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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008041
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】栽培施設
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
A01G7/00 602Z
A01G7/00 602A
A01G7/00 603
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109544
(22)【出願日】2022-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】513144453
【氏名又は名称】藤原 慶太
(74)【代理人】
【識別番号】100200942
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 高史
(72)【発明者】
【氏名】藤原 慶太
(57)【要約】      (修正有)
【課題】病原菌を殺菌する農薬を使用しない無農薬栽培又は減農薬栽培でも、植物の病気を予防・抑制することができる栽培施設を提供する
【解決手段】植物を栽培する複数の栽培区画Aを有する栽培施設1は、各栽培区画Aに設けられ、植物を培養する培地a2と、植物の健康状態の異常を検知する異常検知手段と、植物の培養に資する種々の資源Tを供給する資源供給源と、資源Tを各栽培区画Aの培地a2中へ供給する供給管Pと、供給管Pに配置され、各栽培区画Aへの資源の供給を断接する開閉弁Bと、開閉弁Bの開閉制御を行う弁制御手段c4とを備え、資源供給源として、植物に対する病原菌の増殖を抑制する有用菌が収容された有用菌源を含み、弁制御手段は、いずれかの栽培区画内で異常検知手段により植物の健康状態の異常が検知されると、開閉弁を制御し、複数の栽培区画のうちの異常が検知された当該栽培区画の培地に、有用菌を供給する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を栽培する複数の栽培区画を有する栽培施設であって、
各栽培区画に設けられ、植物を培養する培地と、
植物の健康状態の異常を検知する異常検知手段と、
植物の培養に資する種々の資源を供給する資源供給源と、
前記資源を各栽培区画の前記培地中へ供給する供給管と、
前記供給管に配置され、各栽培区画への前記資源の供給を断接する開閉弁と、
前記開閉弁の開閉制御を行う弁制御手段とを備え、
前記資源供給源として、植物に対する病原菌の増殖を抑制する有用菌が収容された有用菌源を含み、
前記弁制御手段は、いずれかの栽培区画内で前記異常検知手段により植物の健康状態の異常が検知されると、前記開閉弁を制御し、複数の栽培区画のうちの異常が検知された当該栽培区画の前記培地に、前記有用菌を供給することを特徴とする栽培施設。
【請求項2】
前記資源供給源として、前記有用菌の繁殖を促進する有用気体の供給源と、水を供給する水源とを含み、
前記供給管の一部は各栽培区画の前記培地中に配置され、前記培地中に位置する前記供給管の部分に、管の内部と外部とを連通する多数の孔が形成された多孔質管が用いられており、
前記資源供給源から供給される前記有用菌、前記有用気体、又は前記水を、前記供給管の前記孔を通じて各栽培区画の前記培地中に供給可能に構成され、
前記弁制御手段は、植物の健康状態の異常が検知された栽培区画への前記有用菌の供給後、前記開閉弁を制御して、当該栽培区画の前記培地中に前記水を供給し、その後に前記有用気体を供給するよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載の栽培施設。
【請求項3】
前記異常検知手段は、栽培区画の植物を撮像する撮像装置と、前記撮像装置により撮像された植物の画像から、植物の葉部を抽出した葉部抽出画像を生成する画像処理部と、前記葉部抽出画像に基づき、植物の健康状態の異常を判定する異常判定手段とを備え、
前記異常判定手段は、前記葉部抽出画像において、植物の葉部を示す面積に対する、葉部の変色部分を示す面積の割合を算出し、前記割合が所定値以上である場合に植物の健康状態を異常と判定し、前記弁制御手段が、前記開閉弁を制御して、植物の健康状態が異常と判定された栽培区画の前記培地中に、前記有用菌を供給するよう構成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の栽培施設。
【請求項4】
前記異常検知手段は、栽培区画の植物を所定の頻度で撮像する撮像装置と、前記撮像装置により撮像された植物の画像から、植物の葉部を抽出した葉部抽出画像を生成する画像処理部と、前記葉部抽出画像に基づき、植物の健康状態の異常を判定する異常判定手段とを備え、
前記異常判定手段は、前回に撮像された植物の画像から生成された前記葉部抽出画像における葉部を示す面積に対する、最新の植物の画像から生成された前記葉部抽出画像における葉部を示す面積の割合を算出し、当該割合が所定値未満である場合に植物の健康状態を異常と判定し、前記弁制御手段が、前記開閉弁を制御して、植物の健康状態が異常と判定された栽培区画の前記培地中に、前記有用菌を供給するよう構成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の栽培施設。
【請求項5】
各栽培区画の前記培地がマルチングシートにより覆われていることを特徴とする請求項1又は2に記載の栽培施設。
【請求項6】
前記資源供給源として、液肥の供給源をさらに備え、
前記水又は前記液肥にグルタミン酸が含まれていることを特徴とする請求項1又は2に記載の栽培施設。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の病気を予防・抑制することが可能な栽培施設に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、畑やビニルハウス、植物工場等の栽培施設において、栽培される植物に種々の病気が発生したときや、病気の予防のために、農薬が施されてきた。
【0003】
例えば特許文献1には、植物への病原菌を殺菌する殺菌剤を含む組成物が開示されている。この組成物によれば、キュウリに頻発するうどんこ病やトマトに頻発する灰色かび病等の種々の病気を予防・抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2003-501448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、殺菌剤を含む農薬を栽培施設内で使用することで、種々の病気を予防・抑制できるが、その反面で、農薬に耐性を持つ病原菌が発生する恐れや、栽培施設の周囲の生態系に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0006】
このような状況に鑑みて、本発明は、病原菌を殺菌する農薬を使用しない無農薬栽培又は減農薬栽培でも、植物の病気を予防・抑制することができる栽培施設を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のかかる目的は、
植物を栽培する複数の栽培区画を有する栽培施設であって、
各栽培区画に設けられ、植物を培養する培地と、
植物の健康状態の異常を検知する異常検知手段と、
植物の培養に資する種々の資源を供給する資源供給源と、
前記資源を各栽培区画の前記培地中へ供給する供給管と、
前記供給管に配置され、各栽培区画への前記資源の供給を断接する開閉弁と、
前記開閉弁の開閉制御を行う弁制御手段とを備え、
前記資源供給源として、植物に対する病原菌の増殖を抑制する有用菌が収容された有用菌源を含み、
前記弁制御手段は、いずれかの栽培区画内で前記異常検知手段により植物の健康状態の異常が検知されると、前記開閉弁を制御し、複数の栽培区画のうちの異常が検知された当該栽培区画の前記培地に、前記有用菌を供給することを特徴とする栽培施設によって達成される。
【0008】
本発明によれば、異常検知手段により植物の健康状態の異常が検知された栽培区画に、病原菌の増殖を抑制する有用菌が供給されるから、当該栽培区画内での病原菌の増殖が抑えられ、したがって、無農薬栽培又は減農薬栽培でも、植物の病気を予防・抑制することができる。
【0009】
ここで、一般に、菌類を培養するには多額のコストがかかるため、栽培区画に有用菌を供給し続けるのにコストが嵩んでしまう恐れがある。しかしながら、本発明においては、いずれかの栽培区画内の植物の健康状態の異常が検知されたときに、当該栽培区画に対して有用菌が供給されるよう構成されているから、すべての栽培区画に頻繁に有用菌が供給される場合に比して、有用菌の供給量を抑えることができ、したがって、有用菌の培養又は購入にかかるコストを抑制できる。
【0010】
加えて、本発明によれば、有用菌を栽培区画内の培地中に供給することで、当該培地中で有用菌を培養する(=繁殖させる)ことができ、少量少頻度の供給でも、病気を予防・抑制する効果を充分に発揮できる。
