(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080340
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用セパレータおよびそれを含む鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/417 20210101AFI20240606BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20240606BHJP
H01M 50/466 20210101ALI20240606BHJP
H01M 50/46 20210101ALI20240606BHJP
H01M 10/12 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
H01M50/417
H01M50/489
H01M50/466
H01M50/46
H01M10/12 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193443
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 悦子
(72)【発明者】
【氏名】安藤 和成
【テーマコード(参考)】
5H021
5H028
【Fターム(参考)】
5H021AA06
5H021CC18
5H021EE04
5H021HH01
5H021HH03
5H021HH10
5H028AA05
5H028CC08
5H028CC10
5H028CC11
5H028EE06
5H028HH01
5H028HH05
(57)【要約】
【解決手段】鉛蓄電池用セパレータは、結晶質領域と非晶質領域とを含むとともに、第1表面と第2表面とを有する。前記セパレータの前記第1表面の結晶化度C
1は、前記セパレータの前記第2表面の結晶化度C
2よりも高い。前記結晶化度C
1は、30%未満である。前記結晶化度C
1および前記結晶化度C
2のそれぞれは、100×I
c/(I
c+I
a)で表される。I
cは、前記第1表面または前記第2表面のX線回折スペクトルにおける前記結晶質領域に相当する回折ピークのうちピーク高さが最大である回折ピークの積分強度である。I
aは、前記第1表面または前記第2表面のX線回折スペクトルにおける前記非晶質領域に相当するハローの積分強度である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池用セパレータであって、
前記セパレータは、結晶質領域と非晶質領域とを含むとともに、第1表面と第2表面とを有し、
前記セパレータの前記第1表面の結晶化度C1は、前記セパレータの前記第2表面の結晶化度C2よりも高く、
前記結晶化度C1は、30%未満であり、
前記結晶化度C1および前記結晶化度C2のそれぞれは、100×Ic/(Ic+Ia)で表され、
Icは、前記第1表面または前記第2表面のX線回折スペクトルにおける前記結晶質領域に相当する回折ピークのうちピーク高さが最大である回折ピークの積分強度であり、
Iaは、前記第1表面または前記第2表面のX線回折スペクトルにおける前記非晶質領域に相当するハローの積分強度である、鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項2】
前記結晶化度C1は、20%以上29%以下である、請求項1に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項3】
前記結晶化度C1と前記結晶化度C2との差は、1以上10以下である、請求項1または2に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項4】
前記セパレータの厚さは、75μm以上250μm以下である、請求項1または2に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項5】
ポリオレフィンを含む、請求項1または2に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項6】
前記ポリオレフィンは、少なくともエチレン単位を含み、
前記ピーク高さが最大である前記回折ピークは、前記結晶質領域による(110)面に相当する、請求項5に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項7】
鉛蓄電池であって、
前記鉛蓄電池は、極板群および電解液を含む少なくとも1つのセルを含み、
前記極板群は、正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板の間に介在するセパレータとを含み、
前記セパレータは、請求項1または2に記載の鉛蓄電池用セパレータであるとともに、袋状である、鉛蓄電池。
【請求項8】
前記第1表面は前記正極板と対向し、
前記第2表面は前記負極板と対向する、請求項7に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用セパレータおよびそれを含む鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、正極板および負極板と、これらの間に介在するセパレータと、電解液と、を含む。鉛蓄電池のセパレータには、様々な性能が要求される。
【0003】
特許文献1は、ポリオレフィン系樹脂20~60質量%と、無機粉体80~40質量%と、これらの配合物に対して40~240質量%の鉱物オイルとの混合物からなる原料組成物を加熱溶融し、混練しながら、リブを有するシート状に成形した後、該オイルを溶解し得る有機溶剤の浸漬槽に浸漬して該オイルの一部を抽出除去し、加熱乾燥して得られる、該オイルを5~30質量%含有した鉛蓄電池用リブ付きセパレータにおいて、該セパレータのリブ部とベース部におけるオイル含有率の差を5質量%以下としたことを特徴とする鉛蓄電池用リブ付きセパレータを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉛蓄電池では、正極板に正極活物質として酸化力の強い二酸化鉛が含まれる。過充電状態の鉛蓄電池では、正極板の電位が高い。そのため、正極板と対向するセパレータは、酸化劣化し易い。過充電時のセパレータの酸化劣化は、特に、高温(例えば、75℃以上の温度)で顕著である。鉛蓄電池において、セパレータが酸化劣化すると、柔軟性が低下して亀裂が生じ、短絡が起こることで寿命となる。
【0006】
鉛蓄電池用のセパレータは、正極板に対向する表面にリブを有したり、造孔剤などとしてオイルを含有したりすることがある。このようなセパレータでは、酸化劣化をある程度抑制することができるため、高い高温過充電寿命性能を確保する観点からは有利である。しかし、鉛蓄電池の使用環境または使用形態などの変化に伴い、鉛蓄電池用のセパレータには、さらに高い高温過充電寿命性能が求められている。
【0007】
鉛蓄電池では、袋状のセパレータが使用される場合がある。袋状セパレータは、例えば、シート状のセパレータを2つ折りにし、折り目を上または下に配置したときの両側端部を、圧着部材に挟み込んで加熱し、圧着させることによって形成される。圧着部材には噛み合いギアまたは金型などが含まれる。高い高温過充電寿命性能を有するセパレータを圧着部材に挟み込んだ場合に、圧着部材の形状に追従し難く、形成される圧着部の接合力が低い場合がある。圧着部の接合力が低いと、鉛蓄電池の製造過程または充放電を繰り返す過程で圧着部が剥離することがある。
