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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080535
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】撮像光学系及び撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/06 20060101AFI20240606BHJP
   G02B 21/36 20060101ALI20240606BHJP
   G02B 21/00 20060101ALI20240606BHJP
   G01J 3/36 20060101ALI20240606BHJP
   G01J 3/12 20060101ALI20240606BHJP
   G01J 3/50 20060101ALI20240606BHJP
   G02B 26/10 20060101ALI20240606BHJP
   H04N 23/58 20230101ALI20240606BHJP
   H04N 23/12 20230101ALI20240606BHJP
【FI】
G01J3/06
G02B21/36
G02B21/00
G01J3/36
G01J3/12
G01J3/50
G02B26/10 101
H04N23/58
H04N23/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193832
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】391009936
【氏名又は名称】株式会社住田光学ガラス
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100202326
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 大佑
(72)【発明者】
【氏名】堺 礼志
(72)【発明者】
【氏名】神澤 智秀
【テーマコード(参考)】
2G020
2H045
2H052
5C065
5C122
【Fターム(参考)】
2G020AA08
2G020CC01
2G020CC02
2G020CC42
2G020CC62
2G020CC63
2G020CD03
2G020CD06
2G020CD24
2G020CD34
2G020CD36
2G020CD37
2G020DA12
2G020DA32
2H045AC01
2H045BA02
2H045DA14
2H052AA07
2H052AB01
2H052AB06
2H052AF07
2H052AF14
5C065AA06
5C065BB30
5C065CC01
5C065EE02
5C065EE12
5C122EA37
5C122FB02
5C122FB11
5C122HA82
(57)【要約】
【課題】対象物及び撮像素子を移動させずに簡易的な機構で対象物を走査可能な撮像光学系を提供する。
【解決手段】本開示に係る撮像光学系10は、対象物Sを撮像するための光Lを撮像素子31に導き、対象物Sの分光画像を得るために用いられる撮像光学系10であって、対物レンズ70側に位置する第1絞り11と、第1絞り11を通過した光Lによる結像位置よりも撮像素子31側に位置する走査部12と、走査部12を通過した光Lを集光する集光部13と、集光部13よりも撮像素子31側に位置する第2絞り14と、光Lが第2絞り14を通過して集光部13により集光する位置に配置されているスリット15と、を備え、スリット15は、走査部12を通過した光Lのうち対象物Sの所定領域に対応する光Lのみを通過させ、走査部12は、結像位置と集光部13との間の光路長を一定に維持しながら所定領域を変化させて対象物Sを走査する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を撮像するための光を撮像素子に導き、前記対象物の分光画像を得るために用いられる撮像光学系であって、
対物レンズ側に位置する第1絞りと、
前記第1絞りを通過した前記光による結像位置よりも前記撮像素子側に位置する走査部と、
前記走査部を通過した前記光を集光する集光部と、
前記集光部よりも前記撮像素子側に位置する第2絞りと、
前記光が前記第2絞りを通過して前記集光部により集光する位置に配置されているスリットと、
を備え、
前記スリットは、前記走査部を通過した前記光のうち前記対象物の所定領域に対応する前記光のみを通過させ、
前記走査部は、前記結像位置と前記集光部との間の光路長を一定に維持しながら前記所定領域を変化させて前記対象物を走査する、
撮像光学系。
【請求項2】
請求項1に記載の撮像光学系であって、
前記走査部は、前記対象物の走査の間、前記スリットの短手方向に沿って互いに同一方向及び同一距離だけ移動する第1ミラー及び第2ミラーを有する、
撮像光学系。
【請求項3】
請求項2に記載の撮像光学系であって、
前記走査部は、前記第1ミラーで反射した前記光を前記第2ミラーへと折り返す第3ミラーと、前記第2ミラーで反射した前記光を前記集光部へと折り返す第4ミラーと、を有する、
撮像光学系。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の撮像光学系であって、
前記第1絞りは、4以下の開放F値で開放した状態で配置されている、
撮像光学系。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の撮像光学系であって、
前記第2絞りは、11以上16以下のF値を有する、
撮像光学系。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の撮像光学系であって、
前記スリットの短手方向におけるスリット幅は、80μm以上120μm以下の範囲に含まれる、
撮像光学系。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の撮像光学系であって、
前記スリットを通過した前記光をハイパースペクトルで規定された複数の波長領域に分光する分光素子をさらに備える、
撮像光学系。
【請求項8】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の撮像光学系と、前記対物レンズと、前記撮像素子と、を備える撮像装置。
【請求項9】
請求項8に記載の撮像装置であって、
前記撮像装置は、硬性鏡を含む、
撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、撮像光学系及び撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、観察対象となる対象物の表面を走査して分光画像を取得し、2次元的に分光スペクトルを視覚化するための技術が知られている。例えば、対象物を移動させずに分光画像を取得する方法として、カメラ内蔵スキャン型のマルチスペクトルカメラ及びハイパースペクトルカメラなどが知られている。対象物を走査する仕組みとして、撮像素子などの内部センサを移動させる方式及びミラーを回転させる方式などが用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、対物レンズより後段の構成を一体的に所定方向に移動し、撮影位置を所定方向に移動させる移動手段を有する分光放射輝度計が開示されている。分光放射輝度計において移動手段により移動する、対物レンズより後段の構成には、入射した光束に基づく信号を取得する2次元撮像検出器も含まれる。分光放射輝度計は、短時間で広範囲空間の1画素ごとの分光情報を取得し、任意の表色系の色表示と相互変換が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-166682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の方式を用いると、撮像素子などの内部センサを移動させるための光学ステージにより撮像装置が大きくなるといった問題があった。その他にも、対象物を走査するときに撮像光学系における光路長が変動し、当該変動に対する補正パラメータなどによって対象物の視野及び奥行きによっては専用の設計が必要になるといった問題もあった。
【0006】
本開示は、対象物及び撮像素子を移動させずに簡易的な機構で対象物を走査可能な撮像光学系及び撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下に本開示の実施形態の一部について例示する。しかしながら、本開示の実施形態はこれらに限定されない点に留意されたい。
[付記1]
対象物を撮像するための光を撮像素子に導き、前記対象物の分光画像を得るために用いられる撮像光学系であって、
対物レンズ側に位置する第1絞りと、
前記第1絞りを通過した前記光による結像位置よりも前記撮像素子側に位置する走査部と、
前記走査部を通過した前記光を集光する集光部と、
前記集光部よりも前記撮像素子側に位置する第2絞りと、
前記光が前記第2絞りを通過して前記集光部により集光する位置に配置されているスリットと、
を備え、
前記スリットは、前記走査部を通過した前記光のうち前記対象物の所定領域に対応する前記光のみを通過させ、
前記走査部は、前記結像位置と前記集光部との間の光路長を一定に維持しながら前記所定領域を変化させて前記対象物を走査する、
撮像光学系。
[付記2]
付記1に記載の撮像光学系であって、
前記走査部は、前記対象物の走査の間、前記スリットの短手方向に沿って互いに同一方向及び同一距離だけ移動する第1ミラー及び第2ミラーを有する、
撮像光学系。
[付記3]
付記2に記載の撮像光学系であって、
前記走査部は、前記第1ミラーで反射した前記光を前記第2ミラーへと折り返す第3ミラーと、前記第2ミラーで反射した前記光を前記集光部へと折り返す第4ミラーと、を有する、
撮像光学系。
[付記4]
付記1乃至3のいずれか1つに記載の撮像光学系であって、
前記第1絞りは、4以下の開放F値で開放した状態で配置されている、
撮像光学系。
[付記5]
付記1乃至4のいずれか1つに記載の撮像光学系であって、
前記第2絞りは、11以上16以下のF値を有する、
撮像光学系。
[付記6]
付記1乃至5のいずれか1つに記載の撮像光学系であって、
前記スリットの短手方向におけるスリット幅は、80μm以上120μm以下の範囲に含まれる、
撮像光学系。
[付記7]
付記1乃至6のいずれか1つに記載の撮像光学系であって、
前記スリットを通過した前記光をハイパースペクトルで規定された複数の波長領域に分光する分光素子をさらに備える、
撮像光学系。
[付記8]
付記1乃至7のいずれか1つに記載の撮像光学系と、前記対物レンズと、前記撮像素子と、を備える撮像装置。
[付記9]
付記8に記載の撮像装置であって、
前記撮像装置は、硬性鏡を含む、
撮像装置。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、対象物及び撮像素子を移動させずに簡易的な機構で対象物を走査可能な撮像光学系及び撮像装置を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の一実施形態に係る撮像光学系の概略構成を示す模式図である。
図2図1の撮像装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
図3図1の撮像装置によって得られる分光画像の第1例を示す図である。
図4図1の撮像装置によって得られる分光画像の第2例を示す図である。
図5図1の撮像装置によって得られる分光画像の第3例を示す図である。
図6図1の撮像装置によって得られる分光画像の第4例を示す図である。
図7図1の撮像装置によって得られる分光画像の第5例を示す図である。
図8A図2の撮像装置により実行される画像処理の一例を説明するための第1図である。
図8B図2の撮像装置により実行される画像処理の一例を説明するための第2図である。
図9図1の撮像装置によって得られる分光画像の第6例を示す図である。
図10図1の撮像装置によって得られる分光画像の第7例を示す図である。
図11図1の撮像装置によって得られる分光画像の第8例を示す図である。
図12図1の撮像装置によって得られる分光画像の第9例を示す図である。
図13図1の撮像装置によって得られる分光画像の第10例を示す図である。
図14図1の撮像装置によって得られる分光画像の第11例を示す図である。
図15図1の撮像装置を用いた分光画像の解析処理を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、添付図面を参照しながら本開示の一実施形態について主に説明する。
【0011】
図1は、本開示の一実施形態に係る撮像光学系10の概略構成を示す模式図である。一実施形態に係る撮像光学系10は、例えば撮像装置1に搭載される。図1は、撮像光学系10が搭載される撮像装置1の側面方向から撮像光学系10を視たときの様子を示す。図1において、撮像装置1は、対象物S側から順に、対物レンズ70と、撮像光学系10と、撮像素子31と、を有する。撮像装置1は、例えば、硬性鏡を含む。
【0012】
図1では、対象物Sを撮像するための光Lが対象物Sから対物レンズ70を介して撮像光学系10に入射し、撮像素子31まで導かれる様子が示されているが、光Lのうちの一部のみが光線として複数の線種で概念的に表現されている。後述する第2ミラー12bからレンズ18までの光路においては、光線をさらに簡略化している。光Lは、図1のような側面視において、上下方向に沿って広がっているが、紙面に直交する方向に沿っても同様に広がっている。撮像対象となる対象物Sの表面は、図1のような側面視において、上下方向及び紙面に直交する方向に沿って2次元的に広がっている。
【0013】
撮像光学系10は、対象物Sを撮像するための光Lを撮像素子31に導き、対象物Sの分光画像を得るために用いられる。本開示において、「対象物S」は、例えば、検査対象となる人体内部の臓器、器官、及び組織などの任意の観察対象物を含む。これに限定されず、対象物Sは、撮像装置1により観察が可能な任意の観察対象物を含んでもよい。「光L」は、例えば、後述する撮像装置1の光源部20により対象物Sに向けて照射される照明光が対象物Sの表面において反射したときの反射光などを含む。光Lの波長は、可視領域及び赤外領域における任意の範囲に含まれていてもよい。
