IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝エネルギーシステムズ株式会社の特許一覧

特開2024-80394回転機械診断装置および回転機械診断方法
<>
  • 特開-回転機械診断装置および回転機械診断方法 図1
  • 特開-回転機械診断装置および回転機械診断方法 図2
  • 特開-回転機械診断装置および回転機械診断方法 図3
  • 特開-回転機械診断装置および回転機械診断方法 図4
  • 特開-回転機械診断装置および回転機械診断方法 図5
  • 特開-回転機械診断装置および回転機械診断方法 図6
  • 特開-回転機械診断装置および回転機械診断方法 図7
  • 特開-回転機械診断装置および回転機械診断方法 図8
  • 特開-回転機械診断装置および回転機械診断方法 図9
  • 特開-回転機械診断装置および回転機械診断方法 図10
  • 特開-回転機械診断装置および回転機械診断方法 図11
  • 特開-回転機械診断装置および回転機械診断方法 図12
  • 特開-回転機械診断装置および回転機械診断方法 図13
  • 特開-回転機械診断装置および回転機械診断方法 図14
  • 特開-回転機械診断装置および回転機械診断方法 図15
  • 特開-回転機械診断装置および回転機械診断方法 図16
  • 特開-回転機械診断装置および回転機械診断方法 図17
  • 特開-回転機械診断装置および回転機械診断方法 図18
  • 特開-回転機械診断装置および回転機械診断方法 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080394
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】回転機械診断装置および回転機械診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20240606BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G01H17/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193546
(22)【出願日】2022-12-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「2020年度~2022年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/次世代火力発電基盤技術開発/石炭火力の負荷変動対応技術開発/タービン発電設備次世代保守技術開発」」委託研究、産業技術力強化法第17条の運用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】見村 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】平野 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】郡司 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】安藤 耕治
(72)【発明者】
【氏名】加幡 安雄
(72)【発明者】
【氏名】藤田 真史
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
【Fターム(参考)】
2G024AD05
2G024AD23
2G024BA22
2G024BA27
2G024CA09
2G024CA13
2G024DA09
2G024FA05
2G024FA14
2G024FA15
2G064AB02
2G064AB22
2G064BA02
2G064BA03
2G064CC17
2G064CC29
2G064DD08
2G064DD14
(57)【要約】
【課題】ロータのアンバランス発生事象に関して、故障発生箇所の特定および故障要因の推定を可能とする回転機械診断装置および回転機械診断方法を提供することを目的とする。
【解決手段】実施形態によれば、回転機械診断装置100は、参照データおよび影響係数行列を含む演算条件データ、および振動データ、回転数、位相算出のための位相算出用データを含む前記回転部の状態測定値を受け入れる入力部110と、入力部110で受け入れられた演算条件データおよび状態測定値に基づいて故障発生箇所の特定および故障要因の推定のための演算を行う演算部130と、演算条件データ、状態測定値および演算部130により得られた振動モードを含む演算結果を収納する記憶部120と、記憶部120に収納された内容を出力し表示する出力部140を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械の運転中の回転部のアンバランス発生事象に関して、故障発生箇所の特定および故障要因の推定のための回転機械診断装置であって、
参照データおよび影響係数行列を含む演算条件データ、および振動データ、回転数、位相算出のための位相算出用データを含む前記回転部の状態測定値を受け入れる入力部と、
前記入力部で受け入れられた前記演算条件データおよび前記状態測定値に基づいて前記故障発生箇所の特定および前記故障要因の推定のための振動モードを識別する演算を行う演算部と、
前記演算条件データ、前記状態測定値、および前記演算部により得られた前記振動モードを収納する記憶部と、
前記記憶部に収納された内容を出力し表示する出力部と、
を備えることを特徴とする回転機械診断装置。
【請求項2】
前記演算部は、
前記振動データに基づいて振動ベクトルを導出する振動ベクトル導出部と、
前記振動ベクトルから振動ベクトル差分を算出する差分ベクトル算出部と、
前記振動ベクトルと前記影響係数行列に基づいて前記回転部の不釣り合い分布を算出する不釣り合い算出部と、
前記記憶部に記憶された前記演算結果に基づいて故障原因を推定する故障原因推定部と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の回転機械診断装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記位相算出用データに基づいて前記回転部の位相を算出する位相算出部と、前記位相算出部により算出された位相と前記振動ベクトルとを用いてポーラル線図用データを作成するポーラル線図用データ作成部をさらに有し、
前記故障原因推定部は、前記ポーラル線図用データに基づいて前記振動モードを識別し故障原因の推定を行うことを特徴とする請求項2に記載の回転機械診断装置。
【請求項4】
前記前記振動モードの識別および前記故障要因の推定は、前記振動ベクトルの移動速度、移動加速度、方向変化率を用いて行うことを特徴とする請求項2に記載の回転機械診断装置。
【請求項5】
前記回転機械の運転中は、前記回転機械の危険速度を通過する際の運転中であることを特徴とする請求項1に記載の回転機械診断装置。
【請求項6】
回転機械の運転中の回転部のアンバランス発生事象に関して、故障発生箇所の特定および故障要因の推定のための回転機械診断方法であって、
参照データおよび影響係数行列を含む演算条件データを受け入れる第1入力ステップと、
振動データ、回転数、位相算出のための位相算出用データを含む前記回転部の状態測定値を受け入れる第2入力ステップと、
