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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080504
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】エンジン部品劣化診断システム
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20240606BHJP
   G06Q 10/20 20230101ALI20240606BHJP
【FI】
F02D45/00 345
G06Q10/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193759
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 陽介
【テーマコード(参考)】
3G384
5L049
【Fターム(参考)】
3G384AA15
3G384BA47
3G384DA44
3G384ED08
3G384EE32
3G384FA04Z
3G384FA22Z
3G384FA56Z
3G384FA58Z
5L049CC15
(57)【要約】
【課題】燃料フィルタだけでなく、様々なエンジン部品の劣化度を精度よく推定することが可能なエンジン部品劣化診断システムを提供する。
【解決手段】エンジン部品劣化診断システム(10)は、車両に搭載され、ガソリンとアルコールとを含む燃料を燃焼させて駆動力を発生させるエンジン(20)を構成する複数のエンジン部品のうちの少なくとも1つのエンジン部品の劣化度を推定する。複数のエンジン部品の1つは、回転部品である。エンジン部品劣化診断システム(10)は、エンジン(20)の駆動時における図示平均有効圧力(Pmi)と、回転部品の累積回転数(Rd)と、に基づいて、複数のエンジン部品のうちの少なくとも1つのエンジン部品の劣化度を推定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、ガソリンとアルコールとを含む燃料を燃焼させて駆動力を発生させるエンジン(20)を構成する複数のエンジン部品のうちの少なくとも1つの前記エンジン部品の劣化度を推定するエンジン部品劣化診断システム(10)であって、
複数の前記エンジン部品の1つは、回転部品であり、
前記エンジン(20)の駆動時における図示平均有効圧力(Pmi)と、
前記回転部品の累積回転数(Rd)と、
に基づいて、複数の前記エンジン部品のうちの少なくとも1つの前記エンジン部品の劣化度を推定する、エンジン部品劣化診断システム(10)。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジン部品劣化診断システム(10)であって、
前記燃料のアルコール含有率に対応して予め作成された複数の図示平均有効圧力参照マップを有し、
前記車両が所定距離走行するごとに前記燃料のアルコール含有率を取得し、
取得した前記燃料のアルコール含有率に基づいて、複数の前記図示平均有効圧力参照マップの中から1つの前記図示平均有効圧力参照マップを選択する、エンジン部品劣化診断システム(10)。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のエンジン部品劣化診断システム(10)であって、
前記エンジン部品のダメージによる劣化度と腐食による劣化度とを推定可能であり、
劣化度を推定する前記エンジン部品に応じて、前記ダメージによる劣化度及び前記腐食による劣化度のいずれか一方又は双方を推定する、エンジン部品劣化診断システム(10)。
【請求項4】
請求項3に記載のエンジン部品劣化診断システム(10)であって、
劣化度を推定する前記エンジン部品が、液体状態の前記燃料に接触し、且つ、摺動部品又は摺動部品が接触する部品である場合は、
前記ダメージによる劣化度及び前記腐食による劣化度の双方を推定する、エンジン部品劣化診断システム(10)。
【請求項5】
請求項3に記載のエンジン部品劣化診断システム(10)であって、
前記ダメージによる劣化度及び前記腐食による劣化度の少なくとも一方に基づいて、最適な前記燃料を推定する、エンジン部品劣化診断システム(10)。
【請求項6】
請求項1に記載のエンジン部品劣化診断システム(10)であって、
前記エンジン部品の劣化度が所定値以上の場合は、前記エンジン部品の交換を促す通知を行う、エンジン部品劣化診断システム(10)。
【請求項7】
請求項6に記載のエンジン部品劣化診断システム(10)であって、
劣化度が所定値以上の前記エンジン部品を交換する際に合わせて交換を行うことが望ましい他の前記エンジン部品がある場合には、当該他の前記エンジン部品の交換を促す通知を行う、エンジン部品劣化診断システム(10)。
【請求項8】
請求項1に記載のエンジン部品劣化診断システム(10)であって、
前記エンジンを構成する複数の前記エンジン部品のうちの少なくとも1つの前記エンジン部品の劣化度を推定するエンジン部品劣化診断装置(11)と、
前記エンジン部品劣化診断装置で推定した前記エンジン部品の劣化度に基づいて前記車両の価値を査定する車両価値査定装置(12)と、を備える、エンジン部品劣化診断システム(10)。
【請求項9】
請求項8に記載のエンジン部品劣化診断システム(10)であって、
前記車両価値査定装置(12)は、前記エンジン部品劣化診断装置(11)で推定した現時点までの前記エンジン部品の劣化度の推移と、現時点での前記車両の価値の査定結果と、に基づいて、将来の前記車両の価値の推移を予測する、エンジン部品劣化診断システム(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるエンジンを構成する複数のエンジン部品のうちの少なくとも1つのエンジン部品の劣化度を推定する、エンジン部品劣化診断システムに関する。特に、ガソリンとアルコールとを含む燃料を燃焼させて駆動力を発生させるエンジンを構成する複数のエンジン部品の劣化度を推定する、エンジン部品劣化診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ガソリンとアルコールとを含む燃料を利用可能なエンジンを備えた車両において、燃料フィルタの好適なメンテナンス時期を把握可能とする技術が開示されている。特許文献1に記載の車両では、燃料のアルコール含有率が、異物が溜まりやすいと想定される第1の基準比率以上のときの第1のパラメータの値を計数する。そして、この第1のパラメータの値が、燃料フィルタの交換が必要と想定される第1の判定値に到達したとき、ユーザにその旨が通知される。