(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080526
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/14 20160101AFI20240606BHJP
【FI】
H02P21/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193803
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】橋本 誠司
(72)【発明者】
【氏名】川口 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】木暮 雅之
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB02
5H505BB03
5H505BB09
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505EE55
5H505GG02
5H505GG04
5H505HA07
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ24
5H505JJ25
5H505LL14
5H505LL22
5H505LL39
5H505LL41
(57)【要約】
【課題】ニューラルネットワークに基づいてモータの効率改善と動特性改善の双方を実現する場合に、それらを統一的に考慮した設計が可能であり、ネットワーク規模の小型化も実現することができるモータ制御装置を提供する。
【解決手段】入力層、中間層及び出力層を有するニューラルネットワーク制御器11は、モータ6の電流値とモータ6の角速度値を入力信号として入力層より入力し、順伝搬と逆伝搬による学習を繰り返すことにより、モータ6の効率改善のための出力信号とモータ6の動特性改善のための出力信号を出力層より導出する。ニューラルネットワーク制御器11が導出した出力信号、又は、当該出力信号から得られる値に基づき、モータ6を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを制御する制御装置であって、
入力層、中間層及び出力層を有するニューラルネットワーク制御器を備え、
該ニューラルネットワーク制御器は、前記モータの電流値と前記モータの角速度値を入力信号として前記入力層より入力し、順伝搬と逆伝搬による学習を繰り返すことにより、前記モータの効率改善のための出力信号と前記モータの動特性改善のための出力信号を前記出力層より導出すると共に、
前記ニューラルネットワーク制御器が導出した前記出力信号、又は、当該出力信号から得られる値に基づき、前記モータを制御することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記ニューラルネットワーク制御器は、前記各層の結合の重みであるシナプスを順伝搬と逆伝搬により更新することで、前記モータが最適な効率となる前記出力信号と、前記モータが最適な動特性となる前記出力信号を導出することを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記ニューラルネットワーク制御器は、前記入力層と前記中間層のしきい値であるニューロンとを結合する前記シナプス、前記中間層の前記ニューロンと前記出力層のしきい値であるニューロンとを結合する前記シナプスを順伝搬と逆伝搬により更新することを特徴とする請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記ニューラルネットワーク制御器は、前記入力層、中間層及び出力層を備えた単一構成のものであることを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記モータの電流値は電流波高指令値ip
*と電流波高値ipであり、
前記モータの角速度値は機械角速度指令値ω*と機械角速度推定値ωであり、
前記モータの効率改善のための出力信号は電流位相指令値θI
*であり、
前記モータの動特性改善のための出力信号は補償電流値iNであり、
前記モータの機械角速度指令値ω*と機械角速度推定値ωの偏差が入力されるフィードバック系の速度制御器で算出されたフィードバック制御出力値ipf
*に、前記補償電流値iNを加算することで前記電流波高指令値ip
*を導出し、
前記電流位相指令値θI
*と前記電流波高指令値ip
*を極座標変換器に入力して、該極座標変換器によりd軸電流指令値id
*とq軸電流指令値iq
*を導出することを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記ニューラルネットワーク制御器は、前記電流波高指令値ip
*と前記電流波高値ipの二乗誤差(ip
*-ip)2、及び、前記フィードバック制御出力値ipf
*の二乗誤差(ipf
*)2を教師信号とし、各教師信号を最小化するように、前記入力信号から前記出力信号を学習的に導出することを特徴とする請求項5に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記モータは、永久磁石同期電動機であり、
前記モータを駆動制御するモータ駆動部と、
前記ニューラルネットワーク制御器の前記出力信号、又は、当該出力信号から得られる値に基づいて前記モータ駆動部により前記モータを制御するモータ制御部と、
を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項6のうちの何れかに記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの運転を制御するためのモータ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
永久磁石埋込型(IPM)モータ(永久磁石同期電動機)は、永久磁石を回転子内部に配置した構造で、リラクタンストルクを併用可能であり、高効率化を図りやすいため、家電機器や産業機器、自動車分野の用途などに広く用いられてきている。また、近年のAI技術の発展に伴い、この種モータ制御の分野においてもその導入が検討されて来ている。