【0008】
本明細書中、袋状加工に供したセパレータ全体に占める、圧着部の接合力が所定値より低いセパレータの個数比率を「圧着不良率」と称する場合がある。なお、圧着部の接合力は引張強度に基づいて評価する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面は、鉛蓄電池用セパレータであって、
前記セパレータは、結晶質領域と非晶質領域とを含むとともに、第1表面と第2表面とを有し、
前記セパレータの前記第1表面の結晶化度C1は、前記セパレータの前記第2表面の結晶化度C2よりも高く、
前記結晶化度C1は、30%未満であり、
前記結晶化度C1および前記結晶化度C2のそれぞれは、100×Ic/(Ic+Ia)で表され、
Icは、前記第1表面または前記第2表面のX線回折スペクトルにおける前記結晶質領域に相当する回折ピークのうちピーク高さが最大である回折ピークの積分強度であり、
Iaは、前記第1表面または前記第2表面のX線回折スペクトルにおける前記非晶質領域に相当するハローの積分強度である、鉛蓄電池用セパレータに関する。
【発明の効果】
【0010】
鉛蓄電池の高温過充電寿命性能を向上できるとともに、袋状に加工する時の圧着不良率を低減できる鉛蓄電池用セパレータを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る袋状セパレータの外観の平面模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の外観と内部構造を示す一部切り欠き斜視図である。
【
図3】実施例の鉛蓄電池E1に用いた鉛蓄電池用セパレータの第1表面のX線回折スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
鉛蓄電池は、過酷な条件下で使用される場合がある。鉛蓄電池の代表的な用途の1つに自動車用途がある。近年、自動車が、渋滞に巻き込まれたり、商用車のように常時使用されたりすることで、鉛蓄電池が過充電状態に晒される機会が増加している。また、温暖化に伴い、夏期には、より高い温度環境下で鉛蓄電池が使用される機会が増加している。そのため、近年、鉛蓄電池には、従来に比べて、さらに高いレベルの高温過充電寿命性能が求められるようになりつつある。
【0013】
セパレータの正極板に対向する表面にリブを設けると、セパレータと正極板との間に隙間が形成されるため、セパレータの酸化劣化が軽減される傾向がある。しかし、鉛蓄電池の高性能化に伴い、従来に比べて、1つのセルにつき、厚さの小さい極板を数多く収容することが多くなっているため、リブを設けるだけではセパレータの酸化劣化を抑制するには不十分である。セパレータがオイルを含有する場合にも、セパレータの酸化劣化をある程度軽減できる。しかし、絶縁性のオイルがセパレータの細孔を塞ぐため、セパレータの抵抗が大きくなり、極板の反応性が低下する傾向がある。そのため、高性能の鉛蓄電池では、セパレータ中のオイルの含有率を高めることが難しい。このように、従来のセパレータでは、鉛蓄電池の高温過充電寿命性能を高いレベルまで向上することは困難である。
【0014】
本発明者らは、セパレータの結晶化度を調節することで、セパレータ自体の耐酸化性を向上できることを見出した。セパレータの結晶化度を調節する場合、従来のオイルを含むセパレータの場合のように、耐酸化性を高めても、抵抗が増加するといった背反がほとんどない。そのため、高性能の鉛蓄電池でも、優れた高温過充電寿命性能を確保することができる。
【0015】
セパレータの結晶化度が高くなるにつれて、高温過充電寿命性能が高くなる傾向がある。しかし、結晶化度が高くなると、セパレータを袋状に加工するにあたって、折り曲げたセパレータの側端部を圧着部材に挟み込んで圧着させる際に、圧着部材の形状に追従し難く、圧着部の接合力が所定値よりも低くなり、圧着不良率が高くなる場合があることが明らかとなった。
【0016】
上記に鑑み、(1)本発明の一側面に係る鉛蓄電池用セパレータは、結晶質領域と非晶質領域とを含む。セパレータは、第1表面と第2表面とを有する。セパレータの第1表面の結晶化度C1は、セパレータの第2表面の結晶化度C2よりも高い。結晶化度C1は、30%未満である。結晶化度C1および結晶化度C2のそれぞれは、100×Ic/(Ic+Ia)で表される。Icは、第1表面または第2表面のX線回折(X-ray diffraction:XRD)スペクトルにおける結晶質領域に相当する回折ピークのうちピーク高さが最大である回折ピークの積分強度である。Iaは、第1表面または第2表面のXRDスペクトルにおける非晶質領域に相当するハローの積分強度である。結晶質領域に相当する回折ピークのうちピーク高さが最大である回折ピークを、以下、「第1回折ピーク」と称することがある。
【0017】
第1表面および第2表面の結晶化度がC1>C2の関係を充足することで、より高い結晶化度C1により、高い耐酸化性を確保することができる。その結果、各表面の結晶化度がC1=C2の場合に比べて、結晶化度C1が大きくなると、高温過充電寿命性能を向上できる。また、結晶化度がC1=C2の場合に比べて、結晶化度C2が小さくなると、セパレータを袋状に加工する際に、圧着部材の形状にセパレータが追従し易く、圧着性が向上する。そのため、セパレータを袋状に加工する際に、圧着部の接合力の低下が抑制され、圧着不良率を低減することができる。各表面の結晶化度がC1>C2を充足しても、C1≧30%の場合、C1<30%の場合に比較して、C1>C2とすることによる圧着性の向上効果が発揮され難くなる。上記側面に係るセパレータでは、第1表面の結晶化度がC1<30%を充足することで、圧着不良率を低いレベルに抑えることができる。
【0018】
(2)上記(1)において、結晶化度C1は、20%以上29%以下であってもよい。結晶化度C1が20%以上であることで、より高い高温過充電寿命性能を確保することができる。結晶化度C1が29%以下であることで、より低い圧着不良率が得られる。
【0019】
(3)上記(1)または(2)において、結晶化度C1と結晶化度C2との差は、1以上10以下であってもよい。第1表面と第2表面との結晶化度の差がこのような範囲であることで、高い高温過充電寿命性能と低い圧着不良率とがバランスよく得られ易い。
【0020】
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つにおいて、セパレータの厚さは、75μm以上250μm以下であってもよい。セパレータの厚さが75μm以上である場合、セパレータの高い耐酸化性が得られ易く、より高い高温過充電寿命性能が得られる。セパレータの厚さが250μm以下である場合、厚さが250μmを超える場合と比較して圧着不良率をさらに低減できる。
【0021】
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つにおいて、セパレータは、ポリオレフィンを含んでもよい。このようなセパレータは、酸化劣化し易いが、結晶化度を比較的容易に調節できる。
【0022】
(6)上記(5)において、ポリオレフィンは、少なくともエチレン単位を含んでもよい。この場合、第1回折ピークは、結晶質領域による(110)面に相当する。このようなセパレータは、酸化劣化し易いが、結晶化度を比較的容易に調節できる。
