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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080492
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】厚さ測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/06 20060101AFI20240606BHJP
【FI】
G01B11/06 G
G01B11/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193732
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592067719
【氏名又は名称】株式会社山文電気
(74)【代理人】
【識別番号】100167988
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】横田 博
(72)【発明者】
【氏名】山本 康男
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA30
2F065BB01
2F065CC02
2F065DD03
2F065FF46
2F065FF52
2F065GG24
2F065LL67
2F065MM02
(57)【要約】
【課題】測定対象への入射角が未知であるときに、任意の入射角で光を照射した場合でも、より正確な厚さ測定が可能な方法を提供する。
【解決手段】フィルム状の測定対象の厚さを測定する方法であって、前記測定対象に未知の入射角で照射した光を受光して受光スペクトルを計測する工程と、前記受光スペクトルに含まれる光干渉情報から、前記測定対象の厚さまたはその指標として、厚さ値Aまたは厚さ指標Aを算出する工程と、前記受光スペクトルに含まれる光吸収情報から、前記測定対象の厚さまたはその指標として、厚さ値Bまたは厚さ指標Bを算出する工程と、前記厚さ値Aまたは前記厚さ指標Aと、前記厚さ値Bまたは前記厚さ指標Bとを、前記入射角の影響を相殺するように演算して、前記測定対象の厚さを算出する工程とを有する厚さ測定方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム状の測定対象の厚さを測定する方法であって、
前記測定対象に未知の入射角で照射した光を受光して受光スペクトルを計測する工程と、
前記受光スペクトルに含まれる光干渉情報から、前記測定対象の厚さまたはその指標として、厚さ値Aまたは厚さ指標Aを算出する工程と、
前記受光スペクトルに含まれる光吸収情報から、前記測定対象の厚さまたはその指標として、厚さ値Bまたは厚さ指標Bを算出する工程と、
前記厚さ値Aまたは前記厚さ指標Aと、前記厚さ値Bまたは前記厚さ指標Bとを、前記入射角の影響を相殺するように演算して、前記測定対象の厚さを算出する工程と、
を有する厚さ測定方法。
【請求項2】
前記入射角が時間とともに変化する状況下で実施される、
請求項1に記載の厚さ測定方法。
【請求項3】
前記測定対象が樹脂フィルムである、
請求項1または2に記載の厚さ測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルム等の厚さを光吸収および光干渉によって測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂フィルム等に照射した光の吸収スペクトルや干渉スペクトルを利用して樹脂フィルム等の厚さを測定することが行われている。光吸収を利用した方法では、フィルム等の吸光度がフィルム等の厚さに比例することに基づいて、当該フィルム等の厚さが計算される。例えば、特許文献1には、高分子フィルムに近赤外光を照射して、フィルムの吸収波長帯にある波長λ1と吸収波長帯の外にある波長λ2での透過率の比から、当該高分子フィルムの厚みを測定する方法が開示されている。光干渉を利用した方法では、フィルム等からの透過光または反射光の干渉縞の間隔から当該フィルム等の厚さが計算される。例えば、特許文献2には、樹脂フィルムなどのウェブに白色光線を照射して、測定部が検出した表裏面からの干渉を含む波長強度分布から、当該ウェブの厚さを求める方法が開示されている。特許文献3には、機能性樹脂フィルムなどのサンプルに所定の波長範囲を有する測定光を照射して、測定対象から生じる透過光または反射光を受光して、波数の列のフーリエ変換により得られるパワースペクトルに現れるピーク位置に基づいて測定点における膜厚を決定する方法が開示されている。
【0003】
