(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080403
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】仮締切構造体
(51)【国際特許分類】
E02B 7/00 20060101AFI20240606BHJP
E02D 19/04 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
E02B7/00 Z
E02D19/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193568
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】597115369
【氏名又は名称】関西設計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】硴塚 史明
(72)【発明者】
【氏名】大村 森香
(72)【発明者】
【氏名】森本 大嗣
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 宏一
(72)【発明者】
【氏名】谷口 雄基
(57)【要約】
【課題】構造体要素が浮力によってまくれ上がり、上下方向にて隣接する構造体要素が前後にずれることを抑制する。
【解決手段】仮締切構造体は、複数の構造体要素であるブロックユニット23と、引張力伝達部材26とを備える。引張力伝達部材26は、複数のブロックユニット23のうち上下方向にて隣接する2つのブロックユニット23であるブロックユニット対に設けられる。引張力伝達部材26は、上段のブロックユニット23と下段のブロックユニット23との間にて前後方向に沿って延びる。引張力伝達部材26の下段のブロックユニット23との接続部261は、引張力伝達部材26の上段のブロックユニット23との接続部262よりも前側に位置する。これにより、上段のブロックユニット23が浮力によってまくれ上がり、上下方向にて隣接するブロックユニット23が前後にずれることを抑制することができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面よりも下方から上方へと延びる対象構造物近傍に設置され、水中の作業場所の周囲を囲んで作業空間を形成する仮締切構造体であって、
上下方向に積層される複数の構造体要素と、
前記複数の構造体要素のうち上下方向にて隣接する2つの構造体要素である構造体要素対に設けられ、前記構造体要素対のうち上段構造体要素の下面が下段構造体要素の上面に対して前記対象構造物から離れる方向である後方へと相対的にずれることを抑制する変位抑制構造と、
を備え、
前記変位抑制構造は、
前記上段構造体要素と前記下段構造体要素との間にて前後方向に沿って延びるとともに前記下段構造体要素との接続部が前記上段構造体要素との接続部よりも前側に位置する引張力伝達部材、および、
前記下段構造体要素に設けられる下係合部が前記下係合部よりも前側において前記上段構造体要素に設けられる上係合部と前後方向に係合する係合構造のうち、
少なくとも一方を備えることを特徴とする仮締切構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の仮締切構造体であって、
平面視において左右方向に離間して配置されるとともに前記対象構造物において左右方向に沿って広がる設置対象面に前端部が接触する一対の腕部を備え、
前記一対の腕部の後端部同士は、前記設置対象面から後側に離間した位置にて接続され、
前記変位抑制構造は、前記一対の腕部に設けられることを特徴とする仮締切構造体。
【請求項3】
請求項2に記載の仮締切構造体であって、
前記対象構造物は、ダムの堤体であり、
前記設置対象面は、前記堤体の上流面であることを特徴とする仮締切構造体。
【請求項4】
請求項2または3に記載の仮締切構造体であって、
前記設置対象面は、上方に向かうに従って前方へと向かう傾斜面であることを特徴とする仮締切構造体。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載の仮締切構造体であって、
後端面は鉛直面であることを特徴とする仮締切構造体。
【請求項6】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載の仮締切構造体であって、
水上に配置されている前記構造体要素対に前記変位抑制構造が設けられることを特徴とする仮締切構造体。
【請求項7】
請求項6に記載の仮締切構造体であって、
水中に配置される他の構造体要素対に設けられ、前記他の構造体要素対の上段構造体要素の下面が下段構造体要素の上面に対して後方へと相対的にずれることを抑制する他の変位抑制構造をさらに備え、
前記変位抑制構造は前記係合構造であり、
前記他の変位抑制構造は前記引張力伝達部材であることを特徴とする仮締切構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中の作業場所の周囲を囲んで作業空間を形成する仮締切構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ダムの堤体や橋脚等に対する工事の際に、水中の作業場所の周囲を囲んで作業空間を形成するために、仮締切構造体が使用されている。例えば、ダムの堤体に放流設備を増設するダム再生事業の際には、チャンネル型(すなわち、コの字型)の平面形状を有する構造体要素であるブロックユニットを、上下方向に複数段積み上げて仮締切構造体を形成し、堤体の上流側の面に当該仮締切構造体を密着させる(特許文献1参照)。そして、仮締切構造体と堤体の上流側の面との間の空間を排水することにより、気中環境での提体削孔等が可能となる。
