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特開2024-80582加速度記録同期方法及び加速度記録同期プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080582
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】加速度記録同期方法及び加速度記録同期プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01V 1/36 20060101AFI20240606BHJP
   G01H 1/00 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
G01V1/36
G01H1/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120010
(22)【出願日】2023-07-24
(31)【優先権主張番号】P 2022193578
(32)【優先日】2022-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100120592
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 崇裕
(74)【代理人】
【識別番号】100184712
【弁理士】
【氏名又は名称】扇原 梢伸
(74)【代理人】
【識別番号】100192223
【弁理士】
【氏名又は名称】加久田 典子
(72)【発明者】
【氏名】小松原 知将
(72)【発明者】
【氏名】馮 徳民
(72)【発明者】
【氏名】中川 太郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 良一
【テーマコード(参考)】
2G064
2G105
【Fターム(参考)】
2G064AA05
2G064AB02
2G064BA02
2G064BD02
2G064DD02
2G105AA03
2G105BB01
2G105EE02
2G105GG02
2G105GG05
2G105MM01
2G105NN02
(57)【要約】
【課題】複数の加速度計による記録を適切に同期させる技術の提供。
【解決手段】CPU2は、2つの加速度計により地震が発生した時間帯に記録された絶対加速度をそれぞれ2階積分して各加速度計の絶対変位を算出し(S1)、絶対加速度が記録された時刻の差に応じたステップ数を変数とする相関関数を算出した上で(S2)、ステップ数0の付近で相関関数がピーク値をとるステップ数を、2つの加速度計における内部時刻のずれに対応する「ずれステップ」として特定し(S3)、ずれステップに絶対加速度の記録間隔を乗じて内部時刻のずれ幅を特定し(S4)、一方の加速度計による記録の時刻をずれ幅に応じて補正することで、他方の加速度計による記録に同期させる(S5)。絶対変位の相関関数においては0付近で相関が高くなる箇所が1つしかないため、ずれステップを一意に特定することができ、これに基づいて内部時刻のずれ幅を正確に特定することができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の建造物に配置された2つの加速度計により地震が発生した時間帯に記録された絶対加速度をそれぞれ2階積分し、各加速度計が配置された位置における絶対変位を算出する絶対変位算出工程と、
算出された前記絶対変位に関し、前記絶対加速度が前記2つの加速度計により記録された時刻の差に応じたステップ数を変数とする相関関数を算出する相関関数算出工程と、
前記相関関数がステップ数0に直近してピーク値をとるステップ数を特定し、当該ステップ数に記録時間間隔を乗じることにより、前記2つの加速度計における時刻のずれ幅を特定するずれ幅特定工程と
を含む加速度記録同期方法。
【請求項2】
請求項1に記載の加速度記録同期方法において、
特定された前記時刻のずれ幅に基づいて、前記2つの加速度計による絶対加速度の記録を同期させる記録同期工程をさらに含むことを特徴とする加速度記録同期方法。
【請求項3】
請求項2に記載の加速度記録同期方法において、
前記建造物の高さが所定の高さ以上である場合に、前記記録同期工程にて同期された加速度計による記録の時刻に対し、当該加速度計が設置されている高さを踏まえて地震の高さ方向の伝達時間分を調整する伝達時間調整工程をさらに含むことを特徴とする加速度記録同期方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の加速度記録同期方法において、
