(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080361
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用セパレータおよびそれを含む鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/463 20210101AFI20240606BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20240606BHJP
H01M 10/06 20060101ALI20240606BHJP
H01M 50/414 20210101ALN20240606BHJP
H01M 50/417 20210101ALN20240606BHJP
【FI】
H01M50/463 B
H01M50/489
H01M10/06 Z
H01M50/414
H01M50/417
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193489
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 悦子
(72)【発明者】
【氏名】安藤 和成
【テーマコード(参考)】
5H021
5H028
【Fターム(参考)】
5H021CC09
5H021EE02
5H021EE04
5H021HH01
5H021HH03
5H028AA05
5H028CC07
5H028HH01
5H028HH05
(57)【要約】
【解決手段】鉛蓄電池用セパレータは、結晶質領域と非晶質領域とを含むとともに、第1表面および第2表面を有するベース部と、前記第1表面に配置された第1リブとを有する。前記第1リブの平均的な高さは、0.35mmを超え、0.95mm以下である。前記第1リブの頂部の表面の結晶化度Ctは、20%以上である。前記結晶化度Ctは、100×I
cr/(I
cr+I
ar)で表される。I
crは、前記頂部の表面のX線回折スペクトルにおける前記結晶質領域に相当する回折ピークのうちピーク高さが最大である回折ピークの積分強度である。I
arは、前記頂部の表面のX線回折スペクトルにおける前記非晶質領域に相当するハローの積分強度である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池用セパレータであって、
前記セパレータは、結晶質領域と非晶質領域とを含むとともに、第1表面および第2表面を有するベース部と、前記第1表面に配置された第1リブとを有し、
前記第1リブの平均的な高さは、0.35mmを超え、0.95mm以下であり、
前記第1リブの頂部の表面の結晶化度Ctは、20%以上であり、
前記結晶化度Ctは、100×Icr/(Icr+Iar)で表され、
Icrは、前記頂部の表面のX線回折スペクトルにおける前記結晶質領域に相当する回折ピークのうちピーク高さが最大である回折ピークの積分強度であり、
Iarは、前記頂部の表面のX線回折スペクトルにおける前記非晶質領域に相当するハローの積分強度である、鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項2】
前記第1表面または第2表面の結晶化度Cbは、30%未満であり、
前記結晶化度Cbは、100×Icb/(Icb+Iab)で表され、
Icbは、前記第1表面または第2表面のX線回折スペクトルにおける前記結晶質領域に相当する回折ピークのうちピーク高さが最大である回折ピークの積分強度であり、
Iabは、前記第1表面または第2表面のX線回折スペクトルにおける前記非晶質領域に相当するハローの積分強度である、請求項1に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項3】
鉛蓄電池であって、
前記鉛蓄電池は、極板群および電解液を含む少なくとも1つのセルを含み、
前記極板群は、正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板の間に介在するセパレータとを含み、
前記セパレータは、請求項1または2に記載の鉛蓄電池用セパレータであり、
前記第1表面は、前記正極板と対向している、鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用セパレータおよびそれを含む鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、正極板および負極板と、これらの間に介在するセパレータと、電解液と、を含む。鉛蓄電池のセパレータには、様々な性能が要求される。
【0003】
特許文献1は、リブ高さをリブ底幅で除した値が1.90以下であるリブを有することを特徴とする鉛蓄電池用セパレータを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉛蓄電池では、正極板に正極活物質として酸化力の強い二酸化鉛が含まれる。過充電状態の鉛蓄電池では、正極板の電位が高い。そのため、正極板と対向するセパレータは、酸化劣化し易い。過充電時のセパレータの酸化劣化は、特に、高温(例えば、75℃以上の温度)で顕著である。鉛蓄電池において、セパレータが酸化劣化すると、柔軟性が低下して亀裂が生じ、短絡が起こることで寿命となる。
【0006】
セパレータの表面にリブを設けることで、セパレータの酸化劣化をある程度抑制することができるため、鉛蓄電池の高い高温過充電寿命性能を確保する観点からは有利である。しかし、リブが倒れたり変形したりすると、リブによる耐酸化性が十分に発揮されない場合がある。また、鉛蓄電池の使用環境または使用形態などの変化に伴い、鉛蓄電池用のセパレータには、さらに高い高温過充電寿命性能が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、鉛蓄電池用セパレータであって、
前記セパレータは、結晶質領域と非晶質領域とを含むとともに、第1表面および第2表面を有するベース部と、前記第1表面に配置された第1リブとを有し、
前記第1リブの平均的な高さは、0.35mmを超え、0.95mm以下であり、
前記第1リブの頂部の表面の結晶化度Ctは、20%以上であり、
前記結晶化度Ctは、100×Icr/(Icr+Iar)で表され、
Icrは、前記頂部の表面のX線回折スペクトルにおける前記結晶質領域に相当する回折ピークのうちピーク高さが最大である回折ピークの積分強度であり、
Iarは、前記頂部の表面のX線回折スペクトルにおける前記非晶質領域に相当するハローの積分強度である、鉛蓄電池用セパレータに関する。
【発明の効果】
【0008】
鉛蓄電池の高温過充電寿命性能を向上できる鉛蓄電池用セパレータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の外観と内部構造を示す一部切り欠き斜視図である。
【
図2】実施例の鉛蓄電池E1に用いた鉛蓄電池用セパレータの第1リブの頂部の表面のX線回折スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
鉛蓄電池は、過酷な条件下で使用される場合がある。鉛蓄電池の代表的な用途の1つに自動車用途がある。近年、自動車が、渋滞に巻き込まれたり、商用車のように常時使用されたりすることで、鉛蓄電池が過充電状態に晒される機会が増加している。また、温暖化に伴い、夏期には、より高い温度環境下で鉛蓄電池が使用される機会が増加している。そのため、近年、鉛蓄電池には、従来に比べて、さらに高いレベルの高温過充電寿命性能が求められるようになりつつある。