【0003】
このような仮締切構造体では、通常、上述のように仮締切構造体の内側空間を排水した状態で仮締切構造体に作用する水平方向の静水圧による荷重に対して、主桁等の主要構造部の設計が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、大深度のダムにおける上記のような堤体工事が計画されており、当該堤体工事では、仮締切構造体に作用する浮力が大きくなる。したがって、浮力および上述の水平方向荷重の双方を同時に考慮して仮締切構造体の安定性を検討する必要があるが、現状ではこのような検討は行われていない。
【0006】
本願発明者は、鋭意検討の結果、大深度のダムに設置される仮締切構造体では、各段のブロックユニットに作用する浮力および水平方向荷重等により、ブロックユニットが側面視において傾き(すなわち、まくれ上がり)、上下方向にて隣接するブロックユニット間で前後方向(すなわち、河川の流れの方向)にずれが生じるおそれがある、という知見を得た。具体的には、ブロックユニットの上流側の部位が上方へと変位し、当該ブロックユニットが下流側の上端部(すなわち、堤体と接触する面の上端部)を支点として傾くことにより、当該ブロックユニットと、上下方向にて隣接する他のブロックユニットとの間にずれが生じ、仮締切構造体の構造的安定性が低下するおそれがある。
【0007】
一方、特許文献1のように、上下方向にて隣接するブロックユニットを多数のボルトおよびナットで強固に固定すると、浮力等によってブロックユニット間に生じるずれは防止されるが、複数段のブロックユニットの組立誤差や各ブロックユニットの製造誤差に起因して、一部のブロックユニットと堤体との間の水密性が低下するおそれがある。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、構造体要素が浮力によってまくれ上がり、上下方向にて隣接する構造体要素が前後にずれることを抑制することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の態様1は、水面よりも下方から上方へと延びる対象構造物近傍に設置され、水中の作業場所の周囲を囲んで作業空間を形成する仮締切構造体であって、上下方向に積層される複数の構造体要素と、前記複数の構造体要素のうち上下方向にて隣接する2つの構造体要素である構造体要素対に設けられ、前記構造体要素対のうち上段構造体要素の下面が下段構造体要素の上面に対して前記対象構造物から離れる方向である後方へと相対的にずれることを抑制する変位抑制構造と、を備える。前記変位抑制構造は、前記上段構造体要素と前記下段構造体要素との間にて前後方向に沿って延びるとともに前記下段構造体要素との接続部が前記上段構造体要素との接続部よりも前側に位置する引張力伝達部材、および、前記下段構造体要素に設けられる下係合部が前記下係合部よりも前側において前記上段構造体要素に設けられる上係合部と前後方向に係合する係合構造のうち、少なくとも一方を備える。
【0010】
本発明の態様2は、態様1の仮締切構造体であって、平面視において左右方向に離間して配置されるとともに前記対象構造物において左右方向に沿って広がる設置対象面に前端部が接触する一対の腕部を備える。前記一対の腕部の後端部同士は、前記設置対象面から後側に離間した位置にて接続される。前記変位抑制構造は、前記一対の腕部に設けられる。
【0011】
本発明の態様3は、態様2の仮締切構造体であって、前記対象構造物は、ダムの堤体であり、前記設置対象面は、前記堤体の上流面である。
【0012】
本発明の態様4は、態様2または3の仮締切構造体であって、前記設置対象面は、上方に向かうに従って前方へと向かう傾斜面である。
【0013】
本発明の態様5は、態様1ないし3のいずれか1つ(態様1ないし4のいずれか1つ、であってもよい。)の仮締切構造体であって、後端面は鉛直面である。
【0014】
本発明の態様6は、態様1ないし3のいずれか1つ(態様1ないし5のいずれか1つ、であってもよい。)の仮締切構造体であって、水上に配置されている前記構造体要素対に前記変位抑制構造が設けられる。
【0015】
本発明の態様7は、態様6の仮締切構造体であって、前記仮締切構造体は、水中に配置される他の構造体要素対に設けられ、前記他の構造体要素対の上段構造体要素の下面が下段構造体要素の上面に対して後方へと相対的にずれることを抑制する他の変位抑制構造をさらに備える。前記変位抑制構造は前記係合構造である。前記他の変位抑制構造は前記引張力伝達部材である。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、構造体要素が浮力によってまくれ上がり、上下方向にて隣接する構造体要素が前後にずれることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一の実施の形態に係る仮締切構造体の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る仮締切構造体2を示す側面図である。
図2は、仮締切構造体2を示す平面図である。仮締切構造体2は、水面97よりも下方から上方へと延びる対象構造物近傍に設置され、水中の作業場所の周囲を囲んで作業空間90を形成する。
【0019】
図1に示す例では、当該対象構造物は、ダム9の堤体91である。
図1中の右側は下流側であり、左側は上流側(すなわち、貯水池側)である。以下の説明では、ダム9の下流側および上流側をそれぞれ「前側」および「後側」とも呼ぶ。また、
