(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080540
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】二酸化炭素還元装置及び二酸化炭素還元方法
(51)【国際特許分類】
C25B 3/26 20210101AFI20240606BHJP
C02F 3/28 20230101ALI20240606BHJP
C02F 3/34 20230101ALI20240606BHJP
C02F 11/04 20060101ALI20240606BHJP
C25B 3/03 20210101ALI20240606BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240606BHJP
C25B 15/08 20060101ALI20240606BHJP
H01M 8/16 20060101ALI20240606BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20240606BHJP
【FI】
C25B3/26
C02F3/28 Z ZAB
C02F3/34 Z
C02F11/04 Z
C25B3/03
C25B9/00 G
C25B15/08 302
H01M8/16
H01M8/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193840
(22)【出願日】2022-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】清川 達則
【テーマコード(参考)】
4D040
4D059
4K021
【Fターム(参考)】
4D040AA01
4D040AA02
4D040AA31
4D040AA32
4D040DD01
4D040DD11
4D040DD31
4D059AA05
4D059BA11
4D059CA27
4K021AC02
4K021AC09
4K021BC01
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC11
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、二酸化炭素の効率的な還元とともに、被処理物の嫌気処理後の生成物を活用した効率的なエネルギーの回収・利用を可能とする二酸化炭素還元装置及び二酸化炭素還元方法を提供することである。
【解決手段】上記課題を解決するために、電極反応を行う反応部と、反応部のアノード側に、還元性物質を供給する還元性物質供給手段と、反応部のカソード側に、二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給手段と、を備え、カソード側は、嫌気性雰囲気下にあり、還元性物質供給手段は、嫌気処理で生成した生成物を供給する二酸化炭素還元装置及びこの装置を用いた二酸化炭素還元方法を提供する。
本発明によれば、嫌気性微生物を用いた二酸化炭素の効率的な還元が可能になるとともに、被処理物の嫌気処理後の生成物を活用した効率的なエネルギーの回収・利用が可能となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極反応を行う反応部と、
前記反応部のアノード側に、還元性物質を供給する還元性物質供給手段と、
前記反応部のカソード側に、二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給手段と、を備え、
前記カソード側は、嫌気性雰囲気下にあり、
前記還元性物質供給手段は、嫌気処理で生成した生成物を供給することを特徴とする、二酸化炭素還元装置。
【請求項2】
前記二酸化炭素供給手段は、前記アノード側での処理を経たアノード処理物を供給することを特徴とする、請求項1に記載の二酸化炭素還元装置。
【請求項3】
前記二酸化炭素供給手段は、二酸化炭素を溶解した水溶液を供給することを特徴とする、請求項1又は2に記載の二酸化炭素還元装置。
【請求項4】
電極反応を行う反応工程と、
前記反応工程におけるアノード側に、還元性物質を供給する還元性物質供給工程と、
前記反応工程におけるカソード側に、二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給工程と、を備え、
前記カソード側は、嫌気性雰囲気下にあり、
前記還元性物質供給工程は、嫌気処理で生成した生成物を供給することを特徴とする、二酸化炭素還元方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素還元装置及び二酸化炭素還元方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化などの環境問題に対して大きな影響を与えるとされる二酸化炭素について、環境への排出を抑制することが早急に対応すべき課題となっている。この課題に対し、二酸化炭素の排出量自体の削減や排出された二酸化炭素の回収・固定化に係る研究のほか、二酸化炭素を有用な化学物質に変換する研究が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、金属-ポルフィリン錯体化合物を導電性材料に担持した二酸化炭素還元触媒を電極として用い、二酸化炭素を電気化学的に還元して一酸化炭素を生成する二酸化炭素還元装置及び二酸化炭素還元方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されるように、触媒を用いた二酸化炭素の電気化学的還元反応では、二酸化炭素の還元反応と競合する形で水素の発生反応が進行するため、二酸化炭素を十分反応させることが困難であるという課題がある。
【0006】
