(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080314
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】着色汚染部を有する防曇性物品の、前記着色汚染部の脱色液
(51)【国際特許分類】
C11D 7/26 20060101AFI20240606BHJP
B08B 3/08 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
C11D7/26
B08B3/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193399
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】523220503
【氏名又は名称】セントラル硝子プロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】楠木 りさ子
(72)【発明者】
【氏名】濱口 滋生
(72)【発明者】
【氏名】野村 拓史
【テーマコード(参考)】
3B201
4H003
【Fターム(参考)】
3B201BB92
4H003BA12
4H003DA05
4H003DA08
4H003DB01
4H003EB04
4H003EB11
4H003ED02
4H003ED28
4H003ED30
4H003FA08
(57)【要約】
【課題】毛染め液や、ポビドンヨードなどのヨード系の殺菌剤を有するうがい薬などの強力な着色要因に、防曇性物品の防曇性被膜が着色汚染されたときに生じる着色汚染部の脱色液を提供すること。
【解決手段】アスコルビン酸0.1~8質量%と、
式:
CH3-C(=O)-R
[式中、Rは水素原子、炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、又は炭素数6~10のアリール基を表す。]
で表されるケトン類、及び/又は、式:
CH3-CH(OH)-R
[式中、Rはケトン類のRの定義と同じである。]
で表されるアルコール類、
が10~50質量%と、
残部水からなる、防曇性被膜の着色汚染部の脱色液を用いることで、上記課題が解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコルビン酸0.1~8質量%と、
一般式[1]:
CH3-C(=O)-R [1]
[一般式[1]中、Rは水素原子、炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、又は炭素数6~10のアリール基を表す。]
で表されるケトン類、及び/又は、一般式[2]:
CH3-CH(OH)-R [2]
[一般式[2]中、Rは一般式[1]のRの定義と同じである。]
で表されるアルコール類、
が10~50質量%と、
残部水からなる、防曇性被膜の着色汚染部の脱色液。
【請求項2】
一般式[1]で表されるケトン類がアセトンであり、一般式[2]で表されるアルコール類がエタノールである、請求項1に記載の防曇性被膜の着色汚染部の脱色液。
【請求項3】
ウレタン系膜が、ポリオール成分とイソシアネート化合物との反応により得られる、ウレタン結合を有するポリウレタン樹脂であることを特徴とする、請求項1に記載の防曇性被膜の着色汚染部の脱色液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、防曇性被膜と、鏡などの基材と、基材上に形成された、ウレタンなどからなる防曇性被膜とを備える防曇性物品において、前記防曇性被膜が着色汚染されたときに生じた着色汚染部を脱色する為の脱色液に関する。
【背景技術】
【0002】
浴室や洗面所などの水回り領域において、前記防曇性物品は汎用されている。前記領域では、物品への着色性の強い、毛染め液や、ポビドンヨードなどのヨード系の殺菌剤を有するうがい薬が、よく使用されている。これらは、前記防曇性被膜にとっては、着色汚染要因であり、前記防曇性物品が着色されたときには、前記被膜から着色成分を除去するための除去液が必要となる。そして、このような除去液として、特許文献1に、着色汚染された物品の着色除去液として、次亜塩素酸塩を1~10重量%含有するpH12.5~13のアルカリ性の水溶液を用いて建材内部に浸透した染色性剤を分解作用により脱色する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、毛染め液や、ポビドンヨードなどのヨード系の殺菌剤を有するうがい薬などの強力な着色要因に、防曇性物品の防曇性被膜が着色汚染されたときに生じる着色汚染部の脱色液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題に鑑み、前記着色汚染部の脱色液の検討を進めた結果、有効な脱色液を見出した。
すなわち、本開示は以下の通りである。
<1>
アスコルビン酸0.1~8質量%と、
一般式[1]:
CH3-C(=O)-R [1]
[一般式[1]中、Rは水素原子、炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、又は炭素数6~10のアリール基を表す。]
で表されるケトン類、及び/又は、一般式[2]:
CH3-CH(OH)-R [2]
[一般式[2]中、Rは一般式[1]のRの定義と同じである。]
で表されるアルコール類、
が10~50質量%と、
残部水からなる、防曇性被膜の着色汚染部の脱色液。
<2>