【0011】
さらに、本発明によれば、植物の健康状態に異常が認められる栽培区画の培地に対し、自動的に有用菌が供給されることで病気を予防・抑制できるから、作業者の見張り・治療作業の負担を軽減することができる。
【0012】
本発明の好ましい実施形態においては、
前記資源供給源として、前記有用菌の繁殖を促進する有用気体の供給源と、水を供給する水源とを含み、
前記供給管の一部は各栽培区画の前記培地中に配置され、前記培地中に位置する前記供給管の部分に、管の内部と外部とを連通する多数の孔が形成された多孔質管が用いられており、
前記資源供給源から供給される前記有用菌、前記有用気体、又は前記水を、前記供給管の前記孔を通じて各栽培区画の前記培地中に供給可能に構成され、
前記弁制御手段は、植物の健康状態の異常が検知された栽培区画への前記有用菌の供給後、前記開閉弁を制御して、当該栽培区画の前記培地中に前記水を供給し、その後に前記有用気体を供給するよう構成されている。
【0013】
本発明のこの好ましい実施形態によれば、有用菌が供給された栽培区画の培地中に、有用菌の繁殖を促進する有用気体が供給されるよう構成されているから、培地中の有用菌の繁殖を早め、病気の予防・抑制効果を高めることができる。
【0014】
さらに、本発明のこの好ましい実施形態によれば、有用菌が供給された栽培区画の培地に、水が供給され、その後に有用気体が供給されるよう構成されているから、多孔質管の多数の孔に詰まった有用菌のぬめりを水で洗い流した上で、有用菌の繁殖を促進する有用気体を多数の孔を通じて培地中に供給できる。したがって、有用菌の供給管と、有用気体の供給管と、水の供給管とを共用した(=1つにまとめた)構成であっても、有用気体をスムーズに培地中に供給でき、設備投資を抑えることができる。
【0015】
さらに、本発明のこの好ましい実施形態によれば、有用菌等の資源を供給する供給管において、培地中に位置する部分に、多孔質管が用いられているため、有用菌の培養に資する有用気体を、培地中に満遍なく供給でき、病気の予防・抑制効果を早期に得ることができる。
【0016】
また、本実施形態によれば、有用菌が供給された栽培区画のみに対し、有用気体の供給が行われるよう構成されているため、ランニングコストを抑えることができる。
【0017】
本発明のさらに好ましい実施形態においては、
前記異常検知手段は、栽培区画の植物を撮像する撮像装置と、前記撮像装置により撮像された植物の画像から、植物の葉部を抽出した葉部抽出画像を生成する画像処理部と、前記葉部抽出画像に基づき、植物の健康状態の異常を判定する異常判定手段とを備え、
前記異常判定手段は、前記葉部抽出画像において、植物の葉部を示す面積に対する、葉部の変色部分を示す面積の割合を算出し、前記割合が所定値以上である場合に植物の健康状態を異常と判定し、前記弁制御手段が、前記開閉弁を制御して、植物の健康状態が異常と判定された栽培区画の前記培地中に、前記有用菌を供給するよう構成されている。
【0018】
本発明のこの好ましい実施形態によれば、撮像装置により撮像された画像に基づき、植物の健康状態の異常を検知するよう構成されているから、植物の病気を検知するための種々のセンサを各栽培区画に設ける必要がなく、設備コストを大幅に抑えることができる。
【0019】
さらに、本発明のこの好ましい実施形態によれば、葉部を抽出した画像において、葉の変色した部分が多い場合に、植物の健康状態を異常と判定し、この植物が位置する栽培区画の培地中に有用菌を供給するよう構成されているから、萎凋病や黒点病等の葉の色を変色させる病気を自動検知し、有用菌を供給することで、病気を抑制できる。
【0020】
本発明のさらに好ましい実施形態においては、
前記異常検知手段は、栽培区画の植物を所定の頻度で撮像する撮像装置と、前記撮像装置により撮像された植物の画像から、植物の葉部を抽出した葉部抽出画像を生成する画像処理部と、前記葉部抽出画像に基づき、植物の健康状態の異常を判定する異常判定手段とを備え、
前記異常判定手段は、前回に撮像された植物の画像から生成された前記葉部抽出画像における葉部を示す面積に対する、最新の植物の画像から生成された前記葉部抽出画像における葉部を示す面積の割合を算出し、当該割合が所定値未満である場合に植物の健康状態を異常と判定し、前記弁制御手段が、前記開閉弁を制御して、植物の健康状態が異常と判定された栽培区画の前記培地中に、前記有用菌を供給するよう構成されている。
【0021】
本発明のこの好ましい実施形態によれば、撮像装置により撮像された画像に基づき、植物の健康状態の異常を検知するよう構成されているから、植物の病気を検知するための種々のセンサを各栽培区画に設ける必要がなく、設備コストを大幅に抑えることができる。
【0022】
さらに、本発明のこの好ましい実施形態によれば、撮像装置によって所定の頻度で栽培区画内の植物の画像が撮像され、前回の葉部抽出画像内の葉部を示す面積に対する今回の(=最新の)葉部抽出画像内の葉部を示す面積の割合が所定値未満である場合に、植物の健康状態を異常と判定し、この植物が位置する栽培区画の培地中に有用菌を供給するよう構成されているから、萎凋病等により葉が萎れたり落葉したことを自動検知し、有用菌を供給することで、病気を抑制することができる。
【0023】
本発明のさらに好ましい実施形態においては、
各栽培区画の前記培地がマルチングシートにより覆われている。
【0024】
本発明のこの好ましい実施形態によれば、各栽培区画の培地がマルチングシートにより覆われているから、長時間にわたって有用気体を培地中に保持でき、有用菌の繁殖促進効果を持続させることができる。
【0025】
本発明のさらに好ましい実施形態においては、
前記資源供給源として、液肥の供給源をさらに備え、
前記水又は前記液肥にグルタミン酸が含まれている。
【0026】
本発明のこの好ましい実施形態によれば、各栽培区画の培地中にグルタミン酸を含む水又は液肥を供給可能に構成されているから、グルタミン酸により有用菌の発芽率を上昇させ、繁殖を促進することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、病原菌を殺菌する農薬を使用しない無農薬栽培又は減農薬栽培でも、植物の病気を予防・抑制することができる栽培施設を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、本発明の好ましい実施形態にかかる栽培施設の概略斜視図である。
図2図2は、図1に示された栽培施設内の資源供給に係る模式図である。
図3図3は、図1に示された栽培施設の制御ブロック図である。
図4図4は、図1に示された栽培ベッドの近傍の概略縦断面図である。
図5図5は、制御装置による制御全体を示すフローチャートである。
図6図6は、制御装置により日中に行われる各制御を示すフローチャートである。
図7図7は、制御装置による菌供給制御にかかるフローチャートである。
図8図8(a)は、撮像装置により撮像される植物のカラー画像を示す模式図であり、図8(b)は、画像処理部により抽出された葉部の画像を示す模式図である。
図9図9は、制御装置により夜間に行われる各制御を示すフローチャートである。
図10図10は、本発明の他の好ましい実施形態における潅水の制御に係るフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面に基づいて、本発明の好ましい実施形態につき、詳細に説明を加える。
図1は、本発明の好ましい実施形態にかかる栽培施設1の概略斜視図である。
【0030】
栽培施設1は、ビニルフィルムH1をフレームH2により支持するビニルハウスHとして構成されており、施設内部に、略長方形の領域を有する多数の栽培ベッドA(A1~A4)を備えている。栽培ベッドAの間には、栽培対象である植物Gの自動収穫装置や作業者が通る通路Rが形成されている。各栽培ベッドは、本発明の「栽培区画」の一例である。
【0031】
本実施形態にかかる栽培施設1は、植物Gとしてトマトを栽培する栽培施設として構成されているが、本発明に係る栽培施設により栽培される植物の種類はこれに限られない。
【0032】
図2は、栽培施設1内の資源供給に係る模式図であり、図3は、図1に示された栽培施設1の制御ブロック図である。また、図4は、図1に示された栽培ベッドAの近傍の概略縦断面図である。
【0033】
栽培施設1は、栽培ベッドAの他、各栽培ベッドAに供給される種々の資源T(T1~T9)の供給源と、資源Tを各栽培ベッドAに供給する供給装置5と、供給装置5による資源Tの供給を制御する制御装置C(図1図3参照)と、各栽培ベッドAに配置されたセンサユニット6(図3参照)と、各栽培ベッドAの植物Gを撮像する撮像装置8(8a~8d、図1及び図3参照)を備えている。
【0034】
各栽培ベッドAは、図4に示されるように、高設ベンチa1に、培地a2を収容した栽培容器a3が載置固定されて構成されている。培地a2には、土壌やロックウール等の繊維質など、様々な培地を用いることができる。
【0035】
培地a2の上面は植物Gの根元を除き、マルチングシートa5により覆われている。以下において、栽培ベッドAが4列にわたって設けられた場合について説明を進めるが、本発明の実施形態は、これに限定されない。