前記前記演算条件データおよび前記状態測定値に基づいて前記故障発生箇所の特定および前記故障要因の推定のための振動モードを識別する演算を行う演算ステップと、
前記演算条件データ、前記状態測定値、および前記演算ステップで得られた前記振動モードを収納する記憶ステップと、
前記収納された内容を表示する表示ステップと、
を有することを特徴とする回転機械診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転機械診断装置および回転機械診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラント内の機器の稼働率向上を目的として、IoT(Internet of Things)技術を利用した発電プラントの故障診断システムの開発が検討されている。しかしながら、このような故障診断を適切に行うためには、測定データから精度良く故障や故障予兆を検知するためのデータベースやアルゴリズムをどのように構成するかが問題となる。
【0003】
従来から状態監視を目的とした第1の例として、対象機器に振動センサに代表されるセンサを取り付け、当該センサから得られる計測データに基づいて装置の異常箇所を特定するためのシステムが知られている。例えば、診断対象である回転機械に設置された振動検出センサと、振動検出センサからの検出信号を振動データに変換する演算処理器と、演算処理器からの振動データより診断を行う情報処理機器とを備えた異常診断システムが知られている。
【0004】
また、第2の例として、複数設けられた軸振動センサによる回転軸の振動と回転角度の測定値に基づいて、回転軸の振動が最大となる回転角度および振動の大きさを示す振動ベクトルを算出し、その時間変化に基づいて、回転軸の軸方向における異常発生位置を推定する異常検知装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3834228号公報
【特許文献2】特開2019-113364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
タービン・発電機運転中に観測される軸振動には、種々の要因があり、それに応じた周波数成分を持っている。また、回転部各部に発生する故障モードに応じて、重量不釣り合いの変化あるいは運転中の軸曲り変化などに伴うバランス状態の変化に伴う回転同期成分を持つ振動が大部分を占める。
【0007】
通常、回転部の不つりあい分布は未知であるが、運転中の回転部の振幅および位相を計測することで分布の推定が可能となり、回転部上のどの箇所に不釣り合いが発生したか、それが発生する故障事象・要因を推定することで、必要な処置を短時間で実施可能となり、プラントの稼働率向上に繋げられる。
【0008】
前述の異常診断システムの第1の例では、回転機械の運転時に発生する1種の周波数に関するデータを変換して1つの変換データを作成し、それに基づいて異常原因を特定するものであるが、同じ周波数でも複数の異常要因が含まれることがあり、この構成だと異常原因の絞り込みが難しくなる。
【0009】
また、前述の異常診断システムの第2の例では、第1の例と同様に、回転軸に生じる多種多様な異常事象に対して、実機の回転部もしくは同型機で実際に特定箇所に異常が発生したときの振動ベクトルと現状ベクトルとの突合せで異常箇所を推定しているため、実データがない異常事象や新設機械の場合は異常を検知できないことになる。
【0010】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、回転機械の運転中の回転部のアンバランス発生事象に関して、故障発生箇所の特定および故障要因の推定を可能とする回転機械診断装置および回転機械診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するため、本発明の実施形態に係る回転機械診断装置は、回転機械の運転中の回転部のアンバランス発生事象に関して、故障発生箇所の特定および故障要因の推定のための回転機械診断装置であって、参照データおよび影響係数行列を含む演算条件データ、および振動データ、回転数、位相算出のための位相算出用データを含む前記回転部の状態測定値を受け入れる入力部と、前記入力部で受け入れられた前記演算条件データおよび前記状態測定値に基づいて前記故障発生箇所の特定および前記故障要因の推定のための演算を行う演算部と、前記演算条件データ、前記状態測定値、および前記演算部により得られた前記振動モードを含む演算結果を収納する記憶部と、前記記憶部に収納された内容を出力し表示する出力部と、を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1の実施形態に係る回転機械診断装置の構成を示すブロック図である。
図2】第1の実施形態に係る回転機械診断装置を適用する回転機械の回転部の例を示す概念図である。
図3】第1の実施形態に係る回転機械診断装置を適用する回転機械の回転部についての振動計および位相検出器を示す概念図である。
図4】第1の実施形態に係る回転機械診断装置を適用する回転機械の回転部についての振動計を示す概念図である。
図5】第1の実施形態に係る回転機械診断装置を適用する回転機械の回転部についての位相検出器の第1の例を示す概念図である。
図6】第1の実施形態に係る回転機械診断装置を適用する回転機械の回転部についての位相検出器の第2の例を示す概念図である。
図7】第1の実施形態に係る回転機械診断装置を適用する回転機械の回転部の例におけるモデルの説明図である。
図8】第1の実施形態に係る回転機械診断方法の全体の手順を示すフロー図である。
図9】第1の実施形態に係る回転機械診断方法のうちの起動停止時の診断方法の手順における不釣り合い位置の導出ステップの詳細を示すフロー図である。
図10】第1の実施形態に係る回転機械診断方法のうちの定格回転運転時の故障発生個所の特定および診断方法の手順を示すフロー図である。
図11】第1の実施形態に係る回転機械診断方法のうちの定格回転運転時の故障発生個所の特定および診断方法の手順において得られるサーマル振動の場合のポーラル線図の表示例である。
図12】第1の実施形態に係る回転機械診断方法のうちの定格回転運転時の故障発生個所の特定および診断方法の手順において得られるハードラブによるサイクリック振動の場合のポーラル線図の表示例である。
図13】第1の実施形態に係る回転機械診断方法のうちの定格回転運転時の故障発生個所の特定および診断方法の手順において得られるソフトラブによるサイクリック振動の場合のポーラル線図の表示例である。
図14】第2の実施形態に係る回転機械診断方法の全体の手順を示すフロー図である。
図15】第3の実施形態に係る回転機械診断装置の構成を示すブロック図である。
図16】第3の実施形態に係る回転機械診断方法のうちのデータ処理部による処理の説明図である。
図17】第3の実施形態に係る回転機械診断方法のうちの定格回転運転時の故障発生個所の特定および診断方法における判定条件を示す第1の判定テーブルである。
図18】第3の実施形態に係る回転機械診断方法のうちの定格回転運転時の故障発生個所の特定および診断方法における判定条件を示す第2の判定テーブルである。