一般式[1]で表されるケトン類がアセトンであり、一般式[2]で表されるアルコール類がエタノールである、<1>に記載の防曇性被膜の着色汚染部の脱色液。
<3>
ウレタン系膜が、ポリオール成分とイソシアネート化合物との反応により得られる、ウレタン結合を有するポリウレタン樹脂であることを特徴とする、<1>に記載の防曇性被膜の着色汚染部の脱色液。
【発明の効果】
【0006】
本開示の脱色液によれば、防曇性被膜の着色汚染部を効率的に脱色できるという効果を奏する。とりわけ、前記防曇性被膜が、ウレタン系である場合や、吸水性を有する場合に、著効する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
【0008】
本開示の脱色液は、
アスコルビン酸0.1~8質量%と、
一般式[1]で表されるケトン類及び/又は一般式[2]で表されるアルコール類が10~50質量%と、
残部水からなる。
一般式[1]で表されるケトン類におけるRは、水素原子、炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、又は炭素数6~10のアリール基を表す。ここで言う炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、iso-プロピル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基等が、炭素数6~10のアリール基は、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基等を挙げることができる。
また、一般式[2]で表されるアルコール類におけるRは、前記ケトン類におけるRと同じ定義である。
【0009】
本開示の脱色液が適用される防曇性被膜の例は、ポリオール成分とイソシアネート化合物との反応により得られる、ウレタン結合を有するポリウレタン樹脂が、基材上に形成されていたものである。該被膜は、イソシアネート化合物と、オキシエチレンユニットを繰返し単位とする吸水性ポリオールとを含むポリウレタン組成物と、溶媒とからなる混合液を基材の主面に塗布して塗膜を形成した後、前記塗膜から溶媒を蒸発させて前記ポリウレタン組成物を硬化させることで得られうる。ポリウレタン組成物の調製については特に制限はなく、公知の方法を採用することができる。
【0010】
前記着色汚染部を形成しうるもの例としては、うがい薬や、毛染め剤と呼ばれるものが挙げられる。前者の成分はヨード系のポビドンヨードが知られ、後者はパラフェニレンジアミン、パラアミノフェノール等が、過酸化水素に代表される酸化剤と酸化重合して高分子化したものが挙げられる。うがい薬は一般的に医薬品としても市販されているものであり、ポリビニルピロリドンとヨウ素の複合体で、遊離ヨウ素の存在により呈色(黒褐色)を示している。一方、毛染め剤は高分子化したポリマー骨格内のイミン構造の存在により、毛髪を呈色(褐色)させる。
【0011】
本開示の脱色液は、アスコルビン酸や、ケトン類又はアルコール類が含まれている為、これらが着色成分に直接または間接的に作用することで、うがい薬の遊離ヨウ素や毛染め剤のイミン構造に起因する着色を低減させ、前記着色汚染部の脱色につながるのでは推察される。
本開示の脱色液の好適な例は、アスコルビン酸の含有量が0.1~8質量%であり、ケトン類又はアルコール類の含有量が10~50質量%であり、残部は水からなる。
本開示の具体的な態様の一つとしては、ケトン類としてアセトンを、アルコール類としてエタノールを用い、前述した組成の混合液とすることで、染色剤等で着色された基材に対して湿布することで外観、防曇性を維持しつつ、着色除去について効果を発揮することができる。
【0012】
次に、本開示の脱色液の、前記脱色汚染部脱色方法について、以下に実施例にて説明するが、本開示はこれらにより限定されない。
【実施例0013】
[防曇性被膜の製造]
(1)防曇性被膜を得るための塗布液の調製
第一イソシアネートとしてヘキサメチレンジイソシアネートのダイマータイプのポリイソシアネート(商品名「デスモジュールN3400」住化コベストロウレタン製)21.60gを準備した。これを薬剤A(第一イソシアネート)とする。同様にして、第二イソシアネートとしてヘキサメチレンジイソシアネートのアロファネートタイプのポリイソシアネート(商品名「デスモジュールN3580BA」住化コベストロウレタン製)2.40gを準備した。これを薬剤B(第二イソシアネート)とする。
【0014】
また、以下にあげる各成分を、以下の指定量で混合することで、総量76.08gの薬剤Cを調製した。
<溶媒>
酢酸イソブチルとジアセトンアルコールと酢酸イソプロピルとの混合液;54.13g、アセチルアセトン;1.8g
<ポリオール>
数平均分子量4000のオキシエチレン/オキシプロピレン共重合ポリオール(商品名「トーホーポリオールPB-4000」;東邦化学工業製);8g、
数平均分子量1000のポリエチレングリコール;1.28g
<アクリル樹脂>
数平均分子量18000のアクリルポリオールを45.0質量%有する混合溶液(商品名「アクリディック 47-538-BA」;DIC株式会社製);10.67g
<短鎖ポリオール>
2,3-ブタンジオール(東京化成製);1.92g
<レベリング剤>
ポリジメチルシロキサン系レベリング剤のBYK-301(BYK-Chemie製);0.08g
前記薬剤Cにおいて、オキシエチレン/オキシプロピレン共重合体と、アクリルポリオールと、2,3-ブタンジオール、ポリエチレングリコールとは、固形分比(以降、「EOPO:AP:2,3-BD:PEG1000比」と記載する場合がある)で、「EOPO:AP:2,3-BD:PEG1000=50:30:12:8」であった。