資源Tの供給源として、本実施形態においては、液体を含む資源T1~T4の供給源と、気体からなる資源T5~T9の供給源が設けられている。
【0036】
供給装置5は、資源Tを栽培ベッドAに供給する供給管P(P1~P7)と、供給管Pを開閉する電磁弁B(B1~B26)と、液体を含む資源T2~T4を資源Tの1つである水に混入させる混入器K(k1~k3)を備えている。混入器Kとしては、電源不要で、且つ設定された比率だけ混入可能なDOSATRON社の製品である「ドサトロン」(登録商標)等を用いることができる。
【0037】
供給管Pは、タンクにより構成された水源から供給される水T1を移送する主供給管P1と、液体を含む資源T2~T4を主供給管P1に移送する液体供給管P2(P2a~P2c)と、気体からなる資源T5~T9を主供給管P1に移送する気体供給管P3(P3a~P3e)と、各栽培ベッドAの培地a2中を貫通するように延びる地中供給管P4(P4a~P4d)と、各栽培ベッドAの培地a2の上方を延びる地上供給管P5(P5a~P5d)と、主供給管P1内を移送された資源T1~T9を地中供給管P4及び地上供給管P5に移送可能な第1供給管P6及び第2供給管P7を含んで構成されている。
【0038】
地上供給管P5は、資源Tの一つである炭酸ガスT6を栽培ベッドAの近傍に供給するのに用いられ、地中供給管P4は、他の資源Tを栽培ベッドAの培地a2中に供給するのに用いられる。
【0039】
電磁弁Bとして、供給装置5は、主供給管P1を開閉する電磁弁B1,B2と、液体供給管P2を開閉する電磁弁B3~B5と、気体供給管P3を開閉する電磁弁B6~B10と、地中供給管P4を開閉する電磁弁B11~B18と、地上供給管P5を開閉する電磁弁B19~B26を備えている。各電磁弁は制御装置Cにより開閉制御される。制御装置Cと各電磁弁とは、有線接続により通信可能としてもよく、無線通信可能に構成してもよい。
【0040】
各地中供給管P4a~P4dの一端部は第1供給管P6に、他端部は第2供給管P7に接続されており、各地上供給管P5の一端部は第1供給管P6に、他端部は第2供給管P7に接続されている。その結果、略水平に延びる各地中供給管P4と各地上供給管P5の両端部から中央部側へ種々の資源Tが送られるため、各栽培ベッドA全体に満遍なく種々の資源Tを供給できる。
【0041】
地上供給管P5は、培地a2上を延びる部分が、多孔質管(=ポーラスパイプ)に構成されており、その外周面に、地上供給管P5の外部と内部空間とを連通する多数の孔が形成されている。地上供給管P5における培地a2上に位置する部分以外の部分は塩ビ管により構成されている。
【0042】
各地中供給管P4は、培地a2中を延びる部分(図2にて破線で図示)が多孔質管により構成されており、その外周面に、地中供給管P4の外部と内部空間とを連通する多数の孔が形成されている。地中供給管P4における培地a2中を延びる部分以外の部分、すなわち、各地中供給管P4の両端部は、塩ビ管により構成されている。なお、地中供給管P4の両端部の材質は塩ビ管に限定されるものではなく、例えば水道ホース等により構成することも可能である。
【0043】
本実施形態においては、水T1に混入される資源Tとして、第1、第2の液肥T2及びT3と、植物の病原菌の増殖を抑制する有用菌を含む菌培養液T4が用いられている。有用菌を含む菌培養液T4と、第1、第2の液肥T2、T3は、各々、供給源としてのタンクに収容されている。
【0044】
2種類の液肥T2及びT3は、互いに窒素、リン、及びカリウムの成分比を互いに異にしており、第2の液肥の窒素成分の濃度は、第1の液肥の窒素成分の濃度よりも高く設定されている。第1の液肥T2には、鉄分が含まれている。
【0045】
植物に対する病原菌の増殖を抑制する有用菌としては、ダイコンバーティシリウム黒点病等を引き起こすVerticillium dahliae Klebahnの増殖を抑制するVerticillium lecaniiや、青枯病を引き起こす病原菌であるRalstonia solanacearumの増殖を抑制する、同菌の非病原性変異株、トマト萎凋病を引き起こすFusarium oxysporumの増殖を抑制する、同菌の非病原性菌株などを用いることができる。本実施形態においては、上記F. oxysporumの非病原性菌株を有用菌の例として説明を進める。F. oxysporumの非病原性菌株を培地a2に供給することで、通常の病原性の菌株との競合による交叉防御反応により、病原性の菌株の増殖を抑制し、植物Gの萎凋病等の病気を予防・抑制することができる。
【0046】
水T1が主供給管P1内を移送される間に、電磁弁B3が開かれると第1の液肥T2が、電磁弁B4が開かれると第2の液肥T3が、電磁弁B5が開かれると有用菌を含む菌培養液T4が、各々、水T1に混入される。水T1、又は液体を含む資源T1~T3のうちの少なくとも1つを含む水T1は、主供給管P1内を、図2に示されるグレー色の矢印の方向に移送され、第1供給管P6及び第2供給管P7内を通じて、いずれか少なくとも1つの地中供給管P4内に移送される。そして、地中供給管P4の多数の孔を通じて培地a2中に供給される。
【0047】
例えば、有用菌を含む菌培養液T4が栽培ベッドA4の培地a2中に供給される際には、制御装置Cは、主供給管P1上に配置された電磁弁B1及びB2並びに液体供給管P2c上に配置された電磁弁B5を開くとともに、地中供給管P4dの両端部に配置された電磁弁B17,B18を開く。
【0048】
その結果、有用菌を含む菌培養液T4が水T1に混入されて、有用菌が混入された水T1が、主供給管P1、及び第1、第2供給管P6,P7を通じて、地中供給管P4d内へ移送され、地中供給管P4dの多数の孔を通じて栽培ベッドA4の培地a2中に供給される。このとき、電磁弁B1、B2、B5、B17,B18以外の他の電磁弁は閉じられる。
【0049】
一方、本実施形態においては、気体からなる資源Tとして、エアコンプレッサー7により供給される空気T5と、ボンベ等の供給源から供給される炭酸ガスT6、酸素ガスT7、窒素ガスT8、及び水素ガスT9が用いられている。なお、空気T5は、空気供給源であるエアコンプレッサー7から供給されるよう構成されているが、エアコンプレッサー7によらずに、ボンベ等から供給するよう構成してもよい。資源T6~T9を主供給管P1に移送する各気体供給管P3b~P3e上には、ボンベ側から主供給管P1側へ順に、減圧弁、流量計3、電磁弁Bが設けられている。また、主供給管P1上であって、電磁弁B1の配置位置より上流側の部分には、水T1の供給量を検出する流量計3が設けられている。
【0050】
例えば、炭酸ガスT6が栽培ベッドA1に供給される場合、制御装置Cは、気体供給管P3b上に配置された電磁弁B7と、地上供給管P5a上に配置された電磁弁B19,B20を開き、他の電磁弁を閉じた状態とする。その結果、気体供給管P3bを通じて主供給管P1内に供給された炭酸ガスT6が、第1、第2供給管P6、P7内を移送される。その後、炭酸ガスT6は地上供給管P5a内を移送され、地上供給管P5aの外周面に形成された多数の孔を通じて、栽培ベッドA1にて栽培される植物Gの近傍に供給される。
【0051】
また、例えば酸素ガスT7が栽培ベッドA2に供給される場合、制御装置Cは、気体供給管P3c上に配置された電磁弁B8と、地中供給管P4b上に配置された電磁弁B13、B14を開き、他の電磁弁を閉じた状態とする。
【0052】
その結果、気体供給管P3c上に配置された電磁弁B8を通じて主供給管P1内に供給された酸素ガスT7が、第1、第2供給管P6、P7内を移送された後、地中供給管P4b内を移送される。その後、酸素ガスT7は、地中供給管P4bの外周面に形成された多数の孔を通じて、栽培ベッドA2の培地a2中に供給される。
【0053】
さらに、例えば空気T5が栽培ベッドA3に供給される場合、制御装置Cは、エアコンプレッサー7を制御し、圧縮空気T5を気体供給管P3aを通じて主供給管P1内へ移送するとともに、地中供給管P4c上に配置された電磁弁B15、B16を開く。その結果、圧縮空気T5が、主供給管P1から第1、第2供給管P6,P7へ移送された後、地中供給管P4cの外周面に形成された多数の孔を通じて、栽培ベッドA3の培地a2中に供給される。
【0054】
制御装置Cは、CPU等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成された情報処理装置である。制御装置Cは、撮像装置8により取得される各栽培ベッドAの植物Gの画像から葉部を抽出する(換言すれば、抜き出す)画像処理部c1と、画像処理部c1により抽出された葉部の画像に基づき、植物Gの健康状態の異常の有無を判定する第1、第2異常判定部c2、c3と、画像処理部c1及び第1、第2異常判定部c2、c3により処理された種々の数値やフラグ、画像等のデータが記録される記録部c6と、各電磁弁Bの開閉制御を行う弁制御部c4と、エアコンプレッサー7の作動を制御するコンプレッサー制御部c5を備えている。弁制御部c4は本発明の「弁制御手段」に相当する。制御装置Cの入力側には、計時部9、流量計3、撮像装置8(8a~8d、図1参照)、センサユニット6、及び入力装置4が接続されている。
