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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080372
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】雰囲気熱処理炉
(51)【国際特許分類】
   C21D 11/00 20060101AFI20240606BHJP
   C21D 1/76 20060101ALI20240606BHJP
   F27D 7/06 20060101ALI20240606BHJP
   F27D 19/00 20060101ALI20240606BHJP
   C23C 8/22 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
C21D11/00 102
C21D1/76 R
F27D7/06 C
F27D19/00 A
F27D19/00 D
C23C8/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193501
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】森 雅史
(72)【発明者】
【氏名】浅井 康一郎
【テーマコード(参考)】
4K028
4K038
4K056
4K063
【Fターム(参考)】
4K028AA01
4K028AB01
4K028AC08
4K038AA03
4K038BA02
4K038CA01
4K038DA02
4K038DA04
4K038DA05
4K038EA02
4K038EA04
4K038FA02
4K056AA09
4K056BB02
4K056CA02
4K056FA03
4K056FA13
4K056FA15
4K063AA05
4K063AA15
4K063BA02
4K063CA01
4K063DA03
4K063DA32
4K063DA33
4K063DA34
(57)【要約】
【課題】炉内圧力を大気圧以上に保持して炉内への外気の侵入を防ぐとともに過剰な圧力調整ガスの使用を抑制することが可能な雰囲気熱処理炉を提供する。
【解決手段】雰囲気熱処理炉10は、炉内圧力を検出する圧力検出器68と、圧力調整ガス導入手段と、圧力調整ガス導入手段を通じて炉内に導入する圧力調整ガス導入量を調節する圧力制御部72を備える炉内圧力制御手段80を有する。炉内圧力制御手段80は、温度検出器28で検出された検出温度と目標温度との差分が所定値以上であるとき、圧力調整ガス導入量を所定量とするシーケンス制御を実行し、検出温度と目標温度との差分が所定値未満であるとき、圧力検出器68で検出された検出圧力をフィードバックして圧力調整ガス導入量を調節するフィードバック制御を実行する。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉体と、
炉内雰囲気のCO濃度とCO2濃度から定まるカーボンポテンシャルの指標値が所定値になるように、炉内に供給する雰囲気調整ガスの流量を調節する炉内雰囲気制御手段と、
炉内温度を検出する温度検出器と、加熱手段と、前記温度検出器から受け取る検出温度が目標温度に近付くように前記加熱手段に対する制御出力を調節する温度制御部を備える炉内温度制御手段と、
炉内圧力を検出する圧力検出器と、圧力調整ガス導入手段と、該圧力調整ガス導入手段を通じて炉内に導入する圧力調整ガス導入量を調節する圧力制御部を備える炉内圧力制御手段と、
を有し、
前記炉内圧力制御手段は、
前記温度検出器で検出された検出温度と前記目標温度との差分が所定値以上であるとき、もしくは前記加熱手段に対する制御出力が所定値以上であるとき、前記圧力調整ガス導入量を所定量とするシーケンス制御を実行し、
前記検出温度と前記目標温度との差分が所定値未満であるとき、もしくは前記加熱手段に対する制御出力が所定値未満であるとき、前記圧力検出器で検出された検出圧力をフィードバックして前記圧力調整ガス導入量を調節するフィードバック制御を実行する、雰囲気熱処理炉。
【請求項2】
複数の前記圧力検出器を備えるとともに、
前記炉内圧力制御手段は、各圧力検出器から受け取った検出値のうち最も小さい検出値を選択して前記炉内の検出圧力として出力するローセレクタを更に備えている、請求項1に記載の雰囲気熱処理炉。
【請求項3】
複数の前記圧力検出器を備えるとともに、
前記炉内圧力制御手段は、選択された2つの圧力検出器から発信されたそれぞれの検出値の差分が所定値以上となる状態が所定時間以上継続した場合に、圧力検出器からの発信に異常があると判定する発信異常判定部を更に備えている、請求項1に記載の雰囲気熱処理炉。