これにより、ユーザは燃料フィルタに目詰まりが発生している可能性が高いことを認識することができ、燃料フィルタの好適なメンテナンス時期を把握することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-209927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ガソリンとアルコールとを含む燃料を用いてエンジンを駆動する場合、エンジンを構成するエンジン部品は、一般的にアルコール含有率が低いほど、ノッキング発生を危惧して低圧縮比化や点火時期を遅角して出力が出し難い状態になる為、エンジン回転数を上げて且つ空気量を増やしエンジン負荷が高い状態で運転して、ダメージによる劣化が進行しやすい傾向となる。一方で燃料のアルコール含有率が高いほど、ノッキング発生し難くなる為、高圧縮比化や点火時期を進角して出力が出易い状態に出来る為、エンジン回転数を下げて且つ空気量を減らし負荷を下げて運転してダメージを下げることもできるが、アルコール性状の影響は大きくなり腐食による劣化が進行しやすい傾向となる。そのため、特許文献1のようなアルコール含有率に応じて劣化度を推定できる燃料フィルタに対し、エンジン部品等はアルコール濃度に応じた劣化と、エンジン負荷から受けるダメージの影響の双方を考慮しないと総合的な劣化度を推定することは困難であった。
【0005】
本発明は、燃料フィルタだけでなく、様々なエンジン部品の劣化度を精度よく推定することが可能なエンジン部品劣化診断システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
車両に搭載され、ガソリンとアルコールとを含む燃料を燃焼させて駆動力を発生させるエンジンを構成する複数のエンジン部品のうちの少なくとも1つの前記エンジン部品の劣化度を推定するエンジン部品劣化診断システムであって、
複数の前記エンジン部品の1つは、回転部品であり、
前記エンジンの駆動時における図示平均有効圧力と、
前記回転部品の累積回転数と、
に基づいて、複数の前記エンジン部品のうちの少なくとも1つの前記エンジン部品の劣化度を推定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、燃料フィルタだけでなく、様々なエンジン部品の劣化度を精度よく推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態のエンジン部品劣化診断システム及びエンジンのブロック図である。
図2図1のエンジン部品劣化診断システムにおいて、図示平均有効圧力参照マップ記憶部に記憶された、アルコール含有率毎の図示平均有効圧力参照マップの一例を示した図である。
図3A図1のエンジン部品劣化診断装置におけるエンジン部品劣化診断フローを示すフローチャート(その1)である。
図3B図1のエンジン部品劣化診断装置におけるエンジン部品劣化診断フローを示すフローチャート(その2)である。
図4図1のエンジン部品劣化診断システムにおいて、エンジン状態頻度割合マップ作成部で作成される、所定の走行距離に対するエンジン状態頻度割合マップの一例を示した図である。
図5図1のエンジン部品劣化診断システムにおいて、図示平均有効圧力頻度マップ作成部で作成される図示平均有効圧力頻度マップの一例を示した図である。
図6図1のエンジン部品劣化診断システムにおいて、時間頻度マップ作成部で作成される時間頻度マップの一例を示した図である。
図7図1のエンジン部品劣化診断システムにおいて、クランクシャフト累積回転数算出部で作成されるクランクシャフト回転数マップの一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のエンジン部品劣化診断システムの一実施形態を、添付図面に基づいて説明する。なお、図面は、符号の向きに見るものとする。
【0010】
図1に示すように、本実施形態のエンジン部品劣化診断システム10は、車両に搭載されたエンジン20を構成するエンジン部品の劣化度を推定する。
【0011】
車両に搭載されたエンジン20は、ガソリンとアルコールとを含む燃料を燃焼させて駆動力を発生させるエンジンであり、例えば、レシプロエンジンである。燃料に含まれるアルコールは、例えば、エタノールである。燃料に含まれるアルコールは、メタノール等、他のアルコールであってもよい。
【0012】
エンジン部品劣化診断システム10は、エンジン20を構成するエンジン部品の劣化度を推定するエンジン部品劣化診断装置11を備える。エンジン部品劣化診断装置11は、例えば、エンジン20が搭載された車両に搭載されている。
【0013】
エンジン20には、燃料に含まれるアルコールの濃度を検出する濃度センサ21と、クランクシャフトの回転速度を検出するクランクパルスセンサ22と、スロットルの開度を検出するスロットル開度センサ23と、が設けられている。
【0014】
エンジン20を構成するエンジン部品は、摺動部品を含む。摺動部品は、回転摺動部品と往復摺動部品とを有する。回転摺動部品は、クランクシャフト、バランサシャフト、カムシャフト、等を含む。回転摺動部品は、オイルポンプシャフト、変速機構のメインシャフト及びカウンタシャフト、ターボチャージャの回転シャフト、等をさらに含んでいてもよい。エンジン部品は、往復摺動部品を含む。往復摺動部品は、ピストン、ピストンリング、吸気バルブ、排気バルブ、吸気バルブシート、排気バルブシート、等を含む。また、エンジン部品は、摺動部品が接触する部品を含む。摺動部品が接触する部品は、回転摺動部品を軸支する各種軸受、シリンダ、吸気バルブガイド、排気バルブガイド、コンロッド(コネクティングロッド)、等を含む。
【0015】
<エンジン部品劣化診断装置>
エンジン部品劣化診断装置11は、ガソリンとアルコールとを含む燃料を燃焼させて駆動力を発生させるエンジン20を構成するエンジン部品の劣化度を推定する。エンジン部品劣化診断装置11は、エンジン20を構成する各エンジン部品の劣化度を推定可能である。
【0016】
エンジン部品劣化診断装置11は、燃料のアルコール含有率に対応して予め作成された複数の図示平均有効圧力参照マップを記憶する図示平均有効圧力参照マップ記憶部111と、エンジン20を構成するエンジン部品ごとに作成された、ダメージによる劣化度モデル及び腐食による劣化度モデルを記憶する劣化度モデル記憶部112と、燃料のアルコール含有率を取得するアルコール含有率取得部113と、前回のエンジン部品劣化診断の完了後からのエンジン20の駆動時間を取得するエンジン駆動時間取得部114と、クランクシャフト回転数Ne-スロットル開度Thのエンジン状態頻度割合マップを作成するエンジン状態頻度割合マップ作成部115aと、図示平均有効圧力Pmiの頻度マップを作成する図示平均有効圧力頻度マップ作成部115bと、クランクシャフト回転数Ne-スロットル開度Thの時間頻度マップを作成する時間頻度マップ作成部115cと、クランクシャフトの累積回転数を算出するクランクシャフト累積回転数算出部115dと、エンジン20を構成する各エンジン部品のダメージによる劣化度を算出するダメージ劣化度算出部116aと、エンジン20を構成する各エンジン部品の腐食による劣化度を算出する腐食劣化度算出部116bと、使用する燃料の最適なアルコール含有率を算出する最適アルコール含有率算出部117と、エンジン20を構成する各エンジン部品の状態を記憶するエンジン部品状態記憶部118と、通知部119と、エンジン部品情報記憶部120と、を備える。なお、クランクシャフト回転数Neは、クランクシャフトの1分間の回転数である。