【0014】
撮像光学系10は、対物レンズ70側から順に、第1絞り11と、中間結像面Mと、走査部12と、集光部13と、第2絞り14と、スリット15と、レンズ16と、分光素子17と、レンズ18と、を有する。対物レンズ70を通過した光Lは、撮像光学系10に含まれるこれらの構成部を順に通過して撮像素子31まで導かれる。
【0015】
第1絞り11は、撮像光学系10において対物レンズ70側に位置する。第1絞り11は、例えば、第1絞り11の穴の大きさを変化させることで第1絞り11を通過する光Lの量を調整可能な任意の遮蔽物を含む。第1絞り11の穴の大きさによって第1絞り11を通過する光Lの量は、第1絞り11のF値と対応する。第1絞り11は、穴の大きさを小さくすることも可能であるが、図1に示す撮像光学系10では一例として開放した状態で配置されている。例えば、第1絞り11は、4以下の開放F値で開放した状態で配置されている。
【0016】
走査部12は、第1絞り11を通過した光Lによる結像位置よりも撮像素子31側に位置する。本開示において、「結像位置」は、第1絞り11と走査部12との間に形成される中間結像面Mの位置である。中間結像面Mでは、撮像対象となる対象物Sの表面の中間像が虚像として形成されている。走査部12は、対象物Sの表面の所定領域ごとに分光画像の情報が得られるように対象物Sを走査する。走査部12は、結像位置と集光部13との間の光路長を一定に維持しながら所定領域を変化させて対象物Sを走査する。
【0017】
走査部12は、対象物Sの走査の間、スリット15の短手方向に沿って互いに同一方向及び同一距離だけ移動する第1ミラー12a及び第2ミラー12bを有する。本開示において、「スリット15の短手方向」は、例えば、図1における上下方向、すなわち紙面に沿って平行な方向に対応する。一方で、「スリット15の長手方向」は、例えば、図1における上下左右方向に直交する方向、すなわち紙面に垂直な方向に対応する。
【0018】
走査部12は、第1ミラー12aで反射した光Lを第2ミラー12bへと折り返す第3ミラー12cと、第2ミラー12bで反射した光Lを集光部13へと折り返す第4ミラー12dと、をさらに有する。走査部12は、対物レンズ70側から順に配置される第1ミラー12a、第3ミラー12c、第2ミラー12b、及び第4ミラー12dの4つのミラーを有する。4つのミラーの各々は、例えば、プリズムミラーであってもよいし、光Lを所定の反射率で反射させることが可能な任意の他の光学素子であってもよい。
【0019】
集光部13は、走査部12を通過した光Lを集光する。集光部13は、対物レンズ70側に配置されている第1レンズ13a及び第1レンズ13aよりも撮像素子31側に配置されている第2レンズ13bの2つのレンズを有する。第1レンズ13aは、走査部12を通過して広がる光Lを平行光にする任意のコリメートレンズを含む。第2レンズ13bは、第1レンズ13aにより平行光となった光Lを集光する任意の集光レンズを含む。集光部13は、走査部12を通過した光Lを一度平行光としてからスリット15が配置されている位置で焦点を結ぶように集光する。
【0020】
第2絞り14は、集光部13よりも撮像素子31側に位置する。第2絞り14は、例えば、第2絞り14の穴の大きさを変化させることで第2絞り14を通過する光Lの量を調整可能な任意の遮蔽物を含む。第2絞り14の穴の大きさによって第2絞り14を通過する光Lの量は、第2絞り14のF値と対応する。第2絞り14は、図1に示す撮像光学系10では一例として開放した状態ではなく穴の大きさを小さくした状態で配置されている。例えば、第2絞り14は、11以上16以下のF値を有する。
【0021】
スリット15は、光Lが第2絞り14を通過して集光部13により集光する位置に配置されている。スリット15は、集光部13により集光される光Lの焦点位置に配置されている。スリット15は、矩形状の穴を有する。スリット15の穴は、図1における上下方向、すなわち紙面に沿って平行な方向に短辺を有し、上下左右方向に直交する方向、すなわち紙面に垂直な方向に長辺を有する。スリット15の短手方向におけるスリット幅は、80μm以上120μm以下の範囲に含まれる。スリット15は、走査部12を通過した光Lのうち対象物Sの所定領域に対応する光Lのみを通過させる。
【0022】
レンズ16は、スリット15よりも撮像素子31側に配置されている。レンズ16は、スリット15を通過して広がる光Lを平行光にする任意のコリメートレンズを含む。
【0023】
分光素子17は、レンズ16よりも撮像素子31側に配置され、レンズ16により平行光となった光Lを受ける。分光素子17は、スリット15を通過した光Lをハイパースペクトルで規定された複数の波長領域に分光する。分光素子17は、例えば、回折格子を含む。分光素子17が光Lをハイパースペクトルで規定された複数の波長領域に分光することで、撮像装置1は、ハイパースペクトルカメラとして機能する。
【0024】
レンズ18は、分光素子17よりも撮像素子31側に配置されている。レンズ18は、分光素子17で分光された光Lを撮像素子31に向けて集光する任意の集光レンズを含む。
【0025】
撮像素子31は、撮像光学系10から出射した光Lを検出する任意のセンサ素子を含む。撮像素子31は、例えば、固体撮像素子(Charge Coupled Device:CCD)及び相補性金属酸化膜半導体(Complementary Metal Oxide Semiconductor:CMOS)などのセンサ素子を含む。撮像素子31は、撮像光学系10から出射した光Lを検出し、対象物Sの分光画像に関する情報として検出信号を出力する。撮像素子31は、可視領域及び赤外領域における光Lの波長範囲に対応した波長特性を有する。
【0026】
図2は、図1の撮像装置1の概略構成を示す機能ブロック図である。撮像装置1は、図1で示した対物レンズ70及び撮像光学系10に加えて、光源部20、撮像素子31を有する検出部30、記憶部40、駆動部50、及び制御部60をさらに有する。図2を参照しながら、撮像装置1の構成の一例について主に説明する。
【0027】
光源部20は、対象物Sを照らす照明光を照射する任意の光源を有する。光源は、例えば、LED(Light-Emitting Diode)、LD(Laser Diode)、及びランプ光源などを含む。光源部20は、例えば、人体の内部で対象物Sの周囲が暗い状況下であっても、対象物Sの分光画像を取得可能とするために対象物Sに照明光を照射して対象物Sを明るく照らす。
【0028】
検出部30は、撮像素子31を有し、撮像光学系10から出射した光Lを検出する。検出部30は、撮像光学系10から出射した光Lを検出し、対象物Sの分光画像に関する情報として検出信号を制御部60に出力する。
【0029】
記憶部40は、任意の記憶モジュールを有する。記憶モジュールは、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、ROM(Read-Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)などを含む。記憶部40は、例えば、主記憶装置、補助記憶装置、又はキャッシュメモリとして機能する。記憶部40は、撮像装置1の動作に用いられる任意の情報を記憶する。
