(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080396
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】洗掘防止マットの設置方法、洗掘防止工の施工方法および洗掘防止マット
(51)【国際特許分類】
E02D 27/32 20060101AFI20240606BHJP
E02D 27/52 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
E02D27/32 Z
E02D27/52 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193549
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000230711
【氏名又は名称】日本海上工事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 聡
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 栄治
(72)【発明者】
【氏名】荒川 研佑
(72)【発明者】
【氏名】山本 正嗣
(72)【発明者】
【氏名】岸田 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】後藤 大明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 真大
【テーマコード(参考)】
2D046
【Fターム(参考)】
2D046DA05
2D046DA61
(57)【要約】
【課題】洗掘防止マットを損傷を防止しつつ安定した姿勢で吊り下げて水底に設置できる洗掘防止マットの設置方法、洗掘防止工の施工方法および洗掘防止マットを提供する。
【解決手段】洗掘防止マット1は、中央に孔3が形成されたマット本体2と、マット本体2の外縁4側と内縁5側のそれぞれにおいて周方向に所定の間隔で露出する複数の吊り部6、7とを具備する。洗掘防止工36を施工するには、まず、マット本体2の外縁4側の吊り部6を吊り下げる外枠14と内縁5側の吊り部7を吊り下げる内枠15とからなる吊り天秤13を用いて、洗掘防止マット1を水底に吊り下ろして設置する。その後、洗掘防止マット1の孔3を貫通するように、杭状の水中構造体を打設し、マット本体2の内縁5と水中構造体との隙間の上方に、網体に石又は砕石が充填されたフィルターユニット33を設置する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底への洗掘防止マットの設置方法であって、
洗掘防止マットは、
中央に孔が形成されたマット本体と、
前記マット本体の外縁側と内縁側のそれぞれにおいて、周方向に所定の間隔で露出する複数の吊り部と、
を具備し、
前記マット本体の外縁側に露出する前記吊り部を吊り下げる外枠と、前記マット本体の内縁側に露出する前記吊り部を吊り下げる内枠とからなる吊り天秤を用いて、前記洗掘防止マットを水底に吊り下ろすことを特徴とする洗掘防止マットの設置方法。
【請求項2】
前記吊り天秤は、前記吊り部が水底に着底後に解除するオートリリース機構を有することを特徴とする請求項1記載の洗掘防止マットの設置方法。
【請求項3】
前記オートリリース機構は、前記外枠及び前記内枠のそれぞれに対して周方向に移動する移動部材を有し、前記移動部材の周方向の位置によって前記吊り部を吊り下げる吊り部材を動作させ、前記吊り部材が前記吊り部を引っ掛けた状態と前記吊り部から抜けた状態とを切り替え可能であり、
前記移動部材を周方向に移動させることで、前記外枠に吊り下げられた複数の前記吊り部と、前記内枠に吊り下げられた複数の前記吊り部を、それぞれ一括して解除可能であることを特徴とする請求項2記載の洗掘防止マットの設置方法。
【請求項4】
前記マット本体の内縁側と外縁側にまたがるように、前記マット本体の内部にワイヤが埋設され、
前記吊り部が、前記ワイヤの両端部に設けられて、前記マット本体の内縁側と外縁側において露出することを特徴とする請求項1記載の洗掘防止マットの設置方法。
【請求項5】
前記ワイヤは、一方の端部に前記マット本体の内縁側に露出する一つの前記吊り部が設けられ、他方の端部に前記マット本体の外縁側に露出する複数の前記吊り部が設けられることを特徴とする請求項4記載の洗掘防止マットの設置方法。
【請求項6】
前記洗掘防止マットの内周部から外周部までの径方向の長さに対して、前記吊り天秤の前記外枠と前記内枠との径方向の距離が大きいことを特徴とする請求項1記載の洗掘防止マットの設置方法。
【請求項7】
前記洗掘防止マットの内周部から外周部までの径方向の長さに対して、前記吊り天秤の前記外枠と前記内枠との径方向の距離が小さいことを特徴とする請求項1記載の洗掘防止マットの設置方法。
【請求項8】
水中構造体の周囲の水底に形成される洗掘防止工の施工方法であって、
中央に孔が形成されたマット本体と、前記マット本体の外縁側と内縁側のそれぞれにおいて周方向に所定の間隔で露出する複数の吊り部とを具備する洗掘防止マットを水底に設置する工程aと、
前記洗掘防止マットの孔を貫通するように、杭状の水中構造体を打設する工程bと、
前記マット本体の内縁と前記水中構造体との隙間の上方に、網体に石又は砕石が充填されたフィルターユニットを設置する工程cと、
を具備し、
前記工程aにおいて、前記マット本体の外縁側に露出する前記吊り部を吊り下げる外枠と、前記マット本体の内縁側に露出する前記吊り部を吊り下げる内枠とからなる吊り天秤を用いて、前記洗掘防止マットを水底に吊り下ろすことを特徴とする洗掘防止工の施工方法。
【請求項9】
水中構造体の周囲の水底に設置される洗掘防止マットであって、
中央に孔が形成されたマット本体と、
前記マット本体の内縁側と外縁側にまたがるように、前記マット本体の内部に埋設されたワイヤと、
前記ワイヤの両端部に設けられて、前記マット本体の外縁側と内縁側のそれぞれにおいて、周方向に所定の間隔で露出する複数の吊り部と、
を具備することを特徴とする洗掘防止マット。
【請求項10】
