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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080548
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】日焼け止め化粧料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/36 20060101AFI20240606BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20240606BHJP
   A61K 8/63 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
A61K8/36
A61Q17/04
A61K8/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193855
(22)【出願日】2022-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】592106155
【氏名又は名称】ジェイオーコスメティックス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598162665
【氏名又は名称】株式会社山田養蜂場本社
(74)【代理人】
【識別番号】100089484
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 靖郎
(72)【発明者】
【氏名】安藤 諒祐
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA122
4C083AB032
4C083AC112
4C083AC122
4C083AC311
4C083AC312
4C083AD092
4C083AD352
4C083AD491
4C083AD492
4C083CC19
4C083DD32
4C083DD33
4C083EE17
(57)【要約】      (修正有)
【課題】安全性および紫外線防御効果に優れ、かつ、着色の少ない日焼け止め化粧料、およびその効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】フェルラ酸(A)を油相中に微粒子として含有し、該フェルラ酸粒子のメジアン径(D50)が0.01~10μmであり、かつ、該フェルラ酸粒子(A)成分の含有量が化粧料全体に対し、1~30質量%である日焼け止め化粧料である。フェルラ酸に加えてγ-オリザノールを含むことができ、それを含むと紫外線防御効果がさらに向上する。日焼け止め化粧料は、水中油型乳化化粧料、油中水型乳化化粧料、油性化粧料、水相と油相が分離している二層型化粧料、エアゾール化粧料等の剤型とすることができる。フェルラ酸(A)を油剤の存在下に湿式粉砕して微細なフェルラ酸(A)の分散体を調製した後、得られた分散体を、油相を形成する他の成分と混合することによって、上記日焼け止め化粧料を効率的に製造することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェルラ酸(A)を油相中に微粒子として含有し、該フェルラ酸粒子のメジアン径(D50)が0.01~10μmであり、かつ、該フェルラ酸粒子の含有量が化粧料全体に対し、1~30質量%であることを特徴とする日焼け止め化粧料。
【請求項2】
さらに、γ-オリザノール(B)を、化粧料全体に対し、0.01~3質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の日焼け止め化粧料。
【請求項3】
合成由来の有機紫外線吸収剤を含有しないことを特徴とする請求項1または2に記載の日焼け止め化粧料。
【請求項4】
γ-オリザノール(B)が、γ-オリザノール供給源によって供給されるものである請求項2に記載の日焼け止め化粧料。
【請求項5】
化粧料が水中油型乳化化粧料、油中水型乳化化粧料または油性化粧料である請求項1または2に記載の日焼け止め化粧料。
【請求項6】
フェルラ酸(A)を油剤の存在下に湿式粉砕して微細なフェルラ酸(A)の分散体を調製した後、得られた分散体を、油相を形成する他の成分と混合することを特徴とする請求項1記載の日焼け止め化粧料の製造法。
【請求項7】