【0011】
例えば、セパレータの正極板に対向する表面にリブを設けると、セパレータと正極板との間に隙間が形成されるため、セパレータの酸化劣化が軽減される傾向がある。セパレータは、鉛蓄電池に使用される前に、長尺の帯状の状態でロール状に巻き取られた状態で保管されたり、流通したりする。鉛蓄電池に用いる形状にカットした後のセパレータでは、ロールに巻き取った際の応力が残留して、リブが倒れたり、変形したりする場合がある。このようなセパレータでは、多くの場合、鉛蓄電池に組み込んだ後も、リブが倒れた状態または変形した状態である。リブの倒れまたは変形は、複数箇所で生じ易く、この複数箇所が酸化劣化の起点となり得る。そのため、リブの倒れまたは変形が生じた箇所が多くなると、高温過充電寿命性能の低下が顕著になる。
【0012】
リブの倒れまたは変形は、リブが柔らかいほど生じ易くなる。リブの幅を大きくするとリブの強度が増すがセパレータの抵抗も大きくなる。また、リブの倒れまたは変形は、リブの高さがある程度の高さを有する場合に生じ、リブが高くなるほど発生頻度が上がる。リブの高さを低くすれば、リブの倒れおよび変形を抑制できるが、正極板とセパレータとの間の隙間が狭くなるため、耐酸化性が低下する。
【0013】
上記に鑑み、(1)本発明の一側面に係る鉛蓄電池用セパレータは、結晶質領域と非晶質領域とを含む。セパレータは、第1表面および第2表面を有するベース部と、第1表面に配置された第1リブとを有する。第1リブの平均的な高さは、0.35mmを超え、0.95mm以下である。第1リブの頂部の表面の結晶化度Ctは、20%以上である。結晶化度Ctは、100×Icr/(Icr+Iar)で表される。Icrは、第1リブの頂部の表面のX線回折(X-ray diffraction:XRD)スペクトルにおける結晶質領域に相当する回折ピークのうちピーク高さが最大である回折ピークの積分強度である。Iarは、第1リブの頂部の表面のXRDスペクトルにおける非晶質領域に相当するハローの積分強度である。結晶質領域に相当する回折ピークのうちピーク高さが最大である回折ピークを、以下、「第1回折ピーク」と称することがある。
【0014】
第1リブの平均的な高さが0.35mmを超える場合、リブの倒れまたは変形が生じ易い。本発明の上記側面によれば、第1リブの頂部の表面の結晶化度Ctが20%以上であることで、第1リブの高い強度が得られる。その結果、第1リブの平均的な高さが0.35mm超の場合でも、第1リブの倒れまたは変形を軽減できる。結晶化度Ctが高く耐酸化性が高い、第1リブの頂部の表面を極板と接触した状態にできる。そのため、第1表面を正極板と対向させる場合に、セパレータの高い耐酸化性により、優れた高温過充電寿命性能を確保することができる。また、第1リブの平均的な高さが0.95mm以下であることで、結晶化度Ctを20%以上とすることによる効果が発揮され易く、高い高温過充電寿命性能が得られる。
【0015】
(2)上記(1)において、セパレータの第1表面または第2表面の結晶化度Cbは、30%未満であってもよい。ここで、結晶化度Cbは、100×Icb/(Icb+Iab)で表される。Icbは、第1表面または第2表面のXRDスペクトルにおける結晶質領域に相当する回折ピークのうちピーク高さが最大である回折ピークの積分強度である。Iabは、第1表面または第2表面のXRDスペクトルにおける非晶質領域に相当するハローの積分強度である。第1表面または第2表面について測定される、結晶質領域に相当する回折ピークのうちピーク高さが最大である回折ピークを、以下、「第2回折ピーク」と称することがある。第1リブとベース部とが同じ材料で形成される場合には、第1回折ピークと第2回折ピークとはほぼ同じ位置に観察される。
【0016】
ベース部の結晶化度が高くなるにつれて、セパレータ自体の耐酸化性が高まり、高温過充電寿命性能が高くなる傾向がある。しかし、ベース部の結晶化度が高くなると、セパレータを袋状に加工するにあたって、折り曲げたセパレータの側端部を圧着させたときに、圧着部の接合力が低くなる傾向があり、圧着不良率が高くなる場合がある。これは、圧着部材に側端部を挟み込んで圧着させる際にベース部が圧着部材の形状に追従し難くなるためと考えられる。上記(2)のセパレータによれば、ベース部の第1表面または第2表面の結晶化度Cbを30%未満とすることで、圧着不良率を低く抑えることができる。
【0017】
(3)本発明は、上記の鉛蓄電池用セパレータを含む鉛蓄電池も包含する。より具体的には、鉛蓄電池は、極板群および電解液を含む少なくとも1つのセルを含み、極板群は、正極板と、負極板と、正極板および負極板の間に介在するセパレータとを含む。セパレータは、上記(1)または(2)に記載のセパレータである。鉛蓄電池では、ベース部の第1表面は、正極板と対向している。このような鉛蓄電池では、第1リブの倒れまたは変形が抑制されることで、酸化劣化の起点を低減でき、高い耐酸化性が得られるため、高い高温過充電寿命性能を確保することができる。
【0018】
鉛蓄電池は、制御弁式電池であってもよいが、液式電池が好ましい。制御弁式電池は、密閉式電池またはVRLA(Valve-regulated lead-acid battery)とも称される。液式電池は、ベント型電池とも称される。
【0019】
本明細書中、鉛蓄電池または鉛蓄電池の構成要素の上下方向は、鉛蓄電池が使用される状態において、鉛蓄電池の鉛直方向における上下方向を意味する。構成要素としては、代表的には、極板、電槽、セパレータなどが挙げられる。なお、正極板および負極板の各極板は、外部端子と接続するための耳部を備えており、液式電池では、耳部は、極板の上部に上方に突出するように設けられている。
【0020】
以下に、上記(1)~(3)を含めて、本発明の一側面に係るセパレータおよび鉛蓄電池について、主要な要件ごとに、より具体的に説明する。しかし、本発明は以下に記載する構成要件のみに限定されない。本明細書中に記載の構成要素は、任意に組み合わせられる。本明細書中に記載の少なくとも1つの構成要素を、上記(1)~(3)の少なくとも1つと組み合わせてもよい。
【0021】
(セパレータ)
セパレータは、第1表面および第2表面を有するベース部と、第1表面に配置された第1リブとを有する。第2表面は第1表面の裏側の面である。セパレータは、ベース部の第2表面に第2リブを有してもよく、有していなくてもよい。各リブは、ベース部の各表面から突出した状態で形成される。第1表面には複数の第1リブが形成されていてもよい。第2表面には複数の第2リブが形成されていてもよい。第1リブおよび第2リブのそれぞれは、各表面の極板の電極材料と対向する部分に形成されている。セパレータのベース部とは、セパレータの構成部位のうち、リブなどの突起を除く部分であり、セパレータの外形を画定するシート状の部分をいう。
【0022】
ベース部の第1表面において、第1リブの平均的な高さは、0.35mmを超え、0.0.40mm以上であってもよく、0.45mm以上であってもよい。第1リブの平均的な高さがこのような範囲である場合、第1リブの倒れまたは変形が生じ易い。本発明の一側面に係るセパレータによれば、第リブの頂部の表面の結晶化度Ctが20%以上であることで、第1リブの倒れまたは変形が低減され、高い高温過充電寿命性能を確保することができる。第1リブの平均的な高さは、0.95mm以下であり、0.80mm以下または0.75mm以下であってもよい。この場合、結晶化度Ctが20%以上であることによる第1リブの倒れまたは変形を抑制する効果が発揮され易く、より高い高温過充電寿命性能が得られる。第1リブの平均的な高さは、例えば、0.35mmを超え0.95mm以下、0.40mm以上0.95mm以下、または0.45mm以上0.95mm以下であってもよい。