図2中の左右方向を、単に「左右方向」とも呼ぶ。当該左右方向は、前後方向に垂直な水平方向である。仮締切構造体2は、堤体91の上流側の面(以下、「上流面92」とも呼ぶ。)に設置され、ダム9の堤体91に放流設備を増設するダム再生事業等において使用される。上流面92は、堤体91において左右方向に沿って広がる設置対象面である。上流面92は、略平面状であってもよく、曲面状であってもよい。
【0020】
図1に示す例では、仮締切構造体2は、水面97(すなわち、ダム湖の湖面)上に浮遊可能な浮体式の仮締切構造体である。仮締切構造体2では、内部に注排水を行うことにより、浮上量の調節が可能である。仮締切構造体2は、堤体91の上流面92に設けられた水中の架台93上に載置される。また、仮締切構造体2の上部は、堤体91の上部に設けられた浮上防止部94に接触する。なお、
図1に示す例では、仮締切構造体2の上端面は、堤体91の上端面と上下方向の略同じ位置に位置する。
【0021】
架台93は、水中において堤体91の上流面92から後方(すなわち、上流側)へと突出する金属製の仮設台である。架台93は、ダム9の水底98から上側に離間した位置に設けられる。架台93は、仮締切構造体2に作用する浮力が仮締切構造体2の重量よりも小さい状態において、仮締切構造体2の重量の一部(すなわち、仮締切構造体2の重量から浮力を減算した値)を下側から支持する。なお、架台93は、仮締切構造体2の全重量を支持可能であるように設計されている。浮上防止部94は、水面97よりも上方において堤体91の上流面92から後方へと突出する仮設押さえ部である。浮上防止部94は、貯水池の水位が上昇した際等に、仮締切構造体2の浮力を上側から支持し、仮締切構造体2の上下方向の位置が変動することを防止する。なお、本実施の形態では、水面97が設計水位に位置する状態では、仮締切構造体2に作用する浮力は、仮締切構造体2の重量よりも大きいが、これには限定されない。
図1に示す例では、浮上防止部94は、仮締切構造体2の上部の前端部が接触する戸当りでもある。浮上防止部94は、例えば、金属製の外殻の内部にモルタルが充填された構造を有する。架台93および浮上防止部94の形状および構造は、様々に変更されてよい。
【0022】
図2に示す例では、仮締切構造体2の平面視における形状は、チャンネル型(すなわち、略コの字型)である。仮締切構造体2は、平面視において左右方向に並んで配置される一対の腕部24と、一対の腕部24を接続する腕接続部25とを備える。一対の腕部24は、上下方向に長い略直方体状である。一対の腕部24は、左右方向に互いに離間した状態で前後方向に延びる側壁部である。一対の腕部24の前端部は、堤体91の上流面92に接触している。上流面92は、上方に向かうに従って前方(すなわち、下流側)へと向かう傾斜面である。したがって、一対の腕部24の前端部も、上方に向かうに従って前方へと向かう傾斜面である。なお、堤体91の上流面92には、通常、腕部24の前端部が接触する位置に戸当り等が設けられるが、
図1および
図2では、当該戸当り等の図示を一部省略している。また、上流面92は、上述の傾斜面には限定されず、例えば、上下方向に略平行な鉛直面であってもよい。
【0023】
腕接続部25は、堤体91の上流面92から後側に離間した位置にて、左右方向に沿って延びる後壁部である。
図2に示す例では、腕接続部25の左右方向の中央部は、左右方向に略平行に延びる略直方体状である。腕接続部25は、堤体91の上流面92から後側に離間した位置にて、一対の腕部24の後端部に接続される。換言すれば、一対の腕部24の後端部同士は、腕接続部25を介して間接的に互いに接続される。仮締切構造体2は、腕接続部25の左右方向の中央を通るとともに前後方向に平行に広がる平面に対して略左右対称な形状を有する。腕接続部25の上流側の面である後端面251(すなわち、仮締切構造体2の後端面)は、略鉛直面である。腕接続部25の後端面251は、少なくとも、左右方向の中央部において略鉛直面(すなわち、前後方向に略垂直な平面)であることが好ましい。
【0024】
図2に示す例では、仮締切構造体2の腕接続部25および一対の腕部24、並びに、堤体91の上流面92等により囲まれる略矩形の空間が、作業空間90である。以下の説明では、仮締切構造体2の作業空間90側を「内側」とも呼び、仮締切構造体2の作業空間90とは反対側を「外側」とも呼ぶ。
【0025】
仮締切構造体2の前後方向の長さ、左右方向の幅、および、上下方向の高さはそれぞれ、例えば、3m~10m、5m~20m、5m~50mである。仮締切構造体2の重量は、例えば、5t~500tである。各腕部24の左右方向の幅、および、腕接続部25の左右方向の中央部における前後方向の幅は、例えば、0.5m~2mである。水面97から仮締切構造体2の下端までの上下方向の高さは、例えば、10m~60mである。仮締切構造体2の大きさおよび重量等は、様々に変更可能である。
【0026】
仮締切構造体2は、上下方向に積層されて接続される複数のブロックユニット23を備える。各ブロックユニット23は、仮締切構造体2を構成する構造体要素である。上下方向にて隣接する2つのブロックユニット23(以下、「ブロックユニット対」とも呼ぶ。)の間には、図示省略の止水パッキン等が挟み込まれており、当該2つのブロックユニット23は水密に接続されている。各ブロックユニット23の上下方向の高さ、および、重量はそれぞれ、例えば、0.5m~4m、および、2t~50tである。ブロックユニット23の大きさおよび重量は、様々に変更可能である。
【0027】
図2に示す例では、仮締切構造体2は、上下方向に積層された18段のブロックユニット23を備える。また、各ブロックユニット対の境界部は、略水平(すなわち、上下方向に略垂直な方向)に延びる。なお、ブロックユニット23の段数、および、ブロックユニット対の境界部の形状等は様々に変更されてよい。
【0028】
