(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080561
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】ハイドロゲル調製物、ハイドロゲル調製物の形成方法、布地へのコーティング方法、およびハイドロゲル調製物でコーティングされた布地
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20240606BHJP
A41D 31/12 20190101ALI20240606BHJP
A41D 13/005 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
C09K3/00 B
A41D31/12
A41D13/005 103
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023002694
(22)【出願日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】18/060,775
(32)【優先日】2022-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】522058660
【氏名又は名称】イー タン ガーメント カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】YEE TUNG GARMENT COMPANY LIMITED
【住所又は居所原語表記】3/F., Chiap Luen Industrial Building, 30-32 Kung YipStreet, Kwai Chung, New Territories, Hong Kong
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】カインドネス、アルフレッド、ウヤンガ
(72)【発明者】
【氏名】ユワンダ、イアンパオジーン
(72)【発明者】
【氏名】リー、ウェイルー
(72)【発明者】
【氏名】ワリド、ダウード
【テーマコード(参考)】
3B011
3B211
【Fターム(参考)】
3B011AB01
3B011AB11
3B011AC01
3B211AB01
3B211AB11
3B211AC01
(57)【要約】
【課題】暑さに対処するための対策として有用なハイドロゲル調製物を提供する。
【解決手段】カルボキシメチルセルロース(CMC)12、フマル酸14、CMCとフマル酸とによって形成された複数の空洞16、および空洞内の酸化亜鉛26および/またはキシリトール24を含むハイドロゲル調製物10である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシメチルセルロース(CMC)と、
架橋剤と、
前記CMCと前記架橋剤とによって形成された複数の空洞と、
前記複数の空洞のうちの1つ内の少なくとも1つの吸熱剤と、
を含む、ハイドロゲル調製物。
【請求項2】
前記架橋剤がフマル酸である、請求項1に記載の調製物。
【請求項3】
前記吸熱材が糖アルコールである、請求項1に記載の調製物。
【請求項4】
前記糖アルコールが、キシリトールまたはエリスリトールである、請求項3に記載の調製物。
【請求項5】
前記複数の空洞のうちの1つ内に少なくとも1つの熱反射剤をさらに含む、請求項1に記載の調製物。
【請求項6】
前記熱反射剤が金属酸化物である、請求項5に記載の調製物。
【請求項7】
前記金属酸化物が、酸化亜鉛または二酸化チタンである、請求項6に記載の調製物。
【請求項8】
カルボキシメチルセルロース(CMC)、架橋剤、および吸熱剤を混合してハイドロゲル溶液を形成すること、を含む、ハイドロゲル調製物の形成方法。
【請求項9】
前記カルボキシメチルセルロース(CMC)、前記架橋剤、および前記吸熱剤が、溶液の形態である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記架橋剤がフマル酸である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記吸熱材が糖アルコールである、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記糖アルコールが、キシリトールまたはエリスリトールである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ハイドロゲル溶液中で金属酸化物を形成することをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記金属酸化物が、酸化亜鉛または二酸化チタンである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ハイドロゲル溶液に硝酸亜鉛六水和物を混合することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
請求項1に記載のハイドロゲル調製物で布地をコーティングすることを含む、布地へのコーティング方法。
【請求項17】