前記湿式粉砕が、フェルラ酸と油剤の質量比(フェルラ酸:油剤)が2:8~8:2の条件下で行われるものである請求項6に記載の日焼け止め化粧料の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェルラ酸を紫外線防御成分として含有する日焼け止め化粧料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、化粧料に高い紫外線防御機能を付与させるための成分として、酸化亜鉛、二酸化チタン、酸化セリウム等の無機紫外線散乱剤や、種々の有機紫外線吸収剤を配合することが一般的に行なわれている。有機紫外線吸収剤は、無機紫外線散乱剤に比べ、肌に伸ばしやすく、また、厚ぼったい仕上がりにならない等の長所を有するが、一方で化学合成による有機物であることから皮膚に対する毒性の危険も懸念される。そこで、日本においては、化粧品に使用可能な紫外線吸収剤について厚生労働大臣がポジティブリストを設けており、そこに記載された成分は所定の範囲内で化粧品に配合することが認められている。フェルラ酸は、ポジティブリストに掲げられた紫外線吸収剤のなかで、天然の植物油から得られる数少ない物質である。
【0003】
フェルラ酸は、主に米、小麦、野菜類、柑橘類などの植物類の種子細胞や細胞壁を形成するリグニンの前駆体として、多くの植物体の器官に広く存在している物質である。工業的には、コメヌカ等に含まれるγ-オリザノールを加水分解することによって得ることができる。かかるフェルラ酸は、スキンケア用、化粧下地用、日焼け止め用など様々な化粧料に使用できることが知られているが、化粧料の製造に当たっては、フェルラ酸が水および油に難溶であるという性質上、塩基で中和して水溶性の紫外線吸収剤として利用されることが多い。しかし、フェルラ酸を中和しても水への溶解性が低く、中和物の配合量を増やすと水溶性増粘剤の効果を阻害する、着色が著しい、光や温度により変色を起こしやすいという問題があり、フェルラ酸を高濃度で配合することが難しいという問題があった。
【0004】
フェルラ酸を化粧料用の素材として用いる手法は従来から種々開発されており、たとえば、特許文献1には、フェルラ酸とγ-シクロデキストリンとの包接化合物(請求項1参照)および該包接化合物を含有する紫外線防止化粧料(請求項2)が開示されていて、該包接化合物は、光や熱による変色を生じやすいというフェルラ酸の欠点を改良していること、および、該包接化合物を含有する化粧用クリームは紫外光に対して安定であることが記載されている(段落0022参照)。しかしながら、フェルラ酸・シクロデキストリン包接化合物におけるフェルラ酸含有率は小さいため、該包接化合物を用いて化粧品にフェルラ酸成分を高濃度で配合することは難しく、また、シクロデキストリンは水溶性であるため、フェルラ酸・シクロデキストリン包接化合物を含む化粧品は、汗や水に対して流れ落ちやすいという問題があった。
【0005】
また、特許文献2には、水難溶性有機酸化合物を塩基性条件下で塩として水に溶解させた水溶液中に、顔料粉体を分散させ、該水溶液を酸性にすることにより、前記顔料粉体を水難溶性有機酸化合物で表面処理する方法(請求項1参照)が開示されていて、水難溶性有機酸化合物の具体例がフェルラ酸であり(請求項3参照)、表面処理された粉体顔料はメイクアップ化粧料などに用いられることが開示されている(段落0001参照)。しかしながら、この場合もフェルラ酸を化粧品に高濃度で配合することは難しく、また、顔料の表面処理工程を必要とするため経済的負荷も大きかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-055182号公報
【特許文献2】特開2018-162400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような背景技術の下に完成したものであり、その目的は、自然由来の安全性に優れた原料を使用した、安全性、および、紫外線防御効果に優れ、かつ、フェルラ酸塩を使用する場合の弱点である着色を抑制した日焼け止め化粧料、および、該日焼け止め化粧料を効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、このような課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、フェルラ酸を特定範囲の粒径を有する微細な粒子として油相中に分散させることにより、安全性に優れ、着色が少なく、かつ、紫外線防御効果に優れた日焼け止め化粧料が得られること、および、フェルラ酸を油剤の存在下に湿式粉砕すると該日焼け止め化粧料が効率よく製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、例えば、以下の各発明に関する。
[1]フェルラ酸(A)を油相中に微粒子として含有し、該フェルラ酸粒子のメジアン径(D50)が0.01~10μmであり、かつ、該フェルラ酸粒子(A)成分の含有量が化粧料全体に対し、1~30質量%である日焼け止め化粧料。
[2]さらに、γ-オリザノール(B)を、化粧料全体に対し、0.01~3質量%含有する[1]に記載の日焼け止め化粧料。
[3]合成由来の有機紫外線吸収剤を含有しない[1]または[2]に記載の日焼け止め化粧料。
[4]γ-オリザノール(B)が、γ-オリザノール供給源によって供給されるものである[2]に記載の日焼け止め化粧料。
[5]化粧料が水中油型乳化化粧料、油中水型乳化化粧料または油性化粧料である[1]または[2]に記載の日焼け止め化粧料。
