(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080400
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】線状体、および、医療機器
(51)【国際特許分類】
B32B 1/08 20060101AFI20240606BHJP
A61M 25/09 20060101ALI20240606BHJP
D07B 1/12 20060101ALI20240606BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20240606BHJP
B32B 7/022 20190101ALI20240606BHJP
【FI】
B32B1/08 B
A61M25/09 550
D07B1/12
B32B5/26
B32B7/022
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193565
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(72)【発明者】
【氏名】瀧下 啓介
【テーマコード(参考)】
3B153
4C267
4F100
【Fターム(参考)】
3B153AA02
3B153AA45
3B153CC16
3B153CC53
3B153CC59
3B153EE15
4C267AA01
4C267AA28
4C267BB03
4C267BB06
4C267BB11
4C267BB12
4C267BB16
4C267BB40
4C267CC07
4C267FF01
4C267FF03
4C267GG05
4C267GG07
4C267GG08
4C267GG23
4C267GG24
4C267HH14
4F100AB01A
4F100AB01C
4F100AK01B
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100DA11
4F100DG01A
4F100DG01C
4F100GB66
4F100JK07A
4F100JK07B
4F100JK07C
(57)【要約】
【課題】本発明は、外部の部材や製品、もしくは人体などとの摺動性に優れた線状体を提供することを目的とする。
【解決手段】線状体は、螺旋状に巻かれた金属製の第1素線により形成される内側コイルと、内側コイルの外周を覆う樹脂膜と、樹脂膜の外周に螺旋状に巻かれた金属製の第2素線により形成され、線状体の外表面の少なくとも一部を構成する外側コイルと、を備え、外側コイルは、内側コイルよりも曲げ剛性が小さい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状体であって、
螺旋状に巻かれた金属製の第1素線により形成される内側コイルと、
前記内側コイルの外周を覆う樹脂膜と、
前記樹脂膜の外周に螺旋状に巻かれた金属製の第2素線により形成され、前記線状体の外表面の少なくとも一部を構成する外側コイルと、を備え、
前記外側コイルは、前記内側コイルよりも曲げ剛性が小さい、線状体。
【請求項2】
請求項1に記載の線状体であって、
前記内側コイルの曲げ剛性をNaとし、前記樹脂膜の曲げ剛性をNbとしたとき、以下の式(1)を満たす、線状体。
Nb/Na≦0.125 ・・・(1)
【請求項3】
請求項1に記載の線状体であって、
前記内側コイルの曲げ剛性をNaとし、前記樹脂膜の曲げ剛性をNbとしたとき、以下の式(2)を満たす、線状体。
Nb/Na≦0.05 ・・・(2)
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の線状体であって、
前記第2素線の断面形状は矩形形状を有している、線状体。
【請求項5】
医療機器であって、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の線状体を有する、医療機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業分野や医療分野の製品に用いられる線状体と、線状体を備えた医療機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、産業分野や医療分野の製品において、外周が樹脂膜により覆われた線状体が知られている。特許文献1から特許文献3には、外周が樹脂膜で覆われたコイルにより構成された線状体を備えた医療用のガイドワイヤやカテーテルが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-110144号公報
