(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008049
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】無線通信システム及び無線通信方法
(51)【国際特許分類】
H04W 4/42 20180101AFI20240112BHJP
H04W 88/14 20090101ALI20240112BHJP
【FI】
H04W4/42
H04W88/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109558
(22)【出願日】2022-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亨
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 弘征
(72)【発明者】
【氏名】芥川 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】堂坂 淳也
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067BB05
5K067EE02
5K067EE10
5K067EE44
5K067JJ72
(57)【要約】
【課題】同一周波数における複数事業者の運用における問題を解決する。
【解決手段】無線通信システムであって、移動局が移動する所定経路に沿って配置された複数の基地局と、前記基地局と前記移動局との通信を制御する通信制御装置と、前記移動局と通信する複数の司令卓とを備え、前記通信制御装置は、前記移動局の位置に応じて、当該移動局と通話可能な司令卓を決定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信システムであって、
移動局が移動する所定経路に沿って配置された複数の基地局と、前記基地局と前記移動局との通信を制御する通信制御装置と、前記移動局と通信する複数の司令卓とを備え、
前記通信制御装置は、前記移動局の位置に応じて、当該移動局と通話可能な司令卓を決定することを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の無線通信システムであって、
1以上の前記基地局は、前記移動局との通信範囲を定めるゾーンを形成しており、
前記司令卓は、第1の事業者が管理する第1の司令卓と、第2の事業者が管理する第2の司令卓とを含み、
前記通信制御装置は、
前記移動局が在圏するゾーンと前記司令卓の種別に応じて、当該移動局と通話可能な司令卓を決定し、
前記移動局との前記決定された司令卓との通信が前記ゾーン単位で行われるように制御することを特徴とする無線通信システム。
【請求項3】
請求項2に記載の無線通信システムであって、
前記ゾーンは、前記第1の事業者と前記第2の事業者の境界に位置し、前記第1の事業者側の第1のゾーンと前記第2の事業者側の第2のゾーンとを含み、
前記通信制御装置は、前記移動局が前記第1の司令卓又は前記第2の司令卓と通話中の場合、前記第1の事業者と前記第2の事業者との境界を越える前に、前記第1のゾーン及び前記第2のゾーンのいずれかに到達した場合、当該移動局と当該司令卓との通話をゾーンを越えて継続するかを前記司令卓の種別に応じて決定することを特徴とする無線通信システム。
【請求項4】
請求項2に記載の無線通信システムであって、
前記ゾーンは、前記第1の事業者と前記第2の事業者の境界に位置し、前記第1の事業者側の第1のゾーンと前記第2の事業者側の第2のゾーンとを含み、
前記第1のゾーン及び前記第2のゾーンの各々は、前記基地局によって形成される通信エリアを複数含み、
前記通信制御装置は、前記移動局が前記第1の司令卓又は前記第2の司令卓と通話中の場合、前記第1の事業者と前記第2の事業者との境界を越える前に、前記第1のゾーンに隣接する通信エリア及び前記第2のゾーンに隣接する通信エリアのいずれかに到達した場合、当該移動局と当該司令卓との通話をゾーンを越えて継続するかを前記司令卓の種別に応じて決定することを特徴とする無線通信システム。
【請求項5】
請求項2に記載の無線通信システムであって、