【0003】
例えば、特許文献1では、モータの最適電流指令を学習することができる機械学習方法を提案していた。しかしながら、特許文献1は、モータトルク、モータ電流、モータ電圧を報酬とした学習によりモータの電流指令値を導出し、モータ電圧を考慮した電流指令テーブルの学習によるトルク出力の改善を主目的としていたため、モータの最適効率化が目的ではなく、また、モータの製品ばらつきや経年変化に対するパラメータ変動に対して損失を最小化し、効率の劣化を防止することができない。更に、制御パラメータの適合にも時間を要するという問題があった。
【0004】
そこで、特許文献2では、多層ニューラルネットワーク補償器を用いてモータの最適効率化を図る提案が行われた。特許文献2は、フィードバック制御系に対して、別途ニューラルネットワーク補償器を設け、学習と共に損失(銅損)を最小化する電流位相を導出することで、モータの効率改善を可能としていたが、フィードバック制御系の速度制御器で設計した性能以上にモータの動特性(回転数応答性)を改善することが不可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第650621982号公報
【特許文献2】特開2022-2042871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、モータの動特性を改善するニューラルネットワーク補償器を別途設けることが考えられるが、その場合には、入力層と中間層、出力層を有した効率改善のためのニューラルネットワーク補償器と、同じく入力層と中間層、出力層を有した動特性改善のためのニューラルネットワーク補償器を個別に設計し、システムに同時に導入する必要があり、システムの安定性やそれぞれの改善が想定通り達成されるかが不明である。特に、ニューラルネットワーク補償器を二つ用いることで、効率改善のみの場合に比して、ニューロン(しきい値)やシナプス(各層の結合の重み)の数も二倍となり、大きな計算リソースを有する演算装置が必要となるという問題があった。
【0007】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、ニューラルネットワークに基づいてモータの効率改善と動特性改善の双方を実現する場合に、それらを統一的に考慮した設計が可能であり、ネットワーク規模の小型化も実現することができるモータ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のモータ制御装置は、モータを制御するものであって、入力層、中間層及び出力層を有するニューラルネットワーク制御器を備え、このニューラルネットワーク制御器は、モータの電流値とモータの角速度値を入力信号として入力層より入力し、順伝搬と逆伝搬による学習を繰り返すことにより、モータの効率改善のための出力信号とモータの動特性改善のための出力信号を出力層より導出すると共に、ニューラルネットワーク制御器が導出した出力信号、又は、当該出力信号から得られる値に基づき、モータを制御することを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明のモータ制御装置は、上記発明においてニューラルネットワーク制御器は、各層の結合の重みであるシナプスを順伝搬と逆伝搬により更新することで、モータが最適な効率となる出力信号と、モータが最適な動特性となる出力信号を導出することを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明のモータ制御装置は、上記発明においてニューラルネットワーク制御器は、入力層と中間層のしきい値であるニューロンとを結合するシナプス、中間層のニューロンと出力層のしきい値であるニューロンとを結合するシナプスを順伝搬と逆伝搬により更新することを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明のモータ制御装置は、請求項1の発明においてニューラルネットワーク制御器は、入力層、中間層及び出力層を備えた単一構成のものであることを特徴とする。
【0012】
請求項5の発明のモータ制御装置は、請求項1の発明においてモータの電流値は電流波高指令値ip
*と電流波高値ipであり、モータの角速度値は機械角速度指令値ω*と機械角速度推定値ωであり、モータの効率改善のための出力信号は電流位相指令値θI
*であり、モータの動特性改善のための出力信号は補償電流値iNであり、モータの機械角速度指令値ω*と機械角速度推定値ωの偏差が入力されるフィードバック系の速度制御器で算出されたフィードバック制御出力値ipf
*に、補償電流値iNを加算することで電流波高指令値ip
*を導出し、電流位相指令値θI
*と電流波高指令値ip
*を極座標変換器に入力して、この極座標変換器によりd軸電流指令値id
*とq軸電流指令値iq
*を導出することを特徴とする。
【0013】
請求項6の発明のモータ制御装置は、上記発明においてニューラルネットワーク制御器は、電流波高指令値ip
*と電流波高値ipの二乗誤差(ip
*-ip)2、及び、フィードバック制御出力値ipf
*の二乗誤差(ipf
*)2を教師信号とし、各教師信号を最小化するように、入力信号から出力信号を学習的に導出することを特徴とする。
【0014】
請求項7の発明のモータ制御装置は、上記各発明においてモータは、永久磁石同期電動機であり、モータを駆動制御するモータ駆動部と、ニューラルネットワーク制御器の出力信号、又は、当該出力信号から得られる値に基づいてモータ駆動部によりモータを制御するモータ制御部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のモータ制御装置によれば、入力層、中間層及び出力層を有するニューラルネットワーク制御器を設け、このニューラルネットワーク制御器の入力層に、モータの電流値とモータの角速度値を入力信号として入力し、順伝搬と逆伝搬による学習を繰り返すことにより、モータの効率改善のための出力信号とモータの動特性改善のための出力信号を出力層より導出し、この導出した出力信号、又は、当該出力信号から得られる値に基づいて、モータを制御するようにした。