[6]フェルラ酸(A)を油剤の存在下に湿式粉砕して微細なフェルラ酸(A)の分散体を調製した後、得られた分散体を、油相を形成する他の成分と混合する[1]に記載の日焼け止め化粧料の製造法。
[7]前記湿式粉砕が、フェルラ酸(A)と油剤の質量比(フェルラ酸:油剤)が2:8~8:2の条件下で行われるものである[6]に記載の日焼け止め化粧料の製造法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の日焼け止め化粧料は、自然由来の安全性に優れた紫外線吸収剤を高濃度で含有させることができるため、合成由来の紫外線吸収剤を含有させなくても紫外線防御効果に優れており、安全性に優れ、また、着色の少ないものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の日焼け止め化粧料は、必須成分としてフェルラ酸(以下において、成分(A)と称することがある)を含有する。
(フェルラ酸)
本発明における成分(A)のフェルラ酸は、植物の細胞壁の主要な構成成分であるリグニンの生合成経路の中間体であり、すべての植物に存在する。化学名は4-ヒドロキシ-3-メトキシケイ皮酸であり、シス体とトランス体があるが、天然のフェルラ酸はほとんどがトランス体である。わが国では、コメヌカ中に含まれるγ-オリザノールおよびそのフェルラ酸エステルを加水分解することにより工業的に生産されていて、築野ライスファインケミカルズ社、オリザ油化社等から市販されているものを入手することができる。
【0012】
本発明において、フェルラ酸は、日焼け止め化粧料に含まれている油相中に微細な粒子の形態で存在することが必要である。該粒子のメジアン径(D50)は、0.01~10μmであり、好ましくは、0.1~5μm、より好ましくは、0.2~3μmである。該粒子のメジアン径が過度に大きい場合は、紫外線防御効果が低下し、また、0.01μm未満のメジアン径を得るためには、微粒化工程に多大なエネルギーが必要となるため経済的ではない。
【0013】
なお、本発明において「メジアン径」とは、粒度分布測定装置により得られた体積基準粒度分布の累計50%径(D50)を指す。メジアン径は、油相を形成する油剤にフェルラ酸粒子を分散させ、当該油剤で希釈し、本多電子社製超音波洗浄機W-113を用いて28kHzの条件下に5分間超音波分散したものを試料とし、レーザー回折/散乱粒度分布測定装置(堀場製作所製LA-950)を用いて測定することができる。
【0014】
本発明において、フェルラ酸をこのような微粒子に粉砕するための方法は特に限定されるものではなく、乾式法および湿式法のどちらの方法も用いることができる。粉砕するための装置としては、例えば、ハンマーミル、ピンミル、ボールミル、ロールミル、ジェットミル、乾式メディアミル、湿式メディアミル、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ニーダー、プラネタリミキサー、エクストルーダー等を用いることができる。
【0015】
フェルラ酸微粒子を化粧料の油相に分散させる方法はとくに限定されないが、油相に分散させる際にフェルラ酸微粒子の再凝集が起こることを回避するため、湿式粉砕によりフェルラ酸を油剤中に分散させた分散体の状態とした後に、該分散体を、化粧料の油相を形成するための他の成分と混合することが好ましい。湿式粉砕の装置としては、ロールミル、ビーズミル等の湿式メディアミル、高圧ホモジナイザー、ニーダー、プラネタリミキサー、エクストルーダー等を使用することができる。これらの中でもロールミル、ニーダー、プラネタリミキサー、エクストルーダー等の混錬機は、分散体中のフェルラ酸濃度が高い状態で粉砕することができるため、好ましく用いることができる。これらの中でも粉砕能力の高さと設備洗浄の容易さから、ロールミルを使用することが好ましい。ロールミルの具体例としては、永瀬スクリーン印刷研究所社製の三本ロールミルEXAKT120EH-250等を挙げることができる。
【0016】
湿式粉砕の際に使用する油剤としては、フェルラ酸を溶解しない油剤であれば特に制限されず、化粧料の油相用として配合する油剤と同じものを使用することができる。三本ロールミル等の混錬機を使用してフェルラ酸を湿式粉砕し、分散体を調製する場合は、フェルラ酸と油剤の質量比(フェルラ酸:油剤)は、2:8~8:2であることが好ましく、より好ましくは、4:6~7:3である。油剤に対するフェルラ酸の質量比が小さい場合は、微細な粒子が得られにくく、また、この質量比が大きすぎると油剤が連続相とならず、分散体を得ることが難しくなる。
【0017】
本発明の日焼け止め化粧料は、成分(A)のフェルラ酸を、化粧料全体に対して1~30質量%含有する。より好ましくは、2~20質量%であり、特に好ましくは、3~10質量%である。フェルラ酸の含有量が過度に低い場合は、高い紫外線防御効果が得られず、過度に高い場合には、皮膚への刺激等が懸念される。
【0018】
