(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080378
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】ポリマーおよびその用途
(51)【国際特許分類】
C08G 18/42 20060101AFI20240606BHJP
C08G 63/06 20060101ALI20240606BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20240606BHJP
C08L 101/16 20060101ALN20240606BHJP
【FI】
C08G18/42 066
C08G63/06
C08J5/00 CFD
C08J5/00 CFF
C08L101/16 ZBP
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193519
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 惇生
(72)【発明者】
【氏名】宇山 浩
(72)【発明者】
【氏名】徐 于懿
【テーマコード(参考)】
4F071
4J029
4J034
4J200
【Fターム(参考)】
4F071AA43
4F071AA53
4F071AA75
4F071AA86
4F071AF14
4F071AF15
4F071AF20
4F071AF21Y
4F071AF30Y
4F071AH05
4F071BA09
4F071BB03
4F071BB05
4F071BB06
4F071BC01
4F071BC04
4F071BC07
4J029AA02
4J029AB01
4J029AC03
4J029AD01
4J029AD06
4J029AD07
4J029AE02
4J029AE03
4J029AE06
4J029AE17
4J029EG09
4J029EH03
4J029JB171
4J029JE162
4J029JF371
4J029KB16
4J029KE06
4J029KH01
4J034BA03
4J034DA01
4J034DB04
4J034DC50
4J034DF01
4J034DF12
4J034DF24
4J034DQ28
4J034HA07
4J034HC03
4J034JA01
4J034KA01
4J034KB01
4J034KC17
4J034KD02
4J034KE02
4J034QA01
4J034QA02
4J034QA03
4J034QA05
4J034QB02
4J034QB03
4J034QB08
4J034QB14
4J034QC08
4J034QD06
4J034RA02
4J034RA06
4J034RA09
4J200AA02
4J200AA06
4J200BA14
4J200BA18
4J200BA35
4J200CA01
4J200DA17
4J200DA18
4J200DA22
4J200EA07
4J200EA08
4J200EA11
(57)【要約】
【課題】本発明は、耐熱性に優れながら、生分解性および機械的特性に優れたポリマーおよびその用途を提供する。
【解決手段】本発明のポリマーは、トリブロック構造を複数有する。該トリブロック構造においては、ポリカプロラクトンユニットの両末端にポリ乳酸ユニットがエステル結合によって結合している。複数のトリブロック構造同士は、ウレタン結合を含む単位によって結合している。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーであって、
前記ポリマーは、ポリカプロラクトンユニットの両末端にポリ乳酸ユニットがエステル結合によって結合したトリブロック構造を複数有し、
複数のトリブロック構造同士が、ウレタン結合を含む単位によって結合している、ポリマー。
【請求項2】
ガラス転移温度が、30℃以下である、請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
前記ポリマーを下記条件でフィルムに成形したとき、前記フィルムの破断伸びが200%以上となる、請求項1に記載のポリマー。
フィルム成形条件:20MPa、10分間、180℃の条件で、0.1mm厚の鋳型を用いて熱プレス成形する。
【請求項4】
前記ポリマーを下記条件でフィルムに成形したとき、前記フィルムの全光線透過率が85%以上となり、かつ、前記フィルムのヘーズ(Haze)が50%以下となる、請求項1に記載のポリマー。
フィルム成形条件:20MPa、10分間、180℃の条件で、0.1mm厚の鋳型を用いて熱プレス成形する。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のポリマーを含む、成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーおよびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
生分解性ポリマーとして、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、これらの共重合体が提案されている(例えば、特許文献1~6)。しかし、一般にポリ乳酸は耐熱性に優れる一方、ガラス転移温度が高いため、生分解性が不充分である。そのため、海水や土壌のような自然環境では分解が起こりにくいという課題がある。
また、一般にポリカプロラクトンは耐熱性が不充分である。そのため、ポリカプロラクトンの用途や汎用性は制限されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-3262号公報