【0055】
記録部c6には、区画データベースc6aと、センサデータベースc6bと、撮像装置データベースc6cと、機器データベースc6dと、制御条件データベースc6eが予め格納されている。
【0056】
区画データベース33には、栽培施設1内の各栽培ベッドAを識別するIDと、各栽培ベッド中で栽培される植物Gの各株のIDとが紐付けされた状態で格納されている。本実施形態においては各栽培ベッドAに対し、A1~A4のいずれかのIDが付される。各株のIDは、各株が位置する栽培ベッドの符号と、各株が図1の紙面手前側から順に何番目に位置するかにより付されている。例えば、栽培ベッドA1の紙面手前側から2番目に位置する株は「A1-2」、栽培ベッドA3の紙面手前側から1番目に位置する株は「A3-1」というIDが付されている。すなわち、植物Gの各株のIDには、その株が位置する栽培ベッドAのIDが含まれている。
【0057】
センサデータベースc6bには、センサユニット6に含まれる各センサ6a~6eや、各センサユニット6を特定するIDが、それらの設置位置である栽培ベッドAのIDと紐付けされた状態で格納されている。
撮像装置データベースc6cには、各撮像装置8a~8dを特定するIDが、各々の撮像対象である栽培ベッドAのIDと紐付けされた状態で格納されている。
【0058】
機器データベースc6dには、エアコンプレッサー7の機器IDと、各電磁弁Bを特定する機器IDとが格納されている。エアコンプレッサー7の機器IDは資源Tの一つである圧縮空気T5のID「T5」と紐付けされて格納されている。液体供給管P2及び気体供給管P3に配置された電磁弁Bの機器IDは資源Tを特定するID(T1~T9)と紐付けされた状態で格納されており、地中供給管P4及び地上供給管P5に配置された電磁弁Bの機器IDは栽培ベッドAのID(A1~A4)と紐付けされた状態で格納されている。各資源をいずれかの栽培ベッドAに供給する際には、制御装置Cの弁制御部c4が、供給先の栽培ベッドAのIDに紐付く電磁弁Bの機器IDと、供給する資源TのIDに紐付く電磁弁Bの機器IDを読み出して開制御する。なお、圧縮空気T5を供給する場合、資源TのIDの一つである「T5」というIDに基づき読み出されたエアコンプレッサー7の機器IDから、コンプレッサー制御部c5によるエアコンプレッサー7の作動の制御が行われる。
制御条件データベースc6eには所定の制御条件、すなわち、どのような条件のもとでどのような制御をするかという情報が格納されている。
【0059】
計時部9は、特定時点からの経過時間の計測等を行う電子装置であり、計測結果を制御装置Cへ出力する。さらに、計時部9は、GPS信号から現在の日時の情報を取得する時計機能と、曜日を特定するカレンダー機能を備え、これらの情報も制御装置Cへ出力する。
【0060】
流量計3は、気体供給管P3b~P3eにより主供給管P1へ移送される資源T6~T9の移送量と、水T1の供給量を検出し、制御装置Cに検出信号を出力する。
【0061】
各撮像装置8a~8dはフレームH2に固定されており、制御装置Cから出力される撮像を指示する制御信号(以下、「撮像指示信号」という。)に基づき、高精細なカラー画像を取得可能に構成されている。撮像装置8aは栽培ベッドA1で栽培される植物Gを、撮像装置8bは栽培ベッドA2で栽培される植物Gを、撮像装置8cは栽培ベッドA3で栽培される植物Gを、撮像装置8dは栽培ベッドA4で栽培される植物Gを各々撮像可能な位置に配置されている。
【0062】
各センサユニット6は、培地a2のpHを検出するpHセンサ6aと、培地a2のEC(電気伝導度)を検出するECセンサ6bと、培地a2中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサ6cと、植物Gの近傍の炭酸ガス濃度を検出する炭酸ガス濃度センサ6dと、培地a2中の温度を検出する培地温度センサ6eを含んで構成されている。
【0063】
入力装置4は、本実施形態においてはタッチパネルにより構成されており、潅水時刻や第1又は第2の液肥T2,T3を施肥する曜日、有用菌T4を供給する曜日及び時刻等の情報を入力し、設定することができる。入力装置4を用いて設定された情報は記録部c6に格納される。本実施形態においては、2回の潅水が行われるよう構成されており、潅水時刻として、朝と夕方の計2つの潅水時刻を設定することができる。なお、入力装置は機械式のスイッチ等により構成することも可能である。
【0064】
以上のように構成された栽培施設1において、制御装置Cは、図5に示されるように、1日のうちの所定の時間である日中か、所定の時間外である夜間かを判定し、日中においては、図6に示されるように、各栽培ベッドAに水T1を供給する潅水制御と、第1又は第2の液肥T2,T3を水T1に混入させる形で各栽培ベッドAに供給する施肥制御と、植物Gの健康状態の異常を検知し、栽培ベッドAに有用菌を含む菌培養液T4を供給する菌供給制御(図7参照)を行う。
【0065】
一方、夜間においては、図7に示されるように、制御装置Cは、空気T5を培地a2に供給することで培地a2を冷却する冷却制御と、空気T5を除く他の気体からなる資源T6~T9を培地中に供給する気体供給制御を行う。
【0066】
まず、図6を用いて、日中に行われる各制御について説明を加える。
【0067】
図6は、制御装置Cにより日中に行われる各制御を示すフローチャートである。
【0068】
日中において、制御装置Cはまず、計時部9から取得される現在時刻が予め設定された朝の潅水時刻か否かを判定する(ステップd1)。
【0069】
判定の結果、現在時刻が朝の潅水時刻でない場合、制御装置Cは、現在時刻が潅水時刻となるまで判定を繰り返す。
【0070】
これに対して、判定の結果、現在時刻が朝の潅水時刻である場合、制御装置Cは、計時部9から取得される曜日情報に基づき、本日の曜日が、入力装置4を用いて予め設定された、施肥制御を行う曜日であるか否かを判定する(ステップd2)。判定の結果、施肥制御を行う曜日である日の場合、制御装置Cの弁制御部c4は施肥制御を行う(ステップd3)。
【0071】
施肥制御において、弁制御部c4は、各栽培ベッドAに配置された各ECセンサ6bの検出結果に応じて、2種類の液肥T2,T3のいずれかを各栽培ベッドAに供給する。
【0072】
具体的には、いずれかの栽培ベッドAについて、ECセンサ6bにより検出されるECの値が所定値未満である場合、制御装置Cの弁制御部c4は、当該栽培ベッドAの培地a2に、窒素成分の濃度が高い第2の液肥T3を供給する。例えば、ECセンサ6bにより検出されたEC値が、栽培ベッドA1の培地a2のみ所定値未満であった場合、弁制御部c4は、電磁弁B1、B2、B4、B11、及びB12を開いて栽培ベッドA1に第2の液肥T3を供給した後、これらの電磁弁Bを閉じ、電磁弁B1、B2,B3、及びB13~B18を開いて他の栽培ベッドA2~A4に第1の液肥T2を供給する。
【0073】
このように、培地a2のECの値が低い栽培ベッドAに対し、窒素成分の濃度が高い第2の液肥T3を供給することで、当該栽培ベッドAのECの値を上昇させることができる。
【0074】
一方、施肥制御を行う曜日であるか否かの判定の結果、施肥制御を行う曜日でない場合、弁制御部c4は、すべての栽培ベッドAに対し、潅水制御を行う(ステップd4)。
潅水制御において、弁制御部c4は、電磁弁B1、B2及びB11~B18を開き、水T1をすべての栽培ベッドAに水を供給する。
【0075】
こうして、施肥制御又は潅水制御を行うと、制御装置Cは、計時部9から取得される計時部9から取得される曜日情報に基づき、本日の曜日が、入力装置4を用いて予め設定された、菌供給制御を行う曜日であるか否かを判定する(ステップd5)。判定の結果、菌供給制御を行う曜日である場合、制御装置Cは、予め設定された、菌供給制御を行う時刻であるか否かを判定し(ステップd6)、菌供給制御を行う時刻である場合に、後に詳述する菌供給制御を行う(ステップd7)。菌供給制御の実行頻度としては、週に一度程度であることが好ましい。
【0076】
本日が菌供給制御を行う曜日でない場合、及び菌供給制御が終了した後には、制御装置Cは、現在時刻が夕方の潅水時刻であるか否かを判定し(ステップd8)、潅水時刻である場合、日中の最後の制御として、すべての栽培ベッドAに対し、ステップd4と同様に潅水制御が行われる(ステップs9)。
【0077】
一方、図7は、制御装置Cによる菌供給制御にかかるフローチャートであり、図8(a)は、撮像装置8aにより撮像される植物Gの画像を示す模式図であり、図8(b)は、画像処理部c1により抽出された葉部の画像を示す模式図である。
【0078】
本実施形態においては、図7に示される菌供給制御の実行により、健康状態の異常が認められる植物Gがある栽培ベッドAに有用菌を含む菌培養液T4を供給し、植物Gの病気を予防・抑制することができる。
菌供給制御において、制御装置Cは、まず、撮像指示信号を各撮像装置8a~8dに出力する(ステップs1)。
【0079】
