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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080573
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】コンクリート打設方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/02 20060101AFI20240606BHJP
【FI】
E04G21/02 103Z
E04G21/02 103A
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070859
(22)【出願日】2023-04-24
(31)【優先権主張番号】P 2022193035
(32)【優先日】2022-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】518208716
【氏名又は名称】ポゾリス ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊佐治 優
(72)【発明者】
【氏名】桜井 邦昭
(72)【発明者】
【氏名】田中 将希
(72)【発明者】
【氏名】上垣 義明
(72)【発明者】
【氏名】阿合 延明
(72)【発明者】
【氏名】松倉 隼人
(72)【発明者】
【氏名】大野 誠彦
【テーマコード(参考)】
2E172
【Fターム(参考)】
2E172AA05
2E172DA00
2E172DB07
2E172DD04
(57)【要約】
【課題】簡便な方法で雨水の流入から硬化前のコンクリートを保護する。
【解決手段】降雨時又は降雨が予想される場合において、コンクリートを打設するコンクリート打設ステップと、前記コンクリートの表面にアルギン酸塩を含む水溶液を塗布又は散布する塗布散布ステップと、前記表面の少なくとも一部に、前記水溶液が前記コンクリートの多価金属イオンと反応して形成された雨水保護膜を形成する雨水保護膜形成ステップと、を有するコンクリート打設方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
降雨時又は降雨が予想される場合において、コンクリートを打設するコンクリート打設ステップと、
前記コンクリートの表面にアルギン酸塩を含む水溶液を塗布又は散布する塗布散布ステップと、
前記表面の少なくとも一部に、前記水溶液が前記コンクリートの多価金属イオンと反応して形成された雨水保護膜を形成する雨水保護膜形成ステップと、
を有するコンクリート打設方法。
【請求項2】
前記雨水保護膜形成ステップの後に、コンクリートの打設を再開するコンクリート打設再開ステップと、
を有する請求項1に記載のコンクリート打設方法。
【請求項3】
前記雨水保護膜形成ステップの後に、前記雨水保護膜を除去する保護膜除去ステップと、
を有する請求項1に記載のコンクリート打設方法。
【請求項4】
前記保護膜除去ステップの後に、コンクリートの打設を再開するコンクリート打設再開ステップと、
を有する請求項3に記載のコンクリート打設方法。
【請求項5】
前記コンクリート打設ステップの後に、コテ仕上げをするコテ仕上げステップと、
前記コテ仕上げステップの後に、前記塗布散布ステップを行う、
請求項1に記載のコンクリート打設方法。
【請求項6】
前記水溶液における前記アルギン酸塩の濃度は、0.2%~20%であり、前記水溶液の塗布量は、200g/m2以上である、
請求項1~5のいずれか一項に記載のコンクリート打設方法。
【請求項7】
前記アルギン酸塩の塗布量は、1g/m2以上である、
請求項1~5のいずれか一項に記載のコンクリート打設方法。
【請求項8】
前記水溶液は、凝結遅延成分をさらに含む、
請求項1に記載のコンクリート打設方法。
【請求項9】
前記雨水保護膜形成ステップの後に、前記雨水保護膜と前記コンクリートのペースト分の一部を除去して打継処理をする打継処理ステップと、
を有する請求項8に記載のコンクリート打設方法。
【請求項10】
前記打継処理ステップの後に、コンクリートの打設を再開するコンクリート打設再開ステップと、
を有する請求項9に記載のコンクリート打設方法。
【請求項11】
前記水溶液における前記凝結遅延成分の濃度は、1%~10%である、
請求項8~10のいずれか一項に記載のコンクリート打設方法。
【請求項12】
前記凝結遅延成分の塗布量は、6g/m2~60g/m2である、
請求項8~10のいずれか一項に記載のコンクリート打設方法。
【請求項13】
前記凝結遅延成分の塗布量は、6g/m2~30g/m2である、
請求項8~10のいずれか一項に記載のコンクリート打設方法。
【請求項14】
前記凝結遅延成分に対する前記アルギン酸塩の比は、0.15~1.5である、
請求項8~10のいずれか一項に記載のコンクリート打設方法。
【請求項15】
前記凝結遅延成分に対する前記アルギン酸塩の比は、0.15~0.75である、
請求項8~10のいずれか一項に記載のコンクリート打設方法。
【請求項16】
前記凝結遅延成分に対する前記アルギン酸塩の比は、0.2~0.5である、
請求項8~10のいずれか一項に記載のコンクリート打設方法。
【請求項17】
前記水溶液の粘度は、240mPa・s~650mPa・sである、
請求項8~10のいずれか一項に記載のコンクリート打設方法。
【請求項18】
前記水溶液における前記アルギン酸塩の濃度は、1.0%~1.5%であり、前記水溶液の塗布量は、200g/m2以上である、
請求項8~10のいずれか一項に記載のコンクリート打設方法。
【請求項19】
前記アルギン酸塩の塗布量は、1g/m2以上である、
請求項8~10のいずれか一項に記載のコンクリート打設方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート打設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