【0017】
図示平均有効圧力参照マップ記憶部111に記憶されている燃料のアルコール含有率に対応して予め作成された図示平均有効圧力参照マップの一例を図2に示す。
【0018】
図2に示すように、図示平均有効圧力参照マップは、横軸をクランクシャフト回転数Ne[rpm]、縦軸をスロットル開度Th[%]としたテーブルである。
【0019】
横軸のクランクシャフト回転数Neは、例えば、1500[rpm]以下、1500[rpm]超2000[rpm]以下、2000[rpm]超2500[rpm]以下、2500[rpm]超3000[rpm]以下、3000[rpm]超3500[rpm]以下、3500[rpm]超4000[rpm]以下、4000[rpm]超4500[rpm]以下、4500[rpm]超5000[rpm]以下、5000[rpm]超5500[rpm]以下、5500[rpm]超6000[rpm]以下、6000[rpm]超6500[rpm]以下、6500[rpm]超7000[rpm]以下、7000[rpm]超7500[rpm]以下、7500[rpm]超8000[rpm]以下、8000[rpm]超8500[rpm]以下、8500[rpm]超9000[rpm]以下、9000[rpm]超9500[rpm]以下、9500[rpm]超10000[rpm]以下、10000[rpm]超10500[rpm]以下、10500[rpm]超11000[rpm]以下、11000[rpm]超、に分類されている。
【0020】
縦軸のスロットル開度Thは、例えば、0[%]、0[%]超10[%]以下、10[%]超20[%]以下、20[%]超30[%]以下、30[%]超40[%]以下、40[%]超50[%]以下、50[%]超60[%]以下、60[%]超70[%]以下、70[%]超80[%]以下、80[%]超90[%]以下、90[%]超(100[%]以下)、に分類されている。
【0021】
そして、クランクシャフト回転数Ne-スロットル開度Thのそれぞれ対応するセルに、図示平均有効圧力Pmi[kPa]が記録されている。
【0022】
図示平均有効圧力Pmi[kPa]は、1サイクル当たりの仕事量をエンジンが持つ行程容積で割った数字であり、下記の式(1)によって求められる値である。
【0023】
Pmi[kPa]=Pme[kPa]+Pmf[kPa] ・・・(1)
【0024】
Pmeは、正味平均有効圧力であり、下記の式(2)によって求められる値である。
【0025】
Pme[kPa]=(12×10^4×P)/(Ne×Vst) ・・・(2)
【0026】
P[kW]は、1サイクル当たりのエンジン20のシリンダ内の修正圧力であり、Ne[rpm]は、前述したクランクシャフト回転数Neであり、Vst[l]は、エンジン20のシリンダにおける1サイクル当たりの総行程容積である。
【0027】
また、Pmfは摩擦損失平均有効圧力であり、下記の式(3)によって求められる値である。
【0028】
Pmf[kPa]=(12×10^4×Psf)/(Ne×Vst)・・・(3)
【0029】
Psf[kW]は、エンジン20のシリンダにおける1サイクル当たりの摩擦損失であり、Ne[rpm]は、前述したクランクシャフト回転数Neであり、Vst[l]は、エンジン20のシリンダにおける1サイクル当たりの総行程容積である。
【0030】
本実施形態では、クランクシャフト回転数Ne-スロットル開度Thのそれぞれに対応する図示平均有効圧力Pmi[kPa]は、エンジン20が車両に搭載される前に、テストベンチ等で試験して取得する。なお、エンジン20に指圧センサ/吸排気圧センサが取り付けられている場合は、オンボードでエンジン20の燃焼解析を行って、図示平均有効圧力Pmi[kPa]を算出してもよい。
【0031】
そして、燃料のアルコール含有率が、例えば、0[%]、0[%]超10[%]以下、10[%]超20[%]以下、20[%]超30[%]以下、30[%]超40[%]以下、40[%]超50[%]以下、50[%]超60[%]以下、60[%]超70[%]以下、70[%]超80[%]以下、80[%]超90[%]以下、90[%]超(100[%]以下)、のそれぞれの場合についての図示平均有効圧力参照マップを、エンジン20が車両に搭載される前に作成して、図示平均有効圧力参照マップ記憶部111に記憶する。
【0032】
劣化度モデル記憶部112に記憶されている、エンジン20を構成するエンジン部品ごとに作成された、ダメージによる劣化度モデルは、図示平均有効圧力Pmi[kPa]×クランクシャフト累積回転数[万回]×摩耗速度αによってあらわされる所定の数値[kPa・万回]である。本明細書等では、この数値をダメージ劣化値と呼ぶ。
【0033】
摩耗速度αは、下記の式(4)によって求められる所定の係数である。
α=f(Ne,TRQ) ・・・(4)
【0034】
Neは、前述のクランクシャフト回転数Neであり、TRQは、当該エンジン部品に入力されるトルクである。摩耗速度αは、各エンジン部品の単体テストによって決定される。摩耗速度は、一般に、0.4~0.8の数値である。各エンジン部品の摩耗速度αは、予めエンジン部品情報記憶部120に記憶している。
【0035】
例えば、所定のエンジン部品のダメージによる劣化度モデルにおいて、ダメージ劣化値=4,500,000[kPa・万回]が当該エンジン部品の限界寿命である限界ダメージ劣化値であり、4,000,000[kPa・万回]が当該エンジン部品の交換が必要である要交換ダメージ劣化値に設定されている。
【0036】
エンジン20を構成するエンジン部品は、燃料のアルコール含有率[%]が高い環境下であるほど腐食による劣化が進行しやすい。劣化度モデル記憶部112に記憶されている、エンジン20を構成するエンジン部品ごとに作成された、腐食による劣化度モデルは、(燃料のアルコール含有率[%]/100)×図示平均有効圧力Pmi[kPa]×クランクシャフト累積回転数[万回]×腐食速度βによってあらわされる所定の数値[kPa・万回]である。本明細書等では、この数値を腐食劣化値と呼ぶ。
【0037】
腐食速度βは、下記の式(5)によって定められる所定の係数である。
β=8.954×(M/n)×icorr ・・・(5)
【0038】
Mは、当該エンジン部品の材料の原子量であり、nは、当該エンジン部品の材料が溶解するときの電子価である。
【0039】
また、icorrは、腐食電流密度[A/m]であり、下記の式(6)によって求められる。
corr=K/Rp ・・・(6)
【0040】
