(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080417
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】全固体電池およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20240606BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240606BHJP
H01M 50/54 20210101ALI20240606BHJP
H01M 50/533 20210101ALI20240606BHJP
H01M 50/548 20210101ALI20240606BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M50/54
H01M50/533
H01M50/548 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193590
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宇人
【テーマコード(参考)】
5H029
5H043
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AL01
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ04
5H043AA19
5H043EA32
(57)【要約】
【課題】 内部電極と外部電極との接続不良を抑制することができる全固体電池を提供する。
【解決手段】 全固体電池は、固体電解質を主成分とする固体電解質層と、電極活物質を含む内部電極と、が交互に積層され、略直方体形状を有し、積層された複数の前記内部電極が、対向する2端面に交互に露出するように形成された積層チップと、前記2端面に設けられた第1外部電極および第2外部電極と、を備え、前記第1外部電極に接続される前記内部電極のうち、少なくとも隣り合う2層以上の前記内部電極は、前記第1外部電極に接続される接続部が積層方向のいずれか一方の同じ側に曲がっている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質を主成分とする固体電解質層と、電極活物質を含む内部電極と、が交互に積層され、略直方体形状を有し、積層された複数の前記内部電極が、対向する2端面に交互に露出するように形成された積層チップと、
前記2端面に設けられた第1外部電極および第2外部電極と、を備え、
前記第1外部電極に接続される前記内部電極のうち、少なくとも隣り合う2層以上の前記内部電極は、前記第1外部電極に接続される接続部が積層方向のいずれか一方の同じ側に曲がっている、全固体電池。
【請求項2】
前記接続部の傾斜角度は、1°以上である、請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
前記接続部の傾斜角度は、80°以下である、請求項1または請求項2に記載の全固体電池。
【請求項4】
前記接続部は、前記第1外部電極から300μm以内に位置している、請求項1または請求項2に記載の全固体電池。
【請求項5】
前記第1外部電極に接続される前記内部電極のうち、最外層から全層数の50%以上が前記接続部を有する、請求項1または請求項2に記載の全固体電池。
【請求項6】
固体電解質粉末を含む固体電解質グリーンシートと、電極活物質粉末を含む内部電極パターンと、が交互に積層された積層体を準備する工程と、
前記積層体に対して、ダイサーを用いて乾式のカットを行うことで、略直方体形状を有して積層された複数の前記内部電極パターンが前記略直方体形状の2端面に交互に露出するセラミック積層体を得る工程と、
前記セラミック積層体を焼成することで積層チップを形成する工程と、
前記セラミック積層体と同時に、または前記セラミック積層体の焼成後に、前記積層チップの2端面に外部電極を形成する工程と、を含む全固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層型の全固体電池は、発火や漏液の心配がなく、またリフローハンダ付けが可能であり、安全で取り扱いが容易な二次電池である(例えば、特許文献1参照)。従来の電解液を使用したリチウムイオン電池からの移行が検討されており、幅広い分野での利用に展開されることが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
