(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080333
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】畜肉様食品用油脂組成物とそれを用いた畜肉様食品
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20240606BHJP
A23L 13/00 20160101ALI20240606BHJP
A23L 13/40 20230101ALI20240606BHJP
A23J 3/16 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
A23D9/00 518
A23L13/00 A
A23L13/40
A23J3/16 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193432
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 晶
(72)【発明者】
【氏名】奥野 綾夏
【テーマコード(参考)】
4B026
4B042
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG02
4B026DG04
4B026DG05
4B026DH01
4B026DH02
4B026DP01
4B026DP03
4B026DX01
4B042AC05
4B042AD08
4B042AD36
4B042AE03
4B042AK01
4B042AK10
4B042AK11
4B042AK13
4B042AK20
4B042AP04
4B042AP14
(57)【要約】
【課題】畜肉様食品に噛み応えのある食感があり、呈味性、更には口中に入れた直後の風味とその持続性に優れた畜肉様食品用油脂組成物とそれを用いた畜肉様食品を提供する。
【解決手段】本発明の畜肉様食品用油脂組成物は、SSSの含有量がトリグリセリド全体の質量を基準として2.5~7.0質量%、SSUに対するSUSの質量比が0.5~2.2、OOOとLLLの合計含有量がトリグリセリド全体の質量を基準として10~21質量%、及びPPPに対するOOOとLLLの合計含有量の質量比が2.0~16である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SSSの含有量がトリグリセリド全体の質量を基準として2.5~7.0質量%、
SSUに対するSUSの質量比が0.5~2.2、
OOOとLLLの合計含有量がトリグリセリド全体の質量を基準として10~21質量%、及び
PPPに対するOOOとLLLの合計含有量の質量比が2.0~16
である畜肉様食品用油脂組成物。
(ここで、SSSは、1位、2位、及び3位に炭素数任意の飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドを示し、
SSUは、1位と2位又は2位と3位に炭素数任意の飽和脂肪酸が結合し、3位又は1位に炭素数18以上の不飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドを示し、
SUSは、1位及び3位に炭素数任意の飽和脂肪酸が結合し、2位に炭素数18以上の不飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドを示し、
OOOは、1位、2位、及び3位にオレイン酸が結合したトリグリセリドを示し、
LLLは、1位、2位、及び3位にリノール酸が結合したトリグリセリドを示し、
PPPは、1位、2位、及び3位にパルミチン酸が結合したトリグリセリドを示す。)
【請求項2】
10℃での固体脂含量が5.0~35%である請求項1に記載の畜肉様食品用油脂組成物。
【請求項3】
融点が9.0~30℃である請求項1に記載の畜肉用食品用油脂組成物。
【請求項4】
SSSの含有量がトリグリセリド全体の質量を基準として2.0~50質量%である油脂を、畜肉様食品用油脂組成物における油脂全体の質量を基準として20~85質量%配合した請求項1に記載の畜肉様食品用油脂組成物。
(ここで、SSSは、1位、2位、及び3位に炭素数任意の飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドを示す。)
【請求項5】
UUUとUUSの合計含有量がトリグリセリド全体の質量を基準として55質量%以上である液状油を、畜肉様食品用油脂組成物における油脂全体の質量を基準として15~80質量%配合した請求項1に記載の畜肉様食品用油脂組成物。
(ここで、UUUは、1位、2位、及び3位に炭素数18以上の不飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドを示し、UUSは、1位と2位又は2位と3位に炭素数18以上の不飽和脂肪酸が結合し、3位又は1位に炭素数任意の飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドを示す。)