【0023】
セパレータは、セパレータの構成材料の分子の配列性が高い結晶質領域と、配列性が低い非晶質領域とを含む。結晶質領域では、セパレータの構成材料の分子が比較的規則正しく配列している。このようなセパレータのベース部の表面のXRDスペクトルでは、結晶質領域による回折ピークが観察されるとともに、非晶質領域による散乱光がハローとして観察される。また、第1リブを形成する条件を調節することで、第1リブの頂部の表面でも、ベース部の表面と類似したXRDスペクトルの回折ピークおよびハローが観察されることが明らかとなった。
【0024】
第1リブの頂部の表面のXRDスペクトルにおいて、結晶化度Ctは、100×Icr/(Icr+Iar)で表される。本発明の一側面に係るセパレータでは、結晶化度Ctが20%以上である。これによって、第1リブの高い強度が得られるため、第1リブの倒れまたは変形が低減される。第1リブの倒れまたは変形が低減されることで、酸化劣化の起点が減少するため、セパレータの高い耐酸化性を確保できる。また、第1リブの頂部の耐酸化性が高い。そのため、第1表面を正極板に対向させ、第1リブの頂部が正極板に接触した場合に、セパレータの酸化劣化を抑制できる。よって、鉛蓄電池において、高い高温過充電寿命を確保することができる。上記式において、Icrは、第1リブの頂部の表面のXRDスペクトルにおける第1回折ピークの積分強度であり、Iarは、第1リブの頂部の表面のXRDスペクトルにおける非晶質領域に相当するハローの積分強度である。
【0025】
例えば、エチレン単位を含むポリオレフィンを含むセパレータの第1リブの頂部の表面のXRDスペクトルでは、結晶質領域の(110)面に相当する回折ピークが、2θが20°以上22.5°以下の範囲に観察され、結晶質領域の(200)面に相当する回折ピークが、2θが23°以上24.5°以下の範囲に観察される。また、非晶質領域のハローは、2θが17°以上27°以下の範囲に観察される。ポリオレフィンとしてポリエチレンを含むセパレータにおいて、結晶質領域による回折ピークのうち、(110)面に相当する回折ピークは、ピーク高さが最大であり、第1回折ピークに相当する。
【0026】
より高い高温過充電寿命性能を確保する観点からは、結晶化度Ctは、23%以上であってもよく、25%以上であってもよい。第1リブを形成する型の形状に対応する形状の第1リブが形成され易く、頂部の結晶化度Ctを調節し易い観点からは、結晶化度Ctは、40%以下であってもよく、35%以下であってもよい。結晶化度Ctは、例えば、20%以上40%以下、20%以上35%以下、または23%以上40%以下であってもよい。
【0027】
第1リブの平均的な高さが高くなると、第1リブの倒れまたは変形が生じ易くなる。そのため、第1リブの平均的な高さが0.95mmのとき、結晶化度Ctは、20%を超えることが好ましい。この場合、第1リブの変形をさらに抑制することができ、より高い高温過充電寿命性能が得られる。さらに高い高温過充電寿命性能を確保する観点からは、結晶化度Ctは、23%以上であってもよく、25%以上であってもよい。第1リブの平均的な高さが0.95mmのとき、結晶化度Ctは、20%を超え40%以下、20%を超え35%以下であってもよい。
【0028】
回折ピークおよびハローの積分強度は、セパレータの各表面のXRDスペクトルにおいて、結晶質領域による回折ピークと非晶質領域によるハローとをフィッティングすることによって求められる。各表面について、求められた第1回折ピークの積分強度Icrおよびハローの積分強度Iarを用いて、上記の式から結晶化度が求められる。
【0029】
本発明の一側面に係るセパレータでは、ベース部の表面でも第1リブの頂部の表面と類似の波形のXRDスペクトルが観察される。ベース部の第1表面または第2表面の結晶化度Cbは、結晶化度Ctの場合に準じて求められる。具体的には、結晶化度Cbは、100×Icb/(Icb+Iab)で表される。Icbは、第1表面のXRDスペクトルにおける結晶質領域に相当する回折ピークのうちピーク高さが最大である回折ピークの積分強度である。この回折ピークは上述の第2回折ピークである。Iabは、第1表面のXRDスペクトルにおける非晶質領域に相当するハローの積分強度である。エチレン単位を含むポリオレフィンを含むセパレータの第1表面のXRDスペクトルでも、第1リブの頂部の表面と類似の波形が観察される。
【0030】
第1表面または第2表面の結晶化度Cbは、40%以下であってもよい。セパレータを袋状に加工するにあたって圧着不良率を低く抑える観点からは、第1表面または第2表面の結晶化度Cbは、30%未満が好ましく、27%以下がより好ましく、25%以下がさらに好ましい。結晶化度Cbは、17%以上であってもよく、18%以上であってもよい。ベース部のより高い耐酸化性を確保する観点からは、結晶化度Cbは20%以上であってもよい。結晶化度Cbは、例えば、17%以上40%以下、17%以上30%未満、17%以上27%以下、または17%以上25%以下であってもよい。
【0031】
高い高温過充電寿命性能を確保しながら、圧着不良率をさらに低く抑える観点からは、結晶化度Ctおよび結晶化度Cbは、Ct>Cbの関係を充足することが好ましい。
【0032】
第1リブの倒れおよび変形をさらに抑制する観点からは、第1リブの底部の幅Wbおよび頂部の幅Wtは、Wb≧Wtの関係を充足することが好ましい。Wt/Wbは、0.20以上であってもよく、0.25以上であってもよい。Wt/Wbは、1.00以下であってもよく、0.70以下であってもよく、0.60以下であってもよい。Wt/Wbは、例えば、0.20以上1.00以下、または0.20以上0.70以下であってもよい。
【0033】
第1リブの底部の幅Wbは、第1リブの倒れおよび変形を抑制する観点から、0.7mm以上が好ましい。第1リブの底部の幅Wbが0.7mm以上であるセパレータにおいて、第1リブの頂部の表面の結晶化度Ctを20%以上とすることにより、第1リブが倒れにくくなり、高温過充電寿命性能が向上する。一方、第1リブの底部の幅Wbが1.3mm以下の場合、これより幅Wbが大きい場合に比べて第1リブの倒れおよび変形が生じやすくなる。そのため、第1リブの頂部の表面の結晶化度Ctを20%以上とすることにより第1リブの倒れおよび変形を抑制し、高温過充電寿命性能を向上するという本発明の効果がより顕著に発現するため好ましい。
【0034】
第1表面において、複数のリブは、極板の高さ方向と平行な方向に沿って形成されていることが好ましい。特に、極板の電極材料と対向する部分において、複数のリブが極板の高さ方向と平行な方向に沿って形成されていることが好ましい。例えば、複数のリブの長さ方向と、極板の高さ方向とがなす鋭角側の角度は、30°以下であってもよい。複数のリブの長さ方向と、極板の高さ方向とが平行である場合も好ましい。
【0035】
セパレータが、ベース部の第1表面に複数の第1リブを有する場合、複数の第1リブの平均的な間隔は、0.5cm以上であってもよい。複数の第1リブの平均的な間隔は、2.0cm以下であってもよく、1.5cm以下であってもよい。第1リブは、ベース部の電極材料と対向する部分において、上記のような平均的間隔であることが好ましい。第1リブの平均的な間隔が上記の範囲である場合、より高い耐酸化性が得られる。
【0036】
