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特開2024-80596乳酸菌及び乳酸菌を含有する組成物、並びに海苔発酵物の製造方法、海苔発酵物及び海苔発酵物を含有する組成物
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  • 特開-乳酸菌及び乳酸菌を含有する組成物、並びに海苔発酵物の製造方法、海苔発酵物及び海苔発酵物を含有する組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080596
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】乳酸菌及び乳酸菌を含有する組成物、並びに海苔発酵物の製造方法、海苔発酵物及び海苔発酵物を含有する組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20240606BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20240606BHJP
   A23L 17/60 20160101ALI20240606BHJP
   A61K 35/744 20150101ALI20240606BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20240606BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240606BHJP
   A61K 36/02 20060101ALI20240606BHJP
   A61K 8/99 20170101ALI20240606BHJP
   A61K 8/9706 20170101ALI20240606BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240606BHJP
   C12R 1/225 20060101ALN20240606BHJP
   C12R 1/46 20060101ALN20240606BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A23L33/135
A23L17/60 103A
A61K35/744
A61K35/747
A61P37/04
A61K36/02
A61K8/99
A61K8/9706
A61Q19/00
C12R1:225
C12R1:46
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023145792
(22)【出願日】2023-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2022192761
(32)【優先日】2022-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】590003722
【氏名又は名称】佐賀県
(71)【出願人】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(71)【出願人】
【識別番号】502148668
【氏名又は名称】株式会社オフィス・タカハシ
(71)【出願人】
【識別番号】592196444
【氏名又は名称】株式会社サン海苔
(71)【出願人】
【識別番号】505454203
【氏名又は名称】株式会社フジックス
(71)【出願人】
【識別番号】300078394
【氏名又は名称】西海製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519254613
【氏名又は名称】佐賀冷凍食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【弁理士】
【氏名又は名称】森 博
(74)【代理人】
【識別番号】100229389
【弁理士】
【氏名又は名称】香田 淳也
(72)【発明者】
【氏名】柘植 圭介
(72)【発明者】
【氏名】岩元 彬
(72)【発明者】
【氏名】小林 元太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 勝則
(72)【発明者】
【氏名】北村 和秀
(72)【発明者】
【氏名】江口 浩介
(72)【発明者】
【氏名】松尾 修
(72)【発明者】
【氏名】原口 武大
(72)【発明者】
【氏名】権藤 宏常
(72)【発明者】
【氏名】古賀 正弘
【テーマコード(参考)】
4B018
4B019
4B065
4C083
4C087
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB05
4B018LB06
4B018LB08
4B018LE00
4B018MD86
4B018ME07
4B018MF13
4B019LC05
4B019LE05
4B019LK16
4B019LP17
4B065AA30X
4B065AA49X
4B065AC20
4B065BA22
4B065CA42
4B065CA44
4B065CA50
4C083AA031
4C083AA032
4C083AA111
4C083AA112
4C083CC02
4C083CC03
4C083EE12
4C083EE13
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC55
4C087BC56
4C087CA09
4C087MA52
4C087MA63
4C087NA14
4C087ZB09
4C088AA12
4C088AC01
4C088BA07
4C088MA52
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZB09
(57)【要約】
【課題】乳酸産生能に優れ、海苔を効率よく発酵させることができる乳酸菌、並びにこれを利用した海苔発酵物の製造方法及び海苔発酵物を提供する。
【解決手段】ラチラクトバチルス・サケイ(Latilactobacillus sakei)D-1株(受託番号:NITE P-03757)である乳酸菌。
ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)D-2株(受託番号:NITE P-03758)である乳酸菌。
これらの乳酸菌は、海苔の発酵特性(乳酸生産能)や乳酸菌の増殖能に優れるという性質を有するめ、海苔発酵物の製造に好適に使用することができる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラチラクトバチルス・サケイ(Latilactobacillus sakei)D-1株(受託番号:NITE P-03757)である乳酸菌。
【請求項2】
ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)D-2株(受託番号:NITE P-03758)である乳酸菌。
【請求項3】
下記乳酸菌1及び/又は乳酸菌2を含有する組成物。
乳酸菌1:ラチラクトバチルス・サケイ(Latilactobacillus sakei)D-1株(受託番号:NITE P-03757)又はその継代株
乳酸菌2:ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)D-2株(受託番号:NITE P-03758)又はその継代株
【請求項4】
免疫賦活用である請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
免疫賦活作用が、NK細胞活性化作用及び/又はIgA抗体産生促進作用に基づく請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
皮膚外用用である請求項3から5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
経口用である請求項3から5のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
原料海苔を、下記乳酸菌1及び/又は乳酸菌2によって発酵する発酵工程を含むことを特徴とする海苔発酵物の製造方法。
乳酸菌1:ラチラクトバチルス・サケイ(Latilactobacillus sakei)D-1株(受託番号:NITE P-03757)又はその継代株