降雨時にコンクリートを打設すると、硬化前のコンクリートに雨水が流入することがある。これにより、コンクリートの水セメント比が増加したり、モルタル成分が流出したりすることがある。この結果、強度や耐久性等のコンクリートの品質が低下してしまい、当該コンクリートで建設される構造物の性能が損なわれるおそれがある。したがって、降雨時又は降雨が予想される場合においてコンクリートを打設する際、硬化前のコンクリートへの雨水の流入を防ぐために、施工範囲をテントで覆う方法や、シート等で養生する方法が採用されている。
【0003】
特許文献1では、屋根部を有する移動体で構成された全天候式コンクリート打設装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-119133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、テントやシートの取り扱い(準備・設置・片付け等)や、特許文献1に記載された装置の取り扱いには、大きな労力を必要とする。例えば、降雨時又は降雨が予想される場合にコンクリートの打設を中止や延期をすると、今度は工程の遅延を招いてしまう。
【0006】
本発明は、簡便な方法で雨水の流入から硬化前のコンクリートを保護することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の幾つかの実施形態は、降雨時又は降雨が予想される場合において、コンクリートを打設するコンクリート打設ステップと、前記コンクリートの表面にアルギン酸塩を含む水溶液を塗布又は散布する塗布散布ステップと、前記表面の少なくとも一部に、前記水溶液が前記コンクリートの多価金属イオンと反応して形成された雨水保護膜を形成する雨水保護膜形成ステップと、を有するコンクリート打設方法である。
【0008】
本発明の他の特徴については、後述する明細書及び図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の幾つかの実施形態によれば、簡便な方法で雨水の流入から硬化前のコンクリートを保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1実施形態のコンクリート打設方法における雨水保護膜20の説明図である。
図2図2は、第1実施形態のコンクリート打設方法における雨水保護膜20を示す写真である。
図3図3は、降雨後のコンクリートの表面における、雨水保護膜20の有無による比較を示す写真であり、図3Aは、雨水保護膜20なしのコンクリートの表面の結果であり、図3Bは、雨水保護膜20ありのコンクリートの表面の結果である。
図4図4は、比較例のコンクリート打設方法におけるシート20Aの説明図である。
図5図5は、第1実施形態のコンクリート打設方法の第1実施例のフロー図である。
図6図6は、第1実施形態のコンクリート打設方法の第2実施例のフロー図である。
図7図7は、第1実施形態のコンクリート打設方法の第3実施例のフロー図である。
図8図8は、アルギン酸ナトリウム水溶液のアルギン酸塩の濃度に関する検討実験の結果を示す図である。
図9図9は、アルギン酸ナトリウム水溶液の塗布量に関する検討実験の結果を示す図である。
図10図10は、参考例のコンクリート打設方法の説明図であり、図10Aは、雨水保護膜20Bが形成されたコンクリート10の説明図であり、図10Bは、雨水保護膜20Bを除去した後のコンクリート10の説明図である。
図11図11は、第2実施形態のコンクリート打設方法のフロー図である。
図12図12は、第2実施形態のコンクリート打設方法の説明図であり、図12Aは、雨水保護膜20Cが形成されたコンクリート10の説明図であり、図12Bは、雨水保護膜20C及びコンクリート10の表面薄層部13を除去する様子の説明図であり、図12Cは、雨水保護膜20C及びコンクリート10の表面薄層部13を除去した後のコンクリート10の説明図である。
図13図13は、雨水保護膜20C及びコンクリート10の表面薄層部13を除去した後のコンクリート10の拡大説明図である。
図14図14は、凝結遅延成分をさらに含むアルギン酸ナトリウム水溶液の検討実験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
後述する明細書及び図面の記載から、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0012】
降雨時又は降雨が予想される場合において、コンクリートを打設するコンクリート打設ステップと、前記コンクリートの表面にアルギン酸塩を含む水溶液を塗布又は散布する塗布散布ステップと、前記表面の少なくとも一部に、前記水溶液が前記コンクリートの多価金属イオンと反応して形成された雨水保護膜を形成する雨水保護膜形成ステップと、を有するコンクリート打設方法が明らかとなる。
【0013】
このようなコンクリート打設方法によれば、簡便な方法で雨水の流入から硬化前のコンクリートを保護することができる。
【0014】
かかるコンクリート打設方法であって、前記雨水保護膜形成ステップの後に、コンクリートの打設を再開するコンクリート打設再開ステップと、を有することが望ましい。
【0015】
これにより、コンクリートの打設の途中であっても、簡便な方法で雨水の流入から硬化前のコンクリートを保護することができる。
【0016】
かかるコンクリート打設方法であって、前記雨水保護膜形成ステップの後に、前記雨水保護膜を除去する保護膜除去ステップと、を有することが望ましい。
【0017】
これにより、雨水保護膜のコンクリート中への残留により、コンクリートの品質の低下を抑制することができる。
【0018】
かかるコンクリート打設方法であって、前記保護膜除去ステップの後に、コンクリートの打設を再開するコンクリート打設再開ステップと、を有することが望ましい。
【0019】
これにより、コンクリートの打設の途中であっても、簡便な方法で雨水の流入から硬化前のコンクリートを保護すると共に、雨水保護膜のコンクリート中への残留により、コンクリートの品質の低下を抑制することができる。
【0020】