鉛蓄電池は、部分充電状態(Partial State of Charge:PSOC)と呼ばれる充電不足状態で使用されることがある。例えば、アイドリングストップ(Start-StopまたはIdle Reductionとも言う。)用途では、鉛蓄電池はPSOCで使用される。鉛蓄電池がPSOCで使用されると、徐々に電池上部の電解液比重が低く、電池下部の電解液の比重が高くなる成層化が進行し易くなる。成層化した状態で鉛蓄電池の使用が継続されると、負極板の上部でデンドライト状の鉛結晶が析出して、セパレータを貫通し、正極板に接触して短絡が生じる。このような短絡を浸透短絡と称する。ベース部の第2表面に第2リブを設けるとベース部の両方の表面にリブを設けることとなり、浸透短絡を抑制することができる。
【0037】
セパレータがベース部の第2表面に第2リブを有する場合、極板の電極材料が存在する部分と対向する領域に設けられる第2リブの平均的な高さは、0.05mm以上であってもよい。この場合、浸透短絡が抑制され易い。第2リブの平均的な高さは、0.40mm以下であってもよく、0.35mm以下であってもよく、0.20mm以下であってもよい。この場合、第2リブの倒れまたは変形が抑制されるとともに、セパレータの抵抗を低く抑え易い。
【0038】
より高い耐酸化性が得られるとともに浸透短絡が抑制され易い観点から、ベース部の厚さは、100μm以上であってもよい。セパレータの抵抗または圧着不良率を低く抑える観点からは、セパレータの厚さは、300μm以下であってもよく、250μm以下であってもよい。
【0039】
ベース部の厚さとは、ベース部の電極材料に対向する部分における平均厚さを意味する。例えば、セパレータの隣接するリブ間においてベース部に、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材を、以下、「貼付部材」とも称する。このような場合、貼付部材の厚さは、ベース部の厚さには含まれない。
【0040】
セパレータは、シート状であってもよい。また、蛇腹状に折り曲げたシートをセパレータとして用いてもよい。セパレータは袋状に形成してもよい。正極板または負極板のうちのいずれか一方を袋状のセパレータに包んでもよい。
【0041】
セパレータを鉛蓄電池に用いるにあたって、セパレータの第1表面は、正極板および負極板のいずれに対向させてもよい。より高い高温過充電寿命性能が得られる観点からは、第1表面が正極板に対向するようにセパレータを配置することが好ましい。
【0042】
セパレータは、ポリマー材料を含む。当該ポリマー材料を、以下、ベースポリマーと称する場合がある。セパレータは、結晶質領域を含むため、ベースポリマーは、通常、結晶性ポリマーを含む。ポリマー材料は、例えば、ポリオレフィンを含む。このようなポリマー材料を含むセパレータは、酸化劣化し易いが、結晶化度Ctおよび結晶化度Cbを比較的容易に調節できる。ポリオレフィンとは、少なくともオレフィン単位を含む重合体である。換言すると、ポリオレフィンは、少なくともオレフィンに由来するモノマー単位を含む重合体である。
【0043】
ベースポリマーとして、ポリオレフィンと他のベースポリマーとを併用してもよい。セパレータに含まれるベースポリマー全体に占めるポリオレフィンの比率は、50質量%以上、80質量%以上、または90質量%以上であってもよい。ポリオレフィンの比率は、例えば、100質量%以下である。ベースポリマーをポリオレフィンのみで構成してもよい。ポリオレフィンの比率がこのように多い場合、セパレータの耐酸化性が低くなる傾向があるが、このような場合であっても、結晶化度Ctを所定値以上とすることで、高い高温過充電寿命性能を確保することができる。また、高い圧着性が得られ易い。
【0044】
ポリオレフィンには、例えば、オレフィンの単独重合体、異なるオレフィン単位を含む共重合体、オレフィン単位および共重合性モノマー単位を含む共重合体が包含される。オレフィン単位および共重合性モノマー単位を含む共重合体は、1種または2種以上のオレフィン単位を含んでいてもよい。また、オレフィン単位および共重合性モノマー単位を含む共重合体は、1種または2種以上の共重合性モノマー単位を含んでいてもよい。共重合性モノマー単位とは、オレフィン以外で、かつオレフィンと共重合可能な重合性モノマーに由来するモノマー単位である。
【0045】
ポリオレフィンとしては、例えば、少なくともC2-3オレフィンをモノマー単位として含む重合体が挙げられる。C2-3オレフィンとして、エチレンおよびプロピレンからなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、C2-3オレフィンをモノマー単位として含む共重合体がより好ましい。このような共重合体としては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体が挙げられる。ポリオレフィンの中では、少なくともエチレン単位を含むポリオレフィンを用いることが好ましい。このようなポリオレフィンを含むセパレータは、酸化劣化し易いが、結晶化度を比較的容易に調節できる。少なくともエチレン単位を含むポリオレフィンと他のポリオレフィンとを併用してもよい。少なくともエチレン単位を含むポリオレフィンとしては、ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体などが挙げられる。セパレータは、ポリオレフィンを一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0046】
セパレータは、オイルを含んでもよい。セパレータがオイルを含む場合、セパレータの酸化劣化を抑制する効果をさらに高めることができるため、より高い高温過充電寿命性能を確保することができる。オイルとは、室温で液状であり、水と分離する疎水性物質を言う。
本明細書中、室温とは、20℃以上35℃以下の温度である。
【0047】
オイルには、天然由来のオイル、鉱物オイル、および合成オイルが包含される。オイルとしては、鉱物オイル、合成オイルなどが好ましい。オイルとしては、例えば、パラフィンオイル、シリコーンオイルが挙げられる。セパレータは、オイルを一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。
【0048】
セパレータ中のオイルの含有率は、11質量%以上であってもよい。オイルの含有率がこのような範囲である場合、セパレータの酸化劣化を抑制する効果がさらに高まる。また、セパレータ中のオイルの含有率は、18質量%以下であってもよい。この場合、セパレータの抵抗を比較的低く抑えることができる。
【0049】
セパレータは、例えば、ベースポリマーと、造孔剤と、浸透剤とを含む樹脂組成物をシート状に押出成形し、延伸処理した後、造孔剤の少なくとも一部を除去することにより得られる。浸透剤としては、界面活性剤などが挙げられる。少なくとも一部の造孔剤を除去することで、ベースポリマーのマトリックス中に微細孔が形成される。シート状のセパレータは、造孔剤を除去した後、必要に応じて乾燥処理される。例えば、押出成形する際のシートおよび第1リブの冷却速度、延伸処理の際の延伸倍率、および乾燥処理の際の温度からなる群より選択される少なくとも1つを調節することによって、結晶化度が調節される。例えば、押出成形する際にシートまたは第1リブを急冷したり、延伸倍率を高くしたり、または乾燥処理の際の温度を低くしたりすると、結晶化度が高くなる傾向がある。また、第1リブとベース部とを異なる温度で冷却して、冷却速度を第1リブの頂部の表面とベース部の表面とで相違させてもよい。延伸処理は、二軸延伸によって行ってもよいが、通常、一軸延伸によって行われる。シート状のセパレータは、さらに、圧着機によって、袋状に加工してもよい。
【0050】