【請求項4】
前記雰囲気調整ガスおよび前記圧力調整ガスを炉内に導入するガス導入管と、
前記雰囲気調整ガスの流量を検出する流量検出器と、
前記ガス導入管における逆火防止に必要な前記圧力調整ガス供給手段の弁開度を制御出力として算出する弁開度算出部と、
前記フィードバック制御によって算出された制御出力と、前記弁開度算出部によって算出された制御出力のうち、大きい方の制御出力を前記圧力調整ガス供給手段に対する制御出力として出力するハイセレクタと、
を更に備えている、請求項1に記載の雰囲気熱処理炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は鋼材等の熱処理に好適に用いられる雰囲気熱処理炉に関する。
【背景技術】
【0002】
吸熱型ガスを用いた雰囲気熱処理炉においては、炉圧が低下すると外気の侵入による雰囲気の悪化や異常燃焼といった問題が生じる。このため従来の雰囲気熱処理炉では、炉圧が大気圧よりも高くなるように、N2等の不活性ガスを圧力調整ガスとして一定量炉内に送気している(例えば下記特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、炉内圧力は加熱・冷却、吸熱型ガス送気量の状況によって変動し、冷却中や吸熱型ガスの非送気中は炉内圧力も低下する。圧力調整ガスの一定量送気で、例えば冷却中の炉内の圧力を保持しようとすれば、加熱中は過剰な圧力調整ガスが炉内に送気されることとなる。そして過剰な送気は、不活性ガス(圧力調整ガス)の使用量増加や吸熱型ガスの希釈を招き、操業コストが増加してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-132997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上のような事情を背景とし、炉内圧力を大気圧以上に保持して炉内への外気の侵入を防ぐとともに過剰な圧力調整ガスの使用を抑制することが可能な雰囲気熱処理炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
而してこの発明の第1の局面の雰囲気熱処理炉は次のように規定される。即ち、
炉体と、
炉内雰囲気のCO濃度とCO2濃度から定まるカーボンポテンシャルの指標値が所定値になるように、炉内に供給する雰囲気調整ガスの流量を調節する炉内雰囲気制御手段と、
炉内温度を検出する温度検出器と、加熱手段と、前記温度検出器から受け取る検出温度が目標温度に近付くように前記加熱手段に対する制御出力を調節する温度制御部を備える炉内温度制御手段と、
炉内圧力を検出する圧力検出器と、圧力調整ガス導入手段と、該圧力調整ガス導入手段を通じて炉内に導入する圧力調整ガス導入量を調節する圧力制御部を備える炉内圧力制御手段と、
を有し、
前記炉内圧力制御手段は、
前記温度検出器で検出された検出温度と前記目標温度との差分が所定値以上であるとき、もしくは前記加熱手段に対する制御出力が所定値以上であるとき、前記圧力調整ガス導入量を所定量とするシーケンス制御を実行し、
前記検出温度と前記目標温度との差分が所定値未満であるとき、もしくは前記加熱手段に対する制御出力が所定値未満であるとき、前記圧力検出器で検出された検出圧力をフィードバックして前記圧力調整ガス導入量を調節するフィードバック制御を実行する。
【0007】
このように規定された第1の局面の雰囲気熱処理炉によれば、検出圧力をフィードバックすることにより圧力調整ガス導入量が調節されるため、一定量を連続して炉内に導入する場合に比べて圧力調整ガスの使用量を抑制することができる。
ここで、圧力検出器により検出される検出値(検出圧力)は、特定の加熱状態下において、ばらつきが大きくなる場合が認められる。この第1の局面の雰囲気熱処理炉では、圧力検出器による検出値を利用しないシーケンス制御と、圧力検出器による検出値を利用するフィードバック制御とを、加熱状態に応じて使い分けることで、炉内圧力の検出値がばらつくことによる問題を回避しつつ、炉内圧力を大気圧以上に保持して炉内への外気の侵入を防ぐとともに過剰な圧力調整ガスの使用を抑制することができる。
【0008】
ここで、前記圧力検出器を複数備えるように構成することができる。
この場合、前記炉内圧力制御手段は、各圧力検出器から受け取った検出値のうち最も小さい検出値を選択して前記炉内の検出圧力として出力するローセレクタを更に備えるようにすることができる(第2の局面)。
【0009】