前記ワイヤは、一方の端部に前記マット本体の内縁側に露出する一つの前記吊り部が設けられ、他方の端部に前記マット本体の外縁側に露出する複数の前記吊り部が設けられることを特徴とする請求項9記載の洗掘防止マット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗掘防止マットの設置方法、洗掘防止工の施工方法および洗掘防止マットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、洋上風力発電施設の杭等の基礎や、堤防や橋脚では、周辺の砂泥分が水の流れで吸い出されたり掘り込まれたりする洗掘現象が問題となっている。この現象は、構造物による局所的な水流の乱れに伴う加速、渦の発生によるものである。洗掘を防止するための洗掘防止工として、不透水性のシートやマット等の被覆体を短冊状にして水底に設置し、継ぎ目に錘を設置するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の洗掘防止工では、シートやマット等の被覆体を短冊状にするため、継ぎ目の処理が必要となり、継ぎ目からの砂の吸出しの恐れがある。
【0005】
一方、短冊ではなく一体で敷設する場合には、このような継ぎ目の問題はないが、水中構造体の大型化に伴い、洗掘防止工も大きくする必要がある。大きな円形もしくは多角形の大面積で重いマットを敷設する際、マットを外縁のみで吊ることはマット自身の健全性を維持する上で困難である。特に、丸めることが困難なマットの場合には、吊り下げた時の過度の撓みなどにより局部的な曲げやせん断によって被覆体に損傷が生じたり、マットに埋め込まれた吊り金具の部分で洗掘防止マットが破れたりする懸念がある。このため、
図14(a)に示すように洗掘防止マット101に吊り金具102を多数設置して局所的な曲げが生じないようにする必要がある。しかし、洗掘防止マット101内に径及び周方向、格子状、あるいは千鳥状の多数の吊り金具102を配置して、
図14(b)に示すように吊り天秤103で洗掘防止マット101を撓まないように平面状態で吊って水中へ吊り下ろす場合、洗掘防止マット101の下面の水の抵抗や波や水流などにより、多数の吊り金具102が受ける吊り荷重が変動し且つ局部的に大きく不均等になる懸念がある。さらに、水中へ吊り下ろしする前の多数の吊り金具102との接続作業や、洗掘防止マット101を水底へ設置する際に水上から遠隔操作にて吊り金具102を一斉解放するためのオートリリースの問題など、敷設作業が容易ではない。
【0006】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とすることは、洗掘防止マットの損傷を防止しつつ安定した姿勢で吊り下げて水底に設置できる洗掘防止マットの設置方法、洗掘防止工の施工方法および洗掘防止マットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するために第1の発明は、水底への洗掘防止マットの設置方法であって、洗掘防止マットは、中央に孔が形成されたマット本体と、前記マット本体の外縁側と内縁側のそれぞれにおいて、周方向に所定の間隔で露出する複数の吊り部と、を具備し、前記マット本体の外縁側に露出する前記吊り部を吊り下げる外枠と、前記マット本体の内縁側に露出する前記吊り部を吊り下げる内枠とからなる吊り天秤を用いて、前記洗掘防止マットを水底に吊り下ろすことを特徴とする洗掘防止マットの設置方法である。
【0008】
第1の発明では、中央に孔が形成されたマット本体の外縁側と内縁側のそれぞれに複数の吊り部を設け、外枠と内枠とからなる吊り天秤で吊り部を吊り下げる。これによりマット内に多数の吊り金具を設けた場合と比較して、洗掘防止マットの損傷を防止しつつ安定した姿勢で吊り下げることができる。
【0009】
前記吊り天秤は、前記吊り部が水底に着底後に解除するオートリリース機構を有することが望ましい。
これにより、多数の吊り部を水上から遠隔操作にてダイバー作業なしでリリースすることができるので、施工時の安全性が向上する。この場合でも、外枠と内枠とからなる吊り天秤で吊り部を吊り下げることにより、マット内に多数の吊り金具を設けた場合と比較して吊り部の位置を減らすことができるため、よりリリース漏れ防止の信頼性を高めることができる。
【0010】
前記オートリリース機構は、前記外枠及び前記内枠のそれぞれに対して周方向に移動する移動部材を有し、前記移動部材の周方向の位置によって前記吊り部を吊り下げる吊り部材を動作させ、前記吊り部材が前記吊り部を引っ掛けた状態と前記吊り部から抜けた状態とを切り替え可能であり、前記移動部材を周方向に移動させることで、前記外枠に吊り下げられた複数の前記吊り部と、前記内枠に吊り下げられた複数の前記吊り部を、それぞれ一括して解除可能であることが望ましい。
これにより、全ての吊り部を短時間で確実にリリースすることができる。移動部材は線状あるいは棒状などの部材である。
【0011】
前記マット本体の内縁側と外縁側にまたがるように、前記マット本体の内部にワイヤが埋設され、前記吊り部が、前記ワイヤの両端部に設けられて、前記マット本体の内縁側と外縁側において露出することが望ましい。
これにより、吊り部が負担する荷重がワイヤに伝達されるので、吊り部付近のマット本体の破損を防ぐことができる。ワイヤは合成繊維などのロープやスリングでもよい。また、内外のワイヤ端部がマットから抜け出すような損傷モードに至らせないため、ワイヤ直上のマット内部の直交する方向に、補強材として帯鋼板や補強ワイヤなどを配置してもよい。
【0012】
前記ワイヤは、一方の端部に前記マット本体の内縁側に露出する一つの前記吊り部が設けられ、他方の端部に前記マット本体の外縁側に露出する複数の前記吊り部が設けられてもよい。
これにより、マット本体の外縁側に吊り部を密に配置できるので、内縁側の吊り部を増やすことなく、吊り下げ時にマット本体の外縁側の過度の変形を抑制でき、それに伴うマット本体の損傷を防止できる。
【0013】
第1の発明では、例えば、前記洗掘防止マットの内周部から外周部までの径方向の長さに対して、前記吊り天秤の前記外枠と前記内枠との径方向の距離を大きくすることができる。