リブは、樹脂組成物を押出成形する際にシートに形成してもよい。また、リブは、樹脂組成物をシート状に成形した後または造孔剤を除去した後に、各リブに対応する溝を有するローラでシートを押圧することにより形成してもよい。
【0051】
造孔剤としては、液状造孔剤および固形造孔剤などが挙げられる。造孔剤は、少なくともオイルを含むことが好ましい。オイルを用いることで、オイルを含有するセパレータが得られ、酸化劣化を抑制する効果がさらに高まる。造孔剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。オイルと他の造孔剤とを併用してもよい。液状造孔剤と、固形造孔剤とを併用してもよい。25℃において、液状の造孔剤を液状造孔剤、固形の造孔剤を固形造孔剤と分類する。
【0052】
液状造孔剤としては、上述のオイルが好ましい。固形造孔剤としては、例えば、ポリマー粉末が挙げられる。
【0053】
セパレータ中の造孔剤の量は、種類によっては変化することがある。セパレータ中の造孔剤の量は、ベースポリマー100質量部あたり、例えば、30質量部以上である。造孔剤の量は、ベースポリマー100質量部あたり、例えば、60質量部以下である。
【0054】
例えば、造孔剤としてのオイルを用いて形成されるシートから、溶剤を用いて一部のオイルを抽出除去することによって、オイルを含有するセパレータが形成される。溶剤は、例えば、オイルの種類に応じて選択される。例えば、溶剤の種類および組成、抽出条件などを調節することによって、セパレータ中のオイルの含有率が調節される。抽出条件としては、抽出時間、抽出温度、溶剤を供給する速度などが挙げられる。
【0055】
浸透剤としての界面活性剤としては、例えば、イオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤のいずれであってもよい。界面活性剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
セパレータ中の浸透剤の含有率は、例えば、0.01質量%以上であり、0.1質量%以上であってもよい。セパレータ中の浸透剤の含有率は、10質量%以下であってもよい。
【0057】
セパレータの製造に供される樹脂組成物、またはセパレータは、無機粒子を含んでもよい。
【0058】
無機粒子としては、例えば、セラミックス粒子が好ましい。セラミックス粒子を構成するセラミックスとしては、例えば、シリカ、アルミナ、およびチタニアからなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0059】
セパレータ中の無機粒子の含有率は、40質量%以上であってもよい。無機粒子の含有率は、80質量%以下または70質量%以下であってもよい。
【0060】
(セパレータの分析またはサイズの計測)
(セパレータの準備)
セパレータの分析またはサイズの計測には、未使用のセパレータまたは使用初期の満充電状態の鉛蓄電池から取り出したセパレータが用いられる。鉛蓄電池から取り出したセパレータは、分析または計測に先立って、洗浄および乾燥される。
【0061】
鉛蓄電池から取り出したセパレータの洗浄および乾燥は、次の手順で行われる。鉛蓄電池から取り出したセパレータを純水中に1時間浸漬し、セパレータ中の硫酸を除去する。次いで浸漬していた液体からセパレータを取り出して、25℃±5℃環境下で、16時間以上静置し、乾燥させる。
【0062】
本明細書中、液式の鉛蓄電池の満充電状態とは、JIS D 5301:2019の定義によって定められる。より具体的には、25℃±2℃の水槽中で、20時間率電流I20の2倍の電流2I20の電流(単位:A)で、15分ごとに測定した充電中の端子電圧(単位:V)または20℃に温度換算した電解液密度が3回連続して有効数字3桁で一定値を示すまで充電した状態が満充電状態である。制御弁式の鉛蓄電池の場合、満充電状態とは、25℃±2℃の気槽中で、20時間率電流I20の5倍の電流5I20で、2.67V/セル(定格電圧12Vの鉛蓄電池においては16.00V)の定電流定電圧充電を行い、総充電時間が24時間になった時点で充電を終了した状態である。定格容量として記載の数値は、単位をAhとした数値である。定格容量として記載の数値を元に設定される電流の単位はAとする。20時間率電流I20とは、定格容量に記載のAhの数値の1/20の電流(A)のことである。
【0063】
満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電状態まで充電した鉛蓄電池である。鉛蓄電池を満充電状態まで充電するタイミングは、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい。例えば、化成後で、使用中の鉛蓄電池を充電してもよく、好ましくは、化成後で、使用初期の鉛蓄電池を充電してもよい。
【0064】
本明細書中、使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池である。
【0065】
(XRDスペクトル)
第1リブの頂部の表面およびベース部の第1表面または第2表面のXRDスペクトルは、第1リブの頂部の表面、第1表面または第2表面に垂直な方向からX線を照射することによって測定される。そのため、第1リブの頂部の表面とは、第1リブの最大高さを有する表面である。第1リブが平坦な頂面を有する場合には、この平坦な頂面についてXRDスペクトルが測定される。第1リブが平坦な頂面を有さない場合には、第1リブの最大高さの部分の表面についてXRDスペクトルが測定される。測定用サンプルは、測定箇所を含むようにセパレータを縦3cmおよび横3cmのサイズにカットすることによって作製される。測定用サンプルの第1リブの頂部の表面、もしくは第1表面または第2表面について、XRDスペクトルの測定および解析は、以下の条件で行われる。
(測定条件)
測定装置:Empyrean、Malvern Panalytical社製
X線源:CuKα
出力:1.8kW
光学系:ブラッグ・ブレンターノ光学系
X線検出器:255ch×255ch二次元検出器 PIXcel3D-Medipix3 1x1 detector
走査方法:Scan(連続測定モード)
測定角度範囲:10-35°
ステップ幅:0.06°
XRDデータ処理:XRDパターン解析ソフト(High Score Plus、Malvern Panalytical製)を使用。
【0066】
(ベース部の厚さ、リブの高さ、リブ幅、およびリブの間隔)
ベース部の厚さは、セパレータの断面写真において、ベース部の任意に選択した5箇所について厚さを計測し、平均化することによって求められる。ベース部の厚さは、セパレータの電極材料と対向する部分のベース部について求められる。
【0067】
リブの高さは、セパレータの断面写真において、リブの任意に選択される10箇所において計測したリブのベース部の一方の表面からの高さを平均化することにより求められる。リブの高さは、セパレータの電極材料と対向する部分に存在するリブについて求められる。
【0068】
リブの底部の幅は、リブの任意に選択される10箇所において、リブの付け根の部分の幅を、ノギスを用いて計測し、平均化することによって求められる。リブの頂部の幅は、リブの任意に選択される10箇所において、リブの頂部の幅を、ノギスを用いて計測し、平均化することによって求められる。リブの底部および頂部の幅は、セパレータの電極材料と対向する部分に存在するリブについて求められる。
【0069】
リブの平均的な間隔は、セパレータの電極材料と対向する部分に存在するリブについて、隣接するリブ間の間隔を任意の5箇所においてノギスで計測し、平均化することにより求められる。
