(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080458
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】外装材コーディネートツール、および、外装材の色の選択方法
(51)【国際特許分類】
G06T 11/80 20060101AFI20240606BHJP
【FI】
G06T11/80 B
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193664
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 史人
(72)【発明者】
【氏名】林 仁
(72)【発明者】
【氏名】橋本 大
(72)【発明者】
【氏名】仲西 真由美
(72)【発明者】
【氏名】安永 龍一郎
【テーマコード(参考)】
5B050
【Fターム(参考)】
5B050BA06
5B050BA18
5B050CA07
5B050EA09
5B050FA02
5B050FA13
(57)【要約】
【課題】建築物の長期使用に適したデザイン設計に利用できる、外装材コーディネートツール、および、外装材の色の選択方法を提供する。
【解決手段】外装材コーディネートツール10は、建築物の外装材の色を選ぶためのツールである。外装材コーディネートツール10は、有彩色の第1ラインナップを構成する複数の第1表示部11と、無彩色の第2ラインナップを構成する複数の第2表示部12と、を有する。複数の第1表示部11は、互いに異なる色を表示する。複数の第2表示部12は、互いに異なる色を表示する。無彩色は、有彩色のうち彩度が0.8未満の色を含む。第1表示部11の色の彩度は、0.8以上3.5未満の範囲内にある。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の外装材の色を選ぶための外装材コーディネートツールであって、
有彩色の第1ラインナップを構成する複数の第1表示部と、無彩色の第2ラインナップを構成する複数の第2表示部と、を有し、
前記複数の第1表示部は、互いに異なる色を表示し、
前記複数の第2表示部は、互いに異なる色を表示し、
前記無彩色は、有彩色のうち彩度が0.8未満の色を含み、
前記第1表示部の色の彩度は、0.8以上3.5未満の範囲内にある、
外装材コーディネートツール。
【請求項2】
前記第1表示部の色の彩度は、1.0以上1.5未満の範囲内にある、
請求項1に記載の外装材コーディネートツール。
【請求項3】
前記第1表示部の色の色相は、マンセル表色系において7.5YR以上10YR以下および1.0Y以上5.0Y未満の範囲内にある、
請求項2に記載の外装材コーディネートツール。
【請求項4】
前記第1表示部の色の明度および前記第2表示部の色の明度は、3.0以上9.0未満の範囲内にある、
請求項3に記載の外装材コーディネートツール。
【請求項5】
前記第1表示部の色の明度および前記第2表示部の色の明度は、3.0以上5.0以下の範囲、または、6.0以上9.0未満の範囲内にある、
請求項4に記載の外装材コーディネートツール。
【請求項6】
前記複数の第1表示部および前記複数の第2表示部それぞれは、明度によって区分される複数のグループのいずれか1つに属し、
前記グループに属する前記第1表示部の明度および前記第2表示部の明度と、他の前記グループに属する前記第1表示部および前記第2表示部の明度との差は、全ての組み合わせについて1以上である、
請求項5に記載の外装材コーディネートツール。
【請求項7】
前記第1表示部および前記第2表示部は、ベースボードに設けられる、
請求項6に記載の外装材コーディネートツール。
【請求項8】
前記第1表示部および前記第2表示部は、電子機器の表示画面に表示される、
請求項6に記載の外装材コーディネートツール。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の外装材コーディネートツールを用いて建築物の外装材の色を選択する方法であって、
前記建築物を建てる地域の色をベース色として設定する第1ステップと、
前記第1ラインナップまたは前記第2ラインナップの中から前記ベース色との明度差が1.5以上となる色を前記外装材の色として選択する第2ステップとを含み、
前記地域の色は、前記地域から産出される建築材の色、または、前記地域のランドマークとなっている建築物に使用される建築材の色である、
外装材の色の選択方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の外装材コーディネートツールを用いて建築物の外装材の色を選択する方法であって、
前記建築物の外観パース画における緑視率を設定する第1ステップと、
前記緑視率に基づいて、色選択チャートを参照して前記第1ラインナップまたは前記第2ラインナップの中から前記外装材の色を選択する第2ステップと、を含み、
前記色選択チャートは、前記緑視率が低くなるにつれて前記色の明度が高くなるように関係づけられたチャートである、
外装材の色の選択方法。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載の外装材コーディネートツールを用いて建築物の外装材の色を選択する方法であって、
前記建築物のファサードの向きを設定する第1ステップと、
前記ファサードの向きに基づいて、色選択テーブルを参照して、前記第1ラインナップまたは前記第2ラインナップの中から前記外装材の色を選択する第2ステップと、を有し、
前記色選択テーブルにおいて、
東向きのファサードと前記第2ラインナップとが対応付けられ、
南向きのファサードと前記第1ラインナップおよび前記第2ラインナップが対応付けられ、
西向きのファサードと前記第1ラインナップとが対応付けられ、
北向きのファサードと前記第1ラインナップおよび前記第2ラインナップが対応付けられる、
外装材の色の選択方法。
【請求項12】
前記第1ステップにおいて前記建築物のファサードの向きを北向きに設定し、かつ、前記北向きのファサードに2つの色を採用する場合、
前記第2ステップにおいて、前記第1ラインナップおよび前記第2ラインナップから、明度差が2.0以上となるように2つの色を選択する、
請求項11に記載の外装材の色の選択方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、建築物の外装材の色をコーディネートする、外装材コーディネートツール、および、外装材の色の選択方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、地域の景観を配慮して、建築物の外装色を決めることが行われている。
