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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080465
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20240606BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240606BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240606BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20240606BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20240606BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20240606BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/525
H01M4/62 Z
H01M10/0569
H01M4/131
H01M10/44 A
H01M10/48 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193681
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000157119
【氏名又は名称】関東電化工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藪内 直明
(72)【発明者】
【氏名】風早 夏帆
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 真悟
【テーマコード(参考)】
5H029
5H030
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029DJ08
5H029EJ12
5H029EJ14
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ07
5H029HJ14
5H029HJ17
5H029HJ18
5H029HJ19
5H030AA10
5H030AS11
5H030AS14
5H030BB01
5H030FF43
5H050AA07
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA11
5H050EA27
5H050EA28
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA07
5H050HA17
5H050HA18
5H050HA19
(57)【要約】
【課題】充電電圧を高めた場合においても、優れたサイクル特性及びサイクルの安定性を有するリチウムイオン二次電池を提供すること。
【解決手段】リチウム及びコバルトを含む複合酸化物を含む正極活物質と、スチレンブタジエンゴム及びカルボキシメチルセルロース若しくはその塩との混合物とを含む正極と、
下記式(I)で表されるフッ素化溶媒を含む非水電解液を有する、リチウムイオン二次電池。
【化1】
(但し、R1は炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数1~10のハロゲン化アルキル基、又はフェニル基である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム及びコバルトを含む複合酸化物を含む正極活物質と、スチレンブタジエンゴム及びカルボキシメチルセルロース若しくはその塩との混合物とを含む正極と、
下記式(I)で表されるフッ素化溶媒を含む非水電解液を有する、リチウムイオン二次電池。
【化1】
(但し、R1は炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数1~10のハロゲン化アルキル基、又はフェニル基である。)
【請求項2】
式(I)で表されるフッ素化溶媒が、メチル3,3,3-トリフルオロプロピオネートである、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
非水電解液の全溶媒体積中、式(I)で表されるフッ素化溶媒の割合が10体積%以上である、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
リチウム及びコバルトを含む複合酸化物がLiCoO2である、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
金属リチウムを負極活物質とする負極を有する、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記正極において、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロース若しくはその塩の質量比が1:1~5であり、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロース若しくはその塩の合計量は、リチウム及びコバルトを含む複合酸化物を100質量部としたときに1~4質量部である、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
25℃、充電電圧4.5V、放電電圧2.5V、及び、正極活物質の質量当たりの電流25mA/gの条件で50サイクルの充放電を行った後の放電容量と、同条件で最大となる放電容量との比から求められる容量保持率が、90%以上である請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