かかるコンクリート打設方法であって、前記コンクリート打設ステップの後に、コテ仕上げをするコテ仕上げステップと、前記コテ仕上げステップの後に、前記塗布散布ステップを行うことが望ましい。
【0021】
これにより、コンクリートのコテ仕上げの後であっても、簡便な方法で雨水の流入から硬化前のコンクリートの仕上げ面を保護することができる。
【0022】
かかるコンクリート打設方法であって、前記水溶液における前記アルギン酸塩の濃度は、0.2%~20%であり、前記水溶液の塗布量は、200g/m2以上であることが望ましい。
【0023】
これにより、コンクリートの表面を十分に保護することができる雨水保護膜を形成することができる。
【0024】
かかるコンクリート打設方法であって、前記アルギン酸塩の塗布量は、1g/m2以上であることが望ましい。
【0025】
これにより、コンクリートの表面を十分に保護することができる雨水保護膜を形成することができる。
【0026】
かかるコンクリート打設方法であって、前記水溶液は、凝結遅延成分をさらに含むことが望ましい。
【0027】
これにより、簡便な方法で雨水の流入から硬化前のコンクリートを保護すると共に、長期の降雨があった後にコンクリートの打設を再開する場合において、コンクリートの打継処理を容易に行うことができる。
【0028】
かかるコンクリート打設方法であって、前記雨水保護膜形成ステップの後に、前記雨水保護膜を除去する保護膜除去ステップと、前記コンクリートのペースト分の一部を除去して打継処理をする打継処理ステップと、を有することが望ましい。
【0029】
これにより、簡便な方法で雨水の流入から硬化前のコンクリートを保護すると共に、長期の降雨があった後にコンクリートの打設を再開する場合において、コンクリートの打継処理を容易に行うことができる。
【0030】
かかるコンクリート打設方法であって、前記打継処理ステップの後に、コンクリートの打設を再開するコンクリート打設再開ステップと、を有することが望ましい。
【0031】
これにより、簡便な方法で雨水の流入から硬化前のコンクリートを保護すると共に、長期の降雨があった後にコンクリートの打設を再開する場合において、コンクリートの打継処理を容易に行うことができる。
【0032】
かかるコンクリート打設方法であって、前記水溶液における前記凝結遅延成分の濃度は、1%~10%であることが望ましい。
【0033】
これにより、簡便な方法で雨水の流入から硬化前のコンクリートを保護すると共に、良好な打ち継ぎ面を形成することができる。
【0034】
かかるコンクリート打設方法であって、前記凝結遅延成分の塗布量は、6g/m2~60g/m2であることが望ましい。
【0035】
これにより、簡便な方法で雨水の流入から硬化前のコンクリートを保護すると共に、良好な打ち継ぎ面を形成することができる。
【0036】
かかるコンクリート打設方法であって、前記凝結遅延成分の塗布量は、6g/m2~30g/m2であることが望ましい。
【0037】
これにより、簡便な方法で雨水の流入から硬化前のコンクリートを保護すると共に、良好な打ち継ぎ面を形成することができる。
【0038】
かかるコンクリート打設方法であって、前記凝結遅延成分に対する前記アルギン酸塩の比は、0.15~1.5であることが望ましい。
【0039】
これにより、簡便な方法で雨水の流入から硬化前のコンクリートを保護すると共に、良好な打ち継ぎ面を形成することができる。
【0040】
かかるコンクリート打設方法であって、前記凝結遅延成分に対する前記アルギン酸塩の比は、0.15~0.75であることが望ましい。
【0041】
これにより、簡便な方法で雨水の流入から硬化前のコンクリートを保護すると共に、良好な打ち継ぎ面を形成することができる。
【0042】
かかるコンクリート打設方法であって、前記凝結遅延成分に対する前記アルギン酸塩の比は、0.2~0.5であることが望ましい。
【0043】
これにより、簡便な方法で雨水の流入から硬化前のコンクリートを保護すると共に、良好な打ち継ぎ面を形成することができる。
【0044】
かかるコンクリート打設方法であって、前記水溶液の粘度は、100 mPa・s~650mPa・sであることが望ましく、240mPa・s~650mPa・sであることがより望ましい。
【0045】
これにより、簡便な方法で雨水の流入から硬化前のコンクリートを保護すると共に、良好な打ち継ぎ面を形成することができる。
【0046】
かかるコンクリート打設方法であって、前記水溶液における前記アルギン酸塩の濃度は、1.0%~1.5%であり、前記水溶液の塗布量は、200g/m2以上であることが望ましい。
【0047】
これにより、コンクリートの表面を十分に保護することができる雨水保護膜を形成することができる。
【0048】
かかるコンクリート打設方法であって、前記アルギン酸塩の塗布量は、1g/m2以上であることが望ましい。
【0049】
これにより、コンクリートの表面を十分に保護することができる雨水保護膜を形成することができる。
【0050】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を説明する。各図面に示される同一又は同等の構成要素、部材等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。
【0051】
===第1実施形態===
<雨水保護膜20の概要>
図1は、第1実施形態のコンクリート打設方法における雨水保護膜20の説明図である。図2は、第1実施形態のコンクリート打設方法における雨水保護膜20を示す写真である。
【0052】
雨水保護膜20は、図1に示されるように、コンクリート10の表面11に形成される薄膜である。以下では、雨水保護膜20のことを、単に「薄膜」と呼ぶことがある。本実施形態において雨水保護膜20が形成されるコンクリートは、例えば、鉄筋コンクリート(RC)、鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)等で建設される構造物に使用される。構造物は、セメント(セメントペースト、以下、単に「ペースト」と呼ぶことがある)、細骨材、粗骨材等に練り混ぜ水を加えて練り混ぜて生成された生コンクリート(以下、単に「コンクリート」と呼ぶことがある)を型枠内に打設し、硬化した後に型枠を外すことで建設される。