各ブロックユニット23の平面視における形状は、チャンネル型(すなわち、略コの字型)である。各ブロックユニット23は、上述の一対の腕部24を構成する部位と、腕接続部25を構成する部位とを備える。各ブロックユニット23では、例えば、一対の腕部24を構成する部位(以下、単に「腕部24」とも呼ぶ。)の前端部が、堤体91の上流面92に対してストッパ等を介して接続される。当該ストッパは、例えば、前後方向に略平行に延びる略棒状の金属部材である。当該ストッパの一方の端部は、ブロックユニット23の前端部の側面に連結され、他方の端部は、堤体91の上流面92に連結される。なお、ストッパは、必ずしも前後方向に略平行に延びる必要はなく、前後方向に対して傾斜する方向に延びていてもよい。
【0029】
ブロックユニット23は、例えば、水平方向に配列された複数のブロック(図示省略)を備える。当該複数のブロックはそれぞれ、中空の箱状(例えば、略直方体状)の部位であり、内部に水密な密閉空間を有する空気室である。当該複数のブロックは、例えば、ブロックユニット23を製造する際に、チャネル型の主桁を外殻として利用して形成される。ブロックユニット23では、各ブロック内部の密閉空間は、バラスト水を貯溜可能なバラストタンクの機能を有する貯溜部である。各ブロックの貯溜部にバラスト水を注水し、または、貯溜部からバラスト水を排水することにより、仮締切構造体2の喫水や傾きを調整することが可能である。なお、ブロックユニット23では、バラスト水が貯溜不能な部位が設けられてもよい。また、バラスト水が貯溜可能なブロックを有しないブロックユニット23が設けられてもよい。
【0030】
図3は、仮締切構造体2の複数のブロックユニット23のうち、一のブロックユニット対(すなわち、構造体要素対)を拡大して示す側面図である。
図3に例示するブロックユニット対は、複数のブロックユニット23のうち、上側から6段目および7段目のブロックユニット23である。当該ブロックユニット対の上段構造体要素である6段目のブロックユニット23と、下段構造体要素である7段目のブロックユニット23との境界部は、水面97よりも下方に位置する。以下の説明では、上段のブロックユニット23と下段のブロックユニット23との境界部が水面97よりも下方、または、水面97と上下方向の同じ位置に位置するブロックユニット対を、「水中に配置されたブロックユニット対」とも呼ぶ。また、当該境界部が水面97よりも上方に位置するブロックユニット対を、「水上に配置されたブロックユニット対」とも呼ぶ。
【0031】
図3に示すように、水中に配置された当該ブロックユニット対では、上段のブロックユニット23と下段のブロックユニット23との間に変位抑制構造である引張力伝達部材26が設けられる。引張力伝達部材26は、仮締切構造体2の一対の腕部24の左右方向の側面にそれぞれ設けられる。
図3では、
図2中の右側の腕部24の右側面(すなわち、外側面)に設けられた引張力伝達部材26を示す。なお、
図1および
図2では、引張力伝達部材26の図示は省略している。
【0032】
仮締切構造体2では、
図2中の左側の腕部24の左側面(すなわち、外側面)にも、
図3に示すものと略同様の引張力伝達部材26が設けられている。なお、引張力伝達部材26は、一対の腕部24の外側面に加えて、一対の腕部24の内側面にも設けられてよい。また、引張力伝達部材26は、一対の腕部24の外側面には設けられず、一対の腕部24の内側面に設けられてもよい。
【0033】
引張力伝達部材26は、上段のブロックユニット23と下段のブロックユニット23との間にて、前後方向に沿って延びる略棒状の部材である。引張力伝達部材26の前端部(すなわち、堤体91の上流面92に近い側の端部)は、下段のブロックユニット23の側面に接続される。引張力伝達部材26の後端部(すなわち、堤体91の上流面92から遠い側の端部)は、上段のブロックユニット23の側面に接続される。換言すれば、引張力伝達部材26と下段のブロックユニット23との接続部261は、引張力伝達部材26と上段のブロックユニット23との接続部262よりも前側に位置する。
図3に示す例では、引張力伝達部材26は、上段のブロックユニット23との接続部262から前方に向かうに従って下方へと向かい、上段のブロックユニット23と下段のブロックユニット23との境界部(すなわち、ブロックユニット対の境界部)を跨いで斜め下方へと延びる。
【0034】
引張力伝達部材26は、例えば、金属製のターンバックルである。引張力伝達部材26は、上段および下段のブロックユニット23に対して、長手方向(すなわち、接続部261と接続部262とを結ぶ直線に沿う方向)における引張力を伝達し、長手方向における圧縮力は伝達しない。引張力伝達部材26は、ターンバックル以外の様々な構造を有する部材であってもよい。
【0035】
仮締切構造体2では、引張力伝達部材26により、上段のブロックユニット23の後端部(すなわち、上流側の端部)が浮力によって上方へと変位し、当該ブロックユニット23が前側の上端部(すなわち、堤体91と接触する前面の上端部)を支点として側面視において傾くことが抑制される。このように、ブロックユニット対において上段のブロックユニット23がまくれ上がることを抑制することにより、上段のブロックユニット23の下面が、下段のブロックユニット23の上面に対して、後方へと(すなわち、堤体91の上流面92から離れる方向へと)相対的に変位することが抑制される。そして、上段のブロックユニット23が下段のブロックユニット23に対して後方へと相対的にずれることが抑制された結果、当該ずれによって仮締切構造体2の構造的安定性が低下することが抑制される。なお、引張力伝達部材26は、下段のブロックユニット23に対する上段のブロックユニット23の前方への相対変位に対しては抵抗にはならない。
