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特開2024-80583プレス装置の品質判定方法、プレス装置の品質判定システム及びプレス装置の品質判定プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080583
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】プレス装置の品質判定方法、プレス装置の品質判定システム及びプレス装置の品質判定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/20 20200101AFI20240606BHJP
   B21D 28/00 20060101ALI20240606BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20240606BHJP
   B21D 22/28 20060101ALN20240606BHJP
   G06F 113/22 20200101ALN20240606BHJP
【FI】
G06F30/20
B21D28/00 A
G06F30/10
B21D22/28 E
G06F113:22
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023122751
(22)【出願日】2023-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2022193580
(32)【優先日】2022-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】柴田 康徳
(72)【発明者】
【氏名】坂倉 徹太
【テーマコード(参考)】
4E048
4E137
5B146
【Fターム(参考)】
4E048AA03
4E137AA23
4E137CA26
4E137CB01
4E137EA03
4E137EA06
4E137HA05
5B146AA06
5B146DJ11
(57)【要約】
【課題】スクラップ落下のシミュレーションを用いたプレス装置の品質判定において、スクラップの落下不良の予測精度を向上することが可能なプレス装置の品質判定方法、品質判定システム及び品質判定プログラムを提供する。
【解決手段】プレス装置50のプレス金型54と、スクラップ72と、該スクラップを前記プレス装置の外部へ案内するスクラップシュート56とを三次元モデル化し、前記スクラップが外部へ排出される動作をシミュレートするスクラップ落下のシミュレーションを用いたプレス装置の品質判定方法であって、ワーク70から発生した前記スクラップが前記スクラップシュートへ落下する落下初期時に、前記スクラップに対して、重力と、所定の大きさの範囲内でランダムな大きさの力F1と、を作用させて、該スクラップの落下開始から完了までの落下姿勢の変化量Uを算出する変化量算出工程を含むことを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス装置のプレス金型と、該プレス金型で加工されるワークから発生したスクラップと、該スクラップを前記プレス装置の外部へ案内するスクラップシュートとを三次元モデル化し、前記スクラップが前記スクラップシュートへ落下して外部へ排出される動作をシミュレートするスクラップ落下のシミュレーションを用いたプレス装置の品質判定方法であって、
前記ワークから発生した前記スクラップが前記スクラップシュートへ落下する落下初期時に、前記スクラップに対して、重力と、所定の大きさの範囲内でランダムな大きさの力とを作用させて、該スクラップの落下開始から完了までの落下姿勢の変化量を算出する変化量算出工程を含むことを特徴とするプレス装置の品質判定方法。
【請求項2】
前記変化量算出工程を所定回数繰り返して、前記所定回数における前記落下姿勢の変化量のばらつき度合いを算出する工程と、
前記ばらつき度合いが所定の閾値以下の場合に、前記プレス装置の設計品質が良好であると判定する工程と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載のプレス装置の品質判定方法。
【請求項3】
前記スクラップの前記落下姿勢の変化量は、該スクラップの所定点から所定方向に伸びる所定の大きさのベクトルの内積を用いて求められることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレス装置の品質判定方法。
【請求項4】
前記シミュレーションには、前記プレス金型が下型と上型とを有する情報と、前記下型に対する前記上型の下降動作によって前記スクラップが発生する動作情報と、が含まれており、
前記変化量算出工程の前に、前記上型が下降して前記スクラップが発生するまでの間、該スクラップに対して、重力と、該重力と等しい大きさであって重力方向と反対方向の力と、を作用させて、該スクラップの静止状態を維持する工程を含み、
前記変化量算出工程では、前記上型の動作が考慮されることを特徴とする請求項1に記載のプレス装置の品質判定方法。
【請求項5】
プレス装置のプレス金型と、該プレス金型で加工されるワークから発生したスクラップと、該スクラップを前記プレス装置の外部へ案内するスクラップシュートとを三次元モデル化し、前記スクラップが前記スクラップシュートへ落下して外部へ排出される動作をシミュレートする演算処理装置を備えたプレス装置の品質判定システムにおいて、
前記演算処理装置は、
前記ワークから発生した前記スクラップが前記スクラップシュートへ落下する落下初期時に、前記スクラップに対して、重力と、所定の大きさの範囲内でランダムな大きさの力とを作用させる力付与部と、
該スクラップの落下開始から完了までの落下姿勢の変化量を算出する姿勢変化量算出部と、
を備えたことを特徴とするプレス装置の品質判定システム。
【請求項6】
前記演算処理装置には、前記プレス金型が下型と上型とを有する情報と、前記下型に対する前記上型の下降動作によって前記スクラップが発生する動作情報と、が格納されており、
前記力付与部は、前記上型が下降して前記スクラップが発生するまでの間、該スクラップに対して、重力と、該重力と等しい大きさであって重力方向と反対方向の力と、を作用させ、
前記落下姿勢の変化量の算出では、前記上型の動作が考慮されることを特徴とする請求項5に記載のプレス装置の品質判定システム。
【請求項7】
プレス装置のプレス金型と、該プレス金型で加工されるワークから発生したスクラップと、該スクラップを前記プレス装置の外部へ案内するスクラップシュートとを三次元モデル化し、前記スクラップが前記スクラップシュートへ落下して外部へ排出される動作をシミュレートするスクラップ落下のシミュレーションをコンピュータに実行させるプレス装置の品質判定プログラムにおいて、