乳酸菌2:ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)D-2株(受託番号:NITE P-03758)又はその継代株
【請求項9】
原料海苔を、海苔の加水分解物として含む請求項8に記載の海苔発酵物の製造方法。
【請求項10】
前記海苔の加水分解物が、酵素による海苔の加水分解物である請求項9に記載の海苔発酵物の製造方法。
【請求項11】
原料海苔が、色落ち海苔である請求項8に記載の海苔発酵物の製造方法。
【請求項12】
請求項8から11のいずれかに記載の製造方法で得られた海苔発酵物。
【請求項13】
請求項12に記載に海苔発酵物を含有する組成物。
【請求項14】
免疫賦活用である請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
皮膚外用用である請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
経口用である請求項13に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規乳酸菌、及びこれを利用した海苔発酵物の製造方法に関する。より詳しくは乳酸菌及び乳酸菌を含有する組成物、並びに海苔発酵物の製造方法、海苔発酵物及び海苔発酵物を含有する組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌は、様々な生理活性を有し、整腸作用等の生理活性に有益な効果をもたらすプロバイオティクスの一つとして知られている。プロバイオティクスは、近年、アレルギー抑制効果、免疫機能改善効果、生活習慣病の予防効果など様々な効果を有する微生物及びそれらを含むものとして、様々な研究が行われている。
【0003】
一方、海苔は、その細胞内にタンパク質、糖質やミネラル等を多く含んでおり、海苔を原料として、食品加工物や化粧品等に利用することが注目されている。さらに、海苔の中には品質の低いものもあり、このような通常廃棄される低品質の海苔(規格外の海苔や色落ち海苔等)の有効利用が求められている。
【0004】
海苔の利用方法の一つとして、乳酸菌によって海苔を発酵させる技術が挙げられる。
海苔を発酵するにあたり、海苔は細胞壁が固く、そのままでは発酵しにくいため、一般に、発酵に供する前に、海苔を機械的に粉砕することにより細胞壁を破壊し、内容物を抽出する処理が行われている(例えば、特許文献1)。
また、特許文献2には、原料として冷凍と解凍を繰り返した海苔を使用し、これに乳酸菌を加えて発酵させた海苔発酵物の製造方法が報告されている。この製造方法では、海苔の機械的な粉砕に代えて、冷凍と解凍を繰り返し行うことによって海苔の細胞壁を破壊し、これを原料として海苔発酵物を製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-267662号公報
【特許文献2】特開2022-127183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、海苔を発酵しやすくするためには、海苔の細胞壁を破壊する必要があるが、特許文献1や特許文献2の方法では、海苔の発酵効率や製造コストの点で課題があった。
【0007】
かかる状況下、本発明の目的は、乳酸産生能に優れ、海苔を効率よく発酵させることができる乳酸菌及び乳酸菌を含有する組成物、並びに乳酸菌を利用した海苔発酵物の製造方法、海苔発酵物及び海苔発酵物を含有する組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、佐賀県有明海から摘採された海苔から分離した特定の乳酸菌が、従来公知の乳酸菌と比較して、優れた乳酸生産能を有し、海苔を効率よく発酵させることができることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1a> ラチラクトバチルス・サケイ(Latilactobacillus sakei)D-1株(受託番号:NITE P-03757)である乳酸菌。
<2a> ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)D-2株(受託番号:NITE P-03758)である乳酸菌。
<3a> 下記乳酸菌1及び/又は乳酸菌2を含有する組成物。
乳酸菌1:ラチラクトバチルス・サケイ(Latilactobacillus sakei)D-1株(受託番号:NITE P-03757)又はその継代株
乳酸菌2:ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)D-2株(受託番号:NITE P-03758)又はその継代株
<4a> 免疫賦活用である<3a>に記載の組成物。
<5a> 免疫賦活作用が、NK細胞活性化作用及び/又はIgA抗体産生促進作用に基づく<4a>に記載の組成物。
<6a> 抗酸化用である<3a>に記載の組成物。
<7a> 皮膚外用用である<3a>から<6a>のいずれかに記載の組成物。
<8a> 経口用である<3a>から<6a>のいずれかに記載の組成物。
【0010】
<1b> 原料海苔を、下記乳酸菌1及び/又は乳酸菌2によって発酵する発酵工程を含む海苔発酵物の製造方法。
乳酸菌1:ラチラクトバチルス・サケイ(Latilactobacillus sakei)D-1株(受託番号:NITE P-03757)又はその継代株
乳酸菌2:ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)D-2株(受託番号:NITE P-03758)又はその継代株
<2b> 原料海苔を、海苔の加水分解物として含む<1b>に記載の海苔発酵物の製造方法。
<3b> 前記海苔の加水分解物が、酵素による海苔の加水分解物である<1b>又は<2b>に記載の海苔発酵物の製造方法。
<4b> 原料海苔が、色落ち海苔である<1b>から<3b>のいずれかに記載の海苔発酵物の製造方法。
<1c> <1b>から<4b>のいずれかに記載の製造方法で得られた海苔発酵物。
<2c> <1c>に記載の海苔発酵物を含有する組成物。
<3c> 免疫賦活用である<2c>に記載の組成物。
<4c> 抗酸化用である<2c>に記載の組成物。
<5c> 皮膚外用用である<2c>から<4c>のいずれかに記載の組成物。
<6c> 経口用である<2c>から<4c>のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、乳酸産生能に優れ、海苔を効率よく発酵させることができる乳酸菌及び乳酸菌を含有する組成物、並びに乳酸菌を利用した海苔発酵物の製造方法、海苔発酵物及び海苔発酵物を含有する組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実験例A1(乳酸菌D-1株)及び比較例A1(基準株1)の乳酸菌増殖能を示すグラフである。
図2】乳酸菌培養液(乳酸菌D-1株、乳酸菌D-2株、基準株1、基準株2)の免疫賦活活性(NK細胞の細胞賦活化活性)を示すグラフである。
図3】乳酸菌培養液(乳酸菌D-1株、乳酸菌D-2株、基準株1、基準株2)の抗酸化活性を示すグラフである。
図4】乳酸菌(乳酸菌D-1株、乳酸菌D-2株、基準株1、基準株2)の免疫賦活活性(ヒト末梢血単核球のIgA産生能)を示すグラフである。
図5】海苔発酵物(乳酸菌D-2株によって発酵された海苔発酵物)の免疫賦活活性(ヒト末梢血単核球のIgA産生能)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、本明細書において、「~」とはその前後の数値又は物理量を含む表現として用いるものとする。また、本明細書において、「A及び/又はB」という表現には、「Aのみ」、「Bのみ」、「A及びBの双方」が含まれる。
【0014】
[1.本発明の乳酸菌]
本発明は、ラチラクトバチルス・サケイ(Latilactobacillus sakei)D-1株(受託番号:NITE P-03757)である乳酸菌(以下、単に「乳酸菌D-1株」と称す場合がある。)に関する。
【0015】
本発明は、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)D-2株(受託番号:NITE P-03758)である乳酸菌(以下、単に「乳酸菌D-2株」と称す場合がある。)に関する。
【0016】
以下、乳酸菌D-1株及び乳酸菌D-2株を総称して「本発明の乳酸菌」と称し、これらを区別するときにはそれぞれを本発明の乳酸菌(D-1株)、本発明の乳酸菌(D-2株)と称する場合がある。
