(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080374
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】リッツ線の被覆剥離方法
(51)【国際特許分類】
H02G 1/12 20060101AFI20240606BHJP
【FI】
H02G1/12 087
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193509
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】高橋 瞬
(72)【発明者】
【氏名】河上 哲哉
【テーマコード(参考)】
5G353
【Fターム(参考)】
5G353BA06
5G353CA05
(57)【要約】
【課題】剥離液を用いながらも、簡単な工程で絶縁被覆を剥離することができ、その際の余分な部分までの絶縁被覆の剥離を効果的に抑制する。
【解決手段】実施形態のリッツ線の被覆剥離方法は、絶縁被覆を有するリッツ線に対し、その端部の絶縁被覆を剥離液により溶解させて剥離するための方法であって、前記リッツ線の端部の少なくとも剥離部分以上の範囲に、前記剥離液により除去可能な液状の含浸材を含侵させる含浸工程と、前記リッツ線に含浸させた含浸材を硬化させる硬化工程と、前記含浸材の硬化後に、前記リッツ線の剥離部分の絶縁被覆を前記剥離液により剥離させる剥離工程とを含んでいる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁被覆を有するリッツ線に対し、その端部の絶縁被覆を剥離液により溶解させて剥離するための方法であって、
前記リッツ線の端部の少なくとも剥離部分以上の範囲に、前記剥離液により除去可能な液状の含浸材を含侵させる含浸工程と、
前記リッツ線に含浸させた含浸材を硬化させる硬化工程と、
前記含浸材の硬化後に、前記リッツ線の剥離部分の絶縁被覆を前記剥離液により剥離させる剥離工程とを含むリッツ線の被覆剥離方法。
【請求項2】
前記含浸工程は、前記リッツ線の端部の所定範囲を、容器に貯留された前記含浸材に浸漬することにより行われる請求項1記載のリッツ線の被覆剥離方法。
【請求項3】
前記含浸材は、ワニスである請求項1又は2に記載のリッツ線の被覆剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、絶縁被覆を有するリッツ線に対し、その端部の絶縁被覆を剥離液により溶解させて剥離するためのリッツ線の被覆剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばコイル等に用いられるリッツ線は、細い金属線に絶縁被覆を施した多数本のエナメル線を撚り合わせて構成されている。このリッツ線においては、その端部における絶縁被覆を剥離させて金属線を露出状態とさせ、金属線の露出部分を端子に接続するなどの端部の処理が行われる(例えば、特許文献1参照)。従来では、一般に、リッツ線の絶縁被覆の剥離の方法として、リッツ線の端部を、硫酸等の酸からなる剥離液に浸漬して、先端の絶縁被覆を溶かして金属線を露出させることが行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のように剥離液を用いてリッツ線の絶縁被覆を剥離する処理では、リッツ線が細い金属線を撚って構成されているため、毛細管現象によってリッツ線の内部にまで剥離液が余分に吸い上げられてしまう。そのため、本来、剥離したくない部分まで絶縁被覆が剥離されてしまう問題点があった。そこで、そのような不具合を防止して必要部分のみ絶縁被覆を剥離するために、上記特許文献1では、リッツ線の先端部分に、絶縁被覆のうち剥離する部分を露出させた状態に、チューブを被せ、そのチューブ内に圧縮空気を導入して正圧としながら、剥離液に浸漬する方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の方法では、チューブ被せて剥離工程を行い、剥離工程後にチューブを取外す作業が必要となり、面倒な工程を必要としていた。しかも、チューブ内に圧縮空気を導入するための大掛かりな装置が必要となっていた。