【0016】
このニューラルネットワーク制御器が出力するモータの効率改善のための出力信号により、モータに製品ばらつきがあった場合や、磁気飽和に加え、経年変化や温度変化によりモータパラメータが変動した場合にも、リアルタイムで損失を最小化し、効率の低下を防止することが可能となる。これにより、ばらつきが多くなる安価なモータを採用することができるようになると共に、パラメータの適合にかかる工数も大幅に低減され、コストの削減も図ることが可能となり、所謂ロバスト化も実現することができるようになる。
【0017】
また、ニューラルネットワーク制御器が出力するモータの動特性改善のための出力信号により、外乱に対してリアルタイムでモータの速度応答性を改善することができるようになる。これにより、速度指令を生成する上位の制御装置の設計工数も削減することが可能となる。
【0018】
特に、本発明におけるニューラルネットワーク制御器は、モータの効率改善と動特性改善のためのニューラルネットワークが統合されたかたちとなるので、出力生成のための中間層や出力層における請求項2や請求項3の発明のニューロンやシナプスを共用することができるので、請求項4の発明の如き単一構成で、効率改善と動特性改善を統一的に考慮した設計が可能となると共に、各出力を個別のニューラルネットワークにて生成する場合に比してネットワーク規模の小型化を図り、計算負荷を軽減することができるようになる。
【0019】
これにより、システムの安定性を向上させながら、演算効率の改善及び低消費電力化が可能となると共に、大きな演算リソースを有する演算装置も不要となるため、コストの削減も図ることが可能となる。
【0020】
更に、効率改善と動特性改善の両方に寄与するシナプスが学習されることになるので、効率改善のためのニューラルネットワークと動特性改善ためのニューラルネットワークを個々に設ける場合に比して、効率改善と動特性改善の性能をより一層向上させることが可能となる。
【0021】
この場合、モータの電流値としては請求項5の発明の如く電流波高指令値ip
*と電流波高値ip、モータの角速度値としては機械角速度指令値ω*と機械角速度推定値ω、モータの効率改善のための出力信号としては電流位相指令値θI
*、モータの動特性改善のための出力信号としては補償電流値iNを採用することができ、モータの機械角速度指令値ω*と機械角速度推定値ωの偏差が入力されるフィードバック系の速度制御器で算出されたフィードバック制御出力値ipf
*に、補償電流値iNを加算することで電流波高指令値ip
*を導出し、電流位相指令値θI
*と電流波高指令値ip
*を極座標変換器に入力して、この極座標変換器によりd軸電流指令値id
*とq軸電流指令値iq
*を導出するものとする。
【0022】
そして、請求項6の発明の如くニューラルネットワーク制御器が、電流波高指令値ip
*と電流波高値ipの二乗誤差(ip
*-ip)2、及び、フィードバック制御出力値ipf
*の二乗誤差(ipf
*)2を教師信号とし、各教師信号を最小化するように、入力信号から出力信号を学習的に導出するようにすれば、最適効率で且つ速度応答性良好な状態で、的確にモータを制御することができるようになる。
【0023】
また、上記各発明は請求項7の発明の如きモータとしての永久磁石同期電動機に有効であり、具体的にはモータを駆動制御するモータ駆動部と、ニューラルネットワーク制御器の出力信号、又は、当該出力信号から得られる値に基づいてモータ駆動部によりモータを制御するモータ制御部を更に設けてモータを制御するものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明を適用した一実施例のモータ制御装置のブロック図である。
【
図2】
図1のモータ制御装置のニューラルネットワーク制御器、速度制御器及び極座標変換器のブロック図である。
【
図3】
図1、
図2のニューラルネットワーク制御器の内部構造の一例を示す図である。
【
図4】効率改善用のニューラルネットワーク制御器と動特性改善用のニューラルネットワーク制御器を別個に設けた場合の各制御器、速度制御器及び極座標変換器のブロック図である。
【
図5】モータの機械角速度指令値とステップトルク外乱波形を示す図である。
【
図6】
図1のニューラルネットワーク制御器を用いた場合と用いない場合、及び、
図4の場合の速度応答波形(機械角速度推定値)を示す図である。
【
図7】
図1のニューラルネットワーク制御器を用いた場合と用いない場合、及び、
図4の場合の電力損失を示す図である。
【
図9】
図1のニューラルネットワーク制御器で動特性改善のみ機能させた場合とニューラルネットワーク制御器を用いない場合、及び、
図4で動特性改善のみ機能させた場合の速度応答波形(機械角速度推定値)を示す図である。
【
図10】
図1のニューラルネットワーク制御器で動特性改善のみ機能させた場合とニューラルネットワーク制御器を用いない場合、及び、
図4で動特性改善のみ機能させた場合の電力損失を示す図である。
【
図12】
図1のニューラルネットワーク制御器で効率改善のみ機能させた場合とニューラルネットワーク制御器を用いない従来の二つの制御の場合、及び、
図4で効率改善のみ機能させた場合の速度応答波形(機械角速度推定値)を示す図である。
【
図13】
図12における37s~40sの部分の拡大図である。
【
図14】
図1のニューラルネットワーク制御器で効率改善のみ機能させた場合とニューラルネットワーク制御器を用いない従来の二つの制御の場合、及び、
図4で効率改善のみ機能させた場合の電力損失を示す図である。
【
図15】
図14における37s~39sの部分の拡大図である。
【
図17】
図1のニューラルネットワーク制御器で効率改善及び動特性改善を機能させた場合と従来の二つの制御の場合、及び、
図4で効率改善及び動特性改善を機能させた場合の速度応答波形(機械角速度推定値)を示す図である。
【
図18】
図17における37s~40sの部分の拡大図である。