例えば、特許文献1に記載の技術では、建築物用カラーチャートを用いて建築物の外装色を決定する。同技術では、建築物の景観に基づいて色情報を選択する。そして、建築物用カラーチャート中の所定範囲内において、選択した色情報に適合する誘導領域を決定し、次いで、誘導領域内において、対象とする建築物の外装色を決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、人の長寿命化、持続可能な社会の実現など、様々な理由から、建築物の長寿命化が要求されている。例えば、長期優良住宅の普及が促進されている。建築物の外観においても同様の観点から、建築物の長期使用を前提としたデザインが求められる。そこで、建築物の長期使用に適したデザイン設計に利用できる、外装材コーディネートツール、および、外装材の色の選択方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)上記課題を解決する外装材コーディネートツールは、建築物の外装材の色を選ぶための外装材コーディネートツールであって、有彩色の第1ラインナップを構成する複数の第1表示部と、無彩色の第2ラインナップを構成する複数の第2表示部と、を有し、前記複数の第1表示部は、互いに異なる色を表示し、前記複数の第2表示部は、互いに異なる色を表示し、前記無彩色は、有彩色のうち彩度が0.8未満の色を含み、前記第1表示部の色の彩度は、0.8以上3.5未満の範囲内にある。
【0006】
この構成によれば、外装材コーディネートツールにおいて第1表示部および第2表示部によって示される色は、無彩色または低彩度の有彩色である。無彩色および低彩度の有彩色は、木材、石、等の自然物に多く見られる色であるため、日本の風景に調和し、かつ、時代の変化によって流行が変わっても違和感または古さを感じさせ難い。このように、建築物の長期使用に適した外装材の色を提案できる。
【0007】
(2)上記(1)に記載の外装材コーディネートツールにおいて、前記第1表示部の色の彩度は、1.0以上1.5未満の範囲内にある。
この構成によれば、第1表示部の彩度が1.5未満であるため、第1表示部の色は、植栽の緑、紅葉の赤もしくは黄色等の建築物の周囲に配置される自然の色(以下、建築物周囲自然色)を映えさせる。建築物周囲自然色は、時代の変化に関わらず常に存在する色である。上記の第1表示部の色は、このような建築物周囲自然色を映えさせることができる。このように、建築物の長期使用に適した外装材の色を提案できる。
【0008】
また、第2表示部は無彩色である。無彩色は、建築物周囲自然色を映えさせる。低彩度色の第1表示部および無彩色の第2表示部を含む外装材コーディネートツールによれば、有彩色および無彩色の中から、建築物の長期使用に適した外装材の色を提案できる。
【0009】
(3)上記(2)に記載の外装材コーディネートツールにおいて、前記第1表示部の色の色相は、マンセル表色系において7.5YR以上10YR以下および1.0Y以上5.0Y未満の範囲内にある。
【0010】
このような構成の第1表示部の色は、建築物周囲自然色を映えさせる色であって、かつ、日本国内において時代を超えて残っている建築物の外装材に使われている色と調和する色である。日本国内において時代を超えて残っている建築物は、日本の景観に馴染む普遍的な色であると言える。このため、建築物の長期使用に適した外装材の色を提案できる。
【0011】
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の外装材コーディネートツールにおいて、前記第1表示部の色の明度および前記第2表示部の色の明度は、3.0以上9.0未満の範囲内にある。
【0012】
山、川、谷、海等の自然の色は、昼間において、明度3.0よりも低い色を殆ど含まない。また、山、川、谷、海等の自然の色は、昼間において、明度9.0よりも高い色を殆ど含まない。第1表示部の色の明度および第2表示部の色の明度が3.0以上9.0未満であることによって、第1表示部の色および第2表示部の色が建築物の外装材に採用された場合に、第1表示部の色および第2表示部の色は、自然の色と不調和を生じさせ難い。よって、この構成によれば、建築物の長期使用に適した外装材の色を提案できる。
【0013】
(5)上記(4)に記載の外装材コーディネートツールにおいて、前記第1表示部の色の明度および前記第2表示部の色の明度は、3.0以上5.0以下の範囲、または、6.0以上9.0未満の範囲内にある。
【0014】
多くの建築物において、建築物の周りに植栽が配置される。また、建築物は、山の樹木、田畑に植えられる作物、街路樹、公園の草木など、植物が見えるところに建てられる。植栽等(植栽および建築物の周囲の植物)の明度の典型的な値は、四季を通して、概ね5.0よりも大きく6.0未満である。建築物の明度と植栽等の明度とが重なると、建築物の色相と植栽等の色相とが異なっていたとしても、建築物と植栽等とが同じ色調になり、建築物および植栽等の全体としての見た目が変化の乏しいものになる虞がある。この点、上記構成によれば、第1表示部の明度および第2表示部の明度を、植栽等の明度と異なる明度としているため、建築物の周りに植栽等が配置されている場合において、建築物および植栽等を含む全体の見た目が単調とならない適切な色を提案できる。
【0015】
(6)上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の外装材コーディネートツールにおいて、前記複数の第1表示部および前記複数の第2表示部それぞれは、明度によって区分される複数のグループのいずれか1つに属し、前記グループに属する前記第1表示部の明度および前記第2表示部の明度と、他の前記グループに属する前記第1表示部および前記第2表示部の明度との差は、全ての組み合わせについて1以上である。
【0016】
この構成によれば、外装材コーディネートツールから2つの色を選択する場合に、明度差が1以上となるように2つの色を簡単に選択できる。例えば、複数の建築物からなる住宅街を構想する場合、または、1つの建築物の外観で2つの色を使う場合において、2つの色の差が明確に出る2つの色を簡単に選択できる。
【0017】
(7)上記(1)~(6)のいずれか1つに記載の外装材コーディネートツールにおいて、前記第1表示部および前記第2表示部は、ベースボードに設けられる。この構成によれば、外装材コーディネートツールを持ち運び易い。
【0018】
(8)上記(1)~(6)のいずれか1つに記載の外装材コーディネートツールにおいて、前記第1表示部および前記第2表示部は、電子機器の表示画面に表示される。この構成によれば、第1表示部および第2表示部が印刷される場合に比べて、紫外線よる色の劣化を受け難い。
【0019】
(9)上記課題を解決する外装材の色の選択方法は、上記(1)~(8)のいずれか1つの外装材コーディネートツールを用いて建築物の外装材の色を選択する方法であって、前記建築物を建てる地域の色をベース色として設定する第1ステップと、前記第1ラインナップまたは前記第2ラインナップの中から前記ベース色との明度差が1.5以上となる色を前記外装材の色として選択する第2ステップとを含み、前記地域の色は、前記地域から産出される建築材の色、または、前記地域のランドマークとなっている建築物に使用される建築材の色である。
【0020】
この構成によれば、建築物が建てられる地域にある地域特有の色をその建築物に採用する場合に、地域の色を埋没させず、かつ、建築物の長期使用に適した色を選択できる。
【0021】