【0070】
(セパレータ中の浸透剤の含有率)
セパレータの電極材料に対向する部分を短冊状に加工してサンプルを作製する。このサンプルを、以下、サンプルAと称する。リブを有するセパレータでは、リブを含まないように、ベース部を短冊状に加工してサンプルAを作製する。
【0071】
サンプルAの一部を採取し、正確に秤量した後、室温で大気圧より低い減圧環境下で、12時間以上乾燥させる。乾燥物を白金セルに入れて、熱重量測定装置にセットし、昇温速度10K/分で、室温から800℃±1℃まで昇温する。室温から250℃±1℃まで昇温させたときの重量減少量を浸透剤の質量とし、サンプルBの質量に占める浸透剤の質量の比率を百分率で算出し、上記の浸透剤の含有率(質量%)とする。熱重量測定装置としては、T.A.インスツルメント社製のQ5000IRが使用される。10個のサンプルAについて浸透剤の含有率を求め、平均値を算出する。得られる平均値をセパレータ中の浸透剤の含有率とする。
【0072】
(セパレータ中のオイルの含有率)
上記と同様に作製したサンプルAの約0.5gを採取し、正確に秤量し、初期のサンプルの質量m0を求める。秤量したサンプルAを、適当な大きさのガラス製ビーカーに入れ、n-ヘキサン50mLを加える。次いで、ビーカーごと、サンプルAに約30分間、超音波を付与することにより、サンプルA中に含まれるオイル分を含むn-ヘキサン可溶物質をn-ヘキサン中に溶出させる。次いで、n-ヘキサンからサンプルAを取り出し、大気中、室温で乾燥させた後、秤量することにより、n-ヘキサン可溶物質除去後のサンプルAの質量m1を求める。そして、下記式により、n-ヘキサン可溶物質の含有率を算出する。10個のサンプルAについてn-ヘキサン可溶物質の含有率を求め、平均値を算出する。得られる平均値をセパレータ中のn-ヘキサン可溶物質の含有率とする。
n-ヘキサン可溶物質の含有率(質量%)=(m0-m1)/m0×100
n-ヘキサン可溶物質の含有率から浸透剤の含有率を減ずることにより、セパレータ中のオイルの含有率を算出する。
【0073】
(セパレータ中の無機粒子の含有率)
上記と同様に作製したサンプルAの一部を採取し、正確に秤量した後、白金坩堝中に入れ、ブンゼンバーナーで白煙が出なくなるまで加熱する。次に、得られるサンプルを、電気炉で、約1時間加熱して灰化し、灰化物を秤量する。電気炉での加熱は、酸素気流中、550℃±10℃の温度で行う。サンプルAの質量に占める灰化物の質量の比率を百分率で算出し、上記の無機粒子の含有率(質量%)とする。10個のサンプルAについて無機粒子の含有率を求め、平均値を算出する。得られる平均値をセパレータ中の無機粒子の含有率とする。
【0074】
(極板群)
極板群は、例えば、正極板と、負極板と、これらの間に介在する上記のセパレータとを含む。
【0075】
(正極板)
正極板は、例えば、正極電極材料と正極電極材料を保持する正極集電体とを含む。正極板としては、ペースト式およびクラッド式のいずれの正極板を用いてもよい。
【0076】
ペースト式正極板では、正極電極材料は、正極板から正極集電体を除いた部分である。なお、正極板には、貼付部材が貼り付けられていることがある。貼付部材は、正極板と一体として使用されるため、正極板に含まれる。正極板が貼付部材を含む場合には、正極電極材料は、正極板から正極集電体および貼付部材を除いた部分である。
【0077】
クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金と、複数の芯金を連結する集電部と、芯金が挿入されたチューブ内に充填される正極電極材料と、複数のチューブを連結する連座とを備えている。クラッド式正極板では、正極電極材料は、正極板から、チューブ、芯金、集電部、および連座を除いた部分である。クラッド式正極板では、芯金と集電部とを合わせて正極集電体と称する場合がある。
【0078】
正極集電体は、鉛または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工または打ち抜き加工が挙げられる。打ち抜き加工は、パンチング加工とも称される。正極集電体として格子状の集電体を用いると、正極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0079】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、合金層は1層であってもよく、複数層でもよい。
【0080】
正極板に含まれる正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質を含む。正極活物質としては、二酸化鉛もしくは硫酸鉛が挙げられる。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。他の添加剤としては、例えば、補強材、炭素質材料が挙げられる。
【0081】
補強材としては、例えば、繊維が挙げられる。繊維としては、例えば、無機繊維、有機繊維が挙げられる。無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維が挙げられる。有機繊維を構成する樹脂または高分子としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、およびセルロース化合物からなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートが挙げられる。セルロース化合物としては、例えば、セルロース、セルロース誘導体が挙げられる。セルロース誘導体としては、例えば、セルロースエーテル、セルロースエステルが挙げられる。セルロース化合物には、レーヨンも含まれる。
【0082】
正極電極材料中の補強材の含有率は、例えば、0.03質量%以上である。また、正極電極材料中の補強材の含有率は、例えば、0.5質量%以下である。
【0083】
未化成のペースト式正極板は、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成および乾燥することにより得られる。正極ペーストは、鉛粉、アンチモン化合物、および必要に応じて補強材、炭素質材料などの他の添加剤に、水および硫酸を加えて混練することで調製される。
【0084】
未化成の正極板を化成することにより正極板が得られる。化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の正極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0085】
(負極板)
負極板は、例えば、負極電極材料と負極電極材料を保持する負極集電体とを含む。
【0086】
負極電極材料は、負極板から負極集電体を除いた部分である。負極板には、上述のような貼付部材が貼り付けられている場合がある。この場合、貼付部材は、負極板に含まれる。負極板が貼付部材を含む場合には、負極電極材料は、負極板から負極集電体および貼付部材を除いた部分である。
【0087】
負極集電体は、正極集電体の場合と同様にして形成できる。
【0088】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。負極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、合金層は1層であってもよく、複数層でもよい。
【0089】