Kは、当該エンジン部品の材料と腐食要因のアルコールとの組み合わせによって決まる定数であり、Rpは、分極抵抗である。分極抵抗とは、腐食電位近傍における分極曲線の直線部の傾きのことであり、電位の分極値を電流で割った値である。腐食速度βは、一般に、50~1000の値である。各エンジン部品の腐食速度βは、予めエンジン部品情報記憶部120に記憶している。
【0041】
腐食速度βは、各エンジン部品の単体テストによって決定されてもよい。例えば、各エンジン部品について腐食試験を行い、実験的に腐食速度βを決定してもよい。例えば、アルコール含有率100[%]の燃料を用いて腐食試験を行い、腐食速度β=(腐食電位-自然電位)/year等によって求められる。
【0042】
例えば、所定のエンジン部品の腐食による劣化度モデルにおいて、2,250,000,000[kPa・万回]が当該エンジン部品の限界寿命である限界腐食劣化値であり、2,000,000,000[kPa・万回]が当該エンジン部品の交換が必要である要交換腐食劣化値に設定されている。
【0043】
エンジン部品状態記憶部118は、エンジン20を構成する各エンジン部品の最新の交換時期、後述するエンジン部品劣化診断において算出、推定された各回のダメージ劣化値[kPa・万回]、腐食劣化値[kPa・万回]、ダメージ劣化度[%]、腐食劣化度[%]、等を含む、エンジン部品の状態を示す情報を記憶する。
【0044】
エンジン部品情報記憶部120には、各エンジン部品の摩耗速度α、腐食速度βを含む、各エンジン部品の部品情報が予め記憶されている。
【0045】
<エンジン部品劣化診断フロー>
次に、図3Aから図7を参照して、エンジン部品劣化診断装置11におけるエンジン部品劣化診断フローについて説明する。ここでは、液体状態の燃料に接触し、且つ、摺動部品又は摺動部品が接触する部品の劣化診断フローについて説明する。液体状態の燃料に接触し、且つ、摺動部品又は摺動部品が接触する部品は、例えば、吸気バルブ、排気バルブ、吸気バルブシート、排気バルブシート、シリンダ、ピストン、ピストンリング、等である。
【0046】
エンジン部品劣化診断は、所定の走行距離ごと、例えば、10000[km]ごとに実行される。
【0047】
まず、前回のエンジン部品劣化診断の完了後、まず、エンジン部品劣化診断に用いる車両の走行距離L1の計測を開始する(ステップS101)。
【0048】
次に、ステップS102へと進み、後述する平均Pmi算出に用いる車両の走行距離L2の計測を開始する。
【0049】
次に、ステップS103へと進み、燃料のアルコール含有率[%]と、エンジン20のNe-Th状態と、エンジン20の駆動時間[hr]と、を取得する。本実施形態では、アルコール含有率取得部113において、燃料のアルコール含有率を取得する。アルコール含有率取得部113は、エンジン20の濃度センサ21が検出した燃料に含まれるアルコールの濃度に基づいて、燃料のアルコール含有率を取得する。また、エンジン20のクランクパルスセンサ22が検出したクランクシャフト回転数Neと、エンジン20のスロットル開度センサ23が検出したスロットル開度Thと、に基づいて、エンジン20のNe-Th状態を取得する。また、エンジン駆動時間取得部114において、走行距離L2の計測を開始してからのエンジン20の駆動時間[hr]を取得する。
【0050】
続いて、ステップS104へと進み、平均Pmi算出に用いる車両の走行距離L2が250[km]以上であるか否かを判定する。平均Pmi算出に用いる車両の走行距離L2が250[km]以上でない場合(ステップS104:NO)は、ステップS103へと戻り、燃料のアルコール含有率[%]と、エンジン20のNe-Th状態と、エンジン20の駆動時間[hr]と、の取得を継続する。
【0051】
そして、平均Pmi算出に用いる車両の走行距離L2が250[km]以上になると(ステップS104:YES)、ステップS105へと進む。
【0052】
ステップS105では、エンジン20のクランクパルスセンサ22が検出したクランクシャフト回転数Neと、エンジン20のスロットル開度センサ23が検出したスロットル開度Thと、に基づいて、エンジン状態頻度割合マップ作成部115aにおいて、クランクシャフト回転数Ne-スロットル開度Thのエンジン状態頻度割合マップを作成する。
【0053】
エンジン状態頻度割合マップは、図4に示すように、横軸をクランクシャフト回転数Ne[rpm]、縦軸をスロットル開度Th[%]としたテーブルである。
【0054】
横軸のクランクシャフト回転数Neは、例えば、1500[rpm]以下、1500[rpm]超2000[rpm]以下、2000[rpm]超2500[rpm]以下、2500[rpm]超3000[rpm]以下、3000[rpm]超3500[rpm]以下、3500[rpm]超4000[rpm]以下、4000[rpm]超4500[rpm]以下、4500[rpm]超5000[rpm]以下、5000[rpm]超5500[rpm]以下、5500[rpm]超6000[rpm]以下、6000[rpm]超6500[rpm]以下、6500[rpm]超7000[rpm]以下、7000[rpm]超7500[rpm]以下、7500[rpm]超8000[rpm]以下、8000[rpm]超8500[rpm]以下、8500[rpm]超9000[rpm]以下、9000[rpm]超9500[rpm]以下、9500[rpm]超10000[rpm]以下、10000[rpm]超10500[rpm]以下、10500[rpm]超11000[rpm]以下、11000[rpm]超、に分類されている。
【0055】
縦軸のスロットル開度Thは、例えば、0[%]、0[%]超10[%]以下、10[%]超20[%]以下、20[%]超30[%]以下、30[%]超40[%]以下、40[%]超50[%]以下、50[%]超60[%]以下、60[%]超70[%]以下、70[%]超80[%]以下、80[%]超90[%]以下、90[%]超(100[%]以下)、に分類されている。
【0056】
そして、エンジン状態頻度割合マップは、クランクシャフト回転数Ne-スロットル開度Thの対応する各セルに、前回のエンジン部品劣化診断の完了後からのエンジン20の駆動時間を100としたときの、対応するクランクシャフト回転数Ne-スロットル開度Thの状態であった割合を記録したテーブルである。これは、エンジン20の駆動時において、随時更新されるものであってもよい。
【0057】
続いて、ステップS106へと進み、ステップS103で取得した燃料のアルコール含有率[%]から、燃料の平均アルコール含有率[%]を算出する。燃料の平均アルコール含有率[%]は、ステップS102で平均Pmi算出に用いる車両の走行距離L2の計測を開始してからステップS103で取得した燃料のアルコール含有率[%]の平均値である。
【0058】