(10)上記課題を解決する外装材の色の選択方法は、上記(1)~(8)のいずれか1つの外装材コーディネートツールを用いて建築物の外装材の色を選択する方法であって、前記建築物の外観パース画における緑視率を設定する第1ステップと、前記緑視率に基づいて、色選択チャートを参照して前記第1ラインナップまたは前記第2ラインナップの中から前記外装材の色を選択する第2ステップと、を含み、前記色選択チャートは、前記緑視率が低くなるにつれて前記色の明度が高くなるように関係づけられたチャートである。この構成によれば、緑視率に基づいて建築物の外装材の色を選択できる。このため、建築物全体の明度を適切な範囲内に収めることができる。
【0022】
(11)上記課題を解決する外装材の色の選択方法は、上記(1)~(8)のいずれか1つの外装材コーディネートツールを用いて建築物の外装材の色を選択する方法であって、前記建築物のファサードの向きを設定する第1ステップと、前記ファサードの向きに基づいて、色選択テーブルを参照して、前記第1ラインナップまたは前記第2ラインナップの中から前記外装材の色を選択する第2ステップと、を有し、前記色選択テーブルにおいて、東向きのファサードと前記第2ラインナップとが対応付けられ、南向きのファサードと前記第1ラインナップおよび前記第2ラインナップが対応付けられ、西向きのファサードと前記第1ラインナップとが対応付けられ、北向きのファサードと前記第1ラインナップおよび前記第2ラインナップが対応付けられる。この構成によれば、建築物に太陽があたる時間帯において建築物を美しく見せるための色を提案できる。
【0023】
(12)上記(11)の外装材の色の選択方法において、前記第1ステップにおいて前記建築物のファサードの向きを北向きに設定し、かつ、前記北向きのファサードに2つの色を採用する場合、前記第2ステップにおいて、前記第1ラインナップおよび前記第2ラインナップから、明度差が2.0以上となるように2つの色を選択する。
【0024】
北向きのファサードの場合、日中、ファサードは陰になるため、北向きのファサードに2つの色を使うと、2つの色の差が分かり難くなる。この点、上記構成によれば、北向きのファサードにおいて色の差が明確に出る2つの色を提案できる。
【発明の効果】
【0025】
本開示の外装材コーディネートツール、および、外装材の色の選択方法は、建築物の長期使用に適したデザイン設計に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】第1実施形態について、外装材コーディネートツールの模式図である。
【
図3】画像の色分析に使われるイメージスケールである。
【
図4】第2実施形態において、建築物の外装材の色の選択方法についてのフローチャートである。
【
図5】ベース色が設定された建築物の外観パース画を示す図である。
【
図6】色の推奨範囲が示されている外装材コーディネートツールの模式図である。
【
図7】第3実施形態において、建築物の外装材の色の選択方法についてのフローチャートである。
【
図8】植栽範囲を示す建築物の外観パース画を示す図である。
【
図10】第4実施形態において、建築物の外装材の色の選択方法についてのフローチャートである。
【
図12】北向きの建築物について、ファサードの図である。
【
図13】第5実施形態において、住宅街の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<第1実施形態>
[外装材コーディネートツール]
図1~
図3を参照して、外装材コーディネートツール10について説明する。
図1において、第1表示部11および第2表示部12に付随するパラメータA/Bは、明度/彩度を示す。
【0028】
外装材コーディネートツール10は、建築物1のデザインにおいて建築物1の外装材7の色の選択を支援する。デザイナーは、デザインに関する顧客の要望に基づいて建築物1をデザインする。また、デザイナーは、地域の建築物1に関する規制に基づいて、建築物1のデザインを提案する。近年、サステナビリティ、また、建築物1の長寿命化の観点から、普遍的なデザイン、飽きないデザイン、または、建築物1の周囲に調和するデザインが希求されている。外装材コーディネートツール10は、建築物1の長寿命化の観点を考慮したデザインの作成を支援する。外装材コーディネートツール10は、建築物1の長寿命化の観点を考慮したデザインの作成において、デザイナーの色の選択を支援する。外装材コーディネートツール10は、日本国内に建てられる建築物1を前提として作成されている。
【0029】
外装材コーディネートツール10は、建築物1の外装材7の色を選ぶためのツールである。
【0030】
外装材7は、外壁6の外面を構成する外壁材、擁壁を構成する部材、および、塀の外面を構成する外壁材を含む。外壁6および塀の外壁材は、タイル、外装塗料、外装シート、石材、コンクリート材、合成樹脂パネル、金属製パネル、陶版、窯業部材、木材を含む。外装材コーディネートツール10は、各種の外装材7それぞれに応じて作成される。外壁材用の外装材コーディネートツール10は、擁壁用の外装材コーディネートツール10とは異なる。外壁材用の外装材コーディネートツール10は、さらに、素材毎に、個別に作成されてもよい。例えば、陶版製の外壁材用の外装材コーディネートツール10と、石材製の外壁材用の外装材コーディネートツール10とは、別個に作成される。また、素材に関わらず、共通して使用できる外壁材用の外装材コーディネートツール10が作成されてもよい。
【0031】
外装材コーディネートツール10は、有彩色の第1ラインナップと、無彩色の第2ラインナップとを有する。有彩色の第1ラインナップは、複数の第1表示部11を含む。複数の第1表示部11は、互いに異なる色を表示する。無彩色の第2ラインナップは、複数の第2表示部12を含む。複数の第2表示部12は、互いに異なる色を表示する。
【0032】
本開示において、無彩色は、目視によって色相を判断し難い色を含む。例えば、僅かに青みが含まれると感じられる灰色は、無彩色である。本実施形態において、無彩色は、有彩色のうち彩度が0.8未満の色を含む。
【0033】
第1表示部11および第2表示部12は、ベースボード20に設けられる。ベースボード20は、板材またはシート材によって構成される。
【0034】
第1表示部11および第2表示部12は、色を表示する。一例では、第1表示部11および第2表示部12は、表面が所定の色で塗り潰された矩形シートまたは円形シートによって構成される。第1表示部11および第2表示部12は、所定の建材の表面の写真によって構成されてもよい。第1表示部11および第2表示部12は、外装材のサンプルによって構成されてもよい。第1表示部11および第2表示部12は、外装材のサンプルの模型によって構成されてもよい。
【0035】
第1表示部11および第2表示部12には、表示の色が分かるように色記号が付与されている。色記号は、色相、明度、および彩度を含む値である。色記号は、第1表示部11および第2表示部12それぞれの近くに表示される。色記号の一例は、マンセル値である。マンセル値は、他の色記号から変換できる。例えば、マンセル値は、RBG値、CMYK値、またはHEX値を所定の計算式で変換することによって求められる。
【0036】