【0036】
仮締切構造体2では、引張力伝達部材26がブロックユニット対に取り付けられる際に、引張力伝達部材26に初期引張力がかけられることが好ましい。これにより、上段のブロックユニット23に対する下段のブロックユニット23の前方への相対変位を、さらに好適に抑制することができる。当該初期引張力は、ブロックユニット23の大きさや重量、配置される水深等に合わせて様々に調節可能であり、例えば、5kN~20kNである。
【0037】
また、仮締切構造体2では、引張力伝達部材26に作用する引張力を測定するロードセル等のセンサが設けられることも好ましい。当該センサからの出力を継続的に監視することにより、仮締切構造体2の構造的な安定状態を容易に把握することができる。
【0038】
上述のブロックユニット対では、引張力伝達部材26以外には、上段のブロックユニット23と下段のブロックユニット23とを前後方向に強固に連結する構造(例えば、上下のブロックユニット23を複数のボルトおよびナットで前後方向にて連結する構造や、上下のブロックユニット23を溶接する溶接部)は設けられていない。
【0039】
なお、ブロックユニット対では、上段のブロックユニット23と下段のブロックユニット23との間に配置された止水パッキンによる摩擦力等によっても、上下のブロックユニット23の相対変位は多少抑制される可能性はあるが、当該摩擦力等による相対変位の抑制効果は算出することが容易ではないため、上下のブロックユニット23の相対変位抑制を当該摩擦力等のみにより実現する設計は困難である。したがって、引張力伝達部材26の強度等は、例えば、当該摩擦力等による相対変位の抑制効果を計算に含めることなく設計される。
【0040】
図4は、仮締切構造体2の複数のブロックユニット23のうち、
図3に示すものとは異なる一のブロックユニット対(すなわち、構造体要素対)を拡大して示す側面図である。
図4に例示するブロックユニット対は、複数のブロックユニット23のうち、上側から5段目および6段目のブロックユニット23である。当該ブロックユニット対の上段構造体要素である5段目のブロックユニット23と、下段構造体要素である6段目のブロックユニット23との境界部は、水面97よりも上方に位置する。すなわち、
図4に示すブロックユニット対は、水上に配置されている。後述する
図5においても同様である。
【0041】
図4に示すように、水上に配置された当該ブロックユニット対では、上段のブロックユニット23と下段のブロックユニット23との間に変位抑制構造である係合構造27が設けられる。係合構造27は、仮締切構造体2の一対の腕部24のそれぞれにおいて、上段のブロックユニット23の下面、および、下段のブロックユニット23の上面に設けられる。
図4では、
図2中の右側の腕部24に設けられた係合構造27を示す。仮締切構造体2では、
図2中の左側の腕部24にも、
図4に示すものと略同様の係合構造27が設けられている。なお、
図1では、係合構造27の図示は省略している。
【0042】
係合構造27は、下段のブロックユニット23に設けられる下係合部271と、上段のブロックユニット23に設けられる上係合部272と、を備える。
図4に示す例では、下係合部271は、下段のブロックユニット23の上面から上方へと突出する凸部である。下係合部271は、ブロックユニット23の前後方向の略中央部に配置され、腕部24の略全幅に亘って左右方向に略平行に略直線状に延びる。下係合部271の左右方向に垂直な断面形状は、例えば略矩形である。当該断面形状は、様々に変更されてよい。また、下係合部271は、必ずしも腕部24の全幅に亘って設けられる必要はなく、腕部24の左右方向の一部のみに設けられてもよい。下係合部271は、例えば、略四角柱状の金属製の棒状部材を下段のブロックユニット23の上面に溶接等にて固定することにより設けられる。下段のブロックユニット23の上面のうち、下係合部271の前側の領域および下係合部271の後側の領域は、下係合部271の上端よりも下側に位置する。下係合部271の上方への突出量は、例えば、20mm~50mmである。
【0043】
また、
図4に示す例では、上係合部272は、上段のブロックユニット23の下面から下方へと突出する凸部である。上係合部272は、ブロックユニット23の前後方向の略中央部に配置され、腕部24の略全幅に亘って左右方向に略平行に略直線状に延びる。上係合部272の左右方向に垂直な断面形状は、例えば略矩形である。当該断面形状は、様々に変更されてよい。また、上係合部272は、必ずしも腕部24の全幅に亘って設けられる必要はなく、腕部24の左右方向の一部のみに設けられてもよい。上係合部272は、例えば、略四角柱状の金属製の棒状部材を上段のブロックユニット23の下面に溶接等にて固定することにより設けられる。上段のブロックユニット23の下面のうち、上係合部272の前側の領域および上係合部272の後側の領域は、上係合部272の下端よりも上側に位置する。上係合部272の下方への突出量は、例えば、20mm~50mmである。
【0044】
上係合部272は、下係合部271よりも前側(すなわち、堤体91の上流面92に近い側)に配置される。上係合部272と下係合部271とは、上下方向の略同じ位置にて前後方向に対向し、前後方向に係合する。具体的には、下係合部271の前面と上係合部272の後面とが、直接的または他の部材を介して間接的に接触することにより、下係合部271と上係合部272とが前後方向に係合する。これにより、いわゆるホゾ構造が構成される。
【0045】