【0017】
以下、本発明の乳酸菌(乳酸菌D-1株、乳酸菌D-2株)について説明する。
【0018】
<乳酸菌D-1株>
乳酸菌D-1株は、登録されている既知の乳酸菌の16SrRNA遺伝子と比較し、100%の相同性を有しており、ラチラクトバチルス・サケイ(Latilactobacillus sakei)に属する菌株であると同定された乳酸菌である。
【0019】
乳酸菌D-1株は、実施例に後述するように、カタラーゼ活性が陰性であり、低温(10℃)での生育性、酸性からアルカリ性(pH4~9)での生育性、及び7.5%の食塩濃度条件下での生育性等の菌学的性質を有する。
【0020】
乳酸菌D-1株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03757として寄託されている。
【0021】
<乳酸菌D-2株>
乳酸菌D-2株は、登録されている既知の乳酸菌の16SrRNA遺伝子と比較し、100%の相同性を有しており、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)に属する菌株であると同定された乳酸菌である。
【0022】
乳酸菌D-2株は、実施例に後述するように、カタラーゼ活性が陰性であり、低温(10℃)での生育性、酸性からアルカリ性(pH5~9)での生育性、及び7.5%の食塩濃度条件下での生育性等の菌学的性質を有する。
【0023】
ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)D-2株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター受託番号:NITE P-03758として寄託されている。
【0024】
本発明の乳酸菌は、佐賀県有明海から摘採された海苔から分離されたものである。本発明の乳酸菌を海苔から分離する方法は、後述する実施例で説明する。
【0025】
本発明の乳酸菌(特に、乳酸菌D-1株)は、後述する実施例の通り、乳酸菌(基準株)と比較して、海苔の発酵特性(乳酸生産能)や乳酸菌の増殖能に優れるという性質を有するという特徴がある。そのため、本発明の乳酸菌は、海苔発酵物の製造に好適に使用することができる。
【0026】
なお、本発明の乳酸菌は、食塩濃度が高い条件下(例えば、NaCl濃度7.5重量%)での生育が可能であるため、海苔の発酵に使用するのみならず、醤油や味噌、漬物等のような食塩を含有する食品の発酵にも使用することができる。
また、本発明の乳酸菌は、アルカリ条件下のみならず、酸性条件下での生育が可能であるため、本発明の乳酸菌を用いることによって、酸性条件下(例えば、pH4~5)で発酵用原料の腐敗を抑制させつつ、その原料を発酵させることができる。
【0027】
本発明の乳酸菌は、実施例に後述するように、免疫賦活作用、抗酸化作用等の有用な作用を有する。
【0028】
また、本発明の乳酸菌は、発酵物の製造に用いてもよく、そのまま使用してもよいが、本発明の乳酸菌を含有する組成物(以下、「本発明の乳酸菌含有組成物」、又は「本発明の組成物(乳酸菌)」と記載する場合がある。)とすることもできる。
【0029】
本発明の乳酸菌含有組成物は、乳酸菌1及び/又は乳酸菌2を含有する。
【0030】
乳酸菌1は、上述した乳酸菌D-1株又はその継代株である。なお、「継代株」は、継代培養によって得られる菌株である。
乳酸菌1は、乳酸菌D-1株の性質(特には乳酸生産能)を継承する限り、乳酸菌D-1株の継代株の自然変異株を含んでいてもよい。
【0031】
乳酸菌2は、上述した乳酸菌D-2株又はその継代株である。
乳酸菌2は、乳酸菌D-2株の性質(特には乳酸生産能)を継承する限り、乳酸菌D-2株の継代株の自然変異株を含んでいてもよい。
【0032】
本発明の組成物(乳酸菌)は、乳酸菌1及び乳酸菌2のそれぞれを含有してもよく、乳酸菌1及び乳酸菌2の両方を含有してもよい。また、本発明の組成物(乳酸菌)は、本発明の乳酸菌を生菌で含有してもよく、死菌で含有してもよく、生菌及び死菌の両方で含有していてもよい。また、本発明の組成物(乳酸菌)における本発明の乳酸菌の含有量は、本発明の目的を損なわない限り任意であり、本発明の組成物(乳酸菌)の用途に応じて適宜選択すればよい。
【0033】
本発明の乳酸菌は、乳酸菌の培養物、乳酸菌の乾燥物、乳酸菌の破砕物、又は乳酸菌の抽出物等として使用することができる。これらは単独で使用してもよく、組み合わせて使用してもよい。
【0034】
本発明の乳酸菌は、特徴的な菌学的性質(低温条件、高食塩濃度条件下での生育性等)を有し、乳酸菌に基づく有用な作用(免疫賦活作用、抗酸化作用等)を有する。そのため、本発明の乳酸菌を含有する組成物は、食品、サプリメント、化粧品等の用途に好適に使用できる。
【0035】
本発明の乳酸菌を含有する組成物として使用する場合には、当該組成物には、本発明の乳酸菌(乳酸菌の培養物、乳酸菌の破砕物、又は乳酸菌の抽出物等の場合も含む)が含有されていればよく、本発明の効果を損なわない限り、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、ヒトが摂取して安全である成分であればよく、使用形態(例えば、皮膚外用用、経口用)を考慮して適宜決定される。
その他の成分の配合割合は、本発明の効果を損なわない限り、その目的に応じて適宜選択して決定することができる。
【0036】
本発明の組成物(乳酸菌)は、含有する乳酸菌(乳酸菌1、乳酸菌2)に起因して免疫賦活作用に対して優れた効果を奏するため、「免疫賦活用組成物」として用いることができる。
【0037】
ここで、本明細書において、「免疫賦活作用」とは、免疫機能を高めることや、免疫機能低下を改善することをいい、「免疫」は、自然免疫と獲得免疫の両方を含むものとする。
なお、「自然免疫」は、先天的に備わった免疫システムであり、病原体の侵入に対して即時に対応できる。自然免疫を担う主な免疫細胞には、NK細胞(感染細胞等を傷害する)、好中球、単球、マクロファージなどの食細胞、好塩基球、マスト細胞、好酸球(炎症を起こす)等がある。また、「獲得免疫」は、後天的に外来異物の刺激に応じて形成される免疫システムであり、獲得免疫を担う主な免疫細胞は、外来異物(抗原)と特異的に反応する抗原レセプターを持つリンパ球(抗原特異的なB細胞とT細胞)である。
【0038】
また、本発明の組成物(乳酸菌)が有する免疫賦活作用は、本発明の組成物(乳酸菌)が含有する乳酸菌に起因した、NK細胞活性化作用やIgA抗体産生促進作用に基づくものである。本発明の組成物(乳酸菌)は、NK細胞活性化作用及びIgA抗体産生促進作用のいずれか又は両方を有する。
【0039】
本発明の乳酸菌は、自然免疫の主要因子として働く細胞傷害性のリンパ球であるNK細胞(ナチュラルキラー細胞)を活性化する作用を有する。そのため、本発明の乳酸菌は、NK細胞活性化用組成物の有効成分として使用できる。
【0040】
すなわち、本発明のNK細胞活性化用組成物は、本発明の乳酸菌を有効成分として含有する。本発明の乳酸菌は、NK細胞を活性化することにより、ウィルス感染細胞などの標的細胞を攻撃して排除することができるため、体内の免疫が賦活化される。
【0041】
NK細胞活性化作用は、ヒトNK細胞株であるKHYG-1細胞に対する活性を評価することにより判断することができ、具体的には、後述する実施例の評価方法(3-2-1.乳酸菌における免疫賦活作用の評価I)によって評価することができる。実施例で示すように、乳酸菌1はNK細胞活性化に対して特に優れた効果を有するため、NK細胞活性化用途に好ましく使用できる。
【0042】
また、本発明の乳酸菌は、粘膜に分泌されるタンパク質であるIgA抗体の産生を促進する作用を有する。そのため、本発明の乳酸菌は、IgA抗体産生促進用組成物の有効成分としても使用できる。
【0043】
すなわち、本発明のIgA抗体産生促進用組成物は、本発明の乳酸菌を有効成分として含有する。本発明の乳酸菌(特には、乳酸菌2)は、IgA抗体の産生を促進することにより、病原体が粘膜上皮細胞に付着・定着することを阻止したり、病原体から生産される毒素や酵素を中和することができるため、体内の免疫が賦活化される。実施例で示すように、乳酸菌2はIgA抗体産生促進に対して特に優れた効果を有するため、IgA抗体産生用途に好ましく使用できる。
【0044】
IgA抗体産生促進作用は、ヒト末梢血単核球のIgA産生能を評価することにより判断することができ、具体的には、後述する実施例の評価方法(3-3.乳酸菌における免疫賦活作用の評価II)によって評価することができる。