第1表示部11および第2表示部12が電子計算機およびプリンターを使った印刷によって形成される場合、第1表示部11および第2表示部12の色の色記号は、電子計算機における色のパラメータ(例えば、RGB値)に基づいて特定できる。
【0037】
第1表示部11および第2表示部12が外壁材のサンプルによって構成されている場合、色見本を使うことによって、第1表示部11および第2表示部12の色の色記号が特定される。第1表示部11および第2表示部12が外壁材のサンプルによって構成されている場合、外壁材のサンプルのデジタル画像のピクセルデータの色のパラメータ(例えば、RGB値)に基づいて、色記号を特定してもよい。
【0038】
[第1表示部]
第1表示部11の色の彩度は、0.8以上3.5未満の範囲内にある。好ましくは、第1表示部11の色の彩度は、1.0以上1.5未満の範囲内にある。すなわち、外装材コーディネートツール10には、有彩色において彩度が3.5以上の色は示されない。外装材コーディネートツール10には、有彩色において低彩度の色のみが示されている。
【0039】
第1表示部11の色の色相は、マンセル表色系において7.5YR以上10YR以下および1.0Y以上5.0Y未満の範囲(以下、特定色範囲)内にある。第1表示部11の色の明度は、3.0以上9.0未満の範囲内にある。一例では、第1表示部11の色の明度は、3.0以上5.0以下の範囲、または、6.0以上9.0未満の範囲内にある。
【0040】
[第2表示部]
第2表示部12の色の明度は、3.0以上9.0未満の範囲内にある。一例では、第2表示部12の色の明度は、3.0以上5.0以下の範囲、または、6.0以上9.0未満の範囲内にある。
【0041】
[グループ]
複数の第1表示部11および複数の第2表示部12それぞれは、明度によって区分される複数のグループGRのいずれか1つに属する。グループGRに属する第1表示部11の明度および第2表示部12の明度と、他のグループGRに属する第1表示部11および第2表示部12の明度との差は、全ての組み合わせについて1以上である。したがって、外装材コーディネートツール10において、異なる2つのグループGRを選択し、その2つのグループGRからそれぞれに1つずつ色を選択すると、選択された2つの色の明度差は、1以上になる。
【0042】
外装材コーディネートツール10に示される第1ラインナップの各色は同じ色調にある。このため、単に好みで選択すると、見分けが付かない2つの近い色を選択する虞がある。見分けが付かない2つの近い色を選択すると、2色使いにした建築物1の外観の特徴が低減する虞がある。このため、1以上の明度差の色を選択できるように各表示部がグループ分けされたツールは、複数の色を選択する場合において有用である。
【0043】
[日本国における景色および建築物の色の分析]
上記に示される第1表示部11の色の範囲および第2表示部12の色の範囲は、日本国内において選定された建築物1および風景(以下、選定建築物および選定風景)の色分析に裏付けられる。選定建築物および選定風景は、日本国において所定機関によって選定された「重要伝統的建造物群保存地区」にある建築物1および風景、および、日本国において所定機関によって選定された「重要文化的景観」の風景を含む。選定建築物および選定風景の色分析には、選定建築物の画像および選定風景の画像が用いられる。色分析としては、マンセル表またはHUE&TONEシステムにおける各色の出現率の分析、および、画像において各トーンの出現率の分析が挙げられる。HUE&TONEシステムは株式会社日本カラーデザイン研究所(略称「NCD」、以下「NCD」と表記)によって開発された色分析のシステムである。
【0044】
図2および
図3を参照して、画像における各色の出現率の分析の一例について説明する。一例では、色分析において、建築物1または風景の画像においてピクセル毎に色を特定する。各ピクセルの色は、HUE&TONEシステムの1093色のうちのいずれかの色に特定される。具体的には、各ピクセルの色は次のように決定される。HUE&TONEシステムの1093色から、当該色と最も近い色が選定される。そして、選定された色が当該ピクセルの色として特定する。このようにして、画像は、1093色によって分析される。そして、画像における各色の頻度を算出する。色の頻度は、当該色を表示するピクセルの個数として定義される。色の出現率は、(色の頻度)/画像の全ピクセル数として定義される。このように統計処理された色の分析は、トーン図(
図2参照)またはイメージスケール(
図3参照)によって可視化される。なお、トーン図はNCDのHUE&TONEシステムのトーン図を指す。イメージスケールはNCDによって開発されたカラーイメージ分析システムである。
【0045】
図2を参照して、画像における、各トーンの出現率の分析の例を説明する。トーンは、色調とも呼ばれる。トーン図は、12個のトーンを有する。HUE&TONEシステムの1093色は、いずれかのトーンに属する。したがって、HUE&TONEシステムに基づいて色分析された画像について、各ピクセルの色は12個のトーンのいずれかに再分類され得る。トーン図における各トーンには、画像におけるトーンの出現率が示される。トーン図によれば、建築物1および風景がどのようなトーンを有するか、または、最も頻度の高いトーンはいずれであるかについて、一目で認識できる。
【0046】
図3を参照して、イメージスケールにおける各色の出現率の分析の例を説明する。イメージスケールは、色と、色に対して人が抱くイメージとを関係づけた座標系を有する。イメージスケールでは、左側に行くほど暖かいイメージの色が配置され、右側に行くほど冷たいイメージの色が配置され、上側に行くほどソフトなイメージの色が配置され、下側に行くほどハードなイメージの色が配置される。具体的には、イメージスケールの座標系の各点には、予めHUE&TONEシステムにおける色が対応付けられている。したがって、HUE&TONEシステムに基づいて色分析された画像について、各ピクセルの色は、イメージスケールに配置され得る。イメージスケールにおいて、各色の出現率が分かる。そして、イメージスケールにおいて、高出現率の色がどのような位置にあるかを簡単に把握できる。イメージスケールにおける高出現率の色の位置から、画像の風景または建築物のイメージを客観的に把握できる。また、複数の画像のイメージの違いを客観的に分析できる。なお、画像において、ある色の出現率は、当該色のピクセルの数×100/画像の全ピクセル数として定義される。
【0047】
イメージスケールには、画像における各色の頻度が円の大きさで示される。例えば、画像に暖かいイメージの色が多く現れる場合、左側の領域に大きい円が表示される。画像に冷たいイメージの色が多く現れる場合、右側の領域に大きい円が表示される。このようなイメージスケールによれば、建築物1および風景には、どのようなイメージの色が多く含まれているかを一目で認識できる。
【0048】
選定建築物および選定風景の色分析では、多数の画像が用いられる。選定建築物および選定風景の多数の画像の分析によると、選定建築物および選定風景において、第1表示部11の色および第2表示部12の色の出現率が高いことが分かった。したがって、第1表示部11の色の範囲および第2表示部12の色の範囲の色を建築物1の外装材7に使うことによって、普遍的なデザイン、飽きないデザインを形成できる。