ここで、電気化学的な酸化還元反応を利用した技術の一つとして、微生物による酸化還元反応を利用した発電を行う微生物燃料電池が知られている。微生物燃料電池とは、微生物の代謝能力を利用して電気エネルギーを得るものである。より具体的には、微生物燃料電池とは、微生物によって有機物などの基質が酸化分解する過程で生じた電子をアノード側で回収し、カソード側に電子を移動させることで電流を得る構成を有するものである。一般的な微生物燃料電池としては、アノード側の電極表面に微生物を付着させるものが知られているが、カソード側の電極表面に微生物を付着させ、電気化学的な還元反応の触媒として微生物を利用することについての研究も行われている。
【0007】
しかし、微生物燃料電池による発電は、エネルギー変換効率が低く、実用化に際しては発電出力の向上が大きな課題となっている。これは、微生物を直接電極に接触あるいは担持させるため、電極への物質移動が微生物により阻害されることや、微生物の代謝速度が律速となることに起因しているものと推察される。
【0008】
また、近年、被処理物の各種処理を行う処理システムの設備駆動電力を抑え、省エネルギー化に優れるものとするために、処理システムに付随させる技術として、効率的なエネルギーの回収・利用が可能な技術が求められている。このような技術の一つとして、被処理物の処理システムに微生物燃料電池を適用し、被処理物の処理と発電を同時に行うことに係る技術が検討されているが、上記したように、十分な発電出力を得ることが困難であるという課題がある。
【0009】
特に、嫌気的な環境下での生物処理(以下、「嫌気処理」と呼ぶ)は、曝気動力が不要で、余剰汚泥がほとんど発生しないことなど、導入のメリットが高いことから広く用いられているが、嫌気処理後の排出物を再度嫌気処理に供することや、嫌気処理後の排出物に対する別処理が必要となることがある。このとき、嫌気処理後に発生する排出物(生成物)を活用し、発電や脱硫処理を行うことで、被処理物の処理に係るランニングコストの低減や、処理全体に係る処理能力の向上が期待される。
【0010】
本発明者らは、嫌気処理を含む被処理物の処理工程上に電極を設け、電極反応により直接電気エネルギーを回収することについて検討を重ね、電極反応に供する電子供与体として嫌気処理で生成した還元性物質を用いることで、電極反応によるエネルギー回収と同時に、被処理物に対する電気化学処理を行うことができ、被処理物の処理効率向上と省エネルギー化の実現が可能となることを既に見出している。
したがって、二酸化炭素を電気化学的に還元させる触媒として微生物を利用することと併せ、嫌気処理で生成した生成物を利用した電極反応を行うことで、二酸化炭素還元の高効率化と併せて、エネルギーの回収・利用についても実現可能となることが期待される。
【0011】
すなわち、本発明の課題は、二酸化炭素の効率的な還元とともに、被処理物の嫌気処理後の生成物を活用した効率的なエネルギーの回収・利用を可能とする二酸化炭素還元装置及び二酸化炭素還元方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、アノード側では嫌気処理で生成した生成物に含まれる還元性物質を電子供与体とした電極反応を進行させる一方、カソード側では二酸化炭素還元反応の触媒として微生物を用いた電極反応を進行させることで、二酸化炭素の効率的な還元とともに、被処理物の嫌気処理後の生成物を活用した効率的なエネルギーの回収・利用が可能となることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の二酸化炭素還元装置及び二酸化炭素還元方法である。
【0013】
上記課題を解決するための本発明の二酸化炭素還元装置は、電極反応を行う反応部と、反応部のアノード側に、還元性物質を供給する還元性物質供給手段と、反応部のカソード側に、二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給手段と、を備え、カソード側は、嫌気性雰囲気下にあり、還元性物質供給手段は、嫌気処理で生成した生成物を供給するという特徴を有する。
本発明の二酸化炭素還元装置は、電極反応を行う反応部において、アノード側には嫌気処理で生成した生成物を供給することで、生成物に含まれる還元性物質を電子供与体とした電極反応が進行する一方、カソード側には嫌気性雰囲気下で二酸化炭素を供給することで、二酸化炭素還元反応の触媒として微生物を用いた電極反応が進行し、二酸化炭素の効率的な還元とともに、被処理物の嫌気処理後の生成物を活用した効率的なエネルギーの回収・利用が可能となる。
また、本発明の二酸化炭素還元装置は、カソード側では酸素の還元反応ではなく、二酸化炭素の還元反応が進行するため、酸素の還元反応による水酸化物イオン生成に基づくpH上昇が進行しない。これにより、電極反応の低下、すなわちエネルギー回収効率の低下を抑制できるという効果を併せて奏するものとなる。
【0014】
また、本発明の二酸化炭素還元装置の一実施態様としては、二酸化炭素供給手段は、アノード側での処理を経たアノード処理物を供給するという特徴を有する。
この特徴によれば、系内で発生した二酸化炭素を外部に放出することなく、有用な物質に変換(還元)することが可能となる。また、系外から別途二酸化炭素を供給する必要がないため、二酸化炭素還元装置のランニングコストを低減することも可能となる。
【0015】
また、本発明の二酸化炭素還元装置の一実施態様としては、二酸化炭素供給手段は、二酸化炭素を溶解した水溶液を供給するという特徴を有する。
気体状態の二酸化炭素を直接カソード側に供給すると、気流によりカソード表面に付着した微生物が剥離するおそれがある。一方、この特徴によれば、カソード表面に付着した微生物が剥離することを抑制し、かつ微生物による二酸化炭素の還元に必要な成分との接触効率を高め、二酸化炭素還元に係る電極反応をより効率的に進行させることが可能となる。
【0016】
また、上記課題を解決するための本発明の二酸化炭素還元方法としては、電極反応を行う反応工程と、反応工程におけるアノード側に、還元性物質を供給する還元性物質供給工程と、反応工程におけるカソード側に、二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給工程と、を備え、カソード側は、嫌気性雰囲気下にあり、還元性物質供給工程は、嫌気処理で生成した生成物を供給するという特徴を有する。