【0045】
本発明の組成物(乳酸菌)は、含有する乳酸菌(乳酸菌1、乳酸菌2)に起因してNK細胞活性化やIgA抗体産生促進に対して優れた効果を奏するため、上述の通り、免疫賦活用組成物として使用できる他、「NK細胞活性化用組成物」、「IgA抗体産生促進用組成物」として個別に用いることができる。
【0046】
また、本発明の組成物(乳酸菌)は、免疫賦活作用(NK細胞活性化作用やIgA抗体産生促進作用)の効果を有するため、抗アレルギーに対する効果を有する。そのため、本発明の組成物は、抗アレルギー用組成物として用いることができる。
【0047】
また、本発明の組成物(乳酸菌)は、含有する乳酸菌(乳酸菌1、乳酸菌2)に起因して抗酸化に対して優れた効果を奏するため、上述の通り、免疫賦活用組成物として使用できる他、「抗酸化用組成物」としても個別に用いることができる。
【0048】
本発明の組成物(乳酸菌)は、その目的に応じて任意の形態で使用することができる。すなわち、医薬用組成物、及び医薬用組成物に該当しない皮膚外用用組成物(化粧品等)、経口用組成物(サプリメント、機能性食品等)等への使用が可能である。
【0049】
本発明の組成物(乳酸菌)を免疫賦活用として用いる場合、含有する乳酸菌(乳酸菌1、乳酸菌2)の量は、免疫賦活が関与する症状の種類及び程度、本発明の組成物(乳酸菌)の形態、使用方法等を考慮して、必要量が摂取できるような範囲で適宜決定される。
【0050】
また、本発明の組成物(乳酸菌)をNK細胞活性化用として用いる場合、含有する乳酸菌(乳酸菌1、乳酸菌2)の量は、NK細胞活性化が関与する症状の種類及び程度、乳酸菌の種類や状態(生菌、死菌)本発明の組成物の形態、使用方法等を考慮して、必要量が摂取できるような範囲で適宜決定される。
【0051】
また、本発明の組成物(乳酸菌)をIgA抗体産生促進用として用いる場合、含有する乳酸菌(乳酸菌1、乳酸菌2)の量はIgA抗体産生促進が関与する症状の種類及び程度、本発明の組成物(乳酸菌)の形態、使用方法等を考慮して、必要量が摂取できるような範囲で適宜決定される。
【0052】
(皮膚外用用組成物)
本発明の組成物(乳酸菌)の好適な形態の一つは、本発明の乳酸菌(乳酸菌1、乳酸菌2)を配合した皮膚外用用組成物(以下、「本発明の皮膚外用用組成物」と記載する場合がある。)である。
【0053】
以下、本発明の皮膚外用用組成物の典型例である化粧料組成物(化粧品)について説明するが、本発明の皮膚外用用組成物は化粧料組成物に限定されない。
【0054】
本発明の皮膚外用用組成物は、慣用の化粧料基材を適宜配合し、所望の剤型とすることができる。その形態は特に制限はないが、化粧水、乳液、ジェル、クリーム、パック、ヘアトニック、ヘアクリームファンデーション、水性軟膏、スプレー等の形態が挙げられる。また、本発明において、化粧料組成物は、入浴剤、ボディーソープ、シャンプー等の入浴用組成物も含む概念である。
【0055】
また、本発明の皮膚外用用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で通常化粧料や皮膚外用医薬、入浴用製品で使用される任意の成分を添加することができる。かかる任意成分の具体例としては、増粘・ゲル化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色素剤、金属封鎖剤、防腐剤、pH調整剤、香料、ミツロウ等が挙げられる。これら任意成分の配合割合は、その目的に応じて適宜選択して決定することができる。
【0056】
乳酸菌(乳酸菌1、乳酸菌2)を、化粧料組成物に配合する割合は任意であるが、免疫賦活作用(特には、NK細胞活性化作用やIgA抗体産生促進作用)に寄与できる範囲で配合割合が選択される。
【0057】
(経口用組成物)
本発明の組成物(乳酸菌)の好適な形態の一つは、乳酸菌(乳酸菌1、乳酸菌2)を配合した経口用組成物(以下、「本発明の経口用組成物」と記載する場合がある。)である。本発明の経口用組成物は、優れた免疫賦活作用(特には、NK細胞活性化作用やIgA抗体産生促進作用)を有するため、機能性食品、サプリメント等へ好適に使用される。
【0058】
以下、本発明の経口用組成物の典型例である機能性食品、サプリメントについて説明するが、本発明の経口用組成物は機能性食品、サプリメントに限定されない。
【0059】
本発明の経口用組成物の摂取量は、本発明の効果を発揮できる量であれば、特に限定されず、本発明の経口用組成物の形態、摂取させる対象者の性別、体重、健康状態等に応じて適宜決定される。当該摂取量は、1回で摂取してもよく、1日数回に分けて摂取してもよい。また、本発明の経口用組成物の有する作用又は効能を得るために、本発明の経口用組成物は、持続して摂取することが好ましい。
【0060】
本発明の組成物(乳酸菌)は、日常的に経口摂取しやすいように、各種の食品、飲料と混ぜて機能性食品とすることで、長期的に摂取することも容易である。
ここでいう「機能性食品」とは、一般食品に加えて、健康の維持の目的で摂取する食品及び/又は飲料を意味し、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品又は機能性表示食品)や、健康食品、栄養補助食品、栄養保険食品等を含む概念である。この中でも保健機能食品である特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品が好ましい機能性食品の態様である。なお、機能性食品として製品化する場合には、食品に用いられる様々な添加剤、具体的には、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤漂白剤、防菌防黴剤、酸味料、調味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、香料等を添加していてもよい。
【0061】
機能性食品の対象となる、食品、飲料は特に限定されるものではない。例えば、食品として、ソーセージ、ハム、魚介加工品、ゼリー、キャンディー、チューインガムなどの食品類が挙げられる。また、飲料としては、各種の茶類、青汁飲料、清涼飲料水、飲料水、酒類、栄養ドリンクなどが挙げられる。
【0062】
また、本発明の経口用組成物は、サプリメントの形態として使用することも可能である。サプリメントの形態は、特に制限されず、錠剤、粉末剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、糖衣錠、フィルム剤、トローチ剤、ゼリー剤、チュアブル剤、溶液、乳濁液、懸濁液等の任意の形態でよい。
本発明のサプリメントは、本発明の組成物(乳酸菌)以外に、サプリメントとして通常使用される任意の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、例えば、アミノ酸、ペプチド;ビタミンE、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンB、葉酸等のビタミン類;ミネラル類;糖類;無機塩類;クエン酸またはその塩;茶エキス;油脂;プロポリス、ローヤルゼリー、タウリン等の滋養強壮成分;ショウガエキス、高麗人参エキス等の生薬エキス;ハーブ類:コラーゲン等が挙げられる。
【0063】
本発明の乳酸菌(乳酸菌1、乳酸菌2)を、機能性食品やサプリメントに配合する割合は任意であるが、免疫賦活作用(特には、NK細胞活性化作用やIgA抗体産生促進作用)に寄与できる範囲で配合割合が選択される。
【0064】
本発明の経口用組成物を保健機能食品として用いる場合、製品において本発明に係る乳酸菌(乳酸菌1、乳酸菌2)よりもたらされる作用又は効能が表示されていてもよい。例えば、本発明に係る製品の本体、包装、容器、パッケージ等の収納物、又はその広告等への表示が挙げられる。
【0065】
また、製品化の際に付される作用又は効能に関する表示としては、例えば、「免疫機能を高める」、「免疫機能に働きかける」、「健康な人の免疫機能の維持に役立つ」、「免疫機能をサポート」、「健康な人の免疫機能の維持をサポート」、「感染症に対する抵抗力を高める」、「生体防御機能を高める」等が挙げられる。
【0066】
また、本発明の経口用組成物は、それ自体またはこれに他の成分を添加して食品添加剤として使用することも可能である。他の成分は、飲食品添加剤として使用可能であるならば特に制限はない。食品添加剤の添加対象となる飲料、食品についても任意であり、特に制限はない。
【0067】