続いて、ステップS107へと進み、図示平均有効圧力頻度マップ作成部115bにおいて、図示平均有効圧力参照マップ記憶部111に記憶されている燃料のアルコール含有率に対応して予め作成された複数の図示平均有効圧力参照マップの中から、ステップS106で算出した燃料の平均アルコール含有率[%]に対応する1つの図示平均有効圧力参照マップを選択する。
【0059】
続いて、ステップS108へと進み、図示平均有効圧力頻度マップ作成部115bにおいて、図示平均有効圧力Pmiの頻度マップを作成する。具体的には、まず、ステップS105で作成されたエンジン状態頻度割合マップと、ステップS107で選択された1つの図示平均有効圧力参照マップと、を参照する。そして、それぞれのクランクシャフト回転数Ne-スロットル開度Thの対応するセル同士の値を乗じた値を、クランクシャフト回転数Ne-スロットル開度Thの対応する各セルに記録する。このようにして作成されたテーブルが、図5に示す図示平均有効圧力頻度マップである。さらにステップS108では、作成した図示平均有効圧力頻度マップから、平均Pmiを算出する。具体的には、作成した図示平均有効圧力頻度マップにおける全セルの値の総和を算出し、(図示平均有効圧力頻度マップにおける全セルの値の総和)/100により、平均Pmiの値を算出する。
【0060】
続いて、ステップS109へと進み、時間頻度マップ作成部115cにおいて、時間頻度マップを作成する。
【0061】
時間頻度マップ作成部115cでは、まず、ステップS103で取得したエンジン20の駆動時間[hr]に基づいて、ステップS102で平均Pmi算出に用いる車両の走行距離L2の計測開始から車両の走行距離が250[km]に到達するまでのエンジン20の駆動時間[hr]と、ステップS102で平均Pmi算出に用いる車両の走行距離L2の計測開始から車両の走行距離が250[km]に到達するまでの間にステップS105で作成されたエンジン状態頻度割合マップと、を参照する。そして、エンジン状態頻度割合マップにおけるクランクシャフト回転数Ne-スロットル開度Thの各セルに、ステップS103で取得したエンジン20の駆動時間[hr]を乗じた値を記録する。このようにして作成されたテーブルが、図6に示す時間頻度マップである。
【0062】
続いて、ステップS110へと進み、クランクシャフト累積回転数算出部115dにおいて、ステップS102で平均Pmi算出に用いる車両の走行距離L2の計測開始から車両の走行距離が250[km]に到達するまでのエンジン20のクランクシャフトの累積回転数Rd[万回]を算出する。
【0063】
クランクシャフト累積回転数算出部115dでは、まず、ステップS109で作成した時間頻度マップの各セルに対して、対応するクランクシャフト回転数Ne[rpm]×60を乗じた値を記録する。対応するクランクシャフト回転数Ne[rpm]は、例えば、時間頻度マップにおいて、1500[rpm]以下の列は、1500[rpm]、1500[rpm]超2000[rpm]以下の列は、2000[rpm]、2000[rpm]超2500[rpm]以下の列は、2500[rpm]、2500[rpm]超3000[rpm]以下の列は、3000[rpm]、3000[rpm]超3500[rpm]以下の列は、3500[rpm]、3500[rpm]超4000[rpm]以下の列は、4000[rpm]、4000[rpm]超4500[rpm]以下の列は、4500[rpm]、4500[rpm]超5000[rpm]以下の列は、5000[rpm]、5000[rpm]超5500[rpm]以下の列は、5500[rpm]、5500[rpm]超6000[rpm]以下の列は、6000[rpm]、6000[rpm]超6500[rpm]以下の列は、6500[rpm]、6500[rpm]超7000[rpm]以下の列は、7000[rpm]、7000[rpm]超7500[rpm]以下の列は、7500[rpm]、7500[rpm]超8000[rpm]以下の列は、8000[rpm]、8000[rpm]超8500[rpm]以下の列は、8500[rpm]、8500[rpm]超9000[rpm]以下の列は、9000[rpm]、9000[rpm]超9500[rpm]以下の列は、9500[rpm]、9500[rpm]超10000[rpm]以下の列は、10000[rpm]、10000[rpm]超10500[rpm]以下の列は、10500[rpm]、10500[rpm]超11000[rpm]以下の列は、11000[rpm]、11000[rpm]超の列は、11500[rpm]とする。このようにして作成されたテーブルが、図7に示すクランクシャフト回転数マップである。
【0064】
そして、作成されたクランクシャフト回転数マップの全セルの値の総和を算出する。このようにして、ステップS102で平均Pmi算出に用いる車両の走行距離L2が250[km]に到達するまでのエンジン20のクランクシャフトの累積回転数Rd[万回]を算出する。
【0065】
ステップS105からステップS110が完了すると、ステップS111に進み、ステップS102で平均Pmi算出に用いる車両の走行距離L2をリセットする。
【0066】
続いて、ステップS112に進み、エンジン部品劣化診断に用いる車両の走行距離L1が所定の走行距離(例えば、10000[km])に到達したか否かを判定する。エンジン部品劣化診断に用いる車両の走行距離L1が所定の走行距離(例えば、10000[km])に到達していない場合(ステップS112:NO)は、ステップS102へと戻り、平均Pmi算出に用いる車両の走行距離L2が250[km]に達するごとに行う平均Pmi算出、時間頻度マップ作成、及び、クランクシャフトの累積回転数Rdの算出を繰り返す。そして、エンジン部品劣化診断に用いる車両の走行距離L1が所定の走行距離(例えば、10000[km])に到達すると(ステップS112:YES)、ステップS113へと進む。
【0067】
ステップS113では、ダメージ劣化度算出部116aにおいて、劣化度を推定する対象のエンジン部品のダメージによる劣化度であるダメージ劣化度[%]を推定する。
【0068】
ステップS113では、まず、ステップS101におけるエンジン部品劣化診断に用いる車両の走行距離L1が所定の走行距離(例えば、10000[km])に到達するまでの間に、ステップS108で算出した各平均Pmiの値の平均値を算出する。
【0069】
続いて、ステップS101におけるエンジン部品劣化診断に用いる車両の走行距離L1が所定の走行距離(例えば、10000[km])に到達するまでの間に、ステップS110で算出した各クランクシャフトの累積回転数Rd[万回]の総和を算出する。
【0070】
そして、ダメージ劣化値[kPa・万回]=平均Pmi[kPa]の平均値×クランクシャフトの累積回転数Rd[万回]の総和×α(摩耗速度)の値を算出する。
【0071】
そして、前回のエンジン部品劣化診断までのダメージ劣化値[kPa・万回]の合計値に、今回のエンジン部品劣化診断で算出したダメージ劣化値[kPa・万回]の値を加算して、累積ダメージ劣化値[kPa・万回]を算出する。