撮像指示信号を受信すると、撮像装置8aは栽培ベッドA1で栽培される植物Gの画像を(図8(a)参照)、撮像装置8bは栽培ベッドA2で栽培される植物Gの画像を、撮像装置8cは栽培ベッドA3で栽培される植物Gの画像を、撮像装置8dは栽培ベッドA4で栽培される植物Gの画像を、各々制御装置Cに出力する。
【0080】
撮像装置8から各栽培ベッドAの植物Gのカラー画像(図8(a)参照)を受信すると、制御装置Cの画像処理部c1は、撮像された各カラー画像に対し、彩度と色相を閾値処理することによって、植物Gの葉部のみを抽出したカラー画像を生成する(ステップs2、図8(b)参照)。なお、図8(b)に示される葉部抽出画像においては、葉部を明確に示すため白色で表しているが、実際の葉部抽出画像において、葉部は緑色等の実際の葉の色に近い色であり、撮像装置8のイメージセンサにより取得・再現された色である。
【0081】
こうして、栽培ベッドAごとの植物Gの葉部抽出画像が生成されると、制御装置Cの第1異常判定部c2は、葉部抽出画像内の植物Gの各株について、葉部を示す部分の面積を算出し、植物Gの各株のIDとともに記録部c6に記録する(ステップs3)。以下、葉部抽出画像における各株の葉部を示す面積を、「葉部面積」という。本実施形態においては、葉部抽出画像内の植物Gの各株について算出される葉部面積は、葉部抽出画像内の植物Gの各株の葉部を示す画素数(以下、「葉部画素数」という。)である。
【0082】
次いで、第1異常判定部c2は、各株につき、前回の葉部抽出画像(=一週間に撮像されたカラー画像から生成された葉部抽出画像)中において葉部を示す(=葉部が占める)面積に対する、今回生成された葉部抽出画像中における葉部を示す(=葉部が占める)面積の割合を算出する。そして、第1異常判定部c2は、当該割合が所定値未満であるか否かを判定する(ステップs4)。
【0083】
より具体的には、第1異常判定部c2は、ステップs2で生成された葉部抽出画像に含まれる各株について、今回の葉部画素数と、前回に同一の株について記録された葉部画素数とを比較し、記録された前回の葉部画素数に対する今回の(=最新の)葉部画素数の割合が所定値以上であるか否かを判定する。今回の葉部画素数とは、ステップs3で記録された葉部画素数である。葉部抽出画像内の株の見分けは、例えば、撮像装置8により撮像される各栽培ベッドAの画角中に含まれる2つの株の間に、識別用のラベルを各栽培ベッドAに設けておき、撮像されたラベルを基準に、葉部が左側に位置するか右側に位置するかで、いずれの株の葉部であるかを区別できる。なお、本実施形態においては上述のように植物Gの株ごとに前回の葉部面積に対する今回の葉部面積の割合を算出するよう構成されているが、栽培ベッドAごと、すなわち、葉部抽出画像ごとに、前回の葉部面積に対する今回の葉部面積の割合を算出してもよい。
【0084】
判定の結果、前回の葉部面積に対する今回の葉部面積の割合が所定値未満である株がある場合、植物Gの当該株の葉部が萎れたり、落葉しているなどの健康状態の異常が認められるので、第1異常判定部c2は、当該株について健康状態が異常である旨の判定を行い、当該株のIDと、異常の旨のフラグとを紐付けしたデータを記録部c6に記録する(ステップs5)。同時に、第1異常判定部c2は、前回の葉部面積に対する今回の葉部面積の割合が所定値以上である株について、健康状態が異常である旨の判定を行い、当該株のIDと、正常の旨のフラグとを紐付けしたデータを記録部c6に記録する。
【0085】
これに対し、判定の結果、前回の葉部面積に対する今回の葉部面積の割合が所定値未満である株がない場合、いずれの株にも葉部が萎れたり、落葉しているなどの健康状態の異常が認められないので、第1異常判定部c2は、各株について健康状態が正常である旨の判定を行い(ステップs6)、当該株のIDと、正常の旨のフラグとを紐付けしたデータを記録部c6に記録する。
【0086】
こうして、第1異常判定部c2による葉部の萎れ・落葉等に基づく異常の検知が終了すると、制御装置Cの第2異常判定部c3による葉部の変色に基づく異常の検知の工程に移行する。葉部の変色とは、例えば、植物Gの葉部が黄化又は褐変したり、葉部に斑点が生じた状態である。
【0087】
具体的には、まず、第2異常判定部c3は、葉部抽出画像について、画素ごとに、色の濃淡を数値化する(ステップs7)。すなわち、葉部を示す各画素について、色が濃いほど濃淡値を高く出し、色が薄いほど濃淡値を小さく出す。濃淡値とは、各画素の濃淡を示す値である。
【0088】
次いで、第2異常判定部c3は、今回生成された葉部抽出画像における植物Gの各株について、葉部面積に対する、葉部が変色した部分を示す(=葉の変色した部分が占める)面積の割合を算出する。そして、第2異常判定部c3は、当該割合が所定値以上であるか否かを判定する(ステップs8)。以下、葉部抽出画像における各株の葉部が変色した部分の面積を「変色面積」という。
【0089】
より具体的には、第2異常判定部c3は、葉部抽出画像における植物Gの各株について、葉部画素数に対する、色の濃淡値が閾値未満である画素の数(以下、「変色画素数」という。)の割合を算出し、この割合が所定値以上であるか否かを判定する。
【0090】
色の濃淡値の閾値には、例えば、黄化等、葉部が変色したと考えられる値を設定でき、変色画素数の割合の所定値には、例えば、葉部を変色させる萎凋病等の病気の極初期症状の可能性が考えられる値を設定することができる。なお、本実施形態においては上述のように植物Gの株ごとに変色した葉部の割合を算出するよう構成されているが、栽培ベッドAごと、すなわち、葉部抽出画像ごとに変色した葉部の割合を算出してもよい。
【0091】
判定の結果、変色面積の割合が閾値以上である植物Gの株がない場合、いずれの栽培ベッドAにも健康状態に異常がある植物Gが認められないため、第2異常判定部c3は、すべての植物Gについて、健康状態が正常である旨の判定を行う(ステップs9)。
【0092】
これに対し、判定の結果、変色面積の割合が閾値以上である植物Gの株がある場合、当該株について、葉部の変色が発生したという健康状態の異常が認められる。このため、第2異常判定部c3は、変色面積の割合が閾値以上である当該株について健康状態が異常である旨の判定を行い、当該株のIDと、異常の旨のフラグとを紐付けしたデータを記録部c6に記録する(ステップs10)。同時に、第2異常判定部c3は、変色面積の割合が閾値未満である植物Gの株について、健康状態が正常である旨の判定を行い、該株のIDと、正常の旨のフラグとを紐付けしたデータを記録部c6に記録する。
【0093】
こうして、第2異常判定部c3による葉部の変色に基づく異常の検知が終了すると、第1、第2異常判定部c2、c3の少なくとも一方により健康状態が異常である旨の判定が行われた株がある栽培ベッドAのみに対し、有用菌を含む菌培養液T4が選択的に供給される(ステップs11)。以下において、健康状態の異常が検知された植物Gのある栽培ベッドAのみに対して選択的に有用菌を含む菌培養液T4を供給することを「選択供給」という。なお、すべての栽培ベッドAのすべての株について、健康状態が正常の旨の判定が行われた場合には、有用菌を含む菌培養液T4の供給が行われずに、図7に示される処理が終了される。
【0094】
選択供給において、制御装置Cの弁制御部c4は、第1、第2異常判定部c2、c3により異常の旨のフラグが紐付けされた植物Gの株のIDから、異常が検知された株が位置する栽培ベッドAのIDを読み出す。そして、弁制御部c4は、電磁弁Bを制御し、当該IDにより示される栽培ベッドAのみに対し有用菌を含む菌培養液T4を供給する。
【0095】
例えば、図1に示される栽培ベッドA1の紙面手前側の株と、栽培ベッドA2の紙面手前側の株のみにおいて、健康状態の異常の判定が行われた場合、制御装置Cの弁制御部c4は、異常の旨のフラグが紐付けされた「A1-1」「A2-1」のIDから、「A1」及び「A2」という栽培ベッドA1、A2のIDを読み出し、これらのIDと、資源T4とに紐付けされた電磁弁Bである電磁弁B1、B2、B5、及びB11~B14のみを、第1の所定の時間にわたって開く。これにより、異常が認められた株のある栽培ベッドA1、A2のみの培地a2に、有用菌を含む水が供給される。
【0096】
こうして、健康状態に異常が認められた株のある栽培ベッドAに対し、有用菌を含む水が供給されると、制御装置Cの弁制御部c4は、水のみを当該栽培ベッドAに第2の所定の時間にわたって供給する(ステップs12)。
【0097】
上述の例のように、異常が認められた株が栽培ベッドA1、A2のみにある場合、弁制御部c4は、電磁弁B5を閉じ、電磁弁B1,B2及びB11~B14のみを第2の所定の時間にわたって開いた状態とする。これにより、水T1のみが当該栽培ベッドAの培地a2に供給される。このため、当該栽培ベッドAへ通じる供給管P内の、特に培地a2上を延びる地上供給管P5の部分に形成された多数の孔に詰まった粘性の高い有用菌の菌培養液T4による“ぬめり”を洗い流され、その後の気体の供給が可能となる。
【0098】