【0053】
ところで、型枠内へのコンクリートの打設作業が、降雨時に行われることがある。また、型枠内に打設したコンクリートが硬化するためには、コンクリートを打設してから所定の養生期間を経過する必要がある。この所定の養生期間内に降雨が予想される場合がある。これらの降雨時又は降雨が予想される場合に、硬化前のコンクリートに雨水が流入することがある。これにより、コンクリートの水セメント比が増加したり、モルタル成分が流出したりすることがある。この結果、強度や耐久性等のコンクリートの品質が低下してしまい、当該コンクリートで建設される構造物の性能が損なわれるおそれがある。
【0054】
そこで、降雨時又は降雨が予想される場合において、硬化前のコンクリートへの雨水の流入を抑制し、コンクリートの品質の低下を抑制することができるコンクリート打設方法が求められている。特に、近年の気候変動により、天候の急変や、短時間降雨の増加が深刻となっている。例えば、近年、1時間当たりの降水量が50mm以上の降雨の発生回数は増加傾向にある。なお、このような天候の急変や、短時間降雨は、概ね6月から9月に集中しており、急激な積乱雲の発達にその原因があると言われている。
【0055】
上述した天候の急変や、短時間降雨の問題だけでなく、日本ではもともと降雨の日数が多い。例えば、1日当たり1mm以上の降雨日数は、少ない年で80日程度、多い年で170日程度であり、全国平均で年間120日程度であると言われている。また、地域(例えば、日本海側の地域)によっては、秋から春にかけて天候不順の日が連続することが一般的である。つまり、地域によっては、秋から春にかけて降雨や降雪のない日はもともと少ない。
【0056】
降雨時又は降雨が予想される場合において、硬化前のコンクリートへの雨水の流入を抑制し、コンクリートの品質の低下を抑制するために、これまで抜本的な対策はなかった。例えば、降雨時又は降雨が予想される場合にコンクリートの打設を中止や延期をすると、今度は工程の遅延を招いてしまうことがあった。
【0057】
もちろん、コンクリートの品質の低下が許容できるような少量の降水量であれば、コンクリートを打設することは全く不可能ではない。しかし、コンクリートの品質の低下が許容できるような降水量について、これまで明確な規準がなかった。したがって、上述したような天候の急変を予想することの困難さから、少しでも降雨が予想される場合には、コンクリートの打設を中止・延期せざるを得ないこともあった。
【0058】
そこで、本実施形態のコンクリート打設方法においては、図1に示されるように、コンクリート10の表面11に雨水保護膜20を形成することにより、硬化前のコンクリート10への雨水の流入を抑制し、コンクリート10の品質の低下を抑制することができる。なお、図1は、説明のために、コンクリート10の表面11と、雨水保護膜20との間に隙間があるように表されているが、実際には、雨水保護膜20は、コンクリート10の表面11上に(表面11との隙間なく)形成されている。
【0059】
本実施形態では、雨水保護膜20は、アルギン酸ナトリウム水溶液をコンクリート10の表面11に塗布又は散布することにより形成することができる。アルギン酸ナトリウム水溶液は、コンクリート10中のカルシウムイオン(Ca2+)と反応し、ゲル化する性質を有している。したがって、打設後のコンクリート10にアルギン酸ナトリウム水溶液を塗布又は散布すると、コンクリート10中のカルシウムイオンと反応し、図2に示されるようなゲル状の薄膜が形成されることになる。
【0060】
アルギン酸ナトリウム水溶液は、刷毛やローラー等により、コンクリート10の表面11に塗布されても良いし、スプレーによりコンクリート10の表面11に散布(噴霧)されても良い。
【0061】
なお、雨水保護膜20は、アルギン酸ナトリウム水溶液がコンクリート10中のカルシウムイオンと反応して形成される態様に限られない。雨水保護膜20は、例えば、アルギン酸カリウム水溶液等のアルカリ金属塩を含む水溶液から形成される態様であっても良く、アルギン酸アンモニウム塩を含む水溶液から形成される態様であっても良い。つまり、雨水保護膜20は、アルギン酸塩を含む水溶液から形成される態様であれば良い。また、雨水保護膜20は、アルギン酸塩を含む水溶液が、例えば、コンクリート10中のマグネシウムイオン(Mg2+)と反応して形成されても良く、コンクリート10中の多価金属イオンと反応して形成されれば良い。
【0062】
本実施形態では、このゲル状の薄膜で形成される雨水保護膜20が、図1に示されるように、コンクリート10の表面11を覆い、コンクリート10と雨水との接触を遮断することにより、硬化前のコンクリート10への雨水の流入が抑制される。なお、雨水保護膜20は、コンクリート10の表面11に形成される薄膜であるので、雨水は、図1の矢印に示されるように、雨水保護膜20の表面上を自然に流動する(雨水は、雨水保護膜20の表面から自然に排出される)。これにより、雨水が雨水保護膜20上に溜まることが抑制される。したがって、本実施形態では、雨水保護膜20の表面に溜まった雨水を排出する労力を抑制することができる。
【0063】
なお、本実施形態の雨水保護膜20は、スラブ等の構造物の水平面のコンクリート上部に好適に適用できる。また、本実施形態の雨水保護膜20は、傾斜地の法面コンクリートにも適用できる。雨水保護膜20は上述したようにゲル状であるため、傾斜地でもコンクリート表面に留まりダレを生じにくい。更には、本実施形態の雨水保護膜20は、垂直面のコンクリートにも適用できる。但し、垂直面に適用するときには、アルギン酸ナトリウム水溶液の濃度を例えば10%以上とし、複数回に分けてコンクリートに塗布又は散布することにより、雨水保護膜20のダレを抑制することができる。
【0064】
また、本実施形態では、雨水保護膜20は、上述したようにゲル状の薄膜により形成されている。このようなゲル状の薄膜はコンクリート10から容易に除去することが可能である。これにより、降雨が終了した段階で雨水保護膜20をコンクリート10から除去することで、雨水保護膜20のコンクリート10中への残留を抑制することができ、コンクリート10の品質の低下を抑制することができる。