前記ワークから発生した前記スクラップが前記スクラップシュートへ落下する落下初期時に、前記スクラップに対して、重力と、所定の大きさの範囲内でランダムな大きさの力とを作用させ、該スクラップの落下開始から完了までの落下姿勢の変化量を算出する変化量算出ステップを含むことを特徴とするプレス装置の品質判定プログラム。
【請求項8】
前記シミュレーションには、前記プレス金型が下型と上型とを有する情報と、前記下型に対する前記上型の下降動作によって前記スクラップが発生する動作情報と、が含まれており、
前記変化量算出ステップの前に、前記上型が下降して前記スクラップが発生するまでの間、該スクラップに対して、重力と、該重力と等しい大きさであって重力方向と反対方向の力と、を作用させて、該スクラップの静止状態を維持するステップを含み、
前記変化量算出ステップでは、前記上型の動作が考慮されることを特徴とする請求項7に記載のプレス装置の品質判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス装置におけるスクラップ落下のシミュレーションを用いたプレス装置の品質判定方法、プレス装置の品質判定システム及びプレス装置の品質判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
プレス製品の製造過程では、プレス装置で板材であるワークを絞り形成した後、ワークのスクラップ部分を切断して廃棄するトリム工程を行う。
【0003】
トリム工程では、ワークから切断されたスクラップをプレス装置に設けられたスクラップシュートに落下させる。この時、スクラップが想定不可能な動作によりプレス装置内に残留してしまうと、その後のプレス製品の加工で不良品が発生する要因や、プレス金型が破損する要因となる。
【0004】
このような問題を解決するために、プレス装置を設計する際に、スクラップがスクラップシュートへ落下する動作をシミュレートする技術が開発されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、コンピュータ内で、プレス装置と、該プレス装置でプレス加工されたワークから生じるスクラップとを仮想的に作成し、このスクラップがスクラップシュートへ落下して外部へ排出される動作を仮想的に再現するシミュレーション方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-146544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のシミュレーション方法では、落下時にスクラップに加わる力を変えながら、落下動作のシミュレーションを多数回繰り返し、スクラップがスクラップシュートを経て外部へ排出された確率を算出して、この確率を基にプレス装置の品質判定を行っている。具体的には、スクラップがプレス装置の外部へ排出された確率が高い場合には、プレス装置の設計品質が良好であると判定している。
【0008】
しかしながら、プレス装置では、スクラップの落下不良が一度でも生じると、型の破損に繋がることがあるため、このような事態を回避できる他の評価基準が求められていた。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、プレス装置におけるスクラップ落下のシミュレーションを用いたプレス装置の品質判定において、スクラップの落下不良の予測精度を向上することが可能なプレス装置の品質判定方法、プレス装置の品質判定システム及びプレス装置の品質判定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態は、プレス装置のプレス金型と、該プレス金型で加工されるワークから発生したスクラップと、該スクラップを前記プレス装置の外部へ案内するスクラップシュートとを三次元モデル化し、前記スクラップが前記スクラップシュートへ落下して外部へ排出される動作をシミュレートするスクラップ落下のシミュレーションを用いたプレス装置の品質判定方法であって、前記ワークから発生した前記スクラップが前記スクラップシュートへ落下する落下初期時に、前記スクラップに対して、重力と、所定の大きさの範囲内でランダムな大きさの力とを作用させて、該スクラップの落下開始から完了までの落下姿勢の変化量を算出する変化量算出工程を含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一実施形態は、プレス装置のプレス金型と、該プレス金型で加工されるワークから発生したスクラップと、該スクラップを前記プレス装置の外部へ案内するスクラップシュートとを三次元モデル化し、前記スクラップが前記スクラップシュートへ落下して外部へ排出される動作をシミュレートする演算処理装置を備えたプレス装置の品質判定システムにおいて、前記演算処理装置は、前記ワークから発生した前記スクラップが前記スクラップシュートへ落下する落下初期時に、前記スクラップに対して、重力と、所定の大きさの範囲内でランダムな大きさの力とを作用させる力付与部と、該スクラップの落下開始から完了までの落下姿勢の変化量を算出する姿勢変化量算出部と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一実施形態は、プレス装置のプレス金型と、該プレス金型で加工されるワークから発生したスクラップと、該スクラップを前記プレス装置の外部へ案内するスクラップシュートとを三次元モデル化し、前記スクラップが前記スクラップシュートへ落下して外部へ排出される動作をシミュレートするスクラップ落下のシミュレーションをコンピュータに実行させるプレス装置の品質判定プログラムにおいて、前記ワークから発生した前記スクラップが前記スクラップシュートへ落下する落下初期時に、前記スクラップに対して、重力と、所定の大きさの範囲内でランダムな大きさの力とを作用させ、該スクラップの落下開始から完了までの落下姿勢の変化量を算出する変化量算出ステップを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るプレス装置の品質判定方法、プレス装置の品質判定システム及びプレス装置の品質判定プログラムによれば、プレス装置におけるスクラップ落下のシミュレーションを用いたプレス装置の品質判定において、スクラップの落下不良の予測精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るプレス装置の品質判定システムを示すブロック図である。
図2】プレス装置を示す概略図である。
図3図2のA-A線に沿う断面図である。
図4】スクラップ落下のシミュレーション方法の手順を示すフローチャートである。
図5】スクラップに作用させるランダム力を説明する図である。
図6A】プレス装置の品質判定方法の手順を示すフローチャートである。
図6B】プレス装置の品質判定方法の手順を示すフローチャートである。
図7A】初期のスクラップの向きを説明する図である。
