-01-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
図1】本発明の抽出処理で行われる処理の流れの一例を示した図である。
図2】実施形態1の抽出処理で用いられる各装置の全体構成を表した図である。
図3】実施例3~5の抽出量と出口圧の関係を表にまとめたものである。
図4】実施形態2、3の抽出処理で用いられる各装置の全体構成を表した図である。
図5】実施例6のトリプタンスリンの時間別抽出量を示した図である。
図6】実施例6における、0-1時間目の計測にて得られた抽出物を示した図である。
図7】実施例6における1時間ごとの抽出物の写真である。
図8】実施例7のトリプタンスリンの抽出量を時間別に表したものである。
図9】実施例7における、1時間ごとの抽出物の写真である。
図10】実施例9における、1時間ごとの抽出物の液量、トリプタンスリンの濃度およびトリプタンスリンの抽出量を表にまとめたものである。
図11】実施例9~11の各出口圧と抽出量の関係を表にまとめたものである。
図12】実施例9~11の各出口圧とトリプタンスリンの濃度の関係を表にまとめたものである。
図13】実施形態2、3の抽出処理で行われる処理の流れの例を示した図である。
図14】比較例1におけるリモネン抽出の抽出液と実施例8の抽出液の写真である。
図15】実施形態1の実施例1~5の実験結果をまとめた表である。
図16】実施形態2の実施例6~8の実験結果をまとめた表である。
図17】実施形態3の実施例9~12の実験結果をまとめた表である。