【特許文献2】特開2017-113267号公報
【特許文献3】米国特許第8273100号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の線状体が例えば産業用機器を駆動するためのワイヤとして使用された場合は、外部の部材や製品との摺動性という点で改善の余地があった。また、線状体が体内に挿入される医療機器などに用いられる場合においては、体内壁や併用される製品との摺動性という点で改善の余地があった。
【0005】
本発明は、外部の部材や製品、もしくは人体などとの摺動性に優れた線状体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態は、線状体であって、螺旋状に巻かれた金属製の第1素線により形成される内側コイルと、内側コイルの外周を覆う樹脂膜と、樹脂膜の外周に螺旋状に巻かれた金属製の第2素線により形成され、線状体の外表面の少なくとも一部を構成する外側コイルと、を備え、外側コイルは、内側コイルよりも曲げ剛性が小さい。
【0008】
この構成によれば、外側コイルにより形成される凹凸によって、接触面積が減少するため、摺動性を向上させることができる。
【0009】
(2)上記形態の線状体において、内側コイルの曲げ剛性をNaとし、樹脂膜の曲げ剛性をNbとしたとき、以下の式(1)を満たしてもよい。
Nb/Na≦0.125 ・・・(1)
【0010】
この構成によれば、樹脂膜の曲げ剛性が内側コイルの曲げ剛性に対して相対的に小さいことで樹脂膜が柔らかく、内側コイルの回転運動を樹脂膜が阻害することを抑制することができる。
【0011】
(3)上記形態の線状体において、内側コイルの曲げ剛性をNaとし、樹脂膜の曲げ剛性をNbとしたとき、以下の式(2)を満たしてもよい。
Nb/Na≦0.05 ・・・(2)
【0012】
この構成によれば、樹脂膜の曲げ剛性が内側コイルの曲げ剛性に対して十分に小さいことで樹脂膜がより柔らかく、内側コイルの回転運動を樹脂膜が阻害することをさらに効率的に抑制することができる。
【0013】
(4)上記形態の線状体において、第2素線の断面形状は矩形形状を有していてもよい
【0014】
この構成によれば、第2素線の断面形状が円形である場合と比較して、効率よく樹脂膜の外周を第2素線により覆うことができる。
【0015】
(5)本発明の一形態は、医療機器であって、上記形態の線状体を有する。
【0016】
この構成によれば、例えば医療機器の一つであるガイドワイヤが上記形態の線状体を有することにより、体内や併用機器との摺動性に優れたガイドワイヤとなる。また、医師等のガイドワイヤの使用者がガイドワイヤの後端を回転させたときの先端への回転追従性が向上する。
【0017】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、自動車、空調設備、ガイドワイヤ、ガイドワイヤの製造方法、カテーテルの製造方法、内視鏡、ダイレータ、などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態の線状体の全体構成を例示した説明図である。
【
図4】線状体の縦断面の一部を拡大した説明図である。
【
図5】湾曲して回転している線状体の縦断面を例示した説明図である。
【
図6】摺動性試験の試験結果を示した説明図である。
【
図7】摺動性試験の試験方法を示した説明図である。
【
図8】回転性試験のサンプル4~15の構成を示した図である。
【
図9】回転性試験の試験結果を示した説明図である。
【
図10】各サンプルの評価結果とNb/Naとの関係を示した説明図ある。
【
図11】第2実施形態の医療機器の全体構成を例示した説明図である。
【
図12】線状体を備えた医療機器の縦断面を例示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1実施形態>
図1から
図10を用いて第1実施形態の線状体1Aについて説明する。
図1から
図5で示されている線状体1Aの各構成部材の大きさは例示であり、実際とは異なる尺度で表されている場合がある。以下では、線状体1Aの各構成部材の、先端側に位置する端部を「先端」と記載し、「先端」を含み先端から後端側に向かって中途まで延びる部位を「先端部」と記載する。同様に、各構成部材の、後端側に位置する端部を「後端」と記載し、「後端」を含み後端から先端側に向かって中途まで延びる部位を「後端部」と記載する。
【0020】
図1は、第1実施形態の線状体1Aの全体図を例示した説明図である。線状体1Aは、産業機器用のワイヤや、ガイドワイヤやカテーテルなどの医療機器を構成する部材として用いられる。線状体1Aは、内側コイル10A(