【0023】
(7)本発明は、上記の鉛蓄電池用セパレータを含む鉛蓄電池も包含する。より具体的には、鉛蓄電池は、極板群および電解液を含む少なくとも1つのセルを含み、極板群は、正極板と、負極板と、正極板および負極板の間に介在するセパレータとを含む。セパレータは、上記(1)~(6)のいずれか1つに記載のセパレータであるとともに、袋状である。このような鉛蓄電池では、高い高温過充電寿命性能が得られる。また、上記セパレータでは袋状に加工する際に圧着部の高い接合力が確保されるため、鉛蓄電池では脱落した電極材料が袋内に侵入したり袋外に放出されたりすることが抑制され、脱落した電極材料を介した短絡の発生を抑制することができる。
【0024】
(8)上記(7)において、セパレータの第1表面は、正極板と対向し、第2表面は負極板と対向してもよい。一般に、セパレータの正極板と対向する表面では、酸化劣化が進行し易い。本発明の上記側面に係るセパレータでは、より高い結晶化度C1を有する第1表面を正極板と対向させると、セパレータの耐酸化性をさらに高めることができ、さらに高い高温過充電寿命性能を確保することができる。また、第2表面の結晶化度C2が結晶化度C1より低いことで、低い圧着不良率を確保できる。
【0025】
鉛蓄電池は、制御弁式電池であってもよいが、液式電池が好ましい。制御弁式電池は、密閉式電池またはVRLA(Valve-regulated lead-acid battery)とも称される。液式電池は、ベント型電池とも称される。
【0026】
以下に、上記(1)~(8)を含めて、本発明の一側面に係るセパレータおよび鉛蓄電池について、主要な要件ごとに、より具体的に説明する。しかし、本発明は以下に記載する構成要件のみに限定されない。本明細書中に記載の構成要素は、任意に組み合わせられる。本明細書中に記載の少なくとも1つの構成要素を、上記(1)~(8)の少なくとも1つと組み合わせてもよい。
【0027】
(セパレータ)
セパレータは、セパレータの構成材料の分子の配列性が高い結晶質領域と、配列性が低い非晶質領域とを含む。結晶質領域では、セパレータの構成材料の分子が比較的規則正しく配列している。このようなセパレータの表面のXRDスペクトルでは、結晶質領域による回折ピークが観察されるとともに、非晶質領域による散乱光がハローとして観察される。
【0028】
セパレータの第1表面および第2表面のXRDスペクトルにおいて、各表面の結晶化度C1およびC2は、それぞれ、100×Ic/(Ic+Ia)で表される。本発明の一側面に係るセパレータでは、各表面の結晶化度が、C1>C2を充足するとともに、第1表面の結晶化度C1が30%未満である。これらの条件を充足することで、セパレータの第1表面側の部分によって高い高温過充電寿命を確保しながら、第2表面側の部分によって、袋状に加工する時の圧着不良率を低く抑えることができる。上記式において、Icは、各表面のXRDスペクトルにおける第1回折ピークの積分強度であり、Iaは、各表面のXRDスペクトルにおける非晶質領域に相当するハローの積分強度である。
【0029】
例えば、エチレン単位を含むポリオレフィンを含むセパレータのXRDスペクトルでは、結晶質領域の(110)面に相当する回折ピークが、2θが20°以上22.5°以下の範囲に観察され、結晶質領域の(200)面に相当する回折ピークが、2θが23°以上24.5°以下の範囲に観察される。また、非晶質領域のハローは、2θが17°以上27°以下の範囲に観察される。ポリエチレンを含むセパレータにおいて、ポリエチレンの結晶質領域による回折ピークのうち、(110)面に相当する回折ピークは、ピーク高さが最大であり、第1回折ピークに相当する。
【0030】
より低い圧着不良率が得られ易い観点からは、結晶化度C1は、29%以下が好ましく、26%以下がより好ましく、25%以下がさらに好ましい。より高い高温過充電寿命性能を確保する観点からは、結晶化度C1は、20%以上が好ましく、23%以上がより好ましく、25%以上がさらに好ましい。結晶化度C1は、例えば、20%以上30%未満、20%以上29%以下、20%以上25%以下、または25%以上30%未満であってもよい。
【0031】
結晶化度C1と結晶化度C2との差は、1以上であってもよい。より高い高温過充電寿命性能が得られ易いことに加え、圧着不良率を低減し易い観点からは、これらの結晶化度の差は、2以上が好ましく、3以上がより好ましい。結晶化度の差は、10以下であってもよく、9以下であってもよい。結晶化度の差は、例えば、1以上10以下、2以上9以下、または3以上9以下であってもよい。結晶化度C1と結晶化度C2との差とは、(C1-C2)の値である。
【0032】
結晶化度C2は、C1>C2を充足するように決定される。結晶化度C2は、18%以上であってもよい。より高い高温過充電寿命性能を確保し易い観点から、結晶化度C2は、20%以上であってもよい。より低い圧着不良率が得られ易い観点からは、結晶化度C2は、26%以下であってもよく、25%以下であってもよく、23%以下であってもよく、22%以下であってもよい。結晶化度C2は、例えば、18%以上26%以下、または18%以上25%以下であってもよい。
【0033】
回折ピークおよびハローの積分強度は、セパレータの各表面のXRDスペクトルにおいて、結晶質領域による回折ピークと非晶質領域によるハローとをフィッティングすることによって求められる。各表面について、求められた第1回折ピークの積分強度Icおよびハローの積分強度Iaを用いて、上記の式から結晶化度が求められる。
【0034】
セパレータを鉛蓄電池に用いるにあたって、セパレータの第1表面は、正極板および負極板のいずれに対向させてもよい。例えば、第1表面が負極板に対向し、第2表面が正極板に対向するようにセパレータを配置してもよい。圧着不良率は、結晶化度がC1>C2を充足することで、低く抑えることができる。さらに高い高温過充電寿命性能が得られる観点からは、第1表面が正極板に対向し、第2表面が負極板に対向するようにセパレータを配置することが好ましい。
【0035】
セパレータは、ポリマー材料を含む。当該ポリマー材料を、以下、ベースポリマーと称する場合がある。セパレータは、結晶質領域を含むため、ベースポリマーは、通常、結晶性ポリマーを含む。ポリマー材料は、例えば、ポリオレフィンを含む。ポリオレフィンとは、少なくともオレフィン単位を含む重合体である。換言すると、ポリオレフィンは、少なくともオレフィンに由来するモノマー単位を含む重合体である。
【0036】
ベースポリマーとして、ポリオレフィンと他のベースポリマーとを併用してもよい。セパレータに含まれるベースポリマー全体に占めるポリオレフィンの比率は、50質量%以上、80質量%以上、または90質量%以上であってもよい。ポリオレフィンの比率は、例えば、100質量%以下である。ベースポリマーをポリオレフィンのみで構成してもよい。ポリオレフィンの比率がこのように多い場合、セパレータの耐酸化性が低くなる傾向があるが、このような場合であっても、各表面の結晶化度がC1>C2を充足することで、高い高温過充電寿命性能を確保することができる。また、高い圧着性が得られ易く、より低い圧着不良率が得られる。
【0037】