図19】第3の実施形態に係る回転機械診断方法のうちの定格回転運転時の故障発生個所の特定および診断方法における判定条件を示す第3の判定テーブルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る回転機械診断装置および回転機械診断方法について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0014】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る回転機械診断装置100の構成を示すブロック図である。
【0015】
回転機械診断装置100は、入力部110、記憶部120、演算部130、出力部140、およびタイムカウンタ150を有する。
【0016】
入力部110は、演算条件データおよび状態測定値を入力として受け入れる。ここで、演算条件データは、演算部130が演算を実施する際に必要となる情報である。演算条件データとしては、たとえば、後述する参照データおよび影響係数行列、並びに回転機械診断装置100の診断実施の進行における判定に必要な種々の判定基準値を含む。状態測定値は、振動データ、回転数、位相算出のための位相算出用データ、回転機械10出力・負荷を含む回転機械10の回転部10a(図2)の状態を測定する各検出器の出力である。ここで、振動データは、たとえば、サンプリング時間間隔ごとの振幅値である。これらの詳細は、図2を参照しながら後に説明する。
【0017】
記憶部120は、参照データ記憶部121、影響係数行列記憶部122、振動データ記憶部123、位相記憶部124、および演算結果記憶部125を有する。
【0018】
参照データ記憶部121および影響係数行列記憶部122は、入力部110が受け入れた参照データおよび影響係数行列をそれぞれ記憶する。振動データ記憶部123は、入力部110が受け入れた振動データを記憶する。位相記憶部124は、入力部110が受け入れた位相算出のための位相算出用データ、および回転数を記憶する。演算結果記憶部125は、演算部130が実施した演算結果、すなわち、後述する振動ベクトル、振動ベクトル差分、ポーラル線図用データ、不釣り合い分布、振動モード等を記憶する。
【0019】
演算部130は、入力部110で受け入れられた演算条件データおよび状態測定値に基づいて回転機械10における故障発生箇所の特定および故障要因の推定のための演算を行う。演算部130は、位相算出部131、振動ベクトル導出部132、差分ベクトル算出部133、ポーラル線図用データ作成部134、不釣り合い算出部135、故障要因推定部136、および進行制御部137を有する。
【0020】
位相算出部131は、位相算出用データに基づいて回転部10aの位相を算出する。詳細は、後に図7を引用しながら説明する。
【0021】
振動ベクトル導出部132は、振動データに基づいて振動ベクトルを導出する。導出された振動ベクトルは、演算結果記憶部125に収納、保存される。
【0022】
差分ベクトル算出部133は、振動ベクトルから振動ベクトル差分を算出する。算出された振動ベクトル差分は、演算結果記憶部125に収納、保存される。
【0023】
ポーラル線図用データ作成部134は、位相算出部131により算出された位相と、振動ベクトル導出部132で作成された振動ベクトルとを用いてポーラル線図用データを作成する。作成されたポーラル線図用データは、演算結果記憶部125に収納、保存される。
【0024】
不釣り合い算出部135は、振動ベクトル導出部132で作成された振動ベクトルと、影響係数行列記憶部122に記憶された影響係数行列に基づいて回転部10aの不釣り合い分布を算出する。算出された不釣り合い分布は、演算結果記憶部125に収納、保存される。
【0025】
故障要因推定部136は、記憶部120に記憶された演算結果に基づいて回転部10aの振動の原因となる故障要因を判別・推定する。故障要因推定部136は、入力部110が受け入れた演算条件データに含まれる判別用の判定値を収納する。
【0026】
進行制御部137は、回転機械診断装置100の各要素の動作のシーケンスの進行を司る。いいかえれば、回転機械診断方法の手順の進行に必要な判定、次のステップへの移行のための各要素への指示を行う。進行制御部137は、入力部110により読み込まれた判定に必要な判定基準値を収納し、進行制御部137が行う判定に使用する。
【0027】
図2は、第1の実施形態に係る回転機械診断装置100を適用する回転機械10の回転部10aの例を示す概念図である。
【0028】
図2では、回転機械10として蒸気タービンおよび発電機の例を示している。回転部10aは、2つの低圧タービン12、発電機13、および励磁装置14と、これらを直列に結合するロータシャフト11を有する。なお、回転機械10としては、これに限定されるものではない。回転部10aは、複数の軸受15により回転可能に支持されている。
【0029】
各軸受15の近傍には、振動計16が設けられている。振動計16は、vs(i=1~M)で表示している。また、回転部10aに対向するように、位相検出器17および回転数計18が設けられている。回転機械診断装置100、振動計16、位相検出器17および回転数計18は、回転機械診断システム200を構成する。
【0030】
図3は、第1の実施形態に係る回転機械診断装置100を適用する回転機械10の回転部10aについての振動計16および位相検出器17を示す概念図である。また、図4は、第1の実施形態に係る回転機械診断装置を適用する回転機械の回転部についての振動計16を示す概念図である。
【0031】
振動計16は、それぞれの検出位置における振動の時間変化を出力する。振動計16は、たとえば、回転部10aと当該振動計16との間のギャップ(隙間)を計測する渦電流型非接触センサなどの非接触型変位センサである。
【0032】
図4では、軸方向に同一の箇所に互いに90度の角度をなして2つの振動計16が設けられている場合を例示している。なお方向は、水平方向と垂直方向などでもよいし、角度も90度に限定されない。このように、軸方向の同一箇所に互いに方向(軸中心に向かう方向、角度)の異なる複数の振動計16が設けられていてもよい。この場合は、vsについて異なる番号(i)を付するものとする。
【0033】
図5は、第1の実施形態に係る回転機械診断装置100を適用する回転機械10の回転部10aについての位相検出器17の第1の例を示す概念図である。また、図6は、第1の実施形態に係る回転機械診断装置100を適用する回転機械10の回転部10aについての位相検出器17の第2の例を示す概念図である。
【0034】
位相検出器17は、図3に示すように、回転部10aの軸方向位置は、振動計16よりもやや外側に設けられているのが一般的である。位相検出器17は、位相検出器17は、回転部10aの回転角度、言い換えれば、位相を検出するために設けられている。
【0035】
位相検出器17は、たとえば、回転部10aのロータシャフト11の外周面の周方向の一か所に設けられた基準マーカ17aと、基準マーカ17a近傍に設けられたパルス検出器17bの総称である。ここで、基準マーカ17aとしては、たとえば、図5に示す第1の例では、回転部10aの表面に形成されたスリット10bが、また、図6に示す第2の例では、回転部10aの表面に貼付された反射テープ10cが用いられる。
【0036】
パルス検出器17bは、回転部10aが1回転するごとに1パルスを検出する。すなわち、位相検出器17は、回転部10aが1回転するごとに1パルスを出力する。パルスの発生時間間隔をΔT、タイムカウンタ150がこの間J回カウントする場合、前のパルス発生からj回目のカウント目、時間Δt経過後においては、位相α(度)は、次の式(1)により算出される。