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の畜肉様食品用油脂組成物を配合した畜肉様食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畜肉様食品用油脂組成物とそれを用いた畜肉様食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向け、世界各国では真に持続可能な食料生産システムの開発に対する関心が高まっている。そのような中で、世界人口の増加や畜産に伴う環境負荷等への解決策として、代替肉や培養肉が注目されている。ここ最近、フレキシタリアン、ベジタリアン、ビーガン等の多様なライフスタイルに対応した、植物由来の材料を原料とする代替肉の市場が成長を続けている。
【0003】
代替肉は、従来の家畜肉の代替として作られた食品のことであり、例えば、大豆等の植物性原料を使用し、肉の食感に近づけたプラントベースの畜肉様食品が知られている。
【0004】
大豆つくね等の畜肉様食品では、食感として喫食したときの噛み応えは、肉の食感を連想させ嗜好性を高める上で重要である。また、呈味性と、口中に入れた直後に感じる風味とその後まで持続する風味も、肉の味を連想させ嗜好性を高める上で重要である。これらには配合する油脂組成物が影響する。
【0005】
しかし、噛み応えのある食感を得るために固体脂含量の高い油脂を使用すると、呈味性が低下するという問題があった。従って、食感と呈味性、更には口中に入れた直後の風味とその持続性をいずれも満足する油脂組成物が望まれている。
【0006】
従来、畜肉様食品における調理時の取扱い性や、植物性蛋白質素材特有の臭いの改善を図るものとして、油脂組成物の固体脂含量を特定範囲とする技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
喫食したときの食感や呈味性は、油脂組成物における、油脂の配合に基づくトリグリセリド組成、及びそれによる油脂物性の影響が大きい。しかしながら、特許文献1では油脂物性に影響を与えるトリグリセリド比、特に、液状油の主要な成分である3不飽和トリグリセリドのOOO(トリオレオイルグリセロール)とLLL(トリリノレオイルグリセロール)の合計含有量に対する、2飽和1不飽和トリグリセリドのPOP(1,3-ジパルミトイル-2-オレオイルグリセロール)の質量比が低く、食感と呈味性、更には口中に入れた直後の風味とその持続性をいずれも満足するためには更に改良の余地があった。
【0009】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、畜肉様食品に噛み応えのある食感があり、呈味性、更には口中に入れた直後の風味とその持続性に優れた畜肉様食品用油脂組成物とそれを用いた畜肉様食品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために本発明者らは鋭意検討した結果、特定のトリグリセリド組成を持つ油脂組成物が、噛み応えのある食感があり、呈味性、更には口中に入れた直後の風味とその持続性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明の畜肉様食品用油脂組成物は、SSSの含有量がトリグリセリド全体の質量を基準として2.5~7.0質量%、
SSUに対するSUSの質量比が0.5~2.2、
OOOとLLLの合計含有量がトリグリセリド全体の質量を基準として10~21質量%、及び
PPPに対するOOOとLLLの合計含有量の質量比が2.0~16
であることを特徴としている。
(ここで、SSSは、1位、2位、及び3位に炭素数任意の飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドを示し、
SSUは、1位と2位又は2位と3位に炭素数任意の飽和脂肪酸が結合し、3位又は1位に炭素数18以上の不飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドを示し、
SUSは、1位及び3位に炭素数任意の飽和脂肪酸が結合し、2位に炭素数18以上の不飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドを示し、
OOOは、1位、2位、及び3位にオレイン酸が結合したトリグリセリドを示し、
LLLは、1位、2位、及び3位にリノール酸が結合したトリグリセリドを示し、
PPPは、1位、2位、及び3位にパルミチン酸が結合したトリグリセリドを示す。)