ポリオレフィンには、例えば、オレフィンの単独重合体、異なるオレフィン単位を含む共重合体、オレフィン単位および共重合性モノマー単位を含む共重合体が包含される。オレフィン単位および共重合性モノマー単位を含む共重合体は、1種または2種以上のオレフィン単位を含んでいてもよい。また、オレフィン単位および共重合性モノマー単位を含む共重合体は、1種または2種以上の共重合性モノマー単位を含んでいてもよい。共重合性モノマー単位とは、オレフィン以外で、かつオレフィンと共重合可能な重合性モノマーに由来するモノマー単位である。
【0038】
ポリオレフィンとしては、例えば、少なくともC2-3オレフィンをモノマー単位として含む重合体が挙げられる。C2-3オレフィンとして、エチレンおよびプロピレンからなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、C2-3オレフィンをモノマー単位として含む共重合体がより好ましい。このような共重合体としては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体が挙げられる。ポリオレフィンの中では、少なくともエチレン単位を含むポリオレフィンを用いることが好ましい。少なくともエチレン単位を含むポリオレフィンと他のポリオレフィンとを併用してもよい。少なくともエチレン単位を含むポリオレフィンとしては、ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体などが挙げられる。セパレータは、ポリオレフィンを一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0039】
セパレータは、オイルを含んでもよい。セパレータがオイルを含む場合、セパレータの酸化劣化を抑制する効果をさらに高めることができるため、より高い高温過充電寿命性能を確保することができる。オイルとは、室温で液状であり、水と分離する疎水性物質を言う。
本明細書中、室温とは、20℃以上35℃以下の温度である。
【0040】
オイルには、天然由来のオイル、鉱物オイル、および合成オイルが包含される。オイルとしては、鉱物オイル、合成オイルなどが好ましい。オイルとしては、例えば、パラフィンオイル、シリコーンオイルが挙げられる。セパレータは、オイルを一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。
【0041】
セパレータ中のオイルの含有率は、11質量%以上であってもよい。オイルの含有率がこのような範囲である場合、セパレータの酸化劣化を抑制する効果がさらに高まる。また、セパレータ中のオイルの含有率は、18質量%以下であってもよい。この場合、セパレータの抵抗を比較的低く抑えることができる。
【0042】
本発明の一側面に係るセパレータは、鉛蓄電池に用いるにあたって袋状に加工される。本発明には、袋状のセパレータだけでなく、袋状に加工される前のシート状のセパレータも包含される。鉛蓄電池の組み立てにおいて、袋状セパレータには、正極板または負極板のうちのいずれか一方が収容される。袋状セパレータに収容された一方の極板と、他方の極板とを交互に重ねて配置することで、極板群が形成される。
【0043】
セパレータは、リブを有してもよく、リブを有さなくてもよい。リブを有するセパレータは、例えば、ベース部とベース部の表面から立設されたリブとを備える。リブは、セパレータまたは各ベース部の一方の表面のみに設けてもよく、両方の表面にそれぞれ設けてもよい。なお、セパレータのベース部とは、セパレータの構成部位のうち、リブなどの突起を除く部分であり、セパレータの外形を画定するシート状の部分をいう。
【0044】
セパレータの厚さは、75μm以上であってもよい。セパレータの厚さがこのような範囲である場合、各表面の結晶化度をC1>C2とすることで、より高い高温過充電寿命性能が得られるとともに、圧着不良率を低く抑えることができる。さらに高い高温過充電寿命性能を確保する観点からは、セパレータの厚さは、90μm以上または100μm以上であってもよい。セパレータの厚さは、300μm以下であってもよい。より低い圧着不良率が得られ易い観点からは、セパレータの厚さは、250μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。セパレータの厚さは、例えば、75μm以上300μm以下、75μm以上250μm以下、90μm以上250μm以下、または100μm以上250μm以下であってもよい。
【0045】
セパレータの厚さとは、セパレータの電極材料に対向する部分における平均厚さを意味する。セパレータが、ベース部とベース部の少なくとも一方の表面から立設されたリブとを備える場合には、セパレータの厚さとは、ベース部における平均厚さである。セパレータには、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材を、以下、「貼付部材」とも称する。セパレータに、貼付部材が貼り付けられている場合には、貼付部材の厚さは、セパレータの厚さには含まれない。
【0046】
セパレータがリブを有する場合、リブの高さは、0.05mm以上であってもよい。また、リブの高さは、1.2mm以下であってもよい。リブの高さは、ベース部の表面から突出した部分の高さである。
【0047】
セパレータの第1表面において、正極板の正極電極材料が存在する部分と対向する領域に設けられるリブの高さは、0.40mm以上であってもよい。このようなリブを第1リブと称することがある。セパレータの第1表面における第1リブの高さは、1.20mm以下または0.80mm以下であってもよい。
【0048】
セパレータが第2表面にリブを有する場合、第2表面の負極板の負極電極材料が存在する部分と対向する領域に設けられるリブの高さは、0.05mm以上であってもよい。このようなリブを第2リブと称することがある。セパレータの第2表面における第2リブの高さは、0.30mm以下であってもよい。セパレータが、第2リブを有しない場合も好ましい。
【0049】
セパレータは、例えば、ベースポリマーと、造孔剤と、浸透剤とを含む樹脂組成物をシート状に押出成形し、延伸処理した後、造孔剤の少なくとも一部を除去することにより得られる。浸透剤としては、界面活性剤などが挙げられる。少なくとも一部の造孔剤を除去することで、ベースポリマーのマトリックス中に微細孔が形成される。シート状のセパレータは、造孔剤を除去した後、必要に応じて乾燥処理される。例えば、押出成形する際のシートの冷却速度、延伸処理の際の延伸倍率、および乾燥処理の際の温度からなる群より選択される少なくとも1つを調節することによって、結晶化度が調節される。例えば、押出成形する際にシートを急冷したり、延伸倍率を高くしたり、または乾燥処理の際の温度を低くしたりすると、結晶化度が高くなる傾向がある。また、シートの第1表面側の温度が第2表面側の温度よりも低くなるように冷却して、冷却速度を各表面で相違させることにより、C1>C2の関係を充足させることができる。延伸処理は、二軸延伸によって行ってもよいが、通常、一軸延伸によって行われる。シート状のセパレータは、さらに、圧着機によって、袋状に加工される。
【0050】
リブを有するセパレータでは、リブは、樹脂組成物を押出成形する際にシートに形成してもよい。また、リブは、樹脂組成物をシート状に成形した後または造孔剤を除去した後に、各リブに対応する溝を有するローラでシートを押圧することにより形成してもよい。
【0051】