本発明の日焼け止め化粧料は、成分(A)に加えてγ-オリザノール(以下、成分(B)と称することがある)を含むことができる。
【0019】
γ-オリザノールは、コメ胚芽やコメヌカに多いポリフェノールの一種で、コメ胚芽やコメヌカを搾ってつくる米油に含まれている自然由来の物質である。わが国では、コメ胚芽やコメヌカを搾ってコメ油を製造する過程で分離抽出し精製することによってされて製造されている。γ-オリザノールは単一の化合物ではなく、10種類程度の類縁体で構成されていることが知られているが、いずれの類縁体もフェルラ酸と不飽和トリテルペンアルコールまたは植物ステロールとのエステルである。γ-オリザノールは、水に不溶であり、加温することにより植物油等に溶解して使用することができる。コメヌカ由来のγ-オリザノールは、築野ライスファインケミカルズ社、オリザ油化社等から市販されている。
【0020】
γ-オリザノールは、予め単離したものを用いてもよいが、γ-オリザノールを含む化粧品用原料をγ-オリザノール供給源として用いることもできる。γ-オリザノールの配合量は、化粧料全体に対して、0.01~3質量%であることが好ましい。なお、γ-オリザノールを含む化粧品用原料をγ-オリザノール供給源として用いる場合にも、γ-オリザノールの配合量が、化粧料全体に対して、0.01~3質量%となるようにすることが好ましい。γ-オリザノールを含むことによって、日焼け防止効果がさらに向上する。
【0021】
単離したγ-オリザノールを化粧料用油剤に溶解させるためには加温の必要がある。γ-オリザノールは、加熱すると劣化を生じやすい。そのような弊害を防ぐうえで、加熱せずに油剤と混合できるγ-オリザノール供給源を使用することが好ましい。γ-オリザノール供給源の具体例としては、たとえば、コメヌカ油、コメ胚芽油等を挙げることができ、とくに、γ-オリザノールを1質量%以上含有する植物油であることが好ましい。そのような植物油の市販品例として、高研社製コメ圧搾オイル(化粧品表示名称:コメヌカ油)、築野ライスファインケミカルズ社製PRO-15(化粧品表示名称:コメ胚芽油)を挙げることができる。
【0022】
本発明の日焼け止め化粧料は、剤型の如何を問わずに油相を含んでおり、その油相に成分(A)が分散している。油相を形成する油剤(以下、成分(C)と称することがある)の具体例としては、例えば、コメヌカ油、コメ胚芽油、大豆油、マカデミアナッツ油、アボガド油、トウモロコシ油、オリーブ油、ナタネ油、ゴマ油、ヒマシ油、サフラワー油、綿実油、ホホバ油、ヤシ油、パーム油、液状ラノリン、硬化ヤシ油、硬化油、モクロウ、硬化ヒマシ油、ミツロウ、キャンデリラロウ、カルナウバロウ、イボタロウ、ラノリン、還元ラノリン、硬質ラノリン、ホホバロウ等の自然由来のオイル類およびワックス類;流動パラフィン、スクワラン、ポリブテン、イソパラフィン、オゾケライト、パラフィン、セレシン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックス等の炭化水素類;オレイン酸、イソステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、ウンデシレン酸等の高級脂肪酸類;セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、オクチルドデカノール、ミリスチルアルコール、セトステアリルアルコール等の高級アルコール類;イソオクタン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、イソステアリン酸ヘキシルデシル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル、乳酸セチル、リンゴ酸ジイソステアリル、ジ-2-エチルヘキサン酸エチレングリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、ジ-2-ヘプチルウンデカン酸グリセリン、トリエチルヘキサノイン、トリ-2-エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、テトラ-2-エチルヘキサン酸ペンタンエリトリット等の合成エステル油類;ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン等の鎖状ポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等の環状ポリシロキサン、アミノ変性ポリシロキサン、ポリエーテル変性ポリシロキサン、アルキル変性ポリシロキサン、フッ素変性ポリシロキサン等の変性ポリシロキサン等のシリコーン油;等の油剤類等が挙げられる。なかでも、安全性の観点から、自然由来のオイル類および/またはワックス類であることが好ましい。自然由来のオイル類および/またはワックス類の含有量は、油剤中の70質量%であることが好ましく、より好ましくは、80質量%以上、特に好ましくは、90質量%以上である。