【0049】
本実施形態の作用を説明する。
外装材コーディネートツール10は、有彩色の第1ラインナップを構成する複数の第1表示部11と、無彩色の第2ラインナップを構成する複数の第2表示部12と、を有する。無彩色は、有彩色のうち彩度が0.8未満の色を含む。第1表示部11の色の彩度は、0.8以上3.5未満の範囲内にある。このように、第1表示部11および第2表示部12によって示される色は、無彩色または低彩度である。
【0050】
無彩色は、選定建築物および選定風景に多く現れる。例えば、無彩色の構造物の例として、黒壁の建築物1、白壁の建築物1、灰色の瓦、白い漆喰の塗壁、墨塗りの板壁、石灰岩等の無彩色の石材によって作られる擁壁または石垣等、が挙げられる。無彩色は、周囲の色を際立たせるとともに、目障りにならず、飽きが来ず、見飽きることもない。また、無彩色は、四季によって移り変わる植栽の色に対して一年をわたって、植栽を際立たせ、植栽の色と調和する。また、無彩色は、いつの時代においても建築物1に使われている色であり、流行に左右されない。
【0051】
低彩度の色は、選定建築物および選定風景に多く現れる。例えば、低彩度の色の構造物の例として、土塀の建築物1、木造の建築物1、青い瓦、花崗岩等の低彩度の色の石材によって作られる擁壁または石垣、等が挙げられる。低彩度の色は、周囲の色を際立たせるとともに、目障りにならず、飽きが来ず、見飽きることもない。また、低彩度の色は、四季によって移り変わる植栽の色に対して一年をわたって、植栽を際立たせ、植栽の色と調和する。また、低彩度の色は、目立ちにくい色であるため、時代の変化または流行の変化によって目障りになり難い。このため、低彩度の色を有する建築物1は、その建築物1に隣接する建築物1が建て替えられたり、建築物1の周囲の植栽が植え替えられたりしても、建築物1の周囲に馴染み、建築物1およびその周囲を含む全体の景色の調和は乱れ難い。さらに、低彩度の色は、無彩色と異なり、色味を与える。色味によって、色のバリエーションが増大する。
【0052】
このように、無彩色および低彩度の有彩色は、日本の風景に調和し、かつ、時代の変化によって流行が変わっても違和感または古さを感じさせ難い。外装材コーディネートツール10に有彩色の第1ラインナップと無彩色の第2ラインナップとが設けられることによって、顧客またはデザイナーの選択肢が豊富になっている。このようにして、建築物1の長期使用に適した外装材7の色を提案できる。
【0053】
本実施形態の効果を説明する。
(1)外装材コーディネートツール10は、有彩色の第1ラインナップを構成する複数の第1表示部11と、無彩色の第2ラインナップを構成する複数の第2表示部12と、を有する。無彩色は、有彩色のうち彩度が0.8未満の色を含む。第1表示部11の色の彩度は、0.8以上3.5未満の範囲内にある。
【0054】
この構成によれば、外装材コーディネートツール10において第1表示部11および第2表示部12によって示される色は、無彩色または低彩度の有彩色である。無彩色および低彩度の有彩色は、木材、石、等の自然物に多く見られる色であるため、日本の風景に調和し、かつ、時代の変化によって流行が変わっても違和感または古さを感じさせ難い。このようにして、建築物1の長期使用に適した外装材7の色を提案できる。
【0055】
(2)第1表示部11の色の彩度は、1.0以上1.5未満の範囲内にある。この構成によれば、第1表示部11の彩度が1.5未満であるため、第1表示部11の色は、植栽の緑、紅葉の赤もしくは黄色等の建築物1の周囲に配置される自然の色(以下、建築物周囲自然色)を映えさせる。建築物周囲自然色は、時代の変化に関わらず常に存在する色である。上記の第1表示部11の色は、このような建築物周囲自然色を映えさせることができる。このように、建築物1の長期使用に適した外装材7の色を提案できる。
【0056】
また、第2表示部12は無彩色である。無彩色は、建築物周囲自然色を映えさせる。低彩度色の第1表示部11および無彩色の第2表示部12を含む外装材コーディネートツール10によれば、有彩色および無彩色の中から、建築物1の長期使用に適した外装材7の色を提案できる。
【0057】
(3)第1表示部11の色の彩度は、1.0以上1.5未満の範囲内にある。さらに、第1表示部11の色の色相は、マンセル表色系において7.5YR以上10YR以下および1.0Y以上5.0Y未満の範囲内にあってもよい。このような構成の第1表示部11の色は、建築物周囲自然色を映えさせる色であって、かつ、日本国内において時代を超えて残っている建築物1の外装材7に使われている色と調和する色である。日本国内において時代を超えて残っている建築物1は、日本の景観に馴染む普遍的な色であると言える。このため、建築物1の長期使用に適した外装材7の色を提案できる。
【0058】
(4)第1表示部11の色の明度および第2表示部12の色の明度は、3.0以上9.0未満の範囲内にある。
山、川、谷、海等の自然の色は、昼間において、明度3.0よりも低い色を殆ど含まない。また、山、川、谷、海等の自然の色は、昼間において、明度9.0よりも高い色を殆ど含まない。第1表示部11の色の明度および第2表示部12の色の明度が3.0以上9.0未満であることによって、第1表示部11の色および第2表示部12の色が建築物1の外装材7に採用された場合に、第1表示部11の色および第2表示部12の色は、自然の色と不調和を生じさせ難い。このように、建築物1の長期使用に適した外装材7の色を提案できる。
【0059】
(5)第1表示部11の色の明度および第2表示部12の色の明度は、3.0以上5.0以下の範囲、または、6.0以上9.0未満の範囲内にある。
多くの建築物1において、建築物1の周りに植栽が配置される。また、建築物1は、山の樹木、田畑の作物、街路樹、公園の草木など、植物が見えるところに建てられる。植栽等(植栽および建築物1の周囲の植物)の明度の典型的な値は、四季を通して、概ね5.0よりも大きく6.0未満である。建築物1の明度と植栽等の明度とが重なると、建築物1の色相と植栽等の色相とが異なっていたとしても、建築物1と植栽等とが同じ色調になり、建築物1および植栽等の全体としての見た目が変化の乏しいものになる虞がある。この点、上記構成によれば、第1表示部11の明度および第2表示部12の明度を、植栽等の明度と異なる明度としているため、建築物1の周りに植栽等を配置されている場合において、建築物1および植栽等を含む全体の見た目が単調とならない適切な色を提案できる。
【0060】
(6)複数の第1表示部11および複数の第2表示部12それぞれは、明度によって区分される複数のグループGRのいずれか1つに属する。あるグループGRに属する第1表示部11の明度および第2表示部12の明度と、他のグループGRに属する第1表示部11および第2表示部12の明度との差(明度差)は、全ての組み合わせについて1以上である。具体的には、あるグループGRが選択されたとき、そのグループGR内の要素(第1表示部11および第2表示部12)の明度は、全て、他の全てのグループGRの要素の明度と1以上の差を有する。
【0061】