最後に、弁制御部c4が電磁弁B1を閉じて電磁弁B6を開けるとともに、コンプレッサー制御部c5が、エアコンプレッサー7を作動させ、圧縮空気T5を、健康状態に異常が認められた株のある栽培ベッドAのみに、第3の所定の時間に亘って供給する(ステップs13)。このとき、上述の例のように、異常が認められた株が栽培ベッドA1、A2のみにある場合、制御装置Cの弁制御部c4は、電磁弁B6及びB11~B14のみを開いた状態とする。
【0099】
このように、供給管P内を水洗いした上で、異常が認められた株のある栽培ベッドAに圧縮空気T5を供給することで、当該栽培ベッドAの培地a2内に供給された有用菌の一例である非病原性のF. oxysporumに、酸素を含む空気を送り込むことができる。
各栽培ベッドAの培地a2はマルチングシートa5により覆われているため(図4参照)、空気を培地a2中に長時間にわたって保持することができる。
【0100】
ここで、F. oxysporum等の糸状菌の繁殖には酸素が必要である。しかしながら、一般に、土壌等の培地中の酸素濃度は、空気中の酸素濃度よりも低い。このため、上述のように、酸素を含む圧縮空気T5を、非病原性のF. oxysporumが供給された培地a2内に供給し、保持することにより、培地a2中での非病原性のF. oxysporumの繁殖(=培養)を促進できる。したがって、栽培ベッドA又は植物G内での病原菌の増殖を抑制でき、植物Gの病気を予防・抑制することができる。加えて、圧縮空気T5を供給することで、水T1の供給により過度に濡れた培地a2を適度に乾燥させることができ、植物Gの根腐れを防止できる。ステップs13において供給される空気は、有用菌の一例である非病原性のF. oxysporumの繁殖を促進する「有用気体」の一例であり、有用気体とは、病原菌の増殖を抑制する有用菌の繁殖を促進する気体である。
【0101】
なお、異常が認められた栽培ベッドAに、圧縮空気T5を供給した後に、さらに、酸素ガスT7を当該栽培ベッドA(上述の例においては栽培ベッドA1、A2)の培地a2中に供給するよう構成してもよく、圧縮空気T5の供給に代えて、酸素ガスT7を培地a2中に供給するよう構成してもよい。これにより、培地a2中の酸素濃度を上昇させることができ、有用菌の繁殖をより一層促進することができる。酸素ガスT7は本発明の有用菌の一例である非病原性のF. oxysporumの繁殖を促進する「有用気体」の他の一例である。
【0102】
最後に、制御装置Cの弁制御部c4は、各電磁弁Bを閉める。これをもって、制御装置Cによる菌供給制御が終了する。
【0103】
このように、本実施形態においては、植物Gの葉部が萎れたり落葉している株や、葉部の変色が発生している株がある場合に、当該株のある栽培ベッドAの培地a2中に、病原菌の増殖を抑制する有用菌の一例であるF. oxysporumの非病原性菌株を自動的に供給した上で、F. oxysporumの非病原性菌株の繁殖を促進する空気を供給するよう構成されているから、F. oxysporumの非病原性菌株を培地a2中で繁殖させることができ、当該栽培ベッドAでの病原性を有するF. oxysporumの増殖を抑制できる。したがって、植物の一例であるトマトの萎凋病等を予防・抑制することができる。
【0104】
一方、図9は、制御装置Cにより夜間に行われる各制御を示すフローチャートである。
夜間において、制御装置Cは、まず、培地a2の冷却制御を行う(ステップn1)。
【0105】
冷却制御において、制御装置Cは、各栽培ベッドAに配置されたセンサユニット6の培地温度センサ6eにより検出される各栽培ベッドAの培地a2の温度が所定値以上であるか否かを判定する。そして、制御装置Cは培地a2の温度が所定値以上である栽培ベッドAがある場合、制御装置Cは、当該栽培ベッドAの培地a2に空気T5を供給する。空気T5の供給においては、弁制御部c4により電磁弁B6及び当該栽培ベッドAに対応する電磁弁B(例えば栽培ベッドA3の場合、電磁弁B15、B16)が開制御されるとともに、コンプレッサー制御部c5によりエアコンプレッサー7の作動が開始される。これにより、例えば、夏などの暑い時期に、蓄熱している培地a2の温度を夜間に下げることができる。なお、空気T5の供給は、所定の時間にわたって行われる構成であってもよく、当該培地a2の温度が所定値未満となるまで継続される構成であってもよい。
【0106】
こうして冷却制御を行うと、制御装置Cは、気体供給制御を行う(ステップn2)。
【0107】
気体供給制御において、制御装置Cは、各栽培ベッドAに設けられたセンサユニット6の検出結果に応じた適切な資源T6~T9を供給する。例えば、栽培ベッドA1に配置された酸素濃度センサ6cにより検出された培地a2中の酸素濃度が低い場合、制御装置Cの弁制御部c4は、電磁弁B8,B11及びB12のみを開き、栽培ベッドA1のみの培地a2中に酸素ガスT7を供給する。これにより、有用菌の一例である非病原性のF. oxysporumの繁殖を促進できるとともに、酸素濃度が低い栽培ベッドAのみに酸素を供給することで、酸素の供給にかかるコストを抑えることができる。
【0108】
酸素ガスT7の供給は、所定の時間にわたって行われるよう構成してもよく、酸素濃度センサ6cにより検出される酸素濃度が所定の濃度以上となるまで行われるよう構成してもよい。なお、植物が水気を好む種類で、培地中に水が多く含まれる場合には、酸素濃度センサ6cに代えて、溶存酸素濃度センサを用いてもよい。
【0109】
このように、本実施形態の冷却制御と気体供給制御においては、センサユニット6の検出結果に応じて、気体からなる資源T5~T9を供給するよう構成されているが、夜間に、空気T5、酸素ガスT7,窒素ガスT8又は/及び水素ガスT9を、定期的に各栽培ベッドAの培地a2中に供給するよう構成してもよい。これにより、土壌等の培地a2及び植物Gの根を活性化することができる。また、気体からなる資源T5~T9の供給について、AIを用いてタイミングと供給量とを判断するよう構成してもよい。培地a2中に供給された気体からなる資源T5~T9は、液体を含む資源T1~T4と異なり、培地a2中に満遍なく拡散される。
【0110】
<本実施形態の技術的意義>
【0111】
図1ないし図8に示された本実施形態によれば、異常検知手段に相当する撮像装置8、画像処理部c1、及び第1、第2異常判定部c2、c3により、植物Gの健康状態の異常が検知された栽培ベッドAに、病原性のF. oxysporumの増殖を抑制する有用菌の一例であるF. oxysporumの非病原性菌株が供給されるから、当該栽培ベッドA内での病原菌の増殖が抑えられる。したがって、無農薬栽培又は減農薬栽培でも、植物Gの病気を予防・抑制することができる。
【0112】
ここで、一般に、菌類を培養するには多額のコストがかかるため、栽培ベッドAに有用菌を供給し続けるのにコストが嵩んでしまう恐れがある。しかしながら、本実施形態においては、いずれかの栽培ベッドA内の植物Gの健康状態の異常が検知されたときに、当該栽培ベッドAに対して選択的に(換言すれば、当該栽培ベッドAのみに)有用菌が供給されるよう構成されているから、すべての栽培ベッドAに頻繁に有用菌が供給される場合に比して、有用菌の供給量を抑えることができ、したがって、有用菌の培養又は購入にかかるコストを抑制できる。
【0113】
さらに、本実施形態によれば、有用菌を栽培ベッドA内の培地a2中に供給することで、当該培地a2中で有用菌を培養する(=繁殖させる)ことができ、少量少頻度の供給でも、病気を予防・抑制する効果を充分に発揮できる。
【0114】
加えて、本実施形態によれば、植物Gの健康状態に異常が認められる栽培ベッドAの培地a2に対し、自動的に有用菌が供給されることで病気を予防・抑制できるから、作業者の見張り・治療作業の負担を軽減することができる。
【0115】
また、本実施形態によれば、有用菌が供給された栽培ベッドAの培地中に、有用菌の繁殖を促進する有用気体の例である空気T5の供給により、培地a2中の有用菌の繁殖を早め、病気の予防・抑制効果を高めることができる。
【0116】
さらに、本実施形態によれば、有用菌が供給された栽培ベッドAの培地a2に、水T1が供給され、その後に空気T5が供給されるよう構成されているから、地中供給管P4の外周部に形成された多数の孔に詰まった有用菌のぬめりを水で洗い流した上で、有用菌の繁殖を促進する空気を多数の孔を通じて培地中に供給できる。したがって、有用菌の供給管と、有用気体の供給管と、水の供給管とを共用した(換言すれば、1つにまとめた)構成であっても、有用気体をスムーズに培地a2中に供給でき、設備投資を抑えることができる。
【0117】
また、本実施形態によれば、有用菌T4等の資源Tを供給する供給管Pの地中供給管P4の培地a2中に位置する部分に、多孔質管が用いられているため、有用菌T4の培養に資する有用気体である空気T5や酸素ガスT7を、培地a2中に満遍なく供給でき、病気の予防・抑制効果を早期に得ることができる。
【0118】
さらに、本実施形態によれば、図7のステップs12、s13に示されるように、有用菌T4を供給した栽培ベッドAのみに対し、有用気体の供給が行われるよう構成されているため、ランニングコストを抑えることができる。
【0119】
加えて、本実施形態によれば、撮像装置8により撮像されたカラー画像に基づき、植物Gの健康状態の異常を検知するよう構成されているから、植物Gの病気を検知するための水分センサ等の種々のセンサを各栽培ベッドAに設ける必要がなく、設備コストを大幅に抑えることができる。