前記第1の事業者と前記第2の事業者とは、前記移動局と前記基地局とが通信するために同じ周波数が割り当てられていることを特徴とする無線通信システム。
【請求項6】
無線通信システムが行う無線通信方法であって、
前記無線通信システムは、移動局が移動する所定経路に沿って配置された複数の基地局と、前記基地局と前記移動局との通信を制御する通信制御装置と、前記移動局と通信する複数の司令卓とを有し、
前記無線通信方法は、前記通信制御装置が、前記移動局の位置に応じて、当該移動局と通話可能な司令卓を決定することを特徴とする無線通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信システムに関し、特に複数の事業者の乗入線区で同一周波数で共同運用する列車無線システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道業界では、利便性向上のため事業者間の乗り入れによる直通運転が行われている。一般的な列車無線システムでは、鉄道事業者ごとに周波数が割り当てられ、境界の駅で使用する周波数を切り替て、他社線に乗り入れる。
【0003】
本技術分野の背景技術として、以下の先行技術がある。特許文献1(特開2002-77034号公報)には、システム内の通信を制御する中央制御装置と、前記中央制御装置に接続された少なくとも1つの基地局装置と、前記各基地局装置に光ケーブルで並列に接続され直線的に配置され、直線的に一方向に移動する移動機と無線通信を行う少なくとも1つの光無線中継装置とを有する無線通信システムであって、前記各光無線中継装置には固有の識別子が割り当てられており、前記各光無線中継装置を介して送信される上りデータには、前記識別子が付加されて伝送され、前記中央制御装置が、前記基地局からの上りデータに含まれる識別子で前記移動機の進行方向を認識し、前記認識された移動方向に従って下りデータを送信する光無線中継装置を前記基地局装置に指示する中央制御装置であることを特徴とする無線通信システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した背景技術では、同一周波数における複数事業者の運用は考慮されていない。また、同一周波数が割り当てられた複数の事業者が異なる無線通信システムを構築すると、エリアの境界で電波が干渉し、境界駅で通話が不可能となる。また、一方の事業者は他方の事業者の司令を代行することがあり、事業者を跨がって通話を継続する必要がある。
【0006】
本発明は、同一周波数における複数事業者の運用における前述した諸問題の解決を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願において開示される発明の代表的な一例を示せば以下の通りである。すなわち、無線通信システムであって、移動局が移動する所定経路に沿って配置された複数の基地局と、前記基地局と前記移動局との通信を制御する通信制御装置と、前記移動局と通信する複数の司令卓とを備え、前記通信制御装置は、前記移動局の位置に応じて、当該移動局と通話可能な司令卓を決定することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の一例の無線通信システムでは、1以上の前記基地局は、前記移動局との通信範囲を定めるゾーンを形成しており、前記司令卓は、第1の事業者が管理する第1の司令卓と、第2の事業者が管理する第2の司令卓とを含み、前記通信制御装置は、前記移動局が在圏するゾーンと前記司令卓の種別に応じて、当該移動局と通話可能な司令卓を決定し、前記移動局との前記決定された司令卓との通信が前記ゾーン単位で行われるように制御することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の一例の無線通信システムでは、前記ゾーンは、前記第1の事業者と前記第2の事業者の境界に位置し、前記第1の事業者側の第1のゾーンと前記第2の事業者側の第2のゾーンとを含み、前記通信制御装置は、前記移動局が、前記第1の事業者と前記第2の事業者との境界を越える前に、前記第1のゾーン及び前記第2のゾーンのいずれかに到達した場合、当該移動局が通話可能なゾーンを事業者を越えて拡大するかを決定することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