【特許文献2】特開2006-183042号公報
【特許文献3】特表2019-505624号公報
【特許文献4】特開平8-27256号公報
【特許文献5】特開2022-77948号公報
【特許文献6】特開2016-210894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者の検討によれば、特許文献1~6でそれぞれ提案されたポリマーには以下の課題がある。特許文献1~3のポリマーにおいては、生分解性が不充分である。特許文献3のポリマーにおいては、破断伸びが低く、機械的特性も不充分である。
特許文献4のポリマーにおいては、破断伸びが低く、機械的特性が不充分である。特許文献5、6のポリマーにおいては、弾性率が低く、機械的特性が不充分である。
【0005】
本発明は、耐熱性に優れながら、生分解性および機械的特性に優れたポリマーおよびその用途を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]ポリマーであって;前記ポリマーは、ポリカプロラクトンユニットの両末端にポリ乳酸ユニットがエステル結合によって結合したトリブロック構造を複数有し;複数のトリブロック構造同士が、ウレタン結合を含む単位によって結合している、ポリマー。
[2]ガラス転移温度が、30℃以下である、[1]に記載のポリマー。
[3]前記ポリマーを下記条件でフィルムに成形したとき、前記フィルムの破断伸びが200%以上となる、[1]または[2]に記載のポリマー。
フィルム成形条件:20MPa、10分間、180℃の条件で、0.1mm厚の鋳型を用いて熱プレス成形する。
[4]前記ポリマーを下記条件でフィルムに成形したとき、前記フィルムの全光線透過率が85%以上となり、かつ、前記フィルムのヘーズ(Haze)が50%以下となる、[1]~[3]のいずれかに記載のポリマー。
フィルム成形条件:20MPa、10分間、180℃の条件で、0.1mm厚の鋳型を用いて熱プレス成形する。
[5][1]~[4]のいずれかに記載のポリマーを含む、成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐熱性に優れながら、生分解性および機械的特性に優れたポリマーおよびその用途が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明のポリマーの化学構造の一例を模式的に示す。
【
図2】
図2は、従来のポリマーの化学構造の一例を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
本明細書に開示の数値範囲の下限値および上限値は任意に組み合わせて新たな数値範囲とすることができる。
【0010】
<ポリマー>
本発明のポリマーは、ポリカプロラクトンユニットの両末端にポリ乳酸ユニットがエステル結合によって結合したトリブロック構造を複数有する。そして、本発明のポリマーにおいては、複数のトリブロック構造同士が、ウレタン結合を含む単位によって結合している。
【0011】
図1は、本発明のポリマーの化学構造の一例を模式的に示す。
図1に示すように、ポリマー1においては、ポリカプロラクトンユニット2の両末端にポリ乳酸ユニット3が結合したトリブロック構造4が複数形成されている。これら複数のトリブロック構造4が、ウレタン結合を含む単位5によって繰り返し結合されている。
対して、
図2に示す従来のポリマー100においては、ポリカプロラクトンユニット2、ポリ乳酸ユニット3がウレタン結合を含む単位5によって結合している。また、ポリカプロラクトンユニット2同士、ポリ乳酸ユニット3同士がウレタン結合を含む単位5によって結合している。
【0012】
ポリマー1に示す例のように本発明のポリマーは、トリブロック構造同士がウレタン結合を含む単位によって結合している。かかる化学構造を備えた本発明のポリマーによれば、従来のポリマーでは発揮し得ない特性が発揮される。具体的には、優れた耐熱性、生分解性および機械的特性を同時に実現できる。以下、本発明のポリマーの一例について詳細に説明する。ただし、以下の記載は代表例の開示であり、本発明はかかる開示に限定されるものではない。
【0013】
(トリブロック構造)
トリブロック構造においては、ポリカプロラクトンユニットの両末端にポリ乳酸ユニットが結合している。ポリカプロラクトンユニットとポリ乳酸ユニットはエステル結合によって結合している。
【0014】
ポリカプロラクトンユニットは、典型的にはε-カプロラクトンを開環重合して得られるポリマーユニットである。典型例において、ポリカプロラクトンユニットは、ε-カプロラクトンに基づく単位を有する。ただし、一例においてポリカプロラクトンユニットは、ε-カプロラクトンに基づく単位に代えて、またはε-カプロラクトンに基づく単位に加えて、例えば、ε―カプロラクトンの任意の炭素原子に、アルキル鎖のような任意の側鎖が結合したモノマーに基づく単位を有し得る。
【0015】
ポリカプロラクトンユニットの数平均分子量は300~2000が好ましく、400~10000がより好ましく、500~5000がさらに好ましい。
ポリカプロラクトンユニットの数平均分子量が前記数値範囲内の下限値以上であると、生分解性が向上しやすい。ポリカプロラクトンユニットの数平均分子量が前記数値範囲内の上限値以下であると、耐熱性、機械的特性が向上しやすい。また、ポリマーを合成しやすい。
ポリカプロラクトンユニットの数平均分子量は、トリブロック構造の合成段階において調整され得る。
【0016】