造孔剤としては、液状造孔剤および固形造孔剤などが挙げられる。造孔剤は、少なくともオイルを含むことが好ましい。オイルを用いることで、オイルを含有するセパレータが得られ、酸化劣化を抑制する効果がさらに高まる。造孔剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。オイルと他の造孔剤とを併用してもよい。液状造孔剤と、固形造孔剤とを併用してもよい。25℃において、液状の造孔剤を液状造孔剤、固形の造孔剤を固形造孔剤と分類する。
【0052】
液状造孔剤としては、上述のオイルが好ましい。固形造孔剤としては、例えば、ポリマー粉末が挙げられる。
【0053】
セパレータ中の造孔剤の量は、種類によっては変化することがある。セパレータ中の造孔剤の量は、ベースポリマー100質量部あたり、例えば、30質量部以上である。造孔剤の量は、ベースポリマー100質量部あたり、例えば、60質量部以下である。
【0054】
例えば、造孔剤としてのオイルを用いて形成されるシートから、溶剤を用いて一部のオイルを抽出除去することによって、オイルを含有するセパレータが形成される。溶剤は、例えば、オイルの種類に応じて選択される。例えば、溶剤の種類および組成、抽出条件などを調節することによって、セパレータ中のオイルの含有率が調節される。抽出条件としては、抽出時間、抽出温度、溶剤を供給する速度などが挙げられる。
【0055】
浸透剤としての界面活性剤としては、例えば、イオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤のいずれであってもよい。界面活性剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
セパレータ中の浸透剤の含有率は、例えば、0.01質量%以上であり、0.1質量%以上であってもよい。セパレータ中の浸透剤の含有率は、10質量%以下であってもよい。
【0057】
セパレータの製造に供される樹脂組成物、またはセパレータは、無機粒子を含んでもよい。
【0058】
無機粒子としては、例えば、セラミックス粒子が好ましい。セラミックス粒子を構成するセラミックスとしては、例えば、シリカ、アルミナ、およびチタニアからなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0059】
セパレータ中の無機粒子の含有率は、40質量%以上であってもよい。無機粒子の含有率は、80質量%以下または70質量%以下であってもよい。
【0060】
(セパレータの分析またはサイズの計測)
(セパレータの準備)
セパレータの分析またはサイズの計測には、未使用のセパレータまたは使用初期の満充電状態の鉛蓄電池から取り出したセパレータが用いられる。鉛蓄電池から取り出したセパレータは、分析または計測に先立って、洗浄および乾燥される。
【0061】
鉛蓄電池から取り出したセパレータの洗浄および乾燥は、次の手順で行われる。鉛蓄電池から取り出したセパレータを純水中に1時間浸漬し、セパレータ中の硫酸を除去する。次いで浸漬していた液体からセパレータを取り出して、25℃±5℃環境下で、16時間以上静置し、乾燥させる。
【0062】
本明細書中、液式の鉛蓄電池の満充電状態とは、JIS D 5301:2019の定義によって定められる。より具体的には、25℃±2℃の水槽中で、20時間率電流I20の2倍の電流2I20の電流(単位:A)で、15分ごとに測定した充電中の端子電圧(単位:V)または20℃に温度換算した電解液密度が3回連続して有効数字3桁で一定値を示すまで充電した状態が満充電状態である。制御弁式の鉛蓄電池の場合、満充電状態とは、25℃±2℃の気槽中で、20時間率電流I20の5倍の電流5I20で、2.67V/セル(定格電圧12Vの鉛蓄電池においては16.00V)の定電流定電圧充電を行い、総充電時間が24時間になった時点で充電を終了した状態である。定格容量として記載の数値は、単位をAhとした数値である。定格容量として記載の数値を元に設定される電流の単位はAとする。20時間率電流I20とは、定格容量に記載のAhの数値の1/20の電流(A)のことである。
【0063】
満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電状態まで充電した鉛蓄電池である。鉛蓄電池を満充電状態まで充電するタイミングは、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい。例えば、化成後で、使用中の鉛蓄電池を充電してもよく、好ましくは、化成後で、使用初期の鉛蓄電池を充電してもよい。
【0064】
本明細書中、使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池である。
【0065】
(XRDスペクトル)
セパレータの第1表面および第2表面のXRDスペクトルは、セパレータの第1表面または第2表面に垂直な方向からX線を照射することによって測定される。測定用のサンプルは、セパレータの電極材料に対向する部分を短冊状に加工することによって作製される。リブを有するセパレータでは、リブを含まないように、ベース部を短冊状に加工してサンプルを作製する。各サンプルの第1表面および第2表面のそれぞれについて、XRDスペクトルの測定および解析は、以下の条件で行われる。
(測定条件)
測定装置:RINT-TTR2、リガク社製
X線源:CuKα
出力:40kW
走査方法:FT(ステップスキャン)法
測定角度範囲:15-35°
ステップ幅:0.02°
計測速度:5°/min
保持時間:5秒
XRDデータ処理:XRDパターン解析ソフト(PDXL2、リガク社製)を使用。
【0066】
(セパレータの厚さおよびリブの高さ)
セパレータの厚さは、セパレータの断面写真において、任意に選択した5箇所について厚さを計測し、平均化することによって求められる。
【0067】
リブの高さは、セパレータの断面写真において、リブの任意に選択される10箇所において計測したリブのベース部の一方の表面からの高さを平均化することにより求められる。
【0068】
(セパレータ中の浸透剤の含有率)
セパレータの電極材料に対向する部分を短冊状に加工してサンプルを作製する。このサンプルを、以下、サンプルAと称する。リブを有するセパレータでは、リブを含まないように、ベース部を短冊状に加工してサンプルAを作製する。
【0069】
サンプルAの一部を採取し、正確に秤量した後、室温で大気圧より低い減圧環境下で、12時間以上乾燥させる。乾燥物を白金セルに入れて、熱重量測定装置にセットし、昇温速度10K/分で、室温から800℃±1℃まで昇温する。室温から250℃±1℃まで昇温させたときの重量減少量を浸透剤の質量とし、サンプルAの質量に占める浸透剤の質量の比率を百分率で算出し、上記の浸透剤の含有率(質量%)とする。熱重量測定装置としては、T.A.インスツルメント社製のQ5000IRが使用される。10個のサンプルAについて浸透剤の含有率を求め、平均値を算出する。得られる平均値をセパレータ中の浸透剤の含有率とする。
【0070】
(セパレータ中のオイルの含有率)