本発明の畜肉様食品は、前記畜肉様食品用油脂組成物を配合したものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の畜肉様食品用油脂組成物によれば、畜肉様食品に噛み応えのある食感があり、呈味性、更には口中に入れた直後の風味とその持続性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態について具体的に説明する。
(畜肉様食品用油脂組成物)
本発明の畜肉様食品用油脂組成物は、SSSの含有量がトリグリセリド全体の質量を基準として2.5~7.0質量%である。ここで、SSSは、1位、2位、及び3位の全てに飽和脂肪酸が結合した3飽和トリグリセリドあり、ここでは飽和脂肪酸の炭素数は任意である。SSSの含有量が2.5質量%以上であると特に、畜肉様食品に噛み応えのある食感があり、呈味性、更には風味の持続性に優れる。この点からSSSの含有量は、2.7質量%以上が好ましく、4.0質量%以上がより好ましい。SSSの含有量が7.0質量%以下であると特に、呈味性、更には口中に入れた直後の風味に優れる。この点からSSSの含有量は、6.0質量%以下が好ましく、5.4質量%以下がより好ましい。
【0013】
本発明の畜肉様食品用油脂組成物は、SSUに対するSUSの質量比が0.5~2.2である。ここで、SSUは、1位と2位又は2位と3位に炭素数任意の飽和脂肪酸が結合し、3位又は1位に炭素数18以上の不飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドを示し、SUSは、1位及び3位に炭素数任意の飽和脂肪酸が結合し2位に炭素数18以上の不飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドを示す。SUSに対してSSUが多くなると、結晶の析出が速くなり、油脂組成物の製造機において練られ易くなる。この質量比が2.2以下であると、SUSの比率が多くなって可塑性が良くなる結果、畜肉様食品に噛み応えのある食感があり、呈味性、更には口中に入れた直後の風味とその持続性に優れる。この点からこの質量比は、0.9以下がより好ましい。この質量比が0.5以上であると、結晶の析出が適度に抑えられて、製造機で練られ過ぎず、腰のある油脂組成物となり、可塑性が向上する。そのため、畜肉様食品に噛み応えのある食感があり、呈味性、更には口中に入れた直後の風味とその持続性に優れる。
【0014】
本発明の畜肉様食品用油脂組成物は、OOOとLLLの合計含有量がトリグリセリド全体の質量を基準として10~21質量%である。ここで、OOOは、1位、2位、及び3位にオレイン酸が結合したトリグリセリドを示し、LLLは、1位、2位、及び3位にリノール酸が結合したトリグリセリドを示す。OOOとLLLの合計含有量が10質量%以上であると特に、呈味性、更には口中に入れた直後の風味に優れる。この点からOOOとLLLの合計含有量は、11質量%以上が好ましく、12質量%以上がより好ましく、13質量%以上が更に好ましい。OOOとLLLの合計含有量が21質量%以下であると特に、畜肉様食品に噛み応えのある食感があり、呈味性、更には風味の持続性に優れる。この点からOOOとLLLの合計含有量は、20質量%以下が好ましく、18質量%以下がより好ましい。
【0015】
本発明の畜肉様食品用油脂組成物は、PPPに対するOOOとLLLの合計含有量の質量比が2.0~16である。この質量比が2.0以上であると特に、畜肉様食品に噛み応えのある食感があり、呈味性、更には風味の持続性に優れる。この点からこの質量比は、3.3以上が好ましく、4.0以上がより好ましい。この質量比が16以下であると特に、呈味性、更には口中に入れた直後の風味に優れる。この点からこの質量比は、14以下が好ましく、11以下がより好ましく、7.0以下がより好ましい。
【0016】
本発明の畜肉様食品用油脂組成物において、ラウリン酸の含有量は構成脂肪酸全体の質量を基準として好ましくは10質量%以下、より好ましくは好ましくは5.0質量%以下、更に好ましくは3.0質量%以下である。ラウリン酸が多いと本発明の効果を損なう虞がある。
【0017】
トランス脂肪酸は、動脈硬化症や心臓疾患のリスクを増大させると言われており、健康への影響が懸念される点を考慮し、本発明の畜肉様食品用油脂組成物は、トランス脂肪酸の含有量がトリグリセリドの構成脂肪酸全体の質量を基準として5.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以下であることがより好ましい。そのような点から、部分水素添加した硬化油は使用しないか、あるいは極力少なくすることが好ましい。
【0018】
本明細書において、脂肪酸の含有量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2-2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」により得ることができる。
【0019】