ポリ乳酸ユニットは、典型的にはラクチドを重合して得られるポリマーユニットである。典型例において、ポリ乳酸ユニットは、ラクチドに基づく単位を有する。ただし、ポリ乳酸ユニットは、ラクチドに基づく単位に代えて、またはラクチドに基づく単位に加えて、例えば、ラクチドの任意の炭素原子にアルキル鎖のような任意の側鎖が結合したモノマーに基づく単位を有し得る。
一例において、各モノマーに基づく単位同士がエステル結合によって結合することで、ポリ乳酸ユニットが形成されている。
【0017】
ポリ乳酸ユニットは、ポリカプロラクトンユニットの両末端に結合している。ポリカプロラクトンユニットの両末端の各酸素原子を含む各エステル結合によって、ポリ乳酸ユニットがポリカプロラクトンユニットの両末端に結合している。ポリカプロラクトンユニットの両末端に結合した2つのポリ乳酸ユニットの繰り返し数、モノマー単位組成は、互いに異なっていてもよく、一致していてもよい。
【0018】
ポリ乳酸ユニットの数平均分子量は300~30000が好ましく、400~15000がより好ましく、500~10000がさらに好ましい。
ポリ乳酸ユニットの数平均分子量が前記数値範囲内の下限値以上であると、耐熱性が向上しやすい。また、ポリマーを合成しやすい。ポリ乳酸ユニットの数平均分子量が前記数値範囲内の上限値以下であると、生分解性が向上しやすい。
ポリ乳酸ユニットの数平均分子量は、トリブロック構造の合成段階において調整され得る。
【0019】
(ウレタン結合を含む単位)
本発明のポリマーにおいては、複数のトリブロック構造同士がウレタン結合(-NH-CO-)を含む単位によって結合している。本発明のポリマーについて、1H NMR測定を行うと、ウレタン結合の「-NH-」に起因するピークが3.1ppm付近に検出され得る。
本発明のポリマーは、熱可塑性ポリウレタンポリマーであるとも言える。また、本発明のポリマーは、トリブロック構造を有するポリオールを一つの構成単位とし、複数の該構成単位同士がウレタン結合を含む単位を介して結合した共重合体であるとも言える。
【0020】
ウレタン結合を含む単位は、典型的には脂肪族ジイソシアネートに基づく単位である。脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、3-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネートが挙げられる。
ただし、ウレタン結合を含む単位を付与し得る化合物は、これらの脂肪族ジイソシアネートの例示に限定されない。
【0021】
(化学構造)
本発明のポリマーの化学構造式の一例を以下に示す。
【0022】
【0023】
上記化学構造式中、R1は特に限定されるものではないが、脂肪族ジオールから由来する炭素数2~12の脂肪族エーテルであること、炭素数1~12の脂肪族炭化水素であることが好ましい。
脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3‐プロパンジオール、1,2‐プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタメチレングリコール、へキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、分子量1000以下のポリエチレングリコールが挙げられる。
脂肪族ジオールは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
上記化学構造式中、R2は脂肪族ジイソシアネートに由来する構造であれば特に限定されるものではないが、脂肪族炭化水素であることが好ましい。
【0025】
上記化学構造式中、mは1以上である。mは1~150が好ましく、1~70がより好ましく、1~35がさらに好ましい。mが前記数値範囲内の下限値以上であると、生分解性が向上しやすい。mが前記数値範囲内の上限値以下であると、耐熱性、機械的特性が向上しやすい。
【0026】
上記化学構造式中、nは1以上である。nは4~500が好ましく、5~300がより好ましく、6~150がさらに好ましい。nが前記数値範囲内の下限値以上であると、耐熱性が向上しやすい。nが前記数値範囲内の上限値以下であると、生分解性が向上しやすい。
【0027】
上記化学構造式中、lはトリブロック構造とそれに付属したイソシアネート構造の繰り返し数である。lは1~300が好ましく、2~100がさらに好ましい。lが前記数値範囲内の下限値以上であると、機械的特性が向上しやすい。
【0028】
(性状)
ポリマーの数平均分子量(Mn)は10000~300000が好ましく、20000~200000がより好ましく、30000~100000がさらに好ましい。
ポリマーのMnが前記数値範囲内の下限値以上であると、靭性等の機械的特性が向上しやすい。
【0029】
ポリマーの質量平均分子量(Mw)は10000~300000が好ましく、20000~200000がより好ましく、30000~150000がさらに好ましい。
ポリマーのMwが前記数値範囲内の下限値以上であると、靭性等の機械的特性が向上しやすい。
【0030】
ポリマーのガラス転移温度(Tg)は30℃以下が好ましく、5~25℃がより好ましく、5~20℃がさらに好ましい。ポリマーのTgの下限値は特に限定されるものではなく、0℃以下でも問題はない。ポリマーのTgが前記数値範囲内であると、フィルムの保管時の接着防止や成形性の面で好適である。ポリマーのTgが前記上限値以下であると、ポリマーの生分解性がさらに優れる。
ポリマーのTgは、後述の実施例に記載の方法によって求められる値である。
【0031】