一例の無線通信システムでは、前記ゾーンは、前記第1の事業者と前記第2の事業者の境界に位置し、前記第1の事業者側の第1のゾーンと前記第2の事業者側の第2のゾーンとを含み、前記通信制御装置は、前記移動局が、前記第1の事業者と前記第2の事業者との境界を越えた後に、前記第1のゾーンに隣接するゾーン及び前記第2のゾーンに隣接するゾーンのいずれかに到達した場合、当該移動局が通話可能なゾーンを縮小するかを決定することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一例の無線通信システムでは、前記ゾーンは、前記第1の事業者と前記第2の事業者の境界に位置し、前記第1の事業者側の第1のゾーンと前記第2の事業者側の第2のゾーンとを含み、前記第1のゾーン及び前記第2のゾーンの各々は、前記基地局によって形成される通信エリアを複数含み、前記通信制御装置は、前記移動局が、前記第1の事業者と前記第2の事業者との境界を越える前に、前記第1のゾーンに隣接する通信エリア及び前記第2のゾーンに隣接する通信エリアのいずれかに到達した場合、当該移動局が通話可能なゾーンを事業者を越えて拡大するかを決定することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一例の無線通信システムでは、前記ゾーンは、前記第1の事業者と前記第2の事業者の境界に位置し、前記第1の事業者側の第1のゾーンと前記第2の事業者側の第2のゾーンとを含み、前記第1のゾーン及び前記第2のゾーンの各々は、前記基地局によって形成される通信エリアを複数含み、前記通信制御装置は、前記移動局が、前記第1の事業者と前記第2の事業者との境界を越えた後に、前記第1のゾーンに隣接する通信エリアの次の通信エリア及び前記第2のゾーンに隣接する通信エリアの次の通信エリアのいずれかに到達した場合、当該移動局が通話可能なゾーンを縮小するかを決定することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の一例の無線通信システムでは、前記第1の事業者と前記第2の事業者とは、前記移動局と前記基地局とが通信するために同じ周波数が割り当てられていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の一例の無線通信システムが行う無線通信方法では、前記通信制御装置が、前記移動局の位置に応じて、当該移動局と通話可能な司令卓を決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、同一周波数が割り当てられた異なる事業者間の境界駅を超えても無線通信を継続できる。前述した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例の列車無線システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】本実施例の列車無線システムが設置される鉄道路線の構成を示す図である。
【
図3】本実施例の通話開始時の車上局位置判定処理のシーケンス図である。
【
図4】本実施例の通話中の車上局装置の移動に伴うゾーン拡大判定処理のシーケンス図である。
【
図5】本実施例の卓主導通話転送判定処理のシーケンス図である。
【
図6】本実施例の卓抜け時の通話転送判定処理のシーケンス図である。
【
図7】本実施例の事業者の通話範囲を判定するためのシステム情報の例を示す図である。
【
図8】本実施例の司令卓及び司令卓の情報を保持するテーブルの例を示す図である。
【
図9】本実施例において、列車の走行に伴うゾーン移動の例を示す図である。
【
図10】本実施例において、列車の走行に伴うゾーン移動の別な例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の実施例の列車無線システムの構成を示すブロック図である。
【0018】
本実施例の無線通信システムは、列車無線システムであって、複数の事業者A、Bで直通運転を行う路線において同一周波数で通信するために、事業者ごとに異なるシステムを構築せずに、事業者Aの無線通信システムに従属するように、事業者Bの無線通信システムを構築する。
【0019】