これにより、吊り下げ時に洗掘防止マットの撓みが小さくなり、過度のたわみ、撚れ、または捻じれといった変形を抑制できる。また、横からの波、水の流れに対して抵抗が小さくなる。
【0014】
第1の発明では、前記洗掘防止マットの内周部から外周部までの径方向の長さに対して、前記吊り天秤の前記外枠と前記内枠との径方向の距離を小さくすることもできる。
これにより、吊り下げ時に洗掘防止マットの撓みが大きくなり、沈降させる時の水の抵抗が小さくなる。
【0015】
さらに、第1の発明では、吊り天秤の外枠と内枠において、オートリリース機構とは別に回転機構を設けることで、外枠側の吊り部材と内枠側の吊り部材との径方向の距離と洗掘防止マットの張力を調整できる。
【0016】
第2の発明は、水中構造体の周囲の水底に形成される洗掘防止工の施工方法であって、中央に孔が形成されたマット本体と、前記マット本体の外縁側と内縁側のそれぞれにおいて周方向に所定の間隔で露出する複数の吊り部とを具備する洗掘防止マットを水底に設置する工程aと、前記洗掘防止マットの孔を貫通するように、杭状の水中構造体を打設する工程bと、前記マット本体の内縁と前記水中構造体との隙間の上方に、網体に石又は砕石が充填されたフィルターユニットを設置する工程cと、を具備し、前記工程aにおいて、前記マット本体の外縁側に露出する前記吊り部を吊り下げる外枠と、前記マット本体の内縁側に露出する前記吊り部を吊り下げる内枠とからなる吊り天秤を用いて、前記洗掘防止マットを水底に吊り下ろすことを特徴とする洗掘防止工の施工方法である。なお、隙間上方のフィルターユニットについては例であり、これに代わる重量を有し且つ砂の吸出し防止の機構を備えるものであればよい。
【0017】
第2の発明では、水底に設置した洗掘防止マットの孔を通して基礎杭などの水中構造体を打設することで、水中構造体の打設時にマットの孔を目印として用いることができ、洗掘防止工を効率よく施工できる。また、中央に孔が形成されたマット本体の外縁側と内縁側のそれぞれに複数の吊り部を設け、外枠と内枠とからなる吊り天秤で吊り部を吊り下げることにより、マット内に多数の吊り金具を設けた場合と比較して、洗掘防止マットの損傷を防止しつつ安定した姿勢で吊り下げることができる。
【0018】
第3の発明は、水中構造体の周囲の水底に設置される洗掘防止マットであって、中央に孔が形成されたマット本体と、前記マット本体の内縁側と外縁側にまたがるように、前記マット本体の内部に埋設されたワイヤと、前記ワイヤの両端部に設けられて、前記マット本体の外縁側と内縁側のそれぞれにおいて、周方向に所定の間隔で露出する複数の吊り部と、を具備することを特徴とする洗掘防止マットである。
【0019】
第3の発明の洗掘防止マットは、中央に孔が形成されたマット本体の外縁側と内縁側にまたがるようにワイヤを埋設し、ワイヤの外縁側と内縁側のそれぞれに複数の吊り部を設けることにより、マット本体の健全性を確保すると同時に多少の撓みを許容して吊り下げることができる。
【0020】
前記ワイヤは、一方の端部に前記マット本体の内縁側に露出する一つの前記吊り部が設けられ、他方の端部に前記マット本体の外縁側に露出する複数の前記吊り部が設けられてもよい。
これにより、マット本体の外縁側に吊り部を密に配置できるので、吊り下げ時に洗掘防止マットの変形を抑制できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、洗掘防止マットを損傷を防止しつつ安定した姿勢で吊り下げて水底に設置できる洗掘防止マットの設置方法、洗掘防止工の施工方法および洗掘防止マットを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】(a)は洗掘防止マット1を上方から見た図、(b)は(a)の矢印A-Aによる断面図。
【
図2】(a)は吊り天秤13の斜視図、(b)は吊り天秤13を下方から見た図。
【
図3】(a)は洗掘防止マット1の吊り上げ前と敷設後の、吊り部材19が吊り部6から抜けた状態を示す図、(b)は吊り部材19が吊り部6を引っ掛けた状態を示す図。
【
図4】(a)は洗掘防止マット1の吊り下げ前の状態を示す図、(b)は洗掘防止マット1を吊り下げた状態を示す図。
【
図5】(a)は洗掘防止マット1を水底に設置した状態を示す図、(b)は基礎杭32を打設した状態を示す図、(c)は洗掘防止工36の施工を完了した状態を示す図。
【
図6】吊り天秤13bに洗掘防止マット1eを吊り下げた状態を示す図。
【
図7】(a)は洗掘防止マット1aを示す図、(b)は洗掘防止マット1bを示す図、(c)は洗掘防止マット1cを示す図。
【
図8】(a)(b)は距離26-1が長さ26-2より大きい例を示す図、(c)(d)は距離26-1が長さ26-2より小さい例を示す図、(e)(f)は距離26-1を調整する機構を設けた例を示す図。
【
図9】(a)は洗掘防止マット1dを上方から見た図、(b)は吊り天秤13aを上方から見た図、(c)は吊り部材19aが吊り部6を引っ掛けた状態を示す図。
【
図10】(a)は吊り天秤47に洗掘防止マット41を吊り下げた状態を示す図、(b)(c)は洗掘防止マット41を水底に設置している状態を示す図。
【
図11】洗掘防止マット41aを地盤31に分割設置した状態を示す図。
【
図12】(a)は吊り天秤47aに洗掘防止マット41bを吊り下げた状態を示す図、(b)は吊り天秤47aに洗掘防止マット41cを吊り下げた状態を示す図。
【
図13】(a)は折れ線部39をスリット53とスリット54で形成した例を示す図、(b)は折れ線部39を縁切り材55とスリット54で形成した例を示す図。
【
図14】(a)は洗掘防止マット101を上方から見た図、(b)は吊り天秤103で洗掘防止マット101を吊った状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0024】
[第1の実施形態]
図1は、洗掘防止マット1を示す図である。第1の実施形態では、洗掘防止マット1の構成、洗掘防止マット1の水底への設置方法、洗掘防止マット1を用いて水中構造体の周囲の水底に形成される洗掘防止工の施工方法について説明する。
【0025】