ポリマーの融点(Tm)は130℃以上が好ましく、140℃以上がより好ましく、145℃以上がさらに好ましい。ポリマーのTmが前記数値範囲内の下限値以上であると、ポリマーの耐熱性がさらに優れる。ポリマーのTmの上限値は特に限定されない。
ポリマーのTmは、後述の実施例に記載の方法によって求められる値である。
【0032】
ポリマーの結晶化温度(Tc)は特に限定されない。Tcは、ポリマーの成形性を考慮して適宜に設定され得る。ポリマーのTcは、後述の実施例に記載の方法によって求められる値である。
【0033】
ポリマーの耐熱性はポリカプロラクトンユニットの使用量を抑えることで、維持しやすくなる。例えば、トリブロック合成段階において、ポリ乳酸ユニットとポリカプロラクトンユニットの使用量比または分子量比を調整することで所望の耐熱性が実現され得る。
PLA比(%)としては30~100が好ましく、40~95がより好ましく、50~90がさらに好ましい。
該PLA比が前記数値範囲内の下限値以上であると、融点が向上しやすいため、耐熱性を維持しやすい。該PLA比が前記数値範囲内の上限値以下であると、Tgが低下しやすい。そのため、ポリマーの生分解性の面で好適である。ただし、該PLA比の上限値は、耐熱性点では何ら限定されない。
PLA比(%)は合成段階に仕込み量で調整され得る。またPLA比は、後述の実施例に記載のオリゴマーをNMRやGPCで分析することで算出することもできる。
PLA比(%)=(仕込みラクチド質量(仕込み値))/(仕込み総質量)×100
=(オリゴマー中のPLA分子量(NMR分析値))/(オリゴマー全体分子量(GPC分析値))×100
【0034】
ポリマーを20MPa、10分間、180℃の条件で、0.1mm厚の鋳型を用いて熱プレス成形してフィルムを成形したとき、該フィルムの破断伸びは200%以上が好ましく、300%以上がより好ましく、320%以上がさらに好ましい。該フィルムの破断伸びが前記下限値以上であると、靭性等の機械的特性がさらに優れる。該フィルムの破断伸びの上限値は特に限定されるものではない。
破断伸びは、後述の実施例に記載の方法によって求められる値である。
【0035】
ポリマーを20MPa、10分間、180℃の条件で、0.1mm厚の鋳型を用いて熱プレス成形してフィルムを成形したとき、該フィルムの引張弾性率は200Mpa以上が好ましく、500Mpa以上がより好ましく、800Mpa以上がさらに好ましい。該フィルムの引張弾性率が前記下限値以上であると、機械的特性がさらに優れる。該フィルムの引張弾性率の上限値は特に限定されるものではない。
引張弾性率は、後述の実施例に記載の方法によって求められる値である。
【0036】
ポリマーを20MPa、10分間、180℃の条件で、0.1mm厚の鋳型を用いて熱プレス成形してフィルムを成形したとき、該フィルムの最大応力は10Mpa以上が好ましく、20Mpa以上がより好ましく、28Mpa以上がさらに好ましい。該フィルムの最大応力が前記下限値以上であると、機械的特性がさらに優れる。該フィルムの最大応力の上限値は特に限定されるものではない。
最大応力は、後述の実施例に記載の方法によって求められる値である。
【0037】
ポリマーを20MPa、10分間、180℃の条件で、0.1mm厚の鋳型を用いて熱プレス成形してフィルムを成形したとき、該フィルムの靭性は20MJ/m3以上が好ましく、40MJ/m3以上がより好ましく、60MJ/m3以上がさらに好ましい。該フィルムの靭性が前記下限値以上であると、機械的特性がさらに優れる。該フィルムの靭性の上限値は特に限定されるものではない。
靭性は、後述の実施例に記載の方法によって求められる値である。
【0038】
ポリマーを20MPa、10分間、180℃の条件で、0.1mm厚の鋳型を用いて熱プレス成形してフィルムを成形したとき、該フィルムの全光線透過率が85%以上であり、かつ、ヘーズ(Haze)が50%以下であることが好ましい。
該フィルムの全光線透過率は88%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。該フィルムの全光線透過率が前記下限値以上であると、ポリマーが透明性、視認性に優れる。該フィルムの全光線透過率の上限値は特に限定されるものではない。
該フィルムのヘーズは45%以下がより好ましく、40%以下がさらに好ましい。該フィルムのヘーズが前記上限値以下であると、ポリマーが透明性、視認性に優れる。該フィルムのヘーズの下限値は特に限定されるものではない。
全光線透過率、ヘーズは、後述の実施例に記載の方法によってそれぞれ求められる値である。
【0039】
ポリマーを20MPa、10分間、180℃の条件で、0.1mm厚の鋳型を用いて熱プレス成形してフィルムを成形したとき、該フィルムを0.1MPa、70℃、12時間の条件で処理したときの結晶化度は、50%以下が好ましく、48%以下がより好ましく、46%以下がさらに好ましい。該結晶化度の下限値は特に限定されるものではないが、例えば、1%程度であると考えられる。
結晶化度は、後述の実施例に記載の通り、X線解析法によって求められる値である。
【0040】
(ポリマーの生産方法)
本発明のポリマーの生産方法は、所定の化学構造が得られるのであれば、特に限定されない。例えば、ポリカプロラクトンユニットの両末端にポリ乳酸ユニットを付加してトリブロック構造を合成したのち、ウレタン結合を含む単位によって該トリブロック構造同士を結合するためにウレタン化反応を実施することで、本発明のポリマーを合成できる。この場合、トリブロック構造を合成した後、該トリブロック構造を精製し、回収した後にウレタン化反応を実施してもよい。