本発明の経口用組成物を、食品添加剤に配合する割合は任意であるが、免疫賦活作用(特には、NK細胞活性化作用やIgA抗体産生促進作用)に寄与できる範囲で配合割合が選択される。
【0068】
本発明の経口用組成物は、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。そのため、ペットフード等の動物用の経口用組成物とすることもできる。
【0069】
[2.本発明の海苔発酵物の製造方法]
本発明の海苔発酵物の製造方法は、原料海苔を、乳酸菌1及び/又は乳酸菌2によって発酵する発酵工程を含む。
乳酸菌1:ラチラクトバチルス・サケイ(Latilactobacillus sakei)D-1株(受託番号:NITE P-03757)又はその継代株
乳酸菌2:ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)D-2株(受託番号:NITE P-03758)又はその継代株
【0070】
上述の通り、本発明の乳酸菌(乳酸菌D-1株、乳酸菌D-2株)は、乳酸菌(基準株)と比較して、発酵特性(乳酸生産能)に優れるという性質を有するため、発酵が困難な海苔を利用した場合にも発酵させて発酵物(海苔発酵物)を得ることができる。
【0071】
なお、本発明の海苔発酵物の製造方法は、原料海苔を発酵させる発酵工程を含んでいればよく、必要に応じて、その他の工程を含んでいてもよい。その他の工程として、例えば、加熱処理工程、加水分解処理工程、pH調整工程、殺菌工程等が挙げられる。
【0072】
以下、本発明の海苔発酵物の製造方法をより詳細に説明する。
【0073】
(原料海苔)
本発明の海苔発酵物の製造方法において、原料海苔(原料として使用される海苔)としては、紅藻類(アマノリ属)、緑藻類(アオノリ属、アオサ属、ヒトエグサ属)に属するものが用いられる。この中でも、アマノリ属に属する海藻を用いることが好ましい。アマノリ属として具体的な種類としては、アサクサノリ、スサビノリ、ウップルイノリ等が挙げられる。
【0074】
原料海苔は1種類の海苔でもよく、2種類以上の海苔を組み合わせて使用してもよい。
【0075】
また、原料海苔は、市販され食用されている通常の海苔(上級海苔)又はその規格外品でもよく、通常の海苔と比べ色が薄く商品価値が低い海苔、いわゆる色落ち海苔でもよい。
【0076】
色落ち海苔は、通常の海苔と比較して含有する色素やタンパク質が少ないが、通常の海苔と同様に様々な特徴ある栄養素を含むため、通常の海苔としては流通に乗せづらいものの、海苔発酵物の原料としては好適に使用できる。
【0077】
原料としての海苔は、海水から摘採した海苔葉体を水洗した生海苔を使用してもよく、生海苔を乾燥した乾燥海苔を使用してもよい。
また、原料海苔は、必要に応じて、適当な形状に加工されて使用される。すなわち、海苔葉体をそのまま、スライス、粉砕、圧搾またはすりおろす等により、細粒物として使用することができる。また、原料としての海苔を加水分解して加水分解物として使用することもできる。
【0078】
海苔の発酵効率を高めることができる点で、海苔発酵物の原料である原料海苔は、海苔を加水分解した海苔の加水分解物として発酵工程に供されることが好ましい。
加水分解される海苔の形態は、特に限定されず、例えば、乾燥状態や湿潤状態のものを使用することができる。また、原料としての海苔はそのまま、もしくは加熱や粉砕等の処理後に加水分解することもできる。
【0079】
海苔の加水分解物を得る方法としては、酸加水分解、アルカリ加水分解でもよいが、比較的穏やかな条件下で海苔を加水分解できるため、酵素処理による加水分解が好ましい。
海苔を加水分解する酵素としては、好適には糖質加水分解酵素である。「糖質加水分解酵素」は、二糖、オリゴ糖、多糖等の糖質のグリコシド結合に作用して加水分解する酵素であり、海苔の細胞壁を溶解させ、可溶化液とすることができる。
【0080】
糖質加水分解酵素としては、例えば、アミラーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、マンナナーゼ、グルカナーゼ、ペクチナーゼ、キシラナーゼ、スクラーゼ、ラクターゼ、トレハラーゼ等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。この中でも糖質加水分解酵素の好適な一例は、マンナナーゼである。
【0081】
(乳酸菌)
本発明の海苔発酵物の製造方法では、乳酸菌として、乳酸菌1及び/又は乳酸菌2が使用される。
【0082】
乳酸菌1は、上述した乳酸菌D-1株又はその継代株である。なお、「継代株」は、継代培養によって得られる菌株である。
乳酸菌1は、乳酸菌D-1株の性質(特には乳酸生産能)を継承する限り、乳酸菌D-1株の継代株の自然変異株を含んでいてもよい。
【0083】
乳酸菌2は、上述した乳酸菌D-2株又はその継代株である。
乳酸菌2は、乳酸菌D-2株の性質(特には乳酸生産能)を継承する限り、乳酸菌D-2株の継代株の自然変異株を含んでいてもよい。
【0084】
なお、乳酸菌D-1株や乳酸菌D-2株については上述した[1.本発明の乳酸菌]の通りであるため、詳細な説明は省略する。
【0085】
本発明の海苔発酵物の製造方法では、乳酸菌1及び乳酸菌2を単独で用いてもよく、両方を任意の割合で用いてもよい。
【0086】
(発酵工程)
発酵工程は、上記原料海苔を、乳酸菌1及び/又は乳酸菌2によって発酵する工程である。
【0087】
上述の通り、発酵工程に供される原料海苔は、原料となる海苔をそのまま使用してもよいし、海苔を加水分解した加水分解物として使用してもよい。
【0088】
発酵工程において、原料海苔を乳酸菌により発酵させる方法は本発明の目的を損なわない限り任意であるが、典型的には、上記原料海苔(加水分解物である場合も含む)に、必要に応じて加水した後に、乳酸菌1及び/又は乳酸菌2を加え、均等になるように撹拌した後に、所定の温度、時間静置することによって、乳酸菌1及び/又は乳酸菌2による海苔の発酵を進行させることによって行われる。
【0089】
発酵工程における発酵温度は、原料海苔の種類及び量、使用する乳酸菌の種類、量、配合割合等に応じて適宜設定され、例えば、15℃~50℃の範囲である。
【0090】
発酵時間は、原料海苔に乳酸菌を添加して発酵できる時間であればよく、使用する乳酸菌の種類、量、配合割合、発酵温度等を勘案して決定すればよい。
【0091】
また、発酵工程では、本発明の目的を損なわない限り、原料海苔、乳酸菌(乳酸菌1、乳酸菌2)だけでなく、他の成分を含んでいてもよい。
【0092】
他の成分としては、例えば、水、エタノール、その他の食品成分、その他の微生物、任意の添加物成分が挙げられる、任意の添加物成分としては、例えば、増粘剤、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、防腐剤、可塑剤、呈味剤、着色料、香料、キレート剤等が挙げられる。
これらの成分は、1種単独を含有してもよく、2種以上を組み合わせて含有してもよい。また、これらの成分の含有量は、使用する成分の種類等に応じて適宜設定される。
【0093】
(その他の工程)
本発明の海苔発酵物の製造方法は、本発明の目的を損なわない限り、発酵工程の前工程や後工程として、任意の工程を含んでいてもよい。
【0094】
他の工程として、例えば、発酵工程に供する前に原料海苔に対して行われる殺菌処理が挙げられる。原料海苔には様々な雑菌が含まれるが、発酵工程の供する前工程として殺菌処理を行うことによって、海苔に付着している一般細菌等の雑菌を減少させることができる。また、原料海苔に対して殺菌処理を行うことによって、雑菌の減少のみならず、発酵工程における乳酸発酵の促進も期待される。
【0095】
殺菌処理の方法としては、加熱殺菌(高温殺菌や低温殺菌等)、非加熱殺菌(ろ過除去、紫外線による殺菌やオゾン殺菌等)等が挙げられる。これらの殺菌処理は、単独で行ってもよく、組み合わせて行ってもよい。
【0096】
殺菌処理は、本発明の効果を損なわない範囲で処理時間や温度等の条件を適宜設定される。
【0097】
本発明の海苔発酵物は、上述した本発明の製造方法によって製造された海苔発酵物である。本発明の海苔発酵物は、発酵により生成された海苔由来成分の他、未発酵の成分及び増殖した本発明の乳酸菌を含有する。
【0098】
本発明の海苔発酵物に対しては、目的に応じて海苔の加工で行われている公知の処理を行うことができる。このような処理として、例えば、遠心分離等の精製、分離処理、ろ過、沈殿、溶媒等による抽出処理、加熱処理、凍結乾燥や濃縮等が挙げられる。
