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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080351
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】異常検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 29/18 20060101AFI20240606BHJP
【FI】
G01R29/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193476
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮
(72)【発明者】
【氏名】大堀 彰大
(57)【要約】
【課題】三相配線の接続異常を検出する際に、処理時間の変動を抑制できる異常検出装置を提供する。
【解決手段】異常検出装置A1において、三相配線の三相交流に基づく相電圧信号Vu,Vv,Vwをα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβに変換する三相二相変換部21と、α軸電圧信号Vαに含まれる正相分の信号である正相分信号Vα’と、β軸電圧信号Vβに含まれる正相分の信号である正相分信号Vβ’とを、それぞれ抽出する正相分抽出部22と、α軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβに基づいて実効値Vを算出する実効値算出部23と、正相分信号Vα’,Vβ’に基づいて、実効値V’を算出する実効値算出部24と、実効値Vおよび実効値V’に基づく逆相割合kを算出する逆相割合算出部25と、逆相割合kと所定の閾値k0とを比較することで、三相配線の接続異常を判定する判定部26とを備えた。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相配線の三相交流に基づく3個の信号を第1の信号および第2の信号に変換する三相二相変換部と、
前記第1の信号に含まれる正相分の信号である第1の正相分信号と、前記第2の信号に含まれる正相分の信号である第2の正相分信号とを、それぞれ抽出する正相分抽出部と、
前記第1の信号および前記第2の信号に基づいて、第1実効値を算出する第1実効値算出部と、
前記第1の正相分信号および前記第2の正相分信号に基づいて、第2実効値を算出する第2実効値算出部と、
前記第1実効値および前記第2実効値に基づく割合を算出する割合算出部と、
前記割合と所定の閾値とを比較することで、前記三相配線の接続異常を判定する判定部と、
を備えている異常検出装置。
【請求項2】
前記割合算出部は、前記第1実効値に対する、前記第1実効値から前記第2実効値を減じた差の割合を算出する、
請求項1に記載の異常検出装置。
【請求項3】
前記閾値は、60%より大きく、100%より小さい、
請求項2に記載の異常検出装置。
【請求項4】
前記正相分抽出部は、複数の帯域通過型の複素係数フィルタと、帯域阻止型の複素係数フィルタとを用いて、前記第1の正相分信号および前記第2の正相分信号を抽出する、
請求項1ないし3のいずれかに記載の異常検出装置。
【請求項5】
三相配線の三相交流に基づく3個の信号を第1の信号および第2の信号に変換する三相二相変換部と、
前記第1の信号に含まれる正相分の信号である第1の正相分信号と、前記第2の信号に含まれる正相分の信号である第2の正相分信号とを、それぞれ抽出する正相分抽出部と、
前記第1の正相分信号および前記第2の正相分信号に基づいて、正相分実効値を算出する正相分実効値算出部と、
前記第1の信号に含まれる逆相分の信号である第1の逆相分信号と、前記第2の信号に含まれる逆相分の信号である第2の逆相分信号とを、それぞれ抽出する逆相分抽出部と、
前記第1の逆相分信号および前記第2の逆相分信号に基づいて、逆相分実効値を算出する逆相分実効値算出部と、
前記正相分実効値と前記逆相分実効値とから不平衡率を算出する不平衡率算出部と、
前記不平衡率と所定の閾値とを比較することで、前記三相配線の接続異常を判定する判定部と、
を備えている異常検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相配線の接続異常を検出する異常検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばパワーコンディショナの交流出力または交流モータの入力などの三相配線を外部の三相配線に接続する場合、相順を誤って逆相に接続してしまう場合がある。逆相で接続された場合、機器が正しく動作しなかったり、故障してしまうおそれがある。これを防止するために、逆相接続を検出する方法が開発されている。例えば、基準相の電圧のゼロクロスを検出して、その時の判定相の電圧の極性によって、正相接続であるか逆相接続であるかを判定する方法がある。例えば、特許文献1には、基準相の電圧の一方の半サイクルの立ち上がりが検出されたときに、判定相の電圧の一方の半サイクルの有無によって、相回転の方向を判定する判定手段を備えた相回転検出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平1-180670号公報
