(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080475
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】診断システム、診断方法、および診断プログラム
(51)【国際特許分類】
F16T 1/48 20060101AFI20240606BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20240606BHJP
G01M 13/00 20190101ALI20240606BHJP
【FI】
F16T1/48 D
G05B23/02 T
F16T1/48 C
G01M13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193701
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000133733
【氏名又は名称】株式会社テイエルブイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】時岡 良宜
【テーマコード(参考)】
2G024
3C223
【Fターム(参考)】
2G024AA01
2G024AD33
2G024BA27
2G024CA13
2G024CA17
2G024FA06
2G024FA15
3C223AA01
3C223BA03
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB01
3C223EB02
3C223FF22
3C223FF26
3C223GG01
3C223HH02
(57)【要約】
【課題】蒸気トラップの診断の精度を高める。
【解決手段】物理量を測定可能な測定装置と、表示装置と、演算装置と、記憶装置と、を備え、演算装置が、蒸気トラップの使用条件に関する条件変数および物理量を含む説明変数と、当該蒸気トラップに対する診断員による診断結果を含む目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて学習済みモデルを生成するモデル生成機能と、学習済みモデルを用いて、診断対象の蒸気トラップに係る条件変数および物理量を含む説明変数から、当該蒸気トラップに係る目的変数の推定値を出力する推定機能と、条件変数に基づいて選択される所定の判断フローに物理量を入力して得られる判定結果を出力する判定機能と、推定値と判定結果とを表示装置に同時に表示させる表示機能と、を実現することができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理量を測定可能な測定装置と、表示装置と、演算装置と、記憶装置と、を備え、
前記演算装置が、
前記記憶装置に蓄積されている、蒸気トラップの使用条件に関する変数である条件変数および当該蒸気トラップについて測定された物理量を含む説明変数と、当該蒸気トラップに対する診断員による診断の結果である診断結果を含む目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成機能と、
前記学習済みモデルを用いて、診断対象の蒸気トラップに係る条件変数および前記測定装置を用いて当該蒸気トラップについて測定した物理量を含む説明変数から、当該蒸気トラップに係る前記目的変数の推定値を出力する推定機能と、
前記条件変数に基づいて選択される所定の判断フローに前記物理量を入力して得られる判定結果を出力する判定機能と、
前記推定値と前記判定結果とを前記表示装置に同時に表示させる表示機能と、を実現することができる診断システム。
【請求項2】
前記モデル生成機能において、前記蒸気トラップの作動原理ごとに異なる学習済みモデルを生成し、
前記推定機能において、診断対象の蒸気トラップの作動原理に対応する前記学習済みモデルを用いて前記推定値を出力する請求項1に記載の診断システム。
【請求項3】
前記測定装置、前記表示装置、前記演算装置としての端末側演算装置、および通信装置を含む診断端末と、前記演算装置としてのサーバ側演算装置、および前記記憶装置を含むサーバ装置と、を備え、
前記端末側演算装置および前記サーバ側演算装置が、互いに情報を送受信する送受信機能を実現することができ、
前記サーバ側演算装置が、前記モデル生成機能を実現することができ、
前記端末側演算装置が、前記推定機能、前記判定機能、および前記表示機能を実現することができる請求項1に記載の診断システム。
【請求項4】
前記診断端末が、前記測定装置、前記表示装置、および、前記端末側演算装置としての第一端末側演算装置、を有する測定装置と、前記通信装置、および、前記端末側演算装置としての第二端末側演算装置、を有するコンピュータと、を有し、
前記第一端末側演算装置が、前記推定機能および前記判定機能を実現することができ、
前記第二端末側演算装置が、前記送受信機能を実現することができる請求項3に記載の診断システム。
【請求項5】
前記演算装置が、
前記推定値の出力に使用された前記説明変数と、前記推定値を参照した診断員による、診断対象の蒸気トラップに対する診断の結果である診断結果を含む目的変数と、の組を前記教師データに加えて学習済みモデルを再生成するモデル更新機能をさらに実現することができる請求項1に記載の診断システム。