【
図19】
図1のニューラルネットワーク制御器で効率改善及び動特性改善を機能させた場合と従来の二つの制御の場合、及び、
図4で効率改善及び動特性改善を機能させた場合の電力損失を示す図である。
【
図20】
図19における37s~39sの部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づき詳細に説明する。
(1)モータ制御装置1
図1は本発明の一実施例のモータ制御装置1の構成を示すブロック図である。この実施例のモータ制御装置1は、モータ駆動部としてのインバータ回路9と、モータ制御部3を備え、所定周波数の交流電力を変換生成し、モータ6に供給する構成とされている。モータ6は、例えば電気自動車やハイブリッド自動車等の電動車両の空調装置に用いられる電動圧縮機を駆動する三相の永久磁石埋込型モータであり、実施例の場合は永久磁石同期電動機(IPMSM:Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)を採用し、モータ制御部3が生成する電圧指令によってインバータ回路9により駆動される。
【0026】
(2)インバータ回路9
インバータ回路9は、複数(6個)のスイッチング素子がブリッジ結線されて構成されている。インバータ回路部9の各スイッチング素子は、後述するモータ制御部3のPWM信号生成器8が生成するPWM信号によりスイッチングされる。
【0027】
(3)モータ制御部3
モータ制御部3は、実施例ではモータ6の機械角速度推定値ωと機械角速度指令値ω*との偏差に基づき、当該偏差を無くす方向でd軸電圧指令値Vd
*、q軸電圧指令値Vq
*を生成し、これらd軸電圧指令値Vd
*、q軸電圧指令値Vq
*から最終的にPWM信号生成器8を用いて、インバータ回路9の各スイッチング素子をスイッチングするためのPWM信号を生成し、モータ6をセンサレスベクトル制御にて駆動するものである。尚、係るセンサレス制御に限らず、位置センサを用いてモータ6を制御してもよい。
【0028】
この実施例のモータ制御部3は、プロセッサを備えたコンピュータの一例であるマイクロコンピュータから構成されており、その機能として、ニューラルネットワーク制御器11と、速度制御器12と、極座標変換器13と、電流制御器14と、非干渉制御器16と、相電圧指令演算器7と、PWM信号生成器8と、dq軸電流変換器10、三相電流推定器17と、磁石位置推定器18と、回転数演算器19等を備えている。
【0029】
三相電流推定器17は、相電圧指令演算器7が出力する各相電圧、即ち、U相電圧指令値V*
u、V相電圧指令値V*
v、W相電圧指令値V*
w(PWM信号生成器8が生成する6つのPWM信号を用いても良い。)と、一つのシャント抵抗により検出したインバータ回路9を流れる一相の相電流から、各相電流(U相電流iu、V相電流iv、W相電流iw)を推定する(1シャント電流検知方式)。尚、各相電流の検知方式としてはそれ以外に、二つのシャント抵抗を用いて二相の相電流を検出する2シャント電流検知方式や、シャント抵抗を3つ用いて三相の相電流を検出する3シャント電流検知方式、ホールCTを用いて相電流を検出するホールCT電流検知方式が考えられる。
【0030】
磁石位置推定器18は、この実施例では三相電流推定器17が出力する各相電流、即ち、U相電流iu、V相電流iv、W相電流iwから電気角推定値θ'
eを推定する。尚、この電気角推定値θ'
eの推定に関しては、これらの他に、U相電圧指令値V*
u、V相電圧指令値V*
v、W相電圧指令値V*
wを用いても良く、d軸電圧指令値Vd
*、q軸電圧指令値Vq
*を用いても良い。又、d軸電圧指令値Vd
*、q軸電圧指令値Vq
*とd軸電流id、q軸電流iqを活用しても良く、それ以外にも、これらU相電流iu、V相電流iv、W相電流iw、U相電圧指令値V*
u、V相電圧指令値V*
v、W相電圧指令値V*
w、d軸電圧指令値Vd
*、q軸電圧指令値Vq
*、d軸電流id、q軸電流iqのうちの何れか、或いは、それらの組み合わせ、若しくは、それらの全てを用いて電気角推定値θ'
eを推定しても良い。
【0031】
また、回転数演算器19は、磁石位置推定器18が出力する電気角推定値θ'
eから、先述した機械角速度推定値ωを推定する。更に、dq軸電流変換器10は、磁石位置推定器18が出力する電気角推定値θ'
eからd軸電流idと、q軸電流iqを導出する。また、磁石位置推定器18が出力する電気角推定値θ'
eは、更に相電圧指令演算器7に入力されると共に、dq軸電流変換器10が出力するd軸電流idとq軸電流iqと、回転数演算器19が出力する機械角速度推定値ωは、非干渉制御器16に入力される。
【0032】
回転数演算器19が出力する機械角速度推定値ωは、更に減算器21に入力される。この減算器21には機械角速度指令値ω*が入力され、この減算器21において機械角速度指令値ω*から機械角速度推定値ωが減算されてそれらの偏差が算出される。尚、前述した如く位置センサを用いてモータ6を制御する場合には、当該位置センサにより検出された機械角速度(ωm)が機械角速度推定値ωの代わりに減算器21に入力されることになる。
【0033】
減算器21で算出された偏差は速度制御器12に入力される。前述した三相電流推定器17、磁石位置推定器18、回転数演算器19、減算器21及び速度制御器12等が実施例のモータ制御部3におけるフィードバック制御系を構成する。
【0034】
速度制御器12は、PI演算及び電流波高値ipとトルクの関係式より、後述する電流波高指令値ip
*を導出するためのフィードバック制御出力値ipf
*を算出する。尚、係る式による演算では無く、電流波高値ipとトルクの関係からオフラインで設定したマップを使用し、フィードバック制御出力値ipf
*を算出しても良い。また、式を使用する場合、オンラインでパラメータを同定、又は推定し、精度の向上を図っても良い。
【0035】
速度制御器12で算出されたフィードバック制御出力値ipf
*は、加算器20に入力される。この加算器20にはニューラルネットワーク制御器11が出力する補償電流値iNが入力され、加算器20にてフィードバック制御出力値ipf