【特許文献2】特開2013-083566号公報
【特許文献3】特開2013-101016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような判定方法の場合、ゼロクロスを検出するために、基準相の現在の電圧情報以外に過去の電圧情報を記憶する必要がある。また、ゼロクロスのタイミングのときだけ処理内容が変わって、ソフトウエアの処理時間が延びるという問題がある。組み込みマイコンを利用する場合、演算速度の関係で、タイミングによって処理時間が異なることはできるだけ避けたいという事情がある。
【0005】
本発明は上述した事情のもとで考え出されたものであって、三相配線の接続異常を検出する際に、処理時間の変動を抑制できる異常検出装置を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0007】
本発明の第1の側面によって提供される異常検出装置は、三相配線の三相交流に基づく3個の信号を第1の信号および第2の信号に変換する三相二相変換部と、前記第1の信号に含まれる正相分の信号である第1の正相分信号と、前記第2の信号に含まれる正相分の信号である第2の正相分信号とを、それぞれ抽出する正相分抽出部と、前記第1の信号および前記第2の信号に基づいて、第1実効値を算出する第1実効値算出部と、前記第1の正相分信号および前記第2の正相分信号に基づいて、第2実効値を算出する第2実効値算出部と、前記第1実効値および前記第2実効値に基づく割合を算出する割合算出部と、前記割合と所定の閾値とを比較することで、前記三相配線の接続異常を判定する判定部と、を備えている。なお、「正相分の信号」とは、三相交流の基本波と周波数が同じで相順が同じ信号であり、「逆相分の信号」とは、三相交流の基本波と周波数が同じで相順が逆の信号である。
【0008】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記割合算出部は、前記第1実効値に対する、前記第1実効値から前記第2実効値を減じた差の割合を算出する。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記閾値は、60%より大きく、100%より小さい。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記正相分抽出部は、複数の帯域通過型の複素係数フィルタと、帯域阻止型の複素係数フィルタとを用いて、前記第1の正相分信号および前記第2の正相分信号を抽出する。
【0011】
本発明の第2の側面によって提供される異常検出装置は、三相配線の三相交流に基づく3個の信号を第1の信号および第2の信号に変換する三相二相変換部と、前記第1の信号に含まれる正相分の信号である第1の正相分信号と、前記第2の信号に含まれる正相分の信号である第2の正相分信号とを、それぞれ抽出する正相分抽出部と、前記第1の正相分信号および前記第2の正相分信号に基づいて、正相分実効値を算出する正相分実効値算出部と、前記第1の信号に含まれる逆相分の信号である第1の逆相分信号と、前記第2の信号に含まれる逆相分の信号である第2の逆相分信号とを、それぞれ抽出する逆相分抽出部と、前記第1の逆相分信号および前記第2の逆相分信号に基づいて、逆相分実効値を算出する逆相分実効値算出部と、前記正相分実効値と前記逆相分実効値とから不平衡率を算出する不平衡率算出部と、前記不平衡率と所定の閾値とを比較することで、前記三相配線の接続異常を判定する判定部と、を備えている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、第1の信号および第2の信号に基づいて第1実効値が算出され、正相分を抽出した第1の正相分信号および第2の正相分信号に基づいて第2実効値が算出される。そして、第1実効値および第2実効値に基づく割合を閾値と比較することで接続異常が判定される。したがって、本発明にかかる異常検出装置は、三相配線の接続異常を検出できる。また、いずれのタイミングにおいても、実施される処理は共通している。したがって、本発明にかかる異常検出装置は、処理時間の変動を抑制できる。
【0013】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態に係る異常検出装置を説明するためのブロック図である。