全固体電池では充放電時における体積膨張または体積収縮に起因して、内部電極と外部電極との間に接続不良が生じるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、内部電極と外部電極との接続不良を抑制することができる全固体電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る全固体電池は、固体電解質を主成分とする固体電解質層と、電極活物質を含む内部電極と、が交互に積層され、略直方体形状を有し、積層された複数の前記内部電極が、対向する2端面に交互に露出するように形成された積層チップと、前記2端面に設けられた第1外部電極および第2外部電極と、を備え、前記第1外部電極に接続される前記内部電極のうち、少なくとも隣り合う2層以上の前記内部電極は、前記第1外部電極に接続される接続部が積層方向のいずれか一方の同じ側に曲がっている。
【0007】
上記全固体電池において、前記接続部の傾斜角度は、1°以上であってもよい。
【0008】
上記全固体電池において、前記接続部の傾斜角度は、80°以下であってもよい。
【0009】
上記全固体電池において、前記接続部は、前記第1外部電極から300μm以内に位置していてもよい。
【0010】
上記全固体電池において、前記第1外部電極に接続される前記内部電極のうち、最外層から全層数の50%以上が前記接続部を有していてもよい。
【0011】
本発明に係る全固体電池の製造方法は、固体電解質粉末を含む固体電解質グリーンシートと、電極活物質粉末を含む内部電極パターンと、が交互に積層された積層体を準備する工程と、前記積層体に対して、ダイサーを用いて乾式のカットを行うことで、略直方体形状を有して積層された複数の前記内部電極パターンが前記略直方体形状の2端面に交互に露出するセラミック積層体を得る工程と、前記セラミック積層体を焼成することで積層チップを形成する工程と、前記セラミック積層体と同時に、または前記セラミック積層体の焼成後に、前記積層チップの2端面に外部電極を形成する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、内部電極と外部電極との接続不良を抑制することができる全固体電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】全固体電池の基本構造を示す模式的断面図である。
【
図2】複数の電池単位が積層された積層型の全固体電池の外観図である。
【
図4】積層型の他の全固体電池の模式的断面図である。
【
図6】内部電極と外部電極との接触面積を説明するための図である。
【
図7】第1内部電極の傾斜角度について説明するための図である。
【
図9】全固体電池の製造方法のフローを例示する図である。
【
図10】(a)および(b)は積層工程を例示する図である。
【
図11】ダイサーを用いたカットを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0015】
(実施形態)
図1は、全固体電池200の基本構造を示す模式的断面図である。
図1で例示するように、全固体電池200は、第1内部電極10(第1電極層)と第2内部電極20(第2電極層)とによって、固体電解質層30が挟持された構造を有する。第1内部電極10は、固体電解質層30の第1主面上に形成されている。第2内部電極20は、固体電解質層30の第2主面上に形成されている。例えば、第1内部電極10、第2内部電極20、および固体電解質層30は、粉末材料を焼結させることによって得られる焼結体である。
【0016】
全固体電池200を二次電池として用いる場合には、第1内部電極10および第2内部電極20の一方を正極として用い、他方を負極として用いる。本実施形態においては、一例として、第1内部電極10を正極層として用い、第2内部電極20を負極層として用いるものとする。
【0017】