図2)と、樹脂膜20Aと、外側コイル30Aを有している。
【0021】
図2は、第1実施形態の線状体1Aの縦断面を例示した説明図である。内側コイル10Aは、螺旋状に巻かれた複数の第1素線11Aにより形成されている。内側コイル10Aは全体の形状が円筒状であり、内側コイル10Aの内側には内側コイル10Aの長軸方向に延びる空間部12Aが設けられている。内側コイル10Aの詳細については後述する。
【0022】
内側コイル10Aの材料は特に限定されないが、例えば、ステンレス鋼(SUS302、SUS304、SUS316等)、Ni-Ti合金等の超弾性合金、ピアノ線といった放射線透過材料や、白金、金、タングステン、またはこれらの合金といった放射線不透過材料が用いられる。
【0023】
樹脂膜20Aは、内側コイル10Aを覆う薄い膜状の部材であって、外側コイル30Aの内側に設けられている。樹脂膜20Aの厚みは特に限定されないが、例えば1μmから1000μm程度とすることができる。樹脂膜20Aは一つの樹脂材料で構成された単層の構成でもよく、複数の樹脂材料で構成された複層の構成でもよい。
【0024】
樹脂膜20Aの材料は特に限定されないが、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリウレタンに代表されるウレタン系樹脂、テフロン(登録商標)に代表されるフッ素系樹脂、または種々のエラストマー系樹脂等の熱可塑性樹脂、若しくはこれらの組み合わせのブロックコポリマー(例えば、ポリアミドとポリエーテルとのブロックコポリマー)が挙げられる。また、樹脂は、耐久性および柔軟性を確保する観点から、より好ましくは、ポリアミド系樹脂である。ポリアミド系樹脂として、例えば、ポリアミド6樹脂、ポリアミド11樹脂、ポリアミド12樹脂、ポリアミド66樹脂等を使用することができる。また、ポリエーテルブロックアミド共重合体を用いることが好ましい。なお、当該樹脂を1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
樹脂膜20Aの材料は、ISO178に準拠して測定した曲弾性率が1000MPa以下であることが好ましく、300MPa以下がより好ましく、100MPa以下がさらに好ましい。曲弾性率が1000MPa以下であることにより、線状体1Aの使用者が線状体1Aの一端を回転させたときに、線状体1Aの他端へ回転を効率よく伝達することができる。このような回転の伝達性能を本明細書では回転追従性と表す。
【0026】
外側コイル30Aは、樹脂膜20Aの外周を覆うように螺旋状に巻かれた第2素線31Aにより形成されている。外側コイル30Aの詳細については後述する。
【0027】
外側コイル30Aの材料は特に限定されないが、例えば、ステンレス鋼(SUS302、SUS304、SUS316等)、Ni-Ti合金等の超弾性合金、ピアノ線といった放射線透過材料や、白金、金、タングステン、またはこれらの合金といった放射線不透過材料が用いられる。
【0028】
<内側コイル10Aと外側コイル30Aの詳細>
図3は、線状体1Aの横断面を例示した説明図である。内側コイル10Aは、螺旋状に巻かれた複数の第1素線11Aにより形成されている。本実施形態においては、内側コイル10Aは12本の第1素線11Aにより形成されている。第1素線11Aの横断面は円形状であり、それぞれの第1素線11Aの外径は略同一である。内側コイル10Aは複数の第1素線11Aが撚り合わされて形成されているため、回転追従性に優れたものとなる。
【0029】
本実施形態においては、内側コイル10Aは12本の第1素線11Aにより形成されているが、第1素線11Aの本数は12本に限られない。例えば、内側コイル10Aは1本の第1素線11Aにより形成されてもよく、6本や7本の第1素線11Aにより形成されてもよい。また、複数の第1素線11Aの外径は全てが同じでなくてもよい。また、第1素線11Aの横断面は円形に限られない。例えば、正方形、長方形、台形などの多角形でもよい。
【0030】
図4は、線状体1Aの縦断面の一部を拡大した説明図である。外側コイル30Aの詳細について説明する。外側コイル30Aを形成する第2素線31Aの横断面は矩形であり、本実施形態においては長方形である。具体的には、第2素線31Aの横断面において、対向する2辺(短辺と短辺もしくは長辺と長辺)の長さは略同一であり、直交する2辺(短辺と長辺)の長さは異なる。第2素線31Aの外側コイル30Aの径方向における厚みToは、第1素線11Aの内側コイル10Aの径方向における厚みTiよりも小さい。外側コイル30Aの径方向とは、