図7B】初期のスクラップに対して重力及びランダム力を作用させた後のスクラップの向きを説明する図である。
図7C図7Bの次のシーンのスクラップの向きを説明する図である。
図7D図7Cの次のシーンのスクラップの向きを説明する図である。
図8】プレス装置の一例を示す斜視図である。
図9A】スクラップの落下動作を説明する図である。
図9B】スクラップの落下動作を説明する図である。
図9C】スクラップの落下動作を説明する図である。
図9D】スクラップの落下動作を説明する図である。
図9E】スクラップの落下動作を説明する図である。
図9F】スクラップの落下動作を説明する図である。
図10A】上型の動作が考慮されていない場合にシミュレーションで生じるスクラップの落下動作の一例を説明する図である。
図10B】上型の動作が考慮されていない場合にシミュレーションで生じるスクラップの落下動作の一例を説明する図である。
図10C】上型の動作が考慮されていない場合にシミュレーションで生じるスクラップの落下動作の一例を説明する図である。
図10D】上型の動作が考慮されていない場合にシミュレーションで生じるスクラップの落下動作の一例を説明する図である。
図11A】プレス装置の品質判定方法の手順を示すフローチャートである。
図11B】プレス装置の品質判定方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1の実施形態>
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本実施形態のプレス装置の品質判定システム10を示すブロック図である。図2は、品質判定システム10によって三次元モデル化されるプレス装置50を示す概略図であり、図3は、図2のA-A線に沿うスクラップシュート56の断面図である。本実施形態の品質判定システム10は、プレス装置50のプレス金型54と、プレス金型54で加工されるワーク70から発生したスクラップ72と、スクラップ72をプレス装置50の外部へ案内するスクラップシュート56とを三次元モデル化し、スクラップ72がスクラップシュート56へ落下して外部へ排出される動作をシミュレートし、このシミュレーション結果に基づいて、プレス装置50の品質判定を行う。
【0016】
品質判定の対象となるプレス装置50は、板材であるワーク70をプレス加工するとともに、ワーク70のスクラップ部分を切断するトリミングを実施する。図2に示すように、プレス装置50は、プレス金型54と、ワーク70から切断されたスクラップ72をプレス装置50の外部へ案内するスクラップシュート56とを備える。
【0017】
プレス金型54は、ワーク70に対してプレス加工及びトリミング加工を実施する部位であり、設置現場に固定される下型66と、下型66に対して上下動自在な上型61とを備える。下型66は、下型本体67上に支持される下切刃68を備える。上型61は、下型66上に載置されたワーク70を抑えるパッド62と、カムスライダ64と、上切刃65とを備えている。カムスライダ64は、上型61の下降動作によって下型本体67に設けられたカムドライバ69に当接してワーク70側へ前進移動し、上型61の上昇動作によって後退移動する。上切刃65は、下切刃68と対向するように、カムスライダ64に設けられている。
【0018】
ワーク70は、プレス金型54の上切刃65と下切刃68とによって切断され、切断されたワーク70の一部は、スクラップ72としてプレス装置50のスクラップシュート56へ落下する。
【0019】
スクラップシュート56は、プレス金型54の下切刃68の下方側に配置され、上下方向に対して傾斜して延びている。図示例では、スクラップシュート56と下型本体67とが一体に形成されている。図2に示すように、スクラップシュート56は、上下方向に延びる両側壁56a、56bと、両側壁56a、56bの下端部を繋ぐ底壁56cと、を有し、上方が開口している。底壁56cの上面は平滑に形成されており、この上面に沿ってスクラップ72が傾斜方向の下方側へ滑走し、プレス装置50の外部へ排出される。
【0020】
本実施形態の品質判定システム10は、プレス装置50の設定データに基づいてスクラップ72が落下して排出される様子をシミュレートし、スクラップ72の落下姿勢の変化量に基づいてプレス装置50の設計品質の良否を判定する。シミュレーションを用いた品質判定を行うことで、プレス装置50の設計段階において、スクラップ72がプレス装置50内に残留してしまうという不具合を解消することが可能となる。以下、本実施形態の品質判定システム10の各構成について説明する。
【0021】
品質判定システム10は、パーソナルコンピュータ等の単一のコンピュータ、或いは、ネットワークを介して相互に接続される複数のコンピュータにより構成することができる。図1に示すように、品質判定システム10は、情報入力手段である入力装置12と、記憶手段である外部記憶装置14と、演算手段及び制御手段を構成している演算処理装置16と、出力手段である表示装置18と、を備える。
【0022】
入力装置12は、例えば、キーボード、マウス及び/又はタッチパネル等で構成することができる。外部記憶装置14は、演算処理装置16に接続される外部メモリであって、HDD(hard disk drive)やSSD(solid state drive)等の記憶装置で構成することができる。
【0023】
演算処理装置16は、マイクロコンピュータを含む計算機であり、情報処理部である中央処理装置(CPU)、RAMやROM等の内部メモリ、及び、他の装置と交信するための入出力インターフェース等を備えている。演算処理装置16の情報処理部は、CPUに限られず、例えば、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、特定用途向け集積回路(ASIC)、特定用途向け標準製品(ASSP)、システムオンチップ(SOC)等とすることができる。
【0024】
この演算処理装置16は、内部メモリに記憶させたプレス装置の品質判定プログラム、外部記憶装置14を介して読み取り可能な非一時的な有形の記録媒体に記録されたプレス装置の品質判定プログラム、或いは、図示していないネットワークや通信装置を介して外部からロードしたプレス装置の品質判定プログラムをCPUで実行することができる。このプログラムにより、演算処理装置16は、入力装置12で指示された解析対象であるプレス装置50及びワーク70を疑似的にプレス加工及びトリミングして、ワーク70から発生したスクラップ72がスクラップシュート56へ落下して外部へ排出される様子をシミュレートするとともに、スクラップ72が落下する際の姿勢の変化量を算出する。
【0025】
演算処理装置16は、内部メモリである記憶部21と、モデル構築部22と、ランダム力設定部24と、力付与部25と、減速処理部26と、確率算出部28と、姿勢変化量算出部30と、ばらつき度合い算出部32と、判定部34と、を備えている。
【0026】