金属リチウム基準にて4.4V以上の充電終止電圧で充放電させて用いられる、請求項5に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン、PDA等の移動情報端末の小型・軽量化が急速に進展しており、駆動用電源として用いられる二次電池にはさらなる高容量化が望まれている。この要求に応える二次電池として、電池電圧を高めることが可能な非水電解質二次電池が注目されている。特に、正極活物質にリチウム含有遷移金属酸化物を用い、負極活物質に黒鉛系の炭素材料を用いたリチウムイオン二次電池が一般的に使用されている。しかしながら、現在のリチウムイオン二次電池は、昨今の移動情報端末の要求を完全に満たしていることはといい難く、さらなる高容量化及び高耐久性化が望まれている。
【0003】
ここで、高容量化を実現するには、電池の充電電圧を高めることが有効である。充電電圧を高めることにより、正極活物質から引き抜くリチウム量が増え、正極活物質の利用率が向上するためである。例えば、一般的に使用されているコバルト酸リチウムを金属リチウム基準で4.3Vまで充電した場合、その容量は160mAh/g程度であるが、金属リチウム基準で4.5Vまで充電すると、190mAh/g程度まで容量を向上することが可能となる。
【0004】
しかしながら、コバルト酸リチウムをはじめとして、正極活物質を高電圧まで充電すると、電解液の分解が加速され、良好なサイクル特性を得ることが困難であった。
このように電池の高エネルギー密度化の観点から、充電電圧を高めることが望まれているが、従来の二次電池では、正極上での電解液の分解が加速されてしまうため、良好なサイクル特性が得ることが困難であった。こうした現状から、充電電圧を高めた場合においても、優れたサイクル特性を示す非水電解質二次電池の開発が望まれている。
【0005】
特許文献1には、マンガン酸リチウムを活物質とする正極の結着剤として、カルボキシメチルセルロースとブタジエン共重合体とを混合して用いることが記載されている。同文献では、電解液の溶媒として、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶媒を用いている(段落〔0053〕)。
また、特許文献2では、コバルト酸リチウムを活物質とする正極を用いたリチウムイオン二次電池の電解液として、所定の溶媒を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-192034号公報
【特許文献2】国際公開第2019/088097号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の従来のリチウムイオン二次電池は、充電電圧を高めた場合においても、優れたサイクル特性を示すという点で十分なものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の[1]~[8]を提供する。
[1]リチウム及びコバルトを含む複合酸化物を含む正極活物質と、スチレンブタジエンゴム(以下「SBR」ともいう。)及びカルボキシメチルセルロース若しくはその塩(以下「CMC」ともいう。)との混合物とを含む正極と、
下記式(I)で表されるフッ素化溶媒を含む非水電解液を有する、リチウムイオン二次電池。
【化1】
(但し、R1は炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数1~10のハロゲン化アルキル基、又はフェニル基である。)
[2] 式(I)で表されるフッ素化溶媒が、メチル3,3,3-トリフルオロプロピオネートである、[1]に記載のリチウムイオン二次電池。
[3] 非水電解液の全溶媒体積中、式(I)で表されるフッ素化溶媒の割合が10体積%以上である、[1]又は[2]に記載のリチウムイオン二次電池。
[4] リチウム及びコバルトを含む複合酸化物がLiCoO2である、[1]又は[2]に記載のリチウムイオン二次電池。
[5] 金属リチウムを負極活物質とする負極を有する、[1]又は[2]に記載のリチウムイオン二次電池。
[6] 前記正極において、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロース若しくはその塩の質量比が1:1~5であり、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロース若しくはその塩の合計量は、リチウム及びコバルトを含む複合酸化物を100質量部としたときに1~4質量部である、[1]又は[2]に記載のリチウムイオン二次電池。
[7] 25℃、充電電圧4.5V、放電電圧2.5V、及び、正極活物質の質量当たりの電流25mA/gの条件で50サイクルの充放電を行った後の放電容量と、同条件で最大となる放電容量との比から求められる容量保持率が、90%以上である[1]又は[2]に記載のリチウムイオン二次電池。
[8] 金属リチウム基準にて4.4V以上の充電終止電圧で充放電させて用いられる、[5]に記載のリチウムイオン二次電池。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例1と比較例1のリチウムイオン二次電池のサイクル数と放電容量/平均放電電圧との関係を示すグラフである。
図2図2は、比較例2及び3のリチウムイオン二次電池のサイクル数と放電容量/平均放電電圧との関係を示すグラフである。
図3図3は、実施例1~4、比較例1のリチウムイオン二次電池のサイクル数と放電容量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内で、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0011】