図1(a)に示すように、洗掘防止マット1は、マット本体2、ワイヤ8、吊り部6、吊り部7等からなる。マット本体2は、例えば不透水性のアスファルト(以下Asとする)マットである。マット本体2は、外形が略円形状であり、中央に略円形の孔3が形成される。なお、マット本体の外形および内形は多角形であってもよい。ワイヤ8は、マット本体2の内縁5側と外縁4側にまたがるように、マット本体2の内部に埋設される。吊り部6は、マット本体2の外縁4側において、ワイヤ8の端部に設けられて周方向に所定の間隔で露出する。吊り部7は、マット本体2の内縁5側において、ワイヤ8の端部に設けられて周方向に所定の間隔で露出する。吊り部6、7は、例えばワイヤ8の端部を環状に形成したものである。マット本体2は、外縁4付近においてワイヤ8同士の間に複数の外縁孔34が形成される。複数の外縁孔34は、例えば、孔3と同心の二重円上に位置する。
【0026】
図1(b)に示すように、マット本体2は、As下層9とAs上層11との間に補強網10が配置される。補強網10は、例えばガラス繊維テープ網である。ワイヤ8は、As下層9と補強網10との間に配置される。マット本体2の外縁4付近および内縁5付近では、ワイヤ8とAs上層11との間に補強材12が配置される。補強材12は、平面視においてワイヤ8と直交するように配置され、例えば帯鋼板である。
【0027】
吊り部6、7は、ワイヤ8の端部に取り付けた金具やロープ等であってもよい。補強材12は、帯鋼板に限らずワイヤ8と同様の材質であってもよい。マット本体2は、アスファルトマットに限らず、他のマット状の部材や、シート状の部材であってもよい。
【0028】
図2は、吊り天秤13を示す図である。吊り天秤13は、
図1に示す洗掘防止マット1を水底に吊り下ろす際に用いられる。吊り天秤13は、マット本体2の外縁4側に露出する吊り部6を吊り下げる外枠14、マット本体2の内縁5側に露出する吊り部7を吊り下げる内枠15、外枠14と内枠15とを連結する繋ぎ材16、外枠14や内枠15を吊り下げるワイヤ17からなる。吊り天秤13は、吊り部6および吊り部7が水底に着底した後に連結を解除するオートリリース機構22を有する。
【0029】
オートリリース機構22は、外枠14と内枠15のそれぞれに設けられる。オートリリース機構22は、移動部材18、吊り部材19、ガイド20等からなる。移動部材18は、外枠14や内枠15に対して周方向に移動する部材である。移動部材18は、例えば環状の丸鋼である。吊り部材19は、移動部材18に、吊り部6や吊り部7と略同等の間隔で固定される。ガイド20は、外枠14や内枠15に固定され、内部に移動部材18が挿通される。
【0030】
図3(a)、
図3(b)は、オートリリース機構22の詳細を示す図であり、
図2(b)に示す外枠14の範囲Bを拡大した図である。なお、
図3(a)は、洗掘防止マット1の吊り上げ前と敷設後の、吊り具との連結を解除した状態を示す図、
図3(b)は、吊り具と連結した状態を示す図である。
図3に示すように、オートリリース機構22は、上記した移動部材18や吊り部材19等の他に、油圧ジャッキ27、連結部材28、仕切り板29、仕切り板30、スリング23等をさらに有する。
【0031】
油圧ジャッキ27は、一端が外枠14に固定され、他端が連結部材28によって移動部材18と連動する。移動部材18は、油圧ジャッキ27を伸縮させることによりガイド20(
図2(b))内を周方向に移動する。油圧ジャッキ27は、移動部材18を偏心せずに滑らかに回転移動させるため、外枠14の複数箇所に設けることが望ましい。また、ガイド20の内周面は、移動部材18の滑りをよくするために、フッ素樹脂加工をしたり、フッ素樹脂等の摩擦係数の小さい材料による円環を内包したりすることが望ましい。
【0032】
吊り部材19は、例えば略90度に曲げられた丸鋼である。仕切り板29と仕切り板30は、外枠14に所定の間隔で固定され、吊り部材19の一部(移動部材18と略平行な部分)を挿通可能である。スリング23は、一端が仕切り板29に連結され、他端に環状部21を有する。なお、内枠15に設けられるオートリリース機構22も同様の構成である。
【0033】
オートリリース機構22は、移動部材18の周方向の位置によって吊り部材19を動作させ、吊り部材19がスリング23および環状部21を介して、吊り部6、7を引っ掛けた状態と吊り部6、7から抜けた状態とを切り替え可能である。例えば、吊り部材19が吊り部6を引っ掛けた状態とするには、
図3(b)に示すように、油圧ジャッキ27を縮めて移動部材18の周方向の所定位置に移動させる。この際、吊り部材19も移動部材18とともに移動して、吊り部材19の先端が仕切り板30を挿通して右側に突出し、仕切り板29に挿入または押しつけられる。すなわち、吊り部材19が仕切り板29、30に挿入される。この際、仕切り板29、30の間において、吊り部材19に、吊り部6に通したスリング23の環状部21を通しておくことで、吊り部6と吊り部材19とが連結される。
【0034】
また、吊り部材19が吊り部6から抜けた状態とするには、
図3(a)に示すように、油圧ジャッキ27を伸長して移動部材18の周方向の位置を移動させて、これにより吊り部材19の先端を仕切り板29から抜く。なお、この状態でも吊り部材19は仕切り板30には挿通状態を維持する。吊り部材19の一端が仕切り板29から抜けることで、スリング23の環状部21が吊り部材19から抜き取られる。このため、吊り天秤13を上昇させることで、スリング23を吊り部6から取り外すことができる。
【0035】
図4は、洗掘防止マット1および吊り天秤13の鉛直方向の断面図である。洗掘防止マット1を吊り天秤13で吊り下げるには、
図4(a)に示すように洗掘防止マット1の上方に吊り天秤13を配置する。そして、
図4(b)に示すように吊り部6を外枠14の吊り部材19に、吊り部7を内枠15の吊り部材19に、スリング23を用いて引っ掛ける。吊り天秤13の外枠14と内枠15との径方向の距離26-1と、洗掘防止マット1の内周部25から外周部24までの径方向の長さ26-2(吊り部7の端部から吊り部6の端部までの長さ)とは、略同等である。そのため、洗掘防止マット1は適度に撓んだ状態で吊り天秤13に吊り下げられる。
【0036】