【0030】
記憶部40は、検出部30により検出された光Lの検出信号に基づいて、走査部12における第1ミラー12a及び第2ミラー12bが移動するごとに、対象物Sの表面の所定領域の分光画像の情報を順番に記憶する。記憶部40は、走査部12による対象物Sの走査完了後に制御部60が行う演算処理に基づき得られた分光画像を記憶する。その他にも、記憶部40は、システムプログラム及びアプリケーションプログラムなどを記憶する。記憶部40は、撮像装置1に内蔵されているものに限定されず、USB(Universal Serial Bus)などのデジタル入出力ポートによって接続されている外付け型の記憶モジュールを有してもよい。
【0031】
駆動部50は、走査部12における第1ミラー12a及び第2ミラー12bを対象物Sの走査に合わせて移動させる任意の駆動機構を有する。駆動機構は、例えば、第1ミラー12a及び第2ミラー12bの各々を直線上で移動させるステージ並びに当該ステージを駆動するためのモータを含む。ステージは、例えば、一軸ステージを含む。これに限定されず、ステージは、例えば、二軸ステージ及び三軸ステージなどの任意の他のステージを含んでもよい。
【0032】
制御部60は、1つ以上のプロセッサを有する。プロセッサは、例えば、汎用のプロセッサ及び特定の処理に特化した専用のプロセッサなどを含む。制御部60は、撮像装置1を構成する各構成部と通信可能に接続され、撮像装置1全体の動作を制御する。
【0033】
制御部60は、光源部20を制御して、対象物Sを照らす照明光を光源部20から照射させる。撮像装置1の光源部20により対象物Sに向けて照射される照明光が対象物Sの表面において反射したときの反射光が光Lとして撮像装置1に入射する。対象物Sの表面から撮像装置1に入射した光Lは、初めに撮像装置1の対物レンズ70を通過する。
【0034】
光Lは、その後、撮像光学系10に入射し、走査部12が有する4つのミラーで反射する。制御部60は、駆動部50を制御して、撮像光学系10の走査部12における第1ミラー12a及び第2ミラー12bを移動させる。制御部60は、対象物Sの走査の間、スリット15の短手方向に沿って互いに同一方向及び同一距離だけ第1ミラー12a及び第2ミラー12bを移動させる。
【0035】
例えば、図1に示されるように、第1ミラー12aが実線で表された最下部に位置するとき、第2ミラー12bも実線で表された最下部に位置する。このとき、光Lとして概念的に示した複数の光線のうち、実線で表された、第1ミラー12aの手前で最下部に位置する光線のみが第2絞り14及びスリット15を通過する。第1ミラー12aの手前で最下部に位置する光線がスリット15の長手方向に広がっているが、第2絞り14及びスリット15は、当該長手方向に広がる光線の一部を遮ることなくその全体を通過させる。図1における上下方向の異なる位置を伝搬する他の光線は、走査部12を同様に通過して集光部13により集光されるが、第2絞り14又はスリット15によって遮られる。制御部60は、スリット15、レンズ16、分光素子17、及びレンズ18を通過して撮像素子31により検出された光Lの検出信号を検出部30から取得する。以上により、制御部60は、対象物Sの表面のうち第1領域における分光画像の情報を取得する。
【0036】
例えば、図1に示されるように、第1ミラー12aが仮想線で表された上下方向の中央部に位置するとき、第2ミラー12bも仮想線で表された上下方向の中央部に位置する。このとき、光Lとして概念的に示した複数の光線のうち、点線で表された、第1ミラー12aの手前で上下方向の中央部に位置する光線のみが第2絞り14及びスリット15を通過する。第1ミラー12aの手前で上下方向の中央部に位置する光線がスリット15の長手方向に広がっているが、第2絞り14及びスリット15は、当該長手方向に広がる光線の一部を遮ることなくその全体を通過させる。図1における上下方向の異なる位置を伝搬する他の光線は、走査部12を同様に通過して集光部13により集光されるが、第2絞り14又はスリット15によって遮られる。制御部60は、スリット15、レンズ16、分光素子17、及びレンズ18を通過して撮像素子31により検出された光Lの検出信号を検出部30から取得する。以上により、制御部60は、対象物Sの表面のうち第1領域に隣接する第2領域における分光画像の情報を取得する。
【0037】
例えば、図1に示されるように、第1ミラー12aが仮想線で表された最上部に位置するとき、第2ミラー12bも仮想線で表された最上部に位置する。このとき、光Lとして概念的に示した複数の光線のうち、破線で表された、第1ミラー12aの手前で最上部に位置する光線のみが第2絞り14及びスリット15を通過する。第1ミラー12aの手前で最上部に位置する光線がスリット15の長手方向に広がっているが、第2絞り14及びスリット15は、当該長手方向に広がる光線の一部を遮ることなくその全体を通過させる。図1における上下方向の異なる位置を伝搬する他の光線は、走査部12を同様に通過して集光部13により集光されるが、第2絞り14又はスリット15によって遮られる。制御部60は、スリット15、レンズ16、分光素子17、及びレンズ18を通過して撮像素子31により検出された光Lの検出信号を検出部30から取得する。以上により、制御部60は、対象物Sの表面のうち第2領域に隣接する第3領域における分光画像の情報を取得する。
【0038】
以上のように、制御部60は、走査部12における第1ミラー12a及び第2ミラー12bを駆動部50により移動させて、対象物Sの表面を複数の所定領域にわたり連続的に走査する。上記では、一例として、第1領域乃至第3領域の3つの所定領域についてのみ説明したが、これに限定されない。走査部12による対象物Sの表面の走査において、より多くの数の所定領域ごとに分光画像の情報が取得されてもよい。
【0039】
制御部60は、検出部30により検出された光Lの検出信号に基づいて、走査部12における第1ミラー12a及び第2ミラー12bが移動するごとに、対象物Sの表面の所定領域における分光画像の情報を記憶部40に順番に格納する。制御部60は、走査部12による対象物Sの走査完了後に、記憶部40に蓄積された情報に基づいて対象物Sの表面全体の分光画像を取得し、記憶部40に格納する。
【0040】
このような分光画像には、例えば、分光素子17においてハイパースペクトルで規定された複数の波長領域に対応する数の画像情報が含まれる。制御部60は、例えば、全ての波長領域における画像情報を重ね合わせて1枚の分光画像を得ることも可能である。制御部60は、例えば、複数の波長領域のうちの特定の波長領域ごとに1枚の分光画像を得ることも可能である。
【0041】
図3は、図1の撮像装置1によって得られる分光画像の第1例を示す図である。図3では、被写体となる対象物Sは、3mm×3mmのサイズを一マスとして複数のマスが格子状に配列された模様が描かれている解像力チャートなどの紙媒体を含む。図3に示す分光画像は、波長550nmを含む特定の波長領域に対して得られたものである。図3に示されるように、撮像装置1は、撮像光学系10の走査部12を用いた対象物Sの走査によって、対象物S及び撮像素子31を移動させずとも、特定の波長領域に対する分光画像を鮮明に得ることができる。