図4の内側コイル10Aおよび外側コイル30Aの長軸方向Dbに対して直交するDaの方向である。第1素線11Aの厚みTiとは、
図4に示すような第1素線11Aの横断面のうち、内側コイル10Aの径方向における長さが最も大きい部分の厚みを指している。第2素線31Aの厚みToとは、
図4に示すような第2素線31Aの横断面のうち、外側コイル30Aの径方向における長さが最も大きい部分の厚みを指している。
【0031】
第2素線31Aの外側コイル30Aの径方向における厚みToは、第1素線11Aの内側コイル10Aの径方向における厚みTiよりも小さい。この構成により、外側コイル30Aが内側コイル10Aや樹脂膜20Aの動きを阻害することをより抑制できる。ここで、「第1素線11Aの内側コイル10Aの径方向における厚みTi」とは、第1素線11Aが複数である場合は、複数の第1素線11Aのうちで最も厚みが大きい第1素線11Aの厚みTiを示している。「第2素線31Aの外側コイル30Aの径方向における厚みTo」とは、第2素線31Aが複数である場合は、複数の第2素線31Aのうちで最も厚みが小さい第2素線31Aの厚みToを示している。つまり、「第2素線31Aの外側コイル30Aの径方向における厚みToは、第1素線11Aの内側コイル10Aの径方向における厚みTiよりも小さい。」とは、複数の第1素線11Aのうち最も厚みの大きい第1素線11Aよりも、複数の第2素線31Aのうち最も厚みの小さい第2素線31Aを比較したときに、第2素線31Aの厚みの方が小さいことを示している。
【0032】
外側コイル30Aが内側コイル10Aや樹脂膜20Aの動きを阻害することをより抑制できることから、複数の第1素線11Aのうち最も厚みの小さい第1素線11Aよりも、複数の第2素線31Aのうち最も厚みの小さい第2素線31Aを比較したときに、第2素線31Aの厚みの方が小さいことが好ましく、複数の第1素線11Aのうち最も厚みの小さい第1素線11Aよりも、複数の第2素線31Aのうち最も厚みの大きい第2素線31Aを比較したときに、第2素線31Aの厚みの方が小さいことがより好ましい。
【0033】
第2素線31Aの外側コイル30Aの径方向における厚みToは、第1素線11Aの内側コイル10Aの径方向における厚みTiの5分の1以下であることが好ましく、8分の1以下であることがより好ましい。上記範囲にすることで、外側コイル30Aが内側コイル10Aや樹脂膜20Aの動きを阻害することをより抑制できる。この場合、複数の第1素線11Aのうち最も厚みの小さい第1素線11Aと、複数の第2素線31Aのうち最も厚みの大きい第2素線31Aとを比較したときに、第2素線31Aの厚みが上記範囲となることがより好ましい。
【0034】
外側コイル30Aの幅は、厚みより大きく形成されている。ここで「幅」とは、
図4に記載のDb方向の第2素線31Aの長さである。第2素線31Aの幅が厚みの1.5倍以上であることが好ましく、2倍以上であることがより好ましい。また、製造の容易さを考慮すると第2素線31Aの幅は厚みの100倍以下であることが好ましい。
【0035】
第2素線31Aのうち、長軸方向に隣接する第2素線31A同士の間には隙間32Aが形成されている。樹脂膜20Aのうち、隙間32Aが形成されている部分は外部に露出している。一方で、樹脂膜20Aの外周のうち第2素線31Aにより覆われている部分は外部に露出していない。樹脂膜20Aのうち、外側コイル30Aにより覆われていない部分および、外側コイル30Aの外表面は線状体1Aの外表面を構成する。
【0036】
外側コイル30Aは、内側コイル10Aよりも曲げ剛性が小さい。そのため、外側コイル30Aが、内側コイル10Aや樹脂膜20Aの動きを阻害するおそれを低減することができる。外側コイル30Aの曲げ剛性は、日本産業規格のJIS規格番号JISZ2248により規格化されている金属材料曲げ試験方法により測定することができる。外側コイル30Aの曲げ剛性が小さ過ぎて、上記試験方法では装置の測定限界によって測定できない場合、内側コイル10Aを測定できていれば外側コイル30Aの方が曲げ剛性が小さいと判断することもできる。
【0037】
外側コイル30Aの曲げ剛性は、内側コイル10Aの曲げ剛性の5分の1以下であることが好ましい。外側コイル30Aの曲げ剛性に対して、内側コイル10Aの曲げ剛性が5
分の1以下と著しく小さいことによって、外側コイル30Aが内側コイル10Aや樹脂膜20Aの動きを阻害するおそれをより低減することができる。外側コイル30Aの曲げ剛性は、内側コイル10Aの曲げ剛性の10分の1以下であることがより好ましく、50分の1以下であることがさらに好ましい。外側コイル30Aの曲げ剛性が小さ過ぎて、上記試験方法では装置の測定限界によって測定できない場合、内側コイル10Aの測定値に対して、装置の測定限界が内側コイル10Aの測定値の10分の1より大きい場合、外側コイル30Aの曲げ剛性は、内側コイル10Aの10分の1以下と判断することができる。