洗掘防止マット1を吊り下げると、吊り部6、7に作用する力がワイヤ8に伝達され、ワイヤ8によってマット本体2に局所的な引き上げ力が作用する。補強材12は、この局所的な引き上げ力によるマット本体2の損傷を防止する。また、補強網10は、マット本体2の撓みによるひび割れとワイヤの抜けを防止する。
【0037】
図5は、洗掘防止工36の施工方法を示す図である。
図5は、施工時の各工程における鉛直方向の断面を示す。洗掘防止工36は、水中構造体である基礎杭32の周囲の水底の地盤31に形成される。
【0038】
洗掘防止工36を施工するには、まず、起重機船等のクレーン機能を用いて、
図4(b)に示すように吊り天秤13に洗掘防止マット1を吊り下げ、水底に吊り下ろして着底させる。そして、吊り天秤13の外枠14および内枠15のオートリリース機構22の移動部材18を、
図2(b)の矢印Cに示すように周方向に移動させる。これと吊り天秤13の上昇により、外枠14に吊り下げられた複数の吊り部6と連結したスリング23が吊り部材19から一括して抜け、内枠15に吊り下げられた複数の吊り部7と連結したスリング23も吊り部材19から一括して抜ける。すなわち、吊り部6、7が吊り部材19で吊られた状態から解除される。その後、スリング23と共に吊り天秤13を水上に回収し、
図5(a)に示すように洗掘防止マット1の水底の地盤31上への設置を完了する。
【0039】
次に、自己昇降式作業台船(SEP)等を用いて、
図5(b)に示すように洗掘防止マット1の孔3を貫通するように杭状の基礎杭32を打設する。このとき、孔3を基礎杭32の打設位置の目印とすることができるが、
図5(a)に示すように孔3の縁に目印用の短いロープ付きのフロート37を3ないしは4ヶ所以上付けておくと、ライト及び可視光カメラ、または音響カメラにより、基礎杭32の打設位置がより明確に検知可能になる。また、孔3の縁に水中測位装置のトランスポンダーを2ないしは3ヶ所以上付けておいてもよい。基礎杭32を打設したら、マット本体2の内縁5と基礎杭32との隙間の上方に、
図5(c)に示すようにフィルターユニット33を設置し、洗掘防止工36の施工を完了する。なお、フィルターユニット33は、袋状の網体に石又は砕石が充填されたものであり、隣接するフィルターユニット33同士を交互に重ねる様に配置するとよい。
【0040】
洗掘防止工36では、洗掘防止マット1の外縁4付近に形成された複数の外縁孔34(
図1(a))を介して地盤31から砂が吸出されることにより、洗掘防止マット1の外縁4の地盤31への撓み込みが促進され、洗掘防止マット1の下面への水流の浸入する隙間を無くすと共に洗掘防止マット1の端部の水流による捲れが防止される。
【0041】
このように、第1の実施形態の洗掘防止マット1は、中央に孔3が形成されたマット本体2の外縁4側において周方向に所定の間隔で複数の吊り部6が露出し、内縁5側において周方向に所定の間隔で吊り部7が露出する。また、洗掘防止マット1を、外枠14と内枠15とからなる吊り天秤13で吊り下ろして水底に設置する。このように、外縁4と内縁5とを吊り天秤13で吊り下げることで、吊り具の間隔を減らして、洗掘防止マット1を、マット本体2の健全性を確保しつつ吊り下げることができる。例えば、従来のようにマット内に多数の吊り金具を設けた場合には、マットが下面の水圧、波、または水流などで水平方向に揺れやすいが、吊り部6、7をマット本体2の周方向に所定の間隔で設けて吊り天秤13で吊ることで、洗掘防止マット1を安定した姿勢で水中に吊り下ろすことができ、水底の地盤31上での位置決めが容易になる。
【0042】
また、吊り天秤13は、吊り部6、吊り部7を吊った状態から、それぞれ一括して解除可能なオートリリース機構22を有する。これにより、吊り部6、吊り部7をダイバー作業なしの遠隔操作にて短時間で確実にリリースすることができ、施工の安全性が向上する。
【0043】
第1の実施形態の洗掘防止マット1では、マット本体2の内部に内縁5側と外縁4側に跨るように埋設されたワイヤ8の両端に吊り部6、吊り部7がそれぞれ設けられる。これにより、洗掘防止マット1を吊ったときに吊り部6、吊り部7が負担する荷重をワイヤ8に伝達し、マット本体2の破れを防ぐことができる。
【0044】
第1の実施形態の洗掘防止工36の施工方法によれば、洗掘防止マット1の孔3を目印として基礎杭32を打設するので、洗掘防止工36を効率よく施工できる。
【0045】
なお、吊り天秤13に設けるオートリリース機構22は上記したものに限らない。例えば、吊り部6、7を吊り部材19に引っ掛ける方法は
図3に示すものに限らず、スリング等の両端を吊り部材19に通して引っ掛け、吊り天秤13の回収後にスリング等を水底に残置してもよい。また、吊り部6、7を吊り部材19に直接通してもよい。移動部材18は、外枠14や内枠15に対して周方向に移動する部材であればよく、閉合した環状ではなく、弧状に分割配置してもよい。油圧ジャッキ27は、ダイバー不要化を目的とした水上から遠隔操作するための移動または伸縮機構であればよく、水圧ジャッキ等でもよい。
【0046】
第1の実施形態で用いる吊り天秤は、上記したものに限らない。
図6は、他の吊り天秤13bを用いた例を示す図である。
図6に示す洗掘防止マット1eは、マット本体2の吊り部6と吊り部7との間に吊り部58が設けられる。吊り部58は、内包するワイヤ8にアンカリングされたものがよく、マット本体2の上面側に露出する。吊り天秤13bは、外枠14と内枠15との間に中枠57が設けられる。中枠57には、外枠14や内枠15と同様にオートリリース機構22(
図2(b))が設けられる。なお、中間に設ける吊り部58は複数でもよい。
【0047】
図6に示す例では、吊り天秤13bの外枠14、中枠57、内枠15に設けられたオートリリース機構22の吊り部材19が、洗掘防止マット1eの吊り部6、吊り部58、吊り部7をそれぞれ吊り下げる。このように、洗掘防止マット1eの半径方向の3点に吊り部を設けることで、マット本体2の撓みを抑制することができる。また、基礎杭のさらなる大型化に伴うマットのさらなる大型化の際は、この吊り部58や環状の中枠が一つだけでなく複数あった方が望ましい場合もある。
【0048】