前記絶対変位算出工程では、
前記建造物における相互に近接する位置に配置された前記2つの加速度計について、前記絶対変位を算出することを特徴とする加速度記録同期方法。
【請求項5】
コンピュータに、
同一の建造物に配置された2つの加速度計により地震が発生した時間帯に記録された絶対加速度をそれぞれ2階積分し、各加速度計が配置された位置における絶対変位を算出する絶対変位算出手順と、
算出された前記絶対変位に関し、前記絶対加速度が前記2つの加速度計により記録された時刻の差に応じたステップ数を変数とする相関関数を算出する相関関数算出手順と、
前記相関関数がステップ数0に直近してピーク値をとるステップ数を特定し、当該ステップ数に記録時間間隔を乗じることにより、前記2つの加速度計における時刻のずれ幅を特定するずれ幅特定手順と
を実行させる加速度記録同期プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の加速度計によりなされた記録を同期する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、構造ヘルスモニタリングの一環として、建物に複数の加速度計を設置してそれらの記録を解析し、その結果から建物の健全性を評価することが一般的に実施されている。加速度計は自身が観測した加速度を内蔵された時計が示す時刻(以下、「内部時刻」と称する。)とともに記録するが、時間の経過とともに複数の加速度計の間で内部時刻のずれが生じるため、何らかの方法により内部時刻又は記録されたデータを同期する必要がある。有線型の加速度計の場合には、コンピュータ等の収録装置と各加速度計とを接続して収録装置から各加速度計の内部時刻を同期させることが容易であるが、無線型の加速度計の場合には、無線通信に特有の事情等を鑑みると、別の方法により同期を実現することが望ましい。
【0003】
ここで、建築構造物の互いに異なる位置に設置された複数の地震計により観測された地震記録データの立ち上がり部分波形を抽出し、その時間軸を相対的にずらしながら加震方向、加震直角方向、および鉛直方向のそれぞれにおいて振動波形データ間の相関を求め、その相関が最も強くなったときの時間軸のずれ量を求めることにより、地震記録データ間の時刻同期を取る方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-327873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した先行技術において実験で入力された地震動は、主要動に対応する水平方向成分の振動のみであり、初期微動に対応する鉛直方向成分の振動は入力されていない。すなわち、この先行技術において実験で記録された振動波形は、いわば初期微動がなく突然に主要動が起きた場合の波形であることから、立ち上がり部分の判定が比較的容易であり、結果として立ち上がり部分波形を抽出することができている。
【0006】
しかしながら、実際の地震においては、P波が到達して初期微動が起きた後にS波が到到達して主要動が起こるため、初期微動から主要動への立ち上がり部分(P波とS波との境界点)を記録された振動波形から抽出することが困難である。また、上記の先行技術において実際の地震発生時に立ち上がり部分を目視により判断するとしても、どこを立ち上がり部分と捉えるかにより求める相関の結果に影響を及ぼす虞がある。
【0007】
また、主要動の発生前(初期微動の継続中)には振動波形が細かくギザギザとした態様となって表れることから、上記の先行技術において時間軸を相対的にずらしながら振動波形の相関を求めても、短い時間内に相関のピークが複数発生するため、いずれのピークが時刻のずれ幅に対応しているのか(どのピークを採用すれば波形の記録時刻を正しく同期させることができるのか)を特定することが困難である。こうした背景から、時刻のずれ幅を一意に特定して記録を適切に同期させる手法が求められている。
【0008】
そこで、本発明は、複数の加速度計による記録を適切に同期させる技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の加速度記録同期方法を採用する。なお、以下の括弧書中の文言はあくまで例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0010】