モデル構築部22は、プレス装置50、ワーク70及びスクラップ72の形状データを読み込んで、これらの三次元モデルを構築する。形状データは、入力装置12や外部記憶装置14を介して演算装置16に入力することができる。本実施形態では、プレス装置50やワーク70の設計を行う際に使用するCADデータを用いて三次元モデルを作成している。
【0027】
ランダム力設定部24は、スクラップ72の落下初期時に作用させるランダムな大きさの力Fを所定の大きさの範囲内で設定する。このランダムな大きさの力F(以下、「ランダム力F」とも称する)は、以下の式(1)で示すランダム関数によって表すことができる。
force=(上限値,下限値) ・・・・・式(1)
【0028】
本実施形態では、以下の式(2)(3)(4)に示すように、互いに直交するX方向、Y方向及びZ方向のそれぞれの方向に対してランダム力Fが設定されている。
X方向force=(上限値xup,下限値xlow) ・・・・・式(2)
Y方向force=(上限値yup,下限値ylow) ・・・・・式(3)
Z方向force=(上限値zup,下限値zlow) ・・・・・式(4)
【0029】
本実施形態では、一例として、Y方向の正方向を重力方向に設定し、下限値ylow=0に設定している。また、上限値xup、上限値yup及び上限値zupを正の値に設定し、下限値xlow及び下限値zlowを負の値に設定している。スクラップ72に作用させるランダム力Fは、式(2)~(4)で設定されたX方向、Y方向及びZ方向の力の合力である。ランダム力Fは、スクラップ72に作用する重力の大きさよりも小さくなるように、力の大きさの範囲が設定されている。
【0030】
力付与部25は、スクラップ72に対して、重力と、ランダム力設定部24で設定されたランダム力Fとを作用させる。ランダム力Fは、ワーク70からスクラップ72が発生するスクラップ72の落下初期時に付与される。
【0031】
減速処理部26は、スクラップ72の落下速度vが所定の閾値vth(以下、「速度閾値vth」とも称する)を超えた場合に、スクラップ72の減速処理を行う。減速処理は、予め設定された規則に従って行われ、本実施形態では、速度閾値vthを超えた場合に、以下の式(5)に示すように、スクラップ72の落下速度vの大きさを半減する処理を行う。
v=v/2 ・・・・・式(5)
【0032】
確率算出部28は、スクラップ落下のシミュレーションの結果に基づいて、シミュレーション上でスクラップ72がプレス装置50の外部に適切に排出された確率を算出する。
【0033】
姿勢変化量算出部30は、スクラップ72の落下開始から完了までの落下姿勢の変化量を算出する。一例として、スクラップ72の落下姿勢の変化量は、スクラップ72の所定点から所定方向に伸びる所定の大きさのベクトルVを設定し、当該ベクトルVの内積を用いて求めることができる。本実施形態では、姿勢変化量を求める際に使用するベクトルVをスクラップ72の重心点から法線方向に伸びる単位ベクトル、すなわち重心点の単位法線ベクトルVとしている。
【0034】
スクラップ72の落下姿勢の変化量Uは、単位法線ベクトルVの内積を用いて以下の式(6)により求めることができる。
【0035】
【数1】
【0036】
ここで、V1は、ある時点でのスクラップ72の向きを表す単位法線ベクトルであり、V2は、ある時点から所定時間経過後のスクラップ72の向きを表す単位法線ベクトルである。また、Mはスクラップ72を落下させる時間Teを等分割したシーンのコマ数であり、mは、各シーンの番号である。
【0037】
姿勢変化量算出部30は、さらに、シミュレーションにて落下動作を複数回繰り返して実施した場合における「落下姿勢平均変化量AveU」を算出する。落下動作の回数をn回とした場合、落下姿勢平均変化量AveU(n)は、以下の式(7)を用いて求めることができる。
【0038】
【数2】
【0039】
ここで、nは落下動作の回数、enはプレス装置50においてスクラップ72の詰まりが発生した回数、Uは式(6)によって算出された変化量である。
【0040】
ばらつき度合い算出部32は、シミュレーションにてスクラップ72の落下動作を所定回数繰り返して行った場合に、姿勢変化量算出部32が算出した姿勢変化量に基づいて、スクラップ72の落下姿勢の変化量のばらつき度合いを算出する。本実施形態では、ばらつき度合いとして分散σを求めている。分散σは、以下の式(8)を用いて求めることができる。
【0041】
分散σ=Σ(U-AveU(n))/N ・・・・・・式(8)
【0042】
ここで、Uは式(6)によって算出された変化量であり、AveU(n)は式(7)によって算出された落下姿勢平均変化量である。
【0043】
判定部34は、判定部34は、ばらつき度合い算出部32が算出したばらつき度合いに基づいて、プレス装置50の設計品質の良否を判定する。具体的には、算出されたばらつき度合い(すなわち分散σ)が所定の閾値以下の場合に、プレス装置50の設計品質が良好であると判定し、所定の閾値を超える場合には設計品質が低いと判定する。本実施形態の判定部は、さらに、確率算出部28で算出された確率に基づいて、プレス装置50の設計品質が設計品質の良否を判定している。
【0044】
演算処理装置16で解析されたスクラップ落下のシミュレーションの結果や判定の結果は、表示装置18に表示される。表示装置18は、情報を視覚的に表示可能な装置であり、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、及び/又はブラウン管ディスプレイ等により構成することができる。演算処理装置16は、表示装置18に、シミュレーション結果のみならずシミュレーション過程を表示させることができる。
【0045】
次に、図4のフローチャートを用いて、品質判定システム10によるスクラップ落下のシミュレーションの手順について説明する。
【0046】
図4に示すように、ステップS10では、外部記憶装置14及び/又は演算処理装置16の内部メモリから、各種の形状データ及び計算条件データが読み込まれる。形状データは、プレス装置50、ワーク70及びスクラップ72の形状データを含み、ワーク70が加工されることによる形状変化のデータも含む。計算条件データは、プレス金型54の上型61の可動サイクル時間(例えば6秒)、プレス金型54の加圧力、スクラップ72を落下させる時間Te(例えば4秒)、落下時間Teを等分割したシーンのコマ数M(Mは2以上の整数)、上述したランダム関数の上限値及び下限値、重力の大きさ、スクラップ70がスクラップシュート56に当接した際に、スクラップシュート56から受ける反力の条件等が含まれる。次のステップS11では、読み込まれた形状データから、モデル構築部22により、プレス装置50、ワーク70及びスクラップ72の三次元モデルが作成される。
【0047】
次のステップS12では、スクラップ72の落下動作を行う回数N(Nは2以上の整数)が設定される。回数Nは入力装置12で指示された数とすることができる。次のステップS13では、スクラップ72の落下動作の回数nがリセット処理され、回数n=1に設定される。