【0041】
ポリカプロラクトンユニットは、例えば、ε-カプロラクトンを含むモノマー成分(1)を重合して合成され得る。モノマー成分(1)は、典型的にはε-カプロラクトンを含む。ただし、一例においてモノマー成分(1)はε-カプロラクトンに代えて、またはε-カプロラクトンに加えて、例えば、ε―カプロラクトンの任意の炭素原子に、アルキル鎖のような任意の側鎖が結合したモノマーを含み得る。また、ポリカプロラクトンユニットとして、市販のポリカプロラクトンや市販のポリカプロラクトンジオールを用いてもよい。
ポリカプロラクトンユニットの分子量は、モノマー成分(1)の組成、重合反応、重合条件によって制御してもよい。分子量が所望の範囲内にある市販品を購入してもよい。
【0042】
トリブロック構造の合成においては、例えば、ラクチドを含むモノマー成分(2)をポリカプロラクトンユニットの両末端に付加重合させることができる。一例において、ポリカプロラクトンユニットの両末端の水酸基(-OH)にモノマーが付加反応することで、ポリ乳酸ユニットがそれぞれ伸長する結果、トリブロック構造が合成され得る。
【0043】
モノマー成分(2)は、典型的にはラクチドを含む。ただし、一例においてモノマー成分(2)はラクチドに代えて、またはラクチドに加えて、例えば、ラクチドの任意の炭素原子にアルキル鎖のような任意の側鎖が結合したモノマーを含み得る。ポリ乳酸ユニットの分子量は、モノマー成分(2)の組成、重合反応、重合条件によって制御され得る。
【0044】
ウレタン化反応の典型例においては、トリブロック構造と脂肪族ジイソシアネートを反応させ、トリブロック構造同士を、ウレタン結合を含む単位によって結合させる。ウレタン化反応によって、本発明の化学構造を有するポリマーが生成する。
【0045】
(作用機序)
本発明のポリマーは、複数のトリブロック構造のそれぞれにおいてポリ乳酸ユニットを有するため、耐熱性に優れる。加えて、各トリブロック構造においては、ポリカプロラクトンユニットの両末端にポリ乳酸ユニットがエステル結合によって結合している。そのため、優れた耐熱性を維持しながらもポリマーのガラス転移点を下げることができる。
ガラス転移温度が低下すると、自然環境下でのポリマーの運動性が充分に高くなる。また、トリブロック構造においては、ポリカプロラクトンユニットとポリ乳酸ユニットがエステル結合によって結合しているため、生分解性が良い。結果、ポリマーの加水分解が誘導されやすく、ポリマー鎖が切断されやすいため、生分解性に優れたポリマーが得られる。
そして、本発明のポリマーにおいては、該トリブロック構造同士がウレタン結合を含む単位によって結合している。そのため、ポリマーに粘り強さ、すなわち靭性が付与される。結果、破断伸び、弾性率が高くなり、機械的特性が改善される。よって、本発明のポリマーは汎用性に優れ、種々の用途に適用できる。
【0046】
<用途>
本発明のポリマーの用途は特に限定されない。例えば、フィルム、シート、射出成形品、繊維、容器、医療品、玩具のような種々の物品の材料として利用され得る。繊維は例えば、不織布、織布のような織物製品に適用され得る。フィルム、容器は、食品分野、衣料品分野、医療品分野、医薬品分野のような種々の分野で利用され得る。
医療品分野、医薬品分野の用途としては、縫合糸、人工骨、人工皮膚、創傷被覆材への適用、マイクロカプセル等のDDS分野への適用、組織、臓器の再生用足場材料等への適用があり得る。その他にも、トナー、熱転写用インキにおけるバインダーとしての利用もあり得るが、本発明のポリマーの用途はこれらに限定されるものではない。
【0047】
本発明のポリマーは1種を単独で用いてもよく、添加剤等と併用して組成物の態様で使用してもよい。添加剤は特に限定されず、用途や成形法に応じて適宜選択され得る。
本発明のポリマーは種々の成形法に適用され得る。成形法は特に限定されない。例えば、熱プレス成形法、射出成形、溶剤キャスト法、押出成形法のように種々の成形法が適用され得る。成形体の具体的形態としては、例えば、シート、フィルム、容器、シャーレ、皿、筐体、繊維、不織布が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【実施例0048】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載に限定されない。
【0049】
<実施例1>
200mLの三口フラスコに、ラクチド20g(モル数:0.139mol、Mn:144.13g/mol)、ポリカプロラクトンジオール5g(モル数:0.0025mol、Mn:2000g/mol、シグマアルドリッチ社製品)を入れ、減圧乾燥し、脱水した。2-エチルヘキサン酸スズ(II)20mg(モル数:0.00005mol、Mn:405.12g/mol)を滴下後、窒素置換を繰り返し行い、フラスコ内を窒素雰囲気下にした。その後、窒素雰囲気下、180℃で3時間攪拌し、トリブロック構造を有するオリゴマーを合成した。
分析のため一部試料を分取後、溶融状態のオリゴマーに対し、NCO/OH=1/1(mmol)になるように、ヘキサメチレンジイソシアネート412mg(モル数:2.45mmol、Mn:168.2g/mol)を滴下し、窒素雰囲気下、180℃で30分間反応させた。その後、反応物をクロロホルムに溶解させ、メタノールで再沈殿し、ポリマーを回収した。回収したポリマーを180℃で溶融し、10分間、20MPaでプレスし、0.1mm厚のフィルムを得た。
【0050】
<実施例2>
実施例1において、ヘキサメチレンジイソシアネートを滴下する際に、NCO/OH=2/1(mmol)になるようにヘキサメチレンジイソシアネートの使用量を変更した以外は実施例1と同手法によりポリマーを合成し、0.1mm厚のフィルムを得た。