また前記圧力検出器を複数備えるように構成した場合、前記炉内圧力制御手段は、選択された2つの圧力検出器から発信されたそれぞれの検出値の差分が所定値以上となる状態が所定時間以上継続した場合に、圧力検出器からの発信に異常があると判定する発信異常判定部を更に備えるようにすることができる(第3の局面)。
【0010】
この発明の第4の局面は次のように規定される。即ち、
第1ないし第3のいずれかの局面で規定の雰囲気熱処理炉において、前記雰囲気調整ガスおよび前記圧力調整ガスを炉内に導入するガス導入管と、
前記雰囲気調整ガスの流量を検出する流量検出器と、
前記ガス導入管における逆火防止に必要な前記圧力調整ガス供給手段の弁開度を制御出力として算出する弁開度算出部と、
前記フィードバック制御によって算出された制御出力と、前記弁開度算出部によって算出された制御出力のうち、大きい方の制御出力を前記圧力調整ガス供給手段に対する制御出力として出力するハイセレクタと、
を更に備えている。
【0011】
このように規定された第4の局面の雰囲気熱処理炉によれば、ガス導入管において少なくとも逆火現象回避するための必要流速は維持されるため、フィードバック制御によって圧力調整ガスの導入量が抑制された場合の逆火現象を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態の雰囲気熱処理炉の概略全体構成を示した図である。
図2図1の雰囲気熱処理炉における炉内温度制御に関わる要素を示した概略図である。
図3図1の雰囲気熱処理炉における炉内雰囲気制御および炉内圧力制御に関わる要素を示した概略図である。
図4】圧力制御部の構成を説明する機能ブロック図である。
図5図4のフィードバック制御実行部の構成を説明する機能ブロック図である。
図6】本実施形態の雰囲気熱処理炉を用いた熱処理における検出圧力の変化をヒートパターンなどとともに示した図である。
図7】ガス導入管における逆火を防止するための機能をさらに追加した変形例である。
図8】複数の圧力検出器を設けた変形例である。
図9】複数の圧力検出器を設けた場合の警報出力部についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。図1は、本発明の一実施形態の雰囲気熱処理炉の概略全体構成を示した図である。同図において、10は、線材コイルや棒鋼等の焼鈍処理に使用されるバッチ式の雰囲気熱処理炉で、箱形をなす炉体12の内部に加熱室13が形成されている。炉体12の長手方向の一端側には出入口14が形成され、被熱物としてのワークは、ローラ群15により出入口14を通じて炉内(加熱室13)に装入される。なお、出入口14は、駆動装置16と連結された扉17によって開閉可能とされている。
【0014】
加熱室13には、ラジアントチューブバーナ20および天井ファン24が搬送方向(長手方向)に沿って複数設けられるとともに、各種のガスを導入するためのガス導入管19が接続されている。
【0015】
図2は、雰囲気熱処理炉10における炉内温度制御に関わる要素を示した概略図である。同図で示すように、雰囲気熱処理炉10は、温度検出器26、加熱手段としての複数のラジアントチューブバーナ20および温度制御部43を備えている。これらは本発明における炉内温度制御手段45を構成する。
【0016】
温度検出器26は、炉内の温度を検出し、その温度情報を温度制御部43に送信する。温度検出器26の種類については特に限定されないが、測定可能範囲や応答性等を考慮して公知の熱電対や放射温度計などを用いることができる。
【0017】
ラジアントチューブバーナ20は、パイプ状のチューブ体21とチューブ体21の一端側の中空部に同軸状に配置された燃焼バーナ22を備えている。燃焼バーナ22には燃料供給管30と空気供給管36が接続されており、燃料供給管30の元管31側には流量調節弁33が、また空気供給管36の元管37側には流量調節弁39が設けられている。燃料供給管30および空気供給管36の各分岐管32,38には手動弁34,40が設けられており、個々の燃焼バーナ22に対して均等に燃料ガスおよび燃焼用空気が供給されるように予めその弁開度が調整されている。
【0018】
温度制御部43は、温度検出器26から受け取る検出温度が予め設定された操業時のヒートパターン(目標温度)に近付くようにラジアントチューブバーナ20に対する制御出力を調節する。かかる制御出力に応じた制御信号は流量調節弁33および39に送られ、これら流量調節弁33および39の開度が増減せしめられて燃焼バーナ22の火力が制御される。また、炉内を冷却する際には燃料ガスの供給を停止してチューブ体21内に空気のみを流通させる。
【0019】