【請求項6】
前記教師データが、前記診断員の個人識別情報をさらに含む請求項1~5のいずれか一項に記載の診断システム。
【請求項7】
蒸気トラップの使用条件に関する変数である条件変数および当該蒸気トラップについて測定された物理量を含む説明変数と、当該蒸気トラップに対する診断員による診断の結果である診断結果を含む目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成工程と、
前記学習済みモデルを用いて、診断対象の蒸気トラップに係る条件変数および当該蒸気トラップについて測定した物理量を含む説明変数から、当該蒸気トラップに係る前記目的変数の推定値を出力する推定工程と、
前記条件変数に基づいて選択される所定の判断フローに前記物理量を入力して得られる判定結果を出力する判定工程と、
前記推定値と前記判定結果とを同時に表示する表示工程と、を備える診断方法。
【請求項8】
前記推定値および前記判定結果に基づいて診断員が診断対象の蒸気トラップに対する診断を行う人為診断工程をさらに備える請求項6に記載の診断方法。
【請求項9】
コンピュータによって実行されたときに、
蒸気トラップの使用条件に関する変数である条件変数および当該蒸気トラップについて測定された物理量を含む説明変数と、当該蒸気トラップに対する診断員による診断の結果である診断結果を含む目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成機能と、
前記学習済みモデルを用いて、診断対象の蒸気トラップに係る条件変数および当該上記トラップについて測定した物理量を含む説明変数から、当該蒸気トラップに係る前記目的変数の推定値を出力する推定機能と、
前記条件変数に基づいて選択される所定の判断フローに前記物理量を入力して得られる判定結果を出力する判定機能と、
前記推定値と前記判定結果とを同時に表示する表示工程と、を実現させる診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気トラップを診断する診断システム、診断方法、および診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
化学プラント等の施設において、動力や熱源などとして利用する目的で蒸気が利用されており、当該施設には蒸気を供給するための蒸気ラインが敷設されている。蒸気ラインに設置されている蒸気トラップは、蒸気ラインに溜まったドレンを排出する役割を果たすものであり、その正常な動作は蒸気ラインの正常な運用のために欠くことができないものである。
【0003】
蒸気ラインは施設の定期整備等の機会を除いて連続的に運用されていることが通常であるため、蒸気トラップを含む構成要素について、蒸気ラインの運転を停止した状態での検査や診断等を行うことが困難である。そこで、運転中の蒸気トラップに係る物理量を測定し、その測定値に基づいて蒸気トラップの状態を診断する技術が種々提案されている。
【0004】
たとえば特開2019-219036号公報(特許文献1)には、温度センサおよび振動センサからの信号と、所定の診断基準と、に基づいて蒸気トラップの診断を行う診断装置が開示されている。また、特表2010-515001号公報(特許文献2)には、温度等に応答して発電する発電機の電力を利用して蒸気トラップを監視する監視装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-219036号公報
【特許文献2】特表2010-515001号公報(または国際公開第2008/088539号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
蒸気トラップの不具合の全てが物理量の変化に明確に現れるわけではない等の事情により、物理量の測定を通じて蒸気トラップの検査、診断、監視等を行おうとする試みは、不完全である場合があった。そのため、特許文献1および特許文献2に開示されている類の装置を診断員による人為的な判断と組合せて最終的な診断を下すことが広く行われていた。しかしこの場合は、正しい診断結果を得るためには診断員の高い熟練度を要する場合があり、診断員の育成が必要だった。
【0007】
そこで、蒸気トラップの診断の精度を高めうる診断システム、診断方法、および診断プログラムの実現が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る診断システムは、物理量を測定可能な測定装置と、表示装置と、演算装置と、記憶装置と、を備え、前記演算装置が、前記記憶装置に蓄積されている、蒸気トラップの使用条件に関する変数である条件変数および当該蒸気トラップについて測定された物理量を含む説明変数と、当該蒸気トラップに対する診断員による診断の結果である診断結果を含む目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成機能と、前記学習済みモデルを用いて、診断対象の蒸気トラップに係る条件変数および前記測定装置を用いて当該蒸気トラップについて測定した物理量を含む説明変数から、当該蒸気トラップに係る前記目的変数の推定値を出力する推定機能と、前記条件変数に基づいて選択される所定の判断フローに前記物理量を入力して得られる判定