【0042】
図4は、図1の撮像装置1によって得られる分光画像の第2例を示す図である。図4は、第2絞り14のF値が16である場合に第1絞り11のF値を変化させたときの、分光画像中の対象物Sの外周部において発生する影の様子を示したものである。図4の(a)は、第1絞り11のF値が8であるときの様子を示す。図4の(b)は、第1絞り11のF値が4であるときの様子を示す。図4の(c)は、第1絞り11のF値が1.4であるときの様子を示す。
【0043】
図4に示される各分光画像が得られたときの他の条件は以下のとおりである。対物レンズ70の焦点距離fは50mmである。作動距離WDは210mmである。光源部20からの照明光の照度は、20万lxである。スリット15の短手方向におけるスリット幅は、100μmである。
【0044】
図4の(a)に示されるように、第2絞り14のF値が16である場合であって、第1絞り11のF値が8であるとき、分光画像中の対象物Sの外周部に影が発生し、当該外周部において対象物Sの一部が分光画像に正確に写っていない。分光画像における対象物Sの外周部の影は、例えば第1絞り11の穴の外周において光Lの一部が遮られることで発生する。当該影は、第1絞り11に限定されず、光Lの外周を遮るような任意の他の光学部品によっても発生し得る。図4の(a)に示すケースのように、第1絞り11を絞ると、対象物Sの外周部が分光画像において正確に写らなくなる。
【0045】
図4の(b)に示されるように、第2絞り14のF値が16である場合であって、第1絞り11のF値が4であるとき、分光画像中の対象物Sの外周部に発生していた影はなくなり、当該外周部において対象物Sの一部が分光画像に正確に写っている。図4の(c)に示されるように、第2絞り14のF値が16である場合であって、第1絞り11のF値が1.4であるとき、同様に、当該外周部において対象物Sの一部が分光画像に正確に写っている。以上のように、第1絞り11の穴を大きく開けて第2絞り14を絞ることで、分光画像において対象物Sの外周部に影が写り込まない。
【0046】
図5は、図1の撮像装置1によって得られる分光画像の第3例を示す図である。図5は、図4に示されるような対象物Sの表面全体の分光画像を表すのではなく、走査部12における第1ミラー12a及び第2ミラー12bの複数の位置のうちのいずれか1つの位置に対応する対象物Sの表面の所定領域のみの分光画像を表す。
【0047】
図5は、第1絞り11のF値が1.4である場合に第2絞り14のF値を変化させたときの分光画像の解像度の変化の様子を示したものである。図5の(a)は、第2絞り14のF値が16であるときの様子を示す。図5の(b)は、第2絞り14のF値が11であるときの様子を示す。図5の(c)は、第2絞り14のF値が3であるときの様子を示す。
【0048】
図5に示される各分光画像が得られたときの他の条件は図4に示される各分光画像が得られたときの他の条件と同様に以下のとおりである。対物レンズ70の焦点距離fは50mmである。作動距離WDは210mmである。光源部20からの照明光の照度は、20万lxである。スリット15の短手方向におけるスリット幅は、100μmである。
【0049】
図5の(c)に示されるように、第1絞り11のF値が1.4である場合であって、第2絞り14のF値が3であるとき、分光画像の解像度が著しく低下し、分光画像がぼやけている。第2絞り14のF値が小さく第2絞り14の穴が大きいと、第2絞り14を通過する光Lの量が大きくなり、対象物Sの表面の所定領域ごとに分解ができなくなる。したがって、複数の所定領域に対応する光Lが混ざってしまい、分光画像がぼやける。
【0050】
図5の(b)に示されるように、第1絞り11のF値が1.4である場合であって、第2絞り14のF値が11であるとき、分光画像のぼやけが抑制される。同様に、図5の(a)に示されるように、第1絞り11のF値が1.4である場合であって、第2絞り14のF値が16であるとき、分光画像のぼやけが抑制される。第2絞り14のF値が大きく第2絞り14が絞られることで、第2絞り14を通過する光Lの量が限定的となる。したがって、対象物Sの表面の所定領域ごとの分解が可能となる。このとき、解像度として、例えば、2LP/mm又はMTF(Modulation Transfer Function)20%以上の目標設定値が定められている。LP/mmは、ラインペア/mmと称し、分光画像の解像度を示す。
【0051】
表1は、他の条件及び目標設定値を図4及び図5に示される各分光画像が得られたときの他の条件及び目標設定値と同一としたまま第1絞り11のF値及び第2絞り14のF値の組み合わせを変えたときの外周部の影の有無及び2LP/mmの解像度を満たすか否かについてまとめた表である。
【0052】
【表1】
【0053】
表1において、第1絞り11のF値が4以下であり、かつ第2絞り14のF値が11以上16以下となるケース5、6、8、9において、外周部の影が無く、目標設定値の解像度が得られていることが分かる。ケース6は、図4の(b)に対応する。ケース8は、図5の(b)に対応する。ケース9は、図5の(a)に対応する。図5の(a)及び(b)に示されるように、分光画像の解像度は、第2絞り14のF値が11のときよりも16のときの方がさらに向上する。
【0054】
図6は、図1の撮像装置1によって得られる分光画像の第4例を示す図である。図6の(a)は、第1絞り11のF値を8とし、かつ第2絞り14を絞り径φ12で開放したときの様子を示す。図6の(b)は、第1絞り11を開放F値1.4で開放し、かつ第2絞り14の絞り径をF11相当のφ3.5としたときの様子を示す。
【0055】
図6に示される各分光画像が得られたときの他の条件は図4に示される各分光画像が得られたときの他の条件と同様に以下のとおりである。対物レンズ70の焦点距離fは50mmである。作動距離WDは210mmである。光源部20からの照明光の照度は、20万lxである。スリット15の短手方向におけるスリット幅は、100μmである。
【0056】
図6の(b)に示されるように、対物レンズ70側に位置する第1絞り11を開放し、集光部13とスリット15との間に位置する第2絞り14を絞ることで、分光画像において対象物Sの外周部に影が写らない。したがって、分光画像において、対象物Sの視野範囲が広がる。
【0057】
図7は、図1の撮像装置1によって得られる分光画像の第5例を示す図である。図7は、図6に示されるように対象物Sの表面全体の分光画像を表すのではなく、走査部12における第1ミラー12a及び第2ミラー12bの複数の位置のうちのいずれか1つの位置に対応する対象物Sの表面の所定領域のみの分光画像を表す。それ以外の点では、図7の(a)に示される分光画像が得られたときの条件は、図6の(a)に示される分光画像が得られたときの条件と同一である。図7の(b)に示される分光画像が得られたときの条件は、図6の(b)に示される分光画像が得られたときの条件と同一である。
【0058】