本発明の二酸化炭素還元方法は、電極反応を行う反応工程において、アノード側には嫌気処理で生成した生成物を供給することで、生成物に含まれる還元性物質を電子供与体とした電極反応が進行する一方、カソード側には嫌気性雰囲気下で二酸化炭素を供給することで、二酸化炭素還元反応の触媒として微生物を用いた電極反応が進行し、二酸化炭素の効率的な還元とともに、被処理物の嫌気処理後の生成物を活用した効率的なエネルギーの回収・利用が可能となる。
また、本発明の二酸化炭素還元方法は、カソード側では酸素の還元反応ではなく、二酸化炭素の還元反応が進行するため、酸素の還元反応による水酸化物イオン生成に基づくpH上昇が進行しない。これにより、電極反応の低下、すなわちエネルギー回収効率の低下を抑制できるという効果を併せて奏するものとなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、二酸化炭素の効率的な還元とともに、被処理物の嫌気処理後の生成物を活用した効率的なエネルギーの回収・利用を可能とする二酸化炭素還元装置及び二酸化炭素還元方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1の実施態様における二酸化炭素還元装置の概略説明図である。
【
図2】本発明の第2の実施態様における二酸化炭素還元装置の概略説明図である。
【
図3】本発明の第3の実施態様における二酸化炭素還元装置の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る二酸化炭素還元装置及び二酸化炭素還元方法の実施態様を詳細に説明する。本発明における二酸化炭素還元方法は、本発明における二酸化炭素還元装置の作動の説明に置き換えるものとする。
なお、実施態様に記載する二酸化炭素還元装置及び二酸化炭素還元方法については、本発明に係る二酸化炭素還元装置及び二酸化炭素還元方法を説明するために例示したにすぎず、これに限定されるものではない。
【0020】
本発明において、反応部のアノード側に供給される還元性物質とは、嫌気処理で生成した生成物であって、電子供与体として機能するものであればよく、特に限定されない。また、本発明において、嫌気処理で生成した生成物(還元性物質)は、気体状態であってもよく、液体状態であってもよい。なお、液体状態の還元性物質とは、溶液に溶解または分散した状態のものも含まれる。
本発明における嫌気処理で生成した生成物の一例としては、嫌気処理を行った後の処理水(以下、「嫌気処理水」と呼ぶ)のほか、嫌気処理によって発生したバイオガスなどが挙げられる。
【0021】
ここで、ある物質が電子供与体として機能するか否かは、一般には電子受容体として機能する物質(以下、単に「電子受容体」と呼ぶ)との組み合わせによって相対的に決まるものである。つまり、本発明における還元性物質は、電子受容体よりも電子を放出しやすい(酸化還元電位が低い)、あるいはカソード側における電極反応によって電子の放出(酸化反応)が容易に進行するものとすることが挙げられる。なお、本発明においては、後述するように、カソード側で微生物を介した二酸化炭素の還元反応が進行するため、本発明における還元性物質は、微生物を介した二酸化炭素の電気化学的な還元反応により、電子を放出する酸化反応が進行するものであればよく、このような還元性物質の具体例としては、硫化水素、水素、アンモニアなどが挙げられる。
【0022】
また、本発明において、嫌気処理を行う処理対象物については、嫌気処理が可能であり、嫌気処理で生成した生成物に還元性物質が含まれるものであれば特に限定されず、固体あるいは液体のいずれであってもよい。具体的な処理対象物の例としては、例えば、食品工場、化学工場、紙パルプ工場等の各種工場から排出される工業排水や、下水などの生活排水などのような排水(廃水)が挙げられる。また、処理対象物の他の例としては、例えば、家庭や各種工場から排出する生ごみや食品廃棄物、木などバイオマスのほか、各種工場から排出される工業排水や下水などの生活排水を処理した後の余剰汚泥などのような固体廃棄物が挙げられる。なお、処理対象物が固体である場合、嫌気処理水とは、固体分を除去した濾液を指すものである。
なお、以下の実施態様においては、嫌気処理を行う処理対象物として、処理を経ることでバイオガスが発生し、かつ嫌気処理水中に還元性物質が生成するものについて主に説明するが、これに限定されるものではない。
【0023】
〔第1の実施態様〕
[二酸化炭素還元装置]
図1は、本発明の第1の実施態様における二酸化炭素還元装置の構造を示す概略説明図である。
本実施態様における二酸化炭素還元装置1Aは、
図1に示すように、電極反応を行う反応部3と、反応部3のアノード側に接続して設けられる還元性物質供給手段4と、反応部3のカソード側に接続して設けられる二酸化炭素供給手段5とを備えるものである。また、本実施態様における二酸化炭素還元装置1Aには、還元性物質供給手段4で供給する嫌気処理で生成した生成物として、嫌気処理水及び/又はバイオガスを生成する嫌気処理部2が接続されている。
【0024】
本実施態様における二酸化炭素還元装置1Aは、電極反応を行う反応部3において、アノード側には嫌気処理で生成した生成物を供給することで、生成物に含まれる還元性物質を電子供与体とした電極反応が進行する一方、カソード側には嫌気性雰囲気下で二酸化炭素を供給することで、二酸化炭素還元反応の触媒として微生物を用いた電極反応が進行する。これにより、二酸化炭素の効率的な還元と併せて、嫌気処理によって生成する生成物を活用した効率的なエネルギーの回収・利用が可能となるものである。
以下、各構成について説明する。
【0025】
(嫌気処理部)
嫌気処理部2は、被処理物Sに対して嫌気処理を行うためのものである。また、嫌気処理部2は、本実施態様における二酸化炭素還元装置1Aと接続され、後述する還元性物質供給手段4により反応部3に供給される還元性物質となる嫌気処理で生成する生成物を得るためのものである。
【0026】