α=360・(Δt/ΔT)=360・(j/J) …(1)
【0037】
位相算出部131は、上述の演算を行い、各振動計16の出力(振幅の時間変化)について、そのピーク値発生時の位相を算出する。なお、ここで、位相算出用データとは、この例におけるパルス信号を言うが、同様の演算が可能であれば、これに限定されない。
【0038】
ロータシャフト11の端部には、回転数計18が設けられている。回転数計18は、ロータシャフト11に設けられたギア(図示せず)と、ギアの近傍の静止側に設けられた回転数検出器(図示せず)の総称である。回転数検出器は、たとえば、ギアの凹凸による磁気透過率の変化をパルス信号に変換し出力する。
【0039】
図7は、第1の実施形態に係る回転機械診断装置100を適用する回転機械10の回転部10aの例におけるモデルの説明図である。
図7では、回転部10aを、軸方向xに沿って延びたxに依存する面外方向の曲げ剛性Gb(x)およびこれに付随する軸方向xに沿って分布する複数の節点n(n=1~N)で模擬している。
【0040】
図8は、第1の実施形態に係る回転機械診断方法の全体の手順を示すフロー図である。
【0041】
まず、回転機械診断装置100は、演算条件データの読み込みを行う(ステップS11)。詳細には、入力部110が、参照データおよび影響係数行列A、並びに種々の判定基準値を含む演算条件データを入力として受け入れる。参照データおよび影響係数行列はそれぞれ、参照データ記憶部121および影響係数行列記憶部122に記憶される。また、種々の判定基準値は、進行制御部137に収納される。
【0042】
次に、回転機械診断装置100は、状態測定値の読み込みを行う(ステップS12)。詳細には、入力部110が、振動データ、回転数、位相算出のための位相算出用データを含む回転機械10の回転部10aの状態を測定する各検出器の出力を入力として受け入れる。位相算出部131は位相算出用データおよびタイムカウンタ150の出力に基づいて回転部10aの位相を算出する。入力部110により受け入れられた振動データは、振動データ記憶部123に記憶される。また、入力部110に受け入れられた回転数および位相算出部131により算出された位相は、位相記憶部124に記憶される。
【0043】
次に、進行制御部137は、診断の対象とする回転機械10が定格回転運転状態か否かを判定する(ステップS13)。ここで、定格回転運転とは、回転数上昇あるいは下降中以外の定格回転数での運転である。すなわち、回転数上昇後に定格回転に達した状態、回転数低下前の定格回転数の状態、あるいは、回転機械10が発電装置であれば、たとえば、電力系統に併入されて電力系統と同期して負荷を担っている状態をいう。あるいは、電動機などであれば、負荷となるポンプや送風機などと結合してこれらを駆動する状態をいう。
【0044】
進行制御部137によって、回転機械10が定格回転運転状態ではないと判定された場合(ステップS13 NO)には、起動停止時診断ステップS20に移行する。また、進行制御部137によって、回転機械10が定格回転運転状態であると判定された場合(ステップS13 YES)には、定格回転運転時診断ステップS30に移行する。
【0045】
まず、起動停止時診断ステップS20について以下に説明する。
【0046】
起動停止時診断ステップS20においては、まず、振動ベクトルの時間的な変化分である差分ベクトルの算出を行う(ステップS21)。以下に、振動ベクトルの変化の算出の第1のステップである振動ベクトル導出部132による振動ベクトルの導出と、第2のステップである差分ベクトル算出部133による振動ベクトルの差分の算出について順次説明する。
【0047】
まず、第1のステップである振動ベクトルの導出について説明する。
【0048】
振動ベクトル導出部132は、回転数n(k=1~K)において、各振動計16の出力から得られる振幅値と、位相算出部131により得られたそれぞれの位相に基づいて、それぞれの振動値zmk(m=1~M)を、部分振動ベクトルZの要素として、次の式(2)の極座標および(3)、(4)に示すx、y座標形式で導出する。
mk=Amk・exp[j・(Θmk×π/180)]=xmk+j・ymk …(2)
mk=Amk・cos(Θmk×π/180) …(3)
mk=Amk・sin(Θmk×π/180) …(4)
ただし、Akは回転数n・kにおける第m振動値の振幅、Θmkは回転数nにおける第m振動値の位相〔度〕、jは虚数単位である。
【0049】
ここで、部分振動ベクトルZはzmk(m=1~M)を要素とするM次の縦ベクトルである。振動ベクトル[Z]は、回転数nにおける部分振動ベクトル[Z]の要素を、k=1~Kについて、縦に並べたM・K次の縦ベクトルである。振動ベクトル導出部132で導出された振動ベクトル[Z]は、順次、演算結果記憶部125に収納、記憶される。
【0050】
次に、第2のステップである差分ベクトル算出部133による振動ベクトルZの差分である差分ベクトルΔZの算出について説明する。
【0051】
振動ベクトルZの要素である各振動値zmk(m=1~M、k=1~K)のx座標成分であるxmkおよびy座標成分であるymkの、ある時間幅における時間的な変化量は、以下の式(5)および(6)のように算出される。
Δxmk=xmk(t+Δt)-xmk(t) …(5)
Δymk=ymk(t+Δt)-ymk(t) …(6)
【0052】
また、極座標形式で、次の式(7)および(8)ないし(10)のように与えられる。
ΔAmk=√[(Δxmk+(Δymk] …(7)
ここで、√〔x〕は、xの平方根を示す。
Φk=90-tan[(Δxmk/Δymk)・(180/π)]
(Δymk>0の場合)…(8)
Φmk=0 (Δymk=0の場合)…(9)
Φmk=270-tan[(Δxmk/Δymk)・(180/π)]
(Δymk<0の場合)…(10)
【0053】
以上が、ステップS21における振動ベクトルの時間的な変化分である差分ベクトルの算出である。差分ベクトル算出部133で算出された差分ベクトル[ΔZ]は、順次、演算結果記憶部125に収納、記憶される。
【0054】
次に、進行制御部137は、ΔAmk(m=1~M、k=1~K)を判定基準値ΔAと比較し、判定基準値ΔAを超えるものがあるか否かを判定する(ステップS22)。
【0055】
進行制御部137によって、ΔAmkに判定基準値ΔAを超えるものがあると判定されなかった場合(ステップS22 NO)は、ステップS12およびステップS13を繰り返す。
【0056】
進行制御部137によって、ΔAmkに判定基準値ΔAを超えるものがあると判定された場合(ステップS22 YES)は、不釣り合い算出部135が、不釣り合い位置の導出を行う(ステップS23)。
【0057】
ステップS23の次に、進行制御部137は、運転継続か否かを判定する(ステップS53)。運転継続と判定された場合(ステップS53 YES)には、ステップS11に移行する。また、運転継続と判定された場合(ステップS53 NO)には、進行制御部137は、運転を停止するための処置、たとえば、停止指示の警報を発する等を行う。
【0058】
図9は、第1の実施形態に係る回転機械診断方法のうちの起動停止時の診断方法の手順における不釣り合い位置の導出ステップS23の詳細を示すフロー図である。