図7の(b)に示されるように、対物レンズ70側に位置する第1絞り11を開放し、集光部13とスリット15との間に位置する第2絞り14を絞ることで、分光画像の解像度が向上する。すなわち、コントラストの高い分光画像が得られる。
【0059】
撮像装置1の制御部60は、分光画像を取得するにあたり所定の画像処理を実行する。以下では、このような画像処理について主に説明する。
【0060】
図8Aは、図2の撮像装置1により実行される画像処理の一例を説明するための第1図である。図8Aは、ベース台Bに対象物Sが配置されておらず、ベース台Bに基づくバックグラウンド画像のみを撮像して実行される前処理の様子を示す。
【0061】
図8Aの(a)に示されるように、画像処理のステップS1では、撮像装置1の制御部60は、光源部20によりベース台Bに対して照射された照明光の反射光を光Lとして、撮像光学系10を介し検出部30により検出する。これにより、制御部60は、対象物Sを走査して分光画像を取得する上記と同様の方法で、ベース台Bの表面を撮像した分光画像をバックグラウンド画像として取得する。
【0062】
図8Aの(b)に示されるように、画像処理のステップS2では、撮像装置1の制御部60は、ステップS1において取得された分光画像を輝度分布が均一となるような分光画像へと補正する。
【0063】
図8Bは、図2の撮像装置1により実行される画像処理の一例を説明するための第2図である。図8Bは、ベース台Bに対象物Sが配置されており、対象物Sを走査して得られた対象物Sの分光画像に対する処理の様子を示す。図8Bに示す分光画像は、波長940nmを含む特定の波長領域に対して得られた解像力チャートに関するものである。
【0064】
図8Bの(a)に示されるように、画像処理のステップS3では、撮像装置1の制御部60は、対象物Sを走査して分光画像を取得する上記と同様の方法で対象物Sの分光画像を取得する。
【0065】
図8Bの(b)に示されるように、画像処理のステップS4では、撮像装置1の制御部60は、ステップS2における分光画像の補正に用いられた補正値に基づいて対象物Sの分光画像を同様に補正し、輝度分布の不均一性を抑制する。
【0066】
図8Bの(c)に示されるように、画像処理のステップS5では、撮像装置1の制御部60は、ステップS4において補正された分光画像に対して平滑化処理を実行する。例えば、制御部60は、ステップS4において補正された分光画像中に残るスジを見えにくくするために、輝度値の移動平均などを用いた平滑化処理を当該分光画像に対して実行する。すなわち、制御部60は、輝度値が極端にずれているピクセルに対して輝度値を平均化し、スジをぼかして目立たなくする。
【0067】
以上のような画像処理によって、撮像装置1は、観察にあたり対象物Sを移動させないことに起因して発生する照明光のムラを抑制するにあたり、光源部20から均一照明を提供する必要がない。したがって、光源部20に用いる光源の選択の自由度が向上する。
【0068】
その後、撮像装置1の制御部60は、ステップS5までのステップにより画像処理が施された分光画像を用いて解析処理を実行する。このような解析処理については、図15を用いながら後述する。
【0069】
以上をまとめると、撮像装置1は、基準となる試料であるベース台Bを用いてリファレンス画像を取得し、輝度分布の不均一性が解消するような補正処理をリファレンス画像に対して実行する。撮像装置1は、このときの補正値を用いて、観察する対象物Sの分光画像も同様に補正する。撮像装置1は、図15を用いて後述するように、リファレンス画像と分光画像とを互いに比較しながら解析処理を実行する。
【0070】
図9は、図1の撮像装置1によって得られる分光画像の第6例を示す図である。図9に示す分光画像は、波長550nmを含む特定の波長領域に対して得られたものである。図9の(a)は、スリット15の短手方向におけるスリット幅が50μmであり、かつ上述した画像処理を施す前の様子を示す。図9の(b)は、スリット15の短手方向におけるスリット幅が100μmであり、かつ上述した画像処理を施す前の様子を示す。
【0071】
図9に示される各分光画像が得られたときの他の条件は図4に示される各分光画像が得られたときの他の条件と同様に以下のとおりである。対物レンズ70の焦点距離fは50mmである。作動距離WDは210mmである。光源部20からの照明光の照度は、20万lxである。
【0072】
図9に示されるように、スリット15の短手方向におけるスリット幅が50μmから100μmに広がることで、分光画像に形成されている縦スジが低減している。したがって、分光画像がより鮮明となる。
【0073】
図10は、図1の撮像装置1によって得られる分光画像の第7例を示す図である。図10は、図9で得られた分光画像の各々に対して上述した画像処理を施した後の分光画像を示す。図10の(a)は、図9の(a)に示す分光画像の実線囲み部に対応する部分の様子を示す。図10の(b)は、図9の(b)に示す分光画像の実線囲み部に対応する部分の様子を示す。
【0074】
図10の(a)に示されるように、スリット15の短手方向におけるスリット幅が50μmであるとき、分光画像に形成されている縦スジは鮮明に残り、画像処理を施したとしても除去されない。一方で、図10の(b)に示されるように、スリット15の短手方向におけるスリット幅が100μmであるとき、分光画像に形成されている縦スジは除去され、画像処理前と比較して分光画像がさらに鮮明となっている。
【0075】
表2は、他の条件を図9及び図10に示される各分光画像が得られたときの他の条件と同一としたままスリット15の短手方向におけるスリット幅を変えたときの分光画像における縦スジの状態及び解像度を満たすか否かについてまとめた表である。表2において、解像度の目標設定値は、スリット15の長手方向に対しては1LP/mmである。解像度の目標設定値は、スリット15の短手方向に対しては5LP/mmである。
【0076】
【表2】
【0077】
表2において、スリット15の短手方向におけるスリット幅が80μm以上120μm以下の範囲に含まれるケース2のみにおいて、分光画像における縦スジの状態が良く、かつ長手方向及び短手方向の両方で目標設定値の解像度が得られていることが分かる。縦スジの状態が良いとは、例えば、図9の(b)及び図10の(b)に示す分光画像のように縦スジが低減し、又は除去されて、分光画像が鮮明である状態を意味する。
【0078】
図11は、図1の撮像装置1によって得られる分光画像の第8例を示す図である。図11の(a)は、スリット15の短手方向におけるスリット幅が60μmであるときの図10に対応する分光画像である。図11の(b)は、図11の(a)の分光画像における第1位置sp1及び第2位置sp2での分光スペクトルを、横軸を波長(nm)とし、縦軸を輝度値の積算値として示したものである。
【0079】
図11に示されるように、スリット幅が60μmであるとき、上述した画像処理を施した場合であっても、第1位置sp1と第2位置sp2との間で分光スペクトルの強度がずれる。例えば、輝度値について、第1位置sp1の積算値は、第2位置sp2の積算値と比較して10%程度小さくなる。これは、分光画像において輝度分布が発生していることを意味する。このような輝度分布は、光源部20による照明ムラ、外乱光の入射、及びスリット15に起因する分光画像の縦スジなどが原因となって発生する。例えば、スリット幅を狭めると分光画像に濃い縦スジが発生し、輝度分布の発生要因となり得る。