本発明の畜肉様食品用油脂組成物は、10℃での固体脂含量が5.0~35%であることが好ましい。10℃での固体脂含量が5.0%以上であると特に、畜肉様食品に噛み応えのある食感があり、呈味性、更には風味の持続性に優れる。この点から10℃での固体脂含量は、8.0%以上が好ましく、10%以上がより好ましい。10℃での固体脂含量が35%以下であると特に、呈味性、更には口中に入れた直後の風味に優れる。この点から10℃での固体脂含量は、23%以下が好ましく、20%以下がより好ましい。
ここで、10℃での固体脂含量は、後記の実施例欄に記載の方法で測定することができる。
【0020】
本発明の畜肉様食品用油脂組成物は、融点が9.0~30℃であることが好ましい。融点が9.0℃以上であると特に、畜肉様食品に噛み応えのある食感があり、呈味性、更には風味の持続性に優れる。この点から融点は、15.0℃以上が好ましく、21.0℃以上がより好ましい。融点が30℃以下であると特に、呈味性、更には口中に入れた直後の風味に優れる。この点から融点は、28.0℃以下が好ましく、25.5℃以下がより好ましく、24.0℃以下が更に好ましい。
ここで、融点は、後記の実施例欄に記載の方法で測定することができる。
【0021】
本発明の畜肉様食品用油脂組成物において、油脂としては、通常、食用油脂が用いられる。食用油脂は、1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸がエステル結合したトリグリセリドがほぼ全体を占める組成物であり、このような油脂としては、植物性油脂、動物性油脂、合成油脂、加工油脂等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせた調合油として用いてもよい。
【0022】
これらの中でも、畜肉の代替として植物性原料を用いる畜肉様食品に使用する点から、本発明の畜肉様食品用油脂組成物は、植物性油脂、及び植物性油脂の加工油脂から選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0023】
植物性油脂としては、例えば、パーム油、菜種油、大豆油、ヒマワリ油、コーン油、ゴマ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、高オレイン酸紅花油、高オレイン酸ヒマワリ油、綿実油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、オリーブ油、米ぬか油、小麦胚芽油、カカオ脂、ヤシ油、パーム核油、藻類油等が挙げられる。
動物性油脂としては、例えば、豚脂、牛脂、乳脂、羊脂、魚油、鶏油等が挙げられる。
合成油脂としては、例えば、中鎖脂肪酸油、ジアシルグリセロール等が挙げられる。
【0024】
加工油脂としては、上記の油脂に対して所望の処理を施した油脂であってもよい。このような処理としては、融点による分別、硬化、エステル交換反応等が挙げられる。油脂に対しては、1又は2以上の処理を施してもよい。
本発明の畜肉様食品用油脂組成物は、油脂全体の配合が、以下の油脂A、油脂B、及び油脂Cからなることが好ましい。
【0025】
<油脂A>
油脂Aは、全てのSSSの含有量がトリグリセリド全体の質量を基準として2.0~50質量%の油脂である。なお、SSSは、1位、2位、及び3位の全てに飽和脂肪酸が結合した3飽和トリグリセリドあり、ここでは飽和脂肪酸の炭素数は任意である。
なお、本明細書においてトリグリセリドの含有量は、後記の実施例欄に記載の方法で得ることができる。
【0026】
油脂Aは、炭素数16、18の脂肪酸を主体とし、飽和脂肪酸、特にパルミチン酸を豊富に含む。不飽和脂肪酸としてはオレイン酸を豊富に含む。また飽和脂肪酸を2つ以上有するトリグリセリドが多いことを特徴とし、融点が常温付近かそれ以上となる傾向がある。1分子のグリセロールに2分子の飽和脂肪酸Sと1分子の不飽和脂肪酸Uが結合した2飽和1不飽和トリグリセリドとして、1位及び3位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ2位に不飽和脂肪酸Uが結合した対称型トリグリセリド(SUS)や、1位と2位又は2位と3位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ3位又は1位に不飽和脂肪酸Uが結合した非対称型トリグリセリド(SSU)を含む。従って油脂AはPOP(1,3-ジパルミトイル-2-オレオイルグリセロール)に代表されるSUSや、PPO(1,2-ジパルミトイル-3-オレオイルグリセロール)に代表されるSSUの供給源となる油脂である。
油脂Aは、ヨウ素価が好ましくは40~65、より好ましくは50~60である。
油脂Aは、好ましくは20℃で固形状である。
【0027】
油脂Aは、ラウリン酸の含有量が、構成脂肪酸全体の質量を基準として好ましくは10質量%以下、より好ましくは5.0質量%以下、さらに好ましくは3.0質量%以下である。ラウリン酸が多いと本発明の効果を損なう虞がある。