【0051】
<実施例3>
実施例2と同手法によりポリマーを合成した。回収したポリマーをクロロホルムに溶解させ、溶剤キャスト法により0.1mm厚のフィルムを得た。
【0052】
<実施例4>
実施例1においてトリブロック構造を有するオリゴマーを合成した後、トリブロック構造同士をウレタン結合する前に、反応物を再沈殿し、不純物を除く工程を加えた。具体的には以下の操作を行った。
200mLの三口フラスコに、ラクチド20g(モル数:0.139mol、Mn:144.13g/mol)、ポリカプロラクトンジオール5g(モル数:0.0025mol、Mn:2000g/mol、シグマアルドリッチ社製品)を入れ、減圧乾燥し、脱水した。2-エチルヘキサン酸スズ(II)20mg(モル数:0.00005mol、Mn:405.12g/mol)を滴下後、窒素置換を繰り返し行い、フラスコ内を窒素雰囲気化にした。窒素雰囲気下、180℃で3時間攪拌し、トリブロック構造を合成した。その後、反応物をクロロホルムに溶解させた後、メタノールで再沈殿し、トリブロック構造を有するオリゴマーを回収した。
回収したオリゴマー6gを別のフラスコ内にいれ、180℃で溶融した。溶融状態のトリブロック構造に対し、NCO/OH=1/1(mmol)になるように、ヘキサメチレンジイソシアネート68mg(モル数:0.40mmol、Mn:168.2g/mol)を滴下し、窒素雰囲気下、180℃で30分間反応させた。その後、反応物をクロロホルムに溶解させ、メタノールで再沈殿し、ポリマーを回収した。回収したポリマーを180℃で溶融し、10分間、20MPaでプレスし、0.1mm厚のフィルムを得た。
【0053】
<比較例1>
200mLの三口フラスコに、ラクチド20g(モル数:0.139mol、Mn:144.13g/mol)、ポリカプロラクトンジオール0.106g(モル数:0.002mol、Mn:530g/mol、シグマアルドリッチ社製品)を入れ、減圧乾燥し、脱水した。2-エチルヘキサン酸スズ(II)1.62mg(モル数:0.00004mol、Mn:405.12g/mol)を滴下後、窒素置換を繰り返し行い、フラスコ内を窒素雰囲気下にした。その後、窒素雰囲気下、180℃で3時間攪拌し、トリブロック構造を有するポリマーを合成した。その後、反応物をクロロホルムに溶解させた後、メタノールで再沈殿し、ポリマーを回収した。回収したポリマーを180℃で溶融し、10分間、20MPaでプレスし、0.1mm厚のフィルムを得た。このように比較例1ではウレタン化反応を行わず、トリブロック構造におけるエステル結合で高分子量化したポリマーを合成した。
【0054】
<比較例2>
200mLの三口フラスコに、ラクチド40g(モル数:0.278mol、Mn:144.13g/mol)、ポリカプロラクトンジオール0.8g(モル数:0.004mol、Mn:2000g/mol、シグマアルドリッチ社製品)を入れ、減圧乾燥し、脱水した。2-エチルヘキサン酸スズ(II)3.24mg(モル数:0.00008mol、Mn:405.12g/mol)を滴下後、窒素置換を繰り返し行い、フラスコ内を窒素雰囲気下にした。その後、窒素雰囲気下、180℃で3時間攪拌し、トリブロック構造を有するポリマーを合成した。その後、反応物をクロロホルムに溶解させた後、メタノールで再沈殿し、ポリマーを回収した。回収したポリマーを180℃で溶融し、10分間、20MPaでプレスし、0.1mm厚のフィルムを得た。このように比較例2でもウレタン化反応を行わず、トリブロック構造におけるエステル結合で高分子量化したポリマーを合成した。
【0055】
<比較例3>
200mLの三口フラスコに、ラクチド20g(モル数:0.139mol、Mn:144.13g/mol)、ポリカプロラクトンジオール5g(モル数:0.025mol、Mn:2000g/mol、シグマアルドリッチ社製品)を入れ、減圧乾燥し、脱水した。2-エチルヘキサン酸スズ(II)20mg(モル数:0.00005mol、Mn:405.12g/mol)を滴下後、窒素置換を繰り返し行い、フラスコ内を窒素雰囲気下にした。その後、窒素雰囲気下、180℃で3時間攪拌し、トリブロック構造を有するポリマーを合成した。その後、反応物をクロロホルムに溶解させた後、メタノールで再沈殿し、ポリマーを回収した。回収したポリマーを180℃で溶融し、10分間、20MPaでプレスし、0.1mm厚のフィルムを得た。このように比較例3ではウレタン化反応を行わず、トリブロック構造におけるエステル結合で高分子量化したポリマーを合成した。また、分子量が比較例1、2と比較して小さくなるようにポリマーを合成した。
【0056】
<比較例4>
200mLの三口フラスコに、ラクチド20g(モル数:0.139mol、Mn:144.13g/mol)、1,4ブタンジオール0.225g(モル数:0.0025mol、Mn:90.121g/mol)を入れ、減圧乾燥し、脱水した。2-エチルヘキサン酸スズ(II)20mg(モル数:0.00005mol、Mn:405.12g/mol)を滴下後、窒素置換を繰り返し行い、フラスコ内を窒素雰囲気下にした。その後、窒素雰囲気下、180℃で3時間攪拌し、ポリ乳酸ジオールを合成した。その後、反応物をクロロホルムに溶解させた後、メタノールで再沈殿し、ポリ乳酸ジオールを回収した。