以下、本発明のリチウムイオン二次電池について説明する。本発明のリチウムイオン二次電池は、リチウム及びコバルトを含む複合酸化物を含む正極活物質と、スチレンブタジエンゴム及びカルボキシメチルセルロースの混合物とを含む正極と、下記式(I)で表されるフッ素化溶媒を含む非水電解液とを有する。
【0012】
[1]電解液
(溶媒)
リチウムイオン二次電池に使用される電解液は非水溶媒に電解質を溶解させて得られる。非水溶媒には、広い電位窓、低粘性、リチウム塩の溶解性等の種々の特性が求められ、る。本発明者は、式(I)で表されるフッ素化溶媒は、イオン伝導度が低く、低配位性の極性溶媒であり、耐酸化性及び低粘度のバランスに優れ、SBR及びCMCの混合物である水系バインダを正極に用いた場合において、高電圧条件でのサイクル特性を求めるリチウムイオンに用いる非水電解液に特に適していることを見出した。
本発明では、式(I)で表されるフッ素化溶媒を用いることで、上記水系バインダを正極に適用することによるサイクル特性向上効果を一層優れたものとし、相乗的に高電圧条件でのサイクル特性を向上させることができる。これに対し、従来の溶媒では、上記水系バインダを用いてもなお、高電圧条件での運転では十分なサイクル特性向上効果が得られない場合があった。
本発明において上記効果が得られる理由としては、発明者は正極を高電圧作動させた場合でも安定な被膜を形成することで、材料の表面を安定化させるのではないかと考えている。特に上記式(I)のフッ素化溶媒は、負極活物質がリチウム金属である負極と組み合わせて用いることが、本発明の効果に優れるため好ましい。
【0013】
【化2】
(但し、R1は炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数1~10のハロゲン化アルキル基、又はフェニル基である。)
【0014】
1で表される炭素原子数1~10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等の直鎖状アルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、2,2-ジメチルプロピル基、1-エチルブチル基、1,1,3,3-テトラメチルブチル基、2-エチルヘキシル基等の分岐状アルキル基、シクロプロピル基、シクロプロピルメチル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基等が挙げられる。
【0015】
1で表される炭素原子数1~10のハロゲン化アルキル基としては、例えば上記のR1等で表されるフッ素化されていないアルキル基の水素原子の1以上がフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子に置換された基が挙げられる。例えばハロゲン原子がフッ素の場合は、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、フルオロエチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基等が挙げられる。
【0016】
1としては、炭素原子数1~10のアルキル基又はフェニル基が好ましく、とりわけ、炭素原子数1~4のアルキル基又はフェニル基がより好ましく、中でも、炭素原子数1~3のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基が更に一層好ましく、メチル基が最も好ましい。R1がメチル基である化合物は、メチル3,3,3-トリフルオロプロピオネートであり、以下、当該化合物を「FMP」ともいう。
【0017】
非水電解液中の全溶媒体積中、式(I)で表されるフッ素化溶媒の体積割合は、10体積%以上であることが、当該フッ素化溶媒による耐酸性効果及び電池特性の点で好ましい。この観点から、非水電解液中の全溶媒体積中、式(I)で表されるフッ素化溶媒の体積割合は、30体積%以上であることがより好ましく、50体積%以上が更に好ましく、70体積%以上であることが更に一層好ましく、90体積%以上であることが特に好ましく、なかでも95体積%超であることが好ましく、97体積%以上であることがとりわけ好ましく、100体積%であることが最も好ましい。
なお、本明細書中の体積比率は、25℃におけるものを指す。
【0018】
本発明で用いる非水電解液は、式(I)で表されるフッ素化溶媒以外に他の溶媒成分を含有できる。そのような他の溶媒成分としては、エステル化合物、エーテル化合物、スルホン化合物、リン酸誘導体やホスホン酸誘導体、ニトリル化合物等が挙げられ、非フッ素化溶媒とフッ素化溶媒のいずれを用いてもよい。
【0019】
本明細書中、エステル化合物は、-CO-O-基を含有する化合物であり、例えば、下記一般式(1)~(3)のいずれかで表される化合物が挙げられる。
【0020】
【化3】
(R2は、フッ素化されているか若しくはフッ素化されていないアルキル基、又は、フッ素化されているか若しくはフッ素化されていないアルコキシ基を表す。R3は、フッ素化されているか若しくはフッ素化されていないアルキル基を表す。但し、式(I)で表されるフッ素化溶媒を除く。)
【0021】
【化4】
(R11、R12、R13及びR14は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、又は、フッ素化されているか若しくはフッ素化されていないアルキル基を表す。nは1又は2を示し、R13及びR14が複数存在する場合、同一であってもよく異なっていてもよい。)
【0022】
【化5】