この構成によれば、外装材コーディネートツール10から2つの色を選択する場合に、明度差が1以上となるように2つの色を簡単に選択できる。例えば、複数の建築物1からなる住宅街を構想する場合、または、1つの建築物1の外観で2つの色を使う場合において、2つの色の差が明確に出る2つの色を簡単に選択できる。具体的には、異なる2つのグループGRからそれぞれ1つずつ色を選択することによって、2つの色の明度差は、1以上なる。このように、簡単に2つの色を選択できる。
【0062】
隣接する2つの建築物1において色の差を明確に見せるためには、隣接する2つの建築物1の色の明度差は、1.5以上であることが好ましい。1つの建築物1において2つの色を使う場合でも、同様に、その建築物1における2つの色の差を明確に見せるためには、2つの色の明度差は、1.5以上であることが好ましい。このように、1.5以上の明度差の色を選択する場合でも、上記(6)の構成によれば、1.5以上の明度差の色を簡単に選択できる。例えば、第1候補の色が含まれるグループGRが、そのグループGRと隣接するグループGRとの間の明度差が1.0である場合、隣接するグループGRの色の選択せずに、隣接するグループGR以外のグループGRの色を選択する。このように、第1候補の色を定めた場合、第1候補の色から1.5以上の明度差のある色を簡単に選択できる。
【0063】
なお、あるグループGRに属する第1表示部11の明度および第2表示部12の明度と、他のグループGRに属する第1表示部11および第2表示部12の明度との差(明度差)は、全ての組み合わせについて1.5以上としてもよい。
【0064】
(7)第1表示部11および第2表示部12は、ベースボード20に設けられる。この構成によれば、外装材コーディネートツール10を手で持つことができる。このため、外装材コーディネートツール10を持ち運び易い。
【0065】
<第2実施形態>
図4~
図6を参照して、建築物1の外装材7の色の選択方法を説明する。本実施形態では、上記の外装材コーディネートツール10を用いて建築物1の外装材7の色を選択する方法について、説明する。建築物1の外装材7の色を選択する方法は、デザイナーと顧客との相談の場において使用される。
【0066】
図4に示されるように、外装材7の色の選択方法は、第1ステップS11および第2ステップS12を含む。
【0067】
第1ステップS11では、デザイナーは、建築物1を建てる地域の色をベース色として設定する。ベース色は、建築物1のデザインにおいて最初に設定される色、または、デザイン中において最も変更され難い色である。第1ステップS11では、地域の色を、このようなベース色として設定する。
【0068】
地域の色は、地域から産出される建築材の色、または、地域のランドマークとなっている建築物1に使用される建築材の色である。地域から産出される建築材の例として、石材が挙げられる。例えば、青森県の久栗坂石、秋田県の十和田石、秋田県の男鹿石、宮城県の井内石、福島県の白河石、栃木県の芦野石、栃木県の大谷石、群馬県の中之条石、長野県の諏訪鉄平石、長野県の佐久鉄平石、岐阜県の美濃石、兵庫県の御影石、長崎県の諫早石、鹿児島の桜島溶岩石、沖縄県の琉球石灰岩、等が挙げられる。
【0069】
地域のランドマークとなっている建築物1の例として、北海道の小樽にあるレンガ造りの倉庫が挙げられる。この場合、建築物1に使用される建築材は、レンガである。
【0070】
第2ステップS12では、デザイナーは、第1ラインナップまたは第2ラインナップの中からベース色との明度差が1.5以上となる色を外装材7の色として選択する。デザイナーは、選択した色を顧客に提案してもよい。
【0071】
図5および
図6を参照して、石材の産地または過去において石材の産地として有名であった地域に、建築物1を建てる例について説明する。
【0072】
図5に示されるように、第1ステップS11において、顧客の要望によって、門塀2および塀3に、諏訪鉄平石を使うことが設定される。さらに、写真サンプルからどのような色の諏訪鉄平石を使うかが決められる。そして、選定された諏訪鉄平石の色を特定する。例えば、色見本との比較によって色が特定される。特定された色は、建築物1におけるベース色として設定される。
【0073】
第2ステップS12において、建築物1の外壁材用の外装材コーディネートツール10を用いて、建築物1の外壁6の外装材7の色がデザイナーによって提案される。
【0074】
具体的には、
図6に示されるように、外装材コーディネートツール10において、ベース色がどの位置にあるかが示される。そして、明度が1.5以上はなれた色の範囲がデザイナーによって推奨される。例えば、諏訪鉄平石の色が、無彩色、黒に近いグレーで、色相10Y、明度4.0、彩度0.4である場合、明度が5.5以上の範囲の色が外装材7の色として推奨される。デザイナーおよび顧客は、推奨された色の範囲の中から外装材7の色を決定する。
【0075】
このような例では、次の効果がある。地域産の石材は、その地域で広く使われる。建築物1に、その建築物1が建てられる地域の石材が使われることによって、建築物1は、その地域の景観に調和し易い。加えて、予め建築物1の長期使用に適した色として選択されている色(第1ラインナップの色および第2ラインナップの色)の中から、外装材7の色を選択することから、建築物1の全体として、その地域の景観に調査する。さらに、第2ステップS12における色の選択によって、外装材7の色の明度は、ベース色の明度と少なくとも1.5以上異なる。これによって、目視にて、ベース色と外装材7の色との違いが明確になることから、建築物1の全体として単調な印象を与えることがないデザインとなる。
【0076】
したがって、上記のような外装材7の色の選択方法によれば、建築物1が建てられる地域にある地域特有の色をその建築物1に採用する場合に、地域の色を埋没させず、かつ、建築物1の長期使用に適した色を選択できる。
【0077】
<第3実施形態>
図7~
図9を参照して、建築物の外装材7の色の選択方法の他の例を説明する。本実施形態においても第2実施形態と同じく、上記の外装材コーディネートツール10を用いて建築物1の外装材7の色を選択する。
【0078】
図7に示されるように、外装材7の色の選択方法は、第1ステップS21および第2ステップS22を含む。第1ステップS21では、デザイナーは、建築物1の外観パース画における緑視率を設定する。
【0079】
図8に示されるように、緑視率は、外観パース画における植栽範囲GAの比率として定義される。外観パース画の枠30の形状は矩形である。外観パース画の枠30の大きさは、建築物1の正面視において、建築物1および建築物1の敷地内の植栽の全てが、過不足なく収まる大きさである。緑視率を式で示すと次のようになる。緑視率=100×植栽範囲GAの面積/外観パース画の面積。
【0080】
第2ステップS22では、緑視率に基づいて、色選択チャート13を参照して第1ラインナップまたは第2ラインナップの中から外装材7の色を選択する。デザイナーは、選択した色を顧客に提案してもよい。
【0081】
色選択チャート13は、緑視率が低くなるにつれて色の明度が高くなるように関係づけられたチャートである。色選択チャート13は、建築物1の外観パース画における緑視率に対して、建築物1の外壁の色について推奨される明度を示す。