回収したポリ乳酸ジオール5g(モル数0.41mmol)とポリカプロラクトンジオール0.82g(モル数:0.41mmol、Mn:2000g/mol、シグマアルドリッチ社製品)を別のフラスコ内にいれ、180℃で溶融した。溶融状態のオリゴマーに対し、NCO/OH=1/1(mmol)になるように、ヘキサメチレンジイソシアネート137.2mg(モル数:0.82mmol、Mn:168.2g/mol)を滴下し、窒素雰囲気下、180℃で30分間反応させた。その後、反応物をクロロホルムに溶解させ、メタノールで再沈殿し、ポリマーを回収した。回収したポリマーを180℃で溶融し、10分間、20MPaでプレスし、0.1mm厚のフィルムを得た。このように比較例4では、トリブロック構造を有するオリゴマー合成せず、先にポリ乳酸ジオールを合成した後、ポリ乳酸ジオールとポリカプロラクトンジオールをウレタン化反応させた。比較例4で得られたポリマーは、ポリ乳酸ジオールとポリカプロラクトンジオールのウレタン結合による共重合体である。比較例4はトリブロック構造を介さず共重合する手法に関する。比較例4は、特開2006-183042号公報を参考に実施した。
【0057】
<比較例5>
200mLの三口フラスコ内で、市販のポリ乳酸5g(モル数:1mmol、Mn:5000g/mol、シグマアルドリッチ社製品)とポリカプロラクトンジオール1g(モル数:0.5mmol、Mn:2000g/mol、シグマアルドリッチ社製品)を180℃で溶融した。溶融状態のオリゴマーに対し、NCO/OH=1/1(mmol)になるように、ヘキサメチレンジイソシアネート168.2mg(モル数:1mmol、Mn:168.2g/mol)を滴下し、窒素雰囲気下、180℃で30分間反応させた。その後、反応物をクロロホルムに溶解させ、メタノールで再沈殿し、ポリマーを回収した。回収したポリマーを180℃で溶融し、10分間、20MPaでプレスし、0.1mm厚のフィルムを得た。このように比較例5では市販のポリ乳酸とポリカプロラクトンジオールをウレタン化反応させた。比較例5で得られたポリマーは、市販のポリ乳酸とポリカプロラクトンジオールのウレタン結合による共重合体である。
【0058】
<比較例6>
200mLの三口フラスコ内で、市販のポリ乳酸4.9g(モル数:0.49mmol、Mn:10000g/mol、シグマアルドリッチ社製品)とポリカプロラクトンジオール0.49g(モル数:0.245mmol、Mn:2000g/mol、シグマアルドリッチ社製品)を180℃で溶融した。溶融状態のオリゴマーに対し、NCO/OH=1/1(mmol)になるように、ヘキサメチレンジイソシアネート82.42mg(モル数:0.49mmol、Mn:168.2g/mol)を滴下し、窒素雰囲気下、180℃で30分間反応させた。その後、反応物をクロロホルムに溶解させ、メタノールで再沈殿し、ポリマーを回収した。回収したポリマーを180℃で溶融し、10分間、20MPaでプレスし、0.1mm厚のフィルムを得た。このように比較例6では市販のポリ乳酸とポリカプロラクトンジオールをウレタン化反応させた。比較例6で得られたポリマーは、市販のポリ乳酸とポリカプロラクトンジオールのウレタン結合による共重合体である。
【0059】
<比較例7>
200mLの三口フラスコ内で、ポリカプロラクトンジオール8g(モル数:4mmol、Mn:2000g/mol、シグマアルドリッチ社製品)を180℃で溶融した。溶融状態のポリカプロラクトンジオールに対し、NCO/OH=1/1(mmol)になるように、ヘキサメチレンジイソシアネート672.8mg(モル数:4mmol、Mn:168.2g/mol)を滴下し、窒素雰囲気下、180℃で30分間反応させた。その後、反応物をクロロホルムに溶解させ、メタノールで再沈殿し、ポリマーを回収した。回収したポリマーを180℃で溶融し、10分間、20MPaでプレスし、0.1mm厚のフィルムを得た。このように比較例7ではポリカプロラクトンジオールのみを用いてウレタン化反応を行った。
【0060】
<比較例8>
200mLの三口フラスコに、ラクチド20g(モル数:0.139mol、Mn:144.13g/mol)、1,4ブタンジオール0.225g(モル数:0.0025mol、Mn:90.121g/mol)を入れ、減圧乾燥し、脱水した。2-エチルヘキサン酸スズ(II)20mg(モル数:0.00005mol、Mn:405.12g/mol)を滴下後、窒素置換を繰り返し行い、フラスコ内を窒素雰囲気下にした。その後、窒素雰囲気下、180℃で3時間攪拌し、ポリ乳酸ジオールを合成した。その後、反応物をクロロホルムに溶解させた後、メタノールで再沈殿し、ポリ乳酸ジオールを回収した。
回収したポリ乳酸ジオール7.5g(モル数0.64mmol)を別のフラスコ内にいれ、180℃で溶融した。溶融状態のポリ乳酸ジオールに対し、NCO/OH=1/1(mmol)になるように、ヘキサメチレンジイソシアネート107mg(モル数:0.64mmol、Mn:168.2g/mol)を滴下し、窒素雰囲気下、180℃で30分間反応させた。その後、反応物をクロロホルムに溶解させ、メタノールで再沈殿し、ポリマーを回収した。回収したポリマーを180℃で溶融し、10分間、20MPaでプレスし、0.1mm厚のフィルムを得た。このように比較例8ではポリ乳酸ジオールのみを用いてウレタン化反応を行った。
【0061】
<比較例9>
200mLの三口フラスコに、ラクチド20g(モル数:0.139mol、Mn:144.13g/mol)、1,4ブタンジオール0.225g(モル数:0.0025mol、Mn:90.121g/mol)を入れ、減圧乾燥し、脱水した。2-エチルヘキサン酸スズ(II)20mg(モル数:0.00005mol、Mn:405.12g/mol)を滴下後、窒素置換を繰り返し行い、フラスコ内を窒素雰囲気下にした。その後、窒素雰囲気下、180℃で3時間攪拌し、ポリ乳酸ジオールを合成した。その後、反応物をクロロホルムに溶解させた後、メタノールで再沈殿し、ポリ乳酸ジオールを回収した。