結果を出力する判定機能と、前記推定値と前記判定結果とを前記表示装置に同時に表示させる表示機能と、を実現することができることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る診断方法は、蒸気トラップの使用条件に関する変数である条件変数および当該蒸気トラップについて測定された物理量を含む説明変数と、当該蒸気トラップに対する診断員による診断の結果である診断結果を含む目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成工程と、前記学習済みモデルを用いて、診断対象の蒸気トラップに係る条件変数および当該蒸気トラップについて測定した物理量を含む説明変数から、当該蒸気トラップに係る前記目的変数の推定値を出力する推定工程と、前記条件変数に基づいて選択される所定の判断フローに前記物理量を入力して得られる判定結果を出力する判定工程と、前記推定値と前記判定結果とを同時に表示する表示工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る診断プログラムは、コンピュータによって実行されたときに、蒸気トラップの使用条件に関する変数である条件変数および当該蒸気トラップについて測定された物理量を含む説明変数と、当該蒸気トラップに対する診断員による診断の結果である診断結果を含む目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成機能と、前記学習済みモデルを用いて、診断対象の蒸気トラップに係る条件変数および当該上記トラップについて測定した物理量を含む説明変数から、当該蒸気トラップに係る前記目的変数の推定値を出力する推定機能と、前記条件変数に基づいて選択される所定の判断フローに前記物理量を入力して得られる判定結果を出力する判定機能と、前記推定値と前記判定結果とを同時に表示する表示工程と、を実現させることを特徴とする。
【0011】
これらの構成によれば、診断員は、判断フローに基づく判定結果と、自身の五感を通じて得た情報と、に加えて、学習済みモデルに基づく推定値を参酌して、最終的な診断結果を決定できるので、蒸気トラップの正確な診断を行いやすくなる。すなわち、診断の精度を高めうる。
【0012】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0013】
本発明に係る診断システムは、一態様として、前記モデル生成機能において、前記蒸気トラップの作動原理ごとに異なる学習済みモデルを生成し、前記推定機能において、診断対象の蒸気トラップの作動原理に対応する前記学習済みモデルを用いて前記推定値を出力することが好ましい。
【0014】
この構成によれば、それぞれの作動原理の蒸気トラップに最適化した学習済みモデルが生成および使用されるので、診断の精度が一層高くなりうる。
【0015】
本発明に係る診断システムは、一態様として、前記測定装置、前記表示装置、前記演算装置としての端末側演算装置、および通信装置を含む診断端末と、前記演算装置としてのサーバ側演算装置、および前記記憶装置を含むサーバ装置と、を備え、前記端末側演算装置および前記サーバ側演算装置が、互いに情報を送受信する送受信機能を実現することができ、前記サーバ側演算装置が、前記モデル生成機能を実現することができ、前記端末側演算装置が、前記推定機能、前記判定機能、および前記表示機能を実現することができることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、特に演算負荷が大きいモデル生成工程を、演算処理能力が高い機器を採用しやすいサーバ装置において分担できるので、システム全体の演算処理負荷を適正化しやすい。また、診断端末を複数設ける場合に、その構成を簡素化しやすい。
【0017】
本発明に係る診断システムは、一態様として、前記診断端末が、前記測定装置、前記表示装置、および、前記端末側演算装置としての第一端末側演算装置、を有する測定装置と、前記通信装置、および、前記端末側演算装置としての第二端末側演算装置、を有するコンピュータと、を有し、前記第一端末側演算装置が、前記推定機能および前記判定機能を実現することができ、前記第二端末側演算装置が、前記送受信機能を実現することができることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、診断員の手元で必要な最低限の機能を測定端末に集約できるので、携行性に優れる装置を実現しやすい。
【0019】
本発明に係る診断システムは、一態様として、前記演算装置が、前記推定値の出力に使用された前記説明変数と、前記推定値を参照した診断員による、診断対象の蒸気トラップに対する診断の結果である診断結果を含む目的変数と、の組を前記教師データに加えて学習済みモデルを再生成するモデル更新機能をさらに実現することができることが好ましい。
【0020】
この構成によれば、診断員による診断結果をフィードバックして学習済みモデルを更新し、学習済みモデルの正答率を高めることができる。
【0021】
本発明に係る診断システムは、一態様として、前記教師データが、前記診断員の個人識別情報をさらに含むことが好ましい。
【0022】