すなわち、本発明の加速度記録同期方法においては、同一の建造物に配置された2つの加速度計により地震が発生した時間帯に記録された絶対加速度をそれぞれ2階積分し、各加速度計が配置された位置における絶対変位を算出し(絶対変位算出工程)、算出された絶対変位に関し、絶対加速度が2つの加速度計により記録された時刻の差に応じたステップ数を変数とする相関関数を算出し(相関関数算出工程)、相関関数がステップ数0に直近してピーク値をとるステップ数を特定し、当該ステップ数に記録時間間隔を乗じることにより、2つの加速度計における時刻のずれ幅を特定する(ずれ幅特定工程)。その上で、特定された時刻のずれ幅に基づいて、2つの加速度計による絶対加速度の記録を同期させる(記録同期工程)。
【0011】
2つの加速度計により記録された絶対加速度の相関関数を算出する場合には、ステップ数0の付近で相関関数がピーク値をとる(相関が高くなる)箇所が複数存在するため、いずれのピークにおけるステップ数が2つの加速度計における内部時刻のずれに対応しているのかが判然とせず、相関関数から内部時刻のずれに対応したステップ数を一意に特定することが困難である。
【0012】
これに対し、この態様の加速度記録同期方法においては、2つの加速度計により記録された絶対加速度を2階積分して絶対変位を算出し、絶対変位の相関関数を算出するが、絶対変位の相関関数においてはステップ数0の付近で相関が高くなる箇所が1つしか存在しない。したがって、この態様の加速度記録同期方法によれば、絶対変位の相関関数から内部時刻のずれに対応したステップ数を一意に特定することができるため、これに基づいて内部時刻のずれ幅を正確に算出することができ、2つの加速度計による絶対加速度の記録を適切に同期させることが可能となる。
【0013】
より好ましくは、上述した態様の加速度記録同期方法において、建造物の高さが所定の高さ以上である場合に、記録同期工程にて同期された加速度計による記録の時刻に対し、当該加速度計が設置されている高さを踏まえて地震の高さ方向の伝達時間分を調整する(伝達時間調整工程)。
【0014】
絶対変位の相関関数を用いて特定された加速度計の内部時刻のずれ幅に基づいて同期がなされた記録においては、絶対変位が最大になる時刻が概ね近似することとなる。しかしながら、中高層の建物においては、地震が上の階に伝わるまでに相応の時間がかかることから、加速度計が設置された位置の高さにより絶対変位が最大になる時刻が異なるため、上記のように同期がなされた記録に対して、さらに地震の伝わる時間を考慮する必要がある。
【0015】
この点に関し、この態様の加速度記録同期方法によれば、上記の同期がなされた記録の時刻に対し、その加速度計が設置されている高さを踏まえて地震の高さ方向の伝達時間分を調整するため、上記の同期により得られた記録の時刻を、その記録がなされた際の正確な時刻に精度よく近付けることができる。
【0016】
さらに好ましくは、上述したいずれかの態様の加速度記録同期方法において、絶対変位算出工程では、建造物における相互に近接する位置に配置された2つの加速度計について、絶対変位を算出する。
【0017】
加速度計が配置された位置が近ければ地震波がほぼ同時に到達することから、この態様の加速度記録同期方法によれば、地震波の到達タイミングの時間差を気にすることなく相関関数の算出ひいては記録の同期を効率よく行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、複数の加速度計による記録を適切に同期させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】建物に設置された複数の加速度計による記録の収集態様の一例を示す図である。
図2】加速度記録同期処理の手順例を示すフローチャートである。
図3】2つの加速度計による記録に基づいて算出された絶対変位の相関関数及び絶対加速度の相関関数を示す図である。
図4】2つの加速度計による記録を同期させる具体例を示す図である。
図5】地震の高さ方向の伝達時間分を調整する具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は加速度記録同期方法及び加速度記録同期プログラムの好適な一例であり、本発明の実施の形態はこの例示に限定されない。
【0021】