*に、補償電流値iNが加算されて電流波高指令値ip
*が導出される。
【0036】
極座標変換器13には、この電流波高指令値ip
*が他方の入力として入力される。極座標変換器13の一方の入力には、ニューラルネットワーク制御器11が出力する電流位相指令値θI
*が入力される。尚、このニューラルネットワーク制御器11については、後に詳述する。
【0037】
極座標変換器13は、これら電流位相指令値θI
*と電流波高指令値ip
*からd軸電流指令値id
*とq軸電流指令値iq
*を導出する。極座標変換器13では、以下の式(I)に基づき、d軸電流指令値id
*とq軸電流指令値iq
*を導出する。
【0038】
【0039】
極座標変換器13が出力するd軸電流指令値id
*とq軸電流指令値iq
*は、減算器22、23にそれぞれ入力される。各減算器22、23には、dq軸電流変換器10が出力するd軸電流idとq軸電流iqがそれぞれ入力され、各減算器22、23において偏差がそれぞれ算出される。
【0040】
各減算器22、23が出力する各偏差は、電流制御器14に入力される。この電流制御器14は、各偏差を用いてPI演算を行い、d軸電圧指令値V
d
*とq軸電圧指令値V
q
*を生成して出力する。これらd軸電圧指令値V
d
*とq軸電圧指令値V
q
*は、非干渉制御器16にてdq軸間の干渉を打ち消された後(
図1中ではその出力をV
'
d
*、V
'
q
*で示す)、相電圧指令演算器7に入力される。尚、この非干渉制御器16は省略しても良い。
【0041】
相電圧指令演算器7は、d軸電圧指令値V'
d
*とq軸電圧指令値V'
q
*、磁石位置推定器18が出力する電気角推定値θ'
eからU相電圧指令値Vu
*、V相電圧指令値Vv
*、W相電圧指令値Vw
*を生成してPWM信号生成器8に出力する。PWM信号生成器8は各相の電圧指令値Vu
*、Vv
*、Vw
*からインバータ回路9の各スイッチング素子をスイッチング(PWM制御)するためのPWM信号を生成する。そして、インバータ回路9から各相電圧Vu、Vv、Vwがモータ6に印加され、これにより、実施例ではモータ6のセンサレスベクトル制御を実現するものである。
【0042】
(4)ニューラルネットワーク制御器11
次に、
図2、
図3を用いて
図1中のニューラルネットワーク制御器11について詳述する。
図2は実施例のニューラルネットワーク制御器11、速度制御器12及び極座標変換器13のブロック図、
図3はニューラルネットワーク制御器11の内部構造を示す図である。ニューラルネットワーク制御器11はモータ6の効率改善と動特性改善のための学習機能が統合された単一構成のものであり、入力信号を入力して、順伝搬と逆伝搬による学習を繰り返すことにより、モータ6の効率改善のための出力信号とモータ6の動特性改善のための出力信号を導出するものである。
【0043】
尚、前記モータ6の効率改善のための出力信号は、実施例では電流位相指令値θI
*であり、モータ6の動特性改善のための出力信号は、実施例では補償電流値iNである。また、入力信号はモータ6の電流値としの電流波高値ipと電流波高指令値ip
*(電流波高値ipの指令値)、モータ6の角速度値としての機械角速度ωと機械角速度指令値ω*(機械角速度ωの指令値)である。
【0044】
また,最小化すべき教師信号は、電流波高指令値i
p
*に対する電流波高値i
pの二乗誤差(i
p
*-i
p)
2と、フィードバック制御出力値i
pf
*に対する零の二乗誤差(i
pf
*-0)
2、即ち(i
pf
*)
2である。そして、
図1、
図2の実施例のニューラルネットワーク制御器11は、各教師信号(i
p
*-i
p)
2と(i
pf
*)
2を最小化するように、入力信号から出力信号を学習的に導出する。尚、この出願において最小化には当然に零も含まれるものとする。
【0045】
即ち、最適な効率となる電流位相指令値θI
*を導出するために、入力信号には電流波高指令値ip
*と電流波高値ip、最小化する教師信号には電流波高指令値ip
*に対する電流波高値ipの二乗誤差(ip
*-ip)2を利用する。更に、最適な動特性となる補償電流値iNを導出するために、入力信号には機械角速度指令値ω*と機械角速度ω、最小化する教師信号にはフィードバック制御出力値ipf
*に対する零の二乗誤差(ipf
*)2を利用する。
【0046】
実施例のニューラルネットワーク制御器11は、多層のニューラルネットワーク制御器であり、順伝搬と逆伝搬による学習を繰り返し、リアルタイムで教師信号(ip
*-ip)2を最小化する最適な電流位相指令値θI
*と、(ipf
*)2を最小化(零)する最適な補償電流値iNを導出する。
【0047】
図1、
図2の実施例は目標入力を電流波高値i
pと機械角速度ωと捉えて制御する手法であり、実施例の永久磁石同期電動機から成るモータ6の制御により適した制御方式と考えられ、特に、現在トルクτが検出できない場合や、速度制御系での利用に有効であり、電流波高値i
pとともに算出した最適な電流位相指令値θ
I
*と、機械角速度ωとともに算出した最適な補償電流値i
Nより、最適効率で且つ速度応答性良好な状態で、的確にモータ6を制御する。
【0048】
次に、
図3に示す内部構造を用いて実施例のニューラルネットワーク制御器11を更に具体的に説明する。ニューラルネットワーク制御器11は、教師信号(電流波高指令値i
p
*に対する電流波高値i
pの二乗誤差(i
p
*-i
p)
2と、フィードバック制御出力値i
pf
*に対する零の二乗誤差(i
pf
*)
2)を最小化するように、補償量(出力信号)を現在の入力信号から学習的に導出する。
【0049】
即ち、現在の電流波高値ipに対する電流波高指令値ip
*(必要電流波高値)への補償量(電流位相指令値θI
*:出力信号)を現在の利用可能な情報(電流波高指令値ip
*、電流波高値ip:入力信号)から演算周期毎に情報更新すると共に、零に対するフィードバック制御出力値ipf
*(必要フィードバック制御出力値)への補償量(補償電流値iN:出力信号)を現在の利用可能な情報(機械角速度指令値ω*、機械角速度ω:入力信号)から演算周期毎に情報更新することで導出する。