固体電解質層30は、NASICON型の結晶構造を有し、イオン伝導性を有する酸化物系固体電解質を主成分とする。固体電解質層30の固体電解質は、例えばリチウムイオン伝導性を有する酸化物系固体電解質である。当該固体電解質は、例えば、リン酸塩系固体電解質である。NASICON型の結晶構造を有するリン酸塩系固体電解質は、高い導電率を有するとともに、大気中で安定しているという性質を有している。リン酸塩系固体電解質は、例えば、リチウムを含んだリン酸塩である。当該リン酸塩は、特に限定されるものではないが、例えば、Tiとの複合リン酸リチウム塩(例えば、LiTi2(PO4)3)などが挙げられる。または、TiをGe,Sn,Hf,Zrなどといった4価の遷移金属に一部あるいは全部置換することもできる。また、Li含有量を増加させるために、Al,Ga,In,Y,Laなどの3価の遷移金属に一部置換してもよい。より具体的には、例えば、Li1+xAlxGe2-x(PO4)3や、Li1+xAlxZr2-x(PO4)3、Li1+xAlxTi2-x(PO4)3などが挙げられる。例えば、第1内部電極10および第2内部電極20に含有されるオリビン型結晶構造をもつリン酸塩が含む遷移金属と同じ遷移金属を予め添加させたLi-Al-Ge-PO4系材料が好ましい。例えば、第1内部電極10および第2内部電極20にCoおよびLiを含むリン酸塩が含有される場合には、Coを予め添加したLi-Al-Ge-PO4系材料が固体電解質層30に含まれることが好ましい。この場合、電極活物質が含む遷移金属の電解質への溶出を抑制する効果が得られる。第1内部電極10および第2内部電極20にCo以外の遷移元素およびLiを含むリン酸塩が含有される場合には、当該遷移金属を予め添加したLi-Al-Ge-PO4系材料が固体電解質層30に含まれることが好ましい。
【0018】
正極として用いられる第1内部電極10は、オリビン型結晶構造をもつ物質を電極活物質として含有する。第2内部電極20も、当該電極活物質を含有していることが好ましい。このような電極活物質として、遷移金属とリチウムとを含むリン酸塩が挙げられる。オリビン型結晶構造は、天然のカンラン石(olivine)が有する結晶であり、X線回折において判別することができる。
【0019】
オリビン型結晶構造をもつ電極活物質の典型例として、Coを含むLiCoPO4などを用いることができる。この化学式において遷移金属のCoが置き換わったリン酸塩などを用いることもできる。ここで、価数に応じてLiやPO4の比率は変動し得る。なお、遷移金属として、Co,Mn,Fe,Niなどを用いることが好ましい。
【0020】
オリビン型結晶構造をもつ電極活物質は、正極として作用する第1内部電極10においては、正極活物質として作用する。例えば、第1内部電極10にのみオリビン型結晶構造をもつ電極活物質が含まれる場合には、当該電極活物質が正極活物質として作用する。第2内部電極20にもオリビン型結晶構造をもつ電極活物質が含まれる場合に、負極として作用する第2内部電極20においては、その作用メカニズムは完全には判明してはいないものの、負極活物質との部分的な固溶状態の形成に基づくと推察される、放電容量の増大、ならびに、放電に伴う動作電位の上昇という効果が発揮される。
【0021】
第1内部電極10および第2内部電極20の両方ともオリビン型結晶構造をもつ電極活物質を含有する場合に、それぞれの電極活物質には、好ましくは、互いに同一であっても異なっていてもよい遷移金属が含まれる。「互いに同一であっても異なっていてもよい」ということは、第1内部電極10および第2内部電極20が含有する電極活物質が同種の遷移金属を含んでいてもよいし、互いに異なる種類の遷移金属が含まれていてもよい、ということである。第1内部電極10および第2内部電極20には一種だけの遷移金属が含まれていてもよいし、二種以上の遷移金属が含まれていてもよい。好ましくは、第1内部電極10および第2内部電極20には同種の遷移金属が含まれる。より好ましくは、両電極が含有する電極活物質は化学組成が同一である。第1内部電極10および第2内部電極20に同種の遷移金属が含まれていたり、同組成の電極活物質が含まれていたりすることにより、両内部電極層の組成の類似性が高まるので、全固体電池200の端子の取り付けを正負逆にしてしまった場合であっても、用途によっては誤作動せずに実使用に耐えられるという効果を有する。
【0022】
第2内部電極20は、負極活物質を含んでいる。一方の電極だけに負極活物質を含有させることによって、当該一方の電極は負極として作用し、他方の電極が正極として作用することが明確になる。なお、両方の電極に負極活物質として公知である物質を含有させてもよい。電極の負極活物質については、二次電池における従来技術を適宜参照することができ、例えば、チタン酸化物、リチウムチタン複合酸化物、リチウムチタン複合リン酸塩、カーボン、リン酸バナジウムリチウムなどの化合物が挙げられる。
【0023】