【0038】
また、外側コイル30Aの曲げ剛性は、樹脂膜20Aの曲げ剛性よりも小さいことがより好ましい。この構成によれば、外側コイル30Aが、内側コイル10Aや樹脂膜20Aの動きを阻害するおそれを低減することができる。なお、上記は内側コイル10Aの曲げ剛性を測定できる前提であるが、例えば、内側コイル10Aの曲げ剛性は1N・mm2以上であってよく、この程度であれば曲げ剛性の測定は可能である。
【0039】
<内側コイル10Aと樹脂膜20Aの曲げ剛性>
内側コイル10Aの曲げ剛性をNaとし、樹脂膜20Aの曲げ剛性をNbとしたとき、以下の式(1)を満たす。
Nb/Na≦0.125 ・・・(1)
式(1)は、樹脂膜20Aの曲げ剛性Nbが内側コイル10Aの曲げ剛性Naの8分の1以下であることを示している。つまり、樹脂膜20Aは内側コイル10Aよりも柔らかく、小さい力で曲がる。内側コイル10Aの曲げ剛性Naは、内側コイル10Aの外径や、第1素線11Aの材料などにより設定することができる。また、樹脂膜20Aの曲げ剛性Nbは、樹脂膜20Aの外径や材料などにより設定することができる。
また、本実施形態の内側コイル10Bの曲げ剛性Naと、樹脂膜20Bの曲げ剛性Nbは上述の式(1)に加えてさらに以下の式(2)を満たすことがより好ましい。
Nb/Na≦0.05 ・・・(2)
内側コイル10Bの曲げ剛性Naと、樹脂膜20Bの曲げ剛性Nbは式(2)を満たすことにより、樹脂膜20Aは内側コイル10Aと比較して十分に柔らかい。
【0040】
図5は、湾曲して回転している線状体1Aの縦断面の一部を例示した説明図である。内側コイル10Aが湾曲すると、樹脂膜20Aは長軸方向に伸縮する。具体的には、湾曲の内側に位置する樹脂膜20Aiは
図11のDc方向やDd方向に収縮し、湾曲の外側に位置する樹脂膜20AoはDe方向やDf方向に延伸する。さらに内側コイル10Aが長軸を中心にR方向に回転すると、内側コイル10Aの回転に伴い樹脂膜20Aは長軸方向の伸縮を繰り返す。線状体1Aの内側コイル10Aと樹脂膜20Aは式(1)および式(2)を満たすため、樹脂膜20Aの曲げ剛性Nbが内側コイル10Aの曲げ剛性Naよりも相対的に小さく、樹脂膜20Aが柔軟である。これにより、内側コイル10Aの回転に応じて樹脂膜20Aが長軸方向に伸縮することが容易であり、内側コイル10Aの回転を阻害しない。一方で、内側コイル10Aと樹脂膜20Aが式(1)を満たさない場合は樹脂膜20Aの曲げ剛性Nbが内側コイル10Aの曲げ剛性Naよりも相対的に大きく、樹脂膜20Aが硬い。このため、内側コイル10Aの回転に応じて樹脂膜20Aが伸縮することが困難となり、内側コイル10Aの回転を樹脂膜20Aが阻害する可能性がある。
【0041】
<線状体1Aの作製方法>
線状体1Aは、例えば次の方法により作製することができる。まず、芯金に第1素線11Aをコイル状に巻いて加熱処理を行い、芯金を抜去することで内側コイル10Aを作製する。次に、内側コイル10Aの外周に樹脂膜20Aを被覆し、あらかじめコイル状に形成しておいた外側コイル30Aで樹脂膜20Aを覆う。外側コイル30Aをあらかじめコイル状に形成しておくことにより、樹脂膜20Aへの熱影響を小さくすることができる。
【0042】
<摺動性試験>
図6は、摺動性試験の結果を示した説明図である。ここでは、本実施形態の線状体1Aの摺動性を評価するため、外側コイル30Aの有無、および、樹脂膜20Aの曲げ剛性(硬さ)が異なる3つの線状体のサンプル1、2、3を準備した。各サンプルの構成は以下の通りである。サンプル1、2、3の下記以外の構成(例えば、内側コイル10A等)は同じである。サンプル1は、本実施形態の線状体1Aと同じ構成を有している。
サンプル1 外側コイル30A:有、樹脂膜20Aの剛性:柔らかい
サンプル2 外側コイル30A:無、樹脂膜20Aの剛性:柔らかい
サンプル3 外側コイル30A:無、樹脂膜20Aの剛性:硬い
準備した3つのサンプルに対してそれぞれ摺動性試験をおこなった。摺動性試験の試験方法については後述する。
図6のグラフの縦軸は線状体1Aの外周と後述する摺動性試験機100の摺動部101との間に発生する摩擦力を示している。横軸は、試験時間を示している。
【0043】
なお、上記サンプル1~3、後述するサンプル4~15における内側コイル10A、樹脂膜20A、外側コイル30Aの寸法は以下の通りである。