嫌気処理部2で行う処理は、被処理物S中に含まれる処理対象に合った処理であり、処理後の嫌気処理水W1及び/又はバイオガスG1中に還元性物質を含むものであれば、特に制限されない。例えば、酸生成菌及びメタン生成菌によるメタン発酵や、脱窒菌により硝酸・亜硝酸の還元を行う脱窒処理や、硫酸還元菌により硫酸の還元を行う硫酸還元処理等が挙げられるが、処理コストや生成ガスの有用性の観点から、メタンを生成するメタン発酵が特に好ましい。
【0027】
嫌気処理部2は、メタン発酵処理において公知の構造を用いることができ、例えば、酸生成槽とメタン発酵槽の組み合わせとして公知の構造を有するものや、消化槽として公知の構造を有するものが好ましく、具体的な構造については特に限定されない。
【0028】
嫌気処理部2においてメタン発酵を行う場合、主にメタンガスからなり、硫化水素を含有するバイオガスG1が発生するほか、被処理物Sを処理した後の排出物(嫌気処理水W1)中には、メタンのほか、硫化水素、水素、アンモニア等の生成物が存在する。なお、これら生成物は、本発明における還元性物質に相当するものである。
【0029】
嫌気処理部2で生成した嫌気処理水W1及び/又はバイオガスG1は、二酸化炭素還元装置1Aの反応部3(アノード側)に導入される。
【0030】
(反応部)
反応部3は、電気化学的な酸化還元反応を行うためのものであり、アノード側では還元性物質を電子供与体とした電極反応を進行させ、カソード側では微生物を用いた二酸化炭素還元に係る電極反応を進行させるためのものである。また、反応部3では、この電極反応によって二酸化炭素の還元と併せて、発電や脱硫処理を行うことができる。
【0031】
本実施態様の反応部3は、アノード側とカソード側で独立した電極反応を行うことができる構造を有するものであればよく、例えば、
図1に示すように、イオン交換体35で仕切られた第1のセル31a及び第2のセル31bと、それぞれのセル(セル31a及び31b)に配置された一対の電極(電極33a及び33b)を備えているものが挙げられる。
【0032】
(還元性物質供給手段)
還元性物質供給手段4は、反応部3のアノード側に対して、還元性物質を供給するためのものである。
還元性物質供給手段4としては、嫌気処理で生成した生成物を反応部3のアノード側に供給することができるものであればよく、詳細な構造については特に限定されない。
本実施態様における還元性物質供給手段4の具体例としては、例えば、
図1に示すように、嫌気処理部2と反応部3のアノード側とを接続する配管41(配管41a及び41b)からなるものが挙げられる。これにより、配管41を介して、嫌気処理部2で生成した嫌気処理水W1及び/又はバイオガスG1が反応部3のアノード側に供給することが可能となる。
なお、
図1においては、配管41aを介して嫌気処理水W1が反応部3のアノード側に供給され、配管41bを介してバイオガスG1が反応部3のアノード側に供給されるものを示している。
また、嫌気処理水W1を供給する配管41aと反応部3の接続箇所は特に限定されないが、バイオガスG1を供給する配管41bは、反応部3の下方と接続し、バイオガスG1を反応部3の下方から上方に向かって供給させることが好ましい。これにより、バイオガスG1の成分を反応部3内で拡散させることが容易となり、アノード側における電極反応効率を向上させることが容易となる。
【0033】
このとき、還元性物質供給手段4としては、嫌気処理部2で生成した嫌気処理水W1及び/又はバイオガスG1が流通可能なものであればよい。例えば、還元性物質供給手段4としては、
図1に示すように、嫌気処理水W1とバイオガスG1とをそれぞれ独立して流通させるために複数の配管41a及び41bを備えるものに限定されるものではない。例えば、還元性物質供給手段4として、1つの配管を備え、嫌気処理水W1あるいはバイオガスG1を選択して流通させるものであってもよく、嫌気処理水W1とバイオガスG1の混合物を流通させるものであってもよい。
さらに、還元性物質供給手段4としては、アノード側に供給する還元性物質の供給量を制御するための制御機構として、バルブなどの流量調整機構を配管41上に設けるものとしてもよい。これにより、反応部3内で進行する電極反応における反応効率を制御することが可能となる。
【0034】
(二酸化炭素供給手段)
二酸化炭素供給手段5は、反応部3のカソード側に対して、二酸化炭素を供給するためのものである。
二酸化炭素供給手段5としては、二酸化炭素を反応部3のカソード側に供給することができるものであればよく、詳細な構造については特に限定されない。
本実施態様における二酸化炭素供給手段5の具体例としては、例えば、
図1に示すように、二酸化炭素供給源51と、反応部3のアノード側と二酸化炭素供給源51とを接続する配管52を備えるものが挙げられる。
ここで、二酸化炭素供給源51としては、特に限定されない。二酸化炭素供給源51の具体例としては、例えば、生活・産業活動に伴い、各種施設(発電施設・工場・一般家庭等)や運輸手段から排出される二酸化炭素を含むガスのほか、大気や火山ガス等、天然に存在する二酸化炭素を含むガスなどが挙げられる。
さらに、二酸化炭素供給手段5としては、カソード側に供給する二酸化炭素の供給量を制御するための制御機構として、バルブなどの流量調整機構を配管52上に設けるものとしてもよい。これにより、反応部3内で進行する電極反応における反応効率を制御することが可能となる。
【0035】
以下、本実施態様の反応部3に係る構造の一例について、二酸化炭素の還元と発電に係る観点から詳細に説明する。なお、本実施態様の反応部3における脱硫処理の詳細については後述する。
【0036】
本実施態様の反応部3は、
図1に示すように、第1のセル31a及び第2のセル31bと、セル31a、31bの間を仕切るように設けられたイオン交換体35と、セル31a、31bにそれぞれ配置された電極33a、33bとを備えている。ここで、第1のセル31aは、還元性物質供給手段4を介して嫌気処理部2から供給された嫌気処理水W1及びバイオガスG1が電極33aに接触するように形成されており、第1のセル31aに配置された電極33aはアノードとして機能する。一方、第2のセル31bは、嫌気性雰囲気下にあるとともに、二酸化炭素供給手段5を介して供給された二酸化炭素が電極33bに接触するように形成されており、第2のセル31bに配置された電極33b表面には微生物が付着するとともに、電極33bがカソードとして機能する。また、電極33a、33bは導線により外部回路と接続されている。