第1の実施形態で述べた洗掘防止マット1では、マット本体2と吊り部6、7とワイヤ8が必須であるが、洗掘防止マットの設置方法、洗掘防止工の施工法で用いる洗掘防止マットは、マット本体2と吊り部6、7を具備すればよくワイヤ8は必須ではない。第1の実施形態で述べた洗掘防止マットの設置方法、洗掘防止工の施工法では、後述する第2の実施形態の洗掘防止マットを用いてもよい。
【0049】
以下、本発明の別の例について、第2から第7の実施形態として説明する。第2から第7の実施形態はそれまでに説明した実施形態と異なる点について説明し、同様の構成については図等で同じ符号を付すなどして説明を省略する。また、各実施形態で説明する構成は必要に応じて組み合わせることができる。
【0050】
[第2の実施形態]
図7は、第2の実施形態に係る洗掘防止マット1a、1b、1cを示す図である。第2の実施形態の洗掘防止マット1a、1b、1cは、マット本体2の内縁5側と外縁4側にまたがるようにマット本体2の内部に埋設されたワイヤが必須である。
【0051】
図1に示す洗掘防止マット1において、マット本体2に外縁孔34を設けた場合、マット本体2の外縁4付近の強度が低下することでひび割れが生じる可能性が高まる。また、マット本体2の外縁4側に露出する吊り部6の周方向の間隔が大きい場合、吊り下げた時にマット本体2が大きく撓むことで残留変形やひび割れが生じる可能性が高まる。
図7に示す洗掘防止マット1a、1b、1cは、このような懸念を解消するものである。
【0052】
図7(a)に示す洗掘防止マット1aでは、マット本体2の外縁4付近に形成された外縁孔34より内周側において、マット本体2に環状の鉄筋あるいは補強ワイヤ35が埋設される。補強ワイヤ35は、平面視で一重以上に配置したり、外縁孔34の外側に配置したりしてもよい。補強ワイヤ35を埋設して補強網10(
図1(b))のひび割れ防止機能を補完すれば、外縁孔34を設けた場合にもマット本体2の外縁4近傍のひび割れを防止できる。補強ワイヤ35は、ワイヤ8同士の配置間隔が広い場合のひび割れ防止にも効果がある。
【0053】
図7(b)に示す洗掘防止マット1bでは、ワイヤ8aがV字型に配置され、ワイヤ8aの内縁5側の1ヶ所の端部に吊り部7が設けられ、外縁4側の2ヶ所の端部にそれぞれ吊り部6が設けられる。
図7(c)に示す洗掘防止マット1cでは、ワイヤ8bがY字型に配置され、ワイヤ8bの内縁5側の1ヶ所の端部に吊り部7が設けられ、外縁4側の2ヶ所の端部にそれぞれ吊り部6が設けられる。洗掘防止マット1b、1cでは、マット本体2の外縁4側に露出する吊り部6同士の周方向の間隔が小さくなるので、吊り下げた時のマット本体2の撓みが抑制され、残留変形やひび割れの発生を防止できる。
【0054】
第2の実施形態の洗掘防止マット1a、1b、1cにおいても、第1の実施形態の洗掘防止マット1と同様に、マット本体2の内部に内縁5側と外縁4側に跨るように埋設されたワイヤ8、8a、8bの両端に吊り部6、吊り部7がそれぞれ設けられることにより、吊り部6、吊り部7が負担する荷重をワイヤ8、8a、8bに伝達し、マット本体2の破れを防ぐことができる。
【0055】
[第3の実施形態]
第3の実施形態の洗掘防止マットの設置方法は、吊り天秤13の外枠14と内枠15との距離26-1が、洗掘防止マット1の内周部25から外周部24までの長さ26-2と略同等でない点において、第1の実施形態の洗掘防止マットの設置方法と主に異なる。
【0056】
吊り天秤13で洗掘防止マット1を吊り下げて水底に設置するとき、吊り下げた洗掘防止マット1の撓みが大きすぎると、残留変形やひび割れによってマット本体2の健全性の確保に懸念が生じる。また、吊り下げた洗掘防止マット1の撓みが小さすぎると、水中降下時にマット本体2が大きな水抵抗を受けて動揺しやすくなるので、着底に時間を要したり位置決めが困難となったりする。そのため、吊り天秤13の外枠14と内枠15との距離26-1と、洗掘防止マット1の内周部25から外周部24までの長さ26-2との大小関係は、マット本体2の撓みの許容範囲を考慮して設定することが望ましい。
【0057】
図8は、洗掘防止マット1および吊り天秤の鉛直方向の断面図である。
図8の各図は、
図4の各図の左半分に対応している。
図8(a)に示す例では、外枠14と内枠15との距離26-1が、内周部25から外周部24までの長さ26-2より大きい。この場合、
図8(b)に示すように、吊り下げた時に洗掘防止マット1の撓みが小さくなるので、マット本体2の撚れや捻じれが小さくなり、マット本体2の健全性を確保できる。
【0058】
図8(c)に示す例では、外枠14と内枠15との距離26-1が、内周部25から外周部24までの長さ26-2より小さい。この場合、
図8(d)に示すように、吊り下げた時に洗掘防止マット1の撓みが大きくなるので、水中降下時にマット本体2の下面の水抵抗を矢印の方向に逃すことができ、施工時間が短縮され、位置決めが容易になる。
【0059】
このように、第3の実施形態の洗掘防止マット1の設置方法では、洗掘防止マット1の内周部25から外周部24までの径方向の長さ26-2と、吊り天秤の外枠14と内枠15との径方向の距離26-1との大小関係を適切に設定する。これにより、施工時のマット本体2の損傷を防止し、施工性を向上させることができる。
【0060】
さらに、
図8(e)(f)に示す例では、吊り天秤の外枠14bと内枠15bを多角形とし、外枠14bと内枠15bにオートリリース機構とは別にレバー38等による回転機構を設ける。この回転機構で吊り部材19bの角度を調整すれば、外枠14bの吊り部材19と内枠15bの吊り部材19bとの径方向の距離26-1を調整できる。また、回転機構の回転度合で決まる径方向の距離26-1を予め設定することにより、吊り下げ時の洗掘防止マット1の張力や撓みの調整が可能となる。
【0061】
[第4の実施形態]
図9は、洗掘防止マット1dと吊り天秤13aを示す図である。第4の実施形態の洗掘防止マット1dの水底への設置方法は、洗掘防止マット1dの外形および吊り天秤13aが平面視で多角形状である点で、第1の実施形態の洗掘防止マット1の水底への設置方法と主に異なる。
【0062】
図9(a)に示すように、洗掘防止マット1dのマット本体2aは、例えば八角形状である。洗掘防止マット1dは、例えば