図2】判定部における逆相割合の閾値を設定するためのシミュレーション結果を説明するための図である。
図3】第1実施形態に係る異常検出装置が行う接続異常検出処理を説明するためのフローチャートの一例である。
図4】第2実施形態に係る異常検出装置の全体構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0016】
図1(a)は、第1実施形態に係る異常検出装置A1の全体構成を示すブロック図である。図1(b)は、異常検出装置A1の正相分抽出部22の内部構成の一例を示すブロック図である。
【0017】
異常検出装置A1は、三相配線の接続異常を検出する装置であり、例えばパワーコンディショナまたは交流モータなどの、三相交流を利用する各種機器に配置される。電圧センサ4は、三相配線の各相電圧を検出するものであり、U相の相電圧を検出した相電圧信号Vu、V相の相電圧を検出した相電圧信号Vv、W相の相電圧を検出した相電圧信号Vwを異常検出装置A1に出力する。異常検出装置A1は、電圧センサ4より入力される相電圧信号Vu,Vv,Vwに基づいて接続異常を検出する。
【0018】
異常検出装置A1は、図1(a)に示すように、演算部2および表示部3を備えている。演算部2は、逆相割合kを演算し、逆相割合kに基づいて接続異常であるか否かを判定する構成であり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。逆相割合kは、三相配線の電圧のうち、正相分の電圧を除いた電圧の割合を、百分率で示している。一般的に、三相配線の電圧には、正相分の電圧以外に、逆相分の電圧、および、高調波成分の電圧などが含まれている。本明細書では、三相配線の電圧のうち、正相分の電圧を除いた電圧(逆相分の電圧、および、高調波成分の電圧などを合わせた合計電圧)の割合を、「逆相割合」と記載する。演算部2は、判定結果を表示部3に出力する。表示部3は、判定結果を表示する構成であり、モニタなどの表示手段によって実現されている。表示部3は、演算部2より入力された判定結果を表示する。また、演算部2は、接続が適切であると判定した場合、異常検出装置A1が配置された機器に起動を許可する信号を送信する。一方、演算部2が接続異常であると判定した場合、当該機器に起動を許可する信号が送信されないので、当該機器は起動しない。演算部2は、三相二相変換部21、正相分抽出部22、実効値算出部23,24、逆相割合算出部25、および判定部26を備えている。
【0019】
三相二相変換部21は、電圧センサ4より入力される3個の相電圧信号Vu,Vv,Vwを、α軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβに変換する。三相二相変換部21は、いわゆる三相二相変換処理(αβ変換処理)を行うものであり、相電圧信号Vu,Vv,Vwを互いに直交するα軸成分とβ軸成分とにそれぞれ分解して、各軸成分をまとめることでα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβを生成する。三相二相変換部21は、α軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβを、正相分抽出部22および実効値算出部23に出力する。
【0020】
正相分抽出部22は、三相二相変換部21より入力されるα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβから、基本波(例えば60Hz)の正相分信号Vα’,Vβ’を抽出する。抽出された正相分信号Vα’,Vβ’は、実効値算出部24に出力される。正相分抽出部22は、複素係数フィルタを備えており、本実施形態では、図1(b)に示すように、複数の複素係数バンドパスフィルタ(帯域通過型の複素係数フィルタ)221と、1個の複素係数ノッチフィルタ(帯域阻止型の複素係数フィルタ)222と、を備えている。
【0021】
複素係数バンドパスフィルタ221は、例えば複素係数の1次IIRフィルタで構成されている。複素係数バンドパスフィルタ221の通過帯域を決定する正規化角周波数Ωdとして、系統電圧の基本波(正相分)の角周波数ω0(例えば、ω0=120π[rad/sec](60[Hz]))を正規化したωdがあらかじめ設定されている。複素係数バンドパスフィルタ221は、その他の角周波数の信号(逆相分および高調波成分)を好適に除去して、基本波の正相分の信号を通過させる。本実施形態では、正相分抽出部22が3個の複素係数バンドパスフィルタ221を備えている例を示しているが、正相分抽出部22が備える複素係数バンドパスフィルタ221の数は限定されない。正相分抽出部22は、複素係数バンドパスフィルタ221の数が多いほど、より精度よく、基本波の正相分の信号を通過させられる。なお、複素係数バンドパスフィルタ221は、上記に限定されず、例えば複素係数の2次以上のIIRフィルタなどで構成されてもよい。