光吸収や光干渉を利用した厚さ測定において、樹脂フィルム等の測定対象からの透過光または反射光には、光吸収によるスペクトルと光干渉によるスペクトルが重畳している。このことに関して、特許文献4には、測定されたスペクトルをフーリエ変換した結果から干渉縞と考えられる次数成分の振幅および位相共に低減させたスペクトルを作成し、作成されたスペクトルに対して逆フーリエ変換を行うことにより、光干渉による影響が除去された吸光度スペクトルを再現することが記載されている。特許文献4では、セロハンフィルムをサンプルとして、干渉成分を含む測定スペクトルをフーリエ変換することにより厚さ測定を行い、干渉成分を除去した吸収スペクトルの吸光度変化を多変量解析することによりフィルム中の水分測定を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-074634号公報
【特許文献2】特開2002-277217号公報
【特許文献3】特開2018-205295号公報
【特許文献4】特開2003-139512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光吸収や光干渉を利用した厚さ測定では、測定される厚さが入射角によって変化するため、厚さを正確に測定するには測定中の入射角度を正確に知る必要がある。そのため、一般的には測定対象に一定の入射角で光を照射して、あるいは少なくとも既知の入射角で光を照射して測定が行われる。しかし、入射角が未知な状況で厚さ測定を行う場合には、入射角の違いがそのまま測定誤差につながり、正確な測定ができないという問題があった。
【0006】
本発明は、上記を考慮してなされたものであり、測定対象への入射角が未知であるときに、任意の入射角で光を照射した場合でも、入射角の影響を排除して、より正確な厚さ測定が可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に対して、本発明は、測定対象への入射角が大きくなると光吸収による厚さ測定値は大きく、光干渉による厚さ測定値は小さくなることに着目し、光吸収による厚さ測定値と光干渉による厚さ測定値の両方を求めて、入射角の影響を相殺するように演算する。
【0008】
具体的には、本発明の厚さ測定方法は、フィルム状の測定対象の厚さを測定する方法であって、前記測定対象に未知の入射角で照射した光を受光して受光スペクトルを計測する工程と、前記受光スペクトルに含まれる光干渉情報から、前記測定対象の厚さまたはその指標として、厚さ値Aまたは厚さ指標Aを算出する工程と、前記受光スペクトルに含まれる光吸収情報から、前記測定対象の厚さまたはその指標として、厚さ値Bまたは厚さ指標Bを算出する工程と、前記厚さ値Aまたは前記厚さ指標Aと、前記厚さ値Bまたは前記厚さ指標Bとを、前記入射角の影響を相殺するように演算して、前記測定対象の厚さを算出する工程とを有する。
【0009】
ここで、フィルム状の測定対象には、フィルム、シート、テープなどと呼ばれるものや、基材上のコーティングなど、略一定の厚さを有するものをすべて含む。また、厚さの指標とは、厚さに対して単調に増加または減少し、厚さと相互に換算可能なものをいう。
【発明の効果】
【0010】
本発明の厚さ測定方法によれば、測定対象への光の入射角が特定できず、任意の入射角で光を照射した場合でも、入射角の違いによる影響を排除して、より正確な厚さ測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態の厚さ測定方法を実施するための装置構成を示す図である。A:測定対象の樹脂フィルムがバタつく場合、B:ハンドヘルド型の装置による場合。
図2】一実施形態の厚さ測定方法の工程フロー図である。
図3】入射角の影響を説明するための図である。A:光干渉、B:光吸収。
図4】実施例における、A:受光吸収スペクトル、B:光干渉スペクトル、C:光吸収スペクトル。
図5】実施例における、A:光干渉情報から算出された厚さ値A、B:光吸収情報から算出された厚さ値B、C:厚さ値Aと厚さ値Bの相乗平均として算出された厚さ。
図6】反射光を用いる方法を説明するための図である。A:フィルムによる反射、B:鏡面による反射。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の厚さ測定方法の一実施形態として、樹脂フィルムを測定対象として、その厚さを測定する方法を説明する。なお、以下において、樹脂フィルムを単にフィルム、光吸収または光干渉を単に吸収または干渉ということがある。
【0013】
まず、図1を参照して、本実施形態の測定方法を実施するための厚さ測定システム10、11は、光源12、投光部13、受光部14、分光部15および演算部16を有する。測定に用いる光は、光源12から光ファイバ等を通って投光部13から測定対象である樹脂フィルム20に照射され、フィルム20の反対側に設けられた受光部14で受光され、光ファイバ等を通って分光部15で受光スペクトルが計測される。受光スペクトルは演算部16へ送信され、演算部16は後述する各種演算を行う。