【0065】
なお、雨水保護膜20は、コンクリート10から除去しなくても良い。そして、コンクリート10をさらに打設することもできる(打設を再開することもできる)。但し、この場合、雨水保護膜20を棒等で硬化前のコンクリート10と混合させることが望ましい。これにより、コンクリート10の品質の低下を抑制することができる。
【0066】
なお、本実施形態では、雨水保護膜20は、図1に示されるように、コンクリート10の表面11の全てに形成されている。但し、雨水保護膜20は、コンクリート10の表面11の少なくとも一部に形成されていれば良い。雨水保護膜20が形成されたコンクリート10の表面11において、コンクリート10への雨水の流入を抑制し、コンクリート10の品質の低下を抑制することができる。
【0067】
<雨水保護膜の降雨試験>
以下では、雨水保護膜が形成されたコンクリートの試験体と、雨水保護膜がないコンクリートの試験体とを用意し、降雨後の表面(打設面)の様子を比較した結果について説明する。具体的には、コンクリートの試験体を2つ用意し、一方の試験体には、アルギン酸ナトリウム水溶液をコンクリートの表面に塗布することにより雨水保護膜20を形成した。なお、アルギン酸ナトリウム水溶液を塗布した試験体では、アルギン酸ナトリウム水溶液を塗布後15分で雨水保護膜20が形成された。また、他方の試験体には、アルギン酸ナトリウム水溶液をコンクリートの表面に塗布又は散布しなかった(すなわち、雨水保護膜20を形成しなかった)。
【0068】
次に、上述した2つの試験体に対し、1時間当たりの降水量が100mmの降雨を再現した水を降らせて、降雨後の打設面の状況を観察した。また、流出した雨水を採取し、流出した雨水の状態や、pH値を測定した。
【0069】
図3は、降雨後のコンクリートの表面における、雨水保護膜20の有無による比較を示す写真である。なお、図3Aは、雨水保護膜20なしのコンクリートの表面の結果であり、図3Bは、雨水保護膜20ありのコンクリートの表面の結果である。
【0070】
図3Aに示されるように、雨水保護膜20なしのコンクリートの試験体の打設面は、モルタル成分が流出したことにより、粗骨材等が露出する状況となった。一方、図3Bに示されるように、雨水保護膜20ありのコンクリートの試験体の打設面では、雨水保護膜20が残存し、硬化前のコンクリートに雨水が流入することが抑制されていることがわかる。
【0071】
また、雨水保護膜20なしのコンクリートの試験体では、流出した雨水は濁り水であり、雨水のpH値が12.7であった。つまり、アルカリ性のモルタル成分が流出していたことがわかる。一方、雨水保護膜20ありのコンクリートの試験体では、流出した雨水は濁りがなく、雨水のpH値が7.8であった。つまり、硬化前のコンクリートに雨水が流入することが抑制され、流出した雨水にモルタル成分がほぼ含まれていなかったことがわかる。
【0072】
雨水保護膜の降雨試験では、上述したように、1時間当たりの降水量が100mmの降雨を再現している。このような災害レベルの強雨であっても、雨水保護膜20を形成することにより、硬化前のコンクリートに雨水が流入することを抑制することができる。
【0073】
<比較例>
図4は、比較例のコンクリート打設方法におけるシート20Aの説明図である。
【0074】
降雨時又は降雨が予想される場合において、硬化前のコンクリート10への雨水の流入を抑制するために、比較例のコンクリート打設方法のように、コンクリート10の表面11をシート20Aで覆うこともできる。しかし、シート20Aの取り扱いには、大きな労力を必要とする。例えば、降雨が予想される場合に準備しておくことや、設置作業や片付け作業にも、大きな労力を必要とする。特に、高層においてコンクリート10を打設する際には、クレーン等でシート20Aを吊り上げる必要があり、段取りを含めた取り扱いには、特に大きな労力が必要となる。
【0075】
また、比較例のコンクリート打設方法では、図4Aに示されるように、シート20A上に雨水が溜まりやすい。シート20Aは、本実施形態における雨水保護膜20と異なり、コンクリート10の表面11に形成されるのではなく、コンクリート10の表面11からある程度の隙間を空けて設置されるためである。比較例のコンクリート打設方法では、この溜まった雨水の処理にも、大きな労力を必要とする。さらに、シート20Aが破損することでコンクリート10へ雨水が流入してしまうことがある。
【0076】
これに対し、本実施形態のコンクリート打設方法では、水溶液(具体的には、アルギン酸ナトリウム水溶液)をコンクリート10の表面に塗布又は散布するだけで良いので、簡便な方法で雨水の流入から硬化前のコンクリートを保護することができる。また、雨水は、雨水保護膜20の表面から自然に排出されるので、雨水が雨水保護膜20上に溜まることが抑制され、雨水保護膜20の表面に溜まった雨水を排出する労力を抑制することができる。
【0077】
また、本実施形態における雨水保護膜20はゲル状の薄膜であるため、容易に除去することが可能である。さらに、雨水保護膜の降雨試験で説明したように、雨水保護膜20は、1時間当たりの降水量が100mmの降雨という災害レベルの強雨であっても、破損することが抑制され、硬化前のコンクリートに雨水が流入することを抑制することができる。
【0078】
<第1実施例>
図5は、第1実施形態のコンクリート打設方法の第1実施例のフロー図である。
【0079】
まず、降雨時又は降雨が予想される場合において、コンクリートを打設する(S001:コンクリート打設ステップ)。
【0080】
次に、コンクリートの表面にアルギン酸塩を含む水溶液を塗布又は散布する(S002:塗布散布ステップ)。アルギン酸塩は、上述したように、アルギン酸ナトリウム等のアルカリ金属塩であっても良いし、アンモニウム塩であっても良い。また、アルギン酸塩を含む水溶液は、刷毛やローラー等により、コンクリートの表面に塗布されても良いし、スプレーによりコンクリートの表面に散布(噴霧)されても良い。
【0081】