そこで、剥離液を用いながらも、簡単な工程で絶縁被覆を剥離することができ、その際の余分な部分までの絶縁被覆の剥離を効果的に抑制することができるリッツ線の被覆剥離方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係るリッツ線の被覆剥離方法は、絶縁被覆を有するリッツ線に対し、その端部の絶縁被覆を剥離液により溶解させて剥離するための方法であって、前記リッツ線の端部の少なくとも剥離部分以上の範囲に、前記剥離液により除去可能な液状の含浸材を含侵させる含浸工程と、前記リッツ線に含浸させた含浸材を硬化させる硬化工程と、前記含浸材の硬化後に、前記リッツ線の剥離部分の絶縁被覆を前記剥離液により剥離させる剥離工程とを含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態を示すもので、リッツ線の被覆剥離の工程を示す図
【
図4】リッツ線の絶縁被覆を剥離させた様子を示す図
【
図5】含浸工程において、リッツ線を含浸材に浸漬している様子を概略的に示す図
【
図6】剥離工程において、リッツ線を剥離液に浸漬している様子を概略的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図2は、リッツ線1の端部の外観を示しており、このリッツ線1は、合成樹脂例えばエナメル等の絶縁被覆が施された多数本の細い金属線1aを、撚り合わせて構成されている。このリッツ線1においては、その端部の所定の範囲Aについて金属線1aの絶縁被覆を剥離させて導体を露出させ、その露出状態の導体部分に対し、半田処理や、端子を接続する処理等が行われる。リッツ線1のうち絶縁被覆を剥離除去するべき部分、或いは絶縁被覆を剥離除去した部分(
図4参照)を剥離部分2と称する。尚、上記した範囲Aは、リッツ線1の先端から例えば20~30mmの領域とされる。
【0009】
さて、リッツ線1の端部の剥離部分2の絶縁被覆を剥離するための本実施形態に係るリッツ線1の被覆剥離方法について述べる。本実施形態の被覆剥離方法は、基本的には、リッツ線1に対し、その端部の絶縁被覆を剥離液14(
図6参照)により溶解させて剥離するものとなっている。前記剥離液14としては、例えば硫酸等の酸が採用される。剥離液14は、絶縁被覆及び後述する含浸材を溶解除去できるものであれば、酸以外にも、有機溶剤など各種の薬剤を採用することができる。
【0010】
図1は、本実施形態のリッツ線1の被覆剥離の工程を示しており、含浸工程P1、硬化工程P2、剥離工程P3が順に実行される。そのうち含浸工程P1では、前記リッツ線1の端部の少なくとも剥離部分2の範囲A以上の範囲B(
図3等参照)に、前記剥離液14により除去可能な液状の含浸材12が含侵される。この場合、範囲Bは、リッツ線1の先端から例えば40~50mmの領域とされる。
【0011】
この場合、含浸工程P1においては、
図5に示すように、リッツ線1の端部の所定範囲Bを、容器11に貯留された前記含浸材12に浸漬する、いわゆるドブ漬けにより行われる。前記含浸材12としては、例えばワニスが採用される。周知のように、このワニスは、合成樹脂又は天然樹脂を有機溶剤等の揮発性の溶剤に溶かしたものであり、上記した酸等の剥離液14に容易に溶解するものである。また、ワニスは液状で含浸させることができ、その後、常温又は加熱により、比較的短時間で乾燥硬化させることができる。
【0012】
前記硬化工程P2では、含浸工程P1において含浸材12を含浸させたリッツ線1を、容器11から引上げ、含浸材12を硬化させることが行われる。この場合、上記のように、ワニスからなる含浸材12は、例えば常温で、短時間で乾燥硬化される。次の剥離工程P3では、含浸材12の硬化後に、リッツ線1の剥離部分2の絶縁被覆を剥離液14により剥離させる工程が実行される。この剥離工程P3も、
図6に示すように、リッツ線1の端部の所定範囲Aを、容器13に貯留された前記剥離液14に浸漬する、いわゆるドブ漬けにより行われる。
【0013】
次に、上記構成の作用について述べる。本実施形態では、
図1に示すような、リッツ線1の被覆剥離の各工程が以下のようにして行われる。即ち、まず、含浸工程P1では、
図5に示すように、リッツ線1の端部の範囲Bが、容器11内の液状の含浸材12に浸漬される。これにて、リッツ線1の剥離部分2即ち範囲Aを超えた広い範囲Bに対して、リッツ線1の表面は勿論、撚り合わされた金属線1a同士の内部にまで、含浸材12が含浸される。
【0014】
次の硬化工程P2においては、