また本例において、温度制御部43は温度検出器26で検出された検出温度と目標温度との差分に関する情報を後述する圧力制御部72に向けて出力する。
【0020】
このような温度制御部43は、例えば、データ処理部、記憶部、および通信I/F部等を備えたPLC(Programmable Logic Controller)や温度調節器よって実現することができる。なお後述する雰囲気制御部66や圧力制御部72についても同様に、PLCや各種調節器よって実現することができる。
【0021】
次に、炉内の雰囲気制御について説明する。本例では、雰囲気ガスに吸熱型の変性ガスが使用されている。吸熱型の変性ガスは、一般にRXガスと呼ばれ、CO、H2およびN2を主成分とする。本例では、RXガスを用い、下記式(1)で示す炉内雰囲気ガス中のCO2%とCO%の二乗との比で定まるカーボンポテンシャルの指標値(PF)が目標値となるように制御するPF制御により、炉内を脱炭や浸炭が生じない雰囲気とすることができる。
PF=(CO%)2/CO2% … 式(1)
【0022】
図3で示すように、炉体12に接続されたガス導入管19には、それぞれRXガス供給管47,N2ガス供給管48,49,50および空気供給管51が接続され、また炉体12に接続されたガス送出管53にはチェッキ弁54が接続されている。
【0023】
RXガス供給管47は、RXガス発生装置56で発生させたRXガスをガス導入管19に供給し、ガス導入管19を介して炉内に導入するもので、流量調節弁58と流量検出器59が介装されている。
2ガス供給管49は、N2ガス供給源61のN2ガスをガス導入管19に供給し、ガス導入管19を介して炉内に導入するもので、流量調節弁64が介装されている。
空気供給管51は、空気供給源62の空気をガス導入管19を介して炉内に供給するもので、流量調節弁63が介装されている。
これらRXガス供給管47、N2ガス供給管49および空気供給管51は、カーボンポテンシャルの指標値(PF)を用いたPF制御において各種ガスを炉内に導入するのに用いられる。
【0024】
図3において、65は分析計、66は雰囲気制御部である。
分析計65では、炉内のCO2ガス濃度(CO2%)とCOガス濃度(CO%)が測定され、その測定信号が雰囲気制御部66に送られる。
雰囲気制御部66は、分析計65のほか、RXガス供給管47、N2ガス供給管49、空気供給管51上の各流量調節弁58,64,63に接続されている。雰囲気制御部66は、分析計65からの測定信号を受け取って、前記式(1)に示すカーボンポテンシャルの指標値(PF)を算出し、更に雰囲気熱処理炉10内の炉内温度やワークの熱処理内容に応じて予め選定してあるカーボンポテンシャルの指標値の基準値(図6(B)に示すPF設定パターン)に、上記算出した実測PF値を追従させるように、各流量調節弁の開度に対応する制御出力を算出する。そしてこれら制御出力に相当する制御信号が各流量調節弁58,64,63にそれぞれ入力され、これら流量調節弁を介して炉内に導入されるRXガス、N2ガスおよび空気の流量が調節される。
【0025】
次に炉内圧力制御について説明する。本例では、上記PF制御とは別途に炉内圧力を大気圧以上に保持するための制御が行われる。その際に用いられるのは、図3で示される圧力検出器68、N2ガス供給管48および圧力制御部72である。
【0026】
圧力検出器68は、炉内の圧力を検出し、検出した圧力値(検出値)に対応する信号を発信する。検出値としては、絶対圧であってもよく、大気圧との差圧であってもよい。圧力検出器68としては、例えばマノメーターを用いることができる。
【0027】
2ガス供給管48は、炉圧制御に際してN2ガス供給源61のN2ガスをガス導入管19に供給し、ガス導入管19を介して炉内に導入するもので、流量調節弁69が介装されている。ガス導入管19、N2ガス供給管48および流量調節弁69は、本発明の圧力調整ガス導入手段に相当する。
【0028】
圧力制御部72は、温度制御部43、圧力検出器68およびN2ガス供給管48上の流量調節弁69に接続されており、流量調節弁69に対し弁開度に対応する制御出力を出力する。
圧力制御部72は、図4で示すように、制御切替部74とシーケンス制御実行部75とフィードバック制御実行部76とを備えている。
シーケンス制御実行部75は、予め定めた所定の制御出力を流量調節弁69に対する制御出力として出力する。
一方、フィードバック制御実行部76は、図5で示すように、比例動作部77A、積分動作部77B、微分動作部77Cおよび加算部77DからなるPID制御系が構成されており、目標圧力設定部78にて設定された目標圧力値SP1と圧力検出器68からの検出圧力値PV1との差分に基づいたフィードバック制御を実行して流量調節弁69に対する制御出力MV1を算出する(0%≦MV1≦100%)。