【0028】
油脂Aは、炭素数22以上の飽和脂肪酸の含有量が、構成脂肪酸全体の質量を基準として好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下である。融点の高い炭素数22以上の飽和脂肪酸は、本発明の効果を損なう虞がある。
【0029】
油脂Aとしては、特に限定されないが、例えば、パーム油や、パーム油に融点による分別、硬化、エステル交換反応から選ばれる1又は2以上の処理を施した油脂が挙げられる。パーム分別油としては、軟質部(パームオレイン等)、中融点部(PMF等)、硬質部(パームステアリン等)等を用いることができる。これらは1種単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。中でも、パーム油、パーム分別軟質部、パーム分別軟質部のエステル交換油脂等を組み合わせて用いることが好ましい。
【0030】
本発明の畜肉様食品用油脂組成物は、油脂Aを、油脂A、B、C全体の質量を基準として20~85質量%配合したものであることが好ましく、25~68質量%配合したものであることがより好ましく、40~63質量%配合したものであることがさらに好ましい。
【0031】
<油脂B>
油脂Bは、20℃で液状を呈する液状油である。
油脂Bは、オレイン酸や、リノール酸など炭素数18の不飽和脂肪酸を豊富に含み、1位、2位、及び3位の全てに不飽和脂肪酸が結合した3不飽和トリグリセリド(UUU)、1分子のグリセロールに2分子の不飽和脂肪酸Uと1分子の飽和脂肪酸が結合した2不飽和1飽和トリグリセリド(UUS、USU)を主体とする。
【0032】
油脂Bは、UUUとUUSの合計含有量が、トリグリセリド全体の質量を基準として好ましくは55質量%以上である(ここで、UUUは、1位、2位、及び3位に炭素数18以上の不飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドを示し、UUSは、1位と2位又は2位と3位に炭素数18以上の不飽和脂肪酸が結合し、3位又は1位に炭素数任意の飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドを示す。)。
【0033】
油脂Bは、3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量が、トリグリセリド全体の質量を基準として好ましくは2.0質量%未満である(ここで、SSSの飽和脂肪酸の炭素数は任意である。)。
油脂Bとしては、特に限定されないが、例えば、菜種油、大豆油、ヒマワリ油、コーン油、ゴマ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、高オレイン酸紅花油、高オレイン酸ヒマワリ油、綿実油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、オリーブ油、米ぬか油、小麦胚芽油等が挙げられる。
油脂Bとしては、特に菜種油、大豆油を用いることが好ましい。
【0034】
本発明の畜肉様食品用油脂組成物は、油脂B(特に、UUUとUUSの合計含有量がトリグリセリド全体の質量を基準として55質量%以上である液状油)を、油脂A、B、C全体の質量を基準として15~80質量%配合したものであることが好ましく、36~74質量%配合したものであることがより好ましく、52~58質量%配合したものであることが更に好ましい。
【0035】
<油脂C>
油脂Cは、油脂A、B以外の油脂である。
本発明の畜肉様食品用油脂組成物は、油脂Cの使用量は少ない方が好ましい。従って、油脂A及び油脂Bの配合量は、油脂A、B、C全体の質量を基準として80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%が最も好ましい。
油脂Cの例としては、3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量がトリグリセリド全体の質量を基準として50質量%超の油脂(ここで、SSSの飽和脂肪酸の炭素数は任意である。)、ラウリン系油脂等が挙げられる。
【0036】
3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量が50質量%超の油脂としては、完全水素添加した極度硬化油、部分水素添加した硬化油等が挙げられる。ハイエルシン菜種油のような炭素数22以上の不飽和脂肪酸を含む液状油の極度硬化油の使用は、除外はしないものの望ましくない。また融点が50℃以上の極度硬化油の配合量は、油脂A、B、C全体の質量を基準として10質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がより好ましい。
【0037】