【0022】
複素係数ノッチフィルタ222は、例えば複素係数の1次IIRフィルタで構成されている。複素係数ノッチフィルタ222の阻止帯域を決定する正規化角周波数Ωdとして、系統電圧の基本波(逆相分)の角周波数「-ω0」(-60[Hz])を正規化した「-ωd」があらかじめ設定されている。複素係数ノッチフィルタ222は、基本波の逆相分の信号の通過を抑制することで、基本波の正相分の信号を抽出する。本実施形態では、正相分抽出部22が1個の複素係数ノッチフィルタ222を備えている例を示しているが、正相分抽出部22が備える複素係数ノッチフィルタ222の数は限定されない。正相分抽出部22は、複素係数ノッチフィルタ222の数が多いほど、より精度よく、基本波の正相分の信号を抽出できる。なお、複素係数ノッチフィルタ222は、上記に限定されず、例えば複素係数の2次以上のIIRフィルタなどで構成されてもよい。
【0023】
なお、正相分抽出部22は、複素係数バンドパスフィルタ221のみで構成されてもよい。また、正相分抽出部22は、複素係数ノッチフィルタ222と、例えば5次、7次、11次高調波(正相分)を抑制するための各複素係数ノッチフィルタとで構成されてもよい。正相分抽出部22は、基本波の正相分の信号を通過させ、その他の信号を抑制できる複素係数フィルタであればよい。正相分抽出部22を構成する複素係数フィルタの詳細な例は、例えば特許文献2に開示されている。
【0024】
実効値算出部23は、三相二相変換部21から入力されるα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβに基づいて、三相配線の電圧の実効値Vを算出する。具体的には、実効値算出部23は、α軸電圧信号Vαを2乗した値とβ軸電圧信号Vβを2乗した値との加算値の平方根を、実効値V(=√(Vα2+Vβ2))として算出する。実効値算出部23は、算出した実効値Vを逆相割合算出部25に出力する。
【0025】
実効値算出部24は、正相分抽出部22から入力される正相分信号Vα’および正相分信号Vβ’に基づいて、三相配線の電圧から正相分を抽出した電圧の実効値V’を算出する。具体的には、実効値算出部24は、正相分信号Vα’を2乗した値と正相分信号Vβ’を2乗した値との加算値の平方根に(5/3)を乗算した値を、実効値V’(=(5/3)・√(Vα’2+Vβ’2))として算出する。正相分抽出部22から出力される正相分信号Vα’および正相分信号Vβ’は、正相分抽出部22のフィルタの特性により、(3/5)に減衰しているので、減衰前の値にするために(5/3)を乗算している。実効値算出部24は、算出した実効値V’を逆相割合算出部25に出力する。
【0026】
逆相割合算出部25は、実効値算出部23から入力される実効値Vと、実効値算出部24から入力される実効値V’とから、逆相割合kを算出する。具体的には、逆相割合算出部25は、実効値Vから実効値V’を減算した値を、実効値Vで除算し、100を乗算した値を、逆相割合k(=(V-V’)・100/V)として算出する。逆相割合算出部25 は、算出した逆相割合kを判定部26 に出力する。
【0027】
三相配線が正しい相順で接続され、三相配線の電圧が正相分だけで構成された理想的な状態であった場合、正相分抽出部22の入力側と出力側とで信号に変化がなく、実効値Vと実効値V’とが等しくなる。この場合、逆相割合kは0%になる。しかし、実際には、三相配線が正しい相順で接続されている場合でも、三相配線の電圧には、正相分の電圧以外に、逆相分の電圧、および、高調波成分の電圧などが含まれている。したがって、正相分抽出部22の出力側の正相分が抽出された信号は入力側の信号より小さくなるので、実効値V’は実効値Vより小さくなる。よって、逆相割合kは0%より大きな値になる。一方、三相配線が逆相の相順で接続されていると、三相配線の電圧には正相分の電圧がほとんど含まれないので、正相分抽出部22の出力側の信号の実効値V’が「0」に近い値になる。この場合、逆相割合kは100%に近い値になる。
【0028】
判定部26は、逆相割合算出部25が算出した逆相割合kを入力され、逆相割合kとあらかじめ設定されている所定の閾値k0とを比較することで、三相配線の接続異常であるか否かを判定する。閾値k0は、三相配線の接続異常を判定できる値があらかじめ設定される。上述したように、逆相割合kは、三相配線が逆相の相順で接続されている場合は100%に近い値になる。一方、三相配線が正しい相順で接続されている場合、逆相割合kは、0%より大きな値になり、三相配線の電圧に含まれる、正相分以外の成分の大きさに応じて大きくなる。閾値k0は、三相配線が正しい相順で接続された場合に、ある程度の高調波が含まれていても、接続異常と判定されない値が設定される。また、系統連系規定の事故時運転継続(FRT:Fault Ride Through)要件において、太陽光発電設備は、二相短絡事故による電圧低下時でも運転の継続が求められている。したがって、閾値k0は、二相短絡事故が発生した場合でも、接続異常と判定されない値である必要がある。これらを踏まえて、閾値k0は、シミュレーションなどに基づいて適宜設定される。