上記と同様に作製したサンプルAの約0.5gを採取し、正確に秤量し、初期のサンプルの質量(m0)を求める。秤量したサンプルAを、適当な大きさのガラス製ビーカーに入れ、n-ヘキサン50mLを加える。次いで、ビーカーごと、サンプルAに約30分間、超音波を付与することにより、サンプルA中に含まれるオイル分を含むn-ヘキサン可溶物質をn-ヘキサン中に溶出させる。次いで、n-ヘキサンからサンプルAを取り出し、大気中、室温で乾燥させた後、秤量することにより、n-ヘキサン可溶物質除去後のサンプルAの質量(m1)を求める。そして、下記式により、n-ヘキサン可溶物質の含有率を算出する。10個のサンプルAについてn-ヘキサン可溶物質の含有率を求め、平均値を算出する。得られる平均値をセパレータ中のn-ヘキサン可溶物質の含有率とする。
n-ヘキサン可溶物質の含有率(質量%)=(m0-m1)/m0×100
n-ヘキサン可溶物質の含有率から浸透剤の含有率を減ずることにより、セパレータ中のオイルの含有率を算出する。
【0071】
(セパレータ中の無機粒子の含有率)
上記と同様に作製したサンプルAの一部を採取し、正確に秤量した後、白金坩堝中に入れ、ブンゼンバーナーで白煙が出なくなるまで加熱する。次に、得られるサンプルを、電気炉で、約1時間加熱して灰化し、灰化物を秤量する。電気炉での加熱は、酸素気流中、550℃±10℃の温度で行う。サンプルAの質量に占める灰化物の質量の比率を百分率で算出し、上記の無機粒子の含有率(質量%)とする。10個のサンプルAについて無機粒子の含有率を求め、平均値を算出する。得られる平均値をセパレータ中の無機粒子の含有率とする。
【0072】
(極板群)
極板群は、例えば、正極板と、負極板と、これらの間に介在する上記のセパレータとを含む。
【0073】
(正極板)
正極板は、例えば、正極電極材料と正極電極材料を保持する正極集電体とを含む。正極板としては、ペースト式およびクラッド式のいずれの正極板を用いてもよい。
【0074】
ペースト式正極板では、正極電極材料は、正極板から正極集電体を除いた部分である。なお、正極板には、貼付部材が貼り付けられていることがある。貼付部材は、正極板と一体として使用されるため、正極板に含まれる。正極板が貼付部材を含む場合には、正極電極材料は、正極板から正極集電体および貼付部材を除いた部分である。
【0075】
クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金と、複数の芯金を連結する集電部と、芯金が挿入されたチューブ内に充填される正極電極材料と、複数のチューブを連結する連座とを備えている。クラッド式正極板では、正極電極材料は、正極板から、チューブ、芯金、集電部、および連座を除いた部分である。クラッド式正極板では、芯金と集電部とを合わせて正極集電体と称する場合がある。
【0076】
正極集電体は、鉛または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工または打ち抜き加工が挙げられる。打ち抜き加工は、パンチング加工とも称される。正極集電体として格子状の集電体を用いると、正極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0077】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、合金層は1層であってもよく、複数層でもよい。
【0078】
正極板に含まれる正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質を含む。正極活物質としては、二酸化鉛もしくは硫酸鉛が挙げられる。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。他の添加剤としては、例えば、補強材、炭素質材料が挙げられる。
【0079】
補強材としては、例えば、繊維が挙げられる。繊維としては、例えば、無機繊維、有機繊維が挙げられる。無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維が挙げられる。有機繊維を構成する樹脂または高分子としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、およびセルロース化合物からなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートが挙げられる。セルロース化合物としては、例えば、セルロース、セルロース誘導体が挙げられる。セルロース誘導体としては、例えば、セルロースエーテル、セルロースエステルが挙げられる。セルロース化合物には、レーヨンも含まれる。
【0080】
正極電極材料中の補強材の含有率は、例えば、0.03質量%以上である。また、正極電極材料中の補強材の含有率は、例えば、0.5質量%以下である。
【0081】
未化成のペースト式正極板は、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成および乾燥することにより得られる。正極ペーストは、鉛粉、アンチモン化合物、および必要に応じて補強材、炭素質材料などの他の添加剤に、水および硫酸を加えて混練することで調製される。
【0082】
未化成の正極板を化成することにより正極板が得られる。化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の正極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0083】
(負極板)
負極板は、例えば、負極電極材料と負極電極材料を保持する負極集電体とを含む。
【0084】
負極電極材料は、負極板から負極集電体を除いた部分である。負極板には、上述のような貼付部材が貼り付けられている場合がある。この場合、貼付部材は、負極板に含まれる。負極板が貼付部材を含む場合には、負極電極材料は、負極板から負極集電体および貼付部材を除いた部分である。
【0085】
負極集電体は、正極集電体の場合と同様にして形成できる。
【0086】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。負極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、合金層は1層であってもよく、複数層でもよい。
【0087】
負極板に含まれる負極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質を含んでおり、有機防縮剤、炭素質材料、硫酸バリウムなどを含んでもよい。負極活物質としては、鉛もしくは硫酸鉛が用いられる。負極電極材料は、必要に応じて、補強材などの他の添加剤を含んでもよい。
【0088】
有機防縮剤としては、リグニン、リグニンスルホン酸、合成有機防縮剤などが挙げられる。合成有機防縮剤としては、例えば、フェノール化合物のホルムアルデヒド縮合物が挙げられる。負極電極材料は、有機防縮剤を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0089】
負極電極材料中の有機防縮剤の含有率は、例えば、0.01質量%以上である。有機防縮剤の含有率は、例えば、1質量%以下である。
【0090】
負極電極材料に含まれる炭素質材料としては、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどが挙げられる。黒鉛は、人造黒鉛でもよく、天然黒鉛でもよい。負極電極材料は、炭素質材料を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0091】
負極電極材料中の炭素質材料の含有率は、例えば、0.1質量%以上である。炭素質材料の含有率は、例えば、3質量%以下であってもよい。