(R21、R22、R23、R24、R25及びR26は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、又は、フッ素化されているか若しくはフッ素化されていないアルキル基を表す。mは1又は2を示し、R23及びR24が複数存在する場合、同一であってもよく異なっていてもよい。)
【0023】
2、R3、R11、R12、R13、R14、R21、R22、R23、R24、R25及びR26で表されるフッ素化されていないアルキル基としては、R1で挙げたアルキル基と同様の基が挙げられる。なかでも、炭素原子数1~4のアルキル基が好ましく、炭素原子数1~3のアルキル基がより好ましく、炭素原子数1~2のアルキル基が更に好ましい。なかでも、直鎖状アルキル基が好ましい。特に好ましいものとしては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基等が挙げられ、メチル基、エチル基が最も好ましい。
【0024】
2、R3、R11、R12、R13、R14、R21、R22、R23、R24、R25及びR26で表されるフッ素化されているアルキル基としては、例えば上記のR2等で表されるアルキル基の水素原子の1以上がフッ素原子に置換された基が挙げられ、例えば、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、フルオロエチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基等が挙げられる。これらのフッ素化されているアルキル基の中でも、炭素原子数1~4の基が好ましく、炭素原子数1~3の基がより好ましく、とりわけ、炭素原子数1~2の基が好ましい。
【0025】
2で表されるフッ素化されていない若しくはフッ素化されているアルコキシ基としては、例えば上記のR2等で表されるフッ素化されていない若しくはフッ素化されているアルキル基の結合手に酸素原子が結合したアルコキシ基が挙げられる。これらのフッ素化されていない若しくはフッ素化されているアルコキシ基の中でも、炭素原子数1~12の基が好ましく、とりわけ、炭素原子数1~2の基が好ましい。置換基中に複数のエーテル結合が含まれていても良い。
【0026】
式(1)で表される化合物は、鎖状エステルともいわれる。式(1)で表される化合物としては、低粘性として非水電解液電池の出力特性を高める点から、炭素原子数が3以上6以下のものが好ましく、3以上5以下のものがより好ましく、3以上4以下のものが特に好ましい。具体的な化合物としては以下のものが挙げられる。
式(1)で表される非フッ素化鎖状エステルとしては、ジメチルカーボネート(以下「DMC」と記載する場合がある。)、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、及びエチルプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート;ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、及び酪酸ブチル等の鎖状カルボン酸エステルやこれらの化合物中の水素原子がフッ素原子に置換されたもの等が挙げられ、電位窓や粘性等の点から、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等が代表的である。
【0027】
式(2)又は式(3)で表される化合物は、環状エステルともよばれる。
式(2)で表される化合物としては、炭素原子数3以上10以下のものが好ましく、特に炭素原子数3以上4以下のものが好ましい。具体的な化合物としては以下のものが挙げられる。
式(2)で表される非フッ素化環状エステルとしては、エチレンカーボネート(以下、ECという場合もある)、プロピレンカーボネート及びブチレンカーボネート等の環状カーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等が挙げられ、電位窓や非水電解質の導電率を高めるために高誘電率溶媒である点からエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ-ブチロラクトンが代表的である。
【0028】
式(3)で表される化合物としては、炭素原子数3以上10以下のものが好ましく、特に炭素原子数4以上6以下のものが好ましい。具体的な化合物としてはγ-ブチロラクトン、2-メチル-γ-ブチロラクトン、3-メチル-γ-ブチロラクトン、4-メチル-γ-ブチロラクトン、β-プロピオラクトン、及びδ-バレロラクトンやこれらのラクトンの1以上の水素原子がフッ素原子に置換されたものが挙げられる。
【0029】
上記のエーテル化合物としては、具体的な化合物としては以下のものが挙げられる。
非フッ素化溶媒としては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、及び1,2-ジブトキシエタンが挙げられる。
フッ素化溶媒としては、1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、1,1,2,2-テトラフルオロエチル(2,2,3,3テトラフルオロプロピル)エーテル、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルフルオロメチルエーテル、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルトリフルオロメチルエーテル、4,4,4,3,3,2,2-ヘプタフルオロブチルジフルオロメチルエーテル、4,4,3,2,2-ペンタフルオロブチル(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル、メチルノナフルオロブチルエーテル、エチルノナフルオロブチルエーテル、ジフルオロメチル(1,1,1-トリフルオロエチル)エーテル、1,1,2,2-テトラフルオロエチル(3,3,3-トリフルオロエチル)エーテル及びジフルオロメチル(1,1,1,2-テトラフルオロエチル)エーテル、(2-トリフルオロメチル-2,3,3,3-テトラフルオロプロピル)メチルエーテル、1-(2-フルオロエトキシ)-2-メトキシエタン、1-(2,2-ジフルオロエトキシ)-2-メトキシエタン、1-メトキシ-2-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エタン、1-エトキシ-2-(2-フルオロエトキシ)エタン、1-(2,2-ジフルオロエトキシ)-2-エトキシエタン、1-エトキシ-2-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エタン等が挙げられる。