本実施例の列車無線システムは、中央制御装置10、増設部20、複数の基地局装置30、1以上の司令卓40、司令卓通話録音装置50、事業者A鉄道電話交換機60、司令卓70、事業者B鉄道電話交換機80、及び司令卓通話録音装置90を有する。
【0020】
中央制御装置10は、交換制御部11、呼制御部12、クロック基板13、HUB基板14、複数の基地局インターフェース15、卓インターフェース16、録音インターフェース17、鉄道電話インターフェース18、及び在圏情報テーブル19を有する。
【0021】
交換制御部11は、音声通信回線の設定や切断など、音声通信回線を制御する。呼制御部12は、音声通信回線の設定や切断など、音声通信回線を制御する。クロック基板13は、列車無線システム内のタイミングを整合するための時刻情報を提供する。HUB基板14は、増設部20と接続し、増設部20との通信を制御する。基地局インターフェース15は、列車無線システムを構成する基地局装置30と接続し、基地局装置30との通信を制御する。卓インターフェース16は、司令卓40と接続し、司令卓40との通信を制御する。録音インターフェース17は、司令卓通話録音装置50と接続し、司令卓通話録音装置50との通信を制御する。鉄道電話インターフェース18は、事業者A鉄道電話交換機60と接続し、事業者A鉄道電話交換機60との通信を制御する。在圏情報テーブル19は、車上局装置(列車)100が在圏する通信エリアを判定するために使用されるテーブルであり、運行番号、編成番号及び在圏位置を記録する。在圏情報テーブル19は、ゾーンごとに管理されている。中央制御装置10は、全線ポーリング(以下、po)応答によって車上局装置100が隣のゾーンに移動したと認識すると、当該車上局装置100が在圏するゾーンを在圏情報テーブル19に登録する。
【0022】
増設部20は、HUB基板24、1以上の基地局インターフェース25、卓インターフェース26、録音インターフェース27、及び鉄道電話インターフェース28を有する。
【0023】
基地局インターフェース25は、列車無線システムを構成する基地局装置30と接続し、基地局装置30との通信を制御する。卓インターフェース26は、司令卓70と接続し、司令卓70との通信を制御する。録音インターフェース27は、司令卓通話録音装置90と接続し、司令卓通話録音装置90との通信を制御する。鉄道電話インターフェース28は、事業者B鉄道電話交換機80と接続し、事業者B鉄道電話交換機80との通信を制御する。
【0024】
事業者Aの司令卓40と事業者Bの司令卓70は、中央制御装置10によって両者が区別可能なように種別が設定される。また、基地局ゾーンごとに通信可能事業者を設定して、運用可能エリアを設け、司令卓40や司令卓70との通信を制限する。
【0025】
このように、事業者間を跨いで司令代行を行う事業者Aの中央制御装置10と、同一周波数で無線通信システムを運用する事業者Bの中央制御装置を分けて設けることなく、事業者Bの制御装置を事業者Aの中央制御装置10に従属して動作する増設部20という形でシステムを構築する。増設部20は、中央制御装置10のタイミングで、中央制御装置10の呼制御指示や交換制御指示に従って動作する。このように動作すると、基地局間でタイミングを同期して電波を送信でき、干渉の影響を抑制して事業者間で同一周波数で運用できる。また、中央制御装置10に通話制御を集約することで、事業者Aと事業者Bの同時着信、事業者間の通話転送、通話区間の制限が容易にできる。さらに、中央制御装置10と増設部20とに分割することで、各事業者の資産を明確にできる。
【0026】
図2は、本実施例の列車無線システムが設置される鉄道路線の構成を示す図である。
【0027】
各事業者の路線は、1以上の基地局装置30で通信可能な範囲であるゾーンでカバーされている。各ゾーンにおいて車上局装置100との通信をカバーする基地局装置30は一つでも複数でもよい。具体的には、事業者Aの路線はAゾーン、Bゾーン、Cゾーン、Dゾーン、Eゾーン、及びFゾーンに分割されて構成されており、事業者Bの路線はGゾーンによって構成されている。
【0028】
事業者Aの線路と事業者Bの線路とは接続されており、列車が直通運転を行っている。車上局装置100は、列車に搭載されており、列車の走行によって移動する無線局である。