内側コイル10A:鋼材 ステンレス、素線横断面形状 円状、素線径0.14mm
樹脂膜20A:厚み0.05mm又は0.15mm
外側コイル30A:鋼材 ステンレス、素線横断面形状 矩形状、厚み(コイル径方向長さ)0.015mm、幅(コイル周方向長さ)0.035mm、巻ピッチ0.1mm
【0044】
サンプル2とサンプル3の測定結果を比較すると、サンプル3の摩擦力よりもサンプル2の摩擦力の方が大きい。ここから、樹脂膜20Aが柔らかいと摩擦力が大きくなることがいえる。言い換えると、樹脂膜20Aが柔らかいと摺動性が低下するといえる。一方、サンプル2の測定結果と、サンプル1の測定結果を比較すると、サンプル1の摩擦力の方がサンプル2の摩擦力よりも小さい。ここから、同じ柔らかい樹脂膜20Aを備える線状体であっても、樹脂膜20Aの外側に外側コイル30Aを配置することで摩擦力が低下するといえる。言い換えると、摺動性が低下する柔らかい樹脂膜20Aの表面に外側コイル30Aを設けることで、摺動性を改善することができる。
【0045】
図7は、摺動性試験の試験方法を示した説明図である。
図7には、
図6に示した摺動性試験結果を得るために使用された摺動性試験機100が記載されている。摺動性試験機100は、上述したサンプルS(サンプル1、2、3のいずれか)を固定するための土台102と、サンプルSの外周と接触し、土台102に対して垂直方向の荷重Fyが加えられる摺動部101を有している。土台102は、試験開始と同時に図中のM方向に移動する。これにより、サンプルSと摺動部101の間に摩擦力Fxが発生する。摺動部101は、サンプルSとの摩擦力を測定し記録する。
図6には、サンプルSと摺動部101の試験時間ごとの摩擦力をプロットした結果が示されている。
【0046】
<回転性試験>
図8は、回転性試験に用いた12種類の線状体のサンプル4~15の構成を示した説明図である。ここでは、内側コイル10Aの曲げ剛性Naと樹脂膜20Aの曲げ剛性Nbとの比率(Nb/Na)と、線状体1Aの回転追従性との関係を評価するため、Nb/Naが異なる12種類のサンプル4~15を準備した。各サンプルの内側コイル10Aの曲げ剛性Naは、日本産業規格のJIS規格番号JISZ2248により規格化されている金属材料曲げ試験方法により測定された。樹脂膜20Aの曲げ剛性Nbは、内側コイル10Aを樹脂膜20Aが覆う部材の曲げ剛性を測定し、その曲げ剛性から内側コイル10Aの曲げ剛性Nbを差し引くことで算出された。
【0047】
図9は、回転性試験の結果を例示した説明図である。
図9の横軸は回転性試験サンプルの入力角度を示し、縦軸は出力角度を示す。回転性試験の試験方法については後述する。各サンプル4~15について、入力角度と出力角度を計測した。
図9には、入力角度と出力角度が等しい理想的な回転性を線ILとして記載している。サンプルの入力角度と出力角度の差が大きいほど、グラフ上での線ILとの距離が大きくなる。そして、各サンプルの入力角度と出力角度との差の最大値を以下のように評価した。
入力角度と出力角度との差の最大値が50°以下のサンプル:「回転追従性優良」
入力角度と出力角度との差の最大値が50°より大きく90°以下のサンプル:「回転追従性良好」
入力角度と出力角度との差の最大値が90°より大きいサンプル:「回転追従性不良」。
サンプル4~15のうち、「回転追従性優良」と評価したサンプル4~7の測定結果(連続線で示す)には符号「A」が付されている。「回転追従性良好」と評価したサンプル8の測定結果(一点鎖線で示す)には符号「B」が付されている。「回転追従性不良」と評価したサンプル9~15の測定結果(点線で示す)には符号「C」が付されている。
【0048】
図10は、各サンプル4~15の評価結果と各サンプルのNb/Naとの関係を示した説明図である。
図10には、各サンプル4~15の評価結果と、各サンプルの内側コイル10Aの曲げ剛性Naと樹脂膜20Aの曲げ剛性Nbとの比率(Nb/Na)との関係をプロットで示している。ここでは、「回転追従性優良」と評価したサンプル4~7を「●」でプロットし、「回転追従性良好」と評価したサンプル8を「▲」でプロットし、「回転追従性不良」と評価したサンプル9~15を「×」でプロットしている。回転追従性不良と回転追従性良好の境界線となるTL1の傾きが0.125になる。よって、Nb/Na≦0.125を満たすと回転追従性が良好もしくは優良になるといえる。また、回転追従性良好と回転追従性優良の境界線となるTL2の傾きが0.05になる。よって、Nb/Na≦0.05を満たすと回転追従性がさらに優良になるといえる。
【0049】