第1内部電極10および第2内部電極20の作製においては、これら電極活物質に加えて、イオン電導性を有する固体電解質や、導電性材料(導電助剤)などが添加されている。これらの部材については、バインダと可塑剤を水あるいは有機溶剤に均一分散させることで内部電極用ペーストを得ることができる。導電助剤として、カーボン材料などが含まれていてもよい。導電助剤として、金属が含まれていてもよい。導電助剤の金属としては、Pd、Ni、Cu、Fe、これらを含む合金などが挙げられる。第1内部電極10および第2内部電極20に含まれる固体電解質は、例えば、固体電解質層30の主成分固体電解質と同じとすることができる。
【0024】
固体電解質層30の厚さは、例えば、5μm以上30μm以下であり、7μm以上25μm以下であり、10μm以上20μm以下である。第1内部電極10および第2内部電極20の厚さは、例えば、5μm以上50μm以下であり、7μm以上45μm以下であり、10μm以上40μm以下である。各層の厚さは、例えば、1層の異なる10点の厚さの平均値として測定することができる。
【0025】
図2は、全固体電池200を電池単位として、複数の電池単位が積層された積層型の全固体電池100の外観図である。
図2で例示するように、全固体電池100は、略直方体形状を有する積層チップ70と、積層チップ70のいずれかの対向する2端面に設けられた第1外部電極40aおよび第2外部電極40bと、を備える。なお、積層チップ70の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。第1外部電極40aおよび第2外部電極40bは、積層チップ70の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、第1外部電極40aおよび第2外部電極40bは、互いに離間している。全固体電池100のサイズは、例えば、長さ4.1mm~4.9mm、幅2.9mm~3.5mm、高さ2.9mm~3.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。なお、長さは、第1外部電極40aと第2外部電極40bとが対向する方向の長さである。高さは、積層方向の高さのことである。
【0026】
なお、Z軸方向(第1方向)は、積層方向である。X軸方向(第2方向)は、積層チップ70の長さ方向であって、積層チップ70の2端面が対向する方向であり、第1外部電極40aと第2外部電極40bとが対向する方向である。Y軸方向(第3方向)は、第1内部電極10および第2内部電極20の幅方向であり、積層チップ70の4側面のうち2端面以外の2側面が対向する方向である。X軸方向と、Y軸方向と、Z軸方向とは、互いに直交している。
【0027】
図3は、
図2のI-I線に沿う断面図である。以下の説明において、全固体電池100と同一の組成範囲、同一の厚み範囲、および同一の粒度分布範囲を有するものについては、同一符号を付すことで詳細な説明を省略する。
【0028】
全固体電池100においては、複数の第1内部電極10と複数の第2内部電極20とが、固体電解質層30を介して交互に積層されている。複数の第1内部電極10の端縁は、積層チップ70の第1端面に露出し、第2端面には露出していない。複数の第2内部電極20の端縁は、積層チップ70の第2端面に露出し、第1端面には露出していない。それにより、第1内部電極10および第2内部電極20は、第1外部電極40aと第2外部電極40bとに、交互に導通している。なお、固体電解質層30は、第1外部電極40aから第2外部電極40bにかけて延在している。このように、全固体電池100は、複数の電池単位が積層された構造を有している。
【0029】
第1内部電極10、固体電解質層30および第2内部電極20の積層体の上面に、カバー層50が積層されている。当該カバー層50は、最上層の内部電極(第1内部電極10および第2内部電極20のいずれか一方)に接するとともに、固体電解質層30の一部に接している。当該積層体の下面にも、カバー層50が積層されている。当該カバー層50は、最下層の内部電極(第1内部電極10および第2内部電極20のいずれか一方)に接するとともに、固体電解質層30の一部に接している。例えば、カバー層50は、粉末材料を焼結させることによって得られる焼結体である。
【0030】
第1内部電極10および第2内部電極20は、集電体層を備えていてもよい。例えば、
図4で例示するように、第1内部電極10内に第1集電体層11が設けられていてもよい。また、第2内部電極20内に第2集電体層21が設けられていてもよい。第1集電体層11および第2集電体層21は、導電性材料を主成分とする。例えば、第1集電体層11および第2集電体層21の導電性材料として、金属、カーボンなどを用いることができる。第1集電体層11を第1外部電極40aに接続し、第2集電体層21を第2外部電極40bに接続することで、集電効率が向上する。