図7(b)に示す洗掘防止マット1bと同様にV字型のワイヤ8aが配置されるが、ワイヤの配置はこれに限らない。
【0063】
図9(b)に示すように、吊り天秤13aは、外枠14aおよび内枠15aが、マット本体2aと同様の八角形状である。吊り天秤13aは、吊り部6および吊り部7を吊った状態から解除するオートリリース機構22aを有する。
【0064】
オートリリース機構22aは、外枠14aと内枠15aのそれぞれに設けられる。オートリリース機構22aは、移動部材18a、吊り部材19a、滑車20a等からなる。移動部材18aは、外枠14aや内枠15aに対して周方向に移動する部材である。移動部材18aは、例えばワイヤである。吊り部材19aは、吊り部6や吊り部7と略同等の間隔で配置される。外枠14aや内枠15aの角部付近にはそれぞれ滑車20aが固定され、移動部材18aは滑車20aに引っ掛けられる。
【0065】
移動部材18aは、一端を矢印Eに示すように上方に引き上げることによって滑車20aに沿って周方向に移動する。オートリリース機構22aは、移動部材18aとともに吊り部材19aを動作させ、移動部材18aの位置に応じて吊り部材19aが吊り部6、7を引っ掛けた状態と吊り部6、7から抜けた状態とを切り替え可能である。
【0066】
図9(c)は、オートリリース機構22aの詳細を示す図であり、
図9(b)に示す外枠14の範囲Fを拡大した図である。吊り部材19aは、例えば、頭部付きのピン191とサブワイヤ192とからなり、ピン191の頭部はサブワイヤ192を介して移動部材18aに連結される。移動部材18aは、外枠14や内枠15に固定されたガイド20に通される。なお、サブワイヤ192の部分は、図示はしていないが鋼製のレバー等を用い、レバーの回転や移動によって吊り部材19aを抜く構造等でもよい。
【0067】
吊り部材19aが吊り部6を引っ掛けた状態とするには、吊り部材19aのピン191を仕切り板29、30に挿入する。この際、仕切り板29、30の間において、吊り部材19aに、吊り部6に通したスリング23の環状部21を通しておくことで、吊り部6と吊り部材19aとが連結される。吊り部材19aが吊り部6から抜けた状態とするには、移動部材18aを水上から引き上げたり、水上から空気を送り風船を膨らませ浮上させる引上げ力で引張ったりして、移動部材18aを
図9(c)の左方向に動かして、ピン191を仕切り板29、30から抜く。この際、スリング23の環状部21がピン191から抜き取られるので、吊り天秤13aを上昇させることで、スリング23を吊り部6から取り外すことができる。
【0068】
第4の実施形態の洗掘防止マット1dの設置方法においても、複数の吊り部6、7が露出する洗掘防止マット1dを外枠14aと内枠15aとからなる吊り天秤13aで吊り下ろし、洗掘防止マット1dが着底した状態で、それぞれ一括して解除可能なオートリリース機構22aを有することにより、第1の実施形態の洗掘防止マット1の設置方法と同様の効果が得られる。
【0069】
なお、洗掘防止マット1d、吊り天秤13aの外枠14aおよび内枠15aは、八角形状以外の多角形状でもよい。吊り天秤13aのオートリリース機構については、第1の実施形態と同様に特に限定されない。
【0070】
[第5の実施形態]
図10は、第5の実施形態の洗掘防止マット41とその設置方法を示す図である。第5の実施形態では、
図10に示す洗掘防止マット41を水底の地盤31上に設置する。
【0071】
図10(a)に示すように、洗掘防止マット41は、マット本体42が矩形状であり、中央に孔が形成される。マット本体42は、一辺に沿って所定の間隔で吊り部43が露出する。マット本体42は、吊り部43が設けられた辺と平行に、複数の折れ線部39が形成される。マット本体42は、外縁付近に補強材44が埋設され、内縁付近に補強材45が埋設される。吊り天秤47は、例えば棒状の所要の剛性を有する鋼材である。吊り天秤47は、洗掘防止マット41の吊り部43を吊り下げる。
【0072】
洗掘防止マット41を水底の地盤31に設置するには、
図10(a)に示すように吊り天秤47に洗掘防止マット41を鉛直方向に吊り下げ、
図10(b)に示すように吊り天秤47を用いて洗掘防止マット41を水中に吊り下ろす。そして、洗掘防止マット41の下端が地盤31に着底したら、
図10(c)に示すように吊り天秤47を水平方向に移動させることによって、洗掘防止マット41を曲げながら水底の地盤31に沿わせるように設置する。洗掘防止マット41の全面が地盤31上に設置されたら、図示しないオートリリース機構等を用いて、吊り部43を吊り天秤47に吊った状態から解除する。
【0073】
第5の実施形態では、マット本体42に折れ線部39が形成されているので、折れ線部39以外の箇所に局所的な曲げが生じることがない。折れ線部39を有する洗掘防止マット41を用いれば、鉛直方向に吊り下ろした洗掘防止マット41を曲げながら水底の地盤31上に設置できる。
【0074】
なお、第5の実施形態では、マット本体42に孔が形成された洗掘防止マット41を図示したが、孔は必須ではない。
図11は、洗掘防止マット41aを地盤31に設置した状態を示す図である。
図11に示す洗掘防止マット41aは、マット本体42aの中央に孔が形成されないが、一辺に沿って所定の間隔で吊り部43が露出し、吊り部43が設けられた辺と平行に複数の折れ線部39が形成される。洗掘防止マット41aは、吊り天秤47を用いて洗掘防止マット41と同様の方法で地盤31に設置できる。
【0075】
洗掘防止マット41aを用いて洗掘防止工を施工するには、まず、1枚目の洗掘防止マット41a-1を水底の地盤31上に設置する。次に、2枚目の洗掘防止マット41a-2を洗掘防止マット41a-1との間に間隔をおいて平行に設置する。その後、洗掘防止マット41a-1、41a-2の一方の端部付近に重なるように3枚目の洗掘防止マット41a-3を設置し、他方の端部付近に重なるように4枚目の洗掘防止マット41a-4を設置する。基礎杭32は、洗掘防止マット41aの敷設前に打設してもよいし、敷設後に打設してもよい。
【0076】
[第6の実施形態]
図12は、形鋼49を錘として洗掘防止マットを水底に設置する方法を示す図である。第6の実施形態では、洗掘防止マット41b、41cを、形鋼49を錘として水底に設置する。