【0059】
不釣り合い位置の導出ステップS23においては、まず、不釣り合い算出部135が不釣り合いベクトルUを算出する(ステップS23a)。具体的には、不釣り合い算出部135は、入力部110により読み込まれ影響係数行列記憶部122に記憶、収納されている影響係数行列Aと、演算結果記憶部125に記憶された振動ベクトルZとに基づいて不釣り合いベクトルUを算出する。
【0060】
ここで、まず、不釣り合いベクトルUおよび影響係数行列Aについて説明する。
【0061】
不釣り合いベクトルUは、各節点n(N=1~N)における不釣り合い量uを要素とするN次縦ベクトルである。
【0062】
影響係数行列Aは、節点n(n=1~N)に単位不釣り合いがあるときに、m番目の振動計(m=1~M)の箇所において生ずる振動値を値とする影響係数amnを要素とする(M×N行列)である。
【0063】
この定義から、振動ベクトルZ、影響係数行列Aおよび不釣り合いベクトルUは、次の式(11)の関係となる。
Z=A・U …(11)
【0064】
以下に、不釣り合いベクトルUの推定について説明する。不釣り合いベクトルUの推定に当たっては、振動計16により得られる振動値の数Mと、節点nの数すなわち不釣り合い位置の数Nとの大小関係により以下のように2つのケースがある。
【0065】
第1のケースは、振動値の数Mが不釣り合い位置の数Nより小さい場合である。
【0066】
まず、M次の誤差ベクトルEを次の式(12)で定義する。
E=Zt-Z=A・U-Z …(12)
【0067】
ここで、振動ベクトルZtは不釣り合いベクトルUに起因して生ずる式(11)により得られるべき真の振動値のベクトルを、また、振動ベクトルZmは振動計16により得られた振動値のベクトルを示す。
【0068】
この場合、最小二乗法を適用して、次の式(13)による誤差値EEを最小化する。
EE=EE+UU …(13)
【0069】
はたとえば対角行列であり単位行列を用いてもよい。また、第2項は、非現実的な解(Uの分布)を回避するための項であり、行列Wは対角行列であり、まず単位行列を用い結果により要素の値を調整してもよい。なお、対角行列Wの各要素は、不釣り合いベクトルUの算出精度を確保できる程度に小さく、かつ、演算の安定化に必要な大きさとする。
【0070】
この結果、不釣り合いベクトルUは、次の式(14)により得られる。
U=(AA+W-1 …(14)
ここで、Aは(M×N行列)である影響係数行列Aの共役転置行列(N×M行列)である。
【0071】
第2のケースは、振動値の数Mが不釣り合い位置の数Nより大きな場合である。
【0072】
この場合は、ラグランジュの未定乗数λを導入して、次の式(15)による誤差値EEを最小化する。
EE=UU+λ(AU-Z) …(15)
【0073】
この結果、不釣り合いベクトルUは、次の式(16)により得られる。
U=W -1(AW ―1-1 …(16)
【0074】
次に、算出された不釣り合いベクトルUの各要素uの座標変換を行う。すなわち、算出された不釣り合いベクトルUの各要素uのx、Y座標での値(unx、uny)を、次の式(17)、(18)によって極座標(unr、unΘ)に変換する。ここで、不釣り合い位置を、1点に集中させた場合の、unrは不釣り合いの大きさ、unΘは不釣り合い箇所の周方向角度である。
nr=√(unx +uny ) …(17)
nΘ=90-tan-1[(uny/unx)×180/π] (uny>0の場合)
=270-tan-1[(uny/unx)×180/π] (uny<0の場合)
=0 (uny=0、unx>0の場合)
=180 (uny=0、unx<0の場合)
…(18)
【0075】
次に、不釣り合い算出部135は、算出されたベクトルUの各要素uの極座標表示での大きさunrを大きい順にソートする(ステップS23b)。不釣り合い算出部135によりソートされ並べ替えられたベクトルUの各要素uの順番は演算結果記憶部125に収納、記憶される。不釣り合い算出部135は、この順に、ベクトルUの要素uの要素番号nと、その大きさunrよび周方向角度unΘを、出力部140に出力する。
【0076】
これを受けて、出力部140が運転員等に注意喚起を行う(ステップS23c)。詳細には、出力部140は、最も大きさの大きな要素番号nについて、その要素の節点nの位置、大きさunrよび周方向角度unΘを含む情報を、警報とともに表示する。
【0077】
以上が、起動停止時診断ステップS20の手順であり、次に、定格回転運転時診断ステップS30について、図8を引用しながら説明する。
【0078】
回転機械10が定格回転運転状態であると判定された場合(ステップS13 YES)に、入力部110は、回転機械10の出力すなわち負荷を読み込む(ステップS31)。ここで、出力は、たとえば、回転機械10が図2に示す蒸気タービンおよび発電機の場合であれば、取引用電力計の出力あるいは蒸気タービンの第1段落圧力などを用いることができる。
【0079】
次に、回転機械診断装置100は、振動ベクトル変化の算出を行う(ステップS32)。詳細には、振動ベクトル導出部132が振動ベクトルを導出し、差分ベクトル算出部133が振動ベクトルの差分を算出する。これらの具体的な内容は、ステップS21で行われる内容と同様であるので、説明を省略する。
【0080】
次に、回転機械診断装置100は、故障発生個所の特定および故障要因の推定を行う(ステップS40)。ステップS40の詳細について、以下、図10ないし図13を順次引用しながら説明する。
【0081】
図10は、第1の実施形態に係る回転機械診断方法のうちの定格回転運転時の故障発生個所の特定および診断方法(ステップS40)の手順を示すフロー図である。
【0082】
まず、回転機械診断装置100は、振動ベクトル変化が大か否かを判定する(ステップS41)。具体的には、進行制御部137が、ΔAmk(m=1~M、k=1~K)を判定基準値ΔALJと比較し、判定基準値ΔALJを超えるものがあるか否かを判定する。
【0083】
ステップS41において、進行制御部137が、ΔAmk(m=1~M、k=1~K)の中に判定基準値ΔALJを超えるものがあると判定した場合(ステップS41 YES)には、次の、瞬時の振動変化か否かの判定ステップS44に移行する。瞬時の振動変化か否かの判定ステップS44については、後述する。
【0084】
ステップS41において、進行制御部137が、ΔAmk(m=1~M、k=1~K)の中に判定基準値ΔALJを超えるものがあると判定しなかった場合(ステップS41 NO)には、進行制御部137がサーマルサイクリック振動の評価を継続中であるか否かを判定する(ステップS42)。サーマルサイクリック振動の判定については、後述するステップS49において説明する。
【0085】
ステップS42において、進行制御部137がサーマルサイクリック振動の評価を継続中であると判定した場合(ステップS42 YES)には、後述するステップS47に移行する。
【0086】
ステップS42において、進行制御部137がサーマルサイクリック振動の評価を継続中であると判定しなかった場合(ステップS42 NO)には、後述するステップS47の処理回数をリセットし、問題がないため、ENDの処理を行う。
【0087】