図4に示すブロックユニット対では、係合構造27の下係合部271と上係合部272とが係合することにより、上段のブロックユニット23が下段のブロックユニット23に対して後方へと(すなわち、堤体91の上流面92から離れる方向へと)相対的にずれることが抑制される。したがって、上段のブロックユニット23の後端部が浮力によって上方へと変位し、当該ブロックユニット23が前側の上端部を支点として側面視において傾く(すなわち、まくれ上がる)ことが抑制される。その結果、上段のブロックユニット23の下面が、下段のブロックユニット23の上面に対して、後方へと相対的に変位することが抑制され、当該ずれによって仮締切構造体2の構造的安定性が低下することが抑制される。なお、係合構造27は、下段のブロックユニット23に対する上段のブロックユニット23の前方への相対変位に対しては抵抗にはならない。
【0046】
係合構造27では、下係合部271および上係合部272の配置、形状および構造等は様々に変更されてよい。例えば、下係合部271は、必ずしも下側のブロックユニット23の上面に設けられる必要はなく、上係合部272も、必ずしも上側のブロックユニット23の下面に設けられる必要はない。例えば、下係合部271は、仮締切構造体2の一対の腕部24において、下側のブロックユニット23の左右方向の側面から当該ブロックユニット23の上面よりも上側まで突出する凸部であり、上係合部272は、仮締切構造体2の一対の腕部24において、上側のブロックユニット23の左右方向の側面から当該ブロックユニット23の下面よりも下側まで突出する凸部であってもよい。そして、これらの凸部が上下方向の略同じ位置にて前後方向に対向し、前後方向に係合することにより、係合構造27が構成されてもよい。
【0047】
あるいは、
図5に例示する係合構造27aのように、下係合部271aは、下段のブロックユニット23の上面に設けられた段差部であってもよい。また、上係合部272aは、上段のブロックユニット23の下面に設けられた段差部であってもよい。係合構造27aは、
図4に示す係合構造27と略同様に、仮締切構造体2の一対の腕部24のそれぞれにおいて、ブロックユニット23の前後方向の略中央部に配置され、腕部24の略全幅に亘って左右方向に略平行に延びる。
【0048】
下段のブロックユニット23の上面のうち、下係合部271a(すなわち、段差部)の前側の領域は、下係合部271aおよび下係合部271aの後側の領域よりも下側に位置する。換言すれば、下段のブロックユニット23の上部のうち、下係合部271aおよび下係合部271aの後側の部位は、下係合部271aの前側の部位よりも上方に突出する凸部である。下係合部271aの上方への突出量は、例えば、50mm~300mmである。
【0049】
また、上段のブロックユニット23の下面のうち、上係合部272a(すなわち、段差部)の前側の領域は、上係合部272aおよび上係合部272aの後側の領域よりも下側に位置する。換言すれば、上段のブロックユニット23の下部のうち、上係合部272aおよび上係合部272aの前側の部位は、上係合部272aの後側の部位よりも下方に突出する凸部である。上係合部272aの下方への突出量は、例えば、50mm~300mmである。
【0050】
上係合部272aは、下係合部271aよりも前側(すなわち、堤体91の上流面92に近い側)に配置される。上係合部272aの後面と下係合部271aの前面とは、上下方向の略同じ位置にて前後方向に対向し、前後方向に係合する。具体的には、下係合部271aの前面と上係合部272aの後面とが、直接的または他の部材を介して間接的に接触することにより、下係合部271aと上係合部272aとが前後方向に係合する。これにより、いわゆる剪断キーが構成される。なお、下係合部271aの前面と上係合部272aの後面とは直接的に接触してもよい。
【0051】
図5に示すブロックユニット対では、係合構造27aの下係合部271aと上係合部272aとが係合することにより、上段のブロックユニット23が下段のブロックユニット23に対して後方へと(すなわち、堤体91の上流面92から離れる方向へと)相対的にずれることが抑制される。したがって、上段のブロックユニット23の後端部が浮力によって上方へと変位し、当該ブロックユニット23が前側の上端部を支点として側面視において傾く(すなわち、まくれ上がる)ことが抑制される。その結果、上段のブロックユニット23の下面が、下段のブロックユニット23の上面に対して、後方へと相対的に変位することが抑制され、当該ずれによって仮締切構造体2の構造的安定性が低下することが抑制される。なお、係合構造27aは、下段のブロックユニット23に対する上段のブロックユニット23の前方への相対変位に対しては抵抗にはならない。
【0052】
仮締切構造体2では、例えば、水上に位置する全てのブロックユニット対において、
図4に示す係合構造27、または、
図5に示す係合構造27aが設けられ、
図3に示す引張力伝達部材26は設けられない。また、例えば、水中に位置する全てのブロックユニット対において、引張力伝達部材26が設けられ、係合構造27,27aは設けられない。なお、仮締切構造体2の各ブロックユニット対では、引張力伝達部材26と、係合構造27または係合構造27aとの双方が、上述の変位抑制構造として設けられてもよい。換言すれば、各ブロックユニット対の変位抑制構造は、引張力伝達部材26、および、係合構造27または27aのうち、少なくとも一方を備えていればよい。
【0053】
仮締切構造体2では、必ずしも全てのブロックユニット対に上述の変位抑制構造が設けられる必要はない。仮締切構造体2において一部のブロックユニット対のみに当該変位抑制構造が設けられる場合、仮締切構造体2の上部に位置する(例えば、水上に位置する)ブロックユニット対に当該変位抑制構造が設けられることが好ましい。仮締切構造体2の上部に位置するブロックユニット対では、ブロックユニット23に対して作用する静水圧による付勢力(すなわち、静水圧によって堤体91の上流面92に対して押しつけられる力)が小さい、または、静水圧による付勢力が作用しないため、下段のブロックユニット23に対する上段のブロックユニット23の後方への相対的なずれが比較的生じやすい。したがって、上段のブロックユニット23が下段のブロックユニット23に対して後方へと相対的にずれることを抑制することができる変位抑制構造は、このようなブロックユニット対に特に適している。