【0120】
さらに、本実施形態によれば、植物Gの葉部(=葉)を抽出した葉部抽出画像において、葉の変色した部分が多い場合、すなわち、葉部画素数に対する変色画素数の割合が所定値以上の場合に、植物Gの健康状態を異常と判定し、植物の健康状態が異常と判定された栽培ベッドAの培地a2中に有用菌を供給するよう構成されているから、萎凋病等の葉の色を変色させる病気を自動検知し、有用菌を供給することで、病気を抑制することができる。
【0121】
また、本実施形態によれば、撮像装置8によって所定の頻度(本実施形態では週に一度)で栽培ベッドA内の植物Gの画像が撮像され、前回の葉部抽出画像内の葉部面積に対する今回の葉部抽出画像内の葉部面積の割合(=前回の葉部画素数に対する今回の葉部画素数の割合)が所定値未満である場合に、植物Gの健康状態を異常と判定し、植物の健康状態が異常と判定された栽培ベッドAの培地a2中に有用菌を供給するよう構成されているから、萎凋病等により葉が萎れたり落葉したことを自動検知し、有用菌を供給することで、病気を抑制することができる。
【0122】
さらに、本実施形態によれば、各栽培ベッドAの培地a2がマルチングシートa5により覆われているから、長時間にわたって空気T5や酸素ガスT7等の有用気体を培地a2中に保持でき、有用菌の繁殖促進効果を持続させることができる。
【0123】
本発明は、以上の実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0124】
例えば、図1ないし図8に示された前記実施形態においては、栽培施設1はビニルハウスHにより構成されているが、畑や植物工場等の他の栽培施設であってもよい。
【0125】
さらに、前記実施形態においては、植物Gとしてトマトが栽培される例について詳述したが、本発明が適用される植物の種類は上述のようにトマトに限定されるものではない。例えば、本発明をきゅうりの栽培に用いた場合には、変色画素数として、葉の斑点部分を示す画素数の割合を算出することにより、うどんこ病やべと病等の検知が可能となる。
【0126】
また、前記実施形態においては、水源としてタンクが用いられているが、水源はこれに限られない。例えば、水源を、地下水と、これを供給管Pに供給するポンプとにより構成し、当該ポンプの作動を制御する制御部を制御装置Cに設けることも可能である。この場合には、主供給管P1に設けられた電磁弁B1は必ずしも必要でない。また、水源として水道水を用いることも可能である。
【0127】
加えて、有用菌T4について、農薬に含まれる殺菌剤に対して耐性を有する有用菌を用いてもよい。これにより、殺菌剤を含む低量の農薬を散布しながらも、有用菌を培地a2中で培養することができる。
【0128】
さらに、前記実施形態においては、栽培施設1は、本発明の「複数の栽培区画」の一例として、複数の栽培ベッドを備え、栽培ベッド単位で有用菌T4を含む資源T1~T9の供給を行うよう構成されているが、栽培施設は、複数の栽培区画として、複数の畝、複数のエリア、又は複数の苗の条等を備えてもよく、昨今行われているように、トマト等の苗を、1苗ずつ、土壌等の培地が収容された別々の袋に入れ(定植し)、これら複数の袋を各々栽培区画としてもよい。植物の健康状態の異常が発生した特定の畝、特定のエリア、特定の苗の条、又は特定の袋等に対して、有用菌等の資源を供給するよう構成することにより、無農薬又は減農薬栽培でも、植物の病気を予防・抑制することができる。植物の苗を1苗ずつ各々別々の袋に入れて栽培する場合、各資源T1~T9を供給する供給管には、潅水用のドリップチューブを用いてもよい。この場合、ドリップチューブを、袋に収容された培地中に挿し込んでおくことにより、自動的に各種資源T1~T9をドリップチューブを通じて培地中に供給することができる。
【0129】
加えて、前記実施形態においては、図7に示されるように、第1、第2異常判定部c2、c3による2段階の異常の判定(=検知)工程が設けられているが、第1異常判定部c2のみにより異常の判定が行われるよう構成してもよく、第2異常判定部c3のみにより異常の判定が行われるよう構成してもよい。
【0130】
また、前記実施形態においては、栽培施設1は、植物の健康状態の異常を検知する異常検知手段として、撮像装置8と、第1、第2異常判定部c2、c3を備えているが、培地a2に潅水された水のうち、植物Gにより吸収されなかった分の水が栽培ベッドAから下に垂れるように構成し、この垂れた量をセンサにより検出するよう構成してもよい。例えば、栽培容器a3の下方に余剰の水を排出する孔を形成するとともに、日々決まった量だけ潅水を行い、当該孔の下方に、当該孔を通じて垂れた余剰の水を収容する容器を配置し、この容器内の水位をセンサにより検出可能に構成する。この場合、容器内に垂れた量が所定の量より多い場合には、植物Gの根が弱っていることが認められるので、当該栽培ベッドAに、有用菌を含む水T4を供給するよう構成することにより、植物Gの病気を予防・抑制することができる。上記「所定の量」には、例えば、日々の潅水量から、健康な植物の最低限の吸水量を差し引いた量を設定することができる。上述のように、トマト等の苗を、1苗ずつ、(栽培区画としての)袋に入れて栽培する場合にも、同様に、袋の底部に水抜き用の孔を形成し、当該孔から垂れる水の量が所定の量よりも多い場合に、有用菌を含む水を自動的に供給するよう構成することが好ましい。この場合には、例えば10袋につき1つの余剰の水量を検出するセンサを設けることにより、センサの設備コストを削減できる。
【0131】
また、垂れた水の量をセンサにより検出する代わりに、培地中の水分量(水分率)をセンサにより検出可能に構成してもよい。この場合には、検出された水分量が所定の量よりも多い場合、植物Gの根が弱っていることが認められるので、当該栽培区画に対し、有用菌を含む水を供給可能に構成することにより、植物の病気を予防・抑制することができる。
【0132】
加えて、前記実施形態にかかる栽培施設1は、「異常検知手段」の例として、撮像装置8、画像処理部c1、及び第1、第2異常判定部c2、c3を備え、すべての栽培ベッドAについて、撮像装置8によりカラー画像を取得し、当該画像を画像処理部c1が画像処理した後に、第1、第2異常判定部c2、c3により異常の有無の判定を行うよう構成されているが、すべての栽培ベッドAについて、これらの異常検知手段により健康状態の異常を検知するよう構成することは必ずしも必要でない。例えば、一部の栽培ベッドAについて、上述のように、余剰の水の量を測ることにより、健康状態の異常を検知するよう構成することも可能である。すなわち、撮像装置8により取得される画像に基づき健康状態の異常を検知する栽培ベッドAと、余剰の水の量を測ることにより健康状態の異常を検知する栽培ベッドAとが混在していてもよい。
【0133】
また、前記実施形態においては、異常検知手段のうちの画像処理部c1、及び第1、第2異常判定部c2、c3を、撮像装置8と別体の制御装置Cに設けているが、これらを撮像装置に設け、撮像装置8から出力される異常判定信号に基づき、制御装置Cの弁制御部c4が有用菌T4などの資源を栽培ベッドAに供給するよう構成してもよい。
【0134】
さらに、前記実施形態においては、酸素ガスT7を供給することで有用菌の繁殖を促進しているが、たとえばグルタミン酸を水T1又は第1の液肥T2若しくは第2の液肥T3に含ませて培地a2中に供給するよう構成してもよい。これにより、有用菌の一例である非病原性のF. oxysporumの発芽率を上昇させ、繁殖を効果的に促進することができる。なお、グルタミン酸に代えて、又はグルタミン酸とともに、他のアミノ酸や酵素等を培地a2中に供給するよう構成してもよい。
【0135】
さらに、前記実施形態においては、非病原性のF. oxysporumを培地a2中に供給するよう構成されているが、非病原性のF. oxysporumに代えて、又は非病原性のF. oxysporumとともに、上述したR. solanacearumの非病原性変異株を培地に供給するよう構成してもよい。これにより、青枯病の原因菌である病原性のR. solanacearumの培地a2中での増殖を抑制でき、トマト等の連作障害の発生を抑えることができる。この場合には、植物Gの健康状態に異常が認められたときに加え、定期的にR. solanacearumの非病原性変異株を含む菌培養液を、培地中に、水に混入させる形で供給することがより好ましい。
【0136】
また、前記実施形態においては、撮像装置8により取得された各栽培ベッドAの画像に基づき、制御装置Cの第1、第2異常判定部c2、c3が植物Gの健康状態の異常を判定(検知)し、異常が認められた栽培ベッドAに有用菌T4を含む水を供給するよう構成されているが、この構成に加えて、作業者が目視で各栽培ベッドAを確認し、健康状態に異常のある植物Gを発見すると、その栽培ベッドAのIDをタッチパネル、マウス等の入力装置を用いて入力し、又は選択することにより、制御装置に選択された栽培ベッドAに、有用菌を含む菌培養液T4等の資源T1~T9を供給できるように構成してもよい。