前述の瞬時の変動か否かの判定ステップS44の詳細を説明する。まず、振動ベクトル導出部132により導出されたサンプリング間隔ごとの振動ベクトルに基づいて、差分ベクトル算出部133が差分ベクトルを算出する。この内容は、ステップS21と同様であるので、詳細な説明を省略する。次に、進行制御部137が、ベクトル瞬時変化量を判定する閾値を用いて変化量が閾値以上であるか否かを判定する。
【0088】
ステップS44で、進行制御部137が、ベクトル瞬時変化量を判定する閾値を用いて変化量が閾値以上であると判定した場合(ステップS44 YES)は、不釣り合い位置推定を行う(ステップS46)。具体的な内容は、ステップS23と同様であるので、説明を省略する。
【0089】
ステップS44で、進行制御部137が、ベクトル瞬時変化量を判定する閾値を用いて変化量が閾値以上であると判定なかった場合(ステップS44 NO)は、回転機械10の回転部10aにサーマル振動あるいはサイクリック振動のいずれかの振動モードが発生しているか否かの判定および振動モードの識別に移行する。
【0090】
まず、処理回数が指定値以上であるか否かの判定を行う(ステップS47)。詳細には、進行制御部137が、処理回数が、判定用の指定値以上であるか否かを判定する。
【0091】
進行制御部137が、処理回数が、判定用の指定値以上であると判定しなかった場合(ステップS47 NO)には、ステップS52に戻り、処理を繰り返す。進行制御部137は、ステップS47に到達した回数を処理回数としてカウントする。
【0092】
サーマル振動およびサイクリック振動は、時間的に振幅と位相の値が連続的に変化するという特徴を有する。このため、サーマル振動、サイクリック振動の判定のためには、例えば1時間程度に亘る連続計測データが必要となる。この判定用の指定値が小さすぎると、判断のために十分なデータを得られない。一方、この指定値の値が大きすぎると判定までの時間を要するため不具合を拡大するリスクがある。したがって、この指定値の値は、両者を考慮して適正な範囲内の値を選択する。
【0093】
進行制御部137が、処理回数が、判定用の指定値以上であると判定した場合(ステップS47 YES)には、サーマルサイクリック振動判定前処理を行う(ステップS48)。具体的には、ポーラル線図用データ作成部134が、ポーラル線図作成用のデータを作成し、作成されたポーラル線図作成用のデータは、振動モードのデータとして演算結果記憶部125に収納、保存される。また、出力部140が、ポーラル線図を表示または図示するための数値データを出力する。
【0094】
次に、原因の判別可能か否かの判定を行う(ステップS49)。具体的には、識別され演算結果記憶部125に収納、保存された振動モードにより、たとえば、ステップS48で得られたポーラル線図に基づいて、故障要因推定部136が、要因評価・判別を行う。以下では、ポーラル線図に基づいた場合について説明する。
【0095】
図11は、第1の実施形態に係る回転機械診断方法のうちの定格回転運転時の故障発生個所の特定および診断方法の手順において得られるサーマル振動の場合のポーラル線図の表示例である。各黒丸は、振動ベクトル導出部132により導出された各時点での振動ベクトルに対応する。また、矢印は、差分ベクトル算出部133により算出された差分ベクトルに対応する。なお、各時点については、振動値のサンプリング間隔ごとの値でもよいし、あるいは、所定の間隔ごとの時点でもよい。すなわち、ベクトルの変化は、差分ベクトルΔZあるいは、所定の回数の差分ベクトルの合成である。これらをまとめて単位時間あたりの差分ベクトルをベクトル変化vで表すものとする。また、ベクトル変化vの方向の変化率を方向変化率βで表すものとする。図12および図13についても同様である。
【0096】
図11のポーラル線図によって示されたサーマル振動は、ベクトル変化vの大きさが所定の値以上であり、ベクトルの方向変化率βは所定の値以下である。また、ポーラル線図上で、位相が変化しづけてプロットが回る軌道ではない状態である。故障要因推定部136は、収納している判定用の判別値を用いて、サーマル振動か否かを判定する。
【0097】
図12は、第1の実施形態に係る回転機械診断方法のうちの定格回転運転時の故障発生個所の特定および診断方法の手順において得られるハードラブによるサイクリック振動の場合のポーラル線図の表示例である。
【0098】
ハードラブによるサイクリック振動の特徴は、図12に示すように、ポーラル線図上で位相が変化しづけてプロットが回る軌道の状態で、時間経過でベクトル変化の大きさが変わる、すなわちプロットが渦巻状に径方向に大きくもしくは小さくなる状態である。
【0099】
故障要因推定部136は、ベクトル変化vの大きさが所定の値以上であり、ベクトルの方向変化率βは所定の値以上である。また、ベクトルの方向変化加速度αすなわちベクトルの方向変化率βの時間微分値が所定の値以上であるという条件に該当するか否かを判定する。
【0100】
図13は、第1の実施形態に係る回転機械診断方法のうちの定格回転運転時の故障発生個所の特定および診断方法の手順において得られるソフトラブによるサイクリック振動の場合のポーラル線図の表示例である。
【0101】
ソフトラブによるサイクリック振動の特徴は、図13に示すように、ポーラル線図上で位相が変化しづけてプロットが回る軌道の状態で、時間経過でベクトル変化の大きさが小さい、すなわちプロットが同じ円軌道を描いている状態である。
【0102】
故障要因推定部136は、ベクトル変化vの大きさが所定の値以上であり、ベクトルの方向変化率βは所定の値以上であり、ベクトルの方向変化加速度αが所定の値以下であるという条件に該当するか否かを判定する。
【0103】
故障要因推定部136は、上述の3つのケース以外にも、必要に応じて、判別を行う。
【0104】
以上、説明の便宜上、図11ないし図13に示すポーラル線図と対比しながら、故障要因推定部136による判定について説明した。ポーラル線図は、出力部140により表示され、運転員等の理解を助けるが、故障要因推定部136による判別には必ずしも必要ではなく、故障要因推定部136は、振動ベクトル導出部132により導出され演算結果記憶部125に記憶された振動ベクトル、および、差分ベクトル算出部133により算出され演算結果記憶部125に記憶された差分ベクトルを用いて直接、判別を行うことができる。
【0105】
進行制御部137は、故障要因推定部136によるいずれかの判別に該当した場合には、原因の判別が可能であると判定する。また、故障要因推定部136によるいずれの判別にも該当しなかった場合には、進行制御部137は、原因の判別が可能であると判定しない。
【0106】
ステップS49で、進行制御部137により原因の判別可能かと判定されなかった場合(ステップS49 NO)、判定不可を出力部140に出力し、出力部140がその旨を表示する(ステップS50)。そののち、ステップS53に移行する。あるいは、ステップS49から直接ステップS53に移行して、判別を継続してもよい。
【0107】
ステップS49で、進行制御部137により原因の判別可能かと判定された場合(ステップS49 YES)、いずれかの原因事象に該当するか否かを判定する(ステップS51)。すなわち、進行制御部137は、故障要因推定部136による判定の結果、図11ないし図13に示すケースのいずれかに該当すると判別されたか否かを判定する。
【0108】