【0030】
上記のリン酸誘導体又はホスホン酸誘導体としては、具体的な化合物としては以下のものが挙げられる。
非フッ素化リン酸誘導体としては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリス(2-クロロエチル)、リン酸トリプロピル、リン酸トリイソプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリヘキシル、リン酸トリフェニル、リン酸トリトリル、リン酸メチルエチレン、及びリン酸エチルエチレンが挙げられる。
フッ素化リン酸誘導体又はフッ素化ホスホン酸誘導体としては、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)、リン酸トリス(1,1,2,2-テトラフルオロエチル)、リン酸トリス(ヘキサフルオロ-イソプロピル)、(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)リン酸ジメチル、ビス(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)リン酸メチル、及びリン酸トリス(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)、リン酸トリス(4-フルオロフェニル)及びリン酸ペンタフルオロフェニル、トリフルオロメチルホスホン酸ジメチル,トリフルオロメチルジ(トリフルオロメチル)ホスホン酸塩、(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)ホスホン酸ジメチル、フェニルジ(トリフルオロメチル)ホスホン酸塩及び4-フルオロフェニルホスホン酸ジメチル等が挙げられる。
【0031】
上記のスルホン化合物としては、具体的には、ジメチルスルホン及びエチルメチルスルホン等の非フッ素化スルホン、メチルトリフルオロメチルスルホン、エチルトリフルオロメチルスルホン、メチルペンタフルオロエチルスルホン、及びエチルペンタフルオロエチルスルホン等の部分的にフッ素化されたスルホン、ならびにジ(トリフルオロメチル)スルホン、ジ(ペンタフルオロエチル)スルホン、トリフルオロメチルペンタフルオロエチルスルホン、トリフルオロメチルノナフルオロブチルスルホン、及びペンタフルオロエチルノナフルオロブチルスルホン等が挙げられる。
【0032】
上記のニトリルとしては、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、スクシノニトリル、アジポニトリル等が挙げられる。
【0033】
溶媒としてその他のものとして、イオン液体や、炭化水素、芳香族炭化水素、フッ素化炭化水素、フッ素化芳香族炭化水素等の上記で挙げていない溶媒を用いてもよい。
【0034】
式(I)で表されるフッ素化溶媒以外のその他の溶媒の中でも、エステル化合物を用いることが式(I)で表されるフッ素化溶媒を用いることによるサイクル特性向上効果を工業的に実現しやすいという観点で好ましい。
【0035】
本発明で用いる非水電解液において、式(1)で表されるエステル化合物、又は、式(2)若しくは(3)で表されるエステル化合物を含有する場合、その割合は、非水電解液を占める全溶媒中、式(I)、式(1)、式(2)及び式(3)のいずれでも表されない化合物の割合が75体積%以下となる量であることが好ましく、50体積%以下となる量であることが更に好ましく、25体積%以下となる量であることがより好ましく、10体積%以下であることが更に一層好ましい。
【0036】
また、式(1)で表されるエステル化合物と、式(2)又は式(3)で表されるエステル化合物とを併用する場合は、前者:後者の体積比率が100:240以下であることが好ましく、100:100以下であることがより好ましく、100:43以下であることが一層好ましく、100:12以下が更に一層好ましく、100:5以下が特に好ましく、100:3以下がとりわけ好ましい。式(2)又は式(3)で表されるエステル化合物としては、特に式(2)で表される化合物が好適である。
【0037】
(電解質)
リチウム電解質としては4フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)や6フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、リチウムビス(フルオロスルホニル)アミド(LiFSA)、リチウムビス(トリフルオロスルホニル)アミド(LiTSFA)が好適に挙げられ、耐酸性やイオン伝導性の点から、6フッ化リン酸リチウム(LiPF6)が好ましい。電解質の濃度は、電解液を構成する溶媒中、例えば0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2.0mol/L以下であることがより好ましく、0.7mol/L以上1.3mol/L以下であることが最も好ましい。
【0038】
(その他の添加剤)