この構成によれば、たとえば経験が豊富な診断員による診断結果のみを抽出して教師データに加えるなど、診断員の属性を考慮して学習済みモデルを更新できる。
【0023】
本発明に係る診断方法は、一態様として、前記推定値および前記判定結果に基づいて診断員が診断対象の蒸気トラップに対する診断を行う人為診断工程をさらに備えることが好ましい。
【0024】
この構成によれば、推定値および判定結果に加えて、診断員の五感に基づく判断を加味して、最終的な診断を下すことができる。
【0025】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施形態に係る診断システムの構成図である。
【
図3】実施形態に係る診断方法の手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係る診断システム、診断方法、および診断プログラムの実施形態について、図面を参照して説明する。以下では、本発明に係る診断システムを、蒸気トラップを診断する診断システム1に適用した例について説明する。
【0028】
〔診断システムの構成〕
本実施形態に係る診断システム1は、診断員が携行する診断端末2と、ネットワークNを経由して診断端末2と接続されるサーバ装置3と、を備える(
図1)。サーバ装置3は、CPU31(サーバ側演算装置の例である。)、記憶デバイス32、および通信デバイス33を有し、一般的なサーバ用コンピュータを使用可能である。なお、図示は省略するが、一つのサーバ装置3に複数の診断端末2が接続されうる。また、サーバ装置3には、本実施形態に係る診断プログラム(より詳細には、診断プログラムのうちのサーバ装置側アプリケーション)がインストールされている。
【0029】
診断端末2は、蒸気トラップの振動および温度(いずれも物理量の例である。)を測定可能な測定装置4と、測定装置4と接続可能なコンピュータ5と、を有する。
【0030】
測定装置4は、探針41、簡易ディスプレイ42(表示装置の例である。)、入力ボタン43、MCU44(端末側演算装置の例であり、第一端末側演算装置の例である。)、および記憶デバイス45を有する(
図1、
図2)。診断対象の蒸気トラップに探針を押し付けると、当該蒸気トラップの振動および温度を測定できる。簡易ディスプレイ42は振動および温度の測定値や測定装置4の設定状態などを表示する。入力ボタン43は、診断員による診断結果や測定装置4の設定変更などの入力操作を受け付ける。MCU44は、蒸気トラップの診断に係る演算処理を実行可能なマイクロコンピュータユニットであり、ハードウェアとしてはこの種の測定装置に汎用される仕様のものを用いることができる。記憶デバイス45は、蒸気トラップの振動および温度の測定値やMCU44が実行する演算処理似必要なデータなどを記憶する装置であり、ハードウェアとしてはこの種の測定装置に汎用される仕様のものを用いることができる。
【0031】
測定装置4は、USBなどの一般的なインターフェース(有線、無線を問わない。)を通じてコンピュータ5に接続することができ、振動および温度の測定値をコンピュータ5に入力できる。なお、測定装置4には、本実施形態に係る診断プログラム(より詳細には、診断プログラムのうちの診断端末側アプリケーション)がインストールされている。
【0032】
コンピュータ5は、液晶ディスプレイ51、入力デバイス52、CPU53(端末側演算装置の例であり、第二端末側演算装置の例である。)、記憶デバイス54、および通信デバイス55(通信装置の例である。)を含み、たとえば一般的なノート型コンピュータ、タブレット端末、スマートフォン等を使用できる。前述の通り、USBなどの一般的なインターフェースを通じて測定装置4をコンピュータ5に接続することができる。なお、コンピュータ5には、本実施形態に係る診断プログラム(より詳細には、診断プログラムのうちの診断端末側アプリケーション)がインストールされている。
【0033】
〔診断システムの機能〕
本実施形態に係る診断システム1は、所定の判断フローに基づいて判定を行う判定機能、診断端末2とサーバ装置3との間で互いに情報を送受信する送受信機能、学習済みモデルを生成するモデル生成機能、学習済みモデルを用いて蒸気トラップに対する診断結果の推定値を出力する推定機能、推定値と判定結果とを簡易ディスプレイ42に同時に表示させる表示機能、および、学習済みモデルを再生するモデル更新機能、を実現できる。本実施形態に係る診断システム1では、上記の諸機能に係る演算処理が、診断端末2(MCU44)とサーバ装置3(CPU31)とに分担される。
【0034】
(1)判定機能および診断員による診断
上記の各機能のうちの判定機能は、所定の判断フローに基づいて判定を行う機能であり、この種の診断システムにおいて従来実現されている機能である。判定機能は診断端末2側の機能であり、MCU44によって実現される。たとえば、測定装置4によって測定される振動および温度の測定値(以下、単に「測定値」という場合がある。)が所定のフローチャートに設定された分岐条件を満たすか否かに基づいて、診断対象の蒸気トラップが「正常」、「漏れあり」、および「詰まりあり」の三つの状態のいずれに該当するか、および、「漏れあり」の場合の漏洩量の水準、の判定結果を出力する。
【0035】