【0029】
制御切替部74は、流量調節弁69に対する制御出力を得るに際し、温度制御部43から受け取った加熱情報に基づいて、シーケンス制御実行部75、フィードバック制御実行部76の何れを実行させるか決定する。
詳しくは、温度制御部43から受け取った加熱情報において、検出温度と目標温度との差分が所定値以上であるとき(即ち、検出圧力のばらつきが大きくなる場合である)、シーケンス制御実行部75において、予め定めた所定の制御出力を出力して圧力調整ガス導入量を所定量とするシーケンス制御が実行される。
一方、検出温度と前記目標温度との差分が所定値未満であるとき(即ち、検出圧力のばらつきが小さい場合である)、フィードバック制御実行部76において、検出圧力をフィードバックして制御出力を算出し、圧力調整ガス導入量を調節するフィードバック制御を実行する。
【0030】
このように本実施形態では、圧力検出器68と、圧力調整ガス導入手段としてのガス導入管19、N2ガス供給管48および流量調節弁69と、圧力制御部72が、本発明の炉内圧力制御手段80を構成する。
【0031】
次に、雰囲気熱処理炉10にて行われる熱処理(1バッチ分)の制御動作について説明する。
被熱物としてのワークが出入口14を通じて炉内(加熱室13)に装入された後、扉17が閉じ一連の熱処理が開始されると、N2ガス供給管49を通じてパージ用のN2ガスが炉内に導入されるとともに、図6(A)に示すヒートパターンに追従するようにバーナ20による雰囲気加熱が開始される。ここで加熱開始当初(図中t1で示す区間)、炉内は低温域にありヒートパターンに基づく目標温度と検出温度との温度差が大きく、バーナ20に対しては温度制御部43から100%に近い制御出力が出力され、急速加熱が実施される。
このような急速加熱が実施されている状態下にあっては、図6(C)で示すように圧力検出器68で検出された検出値が激しくばらついて正確な炉圧が求められない場合がある。このため炉内圧力制御手段80は、この間、シーケンス制御を実行し、予め設定した所定量の圧力調整ガスを炉内に導入することで、炉内圧力を大気圧以上に保持して炉内への外気の侵入を防いでいる。なお、シーケンス制御による圧力調整ガス導入量は、時間当たり一定流量とすることができる。
【0032】
その後、炉内雰囲気温度が上昇し、ヒートパターンに基づく目標温度と検出温度との差が小さくなると(図中t2で示す区間)、カーボンポテンシャルの指標値の設定パターン(図6(B)に示すPF設定パターン)に基づいて、RXガスの導入が開始される。このt2区間に入ると、圧力検出器68で検出された検出値のばらつきが小さく抑えられるため、炉内圧力制御手段80はフィードバック制御を実行し、圧力調整ガス導入量を調節する。このフィードバック制御が実行されている間は、雰囲気ガスが加熱膨張したことによる炉内圧力の上昇分、およびRXガスが炉内に導入されることによる炉内圧力の上昇分に応じて、圧力調整ガス供給手段を通じて導入される圧力調整ガス量(N2ガス量)を減少させることができる。
【0033】
以上のように本実施形態の雰囲気熱処理炉10によれば、圧力検出器68による検出値を利用しないシーケンス制御と、圧力検出器68による検出値を利用するフィードバック制御とを、加熱状態に応じて使い分けることで、炉内圧力の検出値がばらつくことによる問題を回避しつつ、炉内圧力を大気圧以上に保持して炉内への外気の侵入を防ぐとともに過剰な圧力調整ガスの使用を抑制することができる。
【0034】
次に本実施形態における変形例について説明する。
図7は、ガス導入管19における逆火を防止するための機能をさらに追加した変形例である。ガス導入管19を介して空気およびRXガスが同時に炉内に送気される場合、ガス導入管19内を流れるガスの総流量が少なすぎると、火炎がガス導入管19内を逆流する現象(逆火現象)が生じる虞がある。かかる逆火現象を防止するためには、圧力調整ガス導入手段の流量調節弁69の開度を増大させて一定以上の流速を保持することが必要である。
【0035】
この変形例では、図7で示すように、圧力制御部72に、弁開度算出部82とハイセレクタ84が追加されている。
弁開度算出部82は、逆火現象を防止のために必要とされる圧力調整ガス導入手段の流量調節弁69の開度を出力する。弁開度算出部82では、予め求めておいたRXガスの流量と圧力調整ガス導入手段の流量調節弁69の開度との関係を示す折れ線状の関数(図7(B)参照)に基づいて、RXガスの流量情報から逆火現象防止のために必要とされる流量調節弁69の開度を制御出力MV2(0%≦MV2≦100%)として出力する。そして弁開度算出部82で求めた制御出力MV2と炉圧制御によって算出された制御出力MV1がハイセレクタ84に入力されると、ハイセレクタ84はこれら二つの制御出力のうち大きい方の制御出力を、流量調節弁69に対する制御出力として出力する。