【0037】
第1のセル31aは、電極33aを備え、還元性物質供給手段4から供給された還元性物質(嫌気処理水W1及び/又はバイオガスG1)が電極33aに接触するように形成されているものであればよく、特に素材や形状は問わない。例えば、
図1に示すように、還元性物質供給手段4の配管41(配管41a及び41b)を介して還元性物質導入口32a及び32bから導入された嫌気処理水W1及びバイオガスG1を一時的に貯留可能なスペースを有し、電極33aに接触した後の処理物である処理水W2及び処理ガスG2を、系外に排出するための処理物排出口32c及び32dと、排出配管L1及びL2を備えること等が挙げられる。これにより、嫌気処理水W1及びバイオガスG1中の還元性物質は電子供与体として電極33aに電子を供与した後、排出配管L1及びL2を介して速やかに排出される。
なお、還元性物質供給手段4における配管41と併せて、排出配管L1にもバルブ等の流量調整機構を設けるものとしてもよい。これにより、電極33aに接触させる嫌気処理水W1の量及び流速を調整し、電極33aに対する物質移動速度を制御することが可能となる。
【0038】
ここで、処理水W2及び処理ガスG2は、アノード側での電極反応後に残存した成分を指すものであり、電極反応により生成した生成物のほか、嫌気処理水W1及びバイオガスG1に元々含有されている成分のうち、未反応のまま残存した成分を含むものである。なお、処理水W2及び処理ガスG2を総称して「アノード処理物」とも呼ぶ。
【0039】
排出配管L1を介して排出された処理水W2は、河川などへの放流が可能な水質を満たすものであれば、そのまま放流することが可能である。また、排出配管L1の後段に、処理水W2を更に処理するための処理設備を設け、処理水W2を処理した後、系外へ排出するものとしてもよい。このような処理設備としては、処理水W2が系外あるいは河川への放流が可能な水質となるように処理できるものであれば特に限定されない。例えば、曝気槽やpH調整槽などが挙げられる。
【0040】
排出配管L2を介して排出された処理ガスG2は、空気中への放出が可能な性質を満たすものであれば、そのまま放出することが可能である。ただし、嫌気処理部2から供給されるバイオガスG1は、水に溶解あるいは電極反応における還元性物質として機能する成分以外にも、水に不溶(溶けにくい)、かつ電極反応しない性質を有する有用な成分(例えば、メタンガス、二酸化炭素など)を含んでいる。このため、排出配管L2と接続したガス回収設備を設け、処理ガスG2の回収・利用を可能とすることが好ましい。
【0041】
第2のセル31bは、電極33bを備え、嫌気性雰囲気下を維持することが可能であり、二酸化炭素供給手段5から供給された二酸化炭素が電極33bに接触するように形成されているものであればよく、特に素材や形状は問わない。
【0042】
ここで、第2のセル31b内は、二酸化炭素以外に、嫌気性雰囲気下を維持することができる気体で満たすものとしてもよいが、酸素を脱気した電子受容体の溶液(電解質溶液)によって満たすものとすることが好ましい。なお、本実施態様において使用する電子受容体の溶液の具体的な例としては、例えば、フェリシアン化カリウム水溶液のような酸化剤の水溶液等が挙げられる。
第2のセル31b内を満たすものとして、電子受容体の溶液(電解質溶液)を用いた場合、電子受容体として効果の高い化合物(酸化剤)の取り扱いが容易となるため、電極反応効率をより向上させることができるという利点がある。
また、第2のセル31b内には、嫌気性微生物の生育に必要な栄養源(金属塩など)を添加するものとしてもよい。なお、嫌気性微生物生育の栄養源としての薬品が電子受容体としての機能を兼ねるものであってもよい。
【0043】
第2のセル31bとしては、例えば、
図1に示すように、酸素を脱気した電子受容体の溶液を貯留可能、かつ嫌気性雰囲気下を維持するために酸素(空気)の出入りができないように構築(設計)されたスペースを設け、二酸化炭素供給手段5の配管52を介して二酸化炭素の供給を行う二酸化炭素導入口34aと、電極33bに接触した後の処理物Mを、系外に排出するための処理物排出口34b及び排出配管L3を備えること等が挙げられる。これにより、電極33bの表面には嫌気性雰囲気下で活動可能な微生物が付着することになる。また、この微生物は、電極33bを介して電極33aからの電子を受け取るとともに、二酸化炭素の還元に係る触媒として機能する。この結果、二酸化炭素の電気化学的な還元反応が進行することと併せて、電極33aと電極33bの間に電流が流れて発電が行われる。また、反応後の処理物Mは、処理物排出口34bを介して速やかに反応部3の外部に排出される。なお、処理物Mは、後述する二酸化炭素還元反応により生成する有用な物質(メタンやギ酸など)が含まれるものであり、気体及び液体状態のいずれであってもよい。また、処理物Mは、回収して分離・精製等の処理を行うことが好ましい。
【0044】
イオン交換体35は、イオンを透過することのできる公知の構成であればよく、特に限定するものではない。特に、電極33a(アノード側)で発生する水素イオンを透過することのできる陽イオン交換膜とすることが挙げられる。これにより、電極33a(アノード側)から電極33b(カソード側)へ水素イオンが移動することで、電極33bでの電子受容体の反応効率を高めることができ、電極反応効率を向上させることができる。また、イオン交換体35は、酸素透過性が低いものとすることがより好ましい。これにより、電極33a側(アノード側)から酸素(空気)が電極33b側(カソード側)に移動することを抑制し、カソード側を嫌気性雰囲気下に維持することがより確実に可能となる。
なお、
図1において、イオン交換体35は、電極33a及び電極33bと別体として設けるものを示しているが、これに限定されるものではない。例えば、イオン交換能を有する材料と電極33a及び/又は電極33bを一体とすること等が挙げられる。これにより、反応部3全体を小型化することが可能となるとともに、メンテナンス作業に係る時間短縮が可能となる。