【0015】
上記の薬剤Aと薬剤Bと薬剤Cとを混合し、硬化触媒としてジブチル錫ジラウレート(以下、DBTDL)0.04gを添加することで、100.12gの塗布液を調製した。
前記塗布液の総量を100質量%としたとき、前記塗布液中のポリウレタン組成物は、40質量%であった。また、前記レベリング剤は、前記ポリウレタン組成物に対し、質量比で0.0008倍量であった。また、前記塗布液の原料ベースで、イソシアネート基の数は、ポリオール中の水酸基の数に対して2.2倍量であった。本塗布液において、イソシアネート化合物は、ポリウレタン組成物の総量100質量%に対して60質量%含まれている。
【0016】
(2)基材の準備
矩形状で、サイズが200mm×300mm×5mm(厚さ)のソーダライムガラス板の裏面に通常の方法で銀膜を形成して、鏡を準備した。89gのイオン交換水と、10gのプロパノールとの混合溶液と、シランカップリング剤の、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン(東京化成製)1gとの混合溶液を準備した。該混合溶液を染み込ませたセルロース繊維からなるワイパー(商品名「ベンコット」、型式M-1、50mm×50mm、小津産業製)で、前記鏡のガラス表面を払拭し、その後、水洗して、プライマー層が形成された鏡を基材として準備した。
(3)防曇性物品の形成
該基材のプライマー層が形成された主面に、前記塗布液をスピンコートにより塗布して塗膜を形成し、その後、約150℃で約10分間熱処理することにより、膜厚30μmの防曇性被膜が形成された防曇性物品を得た。
【0017】
[実施例1]
以下の表に記載する各成分を、以下の指定量で混合することで、総量100.0gの脱色液を調製した。
L-アスコルビン酸(富士フイルム和光純薬製);1.0g
アセトン(太陽化学製);30.0g
水;69.0g
[実施例2~6、比較例1~8]
以下の表に記載する各成分を、当該表に示す重量比に応じて混合することで、実施例1と同様の操作で総量100.0gの実施例2~6、及び比較例1~8の脱色液を調製した。
[比較例9]
以下の表に応じた成分と重量比である、ハイポアルコール(製品名;10%ハイポアルコール 発売元;兼一薬品工業)を脱色液とした。
チオ硫酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬製)
L-アスコルビン酸(富士フイルム和光純薬製)
アセトン(太陽化学製)
エタノール(富士フイルム和光純薬製)
水
【0018】
・脱色液の脱色性確認の試験手順
〔毛染剤による着色汚染部の形成〕
パラフェニレンジアミン、パラアミノフェノール等を含有する、2液混合型の白髪染め用毛染剤(ヘアカラー剤)(黒茶色)を直径10mm程度の円状で防曇性被膜膜表面に付着させ、1時間常温常湿(5~35℃ 、相対湿度45~85%)で放置後、付着部分の水洗を行い、毛染剤を洗い落とす。この操作により、毛染剤による着色汚染部が形成される。
〔毛染剤剤による着色汚染部の脱色〕
着色汚染部に、本実施例、本比較例の各脱色液を含ませた、各コットンを毛染剤による着色部分部に湿布し、2時間後、濡れた綿布で払拭する。
〔うがい薬による着色汚染部の形成〕
ポピドンヨード系のうがい薬を直径10mm程度の円状で防曇性被膜膜表面に付着させ、1時間常温常湿(5~35℃ 、相対湿度45~85%)で放置後、付着部分の水洗を行い、うがい薬を洗い落とす。この操作により、うがい薬による着色汚染部が形成される。
〔うがい薬による着色汚染部の脱色〕
着色汚染部に、本実施例、本比較例の各脱色液を含ませた、各コットンをうがい薬による着色汚染部に湿布し、1時間後、濡れた綿布で払拭する。
【0019】
・結果評価
以下、評価を行った。防曇性被膜の膜外観を目視、または機械にて確認し、脱色液の湿布前後での外観の差異を下記項目及び基準に従って判定を行った。
〔脱色液湿布後の膜外観〕
・再着色:脱色液の湿布前は着色汚染部ではなかった部分に対して、湿布後に湿布に使用したコットンの形に添って着色汚染部が広がっていない場合は合格(〇)とし、着色汚染部が広がっている場合は不合格(×)とした。
・膜膨潤:脱色液の湿布が付着していた部分の防曇性被膜の膨潤部の段差を表面粗さ計(小坂研究所社製 Surfcorder ET-4000A)で測定し、目視で膨潤が確認困難なものを〇(200nm以下)、目視で膨潤が薄く確認できるものを△(200nm超~500nm以下)、目視で膨潤がはっきりと確認できるものを×(500nm超)とした。
・膜剥離:脱色液の湿布後に、湿布した部分に対して防曇性被膜の基材からの剥離が生じていないものは合格(〇)とし、剥離が生じているものは不合格(×)とした。
【0020】
〔着色汚染部の脱色後の着色度〕
毛染め剤による着色汚染部が脱色された部位と、うがい薬による着色汚染部が脱色された部位の各部位について、着色汚染部形成前と、着色汚染部の脱色後との色差を測定する。この測定には、CM-2600d(コニカミノルタ社製)を用いた。色差の算出には、ΔE94(CIE1994)の色差式を使用した。色差の値が小さい方が、脱色性に優れる。
〔呼気防曇性〕
温度25℃、湿度50%の室内において、着色汚染部が脱色された部位に対し、呼気をかける。本呼気防曇性が評価される部位は、毛染め剤による着色汚染部が脱色された部位、うがい薬による着色汚染部が脱色された部位の双方にて行われる。双方とも曇らなかった場合は合格(〇)とし、少なくともいずれかが曇った場合は不合格(×)とした。
以上の結果を以下の表にまとめた。
【0021】