【0054】
以上に説明したように、仮締切構造体2は、水面97よりも下方から上方へと延びる対象構造物(上記例では、ダム9の堤体91)近傍に設置され、水中の作業場所の周囲を囲んで作業空間90を形成する。仮締切構造体2は、複数の構造体要素(すなわち、ブロックユニット23)と、変位抑制構造とを備える。複数の構造体要素は、上下方向に積層される。変位抑制構造は、複数の構造体要素のうち上下方向にて隣接する2つの構造体要素である構造体要素対(すなわち、ブロックユニット対)に設けられ、当該構造体要素対のうち上段構造体要素の下面が下段構造体要素の上面に対して対象構造物から離れる方向である後方へと相対的にずれることを抑制する。
【0055】
変位抑制構造は、引張力伝達部材26および係合構造27,27aのうち、少なくとも一方を備える。引張力伝達部材26は、上段構造体要素と下段構造体要素との間(すなわち、上段のブロックユニット23と下段のブロックユニット23との間)にて前後方向に沿って延びる。引張力伝達部材26の下段構造体要素との接続部261は、引張力伝達部材26の上段構造体要素との接続部262よりも前側に位置する。係合構造27,27aでは、下段構造体要素に設けられる下係合部271,271aが、下係合部271,271aよりも前側において上段構造体要素に設けられる上係合部272,272aと前後方向に係合する。
【0056】
これにより、上述のように、上段構造体要素が浮力によってまくれ上がり、上下方向にて隣接する構造体要素が前後にずれることを抑制することができる。したがって、上述のストッパや浮上防止部94が、構造体要素のずれを抑制するために過剰に大型化することを防止することができる。その結果、仮締切構造体2の支持に係る構造を小型化することができ、仮締切構造体2の支持に係る構造の製造および設置に要するコストを低減することができる。
【0057】
上述のように、仮締切構造体2は、平面視において左右方向に離間して配置される一対の腕部24を備えることが好ましい。一対の腕部24の前端部は、対象構造物において左右方向に沿って広がる設置対象面(上記例では、堤体91の上流面92)に接触する。一対の腕部24の後端部同士は、当該設置対象面から後側に離間した位置にて接続される。上述の変位抑制構造は、好ましくは一対の腕部24に設けられる。このように、下段構造体要素と上段構造体要素との前後方向におけるずれを抑制する変位抑制構造を、前後方向に沿って延びる一対の腕部24に設けることにより、変位抑制構造の構造を簡素化しつつ当該ずれを好適には抑制することができる。
【0058】
好ましくは、対象構造物はダム9の堤体91であり、設置対象面は堤体91の上流面92である。上述のように、仮締切構造体2では、上段構造体要素が浮力によってまくれ上がり、上下方向にて隣接する構造体要素が前後にずれることを抑制することができる。したがって、仮締切構造体2の構造は、作業場所の水深が比較的深く、仮締切構造体2に作用する浮力が比較的大きいダム9の堤体91の工事に特に適している。
【0059】
好ましくは、設置対象面は、上方に向かうに従って前方へと向かう傾斜面である。このような設置対象面に設置される仮締切構造体2では、浮力、水平方向の静水圧および設置対象面からの反力によって各構造体要素の後端部を上方へと変位させるモーメント(すなわち、構造体要素をまくれ上がらせるモーメント)が比較的生じ易く、上下方向にて隣接する構造体要素の前後方向におけるずれが比較的生じ易い。上述のように、仮締切構造体2では当該ずれを抑制することができるため、仮締切構造体2の構造は、上述の傾斜面に設置される仮締切構造体に特に適している。
【0060】
好ましくは、仮締切構造体2の後端面は鉛直面である。このような形状を有する仮締切構造体2では、浮力、水平方向の静水圧および設置対象面からの反力によって各構造体要素の後端部を上方へと変位させるモーメント(すなわち、構造体要素をまくれ上がらせるモーメント)が比較的生じ易く、上下方向にて隣接する構造体要素の前後方向におけるずれが比較的生じ易い。上述のように、仮締切構造体2では当該ずれを抑制することができるため、仮締切構造体2の構造は、後端面が鉛直面である仮締切構造体に特に適している。
【0061】
仮締切構造体2では、水上に配置されている構造体要素対に変位抑制構造が設けられることが好ましい。水上に配置されている構造体要素対では、各構造体要素に静水圧が作用しない、または、作用する静水圧が小さいため、構造体要素の後端部を上方へと変位させるモーメント(すなわち、構造体要素をまくれ上がらせるモーメント)が比較的生じ易く、上下方向にて隣接する構造体要素の前後方向におけるずれが比較的生じ易い。したがって、変位抑制構造は、上述のように水上に配置されている構造体要素対に設けられることが好ましい。
【0062】
上述のように、仮締切構造体2は、水中に配置される他の構造体要素対に設けられる他の変位抑制構造をさらに備えることが好ましい。当該他の変位抑制構造は、上記他の構造体要素対の下段構造体要素が上段構造体要素に対して前方へと相対的にずれることを抑制する。好ましくは、水上に配置される構造体要素対に設けられる変位抑制構造は係合構造27,27aであり、水中に配置される当該他の変位抑制構造は引張力伝達部材26である。
【0063】