【0045】
電極33aは、還元性物質から電子を回収する電極であり、いわゆるアノードとして機能するものである。また、本実施態様における電極33aは、嫌気処理部2で生成した嫌気処理水W1及び/又はバイオガスG1と接触するように第1のセル31a内に配置されている。
【0046】
電極33aとしては、アノードとして機能するものであればよく、材質及び形状については特に限定されない。電極33aの材質及び形状については、材料調達や加工に係るコスト、電極33aにおける還元性物質の反応効率などを鑑みて、適宜選択することができる。電極33aの材質の例としては、例えば、電気化学分野で電極材料として広く用いられている炭素や金属(ステンレス、白金、銅等)が挙げられる。また、電極33aの形状の例としては、例えば、平板状、棒状、メッシュ状などが挙げられる。
特に、本実施態様の電極33aとしては、電極反応効率を鑑み、多孔質体からなるものを用いることが好ましい。例えば、電極33aとしては、多孔質体であるカーボンペーパーやカーボンクロスのような炭素繊維を用いることのほか、発泡金属、多孔質金属、金属メッシュを用いることが挙げられる。
【0047】
電極33bは、電極33aの対極であって、電子受容体や微生物へ電子を受け渡す電極であり、いわゆるカソードとして機能するものである。また、本実施態様における電極33bは、第2のセル31b内に配置されている。
【0048】
電極33bとしては、カソードとして機能するものであればよく、材質及び形状については特に限定されない。電極33bの材質及び形状については、材料調達や加工に係るコスト、電極33bにおける電子受容体の反応効率などを鑑みて、適宜選択することができる。電極33bの材質の例としては、例えば、電気化学分野で電極材料として広く用いられている炭素や金属(ステンレス、白金、銅等)が挙げられる。また、電極33bの形状の例としては、例えば、平板状、棒状、メッシュ状などが挙げられる。
特に、本実施態様の電極33bとしては、電極反応効率を鑑み、多孔質体からなるものを用いることが好ましい。例えば、電極33bとしては、多孔質体であるカーボンペーパーやカーボンクロスのような炭素繊維を用いることのほか、発泡金属、多孔質金属、金属メッシュを用いることが挙げられる。
また、電極33bの表面は、嫌気性雰囲気下で発生し、二酸化炭素の還元における触媒として機能する嫌気性微生物が付着しやすい構造としてもよい。これにより、電極33b表面において、大量の二酸化炭素を効率よく還元させることが容易となる。あるいは、電極33b表面は、微生物が容易に剥離可能な構造を有するものとしてもよい。これにより、電極33b表面全体が微生物で被覆され、電極33bに対する物質移動が妨げられることによる反応効率低下を容易に解消することが可能となる。
【0049】
以下、
図1に基づき、本発明の第1の実施態様の二酸化炭素還元装置における電極反応に係る反応及び工程を説明する。
本実施態様の二酸化炭素還元装置1Aにおける電極反応に係る反応及び工程とは、アノード側における還元性物質を電子供与体として用いる電極反応と、カソード側における微生物を介した二酸化炭素の還元反応に係る電極反応に係るものである。
なお、
図1に基づく反応及び工程に係る説明は、本実施態様における二酸化炭素還元に関連する各種反応の一例について示すものであり、これに限定されるものではない。また、反応R1~R4及び工程S1~S3の表記については、説明のために番号を付したものであり、反応及び工程順序を特定するものではない。
【0050】
図1に示すように、嫌気処理部2に導入された被処理物Sは、嫌気処理部2内の嫌気性微生物(酸生成菌及びメタン生成菌)により嫌気処理される(工程S1)。このとき、メタンのほかに、還元性物質(水素、硫化水素、アンモニア等)を含む嫌気処理水W1及びバイオガスG1が生成する。
【0051】
還元性物質を含む嫌気処理水W1及びバイオガスG1は、還元性物質供給手段4における配管41(配管41a及び41b)を介して反応部3における第1のセル31a内に導入される(工程S2)。ここで、還元性物質(水素、硫化水素、アンモニア等)が電極33aに接触することで、還元性物質が電子供与体として機能し、電極33aへ電子が供与される。このとき、電子供与体として機能する還元性物質として、硫化水素を例にとると、電極33aにおける反応(反応R1)は、以下の反応式(式1)で示される。
【数1】
【0052】
また、硫化水素の一部は硫化水素イオンとして反応する。このときの反応は、以下の反応式(式2)で示される。
【数2】
【0053】
式1及び式2で示されるように、反応R1において、嫌気処理部2で処理された後の処理水W1に含まれる硫化水素は電極33aに電子を供与するとともに、硫化水素自身は酸化処理されることで無害化、無臭化する。このため、本実施態様の二酸化炭素還元装置1Aは、二酸化炭素の還元及び発電とともに、脱硫処理・脱臭処理が可能となる。なお、硫化水素以外の有害物質・臭気物質である還元性物質(アンモニア等)についても、同様に電子供与体として機能し、反応が進行することで、無害化・無臭化が可能になる。
【0054】
式1及び式2に示された反応式に基づき、電極33aにおける反応が進行した後、電子は電極33aから導線を介して電極33bへ移動する(反応R2)。なお、このとき、電極33aにおける反応で生成した水素イオンは、イオン交換体35を介して第2のセル31b側へ移動する(反応R3)。
【0055】
一方、第2のセル31bには、あらかじめ酸素を脱気した電子受容体の溶液を満たし、二酸化炭素供給手段5を介して二酸化炭素導入口34aから二酸化炭素を供給する(工程S3)。ここで、反応R2により、電極33aから電極33bに移動した電子を、電極33bを介して微生物が受け取り、二酸化炭素の還元反応が進行する(反応R4)。また、このとき、反応R3により、イオン交換体35を介して第2のセル31b側に移動した水素イオンも二酸化炭素の還元反応に用いられる。
【0056】