非水電解液中、溶媒及び電解質以外のその他の添加剤は非水電解液に添加することでリチウムイオン二次電池の特性を改善できることから非常に多くの種類が提案されている。通常はその添加量は例えば5質量%以下と少ない。
【0039】
[2]正極
正極は、通常、正極集電体、正極活物質層からなる。正極活物質層は、正極活物質を含むいわゆる正極合材から形成され、必要に応じて導電補助剤、結着剤、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0040】
(正極活物質)
本発明において正極活物質は、リチウム及びコバルトを含む複合酸化物を必須とし、これにより高電圧条件において優れたサイクル特性を得ることができる。リチウム及びコバルトを含む複合酸化物としては層状のα-NaFeO2型結晶構造を有する化合物が好適である。本発明で用いるリチウム及びコバルトを含む複合酸化物としては例えば、一般組成式(x)で表されるものを採用することが出来る。
LixCoyzw(x)
〔前記一般式(x)中、Mは、Al、Mg、Ni、Mn、Na、Fe、Cu、Zr、Ti、Bi、Ca、F、P、Sr、W、Ba、Nb、Si、Zn、Mo、V、Sn、Sb、Ta、Ge、Cr、K、SおよびErよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0.9<x≦1.3、0<y≦1、0≦z<1、2≦w≦4である。〕
リチウム及びコバルトを含む複合酸化物として好適な例としては、以下のものが挙げられる。
・LixCoO2(xは式(x)と同じである。) (式(x1)
・LixNiw-(y+z1+x)CoyMnz1w(ただし、x=0.9~1.2、w=2.0~2.3、y=0.05超0.9以下、z1=0~0.9であり、かつ、y+z1=0.05~0.9であり、且つw-(y+z1+x)は0.05以上である。)(式(x2))
・LixNi1-(y+z2)CoyMnz2w(ただし、x=0.9~1.3、w=2.0~4.0、y=0.05超0.9以下、z2=0~0.9であり、かつ、y+z2=0.05~0.9である。但し、式(x1)に該当するものを除く)(式(x3))
【0041】
式(x2)又は式(x3)で表されるリチウム及びコバルトを含む複合酸化物の具体例としては、LiNi1/3Co1/3Mn1/32、LiNi0.5Co0.2Mn0.32、LiNi0.6Co0.2Mn0.22、LiNi0.8Co0.1Mn0.12、LiCoO2、Li1.2CoO2、Li1.3Co0.15Ni0.8Al0.052、Li1.3Mn1.5Ni0.54、Li1.2Co0.21Ni0.16Mn0.432、Li1.2Co0.13Ni0.13Mn0.542等が挙げられる。
【0042】
中でも本発明において、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロースとを含む正極バインダと、式(I)で表されるフッ素化溶媒との相乗的なサイクル向上効果に優れる点から、LixCoO2で表される複合酸化物が好ましく、LiCoO2が最も好ましい。
【0043】
正極活物質は、一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
正極活物質におけるリチウム及びコバルトを含む複合酸化物の割合は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましい。リチウム及びコバルトを含む複合酸化物以外の正極活物質としては、LixMnO3,LixMn24,LixNiαMn(2-α)4等)、LiwMex(XOyz(Meは少なくとも一種の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、V等を表す)で表されるポリアニオン化合物(LiFePO4,LiMnPO4,LiNiPO4,Li32(PO43,Li2MnSiO4等)が挙げられる。
【0044】
(その他)
正極は、スチレンブタジエンゴムと、カルボキシメチルセルロース若しくはその塩と、を少なくとも含む。これらは結着剤としての役割を果たす。
【0045】
スチレンブタジエンゴムには乳化重合スチレンブタジエンゴム、溶液重合スチレンブタジエンゴムの二種類がある。乳化重合スチレンブタジエンゴムは、ラテックス状で得られる。溶液重合スチレンブタジエンゴムの中にはスチレンとブタジエンの共重合様式によって、ランダム型、ブロック型、対称ブロック型等がある。また、スチレン組成比が多く、ガラス転移点(Tg)の高いハイスチレンゴムもある。さらに、不飽和カルボン酸や不飽和ニトリル化合物、アクリレート化合物、アクリルアミド等を共重合させた変性スチレンブタジエンゴムもある。
【0046】
その中でも本発明においては水系処方で用いることから、乳化重合や溶液重合で得られるスチレンブタジエンゴムを水に分散させた水分散液を好適に用いることができることができる。スチレンブタジエンゴムとしては、とりわけ機械的安定性や接着力が向上する点から、カルボキシ基で変性されたスチレンブタジエンゴムが好ましい。スチレンブタジエンゴムのスチレン含量(全単量体100%)は通常10~70質量%であり、15~65質量%である場合もある。スチレンブタジエンゴムのブタジエン含量(全単量体100質量%)は通常5~85質量%であり、10~70質量%である場合もある。
限定されるものではないが、水分散液中のスチレンブタジエンゴムの数平均粒子径は0.4μm以下、より好ましくは0.35μm以下、更に好ましくは0.05μm~0.3μmが好ましい。
ブチレンブタジエンゴムの数平均粒子径は、水分散液を染色後、透過型電子顕微鏡写真を撮影して、粒子500個以上の直径を計測することにより求められる。計測には画像解析処理を用いることができる。染色には四酸化オスミウムを用いることができる。
【0047】