図1は、建物に設置された複数の加速度計から記録を収集する態様の一例を示す図である。図示の例においては、4階建ての建物BLにおいて、加速度計が1階おきに配置され、1階の対角線上の隅部に2つ、3階の中央部に1つ、屋上の中央部に1つの合計4個の加速度計AM1~4が配置されている。個々の加速度計は無線による通信が可能であり、それぞれが記録したデータを直接、又はネットワークNWを介して、記録管理装置1に送信する。記録管理装置1は、各加速度計から収集した記録について、後述する加速度記録同期処理を実行することにより、複数の加速度計による記録を同期させる。
【0022】
なお、各加速度計による記録は、それぞれの内蔵メモリやSDカード等の記録媒体に保持することができる。記録管理装置1が何らかの障害によりデータを受信できない場合には、各加速度計は、障害の復旧後に記録管理装置1にデータを再送することができる。
【0023】
記録管理装置1は、CPUやRAM、HDD、各種I/F等を備えた汎用コンピュータでもよいし、加速度計による記録の同期専用に設計された機器であってもよい。いずれの場合においても、その内部に加速度記録同期処理のプログラムが実装されることにより、内蔵のCPU2が加速度記録同期処理を実行可能となる。なお、記録管理装置1が記録の収集から同期までの全ての処理を行う構成に代えて、記録を収集する装置と記録を同期する装置とに処理を分散させた構成としてもよいし、記録の同期に関わる処理をさらに複数の装置に分散させた構成としてもよい。
【0024】
図2は、記録管理装置1においてCPU2が実行する加速度記録同期処理の手順例を示すフローチャートである。以下、手順例に沿って説明する。
【0025】
〔絶対変位算出工程〕
ステップS1:CPU2は先ず、建物BLに配置された複数の加速度計のうち、相互に近接する位置に配置された2つの加速度計により地震が発生した時間帯に記録された絶対加速度をそれぞれ2階積分し、個々の加速度計の絶対変位(加速度計が配置された位置における絶対変位)を算出する。
【0026】
例えば、2つの加速度計として、対象の一方を屋上に配置された加速度計AM4とする場合には、他方を3階に配置された加速度計AM3とし、また、対象の一方を2階に配置された加速度計AM2とする場合には、他方を1階に配置された加速度計AM1として、これら2つの加速度計による記録に基づいて絶対変位を算出する。近接した加速度計には地震波がほぼ同時に到達するため、そのような2つの加速度計を選択することにより、地震波の到達タイミングの時間差を気にすることなく後続の処理(相関関数の算出ひいては記録の同期)を効率よく行うことが可能となる。
【0027】
〔相関関数算出工程〕
ステップS2:CPU2は次に、ステップS1にて算出した2つの加速度計の絶対変位について、2つの加速度計により絶対加速度が記録された時刻の差に応じたステップ数を変数とする相関関数を算出する。言い換えると、この相関関数は、一方の加速度計の記録時刻を進める方向又は戻す方向にずらした場合に、一方の加速度計の絶対変位と他方の加速度計の絶対変位との間の相関がどのように変化するのかを示すものである。相関関数を算出することにより、2つの加速度計の絶対変位の相関が高くなるステップ数の特定が可能となる。
【0028】
〔ずれ幅特定工程〕
ステップS3,S4:続いてCPU2は、ステップS2にて算出した相関関数がステップ0の付近においてピーク値をとるステップ数を、2つの加速度計における内部時刻のずれに対応する「ずれステップ」として特定し(ステップS3)、ずれステップに絶対加速度の記録間隔を乗じて、一方の加速度計における他方の加速度計に対する内部時刻のずれ幅を特定する(ステップS4)。
【0029】
例えば、加速度計AM1~4においては、観測値が5ms(=0.005秒)毎に記録される。このとき、例えば、ずれステップが「15」であれば、内部時刻のずれ幅は「0.075秒(=15×0.005)」と特定され、ずれステップが「-40」であれば、内部時刻のずれ幅は「-0.2秒(=-40×0.005)」と特定されることとなる。
【0030】
なお、ステップ0の付近においてずれステップを特定する理由は、複数の加速度計における内部時刻が大きくずれることはなく、ずれるとしても小さなずれ(概ね0付近のステップ数に応じたずれ幅)に収まることが運用上分かっていることから、0付近において相関関数がピーク値となるステップ数を特定すれば足りるためである。
【0031】
〔記録同期工程〕
ステップS5:CPU2は、ステップS4にて特定された時刻のずれ幅に応じて一方の加速度計により記録された時刻を補正する(記録の時間軸に対して波形全体を前方(左方向、過去側)又は後方(右方向、未来側)にスライドさせる)ことで、一方の加速度計による絶対加速度の記録を他方の加速度計による絶対加速度の記録に同期させる。