【0050】
実施例のニューラルネットワーク(NN)制御器11の内部構造は
図3のようになる(4入力、2出力)。入力層24(Input layer)と出力層26(Output layer)間に複数の中間層27(Middle layer)があり、各中間層27はしきい値である複数のニューロン28(neuron)により構成され、出力層26もしきい値である二つのニューロン29により構成されている。
【0051】
そして、入力層24と最初の中間層27のニューロン27は入力層24と当該中間層27の結合の重みであるシナプス(全体を31で示す)により結合され、前後の中間層27のニューロン27はシナプス(全体を32で示す)により結合され、最後の中間層227のニューロン27と出力層26のニューロン29はシナプス(全体を33で示す)により結合される。
【0052】
各ニューロン28、29の結合式は式(II)となる。尚、実施例のニューラルネットワーク制御器11は、入力層(4入力)、2層(最初の中間層:10ニューロン)、3層(最後の中間層:10ニューロン)、出力層(2出力)である。
【0053】
【0054】
ここで、式(II)中のyは結果、xは入力、wiは重みであり、すべてベクトルである。また、θは閾値(バイアス)、σは活性化関数である。また、重みwiと、閾値θの更新式(学習式)は式(III)となる。
【0055】
【0056】
ここで、式(III)中のαは学習率、Eは損失関数(二乗誤差和)である。ニューラルネットワーク制御器11は、各教師信号(ip
*-ip)2と(ipf
*)2を最小化するようにシナプス31~33を順伝搬と逆伝搬により更新し、入力信号(電流波高指令値ip
*と電流波高値ip)から出力信号(電流位相指令値θI
*)を学習的に導出し、入力信号(機械角速度指令値ω*と機械角速度ω)から出力信号(補償電流値iN)を学習的に導出する。
【0057】
ニューラルネットワーク制御器11が出力する電流位相指令値θI
*はそのまま極座標変換器13に入力される。一方、ニューラルネットワーク制御器11が出力する補償電流値iNは、加算器20で速度制御器12が出力するフィードバック制御出力値ipf
*に加算される。そして、補償電流値iNで補償されたフィードバック制御出力値ipf
*が電流波高指令値ip
*(出力信号:補償電流値iNから得られる値)として極座標変換器13に入力される。
【0058】
ここで、入力信号(電流波高指令値i
p
*と電流波高値i
p)から出力信号(電流位相指令値θ
I
*)を学習的に導出する効率改善用のニューラルネットワーク制御器101(入力層(2入力)、2層(10ニューロン)、3層(10ニューロン)、出力層(1出力))、入力信号(機械角速度指令値ω
*と機械角速度ω)から出力信号(補償電流値i
N)を学習的に導出する動特性改善用のニューラルネットワーク制御器102(入力層(2入力)、2層(10ニューロン)、3層(10ニューロン)、出力層(1出力))をそれぞれ別個に設けた場合の
図2に相当するブロック図を
図4に示す。尚、
図4において
図2の同一符号で示すものは同一のものとする。
【0059】
図4のように効率改善用のニューラルネットワーク制御器101と動特性改善用のニューラルネットワーク制御器102をそれぞれ別個に設けた場合、シナプス数は各ニューラルネットワーク制御器101、102の合計で260個、ニューロンの数は合計で42個、乗算(順伝搬)は合計で約260回、乗算(逆伝搬)は合計で約3000回となる。
【0060】
一方、
図1~
図3のような本発明のニューラルネットワーク制御器11ではそれらが統合化されているため(統合ニューラルネットワーク制御器)、中間層27のニューロン28や各シナプス31~33を共用することができるようになり、シナプス数は160個、ニューロンの数は22個、乗算(順伝搬)は約180回、乗算(逆伝搬)は約1600回となって、何れも半分強に削減することができた。
【0061】
(5)
図1のモータ制御装置1の評価
次に、
図5~
図21を参照しながら前述したニューラルネットワーク制御器11を用いたモータ6の効率改善及び動特性改善制御の効果について説明する。尚、
図5の(a)は機械角速度指令値ω
*であり、(b)はステップトルク外乱波形を示している。また、以下の実験におけるステップトルク外乱の印加信号は、目標値振幅が2000rpm、外乱振幅が8.3Nm×0.5としている。また、電流制御器14はPI(ω
cc=500rad/s)、速度制御器12はPI(ω
ce=50rad/s)としている。
【0062】
(5-1)評価1
そして、
図5のようなステップトルク外乱が印加された場合の速度応答波形を
図6に示す。尚、
図6中の太い実線はニューラルネットワーク制御器11を有する
図1の本発明のモータ制御装置1(1 integrated NN。以下同じ)で効率改善及び動特性改善を機能させた場合、細い実線は
図4(2 separate NN。以下同じ)で効率改善用のニューラルネットワーク制御器101及び動特性改善用のニューラルネットワーク制御器102を機能させた場合、破線はニューラルネットワーク制御器を用いない従来のdq制御のモータ制御装置(フィードバック制御のみ:wo NN。以下同じ)の場合を示している。
【0063】
この図から、
図4の場合(細い実線)及びニューラルネットワーク制御器を用いない場合(破線)に比して、本発明のモータ制御装置1では(太い実線)、単一構成のニューラルネットワーク制御器11で動特性改善、特に外乱振幅の抑制が達成できていることが分かる。加えて、本発明のモータ制御装置1では、学習と共に数ステップの学習で外乱応答が改善されていることも確認できる。
【0064】
このときの損失(銅損)を
図7に示し、その時間積分値を
図8に示す。尚、
図7のL1(W)は本発明のモータ制御装置1の場合、L2(W)は
図4の場合、L3(W)はニューラルネットワーク制御器を用いない場合である。
図7より、本発明のモータ制御装置1及び
図4の場合は繰り返しとともに効率が改善でき、ニューラルネットワーク制御器を用いない場合に対して何れも大きく効率が改善され、大幅な損失低減が可能となり(