【0137】
さらに、前記実施形態においては、各撮像装置8は、フレームH2に固定されているが、例えば、ドローンや走行可能な作業車両等に撮像装置を取付け、ドローンや作業車両が飛行・走行する間に、各栽培ベッドAの画像を取得するよう構成してもよい。これにより、撮像装置の台数を減らすことができ、設備コストを抑制できる。この場合には、無線通信等により制御装置Cに送信し、前記実施形態と同様に、制御装置Cの第1、第2異常判定部c2、c3により健康状態の異常を検知することができる。
【0138】
また、前記実施形態においては、葉部抽出画像において、葉部の色の濃淡を数値化し、この濃淡値が所定値未満の淡い部分である変色画素数の割合に基づき、植物Gの葉の変色を検知するよう構成されているが、葉部抽出画像における葉部画像数に対する所定の色範囲内の画素数の割合を算出し、この割合が所定値以上の場合に、植物の健康状態に異常がある旨の判定を行い、異常と判定された植物のある栽培区画に対し、有用菌や水、有用気体を供給するよう構成してもよい。所定の色範囲とは、たとえば黄色っぽい範囲や茶色の範囲、白色の範囲等を設定することにより、葉部の黄化、葉枯れ、斑点等を検知することができる。
【0139】
さらに、前記実施形態においては、資源T8として、窒素ガスを培地a2中に供給するよう構成されているが、窒素ガスに代えて、アンモニアを供給するよう構成してもよく、別途アルゴンガスを施用可能に構成してもよい。
【0140】
また、前記実施形態において、培地a2中に有用菌及び水を供給した後に、空気又は酸素を供給する構成について詳述したが、有用菌及び水を供給した後に培地a2中に供給する気体は、有用菌の繁殖を促進するものであれば、これらに限定されるものではない。
【0141】
加えて、前記実施形態においては、資源T1~T9の供給を断接(=断続)する本発明の「開閉弁」の一例として電磁弁Bが用いられているが、モータを含む電動弁等の他の弁部材を用いてもよい。
【0142】
さらに、前記実施形態においては、図6に示されたように、予め設定された朝夕の潅水時刻になると、弁制御部c4が、すべての栽培ベッドAに対し、潅水制御を行うよう構成されているが、毎日の潅水回数を、その日の日射量に応じて制御装置Cが自動的に決定するよう構成してもよい。
【0143】
例えば、栽培施設1の位置における日付と日の出の時刻及び日の入り時刻とが紐付けされたデータベースを予め図3に示された記録部c6に格納しておくとともに、作業者が、毎日の最初の潅水を日の出の時刻から何時間後に行うか、毎日の最後の潅水を日の入り時刻から何時間前に行うかを各々入力装置4を用いて制御装置Cに入力し、設定可能に構成する。潅水のタイミングが設定されると、制御装置Cは、図10に示されるように、毎日、所定の時刻(例えば午前0時)に、上記の計時部9によりGPS信号から取得された現在の日付の情報に基づき、記録部c6から当日の日の出時刻のデータを読み出すとともに、上記「最初の潅水を日の出の時刻から何時間後に行うか」の情報に基づき、その日の最初の潅水の時刻を算出して設定する(ステップdd1)。そして、設定された最初の潅水の時刻となると(ステップdd2)、制御装置Cの弁制御部c4は、各栽培ベッドAに順に潅水を行う(ステップdd3)。このように、各栽培ベッドAに順に潅水を行うことで、後に詳述するように、栽培ベッドAごとに潅水量を調整することが可能になる。
【0144】
なお、栽培施設1の位置における日付と日の出の時刻及び日の入り時刻とが紐付けされたデータベースを記録部c6に格納することは必ずしも必要でなく、外部のサーバー等に格納し、栽培施設1の位置情報と日付の情報に基づき、当日の日の出の時刻及び日の入り時刻の情報を外部のサーバー等から取得するよう構成することも可能である。さらに、栽培施設1の位置のみにおける日の出の時刻及び日の入り時刻のデータベースを備えるよう構成することは必ずしも必要でなく、日付と、各地の日の出の時刻及び日の入り時刻とが紐付けされたデータベースを記録部c6又は外部のサーバー等に格納する構成としてもよい。この場合には、GPS信号等に基づき取得される栽培施設1の位置情報と日付の情報に基づき、当該データベースから日の出の時刻及び日の入り時刻の情報を読み出すことが可能である。これにより、制御装置Cの設置時に、栽培施設1の位置情報を設定する手間を省くことができる。
【0145】
1回目の潅水を行った後、制御装置Cは、別途栽培施設1に設けられる日射センサにより検出される植物Gの近傍の日射量の値を取得し(ステップdd4)、日射量の値が所定値以上であるか否かを判定し、日射量の値が所定値未満である場合には基準回数(例えば5回)だけ、所定値以上である場合には基準回数よりも所定値分多い回数(例えば1回分多い6回)だけ、各々潅水を行うよう決定する(ステップdd5)。その後、ステップ1で設定された最初の潅水の時刻(例えば、その日の日の出時刻から2時間後の時刻)から、予め設定された最後の潅水のタイミング(例えば、その日の日没時刻から5時間前の時刻)までに、等しい時間間隔で、日射量の値に応じて決定された回数だけ潅水を行うよう制御装置Cが2回目以降の各潅水の時刻を自動で算出して設定する(ステップdd6)。こうして、2回目以降の各潅水の時刻を設定すると、制御装置Cの弁制御部c4は、各潅水の時刻に(ステップdd7)、各栽培ベッドAに順に、2回目以降の潅水を行う(ステップdd8)。
【0146】
制御装置Cは、最初の潅水(上記ステップdd3)、及び2回目以降の各潅水(上記ステップdd8)において、電磁弁Bを開くのに先立って、各栽培ベッドAの培地a2中の水分率を検出する水分率センサ(不図示)の検出値に基づき、各栽培ベッドAに潅水する水T1の量を決定することが好ましい。培地a2中の水分率が高いほど、潅水する水T1の量を少なくすることで、植物Gの根腐れを防止できる。加えて、培地a2中の水分率が所定値以上である栽培ベッドAに対しては、潅水を行わないよう構成してもよい。また、培地a2に潅水された水T1のうち、余剰分の水が栽培ベッドAから下に垂れるように構成した場合や、上述のように植物の苗を袋に分けて定植した場合、下に垂れた水の量をセンサ又はカメラの画像処理により検出し、その量が所定値以上の場合、植物Gがあまり吸水していないことが認められるので、当該栽培ベッドAに対しては、潅水量を少なくし、又は潅水を行わないよう構成することが好ましい。
【0147】
加えて、前記実施形態においては、図7に示されるように、植物Gの健康状態の異常が検知された栽培ベッドAに対し、有用菌を供給するよう構成されているが、異常が検知された栽培ベッドAに対しては、所定の頻度で有用菌の供給を継続するよう構成してもよい。この場合には、有用菌が供給された栽培ベッドAの培地a2中の生菌数を検知し、検知された生菌数が所定値以上で、且つ、第1又は/及び第2異常判定部c2、c3により健康状態の異常が検知されなかったことを条件として、有用菌の供給を停止することが好ましい。このように構成することによって、植物Gの病気を予防・抑制しつつ、有用菌の供給に要する費用を抑えることができる。培地a2中の生菌数の検知は、間接的なもの、すなわち、菌数の度合いを示す相関値を取得するものであってもよい。
【0148】
例えば、上述のように、栽培ベッドAから下に垂れた余剰の水を収容する容器を栽培ベッドAの下方に配置するとともに、当該容器にカルボキシフルオレセインジアセテート(以下、「CFDA」という)溶液を自動添加する。この容器の底部は透明色であることが好ましい。その後、夜間に、制御装置Cから送信される制御信号に基づき、当該容器の直下に配置された照射装置から容器内に励起光を自動照射するとともに、同じく当該容器の直下に配置された撮像装置により蛍光画像を自動取得し、当該蛍光画像中の蛍光輝点の数を画像処理により自動計測するか、又は画像中の蛍光強度を自動計測する。その結果、計測された蛍光輝点の数又は蛍光強度が所定値以上の場合、当該栽培ベッドAの培地a2中の菌数が多く、培地a2中での有用菌の培養に成功していることが認められるので、さらに植物Gの健康状態の異常が検知されなかったことを条件として、有用菌の供給を停止することができる。なお、計測された蛍光輝点の数又は蛍光強度が、ほぼ有用菌のエステラーゼ活性によるものとは必ずしも言えないが、植物Gの健康状態の異常が検知されなかったことを条件に含めることで、培地a2中で有用菌を培養できているものと認められる。
【0149】
このように、培地a2を通じて下方へ垂れた水内の菌数を計測することで、シャーレ等で菌を培養するのに比して、各段に早く培地a2中の生菌数を検知できるとともに、菌数の計測を自動化することができる。また、培地a2中の生菌数は、CFDAの他、例えば、ECセンサ6bにより検知される培地a2のEC値に基づき、間接的に検知するよう構成してもよく、培地a2中の鉄分等の成分値に基づき、間接的に検知するよう構成してもよい。
【符号の説明】
【0150】
1 栽培施設
3 流量計
4 入力装置
5 供給装置
6 センサユニット
7 エアコンプレッサー
8 撮像装置
9 計時部
C 制御装置
T1~T9 資源

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10