【0031】
図3や
図4のような積層型全固体電池では、充放電時における体積膨張または体積収縮に起因して、外部電極と内部電極との間に接続不良が生じるおそれがある。そこで、本実施形態に係る全固体電池100は、外部電極と内部電極との間の接続不良を抑制することができる構成を有している。
【0032】
図5は、第1外部電極40a付近の拡大断面図である。
図5の断面は、
図3の断面に相当する。
図5で例示するように、隣り合う少なくとも2層以上の第1内部電極10が、第1外部電極40aに接続される接続部において、積層方向(Z軸方向)のいずれか一方の同じ側に曲がっている。したがって、隣り合う少なくとも2層以上の第1内部電極10が、第1外部電極40aに近づくまではX軸方向に延びており、第1外部電極40aの付近でZ軸とX軸との間の方向に曲がっている。
【0033】
この構成によれば、
図6で例示するように、第1内部電極10がX軸方向にだけ延びている場合と比較して、第1外部電極40aに対する接触面積が広くなる。したがって、第1内部電極10と第1外部電極40aとの接合強度が大きくなり、充放電時に体積膨張または体積収縮が生じても、第1内部電極10と第1外部電極40aとの接続不良を抑制することができる。
【0034】
第1内部電極10が十分に曲がっていないと第1外部電極40aとの接触面積が十分に大きくならないおそれがある。そこで、第1外部電極40aに接続される箇所における第1内部電極10の傾斜角度に下限を設けることが好ましい。本実施形態においては、第1外部電極40aに接続される箇所における第1内部電極10の傾斜角度は、1°以上であることが好ましく、2°以上であることがより好ましく、5°以上であることがさらに好ましい。
【0035】
一方で、第1内部電極10の傾斜角度が大きいと、導電パスが長くなることで抵抗上昇するおそれがある。そこで、第1外部電極40aに接続される箇所における第1内部電極10の傾斜角度に上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、第1外部電極40aに接続される箇所における第1内部電極10の傾斜角度は、80°以下であることが好ましく、70°以下であることがより好ましく、60°以下であることがさらに好ましい。
【0036】
図7は、第1内部電極10の傾斜角度について説明するための図である。
図7で例示するように、第1内部電極10の傾斜角度は、以下のように定義することができる。まず、XZ断面における第1内部電極10の全体距離を距離Lとする。第1内部電極10と第1外部電極40aとの交点において、第1内部電極10に対する接線を引く。X軸方向における第1内部電極10の中点において、第1内部電極10に対する接線を引く。これらの2本の接線の交差角度θを傾斜角度とする。
【0037】
また、第1内部電極10が必要以上に曲がっていると、積層チップ70の積層構造に歪みが生じるおそれがある。そこで、第1内部電極10の傾斜が始まる位置は、できるだけ第1外部電極40aに近いことが好ましい。第1内部電極10の傾斜が始まる位置は、第1外部電極40aからX軸方向に300μm以内に位置していることが好ましく、150μm以内に位置していることがより好ましく、100μm以内に位置していることがさらに好ましい。
【0038】
また、多くの第1内部電極10と第1外部電極40aとの接触面積を大きくする観点から、第1外部電極40aとの接触部で傾斜している第1内部電極10の層数が多いことが好ましい。そこで、第1外部電極40aに接続される接続部において積層方向のいずれか一方の同じ側に曲がっている第1内部電極10の層数に下限を設けることが好ましい。本実施形態においては、積層チップ70に含まれる第1内部電極10のうち、最外層から全層数の50%以上が、第1外部電極40aに接続される接続部において積層方向のいずれか一方の同じ側に曲がっていることが好ましく、
図8で例示するように全ての第1内部電極10が、第1外部電極40aに接続される接続部において積層方向のいずれか一方の同じ側に曲がっていることがより好ましい。
【0039】
積層チップ70において、各第1内部電極10と同様に、第2内部電極20も第2外部電極40bに接続される接続部において積層方向のいずれか一方の同じ側に曲がっていることが好ましい。この場合、第2内部電極20は、積層方向に対して、第1内部電極10と同じ側に曲がっていることが好ましい。例えば、第1内部電極10が積層チップ70の上面側に曲がっている場合には、第2内部電極20も積層チップ70の上面側に曲がっていることが好ましい。