【0029】
各事業者は自社の路線を走行中の列車(車上局装置100)と通信可能となっている。また、事業者Aの司令卓40は司令代行により事業者Bの路線に在線する列車(車上局装置100)とも通信可能、すなわち、事業者Aの路線と事業者Bの路線のいずれに在線する列車(車上局装置100)と通信可能である。一方、事業者Bの司令卓70は事業者Bの路線(Gゾーン)と、Gゾーンに隣接するFゾーンに在圏する列車(車上局装置100)のみと通信可能である。FゾーンとGゾーンの境界にある駅が、事業者Aと事業者Bの境界駅である場合、当該境界駅ではGゾーンだけでなくFゾーンでも通話を可能とする必要があることから、事業者Bの司令卓70はFゾーンに在圏する列車(車上局装置100)とも通信可能としている。通話可能ゾーンはシステム情報の基地局ゾーンの種別によって定義される。
【0030】
本実施例の列車無線システムでは、1又は複数の基地局装置30の通信エリアで形成されるゾーン単位で車上局装置100との通話状態が管理される。例えば、車上局装置100と通話中は、当該ゾーンを構成する基地局装置30から当該車上局装置100と通話するための無線信号が送信されていることを示す。
【0031】
図3は、本発明の通話開始時の車上局位置判定処理のシーケンス図である。
【0032】
事業者Bの司令卓70は、運行番号001の車上局を呼び出す呼設定要求を、増設部20を経由して中央制御装置10に送信する。
【0033】
中央制御装置10は、在圏情報テーブル19を参照して、呼設定要求の受付可否を判定する。例えば、卓種別と呼出先の車上局装置100の在圏位置の組み合わせによって、呼出可否を判定する。具体的には、事業者Aの司令卓40からの呼設定要求は、呼出先の車上局装置100の在圏位置がAゾーン~Gゾーンのいずれでも接続可能と判定される。事業者Bの司令卓70からの呼設定要求は、呼出先の車上局装置100の在圏位置がFゾーン~Gゾーンであれば接続可能と判定され、それ以外のAゾーン~Eゾーンは接続不可と判定される。
【0034】
中央制御装置10は、呼設定要求が受付可能であれば、呼出先の車上局装置100が在圏するゾーンの基地局装置30にページング信号を送信し、編成番号B01015の車上局装置100を呼び出す。一方、中央制御装置10は、呼設定要求が受付不可能であれば、受付NG応答を増設部20を経由して司令卓70に送信する。
【0035】
また、車上局装置100が発呼し、中央制御装置10は、着信要求が通知されると、車上局装置100の位置情報から通話ゾーンを選定し、車上局装置100が事業者BのFゾーン又はGゾーンに在圏する場合、事業者Aの司令卓40と事業者Bの司令卓70の両方が着信動作を行い、事業者間の取り決めに従って、司令卓40と司令卓70のいずれかが応答する。また、必要に応じて事業者間で通話を転送し、車上局装置100との通話を継続する。
【0036】
図4は、本発明の通話中の車上局装置100の移動に伴うゾーン拡大判定処理のシーケンス図である。
【0037】
事業者Bの司令卓70が、基地局Gを介してGゾーンに在圏している車上局装置100と通話している。このとき、当該車上局(列車)の進行方向を考慮してFゾーンでも通話可能となっている。列車が走行し、当該車上局装置100がGゾーンからFゾーンに移動すると、基地局F-1が、次のEゾーンへ通話ゾーンを拡張するために、全線po応答要求を中央制御装置10に送信する。
【0038】
基地局装置30は、所定のタイミングで繰り返し車上局装置100に全線po要求を送信する。車上局装置100は、全線po要求を受信すると、全線po応答を送信する。中央制御装置10は、全線po応答を受信すると、全線po応答を送信した車上局装置100を在圏情報テーブル19に登録し、登録された車上局装置100に当該車上局装置100を個別に指定した指定po要求を送信する。車上局装置100は、自身が指定された指定po要求を受信すると。指定po応答を返信する。中央制御装置10は、在圏情報テーブル19によって、どのゾーンのどの基地局装置30の配下に車上局装置100が在線しているかを管理する。中央制御装置10は、全線po応答/指定po応答を受信する基地局装置30によって、車上局装置100の移動を検知する。
【0039】