例えば、エルシン酸を硬化したベヘン酸の畜肉様食品用油脂組成物中における含有量としては、トリグリセリドの構成脂肪酸全体の質量を基準として5.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下が更に好ましい。
【0038】
ラウリン系油脂は、炭素数12の飽和脂肪酸であるラウリン酸の含有量がトリグリセリドの構成脂肪酸全体の質量を基準として30質量%以上、特に40~55質量%の油脂である。このようなラウリン系油脂としては、パーム核油、ヤシ油や、これらに融点による分別、硬化、エステル交換反応から選ばれる1又は2以上の処理を施した油脂等が挙げられる。
【0039】
本発明の畜肉様食品用油脂組成物は、前記のような油脂成分を配合し、常法により均一に混合することによって製造することができる。混合は各成分が均一に溶解するように加熱下で攪拌することによって行うことができ、その後、冷却混合機により急冷捏和することにより製造することができる。
【0040】
本発明の畜肉様食品用油脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で油脂以外のその他の成分を配合してもよい。
その他の成分としては、例えば、飲食品等に配合される公知の食品及び食品添加物を配合できる。
食品としては、例えば、糖類、茶葉、野菜、果物、香辛料、酵母、酵母エキス、食塩、澱粉、増粘多糖類、香味食用油(ネギ油、ラー油、花椒油、オニオンオイル、ガーリックオイル、しょうがオイル、マッシュルームオイル、ポルチーニ茸オイル、トリュフオイル、メンマオイル、ワサビオイル、ゆずオイル、焦がししょうゆオイル等)、ヴァージンココナッツオイル、ヴァージンオリーブオイル、ヴァージンコーンオイル、燻製油等が挙げられる。
食品添加物としては、例えば、乳化剤、酸化防止剤、シリコーン、着色料、香料、ビタミン類、pH調整剤等が挙げられる。
【0041】
本発明の畜肉様食品用油脂組成物は、前記のような油脂成分を配合した、水相を実質的に含有しない形態が好ましいが、その他に水相を含有する形態である油中水型や水中油型であってもよい。水相を実質的に含有しないとは、水分(揮発分を含む)の含有量が0.5質量%以下であることを意味する。
【0042】
(畜肉様食品)
本発明の畜肉様食品は、以上に説明した畜肉様食品用油脂組成物を配合したものである。
本発明の畜肉様食品は、畜肉様食品用油脂組成物と、植物性たん白素材とを含む。植物性たん白素材は、畜肉の代替となるものであり、乾燥質量換算でたん白質含有量が好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。具体的には、例えば、大豆、そら豆、えんどう豆、緑豆、ヒヨコ豆、落花生、ルビナス、キマメ、ナタ豆、ツル豆、インゲン豆、小豆、ササゲ、レンズ豆、イナゴ豆、金時豆、黒豆等の豆類、小麦、オーツ麦、大麦、ライ麦、米、トウモロコシ等の穀類、ほうれん草、アスパラガス、ブロッコリー、ケール、クランベリー等の野菜、馬鈴薯、サツマイモ等のイモ類等を加工し、たん白質濃度を高めた素材等が挙げられる。これらの中でも、大豆由来の植物性たん白質、えんどう豆由来の植物性たん白質、小麦由来の植物性たん白質の少なくとも1種を使用することが好ましく、大豆由来の植物性たん白質を使用することが最も好ましい。大豆由来の植物性たん白素材として、脱脂大豆やこれを出発原料とした加工品である脱脂大豆粉、濃縮大豆たん白、分離大豆たん白等が知られている。これらは、粉末状や、粒状もしくは繊維状に加工して、あるいは粉末状大豆たん白のカードを作製して、畜肉様食品に用いることができる。
【0043】
植物性たん白素材の生地における形態としては、ミンチ状、薄く切断した形状、塊状等が挙げられ、ミンチ状の形態を好ましく用いることができる。ミンチ状の形態には、粉末状である大豆由来の植物性たん白素材を好ましく用いることができる。
【0044】
本発明の畜肉様食品を製造する際には、植物性たん白素材と畜肉様食品用油脂組成物を捏ね合わせて生地、すなわち種を形成し、種を所定の形状に成形して成形物とする。その後、成形物を加熱処理することで畜肉様食品が得られる。
【0045】
本発明の畜肉様食品において、畜肉様食品用油脂組成物の配合量は、畜肉様食品全体の質量を基準として0.5~30質量%が好ましく、2.0~20質量%がより好ましい。
【0046】
本発明の畜肉様食品は、本発明の効果を損なわない範囲で、目的とする食品に必要な他の原材料を配合してもよい。他の原材料としては、特に限定されないが、例えば、水、野菜、調味料、穀粉類、澱粉類、食物繊維、増粘多糖類、糖質、塩類、酵母、酵母エキス、香辛料、着色料、保存料、香料等が挙げられる。
【0047】
本発明の畜肉様食品は、動物性の原材料(畜肉、畜肉由来成分、動物油脂、乳成分、卵等)を実質的に含まないことが好ましい。動物性の原材料の配合量は、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、更に好ましくは1.0質量%以下、最も好ましくは0質量%である。