前記布地が、少なくとも部分的に天然繊維からなる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記天然繊維が綿である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記布地を精錬し、前記布地を前記ハイドロゲル調製物に浸漬し、そして前記布地をプレスして巻き取ることを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
請求項1に記載のハイドロゲル調製物でコーティングされた布地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロゲル調製物、ハイドロゲル調製物の形成方法、布地へのコーティング方法、およびそのようなハイドロゲル調製物でコーティングされた布地に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化により、暑い日や熱波が増え、気温が上昇すると熱中症が増加し、仕事や移動が困難になることから、このような暑さの増加に対処するための対策がいくつか提案され、実施されている。例えば、使用者の首の周りに装着して使用者の首に向けて空気を送るのに適した扇風機や、使用者の上着(例えばTシャツ)の内側に空気を送り込むために、ズボンやズボンのウエストバンドに装着して携帯するのに適した扇風機がある。しかし、これらの機器は電池で駆動するため、電池の交換や再充電を行わないと長時間の運転ができない。また、使用中に電力が不足する可能性があり、その場合、すぐに利用できる電池や充電設備がなければ、機器の動作を停止せざるを得ない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明の目的は、ハイドロゲル調製物、ハイドロゲル調製物の形成方法、布地へのコーティング方法、およびそのようなハイドロゲル調製物でコーティングされた布地を提供し、上記の欠点は軽減し得るか、または少なくとも当業者及び公衆に対して有用な代替物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第一の態様によれば、カルボキシメチルセルロース(CMC)と、架橋剤と、前記CMCと前記架橋剤とによって形成された複数の空洞と、前記複数の空洞のうちの1つ内の少なくとも1つの吸熱剤とを含むハイドロゲル調製物が提供される。
【0005】
本発明の第二の態様によれば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、架橋剤および吸熱剤を混合してハイドロゲル溶液を形成することを含むハイドロゲル調製物の形成方法が提供される。
【0006】
本発明の第三の態様によれば、カルボキシメチルセルロース(CMC)と、架橋剤と、前記CMCと前記架橋剤とによって形成された複数の空洞と、前記複数の空洞のうちの1つ内の少なくとも1つの吸熱剤とを含むハイドロゲル調製物で布地をコーティングすることを含む、布地へのコーティング方法が提供される。
【0007】
本発明の第四の態様によれば、カルボキシメチルセルロース(CMC)と、架橋剤と、前記CMCと前記架橋剤とによって形成された複数の空洞と、前記複数の空洞のうちの1つ内の少なくとも1つの吸熱剤とを含むハイドロゲル調製物でコーティングされた布地が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態によるハイドロゲル調製物の模式図である。
【
図2】フマル酸分子とカルボキシメチルセルロース(CMC)鎖との結合を模式的に示す図である。
【
図3】本発明のさらなる実施形態によるハイドロゲル調製物の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態によるハイドロゲル調製物、ハイドロゲル調製物の形成方法、布地へのコーティング方法、およびハイドロゲル調製物でコーティングされた布地を、添付の図面を参照して、例示的にのみ説明する。
【0010】
図1を参照すると、本発明の実施形態によるハイドロゲル調製物は、一般的に符合10として示されるように、架橋剤、特にフマル酸14の多数の鎖を十字に交差させたカルボキシメチルセルロース(CMC)12の多数の鎖によって形成されている。
【0011】
カルボキシメチルセルロース(CMC)(セルロースガムとも称される)は、セルロース骨格を構成するグルコピラノース単量体の水酸基の一部にカルボキシメチル基(-CH
2-COOH)が結合したセルロース誘導体である。CMCの一般的な構造式は、以下の通りである。
【化1】
式中、RはHまたはCH
2-COOHである。
【0012】
フマル酸14は、式HO
2CCH=CHCO
2Hで表される下記の構造式を有する有機化合物である。
【化2】
フマル酸14は、CMC12の鎖を互いに連結するための架橋剤として作用する。
【0013】
ハイドロゲル調製物10において、CMC鎖12とフマル酸14とによって多数の空洞16が形成される。空洞16は、熱反射剤18および/または吸熱剤20を含有する。
【0014】