【0029】
図2は、閾値k0を設定するためのシミュレーション結果を説明するための図である。図1に示す異常検出装置A1において、電圧センサ4が配置された三相配線に様々な三相交流電圧を印加して逆相割合kを検出するシミュレーションを行った。図2に示す各図は、逆相割合算出部25が算出した逆相割合kの時間変化を示しており、各図の横軸は時間を示し、縦軸は逆相割合kを示している。
【0030】
図2(a)は、三相配線に理想的な正相分だけの三相交流電圧を印加した場合を示している。この場合、正相分抽出部22の入力側と出力側とで信号に変化がないので、逆相割合kは0%になっている。図2(b)は、三相配線に逆相分だけの三相交流電圧を印加した場合を示している。この場合、正相分抽出部22の出力側の信号の実効値V’が「0」になるので、逆相割合kは100%になっている。
【0031】
図2(c)は、正相分の三相交流電圧に5次、7次、11次の各高調波を5%ずつ重畳した三相交流電圧を、三相配線に印加した場合を示している。5次、7次、11次の各高調波は、三相配線で一般的に発生する高調波である。また、5%は、十分に大きい水準である。この場合、高調波の影響で、逆相割合kには、周期的な変動が生じている。逆相割合kの最大値は15%程度である。図2(d)は、逆相分の三相交流電圧に5次、7次、11次の各高調波を5%ずつ重畳した三相交流電圧を、三相配線に印加した場合を示している。この場合、高調波による影響は現れず、逆相割合kは、図2(b)と同様に、100%になっている。
【0032】
図2(e)は、Y結線側の系統で二相短絡事故が発生したときのY結線側での正相分の三相交流電圧を、三相配線に印加した場合を示している。この場合、逆相割合kには、周期的な変動が生じている。逆相割合kの最大値は50%程度である。なお、図示しないが、Δ結線側での三相交流電圧を印加した場合の逆相割合kの時間変化は、図2(e)と同様であった。
【0033】
図2(f)は、Y結線側の系統で二相短絡事故が発生したときのY結線側での正相分の三相交流電圧に5次、7次、11次の各高調波を5%ずつ重畳した三相交流電圧を、三相配線に印加した場合を示している。この場合、逆相割合kには、周期的な変動が生じている。逆相割合kの最大値は60%である。なお、図示しないが、Δ結線側での三相交流電圧(5次、7次、11次の各高調波を5%ずつ重畳)を印加した場合の逆相割合kの時間変化は、図2(f)と同様であった。図2(f)に示すシミュレーションにおいて、逆相割合kが最大(60%)になることが判った。したがって、閾値k0は、60%より大きく、100%より小さい値を設定するのが望ましく、さらに上下に余裕をもって、70%より大きく、90%より小さい値を設定するのがより望ましい。本実施形態では、閾値k0として80%が設定されている。なお、閾値k0は、これに限定されない。
【0034】
判定部26は、逆相割合kが閾値k0以上の状態が所定時間T0以上経過した場合に接続異常であると判定し、それ以外の場合には正常であると判定する。所定時間T0は、逆相割合kが瞬間的に閾値k0以上となった場合に誤検出してしまうことを防止するために設けられており、例えば数秒程度である。なお、所定時間T0は限定されない。また、所定時間T0は設定されなくてもよく、判定部26は、逆相割合kが閾値k0以上である場合に、接続異常であると判定してもよい。判定部26が判定した判定結果は、表示部3に出力されて表示される。
【0035】
図3は、異常検出装置A1が行う接続異常検出処理を説明するためのフローチャートの一例である。当該接続異常検出処理は、異常検出装置A1が配置された機器の起動時に実施される。
【0036】
まず、時間を計時するための変数である経過時間Tを「0」に初期化する(S1)。次に、三相配線の電圧の実効値Vが算出される(S2)。具体的には、実効値算出部23が、三相二相変換部21から入力されるα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβに基づいて、実効値V(=√(Vα2+Vβ2))を算出する。次に、正相分を抽出した電圧の実効値V’が算出される(S3)。具体的には、実効値算出部24が、正相分抽出部22から入力される正相分信号Vα’および正相分信号Vβ’に基づいて、実効値V’(=(5/3)・√(Vα’2+Vβ’2))を算出する。次に、逆相割合kが算出される(S4)。具体的には、逆相割合算出部25が、実効値Vと実効値V’とから、逆相割合k(=(V-V’)・100/V)を算出する。なお、図2に示すように、逆相割合kは電圧の測定開始直後には適切な値にならない場合があるので、定常状態になってから(図2の例では0.02秒程度経過してから)、接続異常検出処理が開始される。