判定機能に使用されるフローチャートとして複数のフローチャートがあらかじめ記憶デバイス45に記憶されており、診断対象の蒸気トラップの条件変数に基づいて実際に使用されるフローチャートが決定される。条件変数とは、診断対象の蒸気トラップの使用環境に関する変数であり、当該蒸気トラップの作動原理、構造、型番、使用圧力、設置場所、などの条件や、当該蒸気トラップが使用されている場所の気温、湿度、季節などの条件、が含まれうる。条件変数は、診断端末2またはサーバ装置3にあらかじめ入力されている、判定を実施する際に診断端末2に入力される、蒸気トラップが設置されているプラントの計器等から取得される、などの方法で取得される。出力された判定結果は、当該判定結果の出力に用いられた測定値および条件変数とともに、診断端末2の記憶デバイス45に記憶される。
【0036】
従来の診断システムでは、判定機能が出力した判定結果に基づいて、診断員が最終的な診断結果を決定していた。これは、判定機能により出力される判定結果は、あくまで測定値に基づく一側面からの評価であり、これを参考としながらも最終的な診断は診断員が五感を通じて下すべきであるとの技術的思想に基づくものである。そのため、判定機能により出力される判定結果と、最終的に結論付けられる診断結果とが異なりうる。
【0037】
以上の機能は本実施形態に係る診断システム1にも実装されており、診断員による診断結果が診断端末2(測定装置4)に入力され、測定値および条件変数と関連付けられて、診断端末2の記憶デバイス45に記憶される。なお、複数の蒸気トラップについての測定値、条件変数、および診断結果に係るデータが記憶デバイス45に記憶され、測定装置4がコンピュータ5に接続されたときに、これらのデータがコンピュータ5に転送され、記憶デバイス54に記憶される。また、これらのデータはさらに、後述の送受信機能によってサーバ装置3に送信され、記憶デバイス32にも記憶される。
【0038】
(2)送受信機能
送受信機能は、診断端末2とサーバ装置3との間で互いに情報を送受信する機能であり、診断端末2側ではCPU53によって、サーバ装置3側ではCPU31によって、それぞれ実現される。また、診断端末2の通信デバイス55およびサーバ装置3の通信デバイス33も、送受信機能に関与する。送受信機能によって送受信される情報としては、診断端末2(測定装置4)によって測定された振動および温度の測定値、蒸気トラップの条件変数、蒸気トラップの診断結果、学習済みモデル、などが例示される。なお、送受信された情報は、診断端末2の記憶デバイス54およびサーバ装置3の記憶デバイス32に蓄積される。また、一つのサーバ装置3に複数の診断端末2が接続されうるため、サーバ装置3には複数の診断端末2から送信された情報が蓄積され、サーバ装置3からは複数の診断端末2に対して情報が送信される。
【0039】
(3)モデル生成機能
モデル生成機能は、説明変数と目的変数との組を教師データとして、与えられた説明変数から得られる目的変数を推定する学習済みモデルを生成する機能である。モデル生成機能はサーバ装置3側の機能であり、CPU31によって実現される。また、使用される教師データは診断端末2によって取得されてサーバ装置3に送信されたものであり、記憶デバイス32に蓄積されている。ただし教師データは、診断端末2以外の装置を用いて取得された情報を含んでいてもよい。たとえば、長年にわたって蒸気トラップの販売および保守の事業を行っている者は、過去から継続する事業を通じて蓄積された説明変数と目的変数との組を教師データに組み込みうる。
【0040】
本実施形態における生成機能では、説明変数は、蒸気トラップの条件変数、ならびに、蒸気トラップの振動および温度の測定値を含み、目的変数は、当該蒸気トラップに対する診断結果(診断員による。)を含む。生成された学習済みモデルに条件変数と測定値との組を入力すると、これらの条件変数および測定値が得られる状況下で診断員が下すであろう診断結果が推定される。
【0041】
説明変数は、条件変数と測定値との組が判断機能に供されたときに中間的に出力される変数を含みうる。この種の変数としては、判定機能により出力される推定漏洩量や、漏洩量の推定に使用された関数などが含まれうる。
【0042】
教師データから学習済みモデルを生成する際に使用するアルゴリズムは、特に限定されない。たとえば、サポートベクタマシン(回帰、分類)、決定木、ランダムフォレスト、勾配ブースティング、ロジスティック回帰、ニューラルネットワーク(単純パーセプトロン、多層パーセプトロン)、ガウス過程回帰、ベイジアンネットワーク、k近傍法、ラッソ回帰、重回帰分析、リッジ回帰、エラスティックネット、部分的最小二乗回帰、などが例示されるが、これらに限定されない。ただし、後述するように学習済みモデルを用いて推定を行う際(推定機能)の演算処理は、サーバ装置3に比べて処理能力が一般的に劣る診断端末2(MCU44)で行われるので、推定の際に要する演算処理量を抑制しやすいアルゴリズムを選択することが好ましい。この観点から、ロジスティック回帰およびサポートベクタマシンが好適である。
【0043】