【0014】
図1Aの厚さ測定システム10は、搬送ロール25に架け渡されて、上下にバタつきながら搬送されるフィルム20の厚さを測定する。フィルム20は、例えば、実線と破線で示すように矢印の方向にバタつき、そのため投光部13から照射される光の入射角は特定できず、かつ時間とともに変化する。図1Bの厚さ測定システム11は、その一部がハンドヘルド型(手持ち)の筐体17に収められて、フィルム20の厚さを測定する。フィルム20および筐体17の傾きは手振れ等により一定せず、投光部13から照射される光の入射角は特定できない。なお、フィルム20の姿勢が変化してもフィルムを透過する光の進路はあまり変化しないので、投光部13から照射した光は受光部14で問題なく受光することができる。
【0015】
測定対象となる樹脂フィルム20は透明である。本明細書において、透明であるとは、測定に用いる光に対する透過性を有し、干渉が観測できる程度の透明性を有することをいい、透明であるものが無色であっても着色されていてもよい。
【0016】
樹脂フィルム20は略一定の厚さを有する。略一定とは、製造上のばらつきなど不可避の要因によるものを除いて一定であることをいう。樹脂フィルムは、200μmや250μmを境界として、それより薄いものをフィルム、厚いものをシートと呼び分けられることがあるが、本明細書では厚さによらずすべてフィルムという。本実施形態の方法で測定可能な厚さは、測定に用いられる光の波長範囲、分光スペクトルの波長分解能、フィルムの吸光係数や屈折率など多くの要因に依存するので、本実施形態の測定方法に適したフィルムの厚さについては後述する。また、樹脂フィルムの形状は特に限定されず、産業分野によってテープと呼ばれるものも本明細書ではフィルムという。また、樹脂フィルムは、柔軟で変形しやすいものほどバタつきや波打ちが起こりやすいので、本実施形態の測定方法を適用する効果が大きい。
【0017】
次に、本実施形態の厚さ測定方法を、図2のフローに沿って説明する。
【0018】
光源12から発した光を、例えばコリメータレンズを有する投光部13から、フィルムに向けて照射する。照射する光は、フィルムが吸収する波長帯を含む波長範囲の光とする。照射する光は、例えば、フィルムを構成する樹脂が吸収する近赤外線領域の光や、フィルム中の色素が吸収する可視光領域の光を含む波長範囲の光とする。また、照射する光の波長範囲の大きさは、その波長範囲内で干渉による光強度の変動周期を確定できる程度に広い必要がある。照射する測定光は、狭い間隔で線スペクトルが並ぶ離散的な波長を有するものであってもよいが、好ましくは、連続スペクトルを有するものを用いる。光源12としては、ハロゲンランプなど公知のものを用いることができる。
【0019】
樹脂フィルム20を透過した光は、例えば集光レンズを有する受光部14で受光され、分光部15で波長毎に分解されて受光スペクトルが計測される。分光部15としては、回折格子と受光素子を備えたものや、リニアバリアブルフィルターと受光素子を組み合わせたものなど、公知のものを用いることができる。
【0020】
計測された受光スペクトルは演算部16に送信される。演算部は、フィルム20がない状態で計測された受光スペクトルから、フィルム20を通過して計測された受光スペクトルを引いて、フィルム20を通過することで光強度が減少した量を示すスペクトルを算出する。以下において、この光強度の減少量を示すスペクトルを受光吸収スペクトルという。受光吸収スペクトルは、フィルムによる吸収と、干渉による変動が重畳したものである。
【0021】
演算部16は、受光吸収スペクトルから、干渉に起因する光強度の変動を抽出し、その変動の波数周期に基づいてフィルムの厚さを算出する(厚さ値A)。さらに、受光吸収スペクトルから、干渉に起因するスペクトル(干渉スペクトル)を引いて、フィルムによる吸収を示す吸収スペクトルを算出し、吸収スペクトルに基づいてフィルムの厚さを算出する(厚さ値B)。吸収スペクトルの算出には、例えば特許文献4に記載された方法を用いることができる。以下に各工程の手順を説明する。
【0022】
光干渉に関して、図3Aを参照して、光がフィルム20に入射角θで入射すると、フィルムの表裏面で反射せずにフィルムを透過する光(TUVW)と、表裏面で1回ずつ反射してフィルムを透過する光(PQRUVW)の光路差(Δ)は、
Δ=2・n・d・cosθ
(d:フィルムの厚さ、n:フィルムの屈折率、θ:屈折角)
となる。空気の屈折率をn(≒1)とすれば、スネルの法則により、入射角θと屈折角θには、
・sinθ=n・sinθ
の関係がある。光路差Δが波長λの自然数倍であるとき、つまり、
Δ=m・λ (mは干渉の次数で自然数)