図7に破線の楕円で示す部分)、数ステップでの素早い改善が可能となったことが分かる。
【0065】
図8の時間積分値においても、繰り返しの後には本発明のモータ制御装置1ではTL1(J)、
図4の場合はTL2(J)、従来の場合はTL3(J)となり、TL1<TL2<TL3となって本発明のモータ制御装置1の場合及び
図4の場合の方が従来の場合に比して損失が低減され、以後、繰り返し毎にその差が拡大されて行った。この場合、本発明のモータ制御装置1の場合の方が、
図4の場合よりも良好であった(
図8の破線の楕円で示す部分)。
【0066】
即ち、本発明のモータ制御装置1では、効率改善と動特性改善の両方に寄与するシナプス31~33が学習されることになるので、効率改善のためのニューラルネットワーク制御器101と動特性改善ためのニューラルネットワーク制御器102を個々に設けた
図4の場合に比して、効率改善と動特性改善の性能をより一層向上させることができたのである。
【0067】
(5-2)評価2
次に、
図9は
図1の本発明のモータ制御装置1で動特性改善のみを機能させた場合、ニューラルネットワーク制御器を用いない従来のdq制御のみ(i
d=0)の場合、及び、
図4で動特性改善用のニューラルネットワーク制御器102のみを機能させた場合の速度応答波形を示す。尚、
図9中の太い実線はニューラルネットワーク制御器11を有する
図1のモータ制御装置1の場合、細い実線は
図4の場合、破線はニューラルネットワーク制御器を用いない場合を示している。
【0068】
この図からも、
図4の場合(細い実線)及びニューラルネットワーク制御器を用いない場合(破線)に比して、本発明のモータ制御装置1では(太い実線)、単一構成のニューラルネットワーク制御器11で動特性改善、特に外乱抑制特性が良好であることが分かる。加えて、本発明のモータ制御装置1では、学習と共に数ステップの学習で外乱応答が改善されていることも確認できる。
【0069】
このときの損失(銅損)を
図10に示し、その時間積分値を
図11に示すが、本発明のモータ制御装置1の場合、及び、
図4の場合ともに動特性改善のみが機能しているため、従来の場合と効率は同等であった(各図に破線の楕円で示す部分)。尚、
図10中のL1(W)は本発明のモータ制御装置1の場合、L2(W)は
図4の場合、L3(W)はニューラルネットワーク制御器を用いない場合であり、
図11中のTL1(J)は本発明のモータ制御装置1の場合、TL2(J)は
図4の場合、TL3(J)は従来の場合である。
【0070】
(5-3)評価3
次に、ニューラルネットワーク制御を用いない従来例として最大出力制御(MTPA)による補償を加えて評価した場合を
図12~
図16に示す。
図12は同様に
図5のステップトルク外乱が印加された場合の速度応答波形を示し、
図13は
図12中の37s~40sの部分を拡大して示している。ここで、前述した評価1、評価2では制御対象であるモータ6のパラメータ(インダクタンスや鎖交磁束)を固定のパラメータで評価していた。一方、この評価3ではパラメータ変動した際でも損失が最少の状態で運転を行えるか確認するため、モータ6のパラメータを変更して評価を行った。
【0071】
尚、
図12、
図13中の太い実線はニューラルネットワーク制御器11を有する
図1の本発明のモータ制御装置1(1 integrated NN。以下同じ)で効率改善のみ機能させた場合、細い実線は
図4(2 separate NN。以下同じ)で効率改善用のニューラルネットワーク制御器101のみを機能させた場合、一点鎖線は最大出力制御(MTPA。以下同じ)の場合、破線はdq制御のみ(i
d=0:wo NN。以下同じ)の場合を示しているが、外乱応答はdq制御以外は略同等であった。
【0072】
このときの損失(銅損)を
図14に示し、
図14の37s~39sの部分を拡大して
図15に示し、
図14の時間積分値を
図16に示す。尚、
図14、
図15のL1(W)は本発明のモータ制御装置1の場合、L2(W)は
図4の場合、L3(W)は最大出力制御の場合、L4(W)はdq制御の場合である。
図14、
図15より、本発明のモータ制御装置1のニューラルネットワーク制御器11で効率改善のみ機能させた場合の方が、僅かであるが他の場合よりも良好であることが分かる(
図14の破線の楕円で示す部分、及び、
図15:L1<L2<L3<L4)。
【0073】
図16の時間積分値においても、本発明のモータ制御装置1のニューラルネットワーク制御器11で効率改善のみ機能させた場合(TL1)の方が、僅かであるが他の場合(TL2:
図4の場合、TL3:最大出力制御、TL4:dq制御)よりも良好であることが分かる(
図16の破線の楕円で示す部分:TL1<TL3<TL2<TL4)。
【0074】
(5-4)評価4
次に、同じくニューラルネットワーク制御を用いない従来例として最大出力制御(MTPA)による補償を加えて評価したもう一つの例を
図17~
図21に示す。
図17は同様に
図5のステップトルク外乱が印加された場合の速度応答波形を示し、
図18は
図17中の37s~40sの部分を拡大して示している。ここで、前述した如く評価1、評価2ではモータ6のパラメータ(インダクタンスや鎖交磁束)を固定のパラメータで評価していたが、この評価4でも前述した評価3と同様にパラメータ変動した際でも損失が最少の状態で運転を行えるか確認するため、モータ6のパラメータを変更して評価を行った。
【0075】
尚、
図17、
図18中の太い実線はニューラルネットワーク制御器11を有する
図1の本発明のモータ制御装置1で効率改善及び動特性改善を機能させた場合、細い実線は
図4で効率改善用のニューラルネットワーク制御器101及び動特性改善用のニューラルネットワーク制御器102を機能させた場合、一点鎖線は最大出力制御(MTPA)+
図4の動特性改善用のニューラルネットワーク制御器102を用いた場合、破線はdq制御のみ(i
d=0)の場合を示している。
【0076】
この図から、本発明のモータ制御装置1の場合が最も外乱応答性が良好であることが分かる。尚、
図4の場合は、最大出力制御(MTPA)+
図4の動特性改善用のニューラルネットワーク制御器102を用いた場合と同等であった。