【0032】
例えば、ステップS4にて一方の加速度計における内部時刻のずれ幅が「0.075秒」と特定された場合には、その加速度計による絶対加速度の記録時刻を0.075秒進める補正がなされ(波形全体が後方に0.075秒分スライドされ)、一方の加速度計における内部時刻のずれ幅が「-0.2秒」と特定された場合には、その加速度計による絶対加速度の記録時刻を0.2秒戻す補正がなされる(波形全体が前方に0.2秒分スライドされる)こととなる。
【0033】
ステップS6:CPU2はさらに、建物BLの高さが所定の閾値HTh以上であるか否かを確認する。所定の閾値HThとは、中高層の建物であるか否かの判定基準として予め定められたものであり、例えば、20mとしてもよいし、30mとしてもよい。確認の結果、建物BLの高さが所定の閾値HTh以上である場合、すなわち建物BLが中高層の建物である場合には(ステップS6:Yes)、CPU2は、ステップS7を実行する。これに対し、建物BLの高さが所定の閾値HTh未満である場合、すなわち建物BLが中高層の建物でない場合には(ステップS6:No)、CPU2は加速度記録同期処理を終了する。
【0034】
〔伝達時間調整工程〕
ステップS7:CPU2は、一方の加速度計により記録された時刻に対し、地震の高さ方向の伝達時間分を調整する。
中高層の建物においては、地震が上の階に伝わるまでに時間がかかることから、加速度計の設置階(より正確には、加速度計が設置された位置の高さ)により絶対変位が最大になる時刻が異なる。そのため、上述した手順により記録を同期させただけでは地震の伝わる時間が考慮されないため、同期の精度に影響する虞がある。
【0035】
そこで、本実施形態においては、建物BLが中高層の建物である場合には、地震の伝達時間分を調整する補正をさらに実行する。CPU2は先ず、上述した一方の加速度計について、地震の伝達時間を次の式により算出する。
【0036】
【数1】
【0037】
上記の式において、「t」は地震の伝達時間(単位:s)であり、「H」は一方の加速度計が設置されている位置の高さ(単位:m)であり、「V」は地震の高さ方向の伝達速度(単位:m/s)である(伝搬速度、又は、伝播速度と言い換えることもできる)。「V」は、建物BLの種別や規模に基づいて予め定められた値である。
【0038】
その上で、CPU2は、一方の加速度計により記録された時刻をt秒遅らせる補正、すなわち、記録された時刻にt秒加算する補正を行う(波形全体を後方(右方向、未来側)にt秒分スライドさせる)。なお、算出された時間tが加速度計の記録間隔より小さい場合には、CPU2は補正を行わない。
【0039】
以上の手順に沿って、加速度記録同期処理を1回実行することにより、建物BLに配置された複数の加速度計のうち、選択された2つの加速度計による絶対加速度の記録を適切に同期させることができる。また、対象とする2つの加速度計を切り替えながら加速度記録同期処理を次々と実行することにより、最終的には建物BLに配置された全ての加速度計による絶対加速度の記録を適切に同期させることができる。
【0040】
〔絶対変位の相関関数の一例〕
図3は、地震が発生した時間帯における2つの加速度計による記録に基づいて算出された絶対変位の相関関数、及び、比較のために算出された絶対加速度の相関関数の具体例を示す図である。このうち(A)は、建物を模した試験体に配置された2つの加速度計により第1の条件の地震が観測された時のものであり、(B)は、同じ試験体に配置された2つの加速度計により第2の条件の地震が観測された時のものである。各グラフにおける実線は絶対変位の相関関数を示しており、一点鎖線は絶対加速度の相関関数を示している。
【0041】
これらのグラフから明らかなように、絶対加速度の相関関数においては、ステップ数0の付近で相関が高くなる箇所が複数存在するため(各グラフ中の丸で囲まれた箇所)、いずれのピークにおけるステップ数をずれステップとして特定すべきなのかが判然としない。また、相関関数を算出する際に対象とする記録の範囲によっては、ずれステップの特定が困難な場合もある。
【0042】
これに対し、絶対変位の相関関数においては、ステップ数0の付近で相関が高くなる箇所が1つしかなく、相関関数の算出に際して地震の発生時間帯の全時刻での記録を対象としても同じ結果が得られる。したがって、絶対変位の相関関数を用いることにより、ステップ数0に直近するピークからずれステップを一意に特定することができ、これに基づいて内部時刻のずれ幅を正確に算出することができる。