【0092】
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有率は、例えば、0.1質量%以上である。硫酸バリウムの含有率は、例えば、3質量%以下である。
【0093】
補強材としては、例えば、繊維が挙げられる。繊維は、正極板で例示した材料から選択できる。
【0094】
負極電極材料中の補強材の含有率は、例えば、0.03質量%以上である。また、負極電極材料中の補強材の含有率は、例えば、0.5質量%以下である。
【0095】
充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
【0096】
負極板は、負極集電体に、負極ペーストを充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、鉛粉と有機防縮剤および必要に応じて各種添加剤に、水と硫酸を加えて混練することで作製する。熟成工程では、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0097】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成する。
【0098】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液である。電解液は、必要に応じてゲル化させてもよい。
【0099】
電解液は、さらに、Naイオン、Liイオン、Mgイオン、およびAlイオンからなる群より選択される少なくとも一種の金属イオンなどを含んでもよい。
【0100】
電解液の20℃における比重は、例えば、1.10以上である。電解液の20℃における比重は、1.35以下であってもよい。なお、これらの比重は、満充電状態の鉛蓄電池の電解液についての値である。
【0101】
(1)高温過充電寿命性能
鉛蓄電池の高温過充電寿命性能は、下記の手順で、高温過充電耐久試験を行い、このときの鉛蓄電池の寿命に基づいて評価される。
(a)全試験期間を通して、蓄電池を75℃±3℃の気槽中に置く。
(b)蓄電池を寿命試験装置に接続し、連続的に次に示す放電及び充電のサイクルを繰り返す。この放電と充電とのサイクルを寿命1回(1サイクル)とする。
放電:放電電流25.0A±0.1Aで60秒±1秒
充電:充電電圧14.80V±0.03V(制限電流25.0A±0.1A)で600秒±1秒
(c)試験中、480サイクルごとに56時間放置し、その後定格コールドクランキング電流Iccで30秒間連続放電を行い、30秒目電圧を記録する。その後、(b)の充電を行う。なお、これらの放電及び充電も寿命回数(サイクル数)に加算する。
(d)(c)の試験で測定した30秒目電圧が7.2V以下となり、再び上昇しないことを確認した時点で試験を終了し、このときの合計サイクル数を寿命性能の指標とする。
なお、定格コールドクランキング電流Iccとは、JIS D 5301:2019に定められる性能ランクに応じた電流値とする。
【0102】
(2)圧着不良率
(a)シート状のセパレータを2つ折りにし、折り目を下にしたときの両側端部を、圧着することによって、袋状に加工する。より具体的には、両側端部を、圧着機の一対の噛み合いギアの間に通して、両側端部に圧力を加えることによって接合する。このような圧着はメカニカルシールと呼ばれる。両側端部における圧着幅は、2.5mm以上5.0mm以下とする。
【0103】
(b)(a)で得られた袋状セパレータの圧着部を引張試験に供し、引張強度が200gh/10mm未満のセパレータの個数n1を圧着不良が生じたセパレータの個数として求める。セパレータの引張試験は、以下の手順で行われる。まず、袋状セパレータを、折り目を含まず圧着部を含むように10mm×40mmの大きさにカットすることによって試験片を得る。このとき、40mmの長さの方向が折り目と平行になるようにカットする。つまり、試験片における圧着部の長さは10mmである。この試験片を、圧着部を中心に開いた状態とし、精密万能試験機(島津製作所、製品名:AGS-X)を用いて、チャック間距離20mm、引っ張り速度5mm/分、25℃の条件で、引張試験を行い、圧着部が分離した時の応力を引張強度として求める。
【0104】
(c)(b)において求めた個数n1を、作製した袋状セパレータの総個数Nで除することにより、不良が発生した袋状セパレータの割合を求め、圧着不良率(ppm)とする。作製した袋状セパレータの総個数Nは、(a)で袋状加工に供したセパレータの個数である。セパレータの総個数Nは、量産数量(例えば10万)である。
【0105】
図1は、本発明の一実施形態に係る袋状のセパレータ100の外観を示す平面模式図である。袋状セパレータ100は、袋の2倍の面積を有するシート状の微多孔膜を折り目101で二つ折りにした形状を有する。すなわち、シート状の微多孔膜は、折り目101によって互いに対面する第1部分と第2部分とに区画されている。
【0106】
第1部分および第2部分は、それぞれ電極板と対向する要部106と、要部106と折り目101の両側に設けられた端部108a、108bとを有する。要部106および端部108a、108bの大部分は、それぞれベース部102で構成されている。要部106のベース部102の外面には複数の主リブ104aが設けられ、端部108a、108bのベース部102の外面には、主リブ104aよりも突出高さの小さい複数のミニリブ104bが設けられている。
【0107】
主リブ104aおよびミニリブ104bは、例えば電極板近傍における電解液の拡散性を高める作用を有する。
【0108】
主リブ104aおよびミニリブ104bは、いずれも必須ではない。また、主リブ104aおよびミニリブ104bの少なくとも一方を袋状の内面のベース部102に設けてもよく、内面と外面の両方に設けてもよい。
【0109】
第1部分および第2部分の端部108a、108bは、それぞれ圧着部109a、109bを有する。圧着部109a、109bでは、互いに対向する第1部分と第2部分とが圧着により接合されている。
【0110】
図2は、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で閉じられる。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0111】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0112】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されない。
【0113】
《鉛蓄電池E1~E11、鉛蓄電池C1~C2、および鉛蓄電池R1~R3》
下記の手順で各鉛蓄電池を作製した。
(1)セパレータの作製
ポリエチレン100質量部と、シリカ粒子160質量部と、造孔剤としてのパラフィン系オイル80質量部と、2質量部の浸透剤とを含む樹脂組成物を、シート状に押出成形し、延伸処理した後、造孔剤の一部を除去することによって、片面にリブを有する微多孔膜を作製した。このとき、既述の手順で求められるセパレータの結晶化度C1およびC2が、表1および表2に示す値となるように、押出成形されたシートの冷却速度、双方の表面の冷却温度、および延伸処理の倍率を調節した。
【0114】