本発明の海苔発酵物を分離処理する場合は、得られた海苔発酵物を全て又はその一部を固液分離し、得られた液状物を目的とする製造物として使用することができる。
【0099】
また、本発明の海苔発酵物は、そのまま使用してもよいが、本発明の海苔発酵物を含有する組成物(以下、「本発明の海苔発酵物含有組成物」、又は「本発明の組成物(海苔発酵物)」と記載する場合がある。)とすることもできる。
【0100】
本発明の海苔発酵物をそのまま使用する場合には、その分離物(液状物)、乾燥物、破砕物、又は抽出物等として使用することもできる。これらは単独でもよく、組み合わせてもよい。
【0101】
本発明の海苔発酵物を含有する組成物として使用する場合には、当該組成物には、本発明の海苔発酵物が含有されていればよく、本発明の効果を損なわない限り、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、ヒトが摂取して安全である成分であればよく、使用形態(例えば、皮膚外用用、経口用)を考慮して適宜決定される。
その他の成分の配合割合は、本発明の効果を損なわない限り、その目的に応じて適宜選択して決定することができる。
【0102】
また、上述の通り、本発明の海苔発酵物は、発酵により生成された海苔由来成分を含有し、さらに増殖した本発明の乳酸菌を含有する。
そのため、本発明の組成物(海苔発酵物)は、発酵により生成された海苔由来成分及び海苔発酵物が含有する本発明の乳酸菌に基づく有用な作用(免疫賦活作用、抗酸化作用等)を有する。
【0103】
また、本発明の組成物(海苔発酵物)は、本発明の乳酸菌(乳酸菌1、乳酸菌2)やこれら以外の乳酸菌を添加して使用することもできる。
【0104】
本発明の組成物(海苔発酵物)は、含有する海苔発酵物に起因して免疫賦活作用に対して優れた効果を奏するため、「免疫賦活用組成物」として用いることができる。
【0105】
本発明の組成物(海苔発酵物)を免疫賦活用として用いる場合、含有する海苔発酵物の量は、免疫賦活が関与する症状の種類及び程度、海苔発酵物に含有される乳酸菌の種類及び量、本発明の組成物の形態、使用方法等を考慮して、必要量が摂取できるような範囲で適宜決定される。
【0106】
また、本発明の組成物(海苔発酵物)は、含有する海苔発酵物に起因してNK細胞活性化やIgA抗体産生促進に対して優れた効果を奏するため、上述の通り、免疫賦活用組成物として使用できる他、「NK細胞活性化組成物」、「IgA抗体産生促進用組成物」として個別に用いることができる。
【0107】
また、本発明の組成物(海苔発酵物)は、免疫賦活作用(NK細胞活性化作用やIgA抗体産生促進作用)の効果を有するため、抗アレルギーに対する効果を有する。そのため、本発明の組成物は、抗アレルギー用組成物として用いることができる。
【0108】
本発明の組成物(海苔発酵物)をNK細胞活性化用として用いる場合、含有する海苔発酵物の量は、NK細胞活性化が関与する症状の種類及び程度、海苔発酵物に含有される乳酸菌の種類及び量、本発明の組成物(海苔発酵物)の形態、使用方法等を考慮して、必要量が摂取できるような範囲で適宜決定される。
【0109】
本発明の組成物(海苔発酵物)をIgA抗体産生促進用として用いる場合、含有する海苔発酵物の量は、IgA抗体産生促進が関与する症状の種類及び程度、海苔発酵物に含有される乳酸菌の種類及び量、本発明の組成物(海苔発酵物)の形態、使用方法等を考慮して、必要量が摂取できるような範囲で適宜決定される。
【0110】
また、本発明の組成物(海苔発酵物)は、含有する乳酸菌に起因して抗酸化に対して優れた効果を奏するため、上述の通り、免疫賦活用組成物として使用できる他、「抗酸化用組成物」としても個別に用いることができる。本発明の組成物(海苔発酵物)を抗酸化用として用いる場合、含有する海苔発酵物の量は、抗酸化作用が関与する症状の種類及び程度、海苔発酵物に含有される乳酸菌の種類及び量、本発明の組成物(海苔発酵物)の形態、使用方法等を考慮して、必要量が摂取できるような範囲で適宜決定される。
【0111】
(皮膚外用用組成物)
本発明の組成物(海苔発酵物)の好適な形態の一つは、本発明の海苔発酵物を配合した皮膚外用用組成物(以下、「本発明の皮膚外用用組成物(海苔発酵物)」と記載する場合がある。)である。
【0112】
以下、本発明の皮膚外用用組成物(海苔発酵物)の典型例である化粧料組成物(化粧品)について説明するが、本発明の皮膚外用用組成物(海苔発酵物)は化粧料組成物に限定されない。
【0113】
本発明の皮膚外用用組成物(海苔発酵物)は、慣用の化粧料基材を適宜配合し、所望の剤型とすることができる。その形態は特に制限はないが、化粧水、乳液、ジェル、クリーム、パック、ヘアトニック、ヘアクリームファンデーション、水性軟膏、スプレー等の形態が挙げられる。また、本発明において、化粧料組成物は、入浴剤、ボディーソープ、シャンプー等の入浴用組成物も含む概念である。
【0114】
また、本発明の皮膚外用用組成物(海苔発酵物)には、本発明の効果を損なわない範囲で通常化粧料や皮膚外用医薬、入浴用製品で使用される任意の成分を添加することができる。かかる任意成分の具体例としては、増粘・ゲル化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色素剤、金属封鎖剤、防腐剤、pH調整剤、香料、ミツロウ等が挙げられる。これら任意成分の配合割合は、その目的に応じて適宜選択して決定することができる。
【0115】
本発明の皮膚外用用組成物(海苔発酵物)を、化粧料組成物に配合する割合は任意であるが、免疫賦活作用(特には、NK細胞活性化作用やIgA抗体産生促進作用)に寄与できる範囲で配合割合が選択される。
【0116】
(経口用組成物)
本発明の組成物(海苔発酵物)の好適な形態の一つは、本発明の海苔発酵物を配合した経口用組成物(以下、「本発明の経口用組成物(海苔発酵物)」と記載する場合がある。)である。本発明の経口用組成物(海苔発酵物)は、優れた免疫賦活作用(特には、NK細胞活性化作用やIgA抗体産生促進作用)を有するため、機能性食品、サプリメント等へ好適に使用される。
【0117】
以下、本発明の経口用組成物(海苔発酵物)の典型例である機能性食品、サプリメント、食品添加剤について説明するが、本発明の経口用組成物(海苔発酵物)は、機能性食品、サプリメント、食品添加剤に限定されない。
【0118】
本発明の経口用組成物(海苔発酵物)の摂取量は、本発明の効果を発揮できる量であれば、特に限定されず、本発明の経口用組成物(海苔発酵物)の形態、摂取させる対象者の性別、体重、健康状態等に応じて適宜決定される。当該摂取量は、1回で摂取してもよく、1日数回に分けて摂取してもよい。また、本発明の経口用組成物(海苔発酵物)の有する作用又は効能を得るために、本発明の経口用組成物(海苔発酵物)は、持続して摂取することが好ましい。
【0119】
本発明の経口用組成物(海苔発酵物)は、日常的に経口摂取しやすいように、各種の食品、飲料と混ぜて機能性食品とすることで、長期的に摂取することも容易である。
ここでいう「機能性食品」とは、一般食品に加えて、健康の維持の目的で摂取する食品及び/又は飲料を意味し、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品又は機能性表示食品)や、健康食品、栄養補助食品、栄養保険食品等を含む概念である。この中でも保健機能食品である特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品が好ましい機能性食品の態様である。なお、機能性食品として製品化する場合には、食品に用いられる様々な添加剤、具体的には、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤漂白剤、防菌防黴剤、酸味料、調味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、香料等を添加していてもよい。
【0120】
機能性食品の対象となる、食品、飲料は特に限定されるものではない。例えば、食品として、ソーセージ、ハム、魚介加工品、ヨーグルト類、漬物類、ゼリー、キャンディー、チューインガムなどの食品類が挙げられる。また、飲料としては、各種の茶類、清涼飲料水、酒類、栄養ドリンクなどが挙げられる。具体的には、海苔乳酸菌入り飲料水(水、ジュース、炭酸飲料等)である。
【0121】
また、本発明の経口用組成物(海苔発酵物)は、海苔加工品へ適用することができる。海苔加工品の具体例としては、味付け海苔の味付けの代わりに海苔発酵物を利用した健康海苔や海苔の佃煮に海苔発酵物を添加した海苔乳酸菌入り佃煮等が挙げられる。