このように、初期引張力等が調節可能な引張力伝達部材26を水中の構造体要素対に設けることにより、比較的観察しにくい水中における構造体要素の前後ずれを好適に抑制することができる。また、製造コストは低いものの水中での施工管理が比較的難しい係合構造27,27aを水上の構造体要素対に設けることにより、仮締切構造体2の製造および組立等に要するコストを低減することができる。
【0064】
好ましくは、水面97から仮締切構造体2の下端までの上下方向の高さは10m~60mである。上述のように、仮締切構造体2では、上段構造体要素が浮力によってまくれ上がり、上下方向にて隣接する構造体要素が前後にずれることを抑制することができる。したがって、仮締切構造体2の構造は、作業場所の水深が比較的深い工事に特に適している。
【0065】
上述のように、変位抑制構造が設けられる構造体要素対では、好ましくは、上段構造体要素と下段構造体要素とを前後方向に強固に連結する構造(例えば、上下の構造体要素を複数のボルトおよびナットで前後方向にて連結する構造や、上下の構造体要素を溶接する溶接部等のように、上段構造体要素に対する下段構造体要素の前方および後方への相対変位を共に防止する構造)は設けられていない。これにより、上段構造体要素および下段構造体要素が、対象構造物の設置対象面に個別に追従して好適に密着することが可能となる。その結果、設置対象面に対する仮締切構造体2の水密性を向上することができる。
【0066】
上述の仮締切構造体2では、様々な変更が可能である。
【0067】
例えば、仮締切構造体2の後端面251は、必ずしも鉛直面である必要はなく、例えば、上方に向かうに従って前方へと向かう傾斜面であってもよい。この場合、後端面251は、例えば、堤体91の上流面92に略平行であってもよく、また、各ブロックユニット対の境界部は、上流面92に略垂直であってもよい。
【0068】
図3に示す引張力伝達部材26は、必ずしも上段のブロックユニット23と下段のブロックユニット23との境界部(すなわち、ブロックユニット対の境界部)を跨いで設けられる必要はない。例えば、下側のブロックユニット23において、腕部24の左右方向の側面に、当該側面から当該ブロックユニット23の上面よりも上側まで突出する凸部が設けられ、当該凸部の上端部に、下段のブロックユニット23と引張力伝達部材26の接続部261が設けられてもよい。この場合、引張力伝達部材26は、ブロックユニット対の境界部を上下方向に跨ぐことなく、上段のブロックユニット23の腕部24の側方にて前後方向に延びる。
【0069】
あるいは、上側のブロックユニット23において、腕部24の左右方向の側面に、当該側面から当該ブロックユニット23の下面よりも下側まで突出する凸部が設けられ、当該凸部の下端部に、上段のブロックユニット23と引張力伝達部材26の接続部262が設けられてもよい。この場合、引張力伝達部材26は、ブロックユニット対の境界部を上下方向に跨ぐことなく、下段のブロックユニット23の腕部24の側方にて前後方向に延びる。
【0070】
また、引張力伝達部材26とブロックユニット23との接続部は、一対の腕部24以外の部位に設けられてもよい。例えば、下段のブロックユニット23と引張力伝達部材26との接続部261は、腕部24の内側(すなわち、作業空間90側)の側面に設けられ、上段のブロックユニット23と引張力伝達部材26との接続部262は、腕接続部25の前面(すなわち、腕接続部25の内側の面)に設けられてもよい。
【0071】
図4に示す係合構造27も、一対の腕部24以外の部位に設けられてもよい。例えば、腕接続部25に係合構造27が設けられてもよい。この場合、係合構造27は、例えば、腕接続部25の左右方向の略全幅に亘って、または、左右方向の一部に設けられる。
図5に示す係合構造27aについても同様である。
【0072】
仮締切構造体2では、
図3に示す水中に配置されたブロックユニット対において、引張力伝達部材26に代えて係合構造27または係合構造27aが設けられてもよい。また、
図4および
図5に示す水上に配置されたブロックユニット対において、係合構造27,27aに代えて引張力伝達部材26が設けられてもよい。
【0073】
仮締切構造体2では、変位抑制構造は、水上に配置されたブロックユニット対のみに設けられてもよく、水中に配置されたブロックユニット対のみに設けられてもよい。
【0074】
仮締切構造体2の平面視における形状は、チャンネル型(いわゆる、略コの字型)には限定されず、様々に変更されてよい。例えば、
図2に示す仮締切構造体2の腕部24と腕接続部25との接続部が、平面視においてR面取り形状やC面取り形状とされてもよい。また、仮締切構造体2の平面視における形状は、略半円型等であってもよい。
【0075】
仮締切構造体2では、仮締切構造体2の底部に底面が設けられてもよい。この場合、架台93は省略されてもよい。
【0076】
係合構造27は、浮体式の仮締切構造体以外にも、例えば、空気室が設けられない従来型の仮締切構造体であって、鋼製台座等で当該仮締切構造体の自重を支持する場合等にも採用可能である。
【0077】
仮締切構造体2が設置される対象構造物は、必ずしもダム9の堤体91には限定されず、水面よりも下方から上方へと延びる様々な構造物(例えば、水面を貫通する橋脚、または、海洋浮体構造物のストラット等)であってよい。
【0078】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0079】
2 仮締切構造体
9 ダム
23 ブロックユニット
24 腕部
26 引張力伝達部材
27,27a 係合構造
90 作業空間
91 堤体
92 上流面
97 水面
251 後端面
261 接続部
262 接続部
271,271a 下係合部
272,272a 上係合部