【0082】
図9に色選択チャート13の一例を示す。この例では、横軸は緑視率を示す。縦軸が色の明度を示す。色選択チャート13において斜線で示される範囲は、推奨される明度の範囲である。色選択チャート13は、植栽が建築物1全体の明度を上げるものであること、および、建築物1全体の明度には適切な範囲があること、に基づいて作成されている。具体的には、建築物1全体の明度が高くなり過ぎると、建築物1を屋外から見たときに背景の色よりも建築物1が目立つようになり、建築物1が背景と調和し難くなる。また、建築物1全体の明度が低くなり過ぎると、全体として黒っぽくなり、建築物1は暗いイメージを与える。このように、建築物1全体の明度には適切な範囲がある。植栽の明度は、5付近にあるため、緑視率の高さは、建築物1全体の明度を上げる効果がある。以上のことから、色選択チャート13は、緑視率が低くなるにつれて、推奨に係る色の明度が高くなるように関係づけられている。
【0083】
以上のように、本例の外装材7の色の選択方法によれば、緑視率に基づいて建築物1の外装材7の色を選択できる。具体的には、緑視率と推奨明度とが関係付けられた色選択チャート13を使うことができるため、緑視率に応じた適切な明度の色を選択できる。このため、建築物1全体の明度を適切な範囲内に収めることができる。
【0084】
<第4実施形態>
図10~
図12を参照して、建築物1の外装材7の色の選択方法の他の例を説明する。本実施形態においても第2実施形態と同じく、上記の外装材コーディネートツール10を用いて建築物1の外装材7の色を選択する。
【0085】
図10に示されるように、外装材7の色の選択方法は、第1ステップS31および第2ステップS32を含む。
【0086】
第1ステップS31では、建築物1のファサードの向きを設定する。多くの建築物1において、ファサードは、建築物1において道路に向いた立面である。例えば、ファサードは、正面玄関を含む立面として構成される。
【0087】
第2ステップS32では、ファサードの向きに基づいて、色選択テーブル14を参照して、第1ラインナップまたは第2ラインナップの中から外装材7の色を選択する。デザイナーは、選択した色を顧客に提案してもよい。
【0088】
図11を参照して、色選択テーブル14を説明する。色選択テーブル14は、建築物1のファサードの向きと、ファサードを構成する外壁6の色として推奨する色とを対応づける。
【0089】
具体的には、色選択テーブル14において、ファサードの向きと各ラインナップとが対応づけされる。東向きのファサードと第2ラインナップとが対応付けられる。南向きのファサードと第1ラインナップおよび第2ラインナップが対応付けられる。西向きのファサードと第1ラインナップとが対応付けられる。北向きのファサードと第1ラインナップおよび第2ラインナップが対応付けられる。
【0090】
建築物1は、ファサードの向きによって美しく見える時間帯が異なる。例えば、東向きのファサードの場合、太陽の光がよく当たる朝方において、建築物1は風景に映える。また、朝方の光は、夕方に比べて青い光を含む。無彩色は、青みにある光に映える。このようなことから、東向きのファサードには第2ラインナップが対応付けられる。これによって、建築物1が最もよく見える時間帯において、建築物1をより美しく見せることができる。
【0091】
西向きのファサードの場合、太陽の光がよく当たる夕方において、建築物1は風景に映える。また、夕方の光は、朝方に比べて赤い光が多い。有彩色は、赤みの光によく映える。このようなことから、西向きのファサードには第1ラインナップが対応付けられる。これによって、建築物1が最もよく見える時間帯において、建築物1をより美しく見せることができる。
【0092】
南向きのファサードの場合、太陽の光がよく当たる正午において、建築物1は風景に映える。日中の光は、朝夕に比べて光が強い。したがって、南向きのファサードには第1ラインナップおよび第2ラインナップが対応付けられる。北向きのファサードの場合、日中、ファサードは陰になるため、特別に映える時間帯はない。したがって、北向きのファサードには第1ラインナップおよび第2ラインナップが対応付けられる。
【0093】
このように、外装材7の色の選択方法によれば、建築物1に太陽があたる時間帯において建築物1を美しく見せるための色を提案できる。
【0094】
[2色使いの例]
建築物1のファサードの向きが北向きに設定され、かつ、北向きのファサードに2つの色が採用される場合には、第1ラインナップおよび第2ラインナップから、明度差が2.0以上となるように2つの色を選択してもよい。
【0095】
例えば、
図12に示されるように、建築物1において、1階および2階の第1外壁6Aの色は、第1色に設定される。建築物1において、1階から2階のバルコニーまで延びる第2外壁6Bの色は第2色に設定される。この場合において、第1色と第2色との明度差は、2.0以上とされる。
【0096】
北向きのファサードの場合、日中、ファサードは陰になるため、北向きのファサードに2つの色を使うと、2つの色の差が分かり難くなる。この点、上記構成によれば、北向きのファサードにおいて色の差が明確に出る2つの色を提案できる。
【0097】
<第5実施形態>
図13を参照して、建築物1の外装材7の色の選択方法の他の例を説明する。本実施形態では、複数の建築物1を含む家並みのデザインにおいて、建築物1それぞれの色を決めるときの色の選択方法について説明する。例えば、複数の建築物1を含む家並みのデザインの例として、分譲住宅の住宅街をデザインする場合がある。このような場合、隣接する建築物1が互いに近い明度の色を有すると、住宅街として単調なイメージになる。そこで、外装材コーディネートツール10を用いて、隣接する色の外装材7の色は、明度が1.5以上異なるように、各建築物1の外装材7の色が設定される。
【0098】
例えば、
図13に示されるように、ある建築物1の外壁6の色の明度は、左隣りの建築物1の外壁6の色の明度から1.5以上離れた色とされ、かつ、右隣りの建築物1の外壁6の色の明度から1.5以上離れた色とされる。このような色の選択は、一列に並ぶ全ての建築物1に対して適用される。このように色を選択することによって、変化に富みつつかつ落ち着いた街並みにすることが出来る。
【0099】
このような色の選択方法は、既存の住宅街の一画に新たな家(建築物1)を建てる場合にも適用できる。また、このような色の選択方法は、既存の住宅街において家(建築物1)をリフォームする場合にも適用できる。
【0100】
<変形例>
上記実施形態は、外装材コーディネートツール10、および、建築物1の外装材7の色の選択方法が取り得る形態の例示であり、その形態を制限することを意図していない。外装材コーディネートツール10、および、建築物1の外装材7の色の選択方法は、上記実施形態に例示された形態とは異なる形態を取り得る。その例は、実施形態の構成の一部を置換、変更、省略した形態、または、実施形態に新たな構成を付加した形態である。以下に実施形態の変形例を示す。
【0101】