【0037】
次に、逆相割合kが閾値k0以上であるか否かが判別される(S5)。逆相割合kが閾値k0以上である場合(S5:YES)、経過時間Tを増加させて(S6)、経過時間Tが所定時間T0以上であるか否かが判別される(S7)。経過時間Tが所定時間T0未満である場合(S7:NO)、ステップS2に戻って、ステップS2~S7の処理が繰り返される。
【0038】
ステップS5において、逆相割合kが閾値k0未満である場合(S5:NO)、接続が適切であると判断され、適切に接続されている旨が表示部3に表示され(S8)、異常検出装置A1が配置された機器に起動を許可する信号が送信されて(S9)、接続異常検出処理は終了する。一方、ステップS7において、経過時間Tが所定時間T0以上である場合(S7:YES)、接続異常であると判断され、接続異常である旨が表示部3に表示され(S10)、接続異常検出処理は終了する。この場合、異常検出装置A1が配置された機器に起動を許可する信号は送信されないので、当該機器は起動しない。なお、異常検出装置A1が行う接続異常検出処理は、図3に示すフローチャートに限定されない。
【0039】
次に、異常検出装置A1の作用効果について説明する。
【0040】
本実施形態によると、逆相割合算出部25が実効値Vと実効値V’とから逆相割合kを算出し、判定部26が逆相割合kと所定の閾値k0とを比較することで、三相配線の接続異常を判定する。これにより、異常検出装置A1は、三相配線の接続異常を検出できる。また、異常検出装置A1は、接続異常の検出においてゼロクロスタイミングを利用しないので、いずれのタイミングにおいても、実施される処理は共通している。したがって、異常検出装置A1は、処理時間の変動を抑制できる。
【0041】
また、本実施形態によると、三相二相変換部21は、電圧センサ4より入力される3個の相電圧信号Vu,Vv,Vwを、α軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβに変換する。正相分抽出部22は、三相二相変換部21より入力されるα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβから、基本波の正相分信号Vα’,Vβ’を抽出する。実効値算出部23は、三相二相変換部21から入力されるα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβに基づいて、三相配線の電圧の実効値Vを算出する。実効値算出部24は、正相分抽出部22から入力される正相分信号Vα’,Vβ’に基づいて、三相配線の電圧から正相分を抽出した電圧の実効値V’を算出する。逆相割合算出部25は、実効値Vと実効値V’とから逆相割合kを算出する。このように、異常検出装置A1は、簡単な演算処理で逆相割合kを検出できる。
【0042】
また、本実施形態によると、判定部26が逆相割合kと比較するための閾値k0を、60%より大きく100%より小さい値に設定する。したがって、異常検出装置A1は、三相配線の接続異常を適切に検出できる。
【0043】
また、本実施形態によると、正相分抽出部22は、複数の複素係数バンドパスフィルタ(帯域通過型の複素係数フィルタ)221と、1個の複素係数ノッチフィルタ(帯域阻止型の複素係数フィルタ)222とを備えている。したがって、正相分抽出部22は、精度よく、基本波の正相分の信号を抽出できる。
【0044】
なお、本実施形態では、演算部2が逆相割合kを算出する場合について説明したが、これに限られない。演算部2は、逆相割合算出部25の代わりに、正相割合算出部を備えて、正相割合k’を算出してもよい。正相割合k’は、三相配線の電圧のうちの正相分の電圧の割合を百分率で示している。正相割合算出部は、実効値算出部24から入力される実効値V’を、実効値算出部23から入力される実効値Vで除算し、100を乗算した値を、正相割合k’(=V’・100/V)として算出する。
【0045】
上述のように、三相配線が正しい相順で接続され、三相配線の電圧が正相分だけで構成された理想的な状態であった場合、実効値Vと実効値V’とが等しくなる。この場合、正相割合k’は100%になる。しかし、実際には、三相配線が正しい相順で接続されている場合でも、三相配線の電圧には正相分以外の電圧が含まれているので、実効値V’は実効値Vより小さくなる。よって、正相割合k’は100%より小さい値になる。一方、三相配線が逆相の相順で接続されていると、三相配線の電圧には正相分の電圧がほとんど含まれないので、正相分抽出部22の出力側の信号の実効値V’が「0」に近い値になる。この場合、正相割合k’は0%に近い値になる。