コンクリートの表面にアルギン酸塩を含む水溶液を塗布又は散布されると、アルギン酸塩を含む水溶液がコンクリートの多価金属イオンと反応して、雨水保護膜を形成する(S003:雨水保護膜形成ステップ)。多価金属イオンは、上述したように、カルシウムイオンであるが、マグネシウムイオン等の他の多価金属イオンであっても良い。本実施形態では、簡便な方法で雨水の流入から硬化前のコンクリートを保護することができる。
【0082】
降雨が終了又は少雨となった場合、雨水保護膜を除去する(S004:保護膜除去ステップ)。但し、雨水保護膜を除去しなくても良い。すなわち、保護膜除去ステップはなくても良い。
【0083】
最後に、所定の養生期間を経過することで、コンクリートを硬化させる(S005:コンクリート硬化ステップ)。本実施形態のコンクリート打設方法の第1実施例では、コンクリートへの雨水の流入が抑制され、コンクリートの品質の低下が抑制されている。
【0084】
<第2実施例>
図6は、第1実施形態のコンクリート打設方法の第2実施例のフロー図である。
【0085】
コンクリート打設方法の第2実施例では、コンクリートの打設の途中であっても、簡便な方法で雨水の流入から硬化前のコンクリートを保護することができる。つまり、雨水保護膜を形成した後であっても、コンクリートの打設を再開することができる。
【0086】
コンクリート打設方法の第2実施例におけるコンクリート打設ステップ(S101)、塗布散布ステップ(S102)、雨水保護膜形成ステップ(S103)及び保護膜除去ステップ(S104)については、上述したコンクリート打設方法の第1実施例と同様である。但し、保護膜除去ステップはなくても良い。
【0087】
次に、保護膜除去ステップの後に、コンクリートの打設を再開する(S105:コンクリート打設再開ステップ)。保護膜除去ステップがない場合、雨水保護膜形成ステップの後に、コンクリートの打設を再開する。但し、この場合、雨水保護膜を棒等で硬化前のコンクリートと混合させることが望ましい。
【0088】
最後に、所定の養生期間を経過することで、コンクリートを硬化させる(S005:コンクリート硬化ステップ)。本実施形態のコンクリート打設方法の第2実施例では、コンクリートの打設の途中であっても、コンクリートへの雨水の流入が抑制され、コンクリートの品質の低下が抑制されている。
【0089】
<第3実施例>
図7は、第1実施形態のコンクリート打設方法の第3実施例のフロー図である。
【0090】
コンクリート打設方法の第3実施例では、コンクリートのコテ仕上げの後であっても、簡便な方法で雨水の流入から硬化前のコンクリートの仕上げ面を保護することができる。
【0091】
コンクリート打設ステップ(S201)については、上述したコンクリート打設方法の第1実施例と同様である。コンクリート打設ステップの後、コンクリートの表面のコテ仕上げをする(S202:コテ仕上げステップ)。そして、コテ仕上げステップの後に、コンクリートの表面(コテ仕上げ面)にアルギン酸塩を含む水溶液を塗布又は散布する(S203:塗布散布ステップ)。これにより、コテ仕上げ面にも雨水保護膜を形成することができる。なお、雨水保護膜形成ステップ(S204)及び保護膜除去ステップ(S205)については、上述したコンクリート打設方法の第1実施例と同様である。但し、保護膜除去ステップはなくても良い。
【0092】
最後に、所定の養生期間を経過することで、コンクリートを硬化させる(S206:コンクリート硬化ステップ)。本実施形態のコンクリート打設方法の第3実施例では、コンクリートの仕上げ面への雨水の流入が抑制され、コンクリートの仕上げ面の品質の低下が抑制されている。
【0093】
<アルギン酸塩の濃度及びアルギン酸ナトリウム水溶液の塗布量に関する検討実験>
上述したように、アルギン酸ナトリウム水溶液をコンクリートの表面に塗布又は散布することにより、雨水保護膜が形成され、コンクリートへの雨水の流入が抑制される。以下では、コンクリートへの雨水の流入が抑制されるアルギン酸ナトリウム水溶液の濃度及び塗布量に関して、実験により検証する。
【0094】
今回の実験では、アルギン酸ナトリウムの濃度に関して、20.0%から0.125%の範囲において、アルギン酸ナトリウム水溶液の複数の試験体を作成した。また、塗布量に関して、濃度0.50%を一定にして、塗布量が1200 g/m2から150 g/m2となる範囲の複数の試験体を作成した。
【0095】
また、今回の実験では、型枠にコンクリートを打設し、上述した所定の濃度及び塗布量のアルギン酸ナトリウム水溶液をコンクリートの上面に塗布し、降雨を模擬した水を作用させた。測定項目として、降雨によって流出したコンクリートの量の測定、流出した水のpHの測定、降雨作用後のゲル状の薄膜の状況の確認を行った。
【0096】
図8は、アルギン酸ナトリウム水溶液のアルギン酸塩の濃度に関する検討実験の結果を示す図である。図9は、アルギン酸ナトリウム水溶液の塗布量に関する検討実験の結果を示す図である。
【0097】
図8及び図9に示されるように、アルギン酸ナトリウム水溶液のアルギン酸塩の濃度が0.2%~20%までの範囲では、コンクリートの流出や、流出した水のpHの上昇は確認できず、薄膜(雨水保護膜)の破壊も確認されなかった。また、アルギン酸ナトリウム水溶液の塗布量が200g/m2以上の場合では、コンクリートの流出や流出した水のpHの上昇はなく、薄膜(雨水保護膜)の破壊も確認されなかった。以上の結果より、降雨対策として十分な効果が認められるアルギン酸ナトリウム水溶液のアルギン酸塩の濃度は、0.2%~20%であり、降雨対策として効果が認められるアルギン酸ナトリウム水溶液の塗布量は、200g/m2以上の範囲である。
【0098】
上述の結果を、アルギン酸ナトリウムの塗布量に換算すると、アルギン酸ナトリウムの塗布量は、0.4g/m2以上、好ましくは、1g/m2以上である。
【0099】
===第2実施形態===
上述した第1実施形態のコンクリート打設方法においては、図1に示されるように、降雨時又は降雨が予想される場合において、コンクリート10の表面11に雨水保護膜20を形成する。これにより、硬化前のコンクリート10への雨水の流入を抑制し、コンクリート10の品質の低下を抑制することができる。また、上述した図6に示される第2実施例のように、コンクリートの打設の途中であっても(つまり、雨水保護膜20を形成した後であっても)コンクリート10の打設を再開することができる。