【0077】
このときの損失(銅損)を
図19に示し、
図19の37s~39sの部分を拡大して
図20に示し、
図19の時間積分値を
図21に示す。尚、
図19、
図20のL1(W)は本発明のモータ制御装置1の場合、L2(W)は
図4の場合、L3(W)は最大出力制御+
図4の動特性改善用のニューラルネットワーク制御器102を用いた場合、L4(W)はdq制御の場合である。
図19、
図20より、本発明のモータ制御装置1のニューラルネットワーク制御器11の方が、僅かであるが他の場合よりも最も良好であることが分かる(
図19の破線の楕円で示す部分、及び、
図20:L1<L2<L3<L4)。尚、
図4の場合(L2)は、最大出力制御(MTPA)+
図4の動特性改善用のニューラルネットワーク制御器102を用いた場合(L3)と同等であった。
【0078】
図21の時間積分値においても、本発明のモータ制御装置1のニューラルネットワーク制御器11の方が(TL1)、僅かであるが他の場合(TL2:
図4の場合、TL3:最大出力制御+
図4の動特性改善用のニューラルネットワーク制御器102を用いた場合、TL4:dq制御)よりも良好であることが分かる(
図21の破線の楕円で示す部分:TL1<TL3<TL2<TL4)。尚、
図4の場合(TL2)は、最大出力制御(MTPA)+
図4の動特性改善用のニューラルネットワーク制御器102を用いた場合(TL3)と同等であった。
【0079】
以上詳述した如く本発明によれば、入力層24、中間層27及び出力層26を有するニューラルネットワーク制御器11を設け、このニューラルネットワーク制御器11の入力層24に、モータ6の電流値(電流波高指令値ip
*と電流波高値ip)とモータ6の角速度値(機械角速度指令値ω*と機械角速度ω)を入力信号として入力し、順伝搬と逆伝搬による学習を繰り返すことにより、モータ6の効率改善のための出力信号(電流位相指令値θI
*)とモータ6の動特性改善のための出力信号(補償電流値iN)を出力層26より導出し、この導出した出力信号(電流位相指令値θI
*)、或いは、当該出力信号から得られる値(補償電流値iNの場合の電流波高指令値ip
*)に基づいて、モータ6を制御するようにした。
【0080】
このニューラルネットワーク制御器11が出力するモータの効率改善のための出力信号(電流位相指令値θI
*)により、モータ6に製品ばらつきがあった場合や、磁気飽和に加え、経年変化や温度変化によりモータパラメータが変動した場合にも、リアルタイムで損失を最小化し、効率の低下を防止することが可能となる。これにより、ばらつきが多くなる安価なモータを採用することができるようになると共に、パラメータの適合にかかる工数も大幅に低減され、コストの削減も図ることが可能となり、所謂ロバスト化も実現することができるようになる。
【0081】
また、ニューラルネットワーク制御器11が出力するモータの動特性改善のための出力信号(補償電流値iN)により、外乱に対してリアルタイムでモータ6の速度応答性を改善することができるようになる。これにより、速度指令を生成する上位の制御装置の設計工数も削減することが可能となる。
【0082】
特に、ニューラルネットワーク制御器11は、モータの効率改善と動特性改善のための出力生成のための中間層27、出力層26のニューロン27やシナプス31~33を共用することができるので、単一構成で効率改善と動特性改善を統一的に考慮した設計が可能となると共に、各出力を個別のニューラルネットワークにて生成する場合に比してネットワーク規模の小型化を図り、計算負荷を軽減することができるようになる。
【0083】
これにより、システムの安定性を向上させながら、演算効率の改善及び低消費電力化が可能となると共に、大きな演算リソースを有する演算装置も不要となるため、コストの削減も図ることが可能となる。
【0084】
更に、効率改善と動特性改善の両方に寄与するシナプス31~33が学習されることになるので、効率改善のためのニューラルネットワーク制御器101と動特性改善ためのニューラルネットワーク制御器102を個々に設けた
図4の場合に比して、効率改善と動特性改善の性能をより一層向上させることが可能となる。
【0085】
また、実施例ではモータ6の電流値としては電流波高指令値ip
*と電流波高値ip、モータ6の角速度値としては機械角速度指令値ω*と機械角速度推定値ω、モータ6の効率改善のための出力信号としては電流位相指令値θI
*、モータ6の動特性改善のための出力信号としては補償電流値iNを採用し、モータ6の機械角速度指令値ω*と機械角速度推定値ωの偏差が入力されるフィードバック系の速度制御器12で算出されたフィードバック制御出力値ipf
*に、補償電流値iNを加算することで電流波高指令値ip
*を導出し、電流位相指令値θI
*と電流波高指令値ip
*を極座標変換器13に入力して、この極座標変換器13によりd軸電流指令値id
*とq軸電流指令値iq
*を導出するようにした。
【0086】
そして、ニューラルネットワーク制御器11が電流波高指令値ip
*と電流波高値ipの二乗誤差(ip
*-ip)2、及び、フィードバック制御出力値ipf
*の二乗誤差(ipf
*)2を教師信号とし、各教師信号を最小化するように、入力信号から出力信号を学習的に導出するようにしたので、最適効率で且つ速度応答性良好な状態で、的確にモータ6を制御することができるようになる。
【0087】
尚、本発明のモータ制御装置の制御対象は、請求項7の発明以外では実施例で示した永久磁石同期電動機に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0088】
1 モータ制御装置
3 モータ制御部
6 モータ
7 相電圧指令演算器
8 PWM信号生成器
9 インバータ回路(モータ駆動部)
10 dq軸電流変換器
11 ニューラルネットワーク制御器
12 速度制御器
13 極座標変換器
14 電流制御器
16 非干渉制御器
17 三相電流推定器
18 磁石位置推定器
19 回転数演算器
24 入力層
26 出力層
27 中間層
28、29 ニューロン
31~33 シナプス