【0036】
このようにすれば、ガス導入管19において少なくとも逆火現象を回避するための必要流速は維持されるため、フィードバック制御によって炉圧保持用のN2ガスが抑制された場合の逆火現象を回避することができる。
【0037】
次に図7の例とは異なる他の変形例について説明する。
上記実施形態の雰囲気熱処理炉は、1つの圧力検出器を設けたものであったが、場合によっては複数の圧力検出器を設けることも可能である。この場合、炉内への外気の侵入を防止する観点から、各圧力検出器から受け取った検出値のうち最も小さい検出値を炉内の検出圧力として採用することが望ましい。
例えば、図8(A)で示すように炉圧検出用として2つの圧力検出器68A、68Bを設けた場合において、図8(B)で示すように、圧力制御部72に信号抽出部86とローセレクタ88を設けて、圧力検出器68A、68Bから発信された検出値の信号を、信号抽出部86にて所定のサンプリング間隔(例えば100ms)および所定の移動平均項数(例えば10)で抽出し移動平均を求め、これら移動平均を受け取ったローセレクタ88が、受け取った移動平均のうち最も小さい移動平均を炉内の検出圧力として出力する。
【0038】
また、炉圧検出用としての2つの圧力検出器68A、68Bを用いた場合にあっては、図9で示すように、圧力検出器自体の不具合に起因する発信異常を検出し警報する警報出力部90を更に設けることができる。
図9の警報出力部90では、信号抽出部91と発信異常判定部92を備えており、圧力検出器68A、68Bから発信された検出値の信号を信号抽出部91にて所定のサンプリング間隔(例えば100ms)および所定の移動平均項数(例えば10)で抽出し移動平均を求め、得られた移動平均の信号が発信異常判定部92に送られる。
発信異常判定部92では、二つの移動平均を比較し、その差分が所定値以上となる状態が所定時間以上継続した場合に、何れかの圧力検出器からの発信に異常があると判定し発信異常検出信号を出力する。
【0039】
図9において、95はAND演算部、94はNOT演算部、96はオンディレータイマである。警報出力部90は、圧力検出器68A、68Bからの信号のほか、熱処理中信号、扉閉完了信号、圧力検出器68A、68Bからの断線信号が受信可能とされており、熱処理中信号および扉閉完了信号を受信し、且つ断線信号を受信していない状態で、発信異常判定部92から発信異常検出信号が出力されると、警報出力信号が出力される。なお、扉が閉まって熱処理を開始した後しばらくの間は、図6で示すように検出圧力の変動が大きい為、安定待ちのオンディレータイマ96による設定時間経過後に警報監視が実施される。
このように構成された警報出力部90を用いれば、圧力検出器68A、68Bの何れかに不具合がある可能が高いことを、警報出力信号により知ることができる。
以上、図9の例は2つの圧力検出器を備えた例であったが、圧力検出器が3つ以上の場合であっても、2つずつ圧力検出器を比較することで、圧力検出器の不具合検出を行うことができる。
【0040】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
(1)例えば上記実施形態では、シーケンス制御とフィードバック制御を使い分けるための加熱情報として、検出温度と目標温度との差分を用いているが、これに代えて加熱手段(バーナ)に対する制御出力情報を用いることも可能である。
(2)また上記実施形態は、炉体の長手方向の一端側に出入口が形成された雰囲気熱処理炉であったが、本発明は、炉体の長手方向の一端側に入口を設け、他端側に出口を設けたストレートスルー型の雰囲気熱処理炉にも適用可能である。このような場合にあっては、入口側近傍および出口側近傍にそれぞれ圧力検出器を設けるように構成することも可能である。
【符号の説明】
【0041】
10 雰囲気熱処理炉
12 炉体
19 ガス導入管
20 ラジアントチューブバーナ(加熱手段)
26 温度検出器
43 温度制御部
45 炉内温度制御手段
48 N2ガス供給管(圧力調整ガス導入手段)
59 流量検出器
66 雰囲気制御部
69 流量調節弁(圧力調整ガス導入手段)
68 圧力検出器
72 圧力制御部
80 炉内圧力制御手段
82 弁開度算出部
84 ハイセレクタ
88 ローセレクタ
92 発信異常判定部
MV1,MV2 制御出力
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9