図3に示すように、リッツ線1に範囲Bに対して含浸させた含浸材12が硬化される。これにて、リッツ線1の端部には、剥離部分2以上の範囲Bで、含浸材12が、リッツ線1の表面を覆い、且つ、撚り合わされた金属線1a間にまで侵入し充填された状態で硬化される。
【0015】
そして、硬化工程P2の後、剥離工程P3において、
図6に示すように、リッツ線1の端部の範囲A即ち剥離部分2が、容器13内の剥離液14に浸漬される。これにて、リッツ線1の剥離部分2に対して、剥離液14により、剥離部分2の絶縁被覆が溶解されて除去されると共に、含浸されていた含浸材12についても溶解されて除去される。ひいては、
図4に示すように、リッツ線1の端部の剥離部分2について、金属線1aの導体が露出された状態とされる。
【0016】
このとき、リッツ線1の剥離部分2即ち範囲Aを超えた広い範囲Bまで含浸材12が存在するので、剥離部分2を超えた範囲の含浸材12は、一部が余分に溶ける虞があっても、毛細管現象による剥離液14のそれ以上の侵入つまり吸い上げが阻害されるようになる。従って、絶縁被覆の剥離を必要な範囲である剥離部分2のみに止めることができる。尚、この後、リッツ線1の端部の洗浄が行われ、露出された導体部分に対する半田処理や、端子を接続する処理等が行われる。
【0017】
このような本実施形態のリッツ線1の被覆剥離方法によれば、次のような効果を得ることができる。即ち、本実施形態では、リッツ線1の端部の少なくとも剥離部分2以上の範囲Bに剥離液14により除去可能な液状の含浸材12を含侵させる含浸工程P1と、リッツ線1に含浸させた含浸材12を硬化させる硬化工程P2と、含浸材12の硬化後にリッツ線1の剥離部分2の絶縁被覆を剥離液14により剥離させる剥離工程P3とを含んでいる。
【0018】
これにて、剥離工程P3においては、リッツ線1の剥離部分2に対して、剥離液14により、絶縁被覆が除去されると共に含浸されていた含浸材12も除去される。このとき、リッツ線1を構成する金属線1a間に、剥離部分2を超えた範囲にまで含浸材12が存在するので、剥離工程P3において、剥離部分2を超えた範囲の含浸材12によって、余分な剥離液14の吸い上げが阻害されるようになる。
【0019】
従って、リッツ線1の絶縁被覆の剥離を剥離部分2の必要な範囲に止めることができる。またこの場合、含浸材12の含浸工程P1及び硬化工程P2を追加するだけで済み、しかも大掛かりな装置を必要としない。この結果、本実施形態のリッツ線1の被覆剥離方法によれば、剥離液14を用いながらも、簡単な工程で絶縁被覆を剥離することができ、その際の余分な部分までの絶縁被覆の剥離を効果的に抑制することができるという優れた効果を奏する。
【0020】
特に本実施形態では、含浸工程P1を、リッツ線1の端部の所定範囲Bを、容器11に貯留された含浸材12に浸漬する、いわゆるドブ漬けにより行うようにした。これにより、塗布或いは滴下により含浸させるような場合と比べて、浸漬により、含浸工程P1を極めて簡単に済ませることができる。
【0021】
更に本実施形態では、前記含浸材12として、ワニスを採用した。これにより、酸等の剥離液14に容易に溶解するものであることに加え、液状で含浸させることができ、その後、常温で容易に乾燥硬化させることができる。また、材料として、比較的安価に済ませることができる。従って、含浸工程P1を簡単且つ安価に行うことができ、硬化工程P2も自然乾燥により簡単で短時間に済ませることができる。
【0022】
尚、上記実施形態では、含浸工程P1において、リッツ線1の端部の範囲Bに含浸材12を含浸させるようにしたが、リッツ線1の全体に含浸材12を含浸させるように構成しても良い。また、含浸材12の種類としても、常温で乾燥硬化するワニスに限らず、加熱により硬化するものや、硬化剤との化学反応によって硬化するもの等、様々な種類のものを採用することができる。含浸工程P1としては、含浸材の塗布や滴下によって含浸を行うものであっても良い。その他、剥離液14の種類や、範囲A、範囲Bの具体的数値などについても、一例を示したものに過ぎず、適宜変更できることは勿論である。
【0023】
以上のように、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0024】
図面中、1はリッツ線、1aは金属線、2は剥離部分、11は容器、12は含浸材、13は容器、14は剥離液を示す。