【0048】
次のステップS14では、スクラップ72の落下動作について、シーンm=1が設定される。ここで、mは、数値条件データで読み込まれたコマ数Mの各シーンの番号であり、1~Mの整数である。本実施形態においてシーン1は、ワーク70の切断によりスクラップ72が発生した場面、すなわち、スクラップ72の落下初期時の場面に設定されている。
【0049】
次のステップS15では、ランダム力設定部24により、上述した式(2)~(4)のランダム関数に基づき、ランダム力Fが設定される。次のステップS16では、重力とランダム力Fとをシーン1のスクラップ72に作用させる。これらの力により、スクラップ72の落下動作が開始される。
【0050】
次のステップS17では、スクラップ72の落下速度vが所定の速度閾値vthを超えているか否かが判定される。速度閾値vthを超えている場合、続くステップS17で、減速処理部26により、落下速度vの減速処理が実行される。
【0051】
ここで、ステップS17の減速処理について説明する。シミュレーションのための計算量を低減するために、スクラップ72の落下速度を計算する時間の間隔を長くする(すなわち、コマ数Mの値を小さくする)と、シミュレーション途中のシーンmにおいて、スクラップ72がスクラップシュート56へ食い込む現象が生じることがある。このような食い込み現象は、現実のプレス装置50では発生しない現象である。シミュレーションにおいて、このような食い込み状態を基に、スクラップシュート56からスクラップ72が受ける反力を計算すると、反力が過剰に大きくなり、スクラップ72がスクラップシュート56から跳ね返る現象(以下、「跳ね返り現象」とも称する)が生じる虞がある。跳ね返り現象の発生を解消するためには、落下速度を計算する時間の間隔を短くする(すなわち、コマ数Mの値を大きくする)ことが有効であるが、コマ数Mを増やすと、計算量が膨大になってしまう。スクラップ72は、スクラップシュート56に当接する直前で落下速度vが最大になるため、本実施形態では、この落下速度vに閾値を設け、落下速度vが速度閾値vthを超えた場合に、減速処理することで、上述した跳ね返り現象の発生を防止しながら、スクラップ72の落下速度vを計算する間隔を長くして計算量の増加を抑制している。
【0052】
減速処理が実施された後、続くステップS19では、スクラップ72の落下時間が、設定されたスクラップ72の落下時間Teを超過しているか否かが判定される。落下時間Teは、スクラップ72がプレス装置50内に残留することがなく、スクラップシュート56を経て外部へ排出されるまでの時間に設定されている。なお、ステップS17で、落下速度vが速度閾値vth以下の場合には、減速処理を行わずに、ステップS19へ進む。
【0053】
ステップS19で、時間Teを超過していない場合、続くステップS20で、シーンmがカウンタ処理され、再びステップS17から処理が続行される。ステップS19で、時間Teを超過している場合、続くステップS21において、スクラップ72の落下動作の回数nが、設定された回数N以上であるか否かが判定される。回数nが設定回数N未満の場合、続くステップS22で回数nがカウンタ処理され、再びステップS14から処理が続行(すなわち、新たに、スクラップ72をシーン1の落下初期位置から落下させる処理が続行)される。
【0054】
図5は、スクラップ72に作用させるランダム力Fを説明する図である。回数n=1の落下動作では、スクラップ72の落下初期時に、ランダム関数を用いてランダム力F1が付与される。また、回数n=2の落下動作では、スクラップ72の落下初期時に、ランダム力F2が付与される。このように、ランダム関数を用いることで、回数nが変わる毎に、スクラップ72に作用するランダム力Fは変化する。なお、落下初期時にスクラップ72に作用させる重力は一定である。
【0055】
一方、ステップS21で、回数nが設定回数N以上の場合には、ステップS23へ進み、シミュレーションの結果(スクラップ72の詰まりの有無、スクラップ72の落下の軌跡など)が表示装置18のディスプレイ等に表示される。本実施形態では、確率算出部28によって算出された確率、すなわち、N回の落下動作のうち、スクラップ72がプレス装置50の外部に適切に排出された確率を表示装置に表示している。また、本実施形態では、スクラップ72の詰まりが発生した場合に、スクラップ72がプレス装置50内に詰まった状態をディスプレイに表示させるようにしている。図2に示す例では、スクラップシュート56に詰まったスクラップ72を仮想線で示しており、これにより、詰まりが発生した箇所を視覚的に認識できるようにしている。
【0056】
上述したスクラップ72の落下動作のシミュレーションでは、スクラップ72をスクラップシュート56へ仮想的に落下させる際に、所定の大きさの範囲内でランダムな大きさの力Fを作用させることで、スクラップ72の落下動作をその都度、変化させることができる。これにより、実際に製造されたプレス装置50において、スクラップ72の発生時にスクラップ72に作用する重力以外の力(例えば、切断時のプレス金型54の上型61からの押圧力、ワーク70及びスクラップ72の弾性変形による復元力、スクラップ72自体の慣性モーメント、空気抵抗力、上切刃64及び下切刃68のシャー角による力、など)によって、その都度変化するスクラップ72の落下動作をシミュレーション上で再現することができる。
【0057】
次に、図6A及び図6Bのフローチャートを用いて、品質判定システム10の演算処理装置16が実施するプレス装置50の品質判定方法の手順について説明する。
【0058】
図6Aに示すように、ステップS30では、スクラップ72の落下動作を行う回数N(Nは2以上の整数)が設定される。次のステップS31では、スクラップ72の落下動作の回数nがリセット処理され、回数n=1に設定される。
【0059】
次のステップS32では、スクラップ72の重心点の単位法線ベクトルVを用いて、初期のスクラップ72の向きがベクトルV1として設定される。図7Aは、初期のスクラップ72の向きを説明する図であり、スクラップ72の単位法線ベクトルV1を示している。なお、スクラップ72は、三次元のメッシュモデルで表されている。
【0060】
次のステップS33では、スクラップ72の落下動作について、シーンm=1が設定される。ここで、mは、数値条件データで読み込まれたコマ数Mの各シーンの番号であり、1~Mの整数である。シーン1は、ワーク70の切断によりスクラップ72が発生した場面、すなわち、スクラップ72の落下初期時の場面に設定されている。
【0061】
次のステップS34では、ランダム力設定部24により、上述した式(2)~(4)のランダム関数に基づいてランダム力Fが設定され、スクラップ72に対して重力とランダム力Fとを作用させる。これらの力により、スクラップ72の落下動作が開始される。
【0062】