【0100】
しかし、降雨が長時間継続することがあり、コンクリートの打設を再開する前にコンクリートが硬化することがある。この場合、雨がやんだ後にそのままコンクリートの打設をすると(コンクリートを打ち継ぐと)、先に打設したコンクリートと、後から打設したコンクリートとの間が完全に一体化していない継目(コールドジョイント)が発生してしまうことがある。この点について、参考例を用いて説明する。
【0101】
<参考例>
図10は、参考例のコンクリート打設方法の説明図である。なお、図10Aは、雨水保護膜20Bが形成されたコンクリート10の説明図であり、図10Bは、雨水保護膜20Bを除去した後のコンクリート10の説明図である。
【0102】
参考例のコンクリート打設方法においては、図10Aに示されるように、コンクリート10の表面11に雨水保護膜20Bが形成される。雨水保護膜20Bは、上述した第1実施形態のコンクリート打設方法と同様に、コンクリート10の表面11にアルギン酸塩を含む水溶液(例えば、アルギン酸ナトリウム水溶液)を塗布又は散布することにより形成することができる。これにより、ゲル状の薄膜で形成される雨水保護膜20Bがコンクリート10の表面11を覆い、コンクリート10と雨水との接触を遮断することにより、硬化前のコンクリート10への雨水の流入が抑制される。
【0103】
ここで、参考例のコンクリート打設方法では、図10Bに示されるように、コンクリート10の上部にコンクリート12を打ち継ぐ(つまり、コンクリート10の打設を再開する)予定である。しかし、降雨が長時間(例えば、3時間以上)継続すると、時間の経過により雨水保護膜20B下のコンクリート10が硬化することがある。このため、雨がやんだ後にそのままコンクリート12の打設をすると(打ち継ぐと)、先に打設したコンクリート10と、後から打設する予定であるコンクリート12との間にコールドジョイントが発生してしまうことがある。
【0104】
このコールドジョイントは、構造物の強度、水密性、耐久性を低下させる原因となる場合がある。このため、先に打設したコンクリート10の表面11(打継面)に発生するレイタンスを取り除き、さらにチッピング等の作業を行うことで表面11のペーストやモルタル分を取り除き、粗骨材(砂利や砕石)を露出させ、コンクリート10の表面11を粗に処理する(すなわち、打ち継ぎ処理をする)作業が必要になる。しかし、このようなコンクリート10の表面11を粗に処理する作業(コンクリート10の打継処理)は、多大な労力が必要となる。
【0105】
そこで、本実施形態のコンクリート打設方法では、コンクリートの表面に塗布又は散布するアルギン酸塩を含む水溶液に凝結遅延成分をさらに含ませることで、長期の降雨があった後にコンクリートの打設を再開する場合において、コンクリートの打継処理を容易に行うことができる。
【0106】
<実施例>
図11は、第2実施形態のコンクリート打設方法のフロー図である。図12は、第2実施形態のコンクリート打設方法の説明図である。なお、図12Aは、雨水保護膜20Cが形成されたコンクリート10の説明図である。また、図12Bは、雨水保護膜20C及びコンクリート10の表面薄層部13を除去する様子の説明図である。また、図12Cは、雨水保護膜20C及びコンクリート10の表面薄層部13を除去した後のコンクリート10の説明図である。図13は、雨水保護膜20C及びコンクリート10の表面薄層部13を除去した後のコンクリート10の拡大説明図である。
【0107】
本実施形態におけるコンクリート打設ステップ(図11のS301)は、上述した第1実施形態におけるコンクリート打設方法の第1実施例と同様である。次に、コンクリートの表面にアルギン酸塩及び凝結遅延成分を含む水溶液を塗布又は散布する(図11のS302:塗布散布ステップ)。アルギン酸塩は、上述した第1実施形態におけるコンクリート打設方法と同様に、アルギン酸ナトリウム等のアルカリ金属塩であっても良いし、アンモニウム塩であっても良い。凝結遅延成分は、オキシカルボン酸であっても良いし、糖類であっても良く、コンクリート10の水和反応を遅延させる成分であれば良い。なお、以下の説明において、アルギン酸塩及び凝結遅延成分を含む水溶液を「混合水溶液」と呼ぶことがある。
【0108】
本実施形態のコンクリート打設方法においても、混合水溶液のうち、アルギン酸とコンクリート10中のカルシウムイオン(Ca2+)との反応により、図12Aに示されるように、コンクリート10の表面11に雨水保護膜20Cが形成される(図11のS303:雨水保護膜形成ステップ)。これにより、硬化前のコンクリート10への雨水の流入を抑制し、コンクリート10の品質の低下を抑制することができる。さらに、本実施形態のコンクリート打設方法においては、混合水溶液に含まれる凝結遅延成分が、コンクリート10の水和反応を遅延させる。これにより、コンクリート10の表面薄層部13においては、硬化が遅延する。
【0109】
次に、降雨が終了又は少雨となった場合、雨水保護膜20Cを除去し(図11のS304:保護膜除去ステップ)、さらにコンクリート10のペースト15の一部である表面薄層部13を除去する(図11のS305:打継処理ステップ)。上述したように、コンクリート10の表面薄層部13においては、混合水溶液に含まれる凝結遅延成分の作用により、硬化が遅延している。したがって、例えば、図12Bに示されるように、高圧洗浄機30による高圧水により、雨水保護膜20Cと硬化前の表面薄層部13とを一度に除去することができる。これにより、図13に示されるように、コンクリート10の表面11では、粗骨材14が露出し、良好な打ち継ぎ面を形成することができる。本実施形態のコンクリート打設方法においては、長期の降雨があった後にコンクリート10の打設を再開する場合において、コンクリート10の打継処理を容易に行うことができる。
【0110】