【0043】
具体的には、(A)の事例においては、ステップ数「-43」において絶対変位の相関関数がピーク値をとっていることから、ずれステップは「-43」と特定され、一方の加速度計における他方の加速度計に対する内部時刻のずれ幅は「-0.215秒(=-43×0.005)」と特定される。
【0044】
〔絶対加速度の記録の同期の一例〕
図4は、2つの加速度計による絶対加速度の記録を同期させる具体例として、図3中(A)に表された相関関数の算出元となった2つの加速度計(1階床加速度計、3階床加速度計)による絶対加速度の記録を同期させる例を示している。発明の理解を容易とするために、図4においては、各加速度計において地震が発生した時間帯になされた記録のうち、最初の5秒間の記録を示している。
【0045】
図4中(A)において、上のグラフは、1階床加速度計による絶対加速度の記録を示しており、下のグラフは、3階床加速度計による絶対加速度の記録を示している。これらの記録は、同期を行う前のもの、すなわち各加速度計から収集されたままの状態のものである。1階床加速度計による記録においては、時刻1s台の後半から絶対加速度の変動が生じ始めている一方、3階床加速度計による記録においては、時刻2sの直前付近で絶対加速度の変動が生じ始めていることから、2つの加速度計による記録の時刻にずれが生じていることは明らかである。
【0046】
これら2つの加速度計については、絶対変位の相関関数(図3中(A))から、ずれステップが「-43」であり、3階床加速度計(一方の加速度計)の1階床加速度計(他方の加速度計)に対する内部時刻のずれ幅が「-0.215秒」であると特定されている。そこで、3階加速度計による記録の時刻を0.215秒戻す補正を行う(記録の時間軸に対して波形全体を前方に0.215秒分スライドする)。
【0047】
図4中(B)は、3階加速度計による記録の時刻を0.215秒戻す補正を行った結果を1階加速度計による記録に重ねて示している。3階床加速度計による記録における絶対加速度の変動が生じ始めるタイミングは、補正前には、1階床加速度計による記録と明らかにずれていたが、補正後には、1階床加速度計による記録と概ね一致している。このことから、上述した補正を行うことにより、2つの加速度計による絶対加速度の記録を適切に同期させることができていることが分かる。
【0048】
このように、加速度記録同期処理(図2)のステップS1~S5に示された手順に沿って、2つの加速度計の絶対変位の相関関数を算出し、この相関関数を用いて2つの加速度計における内部時刻のずれ幅を特定し、ずれ幅に応じて一方の加速度計による記録の時刻を補正することにより、2つ加速度計による記録を適切に同期させることができる。
【0049】
〔地震の伝達時間分の調整の一例〕
図5は、地震の高さ方向の伝達時間分を調整する具体例として、中高層の建物の20階に設置された加速度計による記録時刻に対して伝達時間分を調整する例を示している。
【0050】
発明の理解を容易とするために、図5においては、或る地震が発生した時間帯に1階及び20階に設置された各加速度計によりなされた記録に基づく絶対変位を対比させて示している。各グラフ中の黒色の線は、20階床加速度計による記録に対応しており、灰色の線は、1階床加速度計による記録に対応している。
【0051】
このうち、(A)は、伝達時間分の調整を行う直前の状態を示しており、(B)は、伝達時間分の調整を行った結果を示している。また、参考情報として、(C)は、内部時刻がずれていない加速度計により正確な時刻とともに記録された、いわば正しい記録を示している。
【0052】
図5中(A):伝達時間分の調整を行う直前の状態、すなわち、加速度記録同期処理(図2)のステップS1~S5に示された手順に沿って加速度計による記録を同期させた結果を絶対変位で示している。上述したように、ステップS1~S5では、絶対変位の相関関数においてステップ数0付近で相関が高くなる箇所のステップ数をずれステップとして特定し、これに基づいて記録の同期がなされるため、この同期の直後においては、図示されるように、1階床加速度計による波形と20階床加速度計による波形とでピークのタイミングが概ね近似している。
【0053】
しかしながら、地震波は1階よりも20階の方が遅く到達するため、実際には、図5中(C)に示されるように、20階床加速度計による波形におけるピークは、1階床加速度計による波形におけるピークより少し遅れたタイミングで現れる。そこで、地震の高さ方向の伝達時間分を調整するために、上述した式により地震が20階に伝わるのに要する時間tを算出し、20階床加速度計により記録された時刻をt秒遅らせる補正を行う。