また、本実施形態における生成機能では、診断対象の蒸気トラップの作動原理ごとに異なる学習済みモデルが生成される。ある種の作動原理の蒸気トラップについて精度が高い学習済みモデルを生成しようとする場合、異なる作動原理の蒸気トラップに係る教師データはノイズとなりうるため、これをあらかじめ除くのである。具体的には、教師データを構成する説明変数と目的変数との複数の組を、説明変数に含まれる条件変数のうちの蒸気トラップの作動原理および構造(作動原理の小分類ともいえる。)の項に基づいて分類し、分類された群ごとに学習済みモデルを生成する。蒸気トラップの作動原理は、大分類として、メカニカル式、サーモスタティック式、およびサーモダイナミック式に分類される。また、蒸気トラップの構造(作動原理の小分類)としては、フロート型、バケット型、ディスク型、温調型、バイメタル型などが例示される。
【0044】
生成された学習済みモデルは、サーバ装置3の記憶デバイス32に記憶される。また、学習済みモデルは、送受信機能によって診断端末2に送信され、記憶デバイス54にも記憶される。さらに、測定装置4がコンピュータ5に接続されたときに、学習済みモデルが測定装置4に転送され、記憶デバイス45にも記憶される。
【0045】
(4)推定機能
推定機能は、学習済みモデルを用いて、所与の説明変数から、当該説明変数の下で得られる目的変数の推定値を出力する機能である。推定機能は診断端末2側の機能であり、MCU44によって実現される。ここで、説明変数は、診断対象の蒸気トラップに係る条件変数と、測定装置4を用いて当該蒸気トラップについて測定した振動および温度の測定値と、を含む。また、目的変数は、当該蒸気トラップに対する診断員の診断結果の推定値を含む。
【0046】
上述の通り、本実施形態では蒸気トラップの作動原理ごとに異なる学習済みモデルが生成される。推定機能においては、説明変数に含まれる条件変数のうちの蒸気トラップの作動原理および構造の項に基づいて、診断対象の蒸気トラップの作動原理を特定し、当該作動原理に対応する学習済みモデルを用いて推定値の出力を行う。
【0047】
出力された推定値は、記憶デバイス45に蓄積される。なお、複数の蒸気トラップについての推定値が記憶デバイス45に記憶され、測定装置4がコンピュータ5に接続されたときに、これらの推定値がコンピュータ5に転送され、記憶デバイス54に記憶される。また、これらの推定値はさらに、送受信機能によってサーバ装置3に送信され、記憶デバイス32にも記憶される。
【0048】
なお、推定機能と判定機能とは、同じ入力値(測定値および条件変数)から同じ目的(状態トラップの状態)に係る出力値を互いに異なる方法で出力する機能だといえるが、両者の出力値は異なりうる。これは、診断員が決定する診断結果と判定機能による判定結果とが異なりうることと同様である。
【0049】
判定機能による判定結果が診断員による診断結果と異なりうることについて、その原因は完全には明らかではないが、次のような仮説を立てることができる。判定機能において使用されるフローチャートは、あらかじめ実施された実験データに基づいて作成される。具体的には、想定される態様の不具合(漏れ、詰まり)を人為的に再現した試験用の蒸気トラップを作成し、当該試験用の蒸気トラップに対する振動および温度の測定の結果が、フローチャートの作成に利用される。しかし、試験用に再現される不具合は、蒸気トラップが実際に使用される現場において発生しうる不具合を網羅したものではないため、現場の状況を見た診断員が異常であると判断する状況であっても、試験用に再現された状況に当てはまらない場合は、フローチャートによる判定結果が「正常」になる場合がある。
【0050】
一方、学習済みモデルを利用する推定機能では、現場において収集されたデータに基づいて生成された学習済みモデルを用いるため、少なくとも過去に現場において発生したことがある態様の不具合については、教師データとして網羅的に考慮されることになる。そのため、フローチャート作成用に再現された不具合の範囲外の不具合であっても、一定の信頼度で蒸気トラップの状態を推定することができる。
【0051】
(5)表示機能および診断員による診断
表示機能は、推定機能により出力された推定値と、判定機能により出力された判定結果とを、簡易ディスプレイ42に同時に表示させる機能である。表示機能は診断端末2側の機能であり、MCU44によって実現される。なお、ここでいう「同時に」表示するとは、診断端末2を使用する診断員が簡易ディスプレイ42に表示された推定値と判定結果との双方を認識して自身が下す診断に利用できる態様であればよく、常に両者が表示されていることを要さない。したがって、たとえば推定値と判定結果とが簡易ディスプレイ42に短い間隔(たとえば5秒以下)で交互に表示される態様も、ここでいう「同時に」表示することの一態様である。ただし、両者を同時に(一目で)視認できるほうが好ましいことから、両者を並べて表示する方法や両者を重ねて表示する方法などが、好ましい方法として例示される。
【0052】
なお、推定値および判定結果以外の情報が簡易ディスプレイ42に表示されてもよい。かかる情報としては、たとえば、推定値および判定結果の出力に使用された測定値および条件変数や、診断員の個人識別情報(氏名、ID番号、アカウント名など)、などが例示される。
【0053】
本実施形態に係る診断システム1では、表示機能によって推定値と判定結果とが同時に表示されるので、診断員はこれらの双方を考慮して最終的な診断結果を決定できる。従来は判定結果と診断員の五感に基づいて診断結果を決定していたため、正確な診断を下すために診断員に要求される技量の水準が高くなり、診断を実施できる診断員の養成が難しい場合があった。そこで本実施形態では、判定結果とともに推定値を表示することにより、従来用いていた判定結果および診断員の五感に加えて、推定モデルによる推定値を考慮に入れて診断結果を決定できるようにした。これによって、診断員に要求される技量の水準を従来に比べて抑制できる。