なお、前記高圧洗浄機30は、高圧水により一度に雨水保護膜20Cと表面薄層部13を除去することができる。つまり、保護膜除去ステップ(図11のS304)と打継処理ステップ(図11のS305)とを一つの装置(高圧洗浄機30)で一度に行うことができる。しかし、ブロアなどを使用することにより比較的に弱い圧力の流体でまず雨水保護膜20Cを除去し(図11のS304:保護膜除去ステップ)、次いで高圧水により表面薄層部13を除去することもできる(図11のS305:打継処理ステップ)。つまり、保護膜除去ステップ(図11のS304)と打継処理ステップ(図11のS305)とを別々の装置で別々に行うこともできる。前記別々に除去する方法により、アルカリ性が相対的に低い雨水保護膜20Cに由来する廃棄物とアルカリ性が相対的に高い表面薄層部13に由来する廃棄物を別々に処理することができる。保護膜除去ステップと打継処理ステップとを一度に行う場合、高圧水により雨水保護膜20Cが粗骨材14(図13参照)同士の隙間に入りこんで残ってしまうことがある。これに対し、打継処理ステップの前に(つまり、表面薄層部13を除去する前に)保護膜除去ステップを行うことにより、雨水保護膜20Cが粗骨材14同士の隙間に残ってしまうことを抑制することができる。
【0111】
次に、打継処理ステップの後に、コンクリートの打設を再開する(S305:コンクリート打設再開ステップ)。具体的には、図12Cに示されるように、打ち継ぎ面が形成されたコンクリート10の上部に、コンクリート12の打設をする(打ち継ぐ)。
【0112】
<混合水溶液における凝結遅延成分の濃度及び混合水溶液の塗布量に関する検討実験>
以下では、混合水溶液における凝結遅延成分の濃度及び混合水溶液の塗布量に関して、実験により検証する。
【0113】
図14は、凝結遅延成分をさらに含むアルギン酸ナトリウム水溶液の検討実験の結果を示す図である。
【0114】
今回の実験では、セメント種類に応じた2種類の試験体を用意した。すなわち、普通セメントを使用した試験体A(試験体No.1~No.13)と、高炉セメントを使用した試験体B(試験体No.14~No.28)とを用意した。また、試験体AのNo.1~No.10と、試験体BのNo.14~No.27とに対して、図14に示される配合の混合水溶液を上面に塗布し、降雨を模擬した水を作用させた(降雨試験を行った)。また、図14に示される混合水溶液のうち、凝結遅延剤の「R1」は、凝結遅延成分として糖類を含み、「R2」は、凝結遅延成分としてオキシカルボン酸を含む。また、凝結遅延剤の「R3」は、比較用として市販の凝結遅延剤を使用した。
【0115】
比較用として、試験体No.11及びNo.28に関しては、混合水溶液を塗布しなかった(すなわち、雨水保護膜を形成させず、凝結遅延成分による硬化の遅延を作用させなかった)。また、試験体No.12に関しては、アルギン酸ナトリウム水溶液のみ(すなわち、凝結遅延成分を含まない水溶液)を塗布した。また、試験体No.13に関しては、凝結遅延成分を含む水溶液のみ(すなわち、アルギン酸塩を含まない水溶液)を塗布した。なお、これらの比較用の試験体No.11~No.13、No.28のうち、試験体No.11~No.13に関しては、降雨を模擬した水を作用させた試験(降雨試験)を行い、試験体No.28に関しては、降雨を模擬した水を作用させた試験(降雨試験)を行わなかった。
【0116】
降雨試験による測定項目として、ゲル状の薄膜の状態(又は試験体表面の状態)、降雨によって流出したコンクリート(固形分)の量の測定、流出した水のpHの測定、薄膜の除去に伴うコンクリート表面の洗い出しの状況(すなわち、打継面の状態)の確認を行った。
【0117】
なお、不図示だが、本検討実験において、混合水溶液の粘度は、100mPa・s~650mPa・sであり、この範囲において混合水溶液の溶液安定性が良好であり、混合水溶液の粘度が240mPa・s~650mPa・sである場合に混合水溶液の溶液安定性が特に良好であった。これにより、混合水溶液をコンクリートの表面に塗布又は散布する際に、雨水保護膜をむらなく形成することができた。
【0118】
図14に示されるように、比較用の試験体No.11~No.13及びNo.28を除き、混合水溶液における凝結遅延成分の濃度の範囲は、1%~10%である。この範囲において、概ね洗い出しの状況は良好であった。つまり、良好な打ち継ぎ面を形成することができた。
【0119】
また、図14に示されるように、凝結遅延成分(固形分)の塗布量は、6g/m2~60g/m2であり、好ましくは6g/m2~30g/m2であり、さらに好ましくは9g/m2~30g/m2である。これにより、良好な打ち継ぎ面を形成することができた。
【0120】
図14に示されるように、凝結遅延成分に対するアルギン酸塩の比は、0.15~1.5である。但し、凝結遅延成分に対するアルギン酸塩の比が1.5の場合には、洗い出しの結果、やや粗骨材のサイズが小さかった。このため、凝結遅延成分に対するアルギン酸塩の比は、好ましくは0.15~0.75であり、さらに好ましくは0.2~0.5である。凝結遅延成分に対するアルギン酸塩を適切な比にすることにより、良好な薄膜を形成することができ、かつ良好な打ち継ぎ面を形成することができた。
【0121】
一方、降雨対策として効果が認められるアルギン酸ナトリウムの濃度は、1.0%~1.5%であり、降雨対策として十分な効果が認められるアルギン酸ナトリウム水溶液の塗布量は、200g/m2以上の範囲である。
【0122】
上述の結果を、アルギン酸ナトリウムの塗布量に換算すると、アルギン酸ナトリウムの塗布量は、1g/m2以上である。
【0123】
===その他===
前述の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更・改良され得ると共に、本発明には、その等価物が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0124】
10,12 コンクリート
11 表面
13 表面薄層部
14 粗骨材
15 ペースト
20,20B 雨水保護膜
20A シート
30 高圧洗浄機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14