回転性試験は次の手順により実施された。まず、湾曲したチューブなどに回転性試験用のサンプル1~15を一つずつ順に挿入し、各サンプルを湾曲させた状態で保持する。次に、サンプルの後端を起点にサンプルの長軸を中心に回転させ、サンプルの後端の回転角度と先端の回転角度を測定する。サンプルの後端の回転角度が
図9の横軸に記載の入力角度である。サンプルの先端の回転角度が
図9の縦軸に記載の出力角度である。
【0050】
以上説明した線状体1Aによれば、線状体1Aは樹脂膜20Aの外周を覆う外側コイル30Aを有している。これにより、樹脂膜20Aの摺動性の低下を抑制することができる。例えば、線状体1Aが外側コイル30Aを有していない場合は、線状体1Aが湾曲したり、外部の製品や人体と接触することにより、樹脂膜20Aの外周が変形することがある。この場合、樹脂膜20Aの外周に凹凸や亀裂が生じることで、線状体1Aと外部の製品や人体などとの摺動性が低下するおそれがある。しかし、線状体1Aにおいては、剛性の高い外側コイル30Aが樹脂膜20Aの形状を規制することで、樹脂膜20Aの凹凸や亀裂などの変形を抑制することができる。
【0051】
また、第2素線31Aの外側コイル30Aの径方向における厚みToが、第1素線11Aの内側コイル10Aの径方向における厚みTiよりも小さいため、外側コイル30Aが内側コイル10Aや樹脂膜20Aの動きを阻害するおそれを低減することができる。これにより、例えば線状体1Aをガイドワイヤやカテーテルなどに用いた場合は、ガイドワイヤやカテーテルを湾曲する血管内に容易に挿入することができる。また、外側コイル30Aの厚みを薄くすることによって樹脂膜20Aの伸縮を阻害するおそれを低減することができ、線状体1Aの回転追従性の低下を抑制することができる。これにより、樹脂膜20Aに柔らかい樹脂材料を用いた場合においても摺動性に優れ、なおかつ回転追従性を維持することができる。
【0052】
また、線状体1Aをガイドワイヤやカテーテルなどに用いた場合は、線状体1Aの外径が不要に大きくなることを抑制することで、人体への挿入を容易に行うことができる。さらに、空間部12Aの直径をより大きく確保することができ、空間部12Aに外部の製品を容易に挿通することができる。
【0053】
隣接する第2素線31Aの間には隙間32Aが設けられている。これにより、線状体1Aが湾曲した場合においても隣接する第2素線31A同士が干渉する可能性を低減することができる。このため、第2素線31A同士の干渉による回転追従性の低下を抑制することができる。
【0054】
また、内側コイル10Aの曲げ剛性Naと樹脂膜20Aの曲げ剛性Nbが式(1)を満たすことにより、樹脂膜20Aが内側コイル10Aよりも柔らかく、内側コイル10Aの回転を阻害する可能性を低減することができる。また、内側コイル10Aの曲げ剛性Naと樹脂膜20Aの曲げ剛性Nbが式(1)に加えてさらに式(2)を満たすことにより、樹脂膜20Aが内側コイル10Aよりも十分に柔らかく、内側コイル10Aの回転を阻害する可能性をより低減することができる。
【0055】
<第2実施形態>
図11および
図12を用いて第2実施形態の医療機器200について説明する。
図11は、第2実施形態の医療機器200の全体構成を例示した説明図である。
図12は、第2実施形態の医療機器200の縦断面を例示した説明図である。医療機器200は、人の血管内に挿入され治療や診断などに用いられるガイドワイヤである。医療機器200は、線状体1Bとコアシャフト50を有する。線状体1Bは、第1実施形態の線状体1Aと共通する部材により構成され、ガイドワイヤに適合するように適宜変更も加えられている。線状体1Bのうち、線状体1Aと共通する構成についての説明は省略する。
【0056】
コアシャフト50は、医療機器200の長軸方向に延びる長尺の部材である。
【0057】
線状体1Bは、内側コイル10Bと、樹脂膜20Bと、外側コイル30Bを有する。線状体1Bはコアシャフト50の先端部の外周を覆うように設けられている。線状体1Bの先端部は先端固定部40によりコアシャフト50に固定され、後端部は後端固定部41によりコアシャフト50に固定されている。
【0058】
以上説明したように、第2実施形態の医療機器200は線状体1Bを有している。これにより、例えば医療機器200がカテーテルの中に挿入される場合は、カテーテルの内壁と線状体1Bとの摺動性が良好であるため、医療機器200のカテーテル内部での移動が容易である。また、医療機器200が血管内に挿入される場合は、血管内壁と線状部材1Bとの摺動性が良好であるため、医療機器200の血管内部での移動が容易である。また、医師等の医療機器200の使用者が医療機器200の後端側を回転させた場合には、線状体1Bにより後端側の回転が先端側へ効率良く伝達される。