【0080】
図12は、図1の撮像装置1によって得られる分光画像の第9例を示す図である。図12の(a)は、スリット15の短手方向におけるスリット幅が100μmであるときの図10に対応する分光画像である。図12の(b)は、図12の(a)の分光画像における第1位置sp1及び第2位置sp2での分光スペクトルを、横軸を波長(nm)とし、縦軸を輝度値の積算値として示したものである。
【0081】
図12に示されるように、スリット幅が100μmであるとき、上述した画像処理を施すことで、第1位置sp1と第2位置sp2との間の分光スペクトルの強度のずれが改善する。例えば、輝度値について、第1位置sp1の積算値は、第2位置sp2の積算値と略同一である。これは、分光画像において輝度分布が抑制されていることを意味する。このように、スリット15の短手方向におけるスリット幅を最適化し、かつ上述した画像処理を実行することで、分光画像の輝度分布は大幅に改善する。
【0082】
図13は、図1の撮像装置1によって得られる分光画像の第10例を示す図である。図13の(a)は、上述した画像処理を施す前の、図9の(b)に対応する分光画像である。図13の(b)は、図13の(a)の分光画像における実線に沿ったピクセルの輝度値の分布を、横軸をピクセル番号とし、縦軸をピクセル値として示したものである。
【0083】
図13の(b)に示されるように、対物レンズ70の周辺減光によっても輝度分布が発生し得る。分光画像の中央部においては輝度値が大きい一方で、中央部から外側に向かうにつれて輝度値が小さくなっている。
【0084】
図14は、図1の撮像装置1によって得られる分光画像の第11例を示す図である。図14の(a)は、上述した画像処理を施した後の、図10の(b)に対応する分光画像である。図14の(b)は、図14の(a)の分光画像における実線に沿ったピクセルの輝度値の分布を、横軸をピクセル番号とし、縦軸をピクセル値として示したものである。
【0085】
図14の(b)に示されるように、対物レンズ70の周辺減光により発生していた輝度分布は、画像処理によって大幅に抑制されている。分光画像の中央部から外側に向かった位置においても、分光画像の中央部における輝度値と略同一の輝度値が得られている。
【0086】
図15は、図1の撮像装置1を用いた分光画像の解析処理を説明するための模式図である。図15では、一例として、対象物Sは水滴を含む。図15の(a)は、ベース台Bに対して対象物Sが付着しているときの様子を示す。皿状のベース台Bにおける第1位置sp1に対象物Sとしての水滴が付着し、ベース台Bにおける第2位置sp2には対象物Sとしての水滴が付着していない。図15の(b)は、図15の(a)で示す第1位置sp1及び第2位置sp2の各々における分光スペクトルを、横軸を波長(nm)とし、縦軸を相対強度として示したものである。「相対強度」は、例えば、分光画像における第2位置sp2での輝度値に対する第1位置sp1での輝度値の比率を示す。「第1位置sp1での輝度値」は、例えば、第1位置sp1を含む位置指定領域内での輝度値の平均値を含む。「第2位置sp2での輝度値」は、例えば、第2位置sp2を含む位置指定領域内での輝度値の平均値を含む。
【0087】
撮像装置1の制御部60は、図8Aの(b)で示す分光画像に対し図8Bの(c)で示す分光画像を比較して比率を求め、図15の(b)に示すようなグラフを作成することも可能である。図15の(b)では、バックグラウンドとなるベース台Bの第2位置sp2に対して、対象物Sがベース台Bに付着している第1位置sp1での輝度値による相対強度の波長依存性が示されている。
【0088】
図15の(b)に示されるように、第1位置sp1に付着している対象物Sによって、第1位置sp1での輝度値による相対強度が波長970nm付近においてバックグラウンドのレベルから10%ほど低下している。したがって、撮像装置1の制御部60は、対象物Sが位置する第1位置sp1及びバックグラウンドとなる第2位置sp2での分光スペクトルを互いに比較することで、対象物Sを検出したり、対象物Sの種類を特定したりすることも可能である。
【0089】
以上のような一実施形態に係る撮像光学系10及び撮像装置1によれば、対象物S及び撮像素子31を移動させずに簡易的な機構で対象物Sを走査可能である。走査部12が、結像位置と集光部13との間の光路長を一定に維持しながら対象物Sの所定領域を変化させて対象物Sを走査することで、撮像光学系10は、走査による分光画像のピンボケを抑制可能である。撮像光学系10は、対象物Sの走査に起因する光路長変動に対する補正パラメータなどによって専用の設計が必要になるといった従来の問題も解消する。
【0090】
撮像光学系10は、走査部12によって対象物Sの走査を可能にするので、対象物Sを移動させずに、その表面の分光画像を撮像装置1が精度良く取得することを可能にする。撮像光学系10は、2次元的に分光スペクトルを視覚化する方法を提供可能である。
【0091】
走査部12が、スリット15の短手方向に沿って互いに同一方向及び同一距離だけ移動する第1ミラー12a及び第2ミラー12bを有することで、撮像光学系10は、簡易的な機構で対象物Sを走査可能であり、撮像装置1の大型化を抑制可能である。撮像光学系10は、撮像素子などの内部センサを移動させるための光学ステージにより撮像装置が大きくなるといった従来の問題を解消する。撮像光学系10は、対象物Sの走査にあたりミラーを移動させる方式を採用することで、上述したように、光路長を一定に維持してピンボケを抑制可能である。加えて、撮像光学系10は、任意の開口数を有する市販の対物レンズ70に対応できる汎用性も有する。すなわち、撮像装置1は、市販の対物レンズ70を複数交換できる対物レンズ70交換式の装置として実現可能である。
【0092】
走査部12が1軸方向の制御で対象物Sを走査するため、撮像光学系10は、観察する対象物Sを移動させないで走査でき、走査時に光路長を合わせるための機構も不要となる。このような走査方式により、撮像装置1は、観察する対象物Sが対物レンズ70に対して被写界深度内にあれば、ピンボケが抑制された画像を取得可能である。
【0093】
走査部12は、第1ミラー12aで反射した光Lを第2ミラー12bへと折り返す第3ミラー12cと、第2ミラー12bで反射した光Lを集光部13へと折り返す第4ミラー12dと、を有する。これにより、撮像光学系10は、上述した効果をより顕著に奏する。
【0094】
第1絞り11が4以下の開放F値で開放した状態で配置されていることで、撮像光学系10は、図4及び表1を用いて上述したように、第1絞り11の穴を大きく開けて、分光画像における対象物Sの外周部での影の写り込みを抑制可能である。
【0095】
第2絞り14が11以上16以下のF値を有することで、撮像光学系10は、図5及び表1を用いて上述したように、第2絞り14を絞って第2絞り14を通過する光Lの量を限定的とすることができる。したがって、撮像装置1は、対象物Sの表面の所定領域ごとの分解を可能にする。分光画像の解像度が向上し、コントラストの高い分光画像が得られる。