回収したポリ乳酸ジオール3g(モル数0.26mmol)とポリカプロラクトンジオール2g(モル数:1mmol、Mn:2000g/mol、シグマアルドリッチ社製品)を別のフラスコ内にいれ、180℃で溶融した。溶融状態のオリゴマーに対し、NCO/OH=1/1(mmol)になるように、ヘキサメチレンジイソシアネート211.3mg(モル数:1.26mmol、Mn:168.2g/mol)を滴下し、窒素雰囲気下、180℃で30分間反応させた。その後、反応物をクロロホルムに溶解させ、メタノールで再沈殿し、ポリマーを回収した。回収したポリマーを180℃で溶融し、10分間、20MPaでプレスし、0.1mm厚のフィルムを得た。このように比較例9ではポリ乳酸ジオール合成後、ポリカプロラクトンジオールとウレタン化反応させた。比較例9は、比較例4と同様にトリブロック構造を介さず共重合する手法に関する。比較例9は比較例4と同様に、特開2006-183042号公報を参考に実施した。
【0062】
<比較例10>
比較のため購入した市販のポリカプロラクトン(Mn8,0000)(シグマアルドリッチ社製品)を180℃で溶融し、10分間、20MPaでプレスし、0.1mm厚のフィルムを得た。
【0063】
<比較例11>
比較のため購入した市販のポリ乳酸(Nature works社製品「Ingeo Biopolymer 2003D」)を180℃で溶融し、10分間、20MPaでプレスし、0.1mm厚のフィルムを得た。
【0064】
<測定、評価>
各例のフィルムについて以下の通り、測定、評価を実施した。
【0065】
(Mw、Mn)
ポリマーの分子量(Mw、Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分子量分析により測定した。具体的にはGPC(HLC-8420、東ソー株式会社製品)用いて、RI検出器により測定した。カラムはTSKgel GMHHR-M(東ソー株式会社製品)を用いた。GPCの溶離液はクロロホルム(CHCl3)を用いた。カラム温度は40℃とし、流速は1.0ml/minとした。測定に用いた標準試料は、ポリスチレン(標準ポリスチレンキットPStQuick、東ソー株式会社)である。ポリスチレン換算で検量線を作成し、分子量(Mw、Mn)を算出した。
【0066】
(1H NMR分析)
核磁気共鳴装置(JNM-EC400、日本電子株式会社)を用いて1H NMRを分析した。積算回数は32回とし、重溶媒にはクロロホルム-d(CDCl3)を使用した。NMRスペクトルにおいて、ウレタン結合の「-NH-」に起因するピーク(3.1ppm付近)の検出の有無を観察した。
【0067】
(フィルム成形)
以下の基準でフィルムの成形の可否を評価した。
A:フィルム成形が可能であり、また、物性測定が可能であった。
B:フィルム成形時に崩れ、物性測定が不可能であった。
【0068】
(Tg、Tm、Tc)
ポリマーをDSC(高感度型示差走査熱量計DMS-6220、株式会社日立ハイテクサイエンス)を用いてTg(℃)、Tm(℃)、Tc(℃)を測定した。測定温度範囲は-80℃~200℃であり、昇温速度は10℃/分である。
【0069】
(引張試験)
平衡部の長さが20mm、幅が4mmのダンベル型引張試験片を作製し、引張試験機(卓上形精密万能試験機AGS-X、株式会社島津製作所)を用いて測定した。
試験条件はJIS K7127にしたがった。クロスヘッド速度は10mm/minであり、つかみ具間距離は20mmである。該引張試験片の引張弾性率(MPa)、最大応力(MPa)、破断伸び(%)および靭性(MJ/m3)を測定した。
【0070】
(全光線透過率、ヘーズ)
ヘーズメーター(NDH-4000、日本電色工業株式会社)を用いた。全光線透過率はJIS K7361-1:1997に準拠して測定した。ヘーズはJIS K7136:2000に準拠して測定した。
【0071】
(結晶化度)
X線回折装置(RINT-UltimateIII、リガク株式会社)を用いた。管電圧40kW、管電流40mA、測定範囲は回析角2θ=5~30°、スキャンスピード1.0°/minで測定し、下記の計算式によって、結晶化度(%)を算出した。
結晶化度(%)=(結晶質ピーク面積/(結晶質ピーク面積+非晶質ピーク面積))×100
【0072】
<結果>
各例の測定結果、評価結果を表1、2に示す。
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
表1、2に示すように、実施例1~4では、Tmが充分に高く、耐熱性に優れながら、かつ、Tgが低いポリマーが得られた。これらTgの低いポリマーは、生分解性に優れると考えられる。また、実施例1~4では、フィルムに成形したときに破断伸びが高い。このことから優れた機械的特性が示された。対して比較例1~11では、Tgの低さと良好な機械的特性を両立できなかった。比較例5、7では、Tgが検出されなかった。
【0077】
比較例3、5、6、9ではフィルムが過度に硬く、脆かった。そのため、成形時においてフィルムが壊れてしまい、引張弾性率(MPa)、最大応力(MPa)、破断伸び(%)および靭性(MJ/m3)を測定できなかった。
比較例7ではフィルムが過度に柔らかく、脆かった。そのため、成形時においてフィルムが壊れてしまい、引張弾性率(MPa)、最大応力(MPa)、破断伸び(%)および靭性(MJ/m3)を測定できなかった。
【0078】
表3に示すように、実施例のポリマーにおいては、フィルムにしたときに良好な外観、透明性、視認性が発揮された。