となる波長λでスペクトルは極大となる。スペクトルの横軸に波数k(=1/λ)をとると、k=1/λ=m/Δとなって、極値の間隔は一定となる。
【0023】
波数kを横軸にとった受光吸収スペクトルを離散フーリエ変換(DFT)することで、変動の周期1/Δが求められる。離散フーリエ変換は、好ましくは、計算量の少ない高速フーリエ変換(FFT)アルゴリズムを用いて行う。この結果から、この光干渉情報から求まるフィルムの厚さ(厚さ値A)が、
厚さ値A=Δ/(2・n)=d・cosθ
として算出される。厚さ値Aはcosθに比例する。
【0024】
一方、上記DFTの結果から干渉成分と考えられる次数成分の振幅を低減させたスペクトルを計算し、得られたスペクトルに対して逆離散フーリエ変換(IDFT)を、好ましくは逆高速フーリエ変換(IFFT)によって行うことで、受光吸収スペクトルから干渉成分を除去した吸収スペクトルが得られる。
【0025】
吸収に関して、図3Bを参照して、光がフィルム20に入射角θで入射して透過する光(PQRS)が、フィルム中を通過する光路長(L)は、
L=n・d/cosθ
となる。ランベルト・ベールの法則により、
I/I=exp(-α・L)
(I:入射光強度、I:透過光強度I、α:吸光係数)
の関係があり、吸光度(abs)は、
abs=-log(I/I
で求められるので、この波長における吸光度からはフィルムの厚さ(厚さ値B)が、
厚さ値B=C・abs=C・α・L=C・α・n・d/cosθ
(C:定数)
として算出される。実用上は、複数の波長での吸光度を用いて多変量解析を行うことによって、フィルム表面での反射の影響等が除去された厚さ値Bを求めることができる。厚さ値Bは1/cosθに比例する。
【0026】
光干渉情報に基づく厚さ値Aはcosθに比例し、光吸収情報に基づく厚さ値Bは1/cosθに比例するので、両者の相乗平均(厚さ値Aと厚さ値Bの積の平方根)をとることでcosθの項を消去して、入射角に依存しないフィルムの厚さdが算出される。
【0027】
また、厚さ値Aに代えて厚さ値Aの指標である厚さ指標Aを用い、厚さ値Bに代えて厚さ値Bの指標である厚さ指標Bを用いて、入射角の影響を相殺するように演算してもよい。厚さ指標とは、厚さに対して単調に増加または減少し、厚さと相互に換算可能なものをいう。例えば、干渉の光路差(Δ)、透過の光路長(L)、フィルムの光学的厚さ(n・d)などを用いて、厚さ値Aや厚さ値Bの算出を省略して、入射角の影響を除去したフィルム厚さdを算出してもよい。
【0028】
本実施形態の厚さ測定方法に適したフィルムの厚さは、厚さ値Aと厚さ値Bの両方を算出することの要請から定まる。ただし、以下に述べるように、通常は厚さ値Aの算出に適した範囲だけを考慮すればよい。
【0029】
光干渉情報から厚さ値Aを算出するに際して、フィルムが薄いほど干渉スペクトルの周期が長くなり、フィルムが薄すぎると、測定に用いる波長範囲内で周期を確定することが難しくなる。この点から、フィルムの厚さは、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上である。一方、フィルムが厚すぎると、干渉スペクトルの周期が分光部の波長分解能を下回ることがある。この点から、フィルムの厚さは、好ましくは1200μm以下、より好ましくは500μm以下である。
【0030】
光吸収情報から厚さ値Bを算出するに際しては、フィルムの物理的な厚さよりも吸光度が問題となる。厚さ値Bの算出のために、I/Iを精度よく測定するには、吸光度が0.01以上、3.0以下であることが好ましい。しかし、フィルムの吸光度は波長によって大きく変化するので、通常は、測定に用いる波長範囲を適切に選択することによって、吸光度が0.01以上、3.0以下である波長範囲を含めることができる。測定に利用可能な光の波長範囲、例えば400~2500nmの全域で吸光度が0.01未満または3.0超でなければ、光吸収情報から厚さ値Bを算出する上で特に問題とはならない。したがって、本実施形態の厚さ測定方法に適したフィルムの厚さとして、通常は、光干渉情報からの厚さ値Aの算出に適した範囲だけを考慮すればよい。
【0031】
以上のとおり、本実施形態の厚さ測定方法によれば、樹脂フィルム20への光の入射角が特定できない状況であっても、入射角が特定できず、さらに時間とともに変化する状況であっても、入射角の影響を排除して、より正確な厚さ測定が可能となる。
【0032】
フィルム製造工程等では、フィルムの搬送のためには不要なロールを厚さ測定のために特に設けたり、フィルムにテンションを掛けてフィルムの姿勢を一定にしたりすることがあるが、本実施形態の厚さ測定方法によればそのような付帯設備を省略できるので、設備コストが削減できる。また、フィルムが常に変形する場合など、プロセスの特性上、入射角を特定できず、従来の方法では厚さ測定ができなかった状況でも厚さ測定が可能となる。