【0072】
最後に、ダメージ劣化度[%]=(累積ダメージ劣化値[kPa・万回]×100)/(対象のエンジン部品の要交換ダメージ劣化値[kPa・万回])を算出する。このようにして、ダメージ劣化度算出部116aにおいて、劣化度を推定する対象のエンジン部品のダメージによる劣化度であるダメージ劣化度[%]を推定する。
【0073】
続いて、ステップS114へと進み、腐食劣化度算出部116bにおいて、劣化度を推定する対象のエンジン部品の腐食による劣化度である腐食劣化度[%]を推定する。
【0074】
ステップS114では、まず、ステップS101におけるエンジン部品劣化診断に用いる車両の走行距離L1が所定の走行距離(例えば、10000[km])に到達するまでの間に、ステップS108で算出した各平均Pmiの値の平均値を算出する。
【0075】
続いて、ステップS101におけるエンジン部品劣化診断に用いる車両の走行距離L1が所定の走行距離(例えば、10000[km])に到達するまでの間に、ステップS106で算出した燃料の各平均アルコール含有率[%]の値の平均値を算出する。
【0076】
続いて、ステップS101におけるエンジン部品劣化診断に用いる車両の走行距離L1が所定の走行距離(例えば、10000[km])に到達するまでの間に、ステップS110で算出した各クランクシャフトの累積回転数Rd[万回]の総和を算出する。
【0077】
そして、腐食劣化値[kPa・万回]=(燃料の各アルコール含有率[%]の平均値/100)×各平均Pmi[kPa]の平均値×クランクシャフトの累積回転数Rd[万回]の総和×β(腐食速度)の値を算出する。
【0078】
そして、前回のエンジン部品劣化診断までの腐食劣化値[kPa・万回]の合計値に、今回のエンジン部品劣化診断で算出した腐食劣化値[kPa・万回]の値を加算して、累積腐食劣化値[kPa・万回]を算出する。
【0079】
最後に、腐食劣化度[%]=(累積腐食劣化値[kPa・万回]×100)/(対象のエンジン部品の要交換腐食劣化値[kPa・万回])を算出する。このようにして、腐食劣化度算出部116bにおいて、劣化度を推定する対象のエンジン部品の腐食による劣化度である腐食劣化度[%]を推定する。
【0080】
このようにして、エンジン20の駆動時における図示平均有効圧力Pmi[kPa]と、クランクシャフトの累積回転数Rd[万回]と、に基づいて、劣化度を推定する対象のエンジン部品のダメージ劣化度[%]と腐食劣化度[%]とを推定する。
【0081】
これにより、燃料フィルタだけでなく、様々なエンジン部品の劣化度を精度よく推定することが可能となる。
【0082】
また、エンジン部品のダメージによる劣化度と腐食による劣化度とを推定可能であり、劣化度を推定するエンジン部品に応じて、ダメージによる劣化度及び腐食による劣化度のいずれか一方又は双方を推定することによって、エンジン部品の劣化度の推定精度を向上させることができる。
【0083】
特に、前述したように、劣化度を推定する対象のエンジン部品が、液体状態の燃料に接触し、且つ、摺動部品又は摺動部品が接触する部品である場合は、ダメージによる劣化度及び腐食による劣化度の双方を推定する。
【0084】
これにより、ダメージによる劣化及び腐食による劣化の双方の影響が大きいエンジン部品に対して、劣化度の推定精度を向上させることができる。
【0085】
また、前述したように、ステップS103及びS104において、車両が所定距離走行するごとに燃料のアルコール含有率を取得し、ステップS107において、ステップS103で取得した燃料のアルコール含有率からS106にて平均アルコール含有率を算出して、それに基づいて燃料のアルコール含有率に対応して予め作成された複数の図示平均有効圧力参照マップの中から1つの図示平均有効圧力参照マップを選択する。
【0086】
このように、燃料のアルコール含有率に対応して複数の図示平均有効圧力参照マップを予め作成し、燃料のアルコール含有率に対応する図示平均有効圧力のマップが選択されることで、エンジン20に使用される燃料のアルコール含有率に応じたエンジン部品の劣化度の推定精度を向上させることができる。
【0087】
そして、ステップS115へと進み、今回のエンジン部品劣化診断における対象のエンジン部品の劣化度として、対象のエンジン部品のステップS113で推定したダメージ劣化値[kPa・万回]及びダメージ劣化度[%]、並びに、ステップS114で推定した腐食劣化値[kPa・万回]及び腐食劣化度[%]を、エンジン部品状態記憶部118に記憶する。
【0088】
続いて、ステップS116へと進み、対象のエンジン部品のステップS113で推定したダメージ劣化度[%]及びステップS114で推定した腐食劣化度[%]が例えば、80[%]以上であるか否かを判定する。なお、この判定する値は一例であって、80[%]に限らず、各部品の安全率の考え方等に応じて決めれば良い。
【0089】
対象のエンジン部品のステップS113で推定したダメージ劣化度[%]及びステップS114で推定した腐食劣化度[%]の少なくとも一方が80[%]以上である場合(ステップS116:YES)は、ステップS117へと進む。対象のエンジン部品のステップS113で推定したダメージ劣化度[%]及びステップS114で推定した腐食劣化度[%]のいずれも80[%]未満である場合(ステップS116:NO)は、ステップS118へと進む。
【0090】
ステップS117では、通知部119において、対象のエンジン部品の交換を促す通知を行う。例えば、通知部119は表示パネルであり、対象のエンジン部品の交換を促すことを示す文字情報を表示してもよいし、通知部119はLED等の表示灯であり、対象のエンジン部品の交換を促す場合はこの表示灯が点灯する態様であってもよい。そして、ステップS121へと進む。
【0091】
これにより、車両のユーザに対し、適切なタイミングでエンジン部品の交換を促すことができる。
【0092】
また、エンジン部品劣化診断装置11におけるエンジン部品劣化診断において、複数のエンジン部品の劣化度を診断する場合、ステップS117では、交換を促す通知を行う対象となったエンジン部品を交換する際に合わせて交換を行うことが望ましい他のエンジン部品がある場合には、通知部119において、当該他のエンジン部品の交換を促す通知を行う。
【0093】
これにより、交換に大きな工数を要するエンジン部品の交換を促す通知を行う場合に、当該エンジン部品の交換に合わせて交換を行うことが望ましい周辺のエンジン部品の交換を促す通知を行うことができるので、これらのエンジン部品を別々に交換するよりも、交換に要する工数及び費用を削減することができる。
【0094】
ステップS118では、対象のエンジン部品のステップS113で推定したダメージ劣化度[%]が、ステップS114で推定した腐食劣化度[%]以上であるか否かを判定する。