【0048】
畜肉様食品としては、特に限定されないが、例えば、植物たん白加工食品(つくね様食品、ハンバーグ様食品、シューマイ様食品、餃子様食品、中華まん様食品、フィレ肉様食品(焼肉、炒め物)、から揚げ様食品、ベーコン様食品、クラブケーキ様食品、パスタソース、キーマカレー)、ソーセージ、豆腐ハンバーグ、ミートボール、チキンナゲット様、ハム様、ツナフレーク様等が挙げられる。
等が挙げられる。
【実施例0049】
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、表1A、表1Bに示す配合量は質量%を示す。
1.油脂組成物の作製
表1A、表1Bに示す配合比にて各油脂を加熱下で溶解、均一となるように混合し、その後冷却混合機により急冷捏和して実施例及び比較例の油脂組成物を得た。
【0050】
パーム分別軟質部のエステル交換油脂は、化学触媒としてナトリウムメチラートを用いてパーム分別軟質部のエステル交換反応を行い、エステル交換反応後、水洗して触媒を除去し、脱色及び脱臭して得た。このエステル交換油脂のヨウ素価は56であった。
【0051】
表1A、表1Bにおいて、トリグリセリドの含有量(質量%)は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2-2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2-2013 2位脂肪酸組成」)により得た。
固体脂含量は、基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.2.9-2013 固体脂含量(NMR法)」に準じて測定した。
融点は、基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「3.2.2.2-2013 融点(上昇融点)」に準じて測定した。
【0052】
2.評価
[鶏つくね用食品の作製]
以下の手順で鶏つくね様食品を作製した。
1.粉末状大豆蛋白12g、水20g、醤油4g、生姜2gを混合することで粉末状大豆蛋白を水で戻す。
2.玉ねぎ(冷凍ダイスカット)24g、加工澱粉6gを混合する。
3.パン粉8g、塩0.8g、黒コショウ0.2gを混合する。
4.3に1,2を混合する。
5.4に実施例及び比較例の油脂組成物を16g混合する。
6.5に大豆カードを107g加え、粘りが出るまでよく捏ね合わせて生地を作製した。
7.生地を50gずつに成形し、195℃に設定したコンベクションオーブンで15分焼成した。焼成後、半分にカットしたものを試験に供した。
【0053】
[官能評価]
表1A、表1Bに記載の油脂組成物について得られた鶏つくね様食品について評価を行った。評価は喫食時の「食感(噛み応え)」「呈味性」「トップの風味」「ラストの風味」の強度を、パネル10名で官能評価にて行った。パネルは五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準嗅覚テストを実施し、その各々のテストで適合と判断された20~50代の男性6名、女性4名を選抜した。各項目において評価が○以上を合格とした。
【0054】
(評価基準)食感(噛み応え)
◎+:10名中、9名以上が食感が良好であると回答した。
◎:10名中、7名以上8名以下が食感が良好であると回答した。
○:10名中、5名以上6名以下が食感が良好であると回答した。
△:10名中、3名以上4名以下が食感が良好であると回答した。
×:10名中、2名以下が食感が良好であると回答した。
【0055】
(評価基準)呈味性
◎+:10名中、9名以上が呈味性を強く感じると回答した。
◎:10名中、7名以上8名以下が呈味性を強く感じると回答した。
○:10名中、5名以上6名以下が呈味性を強く感じると回答した。
△:10名中、3名以上4名以下が呈味性を強く感じると回答した。
×:10名中、2名以下が呈味性を強く感じると回答した。
【0056】
(評価基準)トップの風味
◎+:10名中、9名以上がトップの風味を強く感じると回答した。
◎:10名中、7名以上8名以下がトップの風味を強く感じると回答した。
○:10名中、5名以上6名以下がトップの風味を強く感じると回答した。
△:10名中、3名以上4名以下がトップの風味を強く感じると回答した。
×:10名中、2名以下がトップの風味を強く感じると回答した。
【0057】
(評価基準)ラストの風味
◎+:10名中、9名以上がラストの風味を強く感じると回答した。
◎:10名中、7名以上8名以下がラストの風味を強く感じると回答した。
○:10名中、5名以上6名以下がラストの風味を強く感じると回答した。
△:10名中、3名以上4名以下がラストの風味を強く感じると回答した。
×:10名中、2名以下がラストの風味を強く感じると回答した。
【0058】
上記評価の結果を表1に示す。
【0059】
【0060】