ステップS51で、進行制御部137により、いずれかの原因事象であると判定された場合(ステップS51 YES)、不釣り合い位置の推定を行う(ステップS52)。不釣り合い位置の推定については、ステップS23における不釣り合い位置の算出の内容と同様であるので、説明を省略する。不釣り合い位置の推定ステップS52の後には、ステップS53に移行する。
【0109】
ステップS51で、進行制御部137により、いずれかの原因事象であると判定されなかった場合(ステップS51 NO)、直接にステップS53に移行する。
【0110】
ステップS53では、運転継続するか否かを判定する。通常は、異常が発生した場合、回転機械10に関する運転は継続せずに、運転を停止するが、念のため、判定ステップを設ける。このステップにおいては、ユーザーインターフェイスを用いて、状況の表示により、運転員が停止操作を行ってもよい。あるいは、原因別に自動的に運転継続とする場合と、自動的に運転停止をする場合とを振り分けてもよい。運転継続とする場合(ステップS53 YES)は、図8のステップS12に移行する。
【0111】
以上のように、回転機械10の回転数の変化中、および定格回転運転中のいずれにおいても、回転部10aのアンバランス発生事象に関して、故障発生箇所の特定および故障要因の推定が可能となる。
【0112】
[第2の実施形態]
図14は、第2の実施形態に係る回転機械診断方法の全体の手順を示すフロー図である。
【0113】
本実施形態では、回転部10aの回転速度が変化する際の危険速度時の振動ベクトルを抽出して評価することを特徴する。このため、ステップS21の前に、回転部10aの回転数が危険速か否かの判定ステップ(S24)が追加されている。
【0114】
回転数の上昇の際には、回転部10aの危険速度で回転数上昇を停止することはなく、危険速度を通過するのが一般的な運用である。一方、サンプリング間隔が粗いと実際に回転数が一致するタイミングでのデータ採取は難しい。また、危険速度時に振幅と位相の値が大きく変わり、その前後のデータで代用すると最終的な検知精度が悪化する懸念がある。
【0115】
このような背景により、進行制御部137は、入力部110で受け入れた回転部10aの回転数が危険速素を通過したことを判定し、故障要因推定部136が、危険速度通過時の前後の振動ベクトル導出部132により得られた結果を用いて補間を行い、危険速度の回転数での振幅、位相を算出する。
【0116】
本実施形態では、振幅値が大きくなる危険速度で評価することから、回転部10aの不釣り合いの故障事象が発生した際の振動変化への感度が高く、検知の精度が上がることとなる。また、記憶部120に保存する計測データの容量も減らすことができる。
【0117】
[第3の実施形態]
図15は、第3の実施形態に係る回転機械診断装置100aの構成を示すブロック図である。本実施形態は、第1の実施形態の変形であり、第1の実施形態におけるポーラル線図に基づく代わりに、振動ベクトルの移動速度、移動加速度、方向変化率を用いて、振動モードを識別し、故障要因を推定する。
【0118】
回転機械診断装置100aにおいて、記憶部120は、判定テーブル収納部126をさらに有し、演算部130はデータ処理部138をさらに有し、故障要因推定部136に代えて故障要因推定部136aを、また、進行制御部137に代えて進行制御部137aを有する。判定テーブル収納部126は、判定テーブルを収納する。判定テーブルは、後述する第1の判定テーブル126a、第2の判定テーブル126b、および第3の判定テーブル126cを含む。
【0119】
まず、以下に、データ処理部138による処理について、説明する。
【0120】
(1)位相データの平均値を算出する前に、位相が0度(360度)をまたぐ際に、平均値が異常値となるのを避けるため、以下の前処理を行う。
【0121】
平均対象となる位相データを、時系列で、Θ、Θ、…、Θとして、i=2~Nについて、順に下記の処理を行う。
【0122】
Θ-Θi-1>180度の場合、Θを次に置き換える。
Θ-360×int((Θ-Θi-1+180)/360)
Θ-Θi-1<180度の場合、Θを次に置き換える。
Θ+360×int((Θ-Θi-1+180)/360)
いずれでもない場合は、Θをそのままとする。
ただし、int(x)は、xを超えない最大の整数を示す。
【0123】
(2)振幅a、位相Θに対し、過去N回分のデータから平均値を算出する。ここで、mは現在の時刻のデータの番号を表す。また、位相Θは、(1)で前処理した値を用いる。
【0124】
なお、平均回数は、Ave_Countの値で、次の式(19)、(20)ではNと表記する。
A=Σa/N …(19)
Θ=ΣΘ/N …(20)
【0125】
ここで、Σは、i=m-N+1からi=mまでの総和を意味するものとする。
【0126】
(3)次の式(21)、(22)によって、平均後の振幅a、位相Θを直行座標系の値X、Yに変換する。
X=Acos(Θ×π/180) …(21)
Y=Asin(Θ×π/180) …(22)
【0127】
(4)求めた平均値から、次の式(23)、(24)により振動ベクトル変化を算出する。
ΔX=X-Xi-1 …(23)
ΔY=Y-Yi-1 …(24)
【0128】
図16は、第3の実施形態に係る回転機械診断方法のうちのデータ処理部による処理の説明図である。
【0129】
例えば、N=20の場合、X、Yは19回前から現在までの20回分の平均値、Xi―1、Yi―1は39回前から20回前までの20回分の平均値、Xi―2、Yi―2は59回前から40回前までの20回分の平均値、ΔX、ΔYは、それらの差分となる。
【0130】
(5)ポーラル線図上の移動速度v(ベクトル変化の大きさ)および加速度αの算出を次の式(25)ないし(27)により行う。
=(√〔(ΔX+(ΔY〕)/(N・Δt) …(25)
i―1=(√〔(ΔXi―1+(ΔYi―1〕)/(N・Δt) …(26)
α=(v-vi-1)/(N・Δt) …(27)
ただし、Δtは、データサンプリング周期(単位:分)、Nは平均回数である。
【0131】
(6)ベクトル変化の方向Φ、および、方向の変化率βの算出を行う。
【0132】
前述の(4)で得られたΔX、ΔYから、次の式(28)によりベクトル変化の方向Φを計算する。
Φ=90-tan―1〔(ΔX/ΔY)×(180/π)〕
(ΔY>0の場合)
=270-tan―1〔(ΔX/ΔY)×(180/π)〕
(ΔY<0の場合)
=0 Y=0、ΔX>0の場合)
=180 Y=0、ΔX<0の場合) …(28)
【0133】
方向の変化ΔΦについては、前後で0度(360度)をまたぐケース考慮して、以下の式(29)により計算する。
ΔΦ=Φ-Φi-1 (―180≦Φ-Φi-1≦180の場合)
=Φ-Φi-1-360 (Φ-Φi-1>180の場合)
=Φ-Φi-1+360 (Φ-Φi-1<180の場合) …(29)
【0134】
得られたΔΦより、単位時間(たとえば1分)あたりの方向変化率βを次の式(30)により算出する。
β=ΔΦ/(N・Δt) …(30)
【0135】
図17は、第3の実施形態に係る回転機械診断方法のうちの定格回転運転時の故障発生個所の特定および診断方法における判定条件を示す第1の判定テーブル126aである。第1の判定テーブル126aは、判定テーブル収納部126に収納されている。この判定テーブルは、図10のステップS49に対応する段階で用いるものである。
【0136】
上述のように求めた振動ベクトルのポーラル線図上の移動速度v、移動加速度α、方向変化率βを用いて、第1の判定テーブル126aにしたがって判定する。