【0095】
一般に、燃料のアルコール含有率が低いほどダメージによる劣化度が大きくなり、燃料のアルコール含有率が高いほど腐食による劣化度が大きくなる。
【0096】
したがって、対象のエンジン部品のステップS113で推定したダメージ劣化度[%]が、ステップS114で推定した腐食劣化度[%]以上である場合(ステップS113:YES)、最適な燃料はアルコール含有率が高い燃料であることが推定される。そこで、ステップS119へと進み、通知部119において、アルコール含有率が高い燃料の使用を推奨する旨の通知を行う。例えば、通知部119は表示パネルであり、アルコール含有率が高い燃料の使用を推奨することを示す文字情報を表示してもよいし、通知部119はLED等の表示灯であり、アルコール含有率が高い燃料の使用を推奨する場合はこの表示灯が点灯する態様であってもよい。そして、ステップS121へと進む。
【0097】
一方、対象のエンジン部品のステップS113で推定したダメージ劣化度[%]が、ステップS114で推定した腐食劣化度[%]未満である場合(ステップS113:NO)、最適な燃料はアルコール含有率が低い燃料であることが推定される。そこで、ステップS120へと進み、通知部119において、アルコール含有率が低い燃料の使用を推奨する旨の通知を行う。例えば、通知部119は表示パネルであり、アルコール含有率が低い燃料の使用を推奨することを示す文字情報を表示してもよいし、通知部119はLED等の表示灯であり、アルコール含有率が低い燃料の使用を推奨する場合はこの表示灯が点灯する態様であってもよい。そして、ステップS121へと進む。
【0098】
このように、対象のエンジン部品のステップS113で推定したダメージ劣化度[%]及びステップS114で推定した腐食劣化度[%]の少なくとも一方に基づいて、通知部119において、最適な燃料を示す情報を通知する。
【0099】
これにより、エンジン部品の劣化の観点から望ましいアルコール含有率の燃料を使用することを推奨することで、エンジン部品の交換が必要になるタイミングを遅らせることができ、エンジン部品をより長期間使用することができる。エンジン部品をより長期間使用することは、エンジン部品の製造/処分時における二酸化炭素の排出量削減することができるので、カーボンニュートラルの観点からも好ましい。
【0100】
これで、1回のエンジン部品劣化診断が終了し、ステップS101におけるエンジン部品劣化診断に用いる車両の走行距離L1をリセットして(ステップS121)、再びステップS101に戻る。
【0101】
<車両価値査定装置>
図1に戻って、エンジン部品劣化診断システム10は、エンジン部品劣化診断装置11で推定したエンジン部品の劣化度に基づいて車両の価値を査定する車両価値査定装置12、をさらに備える。車両価値査定装置12は、エンジン20が搭載された車両に搭載されていてもよいし、エンジン20が搭載された車両の外部に設けられていてもよい。車両価値査定装置12は、例えば、車両の販売店や車両の修理工場に設置されていてもよいし、車両の製造会社が設置した、自社製造の複数車両を管理する管理サーバであってもよい。本実施形態では、車両価値査定装置12は、エンジン20が搭載された車両の外部に設けられている。エンジン部品劣化診断装置11と車両価値査定装置12とは、無線又は着脱可能なケーブル等によって、相互にデータ通信が可能となっている。
【0102】
車両価値査定装置12は、エンジン部品劣化診断装置11で推定した1以上のエンジン部品の劣化度に基づいて車両の価値を査定する。
【0103】
車両価値査定装置12は、エンジン部品劣化診断装置11のエンジン部品状態記憶部118に記憶された、各エンジン部品の最新のダメージ劣化度[%]及び腐食劣化度[%]を取得する。そして、車両価値査定装置12は、取得した各エンジン部品の最新のダメージ劣化度[%]及び腐食劣化度[%]に基づいて、現在の車両の価値を査定する。例えば、定期的に劣化したエンジン部品を交換し、各エンジン部品の最新のダメージ劣化度[%]及び腐食劣化度[%]が低い場合は、車両の価値が高くなるように査定する。
【0104】
これにより、各エンジン部品の劣化度を考慮して、車両の価値をより合理的に査定することができる。
【0105】
また、車両価値査定装置12は、エンジン部品劣化診断装置11のエンジン部品状態記憶部118に記憶された、エンジン部品劣化診断装置11で現時点までに行った複数のエンジン部品劣化診断における各エンジン部品のダメージ劣化度[%]及び腐食劣化度[%]の推移を取得する。そして、車両価値査定装置12は、取得した現時点までの各エンジン部品のダメージ劣化度[%]及び腐食劣化度[%]の推移と、現時点での車両の価値を査定結果と、に基づいて、将来の車両の価値の推移を予測する。
【0106】
これにより、車両のユーザは、エンジン部品のダメージ劣化度[%]及び腐食劣化度[%]の推移に基づいて、将来に車両を売却することを検討する際に、より適切な車両の売却タイミングを予測することができる。
【0107】
車両価値査定装置12は、各エンジン部品の最新のダメージ劣化度[%]及び腐食劣化度[%]、並びに/もしくは、現時点までに行った複数のエンジン部品劣化診断における各エンジン部品のダメージ劣化度[%]及び腐食劣化度[%]の推移、に基づいて、所定のエンジン部品を交換した場合の車両の価値をシミュレーション可能であってもよい。
【0108】
これにより、車両のユーザは、所定のエンジン部品を交換した場合の車両の価値の変化に基づいて、当該エンジン部品を交換するか否かの判断を行うことができる。
【0109】
以上、本発明の一実施形態について、添付図面を参照しながら説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0110】
例えば、本実施形態では、液体状態の燃料に接触し、且つ、摺動部品又は摺動部品が接触する部品の劣化診断フローについて説明したが、液体状態の燃料に接触するが、摺動部品でも摺動部品が接触する部品でもない部品、例えば、オイルシール、ガスケット、パッキン類等については、腐食による劣化度(腐食劣化度)のみを推定してもよいし、気体状態の燃料にはほぼ接触しない、且つ、摺動部品又は摺動部品が接触する部品、例えば、クランクシャフト、コンロッド(コネクティングロッド)、軸受部品等については、ダメージによる劣化度(ダメージ劣化度)のみを推定してもよい。
【0111】
また、例えば、本実施形態では、エンジン部品劣化診断装置11は、エンジン20が搭載された車両に搭載されているものとしたが、車両に搭載されていなくてもよい。エンジン部品劣化診断装置11は、例えば、クラウドサーバ上にあってもよいし、一部がクラウドサーバ上にあり、他の一部が車両にあってもよい。
【0112】
また、例えば、本実施形態では、エンジン部品劣化診断は、10000[km]ごとに実行されるものとしたが、エンジン部品劣化診断は、所定の走行距離ごとに実行されればよい。