なお、車上局装置100は、基地局装置30から制御チャネルで常時送信されている制御情報に含まれるゾーン情報を参照してゾーン移動を検知する。
【0040】
中央制御装置10は、全線po応答を受信すると、全線po応答を受信した基地局装置30から列車の移動を検知し、通話ゾーンの拡大有無を判定することによって、全線po応答要求の受付可否を判定する。例えば、車上局装置100の進行方向情報及び在線移動先の基地局装置30から通話ゾーンの拡大処理を実施するかを判定する。具体的には、拡大判定条件Aとして、移動先がゾーン拡大対象の基地局装置30である場合、次の判定条件Bとして、事業者Aの司令卓40であるかを判定し、事業者Aの司令卓40で通話している場合、Eゾーンへの拡大処理を実施する。そして、全ての条件が満たされると通話ゾーンをFゾーンからEゾーンへの拡大が許可され、中央制御装置10から基地局Eに通話ゾーン拡大指示を送信する。そして、基地局Eは、通話中のゾーンと同一の呼番号で音声データの送信を開始する。車上局装置100は、移動先のゾーンで同一呼番号の音声データが送信されている場合、当該呼番号で通話を継続する。
【0041】
なお、事業者Bの司令卓70で通話している場合、事業者Bの運行区間(Fゾーン、Gゾーン)外へは拡大処理を実施しない。
【0042】
中央制御装置10は、全線po応答要求が受付可能であれば、拡大先の基地局Eに通話ゾーン拡大指示を送信し、当該車上局の基地局Eへの接続を許可する。一方、全線po応答要求が受付不可能であれば、中央制御装置10は、当該車上局の基地局Eへの接続を許可しない。
【0043】
図4に示すように、通話中に車上局装置100が移動すると、当該車上局装置100と通話中の司令卓40又は司令卓70の種別に基づいて、通話ゾーンの拡大の可否を決定する。事業者Bの司令卓70で通話中に、事業者Aと事業者Bとの境界駅(Fゾーン)に移動しても、通話ゾーンは事業者Aのゾーンへ拡大されない。中央制御装置10は、全線po要求によって各ゾーン内の車上局装置100を管理しており、通話中のFゾーン内から車上局装置100がいなくなったタイミングでFゾーンにおける通話を切断する。事業者Aの司令卓40がGゾーンの車上局装置100と通話中に、事業者境界のFゾーンに車上局装置100が侵入した場合、ゾーン拡大可否判定によってゾーンを拡大し、通話を継続できる。
【0044】
図5は、本発明の卓主導通話転送判定処理のシーケンス図である。
【0045】
事業者Aの司令卓40が、基地局E-1を介してEゾーンに在圏している車上局と通話している。列車が走行し、当該車上局がEゾーンからFゾーンに移動する際に、当該車上局の通話ゾーンを変更し、事業者Aの司令卓40から事業者Bの司令卓70に司令担当を引き継ぐ必要がある。
【0046】
事業者Aの司令卓40は、事業者Bへの通話転送指示を中央制御装置10に送信する。中央制御装置10は、転送着信要求を事業者Bの司令卓70に送信する。司令卓70は、転送着信応答操作がされると、転送応答を中央制御装置10に送信する。
【0047】
中央制御装置10は、転送応答の受付可否を判定する。例えば、転送先の卓の種別と在圏ゾーンとの組み合わせによって転送可否を判定する。具体的には、転送先の卓が事業者Bの司令卓70であれば、当該通話をGゾーンへの転送は可能と判定し、Gゾーン以外への転送は不可能であると判定する。それ以外の組み合わせであれば、当該通話を転送可能であると判定する。
【0048】
図5に示すように、事業者Bの司令卓70がFゾーンで通話中に、事業者Aに通話を転送し、司令卓40が通話を引き継いだ場合、事業者Bの司令卓70が通話から抜けると、通話ゾーンをEに拡大して、事業者Aの司令卓40の通話を引き継ぐことができる。
【0049】
図6は、本発明の卓抜け時の通話転送判定処理のシーケンス図である。
【0050】
具体的には、事業者Aの司令卓40と、事業者Bの司令卓70と、基地局Gを介してGゾーンに在圏している車上局装置100が三者通話をしている。
【0051】
事業者Bの司令卓70は、
図7に示すシステム情報に定義されるように、Fゾーン及びGゾーンに在圏している車上局装置100と通話でき、Eゾーンに在圏している車上局装置100と通話できない。このため、列車が走行し、当該車上局がGゾーンからFゾーンに移動すると、事業者Bの司令卓70が終話し、事業者Aの司令卓40と車上局装置100との二者通話に移行する。このため、事業者Bの司令卓70が、終話信号を中央制御装置10に送信する。