負極板に含まれる負極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質を含んでおり、有機防縮剤、炭素質材料、硫酸バリウムなどを含んでもよい。負極活物質としては、鉛もしくは硫酸鉛が用いられる。負極電極材料は、必要に応じて、補強材などの他の添加剤を含んでもよい。
【0090】
有機防縮剤としては、リグニン、リグニンスルホン酸、合成有機防縮剤などが挙げられる。合成有機防縮剤としては、例えば、フェノール化合物のホルムアルデヒド縮合物が挙げられる。負極電極材料は、有機防縮剤を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0091】
負極電極材料中の有機防縮剤の含有率は、例えば、0.01質量%以上である。有機防縮剤の含有率は、例えば、1質量%以下である。
【0092】
負極電極材料に含まれる炭素質材料としては、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどが挙げられる。黒鉛は、人造黒鉛でもよく、天然黒鉛でもよい。負極電極材料は、炭素質材料を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0093】
負極電極材料中の炭素質材料の含有率は、例えば、0.1質量%以上である。炭素質材料の含有率は、例えば、3質量%以下であってもよい。
【0094】
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有率は、例えば、0.1質量%以上である。硫酸バリウムの含有率は、例えば、3質量%以下である。
【0095】
補強材としては、例えば、繊維が挙げられる。繊維は、正極板で例示した材料から選択できる。
【0096】
負極電極材料中の補強材の含有率は、例えば、0.03質量%以上である。また、負極電極材料中の補強材の含有率は、例えば、0.5質量%以下である。
【0097】
充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
【0098】
負極板は、負極集電体に、負極ペーストを充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、鉛粉と有機防縮剤および必要に応じて各種添加剤に、水と硫酸を加えて混練することで作製する。熟成工程では、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0099】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成する。
【0100】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液である。電解液は、必要に応じてゲル化させてもよい。
【0101】
電解液は、さらに、Naイオン、Liイオン、Mgイオン、およびAlイオンからなる群より選択される少なくとも一種の金属イオンなどを含んでもよい。
【0102】
電解液の20℃における比重は、例えば、1.10以上である。電解液の20℃における比重は、1.35以下であってもよい。なお、これらの比重は、満充電状態の鉛蓄電池の電解液についての値である。
【0103】
(1)高温過充電寿命性能
鉛蓄電池の高温過充電寿命性能は、下記の手順で、高温過充電耐久試験を行い、このときの鉛蓄電池の寿命に基づいて評価される。
(a)全試験期間を通して、蓄電池を75℃±3℃の気槽中に置く。
(b)蓄電池を寿命試験装置に接続し、連続的に次に示す放電及び充電のサイクルを繰り返す。この放電と充電とのサイクルを寿命1回(1サイクル)とする。
放電:放電電流25.0A±0.1Aで60秒±1秒
充電:充電電圧14.80V±0.03V(制限電流25.0A±0.1A)で600秒±1秒
(c)試験中、480サイクルごとに56時間放置し、その後定格コールドクランキング電流Iccで30秒間連続放電を行い、30秒目電圧を記録する。その後、(b)の充電を行う。なお、これらの放電及び充電も寿命回数(サイクル数)に加算する。
(d)(c)の試験で測定した30秒目電圧が7.2V以下となり、再び上昇しないことを確認した時点で試験を終了し、このときの合計サイクル数を寿命性能の指標とする。
なお、定格コールドクランキング電流Iccとは、JIS D 5301:2019に定められる性能ランクに応じた電流値とする。
【0104】
(2)圧着不良率
(a)シート状のセパレータを2つ折りにし、折り目を下にしたときの両側端部を、圧着することによって、袋状に加工する。より具体的には、両側端部を、圧着機の一対の噛み合いギアの間に通して、両側端部に圧力を加えることによって接合する。このような圧着はメカニカルシールと呼ばれる。両側端部における圧着幅は、2.5mm以上5.0mm以下とする。
【0105】
(b)(a)で得られた袋状セパレータの圧着部を引張試験に供し、引張強度が200gh/10mm未満のセパレータの個数n1を圧着不良が生じたセパレータの個数として求める。セパレータの引張試験は、以下の手順で行われる。まず、袋状セパレータを、折り目を含まず圧着部を含むように10mm×40mmの大きさにカットすることによって試験片を得る。このとき、40mmの長さの方向が折り目と平行になるようにカットする。つまり、試験片における圧着部の長さは10mmである。この試験片を、圧着部を中心に開いた状態とし、精密万能試験機(島津製作所、製品名:AGS-X)を用いて、チャック間距離20mm、引っ張り速度5mm/分、25℃の条件で、引張試験を行い、圧着部が分離した時の応力を引張強度として求める。
【0106】
(c)(b)において求めた個数n1を、作製した袋状セパレータの総個数Nで除することにより、不良が発生した袋状セパレータの割合を求め、圧着不良率(ppm)とする。作製した袋状セパレータの総個数Nは、(a)で袋状加工に供したセパレータの個数である。セパレータの総個数Nは、量産数量(例えば10万)である。
【0107】
図1は、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で閉じられる。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0108】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0109】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されない。
【0110】
《鉛蓄電池E1~E12、鉛蓄電池C1~C4、および鉛蓄電池R1~R4》
下記の手順で各鉛蓄電池を作製した。
(1)セパレータの作製
ポリエチレン100質量部と、シリカ粒子160質量部と、造孔剤としてのパラフィン系オイル80質量部と、2質量部の浸透剤とを含む樹脂組成物を、シート状に押出成形し、延伸処理した後、造孔剤の一部を除去することによって、片面にリブを有する微多孔膜を作製した。このとき、既述の手順で求められる第1リブの頂部の表面の結晶化度Ctが、表1および表2に示す値となるように、押出成形されたシートおよび第1リブ部分の冷却速度および冷却温度、ならびにシートの延伸処理の倍率を調節した。既述の手順で求められる第1リブの平均的な高さを表1および表2に示す。第1リブは、底部の幅Wbが頂部の幅Wtよりも大きかった。第1リブのWt/Wbは、0.25~0.60であった。第1リブの底部の幅Wbは0.1cmであった。第1リブの形状および高さは、押出成形のローラに設けられた第1リブを形成するための凹凸の形状と深さまたは高さとで調節した。
【0111】