【0113】
また、例えば、本実施形態では、ステップS102において、平均Pmi算出に用いる車両の走行距離L2の計測を開始し、ステップS104において、ステップS102で平均Pmi算出に用いる車両の走行距離L2が250[km]以上であるか否かを判定するものとしたが、250[km]以外の所定の走行距離であってもよく、また、ユーザによって燃料が車両へ給油されるごとにステップS105からステップS110を実行するものであってもよい。例えば、車両にリッドセンサ等が取り付けられており、リッドセンサの検出情報に基づいて、ユーザによって燃料が車両へ給油されたか否かを判定してもよい。
【0114】
また、本実施形態では、クランクシャフトの累積回転数Rdに基づいて、ダメージ劣化度及び腐食劣化度を推定するものとしたが、エンジン20を構成するクランクシャフト以外の任意の回転部品、例えば、カムシャフト等の累積回転数に基づいて、ダメージ劣化度及び腐食劣化度を推定するものとしてもよい。
【0115】
本明細書には少なくとも以下の事項が記載されている。括弧内には、上記した実施形態において対応する構成要素等を一例として示しているが、これに限定されるものではない。
【0116】
(1) 車両に搭載され、ガソリンとアルコールとを含む燃料を燃焼させて駆動力を発生させるエンジン(エンジン20)を構成する複数のエンジン部品のうちの少なくとも1つの前記エンジン部品の劣化度を推定するエンジン部品劣化診断システム(エンジン部品劣化診断システム10)であって、
複数の前記エンジン部品の1つは、回転部品であり、
前記エンジンの駆動時における図示平均有効圧力(図示平均有効圧力Pmi)と、
前記回転部品の累積回転数(クランクシャフトの累積回転数Rd)と、
に基づいて、複数の前記エンジン部品のうちの少なくとも1つの前記エンジン部品の劣化度を推定する、エンジン部品劣化診断システム。
【0117】
(1)によれば、燃料フィルタだけでなく、様々なエンジン部品の劣化度を精度よく推定することが可能となる。
【0118】
(2) (1)に記載のエンジン部品劣化診断システムであって、
前記燃料のアルコール含有率に対応して予め作成された複数の図示平均有効圧力参照マップを有し、
前記車両が所定距離走行するごとに前記燃料のアルコール含有率を取得し、
取得した前記燃料のアルコール含有率に基づいて、複数の前記図示平均有効圧力参照マップの中から1つの前記図示平均有効圧力参照マップを選択する、エンジン部品劣化診断システム。
【0119】
(2)によれば、燃料のアルコール含有率に対応して複数の図示平均有効圧力参照マップを予め作成し、燃料のアルコール含有率に対応する図示平均有効圧力のマップが選択されることで、エンジン20に使用される燃料のアルコール含有率に応じたエンジン部品の劣化度の推定精度を向上させることができる。
【0120】
(3) (1)又は(2)に記載のエンジン部品劣化診断システムであって、
前記エンジン部品のダメージによる劣化度と腐食による劣化度とを推定可能であり、
劣化度を推定する前記エンジン部品に応じて、前記ダメージによる劣化度及び前記腐食による劣化度のいずれか一方又は双方を推定する、エンジン部品劣化診断システム。
【0121】
(3)によれば、エンジン部品のダメージによる劣化度と腐食による劣化度とを推定可能であり、劣化度を推定するエンジン部品に応じて、ダメージによる劣化度及び腐食による劣化度のいずれか一方又は双方を推定することによって、エンジン部品の劣化度の推定精度を向上させることができる。
【0122】
(4) (3)に記載のエンジン部品劣化診断システムであって、
劣化度を推定する前記エンジン部品が、液体状態の前記燃料に接触し、且つ、摺動部品又は摺動部品が接触する部品である場合は、
前記ダメージによる劣化度及び前記腐食による劣化度の双方を推定する、エンジン部品劣化診断システム。
【0123】
(4)によれば、ダメージによる劣化及び腐食による劣化の双方の影響が大きいエンジン部品に対して、劣化度の推定精度を向上させることができる。
【0124】
(5) (3)に記載のエンジン部品劣化診断システムであって、
前記ダメージによる劣化度及び前記腐食による劣化度の少なくとも一方に基づいて、最適な前記燃料を推定する、エンジン部品劣化診断システム。
【0125】
(5)によれば、エンジン部品の交換が必要になるタイミングを遅らせることができ、エンジン部品をより長期間使用することができる。
【0126】
(6) (1)に記載のエンジン部品劣化診断システムであって、
前記エンジン部品の劣化度が所定値以上の場合は、前記エンジン部品の交換を促す通知を行う、エンジン部品劣化診断システム。
【0127】
(6)によれば、車両のユーザに対し、適切なタイミングでエンジン部品の交換を促すことができる。
【0128】
(7) (6)に記載のエンジン部品劣化診断システムであって、
劣化度が所定値以上の前記エンジン部品を交換する際に合わせて交換を行うことが望ましい他の前記エンジン部品がある場合には、当該他の前記エンジン部品の交換を促す通知を行う、エンジン部品劣化診断システム。
【0129】
(7)によれば、交換に大きな工数を要するエンジン部品の交換を促す通知を行う場合に、当該エンジン部品の交換に合わせて交換を行うことが望ましい周辺のエンジン部品の交換を促す通知を行うことができるので、これらのエンジン部品を別々に交換するよりも、交換に要する工数及び費用を削減することができる。
【0130】
(8) (1)に記載のエンジン部品劣化診断システムであって、
前記エンジンを構成する複数の前記エンジン部品のうちの少なくとも1つの前記エンジン部品の劣化度を推定するエンジン部品劣化診断装置(エンジン部品劣化診断装置11)と、
前記エンジン部品劣化診断装置で推定した前記エンジン部品の劣化度に基づいて前記車両の価値を査定する車両価値査定装置(車両価値査定装置12)と、を備える、エンジン部品劣化診断システム。
【0131】
(8)によれば、エンジン部品の劣化度を考慮して、車両の価値をより合理的に査定することができる。
【0132】
(9) (8)に記載のエンジン部品劣化診断システムであって、
前記車両価値査定装置は、前記エンジン部品劣化診断装置で推定した現時点までの前記エンジン部品の劣化度の推移と、現時点での前記車両の価値の査定結果と、に基づいて、将来の前記車両の価値の推移を予測する、エンジン部品劣化診断システム。
【0133】
(9)によれば、車両のユーザは、エンジン部品の劣化度の推移に基づいて、将来に車両を売却することを検討する際に、より適切な車両の売却タイミングを予測することができる。
【符号の説明】
【0134】
10 エンジン部品劣化診断システム
11 エンジン部品劣化診断装置
12 車両価値査定装置
20 エンジン
Pmi 図示平均有効圧力
Rd クランクシャフトの累積回転数
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7