【0052】
中央制御装置10は、終話信号の受付可否を判定する。例えば、車上局(列車)の進行方向と受信基地局と終話する司令卓70との組み合わせによって転送可否を判定する。具体的には、転送応答卓が事業者Bの司令卓70であれば、Gゾーン以外のEゾーンへの転送は不可能なので、終話信号を受付可能と判定する。
【0053】
中央制御装置10は、終話信号が受付可能であれば、通話ゾーンの拡大指示を基地局Eに送信し、当該車上局の基地局Eへの接続を許可する。一方、終話信号が受付不可能であれば、中央制御装置10は、司令卓40がEゾーン、Fゾーン、Gゾーンの使用中に変化する。
【0054】
図7は、本発明の事業者の通話ゾーンを判定するためのシステム情報の例を示す図である。
【0055】
図7に示すシステム情報では、Aゾーン~Eゾーンは事業者Aの運用ゾーン、Fゾーンは事業者A及び事業者Bの共通運用ゾーン、Gゾーンは事業者Bの運用ゾーンであるが、事業者Aも運用可能なゾーンとして定義されている。このため、前述したように、種別Fゾーン及びGゾーンが事業者Bの利用可能区間として判定され、事業者Bの司令卓は、事業者識別が1又は2のエリアのみ通話可能となる。なお、
図1に示すように、Fゾーンの基地局Fは事業者Aの中央制御装置10に実装され、Gゾーンの基地局Gは事業者Bの増設部20に実装される。
【0056】
図8は、本発明の司令卓70の情報を保持するテーブルの例を示す図である。
【0057】
図示するように、司令卓IDは、上位バイトの事業者IDと、下位バイトの卓番号の組み合わせによって構成される。事業者Aの7台の司令卓40と、事業者Bの2台の司令卓70について司令卓IDが定義されている。
【0058】
ここまで、一つのゾーンが一つの基地局装置30で構成される例を説明したが、以後、一つのゾーンが複数の基地局装置30で構成される例を説明する。
【0059】
図9は、本発明において、列車の走行に伴うゾーン移動の例を示す図である。
【0060】
進行方向10において、識別番号K05101/10は001列車の先頭号車(運転手側)の車上局装置100であり、識別番号K05101/01は001列車の末尾号車(車掌側)の車上局装置100である。
【0061】
状態1では、車上局装置K05101/10と車上局装置K05101/01は、Aゾーンの基地局A-2と通話中である。
【0062】
状態2では、列車が走行して、先頭号車の車上局装置K05101/10がBゾーンとの境界の基地局A-3の圏内に入り、Aゾーン及びBゾーンで通話中の状態となる。ゾーン拡大を判定するためにシステム情報として、ゾーン拡大及び縮小の判定トリガとなる基地局装置30の識別情報、車上局装置100の進行方向、路線の情報などが定義されている。中央制御装置10は、システム情報を参照して、ゾーン拡大やゾーン縮小を判定する。
【0063】
状態3では、列車が走行して、車上局装置K05101/10及び車上局装置K05101/01がBゾーンの基地局B-1の圏内に入り、Aゾーン及びBゾーンで通話中の状態となる。ゾーン縮小は、ゾーン境界の次の基地局装置30の通信エリアで判定されるため、隣接ゾーンの境界基地局B-1では隣接する通話ゾーンも維持される。
【0064】
状態4では、列車が走行して、先頭号車の車上局装置K05101/10がAゾーンとの境界の基地局B-1の次の基地局B-2の圏内に入ったことがゾーン縮小判定トリガとなる。このとき、Aゾーンで通話中の車上局装置100がなく、進行方向が境界基地局B-1から離れて基地局B-2に向かう方向(進行10)なので、通話中ゾーンを縮小し、Bゾーンで通話中の状態となる。
【0065】
図10は、本発明において、列車の走行に伴うゾーン移動の別な例を示す図である。
【0066】
【0067】
状態5では、列車が走行して、先頭号車の車上局装置K05101/10がBゾーンの基地局B-1の圏内に入り、末尾号車の車上局装置K05101/01がAゾーンの基地局A-3の圏内に残っているので、Aゾーン及びBゾーンで通話中の状態となる。
【0068】