(1)上記実施形態において、第1表示部11および第2表示部12は、ベースボード20に設けられているが、第1表示部11および第2表示部12の態様はこれに限定されない。例えば、外装材コーディネートツール10の第1表示部11および第2表示部12は、電子機器の表示画面に表示されてもよい。電子機器は、表示画面を有するもの、または、表示画面を写し出せるものを含む。電子機器としては、タブレット、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、および、プロジェクターが挙げられる。この構成によれば、第1表示部11および第2表示部12が印刷される場合に比べて、紫外線よる色の劣化を受け難い。電子機器は、画像拡大機能を有する画像ソフトを有してもよい。この場合、画像ソフトを使って、第1表示部11または第2表示部12を拡大して示すことができる。
【0102】
(2)第2実施形態において、建築物1の外装材7の色の選択方法について、3つの例が挙げられているが、これら3つの例のうち2つが組み合わされてもよく、また、3つの例の全てが組み合わされてもよい。
【0103】
例えば、建築物1を建てる地域の色をベース色に設定した上で、ベース色、緑視率、および、建築物1のファサードの向きに基づいて、外壁6の外装材7の色を選択してもよい。
【0104】
建築物1を建てる地域の色が無い場合、ベース色を設定せず、緑視率、および、建築物1のファサードの向きに基づいて、外壁6の外装材7の色を選択してもよい。
【0105】
植栽がない建築物1の場合、建築物1を建てる地域の色をベース色に設定した上で、ベース色および建築物1のファサードの向きに基づいて、外壁6の外装材7の色を選択してもよい。
【0106】
建築物1の主たる面が特定され難い場合、建築物1を建てる地域の色をベース色に設定した上で、ベース色および緑視率に基づいて外装材7の色を選択してもよい。建築物1の主たる面が特定され難い場合とは、例えば、建築物1が角地にあり、正面および側面がともに人目につくような場合を示す。
【0107】
(3)本技術は、外国の建築物にも適用できる。具体的には、「外装材コーディネートツールは、建築物の外装材の色を選ぶための外装材コーディネートツールであって、有彩色の第1ラインナップを構成する複数の第1表示部と、無彩色の第2ラインナップを構成する複数の第2表示部と、を有する」外装材コーディネートツールであって、下記の付記4~付記10のいずれか1つを含む技術は、外国の建築物にも適用できる。第1表示部の色相および彩度の値は、世界における地域に応じて設定される。また、付記11および付記12に記載のファサードに関連する技術は、世界における地域に応じてアレンジされる。
【0108】
本明細書は、次の技術を開示する。
[付記1]
建築物の外装材の色を選ぶための外装材コーディネートツールであって、有彩色の第1ラインナップを構成する複数の第1表示部と、無彩色の第2ラインナップを構成する複数の第2表示部と、を有し、前記複数の第1表示部は、互いに異なる色を表示し、前記複数の第2表示部は、互いに異なる色を表示し、前記無彩色は、有彩色のうち彩度が0.8未満の色を含み、前記第1表示部の色の彩度は、0.8以上3.5未満の範囲内にある、外装材コーディネートツール。
【0109】
[付記2]
前記第1表示部の色の彩度は、1.0以上1.5未満の範囲内にある、付記1に記載の外装材コーディネートツール。
【0110】
[付記3]
前記第1表示部の色の色相は、マンセル表色系において7.5YR以上10YR以下および1.0Y以上5.0Y未満の範囲内にある、付記2に記載の外装材コーディネートツール。
【0111】
[付記4]
前記第1表示部の色の明度および前記第2表示部の色の明度は、3.0以上9.0未満の範囲内にある、付記3に記載の外装材コーディネートツール。
【0112】
[付記5]
前記第1表示部の色の明度および前記第2表示部の色の明度は、3.0以上5.0以下の範囲、または、6.0以上9.0未満の範囲内にある、付記4に記載の外装材コーディネートツール。
【0113】
[付記6]
前記複数の第1表示部および前記複数の第2表示部それぞれは、明度によって区分される複数のグループのいずれか1つに属し、前記グループに属する前記第1表示部の明度および前記第2表示部の明度と、他の前記グループに属する前記第1表示部および前記第2表示部の明度との差は、全ての組み合わせについて1以上である、付記5に記載の外装材コーディネートツール。
【0114】
[付記7]
前記第1表示部および前記第2表示部は、ベースボードに設けられる、
付記6に記載の外装材コーディネートツール。
【0115】
[付記8]
前記第1表示部および前記第2表示部は、電子機器の表示画面に表示される、付記6に記載の外装材コーディネートツール。
【0116】
[付記9]
付記1~8のいずれか1つの外装材コーディネートツールを用いて建築物の外装材の色を選択する方法であって、前記建築物を建てる地域の色をベース色として設定する第1ステップと、前記第1ラインナップまたは前記第2ラインナップの中から前記ベース色との明度差が1.5以上となる色を前記外装材の色として選択する第2ステップとを含み、前記地域の色は、前記地域から産出される建築材の色、または、前記地域のランドマークとなっている建築物に使用される建築材の色である、外装材の色の選択方法。
【0117】
[付記10]
付記1~8のいずれか1つの外装材コーディネートツールを用いて建築物の外装材の色を選択する方法であって、前記建築物の外観パース画における緑視率を設定する第1ステップと、前記緑視率に基づいて、色選択チャートを参照して前記第1ラインナップまたは前記第2ラインナップの中から前記外装材の色を選択する第2ステップと、を含み、前記色選択チャートは、前記緑視率が低くなるにつれて前記色の明度が高くなるように関係づけられたチャートである、外装材の色の選択方法。
【0118】
[付記11]
付記1~8のいずれか1つの外装材コーディネートツールを用いて建築物の外装材の色を選択する方法であって、前記建築物のファサードの向きを設定する第1ステップと、前記ファサードの向きに基づいて、色選択テーブルを参照して、前記第1ラインナップまたは前記第2ラインナップの中から前記外装材の色を選択する第2ステップと、を有し、前記色選択テーブルにおいて、東向きのファサードと前記第2ラインナップとが対応付けられ、南向きのファサードと前記第1ラインナップおよび前記第2ラインナップが対応付けられ、西向きのファサードと前記第1ラインナップとが対応付けられ、北向きのファサードと前記第1ラインナップおよび前記第2ラインナップが対応付けられる、外装材の色の選択方法。
【0119】
[付記12]
前記第1ステップにおいて前記建築物のファサードの向きを北向きに設定し、かつ、前記北向きのファサードに2つの色を採用する場合、前記第2ステップにおいて、前記第1ラインナップおよび前記第2ラインナップから、明度差が2.0以上となるように2つの色を選択する、付記11に記載の外装材の色の選択方法。
【符号の説明】
【0120】
GA…植栽範囲、1…建築物、6…外壁、7…外装材、10…外装材コーディネートツール、11…第1表示部、12…第2表示部、13…色選択チャート、14…色選択テーブル、20…ベースボード。