【0122】
また、本発明の経口用組成物(海苔発酵物)は、飲食品そのものではなく、食品添加剤であってもよい。本発明の食品添加剤の形態は特に限定されないが、例えば、液状、ペースト状、粉末状、フレーク状、顆粒状等が挙げられる。本発明の食品添加剤には、飲料用の添加剤も含まれる。本発明の食品添加剤は、一般的な食品添加剤の製造方法に準じて製造することができる。
【0123】
また、本発明の経口用組成物(海苔発酵物)は、サプリメントの形態として使用することも可能である。サプリメントの形態は、特に制限されず、錠剤、粉末剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、糖衣錠、フィルム剤、トローチ剤、ゼリー剤、チュアブル剤、溶液、乳濁液、懸濁液等の任意の形態でよい。
【0124】
本発明のサプリメントは、本発明の海苔発酵物以外に、サプリメントとして通常使用される任意の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、例えば、アミノ酸、ペプチド;ビタミンE、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンB、葉酸等のビタミン類;ミネラル類;糖類;無機塩類;クエン酸またはその塩;茶エキス;油脂;プロポリス、ローヤルゼリー、タウリン等の滋養強壮成分;ショウガエキス、高麗人参エキス等の生薬エキス;ハーブ類:コラーゲン等が挙げられる。
【0125】
本発明の海苔発酵物を、機能性食品やサプリメントに配合する割合は任意であるが、免疫賦活作用(特には、NK細胞活性化作用やIgA抗体産生促進作用)に寄与できる範囲で配合割合が選択される。
【0126】
本発明の経口用組成物(海苔発酵物)を保健機能食品として用いる場合、製品において本発明に係る海苔発酵物によりもたらされる作用又は効能が表示されていてもよい。例えば、本発明に係る製品の本体、包装、容器、パッケージ等の収納物、又はその広告等への表示が挙げられる。
【0127】
また、製品化の際に付される作用又は効能に関する表示としては、例えば、「免疫機能を高める」、「免疫機能に働きかける」、「健康な人の免疫機能の維持に役立つ」、「免疫機能をサポート」、「健康な人の免疫機能の維持をサポート」、「感染症に対する抵抗力を高める」、「生体防御機能を高める」等が挙げられる。
【0128】
また、本発明の経口用組成物(海苔発酵物)は、それ自体またはこれに他の成分を添加して食品添加剤として使用することも可能である。他の成分は、飲食品添加剤として使用可能であるならば特に制限はない。食品添加剤の添加対象となる飲料、食品についても任意であり、特に制限はない。
【0129】
本発明の経口用組成物(海苔発酵物)を、食品添加剤に配合する割合は任意であるが、免疫賦活作用(特には、NK細胞活性化作用やIgA抗体産生促進作用)に寄与できる範囲で配合割合が選択される。
【0130】
本発明の経口用組成物(海苔発酵物)は、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。そのため、ペットフード等の動物用の経口用組成物とすることもできる。
【実施例0131】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0132】
[1.乳酸菌菌株]
基準株としては、ラチラクトバチルス・サケイ・サブスピーシーズ・サケイ(Latilactobacillus sakei subsp. sakei)NBRC15893株(以下、「基準株1」とする)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)NBRC100933株(以下、「基準株2」とする)を使用した。基準株1及び基準株2は、独立行政法人製品評価技術基盤機構のバイオテクノロジーセンター(NBRC)から入手した。
【0133】
評価株としては、以下の<乳酸菌の分離・同定方法>で、佐賀県有明海で摘採した海苔から分離した下記の乳酸菌を使用した。
【0134】
乳酸菌D-1株:ラチラクトバチルス・サケイ(Latilactobacillus sakei)D-1株(受託番号:NITE P-03757)
乳酸菌D-2株:ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)D-2株(受託番号:NITE P-03758)
これらの乳酸菌は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)に寄託された(受託日:2022年10月3日)。
【0135】
<乳酸菌の分離・同定方法>
佐賀県有明海から摘採された海苔をそれぞれMRS broth培地に懸濁後、30℃で嫌気培養した。その後、MRS agarにて30℃で嫌気培養することで、コロニーを形成させた。
形成されたコロニーについて、3%過酸化水素水を用いてカタラーゼ試験を行った。菌株は、コロニー形状、クリアゾーン形成能、培養液の観察により選抜した。
選抜された菌株からDNAを抽出し、抽出されたDNAの16SrRNA領域をPCR増幅させた後にDNA精製を行い、16SrRNA領域のシークエンス解析を行った。
得られた塩基配列について相同性検索を行ったところ、佐賀県有明海由来の海苔から分離された乳酸菌を、Latilactobacillus sakei(乳酸菌D-1株)と同定し、Lactococcus lactis(乳酸菌D-2株)と同定した。
【0136】
上記の方法で分離・同定された乳酸菌D-1株及び乳酸菌D-2株について、定法に従って菌学的性質を評価した。その結果を表1に示す。また、API50CH(ビオメリュー・ジャパン株式会社製)を用いて、49種の糖質基質に対して資化性の評価を行った。その結果を表2(乳酸菌D-1株)、表3(乳酸菌D-2株)に示す。
なお、表2及び表3において、「+」は陽性、「-」は陰性を示す。
【0137】
【表1】
【0138】
【表2】
【0139】
【表3】
【0140】
[2.海苔発酵物の評価]
(2-1.海苔発酵物の製造方法)
海苔発酵物は、以下の方法で製造した原料海苔(加水分解処理あり又は加水分解処理なし)に乳酸菌を接種させ、発酵させることによって製造した。
(原料海苔A:加水分解処理あり)
原料である海苔45g(刻み・低級品、株式会社サン海苔製)と、560mLの希硫酸(0.07%(v/v))にいれ、オートクレーブ(TOMY製LSX500)にて105℃で2時間加熱した。冷却後、0.45gのマンナナーゼ(製品名:セルロシンGM5,エイチビィアイ(株)社製)を4.5mLの水に溶解させ、メジューム瓶に添加して滅菌済み薬さじを用いて均一になるまで混合した。その後、メジューム瓶に入れた混合物をインキュベータ内(55℃,RH90%)で加温した。加温中は24時間ごとに均一になるように混合した。
48時間後にメジューム瓶を取り出し、遠心分離(9,000×g,25分)により固液分離をし、得られた海苔抽出液を原料海苔Aとした。
【0141】
(原料海苔B:加水分解処理なし)
原料海苔Aの製造方法において、希硫酸によるオートクレーブ処理及びマンナナーゼ処理をしなかったこと以外は同様の方法で得られた海苔抽出液を原料海苔Bとした。
【0142】
海苔発酵物は以下の方法で製造した。
(実験例A1:乳酸菌D-1株)
上記の方法で得られた原料海苔Aを水で2倍希釈した海苔抽出液50mLに対して、乳酸菌D-1株を、濁度(OD660)が0.1になるように接種し、撹拌した。その後、30℃で4日間静置して発酵させ、目的とする実験例A1の海苔発酵物(液状物)を得た。
【0143】
(実験例B1:乳酸菌D-1株)
実験例A1の方法において、原料海苔Aの代わりに原料海苔Bを使用した以外は同様の方法で、実験例B1の海苔発酵物(液状物)を得た。
【0144】
(比較例1:基準株1)
実験例A1の方法において、乳酸菌D-1株の代わりに基準株1を使用した以外は同様の方法で、比較例1の海苔発酵物(液状物)を得た。
【0145】
(実験例A2:乳酸菌D-2株)
実験例A1の方法において、乳酸菌D-1株の代わりに乳酸菌D-2株を使用した以外は同様の方法で、実験例A2の海苔発酵物(液状物)を得た。
【0146】
(実験例B2:乳酸菌D-2株)
実験例A2の方法において、原料海苔Aの代わりに原料海苔Bを使用した以外は同様の方法で、実験例B2の海苔発酵物(液状物)を得た。
【0147】
(比較例2:基準株2)
実験例A2の方法において、乳酸菌D-2株の代わりに基準株2を使用した以外は同様の方法で、比較例2の海苔発酵物(液状物)を得た。