熱反射剤18は、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO2)等の近赤外線(NIR)を反射する金属酸化物であってもよい。太陽熱エネルギーは、近赤外線領域である700~1,100nmの波長域で主に発生する。この太陽熱エネルギーが人体に吸収されると、熱を得て体温が上昇し、暑さを感じるようになる。近赤外線反射材料は、入射した太陽光を反射し、人体への熱の伝達を抑えることで、大きな冷却効果を発揮することが実証されている。例えば、ZnOは、700~2,500nmの波長域の近赤外線を反射する能力を持つことが実証されている。
【0015】
空洞16に含まれる吸熱剤20は、糖アルコールであってもよい。ここでいう「吸熱剤」とは、水に溶解したとき(例えば、汗を吸収したとき)に周囲から熱エネルギーを吸収し、周囲の温度を低下させる化合物、混合物または物質を意味する。
【0016】
糖アルコールは、多価アルコール、多価アルコール、アルジトールまたはグリシトールとも呼ばれ、各炭素原子に結合した水酸基(-OH)を1個含む、典型的には糖から誘導される、一般式HOCH2(CHOH)nCH2OHで表される有機化合物である。糖アルコールは、最も一般的な吸熱剤の一つである。種々の糖アルコールのうち、キシリトールおよびエリスリトールは、良好な吸熱物質であることが知られている。
【0017】
キシリトールは、式HO(CH
2)(CHOH)
3(CH
2)OHで表される下記の構造式を有する化合物である。
【化3】
【0018】
エリスリトールに関しては、式HO(CH
2)(CHOH)
2(CH
2)OHで表される下記の構造式を有する化合物である。
【化4】
【0019】
図2に示すように、ハイドロゲル調製物10の形成において、フマル酸分子14は、CMC鎖12と結合して、CMC鎖12を互いに連結する。
【0020】
図3は、本発明の実施形態によるハイドロゲル調製物10の概略図であり、2つのCMC鎖12が2つの架橋フマル酸分子14によって連結されている様子を示している。CMC鎖12とフマル酸分子14とによって形成された空洞16内には、多数のキシリトール分子24及び酸化亜鉛26(亜鉛イオン(Zn
2+)で表される)が収容されている。
【0021】
ハイドロゲル調製物10は、ハイドロゲルの形態であり、これは、水に溶解しない架橋された親水性ポリマーであることを意味する。特に、キシリトールは水への溶解性が高いので、これは本発明の有利な特徴である。ハイドロゲル構造は、熱反射剤(ZnOやTiO2など)および吸熱剤20(キシリトールやエリスリトールなど)を所定の位置に維持し、汗を吸収した後にそれらの物質が漏出することを防止する。ハイドロゲル構造はまた、熱反射剤および吸熱剤20を収容するための空洞16を提供し、耐久性のある洗浄性能を提供する。
【0022】
一例として、溶液形態のハイドロゲル調製物10を形成する場合、カルボキシメチルセルロース(CMC)3.135gmを室温で蒸留水625mlに溶解し、CMC溶液とした。また、6.25gmのキシリトールを156mlの蒸留水に溶解し、キシリトール溶液とし、0.469gmのフマル酸を156mlの蒸留水に溶解し、フマル酸溶液とした。次いで、硝酸亜鉛六水和物4.644gmを蒸留水62.5mlに溶解し、硝酸亜鉛六水和物水溶液とした。
【0023】
CMC溶液、フマル酸溶液およびキシリトール溶液を一緒に混合し、硝酸亜鉛六水和物溶液を添加してハイドロゲル調製物10を形成した。特に、ハイドロゲル調製物10を形成する過程で、硝酸亜鉛六水和物は分解されて、次のように、酸化亜鉛および二酸化窒素を形成し、これにより、ハイドロゲル調製物10に酸化亜鉛が提供される。
Zn(NO3)2→ZnO+NO2
【0024】
ハイドロゲル調製物10は、布地のコーティング剤として使用してもよい。布地は、その一部または全部が天然繊維製であってもよい。特に、布地は、綿製であってもよい。
【0025】
布地をハイドロゲル調製物10でコーティングする工程を、綿布片を例として説明する。綿布片を、2g/Lの非イオン性洗剤(Kieralon wash F-OLB、BASF)に浸漬し、80℃で30分間撹拌することによって精練した後、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。
【0026】
精錬した綿布を、調製したままのハイドロゲル調製物10に5分間浸漬させた。次いで、布地を、パッダーを用いて、圧力0.65MPa、ローラー回転速度7.5rpmでプレスした。次いで、布地を80℃で10分間乾燥させ、120℃で3分間硬化させた。これらのステップは、湿式加工後の布地を乾燥および熱処理するために繊維産業で使用される機械であるステンター(ステンター機とも称される)によって実施してもよい。次いで、コーティングされた綿布を水で洗浄し、80℃で乾燥させた。
【0027】
上記は、本発明を実施することができる例を示し、説明したに過ぎず、本発明の精神から逸脱することなく、これに対して修正および/または変更を行うことができることを理解されたい。
【0028】
また、簡潔にするために、単一の実施形態の文脈で説明される本発明の様々な特徴は、別々に、または任意の適切なサブコンビネーションにおいて提供されてもよいことが理解されるべきである。
【符号の説明】
【0029】
10…ハイドロゲル調製物、12…カルボキシメチルセルロース(CMC)、14…フマル酸(フマル酸分子)、16…空洞、18…熱反射剤、20…吸熱剤、24…キシリトール(キシリトール分子)、26…酸化亜鉛(亜鉛イオン(Zn2+))。
【外国語明細書】