【0054】
説明の便宜のため、図5中(A)に示された補正前の記録において20階床加速度計による波形で最初のピークが現れた時刻をtとしておく。
【0055】
図5中(B):上述した図5中(A)に示された20階床加速度計による記録の時刻に対して、地震の伝達時間分を調整する補正を行った結果を示している。図5に示された例において、20階床加速度計が設置されている位置の高さは「60.11m」であり、予め定められた地震の高さ方向の伝達速度は「370m/s」であることから、地震の伝達時間tは「0.162秒」と算出される。したがって、20階床加速度計により記録された時刻を0.162秒遅らせる補正がなされ、20階床加速度計による記録を示す波形全体が時間軸に対して後方(右方向、未来側)に0.162秒分スライドされる。
【0056】
図5中(B)に示された補正後の記録において20階床加速度計による波形で最初のピークが現れた時刻をtとすると、時刻t(補正後における最初のピークの時刻)から時刻t(補正前における最初のピークの時刻)を差し引いた時間が、スライド幅のt秒に相当する。
【0057】
20階床加速度計による記録について、図5中(B)に示された地震の伝達時間分を調整した結果と、図5中(C)に示された正しい記録とを、ピークのタイミングに着目しながら比較してみると、目視しただけでは違いを識別することが困難な程に、両者は概ね一致している。このことから、上述した地震の高さ方向の伝達時間分の調整を行うことにより、加速度計による記録の時刻を正しい記録の時刻、すなわち記録がなされた際の正確な時刻に近付けて概ね一致させることができていることが分かる。
【0058】
このように、中高層の建物の場合に、加速度記録同期処理(図2)のステップS1~S5に示された手順に沿って同期がなされた記録に対し、さらに、ステップS7において地震の高さ方向の伝達時間分を調整する補正を行うことにより、一方の加速度計(図示の例においては20階床加速度計)による記録の時刻を、その記録がなされた際の正確な時刻に精度よく近付けることができる。
【0059】
上述した実施形態の加速度記録同期方法によれば、以下のような効果が得られる。
(1)2つの加速度計の絶対変位の相関関数を算出し、ステップ数0の付近で相関関数がピーク値をとるステップ数をずれステップとして特定するが、絶対変位の相関関数においてはステップ数0の付近でピーク値をとる(相関が最大となる)箇所が1つしかないため、ずれステップを一意に特定することができ、結果として内部時刻のずれ幅を正確に特定することが可能となる。
【0060】
(2)2つの加速度計の絶対変位の相関関数に基づいて2つの加速度計における内部時刻のずれ幅が正確に特定されるため、このずれ幅に応じて一方の加速度計による絶対加速度の記録時刻を補正することで、一方の加速度計による絶対加速度の記録を他方の加速度計による絶対加速度の記録に対し適切に同期させることができる。
【0061】
(3)建物において近接する位置に配置された2つの加速度計を対象として記録を同期させているが、加速度計が配置された位置が近ければ地震波がほぼ同時に到達するため、このような2つの加速度計を対象とすることで、地震波の到達タイミングの時間差を気にすることなく相関関数の算出ひいては記録の同期を効率よく行うことができる。
【0062】
(4)中高層の建物の場合には、各加速度計に対し、絶対変位の相関関数を用いて行う第1の補正に加えて、地震の高さ方向の伝達時間分を調整する第2の補正を行うため、第1の補正により得られた各加速度計による記録の時刻を、それらの記録がなされた際の正確な時刻に精度よく近付けることができる。
【0063】
本発明は、上述した実施形態に制約されることなく、種々に変形して実施することができる。
【0064】
上述した実施形態においては、加速度記録同期処理がプログラムとして実装されており、記録管理装置1のCPU2がプログラムに沿って加速度記録同期処理を自動で実行するが、これに代えて、プログラムを用いることなく加速度記録同期処理の各手順に示された方法を人手を介して手動で実行してもよい。
【0065】
その他、実施形態において図示とともに挙げたものはいずれも、飽くまで好ましい一例であり、本発明の実施に際して適宜に変形が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0066】
1 記録管理装置
2 CPU
図1
図2
図3
図4
図5