【0059】
<変形例>
以上説明した各実施形態は種々の変形が可能である。以下に変形例を示す。
【0060】
<変形例1>
第1実施形態の線状体1Aは、内側コイル10Aの曲げ剛性Naと樹脂膜20Bの曲げ剛性Nbの関係が式(1)または式(2)を満たすように構成されていたが、線状体1Aの全ての部分において式(1)または式(2)を満たさなくてもよい。例えば、線状体1Aの一部において式(1)または式(2)を満たし、他の一部においては満たさなくてもよい。
【0061】
<変形例2>
第2実施形態の医療機器200はガイドワイヤであったが、線状体1Bはガイドワイヤ以外の医療機器に用いられてもよく、例えば、カテーテルや内視鏡の補強体として用いられてもよい。
【0062】
<変形例3>
図13は、線状体(1A、1B)の変形例を例示した説明図である。第1実施形態の樹脂膜20Aは、内側コイル10Aの外周のみを覆うように形成されていたが、樹脂膜20Aは内側コイル10Aの外周および内周の両方を覆うように形成されてもよい。また、第1実施形態の樹脂膜20Aは、外側コイル30Aの内側にのみ形成されていたが、樹脂膜20Aは外側コイル30Aの外周を覆うように形成されていてもよい。または、
図13に示すように外側コイル30Aの内周が樹脂膜20Aの外周の一部よりも内側に配置されてもよい。つまり、外側コイル30Aが樹脂膜20Aに埋設されていてもよい。このような形態においては、線状体1Aの外径をより小さくすることができる。
【0063】
<変形例4>
内側コイル(10A、10B)の内周には、樹脂膜(20A、20B)とは別の樹脂から形成されたコーティングが設けられてもよい。コーティングの材料は特に限定されないが、例えば、テフロン(登録商標)などのフッ素系樹脂であることが好ましい。
【0064】
<変形例5>
外側コイル(30A、30B)は、一つの第2素線(31A、31B)をらせん状に巻くことにより形成されていたが、複数の第2素線(31A、31B)をらせん状に巻くことにより形成されてもよい。また、外側コイル(30A、30B)は、複数の第2素線(31A、31B)を束ねて形成したストランドをさらにらせん状に撚り合わせて形成してもよい。
【0065】
<変形例6>
外側コイル(30A、30B)の外周にはさらに樹脂のコーティングが形成されもよい。外側コイル(30A、30B)の外周にさらに樹脂のコーティングが形成された場合、外側コイル(30A、30B)の一部分がコーティングにより覆われ、他の部分がコーティングにより覆われておらず、外側コイル(30A、30B)の一部分が線状体(1A、1B)の外表面となる形態であってもよい。例えば、線状体(1A、1B)の先端側には樹脂のコーティングが形成され、後端側には樹脂のコーティングが形成されていない形態にすることができる。ガイドワイヤやカテーテルのような体内に挿入される医療機器に本発明の線状体(1A、1B)を適用した場合、線状体(1A、1B)の先端側にはより摺動性に優れる親水性コーティングを施し、線状体(1A、1B)の後端側には親水性コーティングを施さない形態とすることで、親水性コーティングを施した部分では優れた摺動性が発揮されるのは勿論であるが、親水性コーティング施していない部分においても優れた摺動性を付与することができる。これにより、線状体(1A、1B)の中で摺動性の程度を調整することもできる。
【0066】
なお、摺動性が求められず、回転追従性を高めたい用途に使用される場合、外側コイル(30A、30B)を使用せずに、回転追従性を高めた構成とすることも考えられる。例えば、線状体(1A、1B)であって、螺旋状に巻かれた金属製の第1素線(11A、11B)により形成される内側コイル(10A、10B)と、内側コイル(10A、10B)の外周を覆う樹脂膜(20A、20B)と、を備え、内側コイル(10A、10B)の曲げ剛性をNaとし、樹脂膜(20A、20B)の曲げ剛性をNbとしたとき、以下の式(1)を満たす、線状体(1A、1B)としてもよい。また、以下の式(2)を満たすことがより好ましい。
Nb/Na≦0.125 ・・・(1)
Nb/Na≦0.05 ・・・(2)
上記構成によって、回転追従性に優れる線状体(1A、1B)とすることができる。この場合、内側コイル(10A、10B)及び樹脂膜(20A、20B)は本発明の線状体(1A、1B)と同様の構成とすることができる。
【符号の説明】
【0067】
1A、1B…線状体
10A、10B…内側コイル
11A…第1素線
12A…空間部
20A、20B…樹脂膜
30A、30B…外側コイル
31A、31B…第2素線
32A…隙間
200…医療機器