【0040】
続いて、
図3で例示した全固体電池100の製造方法について説明する。
図9は、全固体電池100の製造方法のフローを例示する図である。
【0041】
(固体電解質層用の原料粉末作製工程)
まず、上述の固体電解質層30を構成する固体電解質層用の原料粉末を作製する。例えば、原料、添加物などを混合し、固相合成法などを用いることで、酸化物系固体電解質の原料粉末を作製することができる。得られた原料粉末を乾式粉砕することで、所望の平均粒径に調整することができる。例えば、5mmφのZrO2ボールを用いた遊星ボールミルで、所望の平均粒径に調整する。
【0042】
(カバー層用の原料粉末作製工程)
まず、上述のカバー層50を構成するセラミックスの原料粉末を作製する。例えば、原料、添加物などを混合し、固相合成法などを用いることで、カバー層用の原料粉末を作製することができる。
【0043】
(内部電極用ペースト作製工程)
次に、上述の第1内部電極10および第2内部電極20の作製用の内部電極用ペーストを個別に作製する。例えば、導電助剤、電極活物質、固体電解質材料、焼結助剤、バインダ、可塑剤などを水あるいは有機溶剤に均一分散させることで内部電極用ペーストを得ることができる。固体電解質材料として、上述した固体電解質ペーストを用いてもよい。導電助剤として、カーボン材料などを用いる。導電助剤として、金属を用いてもよい。導電助剤の金属としては、Pd、Ni、Cu、Fe、これらを含む合金などが挙げられる。Pd、Ni、Cu、Fe、これらを含む合金や各種カーボン材料などをさらに用いてもよい。
【0044】
内部電極用ペーストの焼結助剤として、例えば、Li-B-O系化合物、Li-Si-O系化合物、Li-C-O系化合物、Li-S-O系化合物,Li-P-O系化合物などのガラス成分のどれか1つあるいは複数などのガラス成分が含まれている。
【0045】
(外部電極用ペースト作製工程)
次に、上述の第1外部電極40aおよび第2外部電極40bの作製用の外部電極用ペーストを作製する。例えば、導電性材料、ガラスフリット、バインダ、可塑剤などを水あるいは有機溶剤に均一分散させることで外部電極用ペーストを得ることができる。
【0046】
(固体電解質グリーンシート作製工程)
固体電解質層用の原料粉末を、結着材、分散剤、可塑剤などとともに、水性溶媒あるいは有機溶媒に均一に分散させて、湿式粉砕を行うことで、所望の平均粒径を有する固体電解質スラリを得る。このとき、ビーズミル、湿式ジェットミル、各種混練機、高圧ホモジナイザーなどを用いることができ、粒度分布の調整と分散とを同時に行うことができる観点からビーズミルを用いることが好ましい。得られた固体電解質スラリにバインダを添加して固体電解質ペーストを得る。得られた固体電解質ペーストを塗工することで、固体電解質グリーンシート51を作製することができる。塗工方法は、特に限定されるものではなく、スロットダイ方式、リバースコート方式、グラビアコート方式、バーコート方式、ドクターブレード方式などを用いることができる。湿式粉砕後の粒度分布は、例えば、レーザ回折散乱法を用いたレーザ回折測定装置を用いて測定することができる。
【0047】
(積層工程)
次に、
図10(a)で例示するように、固体電解質グリーンシート51上に、内部電極用ペースト52を成膜する。
図10(a)では、一例として、固体電解質グリーンシート51上に4層の内部電極用ペースト52が所定の間隔を空けて成膜されている。内部電極用ペースト52が成膜された固体電解質グリーンシート51を、積層単位とする。各内部電極用ペースト52の形状は、第1内部電極10および第2内部電極20に対応させる。固体電解質グリーンシート51上で内部電極用ペースト52が印刷されていない領域には、逆パターンを印刷してもよい。逆パターンとして、固体電解質グリーンシート51と同様のものを用いることができる。
【0048】
次に、積層単位が積層されることで得られた積層体の上下にカバーシート53を所定数(例えば2~10層)だけ積層して熱圧着させ、所定チップ寸法にカットする。
図10(b)の例では、点線に沿ってカットする。それにより、カットされた小片の対向する2端面に、各内部電極用ペースト52が交互に露出するようになる。カバーシート53は、固体電解質グリーンシート51と同じ成分であってもよく、異なっていてもよい。
【0049】