【0046】
判定部26は、正相割合算出部が算出した正相割合k’とあらかじめ設定されている所定の閾値k’0とを比較することで、三相配線の接続異常であるか否かを判定する。閾値k’0は、三相配線の接続異常を判定できる値が、シミュレーションなどに基づいて適宜設定される。図2と同様のシミュレーションを行った結果、図2(f)と同じ三相交流電圧を三相配線に印加した場合に、正相割合k’の最小値が40%になった。したがって、閾値k’0は、40%より小さく、0%より大きい値を設定するのが望ましく、さらに上下に余裕をもって、30%より小さく、10%より大きい値を設定するのがより望ましい。閾値k’0は、例えば20%が設定されるが、これに限定されない。
【0047】
また、本実施形態では、正相分抽出部22が複素係数フィルタを備えている場合について説明したが、これに限られない。正相分抽出部22は、基本波の正相分の信号を通過させ、その他の信号を抑制できるフィルタであればよい。例えば特許文献3には、回転座標変換処理(dq変換処理)を改良した線形時不変の処理(DQ-LTI変換処理)を利用したローパスフィルタまたはハイパスフィルタを用いる正相分抽出部22の例が開示されている。
【0048】
また、本実施形態では、電圧センサ4が相電圧を検出する場合について説明したが、これに限られない。例えば、電圧センサ4が線間電圧を検出する場合でも、本発明を適用することができる。この場合、三相二相変換部21で行われる変換処理を、3個の線間電圧信号をα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβに変換する処理にすればよい。または、三相二相変換部21に、線間電圧信号を相電圧信号に変換する構成を追加して、線間電圧信号を相電圧信号Vu,Vv,Vwに変換してから、α軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβに変換してもよい。また、三相配線に、電圧センサ4の代わりに電流センサを配置し、電流センサから入力される3個の電流信号に基づいて逆相割合kを検出してもよい。
【0049】
また、本実施形態では、演算部2による判定結果を表示部3に表示する場合について説明したが、これに限られない。例えば、判定結果が三相配線の接続異常を示す場合に、ブザーなどの音声で警告してもよい。この場合、異常検出装置A1は、表示部3を備えなくてもよい。また、異常検出装置A1は、表示部3を備えず、判定結果を異常検出装置A1が配置された機器の表示部に表示してもよい。
【0050】
図4は、第2実施形態に係る異常検出装置A2の全体構成を示すブロック図である。図4において、上記第1実施形態と同一または類似の要素には、上記第1実施形態と同一の符号を付している。本実施形態に係る異常検出装置A2は、演算部2が不平衡率k” に基づいて接続異常であるか否かを判定する点で、第1実施形態に係る異常検出装置A1と異なる。
【0051】
本実施形態に係る異常検出装置A2は、実効値算出部23および逆相割合算出部25を備えておらず、逆相分抽出部27、実効値算出部28、および不平衡率算出部29を備えている。異常検出装置A2は、三相配線の不平衡率k”を算出し、当該不平衡率k” に基づいて接続異常であるか否かを判定する。
【0052】
逆相分抽出部27は、三相二相変換部21より入力されるα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβから、基本波の逆相分信号Vα”,Vβ”を抽出する。逆相分抽出部27は、抽出した逆相分信号Vα”,Vβ”を、実効値算出部28に出力する。逆相分抽出部27は、正相分抽出部22と同様、複素係数フィルタを備えており、複数の複素係数バンドパスフィルタと、1個の複素係数ノッチフィルタと、を備えている。逆相分抽出部27の複素係数バンドパスフィルタは、通過帯域を決定する正規化角周波数Ωdとして、系統電圧の基本波の逆相分の角周波数「-ω0」を正規化した「-ωd」があらかじめ設定されている。当該複素係数バンドパスフィルタは、その他の角周波数の信号(正相分および高調波成分)を好適に除去して、基本波の逆相分の信号を通過させる。逆相分抽出部27の複素係数ノッチフィルタは、阻止帯域を決定する正規化角周波数Ωdとして、系統電圧の基本波の正相分の角周波数ω0を正規化したωdがあらかじめ設定されている。当該複素係数ノッチフィルタは、基本波の正相分の信号の通過を抑制することで、基本波の逆相分の信号を抽出する。なお、逆相分抽出部27は、上記に限定されず、正相分抽出部22と同様、様々な構成が考えられる。
【0053】