次のステップS35では、スクラップ72の落下速度vが零、すなわち、スクラップ72が停止して詰まりが発生しているか否かが判定される。落下速度vが零ではない、すなわち、詰まりが生じることなく落下している状態である場合(ステップS35:No)、次のステップS36に移行して、スクラップ72の落下時間が、設定された落下時間Teを超過しているか否かが判定される。既述のとおり、落下時間Teは、スクラップ72がプレス装置50内に残留することがなく、スクラップシュート56を経て外部へ排出されるまでの時間に設定されている。
【0063】
ステップS36で、落下時間Teを超過していない場合、次のステップS37で、スクラップ72の重心点からの単位法線ベクトルVを用いて、今回のスクラップ72の向きがベクトルV2として設定される。図7Bは、初期のスクラップ72に対して重力及びランダム力を作用させた後のスクラップ72の向きを説明する図であり、力を作用させた後のスクラップ72の様子と、この時の向きを示すベクトルV2と、図7Aに示した初期のベクトルV1とを記載している。
【0064】
次のステップS38では、姿勢変化量算出部30により、スクラップ72の前回の向きを示すベクトルV1と、今回の向きを示すベクトルV2との内積を用いて、上述した式(6)から落下姿勢の変化量Uを算出する(変化量算出工程)。シーンm=1では、図7Bに示すベクトルV1とベクトルV2の内積から、変化量Uが算出される。
【0065】
次のステップS39では、ベクトルV1として、今回のスクラップ72の向きが設定される。シーンm=1のステップS39では、図7Bに示すベクトルV2が、新たにベクトルV1として設定されることとなる(図7CのベクトルV1を参照)。
【0066】
次のステップS40では、シーンmがカウンタ処理され、再びステップS35から処理が続行される。例えば、シーンm=1がカウンタ処理されてシーンm=2となり、再びステップS35及びステップS36を経てステップS37に移行した場合、ステップS37における今回のスクラップ72の向きは、図7Cに示すスクラップ72のベクトルV2となる。さらに、ステップS38及びステップS39を経て、続くステップS40でシーンm=3にカウンタ処理され、再びステップS35からステップS36、ステップS37へ移行した場合、ステップS37における今回のスクラップ72の向きは、今回のスクラップ72の向きは、図7Dに示すスクラップ72のベクトルV2となる。
【0067】
一方、ステップS35で、落下速度vが零、すなわち、スクラップ72が停止してプレス装置50に詰まりが発生した場合(ステップS35:Yes)、次のステップS42で、スクラップ72の落下姿勢の変化量Uが零(変化量U=0)に設定される。また、続くステップS43において、スクラップ72の詰まりが発生した回数enがカウンタ処理され(詰まり発生回数en=en+1)、図6Bに示す次のステップS44へ移行する。また、ステップS35で、落下速度vが零ではなく(ステップS35:No)、次のステップS36で、落下時間Teを超過している場合(ステップS36:Yes)、図6Bに示す次のステップS44へ移行する。
【0068】
ステップS44では、姿勢変化量算出部30により、上述した式(7)を用いてスクラップ72の落下姿勢平均変化量AveUが算出される。次のステップS45では、スクラップ72の落下姿勢の変化量のばらつき度合いである分散σが算出される。
【0069】
次のステップS46では、スクラップ72の落下動作の回数nが、設定された回数N以上であるか否かが判定される。回数nが設定回数N未満の場合、続くステップS47で回数nがカウンタ処理され、再び図6Aに示すステップS32から処理が続行(すなわち、新たに、スクラップ72を初期の向きに設定して、シーン1の落下初期位置から落下させる処理が続行)される。
【0070】
ステップS46において、回数nが設定回数N以上の場合には、ステップS48へ進み、判定部34により、算出された分散σの値に基づいて、プレス装置50の設計品質の良否が判定される。判定部34は、ステップS45で算出された分散値が、所定の閾値以下の場合に設計品質が良好、所定の閾値を超える場合に設計品質が低いと判定する。
【0071】
本実施形態では、さらに、判定部34が、確率算出部28が算出した確率(スクラップ72が排出された確率)に基づく判定を行っている。確率は、落下動作の回数Nと、スクラップ72が詰まってプレス装置50内に残留した回数enとから、算出することができる。例えば、回数N=200であり、そのうち、詰まりが生じた回数en=10である場合、確率R=(200-10)/200×100=95(%)となる。判定部34は、算出された確率が所定の確率閾値以上であって、且つ、分散値が所定の閾値以下の場合に、設計品質が良好と判定することができる。また、判定部34は、確率算出部28が算出した確率が所定の確率閾値未満、及び/又は、分散値が所定の閾値を超える場合に、設計品質が低いと判定することができる。次のステップS49では、判定結果が表示装置18のディスプレイ等に表示される。
【0072】
上述したように、本実施形態に係るプレス装置50の品質判定システム10及び品質判定方法では、スクラップ72の落下姿勢のばらつき度合いが所定の閾値以下と小さく、スクラップ72の落下姿勢が安定している場合には、スクラップ72がプレス装置50内に残留する不具合が起きにくく設計品質が良好であると判定することができる。一方、スクラップ72の落下姿勢の変化量のばらつき度合いが所定の閾値を超えており、スクラップの落下姿勢が安定していない場合には、スクラップ72がプレス装置50の外部へ排出される確率が高くても、スクラップ72が予期しない姿勢を取ってプレス装置50内に残留する不具合が起きる可能性が高いことから、設計品質が低いと判定することができる。このように、本実施形態の品質判定方法では、スクラップ72の落下姿勢の変化量を求めて、そのばらつき度合いに注目することで、落下不良の予測精度を向上することが可能である。
【0073】
品質判定システム10において、設計品質が低いと判定された場合には、例えば、図3に示すように、スクラップシュート56の底面の形状をV字状に設計変更して、落下しやすくなるように設計変更することができる。また、例えば、スクラップ72の落下開始位置と、スクラップシュート56との間に、スクラップ72の落下姿勢を変化させるための棒状部材を設置し、この棒状部材にスクラップ72が当たるようにすることで、スクラップ72の落下姿勢を制御することもできる。
【0074】
また、本実施形態では、スクラップ72の向きの変化量として、スクラップ72の重心点から伸びるベクトルVを用いており、このベクトルVの向きの変化を内積から求めるようにしているため、簡易な計算で変化量を求めることができる。
【0075】
<第2の実施形態>