本発明においてはカルボキシメチルセルロースの塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニア塩等が挙げられ、ナトリウム塩であることが正極での電解液の浸透性が良く、高温保存時における電池膨れを抑制できる点で好ましい。
【0048】
本発明において、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロース若しくはその塩とを分離状態ではなく、混合状態として用いることで、電極の適度な機械的強度につながるといった利点を有する。またスチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロース若しくはその塩との混合物はリチウム及びコバルトを含む複合酸化物と混合状態で存在していることでコバルトの表面を部分的に被覆し電解液分解を抑制するといった利点を有する。
【0049】
本発明においてスチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロース若しくはその塩の質量比は、1:1~5であることが好ましい。この範囲内であることで、特に優れたサイクル特性向上効果が得られる。特に好ましくは、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロース若しくはその塩の質量比は1:1.0~4.0である。
また、本発明において、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロース若しくはその塩の合計量は、リチウム及びコバルトを含む複合酸化物を100質量部としたときに1~4質量部であることが特に優れたサイクル特性向上効果が得られる点で好ましく、1.0~3.0質量部であることが特に好ましい。
正極における正極活物質の割合は80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましい。
【0050】
正極活物質を含む正極活物質層には、インピーダンスを低下させる目的で、導電補助剤を添加してもよい。導電補助剤としては、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素質微粒子が挙げられる。導電補助剤は、通常正極活物質100質量部に対し、0.1~30質量部が好適であり、3~20質量部の量でより好適に用いられ、5~15質量部が特に好ましい。
【0051】
[3]負極
負極は、負極集電体、負極活物質層からなる。負極活物質層は、負極活物質を含むいわゆる負極合材から形成され、必要に応じて導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。負極活物質としては、例えば金属リチウム、炭素材料(黒鉛、非晶質炭素、ダイヤモンド状炭素、カーボンナノチューブ等)、ケイ素(Si)、Sn等のLi以外の金属又は半金属(Al、Si、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、La、又はこれらの2種以上の合金)、Si酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物、ポリリン酸化合物等が挙げられるが、本発明では、電池容量の観点から、金属リチウムを用いることが好ましい。
【0052】
負極用結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合ゴム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド等を用いることができる。
【0053】
負極集電体としては、電気化学的な安定性から、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、及びそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。その形状としては、箔、平板状、メッシュ状が挙げられる。つまり、負極基材としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。
【0054】
[4]セパレータ
セパレータとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、アラミド等の多孔質フィルムや不織布を用いることができる。これらの樹脂を複合してもよい。また、セパレータとしては、それらを積層したものを用いることもできる。なお、セパレータと電極との間に、無機層が配設されていても良い。
【0055】
[5]外装体
外装体としては、電解液に安定で、かつ十分な水蒸気バリア性を持つものであれば、適宜選択することができ、本発明に係る非水電解液電池の構成については特に限定されるものではなく、コイン状、円筒状、角形、アルミラミネートシート型等の形状の非水電池が組み立てられる。
【0056】
[6]その他特性
【0057】
本発明のリチウムイオン二次電池は金属リチウム基準で4.4V以上の充電終止電圧で充放電させて用いられることが好ましく、4.5V以上の充電終止電圧で充放電させて用いられることがより好ましい。リチウム及びコバルトを含む複合酸化物を正極活物質に用い、且つ金属リチウムを負極活物質に用いる場合、リチウム及びコバルトを含む複合酸化物がLixCoO2である場合は、材料の表面が不安定化することが原因で、またリチウム及びコバルトを含む複合酸化物がMn及び/又はNiを含有したりLi過剰である場合、充放電時の酸素の脱離が原因で、放電電圧の低下と放電容量の低下が起こりやすい。しかし、本発明では、そのような場合であっても、放電電圧の低下と放電容量の低下の抑制を図ることができる。
【0058】