【0137】
第1の判定テーブル126aの第1列の、サーマル振動、サイクリック振動(ハードラブ、ソフトラブ)、いずれにも該当せずの項目は、原因の区分である。第2列から第4列は、判定パラメータの移動速度v、移動加速度α、方向変化率βである。第5列から第7列は、判定結果を示す。第1の判定テーブル126a中で、「1を加算」とあるのは、入力値として読みこんだ前回の判定結果に1を加算することを意味する。つまり、判定結果の数値は、連続して判定された回数を示すことになる。
【0138】
判定に用いるしきい値(v、β、α)は、振動計16ごとに、個別に設定できるものとする。
【0139】
故障要因推定部136aは、図17に示す第1の判定テーブル126aにしたがって、以下のように判定処理する。ここで、故障要因推定部136aは、振動計16ごとに、サーマル振動判定、サイクリック振動(ハードラブ)判定およびサイクリック振動(ソフトラブ)判定のカウンタを収納する。
(1)v≧vt0、β≦β、の場合は、サーマル振動判定に1を加算する。
(2)v≧vc0、β≧β、α≧αの場合は、サイクリック振動(ハードラブ)判定に1を加算する。
(3)v≧vc0、β≧β、α<αの場合は、サイクリック振動(ソフトラブ)判定に1を加算する。
(4)(v<vt0、β<β)または(v<vc0、β≧β)の場合は、いずれにも該当しない。
【0140】
図18は、第3の実施形態に係る回転機械診断方法のうちの定格回転運転時の故障発生個所の特定および診断方法における判定条件を示す第2の判定テーブルである。
【0141】
第2の判定テーブル126bは、ステップS49において第1の判定テーブル126aを用いた判定を行う際の条件を補足するものである。すなわち、サーマル振動判定においては、各軸受・方向におけるサーマル振動判定結果の最大値を用いる。サイクリック振動(ハードラブ)判定においては、各軸受・方向におけるサイクリック振動(ハードラブ)判定結果の最大値を用いる。また、サイクリック振動(ソフトラブ)判定においては、各軸受・方向におけるサイクリック振動(ソフトラブ)判定結果の最大値を用いる。また、以上の各判定の処理としては、次の(a)、(b)となる。
【0142】
(a)上記3件の判定結果のうち、0と判定された数が、0もしくは1の場合は、判定の結果、サーマル振動、サイクリック振動ハードラブ、サイクリック振動ソフトラブの中の2つもしくはすべての振動事象が発生しているという状態である。この場合は要因判定中判定に1を加算する。なお、図19に示す第3の判定テーブルの「要因評価中判定結果」が1または2に該当することになり、経過観察のために「何もしない旨を出力」となる。その後、再度評価サイクルを回して、3度この判定となったら、判定不可出力の処理を行う流れとなる。
【0143】
(b)上記3件の判定結果のうち、0と判定された数が、2もしくは3の場合は、判定結果は0となる。この場合は、サーマル振動、サイクリック振動ハードラブ、サイクリック振動ソフトラブのどれか1つだけが発生している状態かいずれも発生していないか、どちらかの判定となる。この場合は、図19に示す第3の判定テーブルの「要因評価中判定結果」が0に該当することになり、改めて判定がなされることになる。
【0144】
図19は、第3の実施形態に係る回転機械診断方法のうちの定格回転運転時の故障発生個所の特定および診断方法における判定条件を示す第3の判定テーブルである。
【0145】
進行制御部137aは、第1の判定テーブル126aおよび第2の判定テーブル126bによる判定結果に基づいて、図18に示す第3の判定テーブル126cにしたがって、以下のように総合判定を行う。すなわち、第3の判定テーブル126cは、図10のステップS51に対応する段階で用いるものである。
【0146】
図19に示す第3の判定テーブル126cは、サーマル振動についての例を示しており、サイクリック振動(ソフトラブ)およびサイクリック振動(ハードラブ)についても、それぞれ同様のテーブルが準備されているが、説明を省略する。以下は、サーマル振動についての例を説明する。
【0147】
第3の判定テーブル126cの第1列は、ステップS49におけるサーマル振動についての要因評価中判定結果であり、各行は、その回数の分類である。第2列は、サーマル振動以外の他の判定結果である。第3列は、それぞれのケースについての処理を示す。
【0148】
すべての軸受・方向において、サーマル振動についての判定結果が0のケースにおいては、サイクリック振動(ハードラブ)判定が0、かつサイクリック振動(ソフトラブ)判定が0、かつサーマル振動判定が0の場合は、何もしない旨を出力する。また、サイクリック振動(ハードラブ)判定が0より大、サイクリック振動(ソフトラブ)判定が0より大、サーマル振動判定が0より大のいずれかである場合は、不釣り合い位置推定ステップへ進む。
【0149】
すべての軸受・方向において、サーマル振動についての判定回数が1または2の場合は、何もしない旨を出力する。
【0150】
すべての軸受・方向において、サーマル振動についての判定回数が3以上の場合は、判定不可の旨を出力する。
【0151】
すべての軸受・方向において、当該事象の判定回数が1または2の場合は、何もしない旨を出力する。
【0152】
すべての軸受・方向において、当該事象の判定回数が3以上の場合は、判定不可の旨を出力する。
【0153】
なお、以上説明した、第1の判定テーブル126a、第2の判定テーブル126b、および第3の判定テーブル126cのそれぞれによる振動モードの判定結果は、演算結果記憶部125に収納、保存され、出力部140により出力、表示可能である。
【0154】
以上のように、本実施形態においては、判定用のテーブルを収納し、効率的に判定が可能となる。
【0155】
以上、説明した実施形態によれば、ロータのアンバランス発生事象に関して、故障発生箇所の特定および故障要因の推定を可能とする回転機械診断装置および回転機械診断方法を提供することができる。
[その他の実施形態]
【0156】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。また、各実施形態は互いに背反する構成ではないことから、複数のあるいはすべての実施形態の特徴を組み合わせてもよい。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0157】
10…回転機械、10a…回転部、10b…スリット、10c…反射テープ、11…ロータシャフト、12…低圧タービン、13…発電機、14…励磁装置、15…軸受、16…振動計、17…位相検出器、17a…基準マーカ、17b…パルス検出器、18…回転数計、100…回転機械診断装置、110…入力部、120…記憶部、121…参照データ記憶部、121a…判定テーブル、122…影響係数行列記憶部、123…振動データ記憶部、124…位相記憶部、125…演算結果記憶部、126…判定テーブル収納部、130…演算部、131…位相算出部、132…振動ベクトル導出部、133…差分ベクトル算出部、134…ポーラル線図用データ作成部、135…不釣り合い算出部、136…故障要因推定部、137…進行制御部、138…データ処理部、140…出力部、150…タイムカウンタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19