【0054】
上記の従来技術と同様に、診断結果は診断端末2(測定装置4)に入力され、測定値および条件変数と関連付けられて、診断端末2の記憶デバイス45に記憶される。また、診断結果は、診断を行った診断員の個人識別情報(氏名、ID番号、アカウント名など)を含む。なお、複数の蒸気トラップについての診断結果が記憶デバイス45に記憶され、測定装置4がコンピュータ5に接続されたときに、これらの診断結果がコンピュータ5に転送され、記憶デバイス54に記憶される。これらの診断結果はさらに、送受信機能によってサーバ装置3に送信され、記憶デバイス32にも記憶される。
【0055】
(6)モデル更新機能
モデル更新機能は、新しい教師データを用いて学習済みモデルを再び生成する機能である。モデル更新機能はサーバ装置3側の機能であり、CPU31によって実現される。新しい教師データは、診断対象の蒸気トラップについて測定され、当該蒸気トラップの診断結果の推定値の出力に用いられた測定値を説明変数とし、当該測定値から推定された診断結果の推定値を参照した診断員が現に決定した診断結果を目的変数とするデータの組を、元々の教師データ(モデル生成機能に用いたもの)に加えたものである。すなわちモデル更新機能では、推定機能により推定された診断結果の推定値と、診断員による診断結果の実際値と、をフィードバックして学習済みモデルを更新するといえる。
【0056】
なお、新たに得られた説明変数と目的変数との組の全てをモデル更新機能において考慮することが要求されるわけではない。たとえば、診断結果に含まれる診断員の個人識別情報に基づいて、特に経験が豊富な診断員による診断結果のみを抽出して、抽出された診断結果のみを教師データに加えてもよい。
【0057】
モデル更新機能により再生成された学習済みモデルの取扱いは、生成機能と同様である。すなわち再生成された学習済みモデルは、サーバ装置3の記憶デバイス32に記憶され、かつ、送受信機能によって診断端末2に送信されて記憶デバイス54にも記憶される。さらに、測定装置4がコンピュータ5に接続されたときに、再生成された学習済みモデルが測定装置4に転送され、記憶デバイス45にも記憶される。
【0058】
なお、推定値と判定結果とが一致しない場合が多いときは、判定機能に使用されるフローチャートに改善の余地がある可能性がある。そのような場合は、適宜、フローチャートを修正するとよい。
【0059】
〔診断方法〕
本実施形態に係る診断システム1を用いる診断方法の手順の一例を
図3に示す。
【0060】
第一の工程はモデル生成工程S1であり、上記のモデル生成機能による学習済みモデルの生成が、サーバ装置3に置いて行われる。なお
図3では、教師データを取得する段階を省略して図示している。教師データについては上記のとおりである。
【0061】
第二の工程は推定工程S2であり、学習済みモデルを用いて診断結果の推定値が出力される。ここでは、診断員によって、診断対象の蒸気トラップの振動および温度が測定され、診断端末2がその測定値を取得する。また、ここでは条件変数が診断員によって診断端末2に入力される場合を例示している。診断端末2は、サーバ装置3から取得した学習済みモデルに対して、診断員の動きを介して取得した測定値および条件変数を目的変数として入力して、診断結果の推定値を得る。
【0062】
なお、
図3では各データ(測定値、条件変数、および推定値)が都度サーバ装置3に送信される態様を図示しているが、診断端末2とサーバ装置3との間のデータ授受のタイミングは、そのデータを使用する演算処理に先立って当該データを使用する装置(診断端末2またはサーバ装置3)が当該データを取得している限りにおいて、限定されない。以降で説明されるその他のデータについても同様である。
【0063】
第三の工程は判定工程S3であり、条件変数に基づいて選択されたフローチャートに振動および温度の測定値を入力して得られる判定結果が出力される。
【0064】
第四の工程は表示工程S4であり、推定値と判定結果とが簡易ディスプレイ42に同時に表示される。診断員は、簡易ディスプレイ42の表示を通じて推定値および判定結果を認識できる。
【0065】
第五の工程は人為診断工程S5であり、診断員が、簡易ディスプレイ42に表示された推定値および判定結果を参照して、診断対象の蒸気トラップに対する診断を行う。ここでは、推定値および判定結果に加えて、診断員の五感による情報も参酌されうる。たとえば、診断対象の蒸気トラップに生じている傷、錆、付着物などの視認(視覚による。)、当該蒸気トラップが発している音(聴覚による。)、当該蒸気トラップの震え方や温度のムラ(触覚による。)などが、診断員の五感による情報に該当する。診断員が決定した診断結果は診断端末2に入力され、サーバ装置3に送信される。
【0066】
第六の工程はモデル再生成工程S6であり、サーバ装置3が、ここまでに取得された各データを用いて学習済みモデルの再生成を行う。再生成された学習済みモデルは診断端末2に送信され、次回以降の診断に使用される。
【0067】