【0033】
ハンドヘルド型の測定器では、入射角を所定の値に合わせるためにフィルムを測定器に接触させて固定することが多いが、本実施形態の厚さ測定方法によれば、測定器とフィルムを接触させる必要がないため、フィルムの汚染、損傷の恐れがない。また、測定器やフィルムの手振れがあっても厚さを測定できるので、手振れ補正のためのセンサ類が不要となる。
【実施例0034】
厚さ約50μmのポリプロピレン(PP)フィルムに、タングステンランプを光源として波長2000nmから2450nmの近赤外線を照射し、フィルムの反対側で透過光を受光した。測定は、PPフィルムを一方向に動かしながら行い、入射角は、測定開始時は0度(垂直入射)として、途中でフィルムを傾けて約45度に変更した。
【0035】
図4Aに、入射角が0度のときの受光スペクトルから算出した受光吸収スペクトル例を示す。図4Aの横軸は波長、縦軸は吸光度である。この受光吸収スペクトルには、吸収スペクトルと干渉スペクトルが重畳している。図4Bに、上述の方法を用いて図4Aから減算した干渉スペクトルを示す。この干渉スペクトルのピーク間隔から、光干渉情報に基づくフィルムの厚さ値Aが算出できる。図4Cに、図4Aの受光吸収スペクトルから図4Bの干渉スペクトルを減算した吸収スペクトルを示す。この吸収スペクトルには、フィルムを構成するPPのC-H結合に由来する吸収が現れている。この吸収スペクトルから、光吸収情報に基づくフィルムの厚さ値Bが算出できる。
【0036】
図5Aに光干渉情報に基づく厚さ値A、図5Bに光吸収情報に基づく厚さ値Bを示す。図5Aでは入射角を0度から45度に変化させたことによって厚さ値Aが減少し、図5Bでは入射角を0度から45度に変化させたことによって厚さ値Bが増加している。図5Cに、厚さ値Aと厚さ値Bの相乗平均をとって算出したフィルムの厚さを示す。図5Cから、入射角を0度から45度に変化させても、求められたフィルムの厚さに変化がないことが確認できた。
【0037】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、発明の技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。
【0038】
例えば、上記実施形態では樹脂フィルムの厚さを測定したが、測定対象はこれには限られない。測定対象は、樹脂以外の透明なフィルムであってもよい。
【0039】
また、測定対象は、基材上に塗工されたコーティング液やそれが硬化した薄膜層等の、基材上に形成された基材以外の層であってもよい。測定対象が基材以外の層であっても、基材と測定対象である層の光学的厚さが異なれば、両者の干渉スペクトルは離散フーリエ変換によって分離できる。このとき、基材と測定対象層の光学的厚さの差が大きければ、両者の干渉スペクトルはより精度よく分離できる。また、基材と測定対象層を構成する材料が異なれば、多変量解析によって両者の吸収スペクトルを分離できる。このとき、基材と測定対象層の主な吸収波長が離れていれば、両者の吸収スペクトルはより精度よく分離できる。さらに、このように基材と測定対象層の干渉スペクトルおよび吸収スペクトルが分離可能であれば、反対に、フィルム以外の層が形成されたフィルム自体の厚さを測定することも可能である。
【0040】
また、測定対象は、透明な基材に挟まれた接着層等の、複数の層からなる積層体のうちの1つの層であってもよい。この場合でも、測定対象層の光学的厚さが他のすべての層と異なれば、測定対象層の干渉スペクトルは離散フーリエ変換によって分離できるし、測定対象層を構成する材料が他のすべての層と異なれば、多変量解析によって測定対象層の吸収スペクトルを分離できる。
【0041】
また、例えば、上記実施形態では樹脂フィルムに対して投光部13の反対側に受光部14を設けて、フィルムに照射した光の透過光を受光したが、投光部と受光部を測定対象に対して同じ側に設けて、フィルムに照射し、フィルムから戻る反射光を受光してもよい。図6Aを参照して、測定対象自体からの反射光を受光する場合は、反射角が入射角同様に未知であることから、受光部の面積を十分に広くする必要がある。これに対して、図6Bを参照して、投光部13からの光が一旦フィルム20を透過して、固定された鏡面26で反射し、再びフィルム20を透過して受光部14に至る場合には、フィルムの姿勢が変化しても反射光の進路の変化は小さく、本発明のメリットが減殺されないので好ましい。
【符号の説明】
【0042】
10、11 厚さ測定システム
12 光源
13 投光部
14 受光部
15 分光部
16 演算部
17 筐体
20 樹脂フィルム(測定対象)
25 搬送ロール
26 鏡面
d 樹脂フィルムの厚さ
L 光路長
空気の屈折率
フィルムの屈折率
Δ 光路差
θ 入射角
θ 屈折角
図1
図2
図3
図4
図5
図6