【0148】
(2―2.評価)
(2―2-1.海苔発酵物における乳酸生産能の評価)
上述のように製造した海苔発酵物について、高速液体クロマトグラフィーを用いて乳酸濃度の測定を行った。測定には、各海苔発酵物(培養4日後の培養液)をマイクロチューブに取り出し遠心分離(13,000×g,5分)により固液分離をし、上清を採取することによって得られたサンプルを使用した。測定の結果を表4及び表5に示す。
【0149】
なお、高速液体クロマトグラフィーの条件は以下の通りである。
株式会社島津製作所社製 電気伝導度検出器CDD-10A
カラム:Shim-pack SCR102H(300mmL×8.0mmI.D)3本直列
カラム温度:35℃
移動相:5mM p-トルエンスルホン酸水溶液
緩衝相:5mM p-トルエンスルホン酸及び100mM EDTAを含む20mMBis-tris水溶液
流速:0.8mL/min
【0150】
【表4】
【0151】
【表5】
【0152】
表4の通り、乳酸菌D-1株と原料海苔A(加水分解物)と用いて発酵した海苔発酵物(実験例A1)は、コントロールとして基準株1を用いて発酵した比較例1の海苔発酵物と比べて、乳酸生産量が顕著に上昇していることが確認された。
さらに、実験例A1と実験例B1の比較から、発酵に用いた原料海苔を加水分解した海苔加水分解物(実験例A1)の方が、乳酸生産量が顕著に上昇していることが確認された。
【0153】
また、表5の通り、乳酸菌D-2株と原料海苔A(加水分解物)と用いて発酵した海苔発酵物(実験例A2)は、コントロールとして基準株2を用いて発酵した比較例1の海苔発酵物と比べて、乳酸生産量が上昇していることが確認された。
さらに、実験例A2と実験例B2の比較から、発酵に用いた原料海苔を加水分解した海苔加水分解物(実験例A2)の方が、乳酸生産量が顕著に上昇していることが確認された。
【0154】
(2―2-2.乳酸菌の増殖能の評価)
上記(2―2-1.海苔発酵物における乳酸生産能の評価)において、乳酸生産量に優れていた、乳酸菌D-1株について増殖能を評価した。
乳酸菌D-1株の増殖能は、実験例A1で用いた原料海苔A(加水分解物)に乳酸菌D-1株を接種し、同様の方法で所定の期間(4日間、7日間、14日間、21日間)培養した時の乳酸菌量を吸光度OD660nmで濁度を測定することにより評価した。測定には、分光光度計(UVmini-1240,株式会社島津製作所製)を使用した。
また、コントロールとして、比較例1(原料海苔A(加水分解物)と基準株1)を同様に培養したものを評価した。
【0155】
測定結果を図1に示す。
図1の通り、乳酸菌D-1株と基準株1とで比較したところ、乳酸菌D-1株は、培養期間の経過と共に濁度が高く、基準株1に比して増殖能に顕著な差が認められた。
【0156】
[3.乳酸菌の評価]
(3-1.乳酸菌培養液の調製)
乳酸菌培養液は以下の方法で得た。
各乳酸菌(乳酸菌D-1株、乳酸菌D-2株、基準株1、基準株2)は、MRS液体培地で前培養後、MRS液体培地10mL中で、嫌気的に30℃で48時間培養して乳酸菌培養液を得た。
得られた乳酸菌培養液は、遠心分離(13,000rpm,4℃,5分間)した後、乳酸菌培養液の上清をフィルター濾過し、評価試験に用いた。
【0157】
(3-2.評価方法)
(3-2-1.乳酸菌における免疫賦活作用の評価I)
免疫賦活活性の評価として、NK細胞の細胞賦活化活性を評価した。
前処理として、ヒトNK細胞株であるKHYG-1細胞を100U/mLのIL-2を含む試験培地に懸濁し、1.5×10cells/wellの密度で96穴プレートに播種し、各乳酸菌培養液を添加して24時間刺激した。
次に、ターゲット細胞であるK562細胞を遠心によって集め、PBSで3回洗浄した。その後、PBS溶液中にK562細胞5μg/mLを懸濁して37℃でインキュベートした。30分後に遠心によってK562細胞を集め、再びPBSで3回洗浄した。K562細胞を試験培地に懸濁し、1.5×10cells/wellの密度で前処理したKHYG-1細胞のプレートに播種し、培養した。4時間の培養後、培養上清を回収し蛍光強度を測定した。測定結果を図2に示す。
【0158】
なお、図2において、有意差検定は各乳酸菌培養液と試験培地(medium)に対して行い、*はp<0.1、**はp<0.01、***はp<0.001、****はp<0.0001(いずれもTukey-Kramer testによる)を示す。
【0159】
図2の通り、乳酸菌D-1株の培養液は、基準株1の乳酸菌培養液と比較すると、高い免疫賦活活性(NK細胞活性化作用)が確認された。また、乳酸菌D-2株の乳酸菌培養液は、基準株2の乳酸菌培養液と同等程度の免疫賦活活性(NK細胞活性化作用)が確認された。
また、すべての乳酸菌培養液において、免疫賦活活性(NK細胞活性化作用)を濃度依存的に向上することが認められた。
【0160】
(3-2-2.乳酸菌における抗酸化作用の評価)
抗酸化活性の評価は、抗酸化能測定キット(DPPH Antioxidant Assay Kit,同仁化学研究所社製)を用い、プロトコールに従って実施した。抗酸化活性の測定結果を図3に示す。
【0161】
図3の通り、乳酸菌D-2株の培養液は、抗酸化活性を濃度依存的に高めていることが認められた。
【0162】
(3-3.乳酸菌における免疫賦活作用の評価II)
乳酸菌における免疫賦活活性の評価として、ヒト末梢血単核球のIgA産生能を評価した。
10%FBS含有RPMI1640培地で前培養(37℃,5%,CO)したヒトPBMC(クラボウ)を細胞培養用96wellプレートに250μLずつ分注し、所定濃度の乳酸菌存在下で5日間培養した。PBMCの細胞密度は2×10cells/mLとした。
培養後の培養上清のIgAレベルを常法に従い、ELISA法にて測定した。乳酸菌無添加の培養上清を対照区とし,IgA産生量を比較した。なお、各乳酸菌(乳酸菌D-1株、乳酸菌D-2株、基準株1、基準株2)は70℃で30分加温して殺菌したもの(死菌)を用いた。
【0163】
測定結果を図4に示す。なお、図中の値は平均値±標準誤差(n=4)を表し、図4において、有意差検定は各乳酸菌と対照区に対して行い、**はp<0.01、***はp<0.001(いずれもTukey-Kramer testによる)を示す。また、D-2(乳酸菌D-2株)とD-2基準株(基準株2)に対して有意差検定を行い、§はp<0.001(Tukey-Kramer testによる)を示す。
【0164】
図4の通り、乳酸菌D-2株及びその基準株は、1×107及び1×106CFU(Colony Forming Unit)の添加量で乳酸菌無添加より明らかに高いIgA濃度を示した。特に、低濃度(1×10CFU)におけるIgA濃度は、乳酸菌D-2株が最も高かった。
【0165】
(3-4.海苔発酵物における免疫賦活作用の評価)
海苔発酵物における免疫賦活活性の評価として、ヒト末梢血単核球のIgA産生能を評価した。
IgA産生能の評価方法は、(3-3.乳酸菌における免疫賦活作用の評価II)の通りである。海苔発酵物は、上述した実験例B2の海苔発酵物を使用した(原料海苔の加水分解処理あり、乳酸菌D-2株)。また、比較のため、乳酸発酵を行っていない海苔抽出物(加水分解あり)についても評価した。
【0166】
測定結果を図5に示す。なお、図中の値は平均値±標準誤差(n=4)を表す。
図5の通り、乳酸菌D-2株による海苔発酵物は、海苔抽出物(発酵なし)と比較して、明らかに高いIgA濃度を示した。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明によれば、乳酸産生能に優れ、海苔を効率よく発酵させることができる乳酸菌、並びにこれを利用した海苔発酵物の製造方法及び海苔発酵物が提供される。当該乳酸菌を含有する組成物や海苔発酵物は、免疫賦活作用(NK細胞活性化作用やIgA抗体産生促進作用)や抗酸化作用を有するため、食品、サプリメント、化粧品として好適に使用することができる。
【受託番号】
【0168】
(1)ラチラクトバチルス・サケイ D-1株(受託番号:NITE P-03757)(受託日:2022年10月3日)、受託先:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)
(2)ラクトコッカス・ラクティス D-2株(受託番号:NITE P-03758)(受託日:2022年10月3日)、受託先:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)
図1
図2
図3
図4
図5