状態6では、列車が走行して、先頭号車の車上局装置K05101/10がBゾーンの基地局B-2の圏内に入り、末尾号車の車上局装置K05101/01がAゾーンの基地局A-3の圏内に残っている。先頭号車の車上局装置K05101/10が境界の基地局B-1の次の基地局B-2の圏内に入ったことがゾーン縮小判定トリガとなるが、末尾号車の車上局装置K05101/01がAゾーンの基地局A-3の圏内に残っているので、Aゾーン及びBゾーンで通話中の状態が維持される。
【0069】
状態7では、列車が走行して、先頭号車の車上局装置K05101/10がBゾーンの基地局B-2の圏内に入り、末尾号車の車上局装置K05101/01がBゾーンの基地局B-1の圏内に入った。車上局装置100が境界の基地局B-1の圏内に入ったことがゾーン縮小判定トリガではないので、Aゾーン及びBゾーンで通話中の状態が維持される。
【0070】
状態8では、列車が走行して、車上局装置K05101/10及び車上局装置K05101/01がBゾーンの基地局B-2の圏内に入る。末尾号車の車上局装置K05101/01がAゾーンとの境界の基地局B-1の次の基地局B-2の圏内に入ったことがゾーン縮小判定トリガとなる。このとき、Aゾーンで通話中の車上局装置100がなく、進行方向が境界基地局B-1から離れて基地局B-2に向かう方向(進行10)なので、通話中ゾーンを縮小し、Bゾーンで通話中の状態となる。
【0071】
以上に説明したように、本発明の実施例の無線通信システムは、移動局(車上局装置100)が移動する所定経路に沿って配置された複数の基地局装置30と、基地局装置30と移動局との通信を制御する通信制御装置(中央制御装置10)と、移動局と通信する複数の司令卓(司令卓40、司令卓70)とを備え、通信制御装置は、移動局の位置に応じて、移動局と通話可能な司令卓(司令卓40、司令卓70)を決定するので、同一周波数が割り当てられた異なる事業者間の境界駅を超えても無線通信を継続できる。また、事業者Bから司令代行を受けた事業者Aが、事業者境界を跨いで司令運用を継続できる。司令代行ができない事業者Bは、決められたエリア中でのみ通話が制限される。このため、顧客のシステム要件を満足する柔軟な無線通信システムを構築できる。
【0072】
なお、本発明は前述した実施例に限定されるものではなく、添付した特許請求の範囲の趣旨内における様々な変形例及び同等の構成が含まれる。例えば、前述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに本発明は限定されない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えてもよい。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えてもよい。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をしてもよい。
【0073】
また、前述した各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により、ハードウェアで実現してもよく、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し実行することにより、ソフトウェアで実現してもよい。
【0074】
各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に格納することができる。
【0075】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、実装上必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0076】
1 基地局装置
10 中央制御装置
11 交換制御部
12 呼制御部
13 クロック基板
14 HUB基板
15 基地局インターフェース
16 卓インターフェース
17 録音インターフェース
18 鉄道電話インターフェース
19 在圏情報テーブル
20 増設部
24 HUB基板
25 基地局インターフェース
26 卓インターフェース
27 録音インターフェース
28 鉄道電話インターフェース
30 基地局装置
40 司令卓
50 司令卓通話録音装置
60 事業者A鉄道電話交換機
70 司令卓
80 事業者B鉄道電話交換機
90 司令卓通話録音装置
100 車上局装置