次に、シート状の微多孔膜を外面に第1リブが配置されるように二つ折りにして袋を形成し、重ね合わせた両端部を、一対の噛み合いギアを備える圧着機を用いて圧着して、袋状セパレータを作製した。圧着は、圧着不良率を求める場合と同じ条件で行った。
【0112】
なお、セパレータの結晶化度、オイル含有率、シリカ粒子の含有率、ベース部の厚さ、およびリブの高さは、鉛蓄電池の作製前のセパレータについて求めた値であるが、作製後の鉛蓄電池から取り出したセパレータについて既述の手順で測定した値とほぼ同じである。
【0113】
(2)正極板の作製
鉛酸化物、補強材としての合成樹脂繊維、水および硫酸を混合して正極ペーストを調製した。正極ペーストを、アンチモンを含まないPb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成および乾燥を行うことによって、幅100mm、高さ110mm、厚さ1.6mmの未化成の正極板を得た。
【0114】
(3)負極板の作製
鉛酸化物、カーボンブラック、硫酸バリウム、リグニン、補強材としての合成樹脂繊維、水および硫酸を混合して負極ペーストを調製した。負極ペーストを、アンチモンを含まないPb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成および乾燥を行うことによって、幅100mm、高さ110mm、厚さ1.3mmの未化成の負極板を得た。カーボンブラック、硫酸バリウム、リグニンおよび合成樹脂繊維の使用量は、満充電状態の鉛蓄電池から取り出した負極板について各成分の含有率が、それぞれ0.3質量%、2.1質量%、0.1質量%および0.1質量%になるように調節した。
【0115】
(4)鉛蓄電池の作製
未化成の負極板を、袋状セパレータに収容し、正極板と積層し、未化成の負極板7枚と未化成の正極板6枚とで極板群を形成した。セパレータの第1リブを有する袋の外面が第1表面に相当し、正極板と対向する。また、袋の内面が第2表面に相当し、負極板と対向する。
【0116】
正極板の耳部同士および負極板の耳部同士を、それぞれ、正極棚部および負極棚部と溶接した。極板群をポリプロピレン製の電槽に挿入し、電解液を注液して、電槽内で化成を施して、定格電圧12Vおよび定格容量30Ahの液式の鉛蓄電池を組み立てた。なお、電槽内では6個の極板群が直列に接続されている。定格容量は、5時間率容量である。5時間率容量とは、定格容量に記載の単位がAhである数値の1/5の電流(単位:A)で放電するときの容量である。
【0117】
電解液としては、硫酸水溶液を用いた。化成後の電解液の20℃における比重は1.285であった。
【0118】
(5)評価
鉛蓄電池E1に用いたセパレータの第1リブの頂部の表面について、既述の手順で測定されたXRDスペクトルを
図2に示す。
図2に示されるように、ポリエチレンの結晶質領域の(110)面に相当する回折ピークが、2θ=21.5°~22.5°の範囲に観察され、(200)面に相当する回折ピークが、2θ=23°~24.5°の範囲に観察された。そして、非晶質領域によるハローが2θ=17°~27°の広い範囲にブロードに観察された。また、同じセパレータの第1表面について測定されたXRDスペクトルは、
図2と類似の波形を有していた。
【0119】
得られた鉛蓄電池を用いて、既述の手順で高温過充電寿命性能を評価した。高温過充電寿命性能は、鉛蓄電池C1のサイクル数を100%としたときの各鉛蓄電池のサイクル数の比率によって評価した。
【0120】
また、鉛蓄電池の電槽の高さの中央における高さ方向に垂直な方向の断面画像から、第1リブの倒れおよび変形の程度を目視にて観察し、下記の基準で評価した。
A:第1リブの倒れも変形も見られない。
B:第1リブの倒れは見られないが、付け根以外の部分で変形した箇所が観察される。
C:第1リブが付け根から折れて倒れた箇所が多数観察される。
【0121】
評価結果を表1および表2に示す。表1および表2において、各セルの上段の数値またはアルファベットが評価結果であり、下段の括弧内の符号が電池番号である。電池番号のE1~E12は実施例である。電池番号のC1~C4は比較例である。電池番号のR1~R4は参考例である。
【0122】
【0123】
電池C2と電池E1~E4との対比、および電池C1と電池R1~R4との対比から、第1リブの頂部の表面の結晶化度Ctが20%以上では、20%未満の場合に比較して、高温過充電寿命性能が格段に向上している。電池C3と電池E5~E8との比較、および電池C4と電池E9~E12との比較においても、上記と類似の結果が得られることが分かる。電池E1~E12における高温過充電寿命性能の向上効果は、電池C1と電池R1~R4と対比結果と比べて顕著である。このような高温過充電寿命性能の評価結果は、第1リブの倒れまたは変形の程度に関係している。
【0124】
【0125】
表2において、第1リブの平均的な高さが0.35mm以下の場合には、結晶化度Ctの値に寄らず、第1リブの倒れおよび変形は見られない。ところが、第1リブの平均的な高さが0.35mmを超える場合、結晶化度Ctが20%未満では、第1リブの倒れが顕著に見られる。それに対し、結晶化度Ctが20%以上では、第1リブの倒れおよび変形が抑制されている。これによって、電池E1~E12では、表1に示すような優れた高温過充電寿命性能が得られたと考えられる。
【0126】
《鉛蓄電池C5およびE13~E18》
鉛蓄電池E1の(1)セパレータの作製において、押出成形されたシートおよび第1リブ部分の冷却温度をそれぞれ調節して、ベース部と第1リブとで冷却速度を変更した。これによって、第1リブの頂部の表面の結晶化度Ctとベース部の第1表面の結晶化度Cbとを表3に示す値となるように調節した。第1リブの平均高さはいずれも0.95mmであった。これら以外は、鉛蓄電池E1の場合と同様にしてセパレータを作製し、鉛蓄電池を組み立てた。得られた鉛蓄電池を用いて、既述の手順で圧着不良率を評価した。評価結果を表3に示す。表3において、C5は比較例であり、E13~E18は実施例である。
【0127】
【0128】
表3の結果から、圧着不良率は、ベース部の結晶化度Cbが大きくなると、増加する傾向がある。第1表面の結晶化度Cbが30%未満のセパレータを用いた電池E13~E17では、結晶化度Cbが30%以上の電池E18と比較して、圧着不良率を大きく低減できる。また、電池E13~E17では、結晶化度Ctが20%以上であることで、電池E9~E12の場合と同様に、高い高温過充電寿命性能を確保することができる。E13~E16とE17~E18との対比から、Ct>Cbの場合には、圧着不良率が低い傾向があると言える。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の上記側面に係る鉛蓄電池用セパレータは、アイドリングストップ(Start-StopまたはIdle Reductionとも言う。)用途、車両の始動用電源などに適している。アイドリングストップ用途としては、アイドリングストップシステム(Idle Reduction System)車用の鉛蓄電池などが挙げられる。車両としては、自動車、バイクなどが挙げられる。鉛蓄電池用セパレータは、電動車両などの産業用蓄電装置などの電源にも好適に利用できる。電動車両としては、フォークリフトなどが挙げられる。これらの用途は単なる例示である。本発明の上記側面に係る鉛蓄電池用セパレータおよび鉛蓄電池の用途は、これらのみに限定されない。
【符号の説明】
【0130】
1:鉛蓄電池
2:負極板
3:正極板
4:セパレータ
5:正極棚部
6:負極棚部
7:正極柱
8:貫通接続体
9:負極柱
11:極板群
12:電槽
13:隔壁
14:セル室
15:蓋
16:負極端子
17:正極端子
18:液口栓