次に、品質判定システム10の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態の品質判定システム10のコンピュータのハードウェア構成は、図1に示す第1の実施形態と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。第2の実施形態の品質判定システム10によるシミュレーションでは、プレス装置54の上型61の動作が考慮される。
【0076】
図8はプレス装置54の一例を示す斜視図であり、図9A図9Fは、図8に示すスクラップ72がワーク70から切り離される様子を示している。図8では、プレス装置54の下型66の一部と、下型66に一体的に形成されたスクラップシュート56とが示されており、さらに、上型61の上切刃65によって3分割されたスクラップ72が、スクラップシュート56へ落下する様子が示されている。例えばワーク70から切り離されるスクラップ部分が大きい場合、図8に示すように、スクラップ部分が複数に分割されて取り除かれる。スクラップ部分は、上切刃65によってワーク70から切断されるまでの間、下型本体67に立設された支持部67aによって下方側から支持されている。図8では一例として、スクラップシュート56の底面から突出する2つの支持部67aが記載されている。
【0077】
図9C及び図9Dに示すように、スクラップ72は、落下時に支持部67aに当たって、上方側へ跳ね返ろうとする動作が生じることがある。跳ね返ったスクラップ72は、図9E及び図9Fに示すように、上型61に当たってスクラップシュート56へ戻されることとなる。スクラップ72の落下動作のシミュレーションにおいて、上型61の動作が考慮されていない場合には、図10A図10Dに示すように、スクラップ72が支持部67aに当たって跳ね返った際に、下型66に乗り上げる動作が生じてしまう。本実施形態の品質判定システム10によるシミュレーションでは、図9A図9Fに示すように上型61の動作が考慮している。第2の実施形態の品質システム10は、上述した第1の実施形態の構成に加えて、以下に説明する構成をさらに含む。
【0078】
第2の実施形態の品質判定システム10では、演算処理装置16に、プレス金型54が下型66と上型61とを有する情報と、下型66に対する上型61の下降動作によってスクラップ72が発生する動作情報と、が格納されている。具体的には、固定設置される下型66に対して、上型61が上下動する動作の情報が格納されている。これらの情報は、他の情報とともに、外部記憶装置14から演算処理装置16に読み込まれてもよいし、図示していないネットワークや通信装置を介して外部から演算処理装置16の記憶部21にロードされてもよい。演算処理装置16のモデル構築部22は、プレス金型54の下型66及び上型61の三次元モデルを構築し、シミュレーションでは、上型61が、下型66に対して上下動する動作が再現される。
【0079】
演算処理装置16の力付与部25は、上型61が下降してワーク70からスクラップ72が発生するまでの間、スクラップ72に対して、図9Aに示すように重力Gと、重力Gと等しい大きさであって重力方向と反対方向を力F´と、を作用させる。以下の説明では、この重力方向と反対方向の力を「反重力F´」とも称する。また、力付与部25は、スクラップ72が発生するスクラップ72の落下初期時に、スクラップ72に対して、ランダム力設定部24で設定されたランダム力Fを作用させる。
【0080】
次に、図11A及び図11Bのフローチャートを用いて、本実施形態の品質判定システム10の演算処理装置16が実施するプレス装置50の品質判定方法の手順について説明する。本発明の実施形態の一態様は、フローチャートに記載された各ステップによって構成されるものではなく、フローチャートに記載された各ステップを含むものである。品質判定システム10によるシミュレーションでは、プレス金型54が下型66と上型61とを有する情報と、下型66に対する上型61の下降動作によってスクラップ72が発生する動作情報と、が含まれている。
【0081】
図11Aに示すように、ステップS50では、スクラップ72の落下動作を行う回数N(Nは2以上の整数)が設定される。次のステップS51では、スクラップ72の落下動作の回数nがリセット処理され、回数n=1に設定される。
【0082】
次のステップS52では、スクラップ72の重心点の単位法線ベクトルVを用いて、初期のスクラップ72の向きがベクトルV1として設定される。次のステップS53では、スクラップ72に対して重力と反重力とを作用させて、スクラップ72の静止状態を維持する。図9Aでは、スクラップ72に作用させた重力Gと反重力F´を矢印で示している。
【0083】
次のステップS54では、スクラップ72の落下動作について、シーンm=1が設定される。mは、数値条件データで読み込まれたコマ数Mの各シーンの番号であり、1~Mの整数である。シーン1は、図9Aに示すように、ワーク70からスクラップ72が発生する前の場面であって、上型61がスクラップ72から離れて上方側に位置する場面に設定されている。
【0084】
次のステップS55では、スクラップ72に反重力F´が作用しているか否かが判定される。ステップS55で、反重力F´が作用している場合(ステップS55:Yes)、次のステップS56に移行し、スクラップ72に上型61の上切刃65が接触しているか否かが判定される。上切刃65が接触していない、すなわちスクラップ72が発生していない場合(ステップS56:No)、ステップS66に移行する。ステップS66では、シーンmがカウンタ処理され、再びステップS55から処理が続行される。例えば、図9Aに示すシーン1において、ステップS66でカウンタ処理がなされると、図9Bに示すシーン2となる。
【0085】
ステップS56において、スクラップ72に上切刃65が接触したと判定された場合(ステップS56:No)、次のステップS57で、スクラップ72の反重力F´の作用が解除される。続くステップS58では、スクラップ72に、ランダム力設定部24によって設定されたランダム力Fを作用させる。続くステップS59では、スクラップ72の落下動作が開始され、次のステップS60では、スクラップ72の落下時間のカウントが開始される。ステップS56からステップS60について以下に説明する。まず、スクラップ72に上型61の上切刃65が接触すると、ワーク70からスクラップ72が切り離されたスクラップ72が発生した状態となる。このタイミングでスクラップ72を静止状態に維持するための反重力F´が解除される。また、反重力F´が解除されたスクラップ72の落下開始時には、スクラップ72に既に付与されていた重力Gとともに、ランダム力Fが付与される。スクラップ72は、重力G及びランダム力Fの作用により落下開始し、このタイミングで落下時間のカウントがスタートする。図9Cは、スクラップ72に上型61が接触したシーンを示しており、矢印で重力Gとランダム力Fを示している。次のステップS66では、シーンmがカウンタ処理され、再びステップS55から処理が続行される。
【0086】