【0096】
第1絞り11のF値及び第2絞り14のF値の組み合わせを最適化することで、撮像光学系10は、分光画像における対象物Sの外周部での影の写り込みを抑制して対象物Sの視野範囲を広げることが可能となる。加えて、撮像光学系10は、分光画像の解像度を向上させて、コントラストの高い分光画像を撮像装置1に取得させることが可能となる。
【0097】
スリット15の短手方向におけるスリット幅が80μm以上120μm以下の範囲に含まれることで、図9、10及び表2を用いて上述したように、分光画像に形成されている縦スジが低減し、又は除去されて、分光画像がより鮮明となる。加えて、撮像装置1は、分光画像の解像度を向上させて、コントラストの高い分光画像を取得可能である。
【0098】
撮像装置1は、スリット15の短手方向におけるスリット幅が80μm以上120μm以下の範囲に含まれるときに上述した画像処理を分光画像に対してさらに施すことで、分光画像に形成されている縦スジをさらに低減し、又は除去することが可能である。したがって、撮像装置1は、画像処理前と比較してより鮮明となる分光画像を取得可能である。
【0099】
撮像装置1は、図11乃至図14を用いて上述したように、スリット幅が80μm以上120μm以下の範囲に含まれるときに、分光画像に対して画像処理を施すことで、分光画像における輝度分布を抑制可能である。撮像装置1は、スリット15の短手方向におけるスリット幅を最適化し、かつ上述した画像処理を実行することで、分光画像の輝度分布を大幅に改善可能である。
【0100】
分光素子17がスリット15を通過した光Lをハイパースペクトルで規定された複数の波長領域に分光することで、撮像光学系10は、撮像装置1をハイパースペクトルカメラとして機能させることが可能となる。
【0101】
撮像装置1は、硬性鏡として使用可能である。このとき、当該硬性鏡は、撮像光学系10を有することで、対象物S及び硬性鏡自体を移動させずに、対象物Sの分光画像を精度良く取得可能である。通常、硬性鏡は大きく、内部センサを移動させるために硬性鏡を移動させることは容易ではない。加えて、硬性鏡により観察する対象物Sは、人体の臓器などを含み、移動させることが容易ではない。このような条件下であっても、撮像光学系10を有する撮像装置1は、対象物Sを走査可能であり、上述した様々な効果を同様に奏する。
【0102】
本開示は、その精神又はその本質的な特徴から離れることなく、上述した実施形態以外の他の所定の形態で実現できることは当業者にとって明白である。したがって、先の記述は例示的であり、これに限定されない。開示の範囲は、先の記述によってではなく、付加した請求項によって定義される。あらゆる変更のうちその均等の範囲内にあるいくつかの変更は、その中に包含されるとする。
【0103】
例えば、上述した各構成部の形状、大きさ、配置、向き、及び個数は、上記の説明及び図面における図示の内容に限定されない。各構成部の形状、大きさ、配置、向き、及び個数は、その機能を実現できるのであれば、任意に構成されてもよい。図示した撮像光学系10及び撮像装置1の各構成要素は機能概念的なものであり、各構成要素の具体的形態は図示のものに限定されない。
【0104】
上記実施形態では、走査部12は、対象物Sの走査の間、スリット15の短手方向に沿って互いに同一方向及び同一距離だけ移動する第1ミラー12a及び第2ミラー12bを有すると説明したが、これに限定されない。走査部12は、結像位置と集光部13との間の光路長を一定に維持しながら対象物Sの所定領域を変化させて対象物Sを走査することができるのであれば、任意の他の構成を有してもよい。例えば、第1ミラー12a及び第2ミラー12bの移動方向は、互いに同一でなくてもよい。例えば、第1ミラー12a及び第2ミラー12bの移動距離は、互いに同一でなくてもよい。
【0105】
上記実施形態では、走査部12は、第1ミラー12aで反射した光Lを第2ミラー12bへと折り返す第3ミラー12cと、第2ミラー12bで反射した光Lを集光部13へと折り返す第4ミラー12dと、を有すると説明したが、これに限定されない。
【0106】
走査部12は、その機能を実現可能であれば、任意の位置のミラーを移動させてもよい。例えば、走査部12は、第2ミラー12bに代えて、第3ミラー12c及び第4ミラー12dの少なくとも一方を移動させてもよい。例えば、走査部12は、第1ミラー12aに代えて、第3ミラー12c及び第4ミラー12dの少なくとも一方を移動させてもよい。
【0107】
走査部12は、その機能を実現可能な任意の数のミラーを有してもよい。例えば、走査部12は、第3ミラー12c及び第4ミラー12dを有さずに、第1ミラー12a及び第2ミラー12bの2つのミラーのみを有してもよい。
【0108】
上記実施形態では、第1絞り11は、4以下の開放F値で開放した状態で配置されていると説明したが、これに限定されない。第1絞り11は、開放した状態ではなく、同等のF値を有する状態で絞られていてもよい。第1絞り11は、4以下のF値に限定されず、撮像光学系10がその機能を実現可能な任意の他の値のF値を有してもよい。
【0109】
上記実施形態では、第2絞り14は、11以上16以下のF値を有すると説明したが、これに限定されない。第2絞り14は、11以上16以下のF値に限定されず、撮像光学系10がその機能を実現可能な任意の他の値のF値を有してもよい。
【0110】
上記実施形態では、スリット15の短手方向におけるスリット幅は、80μm以上120μm以下の範囲に含まれると説明したが、これに限定されない。スリット幅は、80μm以上120μm以下の範囲に限定されず、撮像光学系10がその機能を実現可能な任意の他の値であってもよい。
【0111】
上記実施形態では、分光素子17は、スリット15を通過した光Lをハイパースペクトルで規定された複数の波長領域に分光すると説明したが、これに限定されない。分光素子17は、撮像光学系10がその機能を実現可能な任意の数の波長領域に光Lを分光してもよい。例えば、分光素子17は、スリット15を通過した光Lをマルチスペクトルで規定された複数の波長領域に分光してもよい。このとき、撮像装置1は、マルチスペクトルカメラとして機能してもよい。
【0112】
上記実施形態では、撮像装置1は、硬性鏡を含むと説明したが、これに限定されない。撮像装置1は、例えば、軟性鏡などの他の内視鏡を含んでもよい。その他にも、撮像装置1は、フィルムなどの色ムラを検査するための検査装置、プラスチックの種類を識別するための識別装置、及び食品に混入した異物を検出するための検出装置などを含んでもよい。
【符号の説明】
【0113】
1 撮像装置
10 撮像光学系
11 第1絞り
12 走査部
12a 第1ミラー
12b 第2ミラー
12c 第3ミラー
12d 第4ミラー
13 集光部
13a 第1レンズ
13b 第2レンズ
14 第2絞り
15 スリット
16 レンズ
17 分光素子
18 レンズ
20 光源部
30 検出部
31 撮像素子
40 記憶部
50 駆動部
60 制御部
70 対物レンズ
B ベース台
L 光
M 中間結像面
S 対象物
sp1 第1位置
sp2 第2位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15