なお、モデル再生成工程S6を実施する頻度は限定されない。頻度を高くすれば、学習済みモデルが更新される頻度が高くなるため推定工程の精度が向上することが期待されるが、その反面、モデル再生成機能を頻繁に実現するため演算処理の負荷が大きくなる。推定の精度と演算処理の負荷との両面からの要請に応じて、モデル再生成工程S6の頻度が適宜設定されうる。たとえば、サーバ装置3に蓄積された説明変数と目的変数との組のデータ点数の増加量や、モデル再生成工程S6の実行間隔などに基準を設け、かかる基準が満たされたときにモデル再生成工程S6を実行してもよい。
【0068】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明に係る診断システム、診断方法、および診断プログラムのその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0069】
上記の実施形態では、振動および温度の測定値および蒸気トラップの条件変数を説明変数とする構成を例として説明した。しかし、本発明において使用する説明変数は、これらの測定値および条件変数を含む限り、その他の要素を含んでいてもよい。たとえば、蒸気トラップの製造時の履歴(原料の品質、製造記録、完成検査の結果など)などが、説明変数に含まれうる。
【0070】
上記の実施形態では、診断員による診断の結果である診断結果を目的変数とする構成を例として説明した。しかし、本発明において推定対象とする目的変数は、診断結果を含む限り、その他の要素を含んでいてもよい。たとえば、診断対象の蒸気トラップの推定寿命や当該蒸気トラップのランニングコストなどが、目的変数に含まれうる。
【0071】
上記の実施形態では、診断対象の蒸気トラップの作動原理ごとに異なる学習済みモデルが生成される構成を例として説明した。この構成は好ましい構成ではあるものの、必須ではない。すなわち、様々な作動原理の蒸気トラップに係るデータが混在した教師データを用いて、蒸気トラップの作動原理に関わらず適用可能な学習済みモデルを生成してもよい。
【0072】
上記の実施形態では、診断システム1が診断端末2とサーバ装置3とを備え、診断端末2が測定装置4とコンピュータ5とを有する構成を例として説明した。しかし、本発明に係る診断システムのハードウェア構成は上記の例に限定されず、たとえば単独の端末が本発明の各機能を実現できるように構成されていてもよい。また、診断端末を単独の端末により構成してもよい。なお、選択されたハードウェア構成に応じて、本発明において実現される各機能が本発明を構成するハードウェアに適宜分配されることは、当業者が容易に理解できることであろう。
【0073】
上記の実施形態では、推定機能が診断端末2側の機能である構成を例として説明した。しかし、本発明に係る診断システムが診断端末とサーバ装置とを備える構成であるときに、推定機能をサーバ端末側の機能として構成してもよい。この場合、診断端末ではサーバ端末側で出力された推定結果を受信して表示することになる。
【0074】
上記の実施形態では、診断システム1がモデル更新機能を実現可能である構成を例として説明した。しかし本発明において、モデル更新機能の実現可否は任意である。なお、本発明に係る診断システム自体がモデル更新機能を実現できないとしても、他の演算処理装置によって生成した新しい学習済みモデルを読み込むなどの方法により、学習済みモデルの更新は可能である。
【0075】
上記の実施形態では、診断を行った診断員の個人識別情報が診断結果に含まれる構成を例として説明した。しかし本発明において、個人識別情報を取り扱うか否かは任意である。また、上記の実施形態では診断結果の一部として、すなわち目的変数として個人識別情報を取り扱っているが、これを説明変数として取り扱うこともできる。
【0076】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【実施例0077】
以下では実施例を示して本発明をさらに説明する。なお、以下の実施例は本発明を限定しない。
【0078】
フロート型蒸気トラップSS1Nシリーズ(株式会社テイエルブイ製)に対する測定値(振動値(Hz単位)および表面温度(℃単位))、条件変数(使用圧力(MPa単位)、作動回数、蒸気トラップの排出能力、蒸気漏洩時の振動値、およびドレン排出時の振動値)、判定結果、および診断結果の組492986件を教師データとして用いた。なお、当該教師データは、出願人の過去の事業において蓄積された検査履歴を格納しているデータベースから、蒸気トラップの構造(作動原理の小分類)の項の値が「フロート型」であり、型番の項の値が「SS1Nシリーズ」であるレコードを抽出したデータ群である。
【0079】
教師データの75%にあたる369739件を訓練データとし、Python環境下で機械学習ライブラリscikit-learnを用いて、ロジスティック回帰により学習済みモデルを作成した。訓練データについて、測定値および条件変数から推定される推定値と実際の診断結果とが一致した割合は94.8%だった。また、教師データの25%にあたる123247件をテストデータとして用いて得られた学習済みモデルを検証すると、推定値と実際の診断結果とが一致した割合は94.9%だった。この結果から、実用に足る推定精度を有し、かつ過学習に陥っていない学習済みモデルを得られたことを確認した。