ステップS55において、スクラップ72に反重力F´が作用していない場合、すなわちスクラップ72が落下している場合(ステップS55:No)、次のステップS61で、スクラップ72の落下速度vが零、すなわち、スクラップ72が停止して詰まりが発生しているか否かが判定される。落下速度vが零ではない、すなわち、詰まりが生じることなく落下している状態である場合(ステップS61:No)、次のステップS62に移行して、スクラップ72の落下時間が、設定された落下時間Teを超過しているか否かが判定される。
【0087】
ステップS62で、落下時間Teを超過していない場合(ステップS62:No)、次のステップS63で、スクラップ72の重心点からの単位法線ベクトルVを用いて、今回のスクラップ72の向きがベクトルV2として設定される。
【0088】
次のステップS64では、姿勢変化量算出部30により、スクラップ72の前回の向きを示すベクトルV1と、今回の向きを示すベクトルV2との内積を用いて、上述した式(6)から落下姿勢の変化量Uを算出する(変化量算出工程)。本実施形態では、スクラップ72が落下開始したシーンm=x(xは2以上の整数)から、落下姿勢に変化が生じるため、式(6)において、シーンxからシーンMまで、スクラップ72の変化量を求めるように設定してもよい。次のステップS65では、ベクトルV1として、今回のスクラップ72の向きが設定される。次のステップS66では、シーンmがカウンタ処理され、再びステップS55から処理が続行される。
【0089】
一方、ステップS61で、落下速度vが零、すなわち、スクラップ72が停止してプレス装置50に詰まりが発生した場合(ステップS61:Yes)、次のステップS68で、スクラップ72の落下姿勢の変化量Uが零(変化量U=0)に設定される。また、続くステップS69において、スクラップ72の詰まりが発生した回数enがカウンタ処理され(詰まり発生回数en=en+1)、図11Bに示す次のステップS70へ移行する。また、ステップS61で、落下速度vが零ではなく(ステップS61:No)、次のステップS62で、落下時間Teを超過している場合(ステップS62:Yes)、図11Bに示す次のステップS70へ移行する。
【0090】
ステップS70では、姿勢変化量算出部30により、上述した式(7)を用いてスクラップ72の落下姿勢平均変化量AveUが算出される。次のステップS71では、スクラップ72の落下姿勢の変化量のばらつき度合いである分散σが算出される。
【0091】
次のステップS72では、スクラップ72の落下動作の回数nが、設定された回数N以上であるか否かが判定される。回数nが設定回数N未満の場合(ステップS72:No)、続くステップS73で回数nがカウンタ処理され、再び図11Aに示すステップS52から処理が続行される。
【0092】
ステップS72において、回数nが設定回数N以上の場合には(ステップS72:Yes)、ステップS74へ進み、判定部34により、算出された分散σの値に基づいて、プレス装置50の設計品質の良否が判定される。判定部34は、ステップS71で算出された分散値が、所定の閾値以下の場合に設計品質が良好、所定の閾値を超える場合に設計品質が低いと判定する。判定部34は、さらに、確率算出部28が算出した確率に基づく判定を行ってもよい。次のステップS75では、判定結果が表示装置18のディスプレイ等に表示される。
【0093】
上述のとおり、第2の実施形態において、スクラップ72が落下開始した後の処理は、第1の実施形態と同様の処理となる。本実施形態の品質判定システム10では、シミュレーションに上型61の動きを追加したことで、例えば、スクラップ72の落下時に、スクラップ72が支持部67a又はスクラップシュート56の壁面に当たって上方に跳ね返った場合に、スクラップ72が下降した上型61に当たってスクラップシュート56に戻される状況等もシミュレートすることができる。したがって、現実に設計される上型61の動作を考慮した上で、スクラップ72の落下時の挙動を的確にシミュレートすることができ、シミュレーションの精度が向上する。これにより、スクラップ72の落下不良の予測精度をより向上することができる。
【0094】
また、上型61が下降してワーク70からスクラップ72が切り離される際に、スクラップ72に作用する力を算出すると、計算のための情報量が膨大になってしまう。そこで、上型61がスクラップ72を切り離すまでの間、スクラップ72になる部分には、重力Gと、この重力Gを打ち消す重力方向と反対方向の力F´とを作用させることとし、スクラップ部分が静止した状態を維持するようにしている。その後、上型61がスクラップ72に接触してスクラップ72が切り離される落下初期時に、スクラップ72に対して反対方向の力F´を解除し、重力Gとランダム力Fとを作用させている。これにより、スクラップ72が上型61によって切り離され落下するまでの状態をシンプルに再現しながら、スクラップ72に作用する力の計算量を大幅に抑えることができる。
【0095】
なお、上述した各実施形態の品質判定システム10では、演算処理装置16によりプレス装置50の品質の判定を行っているが、品質判定システム10は、判定部34を備えずに、姿勢変化量算出部30が算出したスクラップ72の落下姿勢の変化量Uに基づいて、システム10のユーザがプレス装置50の品質判定を行うことも可能である。例えば、ユーザが、品質判定システム10による落下動作のシミュレーションを用いて、スクラップ72がスクラップシュート56へ落下して外部へ排出される落下動作を複数回繰り返し実施し、各回における落下姿勢の変化量Uから、スクラップ72の落下姿勢の変化量Uが毎回ほぼ同じであるか否かを判定してもよい。スクラップ72が外部へ排出される際のスクラップ72の落下姿勢の変化量Uが毎回ほぼ同じである場合、ユーザは、スクラップ72がプレス装置50内に残留する不具合が起きにくいと判定することができる。一方、スクラップが外部へ排出される際のスクラップ72の落下姿勢の変化量Uが毎回大きく異なる場合には、落下姿勢が不安定であり、スクラップ72がプレス装置50内に残留する不具合が起きる可能性が高いと判定することができる。
【0096】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0097】
10 品質判定システム
12 入力装置
14 外部記憶装置
16 演算処理装置
18 表示装置
21 記憶部
22 モデル構築部
24 ランダム力設定部
25 力付与部
26 減速処理部
28 確率算出部
30 姿勢変化量算出部
32 ばらつき度合い算出部
34 判定部
50 プレス装置
54 プレス金型
56 スクラップシュート
61 上型
66 下型
70 ワーク
72 スクラップ
F1,F2 ランダム力
V1,V2 ベクトル
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図9F
図10A
図10B
図10C
図10D
図11A
図11B