なお、本実施形態に係る全固体電池100には、Li-P-O系化合物などが水に対して溶解するおそれがある。そこで、本実施形態では、水や油を用いない乾式のカットを行う。具体的には、
図11で例示するように、固体電解質グリーンシート51、内部電極用ペースト52、カバーシート53の積層体54に対して、ダイサーを用いてカットを行う。この場合において、水や油を積層体にかけずに、乾式でカットする。この場合、摩擦によって積層体がダイサーの回転方向に延びようとするため、カット面付近で内部電極用ペースト52が湾曲して傾斜する。
【0050】
次に、2端面のそれぞれに、ディップ法等で外部電極用ペーストを塗布して乾燥させる。これにより、全固体電池100を形成するための成型体が得られる。
【0051】
(焼成工程)
次に、得られたセラミック積層体を焼成する。焼成の条件は酸化性雰囲気下あるいは非酸化性雰囲気下で、最高温度を好ましくは400℃~1000℃、より好ましくは500℃~900℃などとすることが特に限定なく挙げられる。最高温度に達するまでにバインダを十分に除去するために酸化性雰囲気において最高温度より低い温度で保持する工程を設けてもよい。プロセスコストを低減するためにはできるだけ低温で焼成することが望ましい。焼成後に、再酸化処理を施してもよい。以上の工程により、全固体電池100が生成される。
【0052】
なお、内部電極用ペーストと、導電性材料を含む集電体用ペーストと、内部電極用ペーストとを順に積層することで、第1内部電極10および第2内部電極20内に集電体層を形成することができる。
【0053】
本実施形態に係る製造方法では、内部電極用ペースト52が端部で傾斜している。したがって、焼成の際に傾斜の形状が残るため、第1内部電極10および第2内部電極20が、
図8で例示したように、外部電極に接続される接続部において、積層方向のいずれか一方の同じ側に曲がるようになる。
【実施例0054】
(実施例1~5)
上記実施形態に従って積層型の全固体電池を作製した。第1固体電解質グリーンシート上に、第1内部電極層(正極層)用の第1内部電極用ペーストをスクリーン印刷法により塗布形成した。第2固体電解質グリーンシート上に、第2内部電極層(負極層)用の第2内部電極用ペーストをスクリーン印刷法により塗布形成した。正極層用の第1内部電極用ペーストと、負極層用の第2内部電極用ペーストとが同じ厚みになるようにした。複数の第1固体電解質グリーンシートと、複数の第2固体電解質グリーンシートとを、正極層と負極層とが交互に左右に引き出されるように積層した。ダイサーを用いた乾式のカットによって所定のサイズにし、積層型全固体電池のグリーンチップを得た。グリーンチップを脱脂・焼成することで焼結し、外部電極用ペーストを塗布形成・硬化することで第1外部電極および第2外部電極を形成し、積層型全固体電池を得た。
【0055】
全ての内部電極が、外部電極と接続する接続部において積層方向の上側(最後に積層された層の側)に向かって曲がっていた。接続部における内部電極の傾斜角度は、実施例1では2°であり、実施例2では5°であり、実施例3では20°であり、実施例4では45°であり、実施例5では60°であった。
【0056】
(比較例)
比較例では、予めエンドマージン部分を長く設けた素子のエンドマージンをカット後に褶曲部が無くなるまで研磨除去することで褶曲の無いように積層型全固体電池を得た。それにより、いずれの内部電極も、外部電極と接続する接続部において曲がっていなかった。すなわち、比較例では、接続部における傾斜角度が0°であった。
【0057】
(オープン不良試験)
実施例および比較例の全固体電池に対して、オープン不良試験を行なった。具体的には、0.1Hz~50000Hzの範囲で交流インピーダンス測定を行った。インピーダンス値が周波数依存を持っていれば、オープン不良試験が合格「〇」と判定した。インピーダンス値が周波数依存を持たないときは、オープン不良試験が不合格「×」と判定した。実施例ではオープン不良試験が合格「〇」と判定された。これは、内部電極が外部電極と接続される接続部で曲がっていることによって内部電極と外部電極との接触面積が大きくなって接合強度が高くなったからであると考えられる。一方、比較例ではオープン不良試験が不合格「×」と判定された。これは、内部電極が外部電極と接続される接続部で曲がっていないことで内部電極と外部電極との接触面積が大きくならなかったからであると考えられる。
【表1】
【0058】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。