【0023】
本発明の日焼け止め化粧料において、油相は、ベースとなる油剤(C)とフェルラ酸(A)と、任意に用いられる油溶性成分および油分散性成分から構成される。油溶性成分としては、例えば、油溶性ポリフェノール類、油溶性ビタミン類、油溶性動植物抽出物等の油溶性皮膚有効成分、油溶性界面活性剤、油溶性紫外線吸収剤、油溶性酸化防止剤、油溶性被膜形成剤等を挙げることができる。
【0024】
油溶性成分の一例である油溶性紫外線吸収剤の例としては、安息香酸系紫外線吸収剤、アントラニル酸系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、桂皮酸系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤等が挙げられる。これらの具体例としては、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン等を挙げることができるが、本発明の日焼け止め化粧料においては、安全性の観点から、これら合成由来の紫外線吸収剤を含有しない、または、含有する場合でも水溶性紫外線吸収剤を含め、合成由来の紫外線吸収剤は化粧料全体に対し、1質量%以下であることが好ましい。
【0025】
また、油分散性成分の例としては、難溶性のポリフェノール類やビタミン類等の皮膚有効成分、粉体類等を挙げることができる。粉体類の例としては、体質顔料、着色顔料、紫外線防止効果のある微粒子金属酸化物、煙霧状シリカやモンモリロナイト等の無機増粘剤等を挙げることができる。粉体類は、疎水性または親油性表面処理をして使用することもできる。本発明においては、表面処理の有無に拘わらず、化粧料調製の際、油相に分散される粉体類は、油相を構成する成分とする。
【0026】
本発明の日焼け止め化粧料は、常法にしたがって、水中油型乳化化粧料、油中水型乳化化粧料、油性化粧料、水相と油相が分離している二層型化粧料、エアゾール化粧料等の剤型とすることができる。以下において、それぞれの剤型について具体的に説明する。
【0027】
(水中油型乳化化粧料)
水中油型乳化化粧料は水相および油相から構成される。油相の含有量は化粧料全体に対し、2~70質量%であることが好ましく、より好ましくは、3~60質量%、特に好ましくは、5~50質量%である。油相の含有量が過度に少ない場合は、成分(A)を多く配合できないため、紫外線防止効果が低下しがちであり、逆に油相の含有量が過度に多い場合は、べたついた感触となりやすい。水相の含有量は化粧料全体に対し、30~98質量%であることが好ましく、より好ましくは、40~97質量%、特に好ましくは、50~95質量%である。
【0028】
連続相を形成する水相は、水(精製水、温泉水、深層水等)と、必要に応じて用いられる水溶性成分および水分散性成分から構成される。
【0029】
水溶性成分の例としては、エタノール等の低級アルコール、多価アルコール、親水性界面活性剤、水溶性高分子、水溶性植物抽出液、水溶性ビタミン類、水溶性紫外線吸収剤、抗菌剤、酸化防止剤等を挙げることができる。
【0030】
水溶性紫外線吸収剤の具体例としては、フェルラ酸塩、フェニルベンズイミダゾールスルホン酸及びその塩、テレフタリリデンジカンフルスルホン酸及びその塩等を挙げることができるが、安全性の観点から、フェルラ酸塩以外の合成由来の紫外線吸収剤を含有しないことが好ましい。
【0031】
界面活性剤の具体例としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、親水性非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤が挙げられる。本発明の日焼け止め化粧料においては、安全性の観点から界面活性剤の含有量は、化粧料全体に対し5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、2質量%以下である。最も好ましくは、含有しないことである。
【0032】
水溶性高分子の具体例としては、ヒアルロン酸およびその塩、キサンタンガム、コンドロイチン硫酸およびその塩、デキストリン、ペクチン、ジェランガム、カラギーナン、プルラン等の多糖類:カルボマー、アクリル酸・(メタ)アクリル酸アルキル共重合体、アクリル酸、ポリアクリルアミド、アクリルアミドとアクリル酸との共重合体、アクリル酸塩またはアクリル酸ヒドロキシアルキルとアクリロイルジメチルタウリン塩とを共重合して得られる共重合体等のアクリル酸系高分子:メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系高分子:疎水性変性ポリエーテルウレタン:アルギン酸およびその塩等のアルギン酸系高分子等が挙げられる。
【0033】