このときの電極33bにおける還元反応(反応R4)の一例は、以下の反応式(式3及び式4)で示される。
【数3】
【数4】
【0057】
式3及び式4に示すように、嫌気性微生物を介した二酸化炭素の電気化学的な還元反応では、二酸化炭素の還元反応以外の競合反応(水素発生反応など)が起こりにくく、メタン(式3)やギ酸(式4)のような有用な物質を効率的に生成することが可能となる。
【0058】
上述した反応R1~R4及び工程S1~S3に基づき、電極33aと電極33bの間に電流が流れる。これにより、還元性物質(嫌気処理で生成した生成物)を電子供与体とする反応が進行するとともに、二酸化炭素の還元反応が進行し、本実施態様の二酸化炭素還元装置1Aにおける二酸化炭素の還元及び発電が行われる。また、還元性物質として、硫化水素やアンモニアを含む場合、さらに脱硫・脱臭処理が行われる。
また、発電により得られた電気エネルギーは、電極33a及び電極33bに接続した外部回路を通じて回収・利用することができる。なお、電気エネルギーの利用については、特に限定されない。例えば、二酸化炭素還元装置の設備駆動に用いるものであってもよく、二酸化炭素還元装置外で利用するものであってもよい。
【0059】
なお、アノード側における電子供与体として還元性物質を用いた発電において、カソード側における電子受容体として酸素(空気)を用いたエアカソードとした場合、以下の式5に示すように、水酸化物イオンが発生することで、カソード側のpHが上昇し、発電効率が低下するおそれがあった。
【数5】
【0060】
しかし、本実施態様の二酸化炭素還元装置1Aにおいては、カソード側を嫌気性雰囲気下とし、二酸化炭素の還元反応を行うことで、電極反応が進行してもpH上昇が生じない。これにより、電極反応の低下、すなわちエネルギー回収効率の低下を抑制できるという効果を併せて奏するものとなる。
【0061】
本実施態様における二酸化炭素還元装置1Aは、還元性物質を電子供与体として用い、電気化学反応(電極反応)により発電を行い、エネルギーを回収・利用するものである。一般に、電気化学反応を行う場合、実際に電気化学反応を行う箇所(反応部3)以外へ電子が移動することで、電気化学反応の効率が低下するという問題が生じる。したがって、本実施態様における二酸化炭素還元装置1Aは電気化学反応を行う箇所(反応部3)以外を絶縁処理することが好ましい。絶縁処理の具体例としては、例えば、嫌気処理部2を絶縁体の上部に設置することのほか、嫌気処理部2の外壁あるいは内壁を絶縁体で構成することや、嫌気処理部2の外壁あるいは内壁を絶縁材料でコーティングすることなどが挙げられる。また、還元性物質供給手段4及び二酸化炭素供給手段5における各配管や、排出配管L1~L3の絶縁処理としては、例えば、それぞれの配管を絶縁体からなるものとすることや、それぞれの配管に絶縁材料をコーティングすること等が挙げられる。
【0062】
以上のように、本実施態様の二酸化炭素還元装置1A及び二酸化炭素還元装置1Aを用いた二酸化炭素還元方法により、二酸化炭素の効率的な還元とともに、被処理物の嫌気処理後の生成物を活用した効率的なエネルギーの回収・利用が可能となる。
特に、二酸化炭素還元装置1Aと嫌気処理部とを直接接続することで、嫌気処理に係る一連の処理過程の中で反応部における電極反応を実施することが可能となる。これにより、設備を大型化することなく、効率的な発電を実施し、エネルギーの回収・利用が可能となる。また、脱硫処理のための設備を別途設けることなく、効率的な脱硫処理を実施することが可能となる。
【0063】
〔第2の実施態様〕
図2は、本発明の第2の実施態様における二酸化炭素還元装置を示す概略説明図である。
第2の実施態様に係る二酸化炭素還元装置1Bは、第1の実施態様における二酸化炭素還元装置1Aにおける二酸化炭素供給手段が、アノード側での処理を経たアノード処理物を供給するものとなっている。なお、第1の実施態様の構成と同じものについては、説明を省略する。
【0064】
本実施態様の二酸化炭素還元装置1Bは、反応部3のアノード側での処理を経たアノード処理物(処理水W2及び/又は処理ガスG2)を、二酸化炭素供給手段5における二酸化炭素供給源51として利用するものである。より具体的には、
図2に示すように、処理水W2を移送する配管(排出配管L1)と、処理ガスG2を移送する配管(排出配管L2)とを、二酸化炭素供給手段5における配管52に接続するものが挙げられる。
【0065】
上述したように、アノード処理物には、第1のセル31a内における電極反応で生成した生成物以外に、嫌気処理部2からの嫌気処理水W1及びバイオガスG1中に元々含有されており、第1のセル31a内における電極反応では未反応であった成分が含まれる。
すなわち、バイオガスG1由来のアノード処理物(処理ガスG2)には、二酸化炭素のほかに、脱硫後のメタンガスなどが含まれている。したがって、アノード処理物(主に処理ガスG2)をカソード側に供給することで、二酸化炭素と併せて、メタンも供給されることになる。これにより、系内で発生した二酸化炭素を有効活用することと併せて、カソード側で二酸化炭素の還元反応により生成したメタンと、アノード処理物として供給されたメタンとを合わせて処理物Mとして回収することが可能となり、高濃度・高純度メタンガスとしての回収が可能となるという利点も奏する。
また、嫌気処理水W1由来のアノード処理物(処理水W2)には、嫌気処理部2における嫌気性微生物のほか、嫌気性微生物の栄養源となり得る成分も含有されている。したがって、アノード処理物(主に処理水W2)をカソード側に供給することで、処理水W2中の二酸化炭素を有効活用することと併せて、カソード側における嫌気性微生物の増加・維持を容易に行うことが可能となる。
【0066】
また、本実施態様の二酸化炭素還元装置1Bにおいては、第1の実施態様と同様の工程により二酸化炭素の還元及び発電、並びに脱硫・脱臭処理を行うことが可能である。
【0067】
以上のように、本実施態様における二酸化炭素還元装置1B及び二酸化炭素還元装置1Bを用いた二酸化炭素還元方法は、系内で発生した二酸化炭素を外部に放出することなく、有用な物質に変換(還元)することが可能となる。また、系外から別途二酸化炭素を供給する必要がないため、二酸化炭素還元装置のランニングコストを低減することも可能となる。