既述の手順で求められるセパレータのオイルの含有率は、16質量%であり、シリカ粒子の含有率は、60質量%であった。既述の手順で求められるリブの高さは0.6mmであった。既述の手順で求められるセパレータの厚さを表1および表2に示す。セパレータの厚さは、ベース部の厚さに相当する。
【0115】
次に、シート状の微多孔膜を外面にリブが配置されるように二つ折りにして袋を形成し、重ね合わせた両端部を、一対の噛み合いギアを備える圧着機を用いて圧着して、袋状セパレータを作製した。圧着は、圧着不良率を求める場合と同じ条件で行った。
【0116】
なお、セパレータの結晶化度、オイルの含有率、シリカ粒子の含有率、ベース部の厚さ、およびリブの高さは、鉛蓄電池の作製前のセパレータについて求めた値であるが、作製後の鉛蓄電池から取り出したセパレータについて既述の手順で測定した値とほぼ同じである。
【0117】
(2)正極板の作製
鉛酸化物、補強材としての合成樹脂繊維、水および硫酸を混合して正極ペーストを調製した。正極ペーストを、アンチモンを含まないPb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成および乾燥を行うことによって、幅100mm、高さ110mm、厚さ1.6mmの未化成の正極板を得た。
【0118】
(3)負極板の作製
鉛酸化物、カーボンブラック、硫酸バリウム、リグニン、補強材としての合成樹脂繊維、水および硫酸を混合して負極ペーストを調製した。負極ペーストを、アンチモンを含まないPb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成および乾燥を行うことによって、幅100mm、高さ110mm、厚さ1.3mmの未化成の負極板を得た。カーボンブラック、硫酸バリウム、リグニンおよび合成樹脂繊維の使用量は、満充電状態の鉛蓄電池から取り出した負極板について各成分の含有率が、それぞれ0.3質量%、2.1質量%、0.1質量%および0.1質量%になるように調節した。
【0119】
(4)鉛蓄電池の作製
未化成の負極板を、袋状セパレータに収容し、正極板と積層し、未化成の負極板7枚と未化成の正極板6枚とで極板群を形成した。セパレータのリブを有する袋の外面が正極板と対向し、袋の内面が負極板と対向する。セパレータは、第1表面が、表1および表2に示す極板に対向した状態とした。
【0120】
正極板の耳部同士および負極板の耳部同士を、それぞれ、正極棚部および負極棚部と溶接した。極板群をポリプロピレン製の電槽に挿入し、電解液を注液して、電槽内で化成を施して、定格電圧12Vおよび定格容量30Ahの液式の鉛蓄電池を組み立てた。なお、電槽内では6個の極板群が直列に接続されている。定格容量は、5時間率容量である。5時間率容量とは、定格容量に記載の単位がAhである数値の1/5の電流(単位:A)で放電するときの容量である。
【0121】
電解液としては、硫酸水溶液を用いた。化成後の電解液の20℃における比重は1.285であった。
【0122】
(5)評価
鉛蓄電池E1に用いたセパレータの正極に対向する第1表面について、既述の手順で測定されたXRDスペクトルを
図3に示す。
図3に示されるように、ポリエチレンの結晶質領域の(110)面に相当する回折ピークが、2θ=21.5°~22.5°の範囲に観察され、(200)面に相当する回折ピークが、2θ=23°~24.5°の範囲に観察された。そして、非晶質領域によるハローが2θ=17°~27°の広い範囲にブロードに観察された。
【0123】
得られた鉛蓄電池を用いて、既述の手順で高温過充電寿命性能および圧着不良率を評価した。高温過充電寿命性能は、鉛蓄電池C1のサイクル数を100%としたときの各鉛蓄電池のサイクル数の比率によって評価した。
【0124】
評価結果を表1および表2に示す。E1~E11は実施例である。C1~C2は比較例である。R1~R3は参考例である。
【0125】
【0126】
セパレータの第1表面および第2表面について、結晶化度がC1=C2の状態から、結晶化度C1が増加すると、より高い高温過充電寿命性能が得られる。例えば、C1=C2を充足するセパレータを含む鉛蓄電池C1と比較して、結晶化度C1が大きいセパレータを含む鉛蓄電池E1では、高温過充電寿命性能が向上している。高温過充電寿命性能については、鉛蓄電池E2とE5との対比からも鉛蓄電池E1およびC1の対比結果と類似の関係が確認できる。E3およびE4の対比では、第1表面が正極板および負極板のいずれに対向する場合でも、比較的高い高温過充電寿命性能が得られることが確認できる。ただし、セパレータの正極板と対向する表面の結晶化度が高くなるほど、高温過充電寿命性能が高くなる傾向が見られる。これらの結果からは、結晶化度C1を有する第1表面が正極板と対向する場合、第1表面が負極板と対向する場合に比較して、さらに高い高温過充電寿命性能が得られることが分かる。これは、正極板と対向する表面の結晶化度が高いことで耐酸化性の向上効果が高まり、セパレータの酸化劣化が効果的に抑制され易くなるためと考えられる。
【0127】
また、鉛蓄電池E2とE5との対比、および鉛蓄電池E3とR1との対比から、第1表面の結晶化度C1が大きくなるにつれて、高温過充電寿命性能は高くなるが、圧着不良率は増加する傾向が分かった。また、鉛蓄電池R3とE5との対比から、結晶化度C2が低くなると、圧着不良率を低減できることが分かった。また、鉛蓄電池E5とR1とを比較すると、第1表面の結晶化度C1が30%の場合には、29%の場合に比べて高い高温過充電寿命性能が得られるものの、圧着不良率が顕著に増加するといえる。それに対し、鉛蓄電池E1~E5の結果が示すように、第1表面の結晶化度C1を30%未満にすることで、圧着不良率を低く抑えることができる。
【0128】
【0129】
鉛蓄電池C1およびC2とE2およびE6~E11との比較から、セパレータの各表面の結晶化度がC1>C2の関係を充足し、C1<30%を充足する場合において、セパレータの厚さが75μm以上300μm以下であることで、圧着不良率を低く抑えることができることが分かった。また、高温過充電寿命性能の高い向上効果が得られる。圧着不良率をさらに低く抑える観点からは、セパレータの厚さは、250μm以下であることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明の上記側面に係る鉛蓄電池用セパレータは、アイドリングストップ(Start-StopまたはIdle Reductionとも言う。)用途、車両の始動用電源などに適している。アイドリングストップ用途としては、アイドリングストップシステム(Idle Reduction System)車用の鉛蓄電池などが挙げられる。車両としては、自動車、バイクなどが挙げられる。鉛蓄電池用セパレータは、電動車両などの産業用蓄電装置などの電源にも好適に利用できる。電動車両としては、フォークリフトなどが挙げられる。これらの用途は単なる例示である。本発明の上記側面に係る鉛蓄電池用セパレータおよび鉛蓄電池の用途は、これらのみに限定されない。
【符号の説明】
【0131】
100:セパレータ
101:折り目
102:ベース部
104a:主リブ
104b:ミニリブ
106:要部
108a、108b:端部
109a、109b:圧着部
1:鉛蓄電池
2:負極板
3:正極板
4:セパレータ
5:正極棚部
6:負極棚部
7:正極柱
8:貫通接続体
9:負極柱
11:極板群
12:電槽
13:隔壁
14:セル室
15:蓋
16:負極端子
17:正極端子
18:液口栓