水溶性高分子を含有すると、界面活性剤を用いずに、または、少量の界面活性剤の使用で、安定な水中油型乳化化粧料を得ることができる。水中油型エマルションの安定化に好適な水溶性高分子の具体例として、アクリル酸・(メタ)アクリル酸アルキル共重合体、アクリル酸塩またはアクリル酸ヒドロキシアルキルとアクリロイルジメチルタウリン塩とを共重合して得られる共重合体、疎水性変性ポリエーテルウレタン等を挙げることができ、これらの具体例として、(アクレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30)クロスポリマー、(アクリル酸Na/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー、(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー、PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDIコポリマー、ポリウレタン-59等を挙げることができる。
【0034】
(油中水型乳化化粧料)
油中水型乳化化粧料は水相および連続相を形成する油相から構成される。油相の含有量は化粧料全体に対し、20~80質量%であることが好ましく、より好ましくは、30~70質量%、特に好ましくは、40~60質量%である。油相の含有量が過度に少ない場合は、成分(A)を多く配合できないため、紫外線防止効果が低下しがちであり、逆に油相の含有量が過度に多い場合は、べたついた感触となりやすい。水相の含有量は化粧料全体に対し、20~80質量%であることが好ましく、より好ましくは、30~70質量%、特に好ましくは、40~60質量%である。
【0035】
使用する水相および油相の成分は、水中油型乳化化粧料の場合と同様である。油中水型エマルションを安定に保つための好適な界面活性剤の例として、エチレンオキサイド付加型非イオン性界面活性剤、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル、シリコーン系界面活性剤等を挙げることができる。これらの中でも安全性の観点から、自然由来成分から構成されるポリグリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルが好ましく用いられる。
【0036】
(油性化粧料)
油性化粧料は油相のみでから構成される。油相はベースとなる油剤と成分(A)だけで形成してもよいが、その他に固形油分および油性ゲル化剤から選択される一種以上を含有することが好ましい。固形油分および/または油性ゲル化剤を含有することにより、成分(A)の沈降や分離を防ぐことができ、製剤を安定に維持することができる。
【0037】
固形油分は常温(25℃)で固体の油であり、融点は50~120℃、好ましくは55℃~105℃、より好ましくは60~100℃である。固形油分の融点は、医薬部外品原料規格の一般試験法である融点測定法第2法によって測定することができる。
【0038】
固形油分の例としては、ポリエチレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、マイクロクリスタリンワックス、モクロウ、カルナウバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス、ミツロウ(ビーズワックス)、水添ホホバ油、ベヘン酸ベヘニル、水添ヒマシ油、硬化油、高級アルコール、シリコーンワックス等が挙げられる。
【0039】
油性ゲル化剤の例としては、N-ラウロイル-L-グルタミン酸、α,γ-ジ-n-ブチルアミン等のアミノ酸誘導体、デキストリンパルミチン酸エステル、デキストリンステアリン酸エステル、デキストリン2-エチルヘキサン酸パルミチン酸エステル等のデキストリン脂肪酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル等のショ糖脂肪酸エステル、モノベンジリデンソルビトール、ジベンジリデンソルビトール等のソルビトールのベンジリデン誘導体、ジメチルベンジルドデシルアンモニウムモンモリロナイトクレー、ジメチルジオクタデシルアンモニウムモンモリロナイトクレー等の有機変性粘土鉱物等が挙げられる。
【0040】
油性化粧料の剤型としては、液状、ペースト状、固形状、固形スティック状とすることができる。
【0041】
本発明の日焼け止め化粧料の形状はとくに限定されず、通常の化粧料の形態を広く採用することができる。形態の具体例としては、例えば、ローション状(液状)、ジェル状、乳液状、懸濁液状、クリーム状、軟膏状、エアゾール状、ミスト状、固形状、固形スティック状等が挙げられる。
【0042】
また、日焼け止め化粧料の種類についても、皮膚や頭髪に適用される日焼け止め化粧料であればとくに制限されるものではなく、具体例として、例えば、ファンデーション、化粧下地等のベースメイク化粧料:化粧水、乳液、クリーム等の基礎化粧料;毛髪用日焼け止め化粧料等が挙げられる。
【0043】