【0077】
図12(a)、
図12(b)に示す例では、いずれも同じ吊り天秤47aが用いられる。吊り天秤47aは、例えば棒状の鋼材を格子状に組み合わせたものであり、対向する二辺の下面にオートリリース可能なスリング48が設けられる。スリング48は、例えば、吊り天秤47aの一辺につき両端付近の2ヶ所に配置される。
【0078】
図12(a)に示す例で用いられる洗掘防止マット41bは、
図10に示す洗掘防止マット41のマット本体42の対向する二辺に吊り部43を設けたものである。洗掘防止マット41bを水底に設置するには、
図12(a)に示すように、洗掘防止マット41bの吊り部43を形鋼49に取り付け、形鋼49をスリング48で吊り天秤47aに取り付けて、洗掘防止マット41bを吊り天秤47aに吊り下げる。そして、水中に吊り下ろした洗掘防止マット41bが地盤に着底したら、図示しないオートリリース機構を用いて、スリング48を吊り天秤47aに吊った状態から解除する。形鋼49は、洗掘防止マット41bの両端付近の上に載置され、錘として機能する。
【0079】
図12(b)に示す例で用いられる洗掘防止マット41cは、
図10に示す洗掘防止マット41のマット本体42の対向する二辺に形鋼49を設けたものである。洗掘防止マット41bを水底に設置するには、
図12(b)に示すように、洗掘防止マット41cの形鋼49をスリング48で吊り天秤47aに取り付けて、洗掘防止マット41cを吊り天秤47aに水平方向に吊り下げる。そして、水中に吊り下ろした洗掘防止マット41cが地盤に着底したら、図示しないオートリリース機構を用いて、スリング48を吊り天秤47aに吊った状態から解除する。形鋼49は、洗掘防止マット41cの錘として機能する。なお、形鋼49は片側1本ものではなく、分割であってもよい。
【0080】
第6の実施形態では、マット本体42に折れ線部39が形成されているので、吊り天秤47aで吊った時に折れ線部39以外の箇所に局所的な曲げが生じることがなく、洗掘防止マット41b、41cを撓ませた状態で吊り下ろして水底に設置できる。また、水底に設置した洗掘防止マット41b、41cの2辺に錘として形鋼49を配置することで、水流によるマット本体42の捲れ上がりを防止できる。
【0081】
[第7の実施形態]
図13は、洗掘防止マット41の断面図である。
図13は、洗掘防止マット41の折れ線部39の延伸方向に直交する方向の断面を示す。第7の実施形態では、洗掘防止マット41の折れ線部39の形成方法について説明する。
【0082】
図13(a)、
図13(b)に示すマット本体42は、As下層51を打設し、As下層51の上面にワイヤ56や補強網50を設置した後、As上層52を打設して形成される。
【0083】
図13(a)に示す例では、折れ線部39をスリット53とスリット54で形成する。スリット53は、As下層51を打設する際に型枠の底枠に凸条の分離枠を固定しておくことにより、マット本体42の脱枠と同時に形成される。スリット54は、As上層52を打設する際に補強網50の上面に棒状の分離枠を配置しておき、マット本体42の脱枠の前か後にAs上層52から分離枠を撤去することにより形成される。
【0084】
図13(b)に示す例では、折れ線部39を縁切り材55とスリット54で形成する。縁切り材55は、As下層51を打設する際に底部の型枠代わりの剥離紙上に配置される。縁切り材55は、例えば、耐熱性の厚紙、メッキ鋼材、ステンレスやアルミ等の金物である。縁切り材55は、As下層51への定着を図るために、断面がL型であり入隅部に定着用突起を有することが望ましい。スリット54は、
図13(a)に示す例と同様にして形成される。
【0085】
なお、スリット53やスリット54の断面形状は、
図13に示したものに限らない。例えば、スリット54を形成する棒状の分離枠を、As上層52から脱枠しやすいように、下底が上底より短い台形の断面としてもよい。また、折れ線部39の位置では、スリット53やスリット54から砂が上方に吸い出されないように、図示しない吸出し防止シートが配置される。
【0086】
このように、第7の実施形態では、マット本体42にスリット53、54や縁切り材55を設けることにより、折れ線部39で折れ曲がり可能な洗掘防止マット41を製作できる。
【0087】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0088】
例えば、
図1(a)、
図7、
図9(a)等に示した本発明の洗掘防止マットや、第1、第3、第4の実施形態で述べた洗掘防止マットの設置方法は、基礎杭32を打設した後に洗掘防止マットを敷設し、フィルターユニット33を設置して洗掘防止工を施工する場合にも適用できる。本発明の洗掘防止マットの設置方法において、吊り天秤が吊り部を吊った状態から解除するのはダイバー作業によってもよく、ダイバー操作のためには梃子の原理を応用したレバーを用いてもよい。
【符号の説明】
【0089】
1、1a、1b、1c、1d、41、41a、41a-1、41a-2、41a-3、41a-4、41b、41c………洗掘防止マット
2、2a、42、42a………マット本体
3………孔
4………外縁
5………内縁
6、7、43、58………吊り部
8、8a、8b、17、56………ワイヤ
9、51………As下層
10、50………補強網
11、52………As上層
12、44、45………補強材
13、13a、13b、47、47a………吊り天秤
14、14a、14b………外枠
15、15a、15b………内枠
16………繋ぎ材
18、18a………移動部材
19、19a、19b………吊り部材
20………ガイド
20a………滑車
21………環状部
22、22a………オートリリース機構
23、48………スリング
24………外周部
25………内周部
26-1………距離
26-2………長さ
27………油圧ジャッキ
28………連結部材
29、30………仕切り板
31………地盤
32………基礎杭
33………フィルターユニット
34………外縁孔
35………補強ワイヤ
36………洗掘防止工
37………フロート
38………レバー
39………折れ線部
49………形鋼
53、54………スリット
55………縁切り材
57………中枠