【0068】
〔第3の実施態様〕
図3は、本発明の第3の実施態様における二酸化炭素還元装置を示す概略説明図である。
第3の実施態様に係る二酸化炭素還元装置1Cは、第1の実施態様における二酸化炭素還元装置1Aにおける二酸化炭素供給手段が、二酸化炭素を溶解した水溶液を供給するものとなっている。なお、第1の実施態様の構成と同じものについては、説明を省略する。
【0069】
本実施態様の二酸化炭素還元装置1Cは、二酸化炭素供給手段5によって、気体状態の二酸化炭素を直接反応部3のアノード側に供給するのではなく、二酸化炭素を溶解した水溶液を供給するものである。より具体的には、
図3に示すように、二酸化炭素を溶解した水溶液を供給するために、配管52上に気液混合部53を設けるものが挙げられる。
【0070】
気体状態の二酸化炭素を直接カソード側に供給すると、電極33bの表面に付着した微生物が二酸化炭素の気流によって電極33b表面から剥離するおそれがある。したがって、二酸化炭素が溶解した水溶液の状態でカソード側に供給することで、電極33b表面からの微生物の剥離を抑制するとともに、水溶液中で二酸化炭素の還元を進行させることになるため、微生物による二酸化炭素の還元反応に必要となる水素イオン等の成分との接触効率を高めることが容易となる。
【0071】
気液混合部53は、二酸化炭素供給源51から供給される二酸化炭素(気体)と水とを混合することができるものであればよく、例えば、気液混合装置として公知のものを用いることができる。また、二酸化炭素供給源51から気体状態の二酸化炭素を直接供給するよりも、気液混合部53において二酸化炭素を高濃度化した水溶液として調製した後、配管52を介して供給することで、反応部3における反応効率向上を図ることも可能となる。
【0072】
また、気液混合部53で混合する二酸化炭素と水については、特に限定されない。例えば、系外から二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給源51と系外から移送した純水、工水等の水を用いることのほか、上述したアノード処理物(処理水W2及び処理ガスG2)を気液混合部53で一時貯留かつ混合したものを、二酸化炭素が溶解した水溶液として取り扱うものとしてもよい。
【0073】
また、本実施態様の二酸化炭素還元装置1Cにおいては、第1の実施態様と同様の工程により二酸化炭素の還元及び発電、並びに脱硫・脱臭処理を行うことが可能である。
【0074】
以上のように、本実施態様における二酸化炭素還元装置1C及び二酸化炭素還元装置1Cを用いた二酸化炭素還元方法は、気体状態の二酸化炭素を直接カソード側に供給するのではなく、二酸化炭素を溶解した水溶液を調製して供給することで、気流によりカソード表面に付着した微生物が剥離することを抑制し、かつ微生物による二酸化炭素の還元に必要な成分との接触効率を高め、二酸化炭素還元に係る電極反応をより効率的に進行させることが可能となる。
【0075】
なお、上述した実施態様は、二酸化炭素還元装置及び二酸化炭素還元方法の一例を示すものである。本発明に係る二酸化炭素還元装置及び二酸化炭素還元方法は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る二酸化炭素還元装置及び二酸化炭素還元方法を変形してもよい。
【0076】
例えば、本実施態様における二酸化炭素還元装置は、複数の反応部3を備えるものとしてもよい。例えば、還元性物質供給手段として嫌気処理水W1のみが供給される反応部と、バイオガスG1のみが供給される反応部とを備えること等が挙げられる。これにより、嫌気処理で生成する生成物を有効活用した電極反応を複数箇所で行うことが可能となるとともに、各アノード処理物(嫌気処理水由来・バイオガス由来)の分離回収・利用が容易となる。
【0077】
また、例えば、本実施態様における二酸化炭素還元装置は、別途絶縁機構を設けるものとしてもよい。絶縁機構は、反応部3で反応する嫌気処理水W1以外の処理水(処理水W2)を絶縁することができるものであればよく、特に限定されない。
絶縁機構による絶縁手段としては、例えば、反応部3の電極33aと処理水W2との電気的な接触(液絡)の解消あるいは液絡時間の短縮が挙げられる。このような液絡解消手段又は液絡時間の短縮手段の例としては、処理水W2の流れを不連続(断続的)とする手段や、処理水W2に空気などの絶縁体を介在させる手段、あるいはこれらの手段を組み合わせるもの等が挙げられる。これにより、反応部3で生成した電子が電極33a及び電極33bの間以外に流れることを防ぎ、電極反応効率を向上させるものである。
なお、本実施態様における二酸化炭素還元装置は、第1の実施態様に示したような二酸化炭素還元装置を構成する構造物(配管)や二酸化炭素還元装置に接続する設備(嫌気処理部)に係る絶縁を併せて行うものとしてもよい。これにより、より一層の絶縁効果を得ることができ、反応部3における電極反応効率を向上させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の二酸化炭素還元装置及び二酸化炭素還元方法は、二酸化炭素を還元し、有用な物質(メタンやギ酸など)を得ると同時に、発電によるエネルギー回収・利用を可能とするものとして利用される。特に、嫌気処理により還元性物質が発生する嫌気処理設備・施設と組み合わせて、好適に利用されるものである。
【符号の説明】
【0079】
1A,1B,1C 二酸化炭素還元装置、2 嫌気処理部、3 反応部、31a 第1のセル、31b 第2のセル、32a,32b 還元性物質導入口、32c,32d 処理物排出口、33a,33b 電極、34a 二酸化炭素導入口、34b 処理物排出口、35 イオン交換体、4 還元性物質供給手段、41,41a,41b 配管、5 二酸化炭素供給手段、51 二酸化炭素供給源、52 配管、53 気液混合部、L1~L3 排出配管、G1 バイオガス、G2 処理ガス、M 処理物、S 被処理物、W1 嫌気処理水、W2 処理水