本発明に係る日焼け止め化粧料は、常法により製造することができるが、フェルラ酸(A)を油剤と共に粉砕する湿式粉砕法によって予めフェルラ酸微粒子含有分散体を調製し、得られた分散体を、油相を形成する他の成分と混合することによってフェルラ酸微粒子が分散した油相を形成することが好ましい。このような製造方法とすることにより、日焼け防止効果、感触、使用性に優れた日焼け止め化粧料を効率よく製造することができる。
【実施例0044】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、以下の記載における処方中の配合量は、特に断りのない限り全量に対する質量%である。
【0045】
以下の実施例および比較例における日焼け止め化粧料の評価方法は、以下のとおりである。
(肌へのなじみやすさ)
肌へのなじみやすさについて、評価者10名が顔面に各試料を塗布し、下記採点基準(スコア)に基づいて4段階官能評価を行った。
【0046】
(スコア)
5点: 非常に優れている。
4点: 優れている。
3点: 普通。
2点: 劣る。
1点: 非常に劣る。
( 評価基準)
A: スコア平均値4.0点以上
B: スコア平均値3.5点以上4.0点未満
C: スコア平均値2.5点以上3.5点未満
D: スコア平均値2.5点未満
【0047】
(日焼け防止効果)
日焼け防止効果は、Labshere社製SPF Analyzer UV-1000Sを用いて、SPF値(in vitro)として測定した。サンプル塗布プレートとして資生堂医理化テクノロジー社製SPFMASTER-PA01を使用し、該プレートに試料2mg/cmを塗布して測定に供した。
【0048】
(粘度)
化粧料を調製した後、常温(25℃)で一夜放置して、翌日、B型粘度計(TVB-10M、東機産業社製)を使用して25℃における粘度を測定した。
【0049】
(白色度)
試料をセルに詰め、日本電色工業社製色彩白色度計NW-12によりL、a、bの値を求め以下の式により白色度を算出した。
白色度=100-[(100-L+(a*2+b*2)]0.5
【0050】
実施例1~4
(水中油型日焼け止め化粧料)
表1に示す処方の日焼け止め化粧料を下記の製造手順に従って調製し、上記の方法により評価を行った。その結果を表1に示す。
(製造手順)
(1)粒径(D50)4.0μmを有するフェルラ酸(築野食品工業社製)とコメヌカ油(γ-オリザノール含有率1.5%)を質量比1:0.74の割合で3本ロールミルに供給し、混錬することによりフェルラ酸を湿式粉砕した。混錬試料の一部をコメヌカ油で希釈し、レーザー回折/散乱粒度分布測定装置を用いて測定したところ、D50は1.1μmであった。
(2)A相の欄に記載した成分とB相の欄に記載した成分とをプロペラ(スリーワンモーター)を用いて混合した。
(3)C相の欄に記載した成分を常温(25℃)にて均一に混合した後、得られた混合物に、上記(2)で得た混合物を少量ずつ添加し、乳化することによって水中油型乳化化粧料を得た。
【0051】
実施例5
(水中油型日焼け止め化粧料)
粒径(D50:4.0μm)のフェルラ酸を粉砕することなくそのまま使用すること以外は実施例1の製造手順(2)、(3)と同様にして水中油型乳化化粧料を得た。得られた化粧料について実施例1と同様にして評価し、その結果を表1した。
【0052】
(水中油型日焼け止め化粧料)
表1に示す処方の日焼け止め化粧料を下記の製造手順に従って調製し、上記の方法により評価を行った。その結果を表1に示す。
(1)表1のC相の欄に記載したフェルラ酸を、当量の水酸化ナトリウムを用いて中和反応を行った。比較例1~3のいずれにおいても、フェルラ酸は完全には溶解しなかった。
(2)C相の欄に記載した上記以外の成分を均一に混合し、得られた混合物を上記(1)の中和反応で得られた反応物と混合した。
(3)上記(2)で得られた混合物にB相の欄に記載したコメヌカ油を少量ずつ添加し、乳化することによって水中油型乳化化粧料を得た。
【0053】
【表1】
【0054】
実施例1~3の結果から、フェルラ酸含有量の増加ともに高いSPF値が得られることが分かる。実施例4および実施例5の化粧料も高いSPF値を有しているが、実施例3と実施例5の比較から、粒子径が小さいフェルラ酸の方が良好なSPF値を示すこと、また、実施例3と実施例4の比較から、油剤としてγ-オリザノールの含有率が大きい植物油を用いることによりSPF値がより高くなることが分かる。
【0055】
実施例1~5の日焼け止め化粧料は、いずれも肌へのなじみといった使用感に優れ、一定範囲内の粘度を示し、白色度も高いものであった。これに対し、フェルラ酸を中和し、水相に配合した比較例1~3の化粧料は、成分8の水溶性増粘剤を使用しているにもかかわらず、粘度が極端に低いために肌へのなじみが悪いものであった。また、フェルラ酸含有量の増加と共に着色が著しいものとなり、化粧品としての外観に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、安全性および紫外線防御効果に優れ、かつ、着色の少ない日焼け止め化粧料、ならびに、かかる日焼け止め化粧料を効率よく製造する方法が提供される。