実効値算出部28は、逆相分抽出部27から入力される逆相分信号Vα”および逆相分信号Vβ”に基づいて、三相配線の電圧から逆相分を抽出した電圧の実効値V”を算出する。具体的には、実効値算出部28は、逆相分信号Vα”を2乗した値と逆相分信号Vβ”を2乗した値との加算値の平方根を、実効値V”(=√(Vα”2+Vβ”2))として算出する。実効値算出部28は、算出した実効値V”を不平衡率算出部29に出力する。
【0054】
本実施形態に係る実効値算出部24は、第1実施形態とは異なり、(5/3)を乗算する前の値を、実効値V’(=√(Vα’2+Vβ’2))として算出する。逆相分抽出部27から出力される逆相分信号Vα”,Vβ”も、逆相分抽出部27のフィルタの特性により、正相分抽出部22から出力される正相分信号Vα’,Vβ’と同様、(3/5)に減衰している。したがって、減衰した信号同士で、不平衡率k”を算出するためである。実効値算出部24は、算出した実効値V’を不平衡率算出部29に出力する。
【0055】
不平衡率算出部29は、実効値算出部24より入力される実効値V’と、実効値算出部28より入力される実効値V”とから、不平衡率k”を算出する。具体的には、不平衡率算出部29は、実効値V”を実効値V’で除算し、100を乗算した値を、不平衡率k”(=V”・100/V’)として算出する。不平衡率算出部29は、算出した不平衡率k”を判定部26に出力する。
【0056】
三相配線が正しい相順で接続され、三相配線の電圧が正相分だけで構成された理想的な状態であった場合、逆相分抽出部27から出力された信号の実効値V”が0になる。この場合、不平衡率k”は0%になる。しかし、実際には、三相配線が正しい相順で接続されている場合でも、三相配線の電圧には逆相分の電圧も含まれているので、実効値V”は「0」に近い値になる。よって、不平衡率k”は0%より大きい値になる。一方、三相配線が逆相の相順で接続されていると、三相配線の電圧には正相分の電圧がほとんど含まれないので、正相分抽出部22から出力された信号の実効値V’は「0」に近い値になる。この場合、不平衡率k”は100%より大きい値になる。
【0057】
判定部26は、不平衡率算出部29が算出した不平衡率k”を入力され、不平衡率k”とあらかじめ設定されている所定の閾値k”0とを比較することで、三相配線の接続異常であるか否かを判定する。閾値k”0は、三相配線の接続異常を判定できる値が、シミュレーションなどに基づいて適宜設定される。閾値k”0は、例えば80%が設定されるが、これに限定されない。判定部26は、不平衡率k”が閾値k”0以上の状態が所定時間T0以上経過した場合に接続異常であると判定し、それ以外の場合には正常であると判定する。
【0058】
本実施形態によると、不平衡率算出部29が実効値V’と実効値V”とから不平衡率k”を算出し、判定部26が不平衡率k”と所定の閾値k”0とを比較することで、三相配線の接続異常を判定する。これにより、異常検出装置A2は、三相配線の接続異常を検出できる。また、異常検出装置A2は、接続異常の検出においてゼロクロスタイミングを利用しないので、いずれのタイミングにおいても、実施される処理は共通している。したがって、異常検出装置A2は、処理時間の変動を抑制できる。
【0059】
また、本実施形態においても、三相二相変換部21が3個の相電圧信号Vu,Vv,Vwをα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβに変換し、正相分抽出部22が基本波の正相分信号Vα’,Vβ’を抽出し、実効値算出部24が実効値V’を算出する。また、本実施形態によると、逆相分抽出部27が基本波の逆相分信号Vα”,Vβ”を抽出し、実効値算出部28が三相配線の電圧から逆相分を抽出した電圧の実効値V”を算出する。不平衡率算出部29は、実効値V’と実効値V”とから不平衡率k”を算出する。このように、異常検出装置A2は、簡単な演算処理で不平衡率k”を検出できる。 また、本実施形態によると、逆相分抽出部27は、複数の複素係数バンドパスフィルタ(帯域通過型の複素係数フィルタ)と、1個の複素係数ノッチフィルタ(帯域阻止型の複素係数フィルタ)とを備えている。したがって、逆相分抽出部27は、精度よく、基本波の逆相分の信号を抽出できる。
【0060】
本発明に係る異常検出装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る異常検出装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0061】
A1~A2:異常検出装置、21:三相二相変換部、22:正相分抽出部、221:複素係数バンドパスフィルタ、222:複素係数ノッチフィルタ、23,24,28:実効値算出部、25:逆相割合算出部、26:判定部、27:逆相分抽出部、29:不平衡率算出部
図1
図2
図3
図4