本発明のリチウムイオン二次電池は、25℃、充電電圧4.5V、放電電圧2.5V、及び、正極活物質の質量当たりの電流25mA/gの条件で50サイクルの充放電を行った後の放電容量と、同条件で最大となる放電容量との比から求められる容量保持率が、90%以上であることが好ましく、95%以上であることが好ましい。同条件で最大となる放電容量とは、当該50サイクルを行ったときの各サイクルの充放電での放電容量中、最大の放電容量をさし、通常1サイクル目の放電容量である。特に正極活物質がLiCoO2である場合に上記容量保持率が得られることが好ましい。
【0059】
また、本発明のリチウムイオン二次電池は、25℃、充電電圧4.8V、放電電圧2.0V、及び、正極活物質の質量当たりの電流25mA/gの条件で50サイクルの充放電を行った後の放電容量と、同条件で最大となる放電容量との比から求められる容量保持率が、90%以上であることが好ましく、93%以上であることが好ましい。特に正極活物質がLiCoO2である場合に上記容量保持率が得られることが好ましい。
【0060】
本発明のリチウムイオンイオン二次電池は、上記の各条件で50サイクルの充放電を行った場合に50サイクル目まで連続して1サイクル目に対する放電容量に対する割合が90%を維持することが好ましい。
【0061】
本発明の効果を一層優れたものとする点から、作動温度は、10℃以上40℃以下が好ましく、20℃以上30℃以下がより好ましい。
【実施例0062】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、表1の配合量の単位は質量部である。
【0063】
<実施例1>
(正極の作成)
正極活物質として、LiCoO2 80.0質量部、導電剤としてのアセチレンブラック10質量部、カルボキシメチルセルロースナトリウム1.5質量部を乳鉢にて十分混合した。続いて、スチレンブタジエンゴム0.5質量部を含む水分散体(日本エイアンドエル株式会社 AL-3001A、カルボキシ基で変性されたスチレンブタジエンゴム、乳化重合にて得られたラテックス状)及び純水を混合してスラリー化した。得られた正極用組成物を、集電体として厚さ10μmのアルニミウム箔に塗布し、80℃で2時間真空乾燥後、120℃で1時間真空乾燥し、室温でプレスして、直径10mmで打抜き、塗工層の厚みが100μm(片面あたり)の正極を得た。
【0064】
(電池の作製)
前述のように作成した打ち抜き後の正極シート、多孔質ポリプロピレンセパレータ、負極としての金属リチウム箔の順で積層し、電池缶内にFMPからなる溶媒に1mol/lとなるように六フッ化リン酸リチウムを溶解した電解液を充填し、コインセル電池を作成した。
【0065】
<比較例1>
FMPに換えて、容量比が3:7であるエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶媒を用いた。その点以外は実施例1と同様にしてコインセル電池を作成した。
【0066】
<比較例2>
カルボキシメチルセルロースナトリウム1.5質量部及びスチレンブタジエンゴム0.5質量部を含む水分散体の代わりに、ポリフッ化ビニリデン5質量部を含むN-メチルピロリドン溶液を使用し、純水の代わりにN-メチルピロリドンで混合した。その点以外は実施例1と同様としてコインセル電池を作成した。
【0067】
<比較例3>
カルボキシメチルセルロースナトリウム1.5質量部及びスチレンブタジエンゴム0.5質量部を含む水分散体の代わりに、ポリフッ化ビニリデン5質量部を含むN-メチルピロリドン溶液を使用し、純水の代わりにN-メチルピロリドンで混合した。その点以外は比較例1と同様としてコインセル電池を作成した。
【0068】
<実施例2>
FMP100%の代わりに、FMPと、容量比が3:7であるエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶媒との容量比が50:50のものを用いた。その点以外は実施例1と同様にしてコインセル電池を作成した。
【0069】
<実施例3>
FMP100%の代わりに、FMPと、容量比が3:7であるエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶媒との容量比が25:75のものを用いた。その点以外は実施例1と同様にしてコインセル電池を作成した。
【0070】
<実施例4>
FMP100%の代わりに、FMPと、体積比が3:7であるエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶媒との体積比が10:90のものを用いた。その点以外は実施例1と同様にしてコインセル電池を作成した。
【0071】
実施例1~4、比較例1~3について以下の評価に供した。
(充放電サイクル特性1)
上記の方法で得られたコインセル電池を用いて30℃の恒温槽内で4.5Vまで充電し、LiCoO2の質量当たりの電流25mA/gで、2.5Vまで放電する工程を50サイクル繰り返した。下記の式により容量保持率及び放電電圧保持率を計算した。
容量保持率及び放電電圧保持率の数値が大きいほうが、サイクル特性が良好である。
容量保持率(%)={(50サイクル目の放電容量)/(1サイクル目の放電容量)}×100
放電電圧保持率(%)={(50サイクル目の平均放電電圧)/(1サイクル目の平均放電電圧)}×100
また実施例1~4と比較例1~3についてサイクル数と容量、平均放電電圧との関係を示すグラフを図1~3として示す。
【0072】
【表1】
【0073】
図1及び図2及び表1の通り、FMPとSVR/CMCとを併用することで相乗的に容量保持率及び放電電圧保持率を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のリチウムイオン二次電池は高電圧作動時の可逆性に優れ、サイクル特性に優れることから産業上有用である。
図1
図2
図3